説明

組織を分離する脂肪酸癒着障壁

本発明の例示的実施形態は、抗癒着性及び組織固着特性を有する癒着障壁を提供する。癒着障壁は脂肪酸ベースのフィルムから形成される。脂肪酸ベースのフィルムは、脂肪酸由来の生体材料から形成することができる。フィルムは、組織固着材料でコーティングされて、又は組織固着材料を含んで、癒着障壁を生成することができる。癒着障壁は、体による忍容性が良好であり、抗炎症特性を有し、組織によく固着し、術後癒着を防止するのに十分な残存時間を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年10月19日に出願された米国出願第12/581,582号(これは、2005年9月28日に出願された「Barrier Layer」との表題の米国特許出願第11/237,420号;2005年9月28日に出願された「A Stand−Alone Film and Methods for Making the Same」との表題の米国特許出願第11/237,264号:2007年10月30日に出願された「Coated Surgical Mesh」との表題の米国特許出願第11/978,840号;および2009年3月10日に出願された「Fatty−Acid Based Particles」との表題の米国特許出願第12/401,243号の一部継続出願である)に対する優先権を主張し、その利益を主張する。上記特許出願の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、組織を分離する癒着障壁に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
医療用フィルムは、外科的介入又は鈍的切開後に、ある種の器官を隣接する組織及び医療機器から分離して手術後の癒着形成を最小化するのに役立つ物理的障壁として外科的状況でしばしば使用される。例えば、マサチューセッツ州ケンブリッジのGenzyme Corporationの製品であるSEPRAFILM(登録商標)(化学修飾糖で構成されたフィルム)は、異なる組織及び器官と移植可能な医療デバイス(例えば、軟部組織支持膜及びメッシュ、または非吸収性材料とメッシュとの組合せなど)との間での手術後の癒着形成の発生率、程度及び重症度を低下させるように意図された移植可能な処理として、腹部又は骨盤の手術に使用される。
【0004】
医療用フィルムの一例は、特許文献1に記載されている。特許文献1のフィルムは、ヒアルロン酸(「HA」)、ポリアニオン性多糖及び活性化剤の反応生成物を含む、水不溶性ゲルから形成される。特許文献1に記載のゲルは、シリンジに組み込むのに適切な膜又は組成物などの癒着防止組成物の形で提供することができる。ゲルは、シート形状に注型(cast)し、押し出し成型し、圧縮し、又は脱水して平坦なシートにすることによって、フィルムに成形される。多糖で修飾すると、生分解性フィルムは、脱水した生体溶解可能な単層シートとして市販される上記SEPRAFILM(登録商標)癒着制限又は癒着障壁製品を形成する。
【0005】
移植可能な医療用フィルムは、手術中に、例えば2つの組織間の、目標部位に配置することができる。手術後の癒着形成を防止又は制限するために、フィルムは目標部位に必要な期間残留すべきである。例えば、幾つかの情報源は、障壁機能は手術後3日間から10日間必要であるとしている(非特許文献1参照)。この障壁機能を得るために、生分解性フィルムは、目標部位の適所に残留すべきであり、癒着が形成される手術後に障壁機能を発揮するのに十分な期間にわたって体に吸収されるべきである。
【0006】
しかし、従来の医療用フィルムは、余りにも速く体に再吸収され、手術後の癒着形成が典型的に発生する時間の間にわたって有効な障壁機能を発揮することができない。例えば、多数の架橋カルボキシメチルセルロース(「CMC:carboxymethylcellulose」)ベースのフィルムは、インビボで7日間以内に吸収され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,017,229号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Peritoneal Surgery by Gere.S.DiZerega,Alan H.DeCherney,Published by Springer,2000,21ページ
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
以下でより詳細に記述するように、カルボキシメチルセルロース(「CMC」)またはNa−CMCなどの固着材料で構築された、魚油製フィルムなどの脂肪酸ベースのフィルムは、フィルムを固着させてフィルムの移動を防止するために設けることができる。CMCの炎症性の特徴、並びにCMC及びNa−CMCの急速な再吸収性にもかかわらず、癒着障壁は体による忍容性が良好であり、非炎症性であり、目標部位から移動せず、CMCの架橋を必要としない。本発明の癒着障壁は、許容される移植後持続期間(例えば、7日間を超える)まで再吸収を効果的に遅延させる。脂肪酸ベースのフィルムとCMCまたはNa−CMCなどの固着材料との組合せは、予想外の相乗効果をもたらす。特に、脂肪酸ベースのフィルムの存在下の非架橋CMCは、脂肪酸の存在下ではない架橋CMCほど急速には体に吸収されない。その結果、癒着障壁の固着部分は、別のCMCベースのフィルムよりもはるかに遅い速度で体に吸収されて、癒着が形成される可能性がある期間にわたって障壁機能が発揮される。
【0010】
本発明の一部の例示的実施形態においては、癒着障壁は乳濁液の形である。乳濁液は、乳濁液基剤に浸漬された脂肪酸ベースの粒子を含むことができる。脂肪酸ベースの粒子は、低温液体と会合した脂肪酸由来の生体材料を細分化することによって形成することができる。乳濁液基剤としては、CMCなどの固着材料と、水、食塩水または乳酸リンゲル液などの(ただしそれだけに限定されない)水性溶液(aqueous−based solution)との混合物が挙げられ得る。
【0011】
本発明の例示的実施形態は、癒着障壁、及び癒着障壁を処方する方法を提供する。本発明の一例示的実施形態によれば、癒着障壁は脂肪酸ベースのフィルム組成物の形を取る。癒着障壁は、架橋された脂肪酸由来の生体材料から誘導された脂肪酸ベースのフィルム、及び脂肪酸ベースのフィルムを包囲する材料から形成された組織固着コーティングを含む。組織固着コーティングは、当該技術分野で公知の任意の手段によって適用することができる。
【0012】
本発明の態様によれば、脂肪酸由来の生体材料はオメガ3脂肪酸である。脂肪酸由来の生体材料は架橋されてもされなくてもよい。脂肪酸由来の生体材料は、少なくとも1種類の脂質又はオメガ3脂肪酸を含むことができる。例えば、脂肪酸由来の生体材料は魚油であってもよい。魚油は更にビタミンEを含むことができる。
【0013】
一例示的実施形態によれば、密着性材料は、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのポリアニオン性多糖であってもよい。別の一例示的実施形態によれば、密着性材料は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)などのCMCの塩を含む。
【0014】
本発明のさらなる態様によれば、脂肪酸由来の生体材料は、固着材料に付随する炎症を低減することができる。一部の実施形態においては、癒着障壁は配置した手術部位から移動せず、更なる実施形態においては、癒着障壁は術後癒着を防止するのに十分な残存時間を有する。
【0015】
本発明の上記及び他の態様、実施形態、目的、特徴及び利点は、添付図面と併せて以下の記述からより十分に理解することができる。図面においては、同様の参照文字は、一般に、種々の図を通して同様の特徴及び構造要素を指す。図面は、必ずしも一定の縮尺で縮尺されておらず、その代わりに本発明の原理の説明に重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一例示実施形態による癒着障壁を示す。
【図2】図2は、本発明の一例示実施形態によって例示的癒着障壁を作製する一例示的方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の一例示実施形態による癒着障壁を示す。
