説明

組成物

エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり少なくとも0.7モル当量のマグネシウムを含むエチレンジアミンジコハク酸の塩で、かかる塩は水溶性で、無吸湿性の固形物であることを開示する。さらに、前記塩の調製方法及び使用を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレンジアミンジコハク酸(ethylenediamine disuccinic acid)(又はEDDS)の塩に関する。また、その塩の調製方法、使用及び前記塩を含む組成物に関する。特に、本発明はEDDSのマグネシウム含有塩に関する。
【0002】
エチレンジアミンジコハク酸は図1に示される化学構造を有する。
【0003】
【化1】


図1
【0004】
この構造は2つの立体中心を含み、可能な立体異性体が3つ存在する。特に好ましい配置は、S,Sエチレンジアミンジコハク酸であるが、これはかかる化合物が容易に生分解するからである。
【0005】
エチレンジアミンジコハク酸及びそのナトリウム塩を含む組成物は、特にキレート剤として非常に幅広く使用されている。
【0006】
本明細書では、「EDDS」という略語は図1に示される構造、及びこの構造においてヒドロキシル基の水素原子の数個が置換された構造を表すために使用される。すなわち「EDDS」は、酸性基のうち1、2、3若しくは4個が中和又は部分的に中和されているコハク酸塩に言及するときにも使用される。
【0007】
市販されている物質の1つにエチレンジアミンジコハク酸トリナトリウムがある。30重量%のEDDS(遊離酸として発現)又は37重量%のEDDSトリナトリウム(対イオンを含む)を含む水溶液として購入することができる。
【0008】
エチレンジアミンジコハク酸はまた、固形粉末状で市販される。これは酸としての65重量%の固形の[S,S]EDDS、及び結晶化水を含む。
【0009】
EDDSは、特に重金属及び遷移金属に有効なキレート剤であるため、しばしば洗剤及び自動食器洗浄剤中に含まれる。
【0010】
エチレンジアミンジコハク酸トリナトリウムは容易に水溶するため、食器洗浄剤又は洗剤に組み入れることができる。しかしながら、多くの消費者はそれら製品が粉末又は圧縮粉末のタブレットの形状であることをより好むため、液体組成物であるエチレンジアミンジコハク酸トリナトリウムの提供は、製剤時の製造者に相当な課題をもたらす。固形のエチレンジアミンジコハク酸トリナトリウムを白色粉末として単離することができるが、非常に吸湿性が高く、大気より水分を急速に吸収する。
【0011】
遊離テトラ酸の形態は粉末状で入手でき、粒状化することもできる。しかしながら、水に対して0.3g/Kgしか溶解度を有さないため、洗濯及び食器洗浄の用途における使用に関して、当然ながら他の問題を提示する。
【0012】
EDDSの水溶性固形物の可用性の欠如が、製品考案者にとって制約となるが、他にも制約となる状況が多く存在する。
【0013】
本発明者は、容易に水溶し、通常の大気条件下で吸湿せず、簡単に粒状化できるEDDSを含む自由流動性固形組成物を見い出した。
【0014】
本発明の第1の態様において、水溶性で、無吸湿性の固体であり、エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり少なくとも0.7モル当量のマグネシウムを含むエチレンジアミンジコハク酸の塩を提供する。
【0015】
かかる塩が、自由流動性粒状物質の形状であることが好ましい。粉末又は粒状であってもよい。
【0016】
かかる塩を粒状組成物に容易に組み込めることが好ましい。
【0017】
好ましい実施態様において、塩はエチレンジアミンジコハク酸1モルあたりマグネシウムを少なくとも0.8モル含んでおり、好ましくは少なくとも0.9モル、より好ましくは少なくとも1モル、好ましくは少なくとも1.3モル、より好ましくは少なくとも1.5モル、好ましくは少なくとも1.7モル、より好ましくは少なくとも1.8モル、好ましくは少なくとも1.9モル含み、約2モル含むことが最も好ましい。
【0018】
いくつかの実施態様において、塩はさらに、例えばカルシウム等の、2族のアルカリ土類金属を含んでいてもよい。エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり最大1.3モルのカルシウムを含むことができ、例えば最大1.2モル、最大1.0モル、最大0.7モル、又は最大0.5モル含むことができる。
【0019】
エチレンジアミンジコハク酸ジマグネシウムを含む塩、すなわち、エチレンジアミンジコハク酸1モルあたりマグネシウムを2モル有する塩が特に好ましい。したがって、図1のヒドロキシル基の水素原子4個全てが2個のマグネシウムイオンによって置換された化合物が好ましい。
【0020】
