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組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法
説明

組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法

【課題】組織傷害あるいは細胞増殖性疾患をより簡便な方法で確実に検出する方法を提供すること。
【解決手段】組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを検出することを特徴とする、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を検出する方法に関する。詳細には、本発明は、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを検出することにより、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を検出する方法に関する。さらに本発明は、上記被験者から採取された血清あるいは血漿中の特定のmicroRNA量を複数回測定し、該測定結果により、被験者の組織傷害や細胞増殖性疾患の状態を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
microRNA(以下、「miRNA」という場合がある)はタンパク質に翻訳されない非コードRNAであり、長さが約22ヌクレオチドの1本鎖RNAである。動物、植物において多種類のmiRNAの存在が報告されており、ヒトmiRNAは現在約500種類が知られている( miRBase: Sanger database登録)。
miRNAはRNA polymerase IIにより転写され、primary-miRNA(以下、「pri-miRNA」という)が生合成される。pri-miRNAは通常、数百から千ヌクレオチドほどの長い配列を有している。pri-miRNAは通常、5'末端にキャップ構造、3'末端にポリアデニンが付加した構造をとり、タンパク質をコードするメッセンジャーRNA(以下、「mRNA」という)と類似の構造を有している。
【0003】
pri-miRNAはヘアピン様のステムループ二次構造を形成し、500-650kDaのマイクロプロセッサー複合体と結合する。マイクロプロセッサー複合体は、RNase IIIエンドヌクレアーゼであるDroshaと、2本鎖RNA結合ドメインを有するタンパク質であるDGCR8/Pashaで構成される。pri-miRNAはプロセッシングを受け、60-70ヌクレオチドのpre-miRNAが生合成される。
【0004】
pre-miRNAは、Ranトランスポートレセプターファミリーに属するExportin-5(以下、「Exp5」という)により細胞質に移行する。細胞質において、pre-miRNAは第二のRnase IIIエンドヌクレアーゼであるDicerによりプロセッシングを受け、短い2本鎖のmiR NA:miRNA*duplexを形成する。
【0005】
最終的に、miRNA:miRNA*duplexは、ヘリカーゼにより1本鎖に変性され成熟型のmiRNAとmiRNA*になる。成熟型miRNAはRNA-induced silencing complex(以下、「RISC」という)に取り込まれる。RISC complexとしてmiRNAはmRNA分解や転写後抑制に働き、遺伝子発現を制御する。成熟型miRNA*は速やかに分解される。
miRNAはmRNA切断、翻訳抑制、あるいはmRNA分解により遺伝子発現調節に機能することが知られており、mRNA切断と翻訳抑制は同じ機構で行われる。
【0006】
RISC内miRNAのヌクレオチド配列が、標的となるmRNAのタンパク質コード領域またはオープンリーディングフレーム上の配列と、完全にまたはほぼ完全に一致して結合した場合、RISCは標的mRNAを切断する。一方、RISC内miRNAのヌクレオチド配列が、標的mRNAの3'-非翻訳領域上の配列と、不完全に一致して結合した場合、RISCは標的mRNAを翻訳段階で阻害して遺伝子発現を抑制することが知られている。
mRNA 3'末端のポリアデニン(以下、「ポリ(A)」という)はmRNAの安定性を増強してRNA分解を回避していることが知られている。miRNAは脱ポリ(A)反応に直接作用することにより、mRNA分解に関与することが明らかにされている。
【0007】
一般的には、細胞の正常な増殖、分化、アポトーシスが破綻をきたし、無秩序に細胞が増殖する現象が、がん化と考えられている。miRNAは細胞の増殖やアポトーシスを制御することが明らかにされており(非特許文献1、及び2)、がんとの関連の可能性について研究が行われている。具体的には以下に詳細に記載する。
【0008】
ヒト慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia)(以下、「CLL」という)は欧米で最も多い成人白血病である。13番染色体長腕(13q14)領域の欠失が知られており、B細胞CLL(以下、「B-CLL」という)の過半数の症例で13q14領域の欠失が認められている。miR-15a遺伝子、及びmiR-16a遺伝子は13q14領域に座位しており、CLL患者の68%程度において、miR-15a、miR-16a発現量はゼロ、あるいは低下が認められている(非特許文献3)。B-CLL患者検体を材料にマイクロアレイを用いた発現プロファイリングからも、miR-15a、miR-16a発現量の低下が判明している(非特許文献4、5及び6)。
また、miR-15a遺伝子、miR-16a遺伝子発現による遺伝子治療用ベクターが特許出願されている(特許文献1)。
【0009】
肺がんは成人で最も多いがんのひとつであり、先進国においてがんによる死亡率が最も高いがんである。肺がんの進展にmiRNAの1種let-7が関わる可能性があること、少なくとも肺がんの病因における重要な因子であることが示唆されている。肺がんの病期に関わらずがん組織のlet-7発現量低下と術後生存率の短いことに関連があること、let-7を過剰発現させると肺腺がん由来細胞株であるA549の増殖が阻害されることが明らかにされている(非特許文献7)。RASとMYC はp53とともに肺がんの原がん遺伝子であることが知られている。RASとMYCの3'-非翻訳領域上にはlet-7の相補的配列が存在し、let-7は翻訳段階で阻害することによりRASとMYCの遺伝子発現を負に制御していることが確認されている。肺がん組織では正常肺組織と比較してlet-7タンパク量の増加が確認されており、let-7によるRASの制御は肺がん誘発に関与することが示唆されている(非特許文献8)。
