説明

組織体の製造方法及び組織体形成用基材

【課題】膜厚が厚く、血管組織の代替材料として用いる場合には吻合操作が容易となる組織体の製造方法及び組織体形成用基材を提供することを目的とする。
【解決手段】生体組織材料の存在する環境下に基材をおき、基材の表面に生体由来組織からなる組織体を形成させる組織体の製造方法であって、基材表面に組織体を形成させる過程において、基材の表面に水性媒体を供給することを特徴とし、基材の具体的構成例としては、内部に水性媒体3を収容する収容部4と、収容部4と基材表面とを連通する通液路5とを備え、水性媒体3が通液路5を介して基材表面から放出されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来組織からなり、欠損組織の代替となる組織体の製造方法及び組織体形成用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には体外へ押し出そうとするが、体内の深い位置に異物が侵入した場合にはその周りに線維芽細胞が集まってきて、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成し、異物を覆うことにより、体内において隔離することが知られている。このような後者の自己防衛反応を利用して、生体内において生細胞を用いた管状の生体由来細胞からなる組織体を形成する方法が複数知られている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−312821号公報
【特許文献2】特開2008−237896号公報
【特許文献3】特開2010−094476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法で得られる組織体は、2ケ月間かけても50〜80μm程度の膜厚の薄いものしかできない。このように膜厚が薄いと、取扱い性が悪く、血管組織の代替材料として移植する場合、既存の血管との吻合操作が極めて困難となっていた。
【0005】
そこで、本発明においては、上記に鑑み、膜厚が厚く、血管組織の代替材料として用いる場合には吻合操作が容易となる組織体の製造方法及び組織体形成用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る組織体の製造方法は、生体組織材料の存在する環境下に基材をおき、前記基材の表面に生体由来組織からなる組織体を形成させる組織体の製造方法であって、前記基材表面に前記組織体を形成させる過程において、前記基材の表面に水性媒体を供給することを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、基材表面に前記組織体を形成させる過程で、基材の表面に水性媒体を供給し、形成途中の組織体に水性媒体を接触させることで、単に基材を生体組織材料の存在する環境下におく従来の方法に比べて組織体の膜厚を大幅に厚くすることが可能となる。また、本発明によって得られた組織体を血管組織の代替材料として用いれば、吻合操作を容易に行うことが可能となる。
【0008】
そのほかにも、上記組織体は、生物本来の有する組織体に近い構成を有し、膜厚が厚くなった分、組織体の中には毛細血管も形成され、血管の元になる細胞が多く存在する。したがって、より生体に近い要素が入った組織体(生体由来組織)を製造することが可能となる。
【0009】
本発明において、組織体の膜厚を厚く形成することが可能である理由については明らかでないものの、形成途中の組織体表面から水性媒体が拡散し続けることで、生体が組織体を異物と認識しつづけ、自己防衛機能により組織体形成が長期間活性化されることが一つの要因と考えられる。
【0010】
基材の周りに組織体が形成された後は、生体組織材料の存在する環境下から取り出して、基材を抜き取ることにより、管状の組織体を製造することができる。管状の組織体は、管状組織として利用できるし、また、管構造をそのまま押しつぶしたり、長さ方向に切り開くことで膜状組織としても利用することができる。また、組織体の形状は、基材の形状で決定されるので、弁様組織体など複雑な3次元構造を構築することも可能である。
【0011】
水性媒体は、基材を生体組織材料の存在する環境下においたときから連続的に基材表面に供給するようにしてもよいし、断続的に基材表面に供給することも可能である。水性媒体を基材表面に供給する方法としては、生体組織材料の存在する環境下におかれた基材に対して、おかれた環境の外部からニードル等を通じて基材表面に水性媒体を直接供給することが可能である。それ以外の方法として、基材内部に導入した前記水性媒体を、前記基材表面から放出するようにすることも可能である。
【0012】
後者の方法を採用する場合、基材は、内部に水性媒体を収容する収容部と、収容部と基材表面とを連通する通液路とを備え、水性媒体が通液路を介して基材表面から放出される構成とすることができる。そして、基材表面に通じる通液路を複数設けることにより、水性媒体を基材表面にまんべんなく供給することができる。なお、水性媒体は、予め収容部に収容された分のみを供給することもできるし、基材外部から収容部に給液管を接続し、外部から収容部に水性媒体を補給することも可能である。
