説明

組織処理の方法

本発明は、組織学的分析用に生物学的試料を処理することに関する。具体的には、本発明は、連続スループットで操作でき且つキシレンなどの有毒溶媒の使用を不要にする高速自動処理システムに関する。本発明は、組織学的分析用に生物学的試料を処理する方法であって、超臨界流体またはそれに近超臨界流体を含む組成物に試料を接触させて、1バールを超える圧力下で好ましくはパラフィンである試料に包埋剤を含浸させる段階を含む方法を提供する。本発明はまた、組織学的分析用に少なくとも1つの試料(10)を調製するための処理装置(1)であって、少なくとも1つの試料(10)のための少なくとも1つの処理反応槽(9)を含み、少なくとも1つが超臨界相または近超臨界相にある少なくとも1つの物質を反応槽(9)に供給するための供給手段(4)と、コンジット(8)を介して反応槽(9)に包埋剤を添加するための少なくとも1つの供給手段(7)とを含むことを特徴とする処理装置(1)を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織学的分析用に、生物学的試料を固定から含浸まで処理することに関する。具体的には、本発明は、連続スループットで操作でき且つキシレンなど有毒且つ可燃性の溶媒の使用を不要にする、高速且つ安全な自動処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
組織学用に試料(例えば組織)を調製するための従来の方法は、リン酸緩衝10%ホルムアルデヒドの別々の溶液中でインキュベートして固定する段階、濃度が徐々に高くなるアルコール系列中でインキュベートして脱水する段階、およびキシレン中でインキュベートして含浸前に組織の脱水剤を透徹する段階を含む。この処理は通常8時間以上という時間を要するため、これらの各段階(固定、脱水、透徹、および含浸)を、これらの作業を行うよう設計された自動機器により一晩で行うことが一般的となっている(例えば、米国特許第3,892,197号、米国特許第4,141,312号、および米国特許第5,049,510号を参照されたい)。
【0003】
組織処理の最終的な目標は、損傷をきたすことなく切片作製に耐えら得るよう、同程度の硬度を有する媒質により内部および外部を支持した標本を提供することである。最も一般的な包埋剤または支持剤はパラフィンであるが、他にも多数の物質が使用される。切片作製法とは、包埋した試料または標本を、ミクロトームの鋭利な鋼鉄製ナイフで、厚さ約 2〜8ミクロンの薄い切片に切るまたは薄切する処理である。次に、切片をスライド(通常は顕微鏡スライド)上に乗せる。
【0004】
標準的なパラフィン処理の手順では、アルコール系列による化学的脱水を行い、次に、移行溶液(一般的に透徹剤と呼ばれる)に浸漬し、続いてパラフィンに含浸する。脱水とは、水を除去することを意味する。処理手順において、脱水は自由水分子を除去するために用いられ、且つ、脱水が正しく行われれば、分子的に結合した水も除去される。脱水は通常、アルコール溶液を用いて実施され、植物組織および動物組織用として、最も一般的にはエタノール;イソプロピルアルコール(イソプロパノール);時としてメタノール;またはブタノールを用いられる。標本の脱水が不適切で標本内に水が残っている場合は、透徹剤および含浸剤(例えばパラフィン)が組織に浸透せず、組織は柔らかく粥状になる。過剰な脱水は結合水を除去してしまい、その結果、標本が縮み、硬く、もろくなり、薄切前に過剰な再水和が必要していない。
【0005】
脂肪は透徹および含浸の妨げとなるため、組織試料中の脂肪は溶媒により除去される。脂肪の除去(脱脂)が不十分であると、組織切片の伸展アーチファクト、組織切片のしわ、および染色不良が起こり得る。脂肪を、例えばアセトン、クロロホルム、またはキシレンなど、種々の溶媒により組織標本から除去してもよい。
【0006】
試料の脱水後は、「透徹」剤を用いて、試料の脱水に用いたアルコールを除去し、且つ含浸剤の使用に備えて試料または標本を準備する。透徹剤(「脱アルコール」剤ともよばれる)は、脱水剤および含浸/包埋剤の両方に対して混和性でなければならない。標本中に水が残っている場合または透徹時間が不十分である場合は、透徹が不十分になることがあり、これはパラフィンの浸潤不良をもたらし、その結果、標本が柔らかく粥状になると考えられる。一方、透徹剤との接触が過剰であると、過剰な脱水の作用と非常によく似た組織タンパク質の変性が生じ、このため標本が硬くもろくなる。
