説明

組立ロボット

【課題】サーボゲインを犠牲にすることなく、探り動作の際に、ワークの位置制御を行う。
【解決手段】制御部18は、第1ワーク16をハンド8に把持させて嵌合作業を行う際に、第1ワーク16を嵌合方向に付勢して第1ワーク16の突起部41を第2ワーク17に接触させる。制御部18は、この状態で、第1ワーク16を嵌合方向と直交する探り方向に移動させて第1ワーク16の突起部41が第2ワーク17の嵌合穴42に嵌合する位置を探る探り動作を実行するようリンク駆動部30を制御する。制御部18は、探り動作の実行時に、リンク駆動部30を制御して、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向の剛性を、第1ワーク16が第2ワーク17から受ける反力に追従して嵌合方向と反対方向に移動する第1剛性に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節のロボットアームを備え、ロボットアームの剛性制御を行いながら二つのワークを嵌合させる組立ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組立ロボットとして、多関節のロボットアームと、ロボットアームの先端に設けられたハンドとを備えたものが知られている。この組立ロボットを用いて二つのワークの嵌合作業を行う場合、一般に、組立ロボットに把持されるワークと固定側のワークとの間には位置誤差及び姿勢誤差があり、これが作業に支障を与える。この問題を解決するために、ロボットアームとハンドとの間に、あたかもバネやダンパがあるかのように剛性制御を行いながら、嵌合作業をする方法が良く用いられる。
【0003】
一般には、力センサで、力、トルク等を検出し、そのフィードバックにより剛性制御を行う。この場合、高価で高精度な力センサが必要となる、或いは、外力を検出してのフィードバックなので迅速性に欠ける、等の問題がある。そこで、力センサ無しでの剛性制御を行う方法が考案されている。
【0004】
例えば、予め、組立ロボットのハンドの動作が嵌合方向となるように、計算・設定しておき、各軸のサーボゲインを小さくして、その状態で位置制御するコンプライアンス動作を実行する(特許文献1参照)。これにより、位置剛性が緩和されているので、組立ロボットのハンドが把持しているワークが固定側のワークに接触し、把持しているワークに外力が働いた場合、所定方向への逃げ追従動作が可能となる。そして、逃げ追従動作によりワーク間の位置誤差が漸次減少して、嵌合作業が終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2682977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来例のような、コンプライアンス動作を行う組立ロボットでは、サーボゲインを低下させるので、サーボ応答が遅くなるという問題があった。また、ワークが小さく、ワーク同士が嵌合する嵌合位置を探る探り動作(嵌合方向に直交する探り方向への動作)が必要な場合もある。このような場合、サーボゲインを低下させて探り動作を行うと、探り方向と剛性緩和方向が同じとなり、ワークの位置制御が迅速に行えないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、サーボゲインを犠牲にすることなく、探り動作の際に、ワークの位置制御を行う組立ロボットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1ワークの突起部を第2ワークの嵌合穴に嵌合させる嵌合作業を行う組立ロボットにおいて、関節で旋回可能に連結された複数のリンクを有するロボットアームと、前記ロボットアームの先端に設けられたハンドと、前記ロボットアームの各リンクを旋回駆動するリンク駆動部と、前記第1ワーク及び前記第2ワークのうちいずれか一方のワークを前記ハンドに把持させて前記嵌合作業を行う際に、前記一方のワークを嵌合方向に付勢して前記第1ワークの突起部を前記第2ワークに接触させた状態で、前記一方のワークを前記嵌合方向と直交する探り方向に移動させて前記第1ワークの突起部が前記第2ワークの嵌合穴に嵌合する位置を探る探り動作を実行するよう前記リンク駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記探り動作の実行時に、前記リンク駆動部を制御して、前記ロボットアームの先端における前記嵌合方向の剛性を、前記一方のワークが他方のワークから受ける反力に追従して前記嵌合方向と反対方向に移動する第1剛性に調整すると共に、前記ロボットアームの先端における前記探り方向の剛性を、前記一方のワークが前記他方のワークから受ける反力に抗して前記探り方向の位置を保持する第2剛性に調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、探り動作時に、ロボットアームの先端における嵌合方向の剛性は緩和され、探り方向の剛性は強化されることになるので、探り動作を迅速に行うことが可能となり、嵌合作業をスピードアップすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る組立ロボットの概略構成を示す説明図である。
