説明

組換えイヌプロラクチンおよびその製造方法

【課題】イヌプロラクチンの正確な測定系を開発するために、測定に必要な量のイヌプロラクチンを安定して得る方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を有するイヌプロラクチン遺伝子にコードされ、特定のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む組換えイヌプロラクチン前躯体、および特定のアミノ酸配列からなる組換えイヌプロラクチン。イヌにおいて乳癌の罹患に関与する因子の1つであるプロラクチンの血中濃度を正確に測定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌプロラクチン遺伝子配列の解明および組換えイヌプロラクチンの製造に関する。イヌプロラクチン遺伝子配列を同定したことにより、遺伝子組換え技術を用いてイヌプロラクチンを製造することができ、イヌにおいて乳癌の罹患に関与する因子の1つであるプロラクチンの血中濃度を正確に測定することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
ペプチドやタンパク質ホルモンは、動物種間で構造に変異があり、動物種に特異的な構造をもつため、正確な測定をするためには動物種特異的な測定系の開発が必要とされる。しかし、ヒト・ウシなどに比べ、伴侶動物に特異的なペプチド・タンパク質の測定系は現状ではまだ整備されていない。特に、伴侶動物において病気の診断等に利用できるホルモンについての正確な測定系の開発が望まれている。
【0003】
通常、血液中のホルモンは、抗体に対する親和性を利用する免疫競合法で測定され、検出法の違いによってRIA やELISA 法などがある。このような方法である種のホルモンを測定する場合、標準品を少なくともその種の標準品(ホルモン)にしないと、サンプルと標準品の抗体に対する親和性が異なるので、正確な測定値を出せない。そこで、正確な測定値を得るには、その動物種のホルモンを使って種特異的な測定系で測定する必要がある。
【0004】
プロラクチン(PRL)は、下垂体前葉から分泌されるタンパク質ホルモンであり、生殖、行動、成長・発達、免疫および代謝に関与する多くの生理作用をもつ。特に、乳腺の分化・発達に重要な役割を果たし、乳汁分泌を促進する。現在、プロラクチンは乳癌リスクを増加させるとの報告がなされており、乳癌の診断への応用の可能性がある。
【0005】
伴侶動物の中でもイヌにおいては、乳腺腫瘍が最も多い腫瘍であり、雌イヌにおける腫瘍全体の約半分を占める。さらに、乳腺腫瘍の半数は最終的に悪性、即ち乳癌となる。このようにイヌにとって乳癌は、他の動物におけるよりも危険性の高い病気である。乳腺腫瘍に関与する因子の中でプロラクチンがリスク因子となることが判明している。さらに、プロラクチンはストレスマーカーとして行動学分野においても測定が望まれている。
【0006】
現在、イヌ特異的なホルモン測定系は限られており、甲状腺刺激ホルモン (TSH)の測定系と成長ホルモン (GH) の測定系が利用可能であるが、プロラクチンについては、一般に利用できる測定系はない。天然のイヌプロラクチンとしては、生体試料から精製した極めて少量の研究用の試料が存在するが、一般には供与されず、また、タンパク質の構造の解析はなされていない。プロラクチンタンパク質の構造はいく種類かの脊椎動物で同定されてはいるが、種間の変動が他のホルモンに比べ大きく、イヌにおいてはその構造は不明であった。
【0007】
さらに、天然のプロラクチンは下垂体に極めて微量しか含まれていないので、ホルモン抽出のためには数百匹のイヌが必要となる。しかし、その入手は、動物愛護の観点からも経済的にも非常に困難である。また、生体試料からのプロラクチンの単離・精製自体も難しく、構造の解析には至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イヌにおける乳癌の診断のためのマーカーやストレスマーカーとして、イヌプロラクチンの正確な測定系の開発が望まれているが、測定に必要な量のプロラクチンを生体試料から入手するのは、動物愛護の観点からも経済的にも非常に困難であった。また、プロラクチンは種に特異的であり、イヌの測定系ではイヌに特異的な抗体を作製する必要がある。
【0009】
従って、本発明は、イヌプロラクチンを正確に測定するために必要な量のイヌプロラクチンを安定して得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは遺伝子組換え技術によってイヌプロラクチンを作製するために、イヌプロラクチン遺伝子をクローニングして配列を決定することを検討した。これまで、イヌプロラクチンの推定配列はいくつかGenbank データベースにおいて報告されているが、mRNAとして転写されているイヌプロラクチン遺伝子の配列を同定した研究はこれまでなかった。