【0007】
キシレン(ジメチルベンゼン)は、長年にわたり最も広く用いられている透徹剤である。キシレンはアルコールを急速に置換する芳香族炭化水素であり、且つ、組織を透明にすることができる屈折率を有する。キシレンの主な欠点は、揮発性が高く、引火性があり、且つ発癌性が疑われているため、使用が非常に煩雑であることである。したがってキシレンは、換気が十分な場合にのみ使用されるべきであり、且つ皮膚接触を避けるべきである。さらに、キシレンは高価である。
【0008】
キシレンに代わる有効な代替物が積極的に探索されている。1981年に提示された第一の代替物はリモネンであった。しかし、残念ながらこの化合物は、いくつかの問題のためこの点に影を投げかけている。リモネンは油性であり、再利用を高い信頼度で行うことができない(再利用溶液が元の産物とは異なる)。臭いが非常に強く、且つ隣接する部屋および廊下に急速に広がる。最大の難点は、曝露された作業者に重篤な感作反応が生じることである。他のキシレン代替物としては、短鎖脂肪族炭化水素(アルカン)がある。精油もキシレン代替物として使用できるが、それほど一般的ではない。しかし、これらのキシレン代替物のうち、キシレンと同程度の有用性および費用効果をもつと示されたものはない。
【0009】
従来の組織処理の手順は、手動でも、または自動の様式でも実施できる。現在、大多数の組織病理学研究室では、複数のコンテナを使用し処理に6〜20時間を要する自動組織処理装置が使われている。このような従来の処理法を実施する自動組織処理装置は、例えばShandon(型式:HYPERCENTERおよびPATHCENTRE)、Miles-Sakura(型式:TISSUE-TEK)、およびMopec-Medite(型式:TPC15)などにより製造および販売されている。
【0010】
先行技術のシステムの短所は、そのような自動システムが現在のところ連続スループットを実現できないことである。組織処理が完了するまでに時間が必要であるため、組織の入ったカセットを日中にシステムに装填して、組織処理を一晩のサイクルで完了させる。したがって先行技術のシステムの操作では、組織の入ったカセットの処理を、その作業日中に完了させることができない。
【0011】
このような従来の方法では、典型的に、手術室、診療室、またはその他の場所から病理学研究室へと(時として同作業日中に)組織標本を送り、続いて標本を一晩でバッチ処理することが求められるため、ブロック作製および薄切に適した組織標本が得られるのは最速でも翌朝となる。そして、ブロック作製および薄切した標本から作製された切片の鏡検に基づいて病理医が診断を下せるのは、その日のさらに遅い時間となる。したがって、標本が得られてから病理医の報告書が出されるまで、最短でも約24時間が必要である。
【0012】
医師(例えば外科医)が病理医の報告書の恩典を得るまでに最短でも1日の遅れが生じることに加えて、標本のバッチ処理が必要であることによる病理学研究室内のワークフローが妨げられることに関する問題、機器を一晩中稼動させることに伴う安全上の懸念、機器が故障するリスクおよび機器をモニターする必要性があり、且つ、このような処理を自動化した場合には大量の試薬が使用されるという無駄がある。さらに、この処理に使用される試薬(キシレンなど)に関連する有害煙霧および有毒物質に研究室の人員が曝露しないよう予防するため、高額の手段が必要である。加えて、従来の方法により生じる大量の溶媒廃棄物およびパラフィンデブリは、適切に廃棄しなければ環境を汚染する。
【0013】
