説明

組換えプラスミドベクターおよびそれを用いたタンパク質の製造方法

【課題】 組換えタンパク質を宿主において高効率で分泌発現可能な新規なベクター、およびそれを用いて得られる形質転換体により組換えタンパク質を高効率に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 新規なオリゴヌクレオチドと、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドとを含む、ヒト由来タンパク質を発現させるためのベクター、前記ベクターを用いて宿主を形質転換して得られる形質転換体、前記形質転換体を培養する工程を含むヒト由来タンパク質の製造方法により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質を発現させるための新規なベクター、およびそれを用いて宿主を形質転換して得られる形質転換体により、タンパク質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学的手法を用いて製造された組換えタンパク質は、医薬、農薬、研究試薬等に数多く用いられている。組換えタンパク質を製造するために用いる宿主としては主に、細菌、酵母、糸状菌、動物細胞などが用いられる。なかでも、大腸菌Escherichia coli(以下、本明細書では単に大腸菌とする)は組換えタンパク質を製造するための宿主として代表的に用いられており、研究例も豊富である。しかしながら、ヒト等の異種生物に由来した組換えタンパク質を大腸菌の細胞質内で発現させようとすると、しばしば、前記組換えタンパク質が不活性型の封入体として発現することがある。封入体として発現した不活性型タンパク質を活性型タンパク質に変換するには、リフォールディング工程を経る必要があり、作業が非常に煩雑となる。
【0003】
細胞質内で封入体として発現する組換えタンパク質であっても、ペリプラズムであれば可溶性の活性型タンパク質として発現する場合がある(非特許文献1)。特に製造対象の組換えタンパク質がジスルフィド結合を有している場合、酸化的環境であり、かつジスルフィド結合形成に関与するタンパク質が存在するペリプラズムにおいて、前記タンパク質にジスルフィド結合が形成されることで、活性型タンパク質として発現する傾向がある。
【0004】
組換えタンパク質をペリプラズムに分泌発現させるためには、組換えタンパク質を、そのN末端側に、ペリプラズムへの分泌発現を促進させるシグナルペプチドを付加した状態で発現させる必要がある。なお、前記シグナルペプチドは、組換えタンパク質がペリプラズムへ分泌発現される際、シグナルペプチダーゼにより、組換えタンパク質から切除されるため、最終的には前記シグナルペプチドのない、組換えタンパク質が得られる。しかしながら、ペリプラズムに分泌発現させる方法を用いた場合、活性型組換えタンパク質の製造効率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−083670号公報
【特許文献2】特開平8−322586号公報
【特許文献3】特開2001−061487号公報
【特許文献4】特開2008−245580号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Choi,J.H. and Lee,S.Y.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,64,625−635,2004
【非特許文献2】Nucleic Acids Res.,30,e43,2002
【非特許文献3】Eur.J.Biochem.,267,1565−1570,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
宿主のペリプラズムへ分泌発現させる方法を用いて組換えタンパク質を製造する際、その効率を改善する方法として、ジスルフィド結合形成に関係するDsbタンパク質と共発現させる方法(特許文献1)、グルタチオンレダクターゼと共発現させる方法(特許文献2)、分子シャペロンと共発現させる方法(特許文献3)等が報告されている。しかしながら、いずれの方法も共発現系の構築や共発現条件の最適化など、煩雑な操作を必要とした。
【0008】
そこで本発明は、組換えタンパク質を宿主において高効率で分泌発現可能な新規なベクター、およびそれを用いて得られる形質転換体により組換えタンパク質を高効率に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを含むベクターに、さらに新規なオリゴヌクレオチドを挿入することで、組換えタンパク質を宿主において高効率に分泌させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の態様を包含する:
(1)配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドとを含む、ヒト由来タンパク質を発現させるためのベクター。
【0011】
(2)ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドが、配列番号7から9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドである、(1)に記載のベクター。
【0012】
(3)ヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入した(1)または(2)に記載のベクターを用いて宿主を形質転換して得られる、ヒト由来タンパク質を発現可能な形質転換体。
【0013】
(4)宿主が大腸菌である、(3)に記載の形質転換体。
【0014】
(5)ヒト由来タンパク質がヒトFc結合性タンパク質である、(3)または(4)に記載の形質転換体。
【0015】
(6)ヒト由来タンパク質がヒトエリスロポエチン結合性タンパク質である、(3)または(4)に記載の形質転換体。
【0016】
(7)(3)または(4)に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ヒト由来タンパク質の製造方法。
【0017】
(8)(5)に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ヒトFc結合性タンパク質の製造方法。
【0018】
(9)(6)に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質の製造方法。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明のベクターは、配列番号1(5’−CTTTAAGAACGAGATATACAT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号2(5’−CTTTAAGAAGGAGACAT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3(5’−CTTTAAGAAGGAGATATAAATACAT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号4(5’−CTTTAAGAAGGAGATATACATAATACAT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号5(5’−CTTTAAGAAGGAGATATACATAATAATACAT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号6(5’−CTTTAAGAACGAGATATACATAATACAT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのうちのいずれかと、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドと、を含んでいることを特徴としている。なお、本願出願前に公開されていたDNA配列データベース(URL:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi、アクセス日:2010年10月22日)を用いて、先行技術を調査したところ、配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列とペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドとを含むベクターは開示されておらず、本発明のベクターは新規なベクターであることを確認している。
【0021】
本発明のベクターに含まれる、配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(オリゴヌクレオチドA)と、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチド(オリゴヌクレオチドB)は、オリゴヌクレオチドAの3’末端側にオリゴヌクレオチドBを直接付加する形で含んでいると好ましい。また、オリゴヌクレオチドBの3’末端側直後に制限酵素サイトを設け、発現させるヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドを前記サイトに挿入できるようにするとより好ましい。
【0022】
本発明のベクターに含まれる、配列番号1から6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、いずれもその3’末端側にある、ヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現の翻訳効率を制御する機能を有するオリゴヌクレオチドである。なお、配列番号1から6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、どのオリゴヌクレオチドを選択するかにより、ヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現の翻訳効率は変化する。例えば、宿主が大腸菌の場合、翻訳効率が高い順に、配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号1、配列番号5、配列番号6となる(参考例参照)。配列番号1から6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのうち、どのオリゴヌクレオチドを選択するかについては、発現させるヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現の翻訳効率や、前記タンパク質を発現させるための宿主を考慮し、適宜選択すればよい。
【0023】
本発明のベクターは、配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのオリゴヌクレオチドとを少なくも含んでいればよいが、前記2つのオリゴヌクレオチドの他に、転写開始に必要なプロモーターの機能を有するポリヌクレオチド、転写終結に必要なターミネーターの機能を有するポリヌクレオチド、複製起点の機能を有するポリヌクレオチド、抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーの機能を有するポリヌクレオチド、複数の制限酵素サイトを有したマルチクローニングサイトを構成するポリヌクレオチド等を、さらに含んでいると好ましい。
【0024】
本発明のベクターは、例えば、前述した、プロモーター、ターミネーター、複製起点、選択マーカー、マルチクローニングサイト等の機能を有するポリヌクレオチドを含む、市販のベクターの適切な箇所に、配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、およびペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを、遺伝子工学的手法を用いて挿入することで作製できる。前記市販のベクターは、形質転換する宿主に好ましいベクターを適宜選択すればよく、宿主が大腸菌の場合は、pUC、pET、pBBR、pBluescript、pTrc99aなどのプラスミドベクターが例示できる。本発明のベクターを作製する具体的な方法の一例として、配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドの3’末端側にペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを直接結合したオリゴヌクレオチドを、PCR法で作製し、前記作製したオリゴヌクレオチドを市販の制限酵素やライゲーション試薬等を用いて、市販のベクター中の適切な位置(例えばプロモーターとターミネーターとの間)に挿入する方法があげられる。