【0013】
基材内部から基材表面に水性媒体を放出する他の形態としては、たとえば、基材を素焼き状のセラミックや発泡樹脂などの多孔質構造体から形成し、この基材に水性媒体をしみ込ませたものを使用することができる。さらに、基材表面に水性媒体を含む水性ゲル層を形成したものを使用することも可能である。
【0014】
基材内部に導入した水性媒体を、基材表面から放出する場合、水性媒体の放出速度を調節する速度調節機構を設けることもできる。そして、速度調節機構によって水性媒体の放出速度を調節することで、少量の水性媒体で長期間にわたって基材表面を覆うことが可能となる。具体的には、収容部から基材表面に至る水性媒体の経路の少なくとも一部に、水性媒体をゲル化剤でゲル化させたゲル化部を介在させ、これを速度調節機構とすることができる。
【0015】
本発明における水性媒体は、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合液を意味する。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。なお、水溶性有機溶剤は、生体への安全性を考慮して、水で希釈するなどして量的に許容される範囲内で使用することができる。生体への安全性及び発明の効果の高さを総合的に勘案すれば、水性媒体として水を単独で用いるのがより好ましい。
【0016】
本発明では、水性媒体に、特定の機能を有する水溶性化合物を含有させることも可能である。すなわち、水溶性化合物を水性媒体に含有させることによって、組織中に水溶性化合物が取り込まれ、特定の機能を付加した組織体を形成することを期待できる。例えば、ヘパリンやアルガトロバンを水性媒体に含有させれば、組織体に抗血栓性を付与することが期待できる。また、結合組織に多く含まれるヒアルロン酸やエラスチンを水性媒体に含有させれば、より生体に近い組織体を得ることが期待できる。水溶性化合物は、組織体の形成を阻害しない範囲で適宜水性媒体に添加することができる。
【0017】
また、水性媒体に、組織体形成促進成分として、ウラニン、エオシン、ヘパリン、トリパンブルー及びベンゼンスルホン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種を含有させることも可能である。これによって、膜厚のより厚い組織体を形成することができる。
【0018】
以上説明したように、本発明では、内部に水性媒体を収容する収容部と、収容部と基材表面とを連通する通液路とを備えたことを特徴とする組織体形成用基材を用い、これを生体組織材料の存在する環境下におくことにより、基材表面に、生体由来組織からなる、膜厚の厚い組織体を形成させることが可能となる。
【0019】
本発明により形成された組織体は、膜状組織、弁状組織又は管状組織を含む結合組織となる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。
【0020】
本発明において、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、繊維芽細胞等の生細胞、各種たんぱく質(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖、平滑筋細胞、内皮細胞、肝細胞、ES細胞、iPS細胞、各種の生理活性物質等が挙げられる。
【0021】
また、本発明において、「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。また、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0022】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。また、動物へ埋入の方法をとる場合には低侵襲な方法で行うことと、動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0023】
なお、本発明における水性媒体は、生体若しくは生細胞から異物であると認識されるためには、生体組織材料に含まれる液状成分とは組成的に異なったものであることが好ましい。生体組織材料に含まれる液状成分とは、具体的に、生体組織材料の存在する環境が生体内であるときには、生体の体液を意味する。また、生体組織材料の存在する環境が生体外において生体組織材料を含有する人工環境内であるときには、人工環境内における生体組織材料の溶媒若しくは分散媒を意味する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る組織体の製造方法は、基材表面に組織体を形成させる過程において、基材の表面に水性媒体を供給するようにしたため、得られる組織体の膜厚が厚く、血管組織の代替材料として用いる場合には吻合操作が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の組織体形成用基材の実施形態を示す正面図
