説明

組換え体ヒトFSHの製造方法

【課題】組換え体ヒトFSH産生細胞の培養液中から組換え体ヒトFSHを,有機溶媒の使用を排した工程のみを用いて,高純度まで高収率で精製する方法を提供する。
【解決手段】組換え体ヒトFSHの製造方法であって,(a)組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞を無血清培地中で培養して組換え体ヒトFSHを培養液中に分泌させるステップ,(b)培養上清を調製するステップ,(c)培養上清を陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付しヒトFSH活性画分を回収するステップ,(d)該画分を色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーに付しヒトFSH活性画分を回収するステップ,(e)該画分を,疎水性カラムクロマトグラフィーに付してヒトFSH活性画分を回収するステップ,及び(f) 該画分をゲルろ過カラムクロマトグラフィーに付してヒトFSH活性画分を回収するステップを,この順で含んでなるものである,製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,組換え体ヒトFSHの製造方法に関し,より詳しくは,組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞を,無血清培地を用いて培養することによる組換え体ヒトFSHの製造方法,及び,これにより培養上清中に得られた組換え体ヒトFSHを,そのまま医薬として使用できる高純度にまで高収率で精製するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵胞刺激ホルモン(FSH)は,αおよびβサブユニット各1個ずつから構成される分子量34kDの糖タンパク質であり,卵巣でのエストロゲンの生産及び分泌を促進する活性を有する。ヒトFSHを主剤とする医薬品が不妊症の治療薬として使用されているが,当初これに含まれるヒトFSHはヒト尿から精製されたものであった。最近になって,遺伝子組換え技術を用いて製造した組換え体ヒトFSHの販売が認められ,「複数卵胞発育のための調節卵巣刺激」及び「視床下部−下垂体機能障害に伴う無排卵及び希発排卵における排卵誘発」をその用法とする不妊治療薬として用いられている。
【0003】
ヒトFSHのαサブユニットとβサブユニットをコードする遺伝子はクローニングされており,このうちαサブユニットはヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)のαサブユニットと共通である(特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【0004】
ヒトFSHの2つのサブユニットをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターで形質転換させた哺乳動物細胞(CHO細胞等)を用いた,組換え体ヒトFSHの製造方法が開示されている(特許文献2を参照)。ここでは,ヒトFSHの2つのサブユニットをコードする遺伝子は,別々の発現ベクターに組込みまれ,同じCHO細胞に導入されている。そして,別々の発現ベクター発現させた2つのサブユニットは,細胞内でヘテロ2量体を構成し,活性を有するヒトFSHが得られる。但し,ここにはヒトFSHの精製方法について具体的な記載はない。
【0005】
組換え体ヒトFSHを精製する方法として,血清含有又は無血清培地を用いて培養した組換え体ヒトFSH産生細胞の培養上清から,青色色素,疎水性,及び逆相カラムクロマトグラフィーをこの順で用いる方法が開示されている(特許文献3を参照)。ここでは,上記のクラマトグラフィーに続けて,更に陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて組換え体ヒトFSHを精製する方法も開示されている。これら何れの本法においても,逆相カラムクロマトグラフィーからのFSHの溶出の際に2−プロパノールが使用されているが,2−プロパノールのような有機溶媒はタンパク質を変性させるおそれがあり,またこのような有機溶媒の使用は,環境面から好ましくなく,これを含む廃液の処理のための施設が必要となるため,工業的生産においては経済面からも好ましくない。
【0006】
また,組換え体ヒトFSHを精製する方法として,陰イオン交換,固定化金属イオン吸着,疎水性,及び逆相カラムクロマトグラフィーをこの順で用いる方法が開示されている(特許文献4)。本法でも,逆相カラムクロマトグラフィーからの組換え体ヒトFSHの溶出の際に2−プロパノールが使用されており,上記と同様の理由により,環境面からも経済面からも好ましい精製方法とはいえない。この他,尿由来のヒトFSHではあるものの,ヒトFSHを精製する方法として,抗ヒトFSH抗体アフィニティー,及び逆相カラムクロマトグラフィーを用いる方法が開示されている(特許文献5)。本法でも,逆相カラムクロマトグラフィーからのヒトFSHの溶出の際に2−プロパノールが使用されており,上記の方法と同様の問題を有する。
【0007】
一方,有機溶媒を使わない組換え体ヒトFSHを精製する方法として,色素,弱陰イオン交換,疎水性,強陰イオン交換及び疎水性カラムクロマトグラフィーをこの順で用いる方法が開示されている(特許文献6)。しかしながら同文献には,野生型のヒトFSHではなくこれに別のアミノ酸配列断片を挿入することにより構成した変異型タンパク質についてしか,実施例が開示されていない。
