組織の修復のための固定デバイス
組織の修復のための固定デバイス、例えば、縫合糸、サージカルアロー、ステープル、ダート、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネール、リベット、またはとげのあるデバイスは、血管新生物質、in vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質、血管新生物質を生成することができる組織工学で作られた物質のうちの少なくとも1つを含む。好ましい形態において、物質は、あらかじめ決められた疎水性を有するポリマーマトリクスに組み込まれ、血管新生物質、例えば酪酸またはヒドロキシ酪酸あるいはこれらの塩の制御された放出を可能にする。血管新生物質を含むポリマーマトリクス組成物および組織の修復の方法も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年6月13日に出願された米国特許出願第61/061317号のPCT国際出願であり、その開示はその全体において、参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、組織の修復を改善する固定デバイスの提供、および医療処置におけるこのようなデバイスの使用に関する。特に、本発明は、限られた血管の供給を有する、または血管の供給を有さず、優れた組織の修復のために血管形成が望ましいまたは必要である、組織の固定に関する。
【背景技術】
【0003】
広い範囲の固定デバイスが、侵襲的な医療処置における使用のために存在する。これらのデバイスは、手術および他の医療処置の間ならびに後に、再結合、再付着、保持、またはそれ以外の組織の修復において用いるために使用されてもよい。
【0004】
手術後の医療従事者の目的は、例えば、処置部位全体の迅速な治癒および組織の修復を誘発することである。組織の修復を促進する因子は、修復細胞および他の因子が、問題となっている組織を透過することができる大きさである。これは、換言すると、血管が部位内および周囲において形成することができる大きさに依存している。
【0005】
あらかじめ存在する血管からの新しい血管の形成は、血管形成(angiogenesis)として知られている。血管形成は、人体の発育、特に胚発育の間の必要不可欠なプロセスである。ヒトの胚の発育は、脈管形成(vasculogenesis)のプロセスにおいて、血島の血管構造への融合と一緒に始まり、続けて、脈管形成の間に形成された血管から生じる新しい血管と一緒に、血管形成が始まる。しかし、血管形成は、通常体が大人になると徐々になくなる。女性の生殖器系を除いて、大人の血管形成は、損傷または炎症後の組織の修復の間に主に起こるが、これは、腫瘍成長、関節リウマチ、乾癬、および糖尿病などの大人の病的状態とも関係している。
【0006】
血管形成に関わる主な細胞のタイプは、微小血管内皮細胞である。損傷に続いて、および/または血管新生因子に応じて、元の血管における内皮細胞の基底膜が分解され、内皮細胞プロテアーゼによって、プロセスは介在される。一度基底膜が分解されると、内皮細胞は血管周囲の空間に移動する。発芽の基部における細胞は急に増殖し、移動した細胞と交換する。その後、新しい基底膜が形成され、2つの隣接する発芽は一緒に融合し、環を形成する。続けて、内腔が形成し、血液が流れ始める。
【0007】
内皮細胞は、新しい微小血管網の形成のための、全ての必要な情報を発現させることができるため、血管形成に関わる中心の細胞タイプである。これは、新しい血管を形成するために、多くの異なる細胞タイプと協力して働くことによって達成される。いずれの理論によって束縛されることを望まないが、これらの他の細胞タイプは、内皮細胞を含む血管壁の主要な細胞成分の増殖および移動を刺激する増殖因子およびサイトカインを発現することによって、血管形成を促進してもよい。
【0008】
治療的な血管形成は、血管新生因子の、またはある場合において、虚血性/無血管組織における血管の発達を強化または促進するために、これらの因子をエンコードする遺伝子の、臨床的な使用である。治療的な血管形成のための理想的な薬剤は、安全であり、有効であり、安価であり、投与が容易なことである。所定の期間、制御された方法において血管因子を提供することも、非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際出願公開WO 90/11075号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Newsham-West R、Nicholson H、Walton M、Milburn P、Long-term morphology of a healing bone tendon interface: a histological observation in a sheep model、Journal of Anatomy、Vol. 210、2007年、318-327頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、周囲の組織に血管形成を促進する血管新生因子を放出する、医療デバイスを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、周囲の組織における組織の修復を促進し、血管の拡張を促進する因子を放出する固定デバイスを提供することである。固定デバイス、例えば縫合糸またはサージカルテープ(surgical tape)を使用する、このような因子または薬理活性薬剤の運搬は、縫合糸またはサージカルテープ、および運搬デバイスの固定の両方として機能することができる特定の特性を有するための、縫合糸またはサージカルテープを必要とする。例えば、縫合糸は、縫合糸としてのその本来の役割において機能するために、十分な強度、結び目および滑り特性を有していなければならない。生物学的薬剤運搬デバイスとして、縫合糸は、搭載中にいかなる方法においても活性薬剤が変化しないように、その構造内に活性薬剤を組み込むことができなければならない。活性薬剤は、使用前に通常の貯蔵ができるように、構造内で安定でなければならない。一度in vivoに入ると、活性薬剤は、その治療特性を最大化し、不利な反応を最小化するために、特定の量で特定の期間放出されなければならない。限られた血管の供給を有する、または血管の供給を有さない特定の組織、例えば半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、腱、骨、および虚血組織の標準の縫合糸を使用する縫合糸の修復は、問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様において、本発明は、血管新生物質、またはin vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質のうちの少なくとも1つを含む、組織の修復のための固定デバイスに関し、血管新生物質は、ポリプロピレンの混合物である。
【0014】
一実施形態において、血管新生物質には、酪酸、酪酸塩、α-モノブチリン、α-ジブチリン、β-ジブチリン、トリブチリン、またはヒドロキシブチレートのうちの1つまたは複数が含まれる。別の実施形態において、酪酸塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩から選択される。さらに別の実施形態において、血管新生物質には、以下の血管新生因子のうちの1つまたは複数が含まれる: 自己、異種、組み換え、および合成形態を含む血管新生ペプチド増殖因子(血管内皮増殖因子VEGF 121、165、189および206を含む); 線維芽細胞増殖因子FGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子); 形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β); 血小板由来増殖因子PDGF-AA、PDGF-BB、およびPDGF-AB; 血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF); 低酸素誘導因子-1(HIF-1); 拡散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られる); 胎盤増殖因子(PIGF)-1、-2; 腫瘍壊死因子α(TNF-α); ミッドカイン; プレイオトロフィン; インスリン様増殖因子-1; 表皮増殖因子(EGF); 内皮細胞増殖因子(ECGF); 内皮刺激血管新生因子(ESAF); 結合組織増殖因子(CTGF); CYR61; アンギオジェニン; またはアンギオトロフィン。
【0015】
さらなる実施形態において、血管新生物質には、トロンビン、ヘパリン、およびこれらの物質の自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含む、1つまたは複数の血栓分解産物が含まれる。さらなる実施形態において、血管新生物質には、ヒアルロナン、副甲状腺ホルモン、アンジオポイエチン-1、del-1、エリトロポイエチン、fas(CD95)、ホリスタチン、マクロファージ遊走阻止因子、単球走化性タンパク質-1、およびニコチンアミドのうちの1つまたは複数が含まれる。一実施形態において、血管新生前駆体物質には、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含むフィブリン、ならびにヒアルロン酸のうちの1つまたは複数が含まれる。
【0016】
別の実施形態において、固定デバイスは、少なくとも1つの外部表面に、血管新生物質、血管新生前駆体物質、または組織工学によって作られた物質のうちの1つまたは複数でコートされている。さらに別の実施形態において、固定デバイスは、その少なくとも1つの領域に染み込ませられた、血管新生物質、血管新生前駆体物質、および組織工学によって作られた物質のうちの少なくとも1つを有する。さらなる実施形態において、固定デバイスには、縫合糸、サージカルアロー(surgical arrow)、ステープル、ダート(dart)、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネール(nail)またはリベット、あるいはとげのある手術用デバイスが含まれる。
【0017】
別の態様において、本発明は、その臨床的必要性において、固定デバイスを哺乳類生物内の組織欠損にインプラントする工程を含む、哺乳類生物の処置方法に関し、固定デバイスは、血管新生物質またはin vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質のうちの少なくとも1つを含み、前記血管新生物質は、ポリプロピレンとの混合物である。
【0018】
一実施形態において、固定デバイスがインプラントされる組織は、無血管組織である。別の実施形態において、組織は半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、骨、または虚血組織である。
【0019】
さらに別の態様において、本開示は組成物に関する。組成物には、ポリプロピレンと、血管新生を促進するために十分な治療上有効な量において、水溶性または水混和性の血管新生物質あるいは血管新生前駆体とのブレンドが含まれる。一実施形態において、血管新生物質には、酪酸、ヒドロキシ酪酸、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩およびリチウム塩、ならびに前記酸のポリマー、またはモノブチリンのうちの1つまたは複数が含まれる。さらに別の実施形態において、組成物は、最大約12質量%の血管新生物質を含む。
【0020】
本発明のさらなる特徴、態様、および利点は、本発明の様々な実施形態の構造および操作と同様に、以下に添付する図を参照して記載される。
【0021】
本明細書に組み込まれ、一部を形成する、添付する図は、本発明の実施形態を例示し、記載と一緒に、本発明の原理を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、半月板軟骨の赤-白区域における断裂部を例示する。