【0025】
本発明のベクターに含まれる、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドは、組換えタンパク質を発現させる宿主により適宜選択すればよい。組換えタンパク質を製造するための宿主として大腸菌を用いる場合、大腸菌のペリプラズム分泌経路としてSecYEG複合体を介した分泌経路とツインアルギニン輸送(Tat)系を介した分泌経路が知られている(非特許文献1)ことから、前記経路を利用するシグナルペプチドを用いると好ましい。具体的には、PelBシグナルペプチド(MKYLLPTAAAGLLLLAAQPAMA:UniProt No.P0C1C1の1番目から22番目までの領域、配列番号7)、MalEシグナルペプチド(MKIKTGARILALSALTTMMFSASALA:UniProt No.P0AEX9の1番目から26番目までの領域、配列番号8)、TorTシグナルペプチド(MRVLLFLLLSLFMLPAFS:UniProt No.P38683の1番目から18番目の領域、配列番号9)があげられる。
【0026】
本発明のベクターを用いて組換えタンパク質を製造するには、本発明のベクターに含まれる、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドの3’末端側に直接、または任意のリンカーペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを介して、組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド(組換えタンパク遺伝子)を挿入し、前記遺伝子を挿入したベクターを用いて宿主を形質転換して得られる形質転換体を、培養して製造すればよい。
【0027】
本発明のベクターを用いて製造する組換えタンパク質は、ヒト由来タンパク質のように従来の発現方法では活性型タンパク質としての発現が困難または発現量が少ないタンパク質に対して適用すると、本発明の効果を発揮できる点で好ましい。また、本発明のベクターを用いて製造する組換えタンパク質は、その由来する生物(例えば、ヒト)において細胞外に分泌発現されるタンパク質、または発現後にタンパク質の構造の一部分が細胞外に露出するタンパク質が、宿主のペリプラズムにおいて活性型タンパク質としての発現が期待できる点で好ましい。
【0028】
本発明のベクターを用いて製造するヒト由来タンパク質の一例として、インシュリン、インターフェロン、インターロイキン、抗体、エリスロポエチン、成長ホルモン、およびそれらの受容体のタンパク質等があげられる。なお、本発明のベクターを用いて製造するヒト由来タンパク質は、前記タンパク質の完全体であってもよいし、前記タンパク質の機能に重要な部分のみから構成されるタンパク質であってもよいし、さらに前記タンパク質を構成するアミノ酸残基の一つ以上が欠失および/または挿入および/または置換されていてもよい。本発明のベクターを用いて製造するヒト由来タンパク質の好ましい一例である、ヒトFc結合性タンパク質の場合、該タンパク質は、ヒトFc結合性タンパク質の一つであるヒトFcγRIの全領域(UniProt No.P12314、配列番号76)であってもよく、ヒトFcγRIの一部領域(例えば、配列番号76に記載のアミノ酸配列のうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸からなるタンパク質)であってもよく、ヒトFcγRIの全領域または一部領域のアミノ酸のうちの一つ以上が欠失および/または挿入および/または置換されたヒトFcγRIであってもよい。また、本発明のベクターを用いて製造するヒト由来タンパク質の別の好ましい一例である、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質の場合、該タンパク質は、ヒトエリスロポエチン受容体の全領域(UniProt No.P19235)であってもよく、ヒトエリスロポエチン受容体の一部領域(例えば、配列番号77)であってもよく、ヒトエリスロポエチン受容体の全領域または一部領域のアミノ酸のうち一つ以上が欠失および/または挿入および/または置換されたものであってもよい。なお、本発明のベクターを用いて製造するヒト由来タンパク質に、簡便な精製や定量を容易にするためのタグ配列を付加してもよい。前記タグ配列の一例として、ポリヒスチジンタグやc−mycタグといった遺伝子工学で多用されるオリゴペプチドがあげられる。
【0029】
本発明のベクターに挿入する、ヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製する方法としては、
(I)ヒト由来タンパク質のアミノ酸配列から塩基配列に変換し、前記塩基配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成して作製する方法や、
(II)ヒト由来タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドを直接人工的に、またはヒト由来タンパク質のcDNAなどからPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した前記ポリヌクレオチドを適当な方法で連結し作製する方法、
を例示することができる。なお、アミノ酸配列から塩基配列に変換する際は、形質転換させる宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
【0030】
本発明のベクターに、ヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入したベクターを用いて形質転換させる宿主としては、前記ヒト由来タンパク質の発現に適した宿主を適宜選択すればよく、COS細胞やCHO細胞に代表される動物細胞、バチルス属(ブレビバチルス属細菌やパエニバチルス属細菌のような広義のバチルス属細菌も含む)や大腸菌に代表される細菌、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属に代表される酵母、麹菌に代表される糸状菌が例示できるが、取扱いの簡便な大腸菌を宿主とするのが好ましい。なお、宿主を大腸菌とした場合、BL21(DE3)株、JM109株、HB101株といった遺伝子型が明らかとなっている株が特に好ましい。
【0031】
本発明のベクターにヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入したベクターを用いて宿主を形質転換させる方法としては、遺伝子組換え技術において慣用されている方法に準じて実施すればよく、具体的には塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法等を例示することができる。これにより、前記ヒト由来タンパク質を発現可能な形質転換体(以下、単に本発明の形質転換体とする)が得られる。
【0032】
本発明の形質転換体は、当該技術分野で周知であり、かつ、選択した宿主細胞の培養に適した培地で増殖させればよい。一例として宿主が大腸菌の場合は、好ましい培地の一例として、必要な栄養源を補ったLB(ルリア−ベルターニ)培地があげられる。本発明のベクターに抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーの機能を有するポリヌクレオチドが挿入されている場合は、前記選択マーカーに対応する薬剤を培地に添加した状態で培養すると、本発明の形質転換体を選択的に増殖できるため好ましい。例えば、形質転換に用いた本発明のベクターが、選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を挿入していた場合、培地にカナマイシンを添加することで、本発明の形質転換体を選択的に増殖させることができる。なお、培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を加えてもよい。さらに、所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレート、及びジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでもよい。また、培地にはグリシンといった、宿主から培養液へのタンパク質漏出を促す試薬を加えてもよい。
【0033】
本発明の形質転換体の培養温度および培地のpHについても、形質転換に用いた宿主に好ましい条件で行なえばよい。一例として宿主が大腸菌の場合、培養温度は10℃から40℃の範囲が好ましいが、特に形質転換体を増殖させるには30℃から38℃の範囲がより好ましく、形質転換体から組換えタンパク質を発現させるには15℃から25℃の範囲がより好ましい。また、培地のpHはpH6.5からpH7.5の範囲が好ましく、pH6.8からpH7.2の範囲がさらに好ましい。
【0034】
本発明の形質転換体を作製するときに用いる宿主が好気性生物または通性嫌気性生物である場合、培養液に通気する必要があるが、その方法としては、宿主が細菌の場合、綿栓等の通気性のある栓をしたバッフル付三角フラスコを培養容器に用い、培養中、当該容器を振とうすることで培養液に通気を行なう方法が例示できる。
【0035】
本発明のベクターに、誘導可能なプロモーターの機能を有するポリヌクレオチドを含んでいる場合は、前記プロモーターによりヒト由来タンパク質を効率的に発現できるような条件下で誘導をかけ、培養するのが好ましい。一例として、本発明のベクターに、lacプロモーターやtrcプロモーターを含んでいる場合は、IPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を培地に添加することで誘導をかけ、培養すればよい。具体的には、培養液の濁度(Optical Density at 600nm、OD600)を測定し、約0.5から1.0となったときに、適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで、ヒト由来タンパク質の発現を誘導することができる。IPTGの添加濃度は0.005mMから1.0mMの範囲から適宜選択すればよいが、0.01mMから0.05mMの範囲が好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行なえばよい。
【0036】
本発明の形質転換体の培養液からヒト由来タンパク質を回収するには、発現の形態によって一般的な抽出方法を適宜選択して用いればよい。例えばヒト由来タンパク質が宿主細胞のペリプラズムに発現する場合には、遠心分離操作により宿主細胞を集めた後、酵素や界面活性剤等を添加し、超音波破砕処理により宿主細胞を破砕して、当該組換えタンパク質を抽出すればよい。一方、ヒト由来タンパク質が細胞のペリプラズムから培養上清に漏出する場合は、宿主細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から当該ヒト由来タンパク質を抽出すればよい。
【0037】
前記タンパク質抽出物からヒト由来タンパク質を分離・精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよい。一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離・精製があげられる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどがあげられる。これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことによって、ヒト由来タンパク質を高純度に調製することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明のベクターは、新規なオリゴヌクレオチドである配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのオリゴヌクレオチドと、を含んでいることを特徴としている。本発明のベクターは、ヒト由来タンパク質といった、従来の発現方法では活性型タンパク質としての発現が困難または発現量が少ないタンパク質であっても、前記タンパク質を効率的に発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】プラスミドベクターpETMalEおよびpETMalE−p7の概要とその作製工程を示した図である。
