組換えポックスウイルス−カリシウイルス[ウサギ出血疾患ウイルス(RHDV)]組成物および使用
【課題】RHDV等のカリシウイルス組換体ポックスウイルスおよびそれ由来の産物を提供する。
【解決手段】RHDV抗原、例えば、キャプシド遺伝子のようなカリシウイルス抗原をコード化するDNAを含有する弱毒化組換えウイルス、並びにウイルス、そこからの発現産生物、およびウイルスまたは発現産生物から産生された抗体を用いた方法および組成物。組換えウイルスは、NYVACまたはALVAC組換えウイルスであってもよい。組換えウイルスおよびそこからの遺伝子産生物並びにウイルスおよび遺伝子産生物により産生された抗体には、いくつかの予防、治療および診断の用途がある。ウイルスからのDNAは、プローブまたはプライマーに関して用いてもよい。
【解決手段】RHDV抗原、例えば、キャプシド遺伝子のようなカリシウイルス抗原をコード化するDNAを含有する弱毒化組換えウイルス、並びにウイルス、そこからの発現産生物、およびウイルスまたは発現産生物から産生された抗体を用いた方法および組成物。組換えウイルスは、NYVACまたはALVAC組換えウイルスであってもよい。組換えウイルスおよびそこからの遺伝子産生物並びにウイルスおよび遺伝子産生物により産生された抗体には、いくつかの予防、治療および診断の用途がある。ウイルスからのDNAは、プローブまたはプライマーに関して用いてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1991年3月7日に出願された出願番号07/666,056の一部継続出願である、1991年6月11日に出願された出願番号07/713,967の一部継続出願である、1992年3月6日に出願された出願番号07/847,951の継続出願である1993年8月13日に出願された出願番号08/105,483の一部継続出願であり、1993年3月24日に出願された出願番号08/036,217は、出願番号07/666,056の継続出願であり、米国特許第5,364,773号として1994年11月15日に発行された。上述した出願および特許の各々をここに引用する。
【0002】
本発明は、改変ポックスウイルスおよびその製造並びに使用方法;例えば、ワクシニアウイルスまたは鳥類ポックス(例えば、カナリア痘または鶏痘)、例えば、改変組換体ポックスウイルス−カリシウイルス、例えば、弱毒化組換体、特にNYVACまたはALVAC RHDV組換体のようなウサギ出血疾病ウイルス(RHDV)に関するものである。より詳しくは、本発明は、安全な免疫化媒体(vehicle)として使用するために異種遺伝子を挿入して発現させて、RHDVのようなカリシウイルスに対する免疫応答を誘発する改良ベクターに関するものである。したがって、本発明は、そのウイルスが、カリシウイルス、例えば、RHDVの遺伝子産生物を発現する組換えポックスウイルス、および宿主に投与されたとき、またはインビトロのカリシウイルス、例えばRHDV感染に対して免疫応答を誘発させる免疫組成物並びにそれら自体が例えば抗体の産生等の免疫応答を誘発するポックスウイルスの発現産物であって、それらがカリシウイルス、例えば、RHDV感染に対して、血清陽性または血清陰性の個体のいずれにおいても有用な抗体を育成させるのに有用なものであるか、または事情に応じて動物、ヒトまたは細胞培養物から単離された、それによって誘発される抗体または発現産生物が、ウイルスの、または感染細胞の、あるいは他の系統における抗原または産生物の発現の検出のための診断キット、試験または検定を準備するのに有用なポックスウイルスの発現産物に関するものである。単離された発現産生物は、系統、宿主、血清または試料中の抗体の検出、または抗体の産生のためのキット、試験または検定において特に有用である。
【0003】
いくつかの出版物がこの出願において参照されている。これらの参考文献については、請求の範囲の直前の明細書の終わりまたは出版物が述べられている箇所に完全に記載されている。これらの出版物の各々をここに参照文献として引用する。
【背景技術】
【0004】
ワクシニアウイルスおよびごく最近では他のポックスウイルスが、異種遺伝子の挿入および発現に用いられている。異種遺伝子を感染性生ポックスウイルス中に挿入する基本技術は、ドナープラスミド中の異種遺伝要素に隣接するポックスDNA配列と、レスキューポックスウイルス中に存在する相同性配列との間の組換えに関するものである(Piccini他, 1987)。
【0005】
特に、組換えポックスウイルスは、従来技術において知られており、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5に記載されているワクシニアウイルスおよび鳥類ポックスウイルスのようなポックスウイルスの合成組換体を形成する方法と同種の2段階で構築される。
【0006】
第1に、ウイルスに挿入されるべきDNA遺伝子配列、特に非ポックス給源由来のオープンリーディングフレームを、内に既にポックスウイルスのDNA部分に相同的なDNAが既に挿入されているE.コリプラスミド中に配置する。それとは別に、挿入されるべきDNAはプロモーターに連結させる。プロモーター−遺伝子連結物は、プラスミド構築物中に、プロモーター−遺伝子連結物が両端で、非必須座を含むポックスDNA領域中に隣接しているDNA配列に相同的なDNAに隣接しているように位置されている。その結果得られるプラスミド構築物を、続いてE.コリ細菌の増殖により増幅させ(Clewell,1972)、単離する(Clewell 他,1969;Maniatis 他,1982)。
【0007】
第2に、挿入されるべきDNA遺伝子を含む単離されたプラスミドは、例えばニワトリ繊維芽細胞等の細胞培養中に、ポックスウイルスとともに移入される。プラスミド中の相同ポックスDNAとウイルスゲノムそれぞれとの間の組換えは、そのゲノムの非必須領域中の、外来DNA配列の存在によって改変されたポックスウイルスを提供する。用語「外来」DNAとは、外因性DNA、特に非ポックス給源由来のDNAで、その外因性DNAが位置されているゲノムによっては本来生産されない遺伝子産物をコードしているものを意味する。
【0008】
遺伝的組換えは一般に、DNAの2つの鎖の間での相同性部分の交換である。ある種のウイルスにおいては、RNAがDNAと置き換わっていることもあり得る。核酸の相同性部分とは、ヌクレオチド塩基の同じ配列を有する核酸部分(DNAまたはRNA)である。
【0009】
遺伝的組換えは、複製即ち感染された宿主細胞内部での新しいウイルスゲノムの製造の間に自然に生じ得る。このように、ウイルス遺伝子の間の遺伝的組換えが、2またはより多くの異なったウイルスまたはその他の遺伝的構築物で共感染させた宿主細胞中で行われるウイルス複製サイクルの間に起こり得る。第1のゲノム由来のDNA部分は互いに交換可能に、DNAが第1のウイルスゲノムに相同である第2の共感染ウイルスのゲノム部分構築において利用される。
【0010】
しかしながら、組換えはまた、完全に相同ではない異なったゲノム中のDNA部分の間でも生じ得る。あるそのような部分が、第1の部分内部の存在、例えば相同性DNAの部分に挿入された遺伝子マーカーまたは抗原決定基をコードしている遺伝子等を除いて、別のゲノム部分と相同である第1のゲノム由来である場合、組換えは依然起こり得、そしてその組換え産物は、組換えウイルスゲノム中のその遺伝的マーカーまたは遺伝子の存在により検出可能である。組換えワクシニアウイルスの産生のための付加的な戦略が近年報告された。
【0011】
改変された感染可能ウイルスによる挿入されたDNA遺伝的配列の成功した発現には、2つの状況が必要である。第1は、改変ウイルスが生育可能なままであるように、挿入はウイルスの非必須領域中でなければならない。挿入されたDNAの発現のための第2の条件は、挿入されたDNAと適切な関係にあるプロモーターの存在である。プロモーターは、それが発現されるべきDNA配列の上流に位置するように配置されなければならない。
【0012】
ワクシニアウイルスは、天然痘に対する免疫化のために成功して用いられてきており、1980年には天然痘の全世界での撲滅を成し遂げた。その歴史において、多くのワクシニア株が生成されている。これらの異なった株は多様な免疫原性を示し、潜在的な複雑化のさまざまな度合いと関連づけられており、その最も深刻なものはワクチン後の脳炎と汎発性種痘疹である(Behbehani,1983)。
【0013】
天然痘の撲滅と共に、ワクシニアの新しい役割、外来遺伝子の発現のための遺伝的に操作されたベクターの役割が重要となった。数多くの異種抗原をコードしている遺伝子がワクシニア中で発現され、しばしば対応する病原体の投与に対して防御的な免疫という結果となっている(Tartaglia 他,1990aにおいて概説)。
【0014】
ワクシニアベクターの遺伝的背景が、発現された外来免疫原の防御的効率に影響することが示されている。例えば、エプスタイン−バーウイルス(EBV)gp340のワクシニアウイルスWyethワクチン株においての発現では、コットントップ タマリン(cottontop tamarins)をEBVウイルス誘導リンパ腫に対して防御しなかったが、一方で同じ遺伝子のワクシニアウイルスWR実験室株においての発現では防御的であった(Morgan 他,1988)。
【0015】
ワクシニアウイルスベースの組換えワクチン候補の、効率と安全性との微妙なバランスは非常に重要である。組換えウイルスは、ワクチン接種された動物において防御的免疫反応を誘導するような様式で免疫原を提示しなければならないが、何れの重大な病原性特性をも有してはならない。故にベクター株の弱毒化は、現在の技術の段階を超えた進歩が大いに望まれている。
【0016】
数多くのワクシニア遺伝子で、組織培養におけるウイルスの増殖に非必須でありその欠失または不活性化が多様な動物系での毒性を減少させるものが同定されてきた。
【0017】
ワクシニアウイルスのチミジンキナーゼ(TK)をコードする遺伝子についてはマッピングが行われ(Hruby 他、1982)、また、配列決定も行われている(Hruby 他、1983;Wier他、1983)。チミジキナーゼ遺伝子が不活化または完全欠失しても、広範な組織培養中でワクシニアウイルスの増殖は妨げられない。また、TK− ワクシニアウイルスは各種の投与法により各種の宿主における接種部位においてインビボ複製する能力を有する。
【0018】
単純ヘルペスウイルス2型については、TK− ウイルスをモルモットに膣内投与すると、TK+ ウイルスの投与の場合よりも脊髄中のウイルス力価がかなり低くなることが示された(Stanberry 他、1985)。ヘルペスウイルスではインビトロでのTK活性は、代謝の活発な細胞中ではウイルスの増殖に重要でないが、静止細胞中ではウイルス増殖に必須であることが示された(Jamieson他、1974)。 マウスに脳内投与および腹膜内投与することによりTK− ワクシニアが弱毒化されることが示された(Buller他、1985)。神経毒性のあるWR実験室株およびWyeth ワクチン株の双方について弱毒化が認められた。皮内投与されたマウスにおいては、TK− 組換えワクシニアが、親株のTK+ ワクシニアウイルスと同等の抗ワクシニア中和抗体を産生したが、これは、この試験系では、TK機能の喪失がワクシニアウイルスベクターの免疫原性を有意に減少させないことを示唆している。TK− およびTK+ の組換えワクシニアウイルス(WR株)をマウスに鼻内接種すると、他の部位(脳を含む)へのウイルスの伝播が顕著に減少したことが見出された(Taylor他、1991a)。
【0019】
ヌクレオチドの代謝に関連する別の酵素は、リボヌクレオチドレダクターゼである。単純ヘルペスウイルス(HSV)内でコードされているリボヌクレオチドレダクターゼの活性が、そのラージサブユニットをコードしている遺伝子を欠失させることにより喪失しても、インビトロの分裂細胞中でのウイルス増殖やDNA合成は影響されないが、無血清細胞でのウイルスの増殖能力は極めて損なわれることが示された(Goldstein 他、1988)。眼部の急性HSV感染および三叉神経ガングリオンにおける再活性性潜伏感染に関するマウスモデルを用いた場合、リボヌクレオチドレダクターゼのラージサブユニットを欠失したHSVについては、野生型HSVに比べて毒性が減少することが示された(Jacobson他、1989)。
【0020】
ワクシニアウイルスにおいては、リボヌクレオチドレダクターゼのスモールサブユニット(Slabaugh他、1988)およびラージサブユニット(Schmidtt他、1988)のいずれも同定されている。ワクシニアウイルスのWR株において、挿入によりリボヌクレオチドレダクターゼを不活化すると、マウスの頭蓋内接種により測定され得るようなウイルスの弱毒化がもたらされる(Child 他、1990)。
【0021】
ワクシニアウイルスの血球凝集素(HA)遺伝子についてはマッピングおよび配列決定が行われている(Shida 、1986)。ワクシニアウイルスのHA遺伝子は、組織培養中の増殖にとって非必須なものである(Ichihashi 他、1971)。ワクシニアウイルスのHA遺伝子を不活化すると、頭蓋内投与されたウサギにおいては神経毒性化が減少し、また、皮膚内投与部位におけるウサギの外傷は小さくなっていた(Shida 他、1988)。HAの遺伝子座を利用して、ワクシニアウイルスのWR株(Shida 他、1987)、Lister株の誘導体(Shida 他、1988)およびCopenhagen株(Guo 他、1989)に外来遺伝子を挿入している。外来遺伝子を発現する組換えHA− ワクシニアウイルスは、免疫原性があり(Guo 他、1989;Itamura 他、1990;Shida 他、1988;Shida 他、1987)、また、関連する病原体による免疫性テストに対して防御効果を有する(Guo 他、1989;Shida 他、1987)ことが示された。
【0022】
牛痘ウイルス(Brighton赤色株)は、鶏卵の漿尿膜上に赤色(出血性)痘瘡を生じさせる。牛痘ゲノム内で自然欠失すると白色痘瘡を生じる変異体となる(Pichup他、1984)。出血性機能(u)は、初期遺伝子によってコードされた38kDaのタンパク質によることがマッピングされている(Pickup他、1986)。この遺伝子は、セリンプロテアーゼインヒビターと相同性を有し、牛痘ウイルスに対する宿主の炎症応答を阻害し(Palumbo 他、1989)、また、血液凝固のインヒビターである。
【0023】
このu遺伝子は、ワクシニアウイルスのWR株中に存在する(Kotwal他、1989b)。外来遺伝子を挿入することによりu領域が不活化されているWRワクシニアウイルス組換体が接種されたマウスは、u遺伝子がインタクトのままである類似の組換えワクシニアウイルスが接種されたマウスよりも、該外来遺伝子に対して高い抗体レベルを産生する(Zhou他、1990)。このu領域は、ワクシニアウイルスのCopenhagen株内で欠陥性非機能形態として存在する(Goeberu 他による報告(1990a,b)においてB13およびB14と称されているオープンリーディングフレーム)。
【0024】
感染細胞内において牛痘ウイルスは、細胞質A型封入体(ATI)において局在化している(Kato他、1959)。ATIの機能は、動物から動物への伝播に際して牛痘ウイルス粒子を防御することにあると考えられている(Bergoin 他、1971)。牛痘ゲノムのATI領域は160 kDaのタンパク質をコードしており、これがATI封入体のマトリックスを形成する(Funahashi 他、1988;Patel 他、1987)。ワクシニアウイルスは、そのゲノムに相同領域を含有するが、一般にATIを産生しない。ワクシニアのWR株においては、ゲノムのATI領域は94kDaのタンパク質として翻訳される(Patel 他、1988)。ワクシニアウイルスのCopenhagen株においてはATI領域に相応するDNA配列の大部分は欠失されており、該領域の残存する3′末端はATI領域の上流にある配列と融合して、オープンリーディングフレーム(ORF)A26Lを形成する(Goebel他、1990a,b)。
【0025】
ワクシニアウイルスの左末端近傍については、各種の自然欠失(Altenburger 他、1989;Drillien他、1981;Lai 他、1989;Moss他、1981;Paez他、1985;Panicali他、1981)や人為的欠失(Perkus 他,1991;Perkus 他,1989;Perkus 他,1986)が報告されている。10kbが自然欠失したワクシニアウイルスのWR株(Moss他、1981;Panicali他、1981)は、マウスに頭蓋内接種することにより弱毒化されることが示された(Buller他、1985)。後に、この欠失部は17ヶのORFを含む可能性が示された(Kotwal他、1988b)。該欠失部内にある特定の遺伝子としては、ビロカインN1Lおよび35kDaタンパク質(Goebel他による1990a,b の報告でC3Lと称されたもの)が挙げられる。N1Lを挿入不活化すると、通常のマウスおよびヌードマウスのいずれについても、頭蓋内接種により毒性が減少する(Kotwa 他、1989a)。上記の35kDaタンパク質は、ワクシニアウイルス感染細胞の培地にN1Lと同様に分泌される。このタンパク質は、補体コントロールタンパク質群、特に補体4B結合タンパク質(C4bp)に相同性である(Kotwal他、1988a)。細胞性C4bpと同様に、ワクシニアの35kDaタンパク質は補体の第4成分と結合し、古典的補体カスケードを阻害する(Kotwal他、1990)。このように、ワクシニアの35kDaタンパク質は、該ウイルスが宿主の防御機構を回避するのを助けることに関与しているものと考えられる。
【0026】
ワクシニアゲノムの左末端は、宿主範囲遺伝子として同定された2つの遺伝子、K1L(Gillard 他、1986)およびC7L(Perkus他、1990)を含む。これらの遺伝子の双方が欠失すると、各種のヒト細胞系でワクシニアウイルスの増殖能が減少する(Perkus他、1990)。
【0027】
本来的に宿主が制限されているポックスウイルスであるトリポックスウイルスを使用することに関する2つの付加的なワクチンベクター系がある。すなわち、家禽ポックスウイルス(FPV:fowlpoxvirus)およびカナリアポックスウイルス(CPV:canarypoxvirus)の両者を操作して外来遺伝子産生物を発現させてきた。家禽ポックスウイルス(FPV)は、ポックスウイルス科のトリポックス(Avipox)属の原型ウイルスである。このウイルスは、家禽類に経済的に重要な疾病を引き起こすが、1920年代から弱毒化生ワクチンを使用することにより良好な対策が講じられてきた。トリポックスウイルスの複製は鳥類に限られ(Matthews、1982)、ヒトを含む非鳥類においてトリポックスウイルスの感染が起こったという文献の報告は存在しない。このように宿主が制限されているので、他の種にウイルスが伝染することに対する本質的な安全性が確保され、トリポックスウイルス由来のワクチンベクターは魅力ある手段として動物やヒトへ応用される。
【0028】
FPVは、家禽類病原体由来の抗原を発現する優れたベクターとして使用されてきた。ビルレントトリインフルエンザウイルスの血球凝集素タンパク質がFPV組換体で発現された(Taylor他、1988a)。この組換体をニワトリおよび七面鳥に接種すると、同種または異種のビルレントインフルエンザウイルスのいずれの免疫性テストに対しても防御能のある免疫応答が誘起された(Taylor他、1988a)。ニューカッスル病ウイルスの表面糖タンパクを発現するFPV組換体も開発された(Taylor他、1990;Edbauer 他、1990)。
【0029】
宿主制限によりFPVおよびCPVの複製はトリ系に限られているにも拘わらず、これらのウイルスから誘導された組換体は、非トリ源細胞において外来遺伝子を発現することが見出された。さらに、そのような組換体ウイルスは、該外来遺伝子産生物に対する免疫応答を引き起こし、場合によっては、相応する病原体による免疫性テストに対する防御能を有することが示された(Tartaglia 他、1993a,b ;Taylor他、1992;1991b ;1988b)。
【0030】
カリシウイルスは、ブタ(ブタ水疱性発疹ウイルス−VESV)、鰭脚類(サン ミゲル(San Miguel)アシカウイルス−SMSV)、ネコ(ネコカリシウイルス−FCV)、ウサギ(ウサギ失血疾患ウイルス−RHDV)、ノウサギ(ヨーロッパ茶色ノウサギウイルス−EBHV)およびヒト(ノーウォークまたはE型肝炎ウイルス−HEV)種から単離されている。それらは共通の特徴的な形態を有し、分子量約60kDaの主要なただ1つのポリペプチドを含有することにおいて哺乳類ウイルスの中で特異的である(Burroughs and Brown 1974)。それらのゲノムは約8キロベースの陽性鎖RNA分子中にあり、キャプシドプレカーサータンパク質のコード配列はゲノムRNAの3’の3番目の内部に位置している。この科の全てのメンバーは、それらが深刻な病気の原因となっているところのそれらの天然宿主範囲が顕著に制限されている(Studdert 1978)。
【0031】
誘導される病気の深刻さに鑑み、それらの標的種でのカリシウイルス感染に対する防御免疫の基礎の理解は、獣医およびヒトの薬剤の両方に関する重要な目的を示している。この目的のために、関連した使用しうる動物モデルシステムが必要である。
【0032】
ウサギにおいて突然かつ急激な疾患の原因となるウサギ出血疾患ウイルス(RHDV)(Morisse 他 1990)は、その標的種におけるカリシウイルス感染に対する免疫のメカニズムに注意を向けるための固有の機会を提供する。しかしながら、このウイルスは組織培養中では効果的には繁殖しないので、その分子および生化学的分析は、最近の、そのゲノムのクローニングとヌクレオチド配列決定まで遅れていた(Meyers 他 1991)。他のカリシウイルス[即ちFCV(Carter 他 1992)およびHEV(Tam 他(1991)]について記述されたこととは対照的に、キャプシドタンパク質アミノ末端配列分析は、RHDVキャプシドタンパク質は8kbゲノムRNAからではなく2.4kbのサブゲノム(subgenomic)RNA種から翻訳されることを強力に支持していた(Boga 他 1992、Parra 他 1993)。
【0033】
適当な組換えベクターを用いた関連したRHDVタンパク質の発現が、詳細な生化学的RHDV分析に到達するため、および、このカリシウイルスに対する防御に関与した免疫機構を解明するために必要とされている。そのことはまた、器官から派生された不活性化ワクチンの置換を可能とする可能性もあるため(Yu 他 1991,von Haralambiev 他 1991,Smid 他 1991,Villares 1991,David 他 1991)、分子生物学的方法論を用いたワクチン候補の開発は、重要な安全性並びに飛躍的な前進をもたらし得る。
【0034】
生ベクター、特にポックスウイルスベースの、可能性のあるワクチンとしての感染性仲介物からの関連抗原を免疫的に発現するベクターの利用が数多くの研究によって促進されてきた(Cox 他 1992を参照)。
【特許文献1】米国特許第4,769,330号公報
【特許文献2】米国特許第4,772,848号公報
【特許文献3】米国特許第4,603,112号公報
【特許文献4】米国特許第5,100,587号公報
【特許文献5】米国特許第5,179,993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
このように、RHDV等のカリシウイルス組換体ポックスウイルスおよびそれ由来の産物、特にNYVACまたはALVACベースの、RHDV等のカリシウイルス組換体および組成物およびそれら由来の産物、特に例えばRHDVキャプシド遺伝子などの、キャプシドタンパク質の何れかまたは全てをコードしているもの(即ちキャプシド遺伝子)を有する組換体、およびそれ由来の組成物および産物を供給することは、現在の技術水準を超える高度に好ましい前進であろう。
【課題を解決するための手段】
【0036】
したがって、本発明の目的は、安全性の向上した改変組換えウイルスを提供すること、およびそのような組換えウイルスを製造する方法を提供することにある。
【0037】
本発明のさらなる目的は、既知の組換えポックスウイルスワクチンと比較して安全性のレベルが増大した免疫組成物または組換えポックスウイルス抗原ワクチンを提供することにある。
【0038】
本発明のさらなる目的は、ベクターが宿主中において弱毒化された毒性を有するように改変されている、宿主中において遺伝子産生物を発現する改変ベクターを提供することにある。
【0039】
本発明の別の目的は、安全性のレベルが増大した改変組換えウイルスまたは改変ベクターを用いて、インビトロで培養された細胞中で遺伝子産生物を発現する方法を提供することにある。
【0040】
これらの、およびその他の本発明の目的と利点は、以下の考慮の後に容易に明白となるであろう。
【0041】
1つの側面において、本発明は、組換えウイルスが減衰された毒性と促進された安全性を有するように、ウイルスにコードされた遺伝的機能が不活性化された改変された組換えウイルスに関する。その機能とは、非必須かまたは毒性に関連したものであり得る。ウイルスは、有利には、ポックスウイルス、特にワクシニアウイルスまたは家禽ポックスウイルスおよびカナリアポックスウイルス等のアビポックスウイルスである。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生された抗原またはエピトープをコードしている異種DNA配列を有していても良い。
【0042】
別の側面においては、本発明は、それが接種された宿主動物およびヒトにおいて抗原性または免疫性反応を誘導するための抗原性、免疫性またはワクチン組成物または治療組成物に関し、そこにおいて当該ワクチンは担体と組換えウイルスであって当該組換えウイルスが減衰された毒性および促進された安全性を有するように非必須ウイルスコード遺伝子領域を不活性化されているものを含有しているものに関する。本発明に従った組成物において用いられているウイルスは、有利には、ポックスウイルス、特にワクシニアウイルスまたは例えば家禽ポックスウイルスおよびカナリアポックスウイルス等のアビポックスウイルスである。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生された抗原タンパク質をコードしている異種DNA配列を有していても良い。
【0043】
さらに別の側面においては、本発明は、組換えウイルスであって当該組換えウイルスが減衰された毒性および促進された安全性を有するように非必須ウイルスコード遺伝子機能を不活性化されているものを含有している免疫原性組成物に関する。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、抗原タンパク質(RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生されたもの等)をコードしている異種DNA配列を有しており、そこにおいて組成物は、宿主に投与された場合、抗原に特異的な免疫学的反応を誘導可能である。
【0044】
さらなる側面においては、本発明は、減衰された毒性と促進された安全性を有する改変された組換えウイルスを細胞中に導入することによりインビトロで遺伝子産物を発現させるための方法に関する。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生された抗原タンパク質をコードしている異種DNA配列を有していても良い。産物は続いて、免疫反応を刺激するために動物またはヒトに投与可能である。生成された抗体はRHDV等のカリシウイルスの防御または処理に有用であり得、そして、抗体または単離されたインビトロ発現産物は、RHDV等のカリシウイルスまたはそれ由来の抗原またはそれに対する抗体の、血清などの試料における存在または不在(および、それ故、ウイルスまたはその産物またはウイルスまたは抗原に対する免疫反応の存在または不在)を決定するためのウイルス診断キット、アッセイまたは試験のために利用可能である。
【0045】
またさらなる側面においては、本発明は改変組換えウイルスに関し、該組換えウイルスは、ウイルスにコードされている非必須遺伝子機能が不活化されていることにより毒性が弱毒化されており、さらに、ウイルスゲノムの非必須領域に外来源のDNAを含有している。このDNAは、RHDV等のカリシウイルスキャプシド遺伝子で、RHDVタンパク質等のカリシウイルスタンパク質をコードしていても良い。さらに詳述すれば、遺伝子機能は、毒性因子をコードするオープンリーディングフレームを欠失させることにより、または、自然の宿主制限ウイルスを利用することによって不活化されている。本発明に用いるウイルスは、ポックスウイルスが有利であり、特にワクシニアウイルスまたはトリポックスウイルス、例えば家禽ポックスウイルスまたはカナリアポックスウイルスである。オープンリーディングフレームは、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1L、およびI4L(Goebel他による1990a,b の報告における名称による)から成る群、ならびにそれらの組合せにより選択されるのが好ましい。ここで、オープンリーディングフレームは、チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、宿主範囲遺伝子領域もしくはリボヌクレオチドレダクターゼのラージサブユニット、またはそれらの組合せから成る。ワクシニアウイルスの好適な改変Copenhagen株は、NYVACとして同定されたものであり( Tartaglia 他、1992)、または、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1LおよびI4Lまたはチミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、宿主範囲領域、リボヌクレオチドレダクターゼのラージサブユニットが欠失されたワクシニアウイルスである(米国特許第5,364,773 号も参照されたい)。他の好適なポックスウイルスは、ALVACであり、カナリアポックスウイルス( Rentschlerワクチン株)が、例えば、ニワトリ胚繊維芽細胞による200 回以上の継代培養により弱毒化され、そのマスター種株が寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供された後、5回の追加の継代培養によりプラーククローンが増幅されたものである。
【0046】
本発明は、さらに別の態様として、本発明による組換えポックスウイルスの発現産生物およびその使用、例えば、治療、予防、診断または試験に用いられる抗原性、免疫性またはワクチン組成物を調製することに関する。組換体はまた、プローブまたはPCRプライマーを生成する際に有用である。
【0047】
これらの態様およびその他の態様は、以下の詳細な説明によって提供され、それより明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
新しいワクシニアワクチン菌株NYVAC(vP866)を開発するために、ワクシニアウイルスのコペンハーゲンワクチン菌株を、既知または潜在的な毒性要因をコード化するゲノムの6つの非必須領域の欠失により改変した。一連の欠失が以下詳細に記載されている(米国特許第5,364,773号を参照のこと、この特許をここに引用する)。ワクシニア制限断片、オープンリーディングフレームおよびヌクレオチド位置の全ての指定は、Goebel等, 1990a,bに報告されている用語法に基づいている。
【0049】
欠失座もまた、異種遺伝子を挿入するための受容体座として設計された。
【0050】
NYVAC中で欠失された領域が以下に列記されている。欠失された領域の省略形およびオープンリーディングフレームの指定(Goebel等,1990a,b)並びに指定された欠失により全ての欠失を含有するワクシニア組換体(vP)の指定もまた列記されている:
(1) チミジンキナーゼ遺伝子(TK;J2R)vP410;
(2) 出血性領域(u;B13R+B14R)vP553;
(3) A型封入体領域(ATI;A26L)vP618;
(4) 血球凝集素遺伝子(HA;A56R)vP723;
(5) 宿主範囲遺伝子領域(C7L−K1L)vP804;および
(6) リボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニット(I4L)vP866(NYVAC)。
【0051】
NYVACは、毒性および宿主範囲に関連する遺伝子産生物を含む遺伝子産生物をコードする18のオープンリーディングフレームを欠失させることにより遺伝子工学的手法で得られたワクシニアウイルス株である。
【0052】
NYVACは高度に弱毒化されるが、このことは以下のような多くの特徴からも判る:i)新生マウスに脳内接種すると毒性が減少すること、ii) 遺伝学的に(nu+ / nu+ )または化学的(シクロホスホアミド)に免疫無防備状態マウスにおける無毒性、iii)免疫無防備状態マウスにおいて、播種性感染が起こらなくなること、iv) ウサギ皮膚の硬化や潰瘍形成がなくなること、v)接種部位からの迅速なクリアランス、vi) 多くの組織培養細胞系(ヒト由来のものを含む)において複製能が激減すること。これにも拘わらず、NYVACに基づくベクターは、外来性免疫原に対して優れた応答を誘起し防御免疫を提供する。
【0053】
TROVACとは、弱毒化家禽ポックスであって、1日齢のヒナへのワクチン接種がライセンスされている家禽ポックスウイルスFP−1ワクチン株からプラークを単離して得られたものである。ALVACは、弱毒化カナリアポックスを基礎とするベクターであり、ライセンスされているカナリアポックスワクチンKanapox(Tartaglia 他、1992)からプラークをクローニングして得られたものである。ALVACの一般的性質には、Kanapoxの一般的性質と同じものがある。外来性免疫原を発現するALVAC系組換えウイルスは、ワクチンベクターとしても有効であることが示されている(Tartaglia 他、1993a,b)
このトリポックスベクターは、その複製がトリ類に限定されている。ヒトの培養細胞においては、ウイルスのDNA合成に先行してウイルス複製サイクルの初期にカナリアポックスウイルスの複製は中断してしまう。しかしながら、外来性免疫原を発現するように操作すれば、哺乳動物細胞中でインビトロで真正な発現とプロセシングが認められ、多くの哺乳動物種に接種すると該外来性免疫原に対する抗体および細胞性免疫応答を誘発し、同種の病原体の免疫性テストに対する防御を与える(Taylor他、1992;Taylor他、1991)。カナリアポックス/狂犬病糖タンパク質組換体(ALVAC−RG)に関するヨーロッパおよび米国における最近のフェーズI臨床試験によれば、この試験ワクチンは、充分に受け入れられるものであり、防御レベルの狂犬病ウイルス中和抗体を誘起することが示された(Cadoz 他、1992;Fries 他、1992)。さらに、ALVAC−RG被接種者由来の末梢血単核細胞(PBMCs)は、精製狂犬病ウイルスで刺激すると有意レベルのリンパ球増殖を示した(Fries 他、1992)。
【0054】
また、NYVAC、ALVACおよびTROVACは、以下の点において、あらゆるポックスウイルスの中でも独特であると考えられている。すなわち、米国公衆衛生局のNIH(National Institutes of Health)の組換えDNA勧告委員会(Recombinant DNA Advisory Committee)は、ウイルスやベクターのような遺伝子材料の物理的封じ込めに関するガイドライン、すなわち、特定のウイルスやベクターの病原性に基づくそれらのウイルスやベクターの利用における安全な取扱に関するガイドラインを出しているが、この物理的封じ込めのレベルをBSL2からBSL1に下げることを認めた。ここで、他のいずれのポックスウイルスもBSL1の物理的封じ込めレベルを認められていない。ワクシニアウイルスのCopenhagen株(最も一般的な天然痘ワクチンである)ですら、これよりも高い物理的封じ込みレベル、すなわち、BSL2を有する。このように、当該分野においては、NYVAC、ALVACおよびTROVACは他の何れのポックスウイルスよりも病原性が低いことが認められている。
【0055】
NYVACは、上述の通り、コペンハーゲンワクチン株から、毒性および宿主領域に関連した18のオープンリーディングフレームを厳密に欠失させることにより派生されている。NYVACの高度弱毒化表現型は、実験用および標的種の両方においてベクターとしてのその免疫化可能性を重大には減少させない(Tartaglia 他 1992,Konishi 他 1992)。狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびマラリア抗原を発現するNYVACベースの組換体が現在、ヒト臨床評価を受けている。高度に弱毒化されたポックスウイルスのワクチンベクターとしての利用の更なる拡張とは、上記のように、アビポックスウイルス等の、自然に生じる限定された宿主領域を有するポックスウイルスを利用することである。非鳥類種においてのALVACの生産的複製能力の欠如にもかかわらず、ALVACは非鳥類種においていくつかのウイルス病原体に対する防御的免疫反応を誘導することが示されている(Taylor 他 1991,Taylor 他 1992,Tartaglia 他 1993)。このベクターはそのような種においては複製しないので、ワクチン内部での散布された感染または接触者あるいは一般環境への拡散は排除される。最近の、フェーズI臨床試験では、このベクターをベースとした実験用ワクチンは十分に耐性であり、外部からの免疫原に対する免疫反応を誘導することが示された(Cadoz 他 1992;上記もまた参照されたい)。
【0056】
NYVAC、ALVAC、TROVACベクターの弱毒化特性およびそれらの示す外来免疫原に対する体液および細胞の両方の免疫学的反応を誘導する能力に明らかに基づいて(Tartaglia 他,1993a,b;Taylor 他,1992;Konishi 他,1992)、そのような組換えウイルスは、以前に記述されたワクシニアベースの組換えウイルスを超えためざましい利点を提供するものである。
【0057】
本発明は、ウサギ出血疾患およびカリシウイルス一般に対する防御に関与し;NYVACおよびALVACをベースとしたRHDV等のカリシウイルスキャプシドタンパク質発現組換えウイルスであって、ウサギにおいてRHDV投与曝露に対する防御的免疫を付与するもの、およびそれらのウイルス由来の発現産物の利用およびそれら由来の抗体を包含する。
【0058】
以下に記述されるのは、実施例においては特に、カリシウイルス、特にRHDVのキャプシド遺伝子(Sa ne et Loire株)のクローニングおよび配列決定、キャプシド遺伝子産物を発現するNYVAC(ワクシニアウイルス)およびALVAC(カナリアポックスウイルス)組換えウイルスの派生、およびこれらの組換体の実験的投与により付与された防御の実証である。
【0059】
カリシウイルス科の他のメンバーに関しては遺伝的変化が報告されているので(Huang 他 1992;Neill,1992;Seal 他 1993)、フレンチRHDV単離体(Sa ne et Loire株)のキャプシド遺伝子の配列決定分析を行い、この単離体が以前に発表されたRHDVとどの程度異なっているかを決定した(Meyers 他 1991)。キャプシド遺伝子は1740bpの長さのORFで、以前に発表されたRHDVジャーマン株と非常に高いヌクレオチドホモロジー(97.3%の同一性)を有していた(Meyers 他 1991)。ほとんどの違いが、コドンの可変の位置で生じているため、対応するアミノ酸配列は以前に報告された配列と実質的に同一である(99.1%の同一性)。同様の高レベルのキャプシド遺伝子のホモロジーが、最近、3つの地理的なHEV単離体の間で報告された(Huang 他 1992)。しかしながら、他のカリシウイルスに関しては超可変領域であることが示されている、フレンチRHDVゲノムの最初の2/3はまだ分析されていない。このフレンチ単離体と以前に記述された単離体との正確な関係は、さらに調査すべきままの状態のままである。にもかかわらず、高度に保存されたRHDVキャプシド遺伝子由来のヌクレオチド配列は、複製連鎖反応をベースとした試験またはウイルス感染を確認するためのプライマーの開発に有用である。
【0060】
カナリアポックスウイルス(ALVAC)をベースとした組換えウイルス(vCP309)およびNYVACをベースとした組換えウイルス(vP1249)において、ともにRHDVキャプシド遺伝子を発現させるものを派生させるために、位置#5305(Meyers 他 1991)にあるATGが天然翻訳開始コドンとして用いられていると仮定された。この仮定は最近、選択されたATGはまさしく、そのキャプシドタンパク質を発現するためにウイルスにより用いられる開始コドンであることを示す精製RHDVキャプシドタンパク質のアミノ酸分析によって正しいと証明された(Prra 他 1993)。vCP309およびvP1249により発現されたポリペプチドの、RHDV MAbに依存した免疫沈降によるものおよびFACS分析による2つの別々の確認によって、vCP309およびvP1249は天然RHDVキャプシドタンパク質を発現していることが強く示された。最近、バキュロウイルスにより発現された組換えRHDVキャプシドタンパク質に関して示されたように(Laurent 他 1994)、何れか1つの特定の理論に拘束されることを必ずしも望んではいないが、組換えポリペプチドはウイルス様粒子に集合すると考えられている。
【0061】
vCP309またはvP1249でワクチン接種されたウサギは、ワクチン接種されていない対照動物全てが殺された強力な致死RHDV投与を生き抜いた(以下の表を参照されたい)。これらの結果は明白に、RHDVキャプシドタンパク質の発現が、RHDV投与曝露に対する防御を付与するために十分であることを示唆している。バキュロウイルス(Laurent 他 1994)またはE.コリ(Boga 他 1994)の何れかによって発現された組換えRHDVキャプシドタンパク質調製物を用いたRHDV投与に対するウサギの防御を記述した2つの最近の報告と一致して、本発明はRHDVに対する組換えキャプシドベースのワクチンを提供し、この戦略が一般にカリシウイルス感染に対して防御するために有用であることを示すものである。vCP309およびvP1249の性質検討に用いられた2つのMAb(3H6および1H8)が、EBHV抽出物とも交叉反応するという最近の実証(Wirblich 他 1994)は、vCP309およびvP1249がEBHV投与に対する交叉防御を提供することを示している。
【0062】
現在、組織培養においてRHDVを増殖させることは不可能であるため、RHDVワクチン候補を開発するための組換えDNAアプローチが、現在の、感染させたウサギの肝臓から派生された従来の不活性化されたRHDVワクチン調製物(Yu 他 1991、von Haralambiev 他 1991、Smid 他 1991、Villares 1991、David 他 1991)を置き換える手段を提供し、そしてこのように、重要な安全性並びに産業上の飛躍的前進をもたらしている。ヒトにおけるE型肝炎の原因となるカリシウイルスであるノーウォークウイルスもまた、何れの細胞培養においても増殖させることができないので(Kapikian and Chanock、1990)、これらの結果はE型肝炎ワクチンの派生を直接的に示唆するものである。もちろん、RHDV発現組換体がE型肝炎に対して交叉反応しても良い(このように、ポックスウイルス−RHDV組換体はヒトにおいて有用である)。
【0063】
さらに、ここでの結果はALVACおよびNYVACベクターシステムの、標的種での防御的免疫反応を誘導するための用途を記述している。重要なことには、これらのベクターは鳥類種に限定された複製(ALVAC)または高度に弱毒化された表現型(NYVAC)の何れかによって特徴づけられているため、潜在的なワクチン誘導およびワクチン関連合併症を実質的に排除している。
【0064】
近年、2つの報告が、バキュロウイルス(Laurent 他 1994)またはE.コリ(Boga 他 1994)の何れかによって発現された組換えRHDVキャプシドタンパク質調製物を用いたRHDVに対するウサギの防御を記述している。両方の報告は、ウサギ体液反応と防御との間の関連を示唆している。本発明は、2つの前述のサブユニットをベースとしたアプローチとは、大きく異なっている。vCP309およびvP1249は、免疫原のデ ノボ細胞内発現に至る生弱毒化組換えウイルスであるので、細胞媒介免疫反応のより強力な刺激が誘導される。ここにおいての結果はこの記述と一致しているが、それは、それらが血清学的力価と防御的免疫との、如何なる明白な関係をも説明していないからである。
【0065】
ここに記載されている組換えカナリアポックスウイルスvCP309およびNYVAC vP1249は、一般的なRHDV感染およびカリシウイルス感染一般に対する防御における体液性および細胞媒介免疫反応の相対重要性の分析においての道具でもある。
【0066】
本発明の組換えウイルスまたはその発現産生物、組成物、例えば、免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物は、非経口経路(皮内、筋肉または皮下)で投与することができる。そのような投与により全身性免疫応答が可能となる。
【0067】
さらに概説すれば、本発明に従う抗原性、免疫原性もしくはワクチン組成物または治療組成物(本発明のポックスウイルス組換体を含有する組成物)は、製薬または獣医の技術分野における当業者に周知の標準的な方法に従って調製することができる。それらの組成物は、特定の動物または患者の年齢、性別、体重、および症状、ならびに投与経路を考慮しながら、適当な投与量で獣医学または医学的分野の当業者に周知の方法に従って投与することができる。該組成物は、単独投与することもできるが、さらに、本発明の組成物、または他の免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物と同時に、または、それらとともに特定の順序で逐次的に、動物または患者に投与することもできる。他の組成物とは、カリシウイルス(RHDV等)由来の精製抗原または組換えポックスウイルスもしくは他のベクター系によって発現されたそのような抗原由来のもの、また、他のカリシウイルス(RHDV等)抗原を発現する組換えポックスウイルスまたは生体応答調節剤が挙げられる。これらの場合においても、特定の患者の年齢、性別、体重および症状ならびに投与経路などの因子を考慮する。
【0068】
本発明の組成物の例には、例えば、腔部(例えば、口、鼻、肛門、膣など)投与用の液状製剤、例えば、懸濁液、シロップまたはエリキシル剤など;さらには、非経口、皮下、皮内、筋肉内または静脈内投与(例えば、静注)用製剤、例えば、無菌の懸濁液またはエマルジョンが含まれる。それらの組成物においては、組換えポックスウイルスに、適当なキャリア、稀釈剤、または賦形剤、例えば無菌水、生理食塩水、ブドウ糖などを混合させてもよい。
【0069】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物を直接使用して、ヒトまたは動物における免疫応答を刺激することもできる。すなわち、上述の組成物における本発明の組換えウイルスの代わりにまたはそれとともに、該発現産生物を使用して本発明に従う組成物とすることもできる。
【0070】
また、本発明の組換えポックスウイルスおよびそれに由来する発現産生物は、ヒトおよび動物における免疫または抗体応答を刺激し、したがって該産生物は抗原となる。これらの抗体または抗原から、当該技術分野で周知の手法により、モノクローナル抗体を調製することができ、そして、周知の抗体結合分析系、診断キットまたはテスト系においてこれらのモノクローナル抗体または抗原を、特定のRHDV等のカリシウイルス抗原の有無、したがって、(RHDV等のカリシウイルスまたはその他の系において)該ウイルスまた抗原の発現の有無を測定したり、または、該ウイルスまたは抗原に対する免疫応答が単に刺激されたか否かを判定するための公知の結合アッセイ、診断キットまたは試験において用いることができる。これらのモノクローナル抗体または抗原は、免疫吸着クロマトグラフィーに使用されて、RHDV等のカリシウイルスまたは本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物を回収したり単離することもできる。