【図2】組立ロボットの嵌合作業の動作を説明するためのフローチャートである
【図3】探り動作及び嵌合動作を説明するための図である。
【図4】図1のロボットアームをモデル化した図である。
【図5】アクチュエータの粘弾性モデルを示す図である。
【図6】楕円比α/βに対する相対的発生力を示すグラフである。
【図7】アクチュエータの別モデルを示す図である
【図8】図4のモデルでの各アクチュエータの駆動源の発生力指令値を決定するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る組立ロボットの概略構成を示す説明図である。図1に示す組立ロボット100は、基台1と、ロボットアーム20と、ハンド8と、リンク駆動部30と、ハンド駆動部15と、制御部18と、を備えている。
【0012】
ロボットアーム20は、基台1に固定される固定部としての固定リンク2と、複数(本実施形態では、2つ)のリンク3,4とを有し、これらリンク3,4が関節5,6で旋回可能に連結されてなる。
【0013】
具体的に説明すると、固定リンク2の基端2aが基台1に固定される。ロボットアーム20は、複数のリンクとして、基端3aが第1関節5で固定リンク2の先端2bに連結された第1リンク3と、基端4aが第2関節6で第1リンク3の先端3bに連結された第2リンク4とを有する。
【0014】
ハンド8は、ロボットアーム20の先端20b、具体的には、第2リンク4の先端4bに旋回可能に設けられている。つまり、ハンド8は、第3関節7で第2リンク4に旋回可能に連結されている。
【0015】
リンク駆動部30は、各リンク3,4を旋回駆動するものである。リンク駆動部30は、第1関節5を挟んで配置された一対の第1拮抗アクチュエータ9,10と、第2関節6を挟んで配置された一対の第2拮抗アクチュエータ11,12と、を有する。更に、リンク駆動部30は、第1関節5及び第2関節6を挟んで配置された一対の第3拮抗アクチュエータ13,14を有する。
【0016】
各第1拮抗アクチュエータ9,10の一端は、固定リンク2に接続され、他端は、第1リンク3に接続されている。また、各第2拮抗アクチュエータ11,12の一端は、第1リンク3に接続され、他端は、第2リンク4に接続されている。また、各第3拮抗アクチュエータ13,14の一端は、固定リンク2に接続され、他端は、第2リンク4に接続されている。
【0017】
つまり、第1拮抗アクチュエータ9,10は、固定リンク2に対して第1リンク3を旋回駆動する第1の一関節駆動アクチュエータである。第2拮抗アクチュエータ11,12は、第1リンク3に対して第2リンク4を旋回駆動する第2の一関節駆動アクチュエータである。また、第3拮抗アクチュエータ13,14は、固定リンク2に対して第1リンク3を、第1リンク3に対して第2リンク4を同時に旋回駆動する二関節同時駆動アクチュエータである。本実施形態では、各アクチュエータ9〜14は、McKibben型空気圧アクチュエータ(所謂、人工筋肉アクチュエータ)であり、収縮することで引っ張り力(収縮力)が発生し、弛緩することで、引っ張り力が緩和される。
【0018】
つまり、第1拮抗アクチュエータ9,10の駆動力の差、即ち引っ張り力の差により第1リンク3が固定リンク2に対して相対的に旋回駆動される。また、第2拮抗アクチュエータ11,12の駆動力の差、即ち引っ張り力の差により第2リンク4が第1リンク3に対して相対的に旋回駆動される。また、第3拮抗アクチュエータ13,14の駆動力の差、即ち引っ張り力の差により、第1リンク3及び第2リンク4が同時に旋回駆動される。即ち第1リンク3が固定リンク2に対して相対的に旋回駆動されると共に、第2リンク4が第1リンク3に対して相対的に旋回駆動される。
【0019】
また、第1拮抗アクチュエータ9,10の駆動力の和、即ち引っ張り力の和により固定リンク2に対する第1リンク3の剛性が設定される。また、第2拮抗アクチュエータ11,12の駆動力の和、即ち引っ張り力の和により第1リンク3に対する第2リンク4の剛性が設定される。更に、第3拮抗アクチュエータ13,14の駆動力の和、即ち引っ張り力の和により、固定リンク2に対する第1リンク3の剛性及び第1リンク3に対する第2リンク4の剛性が設定される。
【0020】
したがって、これら一対の第1拮抗アクチュエータ9,10、一対の第2拮抗アクチュエータ11,12、一対の第3拮抗アクチュエータ13,14の駆動力を調整することにより、ロボットアーム20の先端20bにおける剛性を設定することができる。