診断目的用に組織の処理および分析を促進することについては、常に関心が持たれている。さらに、近年のヘルスケアでは、組織処理を含む種々の手順のコスト低減に焦点が向けられている。組織処理のコストは、標本の処理および分析に要する時間、実験室内の人員および装置に必要な空間、試薬の量(純粋化学物質の購入価格および廃棄物の廃棄費用の両方)、ならびに必要な人員数と関連する。そしてより重要な点として、患者およびその担当医師は、治療方針を決定する上で病理医の評価および診断に頼っている。組織処理完了までの所要時間を短縮することは、標本が取得されてから病理医の報告書が医師に届くまでの間に生じる不安を軽減することになると考えられる。したがって、組織学的試料の処理の所要時間を大幅に短縮することは非常に望ましい。組織処理の所要時間を短縮する必要性はこれまで他者にも認識されてきたが、従来の方法に対して若干の改善しか行われていない。組織処理の速度を上げるため、米国特許第4,656,047号、同第4,839,194号、および同第5,244,787号はマイクロ波エネルギーを、米国特許第3,961,097号および同第5,089,288号は超音波エネルギーを、米国特許第5,023,187号は赤外線エネルギーを使用している。米国特許第5,104,640号には、血液塗沫標本をスライドに付着させる、固定剤、安定剤、および可溶化剤の非水系組成物が開示されている。
【発明の開示】
【0014】
本発明者らは、現在用いられているいずれの手順とも異なる様式で組織を処理する方法を以下に開示する。本発明は、生物学的試料を組織学的(または病理学的)分析用に処理する方法であって、超臨界流体または近超臨界流体を含む組成物に試料を接触させて、1バールを超える圧力下で試料に包埋剤を含浸させる段階を含む方法を提供する。
【0015】
本発明の方法は、既報のいずれの方法よりも高速であり、処理した組織に生じる損傷が最小限であり、キシレンなどの有機溶剤の使用を回避し、試薬の使用量が最小限であり、且つ、驚くべきことに、続く細胞学的、組織学的、または解剖学的な分析用の優れた標本を供する。さらに、本発明の方法を用いると、エタノールまたはキシレンなど引火性の液体が入った大型の(プラスチック製の)コンテナを使用する必要がなくなる。
【0016】
超臨界流体(時として超臨界気体流体またはフルイダム(fluidum)とよばれる)とは、超臨界温度(supercritical temperature)(Tc)および超臨界圧(supercritical pressure)(Pc)を超えた任意の物質を指す。すべての物質について、その温度を超えると、圧力をどれだけ印加しても液体として存在できないという温度がある。同様に、その圧力を超えると、温度をどれだけ上昇させてもその物質が気体として存在できないという圧力がある。この点を超臨界点(supercritical point)という。臨界温度および臨界圧は、純物質の状態図上の規定境界である。
【0017】
超臨界領域には流体状態が1つだけ存在する。超臨界流体は液体と気体の中間の物理化学特性を示す。超臨界流体(高凝縮気体ともいう)は、表面張力が液体より小さいため、真の液体より容易に表面に沿って広がることができる。同時に、超臨界流体は、配合物中の可溶性物質を溶解するという液体の能力を保持している。これは気体がもたない能力である。
【0018】
本発明では、(組織)試料を超臨界流体と接触させるかまたは超臨界流体で囲む。これは、試料を、(近)超臨界流体を含む組成物とともに、超臨界流体の臨界圧(Pc)を超える圧力まで加圧する段階、および試料を、超臨界流体とともに、超臨界流体の臨界温度(Tc)を超える温度まで加温する段階を含む。超臨界流体は、高圧容器内で試料の横を通過する際に、試料に浸透する。物質の特性(特に溶解能)が組織処理の方法に有用である限り、超臨界点またはそれ以上の(すなわち、TcおよびPcを超えている)物質を必ずしも常に使用しなくてもよい。例えば、圧力および温度が超臨界点に近い近超臨界流体も、本明細書に示す方法に有利に使用することができる。本発明において、「近超臨界流体」という用語は、温度がTcの約0.7〜約1.4倍の範囲内であり且つ圧力がPcの約0.3〜約7倍の範囲内である流体として定義される。
【0019】
