説明

組成物、組成物を製造する方法、及び抗菌剤

【課題】持ち運び及び保存が容易な抗菌剤を提供する。
【解決手段】銀単体を多孔性物質に担持させてなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を含む抗菌性の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銀の殺菌作用に注目した抗菌剤が広く使用されている。ヒトをはじめとする生物に対する銀の有害性は小さいため、銀を有する抗菌剤の応用範囲は広い。例えば、銀を有する抗菌剤を人体の皮膚表面に対して用いることも可能である。
【0003】
当業者なら容易に理解できるであろうが、銀単体の単位重量あたりの表面積が大きいほど、すなわち銀粒子を微細化するほど、銀単位重量あたりの抗菌力が高くなると考えられる。特許文献1には、銀塩溶液に塩基を加えてコラーゲンの存在下紫外線で還元することにより、微細銀粒子を含む液体の抗菌剤を生成する方法が開示されている。また、特許文献2にも、ポリマー溶液にサッカリン酸塩と可溶性銀塩と還元剤TEMEDとを加えて微細銀粒子を生成させ、抗菌剤として用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−302645号公報
【特許文献2】特開2008−508321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の抗菌剤も特許文献2に記載の抗菌剤も液体である。特許文献2に記載されているように抗菌剤液で固体表面を処理することはできるものの、液体の保管及び輸送のためには格納容器が必要であり、適切に格納できなければ流出する可能性もある。また液体の場合、空気中にさらされると劣化しやすく、さらに不純物が混入しやすいために、一度開封すると一定期間内に使い切らなければならないという保存性の問題があった。さらに、液体の抗菌剤は溶媒の分だけ体積が大きくなってしまうという問題もあった。
【0006】
本発明は、持ち運び及び保存が容易な抗菌剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するためには、本発明の組成物は、例えば銀単体を多孔性物質に担持させてなる組成物であればよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、持ち運び及び保存が容易な抗菌剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の抗菌剤は、銀単体を多孔性物質に担持させてなる組成物であり、言い換えると銀を担持する多孔性物質(多孔質物質)である。担持する銀としては、銀イオンを用いることも銀単体を用いることも可能である。中でも、銀が流出しないように安定に担持するという観点から、銀単体である銀粒子を用いることが好ましい。とりわけ、高い抗菌性を獲得するために、銀の微細粒子を用いることがさらに好ましい。銀ナノ粒子を用いることが、最も好ましい。多孔性物質に担持させる銀粒子は、例えば銀の還元によって得ることができるが、詳細は後述する。
【0010】
本発明で多孔性物質に担持される銀粒子は、どのような大きさでもよいが、平均粒子径が90nm未満、より好ましくは50nm未満であることが好ましい。高い抗菌性を得るためには20nm未満であることがさらに好ましく、10nm未満であることが特に好ましい。銀粒子の平均粒子径の下限は特にないが、例えば1nmより大きくてもよい。ここで、多孔性物質に担持される銀粒子の平均粒子径は、例えば電子顕微鏡によって測定することができる。すなわち、電子顕微鏡で銀粒子を含む試料を観察し、観察された銀粒子の長径を粒子径とする。そして、一定の観察範囲内にある銀粒子の銀粒子径の平均を平均粒子径とすればよい。銀粒子の粒子径のばらつきを考慮すると、平均粒子径の算出には十分な数の銀粒子の粒子径を平均することが好ましく、例えば15個以上の銀粒子の粒子径を平均することが好ましい。もっとも、粒子径の測定方法は電子顕微鏡によるものに限られず、粒子径測定装置を用いる等の別の方法で測定することも可能である。このような粒子径測定装置として、例えば島津製作所製粒子径測定装置IG−1000がある。
【0011】
本発明に用いる銀粒子は銀の純度が高いことが好ましいが、微量の不純物が混入していても抗菌作用という発明の目的は達成できる。例えば銀粒子に占める銀の割合は90%以上であることが好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
