説明

組成物の調整方法、得られた組成物及びリン酸塩吸着剤としての該組成物の使用

本発明は、新規な組成物の調整方法、当該組成物のリン酸吸着剤としての使用、特に人間又は動物への投与のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な組成物の作成法、及び、リン酸塩吸着剤としての当該組成物の使用に関し、特に人間や動物への投与のためのものである。
【背景技術】
【0002】
水性媒体からのリン酸塩吸着剤は特許文献1により知られている。ここにおいて吸着剤は、炭水化物及び又はフミン酸により安定化された多核β‐鉄水酸化物を含む。この生成物は、塩化鉄(III)溶液を塩基(特にソーダ溶液)と反応させ、得られた水酸化鉄が劣化する前に炭水化物又はフミン酸を添加することにより生成される。塩素イオンの存在がβ‐鉄水酸化物(アカガネイト)の形成には必須であるため、塩化鉄(III)溶液を沈殿に使用することが必要である。炭水化物又はフミン酸を添加することにより、生成されたばかりのβ‐鉄水酸化物を安定化させ、その結果、得られた物質は、炭水化物又はフミン酸と劣化したβ‐鉄水酸化物の混合物に比べて優れたリン酸塩吸着能力を示すと考えられている。
【特許文献1】EP0868125号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、塩化鉄(III)を出発物質とする特許文献1のリン酸塩吸着剤の作成法には問題がある。例えば、塩化鉄(III)を使用すると、塩素イオンの存在により、設置の際腐食の問題が起こる。また、塩化鉄(III)は比較的コスト高である。
【0004】
したがって、塩化鉄(III)を出発物質として使用することによる上記問題を現さないリン酸塩吸着剤が望まれていた。同時に、特許文献1のリン酸塩吸着剤とほぼ同様のリン酸塩吸着能力を示すリン酸塩吸着剤を有することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、硫酸鉄及び/又は硝酸鉄を出発物質として使用することで、例えば炭水化物又はフミン酸によるのと同様に安定化され、特許文献1の材料とほぼ同様のリン酸塩吸着能力を有する水酸化鉄が、塩化鉄(III)を使用せずに得られるという驚くべきことを発見した。この発見に基づき、本願発明者らは本特許出願を完成させた。
【0006】
本発明にかかる組成物の調整方法は、以下の工程を有する。
a)鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩溶液に少なくとも1の塩基を添加し、
b)任意により、得られた沈殿物を一回以上水で洗浄して上記水酸化鉄の懸濁水溶液をつくり、
c)工程b)で得られた水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する少なくとも1のさらなる成分を、上記得られた懸濁水溶液に添加し、
d)工程c)で得られた組成物を乾燥させる。
【0007】
工程a)において、鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩溶液を少なくとも1の塩基と反応させ、水酸化鉄の沈殿物を形成する。
【0008】
水性の、鉄(III)を含む硫酸塩溶液は、特に、水中における硫酸鉄(III)(Fe2(SO43)(その水和物を含む)の溶液であってもよい。しかし、KFe(SO42やNH4Fe(SO42のような鉄明礬などの、他の水性の、鉄(III)を含む硫酸塩溶液などを使用することも可能である。さらに、本発明において、例えば硝酸などにより酸化された硫酸鉄(II)の硫酸含有溶液を使用することも可能である。
【0009】
使用する、水性の、鉄(III)を含む硫酸塩溶液は、鉄の量に対し、約3〜16重量%の濃度であることが好ましい。
【0010】
水性の、鉄(III)を含む硝酸塩溶液は特に、水中における硝酸鉄(III)(Fe2(NO33)(その水和物を含む)溶液であってもよい。
【0011】
好ましく使用される、水性の、鉄(III)を含む硝酸塩溶液は、鉄の量に対し、約3〜16重量%の濃度であることが好ましい。
【0012】
工程a)において、塩基の量はpH値が少なくとも3、好ましくは少なくとも6となるとなるように適宜選択される。経済的な観点から、塩基の量は、前記鉄が前記溶液から可能な限り完全に沈殿するように選択される。したがって、概してpH値が10以下で工程が行われる。pH値が高いと、経済的な観点から好ましくない。したがって、工程a)におけるpH値は、約3〜10、さらに好ましくは約5〜8である。
【0013】