【図4】図4は、本発明の一例示実施形態による癒着障壁を示す。
【図5】図5は、本発明の一例示実施形態による乳濁液として作製された癒着障壁を示す。
【図6】図6は、図5に示した例示的癒着障壁を作製する一例示的方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
本発明の例示的態様及び実施形態は、脂肪酸ベースのフィルム又は脂肪酸ベースの粒子から形成された癒着障壁を提供する。癒着障壁は、CMCベースのフィルムなどの材料の固着特性を有し、さらに予想外の相乗効果を有し、癒着障壁の組織固着部分が吸収される速度をCMC成分の架橋を必要とせずにかなり低下させる。
【0018】
従来のフィルム
一部の従来製品においては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(HEMA)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キトサンなどの親水性組織固着成分を使用して、フィルムを固着させる。この固着は、フィルム易動度又は移動の問題に対処することができる。しかし、これらの親水性材料は、かなりの異物反応及び炎症を示すおそれがあり、これらは望ましくない特性である(例えば、欧州特許出願第20020080404号参照)。
【0019】
さらに、これら従来の組織固着成分の製造は、さらなる難題を引き起こす。特に、上記組織固着成分は、官能性末端基修飾によって、又は化学架橋剤の使用によって、化学的に架橋して、取扱いに適切な機械的完全性、及び湿潤環境における不溶性を付与しなければならない。グルタルアルデヒドまたはアジリジンなどの化学架橋剤の使用は、これらの化合物が所望のヒドロゲル材料よりも生体適合性に劣ることが多いので、過剰の架橋剤を洗浄又は浸漬によって除去する追加のステップを必要とする。これらの追加のステップは、製造プロセスの費用及び困難を増す。
【0020】
上述したように、フィルムは、ポリアニオン性多糖及びヒアルロン酸で作製することができる。’229特許に記載のフィルムの作製に使用される一つの好ましいポリアニオン性多糖はCMCである。’229特許のフィルムは、HA及びCMC(「HA/CMC」)で形成される。しかし、このタイプのフィルムを調製する方法は、調製時に生成する生物学的に有毒な材料を除去する手順のために問題になり得ることが着目されている(例えば、米国特許出願公開第2003/0124087号参照)。’087出願は、HA/CMC調製における水和プロセスが処理及び操作時に難点を生じるおそれがあることに着目している。
【0021】
HA/CMCの一代替はカルボキシメチルセルロースナトリウム(「Na−CMC」)である。Na−CMCは、抗癒着剤としては有効であるが、癒着障壁として有効であるには体内で余りにも速く吸収されるので、Na−CMCを抗癒着障壁として適用することは困難である。CMCベースのフィルムが体内に速く吸収されることは、フィルムが有効な癒着障壁として作用することができる前に再吸収されるので問題である。例えば、HA/CMCフィルムは7日間で吸収され得るが、上述したように、障壁機能は手術後3日間から10日間の間に必要となり得る。ある場合には最高8週間の障壁機能が必要である。
【0022】
さらに、Na−CMCなどのCMCの塩でできたフィルムは、製造が困難か、又は問題となり得る。これらのフィルムの製造は、CMCの固定化、又は架橋による安定化を必要とし得る。なぜなら、NaとCMCとは水性媒体中で容易に解離し、CMCを溶解させるからである。架橋は、2個以上の分子を化学結合によって化学的に連結するプロセスである。CMCの架橋は、例えば、CMCを照射することによって実施することができる(例えば、Fei et al.,Hydragel of Biodegradable Cellulose Derivative.I.Radiation−Induced Crosslinking of CMC,Journal of Applied Polymer Science,vol.78,pp.278−283(2000)参照)。
【0023】
架橋によるCMCの固定化又は安定化なしでは、固体から液体への遷移によって、Na−CMCフィルムが有効な障壁保護を提供する能力がかなり低下する。架橋CMCはさらなる問題を生じる。放射線によって誘導される非修飾CMCの架橋は、巨大分子を動員して集合を可能にする水などの媒体の存在を必要とする。CMCの固相照射は、グリコシド結合の切断によって材料の分解を招く。
【0024】
架橋CMCフィルムは、インビボで急速に、すなわち7日以内に、再吸収されるという限界も有する。さらに、CMCフィルムは、炎症を引き起こすことが知られており、接着性及び親和性を欠く場合もある(例えば、’087出願の段落[0009]〜[0013]参照)。
【0025】
例示的実施形態
従来の癒着障壁とは対照的に、本発明の実施形態は、障壁機能を発揮するに十分な時間にわたって目標部位に存在し、CMC成分を架橋する必要がなく、著しい炎症反応を誘発しない、癒着障壁を提供する。本発明の例示的実施形態によれば、脂肪酸由来の生体材料で構成された脂肪酸ベースのフィルム又は脂肪酸ベースの粒子は、再吸収可能な、組織を分離する癒着障壁材料として使用される。オメガ3脂肪酸及びオメガ6脂肪酸は、例えば魚油から得ることができる脂肪酸の例である。オメガ3脂肪酸としては、エイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)、ドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexanoic acid)及びアルファ−リノレン酸(ALA:alpha−linolenic acid)が挙げられる。
【0026】
脂肪酸由来の生体材料で構成された脂肪酸ベースの障壁は、隣接組織表面を効果的に分離し、体による忍容性が良好であり、他の再吸収可能な持続性移植片材料に典型的な炎症反応を示さない。CMCベースのフィルムは組織に十分付着するが、CMCベースのフィルムは水性媒体において約7日間で容易に溶解する。
【0027】
本明細書に記載のように脂肪酸ベースのフィルム又は粒子を固着材料と組み合わせることによって、固着特性及び抗炎症特性を有する有効な抗癒着障壁が得られる。さらに、これら2つのタイプの材料を組み合わせることによって、予想外の相乗的結果も得られ、特に、CMCと脂肪酸ベースのフィルム又は脂肪酸ベースの粒子との組合せから形成された癒着障壁は、処置部位に残り、CMCの架橋なしに、7日間を超えて最高28日間以上にわたって障壁機能を発揮する。これは、手術後の障壁機能を効果的に発揮するのに十分な残存時間である。
【0028】
本発明の態様を記述する前に、本明細書で使用する場合、「生体適合性」という用語は、生きた組織との適合性(例えば、有毒でも有害でもない)を意味することに留意されたい。生体適合性化合物は、非炎症性成分に加水分解することができ、続いて周囲組織によって生体吸収される。生体適合性化合物を本明細書では「生体材料」とも称する。
【0029】
フィルムは、ゲルを圧縮することによって、又はゲルを脱水させるか、若しくは脱水することによって、又は種々の方法で加熱及び/又は光を使用してゲルを硬化させることによって、形成された物質を包含する。さらに、フィルムは、当業者に公知のプロセスに従って化学的に形成することができる。
【0030】
フィルムに加えて、本発明の例示的実施形態は乳濁液を含む。乳濁液は、2種類以上の非混和性液体の溶液である。一例示的実施形態においては、乳濁液は、脂肪酸ベースの粒子と混合された乳濁液基剤から形成される。脂肪酸ベースの粒子は、脂肪酸ベースのフィルムから誘導することができる。
【0031】
本明細書で使用する場合、脂肪酸ベースの材料は、フィルム及び粒子を含めて、脂肪酸が取り得る任意の形態の材料を包含するものとする。
【0032】
例示的フィルム実施形態
図1は、本発明の一実施形態による癒着障壁100を示す。癒着障壁100は、脂肪酸ベースのフィルム110を含む。脂肪酸ベースのフィルム110は、当該技術分野で公知の方法のいずれかによって形成することができる。一実施形態においては、架橋された脂肪酸由来の生体材料は、天然であり得る、又は合成供給源から誘導され得る、油を含み、脂肪酸ベースのフィルム110の形成に使用される。架橋された脂肪酸由来の生体材料は、魚油を含めて、少なくとも1種類の脂質又はオメガ3脂肪酸を含む油などの生物学的油を含むことができる。生体材料は、さらに、ビタミンEを含むことができる。
