説明

組換えポリペプチドを精製するための方法

本発明は、発現後形質転換された宿主細胞のペリプラズムに分泌された、着目組換えポリペプチドを精製するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換された宿主細胞のペリプラズムに発現時に分泌された、着目組換えポリペプチドを調製するための方法に関する。
【0002】
とりわけ、本発明は、組換えヒトインターフェロンα2を調製し精製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
インターフェロンα2のグループのインターフェロンのようなポリペプチドまたはタンパク質は、細菌細胞(例えばエシェリヒア・コリ)を宿主として用いる組換えDNA技術によって生産し得る。従って、細菌細胞は上記ポリペプチドをコードするプラスミドDNAにより形質転換し得る。これにより、これら細菌は、細胞質またはペリプラズムのいずれかにおいて多量のポリペプチドを発現させることができる。細菌は大規模な発酵プロセスを利用して多量に生育させることができるので、多量のポリペプチドをこの方法により生産することができる。
【0004】
組換え技術は、粗着目ポリペプチドを高収率で生産するのに使用できる一方、このポリペプチドの単離および精製は簡単な事柄ではない。通常の単離手順においては、例えば酸性化または加熱によって、発酵ブロスは中性化される。次いで、細菌細胞を取り出し、破棄される、不要な可溶性副産物を含む液体上清が残る。生じた細菌細胞の塊は適切な培地に、例えば適切な緩衝液に再懸濁し、細胞を破壊して粗インターフェロンを抽出し単離する。この労働力を費やす手順は、着目ポリペプチドを発酵副産物および他の汚染物から可能な限り分離して、次に続く精製工程(クロマトグラフィーによる分離を含む)が可能な限り効率的に進むことを確実にするために、実施される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術の手順の労働力を要する特質は、抽出される着目ポリペプチドのより低い収率およびより高い生産コストをもたらし得る。従って、高収率および費用効率が高いやり方で、細菌細胞から着目組換えポリペプチドを精製することを可能とする方法が、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の場面において、着目組換えポリペプチドの、例えば組換えインターフェロンα2などの、グラム陰性菌細胞のようなペリプラズムを含む宿主細胞からの効率的な抽出および単離が、ペリプラズム内に発現した着目組換えポリペプチドを含む宿主細胞に浸透圧ショックを直接与えることによって可能であることが意外にも判明し、これによって上記の分離工程および再懸濁工程が省略されることが意外にも判明した。このような方法を行うことによって、宿主細胞の外側細胞膜が、宿主細胞のペリプラズムが内容物の発酵培地中へ放出されるよう十分に破壊される。これによって、細胞内の不要な物質の、例えば細胞デブリ内の宿主細胞のタンパク質およびDNAの放出を回避することができる。驚くべきことに、次のクロマトグラフィーによる精製は妥協できないが、単離される組換えポリペプチドの収率および/または純度の向上が容易にもたらされる。
【0007】
本発明の場面において、クロマトグラフィー工程の独特の順序によって、とりわけ上記の抽出方法/破壊方法を組み合わせた場合、組換えインターフェロンα2の収率および/または純度の向上がもたらされることがさらに判明した。
【0008】
従って、本発明の一つの側面において、
(i)原核生物宿主細胞の発酵、ここにおいて、前記宿主細胞は、ペリプラズムを有し、着目ポリペプチドを前記宿主細胞のペリプラズム内に分泌させることができる組換え発現系を用いて形質転換されており、前記発酵は、発酵培地中、着目ポリペプチドが前記宿主細胞のペリプラズム内に分泌されるような条件下において行われ、および
(ii)発酵培地中に含まれる前記宿主細胞に浸透圧ショックを与えることにより前記ペリプラズムからの着目ポリペプチドの抽出
を含む、着目ポリペプチドを調製する方法が提供される。
【0009】
適切な組換えペリプラズム発現系は、とりわけ発現ベクターおよび対応する原核生物宿主細胞加えて適切な発酵方法は、当分野において周知である。適切な実例が、下記の実施例の項に記載されている。
【0010】
本発明の好ましい実施態様において、前記浸透圧ショックは、前記発酵培地に薬物を直接添加し、引き続いて前記発酵培地をHOにより希釈することによって与えられ、ここにおいて、前記薬物は、HOによる希釈後に前記宿主細胞の外側細胞膜の破壊をもたらす浸透圧を生じさせることができるものである。
【0011】
この薬物としては、蔗糖、塩化ナトリウム、アルギニン、リジン、塩酸グアニジン、Triton−X 100、ポリエチレンイミンおよびこれらの適切な混合物、すなわちこのような薬物の二種以上の混合物、からなる群より選択されるものが好ましい。最も好ましくは、この薬物は蔗糖である。場合により、EDTAのような錯形成成分が発酵培地にさらに追加され得る。
【0012】
この薬物は、HOでの発酵培地の希釈時に、宿主細胞の外側細胞膜の、発現した着目ポリペプチドの続く放出を伴う破壊をもたらす、浸透圧ショックを引き起こすような濃度で存在する。
【0013】
とりわけ、本発明のさらなる好ましい実施態様において、発酵培地における希釈開始時の蔗糖の濃度は約20%重量/体積である。蔗糖含有発酵ブロスのHOでの希釈係数が少なくとも約3倍であることが好ましい。
【0014】
本発明の場面において、ペリプラズムを含む原核生物宿主細胞はグラム陰性菌が好ましい。このグラム陰性菌は、好ましくは、エシェリヒア・コリ、シュードモナス・スピーシーズ、エンテロバクター・スピーシーズ、カンピロバクター・スピーシーズおよびビトレオシラ・スピーシーズからなる群より選択される。本発明の最も好ましい実施態様において、宿主細胞はエシェリヒア・コリである。
【0015】
細胞の破壊工程に続いて、着目ポリペプチドを含む抽出物から細胞デブリおよび他の粒子状物質を分離できるようにするために、着目組換えポリペプチドの粗調製品であるところの発酵ブロスを、例えば高速遠心分離などの分離工程に付し得る。抽出物から粒子状物質を分離することを助けるために、分離工程の前に、適切な沈殿剤を発酵ブロスに添加することが好ましい。本発明の場面において、この工程のためには、ポリエチレンイミンが特に優れた沈殿剤であることが判明した。このポリエチレンイミンは、好ましくは、pHが約7.5に、例えば7.3から7.7に調整された培地内で約0.05%の濃度で用いることが好ましい。
【0016】