また、エチレンジアミンジコハク酸1モルあたりマグネシウムを1〜2モル有する塩が極めて好ましい。例えば、エチレンジアミンジコハク酸カルシウムマグネシウム(CaMgEDDS)のように、エチレンジアミンジコハク酸マグネシウム(MgEDDS)の式を有する化合物が好まれる。エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり1.5モル当量のマグネシウムを有する塩(Mg1.5EDDS)は、有利な特性を有することも見い出されている。
【0021】
いくつかの実施態様において、塩はエチレンジアミンジコハク酸1モルあたり0.05モル以上の1種又は2種以上のアルカリ金属を含んでいてもよい。したがって、かかる塩は1種又は2種以上のアルカリ土類金属及び1種又は2種以上のアルカリ金属を含む混合塩であってもよい。アルカリ金属を含む場合は、ナトリウム、カリウム及びそれらの混合物から選択されるのが好ましく、最も好ましいのはナトリウムである。いくつかの実施態様において、塩にはエチレンジアミンジコハク酸1モルあたりアルカリ金属を0.5〜2モル、好ましくは1〜2モル、より好ましくは1.5〜2モル含まれる。したがって、本発明の塩は、例えば、EDDSマグネシウムナトリウム、EDDSマグネシウムジナトリウム、EDDSマグネシウムカリウム、EDDSマグネシウムジカリウムの実験式による化合物又はそれらの非化学量論的に当量の化合物を含んでいてもよい。EDDSマグネシウムジナトリウムの実験式の塩が、有利な特性を有することが見い出されている。
【0022】
しかしながら、特に好ましい実施態様においては、本発明の塩はアルカリ金属を含まない。特に好ましい実施態様においては、塩はアルカリ土類金属及びEDDSのみを含んでいる。
【0023】
本発明の塩の「EDDS」の部分は、いかなる立体異性体を含んでいてもよい。したがって、[R,R]−EDDS、[R,S]−EDDS、[S,S]−EDDS及びそれらのいずれかの組合せから選択することができる。
【0024】
かかる塩は[S,S]−EDDSを少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%含む。好ましい実施態様において、塩は本質的に[S,S]−EDDSのマグネシウム塩からなる。
【0025】
本発明の塩は、通常の大気条件下では吸湿性ではない。本発明の塩は、72時間、通常の大気条件に露出された際に吸収する水分がその重量の10%未満であることが好ましく、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは2.5%未満、またさらに好ましいのは重量の1.5%未満である。96時間、通常の大気条件に露出された際に吸収する水分がその重量の5%未満であることが好ましく、より好ましくは3%未満、さらに好ましくは1%未満、またさらに好ましくは0.5%未満、さらに0.1%未満であり、0.05%未満であることが最も好ましい。14日間、通常の大気条件に露出された後、水重量の0.1%未満を吸収することが好ましい。
【0026】
本発明の塩は、室温で水1Kg中少なくとも8gのEDDS濃度を提供する溶解度を有することが好ましく、より好ましくは少なくとも10g/Kg、さらに好ましくは少なくとも50g/Kg、またさらに好ましくは100g/Kg、さらに125g/Kg、最も好ましいのは少なくとも150g/Kgである。実施態様において、塩は200g/Kgまでの溶解度を有してもよく、好ましいのは190g/Kg、より好ましいのは180g/Kg、最も好ましいのは175g/Kgである。
【0027】
前記溶解度の数値は、当量のエチレンジアミンジコハク酸の重量で示される、水溶液中に存在するサクシネートの重量を表す。
【0028】
固形物は結晶化水を含んでいてもよい。結晶化水は5〜45%の量で存在していてもよく、例えば15〜20%存在してもよい。
【0029】
本発明の第2の態様において、第1の態様の塩を含む組成物を提供する。かかる組成物は、実質的に第1の態様の塩からなることができ、1又は2以上のさらなる成分を含むこともできる。かかる組成物は固形組成物又は液体組成物であってもよい。かかる組成物は、エチレンジアミンジコハク酸トリナトリウム又はエチレンジアミンジコハク酸があらかじめ取り込まれた組成物の形態をとってもよい。
【0030】
前記組成物は、例えば、洗濯組成物又は自動食器洗浄組成物となることができる。組成物は粉末状で、例えば自由流動性粉末でもよい。その他にも、組成物は、圧縮錠の形態でもよく、又は水溶性ポリマー材料製のシェルに液体又は固体形状で内包されていてもよい。
【0031】
かかる組成物は粒状組成物でもよい。
【0032】
本発明の固形の洗濯組成物は、第1の態様の塩を好ましくは0.01〜10重量%含み、より好ましくは0.01〜2重量%含み、最も好ましくは0.1〜0.5重量%含む。
【0033】
本発明の液体洗濯組成物は、第1の態様の塩を好ましくは0.01〜25重量%含み、より好ましくは0.1〜10重量%含み、最も好ましくは1〜5重量%含む。
