説明

組紐および電気絶縁スリーブ

【課題】電気絶縁性、耐熱性、耐溶融性の特性を向上させたポリフェニレンスルフィド酸化物からなる組紐、電気絶縁保護スリーブを提供する。
【解決手段】広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であり、繊度が10〜50dtexであることを特徴とするポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を用いることにより、電気絶縁性に優れ、耐熱、耐溶融性に優れる組紐、電気絶縁保護スリーブを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、電気絶縁性、難燃性、耐熱性に優れた電気配線を保護するための組紐・電気絶縁スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種電気配線の結束や電気配線の保護を目的とする高絶縁性の組紐または組紐状のスリーブが用いられてきている。これらの組紐の材料で優れたものとして、最近では、ポリウレタン、半芳香族ポリアミド繊維、シリコーン・ポリイミド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維などが使われている(例えば、特許文献1、2、3、4)。
【0003】
これらの組紐には、電気絶縁性だけではなく、安全性の観点から難燃性、長期の使用における耐熱性(表面溶融性)などの特性が求められている。
【0004】
これらの組み紐・スリーブ類は、モーター部品の保護目的にも用いられている。近年、モーター類は、ハイブリッド車、電気自動車にも用いられているが、瞬時の加速・減速に対応しなければならず、とりわけ高効率であることが要求され、使用条件が非常に過酷になっている。その結果、モーター部品からの発熱は非常に高くなり、従来から使用されている耐熱繊維程度の耐熱性では、十分に耐えられない状況である。
【0005】
このような状況の中、耐熱性に富んだ半芳香族モノフィラメント繊維を用いた保護スリーブが提案されている(特許文献4)。しかし、この材質においても、十分な耐熱溶融性は不十分であり、さらなる向上が求められていた。
【特許文献1】特開2001−123324号公報
【特許文献2】特開2007−297731号公報
【特許文献3】特開2007−297749号公報
【特許文献4】特開2007−63730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱特性に優れ、電気自動車やハイブリッド車のモーターのような過酷な条件下においても、長期にわたり安定に使用できる電気配線用保護スリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、下記発明に到達した。即ち、本発明は、
(1)広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリフェニレンスルフィド酸化物繊維からなり、その単糸繊度が10〜50dtexあることを特徴とする組紐。
(2)広角X線回折の測定における結晶化度が30%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下である(1)記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維からなり、その単糸繊度が10〜50dtexであることを特徴とする組紐。
(3)示差熱走査熱量(DSC)の測定において、融解熱量が実質的に認められない(1)または(2)記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維であることを特徴とする組紐。
(4)熱重量(TGA)の測定において残存炭化物が実質的に認められる(1)から(3)のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維であることを特徴とする組紐。
(5)単糸繊度が10dtex〜20dtexであることを特徴とする、(1)から(4)いずれか1項記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維からなる組紐。
(6)(1)から(6)項いずれか1項記載の組紐からなる電気絶縁スリーブ、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のとおり、合成繊維としてポリフェニレンサルファイド酸化物繊維を用い、単糸繊度を10〜50dtexからなる組紐を用いることにより、耐熱性に優れ、変形が起きにくい優れた組紐を得ることができる。非常に高い発熱が発生する部分の保護用途に用いることができることから、特に、自動車用モーター保護スリーブとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0010】
本発明の構成によれば、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリフェニレンスルフィド酸化物繊維製であって、その単糸繊度が10〜50dtexであることにより、長期にわたり安定に使用できる保護スリーブを得ることができる。
【0011】
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド酸化物繊維とは、
一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位からなるポリマー、または、主要構造単位としての上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の一般式(2)〜(7)
【0014】
【化2】

【0015】
(Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位とからなる共重合体からなる繊維のことである。また、一般式(1)で示される繰り返し単位のうち、Xが0、1、2である構造単位中に占める、Xが1または2である構造単位の比率は、0.5以上が好ましく、さらに好ましくは0.7以上である。
【0016】
これらのポリフェニレンスルフィド酸化物繊維は、ポリフェニレンスルフィド繊維を、液相中にて酸化することにより得ることができる。
【0017】