本発明の方法は、多様な着目ポリペプチドの生産のために利用することができる。とりわけ、本発明によれば、着目ポリペプチドは、インターフェロン、インターロイキン、成長ホルモン、増殖因子、サイトカイン、酵素、酵素インヒビター、抗体ならびに抗体断片など、例えばインターフェロンα2A、インターフェロンα2B、インターロイキン−3、インターロイキン−6、ヒト成長ホルモン、インシュリン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、インターフェロンβ1、ウシソマトロピン、ブタソマトロピン、インターロイキン−11、インターロイキン−2、Fab断片、およびカルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)またはグルカゴンなどの小ペプチドからなる群より選択することができる。本発明の範囲内において、着目ポリペプチドは、組換えヒトインターフェロン2、とりわけヒトインターフェロンα2Aまたはヒトインターフェロンα2Bが好ましく、後者が着目ポリペプチドとして特に好ましい。
【0017】
着目ポリペプチドを含む抽出物は、インターフェロンを完成した剤形に調合する前に除去されるべき多数の不純物、例えば宿主細胞のタンパク質および宿主細胞のDNAを含み得る。通常、このポリペプチドは、それ自体知られている沈殿技術およびクロマトグラフィーによる分離技術によって精製される。例えば、ポリペプチドは多工程クロマトグラフィーによる分離を利用して精製され得る。
【0018】
しかしながら、着目ポリペプチドの性質に応じて、この方法は、クロマトグラフィーによる工程の間に入れられる重要な透析工程および/または濃縮工程が必要となり、複雑である。これらの余分な工程は、労働力を要し、収率をより低くしおよび生産コストをより高くし得る。
【0019】
本発明の場面において、粗調整品の、特に前に述べた組換えインターフェロンα2の、多工程クロマトグラフィー精製は、特定のクロマトグラフィー工程を慎重に選択し順序を定めることによって、いかなる透析工程または濃縮工程を行わずとも実施できることが、判明した。
【0020】
従って、本発明の他の側面は、
(a)組換えインターフェロンα2の粗調製品を得ること、
(b)前記粗調製品を、次、
(i)陽イオン交換クロマトグラフィー、
(ii)陰イオン交換クロマトグラフィー、
(iii)疎水性相互作用クロマトグラフィー、
(iv)陽イオン交換クロマトグラフィー、
(v)サイズ排除クロマトグラフィー
を順番に含む多工程クロマトグラフィーに適用する工程、
を含む、組換えインターフェロンα2を調製するための方法に関する。
【0021】
上の本発明の側面の好ましい態様において、組換えインターフェロンα2の粗調整品は、
(a)原核生物宿主細胞の発酵、ここにおいて、前記宿主細胞は、ペリプラズムを有し、組換えインターフェロンα2を前記宿主細胞のペリプラズム内に分泌させることができる組換え発現系を用いて形質転換されており、前記発酵は、発酵培地中、組換えインターフェロンα2が前記ペリプラズム内に分泌されるような条件下において行われ、
(b)発酵培地中に含まれる前記宿主細胞に浸透圧ショックを与えることによる前記ペリプラズムからの着目ポリペプチドの抽出
を含む方法により得られる。
【0022】
上述のように、適切な組換えペリプラズム発現系、とりわけ発現ベクターおよび対応する原核生物宿主細胞加えて適切な発酵方法は、当分野において周知である。適切な実例が、後記実施例の項に記載されている。
【0023】
上述のように、上記浸透圧ショックは、前記発酵培地に薬物を直接添加し、引き続いて前記発酵培地をHOにより希釈することによって与えられ、ここにおいて、前記薬物は、HOによる希釈後に前記宿主細胞の外側細胞膜の破壊をもたらす浸透圧を生じさせることができるものである。
【0024】
本発明の好ましい実施態様において、この薬物は、蔗糖、塩化ナトリウム、アルギニン、リジン、塩酸グアニジン、Triton−X 100、ポリエチレンイミンおよびこれらの適切な混合物、すなわちこのような薬物の二種以上の混合物、からなる群より選択される。上記薬物は、好ましくは蔗糖である。場合により、EDTAのような錯形成成分を発酵培地にさらに追加し得る。
【0025】
この薬物は、HOでの発酵培地の希釈時に、宿主細胞の外側細胞膜の、発現した着目ポリペプチドの続く放出を伴う破壊をもたらす、浸透圧ショックを引き起こすような濃度で存在する。
【0026】
発酵培地における希釈開始時の蔗糖の濃度は約20%重量/体積であることが好ましい。この好ましい実施態様において、蔗糖含有発酵ブロスについてのHOによる希釈係数は少なくとも約3倍である。
【0027】
上述のように、原核生物宿主細胞はグラム陰性菌が好ましく、エシェリヒア・コリ、シュードモナス・スピーシーズ、エンテロバクター・スピーシーズ、カンピロバクター・スピーシーズおよびビトレオシラ・スピーシーズからなる群より選択されるものが好ましい。とりわけ、エシェリヒア・コリが好ましい。
【0028】
上記インターフェロンα2は、好ましくはインターフェロンα2Aおよびインターフェロンα2Bからなる群より選択される。最も好ましい実施態様において、上記インターフェロンα2はインターフェロンα2Bである。
【0029】
上述の抽出方法において、組換えインターフェロンα2を含む透明な粗抽出物を得ることが可能である。このポリペプチド含有抽出物は、高含有量のインターフェロンα2を高純度の形態で含む。
【0030】
陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)工程の実施において、抽出工程から得られた粗インターフェロンα2含有粗抽出物のpHは約4.8から5.5のpHに調整してよく、場合により、濾過システム(例えば0.3マイクロメートルの濾過システム)を通過させてよい。この後、この処理した抽出物をCEXカラムで溶出する。当分野において知られているいかなる陽イオン交換カラムも、不純物から抽出されたインターフェロンα2を分離することに用い得る。しかしながら、好ましくは、このカラムは、S ceramic Hyper D Fが詰められる。平衡用溶出液として、pHが5.0の酢酸ナトリウム(20mM)+NaCl(70mM)が好ましい。好ましくは、インターフェロンは175mMNaClでのステップグラジエントを用いてカラムに通される。
【0031】
CEXカラムから溶出した所望のインターフェロンα2含有画分のpHは、適切なアルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウムにより、約7.3から7.7に調整してよく、およびこの画分の電気伝導率は、精製水で希釈することにより、約3.5から4.5mS/cmに調整してよい。
【0032】
次いで、この画分を陰イオン交換カラムに供給して、工程ii)の方法を実施する。当分野において知られているいかなる陰イオン交換カラムも、抽出されたインターフェロンを不純物から分離することに用い得る。しかしながら、好ましくは、このカラムは、Ceramic Q HyperD F樹脂が詰められる。平衡化は、好ましくは、pH7の20mMのTris−HClで、例えば高速、例えば4から8cm/minで行われる。平衡化緩衝液でカラムを洗浄した後、適切なイオン性の溶質、例えば塩化ナトリウムを1000mM以下の濃度で、好ましくは150mMの濃度で添加することによって、所望のインターフェロン画分を溶出し得る。分離が行われる温度は、10℃から15℃が好ましい。
