説明

組織マイクロアレイ作製方法

【課題】組織マイクロアレイ作製方法を提供する。
【解決手段】包埋皿と型枠とを加熱し、包埋皿にドナーブロックと比べて少なくとも1℃高い融点を有するパラフィンを流し込み、加熱された型枠をセットし、冷却してパラフィンを固化する工程、固化されたパラフィンから型枠を引き抜き、組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックを作製する工程、ドナーブロックから円柱状の組織を引き抜き、引き抜かれた組織を組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック上の円柱状の穴に挿入する工程、ドナーブロックからの組織が挿入された組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックに、ドナーブロックと同一の融点を有する加熱溶解されたパラフィンを流し込み、当該レシピエントブロックを、ドナーブロックの融点より高いがレシピエントブロックの融点より低い温度でインキュベーションし、ドナーブロックのパラフィンを溶解させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック、レシピエントブロック成型のための剣山型の型枠及びそれらを用いる組織マイクロアレイ作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織マイクロアレイは、多数例の腫瘍組織や腫瘍細胞株を1枚のスライドグラス上にアレイ状に配置したものであり、多数例を一度に同じ条件で免疫染色やin situハイブリダイゼーションを行うことができることから、生物学・医学・薬学の分野で、利用されるようになってきた。
【0003】
組織マイクロアレイは、下記の方法によって作製される。まず、レシピエントブロックと呼ばれる組織サンプルを埋め込むためのパラフィンブロックを作製し、中空針でレシピエントブロックに穴を開けた後、組織サンプルを含むパラフィンブロック(ドナーブロック)の所定の部位からサンプルを採取し、採取したサンプルをレシピエントブロックに埋め込むという操作を繰り返すことによってアレイブロックを作製する。その後、アレイブロックを薄切してスライドガラスに固定する(特許文献1)。
【0004】
従来の方法では、レシピエントブロックに開けた穴に、ドナーブロックからくり抜いた円柱状組織を差し込んだだけであったことから、差し込まれた円柱状組織とレシピエントブロックの穴の壁面を構成するパラフィンとが融合されておらず、円柱状組織がレシピエントブロックに開けた穴の中で可動状態にあったことから、薄切する際に組織が脱落や損傷することがあった。このため、接着剤を被覆したテープ切り出しシステムを用いる必要があった(特許文献1、図4)。さらに、汎用されるパラフィンテープトランスファーシステム(Instrumedics Inc.)では、専用のテープ及び専用のスライドを用いて薄切・貼付を行い、さらにUV照射によりスライド上の接着剤を固定する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−505431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の欠点を含まない、組織マイクロアレイ作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ドナーブロックとレシピエントブロックの融点に差を設けることによって、専用のテープや専用のスライドを用いることなく、薄切する際の組織が脱落や損傷がなくなることを見出して、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0008】
[1]ドナーブロックと比べて少なくとも1℃高い融点を有する、組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック。
[2]ドナーブロックからの円柱状組織を埋め込むための、アレイ状に配置された、円柱状の穴を有する、[1]に記載のレシピエントブロック。
[3]円柱がアレイ状に配置された、[2]に記載のレシピエントブロック成型のための剣山型の型枠。
[4]円柱が鉄の材質にテフロン(登録商標)加工されている、[3]に記載の型枠。
[5]下記工程:
包埋皿と[3]又は[4]に記載の型枠とを加熱し、包埋皿にドナーブロックと比べて少なくとも1℃高い融点を有するパラフィンを流し込み、加熱された型枠をセットし、冷却してパラフィンを固化する工程、
固化されたパラフィンから型枠を引き抜き、[2]に記載の組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックを作製する工程、
ドナーブロックから円柱状の組織を引き抜き、引き抜かれた組織を組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック上の円柱状の穴に挿入する工程、
ドナーブロックからの組織が挿入された組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックに、ドナーブロックと同一の融点を有する加熱溶解されたパラフィンを流し込み、当該レシピエントブロックを、ドナーブロックの融点より高いがレシピエントブロックの融点より低い温度でインキュベーションし、ドナーブロックのパラフィンを溶解させる工程
を含む、組織マイクロアレイの作製方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック、レシピエントブロック成型のための剣山型の型枠及びそれらを用いる組織マイクロアレイ作製方法を用いることによって、組織と融合された組織マイクロアレイを、特別な装置や器具を用いることなく、簡単かつ容易に作製することができ、作業時間の短縮及び経費の削減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の「ドナーブロック」とは、定法にしたがって作製されたパラフィン包埋組織標本である。本発明の「ドナーブロック」のためのパラフィンの融点は、55〜65℃、好ましくは、55〜60℃、より好ましくは、57〜60℃である。このパラフィンは、必要に応じ、ミツロウを含むことができる。たとえば、ティシュー・テック パラフィン ワックスII60(サクラ精機、融点57〜60℃)、ヒストパラフィン(メルク、融点56〜58℃)、パラフィン(ペレットタイプ)組織学用(メルク、融点56〜58℃)を例示することができる
【0011】