【0071】
さらに、詳述すれば、本発明に従う組換体および組成物は、以下のような多くの用途を有する:
(i) 免疫応答の誘発(ワクチン接種またはワクチン接種の一部として);および
(ii) ウイルス感染のリスクを伴わないインビトロでのRHDV等のカリシウイルスタンパク質の調製。
【0072】
本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物は、直接使用されて、血清反応陰性もしくは血清反応陽性のヒトまたは動物における免疫応答を刺激することができる。すなわち、本発明の組換えポックスウイルスに代えてまたはそれとともに、該発現産生物を使用して本発明の組成物を調製することもできる。
【0073】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスおよびそれに由来する発現産生物は、ヒトおよび動物における免疫または抗体応答を刺激する。これらの抗体から、当該分野で周知の手法によりモノクローナル抗体を調製することができ、そして、これらのモノクローナル抗体または本発明に従うポックスウイルスの発現産生物および組成物を周知の抗体結合分析系、診断キットまたはテスト系に使用して、特定のRHDV等のカリシウイルス抗原または抗体の有無、したがって、該ウイルスの有無を測定したり、あるいは、該ウイルスまたは抗原に対する免疫応答が単に刺激されたか否かを判定することができる。これらのモノクローナル抗体を免疫吸着クロマトグラフィーに使用して、RHDV等のカリシウイルスまたは本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物を回収、単離または検出することもできる。モノクローナル抗体を製造する方法およびモノクローナル抗体の使用方法、ならびにRHDV等のカリシウイルス抗原(本発明のポックスウイルスの発現産生物および組成物)の使用法などは当該技術分野における当業者には周知である。それらは、診断法、キット、テストまたはアッセイなどに使用されるとともに、免疫吸着クロマトグラフィーまたは免疫沈降反応による物質回収に使用され得る。
【0074】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞により産生される免疫グロブリンである。モノクローナル抗体は、単一の抗原決定基に反応し、通常の血清由来の抗体よりも高い特異性を与える。さらに、多数のモノクローナル抗体にスクリーニングを行うことにより、所望の特異性、アビディディ(抗原結合力)およびイソタイプを有する個々の抗体を選択することができる。ハイブリドーマ細胞系は、化学的に同一の抗体の恒常的且つ安価な供給源となり、そして、そのような抗体の調製は容易に標準化できる。
【0075】
モノクローナル抗体を産生する方法は当該技術分野における当業者には周知であり、例えば、Koprowski,H 他による米国特許第4,196,265 号1989年4月1日査定)が参考文献としてここに取り込まれている。
【0076】
モノクローナル抗体の用途も既知である。そのような用途の一つは診断法に利用するものであり、例えば1983年3月8日付でDavid,G.およびGreene,H. に付与された米国特許第4,376,110 号を引用しておく。モノクローナル抗体は、免疫吸着クロマトグラフィーにより物質を回収するのにも利用されており、例えば、Milstein,C. による「Scientific American 243 : 66, 70 (1980) 」を引用しておく。
【0077】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスまたはそれ由来のDNAは、RHDV等のカリシウイルスの探索のために、またはRHDV等のカリシウイルスDNAの複製または検出のためのPCRプライマーの生成のために用いられても良い。
【0078】
本発明の実施態様としてはその他の用途もある。
【0079】
本発明およびその多くの利点は、説明のために記載する以下の実施例から良好に理解されよう。
【実施例】
【0080】
DNAクローニングおよび合成 標準的な方法により、プラスミドを構築し、スクリーニングし、成長させた(Maniatis等,1982; Perkus等,1985; Piccini等,1987)。制限エンドヌクレアーゼは、メリーランド州、ゲイサースブルグのベセスダリサーチラボラトリーズ;マサチューセッツ州、ビバーリーのニューイングランドバイオラド;およびインディアナ州、インディアナポリスのベーリンガーマンハイムバイオケミカルスから得た。E.coliポリメラーゼのクレノー断片は、ベーリンガーマンハイムバイオケミカルスから得た。BAL−31エキソヌクレアーゼおよびファージT4 DNAリガーゼは、ニューイングランドバイオラボから得た。様々な供給者により指定された試薬を用いた。
【0081】
合成オリゴデオキシリボヌクレオチドは、既述のように(Perkus他、1989)Biosearch 8750またはApplied Biosystems 380B DNA合成装置を用いて調製した。DNA配列決定は、既述の手法に従い(Guo 他、1989)シークエナーゼ(Sequenase)を用いて(Tabor 他、1987)ジデオキシ−チェインターミネーション法により(Sanger他、1977)行った。配列確認のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA増幅(Engelke 他、1988)は、自動式Perkin Elmer Cetus DNA熱サイクル装置(DNA Thermal Cycler)によりカスタム合成オリゴヌクレオチドプライマーおよびGeneAmp DNA増幅試薬キット(米国コネチカット州Norwalk のパーキン・エルマー・シータス(Perkin Elmer Cetus)社製)を用いて実施した。プラスミドからの過剰DNA配列の欠失は、制限エンドヌクレアーゼ分解、その後、BAL−31エクソヌクレアーゼによる制限分解および合成オリゴヌクレオチドによる突然変異法(Mandecki,1986)により行った。
【0082】
細胞、ウイルスおよびトランスフェクション ワクシニアウイルスのコペンハーゲン(Copenhagen)株およびNYVACの起源および培養条件は既に明らかにされている(Guo 他、1989;Tartaglia他、1992)。組換えによる組換えウイルスの調製、ニトロセルロースフィルターを用いるインサイチュハイブリダイゼーションおよびβ−ガラクトシダーゼ活性を利用するスクリーニングについては既に明らかにされている(Panicali 他,1982;Piccini 他、1987;Perkus 他,1989)。
【0083】
カナリアポックスウイルスの親株(Rentschler株)はカナリアのワクシニア菌株である。このワクチン株は、野生型の単離体から得られ、ニワトリ胚繊維芽細胞を用いる200 回以上の継代培養を通して弱毒化されたものである。そのマスターウイルス種株は寒天下の4回の連続的なプラーク精製に供され、そのプラーククローンの1つが5回の追加の継代培養により増幅され、その後、このストックウイルスが親ウイルスとしてインビトロ組換え試験に使用されてきた。このプラーク精製カナリアポックス単離体がALVACと命名されている。
【0084】
FP−1と命名された家禽ポックスウイルス(FPV)株については既に明らかにされている(Taylor他、1988a)。これは、日齢のヒナのワクチン接種に有用な弱毒化ワクチン株である。親ウイルス株Duvette は、フランスにおいてニワトリから家禽ポックス疥癬として入手された。このウイルスが胚ニワトリ卵での約50回の連続的な継代培養の後、ニワトリ胚繊維芽細胞における25回の継代培養により弱毒化された。該ウイルスは4回の連続的なプラーク精製に供された。プラークの1つが単離され、初期CEF細胞中で増幅され、TROVACと命名されたストックウイルスが樹立された。
【0085】
NYVAC、ALVACおよびTROVAC各ウイルスベクターおよびそれらの誘導体の増殖については既に記述されている(Piccini 他、1987;Taylor他、1988a,b)。増殖にベロ(Vero)細胞やニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)を使用することも既に明らかにされている(Taylor他、1988a,b)。
【0086】
NYVACおよび特に実施例1から6に関しては、米国特許第5,364,773 号を参照しており、本明細書に引用しておく。
【0087】
実施例1 − チミジンキナーゼ遺伝子(J2R)を欠失するための
プラスミドpSD460の構築
ここで図1を参照する。プラスミドpSD406は、pUC8中にクローニングされたワクシニアHindIII J(位置83359-88377)を含有している。pSD406はHindIIIおよびPvuIIにより切断され、HindIII Jの左側由来の1.7kbの断片を、HindIII/SmaIにより切断されたpUC8中にクローニングし、pSD447を形成した。pSD447はJ2R(位置83855-84385)の全遺伝子を含有している。開始コドンはNlaIIIサイト内に含まれ、終止コドンはSspIサイト内に含まれている。転写方向は、図1の矢印により示されている。
【0088】
左側の隣接アームを得るために、pSD447から0.8kb のHindIII /EcoRIフラグメントを分離し、次いでNlaIII で消化して0.5kb のHindIII /NlaIII フラグメントを単離した。以下の配列を有するアニーニングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN43/MPSYN44(SEQ ID NO:1/SEQ ID NO:2)を0.5kb のHindIII /NlaIII フラグメントと連結(ライゲート)し、HindIII /EcoRIで切断したpUC18ベクタープラスミドに導入して、プラスミドpSD449を得た。
【0089】
SmaI
MPSYN43 5’ TAATTAACTAGCTACCCGGG 3’
MPSYN44 3’ GTACATTAATTGATCGATGGGCCCTTAA 5’
NlaIII EcoRI
ワクシニアの右側の隣接アームおよびpUCベクター配列を含有する制限酵素フラグメントを得るために、ワクシニア配列内でSspI(部分的)を用い、またpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いてpSD447を切断して、2.9kb のベクターフラグメントを分離した。このベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN45/MPSYN46(SEQ ID NO:3/SEQ ID NO:4)と連結して、pSD459を得た。
【0090】
HindIII SmaI
MPSYN45 5’ AGCTTCCCGGGTAAGTAATACGTCAAGGAGAAAACGAA
MPSYN46 3’ AGGGCCCATTCATTATGCAGTTCCTCTTTTGCTT
NotI SspI
ACGATCTGTAGTTAGCGGCCGCCTAATTAACTAAT 3’ MPSYN45
TGCTAGACATCAATCGCCGGCGGATTAATTGATTA 5’ MPSYN46
左側隣接アームと右側隣接アームを結合させて1つのプラスミドとするために、pSD449から0.5kb のHindIII /SmaIフラグメントを分離し、これを、HindIII /SmaIで切断されたpSD459ベクタープラスミドに連結してpSD460を調製した。このpSD460をドナープラスミドとして用い、野性型親ワクシニアウイルスCopenhagen株VC−2との組換えを実施した。鋳型としてMPSYN45(SEQ ID NO:3)およびプライマーとして相補的な20マー(20mer)オリゴヌクレオチドMPSYN47(SEQ ID NO:5)(5′TTAGTTAATTAGGCGGCCGC3′)を用いるプライマー延長法により32Pがラベルされたプローブを合成した。組換えウイルスvP410の同定はプラークハイブリダイゼーションにより行った。
【0091】
実施例2−出血性領域(B13R+B14R)を欠失させたプラスミド
pSD486の構築
図2において、プラスミドpSD419は、pUC8にクローニングされたワクシニアSalI G(位置160,744 〜173,351)を含有する。pSD422は、右側に隣接するワクシニアSalIフラグメントSalI J(位置173,351 〜182,746)(pUC8にクローニングされている)を含有している。出血性領域u、B13R−B14R(位置172,549 〜173,552)が欠失されたプラスミドを構築するため、左側隣接アーム源としてpSD419を用い、また、右側隣接アーム源としてpSD422を用いた。u領域の転写方向は図2の矢印で示す。
【0092】
pSD419から非所望配列を除去するために、NcoI/SmaIを用いてpSD419を分解し、次いで大腸菌のクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)を行うことにより、NcoIサイト(位置172,253)の左側の配列を除去してプラスミドpSD476を得た。B14Rの終結コドンにおけるHpaIでのpSD422の分解および0.3kb 右のNruIによる分解によりワクシニアの右側隣接アームを得た。この0.3kb のフラグメントを単離、pSD476から単離された3.4kb のHincIIベクターフラグメントに連結して、プラスミドpSD477を得た。pSD477におけるワクシニアu領域の部分欠失位置は三角形で示している。
【0093】
pSD477における残りのB13Rコード配列を除去するため、ClaI/HpaIを用いる分解を行い、得られたベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドSD22mer/SD20mer(SEQ ID NO:6/SEQ ID NO:7)に連結して、pSD479を調製した。
【0094】
ClaI BamHI HpaI
SD22mer 5’ CGATTACTATGAAGGATCCGTT 3’
SD20mer 3’ TAATGATACTTCCTAGGCAA 5’
pSD479は、開始コドン(下線)を含有し、その後にBamHIサイトがある。uプロモーターの制御下にB13−B14(u)欠失座に大腸菌ベーターガラクトシダーゼを入れるために、ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のBamHIフラグメントをpSD479のBamHIサイトに挿入して、pSD479BGを調製した。このpSD479BGをドナープラスミドとして、ワクシニアウイルスvP410との組換えを実施した。組換えワクシニアウイルスvP533を、発色性基質X−galの存在下に青色のプラークとして分離した。vP533においては、B13R−B14R領域が欠失され、ベーターガラクトシダーゼによって置換されている。
【0095】
vP533からベーターガラクトシダーゼを取り除くために、ポリリンカー領域を含有するがu欠失結合部に開始コドンを有しないpSD477の派生体であるプラスミドpSD486を用いた。先ず、上述のpSD477由来のClaI/HpaIベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドSD42mer/SD40mer(SEQ ID NO:8/SEQID NO:9)に連結して、プラスミドpSD478を調製した。
【0096】
ClaI SacI XhoI HpaI
SD42mer 5’ CGATTACTAGATCTGAGCTCCCCGGGCTCGAGGGATCCGTT 3’
SD40mer 3’ TAATGATCTAGACTCGAGGGGCCCGAGCTCCCTAGGCAA 5’
BglII SmaI BamHI
次に、pUC/ワクシニア結合部におけるEcoRIサイトを破壊するため、EcoRIを用いてpSD478を分解し、その後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)を行うことにより、pSD478E− を得た。このpSD478E− をBamHIおよびHpaIを用いて分解し、以下に示す配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドHEM5/HEM6(SEQ ID NO:10 /SEQ ID NO:11)に連結して、プラスミドpSD486を調製した。
【0097】
BamHI EcoRI HpaI
HEM5 5’ GATCCGAATTCTAGCT 3’
HEM6 3’ GCTAAGATCGA 5’
pSD486をドナープラスミドとして用い、組換えワクシニアウイルスvP533との組換えを行ってvP553を得た。このvP553は、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0098】
実施例3−ATI領域(A26L)を欠失させたプラスミドpMP494Δ
の構築
図3において、pSD414は、pUC8にクローニングされたSalI Bを含有する。A26L領域の左側の非所望DNA配列を取り除くために、pSD414を、ワクシニア配列内でXbaIを用いて切断し(位置137,079)、またpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いる切断を行い、次に、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結を行うことにより、プラスミドpSD483を得た。A26L領域の右側の非所望ワクシニアDNA配列を除去するために、EcoRIを用いてpSD483を切断し(位置140,665 およびpUC/ワクシニア結合部)、連結処理(ライゲーション)を行ってプラスミドpSD484を形成した。A26Lコード領域を取り除くため、NdeI(部分的)を用いてA26LのORFの少し上流を切断し(位置139,004)且つHpaIを用いてA26LのORFの少し下流を切断(位置137,889)した。5.2kb のベクターフラグメントを単離し、これを以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドATI3/ATI4(SEQ ID NO:12 /SEQ ID NO:13) と連結して、A26Lの上流領域を再構成し、下記の配列に示すようなBglII、EcoRIおよびHpaIの制限サイトを含有する短いポリリンカー領域とA26LのORFを置換した。
【0099】
NdeI
ATI3 5’ TATGAGTAACTTAACTCTTTTGTTAATTAAAAGTATATTCAAAAAATAAGT
ATI4 3’ ACTCATTGAATTGAGAAAACAATTAATTTTCATATAAGTTTTTTATTCA
BglII EcoRI HpaI
TATATAAATAGATCTGAATTCGTT 3’ ATI3
ATATATTTATCTAGACTTAAGCAA 5’ ATI4
得られたプラスミドをpSD485と命名した。pSD485のポリリンカー領域におけるBglIIサイトおよびEcoRIサイトは唯一のものではないので、BglIIを用いる分解(位置140,136)およびpUC/ワクシニア結合部におけるEcoRIによる分解を行い、その後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)により、プラスミド483(上述)から非所望のBglIIサイトおよびEcoRIサイトを除去した。得られたプラスミドをpSD489と命名した。pSD489由来でA26LのORFを含有する1.8kb のClaI(位置137,198)/EcoRV(位置139,048)フラグメントを対応する0.7kb のポリリンカーを含有するpSD485由来のClaI/EcoRVフラグメントと置換することによりpSD492を得た。このpSD492のポリリンカー領域におけるBglIIサイトおよびEcoRIサイトは唯一のものである。
【0100】
pSD492のBglIIサイトに、11kDaのワクシニアプロモーター(Bertholet 他、1985;Perkus他、1990)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.3kb のBglIIカセットを挿入して、pSD493KBGを形成した。このプラスミドpSD493KBGを用いて、レスキューウイルスvP553との組換えを行った。A26L欠失領域にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP581が、X−galの存在下に青色のプラークとして単離された。
【0101】
ワクシニア組換えウイルスvP581からベーターガラクトシダーゼを欠失させるプラスミドを調製するために、以下の配列を有する合成オリゴヌクレオチドMPSYN177(SEQ ID NO:14)を用いる突然変異法(Mandeck 、1986)によりプラスミドpSD492のポリリンカー領域を欠失させた。
【0102】
(5’ AAAATGGGCGTGGATTGTTAACTTTATATAACTTATTTTTTGAATATAC 3’)
得られたプラスミドpMP494Δにおいては、位置[137,889 〜138,937 ]をカバーし、A26LのORF全体を含むワクシニアDNAが欠失されている。このpMP494Δとベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニア組換体vP581との間の組換えにより、ワクシニア欠失変異体vP618が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0103】
実施例4−血球凝集素遺伝子(A56R)を欠失させたプラスミドpSD467
の構築
図4において、ワクシニアSalI G制限酵素フラグメント(位置160,744 〜173,351)は、HindIII A/B結合部(位置162,539)を包含している。pSD419は、pUC8にクローニングされたワクシニアSalI Gを含有する。血球凝集素(HA)遺伝子の転写方向は図4における矢印で示されている。HindIII B由来のワクシニア配列の除去には、ワクシニア配列内およびpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いるpSD419の分解を行い、その後、連結処理(ライゲーション)した。得られたプラスミドpSD456は、左側が0.4kb のワクシニア配列および右側が0.4kb のワクシニア配列で挟まれたHA遺伝子(A56R)を含有する。A56Rをコードする配列を除去するために、A56Rコード配列の上流をRsaI(部分的;位置161,090)により、また、該遺伝子の末端近傍をEagI(位置162,054)によりpSD456を切断した。pSD456から3.6kb のRsaI/EagIベクターフラグメントを単離し、以下の配列を有するアニーリングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN59(SEQID NO:15)、MPSYN62(SEQ ID NO:16)、MPSYN60(SEQ ID NO:17)およびMPSYN61(SEQ ID NO:18)に連結(ライゲート)して、A56RのORFの上流のDNA配列を再構成し、A56RのORFを下記に示すようなポリリンカー領域と置換した。
【0104】
RsaI
MPSYN59 5’ ACACGAATGATTTTCTAAAGTATTTGGAAAGTTTTATAGGT-
MPSYN62 3' TGTGCTTACTAAAAGATTTCATAAACCTTTCAAAATATCCA-
MPSYN59 AGTTGATAGAACAAAATACATAATTT 3'
MPSYN62 TCAACTATCT 5'
MPSYN60 5' TGTAAAAATAAATCACTTTTTATA-
MPSYN61 3' TGTTTTATGTATTAAAACATTTTTATTTAGTGAAAAATAT-
BglII SmaI PstI EagI
MPSYN60 CTAAGATCTCCCGGGCTGCAGC 3'
MPSYN61 GATTCTAGAGGGCCCGACGTCGCCGG 5'
得られたプラスミドがpSD466である。このpSD466におけるワクシニア欠失は位置[161,185 〜162,053 ]を包含する。pSD466における欠失サイトは図4では三角形で示されている。
【0105】
pSD466のBglIIサイトに、11kDaのワクシニアプロモーター(Bertholet 他、1985;Guo 他、1989)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のBglII/BamHI(部分的)カセットを挿入して、pSD466KBGを形成した。このプラスミドpSD466KBGを用いて、レスキューウイルスvP618との組換えを行った。A56R欠失サイトにベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP708が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0106】
ドナープラスミドpSD467を用い、vP708からベーターガラクトシダーゼ配列を除去した。pSD467はpSD466と同じであるが、但し、EcoRI/BamHIを用いるpSD466の分解、それに続く大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結処理(ライゲーション)によりpUC/ワクシニア結合部からEcoRIサイト、SmaIサイトおよびBamHIサイトが取り除かれている。vP708とpSD467との間に組換えを行うことにより組み換えワクシニア欠失変異体vP723が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0107】
実施例5−オープンリーディングフレーム[C7L−K1L]
を欠失させたプラスミドpMPCSK1Δの構築
図5に関し、次のワクシニアクローンを利用してpMPCSK1Δを構築した。pSD420は、pUC8にクローニングされたSalI Hである。pSD435は、pUC18にクローニングされたKpnI Fである。SphIでpSD435を切断、再連結してpSD451を形成した。このpSD451においては、HindIII MにおけるSphIサイト(位置27,416)の左側のDNA配列が除去されている(Perkus他、1990)。pSD409は、pUC8にクローニングされたHindIII Mである。
【0108】
ワクシニアから[C7L−K1L]遺伝子クラスターを除去する基質を得るために、先ず、以下のように、ワクシニアのM2L欠失座に大腸菌ベーターガラクトシダーゼを挿入した(Guo 他,1990)。pSD409においてBglIIサイトを取り除くために、BglIIを用いてワクシニア配列(位置28,212)およびBamHIを用いてpUC/ワクシニア結合部において該プラスミドを切断し、次いで連結処理(ライゲーション)を行い、プラスミドpMP409Bを形成した。唯一のSphIサイト(位置27, 416 )においてpMP409Bを切断した。以下の配列の合成オリゴヌクレオチドを用いる突然変異法(Guo 他、1990;Mandecki,1986)によりM2Lをコードする配列を除去した。
【0109】
BglII
MPSYN82 (配列番号19)5’ TTTCTGTATATTTGCACCAATTTAGATCTT-ACTCAAAATATGTAACAATA 3’
得られたプラスミドpMP409Dは、上記のようにM2L欠失座に挿入された唯一のBglIIサイトを含有する。BglIIで切断されたpMP409Dに、11kDaのプロモーター(Bertholet 他、1985)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kbのBamHI(部分的)/BglIIカセットを挿入した。得られたプラスミドpMP409DBG (Guo 他、1990)をドナープラスミドとして用い、レスキューワクシニアウイルスvP723との組換えを行った。M2L欠失座に挿入されたベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP784が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0110】
ワクシニア遺伝子[C7L−K1L]が欠失されたプラスミドを、SmaI、HindIII で切断され、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片で平滑末端化されたpUC8に組み込んだ。ワクシニアHindIII C配列から成る左側の隣接アームを得るために、pSD420をXbaI(位置18,628)で分解した後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化およびBglII(位置19,706)を用いる分解を行った。ワクシニアHindIII K配列から成る右側の隣接アームは、pSD451をBglII(位置29,062)およびEcoRV(位置29,778)で分解して得られた。得られたプラスミドpMP581CKは、HindIII CのBglIIサイト(位置19,706)とHindIII KのBglIIサイト(位置29062)との間のワクシニア配列が欠失されている。プラスミドpMP581CKにおけるワクシニア配列の欠失部位は図5に三角形で示している。
【0111】
ワクシニア欠失部の過剰なDNAを除去するため、プラスミドpMP581CKをワクシニア配列内のNcoIサイト(位置18,811;19,655)において切断し、Bal−31エクソヌクレアーゼを用いて処理し、さらに、以下の配列を有する合成オリゴヌクレオチドMPSYN233(SEQ ID NO:20)を用いる突然変異法(Mandecki,1986)に供した。
【0112】
5’-TGTCATTTAACACTATACTCATATTAATAAAAATAATATTTATT-3’
得られたプラスミドpMPCSK1Δは、12のワクシニアオープンリーデンフレーム[ C7L−K1L]を包含する18,805〜29,108位置のワクシニア配列が欠失されている。pMPCSK1Δとベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニアウイルスvP784との間に組換えを行わせることにより、ワクシニア欠失変異体vP804が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0113】
実施例6−リボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットを欠失させた
プラスミドpSD548の構築
図6において、プラスミドpSD405は、pUC8にクローニングされたワクシニアHindIII I(位置63,875〜70,367)を含有する。このpSD405をワクシニア配列内でEcoRVにより、また、pUC/ワクシニア結合部においてはSmaIにより消化分解し、連結処理(ライゲーション)することによりプラスミドpSD518を形成した。pSD548の構築に用いたワクシニア制限フラグメントは、全て、このpSD518由来のものである。
【0114】
ワクシニアのI4L遺伝子は、67,371〜65,059の位置に延在している。I4Lの転写方向は、図6において矢印で示されている。I4Lのコード配列の一部が欠失したベクタープラスミドを得るために、pSD518をBamHI(位置65, 381 )およびHpaI(位置67,001)を用いて分解し、且つ、大腸菌のクレノウ断片を用いて平滑末端化した。この4.8kb のベクターフラグメントを、ワクシニアの11kDaのプロモーター(Bertholet 他、1985;Perkus他、1990)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のSmaIカセットに連結して、プラスミドpSD524KBGを得た。このpSD524KBGをドナープラスミドとして、ワクシニアウイルスvP804との組換えを行った。I4L遺伝子の部分欠失位置にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP855が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0115】
ベーターガラクトシダーゼおよび残存するI4LのORFをvP855から欠失させるために、欠失プラスミドpSD548を構築した。以下に詳述し且つ図6に示すように、左側および右側のワクシニア隣接アームをそれぞれ別個にpUC8に組み込んだ。
【0116】
左側のワクシニア隣接アームを受け入れるベクタープラスミドを構築するため、pUC8をBamHI/EcoRIで切断し、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチド518A1/518A2(SEQ ID NO:21 /SEQ ID NO:22)に連結して、プラスミドpSD531を形成した。
【0117】
BamHI RsaI
518A1 5’ GATCCTGAGTACTTTGTAATATAATGATATATATTTTCACTTTATCTCAT
518A2 3’ GACTCATGAAACATTATATTACTATATATAAAAGTGAAATAGAGTA
BglII EcoRI
TTGAGAATAAAAAGATCTTAGG 3’ 518A1
AACTCTTATTTTTCTAGAATCCTTAA 5’ 518A2
RsaI(部分的)およびBamHIでpSD531を切断し、2.7kb のベクターフラグメントを単離した。BglII(位置64,459)/RsaI(位置64994)でpSD518を切断して0.5kb のフラグメントを単離した。これらの2つのフラグメントを互いに連結して、I4Lのコード配列の左側の完全なワクシニア隣接アームを含有するpSD537を形成した。
【0118】
右側のワクシニア隣接アームを受け入れるベクタープラスミドを構築するため、BamHI/EcoRIでpUC8を切断し、以下に示す配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチド518B1/518B2(SEQID NO:23 /SEQ ID NO:24)に連結して、プラスミドpSD532を形成した。
【0119】
BamHI BglII SmaI
518B1 5’ GATCCAGATCTCCCGGGAAAAAAATTATTTAACTTTTCATTAATAG-
518B2 3’ GTCTAGAGGGCCCTTTTTTTAATAAATTGAAAAGTAATTATC-
RsaI EcoRI
GGATTTGACGTATGTAGCGTACTAGG 3’ 518B1
CCTAAACTGCATACTACGCATGATCCTTAA 5’ 518B2
このpSD532をRsaI(部分的)/EcoRIで切断して2.7kb のベクターフラグメントを単離した。pSD518を、ワクシニア配列内をRsaI( 位置67,436)により、また、ワクシニア/pUC結合部をEcoRIによって切断して0.6kb のフラグメントを単離した。2つの断片を互いに連結し、I4Lをコードする配列の右側の完全なワクシニア隣接アームを含有するpSD538を調製した。
【0120】
右側のワクシニア隣接アームは、pSD538から0.6kb のEcoRI/BglIIフラグメントとして単離し、EcoRI/BglIIで切断されたpSD537内に連結した。得られたプラスミドpSD539においては、I4LのORF(位置65,047〜67,836)がポリリンカー領域によって置換されており、該領域は左側を0.6kb のワクシニアDNAにより、また右側を0.6kb のワクシニアDNAにより挟まれており(フランキングされており)、これらは全てpUCバックグランド内にある。ワクシニア配列内の欠失部は、図6において三角形で示している。pSD539のpUC派生部分のベーターガラクトシダーゼが、組換えワクシニアウイルスvP855内のベーターガラクトシダーゼと組換えを行う可能性を回避するため、pSD539からワクシニアI4L欠失カセットを取り除いてpRC11とした。このpRC11は、すべてのベーターガラクトシダーゼが除去され、ポリリンカー領域で置換されたpUC派生体である(Colinas他、1990)。pSD539をEcoRI/PstIで切断して1.2kb のフラグメントを単離した。このフラグメントを、EcoRI/PstIで切断したpRC11(2.35kb)に連結して、pSD548を形成した。pSD548とベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニア組換体vP855との間に組換えを行わせることにより、ワクシニア欠失変異体vP866が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0121】
組換えワクシニアウイルスvP866由来のDNAの分析は、制限酵素分解、次にアガロースゲル上の電気泳動法により行った。制限パターンは予測どおりであった。鋳型としてvP866および上で詳述した6つの欠失遺伝子座を挟むプライマーを用いた複製連鎖反応(PCR)(Engelke 他、1988)により予測された大きさのDNAフラグメントが得られた。PCRで得られたフラグメントの欠失接合領域近傍の配列分析により、接合が期待どおりであることが確認された。上述したような6つの欠失部を有するように工夫した組換えワクシニアウイルスvP866をワクシニアウイルス株「NYVAC」と命名した。
【0122】
実施例7−NYVACへの狂犬病糖タンパク質G遺伝子の挿入
ワクシニアH6プロモーター(Taylor他、1988a,b)の制御下に狂犬病(ウイルス)糖タンパク質Gをコードする遺伝子をTK欠失プラスミドpSD513に挿入した。pSD513は、ポリリンカーが存在している点を除いては、pSD460(図1)と同一である。
【0123】
図7に示すように、pSD460をSmaIで切断し、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドVQ1A/VQ1B(SEQ ID NO:25 /SEQ ID NO:26)に連結することにより該ポリリンカーを挿入することにより、ベクタープラスミドpSD513を形成した。
【0124】
SmaI BglII XhoI PstI NarI BamHI
VQ1A 5’ GGGAGATCTCTCGAGCTGCAGGGCGCCGGATCCTTTTTCT 3’
VQ1B 3’ CCCTCTAGAGAGCTCGACGTCCCGCGGCCTAGGAAAAAGA 5’
このpSD513をSmaIで切断し、ワクシニアH6プロモーター(Taylor他、1988a,b)の制御下に狂犬病糖タンパク質Gをコードする遺伝子を含有し、SmaI末端から成る1.8kb のカセットに連結した。得られたプラスミドをpRW842と命名した。このpRW842をドナープラスミドとして用い、NYVACレスキューウイルス(vP866)と組換えを行った。狂犬病糖タンパク質Gをコードする配列に対する32Pラベル化プローブを用いるプラークハイブリダイゼーションにより組換えワクシニアウイルスvP879を同定した。
【0125】
本発明の改変組換えウイルスは、組換えワクチンベクターとして幾つかの利点を有する。すなわち、ベクターの毒性が弱毒化されているので、ワクチン接種による被接種者が無制御(ランナウェー)感染する可能性が減少し、さらに、感染者から非感染者への伝染や環境の汚染も少なくするという利点を有する。
【0126】
さらに、本発明の改変組換えウイルスは、インビトロ培養される細胞内で遺伝子産物を発現させるのに用いることもでき、このためには、該細胞内で遺伝子産物をコードし発現する外来遺伝子を有する本発明の改変組換えウイルスを該細胞に導入すればよい。
【0127】
実施例8−狂犬病ウイルス糖タンパク質Gを発現するALVAC組換体の構築
この実施例は、カナリアポックスウイルスベクターALVACおよびカナリアポックス−狂犬病ウイルス組換体ALVAC−RG(vCP65)の調製ならびにその安全性と効力について記述するものである。
【0128】
細胞およびウイルス 親カナリアポックスウイルス(Rentschler株)はカナリア用ワクチン株の1つである。このワクチン株は野性型の単離体から入手され、ニワトリ胚繊維芽細胞による200 回以上の連続的な継代培養により弱毒化されたものである。マスターウイルスシードは、寒天下の4回の連続的なプラーク精製に供され、さらに、プラーククローンの1つが5回の追加の継代培養により増殖された後、該ストックウイルスが親ウイルスとしてインビトロ組換え試験に用いられた。プラーク精製されたカナリアポックス単離体は、ALVACと命名されている。
【0129】
カナリアポックス挿入ベクターの構築 880bp のカナリアポックスPvuIIフラグメントを、PUC9のPvuIIサイト間にクローニングしてpRW764.5 を調製した。このフラグメントの配列は、図8(SEQ ID NO:27)において1372〜2251位置に示されている。C5として称されているオープンリーディングフレームの範囲を確認した。このオープンリーディングフレームは、該フラグメント内の位置166で開始され且つ位置487で終結されていることが明らかにされた。オープンリーディングフレームを阻害することなくC5の欠失を行った。位置167から位置455までの塩基を、配列(SEQ ID NO:28)GCTTCCCGGGAATTCTAGCTAGCTAGTTT と置換した。この置換配列は、HindIII 、SmaIおよびEcoRI挿入サイトと、それに後続しワクシニアウイルスRNAポリメラーゼにより認識される翻訳停止シグナルおよび転写終結シグナルを含有している(Yuen他、1987)。C5オープンリーディングフレームの欠失は以下のように行った。プラスミドpRW764.5 をRsaIで部分的に切断して線状の生成物を単離した。このRsaI線状フラグメントをBglIIで再切断し、かくして、位置156から位置462までのRsaIからBglIIまでが欠失したpRW764.5 フラグメントを単離し、以下の合成オリゴヌクレオチド用ベクターとして使用した。
【0130】
RW145(配列番号29)
ACTCTCAAAAGCTTCCCGGGAATTCTAGCTAGCTAGTTTTTATAAA
RW146(配列番号30)
GATCTTTATAAAAACTAGCTAGCTAGAATTCCCGGGAAGCTTTTGAGAGT
オリゴヌクレオチドRW145およびRW146をアニーリングし、上述のpRW764.5 RsaIおよびBglIIベクターに挿入した。得られたプラスミドをpRW831と命名した。
【0131】
狂犬病G遺伝子を含有する挿入ベクターの構築 以下にpRW838の構築について説明する。AからEのオリゴヌクレオチド(狂犬病ウイルスGのH6プロモーターの開始コドンと重なっている)をpUC9にクローニングしてpRW737とした。オリゴヌクレオチドAからEはH6プロモーターを含有し、NruIで始まり、狂犬病ウイルスGのHindIII に到り、その後にBglIIがある。オリゴヌクレオチドAからE((SEQ ID NO:31)から(SEQ ID NO:35 ) )の配列は以下のとおりである。
【0132】
A(配列番号31):CTGAAATTATTTCATTATCGCGATATCCGTTAAGTTTGTATCGTAATGGTTCCTCAGGCTCTCCTGTTTGT
B(配列番号32):CATTACGATACAAACTTAACGGATATCGCGATAATGAAATAATTTCAG
C(配列番号33):ACCCCTTCTGGTTTTTCCGTTGTGTTTTGGGAAATTCCCTATTTACACGATCCCAGACAAGCTTAGATCTCAG
D(配列番号34):CTGAGATCTAAGCTTGTCTGGGATCGTGTAAATAGGGAATTTCCCAAAACA
E(配列番号35):CAACGGAAAAACCAGAAGGGGTACAAACAGGAGAGCCTGAGGAAC
また、アニーリングされたオリゴヌクレオチドAからEを図解すると次のようになる。
【0133】
A C
-------------------------|---------------------------
----------------|------------------|-----------------
B E D
オリゴヌクレオチドAからEをキナーゼ処理し、アニーリングし(95℃で5分間、その後、室温に冷却)、pUC9のPruIIサイト間に挿入した。得られたプラスミドpRW737をHindIII およびBglIIで切断し、ptg155PRO(Kieny他、1984)のHindIII −BglIIの1.6kbpフラグメント用ベクターとして使用しpRW739を調製した。ptg155PROHindIII サイトは、狂犬病Gの翻訳開始コドンの86bp下流にある。また、ptg155PROにおいて、BglIIは狂犬病G翻訳停止コドンの下流にある。pRW739をNruI用いて部分切断し、さらにBglIIを用いて完全切断し、かくして、既知のH6プロモーター(Taylor他、1988a,b ;Guo他、1989;Perkus他、1989)の3′末端から狂犬病Gの全遺伝子までを含有する1.7kbpのNruI−BglIIフラグメントをpRW824のNruIサイトとBamHIサイトとの間に挿入した。得られたプラスミドをpRW832と命名する。pRW824に挿入することにより、NruIのH6プロモーターの5′が付加された。SmaIが後に続いているBamHIのpRW824の配列は、GGATCCCCGGG (SEQ ID NO:36)である。pRW824は、ワクシニアウイルスのH6プロモーターに非関連遺伝子が正確に結合されたプラスミドである。NruIおよびBamHIでの分解によりこの非関連遺伝子を切除した。このpRW832のSmaIの1.8kbpフラグメント(H6をプロモーターとする狂犬病Gを含有している)をpRW831のSmaIに挿入して、プラスミドpRW838を調製した。
【0134】
ALVAC−RGの調製 既知のリン酸カルシウム沈降法を用いて(Panicali他、1982;Piccini 他、1987)、ALVAC感染初期CEF細胞にpRW838を移入させた。特定の狂犬病Gプローブに対するハイブリダイゼーションにより陽性クローンを選択し、純粋な集団が得られるまで6回の連続的なプラーク精製に供した。次に、1つの代表プラークを増殖して、得られたALVAC組換体をALVAC−RG(vCP65)と命名した(図9Aおよび図9B参照)。配列分析により、狂犬病G遺伝子がALVACゲノム内に正しく挿入され、その後の変異が生じていないことを確認した。
【0135】
免疫蛍光 成熟狂犬病ウイルス粒子が形成される最終段階においては、糖タンパク質成分はゴルジ体から形質膜に移送され、そこで、細胞膜質および細胞膜の外表面にあるタンパク質本体にカルボキシ末端を延ばしながら蓄積する。ALVAC−RG内で発現された狂犬病糖タンパク質が正しく存在していることを確認するために、ALVACまたはALVAC−RGで感染された初期CEF細胞上で免疫蛍光測定法を実施した。この免疫蛍光法は、既知の手法(Taylor他、1990)に従い、狂犬病Gのモノクローナル抗体を用いて行った。ALVAC−RGを感染させたCEF細胞においては強い表面蛍光が検出されたが、親のALVACには蛍光は認められなかった。
【0136】