また、let-7発現量の測定による肺がんの予後判定方法、let-7遺伝子発現による遺伝子治療用ベクターが特許出願されている(特許文献2)。
【0010】
さらに、7種類のmicroRNA(miR-17-5p, miR-17-3p, miR-18, miR-19a, miR-20, miR-19b, miR-92)で構成されるmiR-17-92クラスター(以下、「miR-17-92クラスター」という)が肺がんに関与する可能性も示唆されている。肺がん、特に小細胞肺がんではmiR-17-92クラスター発現量が顕著に増加しており、肺がん細胞の増殖を高めることが明らかにされている(非特許文献9)。in silicoでの解析からmiR-17-92クラスターはがん抑制遺伝子であるPTENとRB2に作用することが予測されている(非特許文献10)。小細胞肺がんにおいて、miR-17-92クラスターと原がん遺伝子c-mycの両方またはいずれか一方が、遺伝子増幅あるいは過剰発現していることが報告されている(非特許文献11)。miR-17-92クラスターが遺伝子増幅はなく過剰発現していることが、myc遺伝子ファミリーの1つ以上の遺伝子の過剰発現と相関するとの報告されており(非特許文献9)、myc遺伝子の過剰発現によりmiR-17-92クラスターが過剰発現することが示唆されている。
【0011】
乳がんは成人女性で最も重要度の高いがんのひとつである。miRNAマイクロアレイ解析を用いて乳がん組織76例と正常組織10例の発現量を調べた結果、乳がん組織では正常組織に比べてmiR-125b、miR-145、miR-21、及びmiR-155発現量が有意に低下していることが判明した。さらにmiR-125b、miR-145、miR-21、及びmiR-155発現量が、乳がんの病期、増殖指標、エストロジェンレセプターとプロジェステロンレセプター発現量、血管への浸潤度などの特長と関連していることが明らかになっている(非特許文献12)。
【0012】
多形性グリオブラストーマは最も発生頻度が高く悪性度の高い原発性脳腫瘍であり、浸潤性、活動性が非常に高く治療が不可能ながんのひとつである。多形性グリオブラストーマと正常脳組織の発現量を調べた結果、グリオブラストーマでは正常脳に比べてmiR-221 発現量が大幅に増加し、miR-181a、miR-181b、及びmiR-181c発現量は低下していることが判明した(非特許文献13)。また、悪性度の非常に高いグリオブラストーマ組織、グリオブラストーマ初代培養物、グリオブラストーマ由来継代培養細胞においてmiR-21発現量が大幅に増加していることが報告されている(非特許文献14)。miR-21のノックダウン実験から、miR-21がグリオブラストーマ由来継代培養細胞において抗アポトーシス因子として作用することが示された。このことから、miR-21の異常な発現亢進により重要なアポトーシス関連遺伝子の発現が阻害され、重篤な脳腫瘍を引き起こすことが推察されている(非特許文献14)。
【0013】
BIC遺伝子は数種のがんと関連し、BIC活性化が白血病やリンパ腫の発症を加速することが知られている。ホジキンリンパ腫や小児のバーキットリンパ腫では正常リンパ組織に比べBIC発現が亢進している。これらの知見からBICはホジキンリンパ腫や、小児のバーキットリンパ腫などの原がん遺伝子であることが推察されているが、BICが関連するがん発症の分子機構は不明である。miR-155はBIC遺伝子内の系統学的に保存された領域に座位し、また、miR-155が多くのB細胞由来リンパ腫、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(以下、「DLBCL」という)のような活動性の高いB細胞腫で過剰発現していることが判明した。活動性高いDLBCLでは活動性の低いCLLなどに比べ、miR-155発現量が10-60倍程度増加している(非特許文献16)。miR-155の他には、miR-15aがDLBCLで発現量が低下していること(非特許文献15)、多くの種類のリンパ腫でmiR-17-92クラスターが過剰発現していることなど報告されている(非特許文献16)。
【0014】
甲状腺乳頭がん(以下、「PTC」という)は甲状腺がんの約80%を占め、最も悪性度が高い。PTCはRET/PTC-RAS-BRAFシグナル伝達経路の変化と関連することが知られているものの、詳細な分子機構は不明である。PTCと正常な甲状腺組織の発現量を調べた結果、PTCでは正常な甲状腺組織に比べてmiR-221、miR-222、及びmiR-146発現量が大幅に増加していることが判明した(非特許文献17)。また甲状腺がんにおいてmiR-221、miR-222、及びmiR-146発現量の増加に対し、原がん遺伝子であるKITのmRNA及びタンパク量が減少していることも判明し、KITの遺伝子発現調節へのmiR-221、miR-222、及びmiR-146の関与が示唆された。in silicoでの解析からKITはmiR-221、miR-222、及びmiR-146の標的になることが予測されている(非特許文献18、19及び20)。
【0015】
結腸線腫では正常粘膜に比べてmiR-143、及びmiR-145発現量が低下していること(非特許文献21)、精巣胚細胞腫瘍(以下、「TGCTs」という)においてmiR-372、及びmiR-373が過剰発現している(非特許文献22)との報告がある。さらに肝細胞がん(以下、「HCC」という)ではmiR-18、及びmiR-224発現量が大幅に増加し、miR-199a*、miR-195、miR-199a、miR-200a、及びmiR-125a発現量は低下しているとの報告がある(非特許文献23)。
【0016】
上述したように、miRNAは細胞の増殖やアポトーシスを調節することによりがんの進展に関わったり、原がん遺伝子やがん抑制遺伝子に作用することでがんに関与することが示唆されている。これはmiRNAが、がんの診断用マーカーとして応用できる可能性を示すものである。しかしながら、上述したmiRNA発現量測定に関する報告はすべてがん組織を材料に用いたものであるため、検体検査用として容易に採取できるものではなく、現在、臨床検査で用いられている腫瘍マーカーとして利用することが難しく、さらに簡便な検査方法が求められていた。
【0017】