【0011】
本発明者らは、イヌ下垂体のcDNAライブラリーからイヌプロラクチン遺伝子をクローニングし、組換えタンパク質を発現させることにより、イヌプロラクチンの構造を解明をし、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.配列番号1で表される塩基配列を有するイヌプロラクチン遺伝子。
2.配列番号1の43〜732位の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
3.配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む組換えイヌプロラクチン前躯体。
4.配列番号1の133〜732位の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
5.配列番号2の31〜229位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む組換えイヌプロラクチン。
6.配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
7.配列番号2の31〜229位のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
8.上記6記載のポリヌクレオチドを含むプラスミド。
9.上記7記載のポリヌクレオチドを含むプラスミド。
10.上記8または9記載のプラスミドにより形質転換された細胞。
11.上記10記載の細胞を培養してイヌプロラクチンを発現させ、これを採取することを特徴とする、組換えイヌプロラクチンの製造方法。
【0013】
本発明を以下に詳しく説明する。
イヌプロラクチン遺伝子の配列決定は次のようにして行った。まず、イヌ下垂体cDNAライブラリーを作製するために、実験動物のイヌから下垂体を採取し、RNA を抽出した。これを逆転写してcDNAに変換し、cDNAをプラスミドに挿入した。このcDNAライブラリーの各クローンの遺伝子配列を解析し、データーベースで検索した。次いで、イヌゲノムのデータベースを参考にして、プロラクチンと推定されるクローン全長の塩基配列を決定した。
【0014】
得られたクローンの塩基配列をHM369390(配列番号1)と称する。この塩基配列は推定アミノ酸配列と共に図1に示されており、下線部分は推定シグナル配列を示す。二重下線の部分は理論的N-グリコシル化部位であり、アステリスク (*)は終止コドンを示す。ポリアデニル化シグナルは破線で示される。
【0015】
次いで、クローンをHEK293細胞に導入し、安定発現細胞株を選抜した。HEK293細胞の培養上清からイヌプロラクチンを精製した。精製には、ゲル濾過と逆相HPLCを組み合わせて行えばよい。SDS-PAGEの移動度から分子量を測定し、同時にウエスタンブロットで抗プロラクチン抗体に対する反応性を確認した。ウエスタンブロット法での解析において、抗プロラクチン抗体で検出されるバンドを確認した。
【0016】
本発明においてクローニングしたプロラクチン遺伝子は、ゲノムの塩基配列から推定される配列に一致すること、発現されたタンパク質が、抗プロラクチン抗体に反応すること、およびその分子量からイヌプロラクチンと判断される。
【0017】
本発明で同定された配列HM369390 (配列番号1) は、NCBI GenBankにイヌプロラクチン遺伝子として登録されている2つの配列、XM_545363およびAY741405とは異なっていた。
【0018】
BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/) 解析により、HM369390はイヌ染色体35に位置し、5つのエクソンと4つのイントロンを含むことが判明した。配列AY741405はイヌ染色体において検出されなかった。また、配列XM_545363は同じ染色体中に同定され、6つのエクソンと5つのイントロンを含む(図2)が、この配列はゲノム配列から推定された配列であり、実際にmRNAに転写されることが確認されたわけではない。これに対し、本発明の配列HM369390は、イヌ下垂体cDNAライブラリーより配列決定されたmRNA由来のものであるので、実際のプロラクチンをコードする遺伝子と考えられる。
【0019】
他種プロラクチンは、複数のスプライシング及び/又は翻訳変異体を有し、例えば、ヒトプロラクチン遺伝子は6つのエクソンからなるが、翻訳される配列は5つのエクソンからなる。ラットプロラクチンはグリコシル化、リン酸化および開裂などの、ペプチドの翻訳後修飾による複数の生化学的変異体を有する。
【0020】
