説明

組立式マクラギおよびその基本マクラギ

【課題】レール間の接合とレールのマクラギへの固定を容易に行うことができる上に、レールの継目部分の落ち込みとこれに伴う騒音の発生や軌道狂い等の車両の運行を阻害する要因を大幅に低減することができる組立式マクラギおよびその基本マクラギを提供する。
【解決手段】レールAの下に横に並べて敷設された二本の基本マクラギ2と基本マクラギ2どうしを連結する複数の連結ボルト3とから構成する。基本マクラギ2は、レールAの下に真横に敷設された横マクラギ2aと、横マクラギ2aの両側に突設された複数の縦梁2bとから一体に成形する。レールAの長手方向に隣接する基本マクラギ2,2の縦梁2bは、継手板4と連結ボルト3によって連結することによりヒンジ構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組立式マクラギおよび当該組立式マクラギを構成するための基本マクラギに関し、主としてレールの継目部分に敷設され、レールの接合とレールのマクラギへの固定を容易に行うことができる上に、レールの継目部分の落ち込みと継目部分の落ち込みによる騒音や振動の発生、さらには軌道狂い等といった車両の運行を阻害する要因を大幅に低減することができる。
【背景技術】
【0002】
ごく一般的な鉄道軌道においては、レールの下に複数のマクラギが横に並べて敷設され、レールは各マクラギの上に犬釘などのレール締結金具によって固定されている。
【0003】
また、レール同士は端部を両側から継目板で挟み込み、ボルトとナット、ゆるみ止めのロックナットワッシャー等の継手金具によって締め付けることにより接合されている。
さらに、レールの継目部分は、マクラギの真上またはマクラギ間の中央で支えられており、前者は「支え継ぎ」、後者は「かけ継ぎ」として一般に知られている。
【0004】
前者の「支え継ぎ」は、レールの継目をマクラギの真上に配置して支えるため、レールの継目部分の落ち込みとこれによる騒音等の問題は低減されているが、レールを繋ぐ継手金具とレールをマクラギに固定するレール締結金具がマクラギの上で重なるため、これらの金具として特殊な金具を必要とするだけでなくレールの接合と固定が共に面倒であった。
【0005】
また、レールの継目部分には他の部分のマクラギよりかなり断面の大きいマクラギを敷設する必要があるため、その手配と敷設に余計な労力とコストが費やされ、さらに両側のマクラギに余計な負担がかかる等の課題があった。
【0006】
一方、後者の「かけ継ぎ」は、レールの継目をマクラギ間の中央で支えるため、レール同士を繋ぐ継手金具とレールをマクラギに固定するレール締結金具が重ならない。このため、通常の継手金具とレール締結金具を用いてレールの敷設をきわめて効率的に行うことができ、しかもレールの継目部分に作用する車両荷重をレール継目の両側のマクラギに分散できるため、通常サイズのマクラギを利用できる等のメリットもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−282269号公報
【特許文献2】特開平9−268502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、「かけ継ぎ」には、レールの継目部分がマクラギ間の中央で浮いた状態で支えられるため、レール継目部分の落ち込みとこれらに伴う騒音および振動の発生、さらには軌道狂いなどといった車両の運行を阻害する大きな課題があった。
【0009】
本発明は、特に「かけ継ぎ」の有する課題を解決するためになされたもので、レール同士の接合とレールのマクラギへの締結を容易に行うことができる上に、レールの継目部分の落ち込み、これに伴う騒音および振動の発生、さらには軌道狂いなどといった車両の運行を阻害する要因を大幅に低減できる組立式マクラギおよび当該組立式マクラギを構成するための基本マクラギを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の組立式マクラギは、レールの下に横に並べて敷設される複数の基本マクラギからなる組立式マクラギにおいて、前記基本マクラギは前記レールの下に横に敷設される横マクラギと、前記レールの下に縦に敷設される複数の縦梁とから一体に成形され、かつ隣接する基本マクラギの縦梁どうしはヒンジ構造によって接合されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、主としてレールの継目部分に敷設される軌道マクラギであり、本発明によれば、レールの継目部分が縦梁によって直接支えられることにより、レールの継目部分の落ち込みとこれが要因で発生するとされる騒音や振動、さらには軌道狂い等といった車両の運行を阻害する要因を大幅に低減することができる。