【0033】
癒着障壁100は、固着材料から形成された組織固着コーティング120も含む。一実施形態においては、固着材料はポリアニオン性多糖である。別の一実施形態においては、固着材料は、カルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。更に別の一実施形態においては、固着材料は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)を含む。
【0034】
図2は、癒着障壁100を作製する一例示的方法を示すフローチャートである。ステップ210では、脂肪酸ベースのフィルム110を当該技術分野で公知の方法の一つによって調製する。例えば、米国特許出願第11/237,420号に記載のように、魚油を加熱及び/又はUV照射に曝露して、ゲルなどの架橋された脂肪酸由来の生体材料を形成することができる。ゲルをさらに圧縮又は脱水して、フィルムを形成することができる。当業者は、別の方法を利用して、脂肪酸ベースのフィルム110を形成できることを認識するであろう。本発明は、上記出願又は特許に記載の特定の方法に決して限定されない。
【0035】
油成分は、他の公知の方法に加えて、’420出願に記載のように硬化させることもできる。硬化のステップとしては、固化(hardening)、又はUV光、熱若しくは酸素の導入などによる硬化(curing)、化学硬化、又は他の硬化若しくは固化方法が挙げられ得る。固化又はキュアリングの目的は、フィルムを所望のとおりに曲げること及び巻きつけることができる十分な柔軟性を維持しながら、より液状の粘稠度の油成分又は油組成物をより固形のフィルムに転移させることである。
【0036】
一部の実施形態においては、油成分は、コーティング前にプラズマ処理などの表面処理に供される。
【0037】
ステップ220では、脂肪酸ベースのフィルム110を必要に応じて適切なサイズに切断する。切断された脂肪酸ベースのフィルム110の最終寸法は、具体的用途に応じて決まるであろう。
【0038】
ステップ230では、組織固着材料のコーティング溶液を調製する。本発明の一例示的実施形態によれば、コーティング溶液は、脱イオン水、無菌注射用水(SWFI)などの水溶液中の置換度0.65〜0.85の0.1%〜5%(重量/体積)非架橋高分子量Na−CMCで構成される(しかし、0.65未満及び理論的限界の3までの置換度も許容される)。場合によっては、コーティング溶液は、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリアセチンシトラート、トリアセチンなどの可塑剤を含むことができる。
【0039】
約5%よりも高い重量/体積濃度では、溶液は、固体様ゲルとなり、加工が困難になり得る。一般に、濃度5%未満のほとんどの溶液は、物理的に加工可能であるが、例えばフィルム表面へのNa−CMCの付加質量に注意すべきである。Na−CMCが少なすぎる場合、癒着障壁の不十分な組織固着を招くであろう。Na−CMC濃度が低いと、所望の付加量を達成するためにコーティングを多数回塗布する必要があり得る。一実施形態においては、2%の重量/体積濃度が使用される。本発明者らは、インビボで適度の組織固着を達成するために最小乾燥付加量1.0mg/cmを使用できることを見いだした。
【0040】
例えば700,000の高分子量のNa−CMCを組織固着材料に使用することができる。キトサンの別々の評価では、本発明者らは、組織固着が分子量とともに増加すると思われることを見いだした。
【0041】
実験観察に基づいて、理論に拘泥せずに、組織固着はコーティングの吸湿性に起因する。吸湿性は置換度の増加とともに増加するので、すべての実用範囲の置換度が本発明において許容される。0.65〜1.2の間の置換度は、実用的で容易に利用できる一範囲である。
【0042】
ステップ240では、浸漬コーティング、スプレーコーティング、刷毛塗り、キャスティング、またはスピンコーティングなどの任意の標準コーティング方法を使用して、コーティング溶液を脂肪酸ベースのフィルム110に塗布する。ステップ250では、コーティングを適切な時間、例えば2〜24時間にわたって乾燥させる。あるいは、(水性又はゼラチン質のコーティングをもたらす)コーティング溶液の温度が高くなりすぎない限り、装置を使用して種々の公知の方法によって乾燥を加速することができる。例えば、フィルムを減圧乾燥することができる。
【0043】
脂肪酸ベースのフィルムを固着材料でコーティングする代わりに、フィルムを形成する前の最初の油又はゲルに固着材料を導入することができる。かかる実施形態による癒着障壁の一例を図3に示す。図示したように、癒着障壁300は脂肪酸ベースのフィルム310で形成される。癒着障壁300は、さらに、Na−CMCなどの固着材料から形成された固着粒子320を含む。かかる実施形態は、例えば、プレス粒子方法(pressed particle method)によって形成することができ、この方法では、O3FAなどの脂肪酸の粒子が形成され、固着材料の粒子が形成される。次いで、2つのタイプの粒子を合わせて混合し、プレスして、癒着障壁を形成する。当業者は、2種類の材料を組み合わせて、混ざり合った複合材タイプの材料を形成する別の方法を認識するであろう。かかる方法はすべて、本明細書で考察する材料に適合する範囲で本発明において企図される。
【0044】
図4は、本発明の別の一代替実施形態を示す。図4に示した癒着障壁においては、癒着障壁400は脂肪酸ベースのフィルム410から形成される。脂肪酸ベースのフィルム410は、固着コーティング420で一面のみがコーティングされている。かかる癒着障壁は、例えば、固着コーティング420を脂肪酸ベースのフィルム410の一面のみに刷毛塗り又は噴霧することによって形成することができる。脂肪酸ベースのフィルム410を一面にコーティングする別の手段は、本開示に照らして当業者に明白になるであろう。あるいは、脂肪酸ベースのフィルム410を完全に包囲せずに、脂肪酸ベースのフィルム410の2つ以上の表面をコーティングすることができる。したがって、組織固着は、脂肪酸ベースのフィルムの一面又は両面で実施することができる。
【0045】
例示的乳濁液実施形態
図5は、本発明の別の一代替実施形態を示す。図5に示す癒着障壁500は、CMCと水との混合物などの乳濁液基剤520と混合された脂肪酸ベースの粒子510の乳濁液である。
【0046】
脂肪酸ベースの粒子510は、架橋された脂肪酸由来の生体材料を低温液体と会合させ、脂肪酸粒子が形成されるように生体材料/低温液体組成物を細分化することによって、形成することができる。一実施形態においては、架橋された脂肪酸由来の生体材料の供給源は魚油、例えば魚油の脂肪酸の一部又はすべてを架橋するために加熱されたか又はUV照射に曝された魚油である。
【0047】
一実施形態においては、架橋された脂肪酸由来の生体材料と低温液体との会合は、架橋された脂肪酸由来の生体材料の、懸濁、浸漬及び包囲を包含する。別の一実施形態においては、低温液体は液体窒素を含む。架橋された脂肪酸由来の生体材料/低温液体組成物は、グラインディング、せん断、衝撃、シャタリング、顆粒化、微粉砕、シュレッディング、クラッシング、均質化処理、超音波処理、振動及び/又はミリングの1つ以上を使用して細分化することができる。低温液体は、細分化前又は粒子形成後に、蒸発によって実質的に除去することができる。
【0048】
架橋された脂肪酸由来の生体材料は、油を含むことができ、この油は天然であり得るか又は合成供給源から誘導され得る。架橋された脂肪酸由来の生体材料は、魚油などの少なくとも1種類の脂質又はオメガ3脂肪酸を含む油などの生物学的油を含むことができる。魚油は、ビタミンEをさらに含むことができる。本明細書に記載のように、魚油は、加熱及び/又はUV照射に曝されて、架橋された脂肪酸由来の生体材料(例えば、ゲル)を形成する。一実施形態においては、低温液体と会合される前には、架橋材料はフィルムの形である。別の一実施形態においては、フィルムは、低温液体と会合される前に粗くグラインディングされる。
【0049】
架橋された脂肪酸由来の生体材料がフィルムの形であるときには、治療薬は、粒子形成前、粒子形成中又は粒子形成後に、フィルム中に加えることができる。更に別の一実施形態においては、フィルムは治療薬/溶媒混合物でコーティングされる。治療薬は、メタノールまたはエタノールなどの溶媒に溶解させることができ、治療薬/溶媒混合物は、例えば浸漬又は噴霧によって、フィルムに塗布することができる。
