説明

組換えポリペプチドを調製するための方法

本発明は組換えポリペプチドの調製に関するものであり、このポリペプチドは発現時に形質転換された宿主細胞の周辺質中に分泌されている。詳細には本発明は、さらなる下流工程処理の前に周辺質からの前記組換えポリペプチドの抽出収率を高めるための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組換えポリペプチドの調製に関するものであり、このポリペプチドは発現時に形質転換された宿主細胞の周辺質中に分泌されている。詳細には本発明は、さらなる下流工程処理の前に周辺質からの前記組換えポリペプチドの抽出収率を高めるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリペプチドまたはタンパク質は、宿主として細菌細胞(例えば大腸菌)を使用する組換えDNA技術によって作製することができる。したがって細菌細胞は、前記ポリペプチドまたはタンパク質をコードするプラスミドDNAで形質転換することができる。細菌は、細胞質、または周辺質または細胞外空間において多量のポリペプチドを発現することができる。細菌は大規模な発酵生産プロセスを使用して大量に増殖させることができるので、大量のポリペプチドをこのようにして生成することが可能である。
【0003】
ポリペプチドまたはタンパク質の周辺質中への分泌には、細胞質タンパク質、特にプロテアーゼからの分離、細胞質の毒性の回避、N末端メチオニンの増大の回避、およびジスルフィド結合の形成が進行する可能性があり、タンパク質が可溶性で生物学的活性がある立体配座に折りたたまれる可能性があるさらに酸化性の強い環境における蓄積を含めた、幾つかの潜在的な利点がある。表面上、望ましいタンパク質がそのN末端においてシグナルペプチド(分泌リーダー)と融合することのみを必要とするが、分泌の効率もタンパク質の構造的特徴、および細胞内のその通常の位置によっておそらく影響を受ける。
【0004】
大腸菌は細胞質膜を介して周辺質中にタンパク質を分泌する能力が充分にあり、異種タンパク質を細胞の細胞質の外に向ける時広く使用されてきている。特に生物学的活性抗体断片の生成をすでに可能にしてきており、現在では動物細胞培養における完全抗体の生成が挑戦されている。
【0005】
異種タンパク質の分泌が100%有効であることはめったになく、幾つかの場合、分泌リーダーが結合した未処理の前駆体タンパク質が細胞内に蓄積する。この観察結果は、分泌機構の1つまたは複数の成分が、これらのタンパク質の輸送を制限している可能性があることを示唆する。
【0006】
大腸菌におけるタンパク質分泌に関する文献の1つの顕著な特徴は、タンパク質が増殖培地から直接回収される報告の頻度である。このことは非常に有利である可能性はあるが、根底にある機構に関する未解決な問題を提起する。タンパク質は外側膜を介した特異的な移動によってではなく、細胞からの非特異的な漏出、または細胞の溶解によって培地に放出されることが多いことを示す、幾つかの報告が存在する。この現象は理解されておらず、非常にタンパク質配列特異的であり、幾つかの抗体断片に関しては広範囲に及び、他のポリペプチドに関しては顕著ではない。
【0007】
タンパク質の周辺質中への分泌は有用な経路であり、生物学的評価のためのタンパク質の迅速な単離につながる可能性がある。産業規模でのその適用は、細胞から周辺質タンパク質を選択的に放出させるための有効で定量可能な方法の、一般的な利用しにくさによって現在制限されている。
【0008】
周辺質からの組換えタンパク質の回収を、細胞質タンパク質による汚染なしで実施することができれば、後の精製ステップは非常に簡略化される。何故なら、例えば大腸菌においては、25個の知られている細胞プロテアーゼのわずか7個、全細胞タンパク質の約4〜8%が、周辺質中に所在するのみである(Swamyら、Baneyxら)。
【0009】
周辺質タンパク質を選択的に放出させるための、さまざまな頻繁に使用される方法が存在する。1つはクロロホルム、グアニジン−HCl、臭化セチルトリメチルアンモニウム/CTAB、またはTriton X−100などの界面活性剤およびグリシンなどの化学物質が関与する細胞浸透処理である。他はリゾチーム/EDTA処理または浸透圧衝撃の施用を使用する浸透処理である。これらの放出法は大規模な調製にも適しており、さまざまな程度の成功で、広範囲の発現系に関する多くの異なる改変において使用されてきている。
【0010】
周辺質のタンパク質放出に関する現況技術の方法は、例えば以下の文献中に
文書化されている:
Swamyら、J.Bacteriol.147、1027〜1033、1982
Baneyxら、J.Bacteriol.173、2696〜2703、1991
Blightら、TibTech12、450〜455、1994
Barberoら、Journal of Biotechnology4、255〜267、1986