【図2】図1のA−A断面図
【図3】図2に示す基材を作製するに際し、基材本体に成形用栓体を装着した状態を示す断面図
【図4】図3の基材本体内にゲル化部を形成した後、成形用栓体を外した状態を示す断面図
【図5】図4の基材本体に栓体を装着し、水性媒体を収容した状態を示す断面図
【図6】図2とは別の態様の組織体形成用基材を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。図1及び図2は、本発明に係る組織体形成用基材(以下、単に「基材」という)の実施形態を示す図であり、図1は基材の正面図を、図2は図1のA−A断面図を、それぞれ示す。
【0027】
図1及び図2に示すように、基材は合成樹脂製で、円筒状の基材本体1と、基材本体1の両端開口部を閉塞する栓体2とを備えている。基材は、基材本体1の両端開口部を栓体2,2で閉塞した状態で円柱状に形成され、内部に水性媒体3を収容するための空間である収容部4を備えている。そして、基材本体1には複数の貫通孔が形成されており、これら貫通孔が基材本体1を基材として使用する際に、収容部4と円筒状の基材表面とを連通する通液路5となる。
【0028】
上記構成においては、水性媒体3は拡散によって基材外部に放出されるため、水性媒体3の放出速度は、通液路5の孔径及び通液路5の個数に依存する。したがって、通液路5の孔径及び個数を調整することで、水性媒体3の放出速度をコントロールすることができる。ただ、通液路5をドリル等で機械的に形成する方法では、孔径を小さくすることには限界があるため、水性媒体3の放出速度を一定レベルよりも低く抑えるのは難しくなる。
【0029】
そこで、本実施形態では、水性媒体の放出速度を調節する速度調節機構を設けることで水性媒体3の放出速度をさらに抑制可能としている。具体的には、収容部4を基材本体1に接する側、すなわち、半径方向外側の領域と、半径方向内側の領域とに区分し、前者の領域に、水性媒体をゲル化剤でゲル化させたゲル状体からなるゲル化部6を形成し、さらに、通液路5の内部も上記ゲル状体を充填している。
【0030】
このように、水性媒体3の経路の少なくとも一部に水性媒体3をゲル化剤でゲル化させたゲル化部6を介在させることにより、水性媒体3の拡散を抑制し、その結果、水性媒体3の放出速度をより抑えることが可能となる。
【0031】
次に、上記構成の基材の作成方法について説明する。図3に示すように、基材本体1の表面に筒状のカバー部材7を装着して通液路5を塞ぎ、基材本体の下端開口に成形用栓体8を取り付ける。成形用栓体8の中心部には、成形用栓体8を基材本体1に取付けた状態で、基材本体1の内壁から一定間隔をおいて基材本体1の中心軸方向に沿って中心軸と同心上に円柱状の凸部9が形成されている。
【0032】
基材本体1に成形用栓体8を取付け、基材本体1を立てた状態で、その上端開口から水性媒体3にゲル化剤を添加した液(ゾル)を注ぎ入れ、固化させる。その後、成形用栓体8及びカバー部材7を取り外すと、図4に示すように、基材本体1の内側に一定厚のゲル化部6が積層成形される。なお、ゲル化部6が形成されると同時に、通液路5の内部もゲル状体で充填される。
【0033】
ゲル化部6が形成された基材本体の下端開口に通常の栓体2を取付け(図5参照)、基材本体1の上端開口から水性媒体3を注入し、その後、基材本体1の上端開口に栓体2を取付けることにより基材を作成することができる。本実施形態においては、速度調節機構として水性媒体の経路の一部にゲル化部を形成する態様について説明したが、これに限らず、速度調節機構の別の態様として、図6に示すように、収容部4から通液路5を経て基材表面に至る水性媒体の経路の全てをゲル化部6とすることができる。これにより、図2に示した基材よりもさらに水性媒体の放出速度を抑制することが可能となる。
【0034】
基材の形状としては、円柱状に限定されるものではなく、四角柱等の多角形柱状等の他の形状としてもよいが、形成される組織体を血管等の管状組織とする場合には円柱状とするのが好ましい。また、組織体として人工血管を製造する場合、基材の外径により血管の太さが決定されるため、目的の太さによって直径を変更すればよい。なお、基材の形状は円柱状や多角形柱状に限定されるものではなく、所望の生体由来組織に従って、球状、立方体状、直方体状、平板状等の他の形としてもよい。また、基材の表面に凹凸や外郭部材を設けて、組織体の機械的強度をさらに向上させてもよい。
【0035】
本発明に係る基材を用いて組織体を製造するには、まず、基材を生体組織材料の存在する環境下へ置く。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のものを用いることもできる。
【0036】