【0008】
また,従来からヒト尿からヒトFSHを精製する方法が知られているが(特許文献7),有機溶媒(エタノール)を使用する工程を含んでおり,前記したのと同様の問題がある。
【0009】
【特許文献1】特許第2008344号公報
【特許文献2】特許第2559196号公報
【特許文献3】WO2006/051070
【特許文献4】WO2005/063811
【特許文献5】特許第2523843号公報
【特許文献6】WO2007/065918
【特許文献7】特開第2001−323000号公報
【非特許文献1】Nature, 286: 684-687(1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の背景の下,本発明は,組換え体ヒトFSH産生細胞の培養液中から,組換え体ヒトFSHを,有機溶媒の使用を排した工程のみを用いて,そのまま医薬として使用できる高い純度にまで,高収率で精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは,無血清培地中で培養した組換え体ヒトFSH産生細胞の培養液の培養上清中に含まれる組換え体ヒトFSHを,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,色素アフィニティーカラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,及びゲルろ過カラムクロマトグラフィーの組み合わせにより精製することによって,極めて純度の高い組換え体ヒトFSHを,極めて高い効率で精製することができることを見出した。本発明は,これらの知見に基づき更に検討を加えて完成させたものである。
【0012】
すなわち,本発明は以下を提供する。
1.組換え体ヒトFSHの製造方法であって,
(a)組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞を無血清培地中で培養して組換え体ヒトFSHを培養液中に分泌させるステップと,
(b)該培養液から該細胞を除去することにより培養上清を調製するステップと,
(c)上記ステップ(b)で得た培養上清を,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップと,
(d)上記ステップ(c)で回収された該画分を,色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップと,
(e)上記ステップ(d)で回収された該画分を,疎水性カラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップと,
(f)上記ステップ(e)で回収された該画分を,ゲルろ過カラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップとを,
この順で含んでなるものである,製造方法。
2.陽イオン交換カラムクロマトグラフィーのイオン交換体が,弱陽イオン交換体である上記1.の製造方法。
3.該弱陽イオン交換体が,疎水性相互作用および水素結合に基づく選択性を併せ持つものである,上記2の製造方法。
4. 該弱陽イオン交換体が,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を備えたものである,上記項2又は3の製造方法。
5.該色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーの色素がブルートリアジン色素である上記1ないし4の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,血清を使用しない細胞培養で組換え体ヒトFSHを製造することができるため,血清の使用に由来するウイルスやプリオンによる汚染のおそれのない組換え体ヒトFSHを製造することができる。このため本発明により得られる組換え体ヒトFSHは,これらの汚染因子による感染のリスクを完全に排除した,安全な不妊治療薬としてヒトの体内に投与することができる。また,本発明によれば,組換え体ヒトFSHを,有機溶媒を使用することなく精製できるため,有機溶媒との接触による組換え体ヒトFSHの変性のおそれが除かれ,更には,精製工程において生じる廃液中に有機溶媒が含まれないため環境面において好ましく,また廃液中の有機溶媒を処理するための設備が不要となり,経済面においても好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において,「組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞」というときは,ヒトFSHの2つのサブユニット(αサブユニットとβサブユニット)をコードする遺伝子が発現又は強発現するように,人為的な操作を加えた哺乳動物細胞のことをいう。このとき強発現させる該遺伝子は,該遺伝子を組み込んだ発現ベクターで形質転換させることにより該哺乳動物細胞内に導入するのが一般的であるが,これに限らず,内在性の遺伝子を強発現できるように人為的に改変したものでもよい。内在性の遺伝子を強発現できるように人為的に改変する手段としては,内在性の遺伝子の上流に存在するプロモーターを,強力な遺伝子発現を誘導するプロモーターに置き換える方法が挙げられるが,これに限られない。また,該哺乳動物細胞について特に限定はないが,ヒト,マウス,ハムスター由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞が好ましい。