免疫沈降 初期CEF細胞、ベロ(Vero)細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞由来の細胞系、ATCC#CCL81)、およびMRC−5細胞(正常なヒト胎児肺組織から派生された繊維芽細胞類似の細胞系、ATCC#CCL171)から予め形成した単層に、既知の手法(Taylor他、1990)に従い、放射ラベルした35S−メチオニンの存在下に、10pfu /細胞で、親ウイルスALVACおよび組換えウイルスALVAC−RGを接種した。免疫沈降反応は、狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用いて行った。組換えALVAC−RGの場合は、分子量がおよそ67kDa の狂犬病特異的糖タンパク質が効率的に発現していることが検出された。非感染細胞または親ウイルスであるALVACが感染された細胞においては、狂犬病特異的生成物の検出は認められなかった。
【0137】
連続継代培養実験 ALVACを広範囲の非トリ種に適用した研究では、感染の増幅や明白な病気は認められていない(Taylou他、1991b)。しかしながら、親ウイルスおよび組換えウイルスのいずれも非トリ細胞では増殖できないことを確認するため、連続的な継代培養実験を行った。
【0138】
以下の細胞基質に2種類のウイルス、すなわち、ALVACおよびALVAC−RGを接種して10代の連続的な盲検(ブラインド)継代培養を行った。
【0139】
(1) 11日齢の白色レグホーン胚由来の初期ニワトリ繊維芽(CEF)細胞;
(2) ベロ(Vero)細胞−アフリカミドリザルの腎臓細胞由来の無限増殖性細胞
(ATCC#CCL81);および
(3) MRC−5細胞−ヒト胎児の胚組織由来の二倍体細胞系(ATCC#CC
L171)。
【0140】
各細胞につき3ヶの60mm培養皿を用い各皿に2×106 個の細胞が含有されるようにして、0.1pfu/細胞のm.o.i.で最初の接種を行った。培養皿の1つは、DNA複製の阻害剤であるシトシンアラビノシド(Ara C)40μg/mlの存在下に接種を行った。37℃で1時間の吸着期間の後、接種物を除去し、単層を洗浄して非吸着ウイルスを取り除いた。この時点で、培地の置換を行い、2つの培養皿(試料t0および試料t7)には5mlのEMEM+2%NBCSを入れ、また、第3番目の培養皿(試料t7A)には40μg/mlのAra Cを含有する5mlのEMEM+2%NBCSを入れた。試料t0は−70℃で凍結して残存する導入ウイルスの指標とした。試料t7および試料t7Aは37℃で7日間培養し、その後、内容物を回収し、間接音波処理により細胞を破砕した。
【0141】
各細胞基質の試料t7の1mlを同じ細胞基質の3つの培養皿に稀釈せずに接種し(試料t0、t7およびt7Aとする)、さらに、初期CEF細胞の1つの培養皿に接種した。試料t0、試料t7および試料t7Aは第1代継代のために処理した。CEF細胞への追加接種は、非トリ細胞中に存在し得るようなウイルスに対する高感度検出用の増殖工程に供した。
【0142】
この操作を繰り返して、10代の連続ブラインド継代培養(CEFおよびMRC−5)または8代(ベロ)の連続ブラインド継代培養を行った。試料を凍結し、3回解凍して初期CEF単層上で滴定を行うことにより分析した。
【0143】
次に、寒天下にCEF単層上でプラーク滴定を行うことによりウイルス収量を測定した。実験結果をまとめて表1および表2に示す。
【0144】
この結果から、親のALVACおよび組換体のALVAC−RGの両方とも、CEF単層上で複製を持続する能力を有し力価の損失はないことが示されている。ベロ(Vero)細胞においては、ALVACについては第2代後、また、ALVAC−RGについては第1代後にウイルスのレベルは検出レベル以下に低下した。MRC−5においても同様の結果が示され、第1代後にはウイルスが検出されなかった。表1および表2には第4代までの結果しか示していないが継代培養を第8代(Vero)および第10代(MRC−5)まで行ったところ、これらの非トリ細胞においてはいずれのウイルスも検知可能となるように成長適応化していなかった。
【0145】
第1代においては、MRC−5細胞およびVero細胞のt7試料には比較的高レベルのウイルスが存在した。しかしながら、このレベルは、t0試料およびウイルスの複製が起こり得ないようにシトシンアラビノシドの存在下に接種を行ったt7A試料において見られるレベルに等しかった。このことは、非トリ細胞において7日目に認められたウイルスレベルは、残存ウイルスを表し新たに複製されたウイルスではないことを示している。
【0146】
分析をさらに高感度にするため、各細胞基質から7日目に回収したものの一部を、任意のCEF単層に接種し、細胞変性効果(CPE)が認められた時に回収するか、またはCPEが見られない場合は7日目に回収した。この実験結果を表3に示す。任意の細胞基質による増殖後においも、MRC−5細胞およびVero細胞においては、更に2代の継代でウイルスが検出されるだけであった。これらの結果から、採用した条件下では、Vero細胞またはMRC−5細胞においてはいずれのウイルスも増殖できるように適応化できないことが明らかである。
【0147】
アカゲザルへの接種 HIVに関して血清反応陽性の4匹のアカゲザルに先ずALVAC−RGを接種した(表4)。100 日後、該動物に再接種して追加免疫効果を調べ、さらに、追加の7匹のアカゲザルにいろいろな投与量で接種を行った。適当な間隔で血液を抜き出し、56℃において30分間の加熱不活性化後、高速蛍光焦点阻害(Rapid Fluorescent Focus Inhibition:RFFI)分析法(Smith 他、1973)により狂犬病ウイルス抗体の存在を血清分析した。
【0148】
チンパンジーへの接種 オトナのオスのチンパンジー2匹(体重範囲50〜65kg)に、vCP65を1×107 pfu で筋肉内また皮下接種した。該動物の反応を観察し、また、規則的な間隔で採血を行いRFFIテスト(Smith 他、1973)により抗狂犬病ウイルス抗体の存在を分析した。最初の接種から13週間後、同じ投与量で該動物に再接種した。
【0149】
マウスへの接種 グループ分けしたマウスに、異なるバッチ由来のvCP65をいろいろな希釈度で50〜100 μl接種した。マウスへの接種は足蹠に接種した。14日目に、狂犬病ウイルスの毒性CVS株を15〜43マウスLD50で頭蓋内接種することによりマウスの免疫性テストを行った。マウスの生存率を監視し、接種から28日目における50%防御投与量(PD50)を求めた。
【0150】
イヌおよびネコへの接種 10匹のビーグル犬(5ヶ月齢)および10匹のネコ(4ヶ月齢)に、ALVAC−RGを6.7 または7.7log10TCID50で皮下接種した。4匹のイヌおよび4匹のネコには接種を行わなかった。接種後14日および28日後にそれらの動物の採血を行い、RFFIテストにより抗狂犬病ウイルス抗体を分析した。6.7log10TCID50のALVAC−RGが投与された動物については、接種後29日目に、NYGS狂犬病ウイルス免疫性テスト株の3.7log10(マウスLD50)(ビーグル犬)または4.3log10(マウスLD50)(ネコ)を用いて免疫性テストを行った。
【0151】
リスザルへの接種 各グループが4匹のリスザル(Saimiri Sciureus)から成る3グループのリスザルに、3種類のウイルスの1つ、すなわち、(a) ALVAC(カナリアポックス親ウイルス)、(b) ALVAC−RG(狂犬病G糖タンパク質を発現する組換体、または(c) vCP37(ネコ白血病ウイルスのエンベロープ糖タンパク質を発現するカナリアポックス組換体)を接種した。接種はケタミン麻酔下に実施した。各動物は以下を同時に投与された:(1) 乱刺を行わずに右目の表面に滴注された20μl、(2) 口中に数滴として100 μl、(3) 右腕の外表面の毛をそった皮膚内の2つの注射部位にそれぞれ100 μl;および(4) 右大腿の前部筋肉に100 μl。
【0152】
4匹のサルに各ウイルスを接種し、2匹についてはlog10pfuとして全量5.0 とし、また、他の2匹についてはlog10pfuとして7.0 とした。規則的な間隔で該動物の採血を行い、血清を分析してRFFIテスト(Smith 他、1973)により抗狂犬病ウイルス抗体を調べた。接種に対する該動物の反応を毎日観察した。最初の接種から6ヶ月後、ALVAC−RGを投与された4匹のリスザル、vCP37をはじめに投与された2匹のリスザルに加えて非投与のリスザル1匹に、ALVAC−RGを6.5log10pfu で皮下接種した。血清を分析して、RFFIテスト(Smith 他、1973)により狂犬病ウイルス中和抗体の存在を調べた。
【0153】
ヒト細胞系へのALVAC−RGの接種 当該ウイルスが複製しない非トリ細胞内で外来遺伝子が効率的に発現されるか否かを判定するため、5種類の細胞系、すなわち、1種類のトリ系および4種類の非トリ系について分析を行い、ウイルス収量、外来狂犬病G遺伝子の発現およびウイルス特異的DNA蓄積を調べた。接種した細胞は次のとおりである。
【0154】
(a) Vero細胞。アフリカミドリザル腎臓細胞。ATCC#CCL81。
【0155】
(b) MRC−5細胞。ヒト胎児肺細胞。ATCC#CCL171 。
【0156】
(c) WISH細胞。ヒト羊膜由来。ATCC#CCL25。
【0157】
(d) Detroit-532 細胞。ヒト包皮由来。ダウン症候群。ATCC#CCL54。
【0158】
(e) 初期CEF細胞。
【0159】
11日齢白色レグホーン胚由来のニワトリ胚繊維芽細胞を陽性対照として用いた。接種は全て、下記のように予め調製した2×106 細胞から成る単層に実施した。
【0160】
A.DNA分析法。
【0161】
各細胞系について3ヶの培養皿を用い、被試験ウイルスを5pfu /細胞で接種し、さらに、各細胞系について1ヶの培養皿を追加し非接種用とした。培養皿の1つについては、40μg/mlのシトシンアラビノシド(Ara C)の存在下に培養を行った。37℃において60分間の吸着期間の後、接種物を除き、単層を2回洗浄して非吸着ウイルスを除去した。次いで、培地(Ara Cを含有するもの、または含有しないもの)の交換を行った。培養皿の1つ(Ara Cを含有しないもの)からは、時間ゼロにおける試料として細胞を回収した。残りの皿は、37℃で72時間保持した後、細胞を回収してDNA蓄積の分析に用いた。2×106 細胞から成る各試料を40mMのEDTAを含有する0.5ml のリン酸緩衝塩溶液(PBS)に再懸濁して37℃で5分間保温した。42℃で予め加温し120 mMのEDTAを含有する等体積の1.5 %アガロースを細胞懸濁液に添加してゆっくり混合した。該懸濁液をアガロースプラグモールドに移し、少なくとも15分間放置して硬化させた。次いで、アガロースプラグを取り除き、該プラグを完全に覆うような体積の溶解緩衝液(1%のサルコシル、100 μg/mlのプロティナーゼK、10mMのトリスHCl pH7.5 、200mMのEDTA)内で50℃において12〜16時間インキュベートした。次に、該溶解緩衝液を5.0ml の無菌0.5 ×TBE(44.5mMのトリス−ホウ酸、44.5mMのホウ酸、0.5 mMのEDTA)と置換して、TBE緩衝液を3回変えながら4℃において6時間平衡化した。パルスフィールド電気泳動装置を用いて細胞RNAおよびDNAからプラグ内にあるウイルスDNAを分別した。電気泳動は、50〜90秒の傾きで0.5 ×TBE内で15℃において、180Vで20時間実施した。ラムダDNAを分子量標準としてDNAを泳動させた。電気泳動後、エチジウムブロミドで染色することによりウイルスDNAのバンドを可視化した。次にDNAをニトロセルロース膜に移し、精製ALVACゲノムDNAから調製した放射ラベル化プローブを用いて分析した。
【0162】
B.ウイルス収量の推定
培養皿への接種は上記と同じように行った。但し、感染多重度は0.1pfu/細胞とした。感染72時間後、凍結および解凍サイクルを3回連続的に実施することにより細胞を溶解した。CEF単層上でプラーク滴定を行うことによりウイルス収量を調べた。
【0163】
C.狂犬病G遺伝子の発現の分析
組換えウイルスまたは親ウイルスを10pfu /細胞の多重度で培養皿に接種するとともに、追加の皿を非感染ウイルス対照用とした。1時間の吸着期間の後、培地を除去し、無メチオニン培地と置換した。30分後、この培地を、25μCi/ml の35S−メチオニンを含有する無メチオニン培地と置換した。感染細胞を一晩かけて(約16時間)ラベル化し、次に、バッファーA溶解バッファーを添加することにより溶解した。狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用い既知の手法に従い(Taylor他、1990)、免疫沈降を実施した。
【0164】
結果:ウイルス収量の推定
細胞当たり0.1pfuで接種し72時間後に行ったウイルス収量を求める滴定分析の結果を表5に示す。この結果が示すように、トリ細胞においては強い感染が生じ得るが、4種類の非トリ細胞系においてはこの方法ではウイルス収量の増加は検知されない。
【0165】
ウイルスDNAの蓄積の分析 DNA複製の前または後に非トリ細胞におけるウイルス複製の阻害が生じたか否かということを判定するために、細胞破砕物からのDNAを電気泳動法により分画し、ニトロセルロースに移し、ウイルス特異的DNAを探査した。非感染CEF細胞、時間ゼロにおけるALVAC−RG感染CEF細胞、接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞および接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞(40μg/mlのシトシンアラビノシド存在下)由来のDNAはいずれもある程度のバックグランド活性を示したが、これは、おそらく、放射ラベル化ALVAC DNAプローブの調製に際して混入したCEF細胞DNAに因るものと思われる。しかしながら、接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞は、約350kbpの領域にALVAC特異的ウイルスDNAの蓄積を表す強いバンドを示した。DNA合成阻害剤であるシトシンアラビノシドの存在下に培養物をインキュベートしてもそのようなバンドは検出されなかった。Vero細胞で得られた相応する試料については、時間ゼロにおけるALVAC−RG感染Vero細胞において約350kbpにおいて非常に弱いバンドが示された。このレベルは残存ウイルスを表すものであった。接種72時間後にはバンド強さが増加されており、このことは、Vero細胞においてはある程度のレベルのウイルス特異的DNA複製が起こったが、ウイルス子孫の増加を生じさせはしなかったということを示唆している。MRC−5細胞で得られた相応する試料においては、これらの条件下でウイルス特異的DNAの蓄積は検出されなかった。この実験を広げ、追加のヒト細胞系、すなわちWISH細胞およびDetroit-532 細胞についても実施した。ALVAC感染CEF細胞を陽性対照とした。ALVAC−RGが接種されたWISH細胞およびDetroit 細胞のいずれにおいてもウイルス特異的DNA蓄積は検出されなかった。なお、この方法の検出限界は完全には確認されておらず、ウイルスDNA蓄積は起こっているのかも知れないが、該方法の感度よりも低いレベルであろう。 3H−チミジンの取り込みによりウイルスDNA複製が測定された他の実験は、Vero細胞およびMRC−5細胞に関して得られた上記の結果を支持している。
【0166】
狂犬病遺伝子の発現分析 ウイルス遺伝子、特に挿入された外来遺伝子の発現が、ウイルスDNA複製の非存在下においてもヒト細胞系で起こっているか否かを判定するために、ALVACおよびALVAC−RGを感染させたトリ系細胞および非トリ系細胞由来の35S−メチオニンラベル化破砕物について免疫沈降実験を実施した。狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用いる免疫沈降実験の結果、ALVAC−RGを感染させたCEF、Vero、MRC−5、WISHおよびDetroit の各細胞において67kDaの糖タンパク質から成る特異的免疫沈降が認められた。非感染細胞および親ウイルスを感染させた細胞の破砕物のいずれにおいても、そのような特異的狂犬病遺伝子産物は検出されなかった。
【0167】
この実験結果が示唆することは、分析したヒト細胞系においては、ALVAC−RG組換体はH6初期/後期ワクシニアウイルスプロモータの転写制限下に感染を開始し外来遺伝子産物を発現させることはできるが、DNA複製を介する複製は進行せず、また、検知され得るようなウイルス子孫は産生しなかったということである。Vero細胞においては、ある程度のレベルのALVAC−RG特異的DNA複製は認められたが、この方法ではウイルス子孫は検出されなかった。これらの結果は、分析したヒト細胞系においてはウイルス複製の阻止はDNA複製の開始前に起こるが、Vero細胞においてはウイルスDNA複製の開始後に該阻止が起こることを示している。
【0168】
ALVAC−RG内で発現された狂犬病糖タンパク質が免疫原性を有するか否かを判定するために、多くの動物種に該組換体を接種してテストした。現行の狂犬病ワクチンの効力はマウスモデル系で評価されている。そこで、ALVAC−RGを用いて同様のテストを行った。感染力価が6.7 から8.4 (log10 (TCID50/ml))の範囲にある9種類の異なったウイルス調製物(種ウイルスを10回組織培養による継代培養して得られたワクチンバッチ(J) を含む)を連続的に稀釈し、50〜100 μlの稀釈液を4週齢から6週齢のマウスの足蹠に接種した。14日後に、マウスLD50(対照用マウスグループにおける致死滴定量から求めた)が15から43の狂犬病ウイルスCVS株300 μlを頭蓋内投与してマウスを免疫性テストした。PD50(50%防御投与量)として表す効力を免疫性テストから14日目に計算した。実験結果を表6に示す。この結果から、ALVAC−RGは狂犬病ウイルスの免疫性テストに対して恒常的にマウスを防御することができ、PD50値は、3.33から4.56の範囲にあり平均値3.73(STD0.48)であることが示されている。追加実験として、6.0log10TCID50のALVAC−RGを含有するウイルス50μlまたは等体積の非感染細胞懸濁液をオスのマウスに頭蓋内接種した。接種から1日、3日および6日目にマウスを殺し、その脳を取り出し、固定化し薄片に切断した。組織病理学検査によれば、マウス内にALVAC−RGの神経毒性の証拠は認められなかった。
【0169】
イヌおよびネコに対するALVAC−RGの安全性および効力を評価するため、14匹の5ヶ月齢のビーグル犬、ならびに14匹の4ヶ月齢のネコから成るグループの分析を行った。該イヌおよびネコのそれぞれについて4匹にはワクチン接種を行わなかった。該動物の5匹には6.7 log10 TCID50で皮下投与した。動物の採血を行い、抗狂犬病抗体の分析を行った。非投与または6.7log10TCID50のALVAC−RGを投与した動物に対しては、接種から29日目に、NYGS狂犬病ウイルス免疫性テスト株の3.7log10(マウスLD50)(ビーグル犬、側部筋に)または4.3log10(マウスLD50)(ネコ、頸部に)を用いて免疫性テストを行った。実験結果を表7に示す。
【0170】
ネコおよびイヌのいずれにおいても且ついずれの接種ウイルス投与量においても接種に対する副作用は認められなかった。6.7log10TCID50で免疫された5匹のイヌのうち4匹は、ワクチン接種14日目に抗体力価を示し、29日目には全てのイヌが抗体力価を有した。4匹の対照用イヌのうち3匹を死なせるような免疫性テストに対して全てのイヌが防御された。ネコの場合、6.7log10TCID50で投与された5匹のネコのうち、3匹が14日目に特異的抗体力価を有し、そして、29日目には全てが陽性となったが、平均抗体力価は低く2.9 IUであった。対照用ネコの全てを死なせるような免疫性テストにおいて、5匹のネコのうち3匹が生存した。7.7log10TCID50で免疫したネコは全て14日目に抗体力価を示し、29日目には幾何平均力価は8.1 国際単位(IU)であった。
【0171】
ALVAC、ALVAC−RGおよび非関連カナリアポックスウイルス組換体の接種に対するリスザル(Saimiri Sciureus)の免疫応答を試験した。幾つかのグループに分けたリスザルに上述したように接種を行い、血清を分析して狂犬病特異的抗体の有無を調べた。皮内投与に対する軽い典型的な皮膚反応を除いては、いずれのサルにおいても副作用は認められなかった。投与から2日目および4日目だけは、皮内接種後の皮膚外傷部から少量の残留ウイルスを単離した。7日目以降は全ての検体が陰性であった。筋注に対する局部反応は認められなかった。ALVAC−RGが接種された4匹のサルは全て、RFFIテストで測定すると、抗狂犬病血清中和抗体を産生していた。最初の接種から約6ヶ月後、全てのサルおよび追加の非接種サル1匹に、左側大腿部の外表面に6.5log10TCID50のALVAC−RGを皮下経路で再接種した。血清を分析して抗狂犬病抗体の存在を調べた。結果を表8に示す。
【0172】
狂犬病ウイルス未感染の5匹のサルのうち4匹は、ALVAC−RGの接種7日後に血清学的応答を示した。接種11日後までには5匹のサル全てが検出可能な抗体を有した。予め狂犬病糖タンパク質に感染された4匹のサルについては、ワクチン接種から3日から7日の間に血清中和力価に有意の増加が認められた。この結果から、リスザルにALVAC−RGをワクチン接種すると副作用は生じず、一次中和抗体応答が誘起され得ることが示された。再接種により既往反応もまた誘導された。ALVACに、または非関連外来遺伝子を発現するカナリアポックス組換体に予め感染していても、再ワクチン接種に際して、抗狂犬病免疫反応の誘発を妨げない。
【0173】
HIV−2に関して血清反応陽性のアカゲザルにおいてALVAC−RG接種に対する免疫応答を調べた。該動物に上述のように接種を行い、RFFIテストにより抗狂犬病血清中和抗体の有無を分析した。表9に結果を示すように、皮下接種されたHIV−2陽性アカゲザルは、1回の接種から11日目までに抗狂犬病抗体を産生した。最初の接種から約3ヶ月後に与えた追加免疫接種後に既往応答が検出された。該組換体が経口投与された動物には何らの応答も検出されなかった。更に、一連の6匹のアカゲザルに投与量を減少させながらALVAC−RGを筋肉内または皮下投与した。接種された6匹のうち5匹がワクチン接種から14日目までに応答を示したが抗体力価に有意の差は無かった。
【0174】
以前にHIV感染した2匹のチンパンジーに7.0log10pfu のALVAC−RGを皮下または筋肉内接種した。該接種から3ヶ月後に両チンパンジーに同じ方法で再ワクチン接種した。結果を表10に示す。
【0175】
筋肉内または皮下接種のいずれにおいても接種に対する副作用は見られなかった。いずれのチンパンジーも初回接種から14日目までに応答し、そして、再接種後に強く上昇している応答が検出された。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0176】
実施例9−狂犬病糖タンパク質を発現するカナリアポックス
(ALVAC−RG;vCP65)を用いるヒトの免疫化
実施例9および図9Aおよび図9Bで記述したようにALBAC−RG(vCP65)を調製した。スケールアップおよびワクチン生産のため、SPF(Specified pathogen free)卵由来の初期CEFにおいてALVAC−RG(vCP65)を増殖させた。細胞を0.1 の多重度で感染させ、37℃において3日間インキュベートした。
【0177】
該感染細胞から成る無血清培地中で超音波破砕することによりワクチンウイルスの懸濁液を得た。次に、細胞破片を遠心分離とろ過により取り除いた。得られた清澄な懸濁液に凍結乾燥安定剤(アミノ酸の混合物)を加え、単一投与用バイアル内に分散させ、凍結乾燥した。凍結乾燥の前に、無血清培地および凍結乾燥剤の混合物に入れたウイルス懸濁液を連続的に10倍稀釈することにより力価が徐々に低下した3種類のバッチを調製した。
【0178】
細胞基質、培地およびウイルス種株ならびに最終生成物に対しては、外来物質の探索および実験用げっ歯類動物に対する接種性に特に注意して品質管理試験を行った。望ましくない特徴は見出されなかった。
【0179】
前臨床データ インビトロ試験によれば、VERO細胞またはMRC−5細胞はALVAC−RG(vCP65)の増殖を支持せず、8回の連続継代培養(VEROの場合)および10回の連続継代培養(MRCの場合)によって、これらの非トリ細胞系において当該ウイルスが検出され得るように増殖適応化されないことが示された。ALVAC−RG(vCP65)が感染または接種されたヒト細胞系(MRC−5、WISH、Detroit-532 、HEL、HNKまたはEBV形質転換リンパ芽球細胞)の分析では、ウイルス特異的DNAの蓄積は認められず、これらの細胞においてはDNA合成の前に複製の阻害が起こることが示唆された。しかしながら、重要なことは、試験された全ての細胞系での狂犬病ウイルス糖タンパク質の発現から、カナリアポックス複製サイクルにおける不稔過程はウイルスDNA複製に先行して起こることが示唆されたことである。
【0180】
一連の動物実験においてALVAC−RG(vCP65)の安全性と効力が明らかにされた。多数の動物種、例えばカナリア、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、実験用げっ歯類(マウスの乳獣および成獣)、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、リスザル、アカゲザルおよびチンパンジーに、105 から108 pfu の投与量範囲で接種が行われた。各種の投与経路を検討し、最も一般的には皮下、筋肉内および皮下投与であったが、経口(サル類およびマウス)や頭蓋内投与(マウス)も採用した。
【0181】
カナリアにおいては、ALVAC−RG(vCP65)は、乱刺部位に「癒着」外傷を引き起こしたが、疾病や死亡の徴候はなかった。ウサギへの皮内接種は典型的なポックスウイルス接種反応を示したが、この反応が拡がることはなく、7日から10日で治癒した。いずれの動物においてもカナリアポックスに因る副作用は無かった。げっ歯類、イヌ、ネコおよび霊長動物にALVAC−RG(vCP)を接種した後、高速蛍光焦点阻害テスト(RFFIT)によって測定すると、抗狂犬病抗体が産生していることにより免疫原性があることが明らかにされた。また、ALVAC−RG(vCP65)で免疫したマウス、イヌ、およびネコに狂犬病ウイルスを免疫性テストすることにより防御機能が発現することも明らかにされた。
【0182】
ボランティア 狂犬病免疫化の前歴のない年齢20〜45才の25人の健康な成人を登録した。病歴調査、身体検査および血液の化学分析を行うことにより、これらのボランティアの健康状態を調べた。妊娠、アレルギー症、あらゆる種類の免疫低下症、慢性的な衰弱症、がん、過去3ヶ月以内の免疫グロブリンの投与、およびヒト免疫不全症ウイルス(HIV)またはB型肝炎表面抗原に対する血清反応陽性を有する者は排除した。
【0183】
試験計画 標準的なヒトジプロイド細胞狂犬病ワクチン(HDC)(フランスLyonのPasteur Merieux Serums & Vaccine製)または対象ワクチンALVAC−RG(vCP65)のいずれかが投与されるようにボランティアを無作為に振り分けた。
【0184】
この試験は投与量(用量)漸増試験とした。3つのバッチ由来の試験対象ワクチンALVAC−RG(vCP65)を3グループのボランティア(グループA,BおよびC)に2週間間隔で逐次的に使用した。それらの3つのバッチの濃度は、それぞれ、1回の投与当たり、103.5 、104.5 および105.5 TCID50(Tissue Culture Infectious Dose : 50 %組織培養感染量)とした。
【0185】
各ボランティアには、2週間間隔で三角筋域に同一のワクチンを2回皮下投与(注射)した。最初の投与時にはボランティアには投与ワクチンの種類を知らせないが、研究者には分かるようにした。
【0186】
第2回目の投与時に即時過敏症を可及的に少なくするため、実験対象ワクチンの中間用量が投与されるように割り当てられたグループBのボランティアには、1時間前に低用量を投与し、また、高用量グループ(グループC)のボランティアには1時間間隔で低用量および中間用量を逐次投与した。
【0187】
6ヶ月後、最も高用量のALVAC−RG(vCP65)の被投与者(グループC)およびHDCワクチンの被投与者に第3回目のワクチン投与を行った。次に、該被投与者を無作為に分けて以前と同一のワクチンまたは別のもう一方のワクチンを投与した。このようにして、以下の免疫化スケジュールに対応する4つのグループを構成した:1.HDC、HDC−HDC;2.HDC、HDC−ALVAC−RG(vCP65);3.ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)−HDC;4.ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)。
【0188】
副作用の観察 すべての被験者を投与1時間後に観察し、さらに次の5日間にわたり毎日検査した。次の3週間、局部反応および全身反応について尋ね、1週間に2度、電話により質問した。
【0189】
実験室における分析 登録前、ならびに各投与後2日目、4日目および6日目に血液標本を採取した。実施した分析には、血球数、肝臓酵素およびクレアチンキナーゼの分析が含まれていた。
【0190】
抗体分析 最初の投与の7日前ならびに実験開始から7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に抗体分析を行った。
【0191】
中和抗体のレベルの測定には、高速蛍光焦点阻害テスト(RFIIT)(Smith 他、1973)を採用した。カナリアポックス抗体は、直接ELISAにより測定した。これには、抗原、すなわち、0.1 %Triton×100 で破砕した精製カナリアポックスウイルスの懸濁液をマイクロプレートに被覆した。血清の固定化稀釈液を室温下で2時間反応させ、ペルオキシダーゼでラベルした抗ヒトIgGヤギ抗体を用いて反応性抗体を出現させた。結果を490nm における吸光度として表した。
【0192】
分析 25名を被験者として登録し試験を行った。男性が10名、女性が15名であり、平均年齢は31.9才(21才〜48才)であった。3名を除く全てが、以前に種痘のワクチン接種を受けていた。残りの3名の被験者は瘢痕およびワクチン接種の前歴がなかった。3名の被験者に試験対象ワクチンの低用量のそれぞれ(103.5 および104.5 TCID50)を投与し、9名の被験者には105.5 TCID50を投与し、さらに10名の被験者にHDCワクチンを投与した。
【0193】
安全性(表11) 初回免疫に際して、投与から24時間以内に37.7℃より高い熱を示したのは、HDCを投与された者の1名(37.8℃)および105.5 TCID50のvCP65を投与された者の1名(38℃)であった。ワクチン接種によるその他の全身性反応はいずれの被投与者にも見られなかった。
【0194】
皮下接種によるHDCワクチンの被投与者の9/10に、また、103.5 、104.5 および105.5 TCID50のvCP65被投与者には、それぞれ0/3 、1/3 および9/9 に局部的反応が見られた。
【0195】
痛覚が最も一般的な症状であったが、常に軽いものであった。他の局所的症状として発赤および硬化があったが、これらも軽く且つ一過性のものであった。すべての症状は一般に24時間以内におさまり、72時間以上持続することはなかった。
【0196】
血球数、肝臓酵素またはクレアチンキナーゼの値に有意の変化はなかった。
【0197】
免疫応答:狂犬病に対する中和抗体(表12) 最初の投与から28日後、HDC被投与者のすべてが(感染)防御力価(>0.5IU/ml)を有していた。これに対して、ALVAC−RG(vCP65)の被投与者においては、この防御力価に達したのは、グループAおよびB(103.5 および104.5 TCID50)の被投与者にはなく、またグループC(105.5 TCID50)では2/9 のみであった。
【0198】
56日目(すなわち、2回目接種(二次接種)から28日目)に、ALVAC−RG(vCP65)ワクチン被投与者においては、グループAでは0/3 、グループBでは2/3 およびグループCでは9/9 が防御力価を得、また、HDC被投与者においては10名の全てにおいて、この防御力価が持続されていた。
【0199】
56日目における幾何平均力価は、グループA、B、CおよびHDCにおいて、それぞれ、0.05、0.47、4.4 および11.5IU/ml であった。
【0200】
180 日目には、すべての被験者において狂犬病抗体力価はかなり低下したが、HCD被投与者のうち5/10、また、ALVAC−RG(vCP65)被投与者のうち5/9 においては、最低防御力価0.5IU/ml以上に持続されていた。HCDグループおよびグループCにおける幾何平均力価は、それぞれ、0.51および0.45IU/ mlであった。
【0201】
カナリアポックスウイルスに対する抗体(表13) 高力価被験者にカナリアとの接触の前歴が無いにも拘わらず、0.22から1.23O.D.の広範囲にわたる前免疫(pre-immune)力価が認められた。前免疫力価とその後の第2回目の投与による力価との差の2倍以上増加した場合に血清変換(seroconversion)が起こったと定義すれば、グループBの被験者の1/3 、グループCの被験者の9/9 に血清変換が起こったが、グループAまたはHDCの被験者には血清変換はなかった。
【0202】
追加免疫投与 6ヶ月後の追加免疫投与(追加接種)時にはワクチンは充分に許容できるものとなった。HDC追加免疫被投与者の2/9 、また、ALVAC−RG(vCP65)追加免疫被投与者の1/10に発熱が見られた。局部反応は、HDC追加免疫被投与者の5/9 、また、ALVAC−RG(vCP65)追加免疫被投与者の6/10に認められた。
【0203】
観察結果 図11A〜図11Dは、狂犬病中和抗体力価(高速蛍光焦点阻害試験、RFFITによる。単位IU/ml)を示すグラフであり、ボランティアに対するHDCまたはvCP65(105.5 TCID50)の追加免疫効果を示している(該ボランティアには以前に同一のワクチンまたはもう一方のワクチンを接種)。ワクチン接種は0日、28日および180 日目に実施した。抗体力価の測定は、0日、7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に行った。
【0204】
図11A〜図11Bに示すように、追加免疫投与するとどの免疫スケジュールでも全ての被験者に狂犬病抗体力価の上昇をもたらした。しかしながら、ALVAC−RG(vCP65)追加免疫は、全体的に、HDC追加免疫よりも低い免疫応答を誘発しており、また、ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)−ALVAC−RG(vCP65)の順序から成るグループは、他の3つのグループよりも顕著に力価が低くなっていた。同様に、ALVAC−RG(vCP65)を追加免疫投与すると、以前にHDCワクチンが投与された被験者の3/5 に、また、以前にALVAC−RG(vCP65)で免疫化された被験者の全てに、カナリアポックス抗体力価の上昇をもたらした。
【0205】
一般的に、vCP65の投与による局所的副作用からウイルスの局所的複製が起こっていることは示されなかった。特に、ワクチン接種後に見られるような外傷はなかった。このように見かけ上はウイルスの複製が無いにも拘わらず、該投与により、カナリアポックスベクターおよび発現された狂犬病糖タンパク質の双方に対する有意量の抗体がボランティアに産生された。
【0206】
狂犬病中和抗体の分析は、高速蛍光焦点阻害テスト(RFFIT)により実施したが、この方法は、マウスにおける血清中和テストと良好に相関性を有することで知られている。105.5 TCID50の被投与者9名のうち5名は、初回投与後の応答レベルが低かった。最も用量(投与量)の高い被投与者全員、また、中間用量の被投与者も3名のうち2名において、2回目の投与後に防御力価を有する狂犬病抗体が得られた。この試験においては、両ワクチンとも、生ワクチンについては、一般的に推奨されているが不活性HDCワクチンには勧められていない皮下投与により接種した。この投与経路を選択したのは、投入部位(注射部位)を入念に調べることができる点において最良であるからであるが、このために、HDC被投与者における抗体の出現が遅くなったことも考えられる:事実、HDC被投与者のいずれも7日目には抗体上昇を示さず、一方、HDCワクチン筋肉内投与する多くの試験においては、被験者の大部分に抗体上昇が認められている(Klietmann 他、国際緑十字(ジュネーブ)、1981;Kuwert他、国際緑十字(ジュネーブ)、1981)。しかしながら、本発明は必ずしも皮下投与に限定されるものではない。
【0207】
被験ワクチンにおける狂犬病中和抗体のGMT(幾何平均力価:geometric mean fiters)は、HDC対照ワクチンよりも低かったが、防御に必要な最低力価を充分に上まわるものであった。3種類の投与量を採用した本試験において得られた明瞭な用量依存性応答は、より高い投与量により、より強い応答を誘発される可能性があることを示している。当業者であれば本明細書の開示から、所与の患者に至適な投与量を選択できることは明らかであろう。
【0208】
本実施例の他の重要な結果は、抗体応答を増強(ブースト)する能力である。免疫スケジュールの如何に拘わらず6ヶ月目の投与後には全ての被験者に狂犬病抗体力価の上昇が見られており、このことは、カナリアポックスウイルスまたは狂犬病糖タンパク質により誘発された既存の免疫は、当該組換えワクチン候補または従来からのHDC狂犬病ワクチンによる追加接種に対する阻害作用を有しないということを示している。このことは、ワクシニア組換体をヒトに用いた場合、既存の免疫によって免疫応答が阻害されるという従来の知見(Cooney他,1991;Etinger 他)とは対照的である。
【0209】
かくして、本実施例が明示するように、非複製性ポックスウイルスはヒトにおいて免疫化ベクターとして機能することができ、その際、複製性の作用物質が免疫応答に与えるような全ての利点を有しながら、完全に許容性のウイルスが引き起こすような安全上の問題はない。そして、本実施例および他の実施例の教示から、狂犬病ウイルスまたはその他のコードもしくは発現産物を含有する組換体を投与または免疫接種するに際して、至適な投与量(用量)または投与方式や投与経路を選択することは、インビトロ発現法とともに当業者には明らかであろう。
【表11】
【表12】
【表13】
【0210】
実施例10−ALVACおよびNYVACと各種のワクシニアウイルス株
とのLD50の比較
マウス 異系交配したオスのスイス・ウェブスター(Swiss Webster)マウスをTaconic Farms (米国ニューヨーク州Germantown)から購入し、3週齢(「標準」マウス)になって使用に供されるまで、マウス飼料と水を任意に(ad libitum)に与えて飼育した。異系交配したオスとメスのスイス・ウェブスター新生マウスはTaconic Faums によって実施された計画妊娠に従って入手した。使用された新生マウスは全て出産から2日以内に引き渡されたものである。
【0211】
ウイルス ALVACは、カナリアポックスウイルスの集団をプラーク精製し、初期ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)内で調製されたものである。ショ糖密度勾配遠心法により精製した後、CEF細胞内のALVACのプラーク形成単位を測定した。ワクシニアウイルスのWR(L)変異株はWRの大プラーク表現型を選択することによって得られたものである(Panicali他、1981)。ワクシニアウイルスのWyeth ワクチン株(New York State Board of Health)はPharmaceuticals Calf Lymph Type vaccine Dryvaxから管理番号302001B として入手したものである。ワクシニアウイルスのCopenhagen株VC−2はフランスのInstitut Merieuxから入手した。ワクシニアウイルスのNYVAC株はCopenhagen株VC−2から誘導されたものである。Wyeth株をのぞき、これらの株は全て、アフリカミドリザルの腎臓由来のVero細胞で培養し、ショ糖密度勾配遠心法により精製し、そしてVero細胞上のプラーク形成単位を測定した。Wyeth 株はCEF細胞内で増殖し、CEF細胞内のプラーク形成単位を測定した。
【0212】
接種 各グループ10匹から成る標準マウスにウイルス稀釈液の1つ0.05mlを頭蓋内(ic)接種した。ウイルス稀釈液は保存ウイルス液を連続的に10倍稀釈することによって調製した。場合によっては、滅菌リン酸緩衝食塩水中の保存ウイルス液を稀釈せずに接種した。
【0213】
各グループ10匹から成る新生マウス(1日齢または2日齢)にも標準マウスと同様にic接種した。但し、接種量は0.03mlとして使用した。
【0214】
すべてのマウスについて、毎日、接種から14日間(新生マウスの場合)または21日間(標準マウスの場合)にわたって死亡率を観察した。接種の翌朝に死亡したマウスは、トラウマによる死亡の可能性があるので排除した。
【0215】
被験個体数の50%を死亡させるのに要する致死量(LD50)は、ReedおよびMuenchの比例法に従って求めた。
【0216】
若い異系交配標準マウスにおけるic経路によるALVACおよびNYVACと各種のワクシニアウイルス株とのLD50の比較 若い標準マウスにおいては、NYVACおよびALVACの毒性は、試験した他のワクシニアウイルス株よりも数桁低かった(表14)。NYVACおよびALVACは、Wyeth 株よりも3,000 倍以上平常マウスにおける毒性が低く;親株であるVC−2株よりも12,500倍以上毒性が低く;そして、WR(L)変異株よりも63,000,000倍以上毒性が低いことが見出された。これらの結果から、NYVACは他のワクシニアウイルスよりも高度に弱毒化されており、また、ALVACは頭蓋内投与された場合、若いマウスには一般に非毒性性であると考えられる。但し、両者ともきわめて高投与量の場合(ALVACを3.85×108 PFU 、NYVACを3×108 PFU )、未だ不明の機序により、この投与経路によりマウスの死亡をもたらすことがある。
【0217】
異系交配新生マウスにおけるic投与によるALVACおよびNYVACと各種のワクシニア株とのLD50の比較 標準新生マウスにおける5種類のポックスウイルス株の相対的毒性を頭蓋内(ic)免疫性テストモデル系における滴定によって調べた(表15)。終点としての死亡と共に、LD50の値が示したところによれば、ALVACは、ワクシニアウイルスのWyeth 株よりも100,000 倍以上毒性が低く;ワクシニアウイルスのCopenhagenVC−2株よりも200,000 倍以上毒性が低く;そして、ワクシニアウイルスのWR(L)変異株よりも25,000,000倍以上毒性が低い。但し、試験した最高投与量(6.3 ×107 PFU )においては、100 %死亡率となった。6.3 ×106 PFU では33.3%の死亡率が認められた。最高投与量グループ(約6.3 LD50)の平均生存時間(MST)が6.7 ±1.5 日であることから、死因は(未だはっきりしないが)おそらく毒性または外傷性によるものではないであろう。免疫性テスト投与量5LD50におけるWR(L)のMSTは4.8±0.6日であったが、それと比較すると、ALVACが免疫性テストされたマウスのMSTは有意に長いものであった(P=0.001)。
【0218】
NYVACと比較すると、Wyeth は15,000倍以上毒性が高く;VC−2は35,000倍以上毒性が高く;そして、WR(L)は3,000,000 倍以上毒性が高いことが見出された。ALVACの場合と同様に、NYVACの投与量が高くなる(6×108 PFU および6×107 PFU )と、100 %死亡率となった。しかしながら、そのような最高用量(380 LD50に相応)で免疫性テストされたマウスのMSTは僅か2日(2日目に9匹死亡、4日目に1匹死亡)であった。これに対して、最高用量(500 LD50に等しい)のWR(L)で免疫性テストされたマウスは全て4日目まで生存した。
【表14】
【表15】
【0219】
実施例11−NYVAC(vP866)およびNYVAC−RG(vP879)
の評価
免疫沈降 トリ細胞または非トリ細胞の予め形成した単層に、親ウイルスであるNYVAC(vP866)ウイルスまたはNYVAC−RG(vP879)ウイルスを10pfu /細胞接種した。この接種は2%の透析したウシ胎児血清を添加した無メチオニンEMEM内に行った。1時間インキュベートした後、接種物を除き、培地を20μCi/ml の35S−メチオニンを含有するEMEM(無メチオニン)と置換した。一晩、約16時間インキュベートした後、緩衝液A(1%のNonidet P-40、10mMトリス(pH7.4)、150mM のNaCl、1mMのEDTA、0.01%のアジ化ナトリウム、アプロチニン500 単位/ml、および0.02%のフェニル・メチル・スルホニル・フルオリド)を添加して細胞を溶解した。免疫沈降には、狂犬病糖タンパク質特異的モノクローナル抗体24−3F10(入手先:米国ニューヨーク州AlbanyのGriffith Laboratories, New York State Department of HealthのC. Trinarchi博士)およびラットの抗マウスコンジュゲート(入手先:Boehringer Mannheim Corporation,カタログ番号605-500)を使用した。支持マトリックスとしてプロテインAセファロースCL−48(入手先:米国ニュージャージー州PiscatawayのPharmacia LKB Biotechnology 社)を用いた。10%ポリアクリルアミドゲル上で免疫沈降物を分画した(Dreyfuss 他、1984)。ゲルを固定化し、蛍光写真に供するため1Mのサリチル酸ナトリウム塩で1時間処理し、Kodak のXAR−2フィルムに露光して免疫沈降したタンパク質種を現像した。
【0220】
動物源 ニュージーランド(New zealand)白色ウサギをHare-Marland(米国ニュージャージー州Hewitt)から入手した。3週齢のオスの異系交配スイス・ウェブスター(Swiss Webster)マウス、計画妊娠しているメスの異系交配スイス・ウェブスターマウス、および4週齢のスイス・ウェブスターヌードマウス(nu+ nu+ ) をTaconic Farms 社(米国ニューヨーク州Germantown)から入手した。これらの動物は全てNIHのガイドラインに従って飼育した。動物のプロトコールは全てIACUCによって承認されたものである。必要と考えられた場合には、明らかに致命的な疾病を有しているマウスは安楽死させた。
【0221】
ウサギにおける外傷評価 2匹のウサギのそれぞれに、104 、 105 、 106 、 107 もしくは108 pfu の各被験ウイルスを含有するPBSまたはPBSのみを0.1ml 複数部位に皮内接種した。4日目から外傷が消散するまでウサギを毎日観察した。硬化および潰瘍形成を測定し記録した。
【0222】
接種部位からのウイルス回収 1匹のウサギに、106 、 107 もしくは108 pfu の各試験ウイルスを含有するPBSまたはPBSのみの0.1ml を複数の部位に皮内接種した。11日目に、ウサギを安楽死させ、各接種部位から採取した皮膚のバイオプシー標本を機械的破砕および間接音波処理により無菌的に調製してウイルスを回収した。CEF単層上のプラーク滴定により感染ウイルスを分析した。
【0223】
マウス内の毒性 各グループ10匹から成るマウス、または5匹から成るヌードマウスに、0.5ml の無菌PBSに溶かしたウイルスのいくつかの稀釈液の1つをip接種した。実施例11も参照。
【0224】