【0034】
本発明の自動食器洗浄組成物は、第1の態様の塩を好ましくは0.1〜60重量%含み、より好ましくは1〜30重量%含み、最も好ましくは2〜15重量%含む。
【0035】
本発明の洗濯組成物及び食器洗浄組成物は、さらに界面活性剤、ビルダー、漂白剤、漂白活性剤、再堆積添加剤、染料転移阻害剤、酵素、着色剤及び香料から選択された成分を含むことが好ましい。
【0036】
本発明の組成物は、漂白組成物、洗浄組成物、又はパーソナルケア組成物でもよい。本発明の第3の態様において、第1の態様における塩の調製方法を提供する。
【0037】
第3の態様の方法は、エチレンジアミンジコハク酸にマグネシウム基を添加するステップを含むことが好ましい。かかる方法は、エチレンジアミンジコハク酸の懸濁液、好ましくは水性懸濁液に、マグネシウム基を添加することを含むことが好ましい。この懸濁液は、水1lあたり酸を10〜450g、例えば50〜200g含むことが好ましい。
【0038】
適当な塩基であれば、どれでも使用することができる。例えば、塩基は炭酸塩、水酸化物、水素化物、アミド、酸化物から選択してもよい。好ましくは、かかる塩基は水酸化マグネシウムである。
【0039】
かかる塩が混合塩を含む実施態様において、第3の態様の方法は、カルシウム基及び/又はアルカリ金属基をエチレンジアミンジコハク酸に添加するステップをさらに含んでもよい。
【0040】
本発明は、EDDS含有材料を用いる任意の使用様式における第1の態様の塩の使用をさらに提供する。
【0041】
これらの組成物は紙及びパルプの漂白に特に有用である。この態様の組成物は洗濯及び食器洗浄用途においても実用性を見い出せる。上記に詳述したように、第1の態様の塩を他の漂白用途に使用してもよい。
【0042】
したがって、本発明はキレート剤としての、第1の態様の塩の使用を提供している。具体的には、本発明の第1の態様の塩は、例えば、銅、鉄及びマンガンの遷移金属と重金属とを結合させるキレート剤として使用される。
【0043】
したがって、本発明は、洗濯組成物又は食器洗浄組成物等の洗剤組成物における第1の態様の塩の使用を含む。
【0044】
本発明は、農業用途における第1の態様の塩の使用を含む。例えば、かかる塩は、ナメクジ駆除用ペレット、除草剤、葉面散布による栄養補給、栄養補給及び水耕法に使用してもよい。
【0045】
本発明は、パルプ及び紙の漂白における第1の態様の塩の使用を提供する。これは熱機械漂白と同様に機械漂白及び化学漂白を含む。第1の態様の塩は、金属が除去される洗浄及び漂白が行われる過酸化物の段階である、パルプ漂白のQ段階及びP段階において使用されてもよい。これらの用語は当業者によく知られている。
【0046】
本発明は、パーソナルケア用途における第1の態様の塩の使用を提供する。例えば塩は、ヘアケア組成物、例えば毛髪染料及びシャンプーに組み込まれてもよい。また、例えばサンクリーム等のクリームの抗酸化物質として含まれてもよい。
【0047】
本発明は、バイオサイド増強剤としての第1の態様の塩の使用を含む。したがって、バイオサイドの効果を高めることができ、広い用途が見い出せる。例えば、パーソナルケア用途に使用してもよい。
【0048】
本発明は、家庭用、企業用及び産業用の洗浄用途における第1の態様の塩の使用を提供する。硬表面用クリーナー、浴室及び台所用クリーナー、ボトル洗浄用途又は酪農設備の洗浄における使用を含んでもよい。
【0049】
本発明はさらに、例えばカルシウム塩及びマグネシウム塩の金属イオン封鎖剤の抗スケール剤として、第1の態様の塩の使用を提供する。
【0050】
本発明の塩は、例えばバリウム塩及びストロンチウム塩を除去する、スケール除去剤として油田の用途において使用してもよい。
【0051】
本発明は、例えばプリント基板又は化学メッキ用途の金属洗浄用途における第1の態様の塩の使用を提供できる。
【0052】
本発明は、例えば抗毒物質として医療用途における、第1の態様の塩の使用を提供できる。本発明は、身体部位への金属の送達を補助するために使用してもよい。
【0053】
本発明は、例えば安定剤又は抗酸化物質として、食品用途において第1の態様の塩の使用を提供できる。
本発明を以下の制限されることのない実施例を使用してさらに説明する。
【実施例1】
【0054】
化合物の合成
表1に詳述されている成分は、次の方法で調製した。各々の場合において、Enviomet C320(エチレンジアミンジコハク酸(65%の活性))の100g[0.2モル]を1Lの脱イオン水でスラリーにし、Mg(OH)及び/又はCa(OH)及び/又はNaOHの記載された量を添加した。混合物を濾過する前に17時間攪拌した。かかる溶液を濃縮し、生成物を晶出した。白色の結晶性生成物を濾過して回収し、一晩40℃にて真空オーブンで乾燥した。EDDSの含有量をHPLCで、金属含有量をICPで測定した。
【0055】
【表1】

