説明

組織再生用部材、その形成方法、及びインク

【課題】所望の組織再生能と力学的強度を有する組織再生部材を提供すること。
【解決手段】サイトカインとリン酸カルシウムとを含有する生分解性樹脂膜を含む組織再生用部材であって、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する、組織再生用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生治療に用いられる組織再生用部材、及びその形成方法と、該形成方法に用いられるインクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、硬組織(骨、歯等)の再生治療法として、組織誘導再生法(GTR法、Guided Tissue Regeneration法)や骨誘導再生法(GBR法、Guided Bone Regeneration法)が知られている。どちらの方法においても、組織再生のための空間を確保し、該組織再生に寄与しない細胞や組織の侵入を防ぐ遮断膜が用いられている。GTR法では、自発的な骨再生や歯周組織の全体としての再生を主な目的とし、膜の遮断機能は一般的に1〜2ヶ月の期間である。GBR法では、骨再生の空間に移植骨や、骨代替材、PRP等の誘導因子を封入して積極的に骨再生を誘導し、膜の遮断機能は一般的に6ヶ月程度の期間である。
この遮蔽膜には、非吸収性遮断膜と吸収性遮断膜の2種類があるが、組織再生後の除去が不要な吸収性遮断膜の需要が高まっている。吸収性遮断膜には、一般的に、生分解性樹脂が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ケイ素溶出型炭酸カルシウム及び生分解性樹脂を含み、アパタイトがコートされた不織布層と、生分解性樹脂を含む不織布層との2層構造を有する骨再生誘導膜が記載されている。前者の不織布層は骨形成能を有し、後者の不織布層が軟組織の侵入を防ぐ遮断膜の機能を有している。
また、特許文献2には、生体吸収性材料で補強されたゼラチンハイドロゲル層(遮断膜)と、薬物徐放機能を有するゼラチンハイドロゲル層(組織再生膜)との2層構造を有する歯科治療膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−61109号公報
【特許文献2】特開2009−67732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生分解性樹脂からなる遮断膜は、組織再生の後に、生体に吸収されるのでその除去作業が不要となる利便性がある一方で、膜の力学的強度が弱く、膜の破損等により満足できる治療効果が得られない場合がある。
特許文献2では、この問題を解決するために、遮断膜のゼラチンハイドロゲル層を生体吸収性材料で補強し、更に高架橋のゼラチンハイドロゲル層とすることで力学的強度を維持し、その内層として組織再生膜として設ける薬物放出機能を有する低架橋のゼラチンハイドロゲル層を設けている。特許文献2では、ゼラチンハイドロゲル層の架橋度の違いにより、遮断膜の生分解速度を6ヶ月程度とし、組織再生膜の生分解速度を2ヶ月程度とている。
しかしながら、特許文献2の2層構造の場合、その生分解性も段階的になり、2ヶ月後には遮断膜のみが残存し、組織再生が不十分な場合、目的とする医療が達成されない問題が発生する。また高架橋のゼラチンハイドロゲル膜と低架橋のゼラチンハイドロゲル膜では物性が大きく異なり、膜形成時に歪み等が残存し、強度的な問題が依然として残る。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、所望の組織再生能と力学的強度を有する組織再生部材及びその形成方法を提供することを目的とする。また、該組織再生部材の形成方法に用いることのできるインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、下記の手段によって達成された。
【0008】
[1]
サイトカインとリン酸カルシウムとを含有する生分解性樹脂膜を含む組織再生用部材であって、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する、組織再生用部材。
[2]
前記傾斜構造において、前記生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に変化しており、前記サイトカインに対する前記リン酸カルシウムの比率が高い側で前記生分解性樹脂の架橋度が高く、前記サイトカインに対する前記リン酸カルシウムの比率が低い側で前記生分解性樹脂の架橋度が低い、[1]に記載の組織再生用部材。
[3]
前記リン酸カルシウムが、β−TCP、α−TCP、リン酸四カルシウム、及びハイドロキシアパタイトの少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の組織再生用部材。
[4]
前記サイトカインが、bFGF、VEGF、TGF−β、G−CSF、EPO、BMP−2、TGF−β1、血小板内細胞増殖因子、及びアンジオポエチンの少なくとも1種である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の組織再生用部材。
[5]
前記リン酸カルシウムが、平均粒径5nm以上10μm以下の粒子である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の組織再生用部材。
[6]
[1]〜[5]のいずれか一項に記載の組織再生用部材の形成方法であって、
生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクをインクジェット法により基材上に吐出して、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を前記基材上に形成する、組織再生用部材の形成方法。
[7]
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を得る積層工程と、
を有し、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって又は前記基材に遠い層から近い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、[6]に記載の組織再生用部材の形成方法。
[8]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.3〜100pLである、[7]に記載の組織再生用部材の形成方法。
[9]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が1〜300μmである、[7]又は[8]に記載の組織再生用部材の形成方法。
[10]
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1の材料を含む第1のインクと前記第2の材料を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第1又は前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから該比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドにかけて順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を得る積層工程により形成される、[6]に記載の組織再生用部材の形成方法。
[11]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.5〜150pLである、[10]に記載の組織再生用部材の形成方法。
[12]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が2〜450μmである、[10]又は[11]に記載の組織再生用部材の形成方法。
[13]
前記第1及び第2のインクが、前記生分解性樹脂と前記サイトカイン又は前記リン酸カルシウムと含有するインクであり、該インクの粘度が2〜50mPaで、表面張力が15〜40mN/mである、[6]〜[12]のいずれか一項に記載の組織再生用部材の形成方法。
[14]
生分解性樹脂と、サイトカイン又はリン酸カルシウムとを含有するインクであり、該インクの粘度が2〜50mPaで、表面張力が15〜40mN/mである、インク。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所望の組織再生能と力学的強度を有する組織再生部材を提供することができる。また、該組織再生部材の形成方法、及び該形成方法に用いることのできるインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】傾斜構造を有する生分解性樹脂膜からなる組織再生部材の模式図
【図2】傾斜構造を有する生分解性樹脂膜からなる組織再生部材の模式図
【図3】傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の作製装置の全体構成図
【図4】傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の作製装置の描画部の概略図
【図5】描画混合法による傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の形成を説明するための図
【図6】描画混合法の他の実施形態を説明するための図
【図7】インク混合法の実施形態に係る傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の作製装置の全体構成図
【図8】インク混合法による傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の形成を説明するための図
【図9】描画混合法における各インクの着弾位置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組織再生用部材は、リン酸カルシウムとサイトカインとを含有する生分解性樹脂膜を含む組織再生用部材であって、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する。
生分解性樹脂膜を力学的に補強するリン酸カルシウムと、生分解性樹脂の生分解に応じて徐放されるサイトカインとの比率が、厚み方向で連続的に増加又は傾斜するように変化しているため、膜の力学的強度を維持しつつ最適な組織再生能の発揮が可能であり、高い成功確率での再生治療が実現できる。
本発明の組織再生用部材は、骨や歯などの硬組織再生用部材として好適に用いることができる。
【0012】