【図2】図2は、処置された半月板で実施された、生体力学的な試験の結果を示す。
【図3】図3は、5-0サイズおよび6-0サイズのモノフィラメントからの、ブチレートの累積放出速度を示す。
【図4】図4は、No. 2の縫合糸の2つの異なるバッチからの、ブチレートの放出速度を示す。
【図5】図5は、サイズNo. 0の縫合糸の3つの異なる配置からの、酪酸ナトリウムの放出速度を示す。
【図6】図6は、異なるポリマー組成物からの、酪酸の放出速度を示す。
【図7A】図7Aは、羊の肢の膝蓋腱の修復手順を例示する。
【図7B】図7Bは、羊の肢の膝蓋腱の修復手順を例示する。
【図7C】図7Cは、羊の肢の膝蓋腱の修復手順を例示する。
【図8】図8は、図7A〜7Cに示された修復後の、腱の治癒の機械的な試験の結果を示す。
【図9A】図9Aは、腱と骨の界面で修復された、対照の縫合糸および酪酸を含む縫合糸を例示する。
【図9B】図9Bは、腱と骨の界面で修復された、対照の縫合糸および酪酸を含む縫合糸を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において使用する場合、用語「血管新生物質」は、1つまたは複数の血管新生因子を含む物質だけでなく、あらかじめ存在する血管物質の血管膨張を誘起することによって、血管の供給を刺激する物質も含むと理解される。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「血管新生因子」は、直接的または間接的に血管形成を促進する物質、例えば、in vivoで分解して血管新生物質を形成することができる物質を含むと理解される。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「血管形成」は、存在する血管からの新しい血管の成長を含むと理解される。
【0026】
上記で述べた通り、血管新生物質は、1つまたは複数の血管新生因子を含む。本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第一の分類は、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含む、血管新生ペプチドならびにタンパク質増殖因子を含む。この分類には、血管内皮増殖因子ファミリー、特にVEGF 121、165、189および206; 線維芽細胞増殖因子ファミリー、特にFGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子); 形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β); 血小板由来増殖因子、特にPDGF-AA、PDGF-BBおよびPDGF-AB; 血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF); 低酸素誘導因子-1(HIF-1); 拡散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られる); 胎盤増殖因子(PIGF)-1、-2; 腫瘍壊死因子α(TNF-α); ミッドカイン; プレイオトロフィン; インスリン様増殖因子-1; 表皮増殖因子(EGF); 内皮細胞増殖因子(ECGF); 内皮刺激血管新生因子(ESAF); 結合組織増殖因子(CTGF); CYR61; アンギオジェニン; またはアンギオトロフィンが含まれる。
【0027】
本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第二の分類は、血栓分解産物、例えば、トロンビンおよびヘパリン、ならびにこれらの物質の自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含む。
【0028】
本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第三の分類は、以下を含む酪酸に基づくものを含む:
- 酪酸(ブタン酸、C4H8O2)およびナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、ならびにリチウム塩を含む、酪酸塩
- 酪酸誘導体および酪酸残基を含むポリマー
- α-モノブチリン(1-グリセロールブチレート; 1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ブタノエート; C7H14O4)
- α-ジブチリン(1,3-グリセロールジブチレート; 1,3-(2-ヒドロキシプロピル)ジブタノエート; C11H20O5)
- β-ジブチリン(1,2-グリセロールジブチレート; 1,2-(3-ヒドロキシプロピル)ジブタノエート; C11H20O5)
- トリブチリン(グリセロールトリブチレート; 1,2,3-(プロピル)トリブタノエート; C15H26O6)
- ヒドロキシブチレートおよびヒドロキシ酪酸残基を含むポリマー。
その開示が全体において、参照により本明細書に援用される、PCT国際出願公開WO 90/11075号に開示されている化合物も、明確に本明細書の範囲に含まれる。これらは以下の一般式を有する:
【化1】
- ここで、XはO、NH、S、またはCH2であり、R1は、飽和または不飽和であり、血管新生活性を妨げない1つまたは複数の置換基で非置換または置換された2〜10Cのアルキルまたはアシルであり、前記置換基は、OH、OR、SH、SR、NH2、NHR、NR2およびハロからなる群から選択され、ここで、それぞれのRは独立に低級アルキル(1〜4C)であり; それぞれのR2およびR3は、独立にH、PO3-2、または上記で規定したアルキルあるいはアシルであり、あるいは式1において、R2とR3は一緒にアルキレン部分となり、あるいはOR2およびOR3はエポキシドを形成し、その量は前記対象において血管形成を刺激するために有効である。
- ここで、R2およびR3はアシルまたはHである
- ここで、前記アシル基は、CH3(CH2)n1COであり、ここでn1は0〜8の整数であり; またはネオペントイルあるいはシクロヘキシルカルボニルである
- ここで、式1の化合物において、R2、R3は一緒に
【化2】
であり、ここで、n2は0〜7の整数である
- R2およびR3のうちの1つがHであり、他がアルキル(1〜10C)である、上記で述べた方法
- XがOである、上記で述べた方法
- R1がアシル(2〜6C)である、上記で述べた方法。
【0029】
本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第四の分類は、炎症性メディエータを含む。これらの物質は、血管形成を促進する代わりに、組織の炎症を促進する。この分類に含まれるものは、腫瘍壊死因子α(TNF-α); プロスタグランジンE1およびE2; インターロイキン1、6、および8; ならびに酸化窒素である。
【0030】
いずれの分類にも含まれない、完全に異なる他の血管新生因子が知られている。この群に含まれるものは、ヒアルロナン、副甲状腺ホルモン、アンジオポイエチン-1、del-1、エリトロポイエチン、fas(CD95)、ホリスタチン、マクロファージ遊走阻止因子、単球走化性タンパク質-1、トランスフェリン(transferring)、およびニコチンアミドである。
【0031】
本発明の固定デバイスは、適切に、血管新生前駆体物質を含み、これは、in vivoで分解して血管新生物質を形成することができる。本発明による血管新生前駆体物質には、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含むフィブリン、およびヒアルロン酸が含まれる。有利な血管新生特性を有することが分かった、フィブリンの分解フラグメントには、フラグメントDおよびEが含まれる。
【0032】
代わりに、本発明の固定デバイスは、組織工学によって作られた物質を含んでもよく、この組織工学によって作られた物質は、血管新生物質を生成することができる。本発明の範囲に含まれる、組織工学によって作られた物質には、第一の分類の血管新生因子(上記参照)に含まれる血管新生因子を含む、血管新生物質を生成することができる物質が含まれる。本発明による組織工学によって作られた物質には、制限なく、有標製品、例えばDERMAGRAFTTMおよびTRANSCYTETMが含まれる。
【0033】
有利には、血管新生物質は、問題とする哺乳類生物の治療上有効な量で存在する。好ましくは、血管新生物質は、ヒトにとって治療上有効な量で存在する。本明細書において使用する場合、用語「治療上有効な量」は、血管形成を引き起こすまたは血管形成の速度を増加させるために十分であることを意味すると理解される。治療上有効な量を構成するものは、血管新生物質中に含まれる血管新生因子に特有である。例えばVEGFおよびFGF-2の場合、固定デバイスは、デバイス1mgあたり最大50μg、好ましくは25μg/mg未満の因子を含むべきである。
【0034】
用語「固定デバイス」には、組織の修復における、再結合、再付着、保持、またはそれ以外の組織の修復において用いるために使用される、任意のデバイスが含まれる。このようなデバイスの一覧には、網羅的ではないが、縫合糸、サージカルアロー、ステープル、ダート、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネール、リベットまたはとげのあるデバイスが含まれる。本発明の固定デバイスには、異なる組織タイプ、例えば靱帯と骨または腱と筋肉の界面において血管形成を促進するために使用される、カフ(cuff)などの増強デバイスも含まれる。
【0035】
血管新生物質を本発明によるデバイスに組み込む方法には、以下が含まれる。
【0036】
本発明による固定デバイスは、固定デバイスの製造後に、血管新生物質を染み込ませられてもよい。染み込みは、血管新生物質の、最大で固定デバイス全体にわたる分布をもたらしてもよい。血管新生物質の分布は、均一であっても不均一であってもよい。後者の場合、固定デバイスは、より高い濃度の血管新生物質を含む、局部集中した領域を含む。好ましくは、染み込みは、血管新生物質の、外部表面のうちの少なくとも1つからデバイスの中に広がる少なくとも1つの領域の存在をもたらす。より好ましくは、染み込みは、血管新生物質の、固定デバイス全体にわたる分布をもたらす。血管新生物質が、デバイスで均一または不均一に分布するかどうか、および不均一な場合に分布プロファイルがどのような形態を有するかは、達成される効果に依存する。特に、分布プロファイルは、周囲の組織への血管新生物質の放出プロファイルに強く影響するだろう。
【0037】
本発明によって使用されてもよい染み込みの方法には、これに制限されないが、適切な場合、真空下での浸漬(dipping)、含浸(soaking)が含まれる。
【0038】
第二の実施形態において、血管新生因子、物質または前駆体は、固定デバイスの主な繊維に物理的に組み込まれてもよい。それゆえ、適切には、血管新生物質は、固定デバイスの繊維内に離れた区域を構成する。好適には、血管新生物質のスレッド(thread)またはフィラメント(filament)は、固定デバイスの主な繊維を含む繊維状またはフィラメント状の物質と一緒に紡がれまたは織られてもよい。例えば、血管新生物質のスレッドは、縫合糸を生成するために使用される、ポリエチレンテレフタレートまたは超高分子量ポリエチレンの繊維と一緒に編まれてもよい。代わりに、血管新生物質は、固定デバイスの主な繊維の物質と一緒に、共押出しされてもよい。
【0039】
第三の実施形態において、血管新生物質は、固定デバイスの製造後に固定デバイスの外部表面の少なくとも1つに直接コートされるか、または代わりに、その放出が制御され得る担体の中に組み込まれ、その後固定デバイスに直接コートされてもよい。
【0040】