好ましい態様においては、試料を、(近)超臨界の二酸化炭素(CO2)を含む組成物と接触させる。CO2の超臨界圧は約7.3 MPa(73バール)であり、超臨界温度は約31℃である。生体組織は、約60℃を上回る温度で変性するタンパク質を含んでいる。CO2は超臨界温度が比較的低いため、生物学的試料に対して有害な影響を本質的に及ぼさない温度で、試料を超臨界流体に接触させることができる。しかし、超臨界温度が比較的低い(好ましくは60℃未満である)他の(近)超臨界流体も本発明の方法に好適に利用でき、そのような物質としては例えば、キセノン、亜酸化窒素、エタン、HFC-116、クロロトリフルオロメタン、エチレン、六フッ化硫黄、およびトリフルオロメタンがある。CO2は地球上で2番目に多く、且つ2番目に安価な溶媒であるため、工業用途に極めて魅力的である。CO2は不燃性、非毒性であり、高純度で容易に入手できる。
【0020】
包埋剤または支持剤は、例えば鏡検用として、切片を作製できるように試料に機械的な支持を与える。本発明に係る好ましい包埋剤は、例えば液体パラフィンなどの液体の包埋剤である。パラフィンは、超臨界CO2に可溶性であり(または逆に、CO2がパラフィンに可溶性であり)、安価で、取り扱いが容易で、且つこの物質により構造がコヒーレンスとなるためリボン切片の作製が容易となることから、本明細書の実施例において包埋剤として選択された。他の好適な包埋剤または含浸剤としては、市販のワックス処方物、融点の異なる複数のワックスの混合物(例えば、液体の鉱油と固体のパラフィン)、パラプラスト(paraplast)、バイオロイド(bioloid)、エンベドール(embedol)、およびプラスチックなどがある。
【0021】
本発明において、試料は典型的に、まず、試料中の水を置換するため、エタノールまたは他の種類の脱水剤に浸漬する。次に、試料を(近)超臨界流体とともに加圧して、エタノールなどの脱水剤を除去する。(近)超臨界条件では、脱水剤と流体とは混和可能であり、すなわち、これらはその割合にかかわらず、互いに完全に溶解する。続いて、高い圧力、すなわち1バール(1気圧、1 kg/cm2)を上回る圧力を維持したまま、包埋剤を浸潤させることにより、(近)超臨界流体を置換する。試料中の(近)超臨界流体は、パラフィンにより徐々に置換されながら、同時に包埋剤中に溶解される。浸潤の段階において圧力を高くすることにより、組織中への気体のトラップを防ぎ、且つ、細胞構造を保つことができる。印加する圧力は、好ましくは少なくとも50バールであり、より好ましくは少なくとも100バール(120バールまたは150バールなど)であり、またはさらに高い(約200バールなど)。一般的に、印加する圧力が高いほど、包埋剤中の(近)超臨界流体の溶解度が高くなり、且つ、包埋剤による流体の置換効率が高くなる。例えば、液体パラフィン中のCO2の溶解度は、80バール、55℃のとき質量比約15%であり、120バールでは約30%(w/w)、180バールでは約50%であることが観察されている。本発明の含浸を実施できる温度はさまざまに異なってもよく、他の要因もあるが、特に使用する包埋剤に依存する。典型的に、包埋剤の融点より高い温度が選択される。パラフィンの場合、この温度は56〜58℃である。しかし、圧力が高くなると、融点は通常低下する。例えば圧力110バールの場合、パラフィンは51℃で融解しはじめ、57℃で完全に融解する。試料を含む反応槽の温度を融点を超えて上昇させると(図1を参照)、反応槽内の圧力が上昇する。本発明の1つの態様においては、圧力150バール、温度40℃で、0.5〜1時間、試料をCO2に接触させて、試料からエタノールを除去する。続いて、圧力が約220〜250バールまで上昇するよう、CO2の濃度を維持したまま、試料を65℃まで加温する。圧力を一定に維持するよう努めながら、CO2を反応槽から排出させ、同時に、液体パラフィンを反応槽に進入させる。約30分かけて反応槽をパラフィンで完全に満たすことにより、試料からCO2を除去および/または溶解する。処理のこの段階において、圧力は例えば100〜140バールまで低下してもよい。試料をパラフィンに完全に浸漬した後は、組織からパラフィンへのCO2の拡散を可能にし、且つCO2の気泡が組織中にトラップされるのを防ぐため、圧力を徐々に低下させてもよい。
【0022】
試料を減圧した後は、ある程度の時間(例えば10〜60分間)、温パラフィン中に試料を放置することが有利である可能性がある。
【0023】