Pierceら、Journal of Biotechnology58、1〜11、1997
Frenchら、Enzyme&Microbial Technology19、332〜338、1996
Naglakら、Enzyme&Microbial Technology12、603〜611、1990
Nossalら、J.Biol.Chem241(13)、3055〜3062、1966
Neuら、J.Biol.Chem240、3685〜3692、1965
Hsiungら、Bio/Technology4、991〜995、1986
Carterら、Bio/Technology10、163〜167、1992
Georgiouら、Biotechnol.Bioeng.32、741〜748、1988
Aristidouら、Biotechnolgy Letters15(4)、331〜336、1993
Chaibら、Biotechnology Techniques9(3)、179〜184、1195
Amesら、J.Bacteriol.160、1181〜1183、1984
Gellerforsら、J.Pharm.Biomed.Anal.7、2、173〜83、1989
Chapmanら、Nature Biotechnology17、780〜783、1999
Vossら、Biochem.J.298、719〜725、1994
WO01/94585
米国特許第4,845,032号
米国特許第4,315,852号
組換え技法を使用して粗製ポリペプチドの高い収率を生み出すことはできるが、ポリペプチドの単離および精製は精巧かつ包括的な手順を必要とする。
【0011】
典型的な単離手順では、酸性剤または腐食剤を加えることによって、発酵生産物回収培養液を中性pH(例えばpH6.5〜7.5)に調節する。後に細菌細胞を例えば遠心分離またはマイクロ濾過にかけ、廃棄される望ましくない可溶性副産物を含む液体上清を分離除去する。生成した細菌細胞の塊は適切な培地、例えば適切なバッファー中に再懸濁させ、細胞を粉砕して生成物を抽出し単離する。
【0012】
労力を要する抽出および単離手順を通常行い、発酵生産副産物および他の汚染物質からできる限り多くの当該のポリペプチドを分離して、後の精製ステップが可能な限り有効な方式で進行することを確実にする。
【0013】
当分野で知られている精製ステップは一般に、沈殿およびクロマトグラフィー分離技法を含み、労力を要し抽出ポリペプチドの低い収率および高い生成コストをもたらす可能性がある、ダイアフィルトレーションおよび/または濃縮手順のような追加のステップを時々必要とする。
【0014】
ポリペプチドの抽出、単離および精製は、各段階において、物質または生物活性の消失をもたらす。
【0015】
通常は細菌細胞の粉砕の後に起こるがin vivoでも観察される、タンパク質分解、すなわちタンパク質分解酵素によるポリペプチドの分解は、タンパク質消失の主な原因の1つであると考えられる。この偶発的なタンパク質分解が、当該のポリペプチドの分解を最小にするための方法の改変を必要とする技術的な問題点である。
【0016】
タンパク質分解の割合を低く保つ1つの方法は一般に、妥当に低い温度で可能な限り迅速に回収、抽出、単離および精製手順を行うことである。したがって、ポリペプチドの単離および精製に関する関連教本および標準プロトコルは一般に、不必要な遅延および中断なしで進行することを教示している(Protein Protocols、Ed.J.M.Walker、Humana Press Inc.、1998年1月)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、高収率かつコスト効率の良い形式で細菌細胞からの当該の組換えポリペプチドの抽出を可能にする、新規な方法が必要性である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、組換えポリペプチドを調製するための新規な方法を提供することによって前述の必要性に応ずる。
【0019】
本発明では、周辺質を含む細菌宿主中で発現される組換えポリペプチドの収率は、発酵生産後に単離プロセスを中断し、前記ポリペプチドの抽出および単離の後続ステップを行う前に、発酵生産物回収培養液のさらなる処理を保留することによって、増大させることができることが驚くことに分かってきている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、
a)周辺質を含み、ポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された原核生物宿主細胞に発酵生産させ、発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような条件下で発酵生産培地において行うステップ、および
b)発酵生産物回収培養液のさらなる処理を中断し、および抽出前に温度およびpHの明確な条件下で発酵生産物回収培養液を保つステップ