【0015】
本発明において,「組換え体ヒトFSH」というときは,上記の組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞を培養したときに,培地中に分泌されるヒトFSHのことをいう。
【0016】
本発明において,組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞の培養のための無血清培地としては,例えば:
アミノ酸・・・3〜700mg/L,
ビタミン類・・・0.001〜50mg/L,
単糖類・・・0.3〜10g/L,
無機塩・・・0.1〜10000mg/L,
微量元素・・・0.001〜0.1mg/L,
ヌクレオシド・・・0.1〜50mg/L,
脂肪酸・・・0.001〜10mg/L,
ビオチン・・・0.01〜1mg/L,
ヒドロコルチゾン・・・0.1〜20μg/L,
インシュリン・・・0.1〜20mg/L,
ビタミンB12・・・0.1〜10mg/L,
プトレッシン・・・0.01〜1mg/L,
ピルビン酸ナトリウム・・・10〜500mg/L,及び
水溶性鉄化合物を含有する培地が好適に用いられる。所望により,チミジン,ヒポキサンチン,慣用のpH指示薬および抗生物質を添加してもよい。
【0017】
また無血清培地として,DMEM/F12培地(DMEMとF12の混合培地)を基本培地として用いてもよく,これら各培地は当業者に周知である。更にまた無血清培地として,炭酸水素ナトリウム,L−グルタミン,D−グルコース,インスリン,ナトリウムセレナイト,ジアミノブタン,ヒドロコルチゾン,硫酸鉄(II),アスパラギン,アスパラギン酸,セリン及びポリビニルアルコールを含むものである,DMEM(HG)HAM改良型(R5)培地を使用してもよい。更には市販の無血清培地,例えば,CDoptiCHO,CHO-S-SFM IIまたはCD CHO(インビトロジェン社),IS CHO-VまたはIS CHO-V-GS(アーバイン社),EX-CELL302またはEX-CELL305(JRH社)等を基本培地として使用してもよい。
【0018】
組換え体ヒトFSH精製のための各クロマトグラフィーは,状況に応じて,タンパク質の非特異的吸着を防止するため,非イオン性界面活性剤の存在下で行うことができる。非イオン性界面活性剤としては,特に限定はないが,好ましくはポリソルベート系界面活性剤が,更に好ましくはポリソルベート80が用いられる。非イオン性界面活性剤の濃度は,好ましくは0.005%(w/v)〜0.015%(w/v),より好ましくは0.01%(w/v)である。
【0019】
ヒトFSH精製は,室温又は低温環境で行うことができるが,好ましくは低温環境で,特に1〜10℃で行われる。
【0020】
精製の第一クロマトグラフィー工程においては,塩を添加したリン酸緩衝液により平衡化させた陽イオン交換カラムに,組換え体ヒトFSHを結合させる。このときのリン酸緩衝液のpHは5〜6.5に調製しておくことが好ましく,5.5〜6.0付近に調製しておくことが更に好ましい。また,このときリン酸緩衝液に添加する塩としては,特に限定はないが,好ましくは塩化ナトリウムであり,その濃度は50〜250mMが好ましい。
【0021】
組換え体ヒトFSHを結合させた陽イオン交換カラムを洗浄した後,塩濃度を上昇させたリン酸緩衝液により組換え体ヒトFSHを溶出させる。このときのリン酸緩衝液のpHは5.5〜6.5に調製しておくことが好ましく,6.0付近に調製しておくことが更に好ましい。また,このときリン酸緩衝液に添加する塩としては,特に限定はないが,好ましくは塩化ナトリウムであり,その濃度は300〜900mMが好ましく,400〜800mMが更に好ましい。
【0022】
また,陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに用いるイオン交換体について特に限定はないが,弱陽イオン交換体が好ましく,疎水性相互作用および水素結合に基づく選択性を併せ持つ弱陽イオン交換体が更に好ましい。例えば,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を備え疎水性相互作用および水素結合に基づく選択性を併せ持つ弱陽イオン交換体として,CaptoMMC(GEヘルスケア社)等を使用することができる。
【0023】
精製の第二工程における,色素アフィニティークロマトグラフィーは,ヒトFSHが,特定の色素に対して強い親和性を示すことを利用して,夾雑物を除去するためのものである。ブルートリアジン色素が好適に利用されるが,その他のトリアジン色素も適当である。特に好ましいのは,色素CibacronTM Blue F3GAをSepharose 6 Fast Flowマトリックスに共有結合で固定した,Blue
Sepharose 6 FF, Fast Flow(GEヘルスケア社)である。
【0024】
色素アフィニティークロマトグラフィーカラムを中性付近,好ましくはpH7.8〜8.2に,緩衝液で平衡化し,これに第一工程の溶出画分を供する。その際,第一工程の溶出画分は,予め緩衝液で,pHを中性付近,好ましくはpH7.8〜8.2に調整する。溶出は塩濃度を上昇させることにより行うことができる。溶出に用いる塩としては,特に限定はないが,好ましくは塩化カリウムであり,その濃度は好ましくは1.8〜2.2mol/L,特に好ましくは約2mol/Lである。