超臨界流体中で可溶性が高くなる現象は1800年代後半から公知となっている。この現象は、数十年間にわたって、食品加工業においてカフェインおよびホップ油などの香味化合物の抽出に利用されている。超臨界流体の溶解力は操作条件のわずかな変化に対して感受性を示し、圧力および温度を微調整することによって、特定の処理に合わせて超臨界流体の溶媒能を調整することが可能である。超臨界流体がもつ望ましく且つ独特の特性は、布の洗浄または汚染土壌の衛生化など、他の種々の問題に超臨界流体技術を応用する推進力となっている。
【0024】
超臨界流体による抽出は、異種移植片および生体補綴装置に組み込むための、滅菌した組織の調製方法に利用されている。米国特許出願第US2003/0072677号には、感染物質を組織から除去することおよび化学薬品で組織を処理することを目的とした超臨界流体の使用が開示されている。US2003/0072677は本発明と異なり、より詳しい観察用に試料を処理することに関するものではなく、無論、組織学的な(包埋の)手順に超臨界流体を応用することに関するものでもない。米国特許第6,493,964号には、電子顕微鏡観察における試料作製用および半導体ウェーハ生産用の超臨界点乾燥装置が開示されている。同特許では、超臨界の「遷移」流体を置換する技術を利用して、細胞構造中の流体を脱水し次に遷移流体を除去する。しかし、米国特許第6,493,964号は、試料の含浸に関するものではなく、且つ高圧を維持したまま脱水剤と包埋剤との中間物として超臨界流体を有利に使用できること、およびそのような使用により従来の手順と比較して質の優れた標本が得られること(後述)を開示も示唆もしていない。EP0822403は、詳しい検査用に調製するため加圧した不活性ガスを用いて有機物組織を処理する方法であって、試料を高温で処理できるような方法に関するものである。圧力は、組織試料を含むコンテナに不活性ガス(例えばCO2)を導入することによって高めてもよい。同特許の記述によれば、脱水/透徹の段階は、好ましくは、圧力が最大10バール、温度が室温〜最大90℃の状態で同時に実施される。この条件下においてCO2は超臨界または近超臨界の状態ではない。したがって、EP0822403の処理は、本発明の方法とはまったく異なる概念を含意したものであり、且つ(近)超臨界流体を用いない。さらに、EP0822403の記述によれば、含浸は好ましくは真空下で実施される。
【0025】
本発明の組織学的処理の方法においては、試料を(近)超臨界流体で処理し、続いて、圧力を上昇させた状態で包埋剤を含浸させる。1つの態様において、本発明の方法は、含浸前に試料を脱水、脱脂、および/または脱石灰する段階をさらに含む。この追加の処理段階は、前述の従来の手順を用いて実施してもよいが、好ましくは超臨界流体を利用して実施する。1つの態様においては、試料を処理する方法であって、超臨界流体を用いて試料を脱水する段階を含む方法が提供される。例えば、試料に包埋剤を含浸させる前に、試料中の水を可溶化し且つこれを除去するため、試料を超臨界流体に接触させる。試料から特定の物質(例えば水)を抽出することを助けるため、超臨界流体を他の溶媒と混合してもよい。1つの態様においては、超臨界流体と脱水剤(好ましくはエチルアルコール(エタノール;EtOH)などのアルコール)または洗浄剤(Tweenなど)とを含む組成物で、試料を脱水する。本明細書に記載されている、超臨界流体を用いた脱水は、典型的に迅速に完了し、数分以内に完了する場合もある。このように本発明は、改善された包埋手順と、アルコール系列を用いた段階的な脱水という時間のかかる従来の方法に対する魅力的な代替法とを組み合わせたものである。有利な点として、超臨界流体は脂肪および脂質など試料中の他の物質を溶解および抽出するので、試料から薄切片を切り出すことが容易になる。特定の態様において、試料、特に骨標本のような石灰化組織を処理する段階は、試料からカルシウムを除去する段階を含む。石灰化した構造は一般的に切断が困難であるため、骨組織、および組織中の他の石灰化粒子から薄切片を切り出すうえで、試料の脱石灰は重要である。従来の脱石灰プロトコルでは、固定した試料を、酸性の脱石灰溶液(典型的にはギ酸、酢酸、塩酸、または硝酸)中で1〜5晩、さらにインキュベートすることが必要である。脱石灰はまた、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などのカルシウムキレート化剤を用いて行われることもある。本発明において、試料の脱石灰は、既存の脱石灰方法より簡便且つ迅速に実現される。本発明の脱石灰においては、(近)超臨界流体を含む組成物であって、脱石灰剤をさらに含む組成物に、生物学的試料を接触させる。好適な脱石灰剤としては、カルボキシル酸などの酸(例えばギ酸または酢酸)、および、カルシウムと結合するかまたはカルシウムを封鎖できるその他の化合物がある。
