組織保存および固定方法
本発明は、例えば、室温で、リンタンパク質を含む試料と接触する際、細胞リンタンパク質を固定および安定化し、細胞形態を保存し、試料を凍結して分子解析に適切なクリオスタット凍結切片の生成を可能にし得る組成物に関する。本組成物は、(1)リンタンパク質の固定に有効であり、安定剤および/または透過性増強剤が可溶となるのに十分な含水量を有する固定剤と、(2)(a)キナーゼ阻害剤および(b)ホスファターゼ阻害剤、ならびに任意で(c)プロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼ)阻害剤を含む安定剤と、(3)透過性増強剤(例えば、PEG)と、を含む。そのような組成物を使用して、リンタンパク質を保存するための方法について説明する。翻訳後修飾(リン酸化等)の損失、例えば、それに続く対象からの細胞または組織の採取を含む、タンパク質分解を監視するための内因性代理マーカー、および細胞または組織の集団試料の処理履歴の評価を可能にする外因性分子センチネル(例えば、磁気ナノ粒子に付着したリンタンパク質)についても説明する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年10月30日出願の米国暫定特許出願第60/855,120号、2006年11月27日出願の米国暫定特許出願第60/861,086号の出願日の利益を主張し、いずれも参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
リンタンパク質分子プロファイリングは、新興分野である個別化癌治療の重要な構成要素である。分子標的抗癌治療法は、キナーゼシグナル伝達ネットワーク不全の緩和または調節を伴う場合が多い。腫瘍内の乱れたシグナル伝達ネットワークの解明は、分子標的癌治療を個別化し、治療的介入のための全く新しい標的を特定するための手段として、極めて有望である。遺伝子マイクロアレイ(核酸分析)を使用する分子署名/転写研究から得られた証拠は、各患者の腫瘍が固有の遺伝背景を有し得ることを示唆する。しかし、遺伝子マイクロアレイは、身体遺伝的分類に関する重要な情報を提供できるが、転写後に出現し、プロテオームレベルで生じるシグナル伝達分子ネットワーク事象を変動させる、薬物標的自身の有効な反復発生をもたらすことはできない。キナーゼ駆動シグナルネットワークのリン酸化または活性化状態は、疾患の病因およびキナーゼ関連治療標的の進行状態の両方に関する重要な情報を含む。進行細胞キナーゼ活性の調節が、新薬の発見において最も急速に成長している分野の1つであるのはこのためである。特定のリンタンパク質シグナル伝達異常の同定は、例えば、肺癌、乳癌、大腸癌、または他の癌の患者に対する標的治療の開発に使用することができる。ヒト腫瘍生検標本を使用した腫瘍リン酸化プロテオームのプロファイリングは、認知された個別化癌治療の来たる変革の重要な構成要素である。
【0003】
プロテオーム分子プロファイリングが、腫瘍学の実践を変えるように極めて有望である一方で、組織に適用した診断アッセイから得られたデータの忠実度を監視、保証しなければならず、さもなければ、臨床判断は誤った分子データに基づく可能性がある。今日まで、臨床保存の実践は、日常的に、ホルマリン固定等の数十年前の、組織学的試験用の標本を保存するために設計されたプロトコルに依存している。組織は一般に、3つの主要な設定、すなわち、a)病院ベースの手術室での手術、b)外来クリニックで行われる生検、およびc)X線室で行われる画像に従う針生検または針吸引において、病理学的試験のために調達される。現在、プロテオーム研究を行うために、一般に組織をスナップ凍結する。現実世界の多忙な臨床設定において、調達した組織を即時に液体窒素で保存することは不可能な場合がある。さらに、患者切除から病理学的試験および分子解析までの時間遅延は記録されない場合が多く、時刻、手順の長さ、および同時症例数によって、30分から数時間まで異なり得る。
【0004】
図1は、組織調達(例えば、ヒト組織から)のための安定性の間隔を定義する可変時間の2つのカテゴリーを示す。時点Aは、組織が患者から切除され、解析および処理のために体外で利用可能になる時点として定義される。切除後の遅延時間(EDT)は、時点Aから、標本が安定化状態に置かれる、例えば、固定剤に浸漬される、あるいは液体窒素でスナップ凍結されるまでの時間であり、その時点を、本明細書では時点Bと称する。患者の治療環境の複雑性を考えると、EDT中に、組織は室温で手術室内、または病理学者の裁断板上に置かれるか、または標本容器に入れて冷蔵される可能性がある。第2の可変時間は、処理遅延時間(PDT)である。この間隔の初めに、組織は保存剤に浸漬させるか、または凍結装置に保管される。この間隔の終わりの、時点Cにおいて、組織は分子解析のための処理に供される。これら2つの時間間隔の長さに関する不確実性に加えて、多くの公知および未知の変数が、これらの期間中に組織分子の安定性に影響し得る。変数には、1)固定または凍結前の温度変動、2)保存剤の化学的性質および組織浸透率、3)組織標本のサイズ、4)組織の取り扱い、切断、および粉砕の程度、5)顕微解剖前の固定および染色、6)組織の水和および脱水、および7)任意の時点における環境からのホスファターゼまたはプロテイナーゼの導入が含まれる。
【0005】
リンタンパク質等の転写後修飾タンパク質含むタンパク質を収集および保存(固定および安定化)する方法(例えば、身体抽出から約4時間以内)、およびEDTおよびPDT期間中、タンパク質の状態(例えば、リン酸化状態)を監視する方法が必要とされる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】ヒト組織調達のための安定性間隔を定義する可変期間を示す図である。
【図2】調達から保存前までの組織のタンパク質安定性の経時変化を示す図である。本図は、ベースラインと比較した、リンタンパク質の経時的な変化または変動を示す。ベースラインは、切除時に凍結された組織中の同一リンタンパク質のレベルである。タイムゼロベースラインを得るための凍結は、凍結切片を切断するための従来手順である、液体窒素でのスナップ凍結、またはOCT抗凍結剤ゲルでの凍結のいずれかによって行った。組織試料を一連の時点それぞれで凍結したところ、生きた状態で室温放置した組織と比較して、組織において生じる任意の変化が停止した。組織試料の残りはそれ以上保存せず、室温で異なる時間放置した。本図は経時変化を示し、非保存状態の経時変化から得られた値を、切除直後に保存した試料の値と比較する。評価したエンドポイントは、生存促進、アポトーシス、および転写制御タンパク質/リンタンパク質を表す。
【図3】切除後遅延時間研究を示す図である。1つの子宮切除片を25の断片に分割した。断片をオープンペトリ皿で4℃または室温でインキュベートした。90分経過した後、約15分間隔で断片を採取し、10の異なるエンドポイントについて、逆相タンパク質マイクロアレイ(RPMA)によって解析した。図3Aは4℃での経時変化を示す図である。図3Bは室温での経時変化を示す図である。正負のいずれにも経時的に最大変動を呈した生存促進およびアポトーシス経路における選択したリン酸化タンパク質は、候補例代理マーカーを構成する。
【図4】リンタンパク質保存の評価のために細胞試料に適用した化学安定剤を示す図である。細針吸引(FNA)試料は、24時間4℃で、それぞれの化学物質/化学溶液中で保管した。逆相タンパク質マイクロアレイ解析のために、細胞試料をさらに処理した。図4Aは試料を様々な化学溶液でインキュベータした後、リン酸化タンパク質レベル(AKT ser473)および試料当たりの全体タンパク質収率(Sypro Ruby)を評価するために、AKTser47(右上)およびSypro Ruby(右下)で染色したマイクロアレイの画像を示す図である。4つの水平スポットおよび2つの垂直スポットの各組は、各FNA試料に関して、元の試料およびその複製試料を表し、2倍希釈液中のアレイ上に印刷される。希釈系列は、各試料の非希釈、1:2、1:4、および1:8希釈を表す。調達時におけるベースラインリン酸化レベルは、溶解緩衝液に直接溶解した細胞によって表される(表5、実施例Vを参照)。図4Bは選択した生存促進およびアポトーシスエンドポイントに関して、FNA試料から得られた翻訳後修飾タンパク質の相対量を示す図である。細胞の直接溶解は、調達時にリンタンパク質を保存する。異なる化学溶液中でインキュベートした試料をこのベースライン溶解試料と比較することによって、エタノール等の伝統的な固定剤は、リンタンパク質を適切に保存しないことを示す。0.9%食塩水は、24時間後のリンタンパク質エンドポイントの低下レベルを表す。
【図5】凍結および固定組織試料の間の組織形態の比較を示す図である。脳への転移性乳房組織を、凍結切片を切断する前に、スナップ凍結またはメタノール:水中で固定した。組織形態、凍結切片を切断する能力、および有効なレーザー捕捉顕微解剖は、凍結およびメタノール:水中固定試料において同程度であった。
【図6】リンタンパク質の安定性に関して、メタノール:水固定剤と凍結組織との比較を示す図である。図6Aにおいて、逆相タンパク質マイクロアレイは、固定および凍結組織に関して、等しいスポット強度を示す。図6Bは平均シグナル強度が凍結試料においてより高いが、試料間の傾向は、様々なタンパク質エンドポイントに関して類似することを示す図である。
【図7】試料当たりの細胞等量を逆相タンパク質マイクロアレイ上に印刷し、mTOR(S2448)リン酸化のレベルを測定した分析を示す図である。図7Aの試料は、スナップ凍結した。図7Bの試料は、水中の20〜50%メタノールで固定した。分析は、試料保存手技間で同等性を示す。
【図8】ベース固定剤にホスファターゼ阻害剤またはキナーゼ阻害剤のいずれかを追加することが及ぼす、リンタンパク質の安定化への影響を示す図である。試料を採取し、図に示した時点において、選択したリンタンパク質エンドポイントの存在について解析した。図8Aはエンドポイント、SAPK/JNK(Thrl83/Tyrl85)を示す図である。図8Bはβカテニン(S33/37/Thr41)を示す図である。図8Cはエンドポイント、Her3(Tyrl289)を示す図である。図8DはCC3(Asp175)を示す図である。
【図9】ナノ粒子センチネルを示す図である。
【図10】ホスファターゼ阻害剤(過バナジン酸)の存在下で、体外細胞培養モデル(生細胞内)において経時的に見られるリン酸化の急増を表す線グラフを示す。図10AはEGF受容体(EGFR Y1173)のリン酸化に対するホスファターゼ阻害剤の影響を示す図である。リン酸化は、40分未満で急激に高レベルまで上昇し、その後に細胞死が続いた。図10Bは生きた細胞をホスファターゼ阻害剤に曝露した後の、列挙した一連のリンエンドポイントに関して、経時的な高リン酸化を示す図である。
【図11】様々な固定製剤に室温で固定した子宮組織の形態を示す画像(ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した)を表す図である。図11A:10%メタノール 倍率2X、図11B:最適切断化合物に埋め込まれた凍結組織 倍率2X、図11C:ホルマリン 倍率10X、図11D:10%メタノール 倍率10X、図11E:10%メタノール+ポリエチレングリコール 倍率10X、図11F:10%メタノール+PEG+プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤 倍率10X。
【図12】10%エタノール+PEG+プロテアーゼ阻害剤で固定した子宮組織のレーザー捕捉顕微解剖を示す。図12A:解剖前、図12B:顕微解剖後、図12C:LCMキャップ上の調達した細胞。
【図13】CD4のために染色した細胞であって、本発明の保存剤で固定および安定化された細胞のFACS解析を示す図である。図13AはFITC共役したアイソタイプ抗体対照(IgG1、kappa)で染色した未処理の細胞を示す図である。図13Bは実施例Vに記載の保存剤で20分間処理し、2回洗浄して、抗CD4−FITCで染色した細胞を示す図である。図13Cは最初に抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄した後、保存剤での処理に供された細胞を示す図である。図13Dは抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄した後、フローサイトメトリー(固定剤なし)によって解析した未処理の細胞を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、例えば、対象から得られた試料中のタンパク質、特に、リンタンパク質を含む翻訳後修飾タンパク質を保存および監視するための方法を提供する。本発明の一実施形態において、保存したタンパク質は、臨床標本から得られたヒト腫瘍組織のリン酸化プロテオームレパートリーを表すリンタンパク質である。本発明の態様は、室温で試料保存(固定および安定化)するための組成物(例えば、溶液)、例えば、対象から採取されたが、まだ安定化手順に供されていない試料等の試料を監視する品質管理に使用できる代理内因性マーカーの同定、および、例えば、試料が安定化手順に供された時点から、さらなる手順(例えば、分子解析)が実施される時点までの間、試料の監視等の品質評価に使用できる外因性マーカーを含むセンチネル(例えば、一群のセンチネル)を含む。
【0008】
特に、身体から抽出した後の最初の3〜4時間以内に調達した組織試料には、特定の保存要件がある。本発明者は、意外にも対象から切除(調達)した組織が、組織が切除(調達)されてから保存剤に曝露されるまでの数時間、生存し続け、血管灌流の不在、虚血、低酸素症、アシドーシス、細胞老廃物の蓄積、電解質の不在、温度変化等に反応し得ることを本明細書において示す。本発明者は、微環境およびエネルギー源、シグナル伝達リガンド、ならびに酸素源から離れているにもかかわらず、切除した試料中のリンタンパク質は、それぞれ内因性キナーゼおよびホスファターゼの作用を通じて、代謝変化(リンタンパク質の活性化および不活性化の両方)を続けることを示す。
【0009】
これらの継続する代謝プロセスによって、試料中のリンタンパク質の保存に対する問題が生じる。例えば、本発明者は、内因性ホスファターゼによってタンパク質リン酸基の除去を遮断するように設計されたホスファターゼ阻害剤を単独で追加することにより、致命的なレベルに達する異常レベルのリンタンパク質の未確認および極めて異常な上昇蓄積を生じ得ることを発見した。例えば、培養した細胞株(A549)をチロシンホスファターゼ阻害剤、過バナジン酸で処理した後に続くリン酸化の大きな急増を示す図10を参照。任意の特定の機構に束縛されるわけではないが、この急増は、ホスファターゼ阻害剤がキナーゼの脱リン酸化を阻止する一方で、キナーゼ自体は依然として活性であり、タンパク質のリン酸化を続けるために生じることが示唆される。
【0010】
したがって、切除の時点における、生きた組織中の分子(例えば、リンタンパク質)を正確に反映させるために、調達後できる限り早急に組織を固定し、アッセイの時まで細胞シグナル伝達および代謝機能の反応変動を停止させることが重要である。
【0011】
本発明者は、本明細書において、リンタンパク質を含む試料と室温で接触した場合、単一のステップで、細胞形態および組織学を保存し、さらなる処理(例えば、凍結切片の調製または長期極低温保存)のための試料の凍結を妨害しない条件下で、リンタンパク質のリン酸化状態を固定および安定化(例えば、ホスファターゼ、キナーゼ、および任意でプロテアーゼを阻害)し得る組成物(保存剤)を同定する。
【0012】
本発明の保存剤の第1の成分は、固定剤(例えば、溶液)であって、沈殿することによって細胞内のタンパク質を固定することができ、さらにホスファターゼ、キナーゼ、および/またはプロテアーゼの阻害剤等の安定剤が可溶性であり、固定した細胞内に進入して機能し得るように十分な水分を含有する。
【0013】
細胞または組織が調達された後、リンタンパク質の活性化または不活性化が細胞または組織内で生じ続けるという本明細書での観察に照らして、本発明の保存剤は、第2の成分として、少なくとも1つのキナーゼ阻害剤と、少なくとも1つのホスファターゼ阻害剤と、任意で少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤と、を含む安定剤をさらに含む。
【0014】
一般に本発明の保存剤に存在する第3の成分は、細胞または組織の表面から細胞または組織の内塊への固定剤および/または安定剤の急速な浸透を増強することができる、透過性(透過)増強剤(試薬)である。透過性増強剤は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)であり得る。(本発明の一部実施形態において、細胞内部にある成分を固定および安定化する必要はなく、透過性増強剤が必要とされない場合がある。例えば、FACS分類のために細胞を保存する場合、細胞の表面上の抗原性表面タンパク質を固定および安定化することのみが重要であり、透過性増強剤を含む必要がない場合がある。)
【0015】
固定剤、安定剤、および透過性増強剤を含む組成物は、本明細書において、「本発明の組成物」または「本発明の保存剤」と称され得る。
【0016】
本発明の組成物は、細胞または組織と接触すると、組織容積を速やかに貫通する、急速に進行する溶媒先端を生成し、切除の衝撃に反応している生きた細胞内のシグナル経路における変動(増加および減少)を停止させる一方で、同時に細胞分子を固定、停止、および/または沈殿させて、凍結切片またはパラフィン切断に続く組織病理学的診断のために細胞形態を保存する。本組成物の安定剤成分は、例えば、固定剤進行先端によって細胞分子を完全に固定または停止させる前に、生きた組織細胞内で生じるシグナル経路の活性を阻害することができる。これらの機能のすべては室温で達成される。
【0017】
本発明者は、本明細書において、意外にも、対象から採取された試料中で特に不安定な(リン酸化状態の変化を呈する)リンタンパク質を同定する。これらのリンタンパク質(ならびに本明細書で論じられる他のタンパク質)は、内因性代理マーカーとして機能することができ、(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物から得られた)試料中のリンタンパク質の保存状態を測定するために使用され得る。そのような解析を使用して、所定の試料中の他のタンパク質が、試料がさらなる分析、例えば、プロテオーム解析に適切であるように十分に良好に保存されるかどうかを判断することができる。同定した不安定なリンタンパク質、または他のタンパク質は、粒子物質に付着(例えば、結合、連結、固定化)して、例えば、細胞または組織集団試料の処理履歴の評価に使用できる外因性センチネルを形成することもできる。必要に応じて、様々なそのような外因性センチネル分子の一群を使用してもよい。
【0018】
本発明の方法の利点には、保存が室温で行われるため、費用のかかる冷却の必要性がなくなることが含まれる。本発明の方法は、臨床環境において、冷却が利用できない条件下で(例えば、貧窮した環境または戦場において)の試料の解析を促進する。本発明の方法は、選択したリンタンパク質のリン酸化状態に基づく分子診断解析等のさらなる分析のために、試料を急速、正確、かつ再生可能に調製することを可能にする。細胞形態および組織学的形態は、病理学的診断のために保存される。さらに、本発明の方法において、固定剤および安定剤は、浸漬または処理した細胞の表面から組織の内塊へ急速に浸透し得る。固定剤が細胞または組織に急速に導入されるため、本発明の方法は、浸透の遅い(ミリメートル/時間)ホルマリン、および架橋結合が長時間遅れるアルデヒド等、その間に保存される組織が依然として代謝反応中であり得る従来の固定剤の問題点を克服する。
【0019】
本発明は、例えば、室温で、リンタンパク質を含む試料と接触した場合に、リンタンパク質を固定および安定化することができ、細胞形態を保存して、分子解析に適した凍結される試料がクリオスタット凍結切片を生成可能にする組成物(保存剤)に関し、本組成物は、
(1)リンタンパク質の固定に有効であって、安定剤および/または透過性増強剤に可溶であるように十分な含水量を有する固定剤と、
(2)(a)キナーゼ阻害剤および(b)ホスファターゼ阻害剤、および任意で(c)プロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼ)阻害剤を含む安定剤と、
(3)透過性増強剤と、を含む。
【0020】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含む。例えば、上で使用される、「1つの(a)」キナーゼ阻害剤は、1つ以上のそのような阻害剤を含む。
【0021】
本発明の別の態様は、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中の1つ以上のリンタンパク質を室温で保存(固定および安定化)するための方法であって、試料中のリンタンパク質の保存に有効な条件下で、試料を室温で本発明の組成物と接触させるステップを含む。本方法は、(例えば、試料が組織を含む場合に)保存した試料を凍結するステップと、任意で、凍結保存した試料を切断するステップと、をさらに含み得る。一実施形態において、本保存方法は、パラフィン埋め込みを必要とすることなく、組織を凍結および切断するためのマトリクスを提供する。本発明の保存方法において、試料中の少なくとも1つの細胞サブセットにおける少なくとも1つのリンタンパク質のリン酸化状態をさらに解析することができる。必要に応じて、外部エネルギー源(例えば、超音波、赤外線、マイクロ波、電磁気、RF(高周波)エネルギー、または圧力、熱、または化学物質)で処理することによって、保存する前にリンタンパク質を変性させることができる。
【0022】
試料中のリンタンパク質を保存するための「有効な条件」は、多数の変数の関数であり、使用される保存剤の成分の性質、試料の性質等を含む。適切な条件は、熟練者によって日常的に最適化され得る。
【0023】
本発明の別の態様は、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のリンタンパク質の保存状態を判断するための方法である。本方法によって、検者は、試料中のタンパク質が、試料の後次の(正確な、有意義な)分子プロテオーム解析を行うのに十分に安定しているかどうかを判断できるようにし得る。本方法は、試料中の特に不安定な(比較的不安定な)所定のタンパク質が安定化しているかどうかを判断するステップを含む。「十分に安定化した」とは、経時的な体外変動が、組織が安定化処理される直前に存在するベースライン値から20%以内であるように、タンパク質の翻訳後修飾(例えば、リン酸化)形態のレベルの正負変動が安定化していることを意味する。
【0024】
これらの内因性マーカーは、本明細書において、「内因性代理マーカー」または「内因性代理リンタンパク質」と称され得る。内因性代理マーカーは、例えば、表1に列挙した1つ以上のリンタンパク質であり得る。リンタンパク質の保存状態を判断する方法において、試料は、対象から採取されているが、まだ安定化手順に供されていない場合がある(例えば、試料は、安定化手順を行う前の4時間以内に採取されているかもしれない)。保存状態を判断する方法は、判断したリンタンパク質の保存状態に基づいて、分子診断解析を進めるかどうかを決定するステップをさらに含み得る。
【0025】
本発明の別の態様は、例えば、表1に列挙した1つ以上のリンタンパク質、少なくとも約5つのそのようなリンタンパク質、少なくとも約10のそのようなリンタンパク質、またはその表中で特に不安定なリンタンパク質である、STAT−3またはSTAT−1(例えば、STAT−3)、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1等の、本発明の1つ以上の内因性代理マーカーの、リン酸化アイソフォーム、および/または非リン酸化アイソフォームに対して特異的な一連の抗体である。当該一連の抗体のセットに存在し得る他の抗体は、表2−1〜表2−3に列挙した1つ以上のタンパク質に特異的な抗体、p−セレクチン、e−セレクチン、IL−2、IL−6、IL−8、および/またはフィブロネクチンに特異的な抗体、および/または本明細書に記載の他の内因性代理マーカーのうちのいずれかに特異的な抗体を含む。抗体は、例えば、多クローン性または単クローン性であり得る。実際に、内因性代理タンパク質のうちの1つに特異的であり、試料中のリンタンパク質の保存状態を判断する方法に使用可能な任意のリガンドを使用することができ、キットに存在し得る。
【0026】
本発明の別の態様は、2つの異なる時点において、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のリンタンパク質の保存状態を判断するための方法であって、第1の時点において(試料中の細胞へのセンチネルの導入に有効な条件下で)、(1つ以上の)代理リンタンパク質マーカーを含むセンチネルと試料を接触させるステップと、第2の時点において、センチネルを採取するステップと、2つの時点において、センチネルに関連した代理リンタンパク質マーカーのリン酸化状態を測定および比較するステップと、を含む。センチネルは、試料が本発明の保存剤に配置されるのと実質上同時に、試料に導入され得る。センチネルは、試料が導入される保存剤を含む容器に存在するか、または実質上試料がそこに配置された直後に試料/保存剤に追加され得る。
【0027】
本明細書で使用される「センチネル」は、1つ以上のリンタンパク質(例えば、極めて不安定なリンタンパク質)に関連した外因性粒子体を意味する。本発明のセンチネルの特性は、本明細書の他の箇所で詳細に論じられる。本方法を使用して、試料中のタンパク質の安定性を監視することができる。本方法を使用して、試料を対象から採取した後、手順(例えば、固定/保存手順)を開始するまでの時間量を判断することができる。