【0021】
ハンド駆動部15は、ハンド8をロボットアーム20の先端20b、即ち第2リンク4の先端4bに対して旋回駆動するものである。このハンド駆動部15は、第2リンク4とハンド8との間の第3関節7に設けられた電動回転モータであり、ハンド8の姿勢を調整することができる。
【0022】
制御部18は、リンク駆動部30及びハンド駆動部15を駆動制御して、各リンク3,4及びハンド8に所定の動作を行わせると共に、ロボットアーム20の先端20bの剛性、即ち第2リンク4の先端4bの剛性を制御するものである。
【0023】
なお、各関節5,6,7には、旋回角度を検出する角度検出部としてのロータリーエンコーダ21,22,23が組み込まれている。具体的に説明すると、第1の角度検出部としてのロータリーエンコーダ21は、固定リンク2に対する第1リンク3の旋回角度を検出する。第2の角度検出部としてのロータリーエンコーダ22は、第1リンク3に対する第2リンク4の旋回角度を検出する。第3の角度検出部としてのロータリーエンコーダ23は、第2リンク4に対するハンド8の旋回角度を検出する。
【0024】
第1ワーク(嵌合ワーク)16は、円柱形状の突起部41を有しており、第2ワーク(被嵌合ワーク)17には、第1ワーク16の突起部41が嵌合する嵌合穴42が形成されている。この嵌合穴42は、穴底面42aと、穴底面42aから垂直に延びる垂直面42bと、垂直面42bの上端に接続され、上方(開放側)に向かって広がるガイド面となる傾斜面42cとで形成されている。
【0025】
ハンド8は、第1ワーク16及び第2ワーク17のいずれか一方のワーク、本実施形態では、第1ワーク16を把持する。他方のワーク、本実施形態では、第2ワーク17は、基台1に載置固定される。
【0026】
制御部18は、各関節5,6,7に組み込まれたロータリーエンコーダ21,22,23の検出結果(検出角度)に基づき、リンク駆動部30及びハンド駆動部15の駆動を制御することで、ロボットアーム20及びハンド8を動作させる。また、制御部18は、リンク駆動部30、即ち各アクチュエータ9〜14の駆動を制御することで、ロボットアーム20の先端20b(第2リンク4の先端4b)における剛性を制御する。
【0027】
具体的には、制御部18は、第1関節5及び第2関節6における回転角度(旋回角度)と、ロボットアーム20の先端20bにおける目標の剛性特性のパラメータとにより、各アクチュエータ9〜14での発生力を計算する。そして、制御部18は、各アクチュエータ9〜14に発生力指令を出力し、各アクチュエータ9〜14に発生力指令に対応する発生力を発生させ、ロボットアーム20の先端20bにおける剛性を目標の剛性に調整する。
【0028】
図2は、組立ロボット100の嵌合作業の動作を説明するためのフローチャートであり、図3は、探り動作及び嵌合動作を説明するための図である。以下、図2及び図3を参照して、図1に示されている組立ロボット100の動作について述べる。以下の説明において、第2ワーク17の嵌合穴42の延びる方向、及び固定リンク2の延びる方向と平行な軸をv軸とする。また、v軸に垂直な方向の軸をh軸とする。
【0029】
まず、嵌合作業の前工程について説明する。基台1の所定の位置には、第2ワーク17が、作業者又は他のロボットなどによって、嵌合穴42が上方を向く所定姿勢で固定される。
【0030】
制御部18は、予め定められた動作指令によって、第1ワーク16をハンド8に把持させ、第1ワーク16の突起部41の延びる方向と第2ワーク17の嵌合穴42の延びる方向とが平行となるように、各関節5,6,7における関節角度(旋回角度)を調整する。
【0031】
この時、嵌合作業前の段階なので、ハンド8の位置制御、即ち、各関節5,6,7の角度制御のみが行われ、ロボットアーム20全体として高剛性が要件となっている。これは、拮抗配置されている一対の第1拮抗アクチュエータ9,10、一対の第2拮抗アクチュエータ11,12、一対の第3拮抗アクチュエータ13,14の駆動源のそれぞれの発生力の和が大きくなるように設定することで実現される。
【0032】
また、以降の作業時は、ハンド8の姿勢を嵌合時の基準姿勢に保持する。この基準姿勢は、予め、冶工具等を用いて、作業開始以前に第1ワーク16と第2ワーク17の嵌合方向に設定される。具体的には、固定リンク2に対する第1リンク3の旋回角度と、第1リンク3に対する第2リンク4の旋回角度と、第2リンク4に対するハンド8の旋回角度との和が一定なるように制御することで達成される。本実施形態では、制御部18は、その和を180°に制御する。オフセット誤差は、冶工具等を用いた初期調整で吸収する。
【0033】