シクロホスホアミド(CY)処理 −2日目に4mg(0.02ml)のCY(SIGMA製)をマウスにip注入した後、0日目にウイルス注入を行った。ウイルス注入後、次のようにマウスにCYをip注入した:1日目に4mg;4日、7日および11日目に2mg;14日、18日、21日、25日および28日目に3mg。Coulter 計数装置を用い11日目に白血球を計数することにより免疫抑制を間接観察した。平均白血球数は、非処理マウス(n=4)については13,500白血球/μl、また、CY処理した対照マウスについては4,220 白血球/μlであった(n=5)。
【0225】
LD50の計算 ReedおよびMuenchによる比例法(ReedおよびMuench, 1938)により、50%死亡率をもたらすのに要する致死量(LD50)を求めた。
【0226】
マウスにおけるNYVAC−RGの効力試験 4週齢から6週齢のマウスの足蹠に、VV−RG(Kieny 他、1984)、ALVAC−RG(Taylor他、1991b)、またはNYVAC−RGのいずれかの一定範囲稀釈液(50%組織培養感染量(TCID50)として2.8 〜8.0log 10)の50〜100 μlを接種した。各グループは8匹のマウスから構成した。ワクチン接種後14日目において、狂犬病ウイルスCVS株(0.03ml)の15LD50を頭蓋内接種することによりマウスへの免疫性テストを行った。28日目に生存マウスを数え、50%防御投与量(PD50)を求めた。
【0227】
NYVAC(vP866)の誘導 ワクシニアウイルスのNYVAC株は、Copenhagenワクチン株をプラーククローニングして得られたVC−2から調製されたものである。VC−2からNYVACを調製するためには、本明細書において既述したような一連の操作を行って、18ヶのワクシニアのORF(オープンリーディングフレーム)(毒性に関連する多数のウイルスの機能を含む)を正確に欠失させた。これらの欠失を行うに当たっては、非所望の新規なオープンリーディングフレームが出現しないように設計した。図10は、NYVACを調製するのに欠失させたORFを図示する。図10の上部には、ワクシニアウイルスゲノム(VC−2プラーク単離体、Copenhagen株)のHindIII 制限マップを示す。NYVACを調製するのに逐次欠失させたVC−2の6つの領域を拡大して示している。これらの欠失については本明細書において既述した(実施例1から実施例6)。そのような欠失位置の下に、該位置から欠失させたORFを、その遺伝子産物の機能ないしはホモロジーおよび分子量とともに掲記している。
【0228】
ヒト組織細胞系におけるNYVACおよびALVACの複製試験 ヒト由来の細胞におけるワクシニアウイルスのNYVAC株(vP866)の複製レベルを調べるため、液体培養条件下、導入多重度0.1pfu/細胞で6種類の細胞系に接種し、72時間インキュベートした。親株のCopenhagenクローン(VC−2)の接種も併せて行った。初期ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)(10〜11日齢のSPF起源の胚卵。米国コネチカット州StorrsのSpafas社製)を使用して全てのウイルスに対する許容細胞基質とした。2つの基準、すなわち、産生的なウイルス複製が生じているかということ、および、外来抗原が発現しているかということに基づいて培養物の分析を行った。
【0229】
ヒト由来のいろいろな細胞におけるNYVACの複製能を表16に示す。VC−2およびNYVACのいずれもCEF細胞内で複製する能力を有するが、NYVACの方が幾分収量(産生量)が低い。VC−2も、EBV形質転換リンパ球芽細胞系JT−1(エプステインバーウイルスで形質転換されたヒトリンパ球芽細胞系。Rickinson 他(1984)を参照)を除き、試験した6種類のヒト由来細胞系で産生的複製能力を有している。これに対して、NYVACは、試験したヒト由来細胞系のいずれにおいてもその複製能力が高度に減弱されている。NYVACを感染させたMRC−5(ATCC#CCL171 、ヒト胎児肺由来)、DETROIT532(ATCC#CCL54。ヒト包皮、ダウン症候群)、HEL299(ATCC#CCL137 、ヒト胎児肺細胞)、およびHNK(ヒト新生児腎臓細胞。米国メリーランド州Wakersville のWhittiker Bioproducts 社製、カタログ#70-151)細胞から、残存ウイルスレベルを超える感染ウイルスの僅かな増加が見られている。これらの細胞系における複製は、NYVAC感染CEF細胞または親株のVC−2から得られたウイルス収量(産生量)に比較すると有意に減少していた(表16)。注目すべきことには、NYVACおよびVC−2のいずれについても、24時間におけるウイルス収量は72時間の収量に等しい。したがって、該ヒト由来細胞系培養物を更に48時間(ウイルス生成サイクルの2回分)培養させると、相対的なウイルス収量を上昇させたかも知れない。
【0230】
上記のヒト由来細胞系においては、ウイルス収量が低かったことに一致して、MRC−5およびDETROIT532においてもNYVAC特異的DNAの複製は、検出可能ではあったが、そのレベルは低かった。NYVACを感染させたMRC−5およびDETROIT532細胞系におけるDNA複製レベルは、NYVAC感染CEF細胞で見出されたレベルと比較すると、ウイルス収量において近似していた。その他のヒト由来細胞のいずれにおいてもNYVAC特異的ウイルスDNA複製は見出されなかった。
【0231】
トリポックスウイルスであるALVACを用いても同様の実験を行った。このウイルス複製の結果も表16に示す。いずれのヒト細胞系においても子孫ウイルス(子ウイルス)は検出されず、カナリアポックスウイルスの宿主範囲によりトリ種に制限されていることに相反しない。さらに、いずれのヒト由来細胞系においてもALVAC特異的なDNA蓄積は検出されなかったという事実も、それらのヒト由来細胞のおいてALVACの産生的複製が起こらないということに矛盾していない。
【0232】
ヒト細胞におけるNYVAC−RG(vP879)による狂犬病糖タンパク質の発現 産生的ウイルス複製が実質的に起こらない場合においても外来遺伝子の効率的な発現が得られるかということを判定するために、上記と同じ細胞系に、35S−メチオニンの存在下に、狂犬病ウイルス糖タンパク質発現性のNYVAC組換体(vP879、実施例7)を接種した。該狂犬病糖タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用い、放射ラベルした培養破砕物から狂犬病糖タンパク質を免疫沈降させた。67kDaのタンパク質の免疫沈降物が得られたが、これは狂犬病糖タンパク質が完全にグリコシル化された形態に一致する。非感染細胞破砕物または親のNYVACが感染した細胞破砕物において血清学的に交差性の生成物は検出されなかった。分析した他の細胞においても同様の結果が得られた。
【0233】
ウサギ皮膚への接種 ワクシニアウイルス株の病原性の尺度として、皮内(id)接種後のウサギの皮膚外傷およびその特徴が利用されている(Buller他、1988;Child 他、1990;Fenner他、1958;Flexner 他、1987;Ghendon およびChernos 1964)。そこで、ワクシニア株WR(CV−1細胞ATCC#CCL70でプラーク精製したATCC#VR119 からのL変異体と命名されたプラーク単離体から、Panicali他(1981)の記述に従って選択されたATCC#VR2035。)、WYETH(ATCC#VR325 。米国ペンシルバニア州MariettaのWyeth Laboratories社からDRYVACとして市販)、COPENHAGEN(VC−2)およびNYVACを2匹のウサギ(A069およびA128)にid接種した場合の外傷の特徴を調べた。これらの2匹のウサギはウイルスに対する全体的な感度が異なっており、ウサギA128の方がウサギA069よりも応答性が低かった。ウサギA128においては外傷は比較的軽くて、接種後27日目までに消散した。ウサギA069においては、外傷程度は強く(特にWR接種部位)、49日経過後ようやく消散した。また、外傷の強さは、リンパ液排出網状組織に対する接種部位の相対的な位置に依存していた。特に脊椎上に位置する部位の外傷が強く、脾腹にある外傷が消散するのに長い時間を要した。4日目から最後の外傷が消えるまで全ての外傷を毎日調べ、外傷の最大サイズの平均値および消散までの日を求めた(表17)。対照であるPBSの注入部位には局部反応は見られなかった。WR、VC−2およびWYETHワクシニアウイルス株の注入部位には潰瘍性外傷が見られた。重要なことは、NYVACの接種部位には硬化または潰瘍性外傷が観察されなかったということである。
【0234】
接種部位における感染性ウイルスの残存 接種部位における各ウイルスの相対的な残存性を調べるため、106 、 107 、または108 pfu のVC−2、WR、WYETHまたはNYVACを含有する0.1ml のPBSをウサギの複数部位に皮内接種した。各ウイルスについて、107 pfu を脊椎上に投与し、その両側に106 および108 を投与した。接種部位を11日間にわたって毎日観察した。WRが最も強い反応を誘導し、次いで、VC−2およびWYETHとなった(表18)。潰瘍が最初に見出されたのは、WRおよびWYETHについては9日目、VC−2については10日目であった。NYVACまたは対照用PBSが接種された部位は硬化または潰瘍形成を示さなかった。接種後11日目に、接種部位から皮膚試料を切除し、機械的に破砕し、CEF細胞上でウイルスを滴定した。結果を表18に示す。いずれの場合においても、この時点では投与量よりも多量のウイルスは回収されなかった。ワクシニア株WRの回収量は、ウイルス投与量とは無関係に約106 pfu であった。ワクシニア株WYETHおよびVC−2の回収量は投与量と関係なく103 から104 pfu であった。NYVACを接種した部位からは感染性ウイルスは回収されなかった。
【0235】
遺伝的または化学的に免疫不全性のマウスへの接種 ヌードマウスに高投与量のNYVAC(5×108 pfu )またはALVAC(109 pfu )を腹腔内投与したが、10日間の観察期間を通じ、死亡、外傷および明らかな疾病を引き起こすことはなかった。これに対して、WR(103 から104 pfu )、WYETH(5×107 または108 pfu )またはVC−2(104 から109 pfu )を接種されたマウスは、先ず趾部に、次いで尾部にポックスウイルスに典型的な播種性外傷を示し、その後、幾つかのマウスにおいては深刻な睾丸炎が見られた。WRまたはWYETHを感染させたマウスは播種性外傷が出現すると、一般的に、最終的には死亡したが、VC−2を感染させたマウスは多くの場合、最終的には回復した。LD50計算値を表19に示す。
【0236】
さらに詳述すると、VC−2を接種されたマウスは先ず趾部に、そして、それより1〜2日後には尾部に外傷(赤色丘疹)を示す。これらの外傷は、高投与量(109 、108 、107 および106 pfu )を投与されたマウスについては接種後から11〜13日目、105 pfu を投与されたマウスにおいては接種後16日目、また、104 pfu を投与されたマウスにおいては接種後21日目に出現した。103 および102 を投与されたマウスにおいては100 日間の観察期間中外傷は見出されなかった。109 および108 pfu を投与されたマウスにおいては接種後23日目に、また、他のグループのマウス(107 から104 pfu )においては、それより約7日後に睾丸炎が認められた。睾丸炎は109 および108 投与グループにおいて特に強く、次第に後退してはゆくが、100 日間の観察期間の終わりまで認められた。数匹のマウスの皮膚には、接種後30〜35日目に幾つかのポックス性の外傷が認められた。これらのポックス外傷の多くは、一般に接種後60〜90日目に治癒した。109 pfu を接種されたグループのマウスのうち1匹のみが死亡し(接種後34日)、また、108 pfu を投与されたグループのマウスの1匹が死亡(接種後94日)した。VC−2が接種されたマウスにその他の死亡は見られなかった。
【0237】
104 pfu のWRワクシア株を接種されたマウスは、接種後17日目にポックス性外傷を示し始めた。これらの外傷は、VC−2接種マウスに見られた外傷と同じであった(趾部、尾部の腫脹)。103 pfu のWR株を接種されたマウスでは接種後34日目まで外傷は出現しなかった。睾丸炎が認められたのは高用量のWR(104 pfu )が接種されたマウスのみであった。観察期間の後期に口の周りに外傷が現れマウスは食餌を止めた。104 pfu のWRを接種したマウスは全て、接種後21日から31日目に死亡するか、必要に応じて安楽死させた。103 pfu のWRを投与した5匹のうち4匹は、接種後35日から57日目に死亡するか、必要と考えられた場合は安楽死させた。低投与量のWR(1から100pfu)が接種されたマウスには死亡は認められなかった。
【0238】
高投与量(5×107 および5×108 pfu )のワクシニアWYETH株を投与したマウスは、趾部および尾部に外傷を示し、睾丸炎が発生し、そして死亡した。5×106 pfu またはそれ以下のWYETHを投与したマウスは疾病や外傷の症状を示さなかった。
【0239】
表19に示すように、CY処理されたマウスは、ポックスウイルスの毒性を分析するのにヌードマウスの場合よりも高感度のモデル系を与える。WR、WYETH、およびVC−2に関するLD50値は、このモデル系においてはヌードマウスモデルの場合よりも有意に低くなっていた。さらに、WYETH、WRおよびVC−Rワクシニアウイルスをマウスに投与した場合、以下に記すように、各ウイルスをさらに高い用量で投与することにより外傷が出現し、この結果、外傷の形成がさらに迅速になっている。ヌードマウスにおいて見られたように、NYVACまたはALVACを注入されたCY処理マウスは外傷を示さなかった。しかしながら、ヌードマウスの場合とは異なり、NYVACまたはALVACを用いて免疫性テストされたCY処理マウスにおいては、投与量とは無関係に、死亡が見られたものもあった。これらの無作為の出来事が死因と関係しているかも知れない。
【0240】
WYETHが投与されたマウスはいずれの投与量においても(9.5 ×104 から9.5 ×108 pfu )、接種後7日目から15日目の間に尾部および/または趾部にポックス性外傷を示した。さらに、尾部および趾部は腫脹した。尾部での外傷の出現は、ポックス性外傷の典型的なものであり、丘疹の形成、潰瘍形成、そして最後には痂皮の形成を伴う。VC−2が投与されたマウスも、すべての投与量において(1.65×105 から1.65×109 pfu )、WYETH投与マウスの場合に類似した尾部および/または趾部にポックス性外傷を示した。これらの外傷は、接種後7−12日の間に観察された。これより低用量のWRウイルスを投与したマウスには外傷は見られなかったが、これらのグループで死亡は生じた。
【0241】
NYVAC−RGの効力試験 ワクシニアウイルスのCOPENHAGEN株を弱毒化すすることにより、それから得られるNYVAC株のベクターとしての有用性を実質的に変化させていないことを明らかにするため、比較効力試験を行った。該ウイルスを弱毒化するのに行われた一連の遺伝子操作中の該ベクターの免疫原性能を調べるため、リポーター外来抗原として狂犬病ウイルスの糖タンパク質を利用した。該狂犬病糖タンパク質を発現するベクターの感染防御効力の評価は狂犬病に関する標準的なNIHマウス効力試験によった(Seligmann 、1973)。表20に示しているように、高度に弱毒化したNYVACベクターについて得られるPD50値は、tk遺伝子座に狂犬病遺伝子を含有するCOPENHAGEN由来組換体を用いて得られた値(Kieny 他、1984)と同じであり、また、ALVAC−RG(トリ種に複製が制限されているカナリアポックス由来ベクター)について得られたPD50に近似している。
【0242】
考察 よく知られた毒性遺伝子が欠失され且つ限定されたインビトロ増殖特性を有するNYVACを動物モデル系で分析して、その弱毒化特性を調べた。これらの試験に当たって、神経毒性のあるワクシニアウイルスの実験室株、WR、2種類のワクシニアウイルスワクチン株、WYETH(New York City Board of Health)およびCOPENHAGEN株(VC−2)、さらには、カナリアポックスウイルス株であるALVACとの比較を行った(実施例11も参照)。さらに、これらのウイルスについてマウス免疫性テストモデルおよびウサギ皮膚モデルにおける相対的な病原性の可能性のスペクトルが調べられた。すなわち、WRが最も毒性の高い株であり、WYETHおよびCOPENHAGEN(VC−2)は弱毒化ワクチン株として既に利用されているような立証された特徴を有し、そして、ALVACは複製がトリ種に制限されるようなポックスウイルスの1例であることが理解された。これらのインビボ分析は、ワクシニアウイルス株WR、WYETHおよびCOPENHAGEN(VC−2)に比べるとNYVACが高度に弱毒化された特性を有するものであることを明示している(実施例14〜20)。重要なことは、NYVACにおけるLD50値は、トリ宿主制限トリポックスウイルスであるALVACにおいて見出された値に匹敵したということである。NYVACに因る死亡は、ALVACと同様に、きわめて高用量のウイルスが頭蓋投与された場合のみ見出された(実施例11、表14、15、19)。この死亡が多量のタンパク質を接種した非特異性に因るものであるか否かは未だ明らかでない。免疫無防備状態マウスモデル(ヌードマウスおよびCY処理マウス)における分析からも、WR、WYETHおよびCOPENHAGEN株に比べてNYVACが高度に弱毒化された特徴を有することが明らかにされた(表17および18)。重要なことは、NYVAC接種動物またはALVAC接種モデルにおいては、観察期間を通して、ワクシニア感染の播種やワクシニア性疾病の形跡が見出されなかったということである。NYVACにおいて複数の毒性関連遺伝子を欠失させると、病原性に関する相乗効果が示された。NYVACの接種特性を知る別の手段としてウサギ皮膚への皮内投与を行った(表17および18)。非トリ種において複製能力を有しないウイルスであるALVACに関する結果を考察すると、接種部位における複製能力のみが反応性に相関しているのではない。ALVACの皮内接種は投与量に依存して硬化域をもたらしたからである。すなわち、ウイルスの複製能力以外の因子が外傷の形成に寄与しているものと推測される。NYVACにおいて毒性に関連する特定の遺伝子を欠失させると外傷の発生が防止される。
【0243】
さらに、本実施例および既述の実施例(実施例10を含む)の結果から、WR、ならびに既に利用されているワクシニアウイルスワクチン株であるWYETHおよびCOPENHAGENに比べてNYVACが高度に弱毒化された特性を有することが明らかである。事実、試験した動物モデル系におけるNYVACの病原性プロフィルは、トリ種においてのみ産生的複製を行うことで知られたポックスウイルスであるALVACのプロフィルに類似していた。NYVACの産生的複製能がヒト(表16)およびその他の動物(マウス、ブタ、イヌおよびウマを含む)由来の細胞において見かけ上制限されていることが重要な障壁となって、ワクチン接種されたヒトの中で播種する可能性の低いベクターを提供できることに加えて、ワクチン接種者内部または一般的な環境への伝染を制限したり防止することになる。
【0244】
重要なことは、NYVAC系ワクチンが効力を有することが示されたことである。各種の病原体由来の外来遺伝子産物を発現するNYVAC組換体は、霊長類を含む幾つかの動物種において該外来遺伝子産物に対する免疫応答を引き起こした。特に、狂犬病糖タンパク質を発現するNYVACを基礎とする組換体は致死的な狂犬病ウイルスの免疫性テストに対してマウスを防御する能力を有した。該NYVAC由来狂犬病糖タンパク質組換体の効力は、tk遺伝子座に狂犬病糖タンパク質を含有するCOPENHAGEN由来組み換え体のPD50に匹敵するものであった(表20)。また、NYVACを基礎とする組換体は、ウサギにおいて麻疹ウイルス中和抗体を誘起し、ブタにおける擬狂犬病ウイルスおよび日本脳炎ウイルスの免疫性テストに対して防御機能を有した。高度に弱毒化されたNYVAC株は、ヒト、動物、医学および獣医学の分野での利用において安全であるという利点を有する(Tartaglia 他、1992)。さらに、一般の実験的発現ベクター系としてNYVACを使用すれば、ワクシニアウイルスに関連する生物学的危険性(ハザード)が激減する。
【0245】
本実施例およびその他の実施例(実施例10を含む)の結果が示すように、次のような基準によりNYVACが高度に弱毒化されたものであることを明らかにした:a)接種部位に硬化または潰瘍化が検出されないこと(ウサギ皮膚);b)皮内接種部位から感染ウイルスが迅速に存在しなくなること(ウサギ皮膚);c)睾丸炎症がないこと(ヌードマウス);d)毒性が激減していること(3週齢マウスおよび新生マウスの両方における頭蓋内免疫性テスト);e)免疫不全被験体において病原性が激減しており播種しないこと(ヌードおよびシクロホスホアミド処理マウス);およびf)各種のヒト組織培養細胞において複製能が著しく減少していること。そして、高度に弱毒化されているのにも拘わらず、NYVACは、ベクターとして、外来抗原に対する強力な免疫応答を保有している。
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【0246】
実施例12 RHDVキャプシドを発現するNYVACおよびALVACの生成
細胞系統およびウイルス株
NYVAC組換体vP1249およびカナリアポックスウイルス組換体vCP309の生成に用いられたレスキューウイルスは、それぞれNYVACウイルスvP866(Tartaglia 他 1992)およびカナリアポックスALVAC(CPpp)(Taylor 他 1991)であった。RHDV(Sa ne et Loire単離体)を、フランスにおいて感染したウサギより得た。ウイルスを増殖させ、力価はVeroまたはCEF細胞炭層の何れかにおいて測定した。
【0247】
ウイルス増殖およびRNA調製
RHDV(Sa ne et Loire単離体)はウサギにおいて、濾過された肝臓ホモジネートの筋内注入後に増殖させた。RHDV感染により死亡した動物由来の肝臓は−70℃で凍結させた。全RNA調製を、ChomczynskiおよびSachi(1987)の方法に基づく手順を用いて行った。この報告に記載されている全ての酵素は、Boehringer Mannheim Gmbh(Germany)より購入した。
【0248】
簡潔には、2.0gの感染ウサギ肝臓組織を、乳棒およびモーターを用いて液体窒素の存在下で破砕し、続いて0.1ml酢酸ナトリウム(2M、pH4.0)、1.0mlH2 O飽和フェノール、および0.2mlクロロホルム:イソアミルアルコール(49:1)により連続的に抽出した。最終エマルジョンを強力に混合し、15分間氷上に放置した後、13krpmで20分間、4℃で遠心分離した。核酸を、イソプロパノールの添加および13krpmで、20分間、4℃で遠心分離することにより得た。沈殿を、65℃で5分間、20mMクエン酸ナトリウムおよび0.37%サルコシルおよび使用される当日に調製された0.5M 2−メルカプトエタノールを含む、0.2mlの3Mグアニジンチオシアネート溶液中加熱することにより溶解させた。RNA沈殿を、13krpm、4℃での遠心分離により回収し、冷75%エタノールで2回洗浄した後、ジエチルピロカーボネート(DEPC)処理された50μlの水に再懸濁させた。全ての溶液はDEPC処理された水を用いて調製された。
【0249】
RHDVキャプシド遺伝子のcDNAクローニング
全RNAを、以前に記述されたように(Taylor 他 1990)第1鎖cDNAを生成するために用いた。1本鎖cDNAを続いて、95℃で5分間加熱し、氷上で冷却した後、5μlの10xPCRバッファー、3.75μlの2mM dNTPs、5μlの5μM 5’末端プライマー(配列番号40)
5’ CTGGAATTCTATCGCGATATCCGTTAAGTTTGTATCGTAATGGAGGGCAAAGCCCGT 3’
5μlの5μM 3’末端プライマー(配列番号41)
5’ GTAAGCTTATCAGACATAAGAAAAGCC 3’
26μlのH2 Oおよび0.25μlのTaqポリメラーゼ(5.0u/μl)と混合した。30サイクルのPCR増幅を、40μlの鉱物油を含む0.5mlチューブ中で以下の概要で実行した:94℃1分、60℃1分、および72℃1分。PCR水層反応物をフェノール−クロロホルム抽出し、エタノール沈殿させ、続いてEcoRIおよびHindIIIによって消化した。増幅された1.8bpDNA断片を、1%アガロースゲル上で精製し、Gene Clean手順を、製造者(Bio 101,Inc.,La Jolla,CA)の指定に従って用いて単離し、ベクターpBluescript SK+(Stratagene,La Jolla,CA)の対応するサイトにクローン化し、プラスミドpLF11を生成した。
【0250】
変異実験
第1の潜在初期転写終結シグナル(5TAT 位置#1600、図1a)(Yuen and Moss,1987)を除去するために、プライマーLF093(配列番号42)
5’-TGGCAGTTAACCTTTGCATCTGGTTTCATGGAGATCGGTTTAAGTGTGGACGGGTACTTCTATGC A-3’
およびLF094(配列番号43)
5’-TATAAGCTTTCAGACATAAGAAAAGCC-3’
を用いたpLF11DNAのPCR増幅に基づいて二重変異を行った。
【0251】
その結果得られた190bpの断片をHpaIおよびHindIIIで消化し、続いて精製し、4.5bpのHindIII/HpaI断片にライゲーションさせ、pLF11aを生成した。第2の潜在初期転写終結シグナル(5TAT 位置#213、図1a)を除去するために、pLF11aDNAにおける二重ラウンドのPCR増幅により第2の二重変異を操作した。pLF11aDNAに関しての第1のPCRラウンドは、以下のプライマーの組、[LF070(配列番号44)(5’-TCATTCGAATTCTATCGCGATATCCGTTAAGTTTGTATCGTAATG-3’)
/LF095(5’-ATTGTAATAGAAGTTTGTTCT-3’)
および[LF096(配列番号45)(5’-AGAACAAACTTCTATTACAAT-3’)
/LF097(5’-GCGAAACTGCATGCCACCAGC-3’)
を用いて実行され、それぞれ250bpと140bpの、2つの部分的にオーバーラップしているDNA断片を生成した。PCR増幅の第2のラウンドは、両方の部分的にオーバーラップしている精製された250bpおよび140bpのDNA断片および外部プライマーLF070およびLF097の存在下で行った。その結果得られた380bpDNA断片を、EcoRIおよびSphIで消化した後精製し、pLF11aのEcoRI/SphI 4.3kbpDNA断片とライゲーションさせ、pLF11bを生成した。全てのPCR増幅は以前に記述された条件を用いて行った。
【0252】
ドナープラスミドpLF14の構築
pLF11bの1.8bp NruI/HindIII DNA断片を精製し、カナリアポックスC6座左(377bp)および右(1155bp)アーム(Goebel 他 1995)の間にクローン化されたワクシニア初期/後期H6プロモーター(Perkus 他 1989)の100bpのNruI/HinfIDNA断片を含んでいる改変pBluescript SK+プラスミドの4.5bp NruI/HindIII断片とライゲーションし、pLF14を生成した。
【0253】
ドナープラスミドpLF12の構築
pLF11bの1.8bp NruI/BamHI DNA断片を精製し、pSD550VCの3.6bp NruI/BamHI断片とライゲーションし、pLF12を生成した。pSD550VCを派生させるために、BglIIおよびBamHI制限サイトを有するポリリンカーを、pSD548(Tartaglia 他,1992)のBglIIおよびSmaIサイトの間にクローン化し、ワクシニア初期/後期H6プロモーターを、続いてBglIIサイト中に導入した。
【0254】
ヌクレオチド配列決定および配列分析
プラスミドDNAをSequenase2.0キットの指示(US Biochemical)に従って配列決定し、配列分析をPC Gene software(Intelligenetics)を用いて行った。
【0255】
NYVAC組換体vP1249およびカナリアポックス組換体vCP309のインビボ組換え、精製、増幅、および濃縮
組換え実験を、以前に記述されたように(Perkus 他 1993)、pLF14およびpLF12をドナーDNAとして、ALVAC(CPpp)およびNYVACをレスキューウイルスとしてそれぞれ用いて行った。ウイルスは、アガロースの下のCEF単層上にプレートし、組換えプラークを、全RHDVキャプシド遺伝子に特異的な放射性標識プローブを用いたインサイチュハイブリダイゼーションにより、Perkus 他,1993に記載されているとおりに同定した。各々の組換え実験について、陽性プラークを精製し組換えウイルスを、Taylor 他 (1991)に従って増幅し、濃縮した。
【0256】
放射性免疫沈降およびポリアクリルアミドゲル電気泳動
放射性免疫沈降分析を、以前に記述されたとおりに(Pincus 他 1992)、vCP309またはvP1249に感染させたVero細胞から派生された[35S]メチオニン標識溶解物およびRHDVモノクローナル抗体調製物(3H6および1H8)(Wirblich 他 1994)を用いて行った。イムノ沈殿物を、10%SDS−PAGE上で分画した。沈殿されたポリペプチドを、サリチル酸ナトリウムを用いた標準的な蛍光法で可視化した(Sambrook 他 1989)。
【0257】
vCP309感染細胞のFACS分析
FACScan分析を、Tine 他 (1990)に記載されているとおりに、RHDVモノクローナル抗体3H6および1H8を用いて行った。
【0258】
ウサギVHD投与研究
生後4、5または9週のSPFウサギ群を、皮下または皮内経路の何れかで、vCP309でワクチン接種した(0.2ml)。ワクチン接種群に、105 または107 の何れかのプラーク形成単位(pfu )のvCP309を第0日に接種した。4匹のSPFウサギの群には、107 のプラーク形成単位(pfu )のvP1249を第0日に接種した。第28日に追加免疫注入を受けた群に関しては(表21)、第2の注入を同じ接種物により行った。生RHDV免疫性テスト曝露を、第42日に102 LD50のLST L4/90.10 RHDV株を用いて行った。動物は、生存した動物を剖検しRHDV誘導された外傷について調査する前の8日間の期間にわたって観察した。血液試料を第28日および第42日に回収した。抗RHDV抗体を、ELISAおよび血球凝集阻害アッセイ(HIA)の両方で滴定した。
【0259】
キャプシド遺伝子の配列分析
他のRHDV単離体のヌクレオチド配列(Meyers 他 1991)を、続いて実行するRHDV(Sa ne et Loire株)の推定キャプシド遺伝子領域のPCR増幅のための、ゲノムRHDV RNAのゲノム部分の3’に相同性であるプライマーを設計するために用いた。派生された1740bpのRHDVキャプシド遺伝子のDNA配列および推定されるアミノ酸は図12Aに示されている。別の単離体のRHDVゲノム配列(Meyers 他 1991)とのヌクレオチド配列の比較により、完全キャプシド配列に関して97.3%の配列の同一性が示された。アミノ酸レベルでの同じ分析はより高いホモロジーすら示している(99.1%)。Asn#45、281、308、369、393、430、474、481、および502に集められた9つの推定N−グリコシル化サイトが推定アミノ酸配列から予測可能である。興味深いことには、これらの8つはキャプシド遺伝子1次配列のカルボキシハーフ(carboxy half)に位置していた。
【0260】
ALVACベースの組換えウイルスvCP309およびNYVACベースの組換えウイルスvP1249の構築
ALVAC vCP309およびNYVAC vP1249組換えウイルスは、RHDV推定キャプシド遺伝子を発現するものであるが、以前に記述されたもの(Perkus 他 1993)と類似の戦略を用いて開発された。図13は、vCP309およびvP1249をそれぞれ得るために用いられた、ドナープラスミドpLF14およびpLF12の操作を、pLF14(1162bp KpnI/HindIIIおよび386bpHinfI/SacI配列、それぞれ右および左隣接アームに相当)カナリアポックスC6座隣接アームを示している図12Bと共に示している。RHDVキャプシド遺伝子のNH2末端のアミノ酸分析は、本発明以前には入手可能ではなかった。しかしながら、カリシウイルス科のメンバーはそれらのキャプシドポリペプチドを、それらのゲノムの3’末端から発現し、そして、Meyer 他 (1991)におけるMet#1766から始まるORFによってコードされたポリペプチドの計算上の分子量(60.257Da)が、精製されたウイルス調製物(Prieto 他 1990)において検出されたポリペプチドのサイズと良く一致するため、RHDVキャプシド遺伝子NH2末端は、Meyers 他 1991に記載された配列におけるMet#1766に相当するものと推定されている。
【0261】
vCP309およびvP1249によって発現されたRHDVキャプシドの免疫沈降分析
vCP309およびvP1249の両方が、真正のキャプシドタンパク質を発現することを示すために、免疫沈降実験を、モノクローナル抗体調製物、3H6および1H8を用いて行った。簡潔には、ベロ細胞単層を、10pfu /細胞で親株または適切な組換えウイルスの何れかに、[35S]の存在下で感染させた。組換えRHDVキャプシドタンパク質は、記述されたように感染させた溶解物から免疫沈降された。感染させていないベロ細胞溶解物(図4、レーン1および6)または親株ALVACまたはNYVAC感染ベロ細胞溶解物(図14、レーン2−3および7−8)からは放射性標識された産物は検出されなかった。重要なことには、見かけの分子量が60kDaのポリペプチドが、vCP309ベロ細胞溶解物からモノクローナル抗体1H8および3H6によって沈殿された(図14、それぞれレーン4および9)。同様に、同じ見かけの分子量のポリペプチドが、vP1249ベロ細胞溶解物からモノクローナル抗体1H8および3H6によって沈殿された(図14、それぞれレーン5および10)。60kDaの評価された分子量は、推定されるRHDVキャプシド配列から予見される分子量および精製されたウイルスのSDS−PAGE分析(Prieto and Parra,1990)の両方に一致している。さらに、このことは、上記の開始コドン(ATG)が真正翻訳開始コドンに一致していることを示している。精製されたRHDV試料(Meyer 他 1991;Rodak 他 1990)において、およびバキュロウイルスRHDVキャプシド組換えウイルスから派生された溶解物(Laurent 他 1994)において以前に記述された26−および36−kDaポリペプチドは、vCP309またはvP1249細胞溶解物の何れにおいても検出されなかった。
【0262】
同じMAbsおよびvCP309またはvP1249感染ベロ細胞について行ったFACScan分析により、vCP309またはvP1249感染細胞中におけるRHDV発現が確認された。さらに、このような分析の結果は、内部でのキャプシド発現を示したが、感染細胞の表面での発現は示さなかった。
【0263】
ALVAC組換体vCP309およびNYVAC組換体ウイルスvP1249によってウサギにおいて誘導された防御的免疫
投与経路の効果、初期ワクチン接種時の動物の年齢、追加免疫注入の存在およびvCP309の量といった組み合わている要因マトリックスを用いて、ALVAC組換体vCP309によるウサギにおいての防御免疫を分析した。107 pfu のvCP309の1または2用量で免疫化されたウサギは、ワクチン接種されていない動物の100%が死んだ強力致死RHDV免疫性テストに生き残った(表21、レーン1−5)。これらの16のウサギのうち14を投与後1週間で剖検したが、何れのRHDV誘導外傷も検出されなかった。ウサギが105 pfu のvCP309でワクチン接種された場合には、16のうち4(25%)が死亡し、RHDV誘導外傷が3の生存動物において明白であった(表21、レーン6−9)。これらの結果はワクチン用量の明白な効果(スチューデントt=1.9)と、投与ルートのより弱い効果(スチューデントt=1.2)を示している。血清学的分析により、主要な効果はvCP309投与量に関していることが示されたが、防御と抗体価との明確な相関を立証はできなかった。
【0264】
NYVAC組換体vP1249によりウサギにおいて誘導された防御免疫を、107 pfu のvP1249の2度の皮内接種により免疫化されたウサギの1群において分析した。4匹全てのウサギが免疫性テストで生き残ったが、1つの生存動物においてRHDV誘導外傷が明白であった(表21、レーン10)。
【表21】
【0265】
ここに表示された結果は、NYVACおよびALVAC−カリシウイルス(RHDV等)組換体およびそれ由来の産物の、組成物中で用いられるための能力、および前述の、例えば免疫学的、抗原的またはワクチン組成物等の用途、またはアッセイ、キットまたは試験のための、ワクチンまたは免疫化戦略において好適である抗原もしくは抗体の調製においての利用;および、プローブのためのDNAを提供することまたはカリシウイルス(RHDV等)DNAの検出または増幅のためのDNAプライマーを生成させることを示している。
【0266】
このように、本発明の好ましい実施態様を詳細に記述してきたが、添付されたクレームによって定義される本発明は、上の記述において示された特定の細目に限定されるものではなく、その精神または範囲から離れることなく、それらの数多くの明らかな変化型が可能である。
【参考文献】
【0267】
【図面の簡単な説明】
【0268】
【図1】図1は、チミジンキナーゼ遺伝子の欠失および組換えワクシニアウイルスvP410の産生のためのプラスミドpSD460を構築する方法を示している
【図2】図2は、出血領域の欠失および組換えワクシニアウイルスvP553の産生のためのプラスミドpSD486を構築する方法を示している
【図3】図3は、ATI領域の欠失および組換えワクシニアウイルスvP618の産生のためのプラスミドpMP494Δを構築する方法を示している
【図4】図4は、血球凝集素遺伝子の欠失および組換えワクシニアウイルスvP723の産生のためのプラスミドpSD467を構築する方法を示している
【図5】図5は、遺伝子クラスター[C7L − K1L]の欠失および組換えワクシニアウイルスvP804の産生のためのプラスミドpMPCK1Δを構築する方法を示している
【図6】図6は、リボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットの欠失および組換えワクシニアウイルスvP866(NYVAC)の生成のためのプラスミドpSD548の構築方法を模式的に示している
【図7】図7は、TK欠失遺伝子座に狂犬病糖タンパク質G遺伝子を挿入し組換えワクシニアウイルスvP879 を形成するためのプラスミドpRW842 を構築する方法を図示する
【図8】図8は、C5 ORFを含有するカナリアポックスのPvuIIフラグメントのDNA配列(配列番号27)を示す
【図9A】図9Aは、組換えカナリアポックスウイルスvCP65(ALVAC−RG)を構築する方法を図示する
【図9B】図9Bは、組換えカナリアポックスウイルスvCP65(ALVAC−RG)を構築する方法を図示する
【図10】図10は、NYVACを形成するために欠失させるORFs(オープンリーディングフレーム)を図示する
【図11−1】図11−1は、予め同一のワクチンを接種するかまたはワクチンを変えて免疫化したボランティアにおける狂犬病中和抗体力価(RFFIT、IU/ml)、HDCおよびvCP65(105.5 TCID50)の追加免疫(booster)効果を示すグラフである(なお、ワクチン接種は、0日、28日および180 日目に行い、抗体力価の測定は0日、7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に行った)
【図11−2】図11−2は、図11−1の続きを示す
【図12A−1】図12A−1は、RHDV(Sa ne et Loire株)キャプシド遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列(配列番号37、38)を示す(上および下のケースの左端のナンバリングは、核酸配列およびアミノ酸配列にそれぞれ付属している;2つのワクシニア初期転写終結シグナルはアンダーラインされている)
【図12A−2】図12A−2は、図12A−1の続きを示す
【図12A−3】図12A−3は、図12A−2の続きを示す
【図12B】図12Bは、ドナープラスミドpLF14中のカナポックスC6座隣接アームのヌクレオチド配列を示している(配列番号39)(1162bpKpnI/HindIIIおよび386bpHinfI/SacI配列はそれぞれ、pLF14中の右および左隣接アームに対応している)
【図13】図13はドナープラスミドpLF14およびpLF12の構築を模式的に示している(pLF11b由来の1.8kbp NruI/HindIIIおよび1.8kbp NruI/BamHI DNA断片で、両方ともRHDVキャプシドコード配列およびワクシニアH6プロモーターの最初の30bpを有しているものが、カナリアポックスC6座右および左隣接アームの間にクローン化された残りのH6プロモーターを含有している改変pBluescript SK+プラスミドの4.5kbp NruI/HindIII DNA断片またはpSD550VCの3.7kbp NruI/BamHI断片の何れかと連結された;その結果得られたプラスミドはpLF14およびpLF12は、インビトロ組換え実験で用いられ、それぞれ、ALVAC vCP309およびNYVAC vP1249を生成した)
【図14】図14はvCP309およびvP1249感染ベロ細胞からのRHDV組換えキャプシドタンパク質の免疫沈降を示す(免疫沈降は、RHDV MAb群1H8(レーン1−5)および3H6(レーン6−10)をそれぞれ用いて実施例に記載されたとおりに実行した;レーン1および6は感染されていないベロ細胞;レーン2および7は親カナリアポックスALVAC(CPpp)で感染されたベロ細胞;レーン3および8は親NYVACで感染されたベロ細胞;レーン4および9は組換えvCP309で感染されたベロ細胞;レーン5および10は組換えvP1249で感染されたベロ細胞;左端の数字は標準分子量マーカーの移動に対応している
【技術分野】
【0001】
本発明は、1991年3月7日に出願された出願番号07/666,056の一部継続出願である、1991年6月11日に出願された出願番号07/713,967の一部継続出願である、1992年3月6日に出願された出願番号07/847,951の継続出願である1993年8月13日に出願された出願番号08/105,483の一部継続出願であり、1993年3月24日に出願された出願番号08/036,217は、出願番号07/666,056の継続出願であり、米国特許第5,364,773号として1994年11月15日に発行された。上述した出願および特許の各々をここに引用する。
【0002】
本発明は、改変ポックスウイルスおよびその製造並びに使用方法;例えば、ワクシニアウイルスまたは鳥類ポックス(例えば、カナリア痘または鶏痘)、例えば、改変組換体ポックスウイルス−カリシウイルス、例えば、弱毒化組換体、特にNYVACまたはALVAC RHDV組換体のようなウサギ出血疾病ウイルス(RHDV)に関するものである。より詳しくは、本発明は、安全な免疫化媒体(vehicle)として使用するために異種遺伝子を挿入して発現させて、RHDVのようなカリシウイルスに対する免疫応答を誘発する改良ベクターに関するものである。したがって、本発明は、そのウイルスが、カリシウイルス、例えば、RHDVの遺伝子産生物を発現する組換えポックスウイルス、および宿主に投与されたとき、またはインビトロのカリシウイルス、例えばRHDV感染に対して免疫応答を誘発させる免疫組成物並びにそれら自体が例えば抗体の産生等の免疫応答を誘発するポックスウイルスの発現産物であって、それらがカリシウイルス、例えば、RHDV感染に対して、血清陽性または血清陰性の個体のいずれにおいても有用な抗体を育成させるのに有用なものであるか、または事情に応じて動物、ヒトまたは細胞培養物から単離された、それによって誘発される抗体または発現産生物が、ウイルスの、または感染細胞の、あるいは他の系統における抗原または産生物の発現の検出のための診断キット、試験または検定を準備するのに有用なポックスウイルスの発現産物に関するものである。単離された発現産生物は、系統、宿主、血清または試料中の抗体の検出、または抗体の産生のためのキット、試験または検定において特に有用である。
【0003】
いくつかの出版物がこの出願において参照されている。これらの参考文献については、請求の範囲の直前の明細書の終わりまたは出版物が述べられている箇所に完全に記載されている。これらの出版物の各々をここに参照文献として引用する。
【背景技術】
【0004】
ワクシニアウイルスおよびごく最近では他のポックスウイルスが、異種遺伝子の挿入および発現に用いられている。異種遺伝子を感染性生ポックスウイルス中に挿入する基本技術は、ドナープラスミド中の異種遺伝要素に隣接するポックスDNA配列と、レスキューポックスウイルス中に存在する相同性配列との間の組換えに関するものである(Piccini他, 1987)。
【0005】
特に、組換えポックスウイルスは、従来技術において知られており、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5に記載されているワクシニアウイルスおよび鳥類ポックスウイルスのようなポックスウイルスの合成組換体を形成する方法と同種の2段階で構築される。
【0006】
第1に、ウイルスに挿入されるべきDNA遺伝子配列、特に非ポックス給源由来のオープンリーディングフレームを、内に既にポックスウイルスのDNA部分に相同的なDNAが既に挿入されているE.コリプラスミド中に配置する。それとは別に、挿入されるべきDNAはプロモーターに連結させる。プロモーター−遺伝子連結物は、プラスミド構築物中に、プロモーター−遺伝子連結物が両端で、非必須座を含むポックスDNA領域中に隣接しているDNA配列に相同的なDNAに隣接しているように位置されている。その結果得られるプラスミド構築物を、続いてE.コリ細菌の増殖により増幅させ(Clewell,1972)、単離する(Clewell 他,1969;Maniatis 他,1982)。
【0007】
第2に、挿入されるべきDNA遺伝子を含む単離されたプラスミドは、例えばニワトリ繊維芽細胞等の細胞培養中に、ポックスウイルスとともに移入される。プラスミド中の相同ポックスDNAとウイルスゲノムそれぞれとの間の組換えは、そのゲノムの非必須領域中の、外来DNA配列の存在によって改変されたポックスウイルスを提供する。用語「外来」DNAとは、外因性DNA、特に非ポックス給源由来のDNAで、その外因性DNAが位置されているゲノムによっては本来生産されない遺伝子産物をコードしているものを意味する。
【0008】
遺伝的組換えは一般に、DNAの2つの鎖の間での相同性部分の交換である。ある種のウイルスにおいては、RNAがDNAと置き換わっていることもあり得る。核酸の相同性部分とは、ヌクレオチド塩基の同じ配列を有する核酸部分(DNAまたはRNA)である。
【0009】
遺伝的組換えは、複製即ち感染された宿主細胞内部での新しいウイルスゲノムの製造の間に自然に生じ得る。このように、ウイルス遺伝子の間の遺伝的組換えが、2またはより多くの異なったウイルスまたはその他の遺伝的構築物で共感染させた宿主細胞中で行われるウイルス複製サイクルの間に起こり得る。第1のゲノム由来のDNA部分は互いに交換可能に、DNAが第1のウイルスゲノムに相同である第2の共感染ウイルスのゲノム部分構築において利用される。
【0010】