本発明において、酸化反応処理に使用される液体は、ポリフェニレンスルフィド繊維の形態を保持するものであれば任意に用いることができ、酸化反応処理に用いる酸化剤を均一に溶解するものであることが好ましい。中でも、有機酸または有機酸無水物または鉱酸を含む液体であることが好ましい。また、液体は単独・混合溶媒のいずれでもよく、またそれに水が含まれていても、水単独の液体でも構わない。液体の具体例としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、ピリジン、後述する有機酸、有機酸無水物が挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸などが挙げられる。有機酸無水物としては、下記一般式(8)
【0018】
【化3】

【0019】
(R、Rは、それぞれ炭素数1〜5の脂肪族置換基、芳香族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、RおよびRは互いに連結して環状構造を形成していてもよい。)で示される酸無水物が挙げられ、具体例としては無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸、無水−クロロ安息香酸などが挙げられる。鉱酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられる。好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、硫酸、塩酸であり、さらに好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸である。中でも特に好ましいのは、水および酢酸および硫酸が混合された液体である。その混合組成比としてより好ましいのは、水:5〜20重量%、酢酸:60〜90重量%、硫酸:5〜20重量%であり、この範囲の濃度において良好な結果を与える。
【0020】
本反応に使用される酸化剤は、上記液体に均一に溶解するものであって、本発明で規定する特性を有するポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を与えるものであれば任意に用いることができる。中でもポリフェニレンスルフィド繊維の形態を保持したまま酸化処理し得る酸化剤、液体の組み合わせであることが好ましい。酸化剤としては無機塩過酸化物、過酸化水素水から少なくとも1つ選ばれるものであることが好ましく、無機塩過酸化物および過酸化水素水から選択される一種以上と、有機酸および有機酸無水物から選択される一種以上との混合物から形成される過酸化物(過酸を含む)であっても構わない。酸化剤として用いる無機塩過酸化物としては、過硫酸塩類、過ホウ酸塩類、過炭酸塩類が好ましく挙げられる。ここで塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、なかでもナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。その具体例としては、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸塩としては過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過ホウ酸アンモニウム、過炭酸塩としては過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどが挙げられる。過酸化水素水と、有機酸または有機酸無水物との混合物から形成される過酸の具体例としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などが挙げられ、中でも好ましいのは、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸であり、さらに好ましいのは、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、トリフルオロ過酢酸である。
【0021】
酸化剤の濃度は工業的製法における安全性管理の上で重要で、処理効率の点からは高い濃度の方が好ましいが、ポリフェニレンスルフィド繊維の形態や見かけ体積などから、固体物品が酸化剤を含む液体に十分浸漬しうる濃度までであって、かつ、本発明で規定する範囲のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維が得られる濃度であれば、液体で希釈、あるいは安全面から濃度を下げることは任意に可能である。本発明における過酸の濃度は20重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%〜10重量%であり、さらに好ましくは3〜8重量%である。この範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に対して非常に影響を受けやすくなり、特に20重量%を超える高濃度の過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため好ましくない。
【0022】
また、酸化剤として無機塩過酸化物を用いる場合、ポリフェニレンスルフィド繊維の形態や見かけ体積などから十分浸漬しうる濃度まで溶媒で希釈、あるいは安全面から濃度を下げることは任意に可能である。好ましくは0.1重量%〜10重量%、さらに好ましくは3重量%〜8重量%である。
【0023】
過酸化水素水と有機酸との混合物から形成される過酸または過酸化物を用いる場合、過酸または過酸化物の濃度は、10重量%以下であることが好ましい。
【0024】
過酸化水素水と有機酸無水物との混合物から形成される過酸あるいは過酸化物を用いる場合、過酸または過酸化物の濃度は、好ましくは0.1重量%〜20重量%、さらに好ましくは3重量%〜15重量%、特に好ましくは3重量%〜8重量%である。
【0025】
上記範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に対して非常に影響を受けやすくなり、特に20重量%を超える高濃度の過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため好ましくない。
【0026】