を含む、組換えポリペプチドを調製するための方法に関する。
【0021】
本発明の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の記載事項から当業者に明らかとなるであろう。しかしながら、以下の記載事項および具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しながら、例示のみによって与えられることは理解されるはずである。開示する本発明の精神および範囲内のさまざまな変更および変更形態が、以下の記載事項を読むことから、および本開示の他の部分を読むことから、当業者には容易に明らかとなるであろう。
【0022】
本明細書に引用する全ての特許出願、特許および参照文献は、その全容が参照によりここに組み込まれている。
【0023】
本発明を実施する際には、分子生物学、微生物学、および組換えDNAの多くの従来の技法を使用する。これらの技法はよく知られており、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology、Volumes I、II、およびIII、1997(F.M.Ausubel ed.);Sambrookら、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク;DNA Cloning:A Practical Approach、Volumes IおよびII、1985(D.N.Glover ed.);Oligonucleotide Synthesis、1984(M.L.Gait ed.);Nucleic Acid Hybridization、1985、(HamesおよびHiggins);Transcription and Translation、1984(HamesおよびHiggins eds.);Animal Cell Culture、1986(R.I.Freshney ed.);Immobilized Cells and Enzymes、1986(IRL Press);Perbal、1984、A Practical Guide to Molecular Cloning;the series、Methods in Enzymology(Academic Press、Inc.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells、1987(J.H.MillerおよびM.P.Calos eds.、Cold Spring Harbor Laboratory);およびMethods in Enzymology Vol.154およびVol.155(それぞれWuおよびGrossman、ならびにWu、eds.)中で説明されている。
【0024】
本発明は、
a)周辺質を含み、ポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された原核生物宿主細胞に発酵生産させ、発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような条件下で発酵生産培地において行うステップ、および
b)発酵生産物回収培養液のさらなる処理を中断し、および抽出前に温度およびpHの明確な条件下で発酵生産物回収培養液を保つステップ
を含む、組換えポリペプチドを調製するための方法に関する。
【0025】
本発明は、周辺質を含む細菌宿主中で発現される組換えポリペプチドの収率は、発酵生産物後に単離プロセスを中断し、前記ポリペプチドの抽出および単離の後のステップを行う前に、発酵生産物回収培養液のさらなる処理を保留することによって増大させることができるという驚くべき発見に基づく。
【0026】
ポリペプチドの発現は、周辺質を含みポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された、適切な原核生物宿主細胞中で行う(例えば、SkerraおよびPlueckthun、Science240、1038〜1041、1988中に記載されている)。
【0027】
ポリペプチドの発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような適切な条件下で、発酵生産培地において行う(例えば、SkerraおよびPlueckthun、Science240、1038〜1041、1988中に記載されている)。
【0028】
本明細書で使用する用語「発酵生産」は、ポリペプチドが宿主細胞によって生成され周辺質中に分泌されるような適切な条件下で適切な時間の長さ、適切な発酵生産培地中で宿主細胞を増殖させることを意味すると理解されたい。
【0029】