このように、ハンド8に第1ワーク16を把持させて、第2ワーク17が基台1にセットされた後、組立ロボット100は、第1ワーク16の突起部41を第2ワーク17の嵌合穴42に嵌合させる嵌合作業を行う。
【0034】
具体的に説明すると、まず、制御部18は、リンク駆動部30を制御して、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向(v軸方向の負方向)の剛性を、低剛性である第1剛性に調整する(S100)。このとき、制御部18は、リンク駆動部30を制御して、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向と直交する探り方向(h軸方向)の剛性を、第1剛性よりも高い高剛性である第2剛性に調整する。ここで、第1剛性は、第1ワーク16が第2ワーク17から受ける反力に追従して嵌合方向と反対方向に移動する剛性に設定される。これにより、第1ワーク16を嵌合方向に移動させる際に、ハンド8の位置での嵌合方向の剛性が緩和される。また、第2剛性は、第1ワーク16が第2ワーク17から受ける反力に抗して探り方向(v軸方向に直交するh軸方向)の位置を保持する剛性に設定される。つまり、第2剛性は、第1ワーク16が第2ワーク17から受ける反力によっても移動しない程度の剛性である。
【0035】
そして、制御部18は、リンク駆動部30及びハンド駆動部15を制御して、第1ワーク16を嵌合方向(v軸方向の負方向)に移動させ、第1ワーク16の突起部41を第2ワーク17に接触させる(S101)。このとき、制御部18は、第1ワーク16を嵌合方向に付勢して第1ワーク16の突起部41を第2ワーク17に接触させた状態を保持させる。つまり、第1ワーク16の突起部41は、第2ワーク17に押し付けられた状態で保持されている。制御部18は、リンク駆動部30を制御して第1ワーク16を第2ワーク17に接触させる際に、ハンド駆動部15を制御して突起部41と嵌合穴42との平行状態を維持している。
【0036】
この際、第1ワーク16の突起部41のv軸方向の目標位置は、設計上、微小量だけ嵌合した状態の位置に設定する。或いは、v軸方向の目標位置を少しずつ更新しながら、各関節5,6,7に組み込まれたロータリーエンコーダ21,22,23の出力をモニタして、その変化より接触を知る方法でも良い。つまり、第1剛性に設定されたことにより、第2ワーク17の反力が作用した第1ワーク16に押されてロボットアーム20の各リンク3,4が旋回し、これに伴って制御部18は、ハンド8が所定の姿勢を保つためにハンド8を旋回される。そして、制御部18は、各ロータリーエンコーダ21,22,23の検出結果に基づき、第1ワーク16が第2ワーク17に接触したか否かを判断する。
【0037】
通常は、図3(a)の状態で突起部41が第2ワーク17に接触する。この場合、両ワーク16,17間に力が働くが、予め、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向の剛性が緩和されているので、ワーク16,17間に働く力は緩和される。
【0038】
次に、制御部18は、探り動作を行いながら位置(v、h)測定値を更新していく(S102)。探り動作は、以下のように制御部18により実行される。つまり、制御部18は、リンク駆動部30及びハンド駆動部15を制御し、突起部41を第2ワーク17に接触させた状態で、第1ワーク16を探り方向(h軸方向)に移動させて第1ワーク16の突起部41が第2ワーク17の嵌合穴42に嵌合する位置を探る。
【0039】
具体的に説明すると、制御部18は、予め調整設定された微小目標変位γ(>0)、δ(>0)を用いて、v軸方向の突起部41の目標位置をv−γとし、第1ワーク16の突起部41を第2ワーク17に接触させる。また、制御部18は、h軸方向の探り動作の1回目は、目標位置をh1+δ、2回目は、目標位置をh2−2・δ、3回目は、目標位置をh3+3・δのように更新する。
【0040】
このとき、制御部18は、探り動作の実行時に、突起部41の延びる方向と嵌合穴42の延びる方向とが平行な状態を維持するように、各ロータリーエンコーダ21,22,23の検出結果に基づいて、ハンド駆動部15を制御する。このように制御することで、制御部18は、突起部41を探り動作させたときのv軸方向の位置の変化を正確に把握することができる。なお、探り動作は、本実施形態では初期位置を中心に探る方法であるが、方向毎に所定距離を探る方法等でも良い。この探り動作の実行時に、ロボットアーム20の先端20bにおける探り方向の剛性は、第2剛性と高いままなので、迅速な探り位置制御が可能となっている。
【0041】
次に、制御部18は、探り動作毎に、更新された測定値より|vn+1−v|を評価、つまり、vn+1−vの値の絶対値が所定の値Δ以上か否かを判断する(S103)。
【0042】
そして、制御部18は、
【0043】
【数1】