【0050】
一旦調製されたら、脂肪酸ベースの粒子510は、ヘキサン、アイソパー(Isopar)、水、エタノール、メタノール、Proglyme、塩化メチレン、アセトニトリル、アセトンまたはMEKなどの溶媒に溶解した治療薬に浸漬することができ、溶媒を実質的に除去して、治療薬が会合した脂肪酸粒子を得ることができる。
【0051】
治療薬は、抗酸化剤、抗炎症剤、抗凝固剤、脂質代謝を変える薬物、抗増殖剤、抗腫瘍薬、組織増殖刺激薬、機能性タンパク質/因子送達剤、抗感染薬、画像化剤、麻酔剤、化学療法剤、組織吸収促進剤、抗癒着剤、殺菌薬(germicide)、鎮痛薬、防腐剤(antiseptic)、又は薬学的に許容されるその塩、エステル若しくはプロドラッグの1種類以上であり得る。特定の実施形態においては、治療薬は、ラパマイシン、マーカイン(Marcaine)、シクロスポリンA(本明細書では「CSA」と称する)、ISA247(本明細書では「ISA」と称する)及びリファンピシンからなる群から選択される。
【0052】
一実施形態においては、脂肪酸ベースの粒子510の平均粒径は、約1ミクロンから約50ミクロン、例えば1ミクロンから約10ミクロンの範囲である。別の一実施形態においては、粒子のサイズ分布は、約1〜20μm(v、0.1)、21〜40μm(v、0.5)及び41〜150μm(v、0.9)である。
【0053】
乳濁液基剤520は、混合したときに脂肪酸ベースの粒子510と合わさらない液体又は水性ベースの溶液である。一例では、乳濁液基剤はCMCと水との混合物である。別の適切な乳濁液基剤としては、食塩水溶液及び乳酸リンゲル液が挙げられるが、それだけに限定されない。乳濁液基剤は、組織密着性材料を含むことができる。
【0054】
図6は、図5の癒着障壁を作製する一例示的方法を示すフローチャートである。ステップ610では、乳濁液基剤溶液を調製する。一例では、CMCと水との混合物(4.2%w/w)を含む乳濁液基剤溶液をSilversonホモジナイザー(8kRPM)を使用して調製し、室温で一晩膨潤させた。
【0055】
ステップ620では、脂肪酸ベースのフィルム粒子を上述したように調製する。具体的には、脂肪酸ベースの粒子は、(a)架橋された脂肪酸由来の生体材料(例えば、架橋魚油)と治療薬とを組み合わせて第1の組成物を形成し、(b)組成物を低温液体に浸漬し、包囲し、又は懸濁し、(c)組成物を細分化し、(d)場合によっては、分散媒を除去することによって形成することができる。
【0056】
分散媒は、治療薬又は架橋された脂肪酸由来の生体材料を溶解しない溶媒を含むことができる。更に別の一実施形態においては、溶媒は、ヘキサン、アイソパー(Isopar)、水、エタノール、メタノール、Proglyme、塩化メチレン、アセトニトリル、アセトン、MEK、液体窒素、及び治療薬を完全には溶解しない他の溶媒である。別の一実施形態においては、架橋された脂肪酸由来の生体材料はフィルムの形にある。別の一実施形態においては、フィルムは、治療薬と会合される前に粗くグラインディングされる。
【0057】
出発材料は、磁気的に作動される棒で出発材料に衝撃を与えることによって固体粒子に細分化することができる。例えば、Spex Certiprep Cryomill(モデル6750)を使用して、固体材料を粒子に細分化することができる。組成物を封入されたバイアルに入れることができ、棒状インパクターをバイアルに封入する。バイアルを極低温で維持し、棒をバイアル中で磁石によって急速に振動させる。
【0058】
一例では、魚油をある程度硬化させ、次いで厚さ6ミル(0.006”)の薄膜に注型した。薄膜を15分間UV硬化させ、オーブン中で、93℃にて24時間熱硬化させ、次いで24時間冷却した。硬化魚油フィルムを液体窒素の存在下で乳鉢及び乳棒でグラインディングした。薄膜粒子を低温グラインダーで更に8サイクル、グラインディングした。8サイクルの各々において、低温グラインダーを速度15で2分間稼動させ、2分間停止した。粒子を−20℃で貯蔵した。
【0059】
ステップ630では、脂肪酸ベースの溶液を形成するために、粒子を脂肪酸と一緒に均質化する。一例示的実施形態においては、粒子1グラムを魚油8グラムと一緒にSilversonホモジナイザー(8kRPM)を使用して、すべての粒子が均一に分散するまで均質化した。
【0060】
ステップ640では、乳濁液基剤を脂肪酸ベースの溶液と混合して、乳濁液を形成する。一例では、Silversonホモジナイザー(8kRPM)を使用して脂肪酸ベースの溶液を(膨潤後の)4.2%CMCゲル31グラムと混合した。
【0061】
ステップ650では、乳濁液を滅菌する。例えば、乳濁液を23kGyの線量で電子線滅菌することができる。
【0062】
例示的乳濁液をステップ610〜650に従って調製した。生成した乳濁液の粘度は、50,000〜75,000cPの範囲であった。
【0063】
使用時、本発明の癒着障壁は目標部位、例えば手術部位に適用される。癒着障壁は、2つの対象領域の間、例えば、組織、器官、メッシュ又は別の非吸収性材料の間に適用することができる。癒着障壁の固着特性は、障壁が目標部位から移動しないように、癒着障壁を対象領域に固着させる。
【0064】
手術後、外科的切開を閉じ、目標部位を治癒させる。癒着障壁を使用しない通常の状態では、癒着が対象領域間に形成し始める。例えば、組織間及び器官間で手術後3から10日で線維帯が形成し得る。癒着障壁が目標部位に存在すると、癒着障壁は癒着の形成を防止する。癒着障壁は対象領域に十分固着するので、さらに、癒着障壁は体に比較的ゆっくり吸収されるので、癒着障壁は、障壁がなければ癒着が形成される時点で目標部位の所定の位置にある。
【0065】
障壁機能がもはや必要でなくなると、癒着障壁は体に吸収される。
【0066】
例示的な説明のための実施形態を以下に記述する。
【実施例】
【0067】
実施例1
実験台上での剥離力−非滅菌試料
脱イオン水中の置換度0.65の2%(w/v)非架橋高分子量Na−CMC(Sigma)で構成されたコーティング溶液を15枚の1平方インチの脂肪酸ベースのフィルムに塗布し、乾燥させて、本発明の実施形態による癒着障壁を形成した。試験前に水道水ですすいだ新たに屠殺されたウシの腸に癒着障壁を置いた。癒着障壁を組織上に試験前に3分間放置した。Chatillonゲージを使用して、癒着障壁と組織との間の癒着面に平行な方向の剥離力を測定した。Chatillonゲージで測定された各試料の最大力を収集した。15枚のコーティングされていない脂肪酸ベースのフィルムを参照用に測定した。コーティングされていないフィルムの平均剥離力は0.08lbfであった。それに対して、本発明の実施形態による癒着障壁を形成するコーティングされたフィルムの平均剥離力は0.54lbfであった。
【0068】
実施例2
組織間の癒着を最小限にする脂肪酸−CMCフィルムのインビボでの結果
本発明の例示的実施形態による癒着障壁の試験試料を実施例1の上記方法によって作製した。CMCは架橋を増強するように改変されず、架橋促進剤も使用されなかった。試験試料を癒着防止のウサギ側壁モデルに移植した。試料を22.5kGyの線量で電子線を使用して滅菌した。盲腸を十分に擦過して、点状出血させ、腹膜の3×5cm切片を切り出した。このモデルは、未処理の動物では高密度の癒着を生じる。CMCでコーティングされた4×6cmのO3FAフィルムを腹膜の欠損部上にコーティング側を側壁に直接接触させて配置した。移植から28日後に、ウサギを屠殺し、癒着面積を等級分けした。
【0069】
4匹のウサギを無処理対照群として保持した。5匹のウサギを癒着障壁で処理した。4匹の対照の被験体においては、平均癒着面積は100%であった。癒着障壁を有する実験被験体においては、平均癒着面積は8%であった。
【0070】
上述のとおり、架橋促進剤はこの実施例では使用されなかった。電子線は、先の固体CMCフィルムを分解し、インビボでのより速い吸収を招くことが知られている。しかし、電子線滅菌の使用にもかかわらず、実施例2の結果によって、癒着障壁は、少なくとも28日間組織に密着したままであったことが示される。
【0071】
実施例3