例えば、示差走査熱量計(DSC−60:島津製作所)を用い、空気雰囲気下、サンプル量を5mg〜8mgの範囲内で秤量し、ステンレス製4.9MPa(50気圧)耐圧密閉容器にて、温度プログラムを30℃〜200℃(30℃から10℃/分昇温で200℃まで昇温)と設定して測定した時の過酢酸溶液の熱的挙動は、40%過酢酸溶液の場合が分解温度110℃、発熱量770J/gであり、酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸の場合が分解温度133℃、発熱量704J/gであるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは分解温度132℃、445J/gと約6割の発熱量であり、また9%のそれは分解温度110℃、230J/gと約3分の1の発熱量であり、非常に小さい。それ故に、酸化剤濃度を下げることで酸化反応処理プロセスの安全性を確保することは非常に重要である。
【0027】
本酸化反応処理は、本発明で規定する特性を有するポリフェニレンスルフィド酸化物繊維が得られる限り特に制限はないが、使用される液体の沸点以下の温度で行われることが好ましい。沸点以上の温度では系が加圧になり、酸化剤の分解が促進されたり煩雑な設備となったりする場合が多く、また安全面においても厳しいプロセス管理が必要とされる傾向にある。具体的な酸化反応処理温度は、用いる液体の沸点により異なるが、液体の沸点が許容する範囲内において、0℃〜100℃の間、中でも30℃前後〜80℃の間が好ましく、特に40℃〜70℃が好ましい。例えば、液体が酢酸の場合には50℃〜70℃の酸化反応処理温度が好ましく、この範囲の温度において良好な反応結果を与える。
【0028】
酸化反応処理時間は、本発明で規定した特性を有するポリフェニレンスルフィド酸化物繊維が得られる限り特に制限はなく、具体的な時間としても反応温度と酸化剤の濃度により左右されるため一概にはいえないが、例えば、液体が酢酸の場合には、60℃条件下、10重量%の酸化剤濃度において、約2時間である。
【0029】
また、通常60℃条件下、5重量%の酸化剤濃度において、約1〜8時間である。さらに酸化剤として前記一般式(3)で示される酸無水物と過酸化水素との混合物から形成される過酸を用いる場合、安全性を確保した上で効率よく短時間で酸化反応処理を行うことが好ましい。例えば、酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸を用いた場合の、繊維束、布帛、フェルトのいずれかを酸化処理するための時間が60℃温度条件下で約8時間であるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは約2時間であり、非常に効率がよい。
【0030】
本酸化反応処理を行うための処理方式に特に制限はないが、バッチ式または連続式、あるいはそれらを組み合わせたものでも採用でき、また1段式プロセスまたは多段式プロセスのいずれでも採用できる。
【0031】
ここで、バッチ式とは、任意の反応容器内にポリフェニレンスルフィド繊維および酸化剤の含まれる液体を投入し、任意の濃度、温度、時間で酸化反応処理した後、ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維または液体を取り出す処理方式を意味し、連続式とは、ポリフェニレンスルフィド繊維または酸化剤の含まれる液体を任意の流速を持たせて反応容器内を流通させて酸化反応処理する方式を意味する。連続式においては、任意の形態で固定化したポリフェニレンスルフィド繊維に対して、酸化剤の含まれる液体を流通または循環させて酸化反応処理する方法、あるいは、酸化剤の含まれる液体を任意の反応容器内に投入し、そこへポリフェニレンスルフィド繊維を連続的に流通または循環させて酸化反応処理する方法のいずれも採用できる。
【0032】
また、多段式プロセスとは、バッチ式または連続式を採用した酸化反応処理の単位工程が、複数または段階的に構築されたプロセスを意味する。具体的には、酸化反応処理を複数回に分け、各処理を行う際に、酸化反応処理を行うための酸化剤を含む液体をあらたに調製し、続く酸化反応処理を行う方法が例示される。かかる方法は酸化反応を促進できる点で好ましく、具体的には酸化反応処理時間の短縮や、より低い温度での反応が可能となる点で好ましく用いられる。特に、ポリフェニレンスルフィド繊維の形態や見かけ体積などの影響で、それが十分浸漬するよう液体で希釈したり、あるいは安全性確保のために濃度を下げたりすることにより生じ得る酸化反応処理時間の延長を抑制したり、過度の温度上昇を不要にし得る点でこの多段式プロセスが好ましく、これを採用することにより、酸化反応時間の延長や温度上昇を被ることなくかつ安全性を確保した上でプロセス構築ができる。
【0033】
さらに、酸化反応処理におけるポリフェニレンスルフィド繊維と酸化剤の含まれる液体との接触方法は、酸化剤の含まれる液体中にポリフェニレンスルフィド繊維を浸漬する方法、任意の形態で固定化したポリフェニレンスルフィド繊維に酸化剤の含まれる液体を散布または噴霧する方法のいずれも採用できる。
【0034】
また、本発明により得られるポリフェニレンスルフィド酸化物繊維は結晶性を有することを特徴とする。そのことから、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上を示す。好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。ここで結晶化度は、広角X線回折の測定において観測される、全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比より算出した値である。例えば、広角X線回折装置(RINT2100:リガク)を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にて、試料厚さ約70μmのフィルムを測定した時の結晶性構造に由来するピーク面積比より算出することができる。本発明において、ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維の結晶性は、酸化反応に供するポリフェニレンスルフィドとして結晶性、分子量の比較的高いものを用い、このポリフェニレンスルフィドの結晶性を過大に損なわない酸化条件を選択することにより高めることが可能である。
【0035】