【図2】組換えプラスミドベクターpETMalEFcR−p7の概要とその作製工程を示した図である。
【図3】組換えプラスミドベクターpETGFP−p7の概要とその作製工程を示した図である。
【図4】GFP(緑色蛍光タンパク質)をレポータータンパク質として用いた翻訳効率の評価方法の概略図である。
【図5】形質転換体より発現したGFP量を培養液濁度あたりの蛍光強度で評価した結果を示した図である。
【図6】プラスミドベクターpUC−EPORの概要とその作製工程を示した図である。
【図7】プラスミドベクターpETMalE−p7−Eの概要とその作製工程を示した図である。
【図8】プラスミドベクターpETMalE−p7−EPORの概要とその作製工程を示した図である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、参考例は本発明を構成するものではない。
【0041】
実施例1
配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)ペリプラズムにタンパク質を分泌させるためのシグナルペプチドとして、MalEシグナルペプチド(配列番号8)を選択し、下記に示す二段階PCRにより、前記シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(1−1)一段階目のPCRを、表1の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を5サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。なお、オリゴヌクレオチドは、配列番号10(5’−TATACATATGAAAATAAAAACAGGTGCACGCATCC−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号11(5’−GCATTAACGACGATGATGTTTTCCGCCTCGGCTCTCGCC−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号12(5’−ATCGTCGTTAATGCGGATAATGCGAGGATGCGTGCACCTG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および配列番号13(5’−TTGTCCCATGGCTTCTTCGATTTTGGCGAGAGCCG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
(1−2)二段階目のPCRを、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。なお、鋳型としては一段階目のPCR産物を用い、PCRプライマーとしては配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
【0044】
【表2】

【0045】
(2)二段階PCRにより作製した、MalEシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを、制限酵素NdeIとNcoIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとNcoIで消化したpET−26b(+)プラスミドベクター(Novagen社)にライゲーションし、これを用いて塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株(Novagen社)を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養後、菌体からプラスミドを抽出し、このプラスミドをプラスミドベクターpETMalEとした。プラスミドベクターpETMalEの概要とその作製工程を図1に示す。
(4)鋳型としてプラスミドベクターpETMalE(図1)を、PCRプライマーとして配列番号14(5’−AGTAGTAGGTTGAGGCCGTTGAG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号15(5’−TTTTCATATGTATTATGTATATCTCCTTCTTAAA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することでPCRを行なった。
(5)(4)のPCR産物を制限酵素SphIとNdeIで消化後、あらかじめ制限酵素SphIとNdeIで消化したpETMalEにライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(6)(5)の形質転換体を培養後、プラスミドを抽出し、このプラスミドをプラスミドベクターpETMalE−p7とした。プラスミドベクターpETMalE−p7には、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、MalEシグナルペプチド(配列番号8)をコードするオリゴヌクレオチドと、を含んでいる。プラスミドベクターpETMalE−p7の概要とその作製工程を図1に示す。また、プラスミドベクターpETMalE−p7(図1)のうち、制限酵素BglII認識サイトからBpu1102I認識サイトまでのポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号16に示す。なお、配列番号16に記載の塩基配列のうち、88番目から115番目までのヌクレオチドが配列番号4に相当し、116番目から193番目までのヌクレオチドがMalEシグナルペプチド(配列番号8)をコードするオリゴヌクレオチドに相当する。
(7)下記の方法により組換えプラスミドベクターpETMalEFcR−p7およびその形質転換体を作製した。
(7−1)特開2008−245580号公報(特許文献4)に開示の方法に従い、コドンを大腸菌型に変換したヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターpECFcRを作製した。
(7−2)鋳型としてプラスミドベクターpECFcRを、PCRプライマーとして配列番号17(5’−TCAGCCATGGGACAAGTAGATACCACCAAAGCTGTGATTA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号18(5’−CCAAGCTTAATGATGATGATGATGATGGACCGGGGTCGGCAGTTGAAGACCCAG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することでPCRを行ない、C末端側にポリヒスチジンタグを付加した、ヒトFcγRIの細胞外領域(配列番号76に記載のアミノ酸配列のうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでの領域)を含むポリペプチドをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチドを作製した。
(7−3)(7−2)で得られたポリヌクレオチドを制限酵素NcoIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化したプラスミドベクターpETMalE−p7(図1)にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETMalEFcR−p7を作製した。プラスミドベクターpETMalEFcR−p7の概要とその作製工程を図2に示す。
(8)プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)を用いて大腸菌BL21(DE3)株を塩化カルシウム法により形質転換し、pETMalEFcR−p7の形質転換体を作製した。
【0046】
プラスミドベクターpETMalEFcR−p7により発現される組換えタンパク質は、ヒトFcγRIの細胞外領域からなる抗体結合性タンパク質であり、以降、本明細書では当該タンパク質をrhFcγRIと略記する。プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)には、5’末端側から、配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、MalEシグナルペプチド(配列番号8)をコードするオリゴヌクレオチド、rhFcγRIをコードするポリヌクレオチド、ポリヒスチジンタグをコードするオリゴヌクレオチドの順に配置されている。プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)のうち、制限酵素BglII認識サイトからHindIII認識サイトまでの塩基配列を、配列番号19に示す。なお、配列番号19に記載の塩基配列のうち、88番目から115番目までのヌクレオチドが配列番号4に相当し、116番目から193番目までのヌクレオチドがMalEシグナルペプチド(配列番号8)をコードするオリゴヌクレオチドに相当し、215番目から1036番目までのヌクレオチドがrhFcγRI(配列番号76に記載のアミノ酸配列のうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでの領域)をコードするオリゴヌクレオチドに相当し、1037番目から1054番目のヌクレオチドがポリヒスチジンタグをコードするオリゴヌクレオチドに相当する。
【0047】
実施例2
配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)鋳型として実施例1で作製したプラスミドベクターpETMalE−p7(図1)を、PCRプライマーとして配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号21(5’−ATTTTCATATGTATATCTCGTTCTTAAA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することでPCRを行なった。
(2)PCR産物を制限酵素SphIとNdeIで消化後、あらかじめ制限酵素SphIとNdeIで消化した組換えプラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETMalEFcR−rbsを作製した。プラスミドベクターpETMalEFcR−rbsは、プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(3)プラスミドベクターpETMalEFcR−rbsを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalEFcR−rbsの形質転換体を作製した。
【0048】
実施例3
配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)PCRプライマーとして、配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号22(5’−ATATACATATGTCTCCTTCTTAAAGTT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたほかは、実施例2と同様の方法により、プラスミドベクターpETMalEFcR−m4を作製した。プラスミドベクターpETMalEFcR−m4は、プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalEFcR−m4を用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalEFcR−m4形質転換体を作製した。
【0049】
実施例4
配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。(1)PCRプライマーとして、配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号23(5’−TTTTACATATGTATTTATATCTCCTTCTTAA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたほかは、実施例2と同様の方法により、プラスミドベクターpETMalEFcR−p4を作製した。プラスミドベクターpETMalEFcR−p4は、プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalEFcR−p4を用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalEFcR−p4形質転換体を作製した。