【0033】
この陰イオン交換工程は極めて効率的であり、工程ii)から得られるインターフェロン画分内のインターフェロンの純度は、逆相高速液体クロマトグラフィーで測定されるように40%を超え得る。
【0034】
工程ii)を終了した後、インターフェロン画分は、宿主細胞のタンパク質がまだ混入していることがあり得る。従って、精製方法における工程iii)は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)工程であり、これらのタンパク質のとりわけ実質的な量を除去するように適合させられる。この工程は、この目的に適切な樹脂を詰めたカラムを用いて、実施される。この樹脂は、15PHE(Pharmacia)が好ましい。工程iii)において、カラムで溶出されるべきインターフェロン画分は、先ず硫酸ナトリウム溶液で希釈(1:1)されて、0.5Mの濃度の硫酸ナトリウムにされることが好ましい。次いで、この画分のpHを、適切な酸または塩基、例えばNaOHまたはHClで、約7.3から7.7に調整する。次いで、pHが調整されたこの溶液をHICカラムに添加する。洗浄工程の後、インターフェロンが、硫酸ナトリウムの直線勾配で、好ましくは800から0mMの硫酸ナトリウムの直線勾配で、溶出される。IPC逆相HPLCに基づいて、93面積%以上の純度のインターフェロンを有し、3面積%以上の単独の不純物を含まない画分が集められてプールされる。このプールされた画分は、次の工程に直接用られ得る。
【0035】
工程iv)は、これまでの工程から持ち越されてきた、残りのDNAおよび残りの宿主細胞のタンパク質を除去することに役立つさらなる陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)工程である。
【0036】
CEXカラムは、適切な充填材が、例えばToyopearl SP−650 S (TosoHaas)が詰められる。好ましい工程iv)において、工程iii)から得られた画分は、精製水で希釈されて、約7.5から8.5mS/cmの最終的な電気伝導率をとされ、例えば99から100%の酢酸でpHを4.3から4.7に調整され、カラムに適用され得る。このカラムを洗浄し、次いで、塩化ナトリウムの直線勾配(0から300mMのNaCl)の間に、約250mMのNaClにおいてインターフェロンα2が溶出する。IPC逆相HPLCによって測定されるような、95面積%以上の純度のインターフェロンのメインピークを有し、3面積%以上の単独の不純物を含まない溶出した画分が集められ、この画分は次の精製工程で直接処理され得る。
【0037】
工程v)は、二量体およびあらゆる他の凝集物を除去するために採用されるサイズ排除クロマトグラフィー工程であり、インターフェロン産物を完成した剤形に調合する前に必要な、緩衝液の交換を適切に行う工程でもある。
【0038】
この最後の工程のために、ゲル濾過に適したあらゆるカラムおよび充填材が使用され得る。使用される充填材は、Superdex75pgが好ましい。この充填材は、比較的に高い付加量、例えば約5から15%の付加量でさえ、分離能力に優れているために、選択される。このカラムを、これまでの工程iv)からのインターフェロン画分を付加する前に、平衡化緩衝液で平衡化することが好ましい。次いで、インターフェロン画分を、適切な緩衝液、好ましくは、pHが7.1から7.7の、25mMリン酸ナトリウム、130mM塩化ナトリウムおよび0.3mMEDTAからなる緩衝液を用いて、このカラムから溶出し、インターフェロンα2産物を含む最終的なバルク溶液を提供する。
【0039】
上述の方法は、工業的規模で適用できるインターフェロンα2産物を得るための効率的な方法を構成する。発酵ブロス1リットルあたり100mgを超えるインターフェロン産物を得ることが可能である。
【0040】
本発明のインターフェロンα2のポリペプチドは、ヒトへの投与に適した完成した剤形に調合し得る。本発明のインターフェロンα2産物を含む調合剤は、注射用の調合剤に調合し得る。注射用の調合剤は、投与前に水で再溶解させる凍結乾燥産物として提供され得る。あるいは、注射用の注射用の調合剤は、単回投与または複数回投与用の調製品としての注射用溶液として、提供されうる。注射用の調合剤は、この分野において一般に知られている賦形剤をさらに含み得る。
【0041】
このような調合剤は、C型肝炎の治療に有用である。投与量は、投与方法、年齢および/または個体の状態など、種々の因子に依存し得る。
【0042】
次の実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲をいかなる意味においても制限するものではない。実施例に開示された内容は、本発明の好ましい実施態様に関するものである。
【実施例1】
【0043】
組換えヒトインターフェロンα2B(rhIFNα2B)の生産のための宿主細胞株の構築
1.1 概論
ポリペプチドrhIFNα2b(組換えヒトインターフェロン−α2b)が、rhIFNα2bをコードする最適化された合成遺伝子を含むプラスミドで形質転換されたエシェリヒア・コリK−12株W3110内で生産される。rhIFNα2bが、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)CCM 3987由来のグルタリル7−ACAアシラーゼ遺伝子(gac)のプロモーターおよびリボソーム結合部位(RBS)の制御下で、組換えエシェリヒア・コリK−12の発酵によって生産される。rhIFNα2bは、同じ(gac)遺伝子に由来するシグナル配列とのN−末端融合タンパク質として発現され、このタンパク質は、ペリプラズムに向かい、同時にシグナル配列の処理(切断)が行われる。従って、発酵プロセスによって、天然型のヒトインターフェロンα2bと同じ一次配列を有する成熟rhIFNα2bが直接得られる。この発現プラスミドをpMG414と名付け、この生産株をW3110[pMG414]と名付ける。
【0044】
1.2 発現ベクターpMG414の構築
pUC19は、ベクタープラスミドの構築のための出発点として機能する。pUC19は、頻繁に用いられ、高コピープラスミドとして徹底的に特徴付けされている。このプラスミドは、高効率複製起点およびアンピシリン抵抗性(ampまたはbla)遺伝子を含む(Yanisch−Perronら、1985;VieiraおよびMessing,1982;GenBank登録番号L09137およびX02514)。pUC19は発現プラスミドを構築するために頻繁に用いられるものであるけれども、amp遺伝子は工業目的のためには理想的な選択マーカーではないかもしれない。この理由から、amp遺伝子のプロモーターおよびコード領域を除去し、周知の安全なプラスミドpBR322(Bolivarら、1977a、1977b、1978;総説:Balbasら、1986;GenBank登録番号J01749、K00005、L08654、M10283、M10286、M10356、M10784、M10785、M10786、M33694、V01119)に由来するテトラサイクリン抵抗性遺伝子(tet)のプロモーターおよびコード領域と置換する。高忠実度PCR技術の助けを借りてこのクローニング作業を行う。