【0012】
また、本発明に係る多孔性物質には、抗菌成分として銀が担持されていればよいが、その他の抗菌成分がさらに含まれていてもよい。例えば、銅、亜鉛、金、白金等の金属、ヒノキ精油等の天然抗菌物質、抗生物質等が含まれていてもよい。
【0013】
本発明において、銀単体を多孔性物質に担持させてなる組成物に含まれる銀の量はどのようなものでもよい。もっとも本発明に係る銀粒子の抗菌力は高く、銀粒子の質量は組成物全体の質量の1%未満であってもよい。製造コストを考えると、銀粒子の質量は組成物全体の質量の0.5%未満であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましく、0.01%未満であることがさらに好ましく、0.001%未満であることが特に好ましい。銀粒子は非常に少なくても抗菌性を発揮するが、下限量として、例えば組成物全体の質量の0.0001%よりは銀粒子の質量が大きいことが好ましい。
【0014】
本発明において銀を担持する多孔性物質は、多孔性の物質であれば何でもよい。多孔性物質とは多数の細孔を有する物質であり、オングストローム(1億分の1センチ)レベルの極微小の連続した空洞を有する構造を持つものも知られている。多孔性物質は水分子を吸収する性質があり、その後加熱によって脱水してもそれ自体の構造は破壊されない。また、脱水後空いた空洞に再びガスや水を強力に吸着することもできる。
【0015】
高い抗菌性を得るためには、銀粒子が互いに接触しないように安定的に多孔性物質に担持させることが重要であり、これによって銀の特性効果を最大限に発揮できる。この観点から、本発明で用いる多孔性物質においては、銀を担持する表面積が大きいことが好ましい。具体的には、本発明で用いる多孔性物質は、1g当たりの表面積(比表面積)が1m/gよりも大きいことが好ましく、10m/gよりも大きいことがより好ましく、100m/gよりも大きいことがさらに好ましく、300m/gよりも大きいことが特に好ましい。比表面積は形状によって異なるため、本発明で用いる多孔性物質の比表面積とは、本発明によって得られる組成物と同じ形状(又は近い形状)の、銀を担持する前の多孔性物質の比表面積を指すものとする。比表面積が大きいほど、多孔性物質構造に含まれる広大な面積を利用して、銀粒子を多量かつ安定的に吸着担持することができる。比表面積の測定方法は周知であり、例えばBET法によって行うことができる。
【0016】
多孔性の物質としては例えば、ゼオライト、ガラス等を含むセラミックス、サンゴ、活性炭、多孔性金属、ポリウレタン、コンクリート等を用いることができる。中でも、ゼオライト及びサンゴを用いることが好適である。ゼオライトは水中に投じるとよく分散するため、例えば魚の養殖における雑菌の繁殖防止に好適に用いることができる。サンゴは水と混和した後も濾取することが容易であり、例えば浄水器に好適に用いることができ、さらには天然物であるため環境負荷も小さい。ゼオライトの比表面積は、種類及び粒径にもよるが、一般的には50m/gよりも大きい。また、1000m/gよりも小さいことが普通である。また、さんごの比表面積は1m/gよりも大きいことが普通である。
【0017】
本発明に係る組成物は、ブロック状、砕石状、粉末状など、様々な形状として用いることができる。液体ではなく粉体又は固体とすることで、長期間の保存時の品質劣化を抑制する。粉末とする場合、用途に応じて様々な粒子径とすることができるが、他物質と混和する、又は水と混和するためには、平均粒子径を1mm未満とすることが好ましく、0.1mm未満とすることがさらに好ましい。平均粒子径は銀粒子径と同様に測定することができる(電子顕微鏡の代わりに光学顕微鏡を用いてもよい)。
【0018】
本発明に係る組成物は、様々な用途で用いることができる。例えば水を殺菌するために、浄水器、濾過装置などのフィルターに用いることができる。また、本発明に係る組成物は殺菌作用は強いが動植物に対しては無害である。よって、循環式風呂、プール、花瓶、生け花、養殖場などで用いる水に対して直接投入し、水の腐敗又は病気の発生を防ぐこともできる。本発明に係る組成物が含む銀粒子は、抗菌活性のみならず抗真菌活性をも有することが報告されている(日本医真菌学会雑誌 第48巻 第2号 97−100頁(Jpn. J. Med. Mycol. Vol. 48, 97-100, 2007.))。したがって、本発明に係る組成物は抗真菌活性をも有することが理解される。これらの抗菌性及び抗真菌性を鑑みると、本発明に係る組成物を植木鉢、農地などの土に混ぜて土壌を殺菌することも可能であり、例えばカビの発生を防ぐことができる。また、本発明に係る組成物を化粧品及び医薬品の用途に用いることも可能である。例えば紫外線保護クリームに混和し、クリームに抗菌作用を付与することもできる。さらには、本発明に係る組成物を含む塗り薬は、例えばやけど部位への細菌感染を防止するために用いることもできる。