【0028】
本発明の別の態様は、試料を対象から採取する際に、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中の関心対象の1つ以上のリンタンパク質を分子特性化(例えば、分子診断解析)するための方法であって、
【0029】
第1の時点において、試料が対象から採取されると同時に、試料を室温で本発明の(1つ以上の)センチネルおよび本発明の保存剤と接触させ、それにより、試料中の関心対象のリンタンパク質を固定および安定化させるステップと、
第2の時点において、センチネルを抽出するステップと、
その後、センチネルに関連した代理リンタンパク質マーカーの保存状態を測定し、代理リンタンパク質マーカーの保存状態が、試料中の関心対象のリンタンパク質の保存状態が、その分子特性化に適切であることを示す場合、
関心対象のリンタンパク質の分子特性化を行うステップと、を含む。
【0030】
本発明の別の態様は、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のリンタンパク質を室温で固定および安定化させるためのキットであって、本発明の保存剤の成分を、任意で1つ以上の容器に含む。本発明の別の態様は、試料中のタンパク質(例えば、リンタンパク質)の保存状態を監視するためのキットである。本キットは、本発明の1つ以上のセンチネルを1つ以上の容器に含み、任意で、タンパク質のリン酸化状態を監視(測定)するための試薬および/または本キットの使用説明書を含む。
【0031】
本発明の別の態様は、細胞または組織標本を収集および保存するための装置であって、本発明の保存剤を含有する第2の室に接続された、特定量の試料を切断または調達する第1の室(例えば、針)を含み、単一の操作で、試料が調達され、室内の保存剤に浸漬されるようにする。第2の室は取り外し可能であり、組織切断または分子処理等のさらなる解析に直接使用され得る。
【0032】
本明細書で使用される「試料」は、本発明の方法によって固定および保存できる(および、任意でアッセイを行い、例えば、試料中の1つ以上のリンタンパク質のリン酸化状態を判断できる)任意の適切な細胞、組織、体液、または細胞産物(例えば、タンパク質)を含み得る。適切な試料は、例えば、外科的切除または組織生検、例えば、針生検を含む組織、適切な方法、例えば、機械的手段または細い針あるいは他の適切な装置を用いて腫瘍試料等の試料を吸引することによって、細胞集団から分離された細胞、血液、硝子体液、またはそれらの液体のうちの1つの分画等の体液、または細胞から流出、分泌、または排出あるいは別途得られたタンパク質等の細胞産物を含む。試料は、任意の対象(患者)、例えば、研究室動物(マウス、ラット、ウサギ、またはモルモット等)、農場動物、家畜またはペット(ネコまたはイヌ等)、非ヒト霊長類、あるいは好ましくはヒトを含む、任意の動物から採取され得る。
【0033】
タンパク質の「リン酸化状態」は、タンパク質のリン酸化の度合い(総量)を意味する。これは、リン酸化されるタンパク質の部位(例えば、適切なSer、ThrまたはTyrアミノ酸残基)の数、および/またはアミノ酸鎖の任意の所定の受容体部位におけるリン酸化のレベルの両方を含み得る。試料の「保存状態」は、その部位における試料およびタンパク質等の状態を反映し、リンタンパク質のリン酸化状態を含む。
【0034】
本発明者は、試料中のタンパク質を沈殿および、よって固定するだけでなく、十分な量の水を含み、安定剤(タンパク質を含む安定化剤)が固定剤中で可溶性を維持するような固定剤(固定化剤)を同定した。一般に、固定剤は、塩基水溶液、例えば、エタノール(例えば、約10〜40%、約10〜20%、または約12%)、メタノール(例えば、約10〜40%、約10〜20%、または約12%)、ベンジルアルコール(例えば、約10〜40%)あるいはアセトン(例えば、約5〜15%)(すべてV/V)中に、非架橋結合沈殿剤を含む。本明細書で使用される、「約」という用語は、プラスまたはマイナス10%を意味する。例えば、約1%は、0.9%から1.1%を含む。本明細書で使用される範囲の端点は、その範囲内に含まれる。例えば、5〜15%(例えば、「5%から15%の間」の値)は、5%および15%の両方を含む。本発明者は、意外にも、前述の少量のこれらの沈殿固定剤が、いくつかの理由から、従来量のアルコール(例えば、約50〜60%)よりも優れると判断した。従来レベルとは異なり、このような低レベルであることによって、キナーゼおよびホスファターゼ阻害剤等の薬剤が溶液中に残留することができ、また低レベルであることは、細胞形態の保存および凍結切片の調製に特に有効である。
【0035】
他の種類の適切な固定剤は、以下の成分の溶液または懸濁液を含み、それらは、本発明の安定剤および/または透過性試薬が可溶性であるように十分に希釈された形態である。例えば、粒子物質、バイオセラミック、クエン酸ポリジオール、キトサン、およびヒドロキシアパタイト(0.1〜10%w/w)のような、水を除去するか、またはタンパク質の沈殿あるいは凝集を誘発できる薬剤、キレート化剤(例えば、EDTA)(0.05%)、トリクロロ酢酸(TCA)(1〜5%)、クロロホルム/メタノール(10〜40%)、または硫酸アンモニウム(5〜15%)。
【0036】
本発明の組成物の第2の成分は、キナーゼ阻害剤(シグナル経路活性化の阻害剤)およびホスファターゼ阻害剤(翻訳後リン酸化の除去を阻害する)を含む安定剤(安定化剤)である。任意で、本発明の安定剤は、プロテアーゼ阻害剤も含み得る。
【0037】
使用できる適切なキナーゼ阻害剤は、例えば、アダフォスチン、AG490、AG825、AG957、AG1024、アロイシン(例えば、アロイシンA)、アルスターパウロン、アミノゲニステイン、API−2、アピゲニン、アークチゲニン、AY−22989、ビスインドリルマレイミドIX、BMS−354825(ダサチニブ)、チェレリスリン、DMPq、DRB、エデルフォソン、アーブスタチン類似体、ET180CH3、ERK阻害剤ファスジル、ゲフィチニブ、H−7、H−8、H−89、HA−100、HA−1004、HA−1077、HA−1100、ヒドロキシファスジル、インジルビン−3´−オキシム、5−ヨードツベルジシン、ケンパウロン、KN−62、KY12420、LFM−A13、ルテオリン、LY−294002、マロトキシン、ML−9、NSC−154020、NSC−226080、NSC−231634、NSC−664704、NSC−680410、NU6102、オロモウシン、オキシンドールI、PD153035、PD98059、フロリジン、ピセタノール、ピコロポドフィリン、PKI、PP1、PP2、プルバラノールA、クエルセチン、RAPA、ラパミューン、ラパマイシン、Ro31−8220、ロスコビチン、ロットレリン、SB202190、SB203580、シロリムス、SL327、SP600125、スタウロスポリン、STI−571、SU1498、SU4312、Su6656、Syk阻害剤、TBB、TCN、トリシリビン、チロフォスチンAG490、チロフォスチンAG825、チロフォスチンAG957、チロフォスチンAG1024、UO126、W−7、ワートマニン、Y−27632、ZD1839、およびZM252868である。これらの薬剤のすべて、および本明細書に記載の他の薬剤は、SigmaまたはCalbiochem等の商業源から容易に取得できる。
【0038】
使用できる適切なホスファターゼ阻害剤は、例えば、A−ナフチル酸ホスファターゼ、カリクリンA、ノジュラリン、NIPP−I(PPlを阻害する)、ミクロシスチン、オカダ酸、エンドタール(PP2Aを阻害する)、シクロスポリンAおよびFK506/イムノフィリン複合体、シペルメトリン、カンタラジン、カンタリジン酸、デルタメトリン(PP2Bを阻害する)、bpV(phen)、デフォスタチン、mpV(pic)、DMHV(PTPを阻害する)、β−グリセロリン酸、(−)−p−ブロモテトラミゾールオキサレート、フェンバレラート、L−690,330、L−ホモアルギニン、フェニルアルシンオキシド、ペルメトリン、モリブデン酸ナトリウム(および一過硫酸)、イミダゾール、フッ化ナトリウム、酒石酸ナトリウム二水和物、スチボグルコネートナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、スラミン、バナジン酸(オルトバナジン酸および過バナジン酸)、1,4−ジメチルエンドタール、1−nor−Okadaone、アレスリン、アスコマイシン、ベンジルホスホン酸、タウトマイシン、テトラミソール、およびチロフォスチン8である。
【0039】
本明細書の他の箇所で記載されるように、キナーゼおよびホスファターゼ阻害剤の適切なバランスを維持することが重要である。例えば、適切な安定剤は、ホスファターゼ阻害剤として、濃度が約100mMから約400mMの間のオルトバナジン酸ナトリウム、または濃度が約375mMから1.5Mの間のβグリセロリン酸のいずれかを含み、キナーゼ阻害剤として、濃度が約5.0μMおよび20.0μMの間のスタウロスポリンまたは濃度が約0.5μMから2.0μMの間のゲニステインを含み得る。熟練者は、前述の比率を考慮して、ホスファターゼとキナーゼ阻害剤の他の組み合わせの適切な比率を容易に判断できる。
【0040】
本発明の組成物および方法に使用されるキナーゼおよびホスファターゼ阻害剤は、任意の適切な機構によって機能し得る。例えば、キナーゼ阻害剤および/またはホスファターゼ阻害剤は、キナーゼまたはホスファターゼ酵素の活性化を直接阻害することができ、キナーゼ阻害剤は、キナーゼ基質ATPを干渉することができ、および/またはホスファターゼ阻害剤は、リン酸化タンパク質上のリン酸基と相互作用するか、またはホスファターゼの偽基質として作用し得る。
【0041】
任意で、本発明の安定剤は、プロテアーゼ阻害剤を含む。本明細書で使用される、「プロテアーゼ阻害剤」という用語は、分子の末端から、または内部位置からのタンパク質の分解を遮断する薬剤を意味する。プロテアーゼ阻害剤は、様々なプロテイナーゼ阻害剤、例えば、セリンプロテイナーゼ(例えば、PNSFまたはアプロチニン)、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテイナーゼ(例えば、EDTA)、酸性プロテイナーゼ、中性プロテイナーゼ、またはアルカリ性プロテイナーゼの阻害剤を含む。
【0042】
使用できる適切なプロテアーゼ阻害剤は、例えば、アセチル−ペプスタチン、AEBSF、塩酸、ALLN、ALLM、アマスタチン、ストレプトミセス sp.、E−アミノ−n−カプロン酸(EACA)、αl−アンチキモトリプシン、α2−アンチプラスミン、アンチパイン、二塩酸または塩酸、アンチトロンビンIII、αl−アンチトリプシン、p−APMSF、塩酸、アプロチニン、ATBI、ベンズアミジン、塩酸、ベスタチン、ベスタチン、メチルエステル、カルパスタチン、CA−074、カルペプチン、カルボキシペプチダーゼ、カテプシン阻害剤I、II、III、カテプシンB阻害剤I、II、カテプシンK阻害剤I、II、III、カテプシンL阻害剤I、II、III、IV、V、VI、カテプシンS阻害剤、キモスタチン、キモトリプシン阻害剤I、シスタチン、3,4−ジクロロイソコウラミン、ジイソプロピルフルオロリン酸(DFP)、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤、1,5−DNS−GGACK、2HCl、ジペプチジルペプチダーゼII阻害剤、E−64プロテアーゼ阻害剤、エコチン、EDTA、EGTA、エラスターゼ阻害剤I、II、III、EST、FUT−175、GGACK、HDSF、α−ヨードアセトアミド、キンノゲン、ロイヒスチン、ロイペプチン、α2−マクログロブリン、DL−2−メルカプトメチル−3−グアニジノエチルチオプロパン酸、NCO−700、ペプスタチンA、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、PPACK、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤、2,3,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、TLCK塩酸、トロンビン阻害剤、トリペチジルペプチダーゼII阻害剤、トリプシン阻害剤、チロマイシンA、およびD−Val−Phe−Lysクロロメチルケトン、二塩酸である。他のプロテアーゼ阻害剤は、例えば、Neel et al.(1997)Curr Opin Cell Biol 9,193−204およびB.Goldstein(2002)J Clin Endocrinol Metab 87,2474−2480において開示される。
【0043】
本発明の保存剤の第3の成分は、透過性増強剤であり(本明細書において、透過性薬剤または透過剤と称され得る)、固定剤および/または安定剤の細胞または組織への輸送を増強する。透過性増強剤は、例えば、組織容積を通る本発明の組成物の成分の浸透率を増補し、生きた組織の内塊中の細胞に急速に到達して、それらの分子を後の診断のために停止させる。細胞または組織への安定剤の透過率は、細胞外空間に対する細胞の比率、および組織の容積に対する表面の比率の関数である。水、溶質に対する組織細胞膜の透過性、および細胞外空間における溶質の拡散係数は、すべて安定剤の透過性に影響する。細胞内空間と細胞外空間との間の大量輸送および交換に続いて、保存剤が細胞に進入する。
【0044】
様々な透過性増強剤は、本発明の組成物に含まれ得る。適切な透過性増強剤は、ポリマー(PEG、ポリソルベート等)、タンパク質(脂肪親和性タンパク質)、脂質、およびナノ粒子(金属またはシクロデキストリンナノ粒子)である。例えば、適切な透過性増強剤は、水、約1.5Mのジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、デメチルホルミアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DCMS)、C10−C18飽和アルキル鎖を有する脂肪酸、硫酸ナトリウムラウリル(SDS)、ソルビタンモノラウレート20、セチルトリメチル臭化アンモニウム、ノノキシノール界面活性剤、両性イオン界面活性剤(例えば、ドデシルベタイン)、ラウロカプラム:アゾン(l−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン)、SR−38(4−デシクロアゾリジン−2−オン)、エタノール溶液、精油、テルペンおよびテルペノイド(ユーカリ、d−リモニン、ネロリドール、1−8−シネオール、メントール)、脂肪アルコール(アルクノール)、オレイン酸、グリコール、PEG200モノラウレート、PEG400モノラウレート(Alkamul 400−MO)、PEG400モノラウレート(Lipopeg 4−L)、PEG600モノオレエート(Alkamul 600−MO)、PEG6000モノオレエート(Kessoポリエチレングリコールエステル)、ポリオキシアリールエーテル(Syn Fac8210)、POEオレイルアルコール(Ethosperse OA−9)、POEモノオレイイン酸ソルビタン(Atlas G8966T)、POEミリスチルエーテル(Lipco−4)、POEラウリルアルコール(Ethosperse LA−4)、POEルアリールエーテル(Brij30)、POEソルビタンモノオレエート(Glycosperse 0−5)、POG硫酸ラウリル(Emthox 5967)、オクチフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール(Igepal CA420)、直鎖アルコールエトキシレート(Rexonic N4)、ポリソルベート80含有モノおよびジグリセリド(Tandem 8)、ノニルフェノールエトキシレート(Alkasurf NP−4)、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール(Igepal CO−720)、ノニルフェノールエトキシレート(Alkasurf NP−15)、カストールオイルエトキシレート(Sandoxylate C−32)、エトキシル化ヤシ油モノグリセリド(Varonic LI−63)、酸化エチレンで濃縮したオレイルアルコール(Volpo−20)、修飾オキシエチル化直鎖アルコール(Plurafac C−17)、エトキシル化ラノリンアルコール(Polychol 40)、エチオキシレートポリオキシプロピレングリコール(Alkatronic PGP23−7)、エチオキシレートポリオキシプロピレングリコール(Alkatronic PGP23−8)、ノンフェニルエトキシレート(Alkasurf NP−30)、ポリエチレン100ステアリルエーテル(Brij700)、モノグリセリドおよびエチルパルミテート、アルキルアリールポリエーテルエタノール(Triton X−363M)、N,N−ジメチルアミド(Mallcomid M8−10)、アルキルまたはアリール尿素類似体、グリセロールモノラウレートおよびラウリルアセテート、Sefsol−318媒体鎖グリセリド、細胞浸透ペプチド、ペグ化ペプチド、細胞浸透ペプチド、ポリエチレングリコールモノラウレート、リン脂質、ピロリドン:N−メチル−2−ピロリドンおよび2−ピロリドン、デンドリマー、レクチン、またはペグ化および/またはコロイド金を含む。
【0045】
本発明の一実施形態において、透過性薬剤は、濃度が約0.5%から15%、例えば、約0.5%から5%のPEGである。高濃度のPEGは細胞組織構造を干渉し、組織が切断されるのを妨げ得る。
【0046】
透過性増強剤は、独立した要素として、本発明の固定剤および安定剤の混合物に添加され、保存剤を形成し得る。本発明の別の実施形態において、本発明の安定剤(その1つ以上の成分)は、透過性増強剤に付着(例えば、結合、連結、固定化)され、透過性増強剤は、細胞または組織への安定剤の浸透を促進できる。安定剤を適切な透過性増強剤に付着させるための方法は従来の方法である。一実施形態において、安定剤(例えば、ホスファターゼ阻害剤およびキナーゼ阻害剤)および透過性増強剤の要素はいずれも、細胞または組織への本発明の組成物の両種の成分の進入を促進するナノ粒子に付着する。結合成分を含有するナノ粒子は、本発明の固定剤に懸濁され得る。
【0047】
熟練者は、本発明の保存剤、例えば、透過性増強剤の個別成分の相対量、またはその存在は、個別の細胞型または標本型によって異なり得ることを認識するであろう。例えば、一部の組織(例えば、筋肉組織)は、特に密度が高いため、密度の低い組織よりも大量の透過性増強剤を必要とし得る。代替として、高レベルの脂肪または疎水性層から成る一部の組織(例えば、乳房または皮膚)は、そのような脂肪性質を欠く組織よりも少量の透過性増強剤を必要とし得る。そのような調節は、本明細書で論じられる保存剤の一般的な範囲内で日常的に判断することができる。
【0048】
物理的方法を使用して、細胞または組織への本発明の保存剤の浸透を補助することもできる。これらの方法は、例えば、圧縮波および針のグリッドとの透過性を含む。他の物理的方法は、例えば、超音波、赤外線、マイクロ波、電気(高圧)、電磁気、RF(高周波)、または化学的方法による過渡熱誘発を含む。これらの物理的方法は、保存剤を組織に導き、かつ、タンパク質を積極的に変性させて、キナーゼ、ホスファターゼ、およびプロテアーゼ活性を阻害する。
【0049】
本発明の保存剤に存在し得る他の薬剤は、例えば、OSI−774(タルセバ、エルロチニブ)のような膜受容体阻害剤、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ラパタニブ、およびゲフィニチブ(イレッサ)を含む。使用され得る抗ヒスタミン(H−I受容体拮抗薬)は、例えば、アザタジン、アンタゾリン、ブロンフェニラミン、シクリジン、クロルシクリジン、セチリジン、クロルフェニラミン、クレマスチン、シプロヘプタジン、デスロラタジン、デクスクロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、ロラタジン、メピラミン、メクリジン、フェニラミン、フェニンダミン、プロメタジン、およびトリプロリジンを含む。
【0050】
本発明の保存剤に存在し得る他の薬剤は、膜を安定化させるだけでなく、細胞分子およびそれらの翻訳後修飾が沈殿または固定されるまで、細胞を損傷から保護する膜安定剤を含む。適切な細胞膜安定剤は、例えば、トレハロース、炭水化物、プロピレングリコール(例えば、約1.5M)、エチレングリコール(例えば、約1.5M)、グリセロール(例えば、約1.5M)、スクロース、グリシン、キトサンまたはメチルセルロースである。
【0051】
本発明の保存剤に存在し得るシグナル経路活性化の他の阻害剤は、凍結切片またはポリマーあるいはパラフィン切断に続く組織学的試験、顕微解剖、および病理学的診断のための細胞小器官形態を含む、細胞形態を保存する薬剤を含む。適切なそのような薬剤は、例えば、ポリエチレングリコール(例えば、粒径範囲が約200から8000kD)、キトサン、またはメチルセルロースである。
【0052】
存在し得る他の薬剤は、架橋結合剤(例えば、ジアルデヒド、グルタルアルデヒド、ジチオビス−スクシニミジルプロピオン酸、アラビアゴム、ジエチレングリコール、またはアラビアゴム)および分子阻害したポリマーまたはヒドロゲル、例えば、沈殿重合によって形成されたN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)およびN,N´−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を含む。
【0053】
本発明の保存剤に存在し得る他の薬剤は、アデノシン三リン酸加水分解酵素阻害剤を含む。使用され得る適切なアデノシン三リン酸加水分解酵素は、例えば、アデノシン、塩酸アミロライド、バフィロマイコンA1、ストレプトミセスグリセウス、BHQ、(−)−ブレビスタチン、(±)−ブレビスタチン、BTS、ブファリン、2,3−ブタンジオン2−モノキシム、カルミダゾリウムクロリド、シクロピアゾン酸、ペニシリウムシクロピウム、DPC(ジフェニルアミン2−カルボキシル酸)、Eq5阻害剤III、デメチルエナストロン、N−エチルマレイミド、フォリマイシイン、ストレプトミセス sp.、4−ヒドロキシノネナール、ヒポクレリンB、ヒポクレラバンブーサ、マストパラン、ミカロリドB、Mycale sp.、NC−1300−B、オリゴマイシン、オメプラゾール、カバイン、オクタヒドレート、ホルボール−12,13−ジブチレート、スラミン、ナトリウム塩、およびタプシガルジンである。
【0054】
当然のことながら、特定の機能を提供するとして上で列挙した成分のいずれも、記載される他の機能の1つまたは2つ以上を満たし得る。
【0055】
本明細書に記載の保存剤(固定/安定化/透過性剤)は、種々の細胞内成分を保存することができる。本出願の大部分は、リンタンパク質の保存を対象とするが、他の細胞成分(例えば、翻訳後に修飾されないタンパク質、翻訳後にリン酸基以外の部分、例えば、グリコシル、脂質または脂質−メチル基等で修飾されるタンパク質、細胞小器官等)も、本発明の方法によって保存できることを理解されたい。一実施形態において、本組成物は、不安定な細胞表面抗原タンパク質を保存するために全血に追加される。表面タンパク質は、それらの抗原性を保持するので、抗原性表面抗原に依存する方法、例えば、FACS解析による細胞ソーティングまたは磁気捕捉によって、保存した細胞をさらに解析することができる。例えば、実施例Vを参照されたい。
【0056】
種々の従来方法のうちのいずれかを使用して、細胞シグナル伝達および/または代謝機能が、本発明の組成物によって保存されたかどうかを判断することができる。切除した組織の生理化学的特性は、例えば、免疫組織化学、酵素学、顕微鏡検査、または生化学によって測定することができる(例えば、Hernandez−Cuetoらによる総論(2000)Am Journal Forensic Med Path.21,21−31を参照)。評価され得る酵素組織化学的マーカーのうちで、ミトコンドリア酸化酵素活性に関与する酵素は、エステラーゼ、フィブロネクチン、テネイシン、e−セレクチン、p−セレクチン、TGF−α、TGF−β、インターロイキン10、ICAM−1、VCAM−1、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、および/またはグリコサミノグリカンである。実施可能な生化学解析は、ATPおよびその分解産物(ADP、AMP、IMP、イノシン、ヒポキサンチン、キサンチン、および尿酸)、ブロモデオキシウリジンDNA合成、DNAおよび/またはRNA重合、C3、免疫グロブリンE、A、G、M、ヒスタミン、セロトニン、カテプシンD、D−二量体、および/または乳酸脱水素酵素の評価である。タンパク質のリン酸化状態の解析は、従来の方法、例えば、本明細書に記載のとおり実行することができる。
【0057】
本発明者は、様々なリンタンパク質の経時変化解析を行い、身体からの切除後に一連の不安定性(例えば、リン酸化等の翻訳後修飾の損失または取得)を示すマーカーを同定した。表1に示すリンタンパク質は、「特に不安定(「比較的不安定」)な」タンパク質である。つまり、それらのタンパク質は、組織切除後の保存処理において、20%以上長い期間の保存によって、それらのリン酸化状態を変化させる。エンドポイントは、表において細胞シグナル伝達経路ごとに整理される。表に記載される特定のリン酸化アミノ酸残基を使用して、表中のタンパク質のリン酸化状態を監視したが、タンパク質の他のリン酸化残基を監視することができる。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の一実施形態は、例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中のタンパク質(例えば、リンタンパク質)の保存状態を判断するための方法である。本方法は、試料中の1つ以上の内因性代理マーカー(例えば、表1の非常に不安定な内因性代理マーカー)のリン酸化状態を測定するステップを含む。本方法を使用して、試料中の他のタンパク質(例えば、リンタンパク質)が、診断分子プロテオーム解析等の後次解析、タンパク質のリン酸化状態の研究等に使用するために十分に良好に保存されているかどうかを判断することができる。
