説明

組換え蛋白質

【課題】コイヘルペスウィルス(以下、「KHV」という)感染に対する阻害活性を示す抗体を調製するための組換え蛋白質を提供する。
【解決手段】下記の性質を示すことを特徴とする組換え蛋白質。1).組換え蛋白質3種はSDS−PAGE電気泳動によって39.8、34.1、27.2kDaの分子量を示す。2).それぞれ特定のN末端アミノ酸配列を有する。3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組換え蛋白質に関し、特にコイヘルペスウィルス(以下、「KHV」という)感染に対する阻害活性を示す抗体を調製するための組換え蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
コイヘルペスウィルス(以下、単に「KHV」ともいう)は鯉のえら、腎臓、脾臓、腸管および肝臓など広範にわたって感染し、KHVに感染した鯉には緩慢行動、平衡感覚失調、摂餌不良となり、外観的にはえらの退色、びらん、巣状壊死などが見られ、感染した鯉の多くが死亡に至る。
【0003】
これに対し、KHVを単離し、魚細胞培養物に再播種し、その操作を繰り返して弱毒化した生ウィルスを得るか、又あるいはKHVのゲノムに変異を導入することによって弱毒化し又は不活化した生ウィルスを得て、これらの生ウィルスと免疫活性剤など水中に投入して鯉にKHV免疫性を与えるようにした方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−512078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の方法では繰り返し操作などが煩雑であり、弱毒化又は不活化したウィルスを大量に調製することが難しい。
【0006】
また、錦鯉の養殖場では、鯉の生死に関わらず、KHVを保有している個体が1尾でも存在すれば、全て殺処分しなければならないが、特許文献1記載の方法では宿主(鯉)にKHVの感染に対して抵抗性を付与するだけであって、ウィルス感染の阻止、保菌魚の発生阻止について保障するものではない。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み、KHV感染に対する阻害活性を示す抗体を簡単に調製することのできるようにした組換え蛋白質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る組換え蛋白質は、下記の性質を示すことを特徴とする。
1).組換え蛋白質はSDS−PAGE電気泳動によって39.8kDaの分子量を示す。
2).配列番号1を示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【0009】
1).組換え蛋白質はSDS−PAGE電気泳動によって34.1kDaの分子量を示す。
2).配列番号3に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【0010】
1).組換え蛋白質はSDS−PAGE電気泳動によって27.2kDaの分子量を示す。
2).配列番号5に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
〔DNAの抽出〕
ウィルス培養液からKHVゲノムを抽出する。核酸抽出は次のように行った。KHV(2003年霞ヶ浦分離株)を錦鯉由来培養細胞であるKF−1細胞に接種し、十分に細胞変性効果が発現した段階で培養液を回収する。このウィルス培養液からQIAamp(登録商標)DNA Blood Midi/Maxi(QIAGEN社製)によりウイルスゲノムを抽出する。
【0013】
〔PCRによる増幅〕
抽出した2本鎖DNAをテンプレートとし、ORF99(predict membrance glycoprotein)、の一部の領域を増幅する。94°Cで1本鎖DNAに変性(denature)させ、55°Cでプライマーを結合させ、72°Cで耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖を合成させ、これらの操作を繰返してウィルス粒子表面の感染に関係する糖蛋白に調製するDNAの領域を増幅した。これらの領域はGCrichであるため、増幅効率を高めるために、TaKaRaLAtaq(登録商標)およびTaKaRaLAtaq with GC Bufferを使用して反応を行う。
【0014】
プライマーには、
99−5:(塩基配列:ggcttcaagcagctcaccaaca)
99−3:(塩基配列:gaaagtccacgatgccgctgaa)
を用いた。
【0015】
PCR産物は配列番号2に示す塩基配列を有していた。
【0016】
このPCR産物の同定は次のように行った。
PCR産物はQIAquick PCR Purification Kit (QIAGEN社製)を用いて精製し、BigDye(登録商標)Terminator v3.1Cycle Sequencing Kit (Applid Biosystems社)を用いてシークエンス反応を行い、ABI PRISM(登録商標)3100 Genetic Analyzer(Applid Biosystems社)にて塩基配列を決定した。
【0017】
〔発現ベクター構築〕
こうしてPCR産物が得られると、これをプラスミドベクターに組み込み、発現ベクターを構築した。プラスミドにはpQE−30 UA Vector(QIAGEN社製)を使用した。
【0018】
〔トランスフェクション〕
次に、大腸菌に発現ベクターを導入し、組換え蛋白質の産出を確認する。確認はウエスタンブロット法にて次のように行った。コンピテントM15〔pREP4〕細胞とライゲーション反応液とを混合し、加熱処理後、カナマイシンおよびアンピシリンを含むLB寒天プレートにプレーティングした。その後、コロニーを回収し、コロニーPCRによって目的のプラスミドを持つクローンを選抜した。コロニーPCRにはマルチクローニングサイトを挟む領域に設計したプライマー(pQE Sequencing−Primer Set.QIAGEN社製)ならびに前述のプライマーを用い、オリエンテーションの確認も同時に行った。また、目的とするDNAが正確にプラスミドに挿入されているかどうかを確認するため、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いて大腸菌よりプラスミドを抽出し、PCR産物の同定と同様の方法によって塩基配列の特定を行った。
【0019】
〔培養〕
得られた大腸菌をカナマイシン、アンピシリンを含むLB培地に植菌し、さらにIPTG(Isoproy1−β−D(−)−thiogalactopyranoside)を添加して発現を誘導した。培養後菌体を回収し、細胞溶解液を用いて菌体を破壊し、組換え蛋白質を精製した。精製は次のように行った。細菌ライセートから平衡化したNi−NAT樹脂カラムを用いて6×Hisタグタンパクを精製、溶出し、抗6×Hisタグ抗体を用いたウェスタンブロットにより組換え蛋白質の産生確認を行った。
【0020】
〔組換え蛋白質〕
得られた組換え蛋白質は次のような性質を有していた。
1).組換え蛋白質はSDS−PAGE電気泳動によって39.8kDaの分子量を示す。
2).配列番号1に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【0021】
この組換え蛋白質の同定は次のように行った。
得られた組換え蛋白質は、プロテインシーケンサーPPSQ−21A(島津製作所)を用いてN末端アミノ酸配列を推定した。
【0022】
〔スクリーニング〕
得られた組換え蛋白質がウィルス感染にかかわっているかどうかは抗体を使ったウィルス中和試験によって確認した。上述の方法によって得られた組換え蛋白質を鶏(宿主動物)に注射し、組換え蛋白質に対する抗体を作らせる。次に、鶏から血液を採取し、血清を分離し、ウィルスと抗体を反応させ、感染阻害を起こるかどうかを観察した。
【0023】
鶏への免疫は以下のようにして行った。得られた組換え蛋白質は透析後、産卵鶏(ごとうもみじ)の胸筋内にタンパク量として100μgずつ接種した。なお初回免疫時にはフロイント完全アジュバントとのエマルジョンを用い、追加接種時にはフロイント不完全アジュバントを使用した。追加接種は2週おきに2回実施し、最終免疫の翌日に採血を行った。
ウィルス中和試験は以下のように実施した。熱非働化(56°C30分)した鶏血清を2倍ずつ段階希釈し、これと100TCID50の攻撃ウィルスとを20°Cで1時間反応させた後に、錦鯉由来の培養細胞であるKF−1細胞にその混合液を接種し、2週間培養して細胞変性効果の有無を記録した。抗ORF99鶏血清のKHVに対する中和力価は1:320で、組換え蛋白質に抗KHV中和活性が認められた。なお、非免疫の鶏血清の中和力価は検出限界以下(1:40以下)であった。
【実施例2】
【0024】
〔DNAの抽出・PCRによる増幅〕
ウィルス培養液からKHVゲノムを抽出し、抽出した2本鎖DNAをテンプレートとし、ORF25(predict membrance glycoprotein)、の一部の領域を増幅した。
プライマーには、
25−5:(塩基配列:aagaactgctgcctcgtctacga)
25−3:(塩基配列:acgactcccagatgttcttgacctc)