がん組織に比べて採取が容易な検体としては、血液、リンパ液、骨髄液、脳脊髄液など体液に浮遊するがん組織由来の細胞(以下、「浮遊細胞」という)が挙げられる。浮遊細胞は、Fluorescence activated cell sorting(以下、「FACS」という)などの細胞分画装置を用いて回収される。血液中の浮遊細胞を検査用検体として、miR-15発現量測定による前立腺がんの検出方法、miR-35発現量測定による腎臓がんの検出方法、miR-16発現量測定による脳腫瘍、肝臓がん、肺がんの検出方法、miR-375発現量測定によるすい臓がんの検出方法が報告されている(特許文献3)。
【0018】
しかしながら、浮遊細胞は体液中に常に均一に存在しているとは考えにくく、したがって体液の一部を採取することでがん組織由来の細胞を確実に獲得するのは困難であった。
新たな検査材料として考えられるのが、体液中に浮遊する遊離核酸(以下、「遊離核酸」という)である。体液中には、微量であるものの検出可能なレベルの遊離核酸の存在が知られており、遊離DNA、及び遊離mRNAが検出されている。遊離核酸は、体液の種類によって分類されており、全血、血清、血漿、及び、リンパ液など、循環する体液に存在する遊離核酸は循環核酸、尿、痰、射精物、精液、涙、汗、唾液、気管支洗浄液、胸水、腹膜液、髄膜液、羊水、腺液、細針吸引物、乳頭吸引液、髄液、膣液、十二指腸液、膵液、胆柔、及び、脳脊髄液などの体液に存在する遊離核酸は細胞外核酸、または無細胞核酸と呼ばれている。
【0019】
遊離核酸が体液中に放出される機構は不明であるものの、ネクローシス、アポトーシス、能動的放出などが考えられている。遊離DNAの形態については、遊離DNAは"むき出し"の状態ではなく、他のタンパク質等と複合体を形成したり、核酸と特異的に結合するタンパク質を介して細胞表面に結合した状態で、体液中に放出されると考えられている。その他、赤血球や白血球の細胞膜と結合した状態、アポトーシス小胞に包含された状態、p53タンパク質と複合体を形成した状態などの報告がある。
【0020】
遊離mRNAの形態については、タンパク脂質と複合体を形成した状態、アポトーシス小胞に包含された状態の報告があり、遊離mRNAはRNA分解酵素から保護されて血液中で一定期間存在すると考えられている。
【0021】
しかしながら、miRNAについては血清や血漿などの体液中に遊離して存在するか否かについては全く明らかにされていなかった。さらに、血清や血漿などの体液中に遊離して存在するmicroRNA量を特定することにより、組織傷害や細胞増殖性疾患を検出することが可能か否かは全く明らかにされておらず、血清や血漿などの体液中のmicroRNA量の増加を検出することにより、組織傷害や細胞増殖性疾患の存在を検出することについての試みは全くなされていなかった。
【0022】
【非特許文献1】Cheng, A.M. et al., 2005. Nucleic Acids Res. 33, 1290-1297.
【非特許文献2】Tanno, B. at al., 2005. Cell Death Differ. 12, 213-223.
【非特許文献3】Calin, G.A. et al., 2002. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99, 11755-11760.
【非特許文献4】Iorio, M.V. et al., 2005. Cancer Res. 65, 7065-7070.
【非特許文献5】Calin, G.A. et al., 2004. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 101, 15524-15529.
【非特許文献6】Calin, G.A. et al., 2004. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 101, 2999-3004.
【非特許文献7】Takamizawa, J. et al., 2004. Cancer Res. 64, 3753-3756.
【非特許文献8】Johnson, S.M. et al., 2005. Cell 120, 635-647.
【非特許文献9】Hayashita, Y. et al., 2005. Cancer Res. 65, 9628-9632.
【非特許文献10】Lewis, B.P., 2003. Cell 115, 787-798.
【非特許文献11】O'Donnell, K.A. et al., 2005. Nature 435, 839-843.
【非特許文献12】Iorio, M.V. et al., 2005. Cancer Res. 65, 7065-7070.
【非特許文献13】Ciafre, S.A. et al., 2005. Biochem. Biophys. Res. Commun. 334, 1351-1358
【非特許文献14】Chan, J.A. et al., 2005. Cancer Res. 65, 6029-6033.
【非特許文献15】Eis, P.S. et al., 2005. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 102, 3627-3632.
【非特許文献16】He, L. et al., 2005. Nature 435, 828-833.
【非特許文献17】He, H.L. et al. 2005. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 102, 19075-19080.
【非特許文献18】John, B. et al., 2004. PLOS Biol. 2, 1862-1879.
【非特許文献19】Krek, A. et al., 2005. Nat. Genet. 37, 495-500.
【非特許文献20】Rehmsmeier M. et al., RNA-a Publication of the RNA Society. 10, 1507-1517.
【非特許文献21】Michael, M.Z. et al., 2003. Mol. Cancer Res. 1, 882-891.
【非特許文献22】Voorhoeve, P.M. et al., 2006. Cell 124, 1169-1181.
【非特許文献23】Murakami, Y. et al., 2006. Oncogene 25, 2537-2545.