前記さらなる処理の中断は、生成ポリペプチドの完全性、すなわちそれが分解されないかあるいは他の場合は機能または構造を害されないことを可能な限り確実にする適切な条件下で、例えば少なくとも1時間発酵生産物回収培養液を維持、保有、保持または保存することによって実施することができる。これは発酵生産タンク(発酵槽)中に直接、例えば発酵生産物回収培養液を維持、保有、保持または保存することによって、あるいは発酵槽からの回収後に他のタンクまたは任意の他の適切な容器中に前記発酵生産物回収培養液を移すことによって行うことができる。さらに発酵生産物回収培養液は、中断ステップ中に周期的または連続的に攪拌することができる。
【0030】
したがって、好ましい実施形態では、前記の方法のステップb)は発酵槽中で行う。
【0031】
通常、生成物収率の望ましい増大に関しては、中断ステップの時間と適用する温度の間に1つの関係が存在するであろう。低い温度は長い時間期間を必要とし、一方より高い温度では、同様の結果を得るためにはより短い時間期間で充分であろう。最適なパラメータは、発現されるポリペプチド、宿主細胞および生産条件に依存する。
【0032】
したがって、好ましい実施形態では、発酵生産物回収培養液のさらなる処理を少なくとも約1時間の長さ、例えば1時間の長さ中断する、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。
【0033】
好ましくは、発酵生産物回収培養液のさらなる処理は、約1時間〜約72時間の長さ、例えば1時間〜72時間の長さ中断する。さらなる処理は、この範囲内の任意の時間中断することができる。
【0034】
より好ましくは、発酵生産物回収培養液のさらなる処理は、約12時間〜約48時間の長さ、例えば12時間〜48時間の長さ中断する。さらなる処理は、この範囲内の任意の時間中断することができる。
【0035】
最も好ましくは、発酵生産物回収培養液のさらなる処理は、約12時間、約24時間または約48時間の長さ、例えば12時間、24時間または48時間の長さ中断する。
【0036】
他の好ましい実施形態では、発酵生産物回収培養液のさらなる処理の中断を、約2℃〜約65℃の温度、例えば2℃〜65℃の温度で行う、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。さらなる処理は、この範囲内の任意の温度で中断することができる。
【0037】
より好ましくは、発酵生産物回収培養液のさらなる処理は、約4℃〜約25℃の温度、例えば4℃〜25℃の温度で中断する。さらなる処理は、この範囲内の任意の温度で中断することができる。
【0038】
最も好ましくは、発酵生産物回収培養液のさらなる処理は、約4℃、約10℃、約15℃、約20℃または約25℃の温度、例えば4℃、10℃、15℃、20℃または25℃の温度で中断する。
【0039】
他の好ましい実施形態では、発酵生産物回収培養液のさらなる処理を約12時間、約24時間または約48時間の長さ、約4℃、約10℃、約15℃、約20℃または約25℃の温度で、例えば12時間、24時間または48時間の長さ、4℃、10℃、15℃、20℃または25℃の温度で中断する、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。
【0040】
他の好ましい実施形態では、発酵生産物回収培養液のpH値をステップb)中約4〜約10の間、例えば4〜10の間に保つ、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。発酵生産物回収培養液は、この範囲内の任意のpH値に保つことができる。
【0041】
より好ましくは、発酵生産物回収培養液のpH値はステップb)中約5〜約9の間、例えば5〜9の間に保つ。発酵生産物回収培養液は、この範囲内の任意のpH値に保つことができる。
【0042】
さらにより好ましくは、発酵生産物回収培養液のpH値はステップb)中約6〜約8の間、例えば6〜8の間に保つ。発酵生産物回収培養液は、この範囲内の任意のpH値に保つことができる。
【0043】
最も好ましくは、発酵生産物回収培養液のpH値はステップb)中約7、例えば7に保つ。
【0044】
本発明を実施する際に、温度、pHおよび時間の正確な値に固執することは必要ではない、すなわち前記の実施形態に関しては、前記値は近似値または平均値として理解されたい。本発明は広範囲の条件内で実施可能であり、いくらかの変更が可能である。所与の値付近のいくらかの変更が可能であり、時には実際避けがたいものでさえあることを、当業者は知っているであろう。したがって、中断ステップ期間中、例えば予め設定したpH値をわずかに変えることができ、適切にあるいは必要に応じて再調節することができる。例えば低温保存室中で発酵生産物回収培養液をインキュベートすることによって中断ステップを行うとき、適用する温度をある程度変えることもできる。このような低温保存室中では、予め設定した温度は通常、一定の時間期間で一定の許容範囲内、例えば2℃〜8℃、例えば4℃または5℃の平均的な平均値で変わる。したがって、本発明の文脈内では、例えば4の所与のpHまたは例えば25℃の所与の温度は、正確な4.0のpHまたは正確な25.0℃の温度を意味しない。