好ましくは、血管新生因子、物質または前駆体は、コートされるか、または固定デバイス内の離れた部品あるいは区域として形成され、これらは最初に疎水性ポリマーと一緒に処方されて、因子および疎水性ポリマーを含むモノリシックマトリクス(monolithic matrix)からの拡散メカニズムによって、制御された放出条件下で運搬される。したがって、例えば、水混和性または水溶性の血管新生物質を、本来疎水性であるポリマーマトリクスに組み込むことによって、血管新生物質の放出速度を制御することができる。水は物質を可溶化するために必要であり、これにより続けて物質を放出する。ポリマーマトリクスの疎水性の程度は、水の透過速度を制御し、それゆえ血管新生物質の放出速度を制御する。
【0041】
好ましくは、疎水性ポリマーマトリクスはポリプロピレンである。典型的には、血管新生物質は、ポリプロピレンとブレンドされて混合物を形成し、その後モノフィラメントに引き込まれる。モノフィラメントは、ねじれる、または編まれることができ、マルチフィラメントを形成する。好ましくは、血管新生物質とポリプロピレンモノフィラメントの混合物は、他のポリマー繊維またはモノフィラメント(これに制限されないが、超高分子量(UHMW)ポリエチレンまたはポリエステル繊維あるいは縫合糸を形成するためのモノフィラメントを含む)と一緒に、共に編まれる。
【0042】
血管新生物質の放出速度に影響する因子には、血管新生物質の選択、ポリプロピレンマトリクスとブレンドされる血管新生物質の量(血管新生因子負荷としても知られる)、およびモノフィラメントの直径が含まれる。
【0043】
本発明の目的のために、疎水性ポリプロピレンマトリクスは、酪酸または酪酸塩と一緒に使用される。酪酸の塩は、本質的に安定であり、低い揮発性を有する。疎水性ポリプロピレンマトリクスは、適切な水溶性または水混和性を有する任意の血管新生物質と一緒に使用してもよい。
【0044】
血管新生物質としての酪酸(またはこれらの塩)の有効な使用は、これまで実証されていなかった。これには2つの考えられる理由が存在する。第一は、酪酸が特に刺激臭を有しており、使用するのに不愉快なことである。第二の理由は、酪酸が、分解されて効果のない代謝産物になる前に、効果的に血管形成を促進できないくらい迅速に生分解されることがわかっていることである。
【0045】
本出願人らは、酪酸または水溶性/水混和性のこれらの塩と、ポリプロピレンを一緒に処方することによって、知られている欠点を避けられることを見出した。血管新生物質は、制御された用量の速度で運搬され、悪臭もない。
【0046】
ヒドロキシ酪酸および誘導体、塩、ならびにこれらのポリマー、ならびにモノブチリンなどのブチリン誘導体も、ポリプロピレンと一緒に処方されてもよい。
【0047】
したがって、本発明の別の態様によると、血管形成を促進するために十分な治療上有効な量において、ポリプロピレンと、水溶性または水混和性の血管新生物質あるいはこの前駆体とのブレンドを含む組成物を提供する。
【0048】
本発明の目的のために、組成物は、血管形成を促進するために治療的に十分有効な量で、ポリプロピレンと酪酸または水溶性あるいは水混和性のこの塩とのブレンドを含む。
【0049】
本発明の組成物に好適な、水溶性または水混和性の酪酸あるいはヒドロキシ酪酸の誘導体には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩が含まれる。
【0050】
ポリプロピレンは、血管新生物質の、好適には最大約12質量%、より好適には最大約7質量%で混合またはブレンドされる。
【0051】
血管新生因子を含むポリプロピレンは、任意の固定デバイスのためのコーティングとして使用することができる。
【0052】
血管新生物質は、固定デバイスの全ての外部表面にコートされてもよい。用いられてもよいコーティング法には、ディップコーティングおよびスプレーコーティングが含まれる。
【0053】
本発明は、組織欠損に本発明によるデバイスをインプラントする工程を含む、損傷した組織の修復のための方法をさらに提供する。
【0054】
好ましくは、固定デバイスがインプラントされる組織は、微小な血管である。より好ましくは、この組織は半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、腱、骨、または虚血組織である。本発明の固定デバイスは、異なる組織のタイプ、例えば人体と骨の間、または筋肉と腱の間で使用されてもよい。
【0055】
本発明を、以下の実施例によって例示する。
【実施例】
【0056】
実施例1
再吸収可能ではなく、それゆえ血管形成に十分な効果のない、O Ti-CronTMの編まれた縫合糸を、酪酸またはモノブチリンのどちらかで染み込ませた。酪酸を染み込ませた縫合糸は、21日間、1日あたり、縫合糸1cmあたり25〜3000ng、または縫合糸1.4mgあたり25〜3000ngの範囲の酪酸の放出速度を与えた。縫合糸を、少なくとも7日間、酪酸の貯蔵液にそれらを含浸することによって染み込ませた。モノブチリンを染み込ませた縫合糸は、7日間、1日あたり、縫合糸1cmあたり25〜3000ng、または縫合糸1.4mgあたり25〜3000ngの範囲のモノブチリンの放出速度を与えた。手術の前に、縫合糸を貯蔵液から除去し、手術用の消毒綿で2回拭いた。
【0057】
Blue Faced Leicester Cross Suffolk Tubsを、この実施例のために用いた。これは、大きな長骨を有するかなり強壮な羊の品種である。解剖学的に、羊の骨は、ヒトの骨に極めて近く、骨植接置換および治療のためのモデルとして一般に使用されている。縫合糸をインプラントするための手術の手順は、標準的な内側関節切開によってアクセスする半月板を含んだ。手術用メスを使って、全厚み8mmの縦方向の断裂を、内側半月板のうちの一つの赤色-白色区域に作り出した。
【0058】
断裂をその後、(i) 上記で記載した通り、酪酸で染み込まされたO Ti-Cron縫合糸、または(ii) 上記で記載した通り、モノブチリンで染み込まされたO Ti-Cron縫合糸、あるいは(iii) 酪酸あるいはモノブチリンを含まない対照の無処理O Ti-Cronを使用して、縫合した。使用した縫合手法は、アウトサイド-イン(outside-in)の水平なマットレス縫合である。その後、関節を塞ぎ、動物を回復させた。
【0059】
その後、動物を、すぐに関節における重量を測り、6週間の時点で終えた。
【0060】
添付する図の図1は、上記で作製した半月板軟骨の赤色-白色区域を通して切った断裂を例示する。図1はヘマトキシリンおよびフロキシン染色組織切片を示す。修復した断裂を、点線(1)によって大まかに示しており、これは赤色-白色断裂である。縫合部を切片(3)で見ることができる。内皮細胞および新しく形成された血管が移動する形態における血管形成(2)を、断裂の治癒と同様に観察することができる。
【0061】
それは、この実験の成功の最適な指標である血管形成によって得られる形態であり、上記で議論した通り、血管形成は存在する血管からの新しい血管の形成である。これは、血管形成が、赤色領域において存在する血管から外への放射で観察できるだけであり、事実、観察されるものは、移行区域を通して赤色区域から白色区域へと進む新しい血管の安定した前端(2)である。
【0062】
図2を参照すると、生体力学的評価を、in vivoで剖検6週間後の処置された半月板で行った。試験は、半月板を周囲で断裂し、修復した領域の平均断裂負荷ならびに平均断裂エネルギーを測定することに関するRoeddeckerら(1994)によって行われた実験を基にした。
【0063】
最初に、約5〜10mmの切開口を、それぞれの半月板の後角に作製して、2つの「自由な末端(free end)」を生成した。この切開口を、半月板の修復領域にそろえ、そして接触するように位置決めした。半月板の完全に修復した領域を同定することは、時として困難であり、そのため切開口は最善の判断によって位置決めされた。修復を開始するために使用した縫合糸を、半月板の周辺で露出させ、縫合糸の結び目を除去した。
【0064】
試験を、Instron 5566の材料試験機を使用して行った。それぞれの半月板の「自由な末端」を、鉗子グリップを使用してつかみ、試験を通して100N容量負荷細胞を、生じた断裂負荷を測定するために使用した。一度完了すると、力/変位排出曲線から平均断裂負荷を、2つのカーソルを使用して同定し、力/変位曲線のこの同じ領域の下で、断裂エネルギーを自動的に計算した。
【0065】
修復が未処理の縫合糸で開始された3つの対照の半月板を試験し、縫合糸が酪酸で浸漬された3つを試験し、縫合糸がモノブチリンで浸漬された3つを試験した。
【0066】
血管新生因子で浸漬された縫合糸は、実質的に未処理の対照のものより修復組織の強度を増加させた。正常な半月板の組織は、14N/mmの断裂強度を有する。
【0067】
実施例2(モノフィラメントの縫合糸)
ポリプロピレン(ECM Plastics)および酪酸ナトリウム(Alfa Aesar、純度: 99%)を、Leistritzの二軸押出機内で混合した。4つの混合物を作製し、それぞれ2.5、5、7.5、10質量%の酪酸ナトリウムを含んだ。混合物を押し出してロッドを形成し、その後、さらにペレットを形成するために加工した。その後、ペレットをUSPサイズ5-0のモノフィラメントに押し出した(USP 29、2006で定義されたUSPサイズ)。5質量%の混合物から形成されたペレットは、USPサイズ6-0のモノフィラメントにも押し出した。
【0068】
モノフィラメントの全酪酸ナトリウム含有量を、液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定し、続けて90℃で、脱イオン水中で抽出した。モノフィラメントからの放出速度および酪酸ナトリウム(NaB)の全放出を決定するために、20インチの長さのモノフィラメントを、37℃でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れた。ブチレートの存在のためのPBSの分析を、28日間にわたって毎日HPLCによって行った。それぞれの分析後、PBSを新鮮なPBSと交換した。
【0069】
5-0モノフィラメントの酪酸ナトリウム含有量は、1.9から7.5質量%の範囲であることが分かった。6-0モノフィラメントは、4.15質量%の全酪酸ナトリウム含有量を有することが分かった。図3は、5-0モノフィラメントからの累積放出速度を例示する。5-0モノフィラメントからの酪酸ナトリウムの放出速度は、縫合糸の直径および酪酸ナトリウムの初期濃度の両方に依存することがわかった。全ての場合において、酪酸ナトリウムの放出は、約28日後になくなった。
【0070】
実施例3(編まれた縫合糸)
ポリプロピレン(ECM Plastics)および酪酸ナトリウム(Alfa Aesar、純度: 99%)を、Leistritzの二軸押出機内で混合した。5および7.5質量%の酪酸ナトリウムを含む混合物を作製した。混合物を押し出してロッドを形成し、その後、さらにペレットを形成するために加工した。その後、ペレットをUSPサイズ5-0のモノフィラメントおよびUSPサイズ6-0のモノフィラメントに押し出した。
【0071】
その後、5質量%の酪酸ナトリウムの3つの末端のUSPサイズ6-0のモノフィラメントを、超高分子量ポリエチレンフィラメントと編んで、混合されたNo. 2サイズの編まれた縫合糸を形成した。No. 0サイズの編まれた縫合糸も、3つの異なるモノフィラメント/ポリエチレンの混合物を使用して製造した。3つのサイズ0の縫合糸は、超高分子量ポリエチレンフィラメントと編まれた、7.5質量%の酪酸ナトリウムのUSPサイズ5-0のモノフィラメントの1つまたは2つの末端か、または5質量%の酪酸ナトリウムのUSPサイズ6-0のモノフィラメントの2つの末端のどちらかを有した。
【0072】
縫合糸の全酪酸ナトリウム含有量を、液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定し、続けて90℃で、脱イオン水中で抽出した。縫合糸からの放出速度および酪酸ナトリウムの全放出を決定するために、重さを量ったそれぞれの長さの縫合糸を、37℃でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れた。ブチレートの存在のためのPBSの分析を、28日間または56日間にわたってHPLCによって行った。それぞれの分析後、PBSを新鮮なPBSと交換した。
【0073】