【0019】
[本発明に係る銀を担持する多孔性物質の製法]
<銀粒子液の調製>
まず、銀粒子液を調製する。調製方法は既知の方法に従えばよい。どのような方法で調製した銀粒子液であっても、本発明において用いることが可能である。例えば、特許文献1又は2に記載されているように、銀塩溶液において銀を還元することによって調製してもよい。この際、生成した銀粒子の粒子径が大きくならないように、安定化剤を共存させることが好ましい。安定化剤とは、銀イオン又は銀粒子と相互作用して銀粒子が凝集するのを防ぐ物質であり、例えば銀に対してキレート作用を有する物質を用いることができる。具体的な調製法としては、可溶性銀塩と安定化剤との溶液に対して還元処理を行うことによって銀粒子液を調製することができる。また、可溶性銀塩と安定化剤との溶液に対して適切な塩を加えて銀を弱溶性としてから、還元処理を行うことによって銀粒子液を調製してもよい。
【0020】
可溶性銀塩としては何を用いてもよく、具体的には硝酸銀を用いることが好ましいが、クエン酸銀又は酢酸銀を用いることもできる。加える塩についても何を用いてもよいが、銀イオンの溶解度を落とすことができる塩であることが好ましい。加える塩の例として、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。加える塩の他の例としては、例えばアセスルファム酸塩、カルボン酸塩、アセチルアセトナト塩、酢酸塩、アスコルビン酸塩、バルビツール酸塩、安息香酸塩、酒石酸水素塩、ビス(2−エチルヘキシル)スルホサクシネートホウ酸塩、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、葉酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、ハロゲン化物、ヒダントイン塩、置換ヒダントイン塩、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラウリル酸塩、シュウ酸塩、酸化物、パルミチン酸塩、過ホウ酸塩、フェノスルホン酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩、サッカリン及びその誘導体塩、サリチル酸塩、ソルビン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、スルファジアジン塩、硫酸塩、硫化物、スルホン酸塩及び酒石酸塩等を用いることもできる。
【0021】
安定化剤としては、例えばコラーゲン若しくはコラーゲンの加水分解物、ゼラチン、界面活性剤、ポリマー等、又はこれらの組み合わせを用いることができる。界面活性剤は何でもよいが、例えばポリソルベート又はTweenを用いることができる。ポリマーも何を用いてもよいが、ホモポリマー又はコポリマーであってもよく、合成又は天然由来のものであってもよい。ポリマーとしては、例えばアクリルアミド及びその誘導体並びにメタクリルアミド及びその誘導体から形成されたポリマー、ポリアミド、ポリウレタン、特定の主鎖を有さないが側鎖にウレタン部又は三級アミン基を有するポリマーを用いることもできるし、他のポリマー又はコポリマーを用いることもできる。ポリマーを構成するモノマーの例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、置換アクリルアミド(すなわち、−CONHがCON(Rで置換されている)、置換メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム、カリウム、又はアンモニウム塩、2−ビニルピロリドン、2−ビニルオキサゾリン、酢酸ビニル及び無水マレイン酸等が挙げられる。ポリマーを用いる場合、銀と相互作用できるように極性を有するものが好ましい。
【0022】