【0025】
精製の第三工程における,疎水性クロマトグラフィーは,夾雑蛋白質等を除去するためのものである。疎水性クロマトグラフィー交換樹脂としては,特に限定はないが,Phenyl-Sepharoseが好適に利用できる。
【0026】
疎水性クロマトグラフィーに供されるヒトFSH含有画分は,塩濃度を調整しておく必要がある。このとき用いられる塩は,特に限定は無いが,好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウムである。その濃度は,塩化ナトリウムイオン濃度換算で,好ましくは2.5〜3.5mol/Lに,更に好ましくは,2.8〜3.2mol/Lである。カラムは,塩を添加した緩衝液でpHを中性付近,好ましくはpH7.8〜8.2に,更に好ましくは約8に調整しておく。このとき添加する塩としては,特に限定はないが,好ましくは塩化ナトリウムであり,その濃度は,好ましくは2〜3mol/L,更に好ましくは,2.3〜2.7mol/L,特に好ましくは約2.5mol/Lである。
【0027】
溶出は塩濃度を低下させることにより行うことができる。溶出に用いる塩としては,特に限定はないが,好ましくは塩化ナトリウムであり,その濃度は好ましくは1.2〜1.8mol/L,更に好ましくは約1.4〜1.6mol/Lである。
【0028】
精製の第四工程における,ゲルろ過カラムクロマトグラフィーは,エンドトトキシン等の低分子の不純物,ヒトFSHの多量体,分解物等を除去するためのものであり,これにより,実質的に純粋なヒトFSHが得られる。
【実施例】
【0029】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0030】
〔ヒトFSH発現用ベクターの構築〕
pEF/myc/nucベクター(インビトロジェン社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1αプロモーターおよびその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4
DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。pCI-neo(インビトロジェン社)を,BglIIおよびEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーターおよびイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNA ポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーターおよびその第一イントロンを含む領域を挿入して,pE-neoベクターを構築した(図1−1及び図1−2)。
【0031】
pE-neoベクターを,SfiIおよびBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1kbpの領域を切除した(図2−1)。pcDNA3.1/Hygro(+)(インビトロジェン社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi (5'-GAGGCCGCCTCGGCCTCTGA-3';配列番号1)およびプライマーHyg-BstX(5’-AACCATCGTGATGGGTGCTATTCCTTTGC-3’;配列番号2)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した(図2−2)。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiIおよびBstXIで消化し,上記のpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した(図2−3)。
【0032】
ヒト胎盤cDNAライブラリー(タカラバイオ)を鋳型にして,プライマーHCG-A-F(5'-ATCCTGCAAAAAGCCCAGAG-3';配列番号3)およびプライマーHCG-A-R
(5'-CTTGAAGCGTGTCAAAGTGG-3';配列番号4)を用いて一次PCR反応を行った。さらに得られたPCR産物を鋳型に,一次反応プラーマーHCG-A-Fよりやや3’側下流の位置の配列を持つプライマーHCGA-ORF-F(5'-GCGAATTCGCCACCATGGATTACTACAGAA-3';配列番号5),および一次反応プラーマーHCG-A-Rよりやや5’側上流の位置の配列を持つプライマーHCGA-ORF-R(5'-GCGAATTCTTAAGATTTGTGATAAT-3'配列番号6)を用いて二次PCR反応を行いヒトFSHα鎖のcDNAを増幅した。また,同様に,ヒト脳下垂体cDNAライブラリー(タカラバイオ)を鋳型にして,1次プラーマーFSH-F(5'-GACCACAGGTGAGTCTTGGC-3';配列番号7)およびFSH-R(5'-TGGTCCTTCAGGACAAGGGT-3';配列番号8)と2次プライマーFSH-F2(5'-GCGAATTCGCCACCATGAAGACACTCCAGT-3';配列番号9)及びFSH-R2(5'- TAAGAATGCGGCCGCCCACTGATCTTTATT-3';配列番号10)を用いて,PCR反応によりヒトFSHβ鎖のcDNAを増幅した。
【0033】