工程a)における塩基として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用することが好ましい。このような化合物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物またはカーボネートであることが特に好ましい。特にナトリウムのアルカリ金属カーボネート、アルカリ金属バイカーボネート、又はアルカリ金属水酸化物がより好ましい。これら塩基は、水溶液の形で使用することが好ましく、モル濃度が約0.01〜2モル/Lであることが好ましい。しかし、これらの塩基を固体の形で鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩水溶液に添加することも可能である。
【0014】
工程a)において、前記塩基として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び/又は重炭酸ナトリウムを水溶液の形で使用することが最も好ましい。
【0015】
塩基との反応は、形成される水酸化物の劣化を早めるおそれがあるため、高温において行わない。当該反応における温度は、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜30℃、さらに好ましくは室温(25℃)である。沈殿後、懸濁水溶液を短時間放置する。実際には、懸濁水溶液を例えば1〜5時間室温またはそれ以下において放置する。その間、懸濁水溶液を攪拌してもよい。
【0016】
得られた沈殿物を好ましくは一回、さらに好ましくは数回水で洗浄し、水は洗浄/懸濁操作ごとに、デカンテーション(decanting)、フィルタリング、遠心分離、及び/又は例えば膜ろ過等の逆浸透法により除去される。得られた湿性物は乾燥されない。水の量は重大な問題とはならないが、好ましくは、得られる懸濁水溶液中の鉄含有量が(Fe換算で)10重量%以下、特に好ましくは2〜8重量%となるように工程が行われる。
【0017】
得られた水酸化鉄の懸濁水溶液の前記さらなる成分が添加される前のpH値は、中性の6.5〜7.5の範囲内であることが好ましい。pH値が低いと、水酸化鉄が部分的に再び溶解する。pH値が高いと、工程c)において複雑な形成物となるため好ましくない。
【0018】
本発明にかかる方法は、特に好ましくは、工程c)において、前記さらなる成分の添加前に、前記水酸化鉄の劣化が実質的に起こらないように行われる。沈殿物の劣化の間に、初期においてランダムに配置された分子の再グループ化が起こり、規則的な結晶格子が形成される。沈殿物の劣化はほとんどの場合、結晶化だけではなく、オストワルド成長の結果、粒子の拡大化も伴う。
【0019】
工程c)において、前記得られた懸濁水溶液に、工程b)において得られた前記水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する少なくとも1のさらなる成分を添加する。水酸化鉄の劣化を抑制する成分は、好ましくは炭水化物、炭水化物誘導体、及びフミン酸からなる群から選ばれる。この成分は固体のかたちで添加されることが好ましいが、原理としては水溶液のかたちでの添加も可能である。
【0020】
本発明によると、前記さらなる劣化抑制成分として炭水化物、例えば種々の炭水化物や糖を使用することが特に好ましい。例えば、アガロース、デクストラン、デキストリン、マルトデキストリン、デキストリン誘導体、微結晶セルロースやセルロース誘導体などのセルロース、スクロース、マルトース、ラクロース、マニトールなどである。
【0021】
特に好ましいのは、スターチ、スクロース、デキストリン及び/又はこれらの混合物である。スターチ、スクロース、又はこれらの混合物が最も好ましい。スクロースと、特にスクロース、マルトデキストリン、セルロース、特に微結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも1のさらなる成分の混合物が非常に好ましい。この補足的成分の機能は、沈殿したばかりの水酸化鉄を安定化させ、水酸化鉄沈殿物の劣化を防ぐことと考えられるが、この説のみに限られる訳ではない。
【0022】
炭水化物又はフミン酸の量は、水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分である炭水化物又はフミン酸が、鉄1gあたり(Fe換算で)少なくとも0.5g、好ましくは少なくとも1gとなるように選択することが好ましい。好ましくは、得られる組成物の鉄含有量は、50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下である。得られる組成物の鉄含有量は、少なくとも20重量%であることが好ましい。得られる組成物に含まれる炭水化物又はフミン酸などの水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分の量は特に制限されるものではなく、主として経済的な理由により決定される。上記量は好ましくは約5〜60重量%、より好ましくは約20〜60重量%である。