【特許文献1】特表2006-506469号公報
【特許文献2】特開2005-192484号公報
【特許文献3】米国特許公開公報20070054287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明が解決しようとする課題は、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患をより簡便な方法で確実に検出する方法を提供することである。本発明が解決しようとする別の課題は、被験者の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を複数に渡り検出し、該組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態をモニタリングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、組織傷害あるいは細胞増殖性患者から採取された血清や血漿中には多種類の遊離miRNAが豊富に存在することを見出した。さらに、その血清や血漿中の遊離miRNA量を健常者と比較することにより特定の遊離miRNAでは、健常者に比べて明らかに増加しているものがあることを見出した。また、該血清や血漿中の遊離miRNA量の増加、減少を複数回検出し、それらの結果を比較することにより、組織傷害や細胞増殖性疾患の状態をモニタリングし得ることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものである。
【0025】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを検出することを特徴とする、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法。
(2) 遊離microRNAの検出が、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の特定のmicroRNA量が、健常人から採取された
血清あるいは血漿中の同じmicroRNA量より多いことを指標とすることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3) 組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出が、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを複数回に渡って検出し、該検出結果から、該被験者の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態をモニタリングすることを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
【0026】
(4) 組織傷害あるいは細胞増殖性疾患が、脳の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患であり、遊離microRNAが、脳の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患に伴って放出されるものである(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 遊離microRNAが、miR-9、及びmiR-124aから選択される1種以上であることを特徴とする(4)に記載の方法。
(6) 組織傷害あるいは細胞増殖性疾患が、肝臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患であり、遊離microRNAが、肝臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患に伴って放出されるものである(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0027】
(7) 遊離microRNAが、miR-122aであることを特徴とする(6)に記載の方法。
(8) 遊離microRNAの検出が、逆転写反応リアルタイムPCR法、ノザンブロット法、マイクロアレイ法あるいはビーズアレイ法のいずれかの方法で行われることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 遊離microRNA抽出手段、及び特定のmicroRNAの検出手段を少なくとも含む、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法を行うための検出キット。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低浸襲性の採取方法で得られる血清あるいは血漿を検査材料として、血清や血漿中の遊離microRNA量の増加を検出することにより組織傷害や細胞増殖性疾患について非侵襲性で簡便で確実な検出方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを検出することを特徴とする、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法である。
【0030】
本発明において、組織傷害あるいは細胞性疾患の疑いのある被験者とは、該疾患の検出が可能であり、また必要性を有するものであれば得に制限はなく、ヒト、サル、ウサギ、マウス、ラット等の哺乳類等が挙げられる。これも被験者から採取された血液から、それ自体周知の適当な方法により血清あるいは血漿を取得することができる。
【0031】
成熟型miRNAとは、タンパク質に翻訳されない非コードRNAであり、長さが約22ヌクレオチドの1本鎖RNAであるmiRNAを意味する。また、本発明においては、遊離miRNAには、成熟型miRNAに加え、生合成過程における前駆体であるpri-miRNA、pre-miRNA、miRNA:miRNA* duplex、成熟型miRNA*が包含される。
【0032】
検出の対象とする疾患の種類としては、上記被験者内の臓器における組織傷害、細胞増殖性疾患であれば特に限定しないが、食道、甲状腺、子宮、リンパ節、胎盤、乳房、膵臓、肝臓、脳、胸腺、心臓、肺、脾臓、精巣、卵巣、腎臓、骨格筋、小腸、結腸、直腸、前立腺、膀胱、副腎、胃などにおける組織傷害あるいは細胞増殖性疾患が挙げられる。上記の中でも特に好ましくは、肝臓あるいは脳における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を挙げることができる。
【0033】
これらの組織傷害あるいは細胞増殖性疾患に伴って放出されるmiRNAとは、該組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を有する患者の血清あるいは血漿中に含まれる量が、健常者のそれに比べて検出可能な程度に多いものを意味する。
【0034】
具体的には、脳の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患(例えば、脳腫瘍など)の検出には、miR-9、miR-124a等が挙げられる。これらのうち1種について検出してもよいし、複数を組み合わせて総合的に判断することもできる。また、肝臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患(例えば、肝臓がんなど)の検出には、miR-122a等が挙げられる。
【0035】
被験者から採取された血清あるいは血漿からmiRNAを抽出する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、AGPC(酸グアニジンフェノールクロロフォルム)法、アンビオン社製mirVana PARISキットなどを用いることができる。