基材を動物に埋入する場合は、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。また、基材を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件の整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。その後、所定時間経過してから、基材を生体組織材料の存在する環境下から取り出す。そして、基材の周囲に分厚く形成された組織体を基材から取り外すことにより、管状の生体由来組織を生産することができる。なお、基材と組織体との剥離は、基材を引き抜くだけで簡単に行うことができる。剥離された組織体の内面は、基材の表面に接しているので平滑になる。
【0037】
以上のように製造された本発明の組織体は、コラーゲンを含む組織からなり、膜厚が厚く、毛細血管も形成され、生物本来の有する組織体に近いものとなる。このように、膜厚が厚いため、管状の組織体を人工血管として生体と縫合する場合、吻合部位を開口した状態で吻合操作が実施できる。また、組織体中には多くの毛細血管3等の新生血管が形成されるので、移植後に早期に内皮化を含む新生内膜が形成されることが期待される。
【0038】
このように、本発明によると、膜厚の厚い組織体を得ることができる。さらに、水性媒体に、組織体形成促進成分として、ウラニン、エオシン、ヘパリン、トリパンブルー及びベンゼンスルホン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種を含有させることによって、膜厚のより厚い組織体を形成することができる。
【0039】
生産された生体由来組織を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【実施例】
【0040】
上記実施形態にて作製した基材を用い、基材表面に組織体を形成してその膜厚、弾性率及び破断強度について評価した。具体的には、基材として外径5mm、長さ30mmの円柱状のものを使用した。基材の円周面には孔径0.5mmの微小孔を30個設け、これを通液路5とした。
【0041】
さらに、速度調節機構として、図6に示すように、収容部4から基材表面に至る水性媒体の経路の全てにゲル化部を設けた。すなわち、水性媒体100gに対して、寒天3gを添加し、これを加熱して均一に溶解した液を収容部4及び通液路5に充填し、冷却固化してゲル化部を形成した。水性媒体としては、表1に示すように4種類を使用し、そこにさらに組織体形成促進成分を添加するか否かよって合計10種類の基材を作製した。なお、比較材としては、サイズは上記基材と同じ(外径5mm、長さ30mm)で、通液路が形成されていない円柱状基材を用いた。
【0042】
1種類の基材につき、3匹のラットを用い、各ラットの背部皮下に2個ずつ基材を埋入して1週間経過後に取り出し、基材表面に形成された管状組織体(長さ3cm)を得た。そして、管状組織体の長さ方向の中央部を20mmの幅で切り取ることにより、1種類の基材につき合計6個の評価用サンプルを得た。評価用サンプルを用いた膜厚、弾性率及び破断強度の評価方法は以下のとおりである。結果を表1に示す。
【0043】
(1)膜厚の測定
膜厚は、上記20mm幅の評価用サンプルからさらに5mm幅で試料を切り出し、ホルマリン固定した後、病理組織標本を作成する常法に従ってパラフィン包埋し、薄切り切片を作成し、その切片で周方向に等間隔に5点の測定点をとり、各測定点の膜厚を顕微鏡観察により測定した。各サンプルにおける膜厚は5点の平均値から算出した。この操作を6個の評価用サンプルで繰り返し行い、最終的に6サンプルの5点平均値から平均を求め、これを「膜厚」の値とした。
【0044】
(2)弾性率及び破断強度
弾性率及び破断強度は、アクシオム社製精密計測システムを用いて測定した。具体的には、膜厚測定で残った15mm幅の管状体を切り開き、得られた長方形のシート状の組織体を、中心に直径5mmの穴が開いた試料台に固定した。穴の中心位において、直径1mmの円柱プローブをサンプルが破断するまで秒速0.1mmで下方に押し下げ、その間のプローブの移動距離とプローブにかかる荷重を連続的に計測した。破断時にかかる最大荷重を破断強度と定義し、移動距離と荷重の関係から弾性率を求めた。
【0045】
1回の測定が終了すると、試料の位置をずらして測定を繰り返し、計5回の測定を行った。各サンプルにおける弾性率及び破断強度は、5回測定の平均値から算出した。この操作を6個の評価用サンプルで繰り返し行い、最終的に6サンプルの平均値(n=5)から平均を求め、これを「弾性率」及び「破断強度」の値とした。
【0046】
弾性率は、下記式(1)〜(4)を用いて算出した。なお、弾性率及び破断強度の値は、5回の測定値の平均値を用いた。また、下記数式中の記号は、次のものを表わす。
ν:ポアソン比(0.5として計算)
0:プローブ半径(m)
P:荷重(g)
δ:プローブ進入量(m)
k:バネ定数
G:ずれ弾性率
E:弾性率(kPa)
k=P/δ …(1)
G=k(1−ν)/(4r0) …(2)
E=2G(1+ν) …(3)
E=k(1−ν2)/(2r0)=P(1−ν2)/(2δr0) …(4)