【0023】
工程c)において、前記水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分の添加後に、得られた懸濁水溶液は周知の方法によって乾燥される。例えば、真空濃縮やスプレー乾燥により乾燥を行うことができる。
【0024】
本発明の方法の好ましい実施の形態によれば、本発明にかかる組成物が乾燥される前又は後に、少なくとも1のカルシウム塩が添加される。適したカルシウム塩は、例えば、無機又は有機酸、特にカルシウムアセテートである。カルシウム塩を添加することにより、リン結合能力が向上し、特に高いpH値が得られる。pH値が5以上でカルシウム塩を有する吸着剤を使用することは、完全なリン結合能力を保持することができるため特に有利となる。特にカルシウムアセテートなどのカルシウム塩を400mg〜2g、例えば1g添加することは特に有利となることが示されている。
【0025】
本発明よって得られる材料は、実質的に水酸化鉄と、炭水化物やフミン酸などの、水酸化鉄の劣化を抑制する成分との混合物である。既述の通り、後者は沈殿したばかりの水酸化鉄と接触して水酸化鉄を安定させることで、リン酸塩吸着能力を低減させる原因である材料の劣化を起きなくする。本発明にしたがって選択された条件のもとで、懸濁水溶液を添加してもDE4239442に記載のような複雑な組成とはならない。複雑な組成となるためには、例えば炭水化物を水酸化鉄に添加する際にアルカリ性の強い条件が必要だからである。
【0026】
本発明にかかる方法により得られる組成物は、好ましくは水溶液からのリン酸塩の吸着剤の製造に使用される。また、本発明にかかる方法により得られる組成物から、人間又は動物への経口及び/又は静脈投与調製品が製造されることが好ましい。特に、本発明により得られる組成物は、高リン酸塩血症の予防及び/又は治療のための調製品の製造に使用されることが好ましい。本発明により得られる組成物は、透析患者の予防的及び/又は治療的処置のための調製品の製造に使用されることが特に好ましい。
【0027】
この目的のために、本発明により得られる組成物は、例えば経口投与などの周知の薬投与の形式に形成される。組成物はそのままで形成してもよいし、従来のキャリアや補助物質などの従来の薬用添加物とともに形成してもよい。例えば、カプセル化することもできる。カプセル化剤として、医薬分野において使用されているハード又はソフトのゼラチンカプセルなどの従来の材料を使用することができる。また、本発明により得られる組成物をマイクロカプセル化することも可能である。また、吸着剤を任意により補助物質や添加物とともに、細粒、タブレット、糖衣錠のかたちで提供してもよいし、小袋に封入してもよいし、ゲル又はスティック状にしてもよい。本発明により得られる組成物の一日の服用量は、鉄を基準として、1〜3g、好ましくは約1.5gである。
【0028】
本発明により得られる組成物は、食材に結合したリン酸塩の吸着の使用にも適している。この目的のため、例えば組成物を食材に混合してもよい。この目的のために、組成物を例えば上記の医薬用のかたちで作成してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明により得られる組成物は、体液、糜汁、及び食材から、無機のリン酸塩及び食材に結合したリン酸塩を吸着する吸着剤として特に適している。本発明により得られる組成物は、特許文献1で得られる薬剤と同様のリン酸塩吸着能力を有し、簡単かつ安価に製造することができる。
【0030】
本発明はまた、本発明により得られる組成物に関する。
【0031】
硫酸鉄及び/又は硝酸鉄を出発物質として使用することで、組成物中に塩化物が微量にしか存在せず、塩化物含有量が特に低い組成物を得ることができる。塩化物含有量はアカガネイトを使用した従来の場合と比べて特に低い。従って本発明は、水酸化鉄(III)とともに炭水化物およびフミン酸からなる群から選択される少なくとも1の成分を含む組成物に関し、このような組成物の塩化物含有量は、0.05重量%以下であり、好ましくは0.03重量%以下であり、さらに好ましくは0.01重量%以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を、次の実施例をもとに詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