図4は、No. 2の縫合糸の2つの異なるバッチからのブチレートの放出速度を例示する。2つのバッチは、最大約21日間、類似の放出速度を与え、縫合糸の製造および酪酸ナトリウムの放出の両方の一致を示した。
【0074】
実施例4
図5は、実施例3のNo. 0のサイズの縫合糸の3つの配置からの酪酸ナトリウムの放出速度を例示する。縫合糸中の組成物、サイズ、およびモノフィラメントの数は、縫合糸からの酪酸ナトリウムの放出速度および全放出の両方に影響することがわかった。
【0075】
実施例5
酪酸およびその塩を、異なるポリマー組成物と処方し、PBS中への放出速度を決定した。
【0076】
実施例5a: O Ti-Cronから作製した縫合糸を、酪酸の溶液(50000μg cm-3)中に含浸した。66時間後、縫合糸を酪酸溶液から除去し、2mlのPBS中に入れた。PBSを最大7日間毎日、その後は2週間および3週間の時点で交換した。分離されたPBS抽出物を、HPLC法を使用して、酪酸含有量を分析した。90%を超える酪酸が最初の4日間以内に放出された(図6)。
【0077】
実施例5b: 酪酸ナトリウム(1重量%)を、ポリ(L)乳酸(PLLA)と混ぜ合わせ、その後、ポリマーのロッドを押し出した。これらのロッドからの酪酸の放出速度を、上記で記載した通りに評価した。酪酸はPLLAからPBS中に迅速に放出された(図6)。
【0078】
実施例5c: 酪酸カルシウム(1重量%)を、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(33質量%の酢酸ビニル含有量)と混ぜ合わせ、その後、ポリマーのロッドを押し出した。これらのロッドからの酪酸の放出速度を、上記で記載した通りに評価した。したがって、ポリマーの疎水性を代えることによって、血管新生因子の放出速度が制御され得ることが分かる(図6)。
【0079】
実施例6
羊の急性の修復を、膝蓋腱を使用して行った。この修復のために使用した手術の手順は、Newsham-West R、Nicholson H、Walton M、Milburn P、Long-term morphology of a healing bone tendon interface: a histological observation in a sheep model、Journal of Anatomy、Vol. 210、2007年、318-327頁に見つけることができ、その開示はその全体において、参照により本明細書に援用する。手術の修復の前に、羊の膝関節を、治癒中の膝蓋腱の引張負荷を防ぐために、5°〜10°屈曲させて固定した。一度関節が固定されると、手術用メスの刃で、脛骨から腱を削り取った。露出した骨の表面を、残っている腱をこすり落として清浄にし、その後、わずかに血管が赤くなるまで、歯科用バー(dental bur)でゆっくりと磨いた。その後、ドリルの使用を介して脛骨に2つの穴を開けた。調製された骨のベッド(bed)を図7Aに示す。図7Bに示した通り、2つの縫合糸アンカーを、その後、調製された骨のベッドの穴にインプラントした。その後、図7Cに示した通り、アンカー縫合糸は腱を通って垂直に通り、縫合糸を骨の表面に腱を固定するために結んだ。外部の固定を手術の領域に適用し、膝の固定を手術後3週間維持した。
【0080】
3週間後、外部の固定を除去し、動物を全体重負荷に戻した。アンカーに使用した縫合糸は、酪酸ナトリウムと混ぜ込まれたポリプロピレンから押し出されたモノフィラメントから作製した、編まれた縫合糸であった。修復の前に、編まれた縫合糸材料は、全酪酸ナトリウム含有量および時間による酪酸の放出を試験した。全てのサンプルを、4つ一組で試験した。試験が終了した縫合糸は、平均7.4μg/cmの酪酸ナトリウム(6.6〜9.0μg/cmの範囲)を含むことが分かり、縫合糸からの酪酸の放出は、in vitroにおいて28日間検出され、これにより、延長された放出が実証された。
【0081】
第二の同一の修復を、酪酸ナトリウムと混ぜ込まれていないポリプロピレンのみから押し出されたポリプロピレンモノフィラメントから作製した、縫合糸アンカーで行った。この縫合糸を対照として使用した。
【0082】
12週間後、腱の治癒の機械的な試験を行った。試験は、単純な縫合糸の配置の修復における酪酸を含む縫合糸の使用は、同じ単純な配置における対照縫合糸と比較した場合、修復された骨と腱の界面の特性の不足に対して、統計的に有意な(p<0.01)強度の増強(41%)を導くことを実証した。酪酸を含む縫合糸の不足に対する強度の増強は、より複雑なフットプリント(footprint)の縫合糸の配置を使用する修復と同様であることが観察された。図8に示すように、対照縫合糸の単純な配置と比較して、酪酸で41%の増加、および変性フットプリントの縫合糸の配置で31%の増加であった。
【0083】
組織学的には、酪酸縫合糸サンプルにおける増加した骨形成活性のいくらかの証拠により、腱と骨の界面を修復した、対照縫合糸および酪酸を含む縫合糸は似ている。図9Aは、腱と骨の界面を修復した対照縫合糸を表し、図9Bは、腱と骨の界面を修復した酪酸を含む縫合糸を表す。図9Aおよび9Bにおける点線は、骨と腱の界面を表す。
【0084】
結論として、羊における腱の修復の急性モデルにおける、治癒の12週間後の腱と骨の界面の不足の機械的な強度の試験によって測定された通り、対照縫合糸と比較して、酪酸を含む縫合糸は腱と骨の治癒を強化した。このデータは、血管新生前の縫合糸の使用が、腱と骨の治癒を改善するための有望な方法を表しているという結論を支持する。
【0085】
実施形態は、本発明の原理およびその実際の用途を最もよく説明するために選択され、記載されており、これにより他の当業者は、特定の使用を意図して最適化するように、様々な修正をして様々な実施形態における本発明を最適に利用できる。
【0086】
本明細書において記載され、例示された構造および方法において、本発明の範囲から離れることなく、様々な修正がされ得るため、前述の記載に含まれる全ての物質、または添付した図は、制限されるよりむしろ、例示として解釈されることを意図している。したがって、本発明の広さおよび範囲は、上記で記載された例示の実施形態のいずれによっても制限されず、付加された請求項およびその同等物によってのみ定義されるべきである。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年6月13日に出願された米国特許出願第61/061317号のPCT国際出願であり、その開示はその全体において、参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、組織の修復を改善する固定デバイスの提供、および医療処置におけるこのようなデバイスの使用に関する。特に、本発明は、限られた血管の供給を有する、または血管の供給を有さず、優れた組織の修復のために血管形成が望ましいまたは必要である、組織の固定に関する。
【背景技術】
【0003】
広い範囲の固定デバイスが、侵襲的な医療処置における使用のために存在する。これらのデバイスは、手術および他の医療処置の間ならびに後に、再結合、再付着、保持、またはそれ以外の組織の修復において用いるために使用されてもよい。
【0004】
手術後の医療従事者の目的は、例えば、処置部位全体の迅速な治癒および組織の修復を誘発することである。組織の修復を促進する因子は、修復細胞および他の因子が、問題となっている組織を透過することができる大きさである。これは、換言すると、血管が部位内および周囲において形成することができる大きさに依存している。
【0005】
あらかじめ存在する血管からの新しい血管の形成は、血管形成(angiogenesis)として知られている。血管形成は、人体の発育、特に胚発育の間の必要不可欠なプロセスである。ヒトの胚の発育は、脈管形成(vasculogenesis)のプロセスにおいて、血島の血管構造への融合と一緒に始まり、続けて、脈管形成の間に形成された血管から生じる新しい血管と一緒に、血管形成が始まる。しかし、血管形成は、通常体が大人になると徐々になくなる。女性の生殖器系を除いて、大人の血管形成は、損傷または炎症後の組織の修復の間に主に起こるが、これは、腫瘍成長、関節リウマチ、乾癬、および糖尿病などの大人の病的状態とも関係している。
【0006】
血管形成に関わる主な細胞のタイプは、微小血管内皮細胞である。損傷に続いて、および/または血管新生因子に応じて、元の血管における内皮細胞の基底膜が分解され、内皮細胞プロテアーゼによって、プロセスは介在される。一度基底膜が分解されると、内皮細胞は血管周囲の空間に移動する。発芽の基部における細胞は急に増殖し、移動した細胞と交換する。その後、新しい基底膜が形成され、2つの隣接する発芽は一緒に融合し、環を形成する。続けて、内腔が形成し、血液が流れ始める。
【0007】
内皮細胞は、新しい微小血管網の形成のための、全ての必要な情報を発現させることができるため、血管形成に関わる中心の細胞タイプである。これは、新しい血管を形成するために、多くの異なる細胞タイプと協力して働くことによって達成される。いずれの理論によって束縛されることを望まないが、これらの他の細胞タイプは、内皮細胞を含む血管壁の主要な細胞成分の増殖および移動を刺激する増殖因子およびサイトカインを発現することによって、血管形成を促進してもよい。
【0008】
治療的な血管形成は、血管新生因子の、またはある場合において、虚血性/無血管組織における血管の発達を強化または促進するために、これらの因子をエンコードする遺伝子の、臨床的な使用である。治療的な血管形成のための理想的な薬剤は、安全であり、有効であり、安価であり、投与が容易なことである。所定の期間、制御された方法において血管因子を提供することも、非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際出願公開WO 90/11075号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Newsham-West R、Nicholson H、Walton M、Milburn P、Long-term morphology of a healing bone tendon interface: a histological observation in a sheep model、Journal of Anatomy、Vol. 210、2007年、318-327頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、周囲の組織に血管形成を促進する血管新生因子を放出する、医療デバイスを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、周囲の組織における組織の修復を促進し、血管の拡張を促進する因子を放出する固定デバイスを提供することである。固定デバイス、例えば縫合糸またはサージカルテープ(surgical tape)を使用する、このような因子または薬理活性薬剤の運搬は、縫合糸またはサージカルテープ、および運搬デバイスの固定の両方として機能することができる特定の特性を有するための、縫合糸またはサージカルテープを必要とする。例えば、縫合糸は、縫合糸としてのその本来の役割において機能するために、十分な強度、結び目および滑り特性を有していなければならない。生物学的薬剤運搬デバイスとして、縫合糸は、搭載中にいかなる方法においても活性薬剤が変化しないように、その構造内に活性薬剤を組み込むことができなければならない。活性薬剤は、使用前に通常の貯蔵ができるように、構造内で安定でなければならない。一度in vivoに入ると、活性薬剤は、その治療特性を最大化し、不利な反応を最小化するために、特定の量で特定の期間放出されなければならない。限られた血管の供給を有する、または血管の供給を有さない特定の組織、例えば半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、腱、骨、および虚血組織の標準の縫合糸を使用する縫合糸の修復は、問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様において、本発明は、血管新生物質、またはin vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質のうちの少なくとも1つを含む、組織の修復のための固定デバイスに関し、血管新生物質は、ポリプロピレンの混合物である。