【0060】
単一の内因性代理マーカーを使用するか、または複数のそのようなマーカー(例えば、約2から10の間、またはそれ以上)を使用することができる。本発明の一実施形態において、使用される表1からの代理マーカーは、特に不安定なリンタンパク質STAT−1および/またはSTAT−3(例えば、STAT−3)、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1である。表1に列挙した非常に不安定な内因性代理マーカーは、悪化した保存状態の早期警告を構成する。
【0061】
これらのリンタンパク質に加えて、またはそれらの代わりに、他種のリンタンパク質を使用し得る。例えば、特定の経路から得られるもの、残基のクラス(チロシン、セリンまたはスレオニン)、ならびに核、細胞質、および細胞膜分画を含む、様々なクラスのリンタンパク質から適切な内因性代理マーカーを選択することができる。内因性代理マーカーは、異なる不安定度を呈する一群の選択リンタンパク質の形式であり得る。
【0062】
様々な他種の内因性代理マーカーを、上述のリンタンパク質に加えて、またはそれらの代わりに使用し得る。例えば、内因性代理マーカーは、その安定性が、細胞集団におけるリンタンパク質の保存状態と相関する、非リンタンパク質分子(例えば、乳酸脱水素酵素、LDH、グルコース−6デヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ等)であってもよい。
【0063】
一実施形態において、内因性代理マーカーは、表2−1〜表2−3に列挙した1つ以上のリンタンパク質、および/または1つ以上のp−セレクチン、e−セレクチン、IL−2、IL−6、IL−8、またはフィブロネクチンを含む。
【0064】
【表2−1】
【表2−2】
【表2−3】
【0065】
対象から試料を採取したさ後、早期、中期、または後期に不安定であるマーカーを、保存することなく使用することができる。
【0066】
使用できる他の内因性代理マーカーは、炎症マーカーである。切除した組織は、細胞シグナル伝達経路の活性化に関して、本質的に損傷または外傷を受けた組織である。損傷活力は、法医学的病理において十分に特徴付けられている。損傷治癒の段階は、典型的に、4つの経路:炎症、血管形成、上皮形成、および組織改造をたどる。したがって、切除した組織は、外傷、環境ストレス、低酸素症、生存促進シグナル、およびアポトーシスシグナルに基づく、細胞シグナル伝達活性の同様の段階を有することが予想される。適切な炎症の内因性代理マーカーとしては、例えば、
細胞−細胞接着−PAX、Src、FAK、pl30cas、コフィリン、フィブロネクチン、アクチン、ICAM−1、VCAM−1、e−セレクチン、p−セレクチン、
サイトカイン−TNFα、インターロイキン−1(IL−1)、IL1β、IL−6、IL−8、p38MAPK、ERK、SAPK/JNK、IKK、IkB、NFKβ、
ストレスの代理マーカー:IL−6、iNOS、eNOS、Jakl/2、Stat3、Stat5、Stat1、Shp2、Grb2、MEK、ERK、
低酸素症の代理マーカー:HIF−1α、AMPKα、AMPKβ、AMPKγ、PKA、LKB1、アセチルCoAカルボキシラーゼ、シトクロムc、COX2、
生存促進の代理マーカー:AKT、mTOR、4EBP1、p70S6、eIF4G、eIF4E、GSK3β、
アポトーシスの代理マーカー:アネキシン、TNFα、AKS−1、IKK、IkB,NFKB、カスパーゼ3,6,7,9、JNK、Bcl−2、BCL−XL、Bax、Bak、Bad、Smac/Diablo、Apaf−1、シトクロムc、ラミンA
が挙げられる。
【0067】
内因性代理マーカーの測定は、センチネルの使用が以下に記載のとおり不可能である場合、試料の保存状態を判断するために特に有用である。例えば、センチネルが利用可能でないか、または解析される組織が、身体から組織を採取した後にセンチネルが追加されなかったアーカイブ組織であり得る。
【0068】
本発明の別の態様は、2つの異なる時点において、試料中のタンパク質の保存状態を監視するために使用できるセンチネル(外因性センチネル)である。本発明のセンチネルは、本明細書で論じられる1つ以上の(内因性)代理マーカーが付着(関連、結合、固定化)する粒子体を含む。マーカーは、センチネルに付着すると、もはや「内因性」ではなくなるため、「代理マーカー」または「代理リンタンパク質」と称され得る。本明細書で論じられる代理マーカーのいずれか、または熟練者に明らかであろう他の適切なマーカーは、本発明のセンチネルに付着し得る。
【0069】
粒子体は、第1の時点において試料と接触させることができ、その後、第2の時点において、試料から採取され、センチネルに付着したタンパク質マーカーの保存状態(例えば、リン酸化状態)を判断することができる、任意の構成要素であり得る。例えば、粒子材料は、ヒドロゲル、シリコン、多孔質不活性粘土、ポリソルベートまたは他のポリマー、あるいはコロイド金から形成され得る。一実施形態において、粒子材料は、シクロデキストリンまたは金属ナノ粒子(例えば、磁気ナノ粒子)等のナノ粒子である。センチネルは、様々な方法のうちのいずれかによって、試料から採取され得る。例えば、遠心分離する(回転させて試料から分離する)、またはサイズ別あるいは適切なタグの用途別に分離することができる。磁気ナノ粒子は、磁気の減耗を介して、標本の細胞ライセートから単離され得る。
【0070】
センチネルを使用して、試料が対象から採取される時点から、分子特性化等の手順に供される時点までの間の試料中のタンパク質の安定性を監視することができる。その後、センチネルに付着した代理マーカー上のリン酸基の有無またはレベルを測定し、センチネルが最初に標本に導入された時のレベルと比較して、処理履歴を評価することができる。この客観的な基準を通じて、組織リン酸プロテオームに対する処理変数の影響を、研究室標本品質管理アセスメントの一部として測定することができる。一実施形態において、センチネルを使用して、試料を対象から採取してから手順(例えば、固定/保存手順)の開始までの間の時間量を判断する。
【0071】
試料は、例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物であり得る。
【0072】
本発明の一態様は、2つの異なる時点において、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のタンパク質の保存状態を判断するための方法である。本方法は、第1の時点において、本明細書で論じられる非常に不安定なリンタンパク質等の1つ以上の代理マーカーに付着(関連)したセンチネルと試料を接触させるステップと、第2の時点において(例えば、試料中のタンパク質の後次解析を干渉しない条件下で)、センチネルを試料から採取するステップと、センチネルを試料から採取するステップと、2つの時点において、センチネルに付着(関連)したタンパク質のリン酸化状態を測定および比較するステップと、を含む。
【0073】
本明細書で使用される、「1つの(a)」センチネルという用語は、1つ以上のセンチネルを含む。例えば、単一のセンチネルが使用されるか、または複数(例えば、一群)のセンチネルが使用されてもよく、それらは同一であるか、または異なり得る。
【0074】
一実施形態において、本試料は細胞または組織を含み、本方法は、第1の時点において(例えば、センチネルが細胞に進入するために有効な条件下で)、試料中の細胞をセンチネルと接触させるステップと、第2の時点において(例えば、試料中のタンパク質の後次解析を干渉しない条件下で)、試料中の細胞からセンチネルを採取するステップと、2つの時点において、センチネル上の代理マーカーのリン酸化レベルを解析および比較するステップと、を含む。センチネルは、透過剤の存在下で細胞に導入され得る。
【0075】
一実施形態において、1つ以上のセンチネル分子は、処理前の時点、例えば、収集時において試料に添加され、処理後にセンチネルは試料から採取され、特性化される(例えば、分子のリン酸化状態が分析される)。本発明のセンチネルに関するさらなる説明については、実施例IVおよび図9を参照されたい。
【0076】
一実施形態において、センチネル上に存在するリンプロテオームエンドポイントは、特に不安定であり、半減期が短い(例えば、表1のリンタンパク質から選択したリンタンパク質)。本明細書で使用される、「リンタンパク質」という用語は、リンペプチドを含む、任意の適切なサイズのポリペプチドを含む。1つ以上(例えば、2、5、10、またはそれ以上)のこれらのエンドポイントは、センチネル(例えば、ナノ粒子センチネル)に組み込まれ得、大量生産可能な化学的に定義されたセンチネルを生成することができる。
【0077】
ナノ粒子は、生きた組織に注入され、それらに浸透し得る(例えば、Muldoon et al.(1995) Am J Pathol 147,1840−1851を参照)。例えば、単結晶酸化鉄ナノ粒子(デキストランの外核を持つ直径5nm、約20nmの全体粒子サイズを形成する)は、ラット脳に注入することができ、粒子は、約7.93mmの幅、粒子のサイズより何倍も大きい距離で大脳皮質に浸透する。
【0078】
従来の方法を使用して、本発明のセンチネル(例えば、ナノ粒子センチネル)を形成し、それらに適切なマーカータンパク質を付着させることができる。代理タンパク質マーカーは、リンカーを介する等、従来の方法によって、センチネル(例えば、ナノ粒子)に付着(関連、結合、固定化)され得る。例えば、シラン被覆を有する磁気鉄ナノ粒子は、NHS官能基の追加を通じて誘導体化され得る。これは、合成ペプチドのアミノ末端の連結部位を提供する。センチネルとして機能するリンペプチドの一群(例えば、約1、2、5、10、またはそれ以上)が合成される(例えば、約95%の純度)。ペプチドは、スペーサー要素として機能するグリシンのアミノ末端伸長を含み得る。これらのペプチドのリン酸化形態を特異的に認識する抗体が利用可能である。多くのそのような抗体が、リンタンパク質のリン酸化を監視するために有効であると確認されている。
【0079】
本発明の一実施形態において、単一の標本容器(例えば、典型的に生検試料の保管に使用される従来のメッシュバッグまたはパウチ)には、本発明の保存剤と1つ以上のセンチネルとの組み合わせが事前に充填される。手術室(O.R.)または外来クリニックにおける切除の直後に、組織標本が専用容器に配置される。容器および標本は、輸送または出荷中に室温で安定している。臨床研究室内で、センチネル添加剤が適用され、処理および解析フェーズのための品質保証データを収集し、規制(米国病理医境界[College of American Pathologists(CAP)]/臨床検査質改善法[Clinical Laboratory Improvement Act(CLIA)])基準を支持し得る。しかし、保存剤およびセンチネルは、肉眼的検査、組織学、または形態を改変せず、定量的タンパク質エンドポイントの収率を最大化する。容器から組織を採取した後、内因性代理エンドポイントの測定を使用して、例えば、分子解析またはバンキングのための標本の受容を認めることができる。
【0080】
本発明の一実施形態において、メッシュパウチは、キナーゼまたはホスファターゼのタンパク性阻害剤を含む、本発明の保存剤の不安定な成分、例えば、タンパク性の成分で満たされ、これらの不安定な成分は、後に乾燥され、液体で保存された場合よりも長い保存寿命を有することができる。試料がメッシュパウチに配置された後、保存溶液の残りの液体成分をパウチに追加し、それにより、保存溶液を再構成して、試料を固定および安定化することができる。
【0081】
別の実施形態において、メッシュパウチは、試料および/または本発明の保存溶液と接触する際、短時間に激しい熱を放出し、1−15分以内に温度を65℃以上に高め、それにより、組織を変性させてその保存を助ける化合物で満たされる。熱生成化合物は、当技術分野において知られるハンドウォーマーおよびストーブフリー調理において使用される化学反応等の発熱反応を生成し得る任意の乾燥した薬剤(例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガン、塩素酸カリウム、過酸化バリウム、硝酸カリウム、金属、半金属、金属合金、または金属−半金属合金)である。
【0082】
本発明の別の態様は、本明細書で開示された方法のいずれかに有用なキットである。そのようなキットは、本発明の組成物(例えば、試料中のタンパク質を固定および安定化させる)、本発明の内因性代理マーカー、またはセンチネル上の代理マーカーのリン酸化量を測定するための特定の抗体等の試薬、および/または本発明のセンチネルを含み得る。本発明のキットは、(1つ以上の)容器または包装材料をさらに含み得る。本発明のキットは、例えば、さらなる解析、バンキング、または実験的適用のための試料を調製するために使用することができる。熟練者は、本発明の方法のうちのいずれかを実行するために適切なキットの成分等を認識するであろう。
【0083】
任意で、キットは、方法を実施するための説明を含む。本発明のキットの随意的要素は、適切な緩衝液、薬剤として許容される担体等、容器、または包装材料を含む。キットの試薬は容器内にあってもよく、そこで試薬は、例えば、凍結乾燥型または乾燥型であるか、あるいは安定化した液体として安定し得る。試薬は、例えば、単一患者の試料、または単一患者から得られた複数の試料の保存のために、使い切り型であってもよい。
【0084】
キットに存在する本発明の保存剤の成分は、液体形態、乾燥形態、またはそれら両方であり得る。分解から保護するために、不安定な成分(例えば、タンパク性成分)は乾燥形態であって、残りの成分は液体形態であり得る。乾燥成分は、表面上にコーティングを形成することができ、組成物の残りの成分を含む液体との接触によって再構成され得る。
【0085】
本発明の別の態様は、細胞または組織標本を対象から収集し、保存するための装置であって、本発明の保存剤を含有する第2の室に接続された、特定量の試料を切除または調達する第1の室(例えば、針)を含み、単一の操作で、試料が調達され、保存剤を含有する室内の保存剤に浸漬されるようにする。一実施形態において、第2の室は取り外し可能であり、組織切断、分子処理等に直接使用することができる。例えば、第2の室は、保管および保存した組織を郵送するための多目的容器であり得、および/または組織切断のための自動または半自動システムと直接相互作用できる出口域を含み得る。
【0086】
前述および以下の実施例において、すべての温度は、訂正されていない摂氏温度で記載され、別段の指示がない限り、すべての部分およびパーセンテージは重量による。
【0087】
(実施例)
実施例I.材料および方法
A.逆相タンパク質アレイ(RPA)−組織および細胞中のリンタンパク質の定量
本発明者および協力者によって発案されたRPA形式は(例えば、Paweletz et al.(2001)Oncogene 20,1981−1989を参照)、縮小希釈曲線において個別の試験試料を固定化し、何百もの異なる患者試料、処理、または時点がアレイに含まれるようにする。RPA形式において、1つの検出タンパク質(例えば、アンチペプチド抗体)で各アレイをインキュベートし、単一の検体エンドポイントを測定して、複数の試料間で直接比較する。簡潔に述べると、ロボットアレイ印刷装置(125−500μmピンを備えるGMS417アレイヤー(Affymetrix,Santa Clara,CAまたはAushon2570,Aushon Biosystems,Burlington,MA)を使用して、ライセートをガラス基板ニトロセルロースアレイスライドに印刷する(FASTスライド Whatman,Florham Park,NJまたはONCYTEスライド Grace Biolabs,Bend,OR)。各ライセートは、希釈曲線に印刷され、純希釈、1:2、1:4、1:8、1:16および負の対照希釈を表す。スライドは、乾燥剤(Drierite,W.A.Hammond,Xenia,OH)を用いて、−20℃で免疫染色前に保管する。
【0088】
今日我々は、多様な検体を認識する150の有効な抗体を有する(例えば、Gulmann et al.(2005)Clin Cancer Res 11,5847−5855;Sheehan et al.(2005)Mol Cell Proteomics 4,346−355;Davidson et al.(2006)Clin Cancer Res 12,791−799;Nishizuka et al.(2003)Proc Natl Acad Sci USA 100,14229−14234;Petricoin et al.(2005)J Clin Oncol 23,3614−3621;Wulfkuhie et al.(2003)Proteomics 3,2085−2090)および表2−1〜表2−3を参照)。
【0089】
B.タンパク質マイクロアレイ免疫染色 免疫染色は、製造者の指示によって自動スライド着色剤で行う(Autostainer CSAキット、Dako,Carpinteria,CA)。各スライドは、単一の一次抗体を用いて室温で30分間インキュベートする。多クローン性の一次抗体は、例えば、GSK3α/β Tyr279/216(Invitrogen−Biosource,Carlsbad,CA)、BCL−2、HIF−1α(BD,Franklin Lakes,NJ)、4EBP1、FKHR ser256、eIF4E、eIF4E ser209、eIF4G、eIF4G ser1108、IGFR−β、IRS−l、IRS−2、IRS−1 ser612、SGK、Bak、Bax、BAD、BAD ser112、BAD ser136、BAD ser155、B−Raf、mTOR、mTOR ser2448、p70S6 Thr389、p70S6キナーゼ、p70S6 ser371、S6キナーゼ ser240/244、Akt、Akt ser473、Akt Thr308、4EBP1 ser65、4EBP1 ser70、および4EBP1 Thr37/46(Cell Signaling Technology,Danvers,MA)であり得る。負の対照スライドは、抗体希釈剤でインキュベートする。二次抗体は、ヤギ抗ウサギIgG H+L(1:5000)(Vector Labs,Burlingame,CA)であり得る。
【0090】
C.マイクロアレイ解析の生物情報科学的方法 各アレイを走査し、スポット強度を分析し、データを規格化して、標準の単一データ値をアレイ上の各試料に対して生成できる(Image Quant v5.2,GE Healthcare,Piscataway,NJ)または(MicroVigene v2.8,Vigene Tech,Billerica,MA)。スポット強度は、固定領域全体で統合する。局所領域の背景強度は、印刷されていない隣接スライド背景を用いて、各スポットに関して計算する。これにより、各試料に対する単一データポイントが得られ、アレイ上の他のすべてのスポットと比較する。JMP v5.0(SAS Institute,Cary,NC)を使用して、二方向階層的クラスタ分析のためのWard方法を行ってもよい。ウィルコクソンの二試料順位和検定を使用して、値を2群間で比較することができる。0.05未満のP値を有意であると見なす。変数の正規分布を想定できない場合は、非パラメトリック法を使用する。一変量生存時間解析のためのKaplan−Meier(ログランク)生存時間推定値を使用することができる。
【0091】
実施例II.(「現実世界」の病院設定における)ヒト組織リンタンパク質安定性の経時変化解析
RPAマイクロアレイ手技を採用して、以下の大組織標本から調達された組織に関するリンタンパク質残基のエンドポイントの経時変化解析を行った。a)罹患していない子宮、子宮内膜、および子宮筋層、b)子宮平滑筋腫、c)罹患していない大腸粘膜および粘膜下組織、d)罹患していない肺、およびe)肺腺癌。「タイムゼロ」ウィンドウを括弧でくくる手段として、患者からの採取直後にかかる時間、例えば、5分、10分、および20分を特に重視した。これは、組織を37℃から室温まで冷却したことによって最初に起こる変化を観察できるように行った。子宮の場合、90分まで延長した時点でも試料を採取した。エンドポイントは、成長因子受容体、生存促進、およびストレス経路関連タンパク質を網羅するよう選択した(図2)。各時点の試料の細胞含有物は、16ゲージの針生検の容積を表した。8μで切断した20の連続する凍結切片を処理および溶解した。各シグナル伝達タンパク質エンドポイントは、総細胞タンパク質内容に対して正規化した。すべてのエンドポイントは、収率、線形性、および精密性に関して既に確認されている(上記のSheehan et al.(2005))。リンタンパク質エンドポイントレベルの変化は、組織採取直後に測定した定量値のパーセントとして表した。
【0092】
結果 1)収率:得られた組織細胞容積は極めて適正であり、背景(一次抗体なしの値)の10倍以上も広い範囲であり、かつアッセイの線形範囲内で各リンタンパク質エンドポイントが測定された。各組織試料の時点ライセートに対して150μL容積の5%未満を使用し、図2に示す12のエンドポイントを分析した。2)安定性の経時変化:図2A〜2Eに示されるように、調達直後に、選択リンタンパク質標的に変動が生じた。一部のエンドポイントは時間とともに一時的に増加したが、他のエンドポイントは、緩やかな減少を呈した。図2A〜2Eに示すリンタンパク質は、組織の安定状態の判断に使用できる一群の内因性代理の典型的なメンバーを表す。本発明の一実施形態において、検者は、関心対象の試料(例えば、細胞または組織を含む)が、分子診断分析に供されるために適切な保存状態にあるかどうかを判断する。別の実施形態において、検者は、関心対象の試料を対象から採取してからどれだけの期間が経ったかを判断する。この実施形態において、検者は、1つ以上の内因性リンタンパク質のリン酸化状態を、タンパク質のリン酸化状態の経時変化を示す較正曲線と比較する。ここに提示したデータは、提案した代理の実現可能性と、選択した方法の適切性を支持する。
【0093】
子宮組織のみを試験したことを除いて、さらなる経時変化を上記のように行い、選択したエンドポイントは、生存促進、ストレス、およびアポトーシス経路内であった。室温および4℃での経時変化の設計を図3に示す。リン酸化状態の変化は、4℃で減速したが停止しなかった。内因性マーカーが、様々な用途に対して代理マーカーとして機能し得るということは、実施例において提示された経時変化から明らかである。
【0094】
実施例III.組織リンタンパク質安定剤の同定
以下の固定剤および/または安定剤のうちの1つ以上の組み合わせを含む、保存溶液の候補を評価した。a)市販のホスファターゼ阻害剤、b)市販のキナーゼおよびプロテイナーゼ阻害剤、c)30%スクロース、15%トレハロース安定剤、d)市販のPreservCyt、e)市販のCytoLyt、f)中性洗剤、およびg)沈殿固定剤(表3および4、ならびに図4および5を参照)。この解析に基づいて、適切な組み合わせを選択し、室温または4℃で24時間保存するために有効な保存剤の候補を生成することができる。
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
固定剤の研究
第1の研究
リン酸プロテオーム保存および固定のための10の異なる化学安定剤において、細針吸引(FNA)試料を研究した(化学式については表3を参照)。リン酸タンパク質の相対保存に関して、様々な水中濃度を比較した液体試験:エタノール/メタノールの沈殿固定剤の結果を、24時間における相互の比較を図4に示す。
【0098】
その後、様々な溶液について、凍結切片の切断または顕微解剖を可能にし、リンタンパク質の安定性を得るそれらの能力を試験した。図5に示されるように、エタノール単独、アセトン単独、PEG単独、またはそれらの組み合わせは、これらの能力において十分に機能しないことを発見した。しかしながら、水と低比率のメタノールまたはエタノールの組み合わせを使用する場合(例えば、水中の10%メタノール)、凍結は阻止されず、凍結切片を切断することができ、組織構造はLCM(レーザー捕捉顕微解剖)のために許容可能である(表2−1〜表2−3)。凍結切片の調製に適した条件の例については、図11および12も参照されたい。
【0099】
リアルタイムの室温出荷条件から得られたメタノール:水またはエタノール:水固定剤中のリンタンパク質を、スナップ凍結した試料と比較した。図6A、6B、および7に示すように、研究した選択エンドポイントは、2つの方法が同等であることを示した。
【0100】
第2の研究、リンタンパク質固定剤をさらに評価する
組織リンタンパク質安定剤の候補を同定するためのさらなる研究において、様々な固定剤ベースを、いくつかの阻害剤の組み合わせを用いて試験した。本研究は、本質的に上記のとおり行った。
【0101】
表2−1〜表2−3および3に列挙した一連の化学物質について、リンタンパク質エンドポイントの安定化を試験した。4つの異なる安定化学物質について、選択したリンタンパク質エンドポイントの保存を比較した。様々な経路にわたる、26のポイントを評価した(表1)。研究のために選択した4つの不安定リンタンパク質エンドポイント−CC3 Dl75、STATl Y701、ASKl Ser83、EGFR Y1148−は、最初の30〜90分以内に変動することが分かった。データは、切除から15分後の値を候補保存剤に浸漬させて24時間後の値と比較した場合に、固定剤および添加剤の種類が、個別の組織検体の保存に影響することを示した。プロテアーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼ阻害剤の添加は、特定のエンドポイントの安定化に必要であると考えられる。