【0026】
超臨界流体を含み且つ追加の共溶媒(例えば、水および/またはカルシウムに対する共溶媒)を含む組成物を使用する場合、超臨界流体および共溶媒(例えば、アルコールおよび/または酸)は、シリンダ中の混合物として供給してもよい。追加の共溶媒を供給する別の方法として、必要とされる共溶媒を超臨界流体に混合するための、現場用の追加のポンプシステムを使用してもよい。
【0027】
本明細書において、組織学的分析とは、組織、細胞、臓器、または生体の外見、特性、または挙動を調べるために実施され得る、任意の種類の分析を意味する。組織学的分析は、処理した試料を顕微鏡下で調べることによって実施され得る。特定の細胞種または組織を識別またはマーキングするため、処理した試料(の構成要素)を、試料中に存在する1つまたは複数の構成要素(タンパク質、核酸、炭水化物など)と特異的に反応する染色剤、試薬、またはプローブなど、1つまたは複数の試薬に接触させてもよい。組織とは、本質的に類似しており且つ協働して特定の機能を行う、細胞の群または層を意味する。典型的なプローブとしては、抗体(例えば免疫組織化学用)、核酸(RNA;DNA)プローブ(例えばインサイチューハイブリダイゼーション用またはPCR法用)、酵素組織化学に使用される基質(例えば、アセチルコリンエステラーゼまたはATPアーゼの活性検出用のNADH)、ならびにヘマトキシリン・エオシン(H&E);硫酸化した粘膜基質を染色するアルシアンブルー;グラム陽性菌およびグラム陰性菌を染色するブラウン-ブレン・グラム染色液;アミロイドを染色するコンゴレッド、H.ピロリ(H. pylori)および骨髄を染色するギムザ染色液;ゴモリの改良鉄染色液など、従来の染色用化合物があり、他にも、正常または異常な特定の細胞種または組織を識別またはマーキングするのに有用な多数のプローブが当業者に公知である。
【0028】
病理学的分析とは、病理学に関連する組織学的分析を意味する。典型的に、病理学的分析は、細胞および組織を含む試料を顕微鏡下で調べることによって疾患を診断する、病理医によって行われる。好ましい態様において、病理学的分析は、疾患の病期または程度を判定するためのヒト試料の分析を含む。
【0029】
本発明において、試料は、組織標本などの生物学的試料を含む。本発明の文脈において、「組織標本」とは、本明細書に開示する方法によって処理できる任意の組織片を意味する。「組織標本」はまた、生物学的な流体(例えば、腹水、血液、胸膜浸出物)に由来する単離細胞、または固形臓器の吸引もしくは体腔の洗浄により取得された細胞懸濁液を意味する場合もある。単離細胞は、沈降または浮遊遠心分離によりペレット化したものであってもよい。「組織標本」はまた、無傷の臓器、さらには無傷の生体またはその一部を意味する場合もある。生体は、単細胞生物および多細胞生物を含み、その範囲は、細菌、真菌、昆虫、および植物から哺乳動物までにわたる。ヒト被験者に由来する固形片(すなわち、組織切片または針生検検体)は、組織学および病理学に使用する目的で一般的に処理されている。臓器(例えば脳)を固定および包埋する従来の方法は最大6〜8週間を要するが、本発明の方法により、有毒な(透徹用の)溶媒を使用することなく、同日中に、(無傷の)臓器またはその一部に固体の包埋剤を含浸させることが可能となる。
【0030】