【0050】
実施例5
配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。(1)PCRプライマーとして、配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号24(5’−TTTTCATATGTATTATTATGTATATCTCCTTCTTA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたほかは、実施例2と同様の方法により、プラスミドベクターpETMalEFcR−p10を作製した。プラスミドベクターpETMalEFcR−p10は、プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalEFcR−p10を用いて、大腸菌BL21(DE3)株を塩化カルシウム法により形質転換し、pETMalEFcR−p10形質転換体を作製した。
【0051】
実施例6
配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)PCRプライマーとして、配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号25(5’−TTTTCATATGTATTATGTATATCTCGTTCTTAAA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いたほかは、実施例2と同様の方法により、プラスミドベクターpETMalEFcR−rbsp7を作製した。プラスミドベクターpETMalEFcR−rbsp7は、プラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalEFcR−rbsp7を用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalEFcR−rbsp7の形質転換体を作製した。
【0052】
実施例7
実施例1から実施例6で作製した各形質転換体を用いて、rhFcγRIを発現させ、その量を評価した。
(1)実施例1で作製したpETMalEFcR−p7形質転換体、実施例2で作製したpETMalEFcR−rbs形質転換体、実施例3で作製したpETMalEFcR−m4形質転換体、実施例4で作製したpETMalEFcR−p4形質転換体、実施例5で作製したpETMalEFcR−p10形質転換体、および実施例6で作製したpETMalEFcR−rbsp7形質転換体、それぞれに対して、下記の方法により各形質転換体の培養および発現の誘導を行なった。
(1−1)各形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に接種し、37℃で一晩振とう培養し、前培養液とした。
(1−2)新たに50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に、前培養液を接種し37℃で振とう培養した。
(1−3)培養液の濁度(OD600)の値が約0.5になったところで、培養温度を20℃にして30分培養後、IPTGを終濃度0.01mMとなるように培養液に添加することで発現の誘導を行ない、引き続き20℃で22時間振とう培養した。
(1−4)培養後、遠心操作により得られた各形質転換体の菌体から、BugBuster protein extraction Kit(Novagen社製)を用いて可溶性タンパク質抽出液を調製した。
(2)可溶性タンパク質抽出液中のrhFcγRIのタンパク質量を下記に示すELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)法により評価した。
(2−1)96穴マイクロプレートのウェルに、抗体であるガンマグロブリン(化学及血清療法研究所製)を濃度1μg/wellで固定し(4℃、18時間)、StartingBlock Blocking Buffers(PIERCE社製)によりブロッキングした。
(2−2)ブロッキング後、(1−4)で調製した可溶性タンパク質抽出液を段階希釈し、ELISA反応に供した(30℃、2時間)。
(2−3)続いて0.2%(w/v)のTween 20と150mMのNaClを含むTris−HCl緩衝液(pH8.0)で洗浄後、Horseradish Peroxidase 抗His−Tag抗体試薬(BETHYL社製)を添加し、30℃で2時間反応した。
(2−4)反応後、(2−3)で使用した緩衝液で洗浄を行ない、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し、450nmの吸光度を測定した。
(2−5)既知濃度のrhFcγRI市販品(Recombinant Human FcγRI/CD64;R&D systems社製)を基準とし、測定吸光度から可溶性タンパク質抽出液中のrhFcγRIのタンパク質濃度を算出することで、培養液あたりのrhFcγRIの発現量を算出した。
【0053】
n=4で測定を行なった結果、各形質転換体による培養液あたりのrhFcγRIの発現量は、多い順に、pETMalEFcR−p10形質転換体(実施例5/配列番号5:823±158μg/L)、pETMalEFcR−rbsp7形質転換体(実施例6/配列番号6:700±89μg/L)、pETMalEFcR−rbs形質転換体(実施例2/配列番号1:539±50μg/L)、pETMalEFcR−m4形質転換体(実施例3/配列番号2:490±65μg/L)、pETMalEFcR−p7形質転換体(実施例1/配列番号4:466±23μg/L)、pETMalEFcR−p4形質転換体(実施例4/配列番号3:410±84μg/L)、であった。実施例1から実施例6で作製した形質転換体のうち、実施例5で作製したpETMalEFcR−p10形質転換体が、特に効率よくrhFcγRIを発現できることがわかる。
【0054】
比較例1
実施例1で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号26に記載の塩基配列からなるプラスミドベクターpET−26b(+)由来の既存のオリゴヌクレオチド(5’−CTTTAAGAAGGAGATATACAT−3’)に置換した構造である、プラスミドベクターpETMalEFcR、および前記ベクターにより得られる形質転換体を、下記の方法により作製した。
(1)実施例1で作製した組換えプラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化することで、配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を作製した。なお、配列番号20に記載のアミノ酸配列のうち、1番目のメチオニンから26番目までのアラニンまでがMalEシグナルペプチド(配列番号8)に相当し、34番目のグルタミンから307番目のバリンまでがrhFcγRI(配列番号76に記載のアミノ酸配列のうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでの領域)に相当し、308番目から313番目のヒスチジンがポリヒスチジンタグに相当する。
(2)(1)で作製した断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化したpET−26b(+)プラスミドベクターにライゲーションすることで、プラスミドベクターpETMalEFcRを作製した。
(3)プラスミドベクターpETMalEFcRを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalEFcR形質転換体を作製した。
(4)pETMalEFcR形質転換体を用いて、実施例7と同様の方法で、rhFcγRIの発現および発現量の評価を行なった。
【0055】
n=4で測定を行なった結果、pETMalEFcR形質転換体による培養液あたりのrhFcγRI発現量は293±10μg/Lであり、前記発現量は、実施例1から実施例6で作製した、本発明のベクターを用いて得られた形質転換体によるrhFcγRIの発現量に比べて少なかった。すなわち、rhFcγRIを発現可能な形質転換体において、配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプラスミドベクターで形質転換して得られた形質転換体(実施例1から実施例6で作製した形質転換体)は、配列番号1から6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含まないプラスミドベクター(pETMalEFcR)で形質転換して得られた形質転換体(本比較例で作製した形質転換体)と比較し、より高効率にrhFcγRIを発現させることができることがわかる。
【0056】
実施例8
配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドとして、PelBシグナルペプチド(配列番号7)を選択し、下記に示す二段階PCRにより、前記シグナルペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを作製した。
(1−1)一段階目のPCRを、表1の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を5サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。なお、オリゴヌクレオチドとして、配列番号27(5’−TATACATATGAAATACCTATTGCCTACGGCAGCCGCT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号28(5’−ATTGTTATTACTCGCTGCCCAACCAGCGATGGCC−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号29(5’−GCAGCGAGTAATAACAATCCAGCGGCTGCCGTAGGCA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および配列番号30(5’−TTTGGTGGTATCTACTTGGGCCATCGCTGGT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
(1−2)二段階目のPCRを、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することで行ない、PelBシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製した。なお、鋳型としては一段階目のPCR産物を用い、PCRプライマーとしては配列番号27に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号30に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
(2)鋳型として実施例1で作製したプラスミドベクターpECFcR(図2)を、PCRプライマーとして配列番号31(5’−CAAGTAGATACCACCAAAGCTGTGATTACGCTGCAACCACCGT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号18に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用い、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却するPCRを行なうことで、C末端側にポリヒスチジンタグを付加したrhFcγRIをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(3)(2)で作製したC末端側にポリヒスチジンタグを付加したrhFcγRIをコードするポリヌクレオチドと、(1)で作製したPelBシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとを下記に示す二段階PCRで連結した。