[生分解性樹脂膜]
図1に、本発明に係る傾斜構造を有する生分解性樹脂膜からなる組織再生部材の断面を模式的に示す。
本発明に係る組織再生部材1は、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向(図1中、A側からB側に向かう矢印の方向)で連続的に変化する生分解性樹脂膜2を有する。ここで、「厚み方向」とは生分解性樹脂膜2の「膜厚方向」を意味する。また、「サイトカインとリン酸カルシウムとの比率が連続的に変化する」とは、厚み方向に生分解性樹脂膜をある厚み(例えば、1〜5μm)の領域毎に区切り、各領域でのサイトカインとリン酸カルシウムとの比率をみたときに、隣接する領域間の該比率の差(隣接する領域での各比率をR1、R2としたときに、|R2−R1|)が30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下であることを意味する。なお、ある2つの隣接する領域間の生リン酸カルシウムとサイトカインとの比率の差が0となる領域があってもよい。
生分解性樹脂膜2において、厚み方向の一方の側の面の近傍のサイトカインとリン酸カルシウムとの比率(例えば、図1のAから厚み1〜20μmまでの領域におけるサイトカインとリン酸カルシウムとの比率)は、サイトカイン:リン酸カルシウム(質量比)で1:500〜1:10000であることが好ましく、1:750〜1:7500であることがより好ましく、1:1000〜1:5000であることが更に好ましい。また、反対側の面の近傍のサイトカインとリン酸カルシウムとの比率(例えば、図1のBから1〜20μmまでの領域におけるサイトカインとリン酸カルシウムとの比率)は、サイトカイン:リン酸カルシウム(質量比)で1:25000〜1:250000であることが好ましく、1:50000〜1:200000であることがより好ましく、1:100000〜1:150000であることが更に好ましい。
各領域におけるサイトカインとリン酸カルシウムとの比率は、例えば、高感度質量分析装置とXPSを併用することにより求めることができる。
【0013】
生分解性樹脂膜2の構成は、上記のようなサイトカインとリン酸カルシウムとの比率の連続的変化があれば、特に限定されないが、図2に示すようなサイトカインとリン酸カルシウムとの比率の異なる複数の層が積層した構成を好ましい例として挙げられる。
図2に示す組織再生部材1aは、生分解性樹脂膜2を有し、該生分解性樹脂膜2はサイトカインとリン酸カルシウムとの比率の異なる複数の層2−1、2−2、2−3、2−4、2−5を有する。層2−1、2−2、2−3、2−4、2−5は、厚み方向の一方の側Aの層2−5から反対側Bの層2−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、サイトカインとリン酸カルシウムとの比率(サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率)が連続的に大きくなっている。
良好な膜の力学的強度及び組織再生能を得る上で、層2−1、2−2、2−3、2−4、2−5のうち、隣り合う2層のサイトカインとリン酸カルシウムとの比率の差(隣接する領域での各比率をR1、R2としたときに、|R2−R1|)が30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下である。また、A側の層2−5のサイトカインとリン酸カルシウムとの比率は1:500〜1:10000であることが好ましく、1:750〜1:7500であることがより好ましく、1:1000〜1:5000であることが更に好ましい。B側の層2−1のサイトカインとリン酸カルシウムとの比率は1:25000〜1:250000であることが好ましく、1:50000〜1:200000であることがより好ましく、1:100000〜1:150000であることが更に好ましい。
図2では、層2−1、2−2、2−3、2−4、2−5の5層を積層して生分解性樹脂膜2を形成しているが、積層する層の数は特に限定されない。好ましくは3〜10層であり、より好ましくは3〜7層である。また、各層の厚みは10〜30μmが好ましく、15〜25μmがより好ましい。各層の厚みは実質的に等しい(厚みの誤差が±5μmの範囲)ことが好ましい。
なお、層間の界面が明確でない場合には、生分解性樹脂膜2の厚み方向において厚み1〜10μmで区切った領域を「層」とみなしてもよい。
各領域におけるサイトカインとリン酸カルシウムとの比率は、例えば、高感度質量分析装置とXPSを併用することにより求めることができる。
【0014】
上記のような、本発明の生分解性樹脂膜においては、リン酸カルシウムにより生分解性樹脂膜を力学的に補強することができる。サイトカインは生分解速度に応じて徐放されるので、組織再生を促進させることができる。生分解性樹脂膜を力学的に補強するリン酸カルシウムと、生分解性樹脂の生分解に応じて徐放されるサイトカインとの比率が、厚み方向で連続的に増加又は傾斜するように変化しているため、膜の力学的強度を維持しつつ最適な組織再生能の発揮が可能となる。
ここで、生分解性樹脂は、一般に、架橋度が低い方が生分解速度が速い。そのため、サイトカインの徐放速度を制御するために、本発明の生分解性樹脂膜においては厚み方向において生分解性樹脂の架橋度の変化させることが好ましい。
即ち、本発明の生分解性樹脂膜においては、生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少することが好ましい。ここで、「生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少する」とは、厚み方向に生分解性樹脂膜をある厚み(例えば、1〜5μm)の領域毎に区切り、各領域での生分解性樹脂の架橋度をみたときに、隣接する領域間の生分解性樹脂の架橋度の差が30%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下であり、かつ厚み方向に沿って隣接する領域間の生分解性樹脂の架橋度が単調に増加又は減少していることを意味する。隣接する領域間の生分解性樹脂の架橋度の差が10%より大きくなると、架橋度の変化が段階的となってしまい、隣接する領域間での歪みが大きくなり膜全体で高い力学的強度が得ることができない場合や、適切な生分解性樹脂の生分解速度が得られないことがある。なお、ある2つの隣接する領域間の生分解性樹脂の架橋度の差が0となる領域があってもよいが、1%以上であることが好ましい。
各領域における生分解性樹脂の架橋度は、乾燥膜の膨潤度もしくは給水量の測定から換算し見積もることができる。
【0015】
本発明の生分解性樹脂膜においては、サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率が高い側(図1及び2のB側)で生分解性樹脂の架橋度が高く、サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率が低い側(図1及び2のA側)で生分解性樹脂の架橋度が低い方が好ましい。この場合、生分解性樹脂の架橋度が低い側は再生する組織に面する側となり、架橋度の変化に応じて徐々に生分解性樹脂が分解され、それに応じてサイトカインが徐放されて組織再生が促進される。生分解性樹脂の架橋度が高い側は膜の力学的強度を高め、また生分解性速度が遅いため、組織再生のための空間を確保し、該組織再生に寄与しない細胞や組織の侵入を防ぐ遮断膜として機能することができる。
この場合、生分解性樹脂膜2において、厚み方向の一方の側の面の近傍の生分解性樹脂の架橋度(例えば、図1のAから厚み1〜50μmまでの領域における生分解性樹脂の架橋度)は、0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましく、実質的に0(0〜1%)であることが更に好ましい。また、反対側の面の近傍の生分解性樹脂の架橋度(例えば、図1のBから1〜50μmまでの領域における生分解性樹脂の架橋度)は、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、実質的に100%(99〜100%)であることが更に好ましい。
【0016】
また、前記生分解性樹脂膜2の構成としては、図2に示すような複数の層が積層した構成において、各層の生分解性樹脂の架橋度が異なる構成を好ましい例として挙げられる。
例えば、図2に示す組織再生部材1aにおいて、層2−1、2−2、2−3、2−4、2−5が、厚み方向の一方の側Aの層2−5から反対側Bの層3−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、生分解性樹脂の架橋度が0〜100%の範囲内で連続的に大きくなっている構成が挙げられる。この場合、良好な膜の力学的強度を維持し、適切な生分解速度を得て所望の組織再生能を得る上で、層2−1、2−2、2−3、2−4、2−5のうち、隣り合う2層の生分解性樹脂の架橋度の差は30%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは7%以下であり、更に好ましくは5%以下である。また、A側の層2−5の生分解性樹脂の架橋度は0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましく、0〜1%であることが更に好ましい。B側の層2−1の生分解性樹脂の架橋度は50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、90〜100%であることが更に好ましい。
各層における生分解性樹脂の架橋度は、乾燥膜の膨潤度もしくは給水量の測定から換算し見積もることができる。
【0017】
(生分解性樹脂)
本発明に用いる生分解性樹脂は、特に限定されるものではなく、例えばL−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン、N−メチルピロリドン、炭酸トリメチレン、パラジオキサノン、1,5−ジオキセパン−2−オン、水酸化酪酸、水酸化吉草酸、酸無水物(セバシン酸無水物、マレイン酸無水物、ジオレイン酸無水物等)、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、ヒドロキシプロリン等のアミノ酸(L体、D体、L体D体混合物)などのホモポリマー、コポリマー又はこれらポリマーの混合物、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(α−シアノアクリレート)等のポリアクリル酸類、ポリフォスフェート、アミノ酸高分子化合物、ポリ酸無水物、タンパク質(ゼラチン等)、ポリグリコシド(キチン、キトサン、デンプン等)、多糖類(アルギン酸、カラギーナン等)などが挙げられる。生体分解性樹脂の質量平均分子量は2000〜2000000が好ましく、20000〜500000がより好ましい。