放射線曝露による架橋は、CMC水性組成物のインビボでの残存時間を増加させるのに使用することができる方法である。乾燥CMCフィルムに対する放射線曝露の効果を評価するために、SWFI中の置換度0.7の2%(w/v)Na−CMC(Hercules)で構成された溶液をSWFIで溶液:SWFI比5:2に希釈した。希薄溶液をTeflon(登録商標)でコーティングされたウェルプレートに注ぎ、室温で24時間乾燥させて、CMCの薄い固体フィルムを得た。フィルムを幾つかの四角い小片に切断し、別々に包装した。幾つかの小片を、10MeV電子線源を使用して22.5kGyの線量で照射した。照射試料及び非照射試料を別々のアルミニウムパンの脱イオン水に浸漬し、溶解度、及び構造の維持/喪失を評価した。CMCフィルムが放射線曝露によって架橋された場合、フィルムは水和すると、最初の四角形状を維持しながらやや膨潤するはずである。それに対して、照射フィルムおよび非照射フィルムの両方とも膨潤し、約10分以内に構造を失い、30分でもはや固体としてもゲルとして検出できなかった。これは、両方の試料においてCMCが十分に移動性である(架橋も他の方法での化学結合による固定もされない)ことを示す。パンのCMC溶液を周囲室温で48時間蒸発させると、パン底面に丸いパン形状に合わせてCMCの均一に薄い固体フィルムが生成した。曝露と非曝露のCMCフィルムの完全に等しい溶解度は、電子線曝露がCMC材料の移動性を構造上制限(すなわち架橋)しなかったことの証拠である。
【0072】
O3FAの存在下でCMCに対する放射線架橋の効果を更に評価するために、本発明の例示的実施形態による癒着障壁の2個の試験試料を実施例1の上記方法により作製した。癒着障壁1を10MeV電子線源に22.5kGyの線量で曝露した。癒着障壁2は電子線照射に曝露されなかった。癒着障壁を計量し、脱イオン水200mLに曝露し、2、5及び69時間で視覚評価した。次いで、癒着障壁を25mTorrで2時間にわたって減圧乾燥させた。測定及び観察結果を下記表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
著者らは、この使用したコーティング方法がコーティング質量密度2.28+/−0.11mg/cm(平均+/−1σ、n=12)を与えることを以前に決定した。両方の癒着障壁は質量減少があり(それぞれ2.17及び2.14mg/cm)、このことは、コーティングがDI水に十分可溶性であり、したがって架橋も他の方法で固定もされないという結論を支持する。視覚による観察はこの結論を支持する。
【0075】
O3FAの存在下でCMCはDI水に完全溶解するのに5から69時間かかったのに対して、CMCのみのフィルムは30分で完全に溶解した。O3FAの存在は、DI水へのCMCの溶解を遅らせると思われる。これは、電子線照射と無関係である。
【0076】
実施例4
SWFI中の置換度0.7の2%(w/v)Na−CMC(Hercules)及び1%グリセリンで構成されたコーティング溶液を調製した。コーティング溶液を幾つかの脂肪酸ベースのフィルムに塗布し、乾燥させて癒着障壁を形成した。コーティングは十分可塑化されたので、癒着障壁は優れた取扱い性を示した。癒着障壁を22.5kGyの線量の電子線で滅菌し、癒着のウサギ側壁モデルに移植した。盲腸を十分に擦過して、点状出血させ、腹膜の3×5cm切片を切り出した。CMCでコーティングされた4×6cmフィルムを腹膜の欠損部上にコーティング側を側壁に直接接触させて配置した。移植から28日後に、ウサギを屠殺し、癒着面積を等級分けした。
【0077】
4匹のウサギを無処理対照群として保持した。5匹のウサギを癒着障壁で処理した。4匹の対照の被験体においては、平均癒着面積は100%であった。癒着障壁を有する実験被験体においては、平均癒着面積は8%であった。
【0078】
この結果は、この試験では、癒着障壁は処理部位から移動しなかったので可塑剤の添加は、O3FA−CMCフィルムを含む癒着障壁の効力に影響しなかったことを示す。この試験の結果は、可塑化された癒着障壁は、少なくとも28日間にわたって組織に固着したことを示す。
【0079】
実施例5
組織固着キトサンコーティングを有するO3FAフィルム
1%酢酸溶液中の4%(w/v)ChitoPharm S(MW=50,000〜1,000,000、Cognis)で構成されたコーティング溶液を、分子量カットオフ3,500のFisherbrand再生セルロース透析管膜を使用して透析した。最終コーティング溶液のpHは6.27であった。コーティングを幾つかの4×6cm O3FAフィルムに塗布し、癒着防止のウサギ側壁モデルにおいて評価した。試料を22.5kGyの線量で電子線を使用して滅菌した。盲腸を十分に擦過して、点状出血させ、腹膜の3×5cm切片を切り出した。このモデルは、未処理の動物では高密度の癒着を生じる。キトサンでコーティングされた4×6cmフィルムを腹膜の欠損部上にコーティング側を側壁に直接接触させて配置した。移植から28日後に、ウサギを屠殺し、癒着面積を等級分けした。結果を下表に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例6
乳濁液
図5に示した乳濁液の形の癒着障壁を図6に記載の手順に従って調製した。乳濁液の試料を試験まで4℃で貯蔵した。
【0082】
乳濁液の試験試料をウサギ側壁モデルにおいて試験して、癒着防止を評価した。盲腸を十分に擦過して、点状出血させ、腹膜の3×5cm切片を切り出した。このモデルは、未処理の動物では高密度の癒着を生じる。乳濁液10mLを腹膜及び側壁の損傷に塗布した。移植から28日後に、ウサギを屠殺し、癒着面積を等級分けした。
【0083】
結果は、試験した6匹の動物のうち3匹は癒着が形成されなかったことを示す(面積=0%)。癒着を形成した残りの3匹は、粘着力(tenacity)がわずか1にすぎず、癒着が軽度であり、容易に切開できることを示している。平均癒着被覆面積は28.3%であり、平均粘着力スコアは0.5であった。これらの結果は、下表に詳述するように、対照未処理動物のそれとは対照的である。
【0084】
【表3】

【0085】
生体適合性及びインビボでの性能
本発明によって記述される脂肪酸ベースの生体材料を製造するプロセスは、油の酸化に関する文献の伝統的な科学報告に鑑みて、幾つかの予想外の化学プロセス及び特性をもたらしたs(J.Dubois et al.JAOCS.1996,Vol.73,No.6.,pgs787−794.H.Ohkawa et al.,Analytical Biochemistry,1979,Vol.95,pgs351−358.;H.H.Draper,2000,Vol.29,No.11,pgs1071−1077)。油酸化は、伝統的に、生体適合性であるとは考えられないヒドロペルオキシドおよびアルファ−ベータ不飽和アルデヒドなどの反応性副生物の形成という理由から油硬化手順の関心事である。(H.C.Yeo et al.Methods in Enzymology.1999,Vol.300,pgs70−78.;S−S.Kim et al.Lipids.1999,Vol.34,No.5,pgs489−496)。しかし、油及び脂肪に由来する脂肪酸の酸化は、インビボでの生化学プロセスの制御において自然であり、重要である。例えば、炎症の促進又は抑制などのある生化学的経路の調節は、様々な脂質酸化生成物によって制御される(V.N.Bochkov and N.Leitinger,J.Mol Med.2003;Vol.81,pgs613−626)。さらに、オメガ3脂肪酸は、ヒトの健康に重要であることが知られており、特にEPA及びDHAはインビボでの抗炎症性を有する。しかし、EPA及びDHAはそれ自体抗炎症性ではないが、それらが生化学的に変換された酸化副生物は、インビボで抗炎症効果を示す(V.N.Bochkov and N.Leitinger,2003;L.J.Roberts II et al.The Journal of Biological Chemistry.1998;Vol.273,No.22,pgs13605−13612)。従って、生体適合性ではないある種の油酸化生成物が存在するが、ポジティブな生化学的性質をインビボで有する幾つかの別のものも存在する(V.N.Bochkov and N.Leitinger,2003;F.M.Sacks and H.Campos.J Clin Endocrinol Metab.2006;Vol.91,No.2,pgs398−400;A.Mishra et al.Arterioscler Thromb Vasc Biol.2004;pgs1621−1627)。したがって、適切なプロセス条件を選択することによって、好都合な生物学的性能をインビボで有する最終化学プロファイルを含む油酸化の化学的性質を利用して、油から誘導された架橋疎水性生体材料を生成し、制御することができる。