【0045】
このクローニング作業を達成するために、pUC19の塩基対1743から679をまたぐ断片を、高忠実度PCR(Roche BiochemicalsのPwo DNAポリメラーゼシステム)および次の5’−リン酸化オリゴヌクレオチドを用いて増幅する。
【0046】
【化1】

【0047】
得られたPCR断片は、1624塩基対の長さであり、ampプロモーターおよびコード配列を欠くがamp遺伝子に由来する終止コドンおよび転写終結区を含む、完全なpUC19バックボーンを含む。
【0048】
上述のように、tetプロモーターおよびコード配列(終止コドンを除く)を、pBR322から増幅する。再び、高忠実度PCRを用いて、pBR322の塩基対4から1273を増幅した。次の5’−リン酸化オリゴヌクレオチドをこの増幅に用いた。
【0049】
【化2】

【0050】
得られたPCR断片は、1270塩基対の長さである。これら二つのPCR断片は、調製用アガロースゲル電気泳動により精製され、T4 DNAリガーゼ(Rapid DNA Ligation Kit, Roche Biochemicals)を用いて連結される。連結されたDNAを、精製し、エシェリヒア・コリK−12 DH10B(Life Technologies ElectroMAX DH10Bエレクトロコンピテントセル、遺伝子型:F mcrA Δ(mrr−hsdRMS−mcrBS)φ80dlacZΔM15 ΔlacX74 deoR recA1 endA1 araD139 Δ(ara,leu) 7697 galU galK λ rpsL nupG)内にエレクトロポレーション導入する。形質転換された細胞を、15mg/Lのテトラサイクリンおよび3g/Lのグルコースを含むLB寒天プレート上に広げる。液体培養を15mg/Lのテトラサイクリンおよび3g/Lのグルコースを含むLBブロス中で生育させ、標準的なミニプレップ法を用いてこの液体培養からプラスミドDNAを単離する。プラスミドDNAを制限酵素分析によって分析し、tet断片がpUC19バックボーン内に正しく組み込まれているか調べる。この断片の組み込みは、方向に関して特定的でなく、挿入物を含むクローン全部の約50%だけが、正しい方向に挿入された断片、すなわちpUC19内のamp遺伝子と同じ方向で走っているtet遺伝子を有していた。少数のクローンの液体培養からより多量のDNAを単離し、より詳細な制限酵素分析に付す。正確な制限酵素パターンを示すこれらクローンから、さらなるクローニング作業のために一つを選択する。
【0051】
それぞれのプラスミドをpMG402名付けた。これは、アンピシリン含有培地の代わりにテトラサイクリン含有培地上/内で生育させなければならないという事実以外は、すべての特徴および機能においてpUC19と同一である。このようにして、工業目的に適したtet抵抗性高コピーベクターが作製される。
【0052】
プラスミドpMG402の特徴:
塩基対1954から680:pUC19バックボーン(=ampプロモーターと構造遺伝子を欠くpUC19)
塩基対681から1953:pBR322由来のtetプロモーターおよび構造遺伝子
【0053】
rhIFNα2bは、シュードモナス・ディミヌタCCM 3987(gac1ss=配列番号5)由来グルタリル7−ACAアシラーゼのシグナル配列との、ペリプラズムに向かい、同時に宿主細胞のシグナルペプチダーゼ装置によるシグナル配列の処理(切断)が行われるN−末端融合体として発現される。
【0054】
gac1ssのアミノ酸配列(27aa):MLRVLHRAAS ALVMATVIGL APAVAFA
【0055】
gac1ssのコード配列の3’領域において、3’PCRプライマーを介してSac II制限酵素部位を導入し、サイレント突然変異(アミノ酸配列が変化しない)を生じさせる。このSac II部位は、gac1ssコードとrhIFNα2b遺伝子との融合を可能にする。
【0056】
rhIFNα2bの構造遺伝子を化学的に合成する。この構造遺伝子は、165コドンのうちの48コドンが天然のヒトcDNA配列と異なり、弱くて誤りやすいあらゆるコドンを消去するように設計されている。
【0057】
次の表に、コドンの変化が示されている。この表において、「天然のコドン」は、Streuliら、1980(GenBank登録番号V00548)によって公開されたcDNAの配列のことである。アミノ酸番号は、成熟hIFNα2b(Cys 1から始まる)について示してある。合成遺伝子によってコードされたアミノ酸配列は、SwissProt Database、登録番号P01563/P01564(アミノ酸24から188)からのものとする。
【0058】
【表1】

【0059】
得られた遺伝子は、エシェリヒア・コリ内でのrhIFNα2bの効率的で正確な転写および翻訳を可能にする。この遺伝子は、細菌系内で発現するように設計されているので、非翻訳配列(イントロンなど)を全く含んでいない。
【0060】
この構造遺伝子を化学的に合成する。要約すると、この構造遺伝子配列の両方のストランドを隙間無く網羅するやり方で、約30から50ヌクレオチドの長さの重複する相補的オリゴヌクレオチドを合成する。これらオリゴヌクレオチドを互いにハイブリッド形成させ、T4 DNAリガーゼを用いて連結する。反応産物を制限酵素で切断し、pUC18ベクター内にクローニングする。得られたプラスミドは、配列決定され、正しい配列を示す。
【0061】
このプラスミド上の合成遺伝子は、gacシグナル配列を含まない。コード領域のこの部分を、プロモーター、RBSおよびシグナル配列を含むgac断片を介して導入し、rhIFNα2b構造遺伝子と融合させる。
【0062】
化学合成によってgac断片を作製する。例えば、gac断片(両側の制限酵素認識部位+効果的な切断を可能とする最小限の6つの追加の塩基対を含む)の両方のストランドの全長を隙間無く網羅するやり方で、約30から50ヌクレオチドの長さの重複する相補的オリゴヌクレオチドを合成する。次いで、オリゴヌクレオチドを互いにハイブリッド形成させ(例えば、加熱、次いで冷却によって)、T4 DNAリガーゼを用いて連結する。次いで、反応産物をそれぞれの制限酵素(Xba IおよびEcoR I)で切断し、pMG402ベクター内にクローニングする(下記を参照すること)。
【0063】
あるいは、プロモーター、RBSおよびシグナル配列を含むgac断片を、プラスミドpKS55のようにこのような要素を含むプラスミドから増幅することができる。この構築は、CS特許第278,515号に記載されている。クローニングされたgac遺伝子は、シュードモナス・ディミヌタ(CCM 3987)株由来のものである。高忠実度PCRシステムを用いて増幅を行う。次のPCRプライマーを介して、クローニングに必要な制限酵素部位を導入する。