の場合(S103:YES)は、有意な変化ありとして、次のステップの処理に移る。
【0044】
また、制御部18は、
【0045】
【数2】

の場合(S103:NO)は、有意な変化無しとして、探り動作を継続する。ここで、通常は、図3(a)の初期の状態から、探り動作により図3(b)の状態となるので、有意な変化は負値となる。ステップS101のワーク間接触時に図3(b)の接触状態のとき、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向の剛性は緩和されている。従って、探り動作により図3(b)中右方向に突起部41を移動させようとする場合、第2ワーク17の傾斜面42cにより第1ワーク16の突起部41に働く外力Fexは、図3(b)中白抜き矢印で示すように、v軸正方向となり、有意な変化Δは正値となる。なお、所定の値Δは、予備実験等によりv軸方向位置測定誤差を求め、例えば、その2倍程度に設定しておく。
【0046】
次に、制御部18は、有意な変化Δがあった場合(S103:YES)、つまり、図3(c)に示す状態となった場合、これまで高剛性であった嵌合方向に垂直な探り方向(h軸方向)の剛性を低剛性に緩和する(S104)。つまり、制御部18は、コンプライアンス動作を実行する。この際、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向の剛性はそのままでも良いし、剛性を上げても良いが、望ましくは、剛性を上げる。
【0047】
このコンプライアンス動作実行時、突起部41のv軸方向の位置は、v−ζを目標位置として設定される。そこで、本実施形態においては、ハンド8(つまり、ロボットアーム20の先端20b)における剛性特性は、その分布がv−h軸に長短軸が平行な楕円形状となるように制御されている。その結果、変位方向(探り方向)と平行な力が発生するので、h軸に平行な負方向の微小な力が突起部41に加わっている。
【0048】
従って、第2ワーク17の嵌合穴42の傾斜面42cより第1ワーク16の突起部41に働く外力Fexは、図3(c)中白抜き矢印で示すように、第2ワーク17の嵌合穴42中心軸方向となる(逃げ追従動作)。
【0049】
結果、最終的は、(v、h)値の更新は無くなり、第1ワーク16の突起部41と第2ワーク17の嵌合穴42との嵌合が達成される。
【0050】
以上のように、本実施形態では、探り動作中にサーボゲインを落とすことなく、ワーク間の接触状況の変化が見られたら、剛性の特性を変えるので、迅速な嵌合作業が可能となる。つまり、探り動作時に、ロボットアーム20の先端20bにおける嵌合方向の剛性は緩和され、探り方向の剛性は強化されることになるので、探り動作を迅速に行うことが可能となり、嵌合作業をスピードアップすることができる。
【0051】
次に、ハンド8(ロボットアーム20の先端20b)の剛性特性をコントロール方法について詳細に説明する。図4は、図1のロボットアーム20をモデル化した図である。以下の説明では、重力及び摩擦等の影響は無視する。
【0052】
v−h軸をx−y軸とし、第1リンク3をL、そのリンク長をl、第2リンク4をL、そのリンク長をlとする。また、アクチュエータ9をe、アクチュエータ10をf、アクチュエータ11をe、アクチュエータ12をf、2リンク同時アクチュエータ13をe、2リンク同時アクチュエータ14をfとする。また、第1関節5周りのトルクをT、第2関節6周りのトルクをTとして表し、第1リンクLとx軸のなす角をθ、第1リンクLと第2リンクLとのなす角をθとする。さらに、第1関節5と第2関節6のモーメントアームをrとする。
【0053】
また、アクチュエータe、f、e、f、e、fも筋の粘弾性モデルで表す。McKibben型空気圧アクチュエータは、筋の粘弾性モデルを具現化するものの代表である。
【0054】
図5は、アクチュエータの粘弾性モデルを示す図である。このモデルでは、バネ成分及びダンパ成分を持ったアクチュエータとして表わされ、出力Fは、以下の式(1)のように数式化されることが知られている。
【0055】
【数3】