【0014】
一実施形態において、血管新生物質には、酪酸、酪酸塩、α-モノブチリン、α-ジブチリン、β-ジブチリン、トリブチリン、またはヒドロキシブチレートのうちの1つまたは複数が含まれる。別の実施形態において、酪酸塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩から選択される。さらに別の実施形態において、血管新生物質には、以下の血管新生因子のうちの1つまたは複数が含まれる: 自己、異種、組み換え、および合成形態を含む血管新生ペプチド増殖因子(血管内皮増殖因子VEGF 121、165、189および206を含む); 線維芽細胞増殖因子FGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子); 形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β); 血小板由来増殖因子PDGF-AA、PDGF-BB、およびPDGF-AB; 血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF); 低酸素誘導因子-1(HIF-1); 拡散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られる); 胎盤増殖因子(PIGF)-1、-2; 腫瘍壊死因子α(TNF-α); ミッドカイン; プレイオトロフィン; インスリン様増殖因子-1; 表皮増殖因子(EGF); 内皮細胞増殖因子(ECGF); 内皮刺激血管新生因子(ESAF); 結合組織増殖因子(CTGF); CYR61; アンギオジェニン; またはアンギオトロフィン。
【0015】
さらなる実施形態において、血管新生物質には、トロンビン、ヘパリン、およびこれらの物質の自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含む、1つまたは複数の血栓分解産物が含まれる。さらなる実施形態において、血管新生物質には、ヒアルロナン、副甲状腺ホルモン、アンジオポイエチン-1、del-1、エリトロポイエチン、fas(CD95)、ホリスタチン、マクロファージ遊走阻止因子、単球走化性タンパク質-1、およびニコチンアミドのうちの1つまたは複数が含まれる。一実施形態において、血管新生前駆体物質には、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含むフィブリン、ならびにヒアルロン酸のうちの1つまたは複数が含まれる。
【0016】
別の実施形態において、固定デバイスは、少なくとも1つの外部表面に、血管新生物質、血管新生前駆体物質、または組織工学によって作られた物質のうちの1つまたは複数でコートされている。さらに別の実施形態において、固定デバイスは、その少なくとも1つの領域に染み込ませられた、血管新生物質、血管新生前駆体物質、および組織工学によって作られた物質のうちの少なくとも1つを有する。さらなる実施形態において、固定デバイスには、縫合糸、サージカルアロー(surgical arrow)、ステープル、ダート(dart)、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネール(nail)またはリベット、あるいはとげのある手術用デバイスが含まれる。
【0017】
別の態様において、本発明は、その臨床的必要性において、固定デバイスを哺乳類生物内の組織欠損にインプラントする工程を含む、哺乳類生物の処置方法に関し、固定デバイスは、血管新生物質またはin vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質のうちの少なくとも1つを含み、前記血管新生物質は、ポリプロピレンとの混合物である。
【0018】
一実施形態において、固定デバイスがインプラントされる組織は、無血管組織である。別の実施形態において、組織は半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、骨、または虚血組織である。
【0019】
さらに別の態様において、本開示は組成物に関する。組成物には、ポリプロピレンと、血管新生を促進するために十分な治療上有効な量において、水溶性または水混和性の血管新生物質あるいは血管新生前駆体とのブレンドが含まれる。一実施形態において、血管新生物質には、酪酸、ヒドロキシ酪酸、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩およびリチウム塩、ならびに前記酸のポリマー、またはモノブチリンのうちの1つまたは複数が含まれる。さらに別の実施形態において、組成物は、最大約12質量%の血管新生物質を含む。
【0020】
本発明のさらなる特徴、態様、および利点は、本発明の様々な実施形態の構造および操作と同様に、以下に添付する図を参照して記載される。
【0021】
本明細書に組み込まれ、一部を形成する、添付する図は、本発明の実施形態を例示し、記載と一緒に、本発明の原理を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、半月板軟骨の赤-白区域における断裂部を例示する。
【図2】図2は、処置された半月板で実施された、生体力学的な試験の結果を示す。
【図3】図3は、5-0サイズおよび6-0サイズのモノフィラメントからの、ブチレートの累積放出速度を示す。
【図4】図4は、No. 2の縫合糸の2つの異なるバッチからの、ブチレートの放出速度を示す。
【図5】図5は、サイズNo. 0の縫合糸の3つの異なる配置からの、酪酸ナトリウムの放出速度を示す。
【図6】図6は、異なるポリマー組成物からの、酪酸の放出速度を示す。
【図7A】図7Aは、羊の肢の膝蓋腱の修復手順を例示する。
【図7B】図7Bは、羊の肢の膝蓋腱の修復手順を例示する。
【図7C】図7Cは、羊の肢の膝蓋腱の修復手順を例示する。
【図8】図8は、図7A〜7Cに示された修復後の、腱の治癒の機械的な試験の結果を示す。
【図9A】図9Aは、腱と骨の界面で修復された、対照の縫合糸および酪酸を含む縫合糸を例示する。
【図9B】図9Bは、腱と骨の界面で修復された、対照の縫合糸および酪酸を含む縫合糸を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において使用する場合、用語「血管新生物質」は、1つまたは複数の血管新生因子を含む物質だけでなく、あらかじめ存在する血管物質の血管膨張を誘起することによって、血管の供給を刺激する物質も含むと理解される。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「血管新生因子」は、直接的または間接的に血管形成を促進する物質、例えば、in vivoで分解して血管新生物質を形成することができる物質を含むと理解される。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「血管形成」は、存在する血管からの新しい血管の成長を含むと理解される。
【0026】
上記で述べた通り、血管新生物質は、1つまたは複数の血管新生因子を含む。本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第一の分類は、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含む、血管新生ペプチドならびにタンパク質増殖因子を含む。この分類には、血管内皮増殖因子ファミリー、特にVEGF 121、165、189および206; 線維芽細胞増殖因子ファミリー、特にFGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子); 形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β); 血小板由来増殖因子、特にPDGF-AA、PDGF-BBおよびPDGF-AB; 血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF); 低酸素誘導因子-1(HIF-1); 拡散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られる); 胎盤増殖因子(PIGF)-1、-2; 腫瘍壊死因子α(TNF-α); ミッドカイン; プレイオトロフィン; インスリン様増殖因子-1; 表皮増殖因子(EGF); 内皮細胞増殖因子(ECGF); 内皮刺激血管新生因子(ESAF); 結合組織増殖因子(CTGF); CYR61; アンギオジェニン; またはアンギオトロフィンが含まれる。
【0027】
本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第二の分類は、血栓分解産物、例えば、トロンビンおよびヘパリン、ならびにこれらの物質の自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含む。
【0028】
本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第三の分類は、以下を含む酪酸に基づくものを含む:
- 酪酸(ブタン酸、C4H8O2)およびナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、ならびにリチウム塩を含む、酪酸塩
- 酪酸誘導体および酪酸残基を含むポリマー
- α-モノブチリン(1-グリセロールブチレート; 1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ブタノエート; C7H14O4)
- α-ジブチリン(1,3-グリセロールジブチレート; 1,3-(2-ヒドロキシプロピル)ジブタノエート; C11H20O5)
- β-ジブチリン(1,2-グリセロールジブチレート; 1,2-(3-ヒドロキシプロピル)ジブタノエート; C11H20O5)
- トリブチリン(グリセロールトリブチレート; 1,2,3-(プロピル)トリブタノエート; C15H26O6)
- ヒドロキシブチレートおよびヒドロキシ酪酸残基を含むポリマー。
その開示が全体において、参照により本明細書に援用される、PCT国際出願公開WO 90/11075号に開示されている化合物も、明確に本明細書の範囲に含まれる。これらは以下の一般式を有する:
【化1】
- ここで、XはO、NH、S、またはCH2であり、R1は、飽和または不飽和であり、血管新生活性を妨げない1つまたは複数の置換基で非置換または置換された2〜10Cのアルキルまたはアシルであり、前記置換基は、OH、OR、SH、SR、NH2、NHR、NR2およびハロからなる群から選択され、ここで、それぞれのRは独立に低級アルキル(1〜4C)であり; それぞれのR2およびR3は、独立にH、PO3-2、または上記で規定したアルキルあるいはアシルであり、あるいは式1において、R2とR3は一緒にアルキレン部分となり、あるいはOR2およびOR3はエポキシドを形成し、その量は前記対象において血管形成を刺激するために有効である。
- ここで、R2およびR3はアシルまたはHである
- ここで、前記アシル基は、CH3(CH2)n1COであり、ここでn1は0〜8の整数であり; またはネオペントイルあるいはシクロヘキシルカルボニルである
- ここで、式1の化合物において、R2、R3は一緒に
【化2】
であり、ここで、n2は0〜7の整数である
- R2およびR3のうちの1つがHであり、他がアルキル(1〜10C)である、上記で述べた方法
- XがOである、上記で述べた方法
- R1がアシル(2〜6C)である、上記で述べた方法。
【0029】
本発明の範囲に含まれる、血管新生因子の第四の分類は、炎症性メディエータを含む。これらの物質は、血管形成を促進する代わりに、組織の炎症を促進する。この分類に含まれるものは、腫瘍壊死因子α(TNF-α); プロスタグランジンE1およびE2; インターロイキン1、6、および8; ならびに酸化窒素である。