【0086】
本発明による油から誘導された疎水性非重合性生体材料を製造するプロセスは、生体適合性であり、癒着形成を最小化し、組織を分離する障壁として作用し、材料の化学的性質並びにインビボでの加水分解及び体内吸収によって産生された産物に関して非炎症性である、最終化学プロファイルをもたらす。これらの諸性質は、本発明の実施形態における脂肪酸由来の生体材料の幾つかの独特の特性に帰因する。
【0087】
本発明の一態様は、(グルタルアルデヒドなどの)有毒な短鎖架橋剤を使用せずに、油から誘導された生体材料、したがって本発明の癒着障壁を形成することである。短鎖架橋剤は、生分解性ポリマーの加水分解中に溶出して、局所的組織炎症を引き起こし得ることが以前に文献で示された。油から誘導された生体材料を製造するプロセスは、油が油自動酸化又は光酸化化学反応によって硬化してコーティングになるので、架橋剤を含まない。酸化プロセスは、油から誘導された生体材料が極めて急速に水和し、滑りやすくなるのを許容し、それにより移植中及び移植後の摩擦傷害をかなり減少させ、及び/又は除くことを許容する、カルボキシル官能基及びヒドロキシル官能基の形成をもたらす。本発明の実施形態に記載の油から誘導された生体材料を製造する方法は、コーティング中に存在する脂肪酸、グリセリド及び他の脂質副生物のアルキル鎖を不規則にして、柔軟なコーティングを形成し、移植時の材料の取扱いを容易にする。
【0088】
インビボで認められた生体適合性及び低〜非炎症反応に役立つ本発明の材料の幾つかの個々の化学成分がある。本発明の例示的実施形態の一態様は、本明細書に記載の癒着障壁の形成に使用される油から誘導された生体材料を製造するプロセスが、アルデヒドなどの生体適合性の懸念のある、少量から検出不可能な量の酸化脂質副生物を生じることである。これらの生成物は、本発明の例示的実施形態に記載のように、硬化プロセス中にほぼ完全に反応又は揮発する。油から誘導された生体材料を製造するプロセスは、未変性油トリグリセリドのエステルを主として保存し、生体適合性であるエステル及び/又はラクトン架橋を形成する(K.Park et al.,1993;J.M.Andersen,1995)。
【0089】
その生体適合性に役立つ、油から誘導された生体材料の一般的化学的性質に加えて、ポジティブな生物学的特性を有する特定の化学成分も存在する。別の一態様は、油から誘導された生体材料の製造によって生成する脂肪酸の化学的性質が、組織の脂肪酸の化学的性質に類似していることである。したがって、脂肪酸が癒着障壁から溶出したときに、それは体によって「異質」とみなされず、炎症反応を起こさない。実際に、癒着障壁中に存在するC14脂肪酸(ミリスチン酸)及びC16脂肪酸(パルミチン酸)は、炎症性サイトカインα−TNFの生成を抑制することが文献に示されている。α−TNFの発現は、ヘルニア修復後の腹腔において炎症を「開始」し、次いで異常な治癒及び癒着形成をもたらし得る原因である重要なサイトカインの一つとして確認された(Y.C.Cheong et.al.,2001)。α−TNFは、ステント配置中に生じる血管外傷などの血管外傷及び炎症における重要なサイトカインでもある(D.E.Drachman and D.I.Simon,2005;S.E.Goldblum,1989)。今詳述した脂肪酸に加えて、抗炎症特性を有することが確認された別の酸化脂肪酸もある。本明細書に記載の脂肪酸由来の生体材料から特定された別の成分はデルタラクトン(すなわち、6員環環式エステル)である。デルタラクトンは、抗腫瘍特性を有することが確認された(H.Tanaka et.al.Life Sciences 2007;Vol.80,pgs1851−1855)。
【0090】
出発油の組成及び/又はプロセス条件の変更は脂肪酸及び/又は酸化副生物のプロファイルを常に変えるので、本明細書で特定する成分は、本発明の範囲を限定することを意味するものではなく、必要に応じて脂肪酸由来の生体材料の意図された目的及び適用部位に応じて調節することができる。
【0091】
要約すると、本明細書に記載の癒着障壁を形成する脂肪酸由来の生体材料の生体適合性及び認められたインビボでの性能は、移植及び治癒中の材料の加水分解中の脂肪酸の溶出に帰因し、材料の脂肪酸組成が天然の組織に類似している(すなわち、生物学的「ステルス」コーティング)という理由からインビボでの異物反応の防止に有益なだけでなく、コーティングから溶出した特定の脂肪酸及び/又は別の脂質酸化成分は、異物反応の防止及び炎症の抑制又は解消に役立ち、患者の結果を改善する。さらに、癒着障壁の脂肪酸ベースのフィルムを形成する脂肪酸由来の生体材料から溶出した脂肪酸及びグリセリド成分は、局部組織によって吸収されることができ、例えばクエン酸回路において、細胞によって代謝されることができる(M.J.Campell,”Biochemistry:Second Edition.”1995,pgs366−389)。したがって、本発明によって記述される脂肪酸由来の生体材料は生体吸収性でもある。
【0092】
癒着障壁を使用した処置方法
一般に、4つのタイプの軟部組織:上皮組織(例えば、皮膚ならびに血管及び多数の器官の内層)、結合組織(例えば、腱、じん帯、軟骨、脂肪、血管及び骨)、筋肉(例えば、骨格(横紋筋)、心筋又は平滑筋)、並びに神経組織(例えば、脳、脊髄及び神経)がヒトに存在する。本発明による癒着障壁は、これらの軟部組織領域の傷害の処置に使用することができる。したがって、一実施形態においては、本発明の癒着障壁は、創傷治癒のための軟部組織の増殖の促進に使用することができる。さらに、急性外傷後、軟部組織は、治癒及びリハビリプロセスの結果として、変化し、順応することができる。かかる変化としては、ある種の組織がその組織では正常でない形態に変換されることである化生、組織の異常な発達である異形成、正常な組織配置にある正常細胞の過剰増殖である過形成、並びに細胞死及び再吸収又は細胞増殖低下に帰因する組織サイズの減少である萎縮が挙げられるが、それだけに限定されない。したがって、本発明の脂肪酸由来の生体材料は、軟部組織における急性外傷に付随又は起因する少なくとも1つの症候の縮小又は軽減に使用することができる。
【0093】
本発明の一例示的実施形態によれば、以下に示すように、癒着障壁は、組織癒着の防止に使用することができる。組織癒着は、例えば、鈍的切開の結果であり得る。鈍的切開は、一般に、切断せずに自然な割線に沿って組織を分離することによって成し遂げられる切開と記述することができる。鈍的切開は、当業者によって理解されるように、多くの異なる切れ味の鈍い手術道具を使用して実施される。鈍的切開は、とりわけ、心血管、結腸直腸、泌尿器科、婦人科、上部胃腸管及び形成外科用途でしばしば実施される。
【0094】
鈍的切開によって所望の組織を別個の領域に分離した後、その組織の分離を維持する必要がしばしば存在する。実際に、術後癒着はほぼあらゆるタイプの手術後に起こって、重篤な術後合併症を生じ得る。外科的癒着の形成は、複雑な炎症過程であり、ここでは体内で通常は分離したままの組織が、外科的外傷の結果として、互いに物理的に接触し、互いに付着する。
【0095】
癒着は、損傷を受けた組織からの血漿タンパク質の放出及び漏出が腹腔中に堆積し、フィブリン性滲出物と呼ばれるものを形成するときに形成されると考えられる。損傷した組織を修復するフィブリンは粘着性であり、その結果、フィブリン性滲出物は腹部の隣接する解剖学的構造に付着し得る。フィブリン沈着は局所的炎症に対する一様な宿主反応であるので、外傷後の又は連続した炎症は、このプロセスを悪化させる。フィブリン性滲出物は組織型プラスミノゲン活性化因子(t−PA)に代表されるフィブリン溶解性因子の放出から引き起こされる酵素分解を受けるので、この付着は、傷害後の最初の数日間は可逆的であるように思われる。t−PAとプラスミノゲン活性化因子阻害剤との間には一定の役割がある。外科的外傷は、通常、t−PA活性を低下させ、プラスミノゲン活性化因子阻害剤を増加させる。これが起きると、フィブリン性滲出物中のフィブリンはコラーゲンで置換される。血管が形成され始めると、これは癒着の発生をもたらす。これが一度起きると、癒着は不可逆的であると考えられる。したがって、外傷後の最初の数日間のフィブリン沈着と分解との間のバランスは、癒着の発生に重要である(Holmdahl L.Lancet 1999;353:1456−57)。正常なフィブリン溶解活性を維持できるか、又は急速に回復できる場合、線維沈着物は溶解され、恒久的な癒着を回避することができる。癒着は、組織の薄いシート又は厚い線維帯として出現し得る。