生分解性樹脂としては、中でも、汎用性、安全性の観点から、DL−乳酸、グリコール酸、タンパク質、多糖類(アルギン酸、カラギーナン等)が好ましく、多糖類、タンパク質がより好ましく、ゼラチンが更に好ましい。
【0018】
前記ゼラチンとしては、天然に得られるものであっても、微生物を用いた発酵法、化学合成、あるいは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよい。これらの材料を適当に混合して用いることもできる。天然のゼラチンは、ヒトをはじめ、ブタ、ウシ、サケ、タイ、サメ等の魚類など、種々の動物由来のコラーゲンから、アルカリ加水分解、酸加水分解、および酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。
また、ゼラチンを修飾したゼラチン誘導体を用いることもできる。ゼラチン誘導体としては、ゼラチンニアジニル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基などの化学官能性基、またはアルキル基、アシル基、フェニル基、ベンジル基などの疎水性の残基、およびこれらの残基をもつ化合物などを化学的に導入したもの、あるいは、乳酸、グリコール酸などからなる生体吸収性のオリゴマー、高分子、共重合体など、またはポリエチレングリコール、そのプロピレングリコールとの共重合体などの水溶性のオリゴマー、高分子などを化学的に導入したものなどが挙げられる。
本発明に用いるゼラチンとして好ましいものは、コラーゲンのアルカリ処理によって得られたその等電点が酸性領域にある酸性ゼラチン、又はコラーゲンの酸処理によって得られたその等電点がアルカリ性領域にある塩基性ゼラチンである。酸性ゼラチン及び塩基性ゼラチンとしては、新田ゼラチン(株)製や(株)ニッピ製のものが挙げられる。
【0019】
(リン酸カルシウム)
本発明に用いるリン酸カルシウムとしては、生分解性樹脂膜を力学的に補強でき、生体吸収性材料であれば特に制限されず、β−TCP、α−TCP、リン酸四カルシウム、ハイドロキシアパタイト等が挙げられる。中でも、骨への再生誘導適性及び生態適合性が良好の理由から、β−TCP、ハイドロキシアパタイト、が好ましく、β−TCPがより好ましい。
【0020】
リン酸カルシウムの形状は特に制限されないが、後述するインクジェット方式により本発明の組織再生部材を形成する際のインク適正や遮断層としての適性及び良好な組織再生の観点から、粒子状であることも好ましく、その平均粒径は5nm以上10μm以下が好ましく、10nm以上7μm以下がより好ましく、10nm以上5μm以下が更に好ましい。
【0021】
本発明に係る生分解性樹脂膜におけるリン酸カルシウムの含有量は、5質量%〜40質量%であることが好ましく、10質量%〜35質量%であることがより好ましく、15質量%〜30質量%であることが更に好ましい。
【0022】
(サイトカイン)
本発明に用いるサイトカインは、生分解性樹脂の生分解に伴い徐放され、血管新生能を持つものが好ましい。血管新生により、栄養や酸素の補給が順調に行われ、よって短期間での骨再生、歯周組織の再生が可能となる。これらは天然から得られる物質でも合成により製造される物質でもよい。例えば、bFGF、VEGF、TGF−β、G−CSF、EPO、BMP−2、TGF−β1、血小板内細胞増殖因子、アンジオポエチン、これらの誘導体、及びこれらの混合物などが挙げられる。中でも、硬組織(骨、歯等)の再生誘導適性の理由から、bFGF、VEGF、BMP−2であり、より好ましくはbFGF、VEGFであり、更に好ましくはbFGFである。
【0023】
本発明に係る生分解性樹脂膜におけるサイトカインの含有量は、0.001質量%〜0.1質量%であることが好ましく、0.005質量%〜0.05質量%であることがより好ましく、0.005質量%〜0.03質量%であることが更に好ましい。
【0024】
(膜厚)
本発明に係る生分解性樹脂膜の膜厚は、20μm以上が好ましく、20〜500μmがより好ましく、50〜300μmが更に好ましい。この範囲であれば、再生誘導に必要な空間確保及びハンドリング適性からである。
【0025】
(生分解速度)
本発明に係る生分解性樹脂膜の生分解速度は、厚み方向の架橋度の変化に応じて変化し、架橋度に応じてその速度を調整することができる。
架橋度が高い側(図1及び2のB側)は膜の力学的強度を維持するために、生分解速度は長い方が好ましいが、組織再生後には速やかに生分解されることが好ましい。架橋度が高い側(図1及び2のB側)の生分解速度は、好ましくは4〜8ヶ月であり、より好ましくは5〜6ヶ月である。
一方、架橋度が低い側(図1及び2のA側)はサイトカイン等を徐放し、組織再生を誘導するためには、生分解速度は速い方が好ましく、好ましくは0.5〜3ヶ月であり、1〜2ヶ月である。
【0026】
[組織再生用部材の形成方法]
本発明に係る組織再生用部材の形成方法としては、生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する膜を形成できれば特に制限されないが、組織再生部材を適用すべき患部に応じた傾斜構造の作製が容易にできる、組織再生部材の形状や厚みがオンデマンドで任意に制御できる観点からインクジェット方式が好ましい。
インクジェット方式を用いた組織再生用部材の形成方法について、以下説明する。
本発明に係る組織再生用部材の形成方法は、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクをインクジェット法により基材上に吐出して、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を前記基材上に形成する。この場合、同時に、前記傾斜構造を前記生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少させる構造とすることもできる。
【0027】
[インク]
本発明に係るインク(インク組成物)は、生分解性樹脂と、サイトカイン又はリン酸カルシウムを含有する。
本発明に係る組織再生用部材の形成方法では、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクとを使用する。第1のインクと第2のインクとをそれぞれ独立して使用してもよいし、両者を混合して混合インクとして使用してもよい。
これらのインクは、生分解性樹脂、サイトカイン、リン酸カルシウム以外に、溶媒、その他の添加剤を含んでもよい。
【0028】
第1のインク及び第2のインクに用いる、生分解性樹脂、サイトカイン及びリン酸カルシウム及は、前述のものを使用することができる。
第1のインクにおける生分解性樹脂の含有量(溶媒を除いた全成分の合計量に対する含有量)は、90質量%〜99.9995質量%であることが好ましく、95質量%〜99.999質量%であることがより好ましく、98質量%〜99.999質量%であることが更に好ましい。
第1のインクにおけるサイトカインの含有量(溶媒を除いた全成分の合計量に対する含有量)は、0.0005質量%〜0.01質量%であることが好ましく、0.001質量%〜0.007質量%であることがより好ましく、0.001質量%〜0.005質量%であることが更に好ましい。
第2のインクにおける生分解性樹脂の含有量(溶媒を除いた全成分の合計量に対する含有量)は、20質量%〜80質量%であることが好ましく、30質量%〜70質量%であることがより好ましく、40質量%〜60質量%であることが更に好ましい。
第2のインクにおけるリン酸カルシウムの含有量(溶媒を除いた全成分の合計量に対する含有量)は、20質量%〜80質量%であることが好ましく、30質量%〜70質量%であることがより好ましく、40質量%〜60質量%であることが更に好ましい。
【0029】
(架橋)
第1のインク又は第2のインクには、生分解性樹脂の架橋のために、架橋剤を用いることができる。本発明に係るインクジェット方式により生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を形成する上では、第2のインクに架橋剤を用いることが好ましい。
架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒド;炭酸カルシウム;EDC等の水溶性カルボジイミド;プロピレンオキサイド、ジエポキシ化合物、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、イミダゾール基などの間に化学結合を作る縮合剤等を用いることができる。好ましいものは、グルタルアルデヒドである。
第1のインクにおける架橋剤の含有量は、0質量%〜10質量%であることが好ましく、0質量%〜5質量%であることがより好ましく、0質量%〜2質量%であることが更に好ましい。
第2のインクにおける架橋剤の含有量は、3質量%〜30質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましく、7質量%〜15質量%であることが更に好ましい。
一般に、生分解性樹脂及び架橋剤の濃度、架橋処理時間が増大するとともに生分解性樹脂の架橋度は増加し、生体吸収性は低くなる。したがって、これらの条件を調整することで所望の架橋度を得ることができる。
また、熱脱水処理、紫外線、ガンマ線、電子線照射によっても生分解性樹脂を架橋することもでき、これらの架橋処理を組み合わせて用いることもできる。
【0030】
(溶媒)
本発明において、第1のインク及び第2のインクは、生分解性樹脂と、サイトカイン又はリン酸カルシウムとを溶媒と混合して調製することが好ましい。
溶媒としては、水、有機溶媒から適宜選択して用いることができ、沸点が50℃以上の液体であることが好ましく、沸点が60℃〜300℃の範囲の有機溶媒であることがより好ましい。
溶媒は、インク中の固形分濃度が1〜50質量%となる割合で用いることが好ましい。更には、5〜40質量%が好ましい。この範囲において、得られるインクは作業性良好な粘度の範囲となる。
【0031】
溶媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、クレゾール等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)が挙げられる。
これらの溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましい溶媒としては、水、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0032】
(添加剤)
本発明に係る第1のインク及び第2のインクには、表面張力調整剤、防汚剤、耐水性付与剤、耐薬品性付与剤等の他の添加剤を含むことができる。特に、表面張力調整剤を含むことが好ましい。