【0102】
第3の研究、リンタンパク質固定剤をさらに評価する
大腸組織を85%エタノール中で固定し、凍結および切断した。本手順は、少なくとも組織がOCTに結合しなかったことにより、凍結切片に穴が残り、凍結切片に適した組織を提供しなかった。OCTは、凍結切片を切断するためにチャックに接着するよう組織が配置される標準の当業界で認識されるゲルである。OCTゲルを組織上に噴出し、ブロック全体を凍結した後スライスする。抗凍結として作用する他の高率固定剤、例えば85%メタノール中での保存も、凍結に適さないことが分かった。対照的に、組織(例えば、乳房組織)を5つの有意に低率の固定剤(例えば、40%メタノール)を含有する保存剤に固定し、4℃で30日間保存した後、凍結および切断した結果、穴のない平滑な凍結切片を生じた。この固定およびスライス手順には、ホルマリンもパラフィンも使用しなかった。
【0103】
第4の研究、形態を保存するための条件を評価する
形態の保存は、診断および顕微解剖の両方に重要である。細胞以下の小器官の形態保存は、組織の内塊への沈殿固定剤浸透の組織学的評価基準である。この実施例(図11および12に示す)は、本発明の組成物における組織インキュベーションから24時間後の組織の形態に対する浸透増強剤PEGの添加の劇的な影響を示す。例えば、浸透増強剤PEGの存在下で、組織内塊における上皮腺の核形態は良好に保存されるが(図11F)、PEGの不在下では、上皮細胞核の保存は完全に欠損した(図114D)。図12に示されるように、本組成物(化学的性質)は、レーザー捕捉顕微解剖に適しており、有効性は95%以上である。
【0104】
第5の研究、リンタンパク質を安定化する従来の固定剤の欠陥を示す
様々な種類の腫瘍組織を一連の従来の保存剤中でインキュベートし、保存剤が、選択したリンタンパク質を安定化できるかどうかを判断した。表5に示されるように、全体として、試験した保存剤は、試験した5つのリンタンパク質の大部分を安定化できなかった。
【0105】
簡潔に述べると、ガストリノーマ/肝臓、中皮腫、および副甲状腺腫瘍から得た腫瘍組織を、5つの針の挿入によって試験し、表5に列挙した保存剤に配置した。「溶解緩衝液」と標識される試料は、溶解直後に凍結したため、リンタンパク質が全く変性しなかった正の対照を表す。細胞タンパク質の即時溶解および変性は、標準Pierce組織タンパク質抽出緩衝剤(T−PER)によって、追加のSDS、変性試薬、および洗剤を用いて得られた。細胞試料を、24時間列挙した保存剤に4℃で保存した後、列挙したリンタンパク質エンドポイントを測定した。RPMI媒体において、組織は生きたままであり、リンタンパク質の値に大きな変動が見られた。一部の値はゼロまで落ちたが、他の値は、新しく溶解した細胞ベースラインと比較して顕著に上昇した。特に、細胞病理学用の標準沈殿固定剤である70%エタノールとPreservCytは、リンエンドポイントの有意な再現可能な変性を生じたことに留意されたい。それらは、細胞または組織出荷の典型的な時間遅延である、24時間の保存期間中に主要シグナルタンパク質のリン酸化状態を安定化できなかった。表中の数字は、本明細書に記載のRPA手技を使用した場合の相対規格化強度値である。
【0106】
【表5】
【0107】
第の6研究 ホスファターゼ阻害剤またはキナーゼ阻害剤の影響を示す
乳房の腫瘍および乳房の脂肪組織から採取した試料を、以下の安定化添加剤:HBSS(Hank緩衝食塩水)のみ、HBSS+ホスファターゼ阻害剤、オルトバナジン酸(100〜400mM)およびβグリセロリン酸(375mM〜1.5M)、またはHBSS+キナーゼ阻害剤、スタウロスポリン(5.0μM〜20.0μM)およびゲニステイン(0.5μM〜2.0μM)を含有する3つの固定剤のうちの1つに入れ、210分間室温で置いた。図8に示される時点で試料を採取し、AcCoA(S79)、AKT(S473)、E−カドヘリン、HSP90、1KBa(S32)、CC3(Aspl75)、CC9(Asp330)、VEGFR2(Y1175)、STAT3(S727)、ASK1(S83)、MARCKS(S152)、ERK(T202/Y204)、βカテニン(S33/S37/T41)、IRS−1(S612)、SAPK/JNK(Thrl83/Tyrl85)、およびHer3(Tyrl289)を含む、様々なリンエンドポイントのリン酸化レベルに関して本明細書の他の箇所で記載されるRPMA手順によって解析した。
【0108】
リン酸化の程度は、複雑な代謝事象(タンパク質へのリン酸基の追加と除去のバランス)を反映して、試験したリンエンドポイント間で大幅に異なった。すべての実施例において、HBSS担体のみにおける組織のインキュベーションは、結果として、翻訳後修飾されたタンパク質のレベルを経時的に減少させた(図8A〜図8D)。ホスファターゼ阻害剤の存在下における過度のリン酸化の例として、ホスファターゼ阻害剤のみが存在する場合(HBSS+ホスファターゼ阻害剤)、HBSSのみまたはHBSS+キナーゼ阻害剤の場合と比較して、SAPK/JNK Thrl83/Tyrl85およびHer3 Tyrl289のレベルを経時的に増加させた(SAPK/JNKおよびHer3について、それぞれ図8Aおよび8Cを参照)。キナーゼ阻害剤のみが存在する場合において、これらの同一リンタンパク質レベルは、経時的に比較的安定していた。他のエンドポイント(例えば、βカテニン(S33/S37/T41)に関して、HBSS+キナーゼ阻害剤は、他の2つの固定剤のいずれかと比較して、リン酸化のレベルを経時的に安定化した(図8B)。その他の場合(例えば、CC3(Aspl75)、ホスファターゼまたはキナーゼ阻害剤の添加が、HBSS単独と比較して、タンパク質の開裂形状を安定化した(図8Dを参照)。これらの発見は、細胞または組織を固定する場合に、適切な平衡量で、ホスファターゼおよびキナーゼ阻害剤の両方を含むことが好ましいことを強調する。
【0109】
実施例IV.ナノ粒子ベースのリン酸プロテオームセンチネル
リン酸化タンパク質を含むナノ粒子は、試料中のリンタンパク質の保存状態に対するマーカーとして機能し得る。
【0110】
本実施例において、ナノ粒子を厚みの異なる組織を用いてインキュベートする。蛍光標識した粒子による組織の透過は、顕微鏡検査によって示される。必要に応じて、組織を凍結切片に切断し、レーザー捕捉顕微解剖を使用して、選択した細胞を単離することができる。細胞(凍結または室温のいずれか)を溶解し、含有物を可溶化する。その後、磁石を使用して、放出された粒子を細胞ライセートから精製する。洗浄後、精製した粒子をマイクロアレイ上(例えば、RPMAを使用して測定されるタンパク質ライセートと同一の基質上)に配置する。ナノ粒子からのリン特異的エピトープの損失を、細胞タンパク質ライセート中のリンプロテオームエンドポイントの変化と比較する。
【0111】
実施例V.フローサイトメトリーによる解析中の細胞サイズおよび形態に対する本発明の保存剤の影響の解析
細胞表面受容体糖タンパク質CD4は、抗体−抗原相互作用および細胞のサイズならびに形態に対する保存剤の影響を評価するための代表的タンパク質として選択した。CD4は、T細胞、単球、マクロファージ、および樹状細胞の表面上に発現するため、白血球(WBC)を含有する末梢血液試料中に存在するであろう。
【0112】
末梢血液をFicoll密度勾配媒体で処理し、豊富なWBC(軟膜)源を提供した。フローサイトメトリーのために、この軟膜細胞懸濁液を4つのアリコート、すなわち、1.アイソタイプ抗体染色のための未処理の細胞、2.保存剤で処理した後に染色した細胞、10〜20%エタノール、0.5〜5%PEG、オルトバナジン酸を含むHBSS(100〜400mM)、βグリセロリン酸(375mM〜1.5M)、スタウロスポリン(5.0μM〜20.0μM)、およびゲニステイン(0.5μM〜2.0μM)、3.最初に染色した後、固定剤で処理した細胞、または4.未処理の細胞、固定剤なし(対照)に分割した。
【0113】
本解析の結果を図13に示す。固定剤で処理した細胞に関して、未処理の細胞と比較した場合に、前方散乱解析は細胞サイズの一貫性を示し、側方散乱解析は細胞形態の一貫性を示す。(A)未処理の細胞をFITC共役したアイソタイプ抗体対照(IgG1,kappa)で染色した。(B)本明細書に記載の固定剤を用いて、細胞を20分間固定した。その後、細胞を2回洗浄し、抗CD4−FITCで染色した。(C)最初に細胞を抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄した後、本明細書に記載の固定剤を用いた固定に供した。(D)未処理の細胞を抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄して、フローサイトメトリー(固定剤なし)によって解析した。保存剤の添加は、細胞のサイズまたは形態に有意に影響せず、フローサイトメトリーのための抗体染色も干渉しなかった。
【0114】
前述の説明から、当業者は、本発明の本質的特質を容易に確認することができ、その精神および範囲を逸脱することなく、本発明の変更および修正を行い、様々な用途および条件に適合させ、本発明を最大限に利用することができる。前述の好ましい特定実施形態は、単なる例示として解釈されるものであり、本発明の範囲をいかようにも限定しない。2006年10月30日出願の米国暫定特許出願第60/855,120、および2006年11月27日出願の米国暫定特許出願第60/861,086を含む、上で引用したすべての出願、特許、および発行物の全体開示、および図面における全体開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年10月30日出願の米国暫定特許出願第60/855,120号、2006年11月27日出願の米国暫定特許出願第60/861,086号の出願日の利益を主張し、いずれも参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
リンタンパク質分子プロファイリングは、新興分野である個別化癌治療の重要な構成要素である。分子標的抗癌治療法は、キナーゼシグナル伝達ネットワーク不全の緩和または調節を伴う場合が多い。腫瘍内の乱れたシグナル伝達ネットワークの解明は、分子標的癌治療を個別化し、治療的介入のための全く新しい標的を特定するための手段として、極めて有望である。遺伝子マイクロアレイ(核酸分析)を使用する分子署名/転写研究から得られた証拠は、各患者の腫瘍が固有の遺伝背景を有し得ることを示唆する。しかし、遺伝子マイクロアレイは、身体遺伝的分類に関する重要な情報を提供できるが、転写後に出現し、プロテオームレベルで生じるシグナル伝達分子ネットワーク事象を変動させる、薬物標的自身の有効な反復発生をもたらすことはできない。キナーゼ駆動シグナルネットワークのリン酸化または活性化状態は、疾患の病因およびキナーゼ関連治療標的の進行状態の両方に関する重要な情報を含む。進行細胞キナーゼ活性の調節が、新薬の発見において最も急速に成長している分野の1つであるのはこのためである。特定のリンタンパク質シグナル伝達異常の同定は、例えば、肺癌、乳癌、大腸癌、または他の癌の患者に対する標的治療の開発に使用することができる。ヒト腫瘍生検標本を使用した腫瘍リン酸化プロテオームのプロファイリングは、認知された個別化癌治療の来たる変革の重要な構成要素である。
【0003】
プロテオーム分子プロファイリングが、腫瘍学の実践を変えるように極めて有望である一方で、組織に適用した診断アッセイから得られたデータの忠実度を監視、保証しなければならず、さもなければ、臨床判断は誤った分子データに基づく可能性がある。今日まで、臨床保存の実践は、日常的に、ホルマリン固定等の数十年前の、組織学的試験用の標本を保存するために設計されたプロトコルに依存している。組織は一般に、3つの主要な設定、すなわち、a)病院ベースの手術室での手術、b)外来クリニックで行われる生検、およびc)X線室で行われる画像に従う針生検または針吸引において、病理学的試験のために調達される。現在、プロテオーム研究を行うために、一般に組織をスナップ凍結する。現実世界の多忙な臨床設定において、調達した組織を即時に液体窒素で保存することは不可能な場合がある。さらに、患者切除から病理学的試験および分子解析までの時間遅延は記録されない場合が多く、時刻、手順の長さ、および同時症例数によって、30分から数時間まで異なり得る。
【0004】
図1は、組織調達(例えば、ヒト組織から)のための安定性の間隔を定義する可変時間の2つのカテゴリーを示す。時点Aは、組織が患者から切除され、解析および処理のために体外で利用可能になる時点として定義される。切除後の遅延時間(EDT)は、時点Aから、標本が安定化状態に置かれる、例えば、固定剤に浸漬される、あるいは液体窒素でスナップ凍結されるまでの時間であり、その時点を、本明細書では時点Bと称する。患者の治療環境の複雑性を考えると、EDT中に、組織は室温で手術室内、または病理学者の裁断板上に置かれるか、または標本容器に入れて冷蔵される可能性がある。第2の可変時間は、処理遅延時間(PDT)である。この間隔の初めに、組織は保存剤に浸漬させるか、または凍結装置に保管される。この間隔の終わりの、時点Cにおいて、組織は分子解析のための処理に供される。これら2つの時間間隔の長さに関する不確実性に加えて、多くの公知および未知の変数が、これらの期間中に組織分子の安定性に影響し得る。変数には、1)固定または凍結前の温度変動、2)保存剤の化学的性質および組織浸透率、3)組織標本のサイズ、4)組織の取り扱い、切断、および粉砕の程度、5)顕微解剖前の固定および染色、6)組織の水和および脱水、および7)任意の時点における環境からのホスファターゼまたはプロテイナーゼの導入が含まれる。
【0005】
リンタンパク質等の転写後修飾タンパク質含むタンパク質を収集および保存(固定および安定化)する方法(例えば、身体抽出から約4時間以内)、およびEDTおよびPDT期間中、タンパク質の状態(例えば、リン酸化状態)を監視する方法が必要とされる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】ヒト組織調達のための安定性間隔を定義する可変期間を示す図である。
【図2】調達から保存前までの組織のタンパク質安定性の経時変化を示す図である。本図は、ベースラインと比較した、リンタンパク質の経時的な変化または変動を示す。ベースラインは、切除時に凍結された組織中の同一リンタンパク質のレベルである。タイムゼロベースラインを得るための凍結は、凍結切片を切断するための従来手順である、液体窒素でのスナップ凍結、またはOCT抗凍結剤ゲルでの凍結のいずれかによって行った。組織試料を一連の時点それぞれで凍結したところ、生きた状態で室温放置した組織と比較して、組織において生じる任意の変化が停止した。組織試料の残りはそれ以上保存せず、室温で異なる時間放置した。本図は経時変化を示し、非保存状態の経時変化から得られた値を、切除直後に保存した試料の値と比較する。評価したエンドポイントは、生存促進、アポトーシス、および転写制御タンパク質/リンタンパク質を表す。
【図3】切除後遅延時間研究を示す図である。1つの子宮切除片を25の断片に分割した。断片をオープンペトリ皿で4℃または室温でインキュベートした。90分経過した後、約15分間隔で断片を採取し、10の異なるエンドポイントについて、逆相タンパク質マイクロアレイ(RPMA)によって解析した。図3Aは4℃での経時変化を示す図である。図3Bは室温での経時変化を示す図である。正負のいずれにも経時的に最大変動を呈した生存促進およびアポトーシス経路における選択したリン酸化タンパク質は、候補例代理マーカーを構成する。
【図4】リンタンパク質保存の評価のために細胞試料に適用した化学安定剤を示す図である。細針吸引(FNA)試料は、24時間4℃で、それぞれの化学物質/化学溶液中で保管した。逆相タンパク質マイクロアレイ解析のために、細胞試料をさらに処理した。図4Aは試料を様々な化学溶液でインキュベータした後、リン酸化タンパク質レベル(AKT ser473)および試料当たりの全体タンパク質収率(Sypro Ruby)を評価するために、AKTser47(右上)およびSypro Ruby(右下)で染色したマイクロアレイの画像を示す図である。4つの水平スポットおよび2つの垂直スポットの各組は、各FNA試料に関して、元の試料およびその複製試料を表し、2倍希釈液中のアレイ上に印刷される。希釈系列は、各試料の非希釈、1:2、1:4、および1:8希釈を表す。調達時におけるベースラインリン酸化レベルは、溶解緩衝液に直接溶解した細胞によって表される(表5、実施例Vを参照)。図4Bは選択した生存促進およびアポトーシスエンドポイントに関して、FNA試料から得られた翻訳後修飾タンパク質の相対量を示す図である。細胞の直接溶解は、調達時にリンタンパク質を保存する。異なる化学溶液中でインキュベートした試料をこのベースライン溶解試料と比較することによって、エタノール等の伝統的な固定剤は、リンタンパク質を適切に保存しないことを示す。0.9%食塩水は、24時間後のリンタンパク質エンドポイントの低下レベルを表す。
【図5】凍結および固定組織試料の間の組織形態の比較を示す図である。脳への転移性乳房組織を、凍結切片を切断する前に、スナップ凍結またはメタノール:水中で固定した。組織形態、凍結切片を切断する能力、および有効なレーザー捕捉顕微解剖は、凍結およびメタノール:水中固定試料において同程度であった。
【図6】リンタンパク質の安定性に関して、メタノール:水固定剤と凍結組織との比較を示す図である。図6Aにおいて、逆相タンパク質マイクロアレイは、固定および凍結組織に関して、等しいスポット強度を示す。図6Bは平均シグナル強度が凍結試料においてより高いが、試料間の傾向は、様々なタンパク質エンドポイントに関して類似することを示す図である。
【図7】試料当たりの細胞等量を逆相タンパク質マイクロアレイ上に印刷し、mTOR(S2448)リン酸化のレベルを測定した分析を示す図である。図7Aの試料は、スナップ凍結した。図7Bの試料は、水中の20〜50%メタノールで固定した。分析は、試料保存手技間で同等性を示す。
【図8】ベース固定剤にホスファターゼ阻害剤またはキナーゼ阻害剤のいずれかを追加することが及ぼす、リンタンパク質の安定化への影響を示す図である。試料を採取し、図に示した時点において、選択したリンタンパク質エンドポイントの存在について解析した。図8Aはエンドポイント、SAPK/JNK(Thrl83/Tyrl85)を示す図である。図8Bはβカテニン(S33/37/Thr41)を示す図である。図8Cはエンドポイント、Her3(Tyrl289)を示す図である。図8DはCC3(Asp175)を示す図である。
【図9】ナノ粒子センチネルを示す図である。
【図10】ホスファターゼ阻害剤(過バナジン酸)の存在下で、体外細胞培養モデル(生細胞内)において経時的に見られるリン酸化の急増を表す線グラフを示す。図10AはEGF受容体(EGFR Y1173)のリン酸化に対するホスファターゼ阻害剤の影響を示す図である。リン酸化は、40分未満で急激に高レベルまで上昇し、その後に細胞死が続いた。図10Bは生きた細胞をホスファターゼ阻害剤に曝露した後の、列挙した一連のリンエンドポイントに関して、経時的な高リン酸化を示す図である。
【図11】様々な固定製剤に室温で固定した子宮組織の形態を示す画像(ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した)を表す図である。図11A:10%メタノール 倍率2X、図11B:最適切断化合物に埋め込まれた凍結組織 倍率2X、図11C:ホルマリン 倍率10X、図11D:10%メタノール 倍率10X、図11E:10%メタノール+ポリエチレングリコール 倍率10X、図11F:10%メタノール+PEG+プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤 倍率10X。
【図12】10%エタノール+PEG+プロテアーゼ阻害剤で固定した子宮組織のレーザー捕捉顕微解剖を示す。図12A:解剖前、図12B:顕微解剖後、図12C:LCMキャップ上の調達した細胞。
【図13】CD4のために染色した細胞であって、本発明の保存剤で固定および安定化された細胞のFACS解析を示す図である。図13AはFITC共役したアイソタイプ抗体対照(IgG1、kappa)で染色した未処理の細胞を示す図である。図13Bは実施例Vに記載の保存剤で20分間処理し、2回洗浄して、抗CD4−FITCで染色した細胞を示す図である。図13Cは最初に抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄した後、保存剤での処理に供された細胞を示す図である。図13Dは抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄した後、フローサイトメトリー(固定剤なし)によって解析した未処理の細胞を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、例えば、対象から得られた試料中のタンパク質、特に、リンタンパク質を含む翻訳後修飾タンパク質を保存および監視するための方法を提供する。本発明の一実施形態において、保存したタンパク質は、臨床標本から得られたヒト腫瘍組織のリン酸化プロテオームレパートリーを表すリンタンパク質である。本発明の態様は、室温で試料保存(固定および安定化)するための組成物(例えば、溶液)、例えば、対象から採取されたが、まだ安定化手順に供されていない試料等の試料を監視する品質管理に使用できる代理内因性マーカーの同定、および、例えば、試料が安定化手順に供された時点から、さらなる手順(例えば、分子解析)が実施される時点までの間、試料の監視等の品質評価に使用できる外因性マーカーを含むセンチネル(例えば、一群のセンチネル)を含む。
【0008】
特に、身体から抽出した後の最初の3〜4時間以内に調達した組織試料には、特定の保存要件がある。本発明者は、意外にも対象から切除(調達)した組織が、組織が切除(調達)されてから保存剤に曝露されるまでの数時間、生存し続け、血管灌流の不在、虚血、低酸素症、アシドーシス、細胞老廃物の蓄積、電解質の不在、温度変化等に反応し得ることを本明細書において示す。本発明者は、微環境およびエネルギー源、シグナル伝達リガンド、ならびに酸素源から離れているにもかかわらず、切除した試料中のリンタンパク質は、それぞれ内因性キナーゼおよびホスファターゼの作用を通じて、代謝変化(リンタンパク質の活性化および不活性化の両方)を続けることを示す。
【0009】
これらの継続する代謝プロセスによって、試料中のリンタンパク質の保存に対する問題が生じる。例えば、本発明者は、内因性ホスファターゼによってタンパク質リン酸基の除去を遮断するように設計されたホスファターゼ阻害剤を単独で追加することにより、致命的なレベルに達する異常レベルのリンタンパク質の未確認および極めて異常な上昇蓄積を生じ得ることを発見した。例えば、培養した細胞株(A549)をチロシンホスファターゼ阻害剤、過バナジン酸で処理した後に続くリン酸化の大きな急増を示す図10を参照。任意の特定の機構に束縛されるわけではないが、この急増は、ホスファターゼ阻害剤がキナーゼの脱リン酸化を阻止する一方で、キナーゼ自体は依然として活性であり、タンパク質のリン酸化を続けるために生じることが示唆される。
【0010】
したがって、切除の時点における、生きた組織中の分子(例えば、リンタンパク質)を正確に反映させるために、調達後できる限り早急に組織を固定し、アッセイの時まで細胞シグナル伝達および代謝機能の反応変動を停止させることが重要である。
【0011】
本発明者は、本明細書において、リンタンパク質を含む試料と室温で接触した場合、単一のステップで、細胞形態および組織学を保存し、さらなる処理(例えば、凍結切片の調製または長期極低温保存)のための試料の凍結を妨害しない条件下で、リンタンパク質のリン酸化状態を固定および安定化(例えば、ホスファターゼ、キナーゼ、および任意でプロテアーゼを阻害)し得る組成物(保存剤)を同定する。
【0012】
本発明の保存剤の第1の成分は、固定剤(例えば、溶液)であって、沈殿することによって細胞内のタンパク質を固定することができ、さらにホスファターゼ、キナーゼ、および/またはプロテアーゼの阻害剤等の安定剤が可溶性であり、固定した細胞内に進入して機能し得るように十分な水分を含有する。
【0013】
細胞または組織が調達された後、リンタンパク質の活性化または不活性化が細胞または組織内で生じ続けるという本明細書での観察に照らして、本発明の保存剤は、第2の成分として、少なくとも1つのキナーゼ阻害剤と、少なくとも1つのホスファターゼ阻害剤と、任意で少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤と、を含む安定剤をさらに含む。
【0014】
一般に本発明の保存剤に存在する第3の成分は、細胞または組織の表面から細胞または組織の内塊への固定剤および/または安定剤の急速な浸透を増強することができる、透過性(透過)増強剤(試薬)である。透過性増強剤は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)であり得る。(本発明の一部実施形態において、細胞内部にある成分を固定および安定化する必要はなく、透過性増強剤が必要とされない場合がある。例えば、FACS分類のために細胞を保存する場合、細胞の表面上の抗原性表面タンパク質を固定および安定化することのみが重要であり、透過性増強剤を含む必要がない場合がある。)
【0015】
固定剤、安定剤、および透過性増強剤を含む組成物は、本明細書において、「本発明の組成物」または「本発明の保存剤」と称され得る。
【0016】