【0012】
また、隣接する基本マクラギの縦梁どうしは、ヒンジ構造によって連結されていることにより、レールを介して縦梁に大きな車両荷重が作用したとしても、車両荷重による道床反力の縦梁に作用する曲げモーメントを大幅に低減することができるため、縦梁の断面を小さくすることができる。
【0013】
さらに、レールの継目部分には通常、2本の基本マクラギを連結して井桁状に組み立てられた組立式を敷設するが、バラスト軌道などでマクラギが移動するおそれのある道床には、多数の基本マクラギを連結して梯子状に組み立てられたラダーマクラギとして敷設することもできる。
【0014】
なお、基本マクラギの横マクラギと複数の縦梁はPC構造またはRC構造によって一体に成形することができ、また、横マクラギはPC構造またはRC構造によって成形し、縦梁は形鋼などの鋼材から形成することもできる。
また、基本マクラギは、人力でも敷設、運搬等の取り扱いが可能な範囲で寸法、重量等を考慮して成形することができる。
【0015】
請求項2記載の組立式マクラギは、請求項1記載の組立式マクラギにおいて、隣接する基本マクラギの縦梁は、継手板と連結ボルトによって連結されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明により縦梁間の連結部を容易にヒンジ構造とすることができる。なお、継手板間に合成ゴム等からなる連結パッドを介在するのが望ましい。継手板は、基本マクラギの製造過程で取り付けてもよく(先付け)、また基本マクラギの製造後に取り付けてもよい(後付け)。
【0017】
継手板を先付けする場合、継手板は縦梁のコンクリート内に配筋された補強筋に取り付けることができ、また、継手板を後付けする場合は、縦梁のコンクリート内に予め埋設したインサートナット(長ナット)に取付けボルトによって取り付けることができる。
【0018】
請求項3記載の組立式マクラギは、請求項2記載の組立式マクラギにおいて、一方の継手板にガイドキーが突設され、他方の継手板に前記ガイドキーが係合するガイド孔が形成されていることを特徴とするものである。縦梁どうしを連結する際に、継手板の位置合せを容易に行えるようにしたものである。
【0019】
請求項4記載の組立式マクラギは、請求項2または3に記載の組立式マクラギにおいて、継手板は、縦梁内に配筋された補強筋に取り付けられていることを特徴とするものである。継手板の先付けであり、この方法によれば、継手板を縦梁の先端部分(妻部分)のコンクリート型枠として利用することができる。
【0020】
請求項5記載の組立式マクラギは、請求項2または3に記載の組立式マクラギにおいて、継手板は、縦梁内に埋設されたインサートナットに螺合される取付けボルトによって取り付けられていることを特徴とするものである。継手板の後付けであり、この方法によれば、基本マクラギの運搬や保管等に際して継手板が干渉し合うことがないので、嵩張らず取り扱いが容易になる。
【0021】
請求項6記載の基本マクラギは、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の組立式マクラギを構成するための基本マクラギにおいて、レールの下に横に敷設される横マクラギと、前記レールの下に縦に敷設される複数の縦梁とから一体に成形され、かつ前記縦梁の端部に継手板が取り付けられていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明によれば、主としてレールの継目部分に敷設される井桁状の組立式マクラギやバラスト軌道などでマクラギが移動するおそれのある道床などに敷設される梯子状のラダーマクラギ等を容易に組み立てて構成することができる。また特に、複数の基本マクラギからなる組立式であることから、軽量化により人力による敷設作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、本発明は、主としてレールの継目部分に敷設されるマクラギであり、本発明に係る組立式マクラギの敷設により、レールの継目部分が縦梁によって直接支えられることにより、レールの継目部分の落ち込みとこれが要因で発生するとされる騒音や振動、さらには軌道狂い等といった車両の運行を阻害する要因を大幅に低減することができる。
【0024】