表面張力調整剤としては、アセチレンジオール系界面活性剤を用いるのが好ましく、具体的には、サーフィノール465、サーフィノール104(以上、エアプロダクツ社製、商品名)、オルフィンSTG、オルフィンE1010、オルフィンPD002W(以上、日信化学工業(株)製、商品名)等が挙げられる。本発明に係る第1のインク及び第2のインクにおける表面張力調整剤の含有量は、0.1質量%〜3質量%であることが好ましく、0.2質量%〜2質量%であることがより好ましく、0.3質量%〜1質量%であることが更に好ましい。
【0033】
(インク物性)
本発明に係る第1のインク及び第2のインクの粘度は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、2〜50mPaが好ましく、2〜40mPaがより好ましく、3〜30mPaが更に好ましい。
また、表面張力は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、15〜40mN/mが好ましく、20〜40mN/mがより好ましく、25〜35mN/mが更に好ましい。
【0034】
(基材)
本発明の組織再生部材の形成方法においては、基材上にインクジェット法により前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成する。膜形成後に、通常、生分解性樹脂膜は基材より剥離して用いる。
そのため、基材としては、有機、無機又は金属製のあらゆる基材を用いることができるが、成膜後の生分解性樹脂膜を容易に剥離できるものが好ましい。
具体的には、石英ガラス、無アルカリ板ガラス等や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンテレフタレート製等の合成樹脂が挙げられる。
基材の表面は平滑であることが好ましく、平均粗さRaの値が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることが更に好ましい。
【0035】
(インクジェット法による生分解性樹脂膜の形成)
以下、本発明のインクジェット法による生分解性樹脂膜の形成について説明する。
本発明においては、本発明では、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクとをそれぞれ独立した2種以上のインクとしてインクジェット法により基材上に吐出するか、前記第1のインクと、前記第2のインクとを混合してなる混合インクをインクジェット法により基材上に吐出する。
【0036】
インクジェット法としては、インクジェットプリンターにより画像記録を行う方法であれば、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等に用いられる。
インクの液滴の制御は主にプリントヘッドにより行われる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、プリントヘッドの構造で打滴量を制御することが可能である。すなわち、インク室、加熱部、ノズルの大きさを変えることにより、所望のサイズで打滴することができる。またサーマルインクジェット方式であっても、加熱部やノズルの大きさが異なる複数のプリントヘッドを持たせることで、複数サイズの打滴を実現することも可能である。ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式の場合、サーマルインクジェット方式と同様にプリントヘッドの構造上打滴量を変えることも可能であるが、ピエゾ素子を駆動する駆動信号の波形を制御することによっても、同じ構造のプリントヘッドで複数のサイズの打滴を行うことができる。
【0037】
インクの基材上への吐出方法(描画方法)としては、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクを別々のインクジェットヘッドに供給し、両者の吐出量の比率を調節しながら、同時に吐出させて基材上で混合させる描画混合法が挙げられる。また、それとは別の方法としては、予め生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクを混合させた混合インクで両者の比率が異なるものを複数種類調製したものをインクジェットヘッドに供給し、ヘッドを順番に選択して、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクの比率が異なる混合インクを順次吐出させて描画する混合インク法が挙げられる。
【0038】
(インクの調製)
後述する描画混合法に用いられる、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクの調製について説明する。
前記各インクは、各インクの材料を混合することで調製することができる。各材料を混合する際には攪拌機により攪拌してもよい。攪拌時間は特に限定されないが、通常30分〜60分であり、30分〜40分が好ましい。また混合する際の温度は、通常10℃〜40℃であり、20℃〜35℃が好ましい。
後述するインク混合法においては、上述のように調製したインクを混合して用いることができる。
【0039】
〜描画混合法〜
前記描画混合法においては、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクをインクジェット法により基材上に吐出して、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を前記基材上に形成する方法であって、
前記第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を得る積層工程と、
を有し、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって又は前記基材に遠い層から近い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、
方法が好ましい。
【0040】
上記描画法によれば、第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの吐出量と第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの吐出量との比率を決定し、決定された比率にしたがってインクを吐出させて1つの層を形成する工程を繰り返して基材上に複数の層を積層し、この複数の層が上層にいくほど前記第1のインクの吐出量の比率が大きい層であって前記第2のインクの吐出量の比率が小さい層となるようにすることで、インクジェット方式の技術を用いて、サイトカインとリン酸カルシウムとの比率やが厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成することができる。更に、同時に、該傾斜構造において生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少させることができる。
【0041】
〜描画混合法による実施形態〜
図3は、描画混合法に係る、前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の作製装置100の全体構成図であり、図4は、作製装置100の描画部10の概略図である。これらの図に示すように、作製装置100は、描画部10を含んで構成され、描画部10は、フラットベッドタイプのインクジェット描画装置が用いられている。詳細には、描画部10は、基材である基材が載置されるステージ30、ステージ30に載置された基材を吸着保持するための吸着チャンバー40、基材20に向けて各インクを吐出するインクジェットヘッド50A(以下、インクジェットヘッド1)及びインクジェットヘッド50B(以下、インクジェットヘッド2)を含み構成されている。
【0042】
ステージ30は、基材20の直径よりも広い幅寸法を有しており、図示しない移動機構により水平方向に自在に移動可能に構成されている。移動機構としては、例えばラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構等を用いることができる。ステージ制御部43(図4では不図示)は、移動機構を制御することにより、ステージ30を所望の位置に移動させることができる。
【0043】
また、ステージ30の基材保持面には多数の吸引穴31が形成されている。ステージ30下面には吸着チャンバー40が設けられており、この吸着チャンバー40がポンプ41(図4では不図示)で真空吸引されることによって、ステージ30上の基材20が吸着保持される。また、ステージ30はヒータ42(図4では不図示)を備え、ヒータ42によりステージ30に吸着保持された基材20を加熱することが可能である。
【0044】
インクジェットヘッド1及び2は、インクタンク60A(以下、インクタンク1)及びインクタンク60B(以下、インクタンク2)から供給されるインクを透明支持体20の所望の位置に対して吐出するものであり、ここではピエゾ方式のアクチュエータを持つヘッドを用いている。インクジェットヘッド1と2とは、図示しない固定手段により、それぞれができるだけ近づけて配置されて固定されている。
【0045】
インクタンク1及び2からインクジェットヘッド1及び2に供給されるインクを、それぞれインク1、インク2とする。本発明においては、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインク(以下、「組織再生誘導層形成インク」ともいう。)をインク1とし、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインク(以下、「組織遮断層形成インク」ともいう。)をインク2とする。
【0046】
〔描画混合法による傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の作成〕
このように構成された作製装置100を用いた、サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率及び生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の形成について、図5を用いて説明する。
【0047】
まず、窒素雰囲気中に置かれた描画部10のステージ30上に、基材20を載置する。基材20は、裏面がステージ30に接するように載置される。そして、吸着チャンバー40により、基材20のステージ30への吸着及び加熱を行う。ここでは、基材20を70℃に加熱することが好ましい。
【0048】