【0045】
中断期間を開始する前に、例えば発酵生産物回収培養液の適切な温度およびpHなどの適切な条件を、発現されるポリペプチドによって決定される要件に従い調節する。特定のポリペプチドに最も適した条件は知られているか、あるいは当分野で知られている標準的な方法を適用することによって容易に決定することができる(Protein Protocols、Ed.J.M.Walker、Humana Press Inc.、1998年1月)。
【0046】
中断期間の後、通常は発酵生産物回収培養液を抽出して、組換えポリペプチドを単離し、それを細胞物質および望ましくない発酵生産副産物から分離する。周辺質タンパク質を選択的に放出させるために頻繁に使用される方法は、特にリゾチームおよび/またはEDTA処理、場合によっては次に浸透圧衝撃処理、または指定の時間期間のpHまたは温度インキュベーションのような任意の他の適切な放出手順である。
【0047】
本発明の文脈では、前記の方法のステップb)はステップa)の直後に必ずしも行う必要はないことを理解されたい。他の方法のステップを、ステップa)とb)の間に行うことができる。例えば、中断期間を施す前の発酵生産物回収培養液の部分的抽出は、本発明に含まれる。発酵生産物回収培養液を完全にさらなるプロセシングにかけない限り、中断期間は高いポリペプチド収率をもたらすであろう。
【0048】
さらに、発酵生産物回収培養液を洗浄および/または濃縮して、物質の体積を減少させることができ、例えばディスクスタック分離機を使用する遠心分離、マイクロ濾過、凝集および沈降によって、あるいは湿潤状態の細胞ペレットをもたらす沈殿および濾過によって、そのさらなる処理を簡略化することができる。わずかな割合のみ体積を部分的に減少させることから可能な限り最大限まで、あるいは適切に濃縮の程度を変えることができ、これは例えば湿潤重量の割合の点で望ましい最終的なコンシステンシーによって決定することができる。発酵生産物回収培養液の濃縮は中断ステップの前または後で行うことができるが、前に行うことが好ましい。
【0049】
したがって、好ましい実施形態では、
a)周辺質を含み、ポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された原核生物宿主細胞に発酵生産させ、発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような条件下で発酵生産培地において行うステップ、および
b)発酵生産物回収培養液のさらなる処理を中断し、および抽出前に温度およびpHの明確な条件下で発酵生産物回収培養液を保つステップ
を含み、かつ発酵生産物回収培養液をステップb)の前に濃縮する、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。
【0050】
発酵生産物回収培養液は、ステップb)の前に遠心分離またはマイクロ濾過によって濃縮することが好ましい。
【0051】
周辺質を含む幾つかの原核生物宿主細胞を使用して、本発明を実施することができる。
【0052】
したがって、好ましい実施形態では、
a)周辺質を含み、ポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された原核生物宿主細胞に発酵生産させ、発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような条件下で発酵生産培地において行うステップ、および
b)発酵生産物回収培養液のさらなる処理を中断し、および抽出前に温度およびpHの明確な条件下で発酵生産物回収培養液を保つステップ
を含み、かつ原核生物宿主細胞がグラム陰性菌である、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。
【0053】
グラム陰性菌は大腸菌種、シュードモナス菌種、腸内細菌種、エルビニア菌種、カンピロバクター菌種、プロテウス菌種、アエロモナス菌種およびビトレオシラ菌種からなる群から選択されることがより好ましい。
【0054】
大腸菌種を使用することが最も好ましい。特に適切な大腸菌菌株は、例えば大腸菌K12または大腸菌BL21などの大腸菌KおよびB菌株である。
【0055】
本発明の方法は広く適用可能であり、特定の組換えポリペプチドまたはタンパク質の調製に限られない。
【0056】
しかしながら、好ましい実施形態において本発明は、
a)周辺質を含み、ポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された原核生物宿主細胞に発酵生産させ、発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような条件下で発酵生産培地において行うステップ、および
b)発酵生産物回収培養液のさらなる処理を中断し、および抽出前に温度およびpHの明確な条件下で発酵生産物回収培養液を保つステップ