しかしながら、組換えはまた、完全に相同ではない異なったゲノム中のDNA部分の間でも生じ得る。あるそのような部分が、第1の部分内部の存在、例えば相同性DNAの部分に挿入された遺伝子マーカーまたは抗原決定基をコードしている遺伝子等を除いて、別のゲノム部分と相同である第1のゲノム由来である場合、組換えは依然起こり得、そしてその組換え産物は、組換えウイルスゲノム中のその遺伝的マーカーまたは遺伝子の存在により検出可能である。組換えワクシニアウイルスの産生のための付加的な戦略が近年報告された。
【0011】
改変された感染可能ウイルスによる挿入されたDNA遺伝的配列の成功した発現には、2つの状況が必要である。第1は、改変ウイルスが生育可能なままであるように、挿入はウイルスの非必須領域中でなければならない。挿入されたDNAの発現のための第2の条件は、挿入されたDNAと適切な関係にあるプロモーターの存在である。プロモーターは、それが発現されるべきDNA配列の上流に位置するように配置されなければならない。
【0012】
ワクシニアウイルスは、天然痘に対する免疫化のために成功して用いられてきており、1980年には天然痘の全世界での撲滅を成し遂げた。その歴史において、多くのワクシニア株が生成されている。これらの異なった株は多様な免疫原性を示し、潜在的な複雑化のさまざまな度合いと関連づけられており、その最も深刻なものはワクチン後の脳炎と汎発性種痘疹である(Behbehani,1983)。
【0013】
天然痘の撲滅と共に、ワクシニアの新しい役割、外来遺伝子の発現のための遺伝的に操作されたベクターの役割が重要となった。数多くの異種抗原をコードしている遺伝子がワクシニア中で発現され、しばしば対応する病原体の投与に対して防御的な免疫という結果となっている(Tartaglia 他,1990aにおいて概説)。
【0014】
ワクシニアベクターの遺伝的背景が、発現された外来免疫原の防御的効率に影響することが示されている。例えば、エプスタイン−バーウイルス(EBV)gp340のワクシニアウイルスWyethワクチン株においての発現では、コットントップ タマリン(cottontop tamarins)をEBVウイルス誘導リンパ腫に対して防御しなかったが、一方で同じ遺伝子のワクシニアウイルスWR実験室株においての発現では防御的であった(Morgan 他,1988)。
【0015】
ワクシニアウイルスベースの組換えワクチン候補の、効率と安全性との微妙なバランスは非常に重要である。組換えウイルスは、ワクチン接種された動物において防御的免疫反応を誘導するような様式で免疫原を提示しなければならないが、何れの重大な病原性特性をも有してはならない。故にベクター株の弱毒化は、現在の技術の段階を超えた進歩が大いに望まれている。
【0016】
数多くのワクシニア遺伝子で、組織培養におけるウイルスの増殖に非必須でありその欠失または不活性化が多様な動物系での毒性を減少させるものが同定されてきた。
【0017】
ワクシニアウイルスのチミジンキナーゼ(TK)をコードする遺伝子についてはマッピングが行われ(Hruby 他、1982)、また、配列決定も行われている(Hruby 他、1983;Wier他、1983)。チミジキナーゼ遺伝子が不活化または完全欠失しても、広範な組織培養中でワクシニアウイルスの増殖は妨げられない。また、TK− ワクシニアウイルスは各種の投与法により各種の宿主における接種部位においてインビボ複製する能力を有する。
【0018】
単純ヘルペスウイルス2型については、TK− ウイルスをモルモットに膣内投与すると、TK+ ウイルスの投与の場合よりも脊髄中のウイルス力価がかなり低くなることが示された(Stanberry 他、1985)。ヘルペスウイルスではインビトロでのTK活性は、代謝の活発な細胞中ではウイルスの増殖に重要でないが、静止細胞中ではウイルス増殖に必須であることが示された(Jamieson他、1974)。 マウスに脳内投与および腹膜内投与することによりTK− ワクシニアが弱毒化されることが示された(Buller他、1985)。神経毒性のあるWR実験室株およびWyeth ワクチン株の双方について弱毒化が認められた。皮内投与されたマウスにおいては、TK− 組換えワクシニアが、親株のTK+ ワクシニアウイルスと同等の抗ワクシニア中和抗体を産生したが、これは、この試験系では、TK機能の喪失がワクシニアウイルスベクターの免疫原性を有意に減少させないことを示唆している。TK− およびTK+ の組換えワクシニアウイルス(WR株)をマウスに鼻内接種すると、他の部位(脳を含む)へのウイルスの伝播が顕著に減少したことが見出された(Taylor他、1991a)。
【0019】
ヌクレオチドの代謝に関連する別の酵素は、リボヌクレオチドレダクターゼである。単純ヘルペスウイルス(HSV)内でコードされているリボヌクレオチドレダクターゼの活性が、そのラージサブユニットをコードしている遺伝子を欠失させることにより喪失しても、インビトロの分裂細胞中でのウイルス増殖やDNA合成は影響されないが、無血清細胞でのウイルスの増殖能力は極めて損なわれることが示された(Goldstein 他、1988)。眼部の急性HSV感染および三叉神経ガングリオンにおける再活性性潜伏感染に関するマウスモデルを用いた場合、リボヌクレオチドレダクターゼのラージサブユニットを欠失したHSVについては、野生型HSVに比べて毒性が減少することが示された(Jacobson他、1989)。
【0020】
ワクシニアウイルスにおいては、リボヌクレオチドレダクターゼのスモールサブユニット(Slabaugh他、1988)およびラージサブユニット(Schmidtt他、1988)のいずれも同定されている。ワクシニアウイルスのWR株において、挿入によりリボヌクレオチドレダクターゼを不活化すると、マウスの頭蓋内接種により測定され得るようなウイルスの弱毒化がもたらされる(Child 他、1990)。
【0021】
ワクシニアウイルスの血球凝集素(HA)遺伝子についてはマッピングおよび配列決定が行われている(Shida 、1986)。ワクシニアウイルスのHA遺伝子は、組織培養中の増殖にとって非必須なものである(Ichihashi 他、1971)。ワクシニアウイルスのHA遺伝子を不活化すると、頭蓋内投与されたウサギにおいては神経毒性化が減少し、また、皮膚内投与部位におけるウサギの外傷は小さくなっていた(Shida 他、1988)。HAの遺伝子座を利用して、ワクシニアウイルスのWR株(Shida 他、1987)、Lister株の誘導体(Shida 他、1988)およびCopenhagen株(Guo 他、1989)に外来遺伝子を挿入している。外来遺伝子を発現する組換えHA− ワクシニアウイルスは、免疫原性があり(Guo 他、1989;Itamura 他、1990;Shida 他、1988;Shida 他、1987)、また、関連する病原体による免疫性テストに対して防御効果を有する(Guo 他、1989;Shida 他、1987)ことが示された。
【0022】
牛痘ウイルス(Brighton赤色株)は、鶏卵の漿尿膜上に赤色(出血性)痘瘡を生じさせる。牛痘ゲノム内で自然欠失すると白色痘瘡を生じる変異体となる(Pichup他、1984)。出血性機能(u)は、初期遺伝子によってコードされた38kDaのタンパク質によることがマッピングされている(Pickup他、1986)。この遺伝子は、セリンプロテアーゼインヒビターと相同性を有し、牛痘ウイルスに対する宿主の炎症応答を阻害し(Palumbo 他、1989)、また、血液凝固のインヒビターである。
【0023】
このu遺伝子は、ワクシニアウイルスのWR株中に存在する(Kotwal他、1989b)。外来遺伝子を挿入することによりu領域が不活化されているWRワクシニアウイルス組換体が接種されたマウスは、u遺伝子がインタクトのままである類似の組換えワクシニアウイルスが接種されたマウスよりも、該外来遺伝子に対して高い抗体レベルを産生する(Zhou他、1990)。このu領域は、ワクシニアウイルスのCopenhagen株内で欠陥性非機能形態として存在する(Goeberu 他による報告(1990a,b)においてB13およびB14と称されているオープンリーディングフレーム)。
【0024】
感染細胞内において牛痘ウイルスは、細胞質A型封入体(ATI)において局在化している(Kato他、1959)。ATIの機能は、動物から動物への伝播に際して牛痘ウイルス粒子を防御することにあると考えられている(Bergoin 他、1971)。牛痘ゲノムのATI領域は160 kDaのタンパク質をコードしており、これがATI封入体のマトリックスを形成する(Funahashi 他、1988;Patel 他、1987)。ワクシニアウイルスは、そのゲノムに相同領域を含有するが、一般にATIを産生しない。ワクシニアのWR株においては、ゲノムのATI領域は94kDaのタンパク質として翻訳される(Patel 他、1988)。ワクシニアウイルスのCopenhagen株においてはATI領域に相応するDNA配列の大部分は欠失されており、該領域の残存する3′末端はATI領域の上流にある配列と融合して、オープンリーディングフレーム(ORF)A26Lを形成する(Goebel他、1990a,b)。
【0025】
ワクシニアウイルスの左末端近傍については、各種の自然欠失(Altenburger 他、1989;Drillien他、1981;Lai 他、1989;Moss他、1981;Paez他、1985;Panicali他、1981)や人為的欠失(Perkus 他,1991;Perkus 他,1989;Perkus 他,1986)が報告されている。10kbが自然欠失したワクシニアウイルスのWR株(Moss他、1981;Panicali他、1981)は、マウスに頭蓋内接種することにより弱毒化されることが示された(Buller他、1985)。後に、この欠失部は17ヶのORFを含む可能性が示された(Kotwal他、1988b)。該欠失部内にある特定の遺伝子としては、ビロカインN1Lおよび35kDaタンパク質(Goebel他による1990a,b の報告でC3Lと称されたもの)が挙げられる。N1Lを挿入不活化すると、通常のマウスおよびヌードマウスのいずれについても、頭蓋内接種により毒性が減少する(Kotwa 他、1989a)。上記の35kDaタンパク質は、ワクシニアウイルス感染細胞の培地にN1Lと同様に分泌される。このタンパク質は、補体コントロールタンパク質群、特に補体4B結合タンパク質(C4bp)に相同性である(Kotwal他、1988a)。細胞性C4bpと同様に、ワクシニアの35kDaタンパク質は補体の第4成分と結合し、古典的補体カスケードを阻害する(Kotwal他、1990)。このように、ワクシニアの35kDaタンパク質は、該ウイルスが宿主の防御機構を回避するのを助けることに関与しているものと考えられる。
【0026】
ワクシニアゲノムの左末端は、宿主範囲遺伝子として同定された2つの遺伝子、K1L(Gillard 他、1986)およびC7L(Perkus他、1990)を含む。これらの遺伝子の双方が欠失すると、各種のヒト細胞系でワクシニアウイルスの増殖能が減少する(Perkus他、1990)。
【0027】
本来的に宿主が制限されているポックスウイルスであるトリポックスウイルスを使用することに関する2つの付加的なワクチンベクター系がある。すなわち、家禽ポックスウイルス(FPV:fowlpoxvirus)およびカナリアポックスウイルス(CPV:canarypoxvirus)の両者を操作して外来遺伝子産生物を発現させてきた。家禽ポックスウイルス(FPV)は、ポックスウイルス科のトリポックス(Avipox)属の原型ウイルスである。このウイルスは、家禽類に経済的に重要な疾病を引き起こすが、1920年代から弱毒化生ワクチンを使用することにより良好な対策が講じられてきた。トリポックスウイルスの複製は鳥類に限られ(Matthews、1982)、ヒトを含む非鳥類においてトリポックスウイルスの感染が起こったという文献の報告は存在しない。このように宿主が制限されているので、他の種にウイルスが伝染することに対する本質的な安全性が確保され、トリポックスウイルス由来のワクチンベクターは魅力ある手段として動物やヒトへ応用される。
【0028】
FPVは、家禽類病原体由来の抗原を発現する優れたベクターとして使用されてきた。ビルレントトリインフルエンザウイルスの血球凝集素タンパク質がFPV組換体で発現された(Taylor他、1988a)。この組換体をニワトリおよび七面鳥に接種すると、同種または異種のビルレントインフルエンザウイルスのいずれの免疫性テストに対しても防御能のある免疫応答が誘起された(Taylor他、1988a)。ニューカッスル病ウイルスの表面糖タンパクを発現するFPV組換体も開発された(Taylor他、1990;Edbauer 他、1990)。
【0029】
宿主制限によりFPVおよびCPVの複製はトリ系に限られているにも拘わらず、これらのウイルスから誘導された組換体は、非トリ源細胞において外来遺伝子を発現することが見出された。さらに、そのような組換体ウイルスは、該外来遺伝子産生物に対する免疫応答を引き起こし、場合によっては、相応する病原体による免疫性テストに対する防御能を有することが示された(Tartaglia 他、1993a,b ;Taylor他、1992;1991b ;1988b)。
【0030】
カリシウイルスは、ブタ(ブタ水疱性発疹ウイルス−VESV)、鰭脚類(サン ミゲル(San Miguel)アシカウイルス−SMSV)、ネコ(ネコカリシウイルス−FCV)、ウサギ(ウサギ失血疾患ウイルス−RHDV)、ノウサギ(ヨーロッパ茶色ノウサギウイルス−EBHV)およびヒト(ノーウォークまたはE型肝炎ウイルス−HEV)種から単離されている。それらは共通の特徴的な形態を有し、分子量約60kDaの主要なただ1つのポリペプチドを含有することにおいて哺乳類ウイルスの中で特異的である(Burroughs and Brown 1974)。それらのゲノムは約8キロベースの陽性鎖RNA分子中にあり、キャプシドプレカーサータンパク質のコード配列はゲノムRNAの3’の3番目の内部に位置している。この科の全てのメンバーは、それらが深刻な病気の原因となっているところのそれらの天然宿主範囲が顕著に制限されている(Studdert 1978)。
【0031】
誘導される病気の深刻さに鑑み、それらの標的種でのカリシウイルス感染に対する防御免疫の基礎の理解は、獣医およびヒトの薬剤の両方に関する重要な目的を示している。この目的のために、関連した使用しうる動物モデルシステムが必要である。
【0032】
ウサギにおいて突然かつ急激な疾患の原因となるウサギ出血疾患ウイルス(RHDV)(Morisse 他 1990)は、その標的種におけるカリシウイルス感染に対する免疫のメカニズムに注意を向けるための固有の機会を提供する。しかしながら、このウイルスは組織培養中では効果的には繁殖しないので、その分子および生化学的分析は、最近の、そのゲノムのクローニングとヌクレオチド配列決定まで遅れていた(Meyers 他 1991)。他のカリシウイルス[即ちFCV(Carter 他 1992)およびHEV(Tam 他(1991)]について記述されたこととは対照的に、キャプシドタンパク質アミノ末端配列分析は、RHDVキャプシドタンパク質は8kbゲノムRNAからではなく2.4kbのサブゲノム(subgenomic)RNA種から翻訳されることを強力に支持していた(Boga 他 1992、Parra 他 1993)。
【0033】
適当な組換えベクターを用いた関連したRHDVタンパク質の発現が、詳細な生化学的RHDV分析に到達するため、および、このカリシウイルスに対する防御に関与した免疫機構を解明するために必要とされている。そのことはまた、器官から派生された不活性化ワクチンの置換を可能とする可能性もあるため(Yu 他 1991,von Haralambiev 他 1991,Smid 他 1991,Villares 1991,David 他 1991)、分子生物学的方法論を用いたワクチン候補の開発は、重要な安全性並びに飛躍的な前進をもたらし得る。
【0034】
生ベクター、特にポックスウイルスベースの、可能性のあるワクチンとしての感染性仲介物からの関連抗原を免疫的に発現するベクターの利用が数多くの研究によって促進されてきた(Cox 他 1992を参照)。
【特許文献1】米国特許第4,769,330号公報
【特許文献2】米国特許第4,772,848号公報
【特許文献3】米国特許第4,603,112号公報
【特許文献4】米国特許第5,100,587号公報
【特許文献5】米国特許第5,179,993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
このように、RHDV等のカリシウイルス組換体ポックスウイルスおよびそれ由来の産物、特にNYVACまたはALVACベースの、RHDV等のカリシウイルス組換体および組成物およびそれら由来の産物、特に例えばRHDVキャプシド遺伝子などの、キャプシドタンパク質の何れかまたは全てをコードしているもの(即ちキャプシド遺伝子)を有する組換体、およびそれ由来の組成物および産物を供給することは、現在の技術水準を超える高度に好ましい前進であろう。
【課題を解決するための手段】
【0036】
したがって、本発明の目的は、安全性の向上した改変組換えウイルスを提供すること、およびそのような組換えウイルスを製造する方法を提供することにある。
【0037】
本発明のさらなる目的は、既知の組換えポックスウイルスワクチンと比較して安全性のレベルが増大した免疫組成物または組換えポックスウイルス抗原ワクチンを提供することにある。
【0038】
本発明のさらなる目的は、ベクターが宿主中において弱毒化された毒性を有するように改変されている、宿主中において遺伝子産生物を発現する改変ベクターを提供することにある。
【0039】
本発明の別の目的は、安全性のレベルが増大した改変組換えウイルスまたは改変ベクターを用いて、インビトロで培養された細胞中で遺伝子産生物を発現する方法を提供することにある。
【0040】
これらの、およびその他の本発明の目的と利点は、以下の考慮の後に容易に明白となるであろう。
【0041】
1つの側面において、本発明は、組換えウイルスが減衰された毒性と促進された安全性を有するように、ウイルスにコードされた遺伝的機能が不活性化された改変された組換えウイルスに関する。その機能とは、非必須かまたは毒性に関連したものであり得る。ウイルスは、有利には、ポックスウイルス、特にワクシニアウイルスまたは家禽ポックスウイルスおよびカナリアポックスウイルス等のアビポックスウイルスである。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生された抗原またはエピトープをコードしている異種DNA配列を有していても良い。
【0042】
別の側面においては、本発明は、それが接種された宿主動物およびヒトにおいて抗原性または免疫性反応を誘導するための抗原性、免疫性またはワクチン組成物または治療組成物に関し、そこにおいて当該ワクチンは担体と組換えウイルスであって当該組換えウイルスが減衰された毒性および促進された安全性を有するように非必須ウイルスコード遺伝子領域を不活性化されているものを含有しているものに関する。本発明に従った組成物において用いられているウイルスは、有利には、ポックスウイルス、特にワクシニアウイルスまたは例えば家禽ポックスウイルスおよびカナリアポックスウイルス等のアビポックスウイルスである。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生された抗原タンパク質をコードしている異種DNA配列を有していても良い。
【0043】
さらに別の側面においては、本発明は、組換えウイルスであって当該組換えウイルスが減衰された毒性および促進された安全性を有するように非必須ウイルスコード遺伝子機能を不活性化されているものを含有している免疫原性組成物に関する。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、抗原タンパク質(RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生されたもの等)をコードしている異種DNA配列を有しており、そこにおいて組成物は、宿主に投与された場合、抗原に特異的な免疫学的反応を誘導可能である。
【0044】
さらなる側面においては、本発明は、減衰された毒性と促進された安全性を有する改変された組換えウイルスを細胞中に導入することによりインビトロで遺伝子産物を発現させるための方法に関する。改変された組換えウイルスは、ウイルスゲノムの非必須領域内に、RHDVキャプシド遺伝子等のカリシウイルスキャプシド遺伝子の、RHDV等のカリシウイルスから派生された抗原タンパク質をコードしている異種DNA配列を有していても良い。産物は続いて、免疫反応を刺激するために動物またはヒトに投与可能である。生成された抗体はRHDV等のカリシウイルスの防御または処理に有用であり得、そして、抗体または単離されたインビトロ発現産物は、RHDV等のカリシウイルスまたはそれ由来の抗原またはそれに対する抗体の、血清などの試料における存在または不在(および、それ故、ウイルスまたはその産物またはウイルスまたは抗原に対する免疫反応の存在または不在)を決定するためのウイルス診断キット、アッセイまたは試験のために利用可能である。
【0045】
またさらなる側面においては、本発明は改変組換えウイルスに関し、該組換えウイルスは、ウイルスにコードされている非必須遺伝子機能が不活化されていることにより毒性が弱毒化されており、さらに、ウイルスゲノムの非必須領域に外来源のDNAを含有している。このDNAは、RHDV等のカリシウイルスキャプシド遺伝子で、RHDVタンパク質等のカリシウイルスタンパク質をコードしていても良い。さらに詳述すれば、遺伝子機能は、毒性因子をコードするオープンリーディングフレームを欠失させることにより、または、自然の宿主制限ウイルスを利用することによって不活化されている。本発明に用いるウイルスは、ポックスウイルスが有利であり、特にワクシニアウイルスまたはトリポックスウイルス、例えば家禽ポックスウイルスまたはカナリアポックスウイルスである。オープンリーディングフレームは、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1L、およびI4L(Goebel他による1990a,b の報告における名称による)から成る群、ならびにそれらの組合せにより選択されるのが好ましい。ここで、オープンリーディングフレームは、チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、宿主範囲遺伝子領域もしくはリボヌクレオチドレダクターゼのラージサブユニット、またはそれらの組合せから成る。ワクシニアウイルスの好適な改変Copenhagen株は、NYVACとして同定されたものであり( Tartaglia 他、1992)、または、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1LおよびI4Lまたはチミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体領域、血球凝集素遺伝子、宿主範囲領域、リボヌクレオチドレダクターゼのラージサブユニットが欠失されたワクシニアウイルスである(米国特許第5,364,773 号も参照されたい)。他の好適なポックスウイルスは、ALVACであり、カナリアポックスウイルス( Rentschlerワクチン株)が、例えば、ニワトリ胚繊維芽細胞による200 回以上の継代培養により弱毒化され、そのマスター種株が寒天培地下の4回の連続的なプラーク精製に供された後、5回の追加の継代培養によりプラーククローンが増幅されたものである。
【0046】
本発明は、さらに別の態様として、本発明による組換えポックスウイルスの発現産生物およびその使用、例えば、治療、予防、診断または試験に用いられる抗原性、免疫性またはワクチン組成物を調製することに関する。組換体はまた、プローブまたはPCRプライマーを生成する際に有用である。
【0047】
これらの態様およびその他の態様は、以下の詳細な説明によって提供され、それより明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
新しいワクシニアワクチン菌株NYVAC(vP866)を開発するために、ワクシニアウイルスのコペンハーゲンワクチン菌株を、既知または潜在的な毒性要因をコード化するゲノムの6つの非必須領域の欠失により改変した。一連の欠失が以下詳細に記載されている(米国特許第5,364,773号を参照のこと、この特許をここに引用する)。ワクシニア制限断片、オープンリーディングフレームおよびヌクレオチド位置の全ての指定は、Goebel等, 1990a,bに報告されている用語法に基づいている。
【0049】
欠失座もまた、異種遺伝子を挿入するための受容体座として設計された。
【0050】
NYVAC中で欠失された領域が以下に列記されている。欠失された領域の省略形およびオープンリーディングフレームの指定(Goebel等,1990a,b)並びに指定された欠失により全ての欠失を含有するワクシニア組換体(vP)の指定もまた列記されている:
(1) チミジンキナーゼ遺伝子(TK;J2R)vP410;
(2) 出血性領域(u;B13R+B14R)vP553;
(3) A型封入体領域(ATI;A26L)vP618;
(4) 血球凝集素遺伝子(HA;A56R)vP723;
(5) 宿主範囲遺伝子領域(C7L−K1L)vP804;および
(6) リボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニット(I4L)vP866(NYVAC)。
【0051】
NYVACは、毒性および宿主範囲に関連する遺伝子産生物を含む遺伝子産生物をコードする18のオープンリーディングフレームを欠失させることにより遺伝子工学的手法で得られたワクシニアウイルス株である。
【0052】
NYVACは高度に弱毒化されるが、このことは以下のような多くの特徴からも判る:i)新生マウスに脳内接種すると毒性が減少すること、ii) 遺伝学的に(nu+ / nu+ )または化学的(シクロホスホアミド)に免疫無防備状態マウスにおける無毒性、iii)免疫無防備状態マウスにおいて、播種性感染が起こらなくなること、iv) ウサギ皮膚の硬化や潰瘍形成がなくなること、v)接種部位からの迅速なクリアランス、vi) 多くの組織培養細胞系(ヒト由来のものを含む)において複製能が激減すること。これにも拘わらず、NYVACに基づくベクターは、外来性免疫原に対して優れた応答を誘起し防御免疫を提供する。
【0053】
TROVACとは、弱毒化家禽ポックスであって、1日齢のヒナへのワクチン接種がライセンスされている家禽ポックスウイルスFP−1ワクチン株からプラークを単離して得られたものである。ALVACは、弱毒化カナリアポックスを基礎とするベクターであり、ライセンスされているカナリアポックスワクチンKanapox(Tartaglia 他、1992)からプラークをクローニングして得られたものである。ALVACの一般的性質には、Kanapoxの一般的性質と同じものがある。外来性免疫原を発現するALVAC系組換えウイルスは、ワクチンベクターとしても有効であることが示されている(Tartaglia 他、1993a,b)
このトリポックスベクターは、その複製がトリ類に限定されている。ヒトの培養細胞においては、ウイルスのDNA合成に先行してウイルス複製サイクルの初期にカナリアポックスウイルスの複製は中断してしまう。しかしながら、外来性免疫原を発現するように操作すれば、哺乳動物細胞中でインビトロで真正な発現とプロセシングが認められ、多くの哺乳動物種に接種すると該外来性免疫原に対する抗体および細胞性免疫応答を誘発し、同種の病原体の免疫性テストに対する防御を与える(Taylor他、1992;Taylor他、1991)。カナリアポックス/狂犬病糖タンパク質組換体(ALVAC−RG)に関するヨーロッパおよび米国における最近のフェーズI臨床試験によれば、この試験ワクチンは、充分に受け入れられるものであり、防御レベルの狂犬病ウイルス中和抗体を誘起することが示された(Cadoz 他、1992;Fries 他、1992)。さらに、ALVAC−RG被接種者由来の末梢血単核細胞(PBMCs)は、精製狂犬病ウイルスで刺激すると有意レベルのリンパ球増殖を示した(Fries 他、1992)。
【0054】
また、NYVAC、ALVACおよびTROVACは、以下の点において、あらゆるポックスウイルスの中でも独特であると考えられている。すなわち、米国公衆衛生局のNIH(National Institutes of Health)の組換えDNA勧告委員会(Recombinant DNA Advisory Committee)は、ウイルスやベクターのような遺伝子材料の物理的封じ込めに関するガイドライン、すなわち、特定のウイルスやベクターの病原性に基づくそれらのウイルスやベクターの利用における安全な取扱に関するガイドラインを出しているが、この物理的封じ込めのレベルをBSL2からBSL1に下げることを認めた。ここで、他のいずれのポックスウイルスもBSL1の物理的封じ込めレベルを認められていない。ワクシニアウイルスのCopenhagen株(最も一般的な天然痘ワクチンである)ですら、これよりも高い物理的封じ込みレベル、すなわち、BSL2を有する。このように、当該分野においては、NYVAC、ALVACおよびTROVACは他の何れのポックスウイルスよりも病原性が低いことが認められている。
【0055】
NYVACは、上述の通り、コペンハーゲンワクチン株から、毒性および宿主領域に関連した18のオープンリーディングフレームを厳密に欠失させることにより派生されている。NYVACの高度弱毒化表現型は、実験用および標的種の両方においてベクターとしてのその免疫化可能性を重大には減少させない(Tartaglia 他 1992,Konishi 他 1992)。狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびマラリア抗原を発現するNYVACベースの組換体が現在、ヒト臨床評価を受けている。高度に弱毒化されたポックスウイルスのワクチンベクターとしての利用の更なる拡張とは、上記のように、アビポックスウイルス等の、自然に生じる限定された宿主領域を有するポックスウイルスを利用することである。非鳥類種においてのALVACの生産的複製能力の欠如にもかかわらず、ALVACは非鳥類種においていくつかのウイルス病原体に対する防御的免疫反応を誘導することが示されている(Taylor 他 1991,Taylor 他 1992,Tartaglia 他 1993)。このベクターはそのような種においては複製しないので、ワクチン内部での散布された感染または接触者あるいは一般環境への拡散は排除される。最近の、フェーズI臨床試験では、このベクターをベースとした実験用ワクチンは十分に耐性であり、外部からの免疫原に対する免疫反応を誘導することが示された(Cadoz 他 1992;上記もまた参照されたい)。
【0056】
NYVAC、ALVAC、TROVACベクターの弱毒化特性およびそれらの示す外来免疫原に対する体液および細胞の両方の免疫学的反応を誘導する能力に明らかに基づいて(Tartaglia 他,1993a,b;Taylor 他,1992;Konishi 他,1992)、そのような組換えウイルスは、以前に記述されたワクシニアベースの組換えウイルスを超えためざましい利点を提供するものである。
【0057】
本発明は、ウサギ出血疾患およびカリシウイルス一般に対する防御に関与し;NYVACおよびALVACをベースとしたRHDV等のカリシウイルスキャプシドタンパク質発現組換えウイルスであって、ウサギにおいてRHDV投与曝露に対する防御的免疫を付与するもの、およびそれらのウイルス由来の発現産物の利用およびそれら由来の抗体を包含する。
【0058】
以下に記述されるのは、実施例においては特に、カリシウイルス、特にRHDVのキャプシド遺伝子(Sa ne et Loire株)のクローニングおよび配列決定、キャプシド遺伝子産物を発現するNYVAC(ワクシニアウイルス)およびALVAC(カナリアポックスウイルス)組換えウイルスの派生、およびこれらの組換体の実験的投与により付与された防御の実証である。
【0059】
カリシウイルス科の他のメンバーに関しては遺伝的変化が報告されているので(Huang 他 1992;Neill,1992;Seal 他 1993)、フレンチRHDV単離体(Sa ne et Loire株)のキャプシド遺伝子の配列決定分析を行い、この単離体が以前に発表されたRHDVとどの程度異なっているかを決定した(Meyers 他 1991)。キャプシド遺伝子は1740bpの長さのORFで、以前に発表されたRHDVジャーマン株と非常に高いヌクレオチドホモロジー(97.3%の同一性)を有していた(Meyers 他 1991)。ほとんどの違いが、コドンの可変の位置で生じているため、対応するアミノ酸配列は以前に報告された配列と実質的に同一である(99.1%の同一性)。同様の高レベルのキャプシド遺伝子のホモロジーが、最近、3つの地理的なHEV単離体の間で報告された(Huang 他 1992)。しかしながら、他のカリシウイルスに関しては超可変領域であることが示されている、フレンチRHDVゲノムの最初の2/3はまだ分析されていない。このフレンチ単離体と以前に記述された単離体との正確な関係は、さらに調査すべきままの状態のままである。にもかかわらず、高度に保存されたRHDVキャプシド遺伝子由来のヌクレオチド配列は、複製連鎖反応をベースとした試験またはウイルス感染を確認するためのプライマーの開発に有用である。
【0060】
カナリアポックスウイルス(ALVAC)をベースとした組換えウイルス(vCP309)およびNYVACをベースとした組換えウイルス(vP1249)において、ともにRHDVキャプシド遺伝子を発現させるものを派生させるために、位置#5305(Meyers 他 1991)にあるATGが天然翻訳開始コドンとして用いられていると仮定された。この仮定は最近、選択されたATGはまさしく、そのキャプシドタンパク質を発現するためにウイルスにより用いられる開始コドンであることを示す精製RHDVキャプシドタンパク質のアミノ酸分析によって正しいと証明された(Prra 他 1993)。vCP309およびvP1249により発現されたポリペプチドの、RHDV MAbに依存した免疫沈降によるものおよびFACS分析による2つの別々の確認によって、vCP309およびvP1249は天然RHDVキャプシドタンパク質を発現していることが強く示された。最近、バキュロウイルスにより発現された組換えRHDVキャプシドタンパク質に関して示されたように(Laurent 他 1994)、何れか1つの特定の理論に拘束されることを必ずしも望んではいないが、組換えポリペプチドはウイルス様粒子に集合すると考えられている。
【0061】
vCP309またはvP1249でワクチン接種されたウサギは、ワクチン接種されていない対照動物全てが殺された強力な致死RHDV投与を生き抜いた(以下の表を参照されたい)。これらの結果は明白に、RHDVキャプシドタンパク質の発現が、RHDV投与曝露に対する防御を付与するために十分であることを示唆している。バキュロウイルス(Laurent 他 1994)またはE.コリ(Boga 他 1994)の何れかによって発現された組換えRHDVキャプシドタンパク質調製物を用いたRHDV投与に対するウサギの防御を記述した2つの最近の報告と一致して、本発明はRHDVに対する組換えキャプシドベースのワクチンを提供し、この戦略が一般にカリシウイルス感染に対して防御するために有用であることを示すものである。vCP309およびvP1249の性質検討に用いられた2つのMAb(3H6および1H8)が、EBHV抽出物とも交叉反応するという最近の実証(Wirblich 他 1994)は、vCP309およびvP1249がEBHV投与に対する交叉防御を提供することを示している。
【0062】
現在、組織培養においてRHDVを増殖させることは不可能であるため、RHDVワクチン候補を開発するための組換えDNAアプローチが、現在の、感染させたウサギの肝臓から派生された従来の不活性化されたRHDVワクチン調製物(Yu 他 1991、von Haralambiev 他 1991、Smid 他 1991、Villares 1991、David 他 1991)を置き換える手段を提供し、そしてこのように、重要な安全性並びに産業上の飛躍的前進をもたらしている。ヒトにおけるE型肝炎の原因となるカリシウイルスであるノーウォークウイルスもまた、何れの細胞培養においても増殖させることができないので(Kapikian and Chanock、1990)、これらの結果はE型肝炎ワクチンの派生を直接的に示唆するものである。もちろん、RHDV発現組換体がE型肝炎に対して交叉反応しても良い(このように、ポックスウイルス−RHDV組換体はヒトにおいて有用である)。
【0063】
さらに、ここでの結果はALVACおよびNYVACベクターシステムの、標的種での防御的免疫反応を誘導するための用途を記述している。重要なことには、これらのベクターは鳥類種に限定された複製(ALVAC)または高度に弱毒化された表現型(NYVAC)の何れかによって特徴づけられているため、潜在的なワクチン誘導およびワクチン関連合併症を実質的に排除している。
【0064】
近年、2つの報告が、バキュロウイルス(Laurent 他 1994)またはE.コリ(Boga 他 1994)の何れかによって発現された組換えRHDVキャプシドタンパク質調製物を用いたRHDVに対するウサギの防御を記述している。両方の報告は、ウサギ体液反応と防御との間の関連を示唆している。本発明は、2つの前述のサブユニットをベースとしたアプローチとは、大きく異なっている。vCP309およびvP1249は、免疫原のデ ノボ細胞内発現に至る生弱毒化組換えウイルスであるので、細胞媒介免疫反応のより強力な刺激が誘導される。ここにおいての結果はこの記述と一致しているが、それは、それらが血清学的力価と防御的免疫との、如何なる明白な関係をも説明していないからである。
【0065】
ここに記載されている組換えカナリアポックスウイルスvCP309およびNYVAC vP1249は、一般的なRHDV感染およびカリシウイルス感染一般に対する防御における体液性および細胞媒介免疫反応の相対重要性の分析においての道具でもある。
【0066】
本発明の組換えウイルスまたはその発現産生物、組成物、例えば、免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物は、非経口経路(皮内、筋肉または皮下)で投与することができる。そのような投与により全身性免疫応答が可能となる。
【0067】
さらに概説すれば、本発明に従う抗原性、免疫原性もしくはワクチン組成物または治療組成物(本発明のポックスウイルス組換体を含有する組成物)は、製薬または獣医の技術分野における当業者に周知の標準的な方法に従って調製することができる。それらの組成物は、特定の動物または患者の年齢、性別、体重、および症状、ならびに投与経路を考慮しながら、適当な投与量で獣医学または医学的分野の当業者に周知の方法に従って投与することができる。該組成物は、単独投与することもできるが、さらに、本発明の組成物、または他の免疫原性、抗原性もしくはワクチン組成物または治療組成物と同時に、または、それらとともに特定の順序で逐次的に、動物または患者に投与することもできる。他の組成物とは、カリシウイルス(RHDV等)由来の精製抗原または組換えポックスウイルスもしくは他のベクター系によって発現されたそのような抗原由来のもの、また、他のカリシウイルス(RHDV等)抗原を発現する組換えポックスウイルスまたは生体応答調節剤が挙げられる。これらの場合においても、特定の患者の年齢、性別、体重および症状ならびに投与経路などの因子を考慮する。
【0068】
本発明の組成物の例には、例えば、腔部(例えば、口、鼻、肛門、膣など)投与用の液状製剤、例えば、懸濁液、シロップまたはエリキシル剤など;さらには、非経口、皮下、皮内、筋肉内または静脈内投与(例えば、静注)用製剤、例えば、無菌の懸濁液またはエマルジョンが含まれる。それらの組成物においては、組換えポックスウイルスに、適当なキャリア、稀釈剤、または賦形剤、例えば無菌水、生理食塩水、ブドウ糖などを混合させてもよい。
【0069】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物を直接使用して、ヒトまたは動物における免疫応答を刺激することもできる。すなわち、上述の組成物における本発明の組換えウイルスの代わりにまたはそれとともに、該発現産生物を使用して本発明に従う組成物とすることもできる。
【0070】
また、本発明の組換えポックスウイルスおよびそれに由来する発現産生物は、ヒトおよび動物における免疫または抗体応答を刺激し、したがって該産生物は抗原となる。これらの抗体または抗原から、当該技術分野で周知の手法により、モノクローナル抗体を調製することができ、そして、周知の抗体結合分析系、診断キットまたはテスト系においてこれらのモノクローナル抗体または抗原を、特定のRHDV等のカリシウイルス抗原の有無、したがって、(RHDV等のカリシウイルスまたはその他の系において)該ウイルスまた抗原の発現の有無を測定したり、または、該ウイルスまたは抗原に対する免疫応答が単に刺激されたか否かを判定するための公知の結合アッセイ、診断キットまたは試験において用いることができる。これらのモノクローナル抗体または抗原は、免疫吸着クロマトグラフィーに使用されて、RHDV等のカリシウイルスまたは本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物を回収したり単離することもできる。
【0071】
さらに、詳述すれば、本発明に従う組換体および組成物は、以下のような多くの用途を有する:
(i) 免疫応答の誘発(ワクチン接種またはワクチン接種の一部として);および
(ii) ウイルス感染のリスクを伴わないインビトロでのRHDV等のカリシウイルスタンパク質の調製。
【0072】
本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物は、直接使用されて、血清反応陰性もしくは血清反応陽性のヒトまたは動物における免疫応答を刺激することができる。すなわち、本発明の組換えポックスウイルスに代えてまたはそれとともに、該発現産生物を使用して本発明の組成物を調製することもできる。
【0073】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスおよびそれに由来する発現産生物は、ヒトおよび動物における免疫または抗体応答を刺激する。これらの抗体から、当該分野で周知の手法によりモノクローナル抗体を調製することができ、そして、これらのモノクローナル抗体または本発明に従うポックスウイルスの発現産生物および組成物を周知の抗体結合分析系、診断キットまたはテスト系に使用して、特定のRHDV等のカリシウイルス抗原または抗体の有無、したがって、該ウイルスの有無を測定したり、あるいは、該ウイルスまたは抗原に対する免疫応答が単に刺激されたか否かを判定することができる。これらのモノクローナル抗体を免疫吸着クロマトグラフィーに使用して、RHDV等のカリシウイルスまたは本発明の組換えポックスウイルスの発現産生物を回収、単離または検出することもできる。モノクローナル抗体を製造する方法およびモノクローナル抗体の使用方法、ならびにRHDV等のカリシウイルス抗原(本発明のポックスウイルスの発現産生物および組成物)の使用法などは当該技術分野における当業者には周知である。それらは、診断法、キット、テストまたはアッセイなどに使用されるとともに、免疫吸着クロマトグラフィーまたは免疫沈降反応による物質回収に使用され得る。
【0074】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞により産生される免疫グロブリンである。モノクローナル抗体は、単一の抗原決定基に反応し、通常の血清由来の抗体よりも高い特異性を与える。さらに、多数のモノクローナル抗体にスクリーニングを行うことにより、所望の特異性、アビディディ(抗原結合力)およびイソタイプを有する個々の抗体を選択することができる。ハイブリドーマ細胞系は、化学的に同一の抗体の恒常的且つ安価な供給源となり、そして、そのような抗体の調製は容易に標準化できる。
【0075】
モノクローナル抗体を産生する方法は当該技術分野における当業者には周知であり、例えば、Koprowski,H 他による米国特許第4,196,265 号1989年4月1日査定)が参考文献としてここに取り込まれている。
【0076】
モノクローナル抗体の用途も既知である。そのような用途の一つは診断法に利用するものであり、例えば1983年3月8日付でDavid,G.およびGreene,H. に付与された米国特許第4,376,110 号を引用しておく。モノクローナル抗体は、免疫吸着クロマトグラフィーにより物質を回収するのにも利用されており、例えば、Milstein,C. による「Scientific American 243 : 66, 70 (1980) 」を引用しておく。
【0077】
さらに、本発明の組換えポックスウイルスまたはそれ由来のDNAは、RHDV等のカリシウイルスの探索のために、またはRHDV等のカリシウイルスDNAの複製または検出のためのPCRプライマーの生成のために用いられても良い。
【0078】
本発明の実施態様としてはその他の用途もある。
【0079】
本発明およびその多くの利点は、説明のために記載する以下の実施例から良好に理解されよう。
【実施例】
【0080】
DNAクローニングおよび合成 標準的な方法により、プラスミドを構築し、スクリーニングし、成長させた(Maniatis等,1982; Perkus等,1985; Piccini等,1987)。制限エンドヌクレアーゼは、メリーランド州、ゲイサースブルグのベセスダリサーチラボラトリーズ;マサチューセッツ州、ビバーリーのニューイングランドバイオラド;およびインディアナ州、インディアナポリスのベーリンガーマンハイムバイオケミカルスから得た。E.coliポリメラーゼのクレノー断片は、ベーリンガーマンハイムバイオケミカルスから得た。BAL−31エキソヌクレアーゼおよびファージT4 DNAリガーゼは、ニューイングランドバイオラボから得た。様々な供給者により指定された試薬を用いた。
【0081】
合成オリゴデオキシリボヌクレオチドは、既述のように(Perkus他、1989)Biosearch 8750またはApplied Biosystems 380B DNA合成装置を用いて調製した。DNA配列決定は、既述の手法に従い(Guo 他、1989)シークエナーゼ(Sequenase)を用いて(Tabor 他、1987)ジデオキシ−チェインターミネーション法により(Sanger他、1977)行った。配列確認のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA増幅(Engelke 他、1988)は、自動式Perkin Elmer Cetus DNA熱サイクル装置(DNA Thermal Cycler)によりカスタム合成オリゴヌクレオチドプライマーおよびGeneAmp DNA増幅試薬キット(米国コネチカット州Norwalk のパーキン・エルマー・シータス(Perkin Elmer Cetus)社製)を用いて実施した。プラスミドからの過剰DNA配列の欠失は、制限エンドヌクレアーゼ分解、その後、BAL−31エクソヌクレアーゼによる制限分解および合成オリゴヌクレオチドによる突然変異法(Mandecki,1986)により行った。
【0082】
細胞、ウイルスおよびトランスフェクション ワクシニアウイルスのコペンハーゲン(Copenhagen)株およびNYVACの起源および培養条件は既に明らかにされている(Guo 他、1989;Tartaglia他、1992)。組換えによる組換えウイルスの調製、ニトロセルロースフィルターを用いるインサイチュハイブリダイゼーションおよびβ−ガラクトシダーゼ活性を利用するスクリーニングについては既に明らかにされている(Panicali 他,1982;Piccini 他、1987;Perkus 他,1989)。
【0083】