【0064】
【化3】

【0065】
高忠実度PCR増幅を介して作製したgac断片と化学的な合成によって生成したgac断片との間に、性能において違いはない。
【0066】
このようにして作製したgac断片は、次のヌクレオチド配列を有する。
【0067】
【化4】

【0068】
gac断片(合成されたまたはPCRを介して生成した)とベクタープラスミドpMG402とを、Xba I部位とEcoR I部位とを用いて連結する。このようにして、発現ベクターpMG412が作製される。
【0069】
発現ベクターpMG412は、コドン1から23+gacシグナル配列のコドン24の最初のヌクレオチドを含む。サイレント変異によって、コドン22から24内にSac II部位を導入する。pMG412内のSac II部位の下流側のすべてがプライマーまたはベクター配列である。
【0070】
目的構造遺伝子(rhIFNα2B、上記を参照すること)についてのフォワードPCRプライマーによって、コドン24+コドン25から27の最後の二つのntを導入する。従って、このようなプライマーは次の要素を含む:
切断オーバーハング(例えば6ヌクレオチド)−Sac II部位−tc gcc ttt gcg (配列番号9)−「成熟した」目的遺伝子の5’末端に対応するハイブリッド形成領域。
【0071】
とりわけ、適切なプライマーは次のヌクレオチド配列(配列番号10)を有する。
【0072】
【化5】

【0073】
gacシグナル配列の最後のアミノ酸(24から27)はVAFA(配列番号11)である。
【0074】
上記のプラスミド構築物から、高忠実度PCRシステムを用いてrhIFNα2b遺伝子を増幅する。5’PCRプライマーは、この遺伝子とgac断片+gacシグナル配列の最後の四コドンとを融合させるためのSac II部位を含む。3’プライマーは、TAA(ochre)終止コドンとクローニング用のMlu I部位とを含む。このインターフェロンα構造遺伝子の増幅によって、次の断片(配列番号12)が生じる。
【0075】
【化6】

【0076】
Sac II部位とMlu I部位とを用いて、このrhIFNα2bのPCR断片とpMG412とを連結する。このようにして、最終産物/発現プラスミドpMG414を作成した。pMG414の両ストランドの配列決定を行い、予想された配列と違いがないことを示す。
【0077】
プラスミドpMG414(総サイズ3668塩基対)の特徴:
塩基対2728から256: pUC19バックボーン、部分1
塩基対257から546: gac断片(プロモーター、RBS、シグナル配列)
塩基対547から1044: rhIFNα2bの合成遺伝子(TAA終止を含む)
塩基対1045から1454: クローニング部位+pUC19バックボーン、部分2
塩基対1455から2727: pBR322(プロモーター/RBS1455から1536、TAA終止を含むコード配列1537から2727)由来のtet遺伝子
【0078】
これによって、プロモーター、RBSおよびシグナル配列を含むgac断片は、PCRプライマーによって導入されたgac断片の3’末端における制限酵素部位を用いて、rhIFNα2bの構造遺伝子と融合される。この同じ部位は、やはりPCRプライマーを用いる方法により、rhIFNα2b構造遺伝子の5’末端と融合される。両成分(gac断片とrhIFNα2bの構造遺伝子)は基礎ベクター内にクローニングされて、gac1ss−rhIFNα2b融合タンパク質をコードする遺伝子が作製される。この合計で192コドン(576ヌクレオチド)の内、最初の27コドンは最終タンパク質内には存在しないgacシグナル配列をコードし、アミノ酸28から192は成熟したrhIFNα2b(165アミノ酸、システイン1からグルタミン酸165)をコードする。
【0079】
rhIFNα2b発現プラスミドpMG414(807塩基対)(下記を参照すること)に用いられている発現カセットのヌクレオチド配列およびgac1ss−rhIFNα2b融合タンパク質のアミノ酸配列は、次に示すとおりである
【0080】
【化7】


【0081】
示された配列をサブパラグラフ/領域に分割する。これらは次のものを含む。
1.gacプロモーターおよびRBS(第一パラグラフ、pMG414の塩基対257から465、下記を参照すること)、
2.gacシグナル配列のコーディング領域(第二パラグラフ、pMG414の塩基対466から546、下記を参照すること)、
3.rhIFNα2b(第三パラグラフ、pMG414の塩基対547から1044(下記を参照すること)−TAA終止コドンを含む)についての合成遺伝子、および
4.3’クローニングリンカー(第四パラグラフ、pMG414の塩基対1045から1063、下記を参照すること)。
【0082】
pMG414上のこれらの四領域は互いに直結している。図面では、明瞭にするための理由により、これらを分割している。
【0083】
オープンリーディングフレームの開始(ATG)コドンおよび終止(TAA)コドンを太字で示す。
【0084】
成熟したrhIFNα2bの最初のコドン(TGC)と最後のコドン(GAA)には下線を付してある。
【0085】
クローニングのために用いる制限酵素部位を箱で囲んでいる。これらは、
−gac断片(プロモーター、RBS、シグナル配列、Sac II部位、Mlu I部位、Spe I部位)を導入するためのXba I(TCTAGA)およびEcoR I(GAATTC)
rhIFNα2bPCR断片−(gac1ssの最後の四アミノ酸についての四コドン、成熟したrhIFNα2bについての495塩基対の合成遺伝子およびTAA(T)終止コドンを含む)を導入するためのSac II(CCGCGG)およびMlu I(ACGCGT)
である。
【0086】
gacプロモーターは高い構成/基礎活性を示し、化学的な誘導物質または物理的な刺激(培養条件の変更)の付加は必要ではない。
【0087】
1.3 組換え体細胞系のクローニングと構築
エレクトロポレーション導入によって、発現プラスミドpMG414を宿主株ATCC PTA−3132 (=W3110 (ATCC 27325))内に導入する。標準的なプロトコールに従って、エレクトロコンピテントセルを調製し、Eppendorf Electroporator 2510を用いて、0.1mmのキュベット内で1800Vにてエレクトロポレーション導入を行う。
【0088】
エレクトロポレーション導入の後、反応を液体培地内で一時的に停止し、テトラサイクリンを含む寒天プレート上に広げる。
【0089】
適切な細胞クローンの選択についての出発点は、このようにして得られた形質転換用プレートである。このプレートからの種々のクローンを液体培養で生育させ、研究用細胞バンクとして冷凍保存する。これらの生産性を、振盪フラスコ内での実験で試験し、比較する。最も優れたクローン(E1/116)をさらなる開発に用いる。