【実施例2】
【0056】
各物質の外観を72時間定期的に観察した。観察結果を表2に記録する。
【0057】
【表2】

【0058】
表3は、試料の質量が時間とともにどの程度増加したかを示す。
【0059】
【表3】

【実施例3】
【0060】
溶解度
各試料の溶解度が以下のように測定された。固形物質の余剰分を5mlの水に添加し、室温にて一晩攪拌した。この溶液を濾過し、濾液のEDDS含有量をHPLCにて分析した。表4の溶解度の数値は、遊離のEDDS又は存在するコハク酸イオンの量を示しており、関連する対イオンの質量は含まない。
【0061】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性、かつ、無吸湿性の固体であり、エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり少なくとも0.7モル当量のマグネシウムを含む、エチレンジアミンジコハク酸の塩。
【請求項2】
エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり少なくとも0.9モルのマグネシウムを含む、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
エチレンジアミンジコハク酸1モルあたり少なくとも1.8モルのアルカリ土類金属を含む、請求項1又は2に記載の塩。
【請求項4】
72時間標準大気条件に露出したときに吸収する水分がその重量の5%未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の塩。
【請求項5】
少なくとも10g/KgのEDDS濃度を提供する溶解度を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の塩。
【請求項6】
自由流動性の微粒子物質状である、請求項1〜5のいずれかに記載の塩。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の塩を含む組成物。
【請求項8】
粒状の組成物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の塩の調製方法であって、エチレンジアミンジコハク酸にアルカリ土類金属の塩基を添加することを含む方法。
【請求項10】
過酸化水素、他の含過酸素化合物又はそれらの前駆体を含む組成物の安定性を向上させるための、請求項1〜6のいずれかに記載の塩の使用。
【請求項11】
キレート剤、抗スケール物質又はスケール除去剤としての請求項1〜6のいずれかに記載の塩の使用。
【請求項12】
洗剤組成物における請求項1〜6のいずれかに記載の塩の使用。
【請求項13】
パーソナルケア又は洗浄用途における、又はバイオサイド増強剤としての、請求項1〜6のいずれかに記載の塩の使用。
【請求項14】
農業、食品又は医療用途における、請求項1〜6のいずれかに記載の塩の使用。
【請求項15】
パルプ又は紙の漂白における、請求項1〜6のいずれかに記載の塩の使用。

【公表番号】特表2010−534645(P2010−534645A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517490(P2010−517490)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050610
【国際公開番号】WO2009/013539
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(508020258)インノスペック リミテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】INNOSPEC LIMITED
【Fターム(参考)】