また、隣接する基本マクラギの縦梁どうしは、ヒンジ構造によって連結されていることにより、レールを介して縦梁に大きな車両荷重が作用したとしても、車両荷重による道床反力の縦梁に作用する曲げモーメントを大幅に低減することができ、これにより縦梁の断面を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】組立式マクラギの一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1に図示する組立式マクラギを示し、(a)は側面図、(b)は図1におけるイ−イ線断面図、(c)はロ−ロ線端面図である。
【図3】図1に図示する組立式マクラギを構成する基本マクラギを示し、(a)は一部破断平面図、(b)は一部破断側面図である。
【図4】図3に図示する基本マクラギの拡大図である。
【図5】図1に図示する組立式マクラギを構成する基本マクラギの他の実施形態を示し、(a)は一部破断平面図、(b)は一部破断側面図である。
【図6】図5に図示する基本マクラギの拡大図である。
【図7】ガイド孔を有する継手板を示し、(a)はその正面図、(b)は(a)におけるハ−ハ線断面図である。
【図8】ガイド孔を有する継手板を示し、(a)はその正面図、(b)は(a)におけるニ−ニ線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜図8は、本発明の組立式マクラギと組立式マクラギを構成する基本マクラギの一実施形態を示し、図において、組立式マクラギ1は、レールAの下に横に並べて敷設された二本の基本マクラギ2と基本マクラギ2どうしを連結する複数の連結ボルト3とから構成されている。
【0027】
基本マクラギ2は、レールAの下に真横に敷設された横マクラギ2aと、横マクラギ2aの両側に突設された複数の縦梁2bとから一体に成形されている。
【0028】
縦梁2bはレールAの真下をレールAの長手方向に延び、横マクラギ2の片側に突設された各縦梁2b,2bの先端には継手板4がそれぞれ取り付けられている。
【0029】
また、横マクラギ2aのレールAの敷設された位置にレール締結金具5,5がレールAの両側に対称に取り付けられ、レールAはレール締結金具5,5によって横マクラギ2aの上に固定されている。
【0030】
また、縦梁2bの上には制振ロングパッド6(図1では対角線で表示)が取り付けられ、その両側に制振ロングパッドずれ止め用の突起2cがそれぞれ形成されている。そして、レールAの継目部分Bは縦梁2bの上に制振ロングパッド6を介して支えられている。
【0031】
なお、横マクラギ2aはPC構造によって成形され、その長手方向に複数のPC鋼材2dが挿通されている。また、各縦梁2bはRC構造によって成形され、その長手方向に複数の補強筋2eが配筋されている(図3参照)。そして、横マクラギ2aと各縦梁2bは一体に成形されている。
【0032】
継手板4は縦梁2bの先端に取り付けられ、その両側は縦梁2bの両側に対称に突出され、さらに継手板4の各コーナ部に連結ボルト3を挿通するボルト孔4aが形成されている。
【0033】
また、対向する継手板4,4のうちの片方の継手板4にはガイドキー4bが突設され、他方の継手板4にはガイドキー4bが貫通するガイド孔4cが形成されている。なお、ガイドキー4bとガイド孔4cはボルト孔4a,4a間に形成されている。
【0034】
このように形成された2本の基本マクラギ2は、双方の縦梁2bの継手板4どうしを互いに突き合わせると共にガイド孔4cにガイドキー4bを貫通させ、横に並べて配置され、かつ継手板4,4間に連結パッド7が介在されている。
【0035】
そして、双方の継手板4,4のボルト孔4aに高力ボルトからなる連結ボルト3が締め付けられている。以上の構成により、2本の基本マクラギ2は井桁状に組み立てられている。
【0036】
このような構成において、レールAの継目部分Bは、縦梁2bに制振ロングパッド6を介して支えられていることにより、レールAの継目部分Bの落ちを防止することができる。
【0037】
また、レールAを介して縦梁2bに大きな車両荷重が作用したとしても、縦梁2bがヒンジ構造によって連結されていることにより、車両荷重による道床反力の縦梁2bに作用する曲げモーメントを大幅に低減することができ、これにより縦梁2bの断面を小さくすることができる。
【0038】
図4と図6は、特に継手板4の取付け態様の詳細を示したものであり、図4は、基本マクラギ2の製造過程で、マクラギ成形型枠(図省略)内にコンクリートを打設する前、縦梁2bの型枠内に配筋された補強筋2eの端部に、縦梁2bの妻型枠を兼ねた継手板4が先付けされ、型枠内にコンクリートを打設すると同時に継手板4は縦梁2bの先端に一体的に取り付けられている。