図2に示すように、XM_545363はHM369390とエクソンII〜Vを共有しており、HM369390とXM_545363はスプライシング変異体となり得ることを示唆するが、XM_545363は本発明者らの作製したcDNAライブラリーでは検出されなかった。XM_545363については、推定配列を決定する際に、実際の読み出し位置と異なる位置に開始コドンを設定したものと思われる。
【0021】
図1に示すように、塩基配列HM369390 (配列番号1) では、930bp のヌクレオチド配列が、推定229 アミノ酸ポリペプチドをコードする完全オープンリーディングフレームを含む。HM369390のアミノ酸配列は、そのアミノ末端にシグナルペプチドであると推定される30個の疎水性アミノ酸を含み、また1つのN-グリコシル化部位を有する。
【0022】
配列番号1の43〜732位の塩基配列が翻訳領域を表し、133〜732位の塩基配列がシグナルペプチドをコードする領域を除いた成熟プロラクチンをコードする領域を表す。また、配列番号2は、シグナルペプチドを含むプロラクチン前躯体のアミノ酸配列を表し、配列番号1の43〜732位の塩基配列に対応する。配列番号2の31〜229位のアミノ酸配列は、シグナルペプチドを除いた成熟プロラクチンのアミノ酸配列を表す。
【0023】
上述したように、本発明により初めて、全長イヌプロラクチンcDNAが単離され配列決定された。推定アミノ酸配列は、ネコおよびブタを含む他の種のものと高度に相同性であった。さらに、組換えイヌプロラクチンを哺乳動物細胞において発現させ、N-結合グリコシル化(31kDa) または非グリコシル化(27kDa) タンパク質として分泌されることが判明した。本発明者らはまた、組換えタンパク質の分子量がイヌ下垂体から抽出した天然プロラクチンの分子量と同等であることを見出した。
【0024】
組換えイヌプロラクチンの製造は、配列番号1の43〜732位の塩基配列または133〜732位の塩基配列で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む発現ベクターを、常法により哺乳動物細胞などの適宜宿主に導入し、形質転換させた細胞から遺伝子が組み込まれ安定発現する細胞を選択して、この細胞を培養することにより製造することができる。また、安定発現株を作ることで、安定してプロラクチン組み換え体を作り続けることができる。
【0025】
本発明により作製された組換えイヌプロラクチンは、診断などのための血中プロラクチン測定に利用できる。血中プロラクチンの測定は、通常、抗原抗体反応を利用した免疫測定法により行う。本発明により、イヌプロラクチン組み換え体を安定に大量に産生することができるため、これを抗原として、より特異性の高い抗体を作製することが可能となる。プロラクチンは、他の下垂体ホルモンに比べて動物種差が大きく、他の動物のプロラクチンを利用した測定系ではイヌプロラクチンの正確な測定ができない。
【0026】
免疫測定法には、例えば、時間分解蛍光免疫測定法があり、精製イヌプロラクチンと抗イヌプロラクチン抗体、さらにユーロピウム標識したイヌプロラクチンを測定に用いる。この場合、本発明で得られる組換えプロラクチンを抗原として特異抗体を作るだけでなく、標準品(検量線用)、ユーロピウム標識ホルモン(トレーサー)として組換えプロラクチンを使用できる。即ち、正確な配列に基づくイヌプロラクチンを検量線用標準品に用いることで、正確な測定値を得ることができるようになる。
【0027】
さらに、本発明により得られる組換え体は、イヌプロラクチンのタンパク質機能を検討することにより、イヌ乳癌の治療のための標的を研究しうる点でも有用である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によって、イヌプロラクチンに関し、mRNAとして転写されている遺伝子の配列が初めて正確に示された。本発明のイヌプロラクチンをコードするポリヌクレオチドを用いれば、遺伝子組換え法を用いてイヌプロラクチンを大量に安定して作製することができる。また、得られた組換えイヌプロラクチンは、イヌ特異的抗プロラクチン抗体を作製するために使用でき、イヌにおいてこのホルモンの正確な測定が可能となるイヌ特異的なプロラクチン測定系を確立することができる。この測定は、プロラクチン産生腫瘍の診断におけるマーカーとして、また行動学分野におけるストレスマーカーとしての有用性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、イヌプロラクチンcDNAのヌクレオチド配列およびそれから判明したアミノ酸配列を示す図である。
【図2】図2は、イヌの染色体35における、配列HM369390および配列XM_545363の位置を示す図である。
【図3】図3は、実施例2において作製した組換えイヌプロラクチンの発現をウェスタンブロット法により示した図である。
【図4】図4は、組換えイヌプロラクチンをPNGaseにより処理し、ウェスタンブロット法により分析した結果を示す図である。