還元も任意の方法で行うことができ、例えば光を照射しても、還元剤を用いてもよい。光を照射する場合、この光には400nm以下の紫外線が含まれていることが好ましい。例えば、キセノンランプを用いることができる。また、還元剤としては、三級、二級及び一級アミン、三級、二級及び一級ジアミン、ならびに一級アミン、二級アミン及び三級アミン成分を有するホモポリマー又はコポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。アミン化合物は、脂肪族又は芳香族であってもよい。同様に、脂肪族及び芳香族の一級及び置換アミド、及びポリマーアミド類似体を使用することも可能である。DEETとして知られるジエチルトルアミドなどの芳香族アミドを使用することも可能である。トリエタノールアミン及びN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を用いることもできる。ペンダント鎖又は主鎖にTEMED成分又は他のアミンを有するポリマー化合物を還元剤として使用することもできる。また、還元剤はアミンには限られず、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アスコルビン酸又はハイドロキノンを用いることもできる。
【0023】
溶液の溶媒としては、水を使うことが好ましいが、水と混和性のある有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては例えば、低級直鎖(C1〜C6)又は分枝のアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド等を用いることができる。有機溶媒と水とを混和して用いる場合、水分含有量が体積比で55%以上あることが好ましい。
【0024】
本発明で用いる銀粒子液においては、銀粒子の平均粒子径が90nm未満、より好ましくは50nm未満であることが好ましい。高い抗菌性を得るためには20nm未満であることがさらに好ましく、10nm未満であることが特に好ましい。銀粒子の平均粒子径の大きさの下限は特にないが、例えば1nmより大きくてもよい。ここで、銀粒子液に含まれる銀粒子の平均粒子径は、組成物に含まれる銀粒子についての測定方法と同様に測定することができる。また、この銀粒子液は溶液でも分散液でもコロイド溶液でもよく、多孔性物質に銀粒子を吸着させることが可能な液体であれば十分である。
【0025】
<多孔性物質への吸着>
次に上で説明した多孔性物質を、調製した銀粒子液と接触させ、多孔性物質に銀粒子液を吸着させる。多孔性物質はどのような形状でもよく、ブロック状であっても粉末状であってもよい。吸着方法としては何でもよいが、例えば銀粒子液に多孔性物質を投入してもよいし、多孔性物質に銀粒子液をかけてもよい。
【0026】
この際、銀粒子液の銀粒子濃度を制御することによって、最終的な多孔性物質の銀担持量を制御することができる。本発明に係る組成物の抗菌力の高さを考慮すると、銀粒子液に占める銀粒子の質量は銀粒子液全体の質量の1%未満で十分である。製造コストを考えると、銀粒子の質量は銀粒子液全体の質量の0.5%未満であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましく、0.01%未満であることがさらに好ましく、0.001%未満であることが特に好ましい。銀粒子は非常に少なくても抗菌性を発揮するが、下限量として、例えば銀粒子溶液中の銀粒子量が0.0001%よりは多いことが好ましい。
<加熱乾燥>
次に、銀粒子液を吸着させた多孔性物質を乾燥させる。もっとも、乾燥を行う必要は必ずしもない。乾燥はどのような方法で行ってもよく、例えば空気中常温で放置してもよいし、天日乾燥させてもよい。乾燥を早めるため、必要に応じて多孔性物質の表面に付着してる余分の液を拭き取るなどして除去してもよい。
【0027】
乾燥の効率を高めるためには、加熱乾燥することが好ましい。この加熱乾燥は、空気中で行っても、窒素雰囲気下で行っても、減圧して行ってもよい。加熱時間は、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがさらに好ましい。銀粒子液を調整する過程では安定化剤を用いることが好ましいが、銀を担持する多孔性物質において、銀粒子がこの安定化剤にキレートされる等して取り囲まれていると、銀粒子表面のうち空気中に露出する部分が小さくなる。すると銀の抗菌作用が弱くなる恐れがあるため、最終的には安定化剤が銀を担持する多孔性物質が除去されることが好ましい。安定化剤としてコラーゲン等の有機物質を用いる場合、加熱を行うことで有機物質を分解することが可能であり、この観点からも加熱乾燥を行うことが好ましい。
【0028】
<粉砕>