ヒトFSHα鎖の1次PCR反応は,ヒト胎盤cDNAライブラリー100ngを鋳型に,(95℃/10秒,55℃/10秒,72℃/10秒)を1サイクルとして40サイクルさせた。2次PCR反応は,1次PCR反応の反応液1μLを鋳型に,(95℃/10秒,60℃/10,72℃/10秒)を1サイクルとして30サイクル反応させた。また,ヒトFSHβ鎖の1次PCR反応は,ヒト脳下垂体cDNAライブラリー10ngを鋳型に,(98℃/2秒,60℃/10,72℃/10秒)を1サイクルとして40サイクル反応させた。2次PCR反応は,1次PCR反応の反応液1μLを鋳型に,(98℃/2秒,60℃/10,72℃/10秒)を1サイクルとして30サイクル反応させた。
【0034】
増幅させたヒトFSHα鎖cDNAを,EcoRIで切断した後,EcoRI で消化したpBluescriptIISK(-)(pBS: Stratagene社)のEcoRIサイトへ挿入した。得られたプラスミドDNAをXbaIとEcoRVで消化し,ヒトFSHα鎖cDNAを切り出し,これをXbaIとSmalで消化したpE-neoベクターに挿入し,ヒトFSHα鎖発現用ベクターpE-neo(hCGα)とした(図3)。
【0035】
増幅させたヒトFSHβ鎖cDNAを,EcoRIおよびNotIで切断した後,EcoRIとNotIで消化した
pBluescriptIISK(-)に挿入した。得られたプラスミドDNAを,EcoRIで消化し,T4
DNAポリメラーゼによる平滑末端化処理をした後に,NotIで消化し,ヒトFSHβ鎖cDNAを切り出した。pE-hygrベクターをXbaIで消化し,T4 DNAポリメラーゼによる平滑末端化処理をした後に,NotIで消化した。このpE-hygrベクターに,ヒトFSHβ鎖cDNAを挿入し,ヒトFSHβ鎖発現用ベクターpE-hygr(FSHβ)とした(図4)。
【0036】
〔ヒトFSH発現用組換え細胞の作成〕
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionより購入)に,Lipofectamine2000(lnvitrogen社)を用いて,前記発現用ベクターpE-neo(hCGα)および pE-hygr(FSHβ)を下記の方法でトランスフェクトした。すなわち,予めトランスフェクション前日にコンフルエントに近い細胞密度となるように3.5cm培養皿にCHO-K1細胞を播種し,一晩5%炭酸ガス通気下37℃で培養した。翌日,PBS(-)で2回洗浄した後,血清を含まないD-MEM/F12培地(インビトジェン社)1mLに交換した。Opti-MEM I培地(インビトロジェン社)で20倍に希釈したLipofectamine2000溶液とプラスミドDNA溶液(pE-neo(hCGα)13.2μg/mL /pE-hygr(FSHβ)6.6μg/mL)の等量混液を200μL添加し,37℃5時間トランスフェクションした。
【0037】
トランスフェクション後,5%FCS を含むD-MEM/F12(D-MEM/F12/5%FCS)培地に交換して5%炭酸ガス通気下37℃で2日間培養した。その後,0.6mg/ml G418および0.4mg/mlハイグロマイシンBを含むD-MEM/F12/5%FCS培地に交換して5%炭酸ガス通気下37℃で選択培養を行った。選択培地中で増殖する細胞を数代継代し,組換え体細胞を得た。
【0038】
次に,限界希釈法にて96穴プレートに1穴あたり1個以下の細胞が播種される条件で組換え体細胞を播種し,10日間ほど培養し,単一コロニーを形成させた。単一コロニーを形成した穴の培養上清を採取しELISAにてFSH発現量を調べ,ヒトFSHの高発現株を選択した。
【0039】
選択した細胞株を,無血清浮遊細胞へ馴化させるため,L−グルタミンを4mM,ヒポキサンチンを10mg/L,チミジンを4mg/L,G418を120mg/L,ハイグロマイシンBを80mg/L添加した市販の無血清培地EX-CELL302培地(JRH社)で細胞の増殖が安定するまで維代培養を行った。更に,培地をIS CHO-V-GS培地に切り換えて,細胞の増殖速度が安定するまで培養を継続し,これを10%DMSOを添加したIS CHO-V-GS 培地に懸濁させて液体窒素中に保存し,種細胞とした。
【0040】
〔ヒトFSH発現用組換え細胞の培養〕
前記種細胞を融解し,2×10個/mLの濃度に希釈して,まずIS CHO-V-GS培地で3日間培養した。次いで,IS CHO-V-GS培地と,L−グルタミンを8mM,ヒポキサンチンを10mg/L,チミジンを4mg/L,G418を0.12mg/mL及びハイグロマイシンBを80mg/L添加したCDoptiCHO(CD)培地(インビトロジェン社)を1:1の比率で混合した培地で細胞濃度を2×10個/mLに希釈して4日間,更にCD培地で細胞濃度を2×10個/mLに希釈し4日間,37℃で5%C0存在の下に静置培養し,拡大培養を行った。
【0041】
細胞数を計測し,細胞濃度が5×10個/mLとなるようにCD培地で希釈し,5Lの細胞液を,培養器に移して3日間振とう培養した。更に,培養器に新鮮なCD培地20Lを添加して,3日間振とう培養した。このときの培養条件は,攪拌速度60rpm,pH7.2,溶存酸素70%,温度37℃,上面通気(空気)500mL/分,液内通気(C0)50mL/分,液内通気(0)50mL/分とした。
【0042】