本発明の組成物は、細胞または組織と接触すると、組織容積を速やかに貫通する、急速に進行する溶媒先端を生成し、切除の衝撃に反応している生きた細胞内のシグナル経路における変動(増加および減少)を停止させる一方で、同時に細胞分子を固定、停止、および/または沈殿させて、凍結切片またはパラフィン切断に続く組織病理学的診断のために細胞形態を保存する。本組成物の安定剤成分は、例えば、固定剤進行先端によって細胞分子を完全に固定または停止させる前に、生きた組織細胞内で生じるシグナル経路の活性を阻害することができる。これらの機能のすべては室温で達成される。
【0017】
本発明者は、本明細書において、意外にも、対象から採取された試料中で特に不安定な(リン酸化状態の変化を呈する)リンタンパク質を同定する。これらのリンタンパク質(ならびに本明細書で論じられる他のタンパク質)は、内因性代理マーカーとして機能することができ、(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物から得られた)試料中のリンタンパク質の保存状態を測定するために使用され得る。そのような解析を使用して、所定の試料中の他のタンパク質が、試料がさらなる分析、例えば、プロテオーム解析に適切であるように十分に良好に保存されるかどうかを判断することができる。同定した不安定なリンタンパク質、または他のタンパク質は、粒子物質に付着(例えば、結合、連結、固定化)して、例えば、細胞または組織集団試料の処理履歴の評価に使用できる外因性センチネルを形成することもできる。必要に応じて、様々なそのような外因性センチネル分子の一群を使用してもよい。
【0018】
本発明の方法の利点には、保存が室温で行われるため、費用のかかる冷却の必要性がなくなることが含まれる。本発明の方法は、臨床環境において、冷却が利用できない条件下で(例えば、貧窮した環境または戦場において)の試料の解析を促進する。本発明の方法は、選択したリンタンパク質のリン酸化状態に基づく分子診断解析等のさらなる分析のために、試料を急速、正確、かつ再生可能に調製することを可能にする。細胞形態および組織学的形態は、病理学的診断のために保存される。さらに、本発明の方法において、固定剤および安定剤は、浸漬または処理した細胞の表面から組織の内塊へ急速に浸透し得る。固定剤が細胞または組織に急速に導入されるため、本発明の方法は、浸透の遅い(ミリメートル/時間)ホルマリン、および架橋結合が長時間遅れるアルデヒド等、その間に保存される組織が依然として代謝反応中であり得る従来の固定剤の問題点を克服する。
【0019】
本発明は、例えば、室温で、リンタンパク質を含む試料と接触した場合に、リンタンパク質を固定および安定化することができ、細胞形態を保存して、分子解析に適した凍結される試料がクリオスタット凍結切片を生成可能にする組成物(保存剤)に関し、本組成物は、
(1)リンタンパク質の固定に有効であって、安定剤および/または透過性増強剤に可溶であるように十分な含水量を有する固定剤と、
(2)(a)キナーゼ阻害剤および(b)ホスファターゼ阻害剤、および任意で(c)プロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼ)阻害剤を含む安定剤と、
(3)透過性増強剤と、を含む。
【0020】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含む。例えば、上で使用される、「1つの(a)」キナーゼ阻害剤は、1つ以上のそのような阻害剤を含む。
【0021】
本発明の別の態様は、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中の1つ以上のリンタンパク質を室温で保存(固定および安定化)するための方法であって、試料中のリンタンパク質の保存に有効な条件下で、試料を室温で本発明の組成物と接触させるステップを含む。本方法は、(例えば、試料が組織を含む場合に)保存した試料を凍結するステップと、任意で、凍結保存した試料を切断するステップと、をさらに含み得る。一実施形態において、本保存方法は、パラフィン埋め込みを必要とすることなく、組織を凍結および切断するためのマトリクスを提供する。本発明の保存方法において、試料中の少なくとも1つの細胞サブセットにおける少なくとも1つのリンタンパク質のリン酸化状態をさらに解析することができる。必要に応じて、外部エネルギー源(例えば、超音波、赤外線、マイクロ波、電磁気、RF(高周波)エネルギー、または圧力、熱、または化学物質)で処理することによって、保存する前にリンタンパク質を変性させることができる。
【0022】
試料中のリンタンパク質を保存するための「有効な条件」は、多数の変数の関数であり、使用される保存剤の成分の性質、試料の性質等を含む。適切な条件は、熟練者によって日常的に最適化され得る。
【0023】
本発明の別の態様は、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のリンタンパク質の保存状態を判断するための方法である。本方法によって、検者は、試料中のタンパク質が、試料の後次の(正確な、有意義な)分子プロテオーム解析を行うのに十分に安定しているかどうかを判断できるようにし得る。本方法は、試料中の特に不安定な(比較的不安定な)所定のタンパク質が安定化しているかどうかを判断するステップを含む。「十分に安定化した」とは、経時的な体外変動が、組織が安定化処理される直前に存在するベースライン値から20%以内であるように、タンパク質の翻訳後修飾(例えば、リン酸化)形態のレベルの正負変動が安定化していることを意味する。
【0024】
これらの内因性マーカーは、本明細書において、「内因性代理マーカー」または「内因性代理リンタンパク質」と称され得る。内因性代理マーカーは、例えば、表1に列挙した1つ以上のリンタンパク質であり得る。リンタンパク質の保存状態を判断する方法において、試料は、対象から採取されているが、まだ安定化手順に供されていない場合がある(例えば、試料は、安定化手順を行う前の4時間以内に採取されているかもしれない)。保存状態を判断する方法は、判断したリンタンパク質の保存状態に基づいて、分子診断解析を進めるかどうかを決定するステップをさらに含み得る。
【0025】
本発明の別の態様は、例えば、表1に列挙した1つ以上のリンタンパク質、少なくとも約5つのそのようなリンタンパク質、少なくとも約10のそのようなリンタンパク質、またはその表中で特に不安定なリンタンパク質である、STAT−3またはSTAT−1(例えば、STAT−3)、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1等の、本発明の1つ以上の内因性代理マーカーの、リン酸化アイソフォーム、および/または非リン酸化アイソフォームに対して特異的な一連の抗体である。当該一連の抗体のセットに存在し得る他の抗体は、表2−1〜表2−3に列挙した1つ以上のタンパク質に特異的な抗体、p−セレクチン、e−セレクチン、IL−2、IL−6、IL−8、および/またはフィブロネクチンに特異的な抗体、および/または本明細書に記載の他の内因性代理マーカーのうちのいずれかに特異的な抗体を含む。抗体は、例えば、多クローン性または単クローン性であり得る。実際に、内因性代理タンパク質のうちの1つに特異的であり、試料中のリンタンパク質の保存状態を判断する方法に使用可能な任意のリガンドを使用することができ、キットに存在し得る。
【0026】
本発明の別の態様は、2つの異なる時点において、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のリンタンパク質の保存状態を判断するための方法であって、第1の時点において(試料中の細胞へのセンチネルの導入に有効な条件下で)、(1つ以上の)代理リンタンパク質マーカーを含むセンチネルと試料を接触させるステップと、第2の時点において、センチネルを採取するステップと、2つの時点において、センチネルに関連した代理リンタンパク質マーカーのリン酸化状態を測定および比較するステップと、を含む。センチネルは、試料が本発明の保存剤に配置されるのと実質上同時に、試料に導入され得る。センチネルは、試料が導入される保存剤を含む容器に存在するか、または実質上試料がそこに配置された直後に試料/保存剤に追加され得る。
【0027】
本明細書で使用される「センチネル」は、1つ以上のリンタンパク質(例えば、極めて不安定なリンタンパク質)に関連した外因性粒子体を意味する。本発明のセンチネルの特性は、本明細書の他の箇所で詳細に論じられる。本方法を使用して、試料中のタンパク質の安定性を監視することができる。本方法を使用して、試料を対象から採取した後、手順(例えば、固定/保存手順)を開始するまでの時間量を判断することができる。
【0028】
本発明の別の態様は、試料を対象から採取する際に、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中の関心対象の1つ以上のリンタンパク質を分子特性化(例えば、分子診断解析)するための方法であって、
【0029】
第1の時点において、試料が対象から採取されると同時に、試料を室温で本発明の(1つ以上の)センチネルおよび本発明の保存剤と接触させ、それにより、試料中の関心対象のリンタンパク質を固定および安定化させるステップと、
第2の時点において、センチネルを抽出するステップと、
その後、センチネルに関連した代理リンタンパク質マーカーの保存状態を測定し、代理リンタンパク質マーカーの保存状態が、試料中の関心対象のリンタンパク質の保存状態が、その分子特性化に適切であることを示す場合、
関心対象のリンタンパク質の分子特性化を行うステップと、を含む。
【0030】
本発明の別の態様は、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のリンタンパク質を室温で固定および安定化させるためのキットであって、本発明の保存剤の成分を、任意で1つ以上の容器に含む。本発明の別の態様は、試料中のタンパク質(例えば、リンタンパク質)の保存状態を監視するためのキットである。本キットは、本発明の1つ以上のセンチネルを1つ以上の容器に含み、任意で、タンパク質のリン酸化状態を監視(測定)するための試薬および/または本キットの使用説明書を含む。
【0031】
本発明の別の態様は、細胞または組織標本を収集および保存するための装置であって、本発明の保存剤を含有する第2の室に接続された、特定量の試料を切断または調達する第1の室(例えば、針)を含み、単一の操作で、試料が調達され、室内の保存剤に浸漬されるようにする。第2の室は取り外し可能であり、組織切断または分子処理等のさらなる解析に直接使用され得る。
【0032】
本明細書で使用される「試料」は、本発明の方法によって固定および保存できる(および、任意でアッセイを行い、例えば、試料中の1つ以上のリンタンパク質のリン酸化状態を判断できる)任意の適切な細胞、組織、体液、または細胞産物(例えば、タンパク質)を含み得る。適切な試料は、例えば、外科的切除または組織生検、例えば、針生検を含む組織、適切な方法、例えば、機械的手段または細い針あるいは他の適切な装置を用いて腫瘍試料等の試料を吸引することによって、細胞集団から分離された細胞、血液、硝子体液、またはそれらの液体のうちの1つの分画等の体液、または細胞から流出、分泌、または排出あるいは別途得られたタンパク質等の細胞産物を含む。試料は、任意の対象(患者)、例えば、研究室動物(マウス、ラット、ウサギ、またはモルモット等)、農場動物、家畜またはペット(ネコまたはイヌ等)、非ヒト霊長類、あるいは好ましくはヒトを含む、任意の動物から採取され得る。
【0033】
タンパク質の「リン酸化状態」は、タンパク質のリン酸化の度合い(総量)を意味する。これは、リン酸化されるタンパク質の部位(例えば、適切なSer、ThrまたはTyrアミノ酸残基)の数、および/またはアミノ酸鎖の任意の所定の受容体部位におけるリン酸化のレベルの両方を含み得る。試料の「保存状態」は、その部位における試料およびタンパク質等の状態を反映し、リンタンパク質のリン酸化状態を含む。
【0034】
本発明者は、試料中のタンパク質を沈殿および、よって固定するだけでなく、十分な量の水を含み、安定剤(タンパク質を含む安定化剤)が固定剤中で可溶性を維持するような固定剤(固定化剤)を同定した。一般に、固定剤は、塩基水溶液、例えば、エタノール(例えば、約10〜40%、約10〜20%、または約12%)、メタノール(例えば、約10〜40%、約10〜20%、または約12%)、ベンジルアルコール(例えば、約10〜40%)あるいはアセトン(例えば、約5〜15%)(すべてV/V)中に、非架橋結合沈殿剤を含む。本明細書で使用される、「約」という用語は、プラスまたはマイナス10%を意味する。例えば、約1%は、0.9%から1.1%を含む。本明細書で使用される範囲の端点は、その範囲内に含まれる。例えば、5〜15%(例えば、「5%から15%の間」の値)は、5%および15%の両方を含む。本発明者は、意外にも、前述の少量のこれらの沈殿固定剤が、いくつかの理由から、従来量のアルコール(例えば、約50〜60%)よりも優れると判断した。従来レベルとは異なり、このような低レベルであることによって、キナーゼおよびホスファターゼ阻害剤等の薬剤が溶液中に残留することができ、また低レベルであることは、細胞形態の保存および凍結切片の調製に特に有効である。
【0035】
他の種類の適切な固定剤は、以下の成分の溶液または懸濁液を含み、それらは、本発明の安定剤および/または透過性試薬が可溶性であるように十分に希釈された形態である。例えば、粒子物質、バイオセラミック、クエン酸ポリジオール、キトサン、およびヒドロキシアパタイト(0.1〜10%w/w)のような、水を除去するか、またはタンパク質の沈殿あるいは凝集を誘発できる薬剤、キレート化剤(例えば、EDTA)(0.05%)、トリクロロ酢酸(TCA)(1〜5%)、クロロホルム/メタノール(10〜40%)、または硫酸アンモニウム(5〜15%)。
【0036】
本発明の組成物の第2の成分は、キナーゼ阻害剤(シグナル経路活性化の阻害剤)およびホスファターゼ阻害剤(翻訳後リン酸化の除去を阻害する)を含む安定剤(安定化剤)である。任意で、本発明の安定剤は、プロテアーゼ阻害剤も含み得る。
【0037】
使用できる適切なキナーゼ阻害剤は、例えば、アダフォスチン、AG490、AG825、AG957、AG1024、アロイシン(例えば、アロイシンA)、アルスターパウロン、アミノゲニステイン、API−2、アピゲニン、アークチゲニン、AY−22989、ビスインドリルマレイミドIX、BMS−354825(ダサチニブ)、チェレリスリン、DMPq、DRB、エデルフォソン、アーブスタチン類似体、ET180CH3、ERK阻害剤ファスジル、ゲフィチニブ、H−7、H−8、H−89、HA−100、HA−1004、HA−1077、HA−1100、ヒドロキシファスジル、インジルビン−3´−オキシム、5−ヨードツベルジシン、ケンパウロン、KN−62、KY12420、LFM−A13、ルテオリン、LY−294002、マロトキシン、ML−9、NSC−154020、NSC−226080、NSC−231634、NSC−664704、NSC−680410、NU6102、オロモウシン、オキシンドールI、PD153035、PD98059、フロリジン、ピセタノール、ピコロポドフィリン、PKI、PP1、PP2、プルバラノールA、クエルセチン、RAPA、ラパミューン、ラパマイシン、Ro31−8220、ロスコビチン、ロットレリン、SB202190、SB203580、シロリムス、SL327、SP600125、スタウロスポリン、STI−571、SU1498、SU4312、Su6656、Syk阻害剤、TBB、TCN、トリシリビン、チロフォスチンAG490、チロフォスチンAG825、チロフォスチンAG957、チロフォスチンAG1024、UO126、W−7、ワートマニン、Y−27632、ZD1839、およびZM252868である。これらの薬剤のすべて、および本明細書に記載の他の薬剤は、SigmaまたはCalbiochem等の商業源から容易に取得できる。
【0038】
使用できる適切なホスファターゼ阻害剤は、例えば、A−ナフチル酸ホスファターゼ、カリクリンA、ノジュラリン、NIPP−I(PPlを阻害する)、ミクロシスチン、オカダ酸、エンドタール(PP2Aを阻害する)、シクロスポリンAおよびFK506/イムノフィリン複合体、シペルメトリン、カンタラジン、カンタリジン酸、デルタメトリン(PP2Bを阻害する)、bpV(phen)、デフォスタチン、mpV(pic)、DMHV(PTPを阻害する)、β−グリセロリン酸、(−)−p−ブロモテトラミゾールオキサレート、フェンバレラート、L−690,330、L−ホモアルギニン、フェニルアルシンオキシド、ペルメトリン、モリブデン酸ナトリウム(および一過硫酸)、イミダゾール、フッ化ナトリウム、酒石酸ナトリウム二水和物、スチボグルコネートナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、スラミン、バナジン酸(オルトバナジン酸および過バナジン酸)、1,4−ジメチルエンドタール、1−nor−Okadaone、アレスリン、アスコマイシン、ベンジルホスホン酸、タウトマイシン、テトラミソール、およびチロフォスチン8である。
【0039】
本明細書の他の箇所で記載されるように、キナーゼおよびホスファターゼ阻害剤の適切なバランスを維持することが重要である。例えば、適切な安定剤は、ホスファターゼ阻害剤として、濃度が約100mMから約400mMの間のオルトバナジン酸ナトリウム、または濃度が約375mMから1.5Mの間のβグリセロリン酸のいずれかを含み、キナーゼ阻害剤として、濃度が約5.0μMおよび20.0μMの間のスタウロスポリンまたは濃度が約0.5μMから2.0μMの間のゲニステインを含み得る。熟練者は、前述の比率を考慮して、ホスファターゼとキナーゼ阻害剤の他の組み合わせの適切な比率を容易に判断できる。
【0040】
本発明の組成物および方法に使用されるキナーゼおよびホスファターゼ阻害剤は、任意の適切な機構によって機能し得る。例えば、キナーゼ阻害剤および/またはホスファターゼ阻害剤は、キナーゼまたはホスファターゼ酵素の活性化を直接阻害することができ、キナーゼ阻害剤は、キナーゼ基質ATPを干渉することができ、および/またはホスファターゼ阻害剤は、リン酸化タンパク質上のリン酸基と相互作用するか、またはホスファターゼの偽基質として作用し得る。
【0041】
任意で、本発明の安定剤は、プロテアーゼ阻害剤を含む。本明細書で使用される、「プロテアーゼ阻害剤」という用語は、分子の末端から、または内部位置からのタンパク質の分解を遮断する薬剤を意味する。プロテアーゼ阻害剤は、様々なプロテイナーゼ阻害剤、例えば、セリンプロテイナーゼ(例えば、PNSFまたはアプロチニン)、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテイナーゼ(例えば、EDTA)、酸性プロテイナーゼ、中性プロテイナーゼ、またはアルカリ性プロテイナーゼの阻害剤を含む。
【0042】
使用できる適切なプロテアーゼ阻害剤は、例えば、アセチル−ペプスタチン、AEBSF、塩酸、ALLN、ALLM、アマスタチン、ストレプトミセス sp.、E−アミノ−n−カプロン酸(EACA)、αl−アンチキモトリプシン、α2−アンチプラスミン、アンチパイン、二塩酸または塩酸、アンチトロンビンIII、αl−アンチトリプシン、p−APMSF、塩酸、アプロチニン、ATBI、ベンズアミジン、塩酸、ベスタチン、ベスタチン、メチルエステル、カルパスタチン、CA−074、カルペプチン、カルボキシペプチダーゼ、カテプシン阻害剤I、II、III、カテプシンB阻害剤I、II、カテプシンK阻害剤I、II、III、カテプシンL阻害剤I、II、III、IV、V、VI、カテプシンS阻害剤、キモスタチン、キモトリプシン阻害剤I、シスタチン、3,4−ジクロロイソコウラミン、ジイソプロピルフルオロリン酸(DFP)、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤、1,5−DNS−GGACK、2HCl、ジペプチジルペプチダーゼII阻害剤、E−64プロテアーゼ阻害剤、エコチン、EDTA、EGTA、エラスターゼ阻害剤I、II、III、EST、FUT−175、GGACK、HDSF、α−ヨードアセトアミド、キンノゲン、ロイヒスチン、ロイペプチン、α2−マクログロブリン、DL−2−メルカプトメチル−3−グアニジノエチルチオプロパン酸、NCO−700、ペプスタチンA、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、PPACK、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤、2,3,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、TLCK塩酸、トロンビン阻害剤、トリペチジルペプチダーゼII阻害剤、トリプシン阻害剤、チロマイシンA、およびD−Val−Phe−Lysクロロメチルケトン、二塩酸である。他のプロテアーゼ阻害剤は、例えば、Neel et al.(1997)Curr Opin Cell Biol 9,193−204およびB.Goldstein(2002)J Clin Endocrinol Metab 87,2474−2480において開示される。
【0043】
本発明の保存剤の第3の成分は、透過性増強剤であり(本明細書において、透過性薬剤または透過剤と称され得る)、固定剤および/または安定剤の細胞または組織への輸送を増強する。透過性増強剤は、例えば、組織容積を通る本発明の組成物の成分の浸透率を増補し、生きた組織の内塊中の細胞に急速に到達して、それらの分子を後の診断のために停止させる。細胞または組織への安定剤の透過率は、細胞外空間に対する細胞の比率、および組織の容積に対する表面の比率の関数である。水、溶質に対する組織細胞膜の透過性、および細胞外空間における溶質の拡散係数は、すべて安定剤の透過性に影響する。細胞内空間と細胞外空間との間の大量輸送および交換に続いて、保存剤が細胞に進入する。
【0044】
様々な透過性増強剤は、本発明の組成物に含まれ得る。適切な透過性増強剤は、ポリマー(PEG、ポリソルベート等)、タンパク質(脂肪親和性タンパク質)、脂質、およびナノ粒子(金属またはシクロデキストリンナノ粒子)である。例えば、適切な透過性増強剤は、水、約1.5Mのジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、デメチルホルミアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DCMS)、C10−C18飽和アルキル鎖を有する脂肪酸、硫酸ナトリウムラウリル(SDS)、ソルビタンモノラウレート20、セチルトリメチル臭化アンモニウム、ノノキシノール界面活性剤、両性イオン界面活性剤(例えば、ドデシルベタイン)、ラウロカプラム:アゾン(l−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン)、SR−38(4−デシクロアゾリジン−2−オン)、エタノール溶液、精油、テルペンおよびテルペノイド(ユーカリ、d−リモニン、ネロリドール、1−8−シネオール、メントール)、脂肪アルコール(アルクノール)、オレイン酸、グリコール、PEG200モノラウレート、PEG400モノラウレート(Alkamul 400−MO)、PEG400モノラウレート(Lipopeg 4−L)、PEG600モノオレエート(Alkamul 600−MO)、PEG6000モノオレエート(Kessoポリエチレングリコールエステル)、ポリオキシアリールエーテル(Syn Fac8210)、POEオレイルアルコール(Ethosperse OA−9)、POEモノオレイイン酸ソルビタン(Atlas G8966T)、POEミリスチルエーテル(Lipco−4)、POEラウリルアルコール(Ethosperse LA−4)、POEルアリールエーテル(Brij30)、POEソルビタンモノオレエート(Glycosperse 0−5)、POG硫酸ラウリル(Emthox 5967)、オクチフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール(Igepal CA420)、直鎖アルコールエトキシレート(Rexonic N4)、ポリソルベート80含有モノおよびジグリセリド(Tandem 8)、ノニルフェノールエトキシレート(Alkasurf NP−4)、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール(Igepal CO−720)、ノニルフェノールエトキシレート(Alkasurf NP−15)、カストールオイルエトキシレート(Sandoxylate C−32)、エトキシル化ヤシ油モノグリセリド(Varonic LI−63)、酸化エチレンで濃縮したオレイルアルコール(Volpo−20)、修飾オキシエチル化直鎖アルコール(Plurafac C−17)、エトキシル化ラノリンアルコール(Polychol 40)、エチオキシレートポリオキシプロピレングリコール(Alkatronic PGP23−7)、エチオキシレートポリオキシプロピレングリコール(Alkatronic PGP23−8)、ノンフェニルエトキシレート(Alkasurf NP−30)、ポリエチレン100ステアリルエーテル(Brij700)、モノグリセリドおよびエチルパルミテート、アルキルアリールポリエーテルエタノール(Triton X−363M)、N,N−ジメチルアミド(Mallcomid M8−10)、アルキルまたはアリール尿素類似体、グリセロールモノラウレートおよびラウリルアセテート、Sefsol−318媒体鎖グリセリド、細胞浸透ペプチド、ペグ化ペプチド、細胞浸透ペプチド、ポリエチレングリコールモノラウレート、リン脂質、ピロリドン:N−メチル−2−ピロリドンおよび2−ピロリドン、デンドリマー、レクチン、またはペグ化および/またはコロイド金を含む。
