説明

組成物の製造方法およびその方法で製造された組成物

【課題】
化粧品や医薬品の防腐性に関しては必要最低限配合する必要があるが、その量を決定するまでには試作を多く行い、保存効力試験も多く実施しなければならなかった。保存効力試験は結果が出るのに約1ヶ月を必要とし、多くの時間と経費を必要とした。

【解決手段】
防腐に影響ある原料の菌の最小発育阻止濃度を菌種ごとに測定し、且つ必要な処方で保存効力試験を実施しておき、抗菌指数を算出し、保存効力試験の結果より基準値を設定しておけば、その後作製する製剤の防腐に必要な原料の配合量が事前に予測され、或いは限られた範囲の中での原料の配合量に関して実験すればよく、効率的な製品化が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品や医薬品の製剤を製造する場合に短期間に或いは試作回数を軽減できる方法とそれを利用した製品に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や医薬品の製剤は一度に使い切る製品は少なく、何回も菌汚染の恐れがあり防腐剤が使用される。しかしながら、防腐剤は必要量以上配合することは安全性の面より問題があり適正量使用されるべきである。
このため日本薬局方(第15改正)の参考資料にある保存効力試験等が実施され、最適な防腐剤の使用量が決定される。
また、複数の防腐剤を用いることによって、全体として少量の防腐剤で有効な抗菌力を得るような組合せが種々検討されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、保存効力試験等は約1ヶ月の試験期間を必要とし、数多くの試作品をテストするか、繰り返し保存効力試験等を実施しなければならないので時間や経費が多くかかり、これを軽減する方法が求められている。
とくに最近は多様な商品が求められ、商品サイクルも短くなる傾向があり、製品開発の頻度が高くなり、効率的な製品開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、防腐性を予測し、保存効力試験等の実施回数が少なくても最適な防腐性を有する製剤を作製できる方法を見出したので、以下にその詳細を記載する。
まず、防腐に影響ある原料の必要な菌の最小発育阻止濃度を測定する。測定する菌種は製品の種類によって異なるが、化粧品の場合、大腸菌、緑膿菌、酵母(Candida albicans)、カビ(Aspergillus niger)、等に関して実施する。このほか、必要に応じて菌を選択する。
菌種の選択は抗菌性に関係する原料の種類によって特に問題が生じる菌種のみを選択することも可能である。
原料に関しては主として防腐剤、抗菌性のある多価アルコール、エタノール等を測定する。
これらを例示すれば、1,3ブチレングリコール(以下1.3BGと略す)、1,2ペンタンジオール(以下1.2PDと略す)、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、エタノール、ジプロピレングリコール、1,2へキサンジオール、1,2オクタンジオール、イソプレングリコール、プロピレングリコール、ヒノキチオール、ビオゾール、塩化ベンザルコニウムが挙げられる。
また、防腐性を下げる物質についても、対象となる製剤に汎用される原料と混合して菌の最小発育阻止濃度を測定しておく。
菌の最小発育阻止濃度の測定方法は一般的に用いられている方法でよい。
【0005】
以上の方法で得られた菌の最小発育阻止濃度を基に、菌種ごとに、配合した防腐に影響ある原料の(配合濃度/最小発育阻止濃度)の合計を算出し、これを抗菌指数とした。
実際の製剤で保存効力試験を行うと、抗菌指数が菌種別にある一定の値で保存効力試験が適となる範囲に入ることがわかった。
このことより、事前にいくつかの処方で保存効力試験を実施しておき、菌種ごとに保存効力試験が適となる抗菌指数を設定する。この値を基準値とする。
そして、その後製品化する場合、防腐に影響ある原料の配合量より、抗菌指数を算出し、基準値と比較することによって事前に保存効力試験の結果を予測できる。
なお、保存効力試験は種々方法はあるが、日本薬局方の参考情報の保存効力試験に準拠して実施すればよい。
【0006】
また、保存効力試験の判定基準も日本薬局方に記載されているが、製品の種類や用途、容器の防腐性、生産場所のクリーン度等を勘案して決定すればよい。
製品の種類や用途、容器の防腐性、生産場所のクリーン度等を勘案する方法は上記のように、基準値と保存効力試験の判定基準の両方調整することが可能であるが、保存効力試験の判定基準は一定にしておき、基準値を各種の条件によって変更した方が本発明を容易に実施できる。
また、エマルジョン等の場合、油相、粉体の量が少ない場合はそのまま適用できる場合もあるが、油相、粉体の量が多い場合は抗菌指数を計算する場合の配合濃度は、油相、粉体を除いた水相に対する濃度とする。さらにはパラオキシ安息香酸エステル等の油相に溶解する防腐剤に関しては水相と油相の分配係数を計算し、水相における防腐剤濃度より抗菌指数を算出してもよい。
このように抗菌指数と基準値を用いることによって、新たに開発すべき製剤の処方を決定する場合に事前に抗菌指数を計算することによって、抗菌性の予測が可能であり、無駄な実験を減らすことができる。なお、抗菌性が基準値より大幅に高い処方も安全性からも問題でありこれらも排除できる利点がある。
【実施例】
【0007】
以下に実施例を記載するが、実施例はこれに限定されるものではない。
また、以下の試験は必要に応じて無菌状態で実施したことは言うまでもない。
また、処方は重量%で示した。
実施例
防腐に影響する原料が1.3BG、1.2PD、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチル、エタノールである場合
対象とした菌種
黄色ブドウ状球菌(NBRC13276)、緑膿菌(NBRC13275)、大腸菌(NBRC3972)、酵母Candida albicans(NBRC1594)、カビAspergillus niger(NBRC9455)
手順1
菌の最小発育阻止濃度の測定
【0008】
試験方法
A エタノール以外の原料
加温溶解した培地(細菌は感受性ディスク用寒天培地N(日水製薬社製)、真菌はポテトデキストロース寒天培地(日本製薬社製))を18mlと、原料を最終濃度の10倍量溶解した水溶液2mlをシャーレに流し入れ、寒天平板を作製した。
但し、高濃度で試験する場合は2倍濃度の培地を作成し、これを10mlと、原料を最終濃度の2倍量溶解した水溶液10mlをシャーレに流し入れ、寒天平板を作製した。
これに108個/ml程度に調整した菌液10μlを寒天平板に接種した。これを、細菌は34℃48時間、真菌は25℃6日間培養後、コロニー形成が見られない最低濃度を最小発育阻止濃度とした。
【0009】
B エタノール
原料を規定量溶解した培地(細菌は感受性ディスク用ブイヨン(日水製薬社製)、真菌はグルコースペプトン培地(日本製薬社製))を試験管に5mlとり、108個/ml程度に調整した菌液を10μl加え、撹拌した。これを、細菌は34℃48時間、真菌は25℃6日間培養後、菌の発育が見られない最低濃度を最小発育阻止濃度とした。
その結果を以下に示す。
【0010】
【表1】