【0090】
最も優れたクローンは良好な生産性を示し得るが、生育が比較的遅い。このような遅い生育は、種々の因子に、例えば産物の宿主細胞への毒性、産物の合成による代謝への負担などに起因する可能性がある。ときには、グルコースの添加によっていくらか改善される。何故ならば、グルコースは、組換えタンパク質の発現に用いられる多数のプロモーターを下方制御(例えば異化代謝産物抑制によって)するからである。さらに、グルコースは一般的に、エシェリヒア・コリの成長にプラスの効果を有する。何故ならば、炭素源として代謝に直接導入され得るからである。
【0091】
E1/116の場合、生育に与えるグルコースの明白なプラスの効果が見られる。2から5g/Lの間のグルコース濃度によって、最も良い結果が達成される。細胞系を産物の形成に対処し、その結果グルコース不存在においてより良好に生育することに適合させるために、この株を、振盪フラスコ内の液体培地中に数世代生育させる(「振盪フラスコカスケード」)。
【0092】
より具体的には、E1/116の冷凍バイアルを解凍し、この細胞懸濁液を、テトラサイクリンを含むグルコースなしのLB寒天プレート上に画線する。このプレートを、液体培養に接種するのに十分なサイズにコロニーが達するまで、37℃でインキュベートする。コロニーを、テトラサイクリンを含む15mLのグルコースフリーのLBブロスで満たした小さな振盪フラスコ内に、プレートから移す。600nmでの光学密度が0.5を超える(通常は>1.0)まで、培養物を37℃で振盪する。元の単離物の生育が遅いという性質のせいで、この第一ラウンドのための振盪は48時間を要する。
【0093】
プレート上に画線されているこれまでのラウンドの液体培養と、次の液体培養に接種するのに使用するプレートからのコロニーとを用いて、上述のパラグラフに記載された手順を連続的に五回実施する。それぞれの液体培養から光学密度を測定し、SDS−PAGE−ウェスタンブロットを用いて産物の力価を測定するために、サンプルを取り出した。生育と生産性との組み合わせが最良の培養からのクローンを用いて、次のラウンドを開始する。
【0094】
この培養カスケードの異なるラウンド(すなわち複数の増殖工程および再単離工程)の過程において、下位株の生育特性が徐々に改善する。それぞれのラウンドにおける生育と生産性との最良の組み合わせを有する株を選択することによって、力価も徐々に向上する。五回目のラウンドの後、テトラサイクリンを含むLB寒天プレート上に単一のコロニーを再度形成させ、テトラサイクリンを含む液体培養に接種するために用いて第一次シードロット(PSL)を作成する。この培養を37℃で約1.5の光学密度まで生育させ、等量の40%w/vの滅菌グリセリンと混合し、アリコートを冷凍貯蔵用バイアル内に分け、−80℃で凍結する。このPSLを、インターフェロンα2b生産株のGMP細胞バンク(マスター細胞バンクと作業用細胞バンク)を作成するための出発点として用いる。この単離物をE1/116aと名付ける。上述のような再単離プロセスから、再現可能な結果が得られることが分かった。
【0095】
E1/116aは、振盪フラスコ内および撹拌バイオリアクター(発酵槽)内で優れた生育特性を示す。バイオリアクターを開始することに適する接種材料は、作業用細胞バンクのバイアルから開始して振盪フラスコ内で約8時間生育させる。
【0096】
上記の第一次シードロットから、cGMP条件の下でマスター細胞バンクを調製する。要約すれば、PSLバイアルを解凍し、テトラサイクリンを含む寒天プレート上に広げる。単一のコロニーを取り上げ、マスター細胞バンク(MCB)の振盪フラスコ培養(テトラサイクリンを含むLBブロス培地)に接種するために用いる。対数増殖期からの細胞懸濁液を1+1で40%w/vのグリセリンと混合し、1.8mLのアリコートを冷凍貯蔵用バイアル内に入れ、冷凍貯蔵用管内に密封し、液体窒素タンクの液相内で凍結させる。
【0097】
解凍したMCBバイアルからの細胞懸濁液を用いて振盪フラスコ培養を接種すること以外はマスター細胞バンクと同様にして、作業用細胞バンクを作成する。
【実施例2】
【0098】
組換えヒトインターフェロンα2B(rhIFNα2B)を生産するための発酵プロセス
発酵プロセスを、上記の作業用細胞バンクから得られ得るエシェリヒア・コリK−12株W3110を、プラスミドを保持しない細胞の増殖を回避するための抗生物質の塩酸テトラサイクリンを添加したLuria Bertani(LB−)培地中に振盪フラスコ培養にて37℃で生育させることによって、開始する。
【0099】
次いで、振盪フラスコ培養を用いて種培養(=前培養)培地に接種する(接種サイズ=0.4%)。この前培養のための培地は、唯一の炭素源としてのグルコースと複合窒素源としての酵母自己消化物とを含む脱イオン水を基礎とする。さらに、KHPO、KHPO、(NHSOおよびMgSO・7HOのような無機塩をこの培地に添加する。消泡剤として、ポリプロピレングリコール2000(PPG2000)を用いる。とりわけ、この前培養の培地は次の組成物を有する:
前培養用基礎培地:
【0100】
【表2】

【0101】
これらの培地成分を、一緒に、20分間、121℃で滅菌する。基礎培地を冷却した後、抗生物質の塩酸テトラサイクリンの5g/Lの滅菌ストック溶液のアリコート(濾過(0.22μmのフィルター)により滅菌した)を基礎培地に添加する。
【0102】
塩酸テトラサイクリンのストック溶液(5g/L)
【0103】
【表3】

【0104】
種培養の培養時間は約16時間である。この種培養の培養の間、硫酸および水酸化ナトリウムまたは濃アンモニア溶液でpH値を7.0±0.2の設定値に制御する。撹拌速度を増すことによって、溶存酸素の濃度を飽和の20%よりも高いレベルに維持する。培養初期の撹拌速度を300rpmに設定し、容器内の背圧を0.3barに、および通気速度を30L/min(「1vvm」に相当する)に制御する。温度を培養中常に37℃に維持する。ブロスを発酵プロセスの主要段階に移行させる基準として、炭素源が消費された後の溶存酸素濃度の上昇を用いる。
【0105】
本培養の培養のために、脱イオン水、炭素源としてのグルコースおよび複合窒素源としての酵母自己消化物を基礎とする培地を用いる。無機塩(NHSO、CaCl・2HOおよびMgSO・7HOを添加することに加えて、PPG 2000を消泡剤として用いる。最初のグルコースを別に滅菌し、滅菌された培地の残りに添加する。主発酵培地に接種するサイズは、0.75から3%の間の範囲であった。とりわけ、本培養の培地は次の組成を有する。
【0106】
本培養の基礎培地:
【0107】
【表4】

【0108】
これらの培地成分を、一緒に、20分間、121℃で滅菌する。冷却した後、別に加熱滅菌した800g/Lのグルコースストック溶液のアリコートを(120℃で30分間以上かけて滅菌した)主培養の基礎培地に添加する。
【0109】
グルコースストック溶液、800g/L:
【0110】