【0056】
バネ成分、ダンパ成分の係数は筋肉の収縮力uに比例する関数として表され、収縮力uの設定がモデルのアクチュエータの剛性設定となる。k、bはそれぞれ比例定数、xは自然長からの変位である。
【0057】
周知のように、手先Wでの剛性は、一般に、微小外力ΔF、ΔFによるリンク先端の微小変位をΔx、Δyとすると、以下の式(2)となる。
【0058】
【数4】

【0059】
したがって、手先Wでの剛性は、以下の式(3)に相似の楕円形状で表され、スティフネス楕円と称される。
【0060】
【数5】

【0061】
上述した組立ロボット100では、先ず、ステップS100で、コンプライアンス方向をx軸方向(v軸方向)に設定、即ち、y軸方向(h軸方向)の剛性がx軸方向(v軸方向)の剛性よりも高い状態に設定する。次に、ステップS104で、コンプライアンス方向をy軸方向(h軸方向)に設定、即ち、x軸方向(v軸方向)の剛性がy軸方向(h軸方向)の剛性よりも高い状態に設定する。
【0062】
その際、スティフネス楕円は、長短軸がx−y軸に平行な楕円であることが望まれ、式(4)が条件となる。
【0063】
【数6】

【0064】
スティフネス楕円の軸長を2α、2βとすると、以下の式(5)のように表せる。
【0065】
【数7】

【0066】
従って、スティフネス楕円は、図4のようになる。各アクチュエータの駆動源の収縮力をue1、uf1、ue2、uf2、ue3、uf3として、各拮抗対に対応する和をU、U、Uとする。図4のように、粘弾性を有するアクチュエータが拮抗に配置されていると、その収縮力の各和U、U、Uを制御することにより、手先Wでの剛性が制御できる。
【0067】
即ち、微小な外力ΔF、ΔFによる、関節の微小な回転角度をΔθ、Δθとすると、筋の粘弾性を有するアクチュエータは、筋の弾性力によりリンクに微小なトルクΔTp1、ΔTp2を発生させ、式(6),(7)の関係で表されることが知られている。
【0068】
【数8】

【0069】
式(6),(7)から判るように、U+U、U+U、Uを大きく設定すると、各関節での剛性は高まる。そして、式(5)より、U+U、U+U、Uを大きく設定すると、α、βも大きくなることが判る。
【0070】
そこで、式(8)はヤコビ行列である。
【0071】
【数9】

【0072】
この式(8)のヤコビ行列を導入すると、以下の式(9),(10)の関係がある。
【0073】
【数10】

【0074】
よって、これらの式(9),(10)から、以下の式(11),(12)が導かれる。
【0075】
【数11】

【0076】
x−y軸に平行なスティフネス楕円を得るためには、以下の式(13)となる。
【0077】
【数12】

【0078】
所望のα、βと、第1リンクLのリンク長l、第2リンクLのリンク長l、第1リンクLとx軸のなす角θ、第1リンクLと第2リンクLのなす角θ、アクチュエータのバネ定数k、第1関節5と第2関節6のモーメントアームrを代入する。これらを代入した式(13)の連立方程式を解くことで、U、U、Uの値が得られる。
【0079】
ここで、例を示す。l=0.6[m]、l=0.8[m]、k=3、r=0.1[m]とする。
【0080】
case1: θ=50[°]、θ=80[°]
case2: θ=60[°]、θ=90[°]
case3: θ=70[°]、θ=100[°]
に関して、α=βの時のUを1として、αβ一定のもと、α/β、即ち、楕円比をパラメータとしてグラフ化したものを図6に示す。図6は、楕円比α/βに対する相対的発生力を示すグラフであり、図6(a)はcase1を、図6(b)はcase2を、図6(c)はcase3を示している。図6(a)〜図6(c)より、Uを大きく、Uを小さくするに連れて、α/βを大きくすることでき、Uを小さく、Uを大きくするに連れて、α/βを小さくすることができることが判る。
【0081】
ここで、α/βの比を変えなければ、U、U、Uの大小関係、比率は変わらず、α/β一定の下でのα、βに比例する。このように、所定の条件下で、所望のα、βが決まれば、U、U、Uは、一意的に決められることが判る。
【0082】
従って、図2に示すフローチャートに従うと、ステップS100では、α/βを1よりも大きめの値に設定し、嵌合方向の剛性を緩和する。ステップS104では、α/βが1よりも小さく変化するように設定し、嵌合方向に垂直な方向の剛性を緩和する。
【0083】
ここで、Uは収縮力の和を示しているので、McKibben型空気圧アクチュエータのように伸長力が無い場合、U、U、Uは負の値を採らない。
【0084】
よって、本実施形態のようにMcKibben型空気圧アクチュエータを使う場合、ステップS100ではU→+0(非負のゼロに近い値)となる(U、U、U)のセットを指令値とする。ステップS104ではU→+0(非負のゼロに近い値)となる(U、U、U)のセットを指令値とする。
【0085】
尚、式(1)で近似され、伸長力も発生するアクチュエータが使用できる場合、U、U、Uは負の値も採れるので、α/βの大小がより明瞭となり、所定方向以外の剛性を上げられるで、より外乱等に強い安定した装置が実現できる。
【0086】
そのようなアクチュエータのモデルとしては、図7に示すようなものが考えられる。
【0087】
駆動源51は、モータ、減速機等からなる。駆動源の駆動量をL、直列のバネ要素のバネ定数kとすると、以下の式(14)となる。
【0088】
【数13】