1160gのソーダ水溶液(d20=1.185g/ml)に、444gの硫酸鉄(III)溶液(11.3% w/w Fe)を20〜30分かけて滴下しながらかき混ぜる。この懸濁水溶液をさらに1時間かき混ぜる。その後、懸濁水溶液に2リットルの水を添加しながら(羽根型撹拌器で)かき混ぜる。この混合物を放置し、上澄み液を移し替える。この手順を5回繰り返す。このようにして、鉄含有量4.0g(w/w)の懸濁水溶液1238gが得られる。この懸濁水溶液1238gにスクロースとスターチをそれぞれ73.9gずつ添加する。次にこの懸濁水溶液を60℃で回転式蒸発器により濃縮し、50℃の高真空のもとで乾燥させる。鉄含有量21.5g(w/w)の粉末223gが得られる。
【0034】
リン酸塩吸着能力の決定:
10mlのリン酸ナトリウム水溶液(13.68g/l Na3PO4 x 12 H2O)を、233mgの上記実施例で作成された材料(鉄0.9mmolに相当)(モル比 Fe:P=1:0.4)に添加する。pH値を調整した後、この懸濁水溶液を37℃で2時間反応させる。次にこの懸濁水溶液を遠心分離機にかける。上澄み液を移し替え、蒸留水で25mlとし、リン含有量を決定する。イオンクロマトグラフィーで決定される本実施例で作成される材料のリン酸塩吸着量は、pH値3.0で0.20mg P/mg Fe、pH値5.5で0.16mg P/mg Feであった。
【実施例2】
【0035】
1014mlの水酸化ナトリウム水溶液(9.6% w/v)に、439gの硫酸鉄(III)水溶液(11.3% w/w Fe)を20〜30分かけて滴下しながら(羽根型撹拌器で)かき混ぜる。この懸濁水溶液をさらに1時間かき混ぜる。その後、懸濁水溶液に2リットルの水を添加しながらかき混ぜる。この混合物を放置し、上澄み液を移し替える。この手順を上澄み液のリン酸塩がなくなるまで繰り返す(塩化バリウムによる制御)。このようにして、鉄含有量2.74g(w/w)の懸濁水溶液1606gが得られる。この懸濁水溶液1606gにスクロースとスターチをそれぞれ66.0gずつ添加する。次にこの懸濁水溶液を60℃で回転式蒸発器により濃縮し、50℃の高真空のもとで乾燥させる。鉄含有量22.2g(w/w)の粉末190gが得られる。
【0036】
リン酸塩吸着能力の決定:
10mlのリン酸ナトリウム水溶液(13.68g/l Na3PO4 x 12 H2O)を、226mgの上記実施例で作成された材料(鉄0.9mmolに相当)(モル比 Fe:P=1:0.4)に添加する。pH値を調整した後、この懸濁水溶液を37℃で2時間反応させる。次にこの懸濁水溶液を遠心分離機にかける。上澄み液を移し替え、蒸留水で25mlとし、リン含有量を決定する。イオンクロマトグラフィーで決定される実施例1で作成される材料のリン酸塩吸着量は、pH値3.0で0.19mg P/mg Fe、pH値5.5で0.15mg P/mg Feであった。
【実施例3】
【0037】
1200mlのソーダ水溶液(d20=1.185g/ml)に、535gの硝酸鉄(III)水溶液(9.7% w/w Fe)を20〜30分かけて滴下しながら(羽根型撹拌器で)かき混ぜる。この懸濁水溶液をさらに1時間かき混ぜる。その後、懸濁水溶液をフィルターバッグに移し、水で連続的にすすぎながら3時間洗浄する(3時間後の洗浄水の導電性は3μm/cm)。このようにして、鉄含有量4.3g(w/w)の懸濁水溶液923g(コンプレキソン法により決定)が得られる。次にこの懸濁水溶液を60℃で回転式蒸発器により濃縮し、50℃の高真空のもとで乾燥させる。鉄含有量22.3g(w/w)の粉末172gが得られる。
【0038】
リン酸塩吸着能力の決定:
10mlのリン酸ナトリウム水溶液(13.68g/l Na3PO4 x 12 H2O)を、225mgの上記実施例で作成された材料(鉄0.9mmolに相当)(モル比 Fe:P=1:0.4)に添加する。pH値を調整した後、この懸濁水溶液を37℃で2時間反応させる。次にこの懸濁水溶液を遠心分離機にかける。上澄み液を移し替え、蒸留水で25mlとし、リン含有量を決定する。イオンクロマトグラフィーで決定される実施例1で作成される材料のリン酸塩吸着量は、pH値3.0で0.21mg P/mg Fe、pH値5.5で0.17mg P/mg Feであった。
【実施例4】
【0039】