次に、吸着・加熱された基材20上に、インクジェットヘッド2から供給されるインク(インク2)を1層若しくは数層分積層して24−1を形成する。このインク2の積層は、図5(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド2によりインク2を吐出する。ここでは、インクジェットヘッド1からはインクの吐出を行わない。
【0049】
このように形成したインク2の層24−1を、インク2中の生分解性樹脂が完全には架橋しない程度に半乾燥(半硬化)させることが好ましい。具体的には、通常に乾燥させるとき(全乾燥(全硬化))に与えるエネルギーよりも少ないエネルギーで乾燥を行う。
本発明においては、上記のとおり、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0050】
次に、半乾燥状態となったインク2の層24−1の上に、インク1とインク2との混合層24−2を形成する。この混合層24−2の形成は、図5(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1によりインク1を吐出し、同時にインクジェットヘッド2によりインク2を吐出して行う。このとき、インク1の吐出量とインク2の吐出量を、所望の比率に調整する。ここでは、インク2の吐出量が75%、インク1の吐出量が25%となるように、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を調整して吐出している。なお、本明細書におけるインクの「吐出量」とは、各層を形成するために吐出されるインクの全量を意味する。一方、後述する、インクジェットヘッドより吐出されるインク滴の「液滴量」は1つのインク液滴の量である。
【0051】
なお、インクジェットヘッド1及び2からのインクの吐出量の比率の調整は、描画のドットピッチ密度によって調整してもよい。例えば、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を一定としたまま、インクを吐出するノズルの数をインクジェットヘッド1と2とを75:25となるように制御することにより、吐出量の比率の調整を行うことも可能である。
【0052】
インク吐出後、図5(c)に示すように、それぞれの吐出量で吐出されたインク1とインク2とを拡散混合することにより、混合層24−2が積層される。インク1の層24−1は半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−2のインクの溶媒はインク1の層24−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。即ち、ヒータ42による加熱温度は、インクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。溶媒の種類によっては、前述した70℃より低い温度、例えば基板の温度を50℃程度にして描画してもよい。
すなわち、前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有することが好ましい。拡散混合させる方法としては、加熱による対流を利用する方法や超音波を利用する方法などが挙げられる。
【0053】
また、2つのインクジェットヘッドはできるだけ近づけて配置されており、一方のインクだけが乾燥して両インクの層内での混合が不十分になることが防止されている。なお、2つのインクを同時に吐出する際、インクジェットヘッド1から吐出されるインク1の液滴とインクジェットヘッド2から吐出されるインク2の液滴とを、飛翔中に空中で衝突させ、混合させてから着弾するようにしてもよい。
【0054】
更に、詳細は後述するが、2つのインクジェットヘッドはそれぞれの幅を対象基材の幅(短い方)よりも大きく構成し、1回の走査で1つの層を形成することが好ましい。これにより、インク1とインク2とが混ざりやすくなる。
【0055】
また、インクの混合を促進するために、ステージ30を制御して基材20を超音波処理してもよい。このとき、超音波による節が発生しにくくなるように、超音波の周波数をスイープさせたり、基材20の位置を変更しながら行うことが好ましい。
【0056】
このように形成した混合層24−2を、インク2の層24−1と同様に半乾燥状態にすると、混合層24−2は量の比率が25:75で、インク2に含まれる生分解性樹脂及びリン酸カルシウムとインク1に含まれる生分解性樹脂及びサイトカインとが混合して積み重なっている状態となる。
【0057】
次に、混合層24−2の上に混合層24−3を形成する。この混合層24−3の形成についても、図5(d)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにより同時にインクを吐出する。ここでは、インク1、インク2をともに50%の吐出量の比率で吐出している。
【0058】
混合層24−2についても半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−3のインクの溶媒は、混合層24−2に受容される。インク吐出後、図5(e)に示すように、2つのインクを拡散混合することにより、混合層24−3が積層される。
【0059】
更に、混合層24−3についてもインク2の層24−1と同様に半乾燥させる。混合層24−3は量の比率が50:50で、インク2に含まれる生分解性樹脂及びリン酸カルシウムとインク1に含まれる生分解性樹脂及びサイトカインとが混合して積み重なっている状態となる。
【0060】
このように、インク1とインク2の吐出量の比率を段階的に(傾斜するように)変更しながら各混合層を形成し、最後にインク1の吐出量が100%の層を形成する。
【0061】
全ての層の形成終了後、各層の拡散が進み、段階的に形成した層が連続的になる。全ての層の形成終了後に、全硬化させるために、例えば、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。ここで、各層でサイトカインとリン酸カルシウムとの比率が異なる。その結果、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる生分解性樹脂膜2が形成される。これにより、B側からA側にかけて、サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率が100%から0%に連続的に変化する傾斜構造が有する生分解性樹脂膜2が得られる。また、各層で架橋剤の濃度が異なるため、全硬化後の生分解性樹脂の架橋度も各層で異なる。この結果、生分解性樹脂膜2においては、B側からA側にかけて生分解性樹脂の架橋度が100%から0%に連続的に変化する傾斜構造が得られる。
【0062】
このように、下の層を半乾燥状態として上の層を形成することにより、その上下の層において、拡散がある程度進むようにしておく。このとき、上下の層の界面が無くなり、完全に混合して上下層の区別が無くなるような状態とはならないようにすることが好ましい。
【0063】
なお、各層の形成が終わったあとに、生分解性樹脂膜の機能していない領域にダミーパターンを積層し、レーザを用いた光学式変位センサ等によりダミーパターンの高さを測定してもよい。乾燥が進んでおらず、溶媒が残っている状態では、膜厚が高くなることから、ダミーパターンの高さにより乾燥状態を検出することができる。
【0064】
以上説明したように、インクジェットヘッドを用いて前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成することができる。また、本実施形態の描画混合法によれば、形成する層の数にかかわらず、インクの種類とインクジェットヘッドの個数が少なくて済むという利点がある。インク1とインク2との混合層は、それぞれのインクの混合比率が段階的に傾斜されるように形成されれば、何層積層してもよい。
【0065】
また、各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は膜厚制御及び細線形成性の観点から、0.3〜100pLとすることが好ましく、0.5〜80pLがより好ましく、0.7〜70pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は膜厚制御及び細線形成性の観点から、1〜300μmとすることが好ましく、5〜250μmがより好ましく、10〜200μmが更に好ましい。
更に、各層の形成工程において、第1のインクと第2のインクのうち吐出量の比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくすることが好ましい。例えば、前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLであることが好ましい。これにより、拡散混合する時間を短くしたり、混合の均一性を向上することができる。
なお、インク滴の「液滴径」とは、液滴直径の長さを意味し、インクジェット吐出時の飛翔状態写真から測定することができる。
【0066】
本実施形態では、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる生分解性樹脂膜2を形成したが、B側又はA側においてインク2又はインク1が100%となるよう製膜する必要性は必ずしもなく、生分解性樹脂膜2が得られる範囲のものであれば、B側又はA側におけるインク2又はインク1の比率を任意に変更することができる。
上記B側又はA側にけるインク2又はインク1の比率は、得ようとする生分解性樹脂膜2の密着性や生分解速度等の特性により、適宜調節することが可能である。
【0067】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにおいて同時にインクを吐出して各層を形成したが、順に吐出してもよい。
【0068】
例えば、混合層24−2を形成する場合に、図6(a)に示すように、まずインクジェットヘッド2によりインク2層24−1の上の全面にインク2を吐出する。次に、図6(b)に示すように、インクジェットヘッド1によりインク1を全面に吐出する。その後、図6(c)に示すように、それぞれのインクを拡散混合することで、同様に混合層24−2を形成することができる。
【0069】
このように、それぞれのインクを順に吐出して1つの層を形成する場合であって、2つのインクの吐出量に差がある場合、即ち2つのインクの吐出量の比率が50%ずつでない場合は、吐出量の多い方のインクを先に吐出するように構成してもよい。特に、先に吐出するインクの乾燥が激しい場合等は、量が少ないほど乾燥が早まるため、多い方のインクを先に吐出することが好ましい。これにより、2種類のインクの混合をスムーズに進ませることができる。
【0070】
更にこの場合、後から吐出することになる吐出量の少ない方のインクについては、小さい液滴(液適量が少ない又は液滴径が小さい)によってドットピッチ密度を高くして吐出してもよい。これにより、拡散混合する時間を短くすることができる。