【0089】
バネ定数が、uに依存すると、Fは出力端からの出力、xを出力端の変位として、以下の式(15)となる。
【0090】
【数14】

【0091】
式(15)は、式(1)と同等となる(粘性項は除く)。そして、駆動源51の駆動量Lは極性を問わないので、収縮、伸長の力を発生することができる。
【0092】
以上のようにして、U、U、Uを決めることが、各拮抗対としてのアクチュエータ(eとf、eとf、eとf)の剛性を決めることになり、この(U、U、U)のセットにより手先Wでの剛性の特性を決定する。
【0093】
次に、手先Wの出力と変位について簡単に説明する。上述したようなv軸方向は、v−γとする場合のように、現在位置を基準とした目標変位をΔx、Δyとする。対応する第1関節5と第2関節6の各々の回転変位をδθ、δθとして、その関係は、式(9)と同等に考えられて、以下のように変換される。
【0094】
【数15】

【0095】
従って、(θ、θ)→(θ+δθ、θ+δθ)として、新たな目標回転変位として、第1関節5と第2関節6の各エンコーダ値をモニタしながら、第1関節5と第2関節6へのトルク印加により、位置制御する。すると、現在位置を基準とした目標変位Δx、Δyへと到達する。
【0096】
そして、その結果のトルクを(T、T)に関して、図4のようなモデルの場合、以下の式(17)のように表せることが知られている(粘性項は省略)。
【0097】
【数16】

【0098】
ここで、1以下の実数ε、ε、εを用いると、各収縮力は以下の式(18)となる。
【0099】
【数17】

【0100】
すると、式(17)は、以下の式(19)となる。
【0101】
【数18】

【0102】
従って、2つの関節を同時駆動する拮抗アクチュエータの存在により、所定のトルクに対して、解析的、かつ一意的には、各拮抗対をなすアクチュエータの駆動源の出力差、即ちε、ε、εを決定できない。
【0103】
しかし、上述したように、所望のα、βと、目標のθ、θよりU、U、Uの値が得られるので、ε=0.5やε=ε、或いは、ε/ε=一定、等々の条件下で位置制御(回転変位)により、制御結果として、ε、ε、εが決定される。
【0104】
ここで、式(5)が成り立つ場合、手先での発生力をΔF、ΔFとすると、以下の式(20)が成り立つことが確認されている。
【0105】
【数19】