615mlのソーダ水溶液(d20=1.185g/ml)に、234gの硫酸鉄(III)水溶液(11.4% w/w Fe)を20〜30分かけて滴下しながら(羽根型撹拌器で)かき混ぜる。この懸濁水溶液をさらに1時間かき混ぜる。その後、懸濁水溶液をフィルターバッグに移し、水で連続的にすすぎながら3時間洗浄する(塩化バリウムを使用した硫酸の有無のテスト)。このようにして、鉄含有量6.0g(w/w)の懸濁水溶液470g(コンプレキソン法により決定)が得られる。この懸濁水溶液1606gにスクロースとマルトデキストリンをそれぞれ21.1gずつ添加する。次にこの懸濁水溶液を60℃で回転式蒸発器により濃縮し、50℃の高真空のもとで乾燥させる。鉄含有量20.3g(w/w)の粉末66gが得られる。
【0040】
リン酸塩吸着能力の決定:
10mlのリン酸ナトリウム水溶液(13.68g/l Na3PO4 x 12 H2O)を、247mgの上記実施例で作成された材料(鉄0.9mmolに相当)(モル比 Fe:P=1:0.4)に添加する。pH値を調整した後、この懸濁水溶液を37℃で2時間反応させる。次にこの懸濁水溶液を遠心分離機にかける。上澄み液を移し替え、蒸留水で25mlとし、リン含有量を決定する。イオンクロマトグラフィーで決定される実施例1で作成される材料のリン酸塩吸着量は、pH値3.0で0.21mg P/mg Fe、pH値5.5で0.17mg P/mg Feであった。
【実施例5】
【0041】
585mlのソーダ水溶液(d20=1.185g/ml)に、223gの硫酸鉄(III)水溶液(11.3% w/w Fe)を20〜30分かけて滴下しながら(羽根型撹拌器で)かき混ぜる。この懸濁水溶液をさらに1時間かき混ぜる。その後、懸濁水溶液をフィルターバッグに移し、水で連続的にすすぎながら3時間洗浄する(塩化バリウムを使用した硫酸の有無のテスト)。このようにして、鉄含有量6.0g(w/w)の懸濁水溶液447g(コンプレキソン法により決定)が得られる。この懸濁水溶液447gにスクロースと結晶セルロースをそれぞれ20.6gずつ添加する。次にこの懸濁水溶液を60℃で回転式蒸発器により濃縮し、50℃の高真空のもとで乾燥させる。鉄含有量20.6g(w/w)の粉末65gが得られる。
【0042】
リン酸塩吸着能力の決定:
10mlのリン酸ナトリウム水溶液(13.68g/l Na3PO4 x 12 H2O)を、244mgの上記実施例で作成された材料(鉄0.9mmolに相当)(モル比 Fe:P=1:0.4)に添加する。pH値を調整した後、この懸濁水溶液を37℃で2時間反応させる。次にこの懸濁水溶液を遠心分離機にかける。上澄み液を移し替え、蒸留水で25mlとし、リン含有量を決定する。イオンクロマトグラフィーで決定される実施例1で作成される材料のリン酸塩吸着量は、pH値3.0で0.20mg P/mg Fe、pH値5.5で0.17mg P/mg Feであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、人間や動物への投与のための、塩化物含有量が特に低い、リン酸塩吸着能力を有する新規な組成物を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水性の、鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩溶液に少なくとも1の塩基を添加して、水酸化鉄の沈殿物を形成し、
b)任意により、得られた沈殿物を一回以上水で洗浄して上記水酸化鉄の懸濁水溶液をつくり、
c)工程b)で得られた水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する少なくとも1のさらなる成分を、上記得られた懸濁水溶液に添加し、
d)工程c)で得られた組成物を乾燥させる
ことを含む組成物の調整方法。
【請求項2】
鉄(III)を含む硫酸塩溶液を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する前記のさらなる成分は、炭水化物、炭水化物誘導体、及びフミン酸からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物の調整方法。
【請求項4】
前記鉄(III)塩溶液は、鉄(III)硫酸塩の水溶液であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項5】
前記鉄(III)塩溶液は、鉄(III) 硝酸塩の水溶液であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項6】
工程a)において、pH値が少なくとも3となることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項7】