本発明の「組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック」とは、ドナーブロックと比べて高い融点を有する。組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックとドナーブロックとの融点の差は、少なくとも1℃、好ましくは、少なくとも3℃、より好ましくは、少なくとも6℃である。各ブロック用のパラフィンの融点が数値範囲で示されている場合は、ドナーブロックの融点の数値範囲の最高温度とレシピエントブロックの融点の数値範囲の最低温度の差を示す。たとえば、ドナーブロックの融点の数値範囲が57〜60℃であり、レシピエントブロックの融点の数値範囲が66〜68℃の場合は、融点の差は、6℃である。レシピエントブロックのパラフィンは、必要に応じ、ミツロウを含むことができる。
【0012】
本発明の「組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック」は、ドナーブロックからの円柱状組織を埋め込むための、アレイ状に配置された、円柱状の穴を有することができる。穴の直径及びアレイ状の配置(穴の数及び縦横の配置)は、当業者であれば、必要に応じ、適宜設定することができる。
【0013】
本発明の「組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック成型のための剣山型の型枠」とは、円柱がアレイ状に配置された、レシピエントブロック成型のための剣山型の型枠である。たとえば、平板の上に円柱状の針を配置したものである。穴の直径及びアレイ状の配置(穴の数及び縦横の配置)は、当業者であれば、必要に応じ、適宜設定することができる。円柱は、鉄の材質にテフロン(登録商標)加工することができる。
【0014】
本発明の組織マイクロアレイの作製方法において、ドナーブロックの融点より高いがレシピエントブロックの融点より低い温度とは、ドナーブロックの融点より少なくとも1℃高いがレシピエントブロックの融点より少なくとも1℃低い温度、好ましくは、ドナーブロックの融点より少なくとも3℃高いがレシピエントブロックの融点より少なくとも1℃低い温度、より好ましくは、ドナーブロックの融点より少なくとも5℃高いがレシピエントブロックの融点より少なくとも1℃低い温度である。各ブロック用のパラフィンの融点が数値範囲で示されている場合は、ドナーブロックの融点の数値範囲の最高温度とレシピエントブロックの融点の数値範囲の最低温度を示す。たとえば、ドナーブロックの融点の数値範囲が57〜60℃であり、レシピエントブロックの融点の数値範囲が66〜68℃の場合は、60℃より高いが66℃より低い温度である。
【実施例1】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
鉄の材質にテフロン(登録商標)加工した剣山型の型枠(円柱状の針の直径及び数は、直径が1mmの場合は、12×19の228本、直径が2mmの場合は、8×13の104本、直径が3mmの場合は、6×9の54本とした。)を作製した。
【0017】
あらかじめヒートブロックで65℃に加温しておいた包埋皿にガスバーナーで溶解したパラフィン(融点66〜68℃、パラフィン(Code NO. 24-0450、シグマアルドリッチジャパン):ミツロウ(Code No. 03-0670-5、シグマアルドリッチジャパン)=9:1)を流し込み、同様に加温しておいた型枠をセットし、室温に冷却した。パラフィンが固化した後、型枠を下にした状態でヒートブロックを65℃に加温し、パラフィンブロックから型枠を引き抜き、型枠によって規定されたアレイ状に配置された円柱状の穴を有するレシピエントブロックを作製した。
【0018】
次に、定法にしたがって作製された組織ドナーブロックから、パラフィンブロック専用アレイヤー装置(KIN−1型:東屋医科器械)を用いて、所望の位置において組織を円柱状にくり抜き、くり抜かれた組織をレシピエントブロックの穴に挿入し、融点57〜60℃のパラフィンを流し込んだ。このレシピエントブロックを65℃でインキュベーションし、融点57〜60℃のパラフィンを溶解させ、その後室温に冷却し、パラフィンを固化させた。
【0019】
定法により、薄切、染色したところ、良好な組織マイクロアレイを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック、レシピエントブロック成型のための剣山型の型枠及びそれらを用いる組織マイクロアレイ作製方法は、病理標本の多検体処理が可能になることから、病理標本のハイスループット解析に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーブロックと比べて少なくとも1℃高い融点を有する、組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック。
【請求項2】
ドナーブロックからの円柱状組織を埋め込むための、アレイ状に配置された、円柱状の穴を有する、請求項1に記載のレシピエントブロック。
【請求項3】
円柱がアレイ状に配置された、請求項2に記載のレシピエントブロック成型のための剣山型の型枠。
【請求項4】
円柱が鉄の材質にテフロン(登録商標)加工されている、請求項3に記載の型枠。
【請求項5】
下記工程:
包埋皿と請求項3又は請求項4に記載の型枠とを加熱し、包埋皿にドナーブロックと比べて少なくとも1℃高い融点を有するパラフィンを流し込み、加熱された型枠をセットし、冷却してパラフィンを固化する工程、
固化されたパラフィンから型枠を引き抜き、請求項2に記載の組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックを作製する工程、
ドナーブロックから円柱状の組織を引き抜き、引き抜かれた組織を組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロック上の円柱状の穴に挿入する工程、
ドナーブロックからの組織が挿入された組織マイクロアレイ作製用レシピエントブロックに、ドナーブロックと同一の融点を有する加熱溶解されたパラフィンを流し込み、当該レシピエントブロックを、ドナーブロックの融点より高いがレシピエントブロックの融点より低い温度でインキュベーションし、ドナーブロックのパラフィンを溶解させる工程
を含む、組織マイクロアレイの作製方法。

【公開番号】特開2010−185673(P2010−185673A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28167(P2009−28167)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】