さらに、該ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維は、示差走査熱量計(DSC)での測定において、融解熱量が15J/g以下、好ましくは10J/g以下、より好ましくは5J/g以下を表し、特に好ましくは1J/g以下の融解熱量を有するポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を意味し、より好ましくは実質的に融解ピークが観察されない化合物である。この範囲において耐熱性、耐薬品性に関して特に優れた特性を有する。ここでDSC測定条件は、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分において、示差走査熱量計(RDC220:セイコー・インスツルメンツ)を用い、サンプル量5mg〜10mgの範囲内で、温度プログラムを30℃〜500℃(30℃から10℃/分昇温で340℃まで昇温後、2分ホールド、続いて10℃/分降温により30℃まで降温後、2分間ホールドした後、10℃/分で500℃まで再昇温)と設定し、測定した時の融解熱量である。
【0036】
また、本発明におけるポリフェニレンスルフィド酸化物の繊度は、10〜50dtexの範囲であることが好ましい。この繊度のポリフェニレンスルフィド酸化物を得るためには、原料とするポリフェニレンスルフィド繊維は、7.7dtex〜38.5dtexのものを用いればよい。これは、ポリフェニレンスルフィド繊維の酸化反応においては、繊維自体の膨張・収縮は起きず、繊維の比重のみが変わるからである。
【0037】
これ以上の繊度であれば、ポリフェニレンスルフィドの酸化反応が十分に進行しない。また、組紐・保護スリーブにしたときにおいては耐摩耗性が要求されため、この耐摩耗性に優れた組紐・保護スリーブを得るために、好ましくは10dtex〜50dtexがよく、さらに好ましくは、10dtex〜30dtexであり、より好ましくは、10dtex〜20dtexである。また、この範囲であれば、ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維の原料となるポリフェニレンスルフィド繊維を紡糸する際の繊度むらが生じにくく、紡糸安定性に優れる。
【0038】
これまで述べてきた、ポリフェニレンスルフィド繊維の酸化反応では、ポリフェニレンスルフィド繊維のその具体的形態は問わないため、その原料として、マルチフィラメント、組紐状、スリーブ状のポリフェニレンスルフィド繊維を酸化しても良い。
【0039】
酸化反応における取扱性の観点から組紐状で酸化するほうが好ましい。
【0040】
ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維は、長繊維でも短繊維を用いた紡績糸からなるものであっても良い。
【0041】
ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維は、酸化反応の後に組状体にする場合においては、公知の方法で組状体にされる。組数は、4組、8組、16組、24組、32組などいかなる組数であっても良い。
【0042】
このようにして得られた、ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維は、実質的に融解熱量を持たないことから、電気自動車やハイブリッド車のモーターのような過酷な条件においても、長期にわたり全く溶融することなく安定に使用できることから、発熱する部分に使用される組紐として有用であり、特に、電気配線用保護スリーブ用材料として非常に有用である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0044】
(1)示差走査熱量(DSC)測定条件
示差走査熱量測定装置(RDC220(セイコー・インスツルメンツ))を用い、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分とし、サンプル量5mgを秤量し、温度プログラム:30℃から340℃まで10℃/分で昇温後、2分間ホールドし、340℃から30℃まで10℃/分で降温後、2分間ホールドした後、30℃から500℃まで10℃/分で昇温した時のDSCカーブより、融解熱量を測定した。
【0045】
(2)熱重量(TGA)測定条件
示差熱/熱重量同時測定装置(DTG−50(島津製作所))を用い、窒素雰囲気下、サンプル量約10mgを精秤し、白金製セル容器上にて、温度プログラム:30℃から900℃まで10℃/分で昇温した時のTGAカーブより、熱重量変化を測定した。測定前のポリアリーレンスルフィド酸化物の重量に対する測定後の残存炭化物の重量%を算出し、残存炭化物量とした。
【0046】
(3)広角X線回折測定条件
X線回折装置(RINT2100(リガク))を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にてX線回折を測定し、観測される全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比(%)により、結晶化度を算出した。
【0047】
(4)電気絶縁特性
得られた糸を1cmに切り取り、両端に電極をつけ 電気化学アナライザー66B(ビー・エー・エス社製)を用いて抵抗測定を行った。得られた抵抗値と糸の断面積から体積固有抵抗値を求め、電気絶縁特性を評価した。
【0048】
(5)耐扁平化
JIS L1096に準じて製紐後の円筒状保護スリーブの圧縮弾性率を求め、次のとおりランク付けした。
○;80%以上 △;50%以上 ×;50%未満
【0049】
(6)耐熱老化性
円筒状の組紐構造に編組された保護スリーブを200℃の熱風炉に入れ、100時間熱処理した後に熱風炉から取り出し、放冷後に保護スリーブを上述の1編組単位を構成するヤーン又はコードの状態に解体して強力を測定する。
強力測定はJIS L1013に準じて行い、耐熱老化性は次の式により求める。
耐熱老化性=(熱処理後のコード強力/熱処理前のコード強力)×100(%)
90%以上のものを○、それ以下のものを×とした。
【0050】
(7)耐熱性(表面溶融性)
繊維の耐熱性を評価する目的で、250℃、6時間における繊維表面の溶融性を評価した。250℃オーブンの中に、6時間いれ、光学顕微鏡にて観察を行い、表面が溶融していないものを○、溶融現象が観察されたものを×とした。
【0051】
参考例1