【表5】

【0111】
この培養の間の最も重要な点は、培地内に当初から存在するグルコースが完全に消費される必要があることである。このことによって、培養から約9時間後に溶存酸素の濃度の急激な上昇がもたらされる。当初のグルコースの全てが消費される前にグルコースの供給を開始することによって、産物の形成が見られない。従って、グルコース溶液を一定の速度で供給することにより制御された、グルコースの制限が極めて重要である。培養の間、温度を約28℃の一定の値に制御する。初期の撹拌速度を300rpmに設定し、通気速度を100L/min(「1vvm」に相当する)に制御し、槽内背圧を0.3barに設定する。pH値を硫酸および水酸化ナトリウムまたは濃アンモニア溶液で7.1±0.3に制御する。最初に供給されたグルコースの消費後の、8.0までのpH値のピークは許容できる。
【0112】
溶存酸素の濃度を、飽和の20%より高い値に制御する。バイオリアクターの酸素移動能力に依存して、先ず撹拌速度を最高値まで増すことによって、DO濃度を、飽和の20%より高いレベルに、好ましくは飽和の約40%から100%の間のレベルに維持する。撹拌速度の増加では不十分なときは、最初の通気速度およびそれ以降の背圧をそれぞれ高める。培養48から192時間(培養時間経過により産物形成の直線的な増加が見られる)後、培養物を回収し、15±5℃に冷却し、蔗糖/EDTAを冷却ブロスに添加することによって、下流でのプロセシングのための条件を整える。
【0113】
発酵バッチの結果を、研究室または実験工場にて産物よりペリプラズムを抽出した後、ウェスタンブロット技術またはHPLC測定に基づいて、分析する。
【実施例3】
【0114】
細胞の破壊および抽出
発現されたインターフェロンα2Bをペリプラズムスペースに含む宿主細胞を含む発酵ブロスを、発酵直後にpH5.0±0.1に硫酸で調整し、4℃±2℃に冷却する。この低pHと低温は、内因性プロテアーゼの不活性化に役立つ。
【0115】
発酵ブロスを10℃から20℃に調整し、次いで細胞を濃縮または洗浄せずに、発酵ブロスに固体または液体の蔗糖(200g蔗糖/kg発酵ブロス)およびEDTA(10mMの濃度)を添加し、発酵ブロスのpHを8.0に調整する。蔗糖およびEDTAを含む発酵ブロスを冷水(約4℃の温度)内に注ぐかまたは注入して、冷水による浸透圧ショック(1+3希釈)を利用する選択的な一工程細胞透過プロトコールの後、放出されたペリプラズム抽出物を透明にする。ポリエチレンイミンを添加して最終濃度0.05%とし、pHを酢酸で約7.5に調整する。15分から45分後、細胞デブリおよびDNAが凝集し、インターフェロンを含む透明な粗抽出物が残る。この粗抽出物を遠心分離に付して透明さを改善してもよい。
【0116】
この手順は、総タンパク質含有量の20%を超える純度をもって、高収率の所望のインターフェロンα2Bを含む透明なペリプラズム抽出物をもたらす。ポリエチレンイミンは、可溶性タンパク質抽出物からの細胞デブリの分離に役立ち、極めて純度の高いインターフェロン溶液をもたらす。
【実施例4】
【0117】
組換えヒトインターフェロンα2B(rhIFNα2B)のクロマトグラフィーによる精製
4.1 陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)による捕捉
実施例3の粗抽出物の、酢酸による4.8から5.2へのpH調節および0.3ミクロンフィルターを用いる濾過工程の後、実施例3の粗抽出物をCEXカラム(S ceramic HyperD F (Biosepra))に適用する。平衡化緩衝液(20mMの酢酸ナトリウムおよび70mMのNaCl、pH5.0)による洗浄工程の後、インターフェロンをステップグラジエントによって175mMNaClにおいて溶出する。集められた画分を、実施例4.2の処理工程により直ちに処理する。
【0118】
4.2 陰イオン交換(AEX)クロマトグラフィー
実施例4.1からの画分を、水酸化ナトリウムで7.3から7.7のpHに調整し、水で希釈し精製して電気伝導率を3.5から4.5mS/cmとし、AEXカラム(Q ceramic HyperD F (Biosepra))に適用する。洗浄後、インターフェロンを直線塩勾配(0から300mMのNaCl)により約150mMNaClにおいて溶出する。IPC逆相HPLCに基づいて、90面積%以上の純度を有する画分を集め、次の工程に直接用いる(実施例4.3を参照すること)。
【0119】
4.3 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
実施例4.2の画分を、硫酸ナトリウム(0.5%の硫酸ナトリウム)のストック溶液を用いて希釈し(1:1)、NaOHまたはHClを用いて7.3から7.7のpHに調整し、HICカラム(Source 15PHE (Pharmacia)に適用する。洗浄後、実施例3のインターフェロン画分を硫酸ナトリウムの直線濃度(800から0mMの硫酸ナトリウム)により約400mMの硫酸ナトリウにおいて溶出する。IPC逆相HPLCに基づいて、93面積%以上の純度を有し、3%以上の不純物を含まない画分を集め、次の精製工程に直接用いる。
【0120】
4.4 陽イオン交クロマトグラフィー(CEX)
実施例4で集められた画分を、水で希釈して最終的な電気伝導率を7.5から8.5mS/cmとし、99から100%の酢酸により4.3から4.7のpHに調整し、CEXカラム(Toyopearl SP−650 S (TosoHaas))に適用する。洗浄工程後、インターフェロンをNaCl直線勾配(0から300mMのNaCl)にて約250mMNaClにおいて溶出する。IPC逆相HPLCに基づいて、95面積%以上の純度を有し、3%以上の不純物を含まない画分を集め、次の精製工程に直接用いる。
【0121】
4.5 サイズ排除クロマトグラフィー
最後の精製工程は、二量体および他の凝集物を除去し、最終的調合のために緩衝液の交換を行うための、ゲル濾過工程である。この工程で用いるSuperdex 75 pgは、負荷量が多い(5%から15%)場合でさえ優れた分離能を示す。SECを、25mMリン酸ナトリウムおよび130mMNaCl+0.3mMEDTAにおいて、約7.3から7.7のpHにて実施する。
【0122】
最も純度が高い画分(RP−HPLCでのメインピークが95%を超え、サイドピークがないものが3%を超える)をプールして、所望の組換えヒトインターフェロンα2Bを高収率の純粋な形態で含む、最終的なバルク溶液を得る。
【0123】
微生物の寄託:
本明細書で用いられるエシェリヒア・コリ株W3110(ATCC 27325)は、10801ユニバーシティー・ブルバール、マナッサス、バージニア州20110−2209、アメリカ合衆国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に、寄託番号PTA−3132の下、2001年2月28日に寄託された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)原核生物宿主細胞の発酵、ここにおいて、前記宿主細胞は、ペリプラズムを有し、着目ポリペプチドを前記宿主細胞のペリプラズム内に分泌させることができる組換え発現系を用いて形質転換されており、前記発酵は、発酵培地中、着目ポリペプチドが前記宿主細胞のペリプラズム内に分泌されるような条件下にて行われ、および