【0047】
【表1】

【0048】
表1より、いろいろな種類の水性媒体を用いた試料1〜4のいずれもが、比較材よりも組織体の膜厚、弾性率及び破断強度のすべての測定値が増大していることが分かる。また、水性媒体として水を使用し、そこに組織体形成促進成分として、ウラニン、エオシン、ヘパリン、トリパンブルー又はベンゼンスルホン酸ナトリウムを単独で添加した試料5〜9については、水性媒体として水単独を使用した試料1に比べて、組織体の膜厚、弾性率及び破断強度のすべての測定値がより増大している。
【0049】
さらに、組織体形成促進成分であるウラニンとエオシンを併用した試料10(組織体形成促進成分としての使用量は試料5〜9と同じ)については、ウラニンとエオシンをそれぞれ単独で使用した試料5,6に比べて組織体の膜厚、弾性率及び破断強度のすべての値が大幅に増大することが確認された。これは、組織体形成促進成分を2種類以上併用することによって、組織体の形成が相乗的に促進され得ることを示唆する結果といえる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、水性媒体3は基材内に封入した状態で、基材を生体に埋め込むようにしたが、水性媒体3は生体の外部から基材内に導入するようにしてもよい。すなわち、基材にチューブを接続し、基材を生体内に埋め込む際に、チューブの他端側は生体外に露出させておく。そして、チューブに送液ポンプを接続し、送液ポンプによって水性媒体を収容部4に導入するようにすればよい。
【0051】
なお、この場合、送液ポンプの圧力を変化させることで水性媒体の放出速度を調節することが可能となることから、送液ポンプは速度調節機構としての機能をも有することになる。収容部内の水性媒体の圧力を調節することで水性媒体の放出速度を調節する別の方法としては、たとえば、収容部内に加圧ガスを封入することも可能である。
【0052】
また、上記実施形態においては、基材本体に微小径の貫通孔を設け、これを通液路としたが、基材本体の一部又は全部を多孔質構造体によって構成し、これを通液路とすることも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 基材本体
2 栓体
3 水性媒体
4 収容部
5 通液路
6 ゲル化部
7 カバー部材
8 成形用栓体
9 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織材料の存在する環境下に基材をおき、前記基材の表面に生体由来組織からなる組織体を形成させる組織体の製造方法であって、前記基材表面に前記組織体を形成させる過程において、前記基材の表面に水性媒体を供給することを特徴とする組織体の製造方法。
【請求項2】
前記基材内部に導入した前記水性媒体を、前記基材表面から放出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の組織体の製造方法。
【請求項3】
前記基材は、内部に前記水性媒体を収容する収容部と、前記収容部と基材表面とを連通する通液路とを備え、前記水性媒体が前記通液路を介して前記基材表面から放出されるようにしたことを特徴とする請求項2記載の組織体の製造方法。
【請求項4】
前記水性媒体の放出速度を調節する速度調節機構が設けられたことを特徴とする請求項2又は3記載の組織体の製造方法。
【請求項5】
前記速度調節機構として、前記収容部から基材表面に至る前記水性媒体の経路の少なくとも一部に、前記水性媒体をゲル化剤でゲル化させたゲル化部を設けたことを特徴とする請求項4記載の組織体の製造方法。
【請求項6】
前記水性媒体に、水溶性化合物を含有させたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の組織体の製造方法。
【請求項7】
前記水性媒体に、組織体形成促進成分として、ウラニン、エオシン、ヘパリン、トリパンブルー及びベンゼンスルホン酸ナトリウムから選択される少なくとも1種を含有させたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の組織体の製造方法。
【請求項8】
生体組織材料の存在する環境下におくことにより、表面に生体由来組織からなる組織体を形成させる基材であって、内部に水性媒体を収容する収容部と、前記収容部と基材表面とを連通する通液路とを備えたことを特徴とする組織体形成用基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−90696(P2013−90696A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233393(P2011−233393)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(390010744)新幹工業株式会社 (15)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】