【0045】
本発明の一実施形態において、透過性薬剤は、濃度が約0.5%から15%、例えば、約0.5%から5%のPEGである。高濃度のPEGは細胞組織構造を干渉し、組織が切断されるのを妨げ得る。
【0046】
透過性増強剤は、独立した要素として、本発明の固定剤および安定剤の混合物に添加され、保存剤を形成し得る。本発明の別の実施形態において、本発明の安定剤(その1つ以上の成分)は、透過性増強剤に付着(例えば、結合、連結、固定化)され、透過性増強剤は、細胞または組織への安定剤の浸透を促進できる。安定剤を適切な透過性増強剤に付着させるための方法は従来の方法である。一実施形態において、安定剤(例えば、ホスファターゼ阻害剤およびキナーゼ阻害剤)および透過性増強剤の要素はいずれも、細胞または組織への本発明の組成物の両種の成分の進入を促進するナノ粒子に付着する。結合成分を含有するナノ粒子は、本発明の固定剤に懸濁され得る。
【0047】
熟練者は、本発明の保存剤、例えば、透過性増強剤の個別成分の相対量、またはその存在は、個別の細胞型または標本型によって異なり得ることを認識するであろう。例えば、一部の組織(例えば、筋肉組織)は、特に密度が高いため、密度の低い組織よりも大量の透過性増強剤を必要とし得る。代替として、高レベルの脂肪または疎水性層から成る一部の組織(例えば、乳房または皮膚)は、そのような脂肪性質を欠く組織よりも少量の透過性増強剤を必要とし得る。そのような調節は、本明細書で論じられる保存剤の一般的な範囲内で日常的に判断することができる。
【0048】
物理的方法を使用して、細胞または組織への本発明の保存剤の浸透を補助することもできる。これらの方法は、例えば、圧縮波および針のグリッドとの透過性を含む。他の物理的方法は、例えば、超音波、赤外線、マイクロ波、電気(高圧)、電磁気、RF(高周波)、または化学的方法による過渡熱誘発を含む。これらの物理的方法は、保存剤を組織に導き、かつ、タンパク質を積極的に変性させて、キナーゼ、ホスファターゼ、およびプロテアーゼ活性を阻害する。
【0049】
本発明の保存剤に存在し得る他の薬剤は、例えば、OSI−774(タルセバ、エルロチニブ)のような膜受容体阻害剤、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ラパタニブ、およびゲフィニチブ(イレッサ)を含む。使用され得る抗ヒスタミン(H−I受容体拮抗薬)は、例えば、アザタジン、アンタゾリン、ブロンフェニラミン、シクリジン、クロルシクリジン、セチリジン、クロルフェニラミン、クレマスチン、シプロヘプタジン、デスロラタジン、デクスクロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、ロラタジン、メピラミン、メクリジン、フェニラミン、フェニンダミン、プロメタジン、およびトリプロリジンを含む。
【0050】
本発明の保存剤に存在し得る他の薬剤は、膜を安定化させるだけでなく、細胞分子およびそれらの翻訳後修飾が沈殿または固定されるまで、細胞を損傷から保護する膜安定剤を含む。適切な細胞膜安定剤は、例えば、トレハロース、炭水化物、プロピレングリコール(例えば、約1.5M)、エチレングリコール(例えば、約1.5M)、グリセロール(例えば、約1.5M)、スクロース、グリシン、キトサンまたはメチルセルロースである。
【0051】
本発明の保存剤に存在し得るシグナル経路活性化の他の阻害剤は、凍結切片またはポリマーあるいはパラフィン切断に続く組織学的試験、顕微解剖、および病理学的診断のための細胞小器官形態を含む、細胞形態を保存する薬剤を含む。適切なそのような薬剤は、例えば、ポリエチレングリコール(例えば、粒径範囲が約200から8000kD)、キトサン、またはメチルセルロースである。
【0052】
存在し得る他の薬剤は、架橋結合剤(例えば、ジアルデヒド、グルタルアルデヒド、ジチオビス−スクシニミジルプロピオン酸、アラビアゴム、ジエチレングリコール、またはアラビアゴム)および分子阻害したポリマーまたはヒドロゲル、例えば、沈殿重合によって形成されたN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)およびN,N´−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を含む。
【0053】
本発明の保存剤に存在し得る他の薬剤は、アデノシン三リン酸加水分解酵素阻害剤を含む。使用され得る適切なアデノシン三リン酸加水分解酵素は、例えば、アデノシン、塩酸アミロライド、バフィロマイコンA1、ストレプトミセスグリセウス、BHQ、(−)−ブレビスタチン、(±)−ブレビスタチン、BTS、ブファリン、2,3−ブタンジオン2−モノキシム、カルミダゾリウムクロリド、シクロピアゾン酸、ペニシリウムシクロピウム、DPC(ジフェニルアミン2−カルボキシル酸)、Eq5阻害剤III、デメチルエナストロン、N−エチルマレイミド、フォリマイシイン、ストレプトミセス sp.、4−ヒドロキシノネナール、ヒポクレリンB、ヒポクレラバンブーサ、マストパラン、ミカロリドB、Mycale sp.、NC−1300−B、オリゴマイシン、オメプラゾール、カバイン、オクタヒドレート、ホルボール−12,13−ジブチレート、スラミン、ナトリウム塩、およびタプシガルジンである。
【0054】
当然のことながら、特定の機能を提供するとして上で列挙した成分のいずれも、記載される他の機能の1つまたは2つ以上を満たし得る。
【0055】
本明細書に記載の保存剤(固定/安定化/透過性剤)は、種々の細胞内成分を保存することができる。本出願の大部分は、リンタンパク質の保存を対象とするが、他の細胞成分(例えば、翻訳後に修飾されないタンパク質、翻訳後にリン酸基以外の部分、例えば、グリコシル、脂質または脂質−メチル基等で修飾されるタンパク質、細胞小器官等)も、本発明の方法によって保存できることを理解されたい。一実施形態において、本組成物は、不安定な細胞表面抗原タンパク質を保存するために全血に追加される。表面タンパク質は、それらの抗原性を保持するので、抗原性表面抗原に依存する方法、例えば、FACS解析による細胞ソーティングまたは磁気捕捉によって、保存した細胞をさらに解析することができる。例えば、実施例Vを参照されたい。
【0056】
種々の従来方法のうちのいずれかを使用して、細胞シグナル伝達および/または代謝機能が、本発明の組成物によって保存されたかどうかを判断することができる。切除した組織の生理化学的特性は、例えば、免疫組織化学、酵素学、顕微鏡検査、または生化学によって測定することができる(例えば、Hernandez−Cuetoらによる総論(2000)Am Journal Forensic Med Path.21,21−31を参照)。評価され得る酵素組織化学的マーカーのうちで、ミトコンドリア酸化酵素活性に関与する酵素は、エステラーゼ、フィブロネクチン、テネイシン、e−セレクチン、p−セレクチン、TGF−α、TGF−β、インターロイキン10、ICAM−1、VCAM−1、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、および/またはグリコサミノグリカンである。実施可能な生化学解析は、ATPおよびその分解産物(ADP、AMP、IMP、イノシン、ヒポキサンチン、キサンチン、および尿酸)、ブロモデオキシウリジンDNA合成、DNAおよび/またはRNA重合、C3、免疫グロブリンE、A、G、M、ヒスタミン、セロトニン、カテプシンD、D−二量体、および/または乳酸脱水素酵素の評価である。タンパク質のリン酸化状態の解析は、従来の方法、例えば、本明細書に記載のとおり実行することができる。
【0057】
本発明者は、様々なリンタンパク質の経時変化解析を行い、身体からの切除後に一連の不安定性(例えば、リン酸化等の翻訳後修飾の損失または取得)を示すマーカーを同定した。表1に示すリンタンパク質は、「特に不安定(「比較的不安定」)な」タンパク質である。つまり、それらのタンパク質は、組織切除後の保存処理において、20%以上長い期間の保存によって、それらのリン酸化状態を変化させる。エンドポイントは、表において細胞シグナル伝達経路ごとに整理される。表に記載される特定のリン酸化アミノ酸残基を使用して、表中のタンパク質のリン酸化状態を監視したが、タンパク質の他のリン酸化残基を監視することができる。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明の一実施形態は、例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中のタンパク質(例えば、リンタンパク質)の保存状態を判断するための方法である。本方法は、試料中の1つ以上の内因性代理マーカー(例えば、表1の非常に不安定な内因性代理マーカー)のリン酸化状態を測定するステップを含む。本方法を使用して、試料中の他のタンパク質(例えば、リンタンパク質)が、診断分子プロテオーム解析等の後次解析、タンパク質のリン酸化状態の研究等に使用するために十分に良好に保存されているかどうかを判断することができる。
【0060】
単一の内因性代理マーカーを使用するか、または複数のそのようなマーカー(例えば、約2から10の間、またはそれ以上)を使用することができる。本発明の一実施形態において、使用される表1からの代理マーカーは、特に不安定なリンタンパク質STAT−1および/またはSTAT−3(例えば、STAT−3)、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1である。表1に列挙した非常に不安定な内因性代理マーカーは、悪化した保存状態の早期警告を構成する。
【0061】
これらのリンタンパク質に加えて、またはそれらの代わりに、他種のリンタンパク質を使用し得る。例えば、特定の経路から得られるもの、残基のクラス(チロシン、セリンまたはスレオニン)、ならびに核、細胞質、および細胞膜分画を含む、様々なクラスのリンタンパク質から適切な内因性代理マーカーを選択することができる。内因性代理マーカーは、異なる不安定度を呈する一群の選択リンタンパク質の形式であり得る。
【0062】
様々な他種の内因性代理マーカーを、上述のリンタンパク質に加えて、またはそれらの代わりに使用し得る。例えば、内因性代理マーカーは、その安定性が、細胞集団におけるリンタンパク質の保存状態と相関する、非リンタンパク質分子(例えば、乳酸脱水素酵素、LDH、グルコース−6デヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ等)であってもよい。
【0063】
一実施形態において、内因性代理マーカーは、表2−1〜表2−3に列挙した1つ以上のリンタンパク質、および/または1つ以上のp−セレクチン、e−セレクチン、IL−2、IL−6、IL−8、またはフィブロネクチンを含む。
【0064】
【表2−1】
【表2−2】
【表2−3】
【0065】
対象から試料を採取したさ後、早期、中期、または後期に不安定であるマーカーを、保存することなく使用することができる。
【0066】
使用できる他の内因性代理マーカーは、炎症マーカーである。切除した組織は、細胞シグナル伝達経路の活性化に関して、本質的に損傷または外傷を受けた組織である。損傷活力は、法医学的病理において十分に特徴付けられている。損傷治癒の段階は、典型的に、4つの経路:炎症、血管形成、上皮形成、および組織改造をたどる。したがって、切除した組織は、外傷、環境ストレス、低酸素症、生存促進シグナル、およびアポトーシスシグナルに基づく、細胞シグナル伝達活性の同様の段階を有することが予想される。適切な炎症の内因性代理マーカーとしては、例えば、
細胞−細胞接着−PAX、Src、FAK、pl30cas、コフィリン、フィブロネクチン、アクチン、ICAM−1、VCAM−1、e−セレクチン、p−セレクチン、
サイトカイン−TNFα、インターロイキン−1(IL−1)、IL1β、IL−6、IL−8、p38MAPK、ERK、SAPK/JNK、IKK、IkB、NFKβ、
ストレスの代理マーカー:IL−6、iNOS、eNOS、Jakl/2、Stat3、Stat5、Stat1、Shp2、Grb2、MEK、ERK、
低酸素症の代理マーカー:HIF−1α、AMPKα、AMPKβ、AMPKγ、PKA、LKB1、アセチルCoAカルボキシラーゼ、シトクロムc、COX2、
生存促進の代理マーカー:AKT、mTOR、4EBP1、p70S6、eIF4G、eIF4E、GSK3β、
アポトーシスの代理マーカー:アネキシン、TNFα、AKS−1、IKK、IkB,NFKB、カスパーゼ3,6,7,9、JNK、Bcl−2、BCL−XL、Bax、Bak、Bad、Smac/Diablo、Apaf−1、シトクロムc、ラミンA
が挙げられる。
【0067】
内因性代理マーカーの測定は、センチネルの使用が以下に記載のとおり不可能である場合、試料の保存状態を判断するために特に有用である。例えば、センチネルが利用可能でないか、または解析される組織が、身体から組織を採取した後にセンチネルが追加されなかったアーカイブ組織であり得る。
【0068】
本発明の別の態様は、2つの異なる時点において、試料中のタンパク質の保存状態を監視するために使用できるセンチネル(外因性センチネル)である。本発明のセンチネルは、本明細書で論じられる1つ以上の(内因性)代理マーカーが付着(関連、結合、固定化)する粒子体を含む。マーカーは、センチネルに付着すると、もはや「内因性」ではなくなるため、「代理マーカー」または「代理リンタンパク質」と称され得る。本明細書で論じられる代理マーカーのいずれか、または熟練者に明らかであろう他の適切なマーカーは、本発明のセンチネルに付着し得る。
【0069】
粒子体は、第1の時点において試料と接触させることができ、その後、第2の時点において、試料から採取され、センチネルに付着したタンパク質マーカーの保存状態(例えば、リン酸化状態)を判断することができる、任意の構成要素であり得る。例えば、粒子材料は、ヒドロゲル、シリコン、多孔質不活性粘土、ポリソルベートまたは他のポリマー、あるいはコロイド金から形成され得る。一実施形態において、粒子材料は、シクロデキストリンまたは金属ナノ粒子(例えば、磁気ナノ粒子)等のナノ粒子である。センチネルは、様々な方法のうちのいずれかによって、試料から採取され得る。例えば、遠心分離する(回転させて試料から分離する)、またはサイズ別あるいは適切なタグの用途別に分離することができる。磁気ナノ粒子は、磁気の減耗を介して、標本の細胞ライセートから単離され得る。
【0070】
センチネルを使用して、試料が対象から採取される時点から、分子特性化等の手順に供される時点までの間の試料中のタンパク質の安定性を監視することができる。その後、センチネルに付着した代理マーカー上のリン酸基の有無またはレベルを測定し、センチネルが最初に標本に導入された時のレベルと比較して、処理履歴を評価することができる。この客観的な基準を通じて、組織リン酸プロテオームに対する処理変数の影響を、研究室標本品質管理アセスメントの一部として測定することができる。一実施形態において、センチネルを使用して、試料を対象から採取してから手順(例えば、固定/保存手順)の開始までの間の時間量を判断する。
【0071】
試料は、例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物であり得る。
【0072】
本発明の一態様は、2つの異なる時点において、試料(例えば、細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料)中のタンパク質の保存状態を判断するための方法である。本方法は、第1の時点において、本明細書で論じられる非常に不安定なリンタンパク質等の1つ以上の代理マーカーに付着(関連)したセンチネルと試料を接触させるステップと、第2の時点において(例えば、試料中のタンパク質の後次解析を干渉しない条件下で)、センチネルを試料から採取するステップと、センチネルを試料から採取するステップと、2つの時点において、センチネルに付着(関連)したタンパク質のリン酸化状態を測定および比較するステップと、を含む。
【0073】
本明細書で使用される、「1つの(a)」センチネルという用語は、1つ以上のセンチネルを含む。例えば、単一のセンチネルが使用されるか、または複数(例えば、一群)のセンチネルが使用されてもよく、それらは同一であるか、または異なり得る。
【0074】
一実施形態において、本試料は細胞または組織を含み、本方法は、第1の時点において(例えば、センチネルが細胞に進入するために有効な条件下で)、試料中の細胞をセンチネルと接触させるステップと、第2の時点において(例えば、試料中のタンパク質の後次解析を干渉しない条件下で)、試料中の細胞からセンチネルを採取するステップと、2つの時点において、センチネル上の代理マーカーのリン酸化レベルを解析および比較するステップと、を含む。センチネルは、透過剤の存在下で細胞に導入され得る。
【0075】
一実施形態において、1つ以上のセンチネル分子は、処理前の時点、例えば、収集時において試料に添加され、処理後にセンチネルは試料から採取され、特性化される(例えば、分子のリン酸化状態が分析される)。本発明のセンチネルに関するさらなる説明については、実施例IVおよび図9を参照されたい。
【0076】
一実施形態において、センチネル上に存在するリンプロテオームエンドポイントは、特に不安定であり、半減期が短い(例えば、表1のリンタンパク質から選択したリンタンパク質)。本明細書で使用される、「リンタンパク質」という用語は、リンペプチドを含む、任意の適切なサイズのポリペプチドを含む。1つ以上(例えば、2、5、10、またはそれ以上)のこれらのエンドポイントは、センチネル(例えば、ナノ粒子センチネル)に組み込まれ得、大量生産可能な化学的に定義されたセンチネルを生成することができる。
【0077】
ナノ粒子は、生きた組織に注入され、それらに浸透し得る(例えば、Muldoon et al.(1995) Am J Pathol 147,1840−1851を参照)。例えば、単結晶酸化鉄ナノ粒子(デキストランの外核を持つ直径5nm、約20nmの全体粒子サイズを形成する)は、ラット脳に注入することができ、粒子は、約7.93mmの幅、粒子のサイズより何倍も大きい距離で大脳皮質に浸透する。
【0078】
従来の方法を使用して、本発明のセンチネル(例えば、ナノ粒子センチネル)を形成し、それらに適切なマーカータンパク質を付着させることができる。代理タンパク質マーカーは、リンカーを介する等、従来の方法によって、センチネル(例えば、ナノ粒子)に付着(関連、結合、固定化)され得る。例えば、シラン被覆を有する磁気鉄ナノ粒子は、NHS官能基の追加を通じて誘導体化され得る。これは、合成ペプチドのアミノ末端の連結部位を提供する。センチネルとして機能するリンペプチドの一群(例えば、約1、2、5、10、またはそれ以上)が合成される(例えば、約95%の純度)。ペプチドは、スペーサー要素として機能するグリシンのアミノ末端伸長を含み得る。これらのペプチドのリン酸化形態を特異的に認識する抗体が利用可能である。多くのそのような抗体が、リンタンパク質のリン酸化を監視するために有効であると確認されている。
【0079】
本発明の一実施形態において、単一の標本容器(例えば、典型的に生検試料の保管に使用される従来のメッシュバッグまたはパウチ)には、本発明の保存剤と1つ以上のセンチネルとの組み合わせが事前に充填される。手術室(O.R.)または外来クリニックにおける切除の直後に、組織標本が専用容器に配置される。容器および標本は、輸送または出荷中に室温で安定している。臨床研究室内で、センチネル添加剤が適用され、処理および解析フェーズのための品質保証データを収集し、規制(米国病理医境界[College of American Pathologists(CAP)]/臨床検査質改善法[Clinical Laboratory Improvement Act(CLIA)])基準を支持し得る。しかし、保存剤およびセンチネルは、肉眼的検査、組織学、または形態を改変せず、定量的タンパク質エンドポイントの収率を最大化する。容器から組織を採取した後、内因性代理エンドポイントの測定を使用して、例えば、分子解析またはバンキングのための標本の受容を認めることができる。
【0080】
本発明の一実施形態において、メッシュパウチは、キナーゼまたはホスファターゼのタンパク性阻害剤を含む、本発明の保存剤の不安定な成分、例えば、タンパク性の成分で満たされ、これらの不安定な成分は、後に乾燥され、液体で保存された場合よりも長い保存寿命を有することができる。試料がメッシュパウチに配置された後、保存溶液の残りの液体成分をパウチに追加し、それにより、保存溶液を再構成して、試料を固定および安定化することができる。
【0081】
別の実施形態において、メッシュパウチは、試料および/または本発明の保存溶液と接触する際、短時間に激しい熱を放出し、1−15分以内に温度を65℃以上に高め、それにより、組織を変性させてその保存を助ける化合物で満たされる。熱生成化合物は、当技術分野において知られるハンドウォーマーおよびストーブフリー調理において使用される化学反応等の発熱反応を生成し得る任意の乾燥した薬剤(例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガン、塩素酸カリウム、過酸化バリウム、硝酸カリウム、金属、半金属、金属合金、または金属−半金属合金)である。
【0082】
本発明の別の態様は、本明細書で開示された方法のいずれかに有用なキットである。そのようなキットは、本発明の組成物(例えば、試料中のタンパク質を固定および安定化させる)、本発明の内因性代理マーカー、またはセンチネル上の代理マーカーのリン酸化量を測定するための特定の抗体等の試薬、および/または本発明のセンチネルを含み得る。本発明のキットは、(1つ以上の)容器または包装材料をさらに含み得る。本発明のキットは、例えば、さらなる解析、バンキング、または実験的適用のための試料を調製するために使用することができる。熟練者は、本発明の方法のうちのいずれかを実行するために適切なキットの成分等を認識するであろう。
【0083】
任意で、キットは、方法を実施するための説明を含む。本発明のキットの随意的要素は、適切な緩衝液、薬剤として許容される担体等、容器、または包装材料を含む。キットの試薬は容器内にあってもよく、そこで試薬は、例えば、凍結乾燥型または乾燥型であるか、あるいは安定化した液体として安定し得る。試薬は、例えば、単一患者の試料、または単一患者から得られた複数の試料の保存のために、使い切り型であってもよい。
【0084】
キットに存在する本発明の保存剤の成分は、液体形態、乾燥形態、またはそれら両方であり得る。分解から保護するために、不安定な成分(例えば、タンパク性成分)は乾燥形態であって、残りの成分は液体形態であり得る。乾燥成分は、表面上にコーティングを形成することができ、組成物の残りの成分を含む液体との接触によって再構成され得る。
【0085】
本発明の別の態様は、細胞または組織標本を対象から収集し、保存するための装置であって、本発明の保存剤を含有する第2の室に接続された、特定量の試料を切除または調達する第1の室(例えば、針)を含み、単一の操作で、試料が調達され、保存剤を含有する室内の保存剤に浸漬されるようにする。一実施形態において、第2の室は取り外し可能であり、組織切断、分子処理等に直接使用することができる。例えば、第2の室は、保管および保存した組織を郵送するための多目的容器であり得、および/または組織切断のための自動または半自動システムと直接相互作用できる出口域を含み得る。
【0086】
前述および以下の実施例において、すべての温度は、訂正されていない摂氏温度で記載され、別段の指示がない限り、すべての部分およびパーセンテージは重量による。
【0087】
(実施例)
実施例I.材料および方法
A.逆相タンパク質アレイ(RPA)−組織および細胞中のリンタンパク質の定量
本発明者および協力者によって発案されたRPA形式は(例えば、Paweletz et al.(2001)Oncogene 20,1981−1989を参照)、縮小希釈曲線において個別の試験試料を固定化し、何百もの異なる患者試料、処理、または時点がアレイに含まれるようにする。RPA形式において、1つの検出タンパク質(例えば、アンチペプチド抗体)で各アレイをインキュベートし、単一の検体エンドポイントを測定して、複数の試料間で直接比較する。簡潔に述べると、ロボットアレイ印刷装置(125−500μmピンを備えるGMS417アレイヤー(Affymetrix,Santa Clara,CAまたはAushon2570,Aushon Biosystems,Burlington,MA)を使用して、ライセートをガラス基板ニトロセルロースアレイスライドに印刷する(FASTスライド Whatman,Florham Park,NJまたはONCYTEスライド Grace Biolabs,Bend,OR)。各ライセートは、希釈曲線に印刷され、純希釈、1:2、1:4、1:8、1:16および負の対照希釈を表す。スライドは、乾燥剤(Drierite,W.A.Hammond,Xenia,OH)を用いて、−20℃で免疫染色前に保管する。
【0088】
今日我々は、多様な検体を認識する150の有効な抗体を有する(例えば、Gulmann et al.(2005)Clin Cancer Res 11,5847−5855;Sheehan et al.(2005)Mol Cell Proteomics 4,346−355;Davidson et al.(2006)Clin Cancer Res 12,791−799;Nishizuka et al.(2003)Proc Natl Acad Sci USA 100,14229−14234;Petricoin et al.(2005)J Clin Oncol 23,3614−3621;Wulfkuhie et al.(2003)Proteomics 3,2085−2090)および表2−1〜表2−3を参照)。
【0089】