を含み、かつ組換えポリペプチドが抗体、ホルモンまたは免疫調節剤である、組換えポリペプチドを調製するための方法を提供する。
【0057】
組換えポリペプチドは成長ホルモン、成長因子、インターフェロン、サイトカイン、酵素、酵素阻害剤または抗体断片であることがより好ましい。
【0058】
組換えポリペプチドはFab断片、ヒト成長ホルモン、インターフェロンα−2bまたは顆粒球コロニー刺激因子であることが最も好ましい。
【0059】
以下の実施例を参照することによって、本発明をさらに記載する。これらの実施例は例示目的で与え、制限することを目的とするものではない。
【0060】
(実施例)
実施例中では、以下の略語を使用する:
aa=アミノ酸
A=ピーク領域
AEX=アニオン交換クロマトグラフィー
BH=床高
C=伝導率(mS/cm)
CAP.P=捕捉プール
CE=清澄化粗製抽出物
CP=遠心分離後のペレット
CR=細胞再懸濁
CV=カラム体積
DBE=直接の培養液抽出
DR=ダイアリテンテート(diaretentate)
DSP=下流工程処理
EBA=拡張床吸着
EXT=抽出
Fab’=抗体Fab’断片
GAC=グルタリル−7−ACA−アシラーゼ
HB=回収培養液
HCP=宿主細胞タンパク質
HG=ホモジェネート
HIC=疎水性相互作用クロマトグラフィー
IPC=方法中の対照
MBR=マスターバッチの記録
MF=マイクロ濾過
N=理論プレート
p=圧力(バール)
P=タンパク質
PCM=パッケージ細胞塊
PEI=ポリエチレンイミン
PS=一次分離
(a)RPC=(酸性)逆相クロマトグラフィー
rpm=1分間当たりの回転数
Rs=解像度
SDS−PAGE=ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動
SEC=サイズ排除クロマトグラフィー
ss=ステンレス鋼
T=温度(℃)
t=時間(h)
TMP=膜間圧力差
UF/DF=限外濾過/ダイアフィルトレーション
V=体積(L)
W=重量(kg)
wBM=湿潤バイオマス(=BFM)
WBR=精製水
WFI=注射水
【実施例1】
【0061】
抗体Fab’断片(Fab’)の周辺質発現
(WO01/94585中に開示された)ヒト腫瘍壊死因子αに関する特異性を有する人化抗体Fab’断片の軽鎖および重鎖をクローニングし、大腸菌K12中で発現させた。適切なプロモーターの共通の制御下においてシグナル配列とのN末端融合体として、それぞれ軽鎖および重鎖の連続的な発現を可能にするベクターを使用する。
【0062】
人化Fab’生成大腸菌K12菌株の発酵生産の後、回収培養液を遠心分離(Westfalia CSC6ディスク分離機、100L/h、15000×g)によって清澄化し、次いで単離した細胞のペーストを直ちにあるいは示した中断期の後に(時間、温度、湿潤重量は一致)、抽出バッファー(200mMのTRIS/HCl pH7.4、20mMのEDTA)を用いて元の回収体積(最終濃度100mMのTRIS/HCl、10mMのEDTA)に再懸濁させ、それぞれの調製物を25℃で30分間抽出させた。30分間の抽出の後、それぞれの細胞懸濁調製物の分析用等分試料を、遠心分離(Beckman Avanti J25I、Rotor25.5、20.000g)および0.2μmの濾過膜(PALL Acrodisc32シリンジ0.2μmフィルター)によって直ちに清澄化する。清澄化した抽出物は全て、Fab’(aRPC)および全タンパク質含量に関して分析する(ブラッドフォード法)。
【0063】
表1中の結果は、Fab’の抽出収率は、清澄化後および抽出前に中断ステップを含めることによって高めることができることを示す。
【0064】
【表1】

【実施例2】
【0065】
組換えヒト成長ホルモン(rhGH)の周辺質発現
ヒト成長ホルモンの構造遺伝子をクローニングし、適切なプロモーターの制御下においてシグナル配列とのN末端融合タンパク質として、rhGHの発現を可能にするベクターを使用して大腸菌K12中で発現させる。シグナル配列は宿主細胞の周辺質空間中への輸送中に切断され、周辺質中に元のポリペプチド配列はそのまま残す。
【0066】
供給バッチ発酵生産後、rhGH含有大腸菌回収培養液は硫酸を用いてpH5に調節し、5〜15℃まで直ちに冷却する。低pHおよび低温は、内因性プロテアーゼおよびアミノペプチダーゼの失活を手助けする。次いで処理した回収培養液を、その後の遠心分離(Westfalia分離機CSC6、200L/h、15000×g)またはマイクロ濾過(MF、0.2μm Hydrosart/Sartorius、TMP約1バール)によって元の体積の約半分まで濃縮し、3〜5mS/cmの最終伝導率までプロセスウォーターで洗浄する。
【0067】