【0096】
炎症反応は、移植された医療デバイスなどのインビボでの異物によってもしばしば誘発される。体はこの移植片を異物と認識し、炎症反応は、異物を遮断する細胞反応である。この炎症は、移植された装置に癒着形成をもたらし得る。したがって、炎症反応をほとんど又は全く引き起こさない材料が望ましい。
【0097】
したがって、本発明の癒着障壁は、組織を分離したままに保ち、癒着(例えば外科的癒着)の形成を回避する障壁として使用することができる。癒着防止の適用例としては、腹部手術、脊髄修復、整形手術、腱及びじん帯修復、婦人科及び骨盤の手術、並びに神経修復への適用が挙げられる。癒着障壁は、外傷部位上に適用し、又は組織若しくは器官のまわりを包んで、癒着形成を制限することができる。これらの癒着防止用途に使用される脂肪酸由来の生体材料に治療薬を添加することは、疼痛緩和、感染の最小化などの更なる有益な効果に利用することができる。癒着障壁の別の外科的適用としては、硬膜パッチとしての独立型フィルム、支柱形成材料、(移植吻合部などの)内部創傷治療及び内部薬物送達システムの使用が挙げられ得る。癒着障壁は、経皮、創傷治癒及び非手術分野における適用に使用することもできる。癒着障壁は、熱傷または皮膚潰瘍の治療などの外部創傷治療に使用することができる。癒着障壁は、清浄な、非透過性、非接着性、非炎症性、抗炎症性の包帯として、治療薬なしで使用することができ、又は癒着障壁は、更なる有益な効果のために1種類以上の治療薬と一緒に使用することができる。癒着障壁は、脂肪酸由来の生体材料に1種類以上の治療薬を添加又はコーティングして、経皮薬物送達パッチとして使用することもできる。
【0098】
創傷治癒プロセスは、傷害に応じた組織修復を含み、これは上皮の増殖及び分化、線維組織の生成及び機能、血管新生、並びに炎症を含めて、多数の異なる生物学的プロセスを包含する。したがって、癒着障壁は、創傷治癒用途に適切な優れた材料を与える。
【0099】
脂肪酸ベースのフィルムを組織固着材料と組み合わせることによって、固着特性及び抗炎症特性を有する有効な癒着障壁が得られる。生成した癒着障壁は、体による忍容性が良好であり、手術後の癒着を減少させ、フィルムの固着特性に起因して目標部位から移動しない。さらに、癒着障壁は、従来のCMCベースのフィルムに比べて比較的ゆっくり体に吸収され、その結果、癒着障壁と処置部位との間の組織接着を最高28日間促進する。これは、手術後の障壁機能を効果的に発揮するのに十分な残存時間である。さらに、脂肪酸ベースのフィルムを組織固着材料と組み合わせることによって、組織固着材料を架橋する必要性を回避することができ、フィルム製造のコスト及び複雑さを低減することができる。
【0100】
本発明の多数の改変及び代替実施形態が、上記記述に鑑みて当業者に明白になるであろう。したがって、この記述は、単なる説明にすぎないと解釈すべきであり、本発明を実施するための最良の形態を当業者に教示することが目的である。構造の詳細は、本発明の精神から逸脱することなく実質的に変わり得る。添付の特許請求の範囲内にあるすべての改変の排他的な使用は確保される。本発明は、添付の特許請求の範囲及び適用可能な法規範によって必要とされる程度にのみ限定されることが意図される。
【0101】
特許、特許出願、論文、本、専門書、学位論文及びウェブページを含めて、本願で引用される文献及び類似資料はすべて、かかる文献及び類似資料の形式にかかわらず、その全体が参照により明確に援用される。定義された用語、用語の使用方法、記述された技術などを含めて、援用された文献及び類似資料の1つ以上が本願と異なる又は矛盾する場合、本願が支配する。
【0102】
本明細書で使用した項目見出しは、単なる構成上の目的のためにすぎず、記述された主題を限定するものと決して解釈すべきではない。
【0103】
本発明を種々の実施形態及び実施例に関連して記述したが、本教示はかかる実施形態又は実施例に限定されるものではない。そうではなく、本発明は、当業者には理解されるように、種々の代替物、改変及び等価物を包含する。
【0104】
特許請求の範囲は、その旨述べられていない限り、記述された順又は要素に限定して解釈すべきではない。形態及び詳細の種々の変更が添付の特許請求の範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解すべきである。したがって、以下の請求項の範囲及び精神内に入るすべての実施形態及びその等価物が請求される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織抗癒着性を有する脂肪酸ベースの材料、及び
該脂肪酸ベースの材料の表面の上又は周囲に配置された親水性組織固着材料
を含む、癒着障壁であって、
該癒着障壁が非炎症性であって、組織にインビボで10日間を超える持続期間にわたって固着するように、該脂肪酸ベースの材料及び該組織固着材料が該癒着障壁を形成する、癒着障壁。
【請求項2】
前記脂肪酸ベースの材料が、架橋された脂肪酸由来の生体材料から誘導される、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項3】
前記脂肪酸ベースの材料が魚油から製造される、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項4】
前記組織固着材料がカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項5】
前記組織固着材料が、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(HEMA)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びキトサンの群のうちの一つを含む、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項6】
前記脂肪酸ベースの材料が脂肪酸ベースのフィルムであり、前記組織固着材料が前記脂肪酸ベースのフィルムの一面のみに配置される、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項7】
前記組織固着材料がポリアニオン性多糖である、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項8】
前記脂肪酸ベースの材料が、前記脂肪酸ベースのフィルムが存在しない場合に前記組織固着材料に付随する炎症を低減する、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項9】
前記癒着障壁に可塑剤を添加することを更に含む、請求項1に記載の癒着障壁。
【請求項10】
前記可塑剤が、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリアセチンシトラート及びトリアセチンの群のうちの一つを含む、請求項9に記載の癒着障壁。
【請求項11】
脂肪酸由来の生体材料から誘導されるフィルム、及び
該フィルム全体に配置される組織固着材料
を含む、癒着障壁であって、
該癒着障壁が非炎症性であって、組織にインビボで10日間を超える持続期間にわたって固着するように、該フィルム及び該組織固着材料が該癒着障壁を形成する、癒着障壁。
【請求項12】
前記組織固着材料が、前記フィルムを包囲する組織固着コーティングを含む、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項13】
前記組織固着材料が前記フィルムの一部として設けられる、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項14】
前記フィルムがオメガ3脂肪酸ベースのフィルムである、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項15】