【図5】図5は、組換えイヌプロラクチンと天然のイヌプロラクチンのウェスタンブロット法による分析結果の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0031】
イヌ下垂体cDNAライブラリーからのイヌプロラクチン遺伝子の同定
ビーグル種成犬から下垂体を採取し、QIAGENのRNA 調整キット(RNAeasy)を用いて総RNA を抽出した。RNA からcDNAクローンの作製は、日立ハイテクマニファクチャ&サービス株式会社の受託サービスを利用した。960クローンを入手し、配列を決定した。
【0032】
cDNAライブラリー中でイヌプロラクチン遺伝子配列を探し、Genbank データベースと比較すると、同じcDNA配列(配列HM369390、配列番号1)を有する2つのクローンが検出された。配列HM369390は、登録されているイヌプロラクチン遺伝子の2つの配列、XM_545363およびAY741405と重複する部分もあるが、全体としては異なっていた。
【0033】
HM369390の推定アミノ酸配列のシグナルペプチドを、SignalP (http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/) を用いて予想すると、930bp のヌクレオチド配列が、推定229 アミノ酸のポリペプチドをコードする完全オープンリーディングフレームを包含していた(図1)。HM369390のアミノ酸配列は、そのアミノ末端にシグナルペプチドであると推定される30個の疎水性アミノ酸を含み、また1つのN-グリコシル化部位を有する。HM369390の推定アミノ酸配列は、XM_545363と86.10 %の相同性を有し、AY741405とは56.07 %相同である。HM369390の遺伝子はまた、ネコおよびブタ遺伝子を含む他の動物種の遺伝子と高いアミノ酸相同性も示す。
【0034】
BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)により配列を解析し、そのゲノム構成を決定すると、HM369390はイヌ染色体35に位置し、5つのエクソンと4つのイントロンを含むことが分かった。配列AY741405はその染色体中に検出されなかったが、XM_545363は同染色体中に同定され、6つのエクソンと5つのイントロンを含む(図2)。配列XM_545363はゲノム配列から推定された配列であり、実際にmRNAに転写されることが確認された配列ではない。XM_545363はHM369390とエクソンII〜Vを共有するが、XM_545363は本発明者らのcDNAライブラリーでは検出されなかった。配列XM_545363は、推定配列を決定する際に、実際の読み出し位置と異なる位置に開始コドンを設定したものと思われる。これに対し、本発明でイヌ下垂体cDNAライブラリーより配列決定されたHM369390はmRNAに由来するものであるので、実際のプロラクチン遺伝子と考えられる。
【実施例2】
【0035】
組換えイヌプロラクチンの作製
組換えイヌプロラクチンを製造するために、プロラクチン遺伝子を組み込んだプラスミドを作製した。鋳型としてcDNA (HM369390) を用いて、イヌプロラクチンの全長コーディング領域を、PCR により増幅した。高フィデリティポリメラーゼを用いるPCR 増幅 (Expand HiFi :米国、IN、インディアナポリス、Roche Diagnostics)を、95℃、15秒の変性、60℃、30秒のアニーリング、72℃、1分の重合、および72℃、10分の最終重合を30サイクルという標準的条件下で行った。イヌプロラクチン用のプライマーとして、5'-GCC GAA TTC ATC GCC ACC ATG GAT AAC AAA-3'(配列番号3) および5'-TAG GGA TCC TTA GCA GTT GCT GTC GTA GAC-3'(配列番号4) を用いた。 PCR産物をpcDNA3.1(-) のEcoRI およびBamHI 部位にサブクローニングした。プラスミドのDNA 配列は、Dye Deoxy Terminator Cycle Sequencing Kit を用いるABI PRISM 3730 Genetic Analyzer (Applied Biosystems,米国、CA、フォスター市) によって確認した。HM369390発現ベクター (pcPRL)をヒト胚性腎臓(HEK)293細胞 (RIKEN Cell Bank 、つくば市) にトランスフェクトした。これらの細胞を、10%熱不活化ウシ胎児血清、100 U/mlペニシリンおよび100 μg/mg ストレプトマイシンを添加したDMEM/F12 (増殖培地)(Invitrogen、米国、CA、カールスバッド) 中に保持した。細胞を3 ×105 細胞/ウェルの密度で24- ウェルプレートに播種し、FuGene6 トランスフェクション試薬 (Roche Diagnostics 、米国、IN、インディアナポリス) を用いてpcPRL でトランスフェクトした。25時間後、培地を無血清培地 (200 μL /ウェル) に交換し、細胞を4日間培養した。アセトンで沈澱させた調整培地を、抗ヒトプロラクチン抗体 (Clone No. C-17:米国、CA、サンタクルズ、Santa Cruz Biotechnology) を用い既報 (Hashimoto, O. et al., 2006) のようにしてウエスタンブロット分析にかけた。