B.タンパク質マイクロアレイ免疫染色 免疫染色は、製造者の指示によって自動スライド着色剤で行う(Autostainer CSAキット、Dako,Carpinteria,CA)。各スライドは、単一の一次抗体を用いて室温で30分間インキュベートする。多クローン性の一次抗体は、例えば、GSK3α/β Tyr279/216(Invitrogen−Biosource,Carlsbad,CA)、BCL−2、HIF−1α(BD,Franklin Lakes,NJ)、4EBP1、FKHR ser256、eIF4E、eIF4E ser209、eIF4G、eIF4G ser1108、IGFR−β、IRS−l、IRS−2、IRS−1 ser612、SGK、Bak、Bax、BAD、BAD ser112、BAD ser136、BAD ser155、B−Raf、mTOR、mTOR ser2448、p70S6 Thr389、p70S6キナーゼ、p70S6 ser371、S6キナーゼ ser240/244、Akt、Akt ser473、Akt Thr308、4EBP1 ser65、4EBP1 ser70、および4EBP1 Thr37/46(Cell Signaling Technology,Danvers,MA)であり得る。負の対照スライドは、抗体希釈剤でインキュベートする。二次抗体は、ヤギ抗ウサギIgG H+L(1:5000)(Vector Labs,Burlingame,CA)であり得る。
【0090】
C.マイクロアレイ解析の生物情報科学的方法 各アレイを走査し、スポット強度を分析し、データを規格化して、標準の単一データ値をアレイ上の各試料に対して生成できる(Image Quant v5.2,GE Healthcare,Piscataway,NJ)または(MicroVigene v2.8,Vigene Tech,Billerica,MA)。スポット強度は、固定領域全体で統合する。局所領域の背景強度は、印刷されていない隣接スライド背景を用いて、各スポットに関して計算する。これにより、各試料に対する単一データポイントが得られ、アレイ上の他のすべてのスポットと比較する。JMP v5.0(SAS Institute,Cary,NC)を使用して、二方向階層的クラスタ分析のためのWard方法を行ってもよい。ウィルコクソンの二試料順位和検定を使用して、値を2群間で比較することができる。0.05未満のP値を有意であると見なす。変数の正規分布を想定できない場合は、非パラメトリック法を使用する。一変量生存時間解析のためのKaplan−Meier(ログランク)生存時間推定値を使用することができる。
【0091】
実施例II.(「現実世界」の病院設定における)ヒト組織リンタンパク質安定性の経時変化解析
RPAマイクロアレイ手技を採用して、以下の大組織標本から調達された組織に関するリンタンパク質残基のエンドポイントの経時変化解析を行った。a)罹患していない子宮、子宮内膜、および子宮筋層、b)子宮平滑筋腫、c)罹患していない大腸粘膜および粘膜下組織、d)罹患していない肺、およびe)肺腺癌。「タイムゼロ」ウィンドウを括弧でくくる手段として、患者からの採取直後にかかる時間、例えば、5分、10分、および20分を特に重視した。これは、組織を37℃から室温まで冷却したことによって最初に起こる変化を観察できるように行った。子宮の場合、90分まで延長した時点でも試料を採取した。エンドポイントは、成長因子受容体、生存促進、およびストレス経路関連タンパク質を網羅するよう選択した(図2)。各時点の試料の細胞含有物は、16ゲージの針生検の容積を表した。8μで切断した20の連続する凍結切片を処理および溶解した。各シグナル伝達タンパク質エンドポイントは、総細胞タンパク質内容に対して正規化した。すべてのエンドポイントは、収率、線形性、および精密性に関して既に確認されている(上記のSheehan et al.(2005))。リンタンパク質エンドポイントレベルの変化は、組織採取直後に測定した定量値のパーセントとして表した。
【0092】
結果 1)収率:得られた組織細胞容積は極めて適正であり、背景(一次抗体なしの値)の10倍以上も広い範囲であり、かつアッセイの線形範囲内で各リンタンパク質エンドポイントが測定された。各組織試料の時点ライセートに対して150μL容積の5%未満を使用し、図2に示す12のエンドポイントを分析した。2)安定性の経時変化:図2A〜2Eに示されるように、調達直後に、選択リンタンパク質標的に変動が生じた。一部のエンドポイントは時間とともに一時的に増加したが、他のエンドポイントは、緩やかな減少を呈した。図2A〜2Eに示すリンタンパク質は、組織の安定状態の判断に使用できる一群の内因性代理の典型的なメンバーを表す。本発明の一実施形態において、検者は、関心対象の試料(例えば、細胞または組織を含む)が、分子診断分析に供されるために適切な保存状態にあるかどうかを判断する。別の実施形態において、検者は、関心対象の試料を対象から採取してからどれだけの期間が経ったかを判断する。この実施形態において、検者は、1つ以上の内因性リンタンパク質のリン酸化状態を、タンパク質のリン酸化状態の経時変化を示す較正曲線と比較する。ここに提示したデータは、提案した代理の実現可能性と、選択した方法の適切性を支持する。
【0093】
子宮組織のみを試験したことを除いて、さらなる経時変化を上記のように行い、選択したエンドポイントは、生存促進、ストレス、およびアポトーシス経路内であった。室温および4℃での経時変化の設計を図3に示す。リン酸化状態の変化は、4℃で減速したが停止しなかった。内因性マーカーが、様々な用途に対して代理マーカーとして機能し得るということは、実施例において提示された経時変化から明らかである。
【0094】
実施例III.組織リンタンパク質安定剤の同定
以下の固定剤および/または安定剤のうちの1つ以上の組み合わせを含む、保存溶液の候補を評価した。a)市販のホスファターゼ阻害剤、b)市販のキナーゼおよびプロテイナーゼ阻害剤、c)30%スクロース、15%トレハロース安定剤、d)市販のPreservCyt、e)市販のCytoLyt、f)中性洗剤、およびg)沈殿固定剤(表3および4、ならびに図4および5を参照)。この解析に基づいて、適切な組み合わせを選択し、室温または4℃で24時間保存するために有効な保存剤の候補を生成することができる。
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
固定剤の研究
第1の研究
リン酸プロテオーム保存および固定のための10の異なる化学安定剤において、細針吸引(FNA)試料を研究した(化学式については表3を参照)。リン酸タンパク質の相対保存に関して、様々な水中濃度を比較した液体試験:エタノール/メタノールの沈殿固定剤の結果を、24時間における相互の比較を図4に示す。
【0098】
その後、様々な溶液について、凍結切片の切断または顕微解剖を可能にし、リンタンパク質の安定性を得るそれらの能力を試験した。図5に示されるように、エタノール単独、アセトン単独、PEG単独、またはそれらの組み合わせは、これらの能力において十分に機能しないことを発見した。しかしながら、水と低比率のメタノールまたはエタノールの組み合わせを使用する場合(例えば、水中の10%メタノール)、凍結は阻止されず、凍結切片を切断することができ、組織構造はLCM(レーザー捕捉顕微解剖)のために許容可能である(表2−1〜表2−3)。凍結切片の調製に適した条件の例については、図11および12も参照されたい。
【0099】
リアルタイムの室温出荷条件から得られたメタノール:水またはエタノール:水固定剤中のリンタンパク質を、スナップ凍結した試料と比較した。図6A、6B、および7に示すように、研究した選択エンドポイントは、2つの方法が同等であることを示した。
【0100】
第2の研究、リンタンパク質固定剤をさらに評価する
組織リンタンパク質安定剤の候補を同定するためのさらなる研究において、様々な固定剤ベースを、いくつかの阻害剤の組み合わせを用いて試験した。本研究は、本質的に上記のとおり行った。
【0101】
表2−1〜表2−3および3に列挙した一連の化学物質について、リンタンパク質エンドポイントの安定化を試験した。4つの異なる安定化学物質について、選択したリンタンパク質エンドポイントの保存を比較した。様々な経路にわたる、26のポイントを評価した(表1)。研究のために選択した4つの不安定リンタンパク質エンドポイント−CC3 Dl75、STATl Y701、ASKl Ser83、EGFR Y1148−は、最初の30〜90分以内に変動することが分かった。データは、切除から15分後の値を候補保存剤に浸漬させて24時間後の値と比較した場合に、固定剤および添加剤の種類が、個別の組織検体の保存に影響することを示した。プロテアーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼ阻害剤の添加は、特定のエンドポイントの安定化に必要であると考えられる。
【0102】
第3の研究、リンタンパク質固定剤をさらに評価する
大腸組織を85%エタノール中で固定し、凍結および切断した。本手順は、少なくとも組織がOCTに結合しなかったことにより、凍結切片に穴が残り、凍結切片に適した組織を提供しなかった。OCTは、凍結切片を切断するためにチャックに接着するよう組織が配置される標準の当業界で認識されるゲルである。OCTゲルを組織上に噴出し、ブロック全体を凍結した後スライスする。抗凍結として作用する他の高率固定剤、例えば85%メタノール中での保存も、凍結に適さないことが分かった。対照的に、組織(例えば、乳房組織)を5つの有意に低率の固定剤(例えば、40%メタノール)を含有する保存剤に固定し、4℃で30日間保存した後、凍結および切断した結果、穴のない平滑な凍結切片を生じた。この固定およびスライス手順には、ホルマリンもパラフィンも使用しなかった。
【0103】
第4の研究、形態を保存するための条件を評価する
形態の保存は、診断および顕微解剖の両方に重要である。細胞以下の小器官の形態保存は、組織の内塊への沈殿固定剤浸透の組織学的評価基準である。この実施例(図11および12に示す)は、本発明の組成物における組織インキュベーションから24時間後の組織の形態に対する浸透増強剤PEGの添加の劇的な影響を示す。例えば、浸透増強剤PEGの存在下で、組織内塊における上皮腺の核形態は良好に保存されるが(図11F)、PEGの不在下では、上皮細胞核の保存は完全に欠損した(図114D)。図12に示されるように、本組成物(化学的性質)は、レーザー捕捉顕微解剖に適しており、有効性は95%以上である。
【0104】
第5の研究、リンタンパク質を安定化する従来の固定剤の欠陥を示す
様々な種類の腫瘍組織を一連の従来の保存剤中でインキュベートし、保存剤が、選択したリンタンパク質を安定化できるかどうかを判断した。表5に示されるように、全体として、試験した保存剤は、試験した5つのリンタンパク質の大部分を安定化できなかった。
【0105】
簡潔に述べると、ガストリノーマ/肝臓、中皮腫、および副甲状腺腫瘍から得た腫瘍組織を、5つの針の挿入によって試験し、表5に列挙した保存剤に配置した。「溶解緩衝液」と標識される試料は、溶解直後に凍結したため、リンタンパク質が全く変性しなかった正の対照を表す。細胞タンパク質の即時溶解および変性は、標準Pierce組織タンパク質抽出緩衝剤(T−PER)によって、追加のSDS、変性試薬、および洗剤を用いて得られた。細胞試料を、24時間列挙した保存剤に4℃で保存した後、列挙したリンタンパク質エンドポイントを測定した。RPMI媒体において、組織は生きたままであり、リンタンパク質の値に大きな変動が見られた。一部の値はゼロまで落ちたが、他の値は、新しく溶解した細胞ベースラインと比較して顕著に上昇した。特に、細胞病理学用の標準沈殿固定剤である70%エタノールとPreservCytは、リンエンドポイントの有意な再現可能な変性を生じたことに留意されたい。それらは、細胞または組織出荷の典型的な時間遅延である、24時間の保存期間中に主要シグナルタンパク質のリン酸化状態を安定化できなかった。表中の数字は、本明細書に記載のRPA手技を使用した場合の相対規格化強度値である。
【0106】
【表5】
【0107】
第の6研究 ホスファターゼ阻害剤またはキナーゼ阻害剤の影響を示す
乳房の腫瘍および乳房の脂肪組織から採取した試料を、以下の安定化添加剤:HBSS(Hank緩衝食塩水)のみ、HBSS+ホスファターゼ阻害剤、オルトバナジン酸(100〜400mM)およびβグリセロリン酸(375mM〜1.5M)、またはHBSS+キナーゼ阻害剤、スタウロスポリン(5.0μM〜20.0μM)およびゲニステイン(0.5μM〜2.0μM)を含有する3つの固定剤のうちの1つに入れ、210分間室温で置いた。図8に示される時点で試料を採取し、AcCoA(S79)、AKT(S473)、E−カドヘリン、HSP90、1KBa(S32)、CC3(Aspl75)、CC9(Asp330)、VEGFR2(Y1175)、STAT3(S727)、ASK1(S83)、MARCKS(S152)、ERK(T202/Y204)、βカテニン(S33/S37/T41)、IRS−1(S612)、SAPK/JNK(Thrl83/Tyrl85)、およびHer3(Tyrl289)を含む、様々なリンエンドポイントのリン酸化レベルに関して本明細書の他の箇所で記載されるRPMA手順によって解析した。
【0108】
リン酸化の程度は、複雑な代謝事象(タンパク質へのリン酸基の追加と除去のバランス)を反映して、試験したリンエンドポイント間で大幅に異なった。すべての実施例において、HBSS担体のみにおける組織のインキュベーションは、結果として、翻訳後修飾されたタンパク質のレベルを経時的に減少させた(図8A〜図8D)。ホスファターゼ阻害剤の存在下における過度のリン酸化の例として、ホスファターゼ阻害剤のみが存在する場合(HBSS+ホスファターゼ阻害剤)、HBSSのみまたはHBSS+キナーゼ阻害剤の場合と比較して、SAPK/JNK Thrl83/Tyrl85およびHer3 Tyrl289のレベルを経時的に増加させた(SAPK/JNKおよびHer3について、それぞれ図8Aおよび8Cを参照)。キナーゼ阻害剤のみが存在する場合において、これらの同一リンタンパク質レベルは、経時的に比較的安定していた。他のエンドポイント(例えば、βカテニン(S33/S37/T41)に関して、HBSS+キナーゼ阻害剤は、他の2つの固定剤のいずれかと比較して、リン酸化のレベルを経時的に安定化した(図8B)。その他の場合(例えば、CC3(Aspl75)、ホスファターゼまたはキナーゼ阻害剤の添加が、HBSS単独と比較して、タンパク質の開裂形状を安定化した(図8Dを参照)。これらの発見は、細胞または組織を固定する場合に、適切な平衡量で、ホスファターゼおよびキナーゼ阻害剤の両方を含むことが好ましいことを強調する。
【0109】
実施例IV.ナノ粒子ベースのリン酸プロテオームセンチネル
リン酸化タンパク質を含むナノ粒子は、試料中のリンタンパク質の保存状態に対するマーカーとして機能し得る。
【0110】
本実施例において、ナノ粒子を厚みの異なる組織を用いてインキュベートする。蛍光標識した粒子による組織の透過は、顕微鏡検査によって示される。必要に応じて、組織を凍結切片に切断し、レーザー捕捉顕微解剖を使用して、選択した細胞を単離することができる。細胞(凍結または室温のいずれか)を溶解し、含有物を可溶化する。その後、磁石を使用して、放出された粒子を細胞ライセートから精製する。洗浄後、精製した粒子をマイクロアレイ上(例えば、RPMAを使用して測定されるタンパク質ライセートと同一の基質上)に配置する。ナノ粒子からのリン特異的エピトープの損失を、細胞タンパク質ライセート中のリンプロテオームエンドポイントの変化と比較する。
【0111】
実施例V.フローサイトメトリーによる解析中の細胞サイズおよび形態に対する本発明の保存剤の影響の解析
細胞表面受容体糖タンパク質CD4は、抗体−抗原相互作用および細胞のサイズならびに形態に対する保存剤の影響を評価するための代表的タンパク質として選択した。CD4は、T細胞、単球、マクロファージ、および樹状細胞の表面上に発現するため、白血球(WBC)を含有する末梢血液試料中に存在するであろう。
【0112】
末梢血液をFicoll密度勾配媒体で処理し、豊富なWBC(軟膜)源を提供した。フローサイトメトリーのために、この軟膜細胞懸濁液を4つのアリコート、すなわち、1.アイソタイプ抗体染色のための未処理の細胞、2.保存剤で処理した後に染色した細胞、10〜20%エタノール、0.5〜5%PEG、オルトバナジン酸を含むHBSS(100〜400mM)、βグリセロリン酸(375mM〜1.5M)、スタウロスポリン(5.0μM〜20.0μM)、およびゲニステイン(0.5μM〜2.0μM)、3.最初に染色した後、固定剤で処理した細胞、または4.未処理の細胞、固定剤なし(対照)に分割した。
【0113】
本解析の結果を図13に示す。固定剤で処理した細胞に関して、未処理の細胞と比較した場合に、前方散乱解析は細胞サイズの一貫性を示し、側方散乱解析は細胞形態の一貫性を示す。(A)未処理の細胞をFITC共役したアイソタイプ抗体対照(IgG1,kappa)で染色した。(B)本明細書に記載の固定剤を用いて、細胞を20分間固定した。その後、細胞を2回洗浄し、抗CD4−FITCで染色した。(C)最初に細胞を抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄した後、本明細書に記載の固定剤を用いた固定に供した。(D)未処理の細胞を抗CD4−FITCで染色し、2回洗浄して、フローサイトメトリー(固定剤なし)によって解析した。保存剤の添加は、細胞のサイズまたは形態に有意に影響せず、フローサイトメトリーのための抗体染色も干渉しなかった。
【0114】
前述の説明から、当業者は、本発明の本質的特質を容易に確認することができ、その精神および範囲を逸脱することなく、本発明の変更および修正を行い、様々な用途および条件に適合させ、本発明を最大限に利用することができる。前述の好ましい特定実施形態は、単なる例示として解釈されるものであり、本発明の範囲をいかようにも限定しない。2006年10月30日出願の米国暫定特許出願第60/855,120、および2006年11月27日出願の米国暫定特許出願第60/861,086を含む、上で引用したすべての出願、特許、および発行物の全体開示、および図面における全体開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温で、リンタンパク質を含む試料と接触する際、リンタンパク質を固定および安定化し、細胞形態を保存し、前記試料を凍結して分子解析に適切なクリオスタット凍結切片の生成を可能にし得る組成物であって、
a.リンタンパク質の固定に有効であり、安定剤および/または透過性増強剤を可溶するのに十分な含水量を有する固定剤と、
b.(i)キナーゼ阻害剤および(ii)ホスファターゼ阻害剤、ならびに任意で(iii)プロテアーゼ阻害剤を含む安定剤と、
c.透過性増強剤と、を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記固定剤は、約10%から約40%のエタノール、約10%から40%のメタノール、約10%から40%のベンジルアルコール、または約5%から15%のアセトンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記固定剤は、エタノールを約20%未満の濃度で、またはメタノールを約20%未満の濃度で含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記固定剤中の前記エタノールの濃度が約12%であるか、または前記メタノールの濃度が約12%であることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記固定剤は、バイオセラミック、クエン酸ポリジオール、キトサン、またはヒドロキシアパタイトから成る粒子状物質、キレート化剤、トリクロロ酢酸(TCA)、クロロホルム/メタノール、または硫酸アンモニウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記キナーゼ阻害剤および/または前記ホスファターゼ阻害剤は、酵素の活性を直接阻害し、前記キナーゼ阻害剤は、キナーゼ基質ATPを干渉し、および/または前記ホスファターゼ阻害剤は、リンタンパク質上のリン酸基と相互作用するか、または前記ホスファターゼの偽基質として作用することを特徴とする、請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記キナーゼ阻害剤は、スタウロスポリンまたはゲニステインであり、
前記ホスファターゼ阻害剤は、オルトバナジン酸ナトリウムまたはβグリセロリン酸であり、
前記任意のプロテアーゼ阻害剤は、アルカリ性、酸性、中性、セリン、システイン、アスパラギン、または金属プロテイナーゼの阻害剤であることを特徴とする、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ホスファターゼ阻害剤は、濃度が約100mMから約400mMの間のオルトバナジン酸ナトリウム、または濃度が約375mMから約1.5Mの間のβグリセロリン酸であり、
前記キナーゼ阻害剤は、濃度が約5.0μMから20.0μMの間のスタウロスポリン、または濃度が約0.5μMから2.0μMの間のゲニステインであることを特徴とする、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記透過性増強剤は、ポリマー、タンパク質、ナノ粒子、または脂質であることを特徴とする、請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記透過性増強剤は、約0.5%から約15%PEGであることを特徴とする、請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
膜受容体阻害剤、膜安定剤、細胞形態保存剤、架橋結合剤、および/またはアデノシン三リン酸加水分解酵素阻害剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至10のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記安定剤は、前記透過性増強剤に付着することを特徴とする、請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記安定剤および前記透過性増強剤は、ナノ粒子に付着することを特徴とする、請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の組成物の成分を1つ以上の容器に含む、細胞リンタンパク質を室温で固定および安定化するためのキット。
【請求項15】
前記成分は、液体形態、乾燥形態、または両方であることを特徴とする、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記組成物の不安定な成分は乾燥形態であり、残りの成分は液体形態であることを特徴とする、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記乾燥型成分は、表面上に被覆を形成し、前記組成物の残りの成分を含む液体との接触によって再構成され得ることを特徴とする、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料において、室温でリンタンパク質を保存するための方法であって、前記試料におけるリンタンパク質の保存に有効な条件下、前記試料を室温で請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項19】
前記細胞は分散した細胞集団に由来し、
前記体液は、全血、硝子体液、または全血あるいは硝子体液の分画であり、および/または
前記細胞からの産物は、血液または硝子体液から流出、排出、分泌、または別途採取されたタンパク質であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記試料は組織を含み、前記保存試料を凍結するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記凍結保存試料を切断するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記試料のパラフィン埋め込みは行われないことを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記試料中の少なくとも1つのリンタンパク質のリン酸化状態を解析するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項18乃至20のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記試料は、全血、硝子体液、または全血あるいは硝子体液の分画であり、前記試料中の前記保存リンタンパク質は、FACS解析または磁気捕捉によってさらに解析されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記リンタンパク質を、保存する前に、外部エネルギー源で処理することによって変性させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項18乃至24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記外部エネルギー源は、超音波、赤外線、マイクロ波、電気、電磁、RF(高周波)、圧力、熱、または化学エネルギーであることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中のリンタンパク質の保存状態を判断するための方法であって、表1に列挙した1つ以上の前記内因性代理マーカーのリン酸化状態を測定するステップを含む、方法。