【0071】
また、先に吐出したインクを着弾させた位置に、後から吐出するインクを重ねて着弾させるようにしてもよい。特に間歇打ちを行ってドットとドットが離れている場合に、同じ位置に乾燥させる前に着弾させると、それぞれのインクの混合がしやすくなる。
【0072】
例えば、混合層24−2を形成する際に、1回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2を間歇打ちにより吐出したとする。図9(a)は、インク1層24−1上に着弾したインク2(24−2−B−1)を示す。
【0073】
次に、2回目の走査でインクジェットヘッド1によりインク1を間歇打ちにより吐出する。このとき、インクジェットヘッド1は、図9(b)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−1)が、1回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−1)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0074】
更に、3回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2が間歇打ちされる。図9(c)は、インク2(24−2−B−1)の間に着弾されたインク2(24−2−B−2)を示す。
【0075】
その後、4回目の走査では、インクジェットヘッド1により、インク1がインク2(24−2−B−2)と同じ着弾位置に重ねて着弾されるように吐出される。図9(d)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−2)が、2回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−2)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0076】
以後同様に、インク1の層24−1の全面にインクを吐出し、その後拡散混合させる。
このように吐出することにより、混合層24−2を形成する際の拡散混合の時間を短縮することができる。
【0077】
また、一方のインクの乾燥が速い場合は、そのインクを後から吐出するようにしてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、インク1とインク2の2つの純インクを用いて各混合層を形成したが、これらを混合したインクを併用してもよい。例えば、2つの純インクと、インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インクとの3種類のインクを同時に用いて混合層を形成することが考えられる。混合インクの分だけインクジェットヘッドの数が増加するが、混合インクは予め2つの純インクが十分混合されているため、インク吐出後の拡散混合に要する時間を短縮することができる。
【0079】
〜インク混合法〜
前記インク混合法においては、生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクをインクジェット法により基材上に吐出して、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を前記基材上に形成する方法であって、
前記第1の材料を含む第1のインクと前記第2の材料を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第1又は前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから該比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドにかけて順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を得る積層工程により形成される、
が好ましい。
【0080】
上記方法によれば、第1のインクと第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクをそれぞれのインクジェットヘッドに供給し、第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に混合インクを吐出させて各層を形成し、基材上に複数の層を積層するようにしたので、インクジェット方式の技術を用いて、サイトカインとリン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成することができる。更に、同時に、該傾斜構造において生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に増加又は減少させることができる。
【0081】
〜インク混合法による実施形態〜
図7は、第2の実施形態に係る生分解性樹脂膜の作製装置101の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る生分解性樹脂膜の作製装置101は描画部11を備え、描画部11は、5種類のインクを貯蔵するインクタンク60−1〜60−5と、各インクタンクからインクが供給されるインクジェットヘッド50−1〜50−5を備えている。各インクジェットヘッド50−1〜50−5は、各インクタンク60−1〜60−5から供給されるインクを基材20に対して吐出する。
【0082】
各インクタンク60−1〜60−5から各インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、インク1とインク2との混合比率がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25、100:0となっている。即ち、インクタンク60−1からはインク2の純インクが、インクタンク60−5からはインク1の純インクが、60−2〜60−4からはインク1とインク2とが所定の比率で混合された混合インクが供給される。
【0083】
〔インク混合法による傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の作成〕
描画混合法による実施形態と同様に、ステージ30上に基材20を載置し、吸着及び加熱を行う。
【0084】
次に、吸着・過熱された基材上に、インク2を1層若しくは数層分積層してインク2の層28−1を形成する。このインク2の積層は、図8(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド50−1により基材に対してインクタンク60−1から供給されるインク(インク1とインク2との混合比率が0:100のインク)を吐出する。このとき、その他のインクジェットヘッド50−2〜50−5からはインクの吐出を行わない。
【0085】
したがって、このように形成されたインク2の層28−1は、図5に示すインク2の層24−1と同様の層となる。ここで、インク2中の生分解性樹脂が完全には架橋しない程度に半乾燥(半硬化)させる。
インク混合法においても、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0086】
次に、インク2の層28−1の上に、インクジェットヘッド50−2によりインクタンク60−2から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が25:75の混合インク)を吐出して、混合層28−2を形成する。
【0087】
混合層28−2の形成は、図8(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド50−2により混合インクを吐出する。描画混合法による実施形態と同様に、インク2の層28−1が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−2のインクの溶媒がインク2の層28−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。したがって、加熱温度はインクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。
【0088】
この混合層28−2についても半乾燥させることで、混合層28−2は、インク1に含まれる生分解性樹脂及びサイトカイン及び、インク2に含まれる生分解性樹脂及びリン酸カルシウムが積み重なっている状態となる。
【0089】
更に、混合層28−2の上に、インクジェットヘッド50−3(図8には不図示)によりインクタンク60−3から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インク)を吐出して、混合層28−3を形成する。
【0090】
混合層28−2が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−3のインクの溶媒は、混合層28−2に受容される。更に、混合層28−3についても半乾燥させる。
【0091】
このように、各混合インクをインク2の混合比率が多い順(インク1の混合比率が少ない順)に吐出して各混合層(28−2〜28−4)を積層し、最後にインクジェットヘッド50−5によりインクタンク60−5から供給されるインク1(インク1とインク2との混合比率が100:0のインク)を吐出して、インク1が100%の層28−5(インク1の層)を形成する(図8(c))。
【0092】
全ての層を形成終了後、図1に示すようなインク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する生分解性樹脂膜2が形成される。全ての層の形成終了後に、全硬化させるために、例えば、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。ここで、各層でサイトカインとリン酸カルシウムとの比率は異なる。これにより、B側からA側にかけて、サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率が100%から0%に連続的に変化する傾斜構造が有する生分解性樹脂膜2が得られる。また、各層で架橋剤の濃度が異なるため、全硬化後の生分解性樹脂の架橋度も各層で異なる。この結果、生分解性樹脂膜2においては、B側からA側にかけて生分解性樹脂の架橋度が100%から0%に連続的に変化する傾斜構造が得られる。
【0093】
また、各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は安定吐出の観点から、0.5〜150pLとすることが好ましく、0.7〜130pLがより好ましく、1〜100pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は良好な膜形成性の観点から、2〜450μmとすることが好ましく、5〜350μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。