【0106】
従って、微小目標変位を与えることにより微小力を発生でき、しかも、力の方向と変位の方向を揃えることができる。即ち、例えば、Δxを与え続けることにより、ΔFを加え続けることができる。
【0107】
図8に、図4のモデルでの各アクチュエータの駆動源の発生力指令値を決定するブロック図である。θ、θは更新した値としている。
【0108】
所望のα、βと、目標のθ、θよりU、U、Uの値が得られる。そして、位置制御(回転位置)の過程で、ε、ε、εが決定され、その結果として、各アクチュエータe、f、e、f、e、fへの収縮力指令値ue1、uf1、ue2、uf2、ue3、uf3が決まる。
【0109】
図1に示す構成で説明すると、以下のようになる。制御部18は、各関節5,6,7に組み込まれたロータリーエンコーダ21,22,23の出力に基づいて、ハンド駆動部15を駆動制御し、ハンド8の姿勢を一定にする。即ち制御部18は、固定リンク2に対する第1リンク3の旋回角度と第1リンク3に対する第2リンク4の旋回角度と、第2リンク4に対するハンド8の旋回角度の和が一定(本実施形態では180°、つまり突起部41と嵌合穴42とが平行)となるように制御する。
【0110】
制御部18は、各関節に組み込まれたロータリーエンコーダの出力から、固定リンク2基準の第1リンク3の旋回角度と第1リンク3基準の第2リンク4の旋回角度を求める。
【0111】
そして、制御部18は、予め設定された第1リンク3及び第2リンク4のリンク長、第1関節6、第2関節7のモーメントアーム値を用いて、所望のα、βから各拮抗対のアクチュエータの駆動源の発生力指令値の和を決定する。その和を条件として、微小目標変位への位置制御により、結果として、各アクチュエータの駆動源の発生力指令値が決められ、モデルの手先Wに相当するハンド8での剛性の特性と励起される力の方向と大きさが決定される。そして、この概念に従って、図2に示されるフローチャートの各処理が実行される。
【0112】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0113】
上記実施形態では、一方のワークとして、ハンド8に第1ワーク16を把持させて嵌合作業を行う場合について説明したが、ハンド8に第2ワーク17を把持させて嵌合作業を行うようにしてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、他方のワークを基台1に載置固定する場合について説明したが、不図示の別のロボットハンドに他方のワークを把持させている場合であってもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…基台、2…固定リンク(固定部)、3…第1リンク、4…第2リンク、5…第1関節、6…第2関節、7…第3関節、8…ハンド、9,10…一対の第1拮抗アクチュエータ、11,12…一対の第2拮抗アクチュエータ、13,14…一対の第3拮抗アクチュエータ、15…ハンド駆動部、16…第1ワーク、17…第2ワーク、18…制御部、20…ロボットアーム、20b…先端、30…リンク駆動部、41…突起部、42…嵌合穴、100…組立ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ワークの突起部を第2ワークの嵌合穴に嵌合させる嵌合作業を行う組立ロボットにおいて、
関節で旋回可能に連結された複数のリンクを有するロボットアームと、
前記ロボットアームの先端に設けられたハンドと、
前記ロボットアームの各リンクを旋回駆動するリンク駆動部と、
前記第1ワーク及び前記第2ワークのうちいずれか一方のワークを前記ハンドに把持させて前記嵌合作業を行う際に、前記一方のワークを嵌合方向に付勢して前記第1ワークの突起部を前記第2ワークに接触させた状態で、前記一方のワークを前記嵌合方向と直交する探り方向に移動させて前記第1ワークの突起部が前記第2ワークの嵌合穴に嵌合する位置を探る探り動作を実行するよう前記リンク駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記探り動作の実行時に、前記リンク駆動部を制御して、前記ロボットアームの先端における前記嵌合方向の剛性を、前記一方のワークが他方のワークから受ける反力に追従して前記嵌合方向と反対方向に移動する第1剛性に調整すると共に、前記ロボットアームの先端における前記探り方向の剛性を、前記一方のワークが前記他方のワークから受ける反力に抗して前記探り方向の位置を保持する第2剛性に調整する、
ことを特徴とする組立ロボット。
【請求項2】
前記ロボットアームは、基台に固定された固定部と、
前記複数のリンクとして、第1関節で前記固定部に連結された第1リンク、及び第2関節で前記第1リンクに連結された第2リンクと、を有し、
前記リンク駆動部は、前記第1関節を挟んで前記固定部と前記第1リンクとに接続され、駆動力の差により前記第1リンクを旋回駆動する一対の第1拮抗アクチュエータと、
前記第2関節を挟んで前記第1リンクと前記第2リンクとに接続され、駆動力の差により前記第2リンクを旋回駆動する一対の第2拮抗アクチュエータと、
前記第1関節及び前記第2関節を挟んで前記固定部と前記第2リンクとに接続され、駆動力の差により前記第1リンク及び前記第2リンクを旋回駆動する一対の第3拮抗アクチュエータと、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の組立ロボット。
【請求項3】
前記ハンドを旋回駆動して前記ハンドの姿勢を調整するハンド駆動部を備え、
前記制御部は、前記探り動作の実行時に、前記突起部と前記嵌合穴とが平行な状態を維持するように前記ハンド駆動部を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の組立ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−107175(P2013−107175A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254953(P2011−254953)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】