【請求項28】
リン酸化が測定される前記内因性代理マーカーは、STAT−3、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
5つ以上の前記内因性代理マーカーのリン酸化状態が測定されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
10以上の前記内因性代理マーカーのリン酸化状態が測定されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
表2−1〜表2−3に列挙した1つ以上の前記内因性タンパク質、または炎症マーカーのリン酸化状態も測定されることをさらに特徴とする、請求項27乃至30のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
測定される前記内因性代理マーカーは、その保存状態が細胞集団におけるリンタンパク質の保存状態と相関する、非リン酸化タンパク質分子をさらに含むことを特徴とする、請求項27乃至31のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記試料は、対象から採取されたが、まだ安定化手順に供されていないことを特徴とする、請求項29乃至32のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記試料は、前記安定化手順前の4時間未満内に前記対象から採取されたことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記試料における前記内因性代理マーカーの保存状態に基づいて、分子診断解析を進めるかどうかを決定するステップをさらに含む、請求項29乃至33のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
極めて不安定な内因性代理マーカーである、STAT−3、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1に特異的な一連の抗体。
【請求項37】
表1の5つ以上の前記極めて不安定な内因性代理マーカーに特異的な一連の抗体。
【請求項38】
表1の10以上の前記極めて不安定な内因性代理マーカーに特異的な一連の抗体。
【請求項39】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料における、リンタンパク質の保存状態を、2つの異なる時点で判断するための方法であって、第1の時点において、1つ以上の代理リンタンパク質マーカーを含むセンチネルを前記試料と接触させるステップと、第2の時点において、前記センチネルを採取するステップと、前記2つの時点において、前記センチネルの前記代理リンタンパク質のリン酸化状態を測定および比較するステップと、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項40】
前記第1の時点は、前記試料を対象から採取する時点であり、前記第2の時点は、前記試料のプロテオーム解析を開始する時点であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
対象からの前記試料の採取と解析手順の開始との間の時間量を判断することを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーは、表1に列挙した前記極めて不安定なリンタンパク質マーカーから選択されることを特徴とする、請求項39乃至41のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーは、STAT−3、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1であることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
5つ以上の代理リンタンパク質マーカーが、表1に列挙した前記極めて不安定なリンタンパク質マーカーから選択されることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
10以上の代理リンタンパク質マーカーが、表1に列挙した前記極めて不安定なリンタンパク質マーカーから選択されることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーが、表2−1〜表2−3に列挙した前記内因性タンパク質、または炎症マーカーから選択されることをも特徴とする、請求項39乃至45のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記内因性代理マーカーは、その保存状態が前記細胞集団におけるリンタンパク質の保存状態と相関する、非リン酸化タンパク質分子を含むことをさらに特徴とする、請求項39乃至46のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記粒子体は、磁気ナノ粒子であることを特徴とする、請求項39乃至47のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーは、リンカーを介して前記粒子体と関連することを特徴とする、請求項39乃至48のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記センチネルを前記試料中の細胞および/または組織に導入するステップを含むことを特徴とする、請求項39乃至49のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記センチネルは、透過剤の存在下で、前記細胞および/または組織に導入されることを特徴とする、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
1つ以上の代理リンタンパク質マーカーと関連する粒子体であるセンチネル。
【請求項53】
前記粒子体が、表1に列挙した1つ以上の前記代理リンタンパク質マーカーと関連することを特徴とする、請求項52に記載のセンチネル。
【請求項54】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料における関心対象の1つ以上のリンタンパク質の保存状態を判断するためのキットであって、請求項52または53に記載の1つ以上のセンチネルを1つ以上の容器に含み、任意で、前記センチネルに関連する前記代理リンタンパク質マーカーのリン酸化状態を測定するための試薬を含むことを特徴とする、キット。
【請求項55】
試料中の関心対象のリンタンパク質のリン酸化状態が、関心対象の前記リンタンパク質の分子特性化を行うために適切であるかどうかを判断するための方法であって、前記試料は、細胞、組織、体液、または細胞産物を含み、かつ対象から採取されており、前記方法は、
第1の時点において、前記試料が前記対象から採取されると同時に、前記試料を室温で、代理リンタンパク質マーカーを含む請求項52または53に記載のセンチネル、および請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の保存剤と接触させ、それにより、前記試料中の関心対象の前記リンタンパク質を固定および安定化するステップと、
第2の時点において、前記試料中のリンタンパク質の分子特性化が行われ、前記センチネルを前記試料から抽出するステップと、
その後、前記センチネルに関連する前記代理リンタンパク質マーカーの保存状態を測定し、それにより、前記代理リンタンパク質マーカーの保存状態が、前記試料中の関心対象の前記リンタンパク質の保存状態がその分子の特性化に適切であることを示すかどうかを判断するステップと、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項56】
細胞または組織標本を収集および保存するための装置であって、請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の保存剤を含有する第2の室に接続される、特定量の試料を切除または調達する第1の室を含み、単一の操作で、前記試料が調達され、前記室内の前記保存剤に浸漬されるようにすることを特徴とする、装置。
【請求項57】
前記第2の室が取り外し可能であり、組織の切断または分子処理に直接使用できることを特徴とする、請求項56に記載の装置。
【請求項1】
室温で、リンタンパク質を含む試料と接触する際、リンタンパク質を固定および安定化し、細胞形態を保存し、前記試料を凍結して分子解析に適切なクリオスタット凍結切片の生成を可能にし得る組成物であって、
a.リンタンパク質の固定に有効であり、安定剤および/または透過性増強剤を可溶するのに十分な含水量を有する固定剤と、
b.(i)キナーゼ阻害剤および(ii)ホスファターゼ阻害剤、ならびに任意で(iii)プロテアーゼ阻害剤を含む安定剤と、
c.透過性増強剤と、を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記固定剤は、約10%から約40%のエタノール、約10%から40%のメタノール、約10%から40%のベンジルアルコール、または約5%から15%のアセトンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記固定剤は、エタノールを約20%未満の濃度で、またはメタノールを約20%未満の濃度で含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記固定剤中の前記エタノールの濃度が約12%であるか、または前記メタノールの濃度が約12%であることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記固定剤は、バイオセラミック、クエン酸ポリジオール、キトサン、またはヒドロキシアパタイトから成る粒子状物質、キレート化剤、トリクロロ酢酸(TCA)、クロロホルム/メタノール、または硫酸アンモニウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記キナーゼ阻害剤および/または前記ホスファターゼ阻害剤は、酵素の活性を直接阻害し、前記キナーゼ阻害剤は、キナーゼ基質ATPを干渉し、および/または前記ホスファターゼ阻害剤は、リンタンパク質上のリン酸基と相互作用するか、または前記ホスファターゼの偽基質として作用することを特徴とする、請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記キナーゼ阻害剤は、スタウロスポリンまたはゲニステインであり、
前記ホスファターゼ阻害剤は、オルトバナジン酸ナトリウムまたはβグリセロリン酸であり、
前記任意のプロテアーゼ阻害剤は、アルカリ性、酸性、中性、セリン、システイン、アスパラギン、または金属プロテイナーゼの阻害剤であることを特徴とする、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ホスファターゼ阻害剤は、濃度が約100mMから約400mMの間のオルトバナジン酸ナトリウム、または濃度が約375mMから約1.5Mの間のβグリセロリン酸であり、
前記キナーゼ阻害剤は、濃度が約5.0μMから20.0μMの間のスタウロスポリン、または濃度が約0.5μMから2.0μMの間のゲニステインであることを特徴とする、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記透過性増強剤は、ポリマー、タンパク質、ナノ粒子、または脂質であることを特徴とする、請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記透過性増強剤は、約0.5%から約15%PEGであることを特徴とする、請求項1乃至8のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
膜受容体阻害剤、膜安定剤、細胞形態保存剤、架橋結合剤、および/またはアデノシン三リン酸加水分解酵素阻害剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至10のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記安定剤は、前記透過性増強剤に付着することを特徴とする、請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記安定剤および前記透過性増強剤は、ナノ粒子に付着することを特徴とする、請求項1乃至11のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の組成物の成分を1つ以上の容器に含む、細胞リンタンパク質を室温で固定および安定化するためのキット。
【請求項15】
前記成分は、液体形態、乾燥形態、または両方であることを特徴とする、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記組成物の不安定な成分は乾燥形態であり、残りの成分は液体形態であることを特徴とする、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記乾燥型成分は、表面上に被覆を形成し、前記組成物の残りの成分を含む液体との接触によって再構成され得ることを特徴とする、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料において、室温でリンタンパク質を保存するための方法であって、前記試料におけるリンタンパク質の保存に有効な条件下、前記試料を室温で請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項19】
前記細胞は分散した細胞集団に由来し、
前記体液は、全血、硝子体液、または全血あるいは硝子体液の分画であり、および/または
前記細胞からの産物は、血液または硝子体液から流出、排出、分泌、または別途採取されたタンパク質であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記試料は組織を含み、前記保存試料を凍結するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記凍結保存試料を切断するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記試料のパラフィン埋め込みは行われないことを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記試料中の少なくとも1つのリンタンパク質のリン酸化状態を解析するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項18乃至20のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記試料は、全血、硝子体液、または全血あるいは硝子体液の分画であり、前記試料中の前記保存リンタンパク質は、FACS解析または磁気捕捉によってさらに解析されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記リンタンパク質を、保存する前に、外部エネルギー源で処理することによって変性させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項18乃至24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記外部エネルギー源は、超音波、赤外線、マイクロ波、電気、電磁、RF(高周波)、圧力、熱、または化学エネルギーであることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料中のリンタンパク質の保存状態を判断するための方法であって、表1に列挙した1つ以上の前記内因性代理マーカーのリン酸化状態を測定するステップを含む、方法。
【請求項28】
リン酸化が測定される前記内因性代理マーカーは、STAT−3、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
5つ以上の前記内因性代理マーカーのリン酸化状態が測定されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
10以上の前記内因性代理マーカーのリン酸化状態が測定されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
表2−1〜表2−3に列挙した1つ以上の前記内因性タンパク質、または炎症マーカーのリン酸化状態も測定されることをさらに特徴とする、請求項27乃至30のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
測定される前記内因性代理マーカーは、その保存状態が細胞集団におけるリンタンパク質の保存状態と相関する、非リン酸化タンパク質分子をさらに含むことを特徴とする、請求項27乃至31のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記試料は、対象から採取されたが、まだ安定化手順に供されていないことを特徴とする、請求項29乃至32のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記試料は、前記安定化手順前の4時間未満内に前記対象から採取されたことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記試料における前記内因性代理マーカーの保存状態に基づいて、分子診断解析を進めるかどうかを決定するステップをさらに含む、請求項29乃至33のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
極めて不安定な内因性代理マーカーである、STAT−3、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1に特異的な一連の抗体。
【請求項37】
表1の5つ以上の前記極めて不安定な内因性代理マーカーに特異的な一連の抗体。
【請求項38】
表1の10以上の前記極めて不安定な内因性代理マーカーに特異的な一連の抗体。
【請求項39】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料における、リンタンパク質の保存状態を、2つの異なる時点で判断するための方法であって、第1の時点において、1つ以上の代理リンタンパク質マーカーを含むセンチネルを前記試料と接触させるステップと、第2の時点において、前記センチネルを採取するステップと、前記2つの時点において、前記センチネルの前記代理リンタンパク質のリン酸化状態を測定および比較するステップと、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項40】
前記第1の時点は、前記試料を対象から採取する時点であり、前記第2の時点は、前記試料のプロテオーム解析を開始する時点であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
対象からの前記試料の採取と解析手順の開始との間の時間量を判断することを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーは、表1に列挙した前記極めて不安定なリンタンパク質マーカーから選択されることを特徴とする、請求項39乃至41のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーは、STAT−3、CC−3(開裂カスパーゼ−3)およびASK−1であることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
5つ以上の代理リンタンパク質マーカーが、表1に列挙した前記極めて不安定なリンタンパク質マーカーから選択されることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
10以上の代理リンタンパク質マーカーが、表1に列挙した前記極めて不安定なリンタンパク質マーカーから選択されることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーが、表2−1〜表2−3に列挙した前記内因性タンパク質、または炎症マーカーから選択されることをも特徴とする、請求項39乃至45のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記内因性代理マーカーは、その保存状態が前記細胞集団におけるリンタンパク質の保存状態と相関する、非リン酸化タンパク質分子を含むことをさらに特徴とする、請求項39乃至46のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記粒子体は、磁気ナノ粒子であることを特徴とする、請求項39乃至47のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記1つ以上の代理リンタンパク質マーカーは、リンカーを介して前記粒子体と関連することを特徴とする、請求項39乃至48のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記センチネルを前記試料中の細胞および/または組織に導入するステップを含むことを特徴とする、請求項39乃至49のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記センチネルは、透過剤の存在下で、前記細胞および/または組織に導入されることを特徴とする、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
1つ以上の代理リンタンパク質マーカーと関連する粒子体であるセンチネル。
【請求項53】
前記粒子体が、表1に列挙した1つ以上の前記代理リンタンパク質マーカーと関連することを特徴とする、請求項52に記載のセンチネル。
【請求項54】
細胞、組織、体液、または細胞産物を含む試料における関心対象の1つ以上のリンタンパク質の保存状態を判断するためのキットであって、請求項52または53に記載の1つ以上のセンチネルを1つ以上の容器に含み、任意で、前記センチネルに関連する前記代理リンタンパク質マーカーのリン酸化状態を測定するための試薬を含むことを特徴とする、キット。
【請求項55】
試料中の関心対象のリンタンパク質のリン酸化状態が、関心対象の前記リンタンパク質の分子特性化を行うために適切であるかどうかを判断するための方法であって、前記試料は、細胞、組織、体液、または細胞産物を含み、かつ対象から採取されており、前記方法は、
第1の時点において、前記試料が前記対象から採取されると同時に、前記試料を室温で、代理リンタンパク質マーカーを含む請求項52または53に記載のセンチネル、および請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の保存剤と接触させ、それにより、前記試料中の関心対象の前記リンタンパク質を固定および安定化するステップと、
第2の時点において、前記試料中のリンタンパク質の分子特性化が行われ、前記センチネルを前記試料から抽出するステップと、
その後、前記センチネルに関連する前記代理リンタンパク質マーカーの保存状態を測定し、それにより、前記代理リンタンパク質マーカーの保存状態が、前記試料中の関心対象の前記リンタンパク質の保存状態がその分子の特性化に適切であることを示すかどうかを判断するステップと、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項56】
細胞または組織標本を収集および保存するための装置であって、請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の保存剤を含有する第2の室に接続される、特定量の試料を切除または調達する第1の室を含み、単一の操作で、前記試料が調達され、前記室内の前記保存剤に浸漬されるようにすることを特徴とする、装置。
【請求項57】
前記第2の室が取り外し可能であり、組織の切断または分子処理に直接使用できることを特徴とする、請求項56に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A−13D】
【図2】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A−13D】
【公表番号】特表2010−515012(P2010−515012A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534677(P2009−534677)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/022744
【国際公開番号】WO2008/073187
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509118330)ジョージ メイソン インテレクチュアル プロパティーズ,インコーポレイテッド オブ フェアファックス,バージニア (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/022744
【国際公開番号】WO2008/073187
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509118330)ジョージ メイソン インテレクチュアル プロパティーズ,インコーポレイテッド オブ フェアファックス,バージニア (3)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]