次に,上記の培養器の細胞培養液を2×10個/mLとなるようにG418及びハイグロマイシンBを含まないCD培地で希釈し,このうち250Lの細胞液を,250L容培養器に移して7日間振とう培養した。このときの培養条件は,攪拌速度120rpm,pH7.2,溶存酸素70%,温度37℃,上面通気(空気)10L/分,液内通気(空気)250mL/分,液内通気(C0)2500mL/分,液内通気(0)2500mL/分とした。培養中は毎日サンプリングを行い,細胞数,生存率,グルコース濃度,乳酸濃度,ヒトFSHの発現量を測定した。
【0043】
上記細胞の培養は3回繰り返し行った(ロット番号1〜3)。いずれの場合も,生細胞密度は,培養6〜7日目にかけて,ほぼ1×10個/mL以上にまで達し,高密度な細胞培養が実現できたことがわかった(図5)。細胞から培地中に分泌されたヒトFSHの濃度をELISA法により測定したところ,その濃度は,細胞増殖曲線にやや時間的遅れを示しながら上昇し,培養7日目には,おおよそ8〜10mg/Lに達した(図6)。
【0044】
細胞培養液を回収し,ゼータプラスTMフィルターカートリッジ90MZ03M(3M社)を用いて細胞を除去し,更に0.22μmフィルターでろ過して,培養上清を得た。
【0045】
〔ヒトFSHの精製方法〕
回収した培養上清に,6NHClを添加して,培養上清のpHを5.5に調整し,沈殿物をフィルターろ過して除去した。この培養上清を,カラム体積の4倍量の50mMリン酸ナトリウム/100mM NaCl(pH5.5)溶液で平衡化した,疎水性相互作用および水素結合に基づく選択性を併せ持つ陽イオン交換カラムであるCaptoMMCカラム(カラム体積;約10L,ベット高:約20cm)に,150cm/時の線流速で負荷し,吸着させた。引き続き同流速で,カラム体積の4倍量の50mMリン酸ナトリウム/100mM NaCl(pH5.5)溶液でカラムを洗浄した後,カラム体積の5倍量の50mMリン酸ナトリウム/400mM NaCl(pH6.0)溶液で吸着蛋白質を溶出した。
【0046】
次いで,ウイルス不活化工程として,上記のCaptoMMCカラム溶出画分に,最終濃度が各々0.3%(v/v)および1%(w/v)となるようにトリ−n−ブチルリン酸(TNBP)および Tween80を添加して,室温で6時間静置した。
【0047】
上記のウイルス不活化処理をしたCaptoMMCカラム溶出画分に,体積%で約40 %量の250mM Tris-HCl(pH8.5)を加え,導電率を約2.6S/mに調製した。この溶液を,カラム体積4倍量の50mMTris-HCl/300 mM
NaCl(pH8.0)溶液で平衡化した色素カラムであるBlue
sepharose 6FFカラム(カラム体積:約6L,ベット高:約20cm)に,60cm/時の線流速で負荷し,吸着させた。引き続き同流速で,カラム体積4倍量の50mM Tris-HCl/500mM
KCl(pH8.0)溶液でカラムを洗浄した後,カラム体積5倍量の50 mM
Tris-HCl/2M KCl/0.01%(w/v) Tween80(pH8.0)溶液で吸着蛋白質を溶出した。
【0048】
次いで,上記Blue sepharose 6FFカラム溶出画分に,4M NaCl溶液を等量添加し塩濃度を調製した。この溶液を,カラム体積4倍量の50mM Tris-HCl/2M
NaCl(pH8.0)溶液で平衡化したPhenyl sepharose HPカラム(カラム体積:約6L,ベット高:約20cm)に,60cm/時の線流速で負荷し,吸着させた。引き続き同流速で,カラム体積4倍量の50mM Tris-HCl,2.5M NaCl(pH8.0)溶液でカラムを洗浄した後,カラム体積5倍量の50mM Tris-HCl,1.6 M NaCl(pH8.0)溶液で吸着蛋白質を溶出した。
【0049】
次いで,上記Phenyl sepharose HPカラム溶出画分を,バイオマックス5膜(5kDaカットオフ,ミリポア社)で順次濃縮した。この濃縮液を,20mMリン酸ナトリウム/133mM NaCl/0.01%(w/v) Tween80(pH7.4)溶液で平衡化したSuperdex peptide 75pg(カラム体積:約4.8L,ベット高:約60cm)に,14.9cm/時の線流速で負荷し,280nmの吸光度ピーク(図7)を,精製ヒトFSHとして分離,回収した。
【0050】
各精製ステップにおけるヒトFSHの回収率を,表1に示した。ここで,工程FSH回収率とは,各々の工程において,負荷したヒトFSH量に対する,回収したヒトFSH量の比率のことをいい,通算FSH回収率とは,精製工程に供したスタート時点におけるヒトFSH量に対する,各行程において回収したヒトFSH量の比率のことをいう。
【0051】
精製第一工程である陽イオンカラムクラマトグラフィーに供したヒトFSHの量は2256.1mgであったが,最終的に1043.5mgのヒトFSHを回収することができ,回収率は43.9%に達した。このことから,上記の精製方法により,高収率で大量の組換えヒトFSHが精製できることがわかった。
【0052】
【表1】

【0053】
〔精製ヒトFSHの分析〕
上記精製ヒトFSHを非還元・非加熱条件でSDS-PAGE電気泳動をした。ゲルをクマジー染色した結果,分子量約45kDaに単一バンドのみが認められた(図8)。このバンドは抗ヒトFSH抗体を用いたウェスタンブロッティングで染色され,ヒトFSHのものであった(データは示さず)。
【0054】
また,上記精製ヒトFSHを,RP−HPLC分析したところ,α鎖に由来するピーク3,β鎖に由来するピーク1以外に,面積比約1%のピーク2を認めるものの,高純度に精製されたヒトFSHであることがわかった(図9)。なお,ピーク2は,N末端アミノ酸配列解析とアミノ酸組成分析から,α鎖に由来するペプチド鎖であることがわかった。