【0036】
図3に示すように、27および31kDa に対応する位置に移動した2つのシグナルが還元条件下で検出された。組換えイヌプロラクチンはHEK293細胞中でグリコシル化されたと推定される。グリコシル化プロラクチンはポリペプチド鎖上の31〜33位の単一コンセンサス配列におけるアスパラギンN-結合オリゴ糖であることが報告されている。このグリコシル化部位はさまざまな種で確認されているが、本発明によりイヌプロラクチンにおいて同定された。イヌプロラクチンの31-kDaバンドがN-グリコシル化形態であるかどうかを決定するために、PNGase F (Ner england Biolabs 、米国、MA、イプスウィッチ) で調整培地を処理した。PNGase Fでの処理により31-kDaのバンドが消失し、27-kDaのバンドの強さが増した (図4) 。これらの結果は、イヌプロラクチンの31-kDaのバンドがN-グリコシル化タンパク質であること示す。プロラクチンのグリコシル化はその受容体結合能及び/又はその血漿半減期を変化させると考えられている。
【0037】
最後に、組換えイヌプロラクチンタンパク質と天然プロラクチンが同等であるかどうかを確認するために、pcPRL でトランスフェクトした細胞の調整培地、および既報 (Hashimoto O. et al, 2006) のようにして調製した別の雌成犬からの下垂体抽出物を用いたウエスタンブロッティングを行った。イヌ下垂体抽出物のシグナルバンドは27および31kDa に移動し、組換えイヌPRL タンパク質についても同様であった(図5)。これらの結果は、イヌプロラクチンが、本発明の組換えイヌプロラクチンと同様、天然にはN-グリコシル化 (31 kDA) および非グリコシル化 (27kDa)プロラクチンとして分泌されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表される塩基配列を有するイヌプロラクチン遺伝子。
【請求項2】
配列番号1の43〜732位の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む組換えイヌプロラクチン前躯体。
【請求項4】
配列番号1の133〜732位の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号2の31〜229位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む組換えイヌプロラクチン。
【請求項6】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号2の31〜229位のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含むプラスミド。
【請求項9】
請求項7記載のポリヌクレオチドを含むプラスミド。
【請求項10】
請求項8または9記載のプラスミドにより形質転換された細胞。
【請求項11】
請求項10記載の細胞を培養してイヌプロラクチンを発現させ、これを採取することを特徴とする、組換えイヌプロラクチンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−80849(P2012−80849A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231726(P2010−231726)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼ホームページのアドレス http://www.ncbi.nlm.gov/nuccore/300391942 ▲2▼掲載日 平成22年7月14日[刊行物等]▲1▼刊行物名 「Experimental Animals」 Volume 59 Number 5 ▲2▼発行日 平成22年10月 ▲3▼発行所 有限会社 アイペック(International Press Editinng Centre Incorporation) ▲4▼該当ページ 第643〜646頁
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】