【0036】
上記のように抽出されたmiRNA中に含まれる目的のmiRNAを測定する方法としては、本発明で検出するmiRNAの発現量を検出できる方法であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ノザンブロット法、逆転写反応リアルタイムPCR法、マイクロアレイ法、ビーズアレイ法などが挙げられる。逆転写反応リアルタイムPCR法によれば、本発明で検出するmiRNAに相補的な逆転写反応用プライマー、及びPCR用プライマーを用いて、例えば相補的なTaqManプローブのような蛍光標識プローブを介して、本発明で検出するmiRNAを定量的に検出することができる。
【0037】
ヒトmiRNAは現在約500種類が知られており、それらの塩基配列も公知である(miRBase: Sanger database登録)。当業者は、これら公知の塩基配列に基づいて、本発明で検出すべきmiRNAに相補的な逆転写反応用プライマー及びPCR用プライマーの塩基配列を設計して合成することができるが、市販のキットに添付のプライマーを用いることもできる。市販のキットとしては、例えば、TaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)等が好ましく用いられる。
【0038】
マイクロアレイ法、あるいはビーズアレイ法によれば、当業者は、公知の塩基配列に基づいて、本発明で検出すべきmiRNAに相補的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの塩基配列を設計して、ガラススライド基板、プラスチックスライド基板、磁性ビーズなどに固定化したものを用いればよい。これは市販のキットを用いることもできる。市販のキットとしては、例えば、miRCURY Array(Exiqon)、FlexmiR microRNA(Luminex)等が好ましく用いられる。
【0039】
かくして測定された特定のmiRNA量は、コントロールとして健常者の血清あるいは血漿中にある同じmiRNA量と比較される。健常者の値(コントロール値)よりも優位に多く該miRNAが測定されれば、該被検体は特定の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を有していると判断することができる。
【0040】
また、本発明は、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを複数回に渡って、時系列で検出し、該検出結果から、該被験者の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態のモニタリングを行う方法も含まれる。
【0041】
被験者の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態のモニタリングとは、例えば、がんの外科的療法、化学療法、放射線療法、免疫療法、あるいは動脈塞栓術等で、治療後のがん組織の状態や術後の組織の状態などを検査し、治療効果の確認などを行うことを意味する。
【0042】
さらに本発明によれば、遊離microRNA抽出手段、及び特定のmicroRNAの検出手段を少なくとも含む、上記した本発明による組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法を行うための検出キットが提供される。
【0043】
遊離microRNA抽出手段としては、例えば、例えば、AGPC(酸グアニジンフェノールクロロフォルム)法を行うための試薬などを挙げることができる。また、特定のmicroRNAの検出手段としては、特定のmicroRNAを逆転写反応リアルタイムPCR法で検出する際に使用する当該microRNAに特異的なプライマー、及び逆転写反応リアルタイムPCR法を行うための試薬(逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド3リン酸など)などを挙げることができる。
【0044】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例によってその技術的範囲が限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1 血漿中に存在する遊離microRNAの濃度レベル測定
〔材料及び方法〕
採血および血漿分離
本研究への参加について同意を得られた健常人ボランティア1名より、ベノジェクトII真空採血管EDTA-2Na 採血量7mL(テルモ)を用いて採血を行った。採血管を遠心分離(2,400×g, 20℃ 10分間)して血漿を分画し、別の15mL遠心チューブに移注した。血漿を移注した15mL遠心チューブを遠心分離(20,000×g, 20℃ 10分間)し、沈殿物を吸引しないように血漿分画を回収した。回収した血漿を500μLずつ分注した後,Small RNA抽出まで-80℃で凍結保存した。
【0046】
血漿中のSmall RNA抽出
血漿500μLを初発材料に、mirVana PARIS Kit(Ambion)を用い、添付の操作手順書に記載されているEnrichment Procedure for Small RNAsに従い、Small RNAを抽出した。抽出後、滅菌蒸留水を加え、液量が125μLになるよう調整した。Small RNA抽出液はmicroRNA量の測定まで-80℃で凍結保存した。
【0047】
microRNA量の測定
Small RNA抽出液5μLを材料に、TaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)を用い、添付の操作手順書に従い157種類のmicroRNA量を、逆転写反応リアルタイムPCR法により測定した。測定にはSequence Detection System 7700(Applied Biosystems)を使用した。リアルタイムPCR法における立ち上がりサイクル数(Ct)値から240-Ct値を算出し、見かけのコピー数として定量値を示した。Ct値が36以上の場合は240-Ct値を算出するものの、定量限界以下として取扱いした。
【0048】
〔結果〕
健常人ボランティア1名の血漿2μL中に存在するmicroRNA 157種類の測定結果を図1に示した。グラフは、縦軸を見かけのコピー数(目盛は対数表示)、横軸をmicroRNAの種類とし、コピー数の高い順に表示した。
血漿2μLに存在するコピー数として100コピー以上のmicroRNAは調べた157種類のうち98種類であった。1万コピー以上のmicroRNAは31種類あり、10万を超えるものがそのうち3種類存在した。
【0049】
以上の知見から、血漿中には多くのmicroRNAが豊富に存在することが初めて明らかになった。血漿は無細胞であり核酸が存在しないことから、組織よりmicroRNAが遊離して血漿中に存在していることが示唆された。
【0050】
実施例2 ヒト組織におけるmicroRNA発現量と発現パターンの解析
〔材料及び方法〕
ヒト組織total RNA
Ambionより市販されているヒト組織由来のtotal RNA(食道、甲状腺、子宮、乳房、肝臓、肺、精巣、卵巣、腎臓、小腸、結腸、前立腺、膀胱、副腎、胃)を用いた。脳由来total RNA については、Ambion, BioChain, 及びStratageneより市販されているドナーの異なる脳由来total RNA 3種類を使用した。すい臓由来total RNAについては、Ambion, 及びStratageneより市販されているドナーの異なるtotal RNA 2種類を使用した。血球細胞由来のtotal RNAについては、健常人ボランティアよりPAXgene Blood Tube(Becton-Dickinson)を用いて採血した後、PAXgene Blood RNA Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを抽出した。最終的にtotal RNA濃度を2ng/μLに調整した。