カナリアポックスウイルスの親株(Rentschler株)はカナリアのワクシニア菌株である。このワクチン株は、野生型の単離体から得られ、ニワトリ胚繊維芽細胞を用いる200 回以上の継代培養を通して弱毒化されたものである。そのマスターウイルス種株は寒天下の4回の連続的なプラーク精製に供され、そのプラーククローンの1つが5回の追加の継代培養により増幅され、その後、このストックウイルスが親ウイルスとしてインビトロ組換え試験に使用されてきた。このプラーク精製カナリアポックス単離体がALVACと命名されている。
【0084】
FP−1と命名された家禽ポックスウイルス(FPV)株については既に明らかにされている(Taylor他、1988a)。これは、日齢のヒナのワクチン接種に有用な弱毒化ワクチン株である。親ウイルス株Duvette は、フランスにおいてニワトリから家禽ポックス疥癬として入手された。このウイルスが胚ニワトリ卵での約50回の連続的な継代培養の後、ニワトリ胚繊維芽細胞における25回の継代培養により弱毒化された。該ウイルスは4回の連続的なプラーク精製に供された。プラークの1つが単離され、初期CEF細胞中で増幅され、TROVACと命名されたストックウイルスが樹立された。
【0085】
NYVAC、ALVACおよびTROVAC各ウイルスベクターおよびそれらの誘導体の増殖については既に記述されている(Piccini 他、1987;Taylor他、1988a,b)。増殖にベロ(Vero)細胞やニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)を使用することも既に明らかにされている(Taylor他、1988a,b)。
【0086】
NYVACおよび特に実施例1から6に関しては、米国特許第5,364,773 号を参照しており、本明細書に引用しておく。
【0087】
実施例1 − チミジンキナーゼ遺伝子(J2R)を欠失するための
プラスミドpSD460の構築
ここで図1を参照する。プラスミドpSD406は、pUC8中にクローニングされたワクシニアHindIII J(位置83359-88377)を含有している。pSD406はHindIIIおよびPvuIIにより切断され、HindIII Jの左側由来の1.7kbの断片を、HindIII/SmaIにより切断されたpUC8中にクローニングし、pSD447を形成した。pSD447はJ2R(位置83855-84385)の全遺伝子を含有している。開始コドンはNlaIIIサイト内に含まれ、終止コドンはSspIサイト内に含まれている。転写方向は、図1の矢印により示されている。
【0088】
左側の隣接アームを得るために、pSD447から0.8kb のHindIII /EcoRIフラグメントを分離し、次いでNlaIII で消化して0.5kb のHindIII /NlaIII フラグメントを単離した。以下の配列を有するアニーニングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN43/MPSYN44(SEQ ID NO:1/SEQ ID NO:2)を0.5kb のHindIII /NlaIII フラグメントと連結(ライゲート)し、HindIII /EcoRIで切断したpUC18ベクタープラスミドに導入して、プラスミドpSD449を得た。
【0089】
SmaI
MPSYN43 5’ TAATTAACTAGCTACCCGGG 3’
MPSYN44 3’ GTACATTAATTGATCGATGGGCCCTTAA 5’
NlaIII EcoRI
ワクシニアの右側の隣接アームおよびpUCベクター配列を含有する制限酵素フラグメントを得るために、ワクシニア配列内でSspI(部分的)を用い、またpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いてpSD447を切断して、2.9kb のベクターフラグメントを分離した。このベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN45/MPSYN46(SEQ ID NO:3/SEQ ID NO:4)と連結して、pSD459を得た。
【0090】
HindIII SmaI
MPSYN45 5’ AGCTTCCCGGGTAAGTAATACGTCAAGGAGAAAACGAA
MPSYN46 3’ AGGGCCCATTCATTATGCAGTTCCTCTTTTGCTT
NotI SspI
ACGATCTGTAGTTAGCGGCCGCCTAATTAACTAAT 3’ MPSYN45
TGCTAGACATCAATCGCCGGCGGATTAATTGATTA 5’ MPSYN46
左側隣接アームと右側隣接アームを結合させて1つのプラスミドとするために、pSD449から0.5kb のHindIII /SmaIフラグメントを分離し、これを、HindIII /SmaIで切断されたpSD459ベクタープラスミドに連結してpSD460を調製した。このpSD460をドナープラスミドとして用い、野性型親ワクシニアウイルスCopenhagen株VC−2との組換えを実施した。鋳型としてMPSYN45(SEQ ID NO:3)およびプライマーとして相補的な20マー(20mer)オリゴヌクレオチドMPSYN47(SEQ ID NO:5)(5′TTAGTTAATTAGGCGGCCGC3′)を用いるプライマー延長法により32Pがラベルされたプローブを合成した。組換えウイルスvP410の同定はプラークハイブリダイゼーションにより行った。
【0091】
実施例2−出血性領域(B13R+B14R)を欠失させたプラスミド
pSD486の構築
図2において、プラスミドpSD419は、pUC8にクローニングされたワクシニアSalI G(位置160,744 〜173,351)を含有する。pSD422は、右側に隣接するワクシニアSalIフラグメントSalI J(位置173,351 〜182,746)(pUC8にクローニングされている)を含有している。出血性領域u、B13R−B14R(位置172,549 〜173,552)が欠失されたプラスミドを構築するため、左側隣接アーム源としてpSD419を用い、また、右側隣接アーム源としてpSD422を用いた。u領域の転写方向は図2の矢印で示す。
【0092】
pSD419から非所望配列を除去するために、NcoI/SmaIを用いてpSD419を分解し、次いで大腸菌のクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)を行うことにより、NcoIサイト(位置172,253)の左側の配列を除去してプラスミドpSD476を得た。B14Rの終結コドンにおけるHpaIでのpSD422の分解および0.3kb 右のNruIによる分解によりワクシニアの右側隣接アームを得た。この0.3kb のフラグメントを単離、pSD476から単離された3.4kb のHincIIベクターフラグメントに連結して、プラスミドpSD477を得た。pSD477におけるワクシニアu領域の部分欠失位置は三角形で示している。
【0093】
pSD477における残りのB13Rコード配列を除去するため、ClaI/HpaIを用いる分解を行い、得られたベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドSD22mer/SD20mer(SEQ ID NO:6/SEQ ID NO:7)に連結して、pSD479を調製した。
【0094】
ClaI BamHI HpaI
SD22mer 5’ CGATTACTATGAAGGATCCGTT 3’
SD20mer 3’ TAATGATACTTCCTAGGCAA 5’
pSD479は、開始コドン(下線)を含有し、その後にBamHIサイトがある。uプロモーターの制御下にB13−B14(u)欠失座に大腸菌ベーターガラクトシダーゼを入れるために、ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のBamHIフラグメントをpSD479のBamHIサイトに挿入して、pSD479BGを調製した。このpSD479BGをドナープラスミドとして、ワクシニアウイルスvP410との組換えを実施した。組換えワクシニアウイルスvP533を、発色性基質X−galの存在下に青色のプラークとして分離した。vP533においては、B13R−B14R領域が欠失され、ベーターガラクトシダーゼによって置換されている。
【0095】
vP533からベーターガラクトシダーゼを取り除くために、ポリリンカー領域を含有するがu欠失結合部に開始コドンを有しないpSD477の派生体であるプラスミドpSD486を用いた。先ず、上述のpSD477由来のClaI/HpaIベクターフラグメントを、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドSD42mer/SD40mer(SEQ ID NO:8/SEQID NO:9)に連結して、プラスミドpSD478を調製した。
【0096】
ClaI SacI XhoI HpaI
SD42mer 5’ CGATTACTAGATCTGAGCTCCCCGGGCTCGAGGGATCCGTT 3’
SD40mer 3’ TAATGATCTAGACTCGAGGGGCCCGAGCTCCCTAGGCAA 5’
BglII SmaI BamHI
次に、pUC/ワクシニア結合部におけるEcoRIサイトを破壊するため、EcoRIを用いてpSD478を分解し、その後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)を行うことにより、pSD478E− を得た。このpSD478E− をBamHIおよびHpaIを用いて分解し、以下に示す配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドHEM5/HEM6(SEQ ID NO:10 /SEQ ID NO:11)に連結して、プラスミドpSD486を調製した。
【0097】
BamHI EcoRI HpaI
HEM5 5’ GATCCGAATTCTAGCT 3’
HEM6 3’ GCTAAGATCGA 5’
pSD486をドナープラスミドとして用い、組換えワクシニアウイルスvP533との組換えを行ってvP553を得た。このvP553は、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0098】
実施例3−ATI領域(A26L)を欠失させたプラスミドpMP494Δ
の構築
図3において、pSD414は、pUC8にクローニングされたSalI Bを含有する。A26L領域の左側の非所望DNA配列を取り除くために、pSD414を、ワクシニア配列内でXbaIを用いて切断し(位置137,079)、またpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いる切断を行い、次に、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結を行うことにより、プラスミドpSD483を得た。A26L領域の右側の非所望ワクシニアDNA配列を除去するために、EcoRIを用いてpSD483を切断し(位置140,665 およびpUC/ワクシニア結合部)、連結処理(ライゲーション)を行ってプラスミドpSD484を形成した。A26Lコード領域を取り除くため、NdeI(部分的)を用いてA26LのORFの少し上流を切断し(位置139,004)且つHpaIを用いてA26LのORFの少し下流を切断(位置137,889)した。5.2kb のベクターフラグメントを単離し、これを以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドATI3/ATI4(SEQ ID NO:12 /SEQ ID NO:13) と連結して、A26Lの上流領域を再構成し、下記の配列に示すようなBglII、EcoRIおよびHpaIの制限サイトを含有する短いポリリンカー領域とA26LのORFを置換した。
【0099】
NdeI
ATI3 5’ TATGAGTAACTTAACTCTTTTGTTAATTAAAAGTATATTCAAAAAATAAGT
ATI4 3’ ACTCATTGAATTGAGAAAACAATTAATTTTCATATAAGTTTTTTATTCA
BglII EcoRI HpaI
TATATAAATAGATCTGAATTCGTT 3’ ATI3
ATATATTTATCTAGACTTAAGCAA 5’ ATI4
得られたプラスミドをpSD485と命名した。pSD485のポリリンカー領域におけるBglIIサイトおよびEcoRIサイトは唯一のものではないので、BglIIを用いる分解(位置140,136)およびpUC/ワクシニア結合部におけるEcoRIによる分解を行い、その後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結(ライゲーション)により、プラスミド483(上述)から非所望のBglIIサイトおよびEcoRIサイトを除去した。得られたプラスミドをpSD489と命名した。pSD489由来でA26LのORFを含有する1.8kb のClaI(位置137,198)/EcoRV(位置139,048)フラグメントを対応する0.7kb のポリリンカーを含有するpSD485由来のClaI/EcoRVフラグメントと置換することによりpSD492を得た。このpSD492のポリリンカー領域におけるBglIIサイトおよびEcoRIサイトは唯一のものである。
【0100】
pSD492のBglIIサイトに、11kDaのワクシニアプロモーター(Bertholet 他、1985;Perkus他、1990)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.3kb のBglIIカセットを挿入して、pSD493KBGを形成した。このプラスミドpSD493KBGを用いて、レスキューウイルスvP553との組換えを行った。A26L欠失領域にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP581が、X−galの存在下に青色のプラークとして単離された。
【0101】
ワクシニア組換えウイルスvP581からベーターガラクトシダーゼを欠失させるプラスミドを調製するために、以下の配列を有する合成オリゴヌクレオチドMPSYN177(SEQ ID NO:14)を用いる突然変異法(Mandeck 、1986)によりプラスミドpSD492のポリリンカー領域を欠失させた。
【0102】
(5’ AAAATGGGCGTGGATTGTTAACTTTATATAACTTATTTTTTGAATATAC 3’)
得られたプラスミドpMP494Δにおいては、位置[137,889 〜138,937 ]をカバーし、A26LのORF全体を含むワクシニアDNAが欠失されている。このpMP494Δとベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニア組換体vP581との間の組換えにより、ワクシニア欠失変異体vP618が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0103】
実施例4−血球凝集素遺伝子(A56R)を欠失させたプラスミドpSD467
の構築
図4において、ワクシニアSalI G制限酵素フラグメント(位置160,744 〜173,351)は、HindIII A/B結合部(位置162,539)を包含している。pSD419は、pUC8にクローニングされたワクシニアSalI Gを含有する。血球凝集素(HA)遺伝子の転写方向は図4における矢印で示されている。HindIII B由来のワクシニア配列の除去には、ワクシニア配列内およびpUC/ワクシニア結合部においてHindIII を用いるpSD419の分解を行い、その後、連結処理(ライゲーション)した。得られたプラスミドpSD456は、左側が0.4kb のワクシニア配列および右側が0.4kb のワクシニア配列で挟まれたHA遺伝子(A56R)を含有する。A56Rをコードする配列を除去するために、A56Rコード配列の上流をRsaI(部分的;位置161,090)により、また、該遺伝子の末端近傍をEagI(位置162,054)によりpSD456を切断した。pSD456から3.6kb のRsaI/EagIベクターフラグメントを単離し、以下の配列を有するアニーリングした合成オリゴヌクレオチドMPSYN59(SEQID NO:15)、MPSYN62(SEQ ID NO:16)、MPSYN60(SEQ ID NO:17)およびMPSYN61(SEQ ID NO:18)に連結(ライゲート)して、A56RのORFの上流のDNA配列を再構成し、A56RのORFを下記に示すようなポリリンカー領域と置換した。
【0104】
RsaI
MPSYN59 5’ ACACGAATGATTTTCTAAAGTATTTGGAAAGTTTTATAGGT-
MPSYN62 3' TGTGCTTACTAAAAGATTTCATAAACCTTTCAAAATATCCA-
MPSYN59 AGTTGATAGAACAAAATACATAATTT 3'
MPSYN62 TCAACTATCT 5'
MPSYN60 5' TGTAAAAATAAATCACTTTTTATA-
MPSYN61 3' TGTTTTATGTATTAAAACATTTTTATTTAGTGAAAAATAT-
BglII SmaI PstI EagI
MPSYN60 CTAAGATCTCCCGGGCTGCAGC 3'
MPSYN61 GATTCTAGAGGGCCCGACGTCGCCGG 5'
得られたプラスミドがpSD466である。このpSD466におけるワクシニア欠失は位置[161,185 〜162,053 ]を包含する。pSD466における欠失サイトは図4では三角形で示されている。
【0105】
pSD466のBglIIサイトに、11kDaのワクシニアプロモーター(Bertholet 他、1985;Guo 他、1989)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のBglII/BamHI(部分的)カセットを挿入して、pSD466KBGを形成した。このプラスミドpSD466KBGを用いて、レスキューウイルスvP618との組換えを行った。A56R欠失サイトにベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP708が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0106】
ドナープラスミドpSD467を用い、vP708からベーターガラクトシダーゼ配列を除去した。pSD467はpSD466と同じであるが、但し、EcoRI/BamHIを用いるpSD466の分解、それに続く大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化および連結処理(ライゲーション)によりpUC/ワクシニア結合部からEcoRIサイト、SmaIサイトおよびBamHIサイトが取り除かれている。vP708とpSD467との間に組換えを行うことにより組み換えワクシニア欠失変異体vP723が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0107】
実施例5−オープンリーディングフレーム[C7L−K1L]
を欠失させたプラスミドpMPCSK1Δの構築
図5に関し、次のワクシニアクローンを利用してpMPCSK1Δを構築した。pSD420は、pUC8にクローニングされたSalI Hである。pSD435は、pUC18にクローニングされたKpnI Fである。SphIでpSD435を切断、再連結してpSD451を形成した。このpSD451においては、HindIII MにおけるSphIサイト(位置27,416)の左側のDNA配列が除去されている(Perkus他、1990)。pSD409は、pUC8にクローニングされたHindIII Mである。
【0108】
ワクシニアから[C7L−K1L]遺伝子クラスターを除去する基質を得るために、先ず、以下のように、ワクシニアのM2L欠失座に大腸菌ベーターガラクトシダーゼを挿入した(Guo 他,1990)。pSD409においてBglIIサイトを取り除くために、BglIIを用いてワクシニア配列(位置28,212)およびBamHIを用いてpUC/ワクシニア結合部において該プラスミドを切断し、次いで連結処理(ライゲーション)を行い、プラスミドpMP409Bを形成した。唯一のSphIサイト(位置27, 416 )においてpMP409Bを切断した。以下の配列の合成オリゴヌクレオチドを用いる突然変異法(Guo 他、1990;Mandecki,1986)によりM2Lをコードする配列を除去した。
【0109】
BglII
MPSYN82 (配列番号19)5’ TTTCTGTATATTTGCACCAATTTAGATCTT-ACTCAAAATATGTAACAATA 3’
得られたプラスミドpMP409Dは、上記のようにM2L欠失座に挿入された唯一のBglIIサイトを含有する。BglIIで切断されたpMP409Dに、11kDaのプロモーター(Bertholet 他、1985)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kbのBamHI(部分的)/BglIIカセットを挿入した。得られたプラスミドpMP409DBG (Guo 他、1990)をドナープラスミドとして用い、レスキューワクシニアウイルスvP723との組換えを行った。M2L欠失座に挿入されたベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP784が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0110】
ワクシニア遺伝子[C7L−K1L]が欠失されたプラスミドを、SmaI、HindIII で切断され、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片で平滑末端化されたpUC8に組み込んだ。ワクシニアHindIII C配列から成る左側の隣接アームを得るために、pSD420をXbaI(位置18,628)で分解した後、大腸菌ポリメラーゼのクレノウ断片を用いる平滑末端化およびBglII(位置19,706)を用いる分解を行った。ワクシニアHindIII K配列から成る右側の隣接アームは、pSD451をBglII(位置29,062)およびEcoRV(位置29,778)で分解して得られた。得られたプラスミドpMP581CKは、HindIII CのBglIIサイト(位置19,706)とHindIII KのBglIIサイト(位置29062)との間のワクシニア配列が欠失されている。プラスミドpMP581CKにおけるワクシニア配列の欠失部位は図5に三角形で示している。
【0111】
ワクシニア欠失部の過剰なDNAを除去するため、プラスミドpMP581CKをワクシニア配列内のNcoIサイト(位置18,811;19,655)において切断し、Bal−31エクソヌクレアーゼを用いて処理し、さらに、以下の配列を有する合成オリゴヌクレオチドMPSYN233(SEQ ID NO:20)を用いる突然変異法(Mandecki,1986)に供した。
【0112】
5’-TGTCATTTAACACTATACTCATATTAATAAAAATAATATTTATT-3’
得られたプラスミドpMPCSK1Δは、12のワクシニアオープンリーデンフレーム[ C7L−K1L]を包含する18,805〜29,108位置のワクシニア配列が欠失されている。pMPCSK1Δとベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニアウイルスvP784との間に組換えを行わせることにより、ワクシニア欠失変異体vP804が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0113】
実施例6−リボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットを欠失させた
プラスミドpSD548の構築
図6において、プラスミドpSD405は、pUC8にクローニングされたワクシニアHindIII I(位置63,875〜70,367)を含有する。このpSD405をワクシニア配列内でEcoRVにより、また、pUC/ワクシニア結合部においてはSmaIにより消化分解し、連結処理(ライゲーション)することによりプラスミドpSD518を形成した。pSD548の構築に用いたワクシニア制限フラグメントは、全て、このpSD518由来のものである。
【0114】
ワクシニアのI4L遺伝子は、67,371〜65,059の位置に延在している。I4Lの転写方向は、図6において矢印で示されている。I4Lのコード配列の一部が欠失したベクタープラスミドを得るために、pSD518をBamHI(位置65, 381 )およびHpaI(位置67,001)を用いて分解し、且つ、大腸菌のクレノウ断片を用いて平滑末端化した。この4.8kb のベクターフラグメントを、ワクシニアの11kDaのプロモーター(Bertholet 他、1985;Perkus他、1990)の制御下に大腸菌ベーターガラクトシダーゼ遺伝子(Shapira 他、1983)を含有する3.2kb のSmaIカセットに連結して、プラスミドpSD524KBGを得た。このpSD524KBGをドナープラスミドとして、ワクシニアウイルスvP804との組換えを行った。I4L遺伝子の部分欠失位置にベーターガラクトシダーゼを含有する組換えワクシニアウイルスvP855が、X−galの存在下に青色プラークとして単離された。
【0115】
ベーターガラクトシダーゼおよび残存するI4LのORFをvP855から欠失させるために、欠失プラスミドpSD548を構築した。以下に詳述し且つ図6に示すように、左側および右側のワクシニア隣接アームをそれぞれ別個にpUC8に組み込んだ。
【0116】
左側のワクシニア隣接アームを受け入れるベクタープラスミドを構築するため、pUC8をBamHI/EcoRIで切断し、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチド518A1/518A2(SEQ ID NO:21 /SEQ ID NO:22)に連結して、プラスミドpSD531を形成した。
【0117】
BamHI RsaI
518A1 5’ GATCCTGAGTACTTTGTAATATAATGATATATATTTTCACTTTATCTCAT
518A2 3’ GACTCATGAAACATTATATTACTATATATAAAAGTGAAATAGAGTA
BglII EcoRI
TTGAGAATAAAAAGATCTTAGG 3’ 518A1
AACTCTTATTTTTCTAGAATCCTTAA 5’ 518A2
RsaI(部分的)およびBamHIでpSD531を切断し、2.7kb のベクターフラグメントを単離した。BglII(位置64,459)/RsaI(位置64994)でpSD518を切断して0.5kb のフラグメントを単離した。これらの2つのフラグメントを互いに連結して、I4Lのコード配列の左側の完全なワクシニア隣接アームを含有するpSD537を形成した。
【0118】
右側のワクシニア隣接アームを受け入れるベクタープラスミドを構築するため、BamHI/EcoRIでpUC8を切断し、以下に示す配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチド518B1/518B2(SEQID NO:23 /SEQ ID NO:24)に連結して、プラスミドpSD532を形成した。
【0119】
BamHI BglII SmaI
518B1 5’ GATCCAGATCTCCCGGGAAAAAAATTATTTAACTTTTCATTAATAG-
518B2 3’ GTCTAGAGGGCCCTTTTTTTAATAAATTGAAAAGTAATTATC-
RsaI EcoRI
GGATTTGACGTATGTAGCGTACTAGG 3’ 518B1
CCTAAACTGCATACTACGCATGATCCTTAA 5’ 518B2
このpSD532をRsaI(部分的)/EcoRIで切断して2.7kb のベクターフラグメントを単離した。pSD518を、ワクシニア配列内をRsaI( 位置67,436)により、また、ワクシニア/pUC結合部をEcoRIによって切断して0.6kb のフラグメントを単離した。2つの断片を互いに連結し、I4Lをコードする配列の右側の完全なワクシニア隣接アームを含有するpSD538を調製した。
【0120】
右側のワクシニア隣接アームは、pSD538から0.6kb のEcoRI/BglIIフラグメントとして単離し、EcoRI/BglIIで切断されたpSD537内に連結した。得られたプラスミドpSD539においては、I4LのORF(位置65,047〜67,836)がポリリンカー領域によって置換されており、該領域は左側を0.6kb のワクシニアDNAにより、また右側を0.6kb のワクシニアDNAにより挟まれており(フランキングされており)、これらは全てpUCバックグランド内にある。ワクシニア配列内の欠失部は、図6において三角形で示している。pSD539のpUC派生部分のベーターガラクトシダーゼが、組換えワクシニアウイルスvP855内のベーターガラクトシダーゼと組換えを行う可能性を回避するため、pSD539からワクシニアI4L欠失カセットを取り除いてpRC11とした。このpRC11は、すべてのベーターガラクトシダーゼが除去され、ポリリンカー領域で置換されたpUC派生体である(Colinas他、1990)。pSD539をEcoRI/PstIで切断して1.2kb のフラグメントを単離した。このフラグメントを、EcoRI/PstIで切断したpRC11(2.35kb)に連結して、pSD548を形成した。pSD548とベーターガラクトシダーゼ含有ワクシニア組換体vP855との間に組換えを行わせることにより、ワクシニア欠失変異体vP866が得られ、X−galの存在下に透明なプラークとして単離された。
【0121】
組換えワクシニアウイルスvP866由来のDNAの分析は、制限酵素分解、次にアガロースゲル上の電気泳動法により行った。制限パターンは予測どおりであった。鋳型としてvP866および上で詳述した6つの欠失遺伝子座を挟むプライマーを用いた複製連鎖反応(PCR)(Engelke 他、1988)により予測された大きさのDNAフラグメントが得られた。PCRで得られたフラグメントの欠失接合領域近傍の配列分析により、接合が期待どおりであることが確認された。上述したような6つの欠失部を有するように工夫した組換えワクシニアウイルスvP866をワクシニアウイルス株「NYVAC」と命名した。
【0122】
実施例7−NYVACへの狂犬病糖タンパク質G遺伝子の挿入
ワクシニアH6プロモーター(Taylor他、1988a,b)の制御下に狂犬病(ウイルス)糖タンパク質Gをコードする遺伝子をTK欠失プラスミドpSD513に挿入した。pSD513は、ポリリンカーが存在している点を除いては、pSD460(図1)と同一である。
【0123】
図7に示すように、pSD460をSmaIで切断し、以下の配列を有するアニーリングされた合成オリゴヌクレオチドVQ1A/VQ1B(SEQ ID NO:25 /SEQ ID NO:26)に連結することにより該ポリリンカーを挿入することにより、ベクタープラスミドpSD513を形成した。
【0124】
SmaI BglII XhoI PstI NarI BamHI
VQ1A 5’ GGGAGATCTCTCGAGCTGCAGGGCGCCGGATCCTTTTTCT 3’
VQ1B 3’ CCCTCTAGAGAGCTCGACGTCCCGCGGCCTAGGAAAAAGA 5’
このpSD513をSmaIで切断し、ワクシニアH6プロモーター(Taylor他、1988a,b)の制御下に狂犬病糖タンパク質Gをコードする遺伝子を含有し、SmaI末端から成る1.8kb のカセットに連結した。得られたプラスミドをpRW842と命名した。このpRW842をドナープラスミドとして用い、NYVACレスキューウイルス(vP866)と組換えを行った。狂犬病糖タンパク質Gをコードする配列に対する32Pラベル化プローブを用いるプラークハイブリダイゼーションにより組換えワクシニアウイルスvP879を同定した。
【0125】
本発明の改変組換えウイルスは、組換えワクチンベクターとして幾つかの利点を有する。すなわち、ベクターの毒性が弱毒化されているので、ワクチン接種による被接種者が無制御(ランナウェー)感染する可能性が減少し、さらに、感染者から非感染者への伝染や環境の汚染も少なくするという利点を有する。
【0126】
さらに、本発明の改変組換えウイルスは、インビトロ培養される細胞内で遺伝子産物を発現させるのに用いることもでき、このためには、該細胞内で遺伝子産物をコードし発現する外来遺伝子を有する本発明の改変組換えウイルスを該細胞に導入すればよい。
【0127】
実施例8−狂犬病ウイルス糖タンパク質Gを発現するALVAC組換体の構築
この実施例は、カナリアポックスウイルスベクターALVACおよびカナリアポックス−狂犬病ウイルス組換体ALVAC−RG(vCP65)の調製ならびにその安全性と効力について記述するものである。
【0128】
細胞およびウイルス 親カナリアポックスウイルス(Rentschler株)はカナリア用ワクチン株の1つである。このワクチン株は野性型の単離体から入手され、ニワトリ胚繊維芽細胞による200 回以上の連続的な継代培養により弱毒化されたものである。マスターウイルスシードは、寒天下の4回の連続的なプラーク精製に供され、さらに、プラーククローンの1つが5回の追加の継代培養により増殖された後、該ストックウイルスが親ウイルスとしてインビトロ組換え試験に用いられた。プラーク精製されたカナリアポックス単離体は、ALVACと命名されている。
【0129】
カナリアポックス挿入ベクターの構築 880bp のカナリアポックスPvuIIフラグメントを、PUC9のPvuIIサイト間にクローニングしてpRW764.5 を調製した。このフラグメントの配列は、図8(SEQ ID NO:27)において1372〜2251位置に示されている。C5として称されているオープンリーディングフレームの範囲を確認した。このオープンリーディングフレームは、該フラグメント内の位置166で開始され且つ位置487で終結されていることが明らかにされた。オープンリーディングフレームを阻害することなくC5の欠失を行った。位置167から位置455までの塩基を、配列(SEQ ID NO:28)GCTTCCCGGGAATTCTAGCTAGCTAGTTT と置換した。この置換配列は、HindIII 、SmaIおよびEcoRI挿入サイトと、それに後続しワクシニアウイルスRNAポリメラーゼにより認識される翻訳停止シグナルおよび転写終結シグナルを含有している(Yuen他、1987)。C5オープンリーディングフレームの欠失は以下のように行った。プラスミドpRW764.5 をRsaIで部分的に切断して線状の生成物を単離した。このRsaI線状フラグメントをBglIIで再切断し、かくして、位置156から位置462までのRsaIからBglIIまでが欠失したpRW764.5 フラグメントを単離し、以下の合成オリゴヌクレオチド用ベクターとして使用した。
【0130】
RW145(配列番号29)
ACTCTCAAAAGCTTCCCGGGAATTCTAGCTAGCTAGTTTTTATAAA
RW146(配列番号30)
GATCTTTATAAAAACTAGCTAGCTAGAATTCCCGGGAAGCTTTTGAGAGT
オリゴヌクレオチドRW145およびRW146をアニーリングし、上述のpRW764.5 RsaIおよびBglIIベクターに挿入した。得られたプラスミドをpRW831と命名した。
【0131】
狂犬病G遺伝子を含有する挿入ベクターの構築 以下にpRW838の構築について説明する。AからEのオリゴヌクレオチド(狂犬病ウイルスGのH6プロモーターの開始コドンと重なっている)をpUC9にクローニングしてpRW737とした。オリゴヌクレオチドAからEはH6プロモーターを含有し、NruIで始まり、狂犬病ウイルスGのHindIII に到り、その後にBglIIがある。オリゴヌクレオチドAからE((SEQ ID NO:31)から(SEQ ID NO:35 ) )の配列は以下のとおりである。
【0132】
A(配列番号31):CTGAAATTATTTCATTATCGCGATATCCGTTAAGTTTGTATCGTAATGGTTCCTCAGGCTCTCCTGTTTGT
B(配列番号32):CATTACGATACAAACTTAACGGATATCGCGATAATGAAATAATTTCAG
C(配列番号33):ACCCCTTCTGGTTTTTCCGTTGTGTTTTGGGAAATTCCCTATTTACACGATCCCAGACAAGCTTAGATCTCAG
D(配列番号34):CTGAGATCTAAGCTTGTCTGGGATCGTGTAAATAGGGAATTTCCCAAAACA
E(配列番号35):CAACGGAAAAACCAGAAGGGGTACAAACAGGAGAGCCTGAGGAAC
また、アニーリングされたオリゴヌクレオチドAからEを図解すると次のようになる。
【0133】
A C
-------------------------|---------------------------
----------------|------------------|-----------------
B E D
オリゴヌクレオチドAからEをキナーゼ処理し、アニーリングし(95℃で5分間、その後、室温に冷却)、pUC9のPruIIサイト間に挿入した。得られたプラスミドpRW737をHindIII およびBglIIで切断し、ptg155PRO(Kieny他、1984)のHindIII −BglIIの1.6kbpフラグメント用ベクターとして使用しpRW739を調製した。ptg155PROHindIII サイトは、狂犬病Gの翻訳開始コドンの86bp下流にある。また、ptg155PROにおいて、BglIIは狂犬病G翻訳停止コドンの下流にある。pRW739をNruI用いて部分切断し、さらにBglIIを用いて完全切断し、かくして、既知のH6プロモーター(Taylor他、1988a,b ;Guo他、1989;Perkus他、1989)の3′末端から狂犬病Gの全遺伝子までを含有する1.7kbpのNruI−BglIIフラグメントをpRW824のNruIサイトとBamHIサイトとの間に挿入した。得られたプラスミドをpRW832と命名する。pRW824に挿入することにより、NruIのH6プロモーターの5′が付加された。SmaIが後に続いているBamHIのpRW824の配列は、GGATCCCCGGG (SEQ ID NO:36)である。pRW824は、ワクシニアウイルスのH6プロモーターに非関連遺伝子が正確に結合されたプラスミドである。NruIおよびBamHIでの分解によりこの非関連遺伝子を切除した。このpRW832のSmaIの1.8kbpフラグメント(H6をプロモーターとする狂犬病Gを含有している)をpRW831のSmaIに挿入して、プラスミドpRW838を調製した。
【0134】
ALVAC−RGの調製 既知のリン酸カルシウム沈降法を用いて(Panicali他、1982;Piccini 他、1987)、ALVAC感染初期CEF細胞にpRW838を移入させた。特定の狂犬病Gプローブに対するハイブリダイゼーションにより陽性クローンを選択し、純粋な集団が得られるまで6回の連続的なプラーク精製に供した。次に、1つの代表プラークを増殖して、得られたALVAC組換体をALVAC−RG(vCP65)と命名した(図9Aおよび図9B参照)。配列分析により、狂犬病G遺伝子がALVACゲノム内に正しく挿入され、その後の変異が生じていないことを確認した。
【0135】
免疫蛍光 成熟狂犬病ウイルス粒子が形成される最終段階においては、糖タンパク質成分はゴルジ体から形質膜に移送され、そこで、細胞膜質および細胞膜の外表面にあるタンパク質本体にカルボキシ末端を延ばしながら蓄積する。ALVAC−RG内で発現された狂犬病糖タンパク質が正しく存在していることを確認するために、ALVACまたはALVAC−RGで感染された初期CEF細胞上で免疫蛍光測定法を実施した。この免疫蛍光法は、既知の手法(Taylor他、1990)に従い、狂犬病Gのモノクローナル抗体を用いて行った。ALVAC−RGを感染させたCEF細胞においては強い表面蛍光が検出されたが、親のALVACには蛍光は認められなかった。
【0136】
免疫沈降 初期CEF細胞、ベロ(Vero)細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞由来の細胞系、ATCC#CCL81)、およびMRC−5細胞(正常なヒト胎児肺組織から派生された繊維芽細胞類似の細胞系、ATCC#CCL171)から予め形成した単層に、既知の手法(Taylor他、1990)に従い、放射ラベルした35S−メチオニンの存在下に、10pfu /細胞で、親ウイルスALVACおよび組換えウイルスALVAC−RGを接種した。免疫沈降反応は、狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用いて行った。組換えALVAC−RGの場合は、分子量がおよそ67kDa の狂犬病特異的糖タンパク質が効率的に発現していることが検出された。非感染細胞または親ウイルスであるALVACが感染された細胞においては、狂犬病特異的生成物の検出は認められなかった。
【0137】
連続継代培養実験 ALVACを広範囲の非トリ種に適用した研究では、感染の増幅や明白な病気は認められていない(Taylou他、1991b)。しかしながら、親ウイルスおよび組換えウイルスのいずれも非トリ細胞では増殖できないことを確認するため、連続的な継代培養実験を行った。
【0138】
以下の細胞基質に2種類のウイルス、すなわち、ALVACおよびALVAC−RGを接種して10代の連続的な盲検(ブラインド)継代培養を行った。
【0139】
(1) 11日齢の白色レグホーン胚由来の初期ニワトリ繊維芽(CEF)細胞;
(2) ベロ(Vero)細胞−アフリカミドリザルの腎臓細胞由来の無限増殖性細胞
(ATCC#CCL81);および
(3) MRC−5細胞−ヒト胎児の胚組織由来の二倍体細胞系(ATCC#CC
L171)。
【0140】
各細胞につき3ヶの60mm培養皿を用い各皿に2×106 個の細胞が含有されるようにして、0.1pfu/細胞のm.o.i.で最初の接種を行った。培養皿の1つは、DNA複製の阻害剤であるシトシンアラビノシド(Ara C)40μg/mlの存在下に接種を行った。37℃で1時間の吸着期間の後、接種物を除去し、単層を洗浄して非吸着ウイルスを取り除いた。この時点で、培地の置換を行い、2つの培養皿(試料t0および試料t7)には5mlのEMEM+2%NBCSを入れ、また、第3番目の培養皿(試料t7A)には40μg/mlのAra Cを含有する5mlのEMEM+2%NBCSを入れた。試料t0は−70℃で凍結して残存する導入ウイルスの指標とした。試料t7および試料t7Aは37℃で7日間培養し、その後、内容物を回収し、間接音波処理により細胞を破砕した。
【0141】
各細胞基質の試料t7の1mlを同じ細胞基質の3つの培養皿に稀釈せずに接種し(試料t0、t7およびt7Aとする)、さらに、初期CEF細胞の1つの培養皿に接種した。試料t0、試料t7および試料t7Aは第1代継代のために処理した。CEF細胞への追加接種は、非トリ細胞中に存在し得るようなウイルスに対する高感度検出用の増殖工程に供した。
【0142】
この操作を繰り返して、10代の連続ブラインド継代培養(CEFおよびMRC−5)または8代(ベロ)の連続ブラインド継代培養を行った。試料を凍結し、3回解凍して初期CEF単層上で滴定を行うことにより分析した。
【0143】
次に、寒天下にCEF単層上でプラーク滴定を行うことによりウイルス収量を測定した。実験結果をまとめて表1および表2に示す。
【0144】
この結果から、親のALVACおよび組換体のALVAC−RGの両方とも、CEF単層上で複製を持続する能力を有し力価の損失はないことが示されている。ベロ(Vero)細胞においては、ALVACについては第2代後、また、ALVAC−RGについては第1代後にウイルスのレベルは検出レベル以下に低下した。MRC−5においても同様の結果が示され、第1代後にはウイルスが検出されなかった。表1および表2には第4代までの結果しか示していないが継代培養を第8代(Vero)および第10代(MRC−5)まで行ったところ、これらの非トリ細胞においてはいずれのウイルスも検知可能となるように成長適応化していなかった。
【0145】
第1代においては、MRC−5細胞およびVero細胞のt7試料には比較的高レベルのウイルスが存在した。しかしながら、このレベルは、t0試料およびウイルスの複製が起こり得ないようにシトシンアラビノシドの存在下に接種を行ったt7A試料において見られるレベルに等しかった。このことは、非トリ細胞において7日目に認められたウイルスレベルは、残存ウイルスを表し新たに複製されたウイルスではないことを示している。
【0146】
分析をさらに高感度にするため、各細胞基質から7日目に回収したものの一部を、任意のCEF単層に接種し、細胞変性効果(CPE)が認められた時に回収するか、またはCPEが見られない場合は7日目に回収した。この実験結果を表3に示す。任意の細胞基質による増殖後においも、MRC−5細胞およびVero細胞においては、更に2代の継代でウイルスが検出されるだけであった。これらの結果から、採用した条件下では、Vero細胞またはMRC−5細胞においてはいずれのウイルスも増殖できるように適応化できないことが明らかである。
【0147】
アカゲザルへの接種 HIVに関して血清反応陽性の4匹のアカゲザルに先ずALVAC−RGを接種した(表4)。100 日後、該動物に再接種して追加免疫効果を調べ、さらに、追加の7匹のアカゲザルにいろいろな投与量で接種を行った。適当な間隔で血液を抜き出し、56℃において30分間の加熱不活性化後、高速蛍光焦点阻害(Rapid Fluorescent Focus Inhibition:RFFI)分析法(Smith 他、1973)により狂犬病ウイルス抗体の存在を血清分析した。
【0148】
チンパンジーへの接種 オトナのオスのチンパンジー2匹(体重範囲50〜65kg)に、vCP65を1×107 pfu で筋肉内また皮下接種した。該動物の反応を観察し、また、規則的な間隔で採血を行いRFFIテスト(Smith 他、1973)により抗狂犬病ウイルス抗体の存在を分析した。最初の接種から13週間後、同じ投与量で該動物に再接種した。
【0149】
マウスへの接種 グループ分けしたマウスに、異なるバッチ由来のvCP65をいろいろな希釈度で50〜100 μl接種した。マウスへの接種は足蹠に接種した。14日目に、狂犬病ウイルスの毒性CVS株を15〜43マウスLD50で頭蓋内接種することによりマウスの免疫性テストを行った。マウスの生存率を監視し、接種から28日目における50%防御投与量(PD50)を求めた。
【0150】
イヌおよびネコへの接種 10匹のビーグル犬(5ヶ月齢)および10匹のネコ(4ヶ月齢)に、ALVAC−RGを6.7 または7.7log10TCID50で皮下接種した。4匹のイヌおよび4匹のネコには接種を行わなかった。接種後14日および28日後にそれらの動物の採血を行い、RFFIテストにより抗狂犬病ウイルス抗体を分析した。6.7log10TCID50のALVAC−RGが投与された動物については、接種後29日目に、NYGS狂犬病ウイルス免疫性テスト株の3.7log10(マウスLD50)(ビーグル犬)または4.3log10(マウスLD50)(ネコ)を用いて免疫性テストを行った。
【0151】
リスザルへの接種 各グループが4匹のリスザル(Saimiri Sciureus)から成る3グループのリスザルに、3種類のウイルスの1つ、すなわち、(a) ALVAC(カナリアポックス親ウイルス)、(b) ALVAC−RG(狂犬病G糖タンパク質を発現する組換体、または(c) vCP37(ネコ白血病ウイルスのエンベロープ糖タンパク質を発現するカナリアポックス組換体)を接種した。接種はケタミン麻酔下に実施した。各動物は以下を同時に投与された:(1) 乱刺を行わずに右目の表面に滴注された20μl、(2) 口中に数滴として100 μl、(3) 右腕の外表面の毛をそった皮膚内の2つの注射部位にそれぞれ100 μl;および(4) 右大腿の前部筋肉に100 μl。