【0094】
以上説明したように、混合インクを用いて、傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成することができる。本実施形態のインク混合法によれば、インクの段階で充分に混合されているため、サイトカインとリン酸カルシウムとの比率や生分解性樹脂の架橋度の変化の精度が高い傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を作成することができる。また、描画混合法による実施形態と比較すると、2種類の機能性インクを拡散混合する時間が不要となるため、プロセス時間が短くて済むという利点がある。
【0095】
本実施形態では、インク1とインク2との混合層を3層形成したが、層の数はこれに限定されるものではなく、それぞれのインクの混合比率が傾斜されるように積層できれば何層でもよい。なお、形成する層の数だけインクタンクとインクジェットヘッドを用意する必要がある。
【0096】
さらに、本実施形態では、インク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成したが、インク2が100%又はインク1が100%の組成成分比を採用する必要性は必ずしもなく、傾斜構造が得られる範囲のものであれば、上記組成成分比を任意に変更することができる。
上記組成成分比は、得ようとする傾斜構造を有する生分解性樹脂膜の生分解速度等の特性により適宜調節することが可能である。
【実施例】
【0097】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。
【0098】
<実施例1>
(組織遮断層形成インクの作成)
〜遮断インクA1〜
酸性ゼラチン(新田ゼラチン(株)製)10質量%水溶液 25g
リン酸カルシウム:β−TCP(ナノキューブジャパン(株)製) 2.5g
グルタルアルデヒド(ナカライテスク(株)製:25質量%水溶液) 0.5g
オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) 1g
イオン交換水 200g
【0099】
上記素材を500mLの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、10μmのフィルターにて濾過し、遮断インクA1を作成した。
【0100】
(組織再生誘導層形成インクの作成)
〜再生誘導インクB1〜
酸性ゼラチン(新田ゼラチン(株)製)10質量%水溶液 55g
サイトカイン:bFGF(和光純薬(株)製) 0.001g
オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) 1g
イオン交換水 200g
【0101】
上記素材を500mLの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、5分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、再生誘導インクB1を作成した。
【0102】
上記遮断インクA1及び上記再生誘導インクB1を用い石英ガラス基材上に、下記のインクジェット描画法Aにより15mm×15mmの正方形で、厚み100μmの生分解性樹脂膜を形成した。
【0103】
〜インクジェット描画法A〜
図3に示すようなインクタンク1、インクタンク2に再生誘導インクB1、遮断インクA1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれ再生誘導インクB1、遮断インクA1である。
はじめに、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中でインクジェットヘッド2から遮断インクA1を吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からは再生誘導インクB1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、80℃30秒間乾燥し、半硬化させた。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、0:100(インク層5)と変化させて積層と半硬化を繰り返し、最終的に80℃5分間乾燥して全硬化させ、サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率及び生分解性樹脂(酸性ゼラチン)の架橋度が厚み方向で層1側から層5側にかけて連続的に減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させる再生誘導B1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させる遮断インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層3形成時には、再生誘導B1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、遮断インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層4形成時には、再生誘導B1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、遮断インクA1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。インク層5形成時には、再生誘導B1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。
全硬化後のインク層1〜5の膜厚はそれぞれ20μmとなるようにした。
なお、各層におけるサイトカインに対するリン酸カルシウムの比率は高感度質量分析装置とXPSを併用することにより確認した。また、各層における生分解性樹脂(酸性ゼラチン)の架橋度は、各層の膨潤度を膨潤膜厚測定できる膨潤度計により求めて確認した。その結果、上記傾斜構造であることを確認した。
【0104】
その後、形成した生分解性樹脂膜を室温、12時間乾燥硬膜後、100mMグリシン溶液で1時間振とう洗浄後、凍結乾燥した。
その後、石英ガラス基板から剥離単離して組織再生用部材としての生分解性樹脂膜を得た。得られた生分解性樹脂膜の生分解性、膜強度を以下のようにして評価した。また、用いた遮断インクA1及び再生誘導インクB1のインクジェット適性を以下のようにして評価した。
【0105】
〜評価〜
<生分解性>
形成した生分解性樹脂膜を、5mm×5mmの正方形に加工し、クロラミン−T法によりゼラチン分子のチロシン残基に125Iを放射ラベルし、マウス背部皮下に埋込したのち、経時的にゲル及び周辺組織を摘出し、残存放射カウントを測定して、3ヶ月後及び6ヶ月後の残存率を算出し、以下の基準で評価した。
(3ヵ月後)
○:残存率 40%以上
△:残存率 40%未満20%以上
×:残存率 20%未満
(6ヵ月後)
○:残存率 5%未満
△:残存率 5%以上10%未満
×:残存率 10%以上
【0106】
<膜強度>
形成した生分解性樹脂膜を、10mm×5mmの長方形に加工し、島津製作所(株)製小型卓上ひっぱり試験機EZ Test EZ-Sタイフ゜を用いて、試験速度20mm/minで上下に引っ張り、サンプルの強度試験を行い、以下の基準で評価した。
○:伸び量10mm以上
△:伸び量10mm未満5mm以上
×:伸び量5mm未満
【0107】
<インクジェット適性>
作成した遮断インクA1及び再生誘導インクB1をそれぞれ、「マテリアルプリンター DMP-2831」(富士フイルム(株)製)に投入し、10plヘッドを用い、全16ノズルで30分連続吐出させ、30分後の不吐出ノズル数を検出することで各インクのインクジェット適性(吐出信頼性)を以下の基準で評価した。
○:不吐出ノズル数0〜1
△:不吐出ノズル数2〜5
×:不吐出ノズル数6以上
【0108】
実施例1で形成した生分解性樹脂膜と、遮断インクA1及び再生誘導インクB1との上記評価結果を、下記表1に示す。
【0109】
<実施例2>
実施例1で用いた遮断インクA1及び再生誘導インクB1を混合したインクG1(混合比(質量%)A1:B1=75:25)、G2(混合比(質量%)A1:B1=50:50)、G3(混合比(質量%)A1:B1=25:75)を作製し、A1及びB1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、石英ガラス基材上にA1(最下層)、G1、G2、G3、B1(最上層)の順にて、下記のインクジェット描画法Bにより15mm×15mmの正方形で、厚み100μmの生分解性樹脂膜を形成した。
【0110】
〜インクジェット描画法B〜
図7に示すようなインクタンク60−1〜60−5にインクA1、G1、G2、G3、B1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、それぞれインクA1、G1、G2、G3、B1である。
はじめにインクジェットヘッド50−1よりインクA1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクA1層を80℃30秒間乾燥し、半硬化させた。
次に、インクジェットヘッド50−22から同様にインクG1を吐出し、インクG1層を積層、半硬化させた。これを、インクG2、G3、B1についても繰り返し、積層と半硬化を繰り返し、最終的に80℃5分間乾燥して全硬化させ、サイトカインに対するリン酸カルシウムの比率及び生分解性樹脂(酸性ゼラチン)の架橋度が厚み方向で層A1側から層B1側にかけて連続的に減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を形成した。
なお、全硬化後のインク層A1、G1、G2、G3、B1の膜厚はそれぞれ20μmとなるようにした。
各層におけるサイトカインに対するリン酸カルシウムの比率は高感度質量分析装置とXPSを併用することにより確認した。また、各層における生分解性樹脂(酸性ゼラチン)の架橋度は、各層の膨潤度を膨潤膜厚測定できる膨潤度計により求めて確認した。その結果、上記傾斜構造であることを確認した。
【0111】
その後、形成した生分解性樹脂膜を室温、12時間乾燥硬膜後、100mMグリシン溶液で1時間振とう洗浄後、凍結乾燥した。
その後、石英ガラス基板から剥離単離して組織再生用部材としての生分解性樹脂膜を得た。得られた生分解性樹脂膜の生分解性、膜強度、及び各インクのインクジェット適性を以下のようにして評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0112】