前記脂肪酸由来の生体材料が架橋される、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項16】
前記脂肪酸由来の生体材料が魚油を含む、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項17】
前記組織固着材料がポリアニオン性多糖を含む、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項18】
前記組織固着材料がカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項19】
前記組織固着材料がカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)を含む、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項20】
前記脂肪酸由来の生体材料が、前記脂肪酸ベースのフィルムが存在しない場合に前記組織固着材料に付随する炎症を抑制する、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項21】
前記癒着障壁が術後癒着を防止するのに十分な残存時間を有する、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項22】
可塑剤を更に含む、請求項11に記載の癒着障壁。
【請求項23】
前記可塑剤が、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリアセチンシトラート及びトリアセチンの群のうちの一つを含む、請求項22に記載の癒着障壁。
【請求項24】
癒着障壁が非炎症性であって、組織にインビボで10日間を超える持続期間にわたって固着するように、組織抗癒着特性を有する脂肪酸ベースのフィルム及び親水性組織固着材料で形成された癒着障壁を調製する方法であって、
該脂肪酸ベースのフィルムを提供すること、
該組織固着材料を提供すること、及び
該脂肪酸ベースのフィルムを該組織固着材料と組み合わせて該癒着障壁を形成すること
を含む、方法。
【請求項25】
前記脂肪酸ベースのフィルムが、架橋された脂肪酸由来の生体材料から誘導される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記脂肪酸ベースのフィルムが魚油から製造される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記組織固着材料がカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記組織固着材料が、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(HEMA)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びキトサンの群のうちの一つを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記脂肪酸ベースのフィルムが配置された外科的部位から移動しない、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記組織固着材料が前記脂肪酸ベースのフィルムの一面のみに配置される、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記組織固着材料が前記脂肪酸ベースのフィルムの1面よりも多くの面の前記脂肪酸ベースのフィルムをコーティングする、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記組織固着材料が前記脂肪酸ベースのフィルム全体に配置される、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記組織固着材料がポリアニオン性多糖である、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記脂肪酸ベースのフィルムが、前記脂肪酸ベースのフィルムが存在しない場合に前記組織固着材料に付随する炎症を低減する、請求項24に記載の方法。
【請求項35】
可塑剤を前記コーティングに添加することを更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項36】
前記可塑剤が、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリアセチンシトラート及びトリアセチンの群のうちの一つを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
脂肪酸由来の生体材料から誘導される脂肪酸ベースの粒子、及び
組織密着性材料を含む乳濁液基剤
を含む、癒着障壁であって、
該脂肪酸ベースの粒子が該乳濁液基剤と混合されて、該癒着障壁が非炎症性であって、組織にインビボで10日間を超える持続期間にわたって密着するように、該癒着障壁を形成する、癒着障壁。
【請求項38】
前記脂肪酸ベースの粒子が、前記乳濁液基剤と混合される前に、治療薬に浸漬される、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項39】
前記脂肪酸ベースの粒子の平均粒径が約1ミクロンと約50ミクロンとの間である、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項40】
前記脂肪酸ベースの粒子の平均粒径が約1ミクロンと約10ミクロンとの間である、請求項39に記載の癒着障壁。
【請求項41】
前記脂肪酸ベースの粒子が約1〜20μmのサイズ分布を有する、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項42】
前記脂肪酸ベースの粒子が約21〜40μmのサイズ分布を有する、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項43】
前記脂肪酸ベースの粒子が約41〜150μmのサイズ分布を有する、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項44】
前記脂肪酸ベースの粒子がオメガ3脂肪酸ベースの粒子である、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項45】
前記脂肪酸由来の生体材料が架橋される、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項46】
前記脂肪酸由来の生体材料が魚油を含む、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項47】
前記組織密着性材料がポリアニオン性多糖を含む、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項48】
前記組織密着性材料がカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、請求項37に記載の癒着障壁。
【請求項49】
前記組織密着性材料がカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)を含む、請求項37に記載の癒着障壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−508033(P2013−508033A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534404(P2012−534404)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/052899
【国際公開番号】WO2011/049833
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(506087004)アトリウム メディカル コーポレーション (8)
【氏名又は名称原語表記】ATRIUM MEDICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】5 Wentworth Drive, Hudson, NH03051 (US).
【Fターム(参考)】