【0152】
4匹のサルに各ウイルスを接種し、2匹についてはlog10pfuとして全量5.0 とし、また、他の2匹についてはlog10pfuとして7.0 とした。規則的な間隔で該動物の採血を行い、血清を分析してRFFIテスト(Smith 他、1973)により抗狂犬病ウイルス抗体を調べた。接種に対する該動物の反応を毎日観察した。最初の接種から6ヶ月後、ALVAC−RGを投与された4匹のリスザル、vCP37をはじめに投与された2匹のリスザルに加えて非投与のリスザル1匹に、ALVAC−RGを6.5log10pfu で皮下接種した。血清を分析して、RFFIテスト(Smith 他、1973)により狂犬病ウイルス中和抗体の存在を調べた。
【0153】
ヒト細胞系へのALVAC−RGの接種 当該ウイルスが複製しない非トリ細胞内で外来遺伝子が効率的に発現されるか否かを判定するため、5種類の細胞系、すなわち、1種類のトリ系および4種類の非トリ系について分析を行い、ウイルス収量、外来狂犬病G遺伝子の発現およびウイルス特異的DNA蓄積を調べた。接種した細胞は次のとおりである。
【0154】
(a) Vero細胞。アフリカミドリザル腎臓細胞。ATCC#CCL81。
【0155】
(b) MRC−5細胞。ヒト胎児肺細胞。ATCC#CCL171 。
【0156】
(c) WISH細胞。ヒト羊膜由来。ATCC#CCL25。
【0157】
(d) Detroit-532 細胞。ヒト包皮由来。ダウン症候群。ATCC#CCL54。
【0158】
(e) 初期CEF細胞。
【0159】
11日齢白色レグホーン胚由来のニワトリ胚繊維芽細胞を陽性対照として用いた。接種は全て、下記のように予め調製した2×106 細胞から成る単層に実施した。
【0160】
A.DNA分析法。
【0161】
各細胞系について3ヶの培養皿を用い、被試験ウイルスを5pfu /細胞で接種し、さらに、各細胞系について1ヶの培養皿を追加し非接種用とした。培養皿の1つについては、40μg/mlのシトシンアラビノシド(Ara C)の存在下に培養を行った。37℃において60分間の吸着期間の後、接種物を除き、単層を2回洗浄して非吸着ウイルスを除去した。次いで、培地(Ara Cを含有するもの、または含有しないもの)の交換を行った。培養皿の1つ(Ara Cを含有しないもの)からは、時間ゼロにおける試料として細胞を回収した。残りの皿は、37℃で72時間保持した後、細胞を回収してDNA蓄積の分析に用いた。2×106 細胞から成る各試料を40mMのEDTAを含有する0.5ml のリン酸緩衝塩溶液(PBS)に再懸濁して37℃で5分間保温した。42℃で予め加温し120 mMのEDTAを含有する等体積の1.5 %アガロースを細胞懸濁液に添加してゆっくり混合した。該懸濁液をアガロースプラグモールドに移し、少なくとも15分間放置して硬化させた。次いで、アガロースプラグを取り除き、該プラグを完全に覆うような体積の溶解緩衝液(1%のサルコシル、100 μg/mlのプロティナーゼK、10mMのトリスHCl pH7.5 、200mMのEDTA)内で50℃において12〜16時間インキュベートした。次に、該溶解緩衝液を5.0ml の無菌0.5 ×TBE(44.5mMのトリス−ホウ酸、44.5mMのホウ酸、0.5 mMのEDTA)と置換して、TBE緩衝液を3回変えながら4℃において6時間平衡化した。パルスフィールド電気泳動装置を用いて細胞RNAおよびDNAからプラグ内にあるウイルスDNAを分別した。電気泳動は、50〜90秒の傾きで0.5 ×TBE内で15℃において、180Vで20時間実施した。ラムダDNAを分子量標準としてDNAを泳動させた。電気泳動後、エチジウムブロミドで染色することによりウイルスDNAのバンドを可視化した。次にDNAをニトロセルロース膜に移し、精製ALVACゲノムDNAから調製した放射ラベル化プローブを用いて分析した。
【0162】
B.ウイルス収量の推定
培養皿への接種は上記と同じように行った。但し、感染多重度は0.1pfu/細胞とした。感染72時間後、凍結および解凍サイクルを3回連続的に実施することにより細胞を溶解した。CEF単層上でプラーク滴定を行うことによりウイルス収量を調べた。
【0163】
C.狂犬病G遺伝子の発現の分析
組換えウイルスまたは親ウイルスを10pfu /細胞の多重度で培養皿に接種するとともに、追加の皿を非感染ウイルス対照用とした。1時間の吸着期間の後、培地を除去し、無メチオニン培地と置換した。30分後、この培地を、25μCi/ml の35S−メチオニンを含有する無メチオニン培地と置換した。感染細胞を一晩かけて(約16時間)ラベル化し、次に、バッファーA溶解バッファーを添加することにより溶解した。狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用い既知の手法に従い(Taylor他、1990)、免疫沈降を実施した。
【0164】
結果:ウイルス収量の推定
細胞当たり0.1pfuで接種し72時間後に行ったウイルス収量を求める滴定分析の結果を表5に示す。この結果が示すように、トリ細胞においては強い感染が生じ得るが、4種類の非トリ細胞系においてはこの方法ではウイルス収量の増加は検知されない。
【0165】
ウイルスDNAの蓄積の分析 DNA複製の前または後に非トリ細胞におけるウイルス複製の阻害が生じたか否かということを判定するために、細胞破砕物からのDNAを電気泳動法により分画し、ニトロセルロースに移し、ウイルス特異的DNAを探査した。非感染CEF細胞、時間ゼロにおけるALVAC−RG感染CEF細胞、接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞および接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞(40μg/mlのシトシンアラビノシド存在下)由来のDNAはいずれもある程度のバックグランド活性を示したが、これは、おそらく、放射ラベル化ALVAC DNAプローブの調製に際して混入したCEF細胞DNAに因るものと思われる。しかしながら、接種72時間後のALVAC−RG感染CEF細胞は、約350kbpの領域にALVAC特異的ウイルスDNAの蓄積を表す強いバンドを示した。DNA合成阻害剤であるシトシンアラビノシドの存在下に培養物をインキュベートしてもそのようなバンドは検出されなかった。Vero細胞で得られた相応する試料については、時間ゼロにおけるALVAC−RG感染Vero細胞において約350kbpにおいて非常に弱いバンドが示された。このレベルは残存ウイルスを表すものであった。接種72時間後にはバンド強さが増加されており、このことは、Vero細胞においてはある程度のレベルのウイルス特異的DNA複製が起こったが、ウイルス子孫の増加を生じさせはしなかったということを示唆している。MRC−5細胞で得られた相応する試料においては、これらの条件下でウイルス特異的DNAの蓄積は検出されなかった。この実験を広げ、追加のヒト細胞系、すなわちWISH細胞およびDetroit-532 細胞についても実施した。ALVAC感染CEF細胞を陽性対照とした。ALVAC−RGが接種されたWISH細胞およびDetroit 細胞のいずれにおいてもウイルス特異的DNA蓄積は検出されなかった。なお、この方法の検出限界は完全には確認されておらず、ウイルスDNA蓄積は起こっているのかも知れないが、該方法の感度よりも低いレベルであろう。 3H−チミジンの取り込みによりウイルスDNA複製が測定された他の実験は、Vero細胞およびMRC−5細胞に関して得られた上記の結果を支持している。
【0166】
狂犬病遺伝子の発現分析 ウイルス遺伝子、特に挿入された外来遺伝子の発現が、ウイルスDNA複製の非存在下においてもヒト細胞系で起こっているか否かを判定するために、ALVACおよびALVAC−RGを感染させたトリ系細胞および非トリ系細胞由来の35S−メチオニンラベル化破砕物について免疫沈降実験を実施した。狂犬病G特異的モノクローナル抗体を用いる免疫沈降実験の結果、ALVAC−RGを感染させたCEF、Vero、MRC−5、WISHおよびDetroit の各細胞において67kDaの糖タンパク質から成る特異的免疫沈降が認められた。非感染細胞および親ウイルスを感染させた細胞の破砕物のいずれにおいても、そのような特異的狂犬病遺伝子産物は検出されなかった。
【0167】
この実験結果が示唆することは、分析したヒト細胞系においては、ALVAC−RG組換体はH6初期/後期ワクシニアウイルスプロモータの転写制限下に感染を開始し外来遺伝子産物を発現させることはできるが、DNA複製を介する複製は進行せず、また、検知され得るようなウイルス子孫は産生しなかったということである。Vero細胞においては、ある程度のレベルのALVAC−RG特異的DNA複製は認められたが、この方法ではウイルス子孫は検出されなかった。これらの結果は、分析したヒト細胞系においてはウイルス複製の阻止はDNA複製の開始前に起こるが、Vero細胞においてはウイルスDNA複製の開始後に該阻止が起こることを示している。
【0168】
ALVAC−RG内で発現された狂犬病糖タンパク質が免疫原性を有するか否かを判定するために、多くの動物種に該組換体を接種してテストした。現行の狂犬病ワクチンの効力はマウスモデル系で評価されている。そこで、ALVAC−RGを用いて同様のテストを行った。感染力価が6.7 から8.4 (log10 (TCID50/ml))の範囲にある9種類の異なったウイルス調製物(種ウイルスを10回組織培養による継代培養して得られたワクチンバッチ(J) を含む)を連続的に稀釈し、50〜100 μlの稀釈液を4週齢から6週齢のマウスの足蹠に接種した。14日後に、マウスLD50(対照用マウスグループにおける致死滴定量から求めた)が15から43の狂犬病ウイルスCVS株300 μlを頭蓋内投与してマウスを免疫性テストした。PD50(50%防御投与量)として表す効力を免疫性テストから14日目に計算した。実験結果を表6に示す。この結果から、ALVAC−RGは狂犬病ウイルスの免疫性テストに対して恒常的にマウスを防御することができ、PD50値は、3.33から4.56の範囲にあり平均値3.73(STD0.48)であることが示されている。追加実験として、6.0log10TCID50のALVAC−RGを含有するウイルス50μlまたは等体積の非感染細胞懸濁液をオスのマウスに頭蓋内接種した。接種から1日、3日および6日目にマウスを殺し、その脳を取り出し、固定化し薄片に切断した。組織病理学検査によれば、マウス内にALVAC−RGの神経毒性の証拠は認められなかった。
【0169】
イヌおよびネコに対するALVAC−RGの安全性および効力を評価するため、14匹の5ヶ月齢のビーグル犬、ならびに14匹の4ヶ月齢のネコから成るグループの分析を行った。該イヌおよびネコのそれぞれについて4匹にはワクチン接種を行わなかった。該動物の5匹には6.7 log10 TCID50で皮下投与した。動物の採血を行い、抗狂犬病抗体の分析を行った。非投与または6.7log10TCID50のALVAC−RGを投与した動物に対しては、接種から29日目に、NYGS狂犬病ウイルス免疫性テスト株の3.7log10(マウスLD50)(ビーグル犬、側部筋に)または4.3log10(マウスLD50)(ネコ、頸部に)を用いて免疫性テストを行った。実験結果を表7に示す。
【0170】
ネコおよびイヌのいずれにおいても且ついずれの接種ウイルス投与量においても接種に対する副作用は認められなかった。6.7log10TCID50で免疫された5匹のイヌのうち4匹は、ワクチン接種14日目に抗体力価を示し、29日目には全てのイヌが抗体力価を有した。4匹の対照用イヌのうち3匹を死なせるような免疫性テストに対して全てのイヌが防御された。ネコの場合、6.7log10TCID50で投与された5匹のネコのうち、3匹が14日目に特異的抗体力価を有し、そして、29日目には全てが陽性となったが、平均抗体力価は低く2.9 IUであった。対照用ネコの全てを死なせるような免疫性テストにおいて、5匹のネコのうち3匹が生存した。7.7log10TCID50で免疫したネコは全て14日目に抗体力価を示し、29日目には幾何平均力価は8.1 国際単位(IU)であった。
【0171】
ALVAC、ALVAC−RGおよび非関連カナリアポックスウイルス組換体の接種に対するリスザル(Saimiri Sciureus)の免疫応答を試験した。幾つかのグループに分けたリスザルに上述したように接種を行い、血清を分析して狂犬病特異的抗体の有無を調べた。皮内投与に対する軽い典型的な皮膚反応を除いては、いずれのサルにおいても副作用は認められなかった。投与から2日目および4日目だけは、皮内接種後の皮膚外傷部から少量の残留ウイルスを単離した。7日目以降は全ての検体が陰性であった。筋注に対する局部反応は認められなかった。ALVAC−RGが接種された4匹のサルは全て、RFFIテストで測定すると、抗狂犬病血清中和抗体を産生していた。最初の接種から約6ヶ月後、全てのサルおよび追加の非接種サル1匹に、左側大腿部の外表面に6.5log10TCID50のALVAC−RGを皮下経路で再接種した。血清を分析して抗狂犬病抗体の存在を調べた。結果を表8に示す。
【0172】
狂犬病ウイルス未感染の5匹のサルのうち4匹は、ALVAC−RGの接種7日後に血清学的応答を示した。接種11日後までには5匹のサル全てが検出可能な抗体を有した。予め狂犬病糖タンパク質に感染された4匹のサルについては、ワクチン接種から3日から7日の間に血清中和力価に有意の増加が認められた。この結果から、リスザルにALVAC−RGをワクチン接種すると副作用は生じず、一次中和抗体応答が誘起され得ることが示された。再接種により既往反応もまた誘導された。ALVACに、または非関連外来遺伝子を発現するカナリアポックス組換体に予め感染していても、再ワクチン接種に際して、抗狂犬病免疫反応の誘発を妨げない。
【0173】
HIV−2に関して血清反応陽性のアカゲザルにおいてALVAC−RG接種に対する免疫応答を調べた。該動物に上述のように接種を行い、RFFIテストにより抗狂犬病血清中和抗体の有無を分析した。表9に結果を示すように、皮下接種されたHIV−2陽性アカゲザルは、1回の接種から11日目までに抗狂犬病抗体を産生した。最初の接種から約3ヶ月後に与えた追加免疫接種後に既往応答が検出された。該組換体が経口投与された動物には何らの応答も検出されなかった。更に、一連の6匹のアカゲザルに投与量を減少させながらALVAC−RGを筋肉内または皮下投与した。接種された6匹のうち5匹がワクチン接種から14日目までに応答を示したが抗体力価に有意の差は無かった。
【0174】
以前にHIV感染した2匹のチンパンジーに7.0log10pfu のALVAC−RGを皮下または筋肉内接種した。該接種から3ヶ月後に両チンパンジーに同じ方法で再ワクチン接種した。結果を表10に示す。
【0175】
筋肉内または皮下接種のいずれにおいても接種に対する副作用は見られなかった。いずれのチンパンジーも初回接種から14日目までに応答し、そして、再接種後に強く上昇している応答が検出された。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0176】
実施例9−狂犬病糖タンパク質を発現するカナリアポックス
(ALVAC−RG;vCP65)を用いるヒトの免疫化
実施例9および図9Aおよび図9Bで記述したようにALBAC−RG(vCP65)を調製した。スケールアップおよびワクチン生産のため、SPF(Specified pathogen free)卵由来の初期CEFにおいてALVAC−RG(vCP65)を増殖させた。細胞を0.1 の多重度で感染させ、37℃において3日間インキュベートした。
【0177】
該感染細胞から成る無血清培地中で超音波破砕することによりワクチンウイルスの懸濁液を得た。次に、細胞破片を遠心分離とろ過により取り除いた。得られた清澄な懸濁液に凍結乾燥安定剤(アミノ酸の混合物)を加え、単一投与用バイアル内に分散させ、凍結乾燥した。凍結乾燥の前に、無血清培地および凍結乾燥剤の混合物に入れたウイルス懸濁液を連続的に10倍稀釈することにより力価が徐々に低下した3種類のバッチを調製した。
【0178】
細胞基質、培地およびウイルス種株ならびに最終生成物に対しては、外来物質の探索および実験用げっ歯類動物に対する接種性に特に注意して品質管理試験を行った。望ましくない特徴は見出されなかった。
【0179】
前臨床データ インビトロ試験によれば、VERO細胞またはMRC−5細胞はALVAC−RG(vCP65)の増殖を支持せず、8回の連続継代培養(VEROの場合)および10回の連続継代培養(MRCの場合)によって、これらの非トリ細胞系において当該ウイルスが検出され得るように増殖適応化されないことが示された。ALVAC−RG(vCP65)が感染または接種されたヒト細胞系(MRC−5、WISH、Detroit-532 、HEL、HNKまたはEBV形質転換リンパ芽球細胞)の分析では、ウイルス特異的DNAの蓄積は認められず、これらの細胞においてはDNA合成の前に複製の阻害が起こることが示唆された。しかしながら、重要なことは、試験された全ての細胞系での狂犬病ウイルス糖タンパク質の発現から、カナリアポックス複製サイクルにおける不稔過程はウイルスDNA複製に先行して起こることが示唆されたことである。
【0180】
一連の動物実験においてALVAC−RG(vCP65)の安全性と効力が明らかにされた。多数の動物種、例えばカナリア、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、実験用げっ歯類(マウスの乳獣および成獣)、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、リスザル、アカゲザルおよびチンパンジーに、105 から108 pfu の投与量範囲で接種が行われた。各種の投与経路を検討し、最も一般的には皮下、筋肉内および皮下投与であったが、経口(サル類およびマウス)や頭蓋内投与(マウス)も採用した。
【0181】
カナリアにおいては、ALVAC−RG(vCP65)は、乱刺部位に「癒着」外傷を引き起こしたが、疾病や死亡の徴候はなかった。ウサギへの皮内接種は典型的なポックスウイルス接種反応を示したが、この反応が拡がることはなく、7日から10日で治癒した。いずれの動物においてもカナリアポックスに因る副作用は無かった。げっ歯類、イヌ、ネコおよび霊長動物にALVAC−RG(vCP)を接種した後、高速蛍光焦点阻害テスト(RFFIT)によって測定すると、抗狂犬病抗体が産生していることにより免疫原性があることが明らかにされた。また、ALVAC−RG(vCP65)で免疫したマウス、イヌ、およびネコに狂犬病ウイルスを免疫性テストすることにより防御機能が発現することも明らかにされた。
【0182】
ボランティア 狂犬病免疫化の前歴のない年齢20〜45才の25人の健康な成人を登録した。病歴調査、身体検査および血液の化学分析を行うことにより、これらのボランティアの健康状態を調べた。妊娠、アレルギー症、あらゆる種類の免疫低下症、慢性的な衰弱症、がん、過去3ヶ月以内の免疫グロブリンの投与、およびヒト免疫不全症ウイルス(HIV)またはB型肝炎表面抗原に対する血清反応陽性を有する者は排除した。
【0183】
試験計画 標準的なヒトジプロイド細胞狂犬病ワクチン(HDC)(フランスLyonのPasteur Merieux Serums & Vaccine製)または対象ワクチンALVAC−RG(vCP65)のいずれかが投与されるようにボランティアを無作為に振り分けた。
【0184】
この試験は投与量(用量)漸増試験とした。3つのバッチ由来の試験対象ワクチンALVAC−RG(vCP65)を3グループのボランティア(グループA,BおよびC)に2週間間隔で逐次的に使用した。それらの3つのバッチの濃度は、それぞれ、1回の投与当たり、103.5 、104.5 および105.5 TCID50(Tissue Culture Infectious Dose : 50 %組織培養感染量)とした。
【0185】
各ボランティアには、2週間間隔で三角筋域に同一のワクチンを2回皮下投与(注射)した。最初の投与時にはボランティアには投与ワクチンの種類を知らせないが、研究者には分かるようにした。
【0186】
第2回目の投与時に即時過敏症を可及的に少なくするため、実験対象ワクチンの中間用量が投与されるように割り当てられたグループBのボランティアには、1時間前に低用量を投与し、また、高用量グループ(グループC)のボランティアには1時間間隔で低用量および中間用量を逐次投与した。
【0187】
6ヶ月後、最も高用量のALVAC−RG(vCP65)の被投与者(グループC)およびHDCワクチンの被投与者に第3回目のワクチン投与を行った。次に、該被投与者を無作為に分けて以前と同一のワクチンまたは別のもう一方のワクチンを投与した。このようにして、以下の免疫化スケジュールに対応する4つのグループを構成した:1.HDC、HDC−HDC;2.HDC、HDC−ALVAC−RG(vCP65);3.ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)−HDC;4.ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)。
【0188】
副作用の観察 すべての被験者を投与1時間後に観察し、さらに次の5日間にわたり毎日検査した。次の3週間、局部反応および全身反応について尋ね、1週間に2度、電話により質問した。
【0189】
実験室における分析 登録前、ならびに各投与後2日目、4日目および6日目に血液標本を採取した。実施した分析には、血球数、肝臓酵素およびクレアチンキナーゼの分析が含まれていた。
【0190】
抗体分析 最初の投与の7日前ならびに実験開始から7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に抗体分析を行った。
【0191】
中和抗体のレベルの測定には、高速蛍光焦点阻害テスト(RFIIT)(Smith 他、1973)を採用した。カナリアポックス抗体は、直接ELISAにより測定した。これには、抗原、すなわち、0.1 %Triton×100 で破砕した精製カナリアポックスウイルスの懸濁液をマイクロプレートに被覆した。血清の固定化稀釈液を室温下で2時間反応させ、ペルオキシダーゼでラベルした抗ヒトIgGヤギ抗体を用いて反応性抗体を出現させた。結果を490nm における吸光度として表した。
【0192】
分析 25名を被験者として登録し試験を行った。男性が10名、女性が15名であり、平均年齢は31.9才(21才〜48才)であった。3名を除く全てが、以前に種痘のワクチン接種を受けていた。残りの3名の被験者は瘢痕およびワクチン接種の前歴がなかった。3名の被験者に試験対象ワクチンの低用量のそれぞれ(103.5 および104.5 TCID50)を投与し、9名の被験者には105.5 TCID50を投与し、さらに10名の被験者にHDCワクチンを投与した。
【0193】
安全性(表11) 初回免疫に際して、投与から24時間以内に37.7℃より高い熱を示したのは、HDCを投与された者の1名(37.8℃)および105.5 TCID50のvCP65を投与された者の1名(38℃)であった。ワクチン接種によるその他の全身性反応はいずれの被投与者にも見られなかった。
【0194】
皮下接種によるHDCワクチンの被投与者の9/10に、また、103.5 、104.5 および105.5 TCID50のvCP65被投与者には、それぞれ0/3 、1/3 および9/9 に局部的反応が見られた。
【0195】
痛覚が最も一般的な症状であったが、常に軽いものであった。他の局所的症状として発赤および硬化があったが、これらも軽く且つ一過性のものであった。すべての症状は一般に24時間以内におさまり、72時間以上持続することはなかった。
【0196】
血球数、肝臓酵素またはクレアチンキナーゼの値に有意の変化はなかった。
【0197】
免疫応答:狂犬病に対する中和抗体(表12) 最初の投与から28日後、HDC被投与者のすべてが(感染)防御力価(>0.5IU/ml)を有していた。これに対して、ALVAC−RG(vCP65)の被投与者においては、この防御力価に達したのは、グループAおよびB(103.5 および104.5 TCID50)の被投与者にはなく、またグループC(105.5 TCID50)では2/9 のみであった。
【0198】
56日目(すなわち、2回目接種(二次接種)から28日目)に、ALVAC−RG(vCP65)ワクチン被投与者においては、グループAでは0/3 、グループBでは2/3 およびグループCでは9/9 が防御力価を得、また、HDC被投与者においては10名の全てにおいて、この防御力価が持続されていた。
【0199】
56日目における幾何平均力価は、グループA、B、CおよびHDCにおいて、それぞれ、0.05、0.47、4.4 および11.5IU/ml であった。
【0200】
180 日目には、すべての被験者において狂犬病抗体力価はかなり低下したが、HCD被投与者のうち5/10、また、ALVAC−RG(vCP65)被投与者のうち5/9 においては、最低防御力価0.5IU/ml以上に持続されていた。HCDグループおよびグループCにおける幾何平均力価は、それぞれ、0.51および0.45IU/ mlであった。
【0201】
カナリアポックスウイルスに対する抗体(表13) 高力価被験者にカナリアとの接触の前歴が無いにも拘わらず、0.22から1.23O.D.の広範囲にわたる前免疫(pre-immune)力価が認められた。前免疫力価とその後の第2回目の投与による力価との差の2倍以上増加した場合に血清変換(seroconversion)が起こったと定義すれば、グループBの被験者の1/3 、グループCの被験者の9/9 に血清変換が起こったが、グループAまたはHDCの被験者には血清変換はなかった。
【0202】
追加免疫投与 6ヶ月後の追加免疫投与(追加接種)時にはワクチンは充分に許容できるものとなった。HDC追加免疫被投与者の2/9 、また、ALVAC−RG(vCP65)追加免疫被投与者の1/10に発熱が見られた。局部反応は、HDC追加免疫被投与者の5/9 、また、ALVAC−RG(vCP65)追加免疫被投与者の6/10に認められた。
【0203】
観察結果 図11A〜図11Dは、狂犬病中和抗体力価(高速蛍光焦点阻害試験、RFFITによる。単位IU/ml)を示すグラフであり、ボランティアに対するHDCまたはvCP65(105.5 TCID50)の追加免疫効果を示している(該ボランティアには以前に同一のワクチンまたはもう一方のワクチンを接種)。ワクチン接種は0日、28日および180 日目に実施した。抗体力価の測定は、0日、7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に行った。
【0204】
図11A〜図11Bに示すように、追加免疫投与するとどの免疫スケジュールでも全ての被験者に狂犬病抗体力価の上昇をもたらした。しかしながら、ALVAC−RG(vCP65)追加免疫は、全体的に、HDC追加免疫よりも低い免疫応答を誘発しており、また、ALVAC−RG(vCP65)、ALVAC−RG(vCP65)−ALVAC−RG(vCP65)の順序から成るグループは、他の3つのグループよりも顕著に力価が低くなっていた。同様に、ALVAC−RG(vCP65)を追加免疫投与すると、以前にHDCワクチンが投与された被験者の3/5 に、また、以前にALVAC−RG(vCP65)で免疫化された被験者の全てに、カナリアポックス抗体力価の上昇をもたらした。
【0205】
一般的に、vCP65の投与による局所的副作用からウイルスの局所的複製が起こっていることは示されなかった。特に、ワクチン接種後に見られるような外傷はなかった。このように見かけ上はウイルスの複製が無いにも拘わらず、該投与により、カナリアポックスベクターおよび発現された狂犬病糖タンパク質の双方に対する有意量の抗体がボランティアに産生された。
【0206】
狂犬病中和抗体の分析は、高速蛍光焦点阻害テスト(RFFIT)により実施したが、この方法は、マウスにおける血清中和テストと良好に相関性を有することで知られている。105.5 TCID50の被投与者9名のうち5名は、初回投与後の応答レベルが低かった。最も用量(投与量)の高い被投与者全員、また、中間用量の被投与者も3名のうち2名において、2回目の投与後に防御力価を有する狂犬病抗体が得られた。この試験においては、両ワクチンとも、生ワクチンについては、一般的に推奨されているが不活性HDCワクチンには勧められていない皮下投与により接種した。この投与経路を選択したのは、投入部位(注射部位)を入念に調べることができる点において最良であるからであるが、このために、HDC被投与者における抗体の出現が遅くなったことも考えられる:事実、HDC被投与者のいずれも7日目には抗体上昇を示さず、一方、HDCワクチン筋肉内投与する多くの試験においては、被験者の大部分に抗体上昇が認められている(Klietmann 他、国際緑十字(ジュネーブ)、1981;Kuwert他、国際緑十字(ジュネーブ)、1981)。しかしながら、本発明は必ずしも皮下投与に限定されるものではない。
【0207】
被験ワクチンにおける狂犬病中和抗体のGMT(幾何平均力価:geometric mean fiters)は、HDC対照ワクチンよりも低かったが、防御に必要な最低力価を充分に上まわるものであった。3種類の投与量を採用した本試験において得られた明瞭な用量依存性応答は、より高い投与量により、より強い応答を誘発される可能性があることを示している。当業者であれば本明細書の開示から、所与の患者に至適な投与量を選択できることは明らかであろう。
【0208】
本実施例の他の重要な結果は、抗体応答を増強(ブースト)する能力である。免疫スケジュールの如何に拘わらず6ヶ月目の投与後には全ての被験者に狂犬病抗体力価の上昇が見られており、このことは、カナリアポックスウイルスまたは狂犬病糖タンパク質により誘発された既存の免疫は、当該組換えワクチン候補または従来からのHDC狂犬病ワクチンによる追加接種に対する阻害作用を有しないということを示している。このことは、ワクシニア組換体をヒトに用いた場合、既存の免疫によって免疫応答が阻害されるという従来の知見(Cooney他,1991;Etinger 他)とは対照的である。
【0209】
かくして、本実施例が明示するように、非複製性ポックスウイルスはヒトにおいて免疫化ベクターとして機能することができ、その際、複製性の作用物質が免疫応答に与えるような全ての利点を有しながら、完全に許容性のウイルスが引き起こすような安全上の問題はない。そして、本実施例および他の実施例の教示から、狂犬病ウイルスまたはその他のコードもしくは発現産物を含有する組換体を投与または免疫接種するに際して、至適な投与量(用量)または投与方式や投与経路を選択することは、インビトロ発現法とともに当業者には明らかであろう。
【表11】
【表12】
【表13】
【0210】
実施例10−ALVACおよびNYVACと各種のワクシニアウイルス株
とのLD50の比較
マウス 異系交配したオスのスイス・ウェブスター(Swiss Webster)マウスをTaconic Farms (米国ニューヨーク州Germantown)から購入し、3週齢(「標準」マウス)になって使用に供されるまで、マウス飼料と水を任意に(ad libitum)に与えて飼育した。異系交配したオスとメスのスイス・ウェブスター新生マウスはTaconic Faums によって実施された計画妊娠に従って入手した。使用された新生マウスは全て出産から2日以内に引き渡されたものである。
【0211】
ウイルス ALVACは、カナリアポックスウイルスの集団をプラーク精製し、初期ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)内で調製されたものである。ショ糖密度勾配遠心法により精製した後、CEF細胞内のALVACのプラーク形成単位を測定した。ワクシニアウイルスのWR(L)変異株はWRの大プラーク表現型を選択することによって得られたものである(Panicali他、1981)。ワクシニアウイルスのWyeth ワクチン株(New York State Board of Health)はPharmaceuticals Calf Lymph Type vaccine Dryvaxから管理番号302001B として入手したものである。ワクシニアウイルスのCopenhagen株VC−2はフランスのInstitut Merieuxから入手した。ワクシニアウイルスのNYVAC株はCopenhagen株VC−2から誘導されたものである。Wyeth株をのぞき、これらの株は全て、アフリカミドリザルの腎臓由来のVero細胞で培養し、ショ糖密度勾配遠心法により精製し、そしてVero細胞上のプラーク形成単位を測定した。Wyeth 株はCEF細胞内で増殖し、CEF細胞内のプラーク形成単位を測定した。
【0212】
接種 各グループ10匹から成る標準マウスにウイルス稀釈液の1つ0.05mlを頭蓋内(ic)接種した。ウイルス稀釈液は保存ウイルス液を連続的に10倍稀釈することによって調製した。場合によっては、滅菌リン酸緩衝食塩水中の保存ウイルス液を稀釈せずに接種した。
【0213】
各グループ10匹から成る新生マウス(1日齢または2日齢)にも標準マウスと同様にic接種した。但し、接種量は0.03mlとして使用した。
【0214】
すべてのマウスについて、毎日、接種から14日間(新生マウスの場合)または21日間(標準マウスの場合)にわたって死亡率を観察した。接種の翌朝に死亡したマウスは、トラウマによる死亡の可能性があるので排除した。
【0215】
被験個体数の50%を死亡させるのに要する致死量(LD50)は、ReedおよびMuenchの比例法に従って求めた。
【0216】
若い異系交配標準マウスにおけるic経路によるALVACおよびNYVACと各種のワクシニアウイルス株とのLD50の比較 若い標準マウスにおいては、NYVACおよびALVACの毒性は、試験した他のワクシニアウイルス株よりも数桁低かった(表14)。NYVACおよびALVACは、Wyeth 株よりも3,000 倍以上平常マウスにおける毒性が低く;親株であるVC−2株よりも12,500倍以上毒性が低く;そして、WR(L)変異株よりも63,000,000倍以上毒性が低いことが見出された。これらの結果から、NYVACは他のワクシニアウイルスよりも高度に弱毒化されており、また、ALVACは頭蓋内投与された場合、若いマウスには一般に非毒性性であると考えられる。但し、両者ともきわめて高投与量の場合(ALVACを3.85×108 PFU 、NYVACを3×108 PFU )、未だ不明の機序により、この投与経路によりマウスの死亡をもたらすことがある。
【0217】
異系交配新生マウスにおけるic投与によるALVACおよびNYVACと各種のワクシニア株とのLD50の比較 標準新生マウスにおける5種類のポックスウイルス株の相対的毒性を頭蓋内(ic)免疫性テストモデル系における滴定によって調べた(表15)。終点としての死亡と共に、LD50の値が示したところによれば、ALVACは、ワクシニアウイルスのWyeth 株よりも100,000 倍以上毒性が低く;ワクシニアウイルスのCopenhagenVC−2株よりも200,000 倍以上毒性が低く;そして、ワクシニアウイルスのWR(L)変異株よりも25,000,000倍以上毒性が低い。但し、試験した最高投与量(6.3 ×107 PFU )においては、100 %死亡率となった。6.3 ×106 PFU では33.3%の死亡率が認められた。最高投与量グループ(約6.3 LD50)の平均生存時間(MST)が6.7 ±1.5 日であることから、死因は(未だはっきりしないが)おそらく毒性または外傷性によるものではないであろう。免疫性テスト投与量5LD50におけるWR(L)のMSTは4.8±0.6日であったが、それと比較すると、ALVACが免疫性テストされたマウスのMSTは有意に長いものであった(P=0.001)。
【0218】
NYVACと比較すると、Wyeth は15,000倍以上毒性が高く;VC−2は35,000倍以上毒性が高く;そして、WR(L)は3,000,000 倍以上毒性が高いことが見出された。ALVACの場合と同様に、NYVACの投与量が高くなる(6×108 PFU および6×107 PFU )と、100 %死亡率となった。しかしながら、そのような最高用量(380 LD50に相応)で免疫性テストされたマウスのMSTは僅か2日(2日目に9匹死亡、4日目に1匹死亡)であった。これに対して、最高用量(500 LD50に等しい)のWR(L)で免疫性テストされたマウスは全て4日目まで生存した。
【表14】
【表15】
【0219】
実施例11−NYVAC(vP866)およびNYVAC−RG(vP879)
の評価
免疫沈降 トリ細胞または非トリ細胞の予め形成した単層に、親ウイルスであるNYVAC(vP866)ウイルスまたはNYVAC−RG(vP879)ウイルスを10pfu /細胞接種した。この接種は2%の透析したウシ胎児血清を添加した無メチオニンEMEM内に行った。1時間インキュベートした後、接種物を除き、培地を20μCi/ml の35S−メチオニンを含有するEMEM(無メチオニン)と置換した。一晩、約16時間インキュベートした後、緩衝液A(1%のNonidet P-40、10mMトリス(pH7.4)、150mM のNaCl、1mMのEDTA、0.01%のアジ化ナトリウム、アプロチニン500 単位/ml、および0.02%のフェニル・メチル・スルホニル・フルオリド)を添加して細胞を溶解した。免疫沈降には、狂犬病糖タンパク質特異的モノクローナル抗体24−3F10(入手先:米国ニューヨーク州AlbanyのGriffith Laboratories, New York State Department of HealthのC. Trinarchi博士)およびラットの抗マウスコンジュゲート(入手先:Boehringer Mannheim Corporation,カタログ番号605-500)を使用した。支持マトリックスとしてプロテインAセファロースCL−48(入手先:米国ニュージャージー州PiscatawayのPharmacia LKB Biotechnology 社)を用いた。10%ポリアクリルアミドゲル上で免疫沈降物を分画した(Dreyfuss 他、1984)。ゲルを固定化し、蛍光写真に供するため1Mのサリチル酸ナトリウム塩で1時間処理し、Kodak のXAR−2フィルムに露光して免疫沈降したタンパク質種を現像した。
【0220】
動物源 ニュージーランド(New zealand)白色ウサギをHare-Marland(米国ニュージャージー州Hewitt)から入手した。3週齢のオスの異系交配スイス・ウェブスター(Swiss Webster)マウス、計画妊娠しているメスの異系交配スイス・ウェブスターマウス、および4週齢のスイス・ウェブスターヌードマウス(nu+ nu+ ) をTaconic Farms 社(米国ニューヨーク州Germantown)から入手した。これらの動物は全てNIHのガイドラインに従って飼育した。動物のプロトコールは全てIACUCによって承認されたものである。必要と考えられた場合には、明らかに致命的な疾病を有しているマウスは安楽死させた。
【0221】
ウサギにおける外傷評価 2匹のウサギのそれぞれに、104 、 105 、 106 、 107 もしくは108 pfu の各被験ウイルスを含有するPBSまたはPBSのみを0.1ml 複数部位に皮内接種した。4日目から外傷が消散するまでウサギを毎日観察した。硬化および潰瘍形成を測定し記録した。
【0222】
接種部位からのウイルス回収 1匹のウサギに、106 、 107 もしくは108 pfu の各試験ウイルスを含有するPBSまたはPBSのみの0.1ml を複数の部位に皮内接種した。11日目に、ウサギを安楽死させ、各接種部位から採取した皮膚のバイオプシー標本を機械的破砕および間接音波処理により無菌的に調製してウイルスを回収した。CEF単層上のプラーク滴定により感染ウイルスを分析した。
【0223】
マウス内の毒性 各グループ10匹から成るマウス、または5匹から成るヌードマウスに、0.5ml の無菌PBSに溶かしたウイルスのいくつかの稀釈液の1つをip接種した。実施例11も参照。
【0224】
シクロホスホアミド(CY)処理 −2日目に4mg(0.02ml)のCY(SIGMA製)をマウスにip注入した後、0日目にウイルス注入を行った。ウイルス注入後、次のようにマウスにCYをip注入した:1日目に4mg;4日、7日および11日目に2mg;14日、18日、21日、25日および28日目に3mg。Coulter 計数装置を用い11日目に白血球を計数することにより免疫抑制を間接観察した。平均白血球数は、非処理マウス(n=4)については13,500白血球/μl、また、CY処理した対照マウスについては4,220 白血球/μlであった(n=5)。
【0225】
LD50の計算 ReedおよびMuenchによる比例法(ReedおよびMuench, 1938)により、50%死亡率をもたらすのに要する致死量(LD50)を求めた。
【0226】
マウスにおけるNYVAC−RGの効力試験 4週齢から6週齢のマウスの足蹠に、VV−RG(Kieny 他、1984)、ALVAC−RG(Taylor他、1991b)、またはNYVAC−RGのいずれかの一定範囲稀釈液(50%組織培養感染量(TCID50)として2.8 〜8.0log 10)の50〜100 μlを接種した。各グループは8匹のマウスから構成した。ワクチン接種後14日目において、狂犬病ウイルスCVS株(0.03ml)の15LD50を頭蓋内接種することによりマウスへの免疫性テストを行った。28日目に生存マウスを数え、50%防御投与量(PD50)を求めた。
【0227】
NYVAC(vP866)の誘導 ワクシニアウイルスのNYVAC株は、Copenhagenワクチン株をプラーククローニングして得られたVC−2から調製されたものである。VC−2からNYVACを調製するためには、本明細書において既述したような一連の操作を行って、18ヶのワクシニアのORF(オープンリーディングフレーム)(毒性に関連する多数のウイルスの機能を含む)を正確に欠失させた。これらの欠失を行うに当たっては、非所望の新規なオープンリーディングフレームが出現しないように設計した。図10は、NYVACを調製するのに欠失させたORFを図示する。図10の上部には、ワクシニアウイルスゲノム(VC−2プラーク単離体、Copenhagen株)のHindIII 制限マップを示す。NYVACを調製するのに逐次欠失させたVC−2の6つの領域を拡大して示している。これらの欠失については本明細書において既述した(実施例1から実施例6)。そのような欠失位置の下に、該位置から欠失させたORFを、その遺伝子産物の機能ないしはホモロジーおよび分子量とともに掲記している。
【0228】
ヒト組織細胞系におけるNYVACおよびALVACの複製試験 ヒト由来の細胞におけるワクシニアウイルスのNYVAC株(vP866)の複製レベルを調べるため、液体培養条件下、導入多重度0.1pfu/細胞で6種類の細胞系に接種し、72時間インキュベートした。親株のCopenhagenクローン(VC−2)の接種も併せて行った。初期ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)(10〜11日齢のSPF起源の胚卵。米国コネチカット州StorrsのSpafas社製)を使用して全てのウイルスに対する許容細胞基質とした。2つの基準、すなわち、産生的なウイルス複製が生じているかということ、および、外来抗原が発現しているかということに基づいて培養物の分析を行った。
【0229】
ヒト由来のいろいろな細胞におけるNYVACの複製能を表16に示す。VC−2およびNYVACのいずれもCEF細胞内で複製する能力を有するが、NYVACの方が幾分収量(産生量)が低い。VC−2も、EBV形質転換リンパ球芽細胞系JT−1(エプステインバーウイルスで形質転換されたヒトリンパ球芽細胞系。Rickinson 他(1984)を参照)を除き、試験した6種類のヒト由来細胞系で産生的複製能力を有している。これに対して、NYVACは、試験したヒト由来細胞系のいずれにおいてもその複製能力が高度に減弱されている。NYVACを感染させたMRC−5(ATCC#CCL171 、ヒト胎児肺由来)、DETROIT532(ATCC#CCL54。ヒト包皮、ダウン症候群)、HEL299(ATCC#CCL137 、ヒト胎児肺細胞)、およびHNK(ヒト新生児腎臓細胞。米国メリーランド州Wakersville のWhittiker Bioproducts 社製、カタログ#70-151)細胞から、残存ウイルスレベルを超える感染ウイルスの僅かな増加が見られている。これらの細胞系における複製は、NYVAC感染CEF細胞または親株のVC−2から得られたウイルス収量(産生量)に比較すると有意に減少していた(表16)。注目すべきことには、NYVACおよびVC−2のいずれについても、24時間におけるウイルス収量は72時間の収量に等しい。したがって、該ヒト由来細胞系培養物を更に48時間(ウイルス生成サイクルの2回分)培養させると、相対的なウイルス収量を上昇させたかも知れない。
【0230】
上記のヒト由来細胞系においては、ウイルス収量が低かったことに一致して、MRC−5およびDETROIT532においてもNYVAC特異的DNAの複製は、検出可能ではあったが、そのレベルは低かった。NYVACを感染させたMRC−5およびDETROIT532細胞系におけるDNA複製レベルは、NYVAC感染CEF細胞で見出されたレベルと比較すると、ウイルス収量において近似していた。その他のヒト由来細胞のいずれにおいてもNYVAC特異的ウイルスDNA複製は見出されなかった。
【0231】
トリポックスウイルスであるALVACを用いても同様の実験を行った。このウイルス複製の結果も表16に示す。いずれのヒト細胞系においても子孫ウイルス(子ウイルス)は検出されず、カナリアポックスウイルスの宿主範囲によりトリ種に制限されていることに相反しない。さらに、いずれのヒト由来細胞系においてもALVAC特異的なDNA蓄積は検出されなかったという事実も、それらのヒト由来細胞のおいてALVACの産生的複製が起こらないということに矛盾していない。
【0232】
ヒト細胞におけるNYVAC−RG(vP879)による狂犬病糖タンパク質の発現 産生的ウイルス複製が実質的に起こらない場合においても外来遺伝子の効率的な発現が得られるかということを判定するために、上記と同じ細胞系に、35S−メチオニンの存在下に、狂犬病ウイルス糖タンパク質発現性のNYVAC組換体(vP879、実施例7)を接種した。該狂犬病糖タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用い、放射ラベルした培養破砕物から狂犬病糖タンパク質を免疫沈降させた。67kDaのタンパク質の免疫沈降物が得られたが、これは狂犬病糖タンパク質が完全にグリコシル化された形態に一致する。非感染細胞破砕物または親のNYVACが感染した細胞破砕物において血清学的に交差性の生成物は検出されなかった。分析した他の細胞においても同様の結果が得られた。
【0233】
ウサギ皮膚への接種 ワクシニアウイルス株の病原性の尺度として、皮内(id)接種後のウサギの皮膚外傷およびその特徴が利用されている(Buller他、1988;Child 他、1990;Fenner他、1958;Flexner 他、1987;Ghendon およびChernos 1964)。そこで、ワクシニア株WR(CV−1細胞ATCC#CCL70でプラーク精製したATCC#VR119 からのL変異体と命名されたプラーク単離体から、Panicali他(1981)の記述に従って選択されたATCC#VR2035。)、WYETH(ATCC#VR325 。米国ペンシルバニア州MariettaのWyeth Laboratories社からDRYVACとして市販)、COPENHAGEN(VC−2)およびNYVACを2匹のウサギ(A069およびA128)にid接種した場合の外傷の特徴を調べた。これらの2匹のウサギはウイルスに対する全体的な感度が異なっており、ウサギA128の方がウサギA069よりも応答性が低かった。ウサギA128においては外傷は比較的軽くて、接種後27日目までに消散した。ウサギA069においては、外傷程度は強く(特にWR接種部位)、49日経過後ようやく消散した。また、外傷の強さは、リンパ液排出網状組織に対する接種部位の相対的な位置に依存していた。特に脊椎上に位置する部位の外傷が強く、脾腹にある外傷が消散するのに長い時間を要した。4日目から最後の外傷が消えるまで全ての外傷を毎日調べ、外傷の最大サイズの平均値および消散までの日を求めた(表17)。対照であるPBSの注入部位には局部反応は見られなかった。WR、VC−2およびWYETHワクシニアウイルス株の注入部位には潰瘍性外傷が見られた。重要なことは、NYVACの接種部位には硬化または潰瘍性外傷が観察されなかったということである。