(3−1)一段階目のPCRを、前記二つのポリヌクレオチドを用いて、表3の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を5サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。
【0057】
【表3】

【0058】
(3−2)二段階目のPCRを、鋳型として一段階目のPCR産物を、PCRプライマーとして配列番号27に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号18に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。
この二段階PCRにより、PelBシグナルペプチド、rhFcγRIおよびポリヒスチジンタグからなる一連のポリペプチド(配列番号33)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド(配列番号32)を作製した。なお、配列番号33に記載のアミノ酸配列のうち、1番目のメチオニンから22番目までのアラニンまでがPelBシグナルペプチド(配列番号7)に相当し、23番目のグルタミンから296番目のバリンまでがrhFcγRI(配列番号76に記載のアミノ酸配列のうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでの領域)に相当し、297番目から302番目までのヒスチジンがポリヒスチジンタグに相当する。
(4)(3)で作製した配列番号32に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例1で作製したプラスミドベクターpETMalE−p7(図2)にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETPelBFcR−p7を作製した。プラスミドベクターpETPelBFcR−p7には、5’末端側から、配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、PelBシグナルペプチド(配列番号7)をコードするオリゴヌクレオチド、rhFcγRIをコードするポリヌクレオチド、ポリヒスチジンタグをコードするオリゴヌクレオチドの順に配置されている。
(5)プラスミドベクターpETPelBFcR−p7を用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換することで、pETPelBFcR−p7形質転換体を作製した。
【0059】
pETPelBFcR−p7形質転換体を用いて、実施例7と同様の方法により活性型rhFcγRIを発現させ、その発現量を評価した。n=3で測定を行なった結果、pETPelBFcR−p7形質転換体による培養液あたりの活性型rhFcγRIの発現量は292±36μg/Lであった。
【0060】
比較例2
実施例8で作製したプラスミドベクターpETPelBFcR−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号26に記載の塩基配列からなるプラスミドベクターpET−26b(+)由来の既存のオリゴヌクレオチド(5’−CTTTAAGAAGGAGATATACAT−3’)に置換した構造である、プラスミドベクターpETPelBFcR、および前記ベクターにより得られる形質転換体を、下記の方法により作製した。
(1)実施例8で作製した、配列番号32に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化したpET−26b(+)プラスミドベクターにライゲーションすることで、プラスミドベクターpETPelBFcRを作製した。
(2)プラスミドベクターpETPelBFcRを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETPelBFcR形質転換体を作製した。
このpETPelBFcRの形質転換体を用いて、実施例7と同様の方法によりrhFcγRIを発現させ、その発現量を評価した。n=3で測定を行なった結果、pETPelBFcR形質転換体による培養液あたりのrhFcγRIの発現量は48±3μg/Lであり、前記発現量は、実施例8で作製した、本発明のベクターを用いて得られた形質転換体によるrhFcγRIの発現量に比べて少なかった。すなわち、rhFcγRIを発現可能な形質転換体において、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプラスミドベクター(pETPelBFcR−p7)で形質転換して得られた形質転換体(実施例8で作製した形質転換体)は、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含まないプラスミドベクター(pETPelBFcR)で形質転換して得られた形質転換体(本比較例で作製した形質転換体)と比較し、より高効率にrhFcγRIを発現させることができることがわかる。
【0061】
実施例9
配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトFc結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドとして、TorTシグナルペプチド(配列番号9)を選択し、以下に示す二段階PCRにより、TorTシグナルペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを作製した。
(1−1)一段階目のPCRを、表1の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を5サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。なお、オリゴヌクレオチドとして、配列番号34(5’−TATACATATGCGCGTACTGCTATTTTTAC−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号35(5’−TTCTTTCCCTTTTCATGTTGCCGGCATTTTCG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号36(5’−TGAAAAGGGAAAGAAGTAAAAATAGCAGTACG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および配列番号37(5’−TTTGGTGGTATCTACTTGCGAAAATGCCGGCAACA−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
(1−2)二段階目のPCRを、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することで行ない、TorTシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製した。なお、鋳型としては一段階目のPCR産物を用い、PCRプライマーとしては配列番号34に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号37に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。
(2)TorTシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、実施例8で作製したC末端にポリヒスチジンタグを付加したrhFcγRIをコードするポリヌクレオチドを下記に示す二段階PCRで連結した。
(3−1)一段階目のPCRを、前記二つのポリヌクレオチドを用いて、表3の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を5サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。
(3−2)二段階目のPCRを、鋳型として一段階目のPCR産物を、PCRプライマーとして配列番号34に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号18に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応液組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することで行なった。
この二段階PCRにより、TorTシグナルペプチド、rhFcγRIおよびHisタグペプチドからなる一連のポリペプチド(配列番号39)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド(配列番号38)を作製した。なお、配列番号39に記載のアミノ酸配列のうち、1番目のメチオニンから18番目までのセリンまでがTorTシグナルペプチド(配列番号9)に相当し、19番目のグルタミンから292番目のバリンまでがrhFcγRI(配列番号76に記載のアミノ酸配列のうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでの領域)に相当し、293番目から298番目までのヒスチジンがポリヒスチジンタグに相当する。
(4)(3)で作製した配列番号38に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例1で作製したプラスミドベクターpETMalE−p7(図2)にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETTorTFcR−p7を作製した。プラスミドベクターpETTorTFcR−p7には、5’末端側から、配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、TorTシグナルペプチド(配列番号9)をコードするオリゴヌクレオチド、rhFcγRIをコードするポリヌクレオチド、Hisタグペプチドをコードするオリゴヌクレオチドの順に配置されている。
(5)組換えプラスミドベクターpETTorTFcR−p7を用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、pETTorTFcR−p7形質転換体を作製した。
(6)pETTorTFcR−p7形質転換体を用いて、実施例7と同様の方法によりrhFcγRIを発現させ、その発現量を評価した。n=3で測定を行なった結果、pETTorTFcR−p7の形質転換体による培養液あたりのrhFcγRIの発現量は320±61μg/Lであった。
【0062】
比較例3
実施例9で作製したプラスミドベクターpETTorTFcR−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号26に記載の塩基配列からなるプラスミドベクターpET−26b(+)由来の既存のオリゴヌクレオチド(5’−CTTTAAGAAGGAGATATACAT−3’)に置換した構造である、プラスミドベクターpETTorTFcR、および前記ベクターにより得られる形質転換体を、下記の方法により作製した。
(6)実施例9で作製した配列番号38に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを、制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化したpET−26b(+)プラスミドベクターにライゲーションすることで、プラスミドベクターpETTorTFcRを作製した。
(7)プラスミドベクターpETTorTFcRを用いて、大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、pETTorTFcR形質転換体を作製した。
pETTorTFcR形質転換体を用いて、実施例7と同様の方法によりrhFcγRIを発現させ、その発現量を評価した。n=3で測定を行なった結果、pETTorTFcR形質転換体による培養液あたりの活性型rhFcγRIの発現量は13±1μg/Lであった。前記発現量は、実施例9で作製した、本発明のベクターを用いて得られた形質転換体によるrhFcγRIの発現量に比べて少なかった。すなわち、rhFcγRIを発現可能な形質転換体において、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプラスミドベクター(pETTorTFcR−p7)で形質転換して得られた形質転換体(実施例9で作製した形質転換体)は、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含まないプラスミドベクター(pETTorTFcR)で形質転換して得られた形質転換体(本比較例で作製した形質転換体)と比較し、より高効率にrhFcγRIを発現させることができることがわかる。