【0051】
microRNA量の測定
ヒト組織由来のtotal RNA抽出液5μL(10ng相当量)を材料に、TaqMan MicroRNA Assaysを用い、添付の操作手順書に従って157種類のmicroRNA量を、逆転写反応リアルタイムPCR法により測定した。測定にはSequence Detection System 7700を使用した。Ct値から240-Ct値を算出し、見かけのコピー数として定量値を表示した。Ct値が36以上の場合、240-Ct値を算出するものの、定量限界以下として取扱いした。
【0052】
クラスタ解析
検討に用いたヒト各組織における157種類のmicroRNA測定値(Ct値)を用い、解析ソフトウェア(TIGR)を使用し、ユークリッド距離と平均リンケージを用いた解析により、階層的クラスタ解析を行った。
【0053】
〔結果〕
ヒト組織におけるmicroRNA発現量
ヒト各組織由来total RNA 10ngあたりのmicroRNA 157種類の測定結果を図2に示した。グラフは、縦軸を見かけのコピー数(目盛は対数表示)として各組織の値をプロットした。横軸をmicroRNAの種類とし、各組織における発現コピー数の中央値が高い順に表示した。
【0054】
ヒト組織におけるmicroRNA発現パターン
ヒト各組織におけるmicroRNA発現量に基づいたクラスタ解析の結果を図3に示した。発現量の高低をグレーの濃淡で表し,組織と組織の間で統計学的に近いものをデンドログラムで表示した。
クラスタ解析では、ドナーの異なる脳3種類、すい臓2種類がそれぞれ最も近いクラスに分類された。さらに、発生学的に類似している小腸と結腸が最も近いクラスに分類された。クラスタ解析で最も遠いクラスと分類された脳と血球は、発現パターンの違いが顕著であった。これらの知見から、microRNAの発現パターンは発生学における類似性、各組織の特異性を反映していることが判明した。
【0055】
実施例3 組織特異的なmicroRNAの探索
〔方法〕
ヒト各組織におけるmicroRNA発現量(実施例2での取得データ)を比較し、「発現量が1番高い組織での発現量が5万コピー以上、2番目の組織との発現比が10倍以上」であるmicroRNAを組織特異的microRNAと定義し、該当するmicroRNAを探索した。
【0056】
〔結果〕
その結果、miR-9, miR-124aは脳特異的であること、miR-122aは肝臓特異的であることが判明した。これらの組織別発現パターンを図4〜図6に示した。脳特異的microRNAとして見出したmiR-9は、発現量(見かけコピー数)が、脳1(71,220)、脳2(158,048)、脳3(124,864)であり、2番目に発現量の高い子宮(1,017)との発現比が70倍あった。同様に脳特異的であるmiR-124aは、脳1(115,698)、脳2(100,721)、脳3(84,111)であり、2番目に発現量の高い腎臓(175)との発現比が661倍あった。肝臓特異的microRNAとして見出したmiR-122aは、発現量が(102,837)であり、2番目に発現量の高い甲状腺(33)との発現比が3,116倍あった。
【0057】
実施例4 健常人血漿におけるmiR-9, miR-124a, miR-122a量の測定
〔方法〕
血漿中に存在する遊離microRNA量(実施例1での取得データ)を用い、miR-9, miR-124a, miR-122a量を調べた。
〔結果〕
健常人ボランティア1名の血漿2μLにおける、miR-9, miR-124a, miR-122a量を図7に示した。見かけのコピー数として、健常人血漿2μL中のmiR-9量は63コピー、miR-124a量は定量限界以下(1コピー)、miR-122a量は385コピーであった。健常人血漿における前記3種類のmicroRNA量は低レベルであった。
【0058】
実施例5 脳腫瘍患者血清におけるmiR-9量の測定
〔材料及び方法〕
脳腫瘍患者血清
市販の脳腫瘍患者血清(ProMedDx)10例を使用した。
【0059】
【表1】

【0060】
健常人コントロール
実施例1と同じ方法で調製した。
【0061】
血清中のSmall RNA抽出
血清500μLを初発材料に、mirVana PARIS Kitを用い、添付の操作手順書に記載されているEnrichment Procedure for Small RNAsに従い、Small RNAを抽出した。抽出後、滅菌蒸留水を加え、液量が125μLになるよう調整した。Small RNA抽出液はmicroRNA量の測定まで-80℃で凍結保存した。
【0062】
microRNA量の測定
Small RNA抽出液5μLを材料に、TaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)を用い、添付の操作手順書に従いmiR-9量を、逆転写反応リアルタイムPCR法により測定した。測定にはSequence Detection System 7700を使用した。Ct値から240-Ct値を算出し、見かけのコピー数として定量値を表示した。Ct値が36以上の場合、240-Ct値を算出するものの、定量限界以下として取扱いした。
【0063】
〔結果〕
市販の脳腫瘍患者血清、及び健常人ボランティア1名の血清2μLあたりのmiR-9の測定結果を図8に示した。健常人血清中のmiR-9量は、見かけのコピー数として19コピーであるのに対し、脳腫瘍患者血清中のmiR-9量は、B01(10コピー), B02(定量限界以下;4コピー), B03(定量限界以下;3コピー), B04(206コピー), B05(定量限界以下;8コピー), B06(定量限界以下;4コピー), B07(定量限界以下;8コピー), B08(定量限界以下;6コピー), B09(定量限界以下;15コピー), B10(定量限界以下;6コピー)であり、10例中B04の1例においてmiR-9量が顕著に増加していた。
【0064】
実施例6 肝臓がん患者血清におけるmiR-122a量の測定
〔材料及び方法〕
肝臓がん患者血清
市販の肝臓がん患者血清(ProMedDx)5例を使用した。
【0065】
【表2】

【0066】
健常人コントロール
実施例1と同じ方法で調製した。
【0067】
血清中のSmall RNA抽出
血清500μLを初発材料に、mirVana PARIS Kitを用い、添付の操作手順書に記載されているEnrichment Procedure for Small RNAsに従い、Small RNAを抽出した。抽出後、滅菌蒸留水を加え、液量が125μLになるよう調整した。Small RNA抽出液はmicroRNA量の測定まで-80℃で凍結保存した。
【0068】
microRNA量の測定
Small RNA抽出液5μLを材料に、TaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)を用い、添付の操作手順書に従いmiR-122a量を、逆転写反応-リアルタイムPCR法により測定した。測定にはSequence Detection System 7700を使用した。Ct値から240-Ct値を算出し、見かけのコピー数として定量値を表示した。Ct値が36以上の場合、240-Ct値を算出するものの、定量限界以下として取扱いした。
【0069】
〔結果〕