最後に、必要に応じて、乾燥を行った多孔性物質を粉砕する。粉砕はどのような方法で行ってもよく、例えば乳鉢ですりつぶしてもよいし、単に棒で押してつぶしてもよく、手でつぶしてもよい。
【0029】
<その他の方法>
ここまでに説明した方法において、適宜各工程を入れ替えることも可能である。例えば、上記の方法では調製した銀粒子液に多孔性物質を投入し、多孔性物質に銀粒子を吸着させた。しかしながら、銀塩溶液を多孔性物質に吸着させた後に、還元を行って銀粒子を生成させてもよい。この場合、還元方法としては例えば紫外線を含む光照射を用いることができる。また、銀粒子液を吸着させた多孔性物質を乾燥させた後に粉砕したが、逆に粉砕した後に乾燥させてもよい。粉砕の容易性と、乾燥の効率とを比較して適宜選択すればよい。
【0030】
本発明に係る銀粒子液は、安定化剤の存在によって銀粒子の凝集が抑制されている。多孔性物質への吸着を行うと、銀粒子(及び安定化剤)は多孔性物質の細孔に捕獲された状態となる。この状態で加熱して安定化剤を分解させるために、多孔性物質内において銀粒子は凝集することなく存在するものと考えられる。すなわち、銀粒子液中の銀粒子の平均粒径と、多孔性物質内(すなわち作成した組成物中)の銀粒子の平均粒径とは、ほぼ同じであると考えられる。
【0031】
[実施例1]
<銀粒子液の調製>
銀粒子液としては、UFS−REFINE株式会社製、UFS−CW20Fを用いた。この銀粒子液は、特許文献1に記載の、以下のような方法に従って調製される。
【0032】
(1)安定化剤として、ニッピ株式会社製ゼラチン タイプRを使用した。ゼラチン100グラムを500ml丸底フラスコに入れ、水200mlを加えて50℃で加熱撹拌してゼラチンを溶解させた。
【0033】
(2)次いで、0.5%硝酸銀水溶液70mlを上記ゼラチン溶液に添加し、温度60.0±2.0℃に保持して30分間撹拌した。
【0034】
(3)これに、5.0%水酸化カリウム水溶液100mlを加え、温度60.0±2.0℃に保持したまま2.5時間継続して撹拌した。
【0035】
(4)次に加熱を止め反応液を室温迄冷却した。この間撹拌は継続した。本工程を終了した時点で、反応液の一部約5mlを比色計用ガラス製比色管(A)に予め採取した。
【0036】
(5)反応液を平型のステンレス製バット(30×21×5cm)に移し、水平に保持し、反応液面の中心より垂直距離30cm上方から直下に光を10分間照射して光還元を行った。反応液の一部約5mlを採取して比色管(B)に保管した。光還元に使用された光源装置は、浜松ホトニックス株式会社製、安定化キセノンランプ75W及び専用定電流電源C2576である。
【0037】
(6)光還元工程を確認するため、上記工程(4)及び工程(5)で採取保管された比色用試料を、波長430nmの光透過率を比較して還元反応を確認した。還元により銀微粒子が生成すると透過性が低下する。比色管(A)/比色管(B)の透過比は25%であり、還元が十分行われたことが確認できた。使用された比色計はATAGO株式会社製Photo Unic5である。
【0038】
以上の方法に従って生成された銀粒子液に含まれる銀粒子の大きさは、3〜8nmであることが、試験によって示されている。例えば、この銀粒子液の電子顕微鏡写真から、この銀粒子液に含まれる銀粒子の直径が3〜8nmであることを読み取ることができる。詳細はUFSリファイン株式会社が発表している。http://ufs-tec.com/aboutufs.htmlを参照のこと。
【0039】
特許文献2に記載の方法に従って銀粒子液を調製することも可能である。特許文献2の方法に従ってポリソルベート20、サッカリン酸銀およびTEMEDを利用して水性媒体で調製された銀粒子液に含まれる銀粒子は、その90%以上が粒径20nm以下であり、平均粒径が約15nmであることが、特許文献2に記載されている。
【0040】
<多孔性物質への吸着>
多孔性物質としてはゼオライトを用いた。ゼオライトとしては、日東粉化工業株式会社製、水質浄化用ZO塊15−30(サイズ:15−30mm)を使用した。上記の銀粒子液を、容器に入れたゼオライトに対し、ゼオライトが銀粒子液を吸収しなくなるまで注いで吸着させた。
【0041】
<加熱乾燥>
銀粒子液を吸着させたゼオライトを網に乗せることで、余分の銀粒子液を取り除いた。網に乗せたゼオライトを、炎が直接当たらないように離してガスバーナーで10分間加熱した。加熱後、室温で放置して冷却した。冷却後のゼオライトは棒で押しつぶすことによって破砕した。
【0042】
<抗菌活性の評価>