【0030】
いずれの分類にも含まれない、完全に異なる他の血管新生因子が知られている。この群に含まれるものは、ヒアルロナン、副甲状腺ホルモン、アンジオポイエチン-1、del-1、エリトロポイエチン、fas(CD95)、ホリスタチン、マクロファージ遊走阻止因子、単球走化性タンパク質-1、トランスフェリン(transferring)、およびニコチンアミドである。
【0031】
本発明の固定デバイスは、適切に、血管新生前駆体物質を含み、これは、in vivoで分解して血管新生物質を形成することができる。本発明による血管新生前駆体物質には、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含むフィブリン、およびヒアルロン酸が含まれる。有利な血管新生特性を有することが分かった、フィブリンの分解フラグメントには、フラグメントDおよびEが含まれる。
【0032】
代わりに、本発明の固定デバイスは、組織工学によって作られた物質を含んでもよく、この組織工学によって作られた物質は、血管新生物質を生成することができる。本発明の範囲に含まれる、組織工学によって作られた物質には、第一の分類の血管新生因子(上記参照)に含まれる血管新生因子を含む、血管新生物質を生成することができる物質が含まれる。本発明による組織工学によって作られた物質には、制限なく、有標製品、例えばDERMAGRAFTTMおよびTRANSCYTETMが含まれる。
【0033】
有利には、血管新生物質は、問題とする哺乳類生物の治療上有効な量で存在する。好ましくは、血管新生物質は、ヒトにとって治療上有効な量で存在する。本明細書において使用する場合、用語「治療上有効な量」は、血管形成を引き起こすまたは血管形成の速度を増加させるために十分であることを意味すると理解される。治療上有効な量を構成するものは、血管新生物質中に含まれる血管新生因子に特有である。例えばVEGFおよびFGF-2の場合、固定デバイスは、デバイス1mgあたり最大50μg、好ましくは25μg/mg未満の因子を含むべきである。
【0034】
用語「固定デバイス」には、組織の修復における、再結合、再付着、保持、またはそれ以外の組織の修復において用いるために使用される、任意のデバイスが含まれる。このようなデバイスの一覧には、網羅的ではないが、縫合糸、サージカルアロー、ステープル、ダート、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネール、リベットまたはとげのあるデバイスが含まれる。本発明の固定デバイスには、異なる組織タイプ、例えば靱帯と骨または腱と筋肉の界面において血管形成を促進するために使用される、カフ(cuff)などの増強デバイスも含まれる。
【0035】
血管新生物質を本発明によるデバイスに組み込む方法には、以下が含まれる。
【0036】
本発明による固定デバイスは、固定デバイスの製造後に、血管新生物質を染み込ませられてもよい。染み込みは、血管新生物質の、最大で固定デバイス全体にわたる分布をもたらしてもよい。血管新生物質の分布は、均一であっても不均一であってもよい。後者の場合、固定デバイスは、より高い濃度の血管新生物質を含む、局部集中した領域を含む。好ましくは、染み込みは、血管新生物質の、外部表面のうちの少なくとも1つからデバイスの中に広がる少なくとも1つの領域の存在をもたらす。より好ましくは、染み込みは、血管新生物質の、固定デバイス全体にわたる分布をもたらす。血管新生物質が、デバイスで均一または不均一に分布するかどうか、および不均一な場合に分布プロファイルがどのような形態を有するかは、達成される効果に依存する。特に、分布プロファイルは、周囲の組織への血管新生物質の放出プロファイルに強く影響するだろう。
【0037】
本発明によって使用されてもよい染み込みの方法には、これに制限されないが、適切な場合、真空下での浸漬(dipping)、含浸(soaking)が含まれる。
【0038】
第二の実施形態において、血管新生因子、物質または前駆体は、固定デバイスの主な繊維に物理的に組み込まれてもよい。それゆえ、適切には、血管新生物質は、固定デバイスの繊維内に離れた区域を構成する。好適には、血管新生物質のスレッド(thread)またはフィラメント(filament)は、固定デバイスの主な繊維を含む繊維状またはフィラメント状の物質と一緒に紡がれまたは織られてもよい。例えば、血管新生物質のスレッドは、縫合糸を生成するために使用される、ポリエチレンテレフタレートまたは超高分子量ポリエチレンの繊維と一緒に編まれてもよい。代わりに、血管新生物質は、固定デバイスの主な繊維の物質と一緒に、共押出しされてもよい。
【0039】
第三の実施形態において、血管新生物質は、固定デバイスの製造後に固定デバイスの外部表面の少なくとも1つに直接コートされるか、または代わりに、その放出が制御され得る担体の中に組み込まれ、その後固定デバイスに直接コートされてもよい。
【0040】
好ましくは、血管新生因子、物質または前駆体は、コートされるか、または固定デバイス内の離れた部品あるいは区域として形成され、これらは最初に疎水性ポリマーと一緒に処方されて、因子および疎水性ポリマーを含むモノリシックマトリクス(monolithic matrix)からの拡散メカニズムによって、制御された放出条件下で運搬される。したがって、例えば、水混和性または水溶性の血管新生物質を、本来疎水性であるポリマーマトリクスに組み込むことによって、血管新生物質の放出速度を制御することができる。水は物質を可溶化するために必要であり、これにより続けて物質を放出する。ポリマーマトリクスの疎水性の程度は、水の透過速度を制御し、それゆえ血管新生物質の放出速度を制御する。
【0041】
好ましくは、疎水性ポリマーマトリクスはポリプロピレンである。典型的には、血管新生物質は、ポリプロピレンとブレンドされて混合物を形成し、その後モノフィラメントに引き込まれる。モノフィラメントは、ねじれる、または編まれることができ、マルチフィラメントを形成する。好ましくは、血管新生物質とポリプロピレンモノフィラメントの混合物は、他のポリマー繊維またはモノフィラメント(これに制限されないが、超高分子量(UHMW)ポリエチレンまたはポリエステル繊維あるいは縫合糸を形成するためのモノフィラメントを含む)と一緒に、共に編まれる。
【0042】
血管新生物質の放出速度に影響する因子には、血管新生物質の選択、ポリプロピレンマトリクスとブレンドされる血管新生物質の量(血管新生因子負荷としても知られる)、およびモノフィラメントの直径が含まれる。
【0043】
本発明の目的のために、疎水性ポリプロピレンマトリクスは、酪酸または酪酸塩と一緒に使用される。酪酸の塩は、本質的に安定であり、低い揮発性を有する。疎水性ポリプロピレンマトリクスは、適切な水溶性または水混和性を有する任意の血管新生物質と一緒に使用してもよい。
【0044】
血管新生物質としての酪酸(またはこれらの塩)の有効な使用は、これまで実証されていなかった。これには2つの考えられる理由が存在する。第一は、酪酸が特に刺激臭を有しており、使用するのに不愉快なことである。第二の理由は、酪酸が、分解されて効果のない代謝産物になる前に、効果的に血管形成を促進できないくらい迅速に生分解されることがわかっていることである。
【0045】
本出願人らは、酪酸または水溶性/水混和性のこれらの塩と、ポリプロピレンを一緒に処方することによって、知られている欠点を避けられることを見出した。血管新生物質は、制御された用量の速度で運搬され、悪臭もない。
【0046】
ヒドロキシ酪酸および誘導体、塩、ならびにこれらのポリマー、ならびにモノブチリンなどのブチリン誘導体も、ポリプロピレンと一緒に処方されてもよい。
【0047】
したがって、本発明の別の態様によると、血管形成を促進するために十分な治療上有効な量において、ポリプロピレンと、水溶性または水混和性の血管新生物質あるいはこの前駆体とのブレンドを含む組成物を提供する。
【0048】
本発明の目的のために、組成物は、血管形成を促進するために治療的に十分有効な量で、ポリプロピレンと酪酸または水溶性あるいは水混和性のこの塩とのブレンドを含む。
【0049】
本発明の組成物に好適な、水溶性または水混和性の酪酸あるいはヒドロキシ酪酸の誘導体には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩が含まれる。
【0050】
ポリプロピレンは、血管新生物質の、好適には最大約12質量%、より好適には最大約7質量%で混合またはブレンドされる。
【0051】
血管新生因子を含むポリプロピレンは、任意の固定デバイスのためのコーティングとして使用することができる。
【0052】
血管新生物質は、固定デバイスの全ての外部表面にコートされてもよい。用いられてもよいコーティング法には、ディップコーティングおよびスプレーコーティングが含まれる。
【0053】
本発明は、組織欠損に本発明によるデバイスをインプラントする工程を含む、損傷した組織の修復のための方法をさらに提供する。
【0054】
好ましくは、固定デバイスがインプラントされる組織は、微小な血管である。より好ましくは、この組織は半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、腱、骨、または虚血組織である。本発明の固定デバイスは、異なる組織のタイプ、例えば人体と骨の間、または筋肉と腱の間で使用されてもよい。
【0055】
本発明を、以下の実施例によって例示する。
【実施例】
【0056】
実施例1
再吸収可能ではなく、それゆえ血管形成に十分な効果のない、O Ti-CronTMの編まれた縫合糸を、酪酸またはモノブチリンのどちらかで染み込ませた。酪酸を染み込ませた縫合糸は、21日間、1日あたり、縫合糸1cmあたり25〜3000ng、または縫合糸1.4mgあたり25〜3000ngの範囲の酪酸の放出速度を与えた。縫合糸を、少なくとも7日間、酪酸の貯蔵液にそれらを含浸することによって染み込ませた。モノブチリンを染み込ませた縫合糸は、7日間、1日あたり、縫合糸1cmあたり25〜3000ng、または縫合糸1.4mgあたり25〜3000ngの範囲のモノブチリンの放出速度を与えた。手術の前に、縫合糸を貯蔵液から除去し、手術用の消毒綿で2回拭いた。
【0057】
Blue Faced Leicester Cross Suffolk Tubsを、この実施例のために用いた。これは、大きな長骨を有するかなり強壮な羊の品種である。解剖学的に、羊の骨は、ヒトの骨に極めて近く、骨植接置換および治療のためのモデルとして一般に使用されている。縫合糸をインプラントするための手術の手順は、標準的な内側関節切開によってアクセスする半月板を含んだ。手術用メスを使って、全厚み8mmの縦方向の断裂を、内側半月板のうちの一つの赤色-白色区域に作り出した。
【0058】
断裂をその後、(i) 上記で記載した通り、酪酸で染み込まされたO Ti-Cron縫合糸、または(ii) 上記で記載した通り、モノブチリンで染み込まされたO Ti-Cron縫合糸、あるいは(iii) 酪酸あるいはモノブチリンを含まない対照の無処理O Ti-Cronを使用して、縫合した。使用した縫合手法は、アウトサイド-イン(outside-in)の水平なマットレス縫合である。その後、関節を塞ぎ、動物を回復させた。
【0059】
その後、動物を、すぐに関節における重量を測り、6週間の時点で終えた。
【0060】
添付する図の図1は、上記で作製した半月板軟骨の赤色-白色区域を通して切った断裂を例示する。図1はヘマトキシリンおよびフロキシン染色組織切片を示す。修復した断裂を、点線(1)によって大まかに示しており、これは赤色-白色断裂である。縫合部を切片(3)で見ることができる。内皮細胞および新しく形成された血管が移動する形態における血管形成(2)を、断裂の治癒と同様に観察することができる。
【0061】
それは、この実験の成功の最適な指標である血管形成によって得られる形態であり、上記で議論した通り、血管形成は存在する血管からの新しい血管の形成である。これは、血管形成が、赤色領域において存在する血管から外への放射で観察できるだけであり、事実、観察されるものは、移行区域を通して赤色区域から白色区域へと進む新しい血管の安定した前端(2)である。