前記得られた組成物が、50重量%以下の鉄を含んでいることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項8】
前記塩基は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物から選ばれることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項9】
前記塩基は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属カーボネートから選ばれることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項10】
工程a)において、前記塩基として、アルカリ金属カーボネート、アルカリ金属バイカーボネート、又はアルカリ金属水酸化物の水溶液が使用されることを特徴とする請求項1〜9いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項11】
工程a)において、pH値が少なくとも6となることを特徴とする請求項1〜10いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項12】
工程a)において、前記塩基として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び/又は重炭酸ナトリウムが使用されることを特徴とする請求項1〜11いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項13】
前記水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分は、スターチ、スクロース、デキストリンよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜12いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項14】
前記組成物を乾燥する前後に、少なくとも1のカルシウム塩を添加することを特徴とする請求項1〜13いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項15】
工程c)において、前記さらなる成分の添加前に、前記水酸化鉄の劣化が実質的に起こらないことを特徴とする請求項1〜14いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項16】
得られた組成物を製剤として投与可能な形に形成するさらなる工程)を有することを特徴とする請求項1〜15いずれかに記載の組成物の調整方法。
【請求項17】
請求項1〜16いずれかに記載の方法から得られる組成物の、水溶液からリン酸塩を吸着する吸着剤の製造への使用。
【請求項18】
請求項1〜16いずれかに記載の方法から得られる組成物の、人間又は動物への経口及び/又は静脈投与調製品の製造への使用。
【請求項19】
請求項1〜16いずれかに記載の方法から得られる組成物の、高リン酸塩血症の予防及び/又は治療のための調製品の製造への使用。
【請求項20】
請求項17〜19いずれかに記載の使用において、透析患者の予防的及び/又は治療的処置のための調製品の製造への使用とすることを特徴とする。
【請求項21】
請求項1〜16いずれかに記載の方法から得られる吸着剤。
【請求項22】
請求項1〜16いずれかに記載の方法から得られる組成物の、食材に混合するための吸着剤の製造への使用。
【請求項23】
水酸化鉄(III)に加え、炭水化物及びフミン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1の成分を含む組成物において、
0.05重量%以下の塩化物を含むことを特徴とする組成物。

【公表番号】特表2008−504344(P2008−504344A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518586(P2007−518586)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052861
【国際公開番号】WO2006/000547
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(505150084)ヴィフォー・インターナショナル・アーゲー (10)
【Fターム(参考)】