市販の肝臓がん患者血清、及び健常人ボランティア1名の血清2μLあたりのmiR-122aの測定結果を図9に示した。健常人血清中のmiR-122a量は、見かけのコピー数として185コピーであるのに対し、肝臓がん患者血清中のmiR-122a量は、L01(3,558コピー)、 L02(175コピー)、 L03(3,835コピー)、 L04(521コピー)、 L05(56コピー)であり、5例中L01、 L03の2例おいてmiR-122a量が顕著に増加していた。
【0070】
実施例7 肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における、患者血清中のmiR-122a量の測定、及びALT(alanine aminotransferase)、CRP(C-reactive protein)との比較
〔材料及び方法〕
症例
B型、C型慢性肝炎に、肝細胞がんを合併
B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスともに陽性
【0071】
血清採取
動脈塞栓術を施行する直前、及び施行後に、経時、経日的に採血し、凝固反応後、直ちに血清分離した。回収した血清をSmall RNA抽出まで-80℃で凍結保存した。
【0072】
【表3】

【0073】
血清中のSmall RNA抽出
血清500μLを初発材料に、mirVana PARIS Kitを用い、添付の操作手順書Enrichment Procedure for Small RNAsに従い、Small RNAを抽出した。抽出後、滅菌蒸留水を加え、液量が125μLになるよう調整した。Small RNA抽出液はmicroRNA量の測定まで-80℃で凍結保存した。
【0074】
microRNA量の測定
Small RNA抽出液5μLを材料に、TaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)を用い、添付の操作手順書に従いmiR-122a量を、逆転写反応-リアルタイムPCR法により測定した。測定にはSequence Detection System 7700を使用した。Ct値から240-Ct値を算出し、見かけのコピー数として定量値を表示した。Ct値が36以上の場合、240-Ct値を算出するものの、定量限界以下として取扱いした。
【0075】
ALT、及びCRP量
ALTはUV法(JSCC準拠法)により測定し、単位はIU/I/37℃で示した。CRPはラテックス凝集比濁法により測定し、単位はmg/dLで示した。
【0076】
〔結果〕
健常人ボランティア1名の血清、及び肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における血清2μLあたりのmiR-122aの測定結果を図10に示した。健常人ボランティアの血清におけるmiR-122a量は、見かけのコピー数として233コピーであるのに対し、肝臓がん患者血清中のmiR-122a量は、直前(3,841コピー)、直後(3,662コピー)、3時間後(5,692コピー)、7時間後(3,278コピー)、10時間後(9,953コピー)、1日後(28,143コピー)、2日後(3,515コピー)、4日後(1,450コピー)、5日後(2,908コピー)、6日後(1,573コピー)、7日後(2,660コピー)であった。
【0077】
肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における血清中ALT量の測定結果を図11に示した。ALT量の基準値(健常人血清中)は5〜45IU/U/37℃であるのに対し、肝臓がん患者血清中のALT量は、直前(102.0)、直後(100.0)、3時間後(95.0)、7時間後(97.7)、10時間後(95.9)、1日後(150.0)、2日後(173.7)、4日後(105.4)、5日後(105.9)、6日後(102.6)、7日後 (98.6)であった(単位省略)。
【0078】
肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における血清中CRP量の測定結果を図12に示した。CRP量の基準値(健常人血清中)は0.30mg/dL以下であるのに対し、肝臓がん患者血清中のCRP量は、直前(2.140)、直後(2.070)、3時間後(1.990)、7時間後(2.343)、10時間後(2.606)、1日後(3.604)、2日後(8.975)、4日後(13.596)、5日後(14.538)、6日後(13.024)、7日後(12.798)であった(単位省略)。
【0079】
本結果から、肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)においては、術後の経過を血清中のmiRNA量でモニタリングすることが可能であることがわかり、該モニタリングは通常行われる組織の画像解析と同等であることがわかった。
【0080】
実施例8 肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における、患者血清中のmiR-122a量の測定、及びALT(alanine aminotransferase)、CRP(C-reactive protein)との比較
〔材料及び方法〕
症例
B型、C型慢性肝炎に、肝細胞がんを合併
B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスともに陽性
【0081】
血清採取
実施例7と同じ方法で行った。
【表4】

【0082】
血清中のSmall RNA抽出
実施例7と同じ方法で行った。
microRNA量の測定
実施例7と同じ方法で行った。
ALT、及びCRP量の測定
実施例7と同じ方法で行った。
【0083】
〔結果〕
健常人ボランティア1名の血清、及び肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における血清2μLあたりのmiR-122aの測定結果を図13に示した。健常人ボランティアの血清におけるmiR-122a量は、見かけのコピー数として313コピーであるのに対し、肝臓がん患者血清中のmiR-122a量は、施行前日(160コピー)、2時間後(1,060コピー)、8時間後(1,010コピー)、17時間後(43,238コピー)、2日後(2,402コピー)、3日後(744コピー)、5日後(63コピー) 、8日後(82コピー)であった。
【0084】
肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における血清中ALT量の測定結果を図14に示した。ALT量の基準値(健常人血清中)は5〜45IU/U/37℃であるのに対し、肝臓がん患者血清中のALT量は、施行前日(97)、2時間後(91)、8時間後(103)、17時間後(323)、2日後(947)、3日後(668)、5日後(271)、8日後(125)であった(単位省略)。
【0085】
肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における血清中CRP量の測定結果を図15に示した。CRP量の基準値(健常人血清中)は0.30mg/dL以下であるのに対し、肝臓がん患者血清中のCRP量は、施行前日(0.4)、2時間後(0.37)、8時間後(0.76)、17時間後(1.59)、2日後(9.49)、3日後(17.53)、5日後(15.45)、8日後(12.69)であった(単位省略)。
【0086】
動脈塞栓術施行例(第2例)の結果は、第1例を再現した。このことから、術後の経過を血清中のmicroRNA量を指標にしたモニタリングが可能であることを裏づけられた。
【0087】
実施例9 肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における、患者血清中の肝臓非特異的な発現を示すmicroRNA量の測定