【0062】
図2を参照すると、生体力学的評価を、in vivoで剖検6週間後の処置された半月板で行った。試験は、半月板を周囲で断裂し、修復した領域の平均断裂負荷ならびに平均断裂エネルギーを測定することに関するRoeddeckerら(1994)によって行われた実験を基にした。
【0063】
最初に、約5〜10mmの切開口を、それぞれの半月板の後角に作製して、2つの「自由な末端(free end)」を生成した。この切開口を、半月板の修復領域にそろえ、そして接触するように位置決めした。半月板の完全に修復した領域を同定することは、時として困難であり、そのため切開口は最善の判断によって位置決めされた。修復を開始するために使用した縫合糸を、半月板の周辺で露出させ、縫合糸の結び目を除去した。
【0064】
試験を、Instron 5566の材料試験機を使用して行った。それぞれの半月板の「自由な末端」を、鉗子グリップを使用してつかみ、試験を通して100N容量負荷細胞を、生じた断裂負荷を測定するために使用した。一度完了すると、力/変位排出曲線から平均断裂負荷を、2つのカーソルを使用して同定し、力/変位曲線のこの同じ領域の下で、断裂エネルギーを自動的に計算した。
【0065】
修復が未処理の縫合糸で開始された3つの対照の半月板を試験し、縫合糸が酪酸で浸漬された3つを試験し、縫合糸がモノブチリンで浸漬された3つを試験した。
【0066】
血管新生因子で浸漬された縫合糸は、実質的に未処理の対照のものより修復組織の強度を増加させた。正常な半月板の組織は、14N/mmの断裂強度を有する。
【0067】
実施例2(モノフィラメントの縫合糸)
ポリプロピレン(ECM Plastics)および酪酸ナトリウム(Alfa Aesar、純度: 99%)を、Leistritzの二軸押出機内で混合した。4つの混合物を作製し、それぞれ2.5、5、7.5、10質量%の酪酸ナトリウムを含んだ。混合物を押し出してロッドを形成し、その後、さらにペレットを形成するために加工した。その後、ペレットをUSPサイズ5-0のモノフィラメントに押し出した(USP 29、2006で定義されたUSPサイズ)。5質量%の混合物から形成されたペレットは、USPサイズ6-0のモノフィラメントにも押し出した。
【0068】
モノフィラメントの全酪酸ナトリウム含有量を、液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定し、続けて90℃で、脱イオン水中で抽出した。モノフィラメントからの放出速度および酪酸ナトリウム(NaB)の全放出を決定するために、20インチの長さのモノフィラメントを、37℃でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れた。ブチレートの存在のためのPBSの分析を、28日間にわたって毎日HPLCによって行った。それぞれの分析後、PBSを新鮮なPBSと交換した。
【0069】
5-0モノフィラメントの酪酸ナトリウム含有量は、1.9から7.5質量%の範囲であることが分かった。6-0モノフィラメントは、4.15質量%の全酪酸ナトリウム含有量を有することが分かった。図3は、5-0モノフィラメントからの累積放出速度を例示する。5-0モノフィラメントからの酪酸ナトリウムの放出速度は、縫合糸の直径および酪酸ナトリウムの初期濃度の両方に依存することがわかった。全ての場合において、酪酸ナトリウムの放出は、約28日後になくなった。
【0070】
実施例3(編まれた縫合糸)
ポリプロピレン(ECM Plastics)および酪酸ナトリウム(Alfa Aesar、純度: 99%)を、Leistritzの二軸押出機内で混合した。5および7.5質量%の酪酸ナトリウムを含む混合物を作製した。混合物を押し出してロッドを形成し、その後、さらにペレットを形成するために加工した。その後、ペレットをUSPサイズ5-0のモノフィラメントおよびUSPサイズ6-0のモノフィラメントに押し出した。
【0071】
その後、5質量%の酪酸ナトリウムの3つの末端のUSPサイズ6-0のモノフィラメントを、超高分子量ポリエチレンフィラメントと編んで、混合されたNo. 2サイズの編まれた縫合糸を形成した。No. 0サイズの編まれた縫合糸も、3つの異なるモノフィラメント/ポリエチレンの混合物を使用して製造した。3つのサイズ0の縫合糸は、超高分子量ポリエチレンフィラメントと編まれた、7.5質量%の酪酸ナトリウムのUSPサイズ5-0のモノフィラメントの1つまたは2つの末端か、または5質量%の酪酸ナトリウムのUSPサイズ6-0のモノフィラメントの2つの末端のどちらかを有した。
【0072】
縫合糸の全酪酸ナトリウム含有量を、液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定し、続けて90℃で、脱イオン水中で抽出した。縫合糸からの放出速度および酪酸ナトリウムの全放出を決定するために、重さを量ったそれぞれの長さの縫合糸を、37℃でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れた。ブチレートの存在のためのPBSの分析を、28日間または56日間にわたってHPLCによって行った。それぞれの分析後、PBSを新鮮なPBSと交換した。
【0073】
図4は、No. 2の縫合糸の2つの異なるバッチからのブチレートの放出速度を例示する。2つのバッチは、最大約21日間、類似の放出速度を与え、縫合糸の製造および酪酸ナトリウムの放出の両方の一致を示した。
【0074】
実施例4
図5は、実施例3のNo. 0のサイズの縫合糸の3つの配置からの酪酸ナトリウムの放出速度を例示する。縫合糸中の組成物、サイズ、およびモノフィラメントの数は、縫合糸からの酪酸ナトリウムの放出速度および全放出の両方に影響することがわかった。
【0075】
実施例5
酪酸およびその塩を、異なるポリマー組成物と処方し、PBS中への放出速度を決定した。
【0076】
実施例5a: O Ti-Cronから作製した縫合糸を、酪酸の溶液(50000μg cm-3)中に含浸した。66時間後、縫合糸を酪酸溶液から除去し、2mlのPBS中に入れた。PBSを最大7日間毎日、その後は2週間および3週間の時点で交換した。分離されたPBS抽出物を、HPLC法を使用して、酪酸含有量を分析した。90%を超える酪酸が最初の4日間以内に放出された(図6)。
【0077】
実施例5b: 酪酸ナトリウム(1重量%)を、ポリ(L)乳酸(PLLA)と混ぜ合わせ、その後、ポリマーのロッドを押し出した。これらのロッドからの酪酸の放出速度を、上記で記載した通りに評価した。酪酸はPLLAからPBS中に迅速に放出された(図6)。
【0078】
実施例5c: 酪酸カルシウム(1重量%)を、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(33質量%の酢酸ビニル含有量)と混ぜ合わせ、その後、ポリマーのロッドを押し出した。これらのロッドからの酪酸の放出速度を、上記で記載した通りに評価した。したがって、ポリマーの疎水性を代えることによって、血管新生因子の放出速度が制御され得ることが分かる(図6)。
【0079】
実施例6
羊の急性の修復を、膝蓋腱を使用して行った。この修復のために使用した手術の手順は、Newsham-West R、Nicholson H、Walton M、Milburn P、Long-term morphology of a healing bone tendon interface: a histological observation in a sheep model、Journal of Anatomy、Vol. 210、2007年、318-327頁に見つけることができ、その開示はその全体において、参照により本明細書に援用する。手術の修復の前に、羊の膝関節を、治癒中の膝蓋腱の引張負荷を防ぐために、5°〜10°屈曲させて固定した。一度関節が固定されると、手術用メスの刃で、脛骨から腱を削り取った。露出した骨の表面を、残っている腱をこすり落として清浄にし、その後、わずかに血管が赤くなるまで、歯科用バー(dental bur)でゆっくりと磨いた。その後、ドリルの使用を介して脛骨に2つの穴を開けた。調製された骨のベッド(bed)を図7Aに示す。図7Bに示した通り、2つの縫合糸アンカーを、その後、調製された骨のベッドの穴にインプラントした。その後、図7Cに示した通り、アンカー縫合糸は腱を通って垂直に通り、縫合糸を骨の表面に腱を固定するために結んだ。外部の固定を手術の領域に適用し、膝の固定を手術後3週間維持した。
【0080】
3週間後、外部の固定を除去し、動物を全体重負荷に戻した。アンカーに使用した縫合糸は、酪酸ナトリウムと混ぜ込まれたポリプロピレンから押し出されたモノフィラメントから作製した、編まれた縫合糸であった。修復の前に、編まれた縫合糸材料は、全酪酸ナトリウム含有量および時間による酪酸の放出を試験した。全てのサンプルを、4つ一組で試験した。試験が終了した縫合糸は、平均7.4μg/cmの酪酸ナトリウム(6.6〜9.0μg/cmの範囲)を含むことが分かり、縫合糸からの酪酸の放出は、in vitroにおいて28日間検出され、これにより、延長された放出が実証された。
【0081】
第二の同一の修復を、酪酸ナトリウムと混ぜ込まれていないポリプロピレンのみから押し出されたポリプロピレンモノフィラメントから作製した、縫合糸アンカーで行った。この縫合糸を対照として使用した。
【0082】
12週間後、腱の治癒の機械的な試験を行った。試験は、単純な縫合糸の配置の修復における酪酸を含む縫合糸の使用は、同じ単純な配置における対照縫合糸と比較した場合、修復された骨と腱の界面の特性の不足に対して、統計的に有意な(p<0.01)強度の増強(41%)を導くことを実証した。酪酸を含む縫合糸の不足に対する強度の増強は、より複雑なフットプリント(footprint)の縫合糸の配置を使用する修復と同様であることが観察された。図8に示すように、対照縫合糸の単純な配置と比較して、酪酸で41%の増加、および変性フットプリントの縫合糸の配置で31%の増加であった。
【0083】
組織学的には、酪酸縫合糸サンプルにおける増加した骨形成活性のいくらかの証拠により、腱と骨の界面を修復した、対照縫合糸および酪酸を含む縫合糸は似ている。図9Aは、腱と骨の界面を修復した対照縫合糸を表し、図9Bは、腱と骨の界面を修復した酪酸を含む縫合糸を表す。図9Aおよび9Bにおける点線は、骨と腱の界面を表す。
【0084】
結論として、羊における腱の修復の急性モデルにおける、治癒の12週間後の腱と骨の界面の不足の機械的な強度の試験によって測定された通り、対照縫合糸と比較して、酪酸を含む縫合糸は腱と骨の治癒を強化した。このデータは、血管新生前の縫合糸の使用が、腱と骨の治癒を改善するための有望な方法を表しているという結論を支持する。
【0085】
実施形態は、本発明の原理およびその実際の用途を最もよく説明するために選択され、記載されており、これにより他の当業者は、特定の使用を意図して最適化するように、様々な修正をして様々な実施形態における本発明を最適に利用できる。
【0086】
本明細書において記載され、例示された構造および方法において、本発明の範囲から離れることなく、様々な修正がされ得るため、前述の記載に含まれる全ての物質、または添付した図は、制限されるよりむしろ、例示として解釈されることを意図している。したがって、本発明の広さおよび範囲は、上記で記載された例示の実施形態のいずれによっても制限されず、付加された請求項およびその同等物によってのみ定義されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生物質、またはin vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質のうちの少なくとも1つを含む、組織の修復のための固定デバイスであって、血管新生物質はポリプロピレンとの混合物である固定デバイス。
【請求項2】
前記血管新生物質が、酪酸、酪酸塩、α-モノブチリン、α-ジブチリン、β-ジブチリン、トリブチリン、またはヒドロキシブチレートのうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載の固定デバイス。