【0063】
参考例
本例は、単に、配列番号1から6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの、大腸菌を宿主としたときの翻訳効率の高さを評価したものであり、本発明を構成するものではない。
【0064】
配列番号1から6および26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをヒト由来タンパク質以外タンパク質をコードするポリヌクレオチドの5’末端側に隣接させることによる、前記ポリヌクレオチドの発現の翻訳効率への影響を評価した。本例ではポリヌクレオチドとして、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein、GFP)遺伝子を用いた。GFPは大腸菌宿主の細胞質内で活性型として良好に発現することが知られている。
(1)DNAworks法(Nucleic Acids Res.,30,e43,2002:非特許文献2)により大腸菌型コドンからなるGFPをコードするポリヌクレオチド(GFP遺伝子)を設計した。
(2)(1)で設計したGFP遺伝子を作製するために、配列番号40から73に記載の配列からなる、合計34種類のオリゴヌクレオチドを合成した。
(3)(2)で合成したオリゴヌクレオチドから、下記に示す二段階PCRにより、GFP遺伝子を含むポリヌクレオチドを作製した。
(3−1)一段階目のPCRを、表4の反応液組成のもと、94℃で5分間の熱処理、引き続き94℃で30秒間の第一ステップ、65℃で30秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を25サイクル行ない、72℃で7分間保持後、4℃に冷却することで行なった。なお、表4に記載のDNAミックスは、配列番号40から73に記載の配列からなる各合成オリゴヌクレオチド(計34種類)の溶液(濃度:50pmol/μL)をそれぞれ一定量採取し、混合した溶液を指す。
【0065】
【表4】

【0066】
(3−2)第二段階目のPCRを、表5の反応液組成のもと、94℃で5分間の熱処理、引き続き94℃で30秒間の第一ステップ、60℃で30秒間の第二ステップ、72℃で1分間の第三ステップを1サイクルとした反応を25サイクル行ない、72℃で7分間保持後、4℃に冷却することで行なった。なお、鋳型としては一段階目のPCR反応液を用い、PCRプライマーとしては配列番号40(5’−GCTCATATGAGCAAGGGCGAAGAGCTGTTCACCGGCG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号73(5’−GAAAAGCTTTTCCAGACCCGCCTTATACAGTTCATCCATGCC−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。この二段階PCRにより、GFP遺伝子を含むポリヌクレオチドを作製した。
【0067】
【表5】

【0068】
(4)配列番号1から6および26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのうちのいずれかと、GFP遺伝子とを含むプラスミドベクター、および前記ベクターによる形質転換体の作製を以下の方法により行なった。
(4−1)(3)で作製したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチドを、制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例1で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−p7(図2)にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFP−p7を作製した。プラスミドベクターpETGFP−p7の概要とその作製工程を図3に示す。
(4−2)組換えプラスミドベクターpETGFP−p7を用いて、大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、pETGFP−p7形質転換体を作製した。プラスミドベクターpETGFP−p7(図3)には、C末端側にポリヒスチジンタグが付加されたGFP遺伝子(配列番号75)が含まれ、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの3’末端に前記GFP遺伝子が連続するよう配置した。プラスミドベクターpETGFP−p7中の、制限酵素BglII認識サイトからBpu1102I認識サイトまでの塩基配列を配列番号74に示す。配列番号74に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドには、C末端側にHisタグペプチドが付加されたGFP遺伝子(配列番号75)と、その5’末端側に配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、が含まれている。
(4−3)前述したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号74)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例2で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−rbsにライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFP−rbsを作製した。プラスミドベクターpETGFP−rbsは、pETGFP−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。その後、プラスミドベクターpETGFP−rbsを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETGFP−rbs形質転換体を作製した。
(4−4)前述したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号74)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例3で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−m4にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFP−m4を作製した。プラスミドベクターpETGFP−m4は、pETGFP−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。その後、プラスミドベクターpETGFP−m4を用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETGFP−m4形質転換体を作製した。
(4−5)前述したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号74)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例4で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−p4にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFP−p4を作製した。プラスミドベクターpETGFP−p4は、pETGFP−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。その後、プラスミドベクターpETGFP−p4を用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETGFP−p4形質転換体を作製した。
(4−6)前述したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号74)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例5で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−p10にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFP−p10を作製した。プラスミドベクターpETGFP−p10は、pETGFP−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。その後、プラスミドベクターpETGFP−p10を用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETGFP−p10形質転換体を作製した。
(4−7)前述したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号74)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した実施例6で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−rbsp7にライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFP−rbsp7を作製した。プラスミドベクターpETGFP−rbsp7は、pETGFP−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。その後、プラスミドベクターpETGFP−rbsp7を用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETGFP−rbsp7形質転換体を作製した。
(4−8)前述したGFP遺伝子を含むポリヌクレオチド(配列番号74)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した比較例1で作製したプラスミドベクターpETMalEFcRにライゲーションすることで、プラスミドベクターpETGFPを作製した。プラスミドベクターpETGFPは、pETGFP−p7に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。その後、プラスミドベクターpETGFPを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETGFP形質転換体を作製した。
(5)配列番号1から6および26に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドが、3’末端に隣接するGFP遺伝子の発現の翻訳効率に与える影響を評価した。図4には該翻訳効率の評価方法の概略図を示す。GFP発現量が翻訳効率を反映するように、転写効率はpETシステム(Novagen社製)を利用し、培養液へのIPTGの添加量により制御した。発現されるGFPのタンパク量と蛍光強度には相関があることから(Scholz,O.ら,Eur.J.Biochem.,267,1565−1570,2000、非特許文献3)、GFPの蛍光強度によりGFPの発現量(翻訳効率)を評価した。
(5−1)作製したpETGFP形質転換体、pETGFP−rbs形質転換体、pETGFP−m4形質転換体、pETGFP−p4形質転換体、pETGFP−p7形質転換体、pETGFP−p10形質転換体、およびpETGFP−rbsp7形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に接種し、37℃で一晩振とう培養することで前培養液を得た。
(5−2)96穴ディープウェルプレートの各ウェルに、50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地800μLを入れ、各形質転換体の前培養液を20μL接種した。これをBioshaker M・BR−022UP(TAITEC社製)を用いて、37℃で1.5時間、1000rpmで振とう培養した。