動脈塞栓術の施行は、細胞の壊死が起きるため、その細胞に含まれる様々なmicroRNAが放出され、血清中で検出される可能性が考えられる。また、動脈塞栓術により様々な臓器が二次的に刺激を受け、一部で炎症が起こる可能性がある。そこで、上記実施例8の表4に記載のID01、ID04を用いて、血清2μLあたりのmicroRNA 16種類の量を測定した。なお、microRNA 16種類の各々が5万コピー以上発現している組織の種類について、表5に示した。特に、肝臓組織における発現に関しては、発現量が5万コピー以上であるものを+、5万コピー以下であるものを−で示す。
【0088】
【表5】

【0089】
〔結果〕
肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)の施行前日および施行17時間後における、患者血清中のmicroRNA 16種類の測定結果を図16に示した。miR-122aのように施行17時間後の採取血清でmicroRNAが顕著に増加したものは、miR-99a、miR-135a、miR-204、miR-214、およびmiR-296の5種類であり、残11種類は増加しなかった。これは血清中のmicroRNA量が動脈塞栓術によりどれでも増加するのではないことを示している。このことから、microRNAが細胞の壊死によって放出される機構、あるいは放出された後の存在機構は、microRNAの種類毎に異なることが考えられる。
【0090】
また、miR-99a、miR-135a、miR-204、miR-214、およびmiR-296の5種類は、施行後17時間後に顕著に増加したが、肝臓特異的に発現しているものではなく、肝臓における組織傷害によって引き起こされたかどうか判定することが難しい。miR-99a、miR-135a、miR-204、miR-214、およびmiR-296が増加したのは不明な部分も多いが、動脈塞栓術施行によりいくつかの臓器が二次的に刺激を受け、炎症を起こした結果によることも推察される。
実施例7、8、9の結果から、肝臓特異的な発現を示すmiR-122aによって、肝臓における組織傷害を好適に検出できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】健常人ボランティア1名の血漿2μL中に存在するmicroRNA 157種類の測定結果を示す。
【図2】ヒト各組織由来total RNA 10ngあたりのmicroRNA 157種類の測定結果を示す。
【図3】ヒト各組織におけるmicroRNA発現量に基づいたクラスタ解析の結果を示す。
【図4】miR-9の組織別発現パターンの結果を示す。
【図5】miR-124aの組織別発現パターンの結果を示す。
【図6】miR-122aの組織別発現パターンの結果を示す。
【図7】健常人ボランティア1名の血漿2μLにおける、miR-9, miR-124a, miR-122aの濃度レベルの結果を示す。
【図8】市販の脳腫瘍患者血清、及び健常人ボランティア1名の血清2μLあたりのmiR-9の測定結果を示す。
【図9】市販の肝臓がん患者血清、及び健常人ボランティア1名の血清2μLあたりのmiR-122aの測定結果を示す。
【図10】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における、血清2μLあたりのmiR-122aの測定結果を示す。
【図11】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における、血清中ALTの測定結果を示す。
【図12】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第1例)における、血清中CRPの測定結果を示す。
【図13】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における、血清2μLあたりのmiR-122aの測定結果を示す。
【図14】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における、血清中ALTの測定結果を示す。
【図15】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における、血清中CRPの測定結果を示す。
【図16】肝臓がん患者への動脈塞栓術施行例(第2例)における、血清2μLあたりのmicroRNA 16種類の測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを検出することを特徴とする、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法。
【請求項2】
遊離microRNAの検出が、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の特定のmicroRNA量が、健常人から採取された
血清あるいは血漿中の同じmicroRNA量より多いことを指標とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出が、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離microRNAを複数回に渡って検出し、該検出結果から、該被験者の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態をモニタリングすることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
組織傷害あるいは細胞増殖性疾患が、脳の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患であり、遊離microRNAが、脳の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患に伴って放出されるものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
遊離microRNAが、miR-9、及びmiR-124aから選択される1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
組織傷害あるいは細胞増殖性疾患が、肝臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患であり、遊離microRNAが、肝臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患に伴って放出されるものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
遊離microRNAが、miR-122aであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
遊離microRNAの検出が、逆転写反応リアルタイムPCR法、ノザンブロット法、マイクロアレイ法、あるいはビーズアレイ法のいずれかの方法で行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
遊離microRNA抽出手段、及び特定のmicroRNAの検出手段を少なくとも含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法を行うための検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−28036(P2009−28036A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165217(P2008−165217)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】