【請求項3】
前記酪酸塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩から選択される、請求項2に記載の固定デバイス。
【請求項4】
前記血管新生物質が、以下の血管新生因子:
自己、異種、組み換え、および合成形態を含む、血管新生ペプチド増殖因子(血管内皮増殖因子VEGF 121、165、189および206を含む); 線維芽細胞増殖因子FGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子); 形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β); 血小板由来増殖因子PDGF-AA、PDGF-BB、およびPDGF-AB; 血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF); 低酸素誘導因子-1(HIF-1); 拡散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られる); 胎盤増殖因子(PIGF)-1、-2; 腫瘍壊死因子α(TNF-α); ミッドカイン; プレイオトロフィン; インスリン様増殖因子-1; 表皮増殖因子(EGF); 内皮細胞増殖因子(ECGF); 内皮刺激血管新生因子(ESAF); 結合組織増殖因子(CTGF); CYR61; アンギオジェニン; またはアンギオトロフィン
のうちの1つまたは複数を含む、請求項1から3のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項5】
前記血管新生物質が、トロンビン、ヘパリン、およびこれらの物質の自己、同種、異種、組み換え、ならびに合成形態を含む、1つまたは複数の血栓分解産物を含む、請求項1から4のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項6】
前記血管新生物質が、ヒアルロナン、副甲状腺ホルモン、アンジオポイエチン-1、del-1、エリトロポイエチン、fas(CD95)、ホリスタチン、マクロファージ遊走阻止因子、単球走化性タンパク質-1、およびニコチンアミドのうちの1つまたは複数を含む、請求項1から5のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項7】
前記血管新生前駆体物質が、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含むフィブリン、ならびにヒアルロン酸のうちの1つまたは複数を含む、請求項1から6のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項8】
少なくとも1つの外部表面に、血管新生物質、血管新生前駆体物質、または組織工学で作られた物質のうちの1つまたは複数でコートされている、請求項1から7のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項9】
少なくとも1つの領域に染み込まされた、血管新生物質、血管新生前駆体物質、および組織工学で作られた物質のうちの少なくとも1つを有する、請求項1から8のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項10】
縫合糸、サージカルアロー、ステープル、ダート、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネールまたはリベット、あるいはとげのある手術用デバイスを含む、請求項1から9のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の固定デバイスを哺乳類生物の組織欠損にインプラントする工程を含む、臨床的必要性における哺乳類生物の処置方法。
【請求項12】
前記固定デバイスをインプラントする組織が無血管組織である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織が、半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、骨、または虚血組織である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
血管新生を促進するために十分な治療上有効な量において、ポリプロピレンと、水溶性または水混和性の血管新生物質あるいは血管新生前駆体とのブレンドを含む、組成物。
【請求項15】
前記血管新生物質が、酪酸、ヒドロキシ酪酸、これらの酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩、ならびにこれらの酸のポリマー、またはモノブチリンのうちの1つまたは複数を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
最大約12質量%の血管新生物質を含む、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項1】
血管新生物質、またはin vivoで分解して血管新生物質を形成することができる血管新生前駆体物質のうちの少なくとも1つを含む、組織の修復のための固定デバイスであって、血管新生物質はポリプロピレンとの混合物である固定デバイス。
【請求項2】
前記血管新生物質が、酪酸、酪酸塩、α-モノブチリン、α-ジブチリン、β-ジブチリン、トリブチリン、またはヒドロキシブチレートのうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載の固定デバイス。
【請求項3】
前記酪酸塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩から選択される、請求項2に記載の固定デバイス。
【請求項4】
前記血管新生物質が、以下の血管新生因子:
自己、異種、組み換え、および合成形態を含む、血管新生ペプチド増殖因子(血管内皮増殖因子VEGF 121、165、189および206を含む); 線維芽細胞増殖因子FGF-1、FGF-2、FGF-7(ケラチン生成細胞増殖因子); 形質転換増殖因子ファミリー(TGF-α、-β); 血小板由来増殖因子PDGF-AA、PDGF-BB、およびPDGF-AB; 血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF); 低酸素誘導因子-1(HIF-1); 拡散因子(SF、肝細胞増殖因子またはHGFとしても知られる); 胎盤増殖因子(PIGF)-1、-2; 腫瘍壊死因子α(TNF-α); ミッドカイン; プレイオトロフィン; インスリン様増殖因子-1; 表皮増殖因子(EGF); 内皮細胞増殖因子(ECGF); 内皮刺激血管新生因子(ESAF); 結合組織増殖因子(CTGF); CYR61; アンギオジェニン; またはアンギオトロフィン
のうちの1つまたは複数を含む、請求項1から3のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項5】
前記血管新生物質が、トロンビン、ヘパリン、およびこれらの物質の自己、同種、異種、組み換え、ならびに合成形態を含む、1つまたは複数の血栓分解産物を含む、請求項1から4のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項6】
前記血管新生物質が、ヒアルロナン、副甲状腺ホルモン、アンジオポイエチン-1、del-1、エリトロポイエチン、fas(CD95)、ホリスタチン、マクロファージ遊走阻止因子、単球走化性タンパク質-1、およびニコチンアミドのうちの1つまたは複数を含む、請求項1から5のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項7】
前記血管新生前駆体物質が、自己、同種、異種、組み換え、および合成形態を含むフィブリン、ならびにヒアルロン酸のうちの1つまたは複数を含む、請求項1から6のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項8】
少なくとも1つの外部表面に、血管新生物質、血管新生前駆体物質、または組織工学で作られた物質のうちの1つまたは複数でコートされている、請求項1から7のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項9】
少なくとも1つの領域に染み込まされた、血管新生物質、血管新生前駆体物質、および組織工学で作られた物質のうちの少なくとも1つを有する、請求項1から8のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項10】
縫合糸、サージカルアロー、ステープル、ダート、ボルト、スクリュー、ボタン、アンカー、ネールまたはリベット、あるいはとげのある手術用デバイスを含む、請求項1から9のいずれかに記載の固定デバイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の固定デバイスを哺乳類生物の組織欠損にインプラントする工程を含む、臨床的必要性における哺乳類生物の処置方法。
【請求項12】
前記固定デバイスをインプラントする組織が無血管組織である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織が、半月板軟骨、関節軟骨、靱帯、骨、または虚血組織である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
血管新生を促進するために十分な治療上有効な量において、ポリプロピレンと、水溶性または水混和性の血管新生物質あるいは血管新生前駆体とのブレンドを含む、組成物。
【請求項15】
前記血管新生物質が、酪酸、ヒドロキシ酪酸、これらの酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、およびリチウム塩、ならびにこれらの酸のポリマー、またはモノブチリンのうちの1つまたは複数を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
最大約12質量%の血管新生物質を含む、請求項14または15に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【公表番号】特表2011−524211(P2011−524211A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513745(P2011−513745)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/047300
【国際公開番号】WO2009/152487
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(504048135)スミス アンド ネフュー インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW,INC.
【住所又は居所原語表記】150 Minuteman Road,Andover,MA 01810,United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/047300
【国際公開番号】WO2009/152487
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(504048135)スミス アンド ネフュー インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW,INC.
【住所又は居所原語表記】150 Minuteman Road,Andover,MA 01810,United States of America
【Fターム(参考)】
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