(5−3)培養開始から1.5時間後に温度を20℃に変えて、1000rpmで30分間振とう培養後、IPTGを添加して発現の誘導を行なった。IPTGの添加は、培養液の終濃度で0.01mM、0.05mMまたは0.1mMとなるように、IPTG濃縮液(50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に溶解)を各80μLずつ添加することで行なった。
(5−4)IPTG添加後、20℃、1000rpmでさらに22時間、振とう培養した。なお、ブランク試験として、IPTG濃縮液の代わりに50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地80μLを添加して、20℃、1000rpmでさらに22時間、振とう培養する試験を行なっている。
(5−5)誘導開始から22時間後に各条件の培養液を採取し、0.85%のNaCl溶液で3倍希釈後、96穴プレートに1ウェルあたり100μL入れ、蛍光マイクロプレートリーダー(InfiniteM200,TECAN社製)を用いて、培養液の濁度(OD600)と培養液のGFP蛍光強度(励起波長:488nm、蛍光波長:530nm)をn=3で測定した。
【0069】
誘導開始から22時間後の培養液濁度あたりのGFP蛍光強度を図5に示す。図5に示すように、終濃度0.01mM、0.05mM、0.1mM、いずれのIPTG濃度で誘導させても、pETGFP形質転換体が培養液濁度あたりのGFP蛍光強度が強く、続いてpETGFP−p4形質転換体、pETGFP−m4形質転換体、pETGFP−p7形質転換体、pETGFP−p10形質転換体、pETGFP−rbs形質転換体、pETGFP−rbsp7形質転換体の順に、培養液濁度あたりのGFP蛍光強度が強い傾向が認められた。
【0070】
図5の結果から、pET−26b(+)プラスミドベクター由来の既存の塩基配列(配列番号26)のポリヌクレオチドが、その3’末端に隣接するGFP遺伝子の発現の翻訳効率を高く制御する一方、配列番号1から6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、配列番号26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに比べ、いずれもGFP遺伝子の発現の翻訳効率が低いことがわかる。なお翻訳効率の高さは、高い順に、配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号1、配列番号5、配列番号6であった。
【0071】
実施例10
配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)C末端側にポリヒスチジンタグを付加したヒトエリスロポエチン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドの合成を以下に示す二段階PCRによって行なった。
(1−1)一段階目のPCRを、鋳型としてEPOR cDNA(Human)(OriGene Technologies社製、カタログ番号:SC125440)を、PCRプライマーとして配列番号78(5’−CAGGATCCCCCGGGAGAGCTCCGCCGCCTAACCTC−3’)に記載の制限酵素SacI認識配列を配した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号79(5’−TTATCTAGATTAATGATGATGATGATGATGGTCCAGGTCGCTAGG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で44秒間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった。このPCR産物をEPOR1とした。
(1−2)二段階目のPCRを、鋳型としてEPOR1を、PCRプライマーとして配列番号78に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号80(5’−TTATCTAGACCTAGGTTAATGATGATGATGATGATG−3’)に記載の制限酵素XbaI認識配列を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成のもと、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で44秒間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった。このPCR産物をEPOR2とした。
(2)EPOR2を、制限酵素SacIとXbaIで消化後、制限酵素SacIとXbaIで消化したプラスミドベクターpUC19(GenBank No.L09137)にライゲーションし、それを用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を培養後、定法に従って、C末端側にポリヒスチジンタグを付加したヒトエリスロポエチン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターpUC−EPORを調製した。プラスミドベクターpUC−EPORの概要とその作製工程を図6に示す。
(4)鋳型としてプラスミドベクターpUC−EPOR(図6)を、PCRプライマーとして配列番号81(5’−CGGTCATGAAAGCTCCGCCGCCTAACCTTCCGGAC−3’)に記載の制限酵素BspHI認識配列を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号82(5’−GAGCGGATAACAATTTCACACAGG−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成に従い、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で44秒間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった後、4℃に冷却することでPCRを行なった。このPCR産物をEPOR3とした。
(5)EPOR3を、制限酵素BspHI(消化後に制限酵素NcoI消化断片と結合可能な突出末端を形成)とHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した実施例1に記載のプラスミドベクターpETMalE−p7(図1)にライゲーションし、それを用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
(6)得られた形質転換体を培養後、定法に従いプラスミドベクターpETMalE−p7−Eを調製した。プラスミドベクターpETMalE−p7−Eの概要とその作製工程を図7に示した。
(7)鋳型としてプラスミドベクターpUC−EPOR(図6)を、PCRプライマーとして配列番号83(5’−TCCGCTAGCGCTCTCGCCGCTCCGCCGCCTAACCT−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号82に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成に従い、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で44秒間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった。このPCR産物をEPOR4とした。
(8)鋳型として実施例1に記載のプラスミドベクターpETMalE−p7(図1)を、PCRプライマーとして配列番号84(5’−CCCTCTAGAAATAATTTTGTTTAAC−3’)に記載の制限酵素XbaI認識配列を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号85(5’−GGCGAGAGCGCTAGCGGAAAACATCATC−3’)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成に従い、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で44秒間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった。このPCR産物をPCRMalEとした。
(9)PCRを用いて、PCRMalEとEPOR4の連結を行なった。鋳型としてEPOR4およびPCRMalEの混合液を、PCRプライマーとして配列番号84に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号82に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いて、表2の反応組成に従い、98℃で10秒間の第一ステップ、55℃で5秒間の第二ステップ、72℃で44秒間の第三ステップを1サイクルとした反応を30サイクル行なった。このPCR産物をPCRMalE−EPORとした。
(10)PCRMalE−EPORを制限酵素XbaIで消化後、制限酵素XbaIで消化しアルカリホスファターゼで脱リン酸化処理したプラスミドベクターpETMalE−p7−E(図7)にライゲーションし、配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクターであるプラスミドベクターpETMalE−p7−EPORを作製した。
(11)プラスミドベクターpETMalE−p7−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalE−p7−EPOR形質転換体を作製した。プラスミドベクターpETMalE−p7−EPORの概要とその作製工程を図8に示す。
【0072】
プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)には、5’末端側から、配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド、MalEシグナルペプチド(配列番号8)をコードするオリゴヌクレオチド、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするポリヌクレオチド、ポリヒスチジンタグをコードするオリゴヌクレオチドの順に配置されている。プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)のうち、制限酵素BglII認識サイトからHindIII認識サイトまでの塩基配列を、配列番号86に示す。なお、配列番号86に記載の塩基配列のうち、88番目から115番目までのヌクレオチドが配列番号4に相当し、116番目から193番目までのヌクレオチドがMalEシグナルペプチド(配列番号8)をコードするオリゴヌクレオチドに相当し、194番目から868番目までのヌクレオチドがヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドに相当し、869番目から886番目のヌクレオチドがポリヒスチジンタグをコードするオリゴヌクレオチドに相当する。配列番号87には配列番号86に記載の塩基配列のうち、116番目から886番目までのヌクレオチドからの翻訳により得られるポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0073】
実施例11
配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)実施例10で作製したpETMalE−p7−EPOR(図8)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した、実施例2で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−rbsにライゲーションし、プラスミドベクターpETMalE−rbs−EPORを作製した。プラスミドベクターpETMalE−rbs−EPORは、プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalE−rbs−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalE−rbs−EPOR形質転換体を作製した。
【0074】
実施例12