(ii)発酵培地中に含まれる前記宿主細胞に浸透圧ショックを与えることによる前記ペリプラズムからの着目ポリペプチドの抽出
を含む、着目ポリペプチドを調製する方法。
【請求項2】
前記浸透圧ショックが、前記発酵培地に薬物を直接添加し、次いで前記発酵培地をHOにより希釈することによって与えられ、ここにおいて、前記薬物は、HOによる希釈後に前記宿主細胞の外側細胞膜の破壊を導く浸透圧を生じさせることができるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薬物が、蔗糖、塩化ナトリウム、アルギニン、リジン、塩酸グアニジン、Triton−X 100、ポリエチレンイミンおよびこれらの適切な混合物からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記薬物が蔗糖である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵培地における希釈開始時の蔗糖の濃度が約20%重量/体積である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
蔗糖含有発酵ブロスのHOでの希釈係数が少なくとも約3倍である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記原核生物宿主細胞がグラム陰性菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記グラム陰性菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)、エンテロバクター・スピーシーズ(Enterobacter sp.)、カンピロバクター・スピーシーズ(Campylobacter sp.)およびビトレオシラ・スピーシーズ(Vitreoscilla sp.)からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グラム陰性菌がエシェリヒア・コリである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
着目ポリペプチドが、インターフェロン、インターロイキン、成長ホルモン、増殖因子、サイトカイン、酵素、酵素インヒビター、抗体および抗体断片からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
着目ポリペプチドがインターフェロンα2である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
インターフェロンα2が、インターフェロンα2Aおよびインターフェロンα2Bからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(a)組換えインターフェロンα2の粗調製品を得ること、
(b)前記粗調製品を、次、
(i)陽イオン交換クロマトグラフィー、
(ii)陰イオン交換クロマトグラフィー、
(iii)疎水性相互作用クロマトグラフィー、
(iv)陽イオン交換クロマトグラフィー、
(v)サイズ排除クロマトグラフィー
を順番に含む多工程クロマトグラフィーに適用する工程、
を含む、組換えインターフェロンα2を調製するための方法。
【請求項14】
組換えインターフェロンα2の前記粗調整品が、
(a)原核生物宿主細胞の発酵、ここにおいて、前記宿主細胞は、ペリプラズムを有し、組換えインターフェロンα2を前記宿主細胞のペリプラズム内に分泌させることができる組換え発現系を用いて形質転換されており、前記発酵は、発酵培地中、組換えインターフェロンα2が前記ペリプラズム内に分泌されるような条件下にて行われ、
(b)発酵培地中に含まれる前記宿主細胞に浸透圧ショックを与えることによる前記ペリプラズムからの着目ポリペプチドの抽出
を含む方法により得られる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記浸透圧ショックが、前記発酵培地に薬物を直接添加し、次いで前記発酵培地をHOにより希釈することによって与えられ、ここにおいて、前記薬物は、HOによる希釈後に前記宿主細胞の外側細胞膜の破壊をもたらす浸透圧を生じさせることができるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記薬物が、蔗糖、塩化ナトリウム、アルギニン、リジン、塩酸グアニジン、Triton−X 100、ポリエチレンイミンおよびこれらの適切な混合物からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記薬物が蔗糖である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記発酵培地における希釈開始時の蔗糖の濃度が約20%重量/体積である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
蔗糖含有発酵ブロスのHOでの希釈係数が少なくとも約3倍である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記原核生物宿主細胞がグラム陰性菌である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記グラム陰性菌が、エシェリヒア・コリ、シュードモナス・スピーシーズ、エンテロバクター・スピーシーズ、カンピロバクター・スピーシーズおよびビトレオシラ・スピーシーズからなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記グラム陰性菌がエシェリヒア・コリである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記インターフェロンα2が、インターフェロンα2Aおよびインターフェロンα2Bからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2007−501622(P2007−501622A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522989(P2006−522989)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009055
【国際公開番号】WO2005/017174
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】