を用いた。
PCR産物は配列番号4に示す塩基配列を有していた。
【0025】
その後、実施例1と同様にして発現ベクター構築、トランスフェクション及び培養を行った。
得られた組換え蛋白質は次のような性質を有していた。
1).組換え蛋白質はSDS−PAGEAGE電気泳動によって34.1kDaの分子量を示す。
2).配列番号3に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【0026】
その後、スクリーニングを行い、感染阻害を起こすかどうかを観察した。抗ORF25鶏血清は1:640で、組換え蛋白質に抗KHV中和活性が認められた。非免疫の鶏血清の中和力価は検出限界以下(1:40以下)であった。
【実施例3】
【0027】
〔DNAの抽出・PCRによる増幅〕
ウィルス培養液からKHVゲノムを抽出し、抽出した2本鎖DNAをテンプレートとし、ORF146(predict membrance glycoprotein)、の一部の領域を増幅した。
プライマーには、
146−5:(塩基配列:ggtgaaaggatagagggagaggagtc)
146−3:(塩基配列:cgaagttccacagcgtctcgttct)

を用いた。
PCR産物は配列番号6に示す塩基配列を有していた。
【0028】
その後、実施例1と同様にして発現ベクター構築、トランスフェクション及び培養を行った。
得られた組換え蛋白質は次のような性質を有していた。
1).組換え蛋白質はSDS−PAGE電気泳動によって27.2kDaの分子量を示す。
2).配列番号5に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【0029】
その後、スクリーニングを行い、感染阻害を起こるかどうかを観察した。抗ORF146鶏血清は1:320で、組換え蛋白質に抗KHV中和活性が認められた。非免疫の鶏血清の中和力価は検出限界以下(1:40以下)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の性質を示すことを特徴とする組換え蛋白質。
1).SDS-PAGE電気泳動によって39.8kDaの分子量を示す。
2).配列番号1に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【請求項2】
下記の性質を示すことを特徴とする組換え蛋白質。
1).SDS-PAGE電気泳動によって34.1kDaの分子量を示す。
2).配列番号3に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。
【請求項3】
下記の性質を示すことを特徴とする組換え蛋白質。
1).SDS-PAGE電気泳動によって27.2kDaの分子量を示す。
2).配列番号5に示すN末端アミノ酸配列を有する。
3).組換え蛋白質の宿主動物への投与によってコイヘルペスウィルスに対する感染阻害活性を有する抗体を調製する。

【公開番号】特開2010−202645(P2010−202645A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22247(P2010−22247)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(595111228)株式会社キョーリン (5)
【Fターム(参考)】