<実施例3〜11>
遮断インク及び再生誘導インクが含有する生分解性樹脂、リン酸カルシウム、及びサイトカインを下記表1及び表2に記載のものに置き換え、その他は実施例1と同様な方法で遮断インクA2〜A8、再生誘導インクB2〜B5を作成した。
作成した遮断インクA2〜A8、再生誘導インクB2〜B5を下記表1及び表2に記載の組み合わせで用いて、実施例1と同様な方法で生分解性樹脂膜を形成した。得られた生分解性樹脂膜の生分解性、膜強度、及び各インクのインクジェット適性を実施例1と同様に評価した。評価結果を下記表1及び表2に示す。
【0113】
<比較例1>
実施例1で用いた再生誘導インクB1のみを用いて、石英ガラス基材上に、1層のみから構成される15mm×15mmの正方形で、厚み100μmの生分解性樹脂膜をインクジェット描画により形成し、その後、実施例1と同様に処理して生分解性樹脂膜を得た。得られた生分解性樹脂膜の生分解性、膜強度、及びインクのインクジェット適性を実施例1と同様に評価した。評価結果を下記表2に示す。
【0114】
<比較例2>
実施例1で用いた遮断インクA1及び再生誘導インクB1を用いた。遮断インクA1を石英ガラス基材上にインクジェット描画し、15mm×15mmの正方形で、厚み100μmの膜をインクジェット描画により形成し、約1分室温で自然乾燥させた後、再生誘導インクB1をインクジェット描画により15mm×15mmの正方形で、厚み100μmの膜を作成した(2層積層膜)。その後、実施例1と同様に処理して生分解性樹脂膜を得た。得られた生分解性樹脂膜の生分解性、膜強度、及びインクのインクジェット適性を実施例1と同様に評価した。評価結果を下記表2に示す。
【0115】
<比較例3>
実施例1において、遮断インクA1のβ−TCP(ナノキューブジャパン(株)製)を平均粒子径12μmのβ−TCP(太平化学産業(株)製)に置き換えた以外は実施例1と同様な方法で遮断インクA9を作成した。得られた遮断インクA9を用いて、実施例1と同様に膜形成を試みたが、インク液が全ノズルから吐出せず、膜形成はできなかった。
【0116】
<比較例4>
実施例1において、遮断インクA1及び再生誘導インクB1のオルフィンE1010の添加量を1gから0.2gに変更した以外は実施例1と同様な方法で遮断インクA1及び再生誘導インクB6を作成した。得られた遮断インクA10及び再生誘導インクB6を用いて、実施例1と同様に膜形成を試みたが、インク液が着弾したところとしないところがムラ状となり膜形成はできなかった。
【0117】
<比較例5>
実施例1において、遮断インクA1及び再生誘導インクB1の酸性ゼラチン10質量%水溶液の添加量をそれぞれ250gに変更し、イオン交換水を使用しなかった以外は実施例1と同様な方法で遮断インクA11及び再生誘導インクB7を作成した。得られた遮断インクA11及び再生誘導インクB7を用いて、実施例1と同様に膜形成を試みたが、インク液が着弾したところとしないところがムラ状となり膜形成はできなかった。
【0118】
下記表1及び表2中、インク種の欄に記載の「VC」及び「ST」は、それぞれ、各インクの粘度(mPa)及び表面張力(mN/m)を表す。
粘度の測定は、E形粘度計(東機産業株式会社製)で行った。
表面張力の測定は、ウイルフェルミンプレート浸漬型表面張力計(協和界面科学株式社製)で行った。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
表1及び表2に示すように、実施例1〜13は、生分解性、強度、インクジェット適正が良好であり、各種インクジェット法A(描画混合法)及びB(インク混合法)により作成した前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜からなる組織再生用部材は、生分解性、膜強度が実用上も有効であることが示された。2種のインクジェット法での効果の差は無く、どちらの方法でも十分な機能を有す組織再生用部材が形成可能である。これらの結果は、各組成が連続的に変化する傾斜構造を形成しているためであり、本発明の組織再生用部材を用いることで、硬組織(骨、歯等)の再生治療法としての組織誘導再生法(GTR法、Guided Tissue Regeneration法)や骨誘導再生法(GBR法、Guided Bone Regeneration法)を成功させる上で、再生の空間確保と軟組織の進入遮断が効率良く達成できることを示唆する。
一方、比較例1のように、本発明に用いた再生誘導インクのみを用い通常のインクジェット描画により膜を形成した場合、生分解速度が速く、骨再生に必要な時間を確保することが難しい。
また、比較例2では遮断インクと再生誘導インクをそのまま積層しているため、2種インクの界面で歪みが残存し、膜の強度が不足し、さらには組織遮断膜が長期間残存することで、組織再生後も異物による炎症等の発生が懸念される。
更に、比較例3〜5ではインクジェットインクとして、リン酸カルシウム類の平均粒子径が10μm、インク表面張力が40mN/m、インク粘度が50mPaをそれぞれ超えると、インクジェットで安定吐出させることが困難となり、インクジェット適正に問題が生じる。
【符号の説明】
【0122】
1 組織再生部材
2 生分解性樹脂膜
10 描画部
100 生分解性樹脂膜作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカインとリン酸カルシウムとを含有する生分解性樹脂膜を含む組織再生用部材であって、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する、組織再生用部材。
【請求項2】
前記傾斜構造において、前記生分解性樹脂の架橋度が厚み方向で連続的に変化しており、前記サイトカインに対する前記リン酸カルシウムの比率が高い側で前記生分解性樹脂の架橋度が高く、前記サイトカインに対する前記リン酸カルシウムの比率が低い側で前記生分解性樹脂の架橋度が低い、請求項1に記載の組織再生用部材。
【請求項3】
前記リン酸カルシウムが、β−TCP、α−TCP、リン酸四カルシウム、及びハイドロキシアパタイトの少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の組織再生用部材。
【請求項4】
前記サイトカインが、bFGF、VEGF、TGF−β、G−CSF、EPO、BMP−2、TGF−β1、血小板内細胞増殖因子、及びアンジオポエチンの少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組織再生用部材。
【請求項5】
前記リン酸カルシウムが、平均粒径5nm以上10μm以下の粒子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組織再生用部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組織再生用部材の形成方法であって、
生分解性樹脂とサイトカインとを含有する第1のインクと、生分解性樹脂とリン酸カルシウムとを含有する第2のインクをインクジェット法により基材上に吐出して、前記サイトカインと前記リン酸カルシウムとの比率が厚み方向で連続的に増加又は減少する傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を前記基材上に形成する、組織再生用部材の形成方法。
【請求項7】
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を得る積層工程と、
を有し、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって又は前記基材に遠い層から近い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項6に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項8】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.3〜100pLである、請求項7に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項9】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が1〜300μmである、請求項7又は8に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項10】
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記第1の材料を含む第1のインクと前記第2の材料を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第1又は前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから該比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドにかけて順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を有する生分解性樹脂膜を得る積層工程により形成される、請求項6に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項11】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.5〜150pLである、請求項10に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項12】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が2〜450μmである、請求項10又は11に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項13】
前記第1及び第2のインクが、前記生分解性樹脂と前記サイトカイン又は前記リン酸カルシウムと含有するインクであり、該インクの粘度が2〜50mPaで、表面張力が15〜40mN/mである、請求項6〜12のいずれか一項に記載の組織再生用部材の形成方法。
【請求項14】
生分解性樹脂と、サイトカイン又はリン酸カルシウムとを含有するインクであり、該インクの粘度が2〜50mPaで、表面張力が15〜40mN/mである、インク。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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