【0055】
また,上記精製ヒトFSHを,等電点電気泳動で分析したところ,pI
3.5〜5.5の間に複数のバンドを認めた(図10)。これは,既報の組換えFSHの等電点電気泳動パターンと同様であった(Loumaye E., Human Reprod. Update 4: 862-881,1998)。
【0056】
ラット卵巣重量増加法により,上記精製ヒトFSHの比活性を測定したところ,14,000〜18,000IU/mgであった。この値は,既に日本国内で医薬品として販売されている組換えヒトFSH製剤の比活性と同等かそれ以上であった(de Leeuw R., Mol. Hum. Reprod. 2: 361-369, 1996)。
【0057】
〔ELISA法によるヒトFSHの定量〕
EIA用96ウェルマイクロタイタープレート(ヌンク社)の各ウェルに,0.05M NaHCO溶液で1μg/mLに希釈した抗ヒトFSHαサブユニット抗体(Leinco Technologies社)100μLを添加し室温で2時間以上静置して吸着させた。次いで,各ウェルを,0.05% Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄したのち,各ウェルに,0.5%BSA及び0.05%Tween20を含むPBS(PBS-BT)で適度に希釈した検体またはヒトFSHスタンダード(シグマ社)を,100μL添加して室温で2時間以上静置した。次いで,各ウェルを,PBS-Tで3回洗浄したのち,各ウェルに,PBS-BTで1000倍希釈したPO標識抗ヒトFSHβ鎖抗体(Leinco Technologies社)を100μL添加して室温で2時間以上静置した。次いで,各ウェルを,PBS-Tで3回洗浄したのち,各ウェルに,基質溶液を100μLずつ添加し,室温で酵素反応を行った。上記基質溶液として,0.025Mクエン酸と0.05M NaHPOを混合してpH5.0に調整した緩衝液に,オルトフェニレンジアミン(OPD)を0.4mg/mLおよびH2O2を0.008%含むように添加したものを用いた。次いで,各ウェルに,2N HSOを100μLずつ添加して反応を停止させた後,各ウェルの492nmにおける吸光度を,96ウェル用プレートリーダーで測定した。
【0058】
〔RP−HPLC法によるヒトFSHの分析〕
高速液体クロマトグラフィーはLC-20ASystem,SPD-20AV UV/VIS Detector(島津製作所)を用いて実施した。TSKgel Octadecyl-4PW(4.6mm径X150mm長,東ソー社)を,0.1%トリフルオロ酢酸を含む4%アセトニトリル溶液で平衡化した。これにサンプルを負荷し,アセトニトリル濃度を直線的に4%から18%に上昇させて溶出した。検出は214nmの吸光度を測定した。
【0059】
〔ラット卵巣重量増加法によるヒトFSHの活性測定〕
ヒトFSHの活性測定はラット卵巣重量増加法で行った(Steelman S., Endocrinology 53(6): 604-616, 1953)。体重約45〜65gの雌性SDラット(日本チャールスリバー)を,入荷後3日間飼育して馴化させた。ラットに,試料希釈液を用いて0.2mLに希釈した被験試料又はヒトFSHスタンダードを,1日目の午後,2日目の午前,正午,午後,3日目の午前および午後の計6回皮下投与した。5日目に,ラットの卵巣を摘出し,重量を測定した。ヒトFSHスタンダードには,「First international standard for Follicule Stimulating Hormone,(FSH)
Recombinant,Human for Bioassay ; NIBSC code 92/642 ; WHO 」を用いた。また,試料希釈液は,hCG製剤(10000IU,日本薬局方)3アンプルに,1アンプルにつき添付溶解液2mLを加えて溶解し(5000IU/mL),得られた溶液4.0mLとウシ血清アルブミン3.0gを,適量のリン酸塩緩衝液(pH7.1)に加えて溶解した後,上記緩衝液で全量250mLに調整,これを,0.22μmメンブレンフィルターでろ過して調製した。1群5匹のラットに,希釈倍率を変えた4種類の被験試料を投与し力価の推定を行った後,本試験を行った。本試験は,卵巣質量が95〜105mgになると推定される希釈倍率のものを高濃度群,高濃度群の1.5〜2倍の希釈倍率のものを低濃度群とし,1群10匹で,2−2用量検定法により,ヒトFSHの活性を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の組換え体ヒトFSHの製造方法は,無血清培地を用いて組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞を培養することにより,ウイルスの混入を防止することができ,また,発現させた組換え体ヒトFSHを,そのまま医薬として使用できる高純度にまで高収率で精製することができることから,組換え体ヒトFSHの製造方法の製造方法として高い有用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1−1】pE-neoベクターの構築方法の流れ図を示す。
【図1−2】pE-neoベクターの構築方法の流れ図を示す。
【図2−1】pE-hygrベクターの構築方法の流れ図を示す。
【図2−2】pE-hygrベクターの構築方法の流れ図を示す。
【図2−3】pE-hygrベクターの構築方法の流れ図を示す。