撹拌機付きの1000Lのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム82.7kg(700モル)、96%水酸化ナトリウム29.6kg(710モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を114.4kg(116モル)、酢酸ナトリウム17.2kg(210モル)、及びイオン交換水100kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水143kgおよびNMP2.8kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0052】
次に、p−ジクロロベンゼン103kg(703モル)、NMP90kg(910モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水12.6kg(700モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を200kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
【0053】
80℃に加熱したスラリー(B)200kgを50kg/1バッチスケールで、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂(粗PPS樹脂(C))50kg得た。
【0054】
参考例1で得られた粗PPS樹脂(C)20kgにNMP約50リットルを加えて85℃で30分間で洗浄し、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別した。得られた固形物を50リットルのイオン交換水で希釈して、70℃で30分撹拌後、80メッシュふるいで濾過して固形物を回収する操作を合計5回繰り返した。このようにして得られた固形物を、130℃で熱風乾燥し、乾燥ポリマーを得た。
【0055】
参考例2
参考例1で得られたPPS樹脂を、図1に示した小型溶融紡糸装置を用い、紡糸温度320℃、吐出量5.0g/分、引き取り速度100m/分にて巻き取り、紡糸し、ポリフェニレンサルファイド繊維(繊度250dtex、15フィラメント、単糸繊度16.6dtex)を得た。得られた、ポリフェニレンサルファイド繊維2本を引き揃え、製紐機を用い8打ちで組みあげ、組みピッチ14回/10cmである組紐を得た。
【0056】
実施例1
得られた組紐6.0kgをポリプロピレン製180Lの反応容器に入れ、酢酸35.2kg、硫酸5.7kgを加えた。反応容器内を窒素で置換をした後に、この反応混合溶液を60℃まで2時間かけて昇温させた。引き続き、35%過酸化水素水 5.5kgを2時間かけて滴下し、滴下終了後、60℃に温度を保ちながら8時間反応させた。反応容器を冷却した後に、反応溶液内の組紐を取り出し、水50Lで4回洗浄を行い、60℃の加熱乾燥機内で20時間乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を得た。DSCにて、融解熱量を測定したところ、融解熱は観察されなかった。また、広角X線回折の測定を行ったところ、結晶化度は53%であった。これを実施例1の評価に供した。得られた組みひもの性能評価として、耐熱劣化性、耐扁平化、耐熱性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
実施例2〜3、比較例1
参考例2での紡糸において、口金を変更すること以外は、同様にポリフェニレンスルフィド繊維、ポリフェニレンスルフィド酸化物繊維を作り、実施例2〜3、比較例1用の組紐を得た、これらの性能評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0058】
比較例2
参考例2で得た、組みひもをそのまま比較例2の組紐とし、性能評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0059】
比較例3
ポリエステル繊維(株式会社クラレ製)550dtex/96fを用いて、実施例1と同様に組紐を作り、性能評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】小型溶融紡糸装置の概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1 2軸押出機
2 原料供給口
3 真空ベント
4 ギアポンプ
5 口金
6 冷却風
7 オイリングローラー
8 ゴデットローラー
9 巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリフェニレンスルフィド酸化物繊維からなり、その単糸繊度が10〜50dtexあることを特徴とする組紐。
【請求項2】
広角X線回折の測定における結晶化度が30%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下である請求項1記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維からなり、その単糸繊度が10〜50dtexであることを特徴とする組紐。
【請求項3】
示差熱走査熱量(DSC)の測定において、融解熱量が実質的に認められない請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維であることを特徴とする組紐。
【請求項4】
熱重量(TGA)の測定において残存炭化物が実質的に認められる請求項1から3のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド酸化物繊維であることを特徴とする組紐。
【請求項5】
単糸繊度が10dtex〜20dtexであることを特徴とする、請求項1から4いずれか1項記載のポリフェニレンスルフィド繊維からなる組紐。
【請求項6】
請求項1から6項いずれか1項記載の組紐からなる電気絶縁スリーブ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−179918(P2009−179918A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22039(P2008−22039)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】