【0011】
手順2
以下の表2〜表6の処方の製剤を常法に従い作製した。
なお、すべての処方は精製水で合計100%とする。また、数値は重量%を表す。
【0012】
【表2】

【0013】
【表3】

【0014】
【表4】

【0015】
【表5】

【0016】
なお、表2のアミノ酸はヒドロキシプロリンとセリンの等量混合物を、コンキオリン加水分解液は硫酸分解したコンキオリン加水分解物を1%含む水溶液を、大豆抽出物は一丸ファルコス社製フィトコラージュを用いた。
表3のアクリル酸・メタクリル酸アルキル重合物はグッド・リッチ社製ペムレンTR−1を、複合植物抽出液は一丸ファルコス社製ファルコレックスBB−44を用いた。
表3のオウゴン抽出液は一丸ファルコス社製オウゴンリキッドSEを、クマザサ抽出液は一丸ファルコス社製ファルコレックスクマザサEを用いた。
表5の油相成分はスクワラン:ミツロウ:ステアリルアルコール:トコフェノール=100:20:5:1の混合物を、界面活性剤はモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)(花王社製レオドールTW−S120V):ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ社製ニッコールHCO−60)=20:1を用いた。
【0017】
これの保存効力試験を行った。
保存効力試験方法
各処方の製剤を20gとり、108個/ml程度に調整した菌液0.2mlを加えて撹拌した。これを25℃で保存し、1週間置きに一部を取り菌数を測定した。
保存効力試験の判定基準
本判定基準は種々の条件によって変化するが、本実施例では表6のように定めた。
【0018】
【表6】

【0019】
各処方の保存効力試験の結果と段落番号0005の1〜2行目に記載された方法で算出される抗菌係数を表7〜10に記載する。
【0020】
【表7】

【0021】
【表8】

【0022】
【表9】

【0023】
【表10】

【0024】
この結果より基準値は表11のように決定した。
【0025】
【表11】

【0026】
以上の結果より新たに開発する処方が抗菌性が満足するか容易に確認でき、試作の回数を大幅に減少させることが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防腐に影響ある原料の菌の最小発育阻止濃度を菌種ごとに測定し、各菌種に対する、防腐に影響ある原料の(配合濃度/最小発育阻止濃度)を算出しその合計が、各菌種に対する基準値以上となるように防腐に影響ある原料を配合することを特徴とする組成物の製造方法
【請求項2】
請求項1の方法によって製造された化粧料
【請求項3】
各菌種に対する基準値が以下の数値から選択された値を用いた請求項1乃至請求項2の製造方法またはその方法で製造された製品
黄色ブドウ状球菌=0.5〜2.5
緑膿菌=0.3〜2.5
大腸菌=1.0〜2.5
酵母(Candida albicans)=0.5〜2.5
カビ(Aspergillus niger)=1.7〜3.2

【公開番号】特開2009−203165(P2009−203165A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43749(P2008−43749)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【Fターム(参考)】