示した中断ステップ(4℃または20℃で24時間または48時間)無しあるいはその後で、濃縮した細胞ペーストおよび回収培養液自体(DBE、事前の濃縮/洗浄ステップ無し)は、スクロース/EDTAストック溶液を用いて条件を整えて1mMのEDTA、200g/Lのスクロースの最終濃度および約10〜20%の湿細胞重量に到達させる。2〜8℃での穏かな攪拌による1時間のインキュベーションの後、条件付けした細胞懸濁液を冷水に希釈し(1+4希釈による浸透圧衝撃)、インキュベーションをさらに1時間続ける。この浸透圧衝撃の後、ポリエチレンイミン(ポリエチレンイミン50%、BASF)を0.05%の最終濃度まで加え、pHは硫酸を用いて7.5に調節する。その後の遠心分離(Westfalia分離機CSC6)および濾過(0.3μmのPolygardおよび0.2μmのDurapore/Millipore)によって、全ブラッドフォードタンパク質に対して0.1〜0.3mgのrhGH/mLおよび20%を超える純度で透明なタンパク質溶液を得る。
【0068】
次いでrhGH含有抽出物を3〜5mS/cmの最終伝導率まで調節して(あるいは希釈によって、あるいは5〜10kDのBiomax膜、Milliporeでのダイアフィルトレーションによって)、アニオン交換クロマトグラフィーによって捕捉する(Q−HyperD F、Biosepra、装荷量>50mg(全タンパク質)/ml(充填樹脂)、線流速3〜5cm/分、床高10〜20cm)。
【0069】
rhGH抽出収率は、発酵生産/清澄化後および抽出前に中断ステップを含めることによって高めることができる。
【実施例3】
【0070】
組換えヒトインターフェロンα−2B(rhIFNα−2B)の周辺質発現
rhIFNα−2Bを、Pgacプロモーターの制御下での組換え大腸菌K12W3110菌株の発酵生産によって生成させる。標的タンパク質は、(CS278515、CS260068中に記載された)シュードモナスディミニュータCCM3987由来の細菌グルタリル−ACA−アシラーゼ(GAC)のシグナルペプチドとのN末端融合体として発現される。
【0071】
実施例2中と同様に、回収培養液は一定体積でプロセスウォーターを用いて最初に洗浄し、次いでその後の遠心分離(Westfalia分離機CSC6、200L/h、15000×g)またはマイクロ濾過(MF、0.2μm Hydrosart/Sartorius、TMP約1バール)によって、約4(3〜5の範囲)mS/cmの最終伝導率および45±5%湿潤重量の最終コンシステンシーまで濃縮する。4℃または20℃の温度での24時間または48時間の後の中断ステップ有りまたは無しで、すなわち濃縮した細胞ペーストまたは回収培養液自体(DBE、事前の濃縮/洗浄ステップ無し)の維持有りまたは無しで、さらなる処理を行う。
その後、EDTA/スクロースストック溶液を洗浄した細胞ペーストまたは回収培養液に加えて、10mMのEDTA、200g/Lのスクロースの最終濃度および10〜20%の湿細胞重量に到達させ、スラリーはNaOHを用いてpH8.0に調節する。2〜8℃での穏かな攪拌による1時間のインキュベーションの後、条件付けした細胞懸濁液を冷水に希釈し(1+4希釈による浸透圧衝撃)、インキュベーションをさらに1時間続け、次いでポリエチレンイミン凝集によってrhGH実験(実施例2)中と同様に清澄化し、その後の遠心分離および濾過によって、抽出物1mL当たり約0.005〜0.025mgのrhIFNα−2Bを有する透明なタンパク質溶液を生成させる(デンシトメトリーSDS−PAGEおよびウエスタン検出によって測定)。生成物捕捉用に、この透明な抽出物を3.5〜4.5mS/cmに調節し(あるいは希釈によって、あるいは5〜10kDのBiomax膜、Milliporeでのダイアフィルトレーションによって)、希釈CHCOOHを用いてpH5に調節し、平衡状態のS Ceramic HyperD Fカラム(S Ceramic HyperD F、Biosepra、装荷量30〜70mg(タンパク質)/1ml(樹脂)、2〜6cm/分、EQ−バッファー20mMの酢酸ナトリウム+70mMのNaCL pH5.0)に充填する。平衡状態のバッファーを用いた洗浄ステップ後、rhIFNα−2Bは約2CVの溶出バッファー(20mMの酢酸ナトリウム+175mMのNaCL pH5.0)を用いて溶出させる。捕捉プールにおいて、標的タンパク質はaRPCによって定量化し、ブラッドフォード法で測定した全タンパク質に対する生成物含量によって純度を推定する。
【0072】
rhIFNα−2B抽出収率は、発酵生産/清澄化後および抽出前に中断ステップを含めることによって高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)周辺質を含み、ポリペプチドの周辺質中への分泌を行うことができる組換え発現系で形質転換された原核生物宿主細胞に発酵生産させ、前記発酵生産は、ポリペプチドが宿主細胞の周辺質中に分泌されるような条件下で発酵生産培地において行うステップ、および
b)発酵生産物回収培養液のさらなる処理を中断し、および抽出前に温度およびpHの明確な条件下で発酵生産物回収培養液を保つステップ