【0039】
なお、継手板4にはねじ孔4dが形成され(図7参照)、このねじ孔に補強筋2eの端部を螺合することにより、継手板4は補強筋2eに先付けされている。
【0040】
図6は、基本マクラギ2の製造過程で、マクラギ製造型枠内にコンクリートを打設する前、縦梁2bの型枠内にインサート(長ナット)8が取り付けられ、型枠内にコンクリートを打設して基本マクラギ2が成形された後、継手板4は縦梁2bの先端部にインサート8に螺合される取付けボルト9によって後付けされている。
【0041】
なお、インサート8は、縦梁2b内に配筋された補強筋2eに取り付けられている。また、継手板4には取付けボルト9が貫通するボルト孔4eと共に取付けボルト9のボルト頭部を収納するための凹部(座掘り)4fが形成されている(図8)。そして、取付けボルト9を締め付けた後、取付けボルト9が緩まないようにボルト頭部の周囲凹部4f内にモルタルや樹脂などの充填材10が充填されている。
【0042】
さらに、縦梁2bと継手板4との間には接着樹脂を塗布したり、あるいは緩衝材(図省略)を介在することにより、縦梁2bのこば欠け等のコンクリート部分の局部的な破損が未然に防止されている。
【0043】
なお、複数の基本マクラギ2を横に並べ、互いに連結してラダーマクラギを形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、レール間の接合とレールの固定を容易に行うことができる上に、レールの継目部分の落ち込みとこれに伴う騒音および振動の発生、さらには軌道狂いなどの車両の運行を阻害する要因を除去することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 組立式マクラギ
2 基本マクラギ
2a 横マクラギ
2b 縦梁
2c 制振ロングパッドずれ止め用の突起
2d PC鋼材
2e 補強鉄筋
3 継手板連結用の連結ボルト
4 継手板
4a 連結ボルト挿通用のボルト孔
4b ガイドキー
4c ガイド孔
4d 補強筋端部螺合用のねじ孔
4e 取付けボルト貫通用のボルト孔
4f 凹部(座掘り)
5 レール締結金具
6 制振ロングパッド
7 連結パッド
8 インサートナット(長ナット)
9 継手板取付用の取付けボルト
10 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールの下に横に並べて敷設される複数の基本マクラギからなる組立式マクラギにおいて、前記基本マクラギは前記レールの下に横に敷設される横マクラギと、前記レールの下に縦に敷設される複数の縦梁とから一体に成形され、かつ隣接する基本マクラギの縦梁どうしはヒンジ構造によって接合されてなることを特徴とする組立式マクラギ。
【請求項2】
請求項1記載の組立式マクラギにおいて、隣接する基本マクラギの縦梁は、継手板と連結ボルトによって連結されてなることを特徴とする組立式マクラギ。
【請求項3】
請求項2記載の組立式マクラギにおいて一方の継手板にガイドキーが突設され、他方の継手板に前記ガイドキーが係合するガイド孔が形成されてなることを特徴とする組立式マクラギ。
【請求項4】
請求項2または3記載の組立式マクラギにおいて、継手板は、縦梁内に配筋された補強筋に取り付けられてなることを特徴とする組立式マクラギ。
【請求項5】
請求項2または3記載の組立式マクラギにおいて、継手板は、縦梁内に埋設されたインサートナットに螺合される取付けボルトによって取り付けられてなることを特徴とする組立式マクラギ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかひとつに記載の組立式マクラギを構成する基本マクラギにおいて、レールの下に横に敷設される横マクラギと、前記レールの下に縦に敷設される複数の縦梁とから一体に成形され、かつ前記縦梁の端部に継手板が取り付けられてなることを特徴とする基本マクラギ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97502(P2012−97502A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247268(P2010−247268)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(591146893)九州旅客鉄道株式会社 (18)
【出願人】(591121111)株式会社安部日鋼工業 (38)