【0234】
接種部位における感染性ウイルスの残存 接種部位における各ウイルスの相対的な残存性を調べるため、106 、 107 、または108 pfu のVC−2、WR、WYETHまたはNYVACを含有する0.1ml のPBSをウサギの複数部位に皮内接種した。各ウイルスについて、107 pfu を脊椎上に投与し、その両側に106 および108 を投与した。接種部位を11日間にわたって毎日観察した。WRが最も強い反応を誘導し、次いで、VC−2およびWYETHとなった(表18)。潰瘍が最初に見出されたのは、WRおよびWYETHについては9日目、VC−2については10日目であった。NYVACまたは対照用PBSが接種された部位は硬化または潰瘍形成を示さなかった。接種後11日目に、接種部位から皮膚試料を切除し、機械的に破砕し、CEF細胞上でウイルスを滴定した。結果を表18に示す。いずれの場合においても、この時点では投与量よりも多量のウイルスは回収されなかった。ワクシニア株WRの回収量は、ウイルス投与量とは無関係に約106 pfu であった。ワクシニア株WYETHおよびVC−2の回収量は投与量と関係なく103 から104 pfu であった。NYVACを接種した部位からは感染性ウイルスは回収されなかった。
【0235】
遺伝的または化学的に免疫不全性のマウスへの接種 ヌードマウスに高投与量のNYVAC(5×108 pfu )またはALVAC(109 pfu )を腹腔内投与したが、10日間の観察期間を通じ、死亡、外傷および明らかな疾病を引き起こすことはなかった。これに対して、WR(103 から104 pfu )、WYETH(5×107 または108 pfu )またはVC−2(104 から109 pfu )を接種されたマウスは、先ず趾部に、次いで尾部にポックスウイルスに典型的な播種性外傷を示し、その後、幾つかのマウスにおいては深刻な睾丸炎が見られた。WRまたはWYETHを感染させたマウスは播種性外傷が出現すると、一般的に、最終的には死亡したが、VC−2を感染させたマウスは多くの場合、最終的には回復した。LD50計算値を表19に示す。
【0236】
さらに詳述すると、VC−2を接種されたマウスは先ず趾部に、そして、それより1〜2日後には尾部に外傷(赤色丘疹)を示す。これらの外傷は、高投与量(109 、108 、107 および106 pfu )を投与されたマウスについては接種後から11〜13日目、105 pfu を投与されたマウスにおいては接種後16日目、また、104 pfu を投与されたマウスにおいては接種後21日目に出現した。103 および102 を投与されたマウスにおいては100 日間の観察期間中外傷は見出されなかった。109 および108 pfu を投与されたマウスにおいては接種後23日目に、また、他のグループのマウス(107 から104 pfu )においては、それより約7日後に睾丸炎が認められた。睾丸炎は109 および108 投与グループにおいて特に強く、次第に後退してはゆくが、100 日間の観察期間の終わりまで認められた。数匹のマウスの皮膚には、接種後30〜35日目に幾つかのポックス性の外傷が認められた。これらのポックス外傷の多くは、一般に接種後60〜90日目に治癒した。109 pfu を接種されたグループのマウスのうち1匹のみが死亡し(接種後34日)、また、108 pfu を投与されたグループのマウスの1匹が死亡(接種後94日)した。VC−2が接種されたマウスにその他の死亡は見られなかった。
【0237】
104 pfu のWRワクシア株を接種されたマウスは、接種後17日目にポックス性外傷を示し始めた。これらの外傷は、VC−2接種マウスに見られた外傷と同じであった(趾部、尾部の腫脹)。103 pfu のWR株を接種されたマウスでは接種後34日目まで外傷は出現しなかった。睾丸炎が認められたのは高用量のWR(104 pfu )が接種されたマウスのみであった。観察期間の後期に口の周りに外傷が現れマウスは食餌を止めた。104 pfu のWRを接種したマウスは全て、接種後21日から31日目に死亡するか、必要に応じて安楽死させた。103 pfu のWRを投与した5匹のうち4匹は、接種後35日から57日目に死亡するか、必要と考えられた場合は安楽死させた。低投与量のWR(1から100pfu)が接種されたマウスには死亡は認められなかった。
【0238】
高投与量(5×107 および5×108 pfu )のワクシニアWYETH株を投与したマウスは、趾部および尾部に外傷を示し、睾丸炎が発生し、そして死亡した。5×106 pfu またはそれ以下のWYETHを投与したマウスは疾病や外傷の症状を示さなかった。
【0239】
表19に示すように、CY処理されたマウスは、ポックスウイルスの毒性を分析するのにヌードマウスの場合よりも高感度のモデル系を与える。WR、WYETH、およびVC−2に関するLD50値は、このモデル系においてはヌードマウスモデルの場合よりも有意に低くなっていた。さらに、WYETH、WRおよびVC−Rワクシニアウイルスをマウスに投与した場合、以下に記すように、各ウイルスをさらに高い用量で投与することにより外傷が出現し、この結果、外傷の形成がさらに迅速になっている。ヌードマウスにおいて見られたように、NYVACまたはALVACを注入されたCY処理マウスは外傷を示さなかった。しかしながら、ヌードマウスの場合とは異なり、NYVACまたはALVACを用いて免疫性テストされたCY処理マウスにおいては、投与量とは無関係に、死亡が見られたものもあった。これらの無作為の出来事が死因と関係しているかも知れない。
【0240】
WYETHが投与されたマウスはいずれの投与量においても(9.5 ×104 から9.5 ×108 pfu )、接種後7日目から15日目の間に尾部および/または趾部にポックス性外傷を示した。さらに、尾部および趾部は腫脹した。尾部での外傷の出現は、ポックス性外傷の典型的なものであり、丘疹の形成、潰瘍形成、そして最後には痂皮の形成を伴う。VC−2が投与されたマウスも、すべての投与量において(1.65×105 から1.65×109 pfu )、WYETH投与マウスの場合に類似した尾部および/または趾部にポックス性外傷を示した。これらの外傷は、接種後7−12日の間に観察された。これより低用量のWRウイルスを投与したマウスには外傷は見られなかったが、これらのグループで死亡は生じた。
【0241】
NYVAC−RGの効力試験 ワクシニアウイルスのCOPENHAGEN株を弱毒化すすることにより、それから得られるNYVAC株のベクターとしての有用性を実質的に変化させていないことを明らかにするため、比較効力試験を行った。該ウイルスを弱毒化するのに行われた一連の遺伝子操作中の該ベクターの免疫原性能を調べるため、リポーター外来抗原として狂犬病ウイルスの糖タンパク質を利用した。該狂犬病糖タンパク質を発現するベクターの感染防御効力の評価は狂犬病に関する標準的なNIHマウス効力試験によった(Seligmann 、1973)。表20に示しているように、高度に弱毒化したNYVACベクターについて得られるPD50値は、tk遺伝子座に狂犬病遺伝子を含有するCOPENHAGEN由来組換体を用いて得られた値(Kieny 他、1984)と同じであり、また、ALVAC−RG(トリ種に複製が制限されているカナリアポックス由来ベクター)について得られたPD50に近似している。
【0242】
考察 よく知られた毒性遺伝子が欠失され且つ限定されたインビトロ増殖特性を有するNYVACを動物モデル系で分析して、その弱毒化特性を調べた。これらの試験に当たって、神経毒性のあるワクシニアウイルスの実験室株、WR、2種類のワクシニアウイルスワクチン株、WYETH(New York City Board of Health)およびCOPENHAGEN株(VC−2)、さらには、カナリアポックスウイルス株であるALVACとの比較を行った(実施例11も参照)。さらに、これらのウイルスについてマウス免疫性テストモデルおよびウサギ皮膚モデルにおける相対的な病原性の可能性のスペクトルが調べられた。すなわち、WRが最も毒性の高い株であり、WYETHおよびCOPENHAGEN(VC−2)は弱毒化ワクチン株として既に利用されているような立証された特徴を有し、そして、ALVACは複製がトリ種に制限されるようなポックスウイルスの1例であることが理解された。これらのインビボ分析は、ワクシニアウイルス株WR、WYETHおよびCOPENHAGEN(VC−2)に比べるとNYVACが高度に弱毒化された特性を有するものであることを明示している(実施例14〜20)。重要なことは、NYVACにおけるLD50値は、トリ宿主制限トリポックスウイルスであるALVACにおいて見出された値に匹敵したということである。NYVACに因る死亡は、ALVACと同様に、きわめて高用量のウイルスが頭蓋投与された場合のみ見出された(実施例11、表14、15、19)。この死亡が多量のタンパク質を接種した非特異性に因るものであるか否かは未だ明らかでない。免疫無防備状態マウスモデル(ヌードマウスおよびCY処理マウス)における分析からも、WR、WYETHおよびCOPENHAGEN株に比べてNYVACが高度に弱毒化された特徴を有することが明らかにされた(表17および18)。重要なことは、NYVAC接種動物またはALVAC接種モデルにおいては、観察期間を通して、ワクシニア感染の播種やワクシニア性疾病の形跡が見出されなかったということである。NYVACにおいて複数の毒性関連遺伝子を欠失させると、病原性に関する相乗効果が示された。NYVACの接種特性を知る別の手段としてウサギ皮膚への皮内投与を行った(表17および18)。非トリ種において複製能力を有しないウイルスであるALVACに関する結果を考察すると、接種部位における複製能力のみが反応性に相関しているのではない。ALVACの皮内接種は投与量に依存して硬化域をもたらしたからである。すなわち、ウイルスの複製能力以外の因子が外傷の形成に寄与しているものと推測される。NYVACにおいて毒性に関連する特定の遺伝子を欠失させると外傷の発生が防止される。
【0243】
さらに、本実施例および既述の実施例(実施例10を含む)の結果から、WR、ならびに既に利用されているワクシニアウイルスワクチン株であるWYETHおよびCOPENHAGENに比べてNYVACが高度に弱毒化された特性を有することが明らかである。事実、試験した動物モデル系におけるNYVACの病原性プロフィルは、トリ種においてのみ産生的複製を行うことで知られたポックスウイルスであるALVACのプロフィルに類似していた。NYVACの産生的複製能がヒト(表16)およびその他の動物(マウス、ブタ、イヌおよびウマを含む)由来の細胞において見かけ上制限されていることが重要な障壁となって、ワクチン接種されたヒトの中で播種する可能性の低いベクターを提供できることに加えて、ワクチン接種者内部または一般的な環境への伝染を制限したり防止することになる。
【0244】
重要なことは、NYVAC系ワクチンが効力を有することが示されたことである。各種の病原体由来の外来遺伝子産物を発現するNYVAC組換体は、霊長類を含む幾つかの動物種において該外来遺伝子産物に対する免疫応答を引き起こした。特に、狂犬病糖タンパク質を発現するNYVACを基礎とする組換体は致死的な狂犬病ウイルスの免疫性テストに対してマウスを防御する能力を有した。該NYVAC由来狂犬病糖タンパク質組換体の効力は、tk遺伝子座に狂犬病糖タンパク質を含有するCOPENHAGEN由来組み換え体のPD50に匹敵するものであった(表20)。また、NYVACを基礎とする組換体は、ウサギにおいて麻疹ウイルス中和抗体を誘起し、ブタにおける擬狂犬病ウイルスおよび日本脳炎ウイルスの免疫性テストに対して防御機能を有した。高度に弱毒化されたNYVAC株は、ヒト、動物、医学および獣医学の分野での利用において安全であるという利点を有する(Tartaglia 他、1992)。さらに、一般の実験的発現ベクター系としてNYVACを使用すれば、ワクシニアウイルスに関連する生物学的危険性(ハザード)が激減する。
【0245】
本実施例およびその他の実施例(実施例10を含む)の結果が示すように、次のような基準によりNYVACが高度に弱毒化されたものであることを明らかにした:a)接種部位に硬化または潰瘍化が検出されないこと(ウサギ皮膚);b)皮内接種部位から感染ウイルスが迅速に存在しなくなること(ウサギ皮膚);c)睾丸炎症がないこと(ヌードマウス);d)毒性が激減していること(3週齢マウスおよび新生マウスの両方における頭蓋内免疫性テスト);e)免疫不全被験体において病原性が激減しており播種しないこと(ヌードおよびシクロホスホアミド処理マウス);およびf)各種のヒト組織培養細胞において複製能が著しく減少していること。そして、高度に弱毒化されているのにも拘わらず、NYVACは、ベクターとして、外来抗原に対する強力な免疫応答を保有している。
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【0246】
実施例12 RHDVキャプシドを発現するNYVACおよびALVACの生成
細胞系統およびウイルス株
NYVAC組換体vP1249およびカナリアポックスウイルス組換体vCP309の生成に用いられたレスキューウイルスは、それぞれNYVACウイルスvP866(Tartaglia 他 1992)およびカナリアポックスALVAC(CPpp)(Taylor 他 1991)であった。RHDV(Sa ne et Loire単離体)を、フランスにおいて感染したウサギより得た。ウイルスを増殖させ、力価はVeroまたはCEF細胞炭層の何れかにおいて測定した。
【0247】
ウイルス増殖およびRNA調製
RHDV(Sa ne et Loire単離体)はウサギにおいて、濾過された肝臓ホモジネートの筋内注入後に増殖させた。RHDV感染により死亡した動物由来の肝臓は−70℃で凍結させた。全RNA調製を、ChomczynskiおよびSachi(1987)の方法に基づく手順を用いて行った。この報告に記載されている全ての酵素は、Boehringer Mannheim Gmbh(Germany)より購入した。
【0248】
簡潔には、2.0gの感染ウサギ肝臓組織を、乳棒およびモーターを用いて液体窒素の存在下で破砕し、続いて0.1ml酢酸ナトリウム(2M、pH4.0)、1.0mlH2 O飽和フェノール、および0.2mlクロロホルム:イソアミルアルコール(49:1)により連続的に抽出した。最終エマルジョンを強力に混合し、15分間氷上に放置した後、13krpmで20分間、4℃で遠心分離した。核酸を、イソプロパノールの添加および13krpmで、20分間、4℃で遠心分離することにより得た。沈殿を、65℃で5分間、20mMクエン酸ナトリウムおよび0.37%サルコシルおよび使用される当日に調製された0.5M 2−メルカプトエタノールを含む、0.2mlの3Mグアニジンチオシアネート溶液中加熱することにより溶解させた。RNA沈殿を、13krpm、4℃での遠心分離により回収し、冷75%エタノールで2回洗浄した後、ジエチルピロカーボネート(DEPC)処理された50μlの水に再懸濁させた。全ての溶液はDEPC処理された水を用いて調製された。
【0249】
RHDVキャプシド遺伝子のcDNAクローニング
全RNAを、以前に記述されたように(Taylor 他 1990)第1鎖cDNAを生成するために用いた。1本鎖cDNAを続いて、95℃で5分間加熱し、氷上で冷却した後、5μlの10xPCRバッファー、3.75μlの2mM dNTPs、5μlの5μM 5’末端プライマー(配列番号40)
5’ CTGGAATTCTATCGCGATATCCGTTAAGTTTGTATCGTAATGGAGGGCAAAGCCCGT 3’
5μlの5μM 3’末端プライマー(配列番号41)
5’ GTAAGCTTATCAGACATAAGAAAAGCC 3’
26μlのH2 Oおよび0.25μlのTaqポリメラーゼ(5.0u/μl)と混合した。30サイクルのPCR増幅を、40μlの鉱物油を含む0.5mlチューブ中で以下の概要で実行した:94℃1分、60℃1分、および72℃1分。PCR水層反応物をフェノール−クロロホルム抽出し、エタノール沈殿させ、続いてEcoRIおよびHindIIIによって消化した。増幅された1.8bpDNA断片を、1%アガロースゲル上で精製し、Gene Clean手順を、製造者(Bio 101,Inc.,La Jolla,CA)の指定に従って用いて単離し、ベクターpBluescript SK+(Stratagene,La Jolla,CA)の対応するサイトにクローン化し、プラスミドpLF11を生成した。
【0250】
変異実験
第1の潜在初期転写終結シグナル(5TAT 位置#1600、図1a)(Yuen and Moss,1987)を除去するために、プライマーLF093(配列番号42)
5’-TGGCAGTTAACCTTTGCATCTGGTTTCATGGAGATCGGTTTAAGTGTGGACGGGTACTTCTATGC A-3’
およびLF094(配列番号43)
5’-TATAAGCTTTCAGACATAAGAAAAGCC-3’
を用いたpLF11DNAのPCR増幅に基づいて二重変異を行った。
【0251】
その結果得られた190bpの断片をHpaIおよびHindIIIで消化し、続いて精製し、4.5bpのHindIII/HpaI断片にライゲーションさせ、pLF11aを生成した。第2の潜在初期転写終結シグナル(5TAT 位置#213、図1a)を除去するために、pLF11aDNAにおける二重ラウンドのPCR増幅により第2の二重変異を操作した。pLF11aDNAに関しての第1のPCRラウンドは、以下のプライマーの組、[LF070(配列番号44)(5’-TCATTCGAATTCTATCGCGATATCCGTTAAGTTTGTATCGTAATG-3’)
/LF095(5’-ATTGTAATAGAAGTTTGTTCT-3’)
および[LF096(配列番号45)(5’-AGAACAAACTTCTATTACAAT-3’)
/LF097(5’-GCGAAACTGCATGCCACCAGC-3’)
を用いて実行され、それぞれ250bpと140bpの、2つの部分的にオーバーラップしているDNA断片を生成した。PCR増幅の第2のラウンドは、両方の部分的にオーバーラップしている精製された250bpおよび140bpのDNA断片および外部プライマーLF070およびLF097の存在下で行った。その結果得られた380bpDNA断片を、EcoRIおよびSphIで消化した後精製し、pLF11aのEcoRI/SphI 4.3kbpDNA断片とライゲーションさせ、pLF11bを生成した。全てのPCR増幅は以前に記述された条件を用いて行った。
【0252】
ドナープラスミドpLF14の構築
pLF11bの1.8bp NruI/HindIII DNA断片を精製し、カナリアポックスC6座左(377bp)および右(1155bp)アーム(Goebel 他 1995)の間にクローン化されたワクシニア初期/後期H6プロモーター(Perkus 他 1989)の100bpのNruI/HinfIDNA断片を含んでいる改変pBluescript SK+プラスミドの4.5bp NruI/HindIII断片とライゲーションし、pLF14を生成した。
【0253】
ドナープラスミドpLF12の構築
pLF11bの1.8bp NruI/BamHI DNA断片を精製し、pSD550VCの3.6bp NruI/BamHI断片とライゲーションし、pLF12を生成した。pSD550VCを派生させるために、BglIIおよびBamHI制限サイトを有するポリリンカーを、pSD548(Tartaglia 他,1992)のBglIIおよびSmaIサイトの間にクローン化し、ワクシニア初期/後期H6プロモーターを、続いてBglIIサイト中に導入した。
【0254】
ヌクレオチド配列決定および配列分析
プラスミドDNAをSequenase2.0キットの指示(US Biochemical)に従って配列決定し、配列分析をPC Gene software(Intelligenetics)を用いて行った。
【0255】
NYVAC組換体vP1249およびカナリアポックス組換体vCP309のインビボ組換え、精製、増幅、および濃縮
組換え実験を、以前に記述されたように(Perkus 他 1993)、pLF14およびpLF12をドナーDNAとして、ALVAC(CPpp)およびNYVACをレスキューウイルスとしてそれぞれ用いて行った。ウイルスは、アガロースの下のCEF単層上にプレートし、組換えプラークを、全RHDVキャプシド遺伝子に特異的な放射性標識プローブを用いたインサイチュハイブリダイゼーションにより、Perkus 他,1993に記載されているとおりに同定した。各々の組換え実験について、陽性プラークを精製し組換えウイルスを、Taylor 他 (1991)に従って増幅し、濃縮した。
【0256】
放射性免疫沈降およびポリアクリルアミドゲル電気泳動
放射性免疫沈降分析を、以前に記述されたとおりに(Pincus 他 1992)、vCP309またはvP1249に感染させたVero細胞から派生された[35S]メチオニン標識溶解物およびRHDVモノクローナル抗体調製物(3H6および1H8)(Wirblich 他 1994)を用いて行った。イムノ沈殿物を、10%SDS−PAGE上で分画した。沈殿されたポリペプチドを、サリチル酸ナトリウムを用いた標準的な蛍光法で可視化した(Sambrook 他 1989)。
【0257】
vCP309感染細胞のFACS分析
FACScan分析を、Tine 他 (1990)に記載されているとおりに、RHDVモノクローナル抗体3H6および1H8を用いて行った。
【0258】
ウサギVHD投与研究
生後4、5または9週のSPFウサギ群を、皮下または皮内経路の何れかで、vCP309でワクチン接種した(0.2ml)。ワクチン接種群に、105 または107 の何れかのプラーク形成単位(pfu )のvCP309を第0日に接種した。4匹のSPFウサギの群には、107 のプラーク形成単位(pfu )のvP1249を第0日に接種した。第28日に追加免疫注入を受けた群に関しては(表21)、第2の注入を同じ接種物により行った。生RHDV免疫性テスト曝露を、第42日に102 LD50のLST L4/90.10 RHDV株を用いて行った。動物は、生存した動物を剖検しRHDV誘導された外傷について調査する前の8日間の期間にわたって観察した。血液試料を第28日および第42日に回収した。抗RHDV抗体を、ELISAおよび血球凝集阻害アッセイ(HIA)の両方で滴定した。
【0259】
キャプシド遺伝子の配列分析
他のRHDV単離体のヌクレオチド配列(Meyers 他 1991)を、続いて実行するRHDV(Sa ne et Loire株)の推定キャプシド遺伝子領域のPCR増幅のための、ゲノムRHDV RNAのゲノム部分の3’に相同性であるプライマーを設計するために用いた。派生された1740bpのRHDVキャプシド遺伝子のDNA配列および推定されるアミノ酸は図12Aに示されている。別の単離体のRHDVゲノム配列(Meyers 他 1991)とのヌクレオチド配列の比較により、完全キャプシド配列に関して97.3%の配列の同一性が示された。アミノ酸レベルでの同じ分析はより高いホモロジーすら示している(99.1%)。Asn#45、281、308、369、393、430、474、481、および502に集められた9つの推定N−グリコシル化サイトが推定アミノ酸配列から予測可能である。興味深いことには、これらの8つはキャプシド遺伝子1次配列のカルボキシハーフ(carboxy half)に位置していた。
【0260】
ALVACベースの組換えウイルスvCP309およびNYVACベースの組換えウイルスvP1249の構築
ALVAC vCP309およびNYVAC vP1249組換えウイルスは、RHDV推定キャプシド遺伝子を発現するものであるが、以前に記述されたもの(Perkus 他 1993)と類似の戦略を用いて開発された。図13は、vCP309およびvP1249をそれぞれ得るために用いられた、ドナープラスミドpLF14およびpLF12の操作を、pLF14(1162bp KpnI/HindIIIおよび386bpHinfI/SacI配列、それぞれ右および左隣接アームに相当)カナリアポックスC6座隣接アームを示している図12Bと共に示している。RHDVキャプシド遺伝子のNH2末端のアミノ酸分析は、本発明以前には入手可能ではなかった。しかしながら、カリシウイルス科のメンバーはそれらのキャプシドポリペプチドを、それらのゲノムの3’末端から発現し、そして、Meyer 他 (1991)におけるMet#1766から始まるORFによってコードされたポリペプチドの計算上の分子量(60.257Da)が、精製されたウイルス調製物(Prieto 他 1990)において検出されたポリペプチドのサイズと良く一致するため、RHDVキャプシド遺伝子NH2末端は、Meyers 他 1991に記載された配列におけるMet#1766に相当するものと推定されている。
【0261】
vCP309およびvP1249によって発現されたRHDVキャプシドの免疫沈降分析
vCP309およびvP1249の両方が、真正のキャプシドタンパク質を発現することを示すために、免疫沈降実験を、モノクローナル抗体調製物、3H6および1H8を用いて行った。簡潔には、ベロ細胞単層を、10pfu /細胞で親株または適切な組換えウイルスの何れかに、[35S]の存在下で感染させた。組換えRHDVキャプシドタンパク質は、記述されたように感染させた溶解物から免疫沈降された。感染させていないベロ細胞溶解物(図4、レーン1および6)または親株ALVACまたはNYVAC感染ベロ細胞溶解物(図14、レーン2−3および7−8)からは放射性標識された産物は検出されなかった。重要なことには、見かけの分子量が60kDaのポリペプチドが、vCP309ベロ細胞溶解物からモノクローナル抗体1H8および3H6によって沈殿された(図14、それぞれレーン4および9)。同様に、同じ見かけの分子量のポリペプチドが、vP1249ベロ細胞溶解物からモノクローナル抗体1H8および3H6によって沈殿された(図14、それぞれレーン5および10)。60kDaの評価された分子量は、推定されるRHDVキャプシド配列から予見される分子量および精製されたウイルスのSDS−PAGE分析(Prieto and Parra,1990)の両方に一致している。さらに、このことは、上記の開始コドン(ATG)が真正翻訳開始コドンに一致していることを示している。精製されたRHDV試料(Meyer 他 1991;Rodak 他 1990)において、およびバキュロウイルスRHDVキャプシド組換えウイルスから派生された溶解物(Laurent 他 1994)において以前に記述された26−および36−kDaポリペプチドは、vCP309またはvP1249細胞溶解物の何れにおいても検出されなかった。
【0262】
同じMAbsおよびvCP309またはvP1249感染ベロ細胞について行ったFACScan分析により、vCP309またはvP1249感染細胞中におけるRHDV発現が確認された。さらに、このような分析の結果は、内部でのキャプシド発現を示したが、感染細胞の表面での発現は示さなかった。
【0263】
ALVAC組換体vCP309およびNYVAC組換体ウイルスvP1249によってウサギにおいて誘導された防御的免疫
投与経路の効果、初期ワクチン接種時の動物の年齢、追加免疫注入の存在およびvCP309の量といった組み合わている要因マトリックスを用いて、ALVAC組換体vCP309によるウサギにおいての防御免疫を分析した。107 pfu のvCP309の1または2用量で免疫化されたウサギは、ワクチン接種されていない動物の100%が死んだ強力致死RHDV免疫性テストに生き残った(表21、レーン1−5)。これらの16のウサギのうち14を投与後1週間で剖検したが、何れのRHDV誘導外傷も検出されなかった。ウサギが105 pfu のvCP309でワクチン接種された場合には、16のうち4(25%)が死亡し、RHDV誘導外傷が3の生存動物において明白であった(表21、レーン6−9)。これらの結果はワクチン用量の明白な効果(スチューデントt=1.9)と、投与ルートのより弱い効果(スチューデントt=1.2)を示している。血清学的分析により、主要な効果はvCP309投与量に関していることが示されたが、防御と抗体価との明確な相関を立証はできなかった。
【0264】
NYVAC組換体vP1249によりウサギにおいて誘導された防御免疫を、107 pfu のvP1249の2度の皮内接種により免疫化されたウサギの1群において分析した。4匹全てのウサギが免疫性テストで生き残ったが、1つの生存動物においてRHDV誘導外傷が明白であった(表21、レーン10)。
【表21】
【0265】
ここに表示された結果は、NYVACおよびALVAC−カリシウイルス(RHDV等)組換体およびそれ由来の産物の、組成物中で用いられるための能力、および前述の、例えば免疫学的、抗原的またはワクチン組成物等の用途、またはアッセイ、キットまたは試験のための、ワクチンまたは免疫化戦略において好適である抗原もしくは抗体の調製においての利用;および、プローブのためのDNAを提供することまたはカリシウイルス(RHDV等)DNAの検出または増幅のためのDNAプライマーを生成させることを示している。
【0266】
このように、本発明の好ましい実施態様を詳細に記述してきたが、添付されたクレームによって定義される本発明は、上の記述において示された特定の細目に限定されるものではなく、その精神または範囲から離れることなく、それらの数多くの明らかな変化型が可能である。
【参考文献】
【0267】
【図面の簡単な説明】
【0268】
【図1】図1は、チミジンキナーゼ遺伝子の欠失および組換えワクシニアウイルスvP410の産生のためのプラスミドpSD460を構築する方法を示している
【図2】図2は、出血領域の欠失および組換えワクシニアウイルスvP553の産生のためのプラスミドpSD486を構築する方法を示している
【図3】図3は、ATI領域の欠失および組換えワクシニアウイルスvP618の産生のためのプラスミドpMP494Δを構築する方法を示している
【図4】図4は、血球凝集素遺伝子の欠失および組換えワクシニアウイルスvP723の産生のためのプラスミドpSD467を構築する方法を示している
【図5】図5は、遺伝子クラスター[C7L − K1L]の欠失および組換えワクシニアウイルスvP804の産生のためのプラスミドpMPCK1Δを構築する方法を示している
【図6】図6は、リボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットの欠失および組換えワクシニアウイルスvP866(NYVAC)の生成のためのプラスミドpSD548の構築方法を模式的に示している
【図7】図7は、TK欠失遺伝子座に狂犬病糖タンパク質G遺伝子を挿入し組換えワクシニアウイルスvP879 を形成するためのプラスミドpRW842 を構築する方法を図示する
【図8】図8は、C5 ORFを含有するカナリアポックスのPvuIIフラグメントのDNA配列(配列番号27)を示す
【図9A】図9Aは、組換えカナリアポックスウイルスvCP65(ALVAC−RG)を構築する方法を図示する
【図9B】図9Bは、組換えカナリアポックスウイルスvCP65(ALVAC−RG)を構築する方法を図示する
【図10】図10は、NYVACを形成するために欠失させるORFs(オープンリーディングフレーム)を図示する
【図11−1】図11−1は、予め同一のワクチンを接種するかまたはワクチンを変えて免疫化したボランティアにおける狂犬病中和抗体力価(RFFIT、IU/ml)、HDCおよびvCP65(105.5 TCID50)の追加免疫(booster)効果を示すグラフである(なお、ワクチン接種は、0日、28日および180 日目に行い、抗体力価の測定は0日、7日、28日、35日、56日、173 日、187 日および208 日目に行った)
【図11−2】図11−2は、図11−1の続きを示す
【図12A−1】図12A−1は、RHDV(Sa ne et Loire株)キャプシド遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列(配列番号37、38)を示す(上および下のケースの左端のナンバリングは、核酸配列およびアミノ酸配列にそれぞれ付属している;2つのワクシニア初期転写終結シグナルはアンダーラインされている)
【図12A−2】図12A−2は、図12A−1の続きを示す
【図12A−3】図12A−3は、図12A−2の続きを示す
【図12B】図12Bは、ドナープラスミドpLF14中のカナポックスC6座隣接アームのヌクレオチド配列を示している(配列番号39)(1162bpKpnI/HindIIIおよび386bpHinfI/SacI配列はそれぞれ、pLF14中の右および左隣接アームに対応している)
【図13】図13はドナープラスミドpLF14およびpLF12の構築を模式的に示している(pLF11b由来の1.8kbp NruI/HindIIIおよび1.8kbp NruI/BamHI DNA断片で、両方ともRHDVキャプシドコード配列およびワクシニアH6プロモーターの最初の30bpを有しているものが、カナリアポックスC6座右および左隣接アームの間にクローン化された残りのH6プロモーターを含有している改変pBluescript SK+プラスミドの4.5kbp NruI/HindIII DNA断片またはpSD550VCの3.7kbp NruI/BamHI断片の何れかと連結された;その結果得られたプラスミドはpLF14およびpLF12は、インビトロ組換え実験で用いられ、それぞれ、ALVAC vCP309およびNYVAC vP1249を生成した)
【図14】図14はvCP309およびvP1249感染ベロ細胞からのRHDV組換えキャプシドタンパク質の免疫沈降を示す(免疫沈降は、RHDV MAb群1H8(レーン1−5)および3H6(レーン6−10)をそれぞれ用いて実施例に記載されたとおりに実行した;レーン1および6は感染されていないベロ細胞;レーン2および7は親カナリアポックスALVAC(CPpp)で感染されたベロ細胞;レーン3および8は親NYVACで感染されたベロ細胞;レーン4および9は組換えvCP309で感染されたベロ細胞;レーン5および10は組換えvP1249で感染されたベロ細胞;左端の数字は標準分子量マーカーの移動に対応している
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変組換体ウイルスであって、該改変組換体ウイルスが、前記ウイルスが弱毒化された毒性、保持された効率を有するように内部でウイルスにコードされた遺伝子機能が不活性化されており;前記ウイルスがさらにウイルスゲノムの非必須領域中に外来性DNAを有し、該外来性ウイルスが少なくとも1つのカリシウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする改変組換体ウイルス。
【請求項2】
前記ウイルスがポックスウイルスであることを特徴とする請求の範囲第1項記載のウイルス。
【請求項3】
前記ポックスウイルスがワクシニアウイルスであることを特徴とする請求の範囲第2項記載のウイルス。
【請求項4】
前記遺伝子機能が少なくとも1つのオープンリーディングフレームを欠失させることによって不活性化されていることを特徴とする請求の範囲第3項記載のウイルス。
【請求項5】
前記欠失された遺伝子機能がC7L−K1Lオープンリーディングフレーム、または宿主範囲領域を含むことを特徴とする請求の範囲第4項記載のウイルス。
【請求項6】
少なくとも1つの付加的なオープンリーディングフレームが欠失され;該付加的なオープンリーディングフレームがJ2R、B13R+B14R、A26L、A56R、およびI4Lから成る群から選択されていることを特徴とする請求の範囲第5項記載のウイルス。
【請求項7】
少なくとも1つの付加的なオープンリーディングフレームが欠失され;該付加的なオープンリーディングフレームがチミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体、血球凝集素遺伝子、およびリボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットから成る群から選択されていることを特徴とする請求の範囲第5項記載のウイルス。
【請求項8】
J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1LおよびI4Lが前記ウイルスから欠失されていることを特徴とする請求の範囲第6項記載のウイルス。
【請求項9】
チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体、血球凝集素遺伝子、宿主範囲領域およびリボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットが前記ウイルスから欠失されていることを特徴とする請求の範囲第7項記載のウイルス。
【請求項10】
NYVAC組換体ウイルスであることを特徴とする請求の範囲第8または9項記載のウイルス。
【請求項11】
前記外来性DNAがウサギ出血疾患ウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする請求の範囲第10項記載のウイルス。
【請求項12】
前記外来性DNAがキャプシド遺伝子をコードしていることを特徴とする請求の範囲第11項記載のウイルス。
【請求項13】
vP1249であることを特徴とする請求の範囲第1項記載のウイルス。
【請求項14】
宿主(ヒトを除く)中において弱毒化された毒性を有するように改変された改変組換体アビポックスウイルスであって、ウイルスゲノムの非必須領域中に外来DNAを有し、該外来性ウイルスが少なくとも1つのカリシウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする改変組換体ウイルス。
【請求項15】
前記ウイルスがカナリアポックスウイルスであることを特徴とする請求の範囲第14項記載のウイルス。
【請求項16】
前記カナリアポックスウイルスが、ニワトリ胚繊維芽細胞においての200回より多くの継続的継代を通して弱毒化されたRentschlerワクチン株であり、それ由来のマスターシードが4回の継続的な寒天下でのプラーク精製を経、それ由来のプラーククローンが、5回の付加的な継代を通して増幅されているものであることを特徴とする請求の範囲第15項記載のウイルス。
【請求項17】
ALVAC組換体ウイルスであることを特徴とする請求の範囲第16項記載のウイルス。
【請求項18】
前記外来性DNAがウサギ出血疾患ウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする請求の範囲第18項記載のウイルス。
【請求項19】
前記外来性DNAがキャプシド遺伝子をコードしていることを特徴とする請求の範囲第18項記載のウイルス。
【請求項20】
vCP309であることを特徴とする請求の範囲第19項記載のウイルス。
【請求項21】
宿主(ヒトを除く)において免疫学的反応を誘導する方法であって、前記宿主に請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスを好適な担体との混合物として含有する組成物を投与することを含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスを好適な担体との混合物として含有することを特徴とする免疫学的反応を誘導するための組成物。
【請求項23】
インビトロで培養された細胞において遺伝子産物を発現させる方法であって、請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスを前記細胞に導入することを含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスのインビトロ発現から調製されたカリシウイルス抗原。
【請求項25】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスのインビボ発現により、または前記ウイルスのインビトロ発現由来のカリシウイルス抗原の投与により誘導された抗体。
【請求項26】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルス由来のDNA由来のDNAプローブまたはPCRプライマー。
【請求項1】
改変組換体ウイルスであって、該改変組換体ウイルスが、前記ウイルスが弱毒化された毒性、保持された効率を有するように内部でウイルスにコードされた遺伝子機能が不活性化されており;前記ウイルスがさらにウイルスゲノムの非必須領域中に外来性DNAを有し、該外来性ウイルスが少なくとも1つのカリシウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする改変組換体ウイルス。
【請求項2】
前記ウイルスがポックスウイルスであることを特徴とする請求の範囲第1項記載のウイルス。
【請求項3】
前記ポックスウイルスがワクシニアウイルスであることを特徴とする請求の範囲第2項記載のウイルス。
【請求項4】
前記遺伝子機能が少なくとも1つのオープンリーディングフレームを欠失させることによって不活性化されていることを特徴とする請求の範囲第3項記載のウイルス。
【請求項5】
前記欠失された遺伝子機能がC7L−K1Lオープンリーディングフレーム、または宿主範囲領域を含むことを特徴とする請求の範囲第4項記載のウイルス。
【請求項6】
少なくとも1つの付加的なオープンリーディングフレームが欠失され;該付加的なオープンリーディングフレームがJ2R、B13R+B14R、A26L、A56R、およびI4Lから成る群から選択されていることを特徴とする請求の範囲第5項記載のウイルス。
【請求項7】
少なくとも1つの付加的なオープンリーディングフレームが欠失され;該付加的なオープンリーディングフレームがチミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体、血球凝集素遺伝子、およびリボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットから成る群から選択されていることを特徴とする請求の範囲第5項記載のウイルス。
【請求項8】
J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1LおよびI4Lが前記ウイルスから欠失されていることを特徴とする請求の範囲第6項記載のウイルス。
【請求項9】
チミジンキナーゼ遺伝子、出血性領域、A型封入体、血球凝集素遺伝子、宿主範囲領域およびリボヌクレオチドレダクターゼラージサブユニットが前記ウイルスから欠失されていることを特徴とする請求の範囲第7項記載のウイルス。
【請求項10】
NYVAC組換体ウイルスであることを特徴とする請求の範囲第8または9項記載のウイルス。
【請求項11】
前記外来性DNAがウサギ出血疾患ウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする請求の範囲第10項記載のウイルス。
【請求項12】
前記外来性DNAがキャプシド遺伝子をコードしていることを特徴とする請求の範囲第11項記載のウイルス。
【請求項13】
vP1249であることを特徴とする請求の範囲第1項記載のウイルス。
【請求項14】
宿主(ヒトを除く)中において弱毒化された毒性を有するように改変された改変組換体アビポックスウイルスであって、ウイルスゲノムの非必須領域中に外来DNAを有し、該外来性ウイルスが少なくとも1つのカリシウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする改変組換体ウイルス。
【請求項15】
前記ウイルスがカナリアポックスウイルスであることを特徴とする請求の範囲第14項記載のウイルス。
【請求項16】
前記カナリアポックスウイルスが、ニワトリ胚繊維芽細胞においての200回より多くの継続的継代を通して弱毒化されたRentschlerワクチン株であり、それ由来のマスターシードが4回の継続的な寒天下でのプラーク精製を経、それ由来のプラーククローンが、5回の付加的な継代を通して増幅されているものであることを特徴とする請求の範囲第15項記載のウイルス。
【請求項17】
ALVAC組換体ウイルスであることを特徴とする請求の範囲第16項記載のウイルス。
【請求項18】
前記外来性DNAがウサギ出血疾患ウイルスエピトープをコードしていることを特徴とする請求の範囲第18項記載のウイルス。
【請求項19】
前記外来性DNAがキャプシド遺伝子をコードしていることを特徴とする請求の範囲第18項記載のウイルス。
【請求項20】
vCP309であることを特徴とする請求の範囲第19項記載のウイルス。
【請求項21】
宿主(ヒトを除く)において免疫学的反応を誘導する方法であって、前記宿主に請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスを好適な担体との混合物として含有する組成物を投与することを含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスを好適な担体との混合物として含有することを特徴とする免疫学的反応を誘導するための組成物。
【請求項23】
インビトロで培養された細胞において遺伝子産物を発現させる方法であって、請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスを前記細胞に導入することを含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスのインビトロ発現から調製されたカリシウイルス抗原。
【請求項25】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルスのインビボ発現により、または前記ウイルスのインビトロ発現由来のカリシウイルス抗原の投与により誘導された抗体。
【請求項26】
請求の範囲第1、8、9、13、14、15、17、19または20項の何れか1項記載のウイルス由来のDNA由来のDNAプローブまたはPCRプライマー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図12A−1】
【図12A−2】
【図12A−3】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図12A−1】
【図12A−2】
【図12A−3】
【図12B】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−82551(P2007−82551A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277710(P2006−277710)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【分割の表示】特願平9−500280の分割
【原出願日】平成8年6月3日(1996.6.3)
【出願人】(398007818)ヴァイロジェネティクス コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【分割の表示】特願平9−500280の分割
【原出願日】平成8年6月3日(1996.6.3)
【出願人】(398007818)ヴァイロジェネティクス コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】
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