を含む、組換えポリペプチドを調製するための方法。
【請求項2】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理を、少なくとも約1時間の長さ中断する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理を、約1時間〜約72時間の長さ中断する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理を、約12時間〜約48時間の長さ中断する請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理を、約12時間、約24時間または約48時間の長さ中断する請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理の中断を、約2℃〜約65℃の温度で行う請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理の中断を、約4℃〜約25℃の温度で行う請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理の中断を、約4℃、約10℃、約15℃、約20℃または約25℃の温度で行う請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
発酵生産物回収培養液のpH値をステップb)の間約4〜約10の間に保つ請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
発酵生産物回収培養液のpH値をステップb)の間約5〜約9の間に保つ請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
発酵生産物回収培養液のpH値をステップb)の間約6〜約8の間に保つ請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
発酵生産物回収培養液のpH値をステップb)の間約7に保つ請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
発酵生産物回収培養液のさらなる処理を約12時間、約24時間または約48時間の長さ、約4℃、約10℃、約15℃、約20℃または約25℃の温度で中断する請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
発酵生産物回収培養液をステップb)の前に濃縮する請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
発酵生産物回収培養液を、ステップb)の前に遠心分離またはマイクロ濾過によって濃縮する請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ステップb)を発酵槽中で行う請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
原核生物宿主細胞がグラム陰性菌である請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
グラム陰性菌が大腸菌種、シュードモナス菌種、腸内細菌種、エルビニア菌種、カンピロバクター菌種、プロテウス菌種、アエロモナス菌種およびビトレオシラ菌種からなる群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
グラム陰性菌が大腸菌である請求項17に記載の方法。
【請求項20】
組換えポリペプチドが抗体、ホルモンまたは免疫調節剤である請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
組換えポリペプチドが成長ホルモン、成長因子、インターフェロン、サイトカイン、酵素、酵素阻害剤または抗体断片である請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
組換えポリペプチドがFab断片、ヒト成長ホルモン、インターフェロンα−2bまたは顆粒球コロニー刺激因子である請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
実施例への個々の参照と共に本明細書に実質的に記載された通りの方法。

【公表番号】特表2007−502609(P2007−502609A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523607(P2006−523607)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009321
【国際公開番号】WO2005/019466
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】