以上の方法で銀粒子を吸着させたゼオライトを用いて、大腸菌(Escherichia coli, NBRC 3972)又は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus, NBRC 12732)を供試菌として抗菌活性を評価した。
【0043】
供試菌を普通寒天培地に移植し、35℃で24時間培養後、1コロニーを普通ブイヨン培地に接種し、35℃で18時間振とう培養した。この菌液を1/500濃度普通ブイヨン培地を用いて1mlあたりの菌数が10になるように希釈調製し、試験菌液とした。
【0044】
銀粒子を吸着させたゼオライト1gを三角フラスコに採取し、121℃で15分間高圧滅菌した。この三角フラスコに、上記調製した試験菌液10mlを加えた後、35℃において振とう培養した。なお、空試験として、試験菌液10mlを同様に振とう培養した。
【0045】
24時間振とう培養後、試験菌液1mlあたりの生菌数を標準寒天培地を用いて測定した。結果を以下に示す。
・大腸菌
初発菌数 420,000
24時間後の菌数 ゼオライト粉末使用 0
空試験 15,000,000
・黄色ブドウ球菌
初発菌数 270,000
24時間後の菌数 ゼオライト粉末使用 700
空試験 290,000
【0046】
[実施例2]
多孔性物質としてサンゴを用いた他は、実施例1と同様に実験を行った。サンゴとしては、関西電気サービス株式会社が販売する、熱帯魚用サンゴ(0.85mm以下)を使用した。抗菌活性の評価結果を以下に示す。
【0047】
・大腸菌
初発菌数 460,000
24時間後の菌数 サンゴ粉末使用 140
空試験 13,000,000
・黄色ブドウ球菌
初発菌数 200,000
24時間後の菌数 サンゴ粉末使用 11
空試験 110,000

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀単体を多孔性物質に担持させてなる組成物。
【請求項2】
前記銀単体は、銀微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記銀微粒子の平均粒径は、90nm未満であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多孔性物質の比表面積は、1m/gより大きいことを特徴とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記多孔性物質は、ゼオライト又はさんごであることを特徴とする、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記多孔性物質に前記銀単体を含む液体を吸着させる工程を含む方法によって製造され、
前記銀単体を含む前記液体において、前記銀単体の平均粒径は90nm未満であることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の組成物を製造する方法であって、
銀塩と安定化剤とを含む溶液を還元処理して、前記銀単体を含む液体を調製する調製工程と、
前記多孔性物質に前記銀単体を含む前記液体を吸着させる工程と、
を含む方法。
【請求項8】
前記安定化剤は、コラーゲン、コラーゲンの加水分解物、又はゼラチンであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記銀単体を含む前記液体を吸着した前記多孔性物質を加熱する加熱工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記加熱工程では、前記安定化剤が分解する温度で加熱を行うことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
製造した前記組成物に実質的に前記安定化剤が存在しないことを特徴とする、請求項7乃至10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の組成物を含む抗菌剤。
【請求項13】
請求項7乃至11の何れか1項に記載の方法で製造した組成物を含む抗菌剤。

【公開番号】特開2011−63525(P2011−63525A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213663(P2009−213663)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(509259518)
【Fターム(参考)】