配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)実施例10で作製したpETMalE−p7−EPOR(図8)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した、実施例3で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−m4にライゲーションし、プラスミドベクターpETMalE−m4−EPORを作製した。プラスミドベクターpETMalE−m4−EPORは、プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalE−m4−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、pETMalE−m4−EPOR形質転換体を作製した。
【0075】
実施例13
配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)実施例10で作製したpETMalE−p7−EPOR(図8)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した、実施例4で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−p4にライゲーションし、プラスミドベクターpETMalE−p4−EPORを作製した。プラスミドベクターpETMalE−p4−EPORは、プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalE−p4−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalE−p4−EPOR形質転換体を作製した。
【0076】
実施例14
配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)実施例10で作製したpETMalE−p7−EPORを制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した、実施例5で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−p10にライゲーションし、プラスミドベクターpETMalE−p10−EPORを作製した。プラスミドベクターpETMalE−p10−EPORは、プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalE−p10−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalE−p10−EPOR形質転換体を作製した。
【0077】
実施例15
配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)実施例10で作製したpETMalE−p7−EPOR(図8)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化した、実施例6で作製したプラスミドベクターpETMalEFcR−rbsp7にライゲーションし、プラスミドベクターpETMalE−rbsp7−EPORを作製した。プラスミドベクターpETMalE−rbsp7−EPORは、プラスミドベクターpETMalE−p7−EPORに含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalE−rbsp7−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalE−rbsp7−EPOR形質転換体を作製した。
【0078】
比較例4
配列番号26に記載の塩基配列からなるプラスミドベクターpET−26b(+)由来の既存のオリゴヌクレオチド(5’−CTTTAAGAAGGAGATATACAT−3’)を含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクター、および前記ベクターにより得られる形質転換体を以下の方法で作製した。
(1)実施例10で作製したプラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)を制限酵素NdeIとHindIIIで消化後、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(配列番号77)をコードするオリゴヌクレオチドを含むポリヌクレオチド断片を、あらかじめ制限酵素NdeIとHindIIIで消化したpET−26b(+)プラスミドベクターにライゲーションし、プラスミドベクターpETMalE−EPORを作製した。プラスミドベクターpETMalE−EPORは、プラスミドベクターpETMalE−p7−EPOR(図8)に含まれる配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの部分を、配列番号26に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに置換した構造である。
(2)プラスミドベクターpETMalE−EPORを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETMalE−EPOR形質転換体を作製した。
【0079】
実施例16
実施例10から15および比較例4で作製した各形質転換体を用いて、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質を発現させ、その量を評価した。
(1)実施例10で作製したpETMalE−p7−EPOR形質転換体、実施例11で作製したpETMalE−rbs−EPOR形質転換体、実施例12で作製したpETMalE−m4−EPOR形質転換体、実施例13で作製したpETMalE−p4−EPOR形質転換体、実施例14で作製したpETMalE−p10−EPOR形質転換体、実施例15で作製したpETMalE−rbsp7−EPOR形質転換体、および比較例4で作製したpETMalE−EPOR形質転換体を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に接種し、37℃で一晩振とう培養し、前培養液とした。
(2)新たに50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に、(1)の培養液をそれぞれ接種し37℃で振とう培養した。
(3)培養液の濁度(OD600)の値が約0.5になったところで培養温度を37℃から20℃に変更し、さらに30分培養後、IPTGを終濃度0.01mMとなるように培養液に添加することでヒトエリスロポエチン結合性タンパク質の発現誘導を行ない、引き続き20℃で22時間振とう培養した。
(4)培養液を遠心操作することで得られた、各形質転換体の菌体から、BugBuster protein extraction Kit(Novagen社製)を用いて可溶性タンパク質抽出画分を調製した。
(5)可溶性タンパク質抽出画分中のヒトエリスロポエチン結合性タンパク質のタンパク質量を下記に示すELISA法により測定した。
(5−1)96穴マイクロプレートのウェルに、50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて希釈した抗エリスロポエチン受容体抗体(Monoclonal Anti−human Epo R Antibody)(R&D Systems社製、カタログ番号MAB3071)を濃度0.1μg/wellで固定し(4℃、18時間)、0.5%(w/v)のウシ血清アルブミン(BSA)を含むTBS緩衝液(20mMのTris−HCl、137mMのNaCl、2.68mMのKCl、pH7.5)によりブロッキングした。
(5−2)ブロッキング後、(4)で調製した可溶性タンパク質抽出画分を0.5%BSAを含むTBS緩衝液で段階希釈し、ELISA反応に供した(30℃、2時間)。
(5−3)0.2%(w/v)のTween 20と150mMのNaClを含むTris−HCl緩衝液(pH7.5)で洗浄後、Horseradish Peroxidase 抗His−Tag抗体試薬(BETHYL社製)を添加し、30℃で2時間反応させた。
(5−4)反応後、(5−3)で使用した緩衝液で洗浄を行ない、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し、450nmの吸光度を測定した。
(5−5)既知濃度のヒトエリスロポエチン結合性タンパク質(Recombinant Human EPO Receptor/EPOR)(Sino Biological社製、カタログ番号10707−H08H)を基準とし、測定吸光度から可溶性タンパク質抽出画分中のヒトエリスロポエチン結合性タンパク質のタンパク質濃度を算出することで、培養液あたりのヒトエリスロポエチン結合性タンパク質の発現量を算出した。
【0080】
各形質転換体による培養液あたりのヒトエリスロポエチン結合性タンパク質の発現量は、pETMalE−p10−EPOR形質転換体(実施例14/配列番号5:2.07±0.33mg/L)、pETMalE−p7−EPOR形質転換体(実施例10/配列番号4:1.22±0.09mg/L)、pETMalE−p4−EPOR形質転換体(実施例13/配列番号3:0.97±0.01mg/L)、pETMalE−rbsp7−EPOR形質転換体(実施例15/配列番号6:0.89±0.15mg/L)、pETMalE−rbs−EPOR形質転換体(実施例11/配列番号1:0.65±0.11mg/L)、pETMalE−m4−EPOR形質転換体(実施例12/配列番号2:0.32±0.01mg/L)、pETMalE−EPOR形質転換体(比較例4/配列番号26:0.17±0.01mg/L)であった。この結果から、プラスミドベクターpET−26b(+)由来の配列番号26に記載の塩基配列からなる既存のオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクターを用いるより、本発明の配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むヒトエリスロポエチン結合性タンパク質発現ベクターを用いる方が、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質を大量に調製できることが判明した。なお、実施例10から実施例15で作製した形質転換体のうち、実施例14で作製したpETMalE−p10−EPOR形質転換体が、特に効率よくヒトエリスロポエチン結合性タンパク質を発現できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドとを含む、ヒト由来タンパク質を発現させるためのベクター。
【請求項2】
ペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドが、配列番号7から9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
ヒト由来タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入した請求項1または2に記載のベクターを用いて宿主を形質転換して得られる、ヒト由来タンパク質を発現可能な形質転換体。
【請求項4】
宿主が大腸菌である、請求項3に記載の形質転換体。
【請求項5】
ヒト由来タンパク質がヒトFc結合性タンパク質である、請求項3または4に記載の形質転換体。
【請求項6】
ヒト由来タンパク質がヒトエリスロポエチン結合性タンパク質である、請求項3または4に記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項3または4に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ヒト由来タンパク質の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ヒトFc結合性タンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ヒトエリスロポエチン結合性タンパク質の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−147772(P2012−147772A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225714(P2011−225714)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】