【図3】ヒトFSHα鎖発現用ベクターpE-neo(hCGα)の構造図を示す。
【図4】ヒトFSHβ鎖発現用ベクターpE-hygr(FSHβ)の構造図を示す。
【図5】無血清培養時における,ヒトFSH発現用組換え細胞の生細胞密度を示す。
【図6】無血清培養時における ,培地中のヒトFSHの濃度を示す。
【図7】ゲルろ過カラムグラフィーにおける,280nm吸光度のパターンを示す。
【図8】精製したヒトFSHの,非還元,非加熱条件でのSDS-PAGEゲル電気泳動のパターンを示す。各レーンに約5μgのヒトFSHをアプライした。レーン1−3にはそれぞれ,ロット番号1〜3の最終精製物をアプライした。
【図9】精製したヒトFSH(ロット番号1)の,RP-HPLCのチャートを示す。
【図10】精製したヒトFSHの等電点電気泳動のパターンを示す。各レーンに約10μgのヒトFSHをアプライした。レーン1−3にはそれぞれ,ロット番号1〜3の最終精製物をアプライした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬として使用できる組換え体ヒトFSHの製造方法であって,
(a)ヒトFSHα鎖cDNAをEF−1αプロモーター及びその第1イントロンの下流に組み込んでなる発現ベクターと,ヒトFSHβ鎖cDNAをEF−1αプロモーター及びその第1イントロンの下流に組み込んでなる発現ベクターをそれぞれ構築するステップと,
(b)それらの発現ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクトして組換え体ヒトFSH産生哺乳動物細胞を作成するステップと,
(c)該細胞を無血清培地中で培養して組換え体ヒトFSHを培養液中に分泌させるステップと,
(d)該培養液から該細胞を除去することにより培養上清を調製するステップと,
(e)上記ステップ(d)で得た培養上清を,50〜250mMの塩を含むpH5〜6.5に調整した緩衝液により平衡化した陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSHを該カラムに結合させ,次いで300〜900mMの塩を含むpH5〜6.5に調整した緩衝液により組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップと,
(f)上記ステップ(e)で回収された該画分を,pH7.8〜8.2の緩衝液により平衡化した色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSHを該カラムに吸着させ,次いで1.8〜2.2Mの塩を含むpH7.8〜8.2の緩衝液により組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップと,
(g)上記ステップ(f)で回収された該画分を,2.3〜2.7Mの塩を含むpH7.8〜8.2に調整した緩衝液により平衡化したフェニルセファロースカラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSHを該カラムに吸着させ,次いで1.2〜1.8Mの塩を含むpH7.8〜8.2に調整した緩衝液により組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップと,
(h)上記ステップ(g)で回収された該画分を,ゲルろ過カラムクロマトグラフィーに付して組換え体ヒトFSH活性画分を回収するステップとを,
この順で含んでなるものである製造方法であり,
且つ該製造方法により得られる組換え体ヒトFSHが,そのまま医薬として使用できる純度を有し,比活性が14000〜18000IU/mgであるものである製造方法。
【請求項2】
陽イオン交換カラムクロマトグラフィーのイオン交換体が,弱陽イオン交換体である請求項1の製造方法。
【請求項3】
該弱陽イオン交換体が,疎水性相互作用および水素結合に基づく選択性を併せ持つものである,請求項2の製造方法。
【請求項4】
該弱陽イオン交換体が,フェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を備えたものである,請求項2又は3の製造方法。
【請求項5】
該色素アフィニティーカラムクロマトグラフィーの色素がブルートリアジン色素である請求項1ないし4の何れかの製造方法。
【請求項6】
該そのまま医薬として使用できる純度が,該組換え体ヒトFSHをRP−HPLC分析したときα鎖のピーク及びβ鎖のピーク以外のピークが面積比で約1%にとどまるものである,請求項1ないし5の何れかの製造方法。
【請求項7】
該比活性が,ラット卵巣重量増加法により測定されたものである,請求項1ないし6の何れかの製造方法。


【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−172602(P2011−172602A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133752(P2011−133752)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2008−129254(P2008−129254)の分割
【原出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000228545)日本ケミカルリサーチ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】