本発明の方法により、処理の合計時間(固定から含浸まで)を、従来の8〜12時間から、2時間未満、好ましくは1.5時間未満、より好ましくは1時間未満まで短縮することが可能である。有毒であり且つ発癌性の可能性がある透徹剤の使用を回避しながら標本を連続処理し、且つ、優れた質の試料を提供しつつ、固定後または未固定の組織から標本を作製する段階から含浸の段階まで診断用の組織スライドを作製する全工程を1.5〜2時間未満で完了できることは、先行技術のいずれにも開示も示唆もされていない。国際公開公報第01/44783号には、2時間未満の高速処理が可能であり、且つ任意でキシレン透徹剤を使用しなくてもよい、改善されたマイクロ波ユニットを含む組織処理装置が開示されている。しかし、国際公開公報第01/44783号のプロトコルで処理できるのは、厚さ約3 mm未満の組織標本のみである。対照的に、本発明の方法では、厚さが8 mm、さらには1 cmを超えるものなど、厚さ5 mm以上の試料であっても、超臨界流体を用いて高速に処理できる。前述したように、そして国際公開公報第01/44783号と異なり、本発明の方法は、組織試料または小さな組織切片に限定されない。本発明の方法では、体積が約0.001 cm3(例えば生検)または1 cm3(例えば皮膚標本)の試料から、10 cm3(例えば小さい腫瘍)の試料まで、さらには、体積2000 cm3(例えば脳全体などの臓器)のものなど大きい試料まで、処理することが可能である。本発明の方法においては、概して、試料が大きいほど、試料の処理の所要時間が長くなる。しかし先行技術と比較すると、本発明により節約される時間は、標本のサイズという理由によってさらに増大する。例えば、20 x 15 x 5 mmの組織標本は、本発明の方法により高速に脱水および含浸される。このことは、複数の(ミクロトーム)切片を得ることが可能な体積またはサイズの試料を処理できるという点で、大きな利点をもたらす。例えば、病理医は、試料を組織学的に検査した後、組織学的分析を補助する目的で、抗体など特異的な試薬で染色した同じ試料を調べたい場合がある。本発明によって試料を処理することにより、同じ試料に由来する第二、第三、またはさらに多数の(平行な)切片を簡単に得ることができる。これは、国際公開公報第01/44783号のように、標本が処理前から3 mm未満になっている場合は、明らかに不可能である。代わりに、最初から複数の試料を取得し、且つそれらのインサイチューでの関係を再構築するため相対的な方向を注意深く記録しておく必要がある。
【0031】
驚くべき点として、本発明に基づき超臨界流体を用いて処理したさまざまな種類のヒト組織標本の組織学的分析から、この標本の質が、従来の手順に基づいて処理した同じ組織の試料と比較して優れていることが明らかになった。例えば、図3に示される二酸化炭素を用いて処理したヒト結腸標本のケラチン染色パターンは、従来法を用いて処理した同じ結腸試料に由来する標本のケラチン染色パターン(図2)よりも濃い。同様に、本発明の方法に基づいて処理した、ビメンチン染色後のヒト胆嚢標本(図3と図4との比較)およびS-100タンパク質染色後のヒト神経標本(図6と図7との比較)においても、組織学的分析をより良好に行うことができた。
【0032】
本発明の1つの態様において、試料は、本発明の方法に基づいて処理する前に、例えばホルムアルデヒド溶液(ホルマリンともよばれる)を用いるなど、従来の方法により固定する。ホルムアルデヒド(CH2O)は、タンパク質の末端の自由-NH2基と反応して、タンパク質の2つの成分間または2つの異なるタンパク質間に、共有結合によるメチレン架橋を形成する。しかし、従来の固定および組織処理(すなわち、パラフィンブロックを作製する処理)の主な短所は、核酸(例えば、DNA、および特にRNA)の構造に不可逆的な損傷(例えば、ホスホジエステル結合の加水分解および/または脱アミド)を生じさせ得るという点にある。したがって、(組織)試料を固定および処理してパラフィンブロックを作製する方法では、遺伝子技術を診断および研究に応用することが制限される。
【0033】
本発明の1つの態様においては、前もって冷凍した試料を、本発明の方法に基づいて処理する。ほとんどのDNA分析において、そしてRNA分析では確実に、核酸の変性を防ぐため新鮮な組織をただちに(「瞬間的に(snap)」)液体窒素中で冷凍するなど、試料材料の取り扱いに特別な注意を要することが、当技術分野において公知である。本発明の方法は(瞬間)冷凍した試料の含浸に用いてもよく、したがって本発明は、核酸(DNA、RNA)分析を含むさまざまな種類の組織学的分析に供することができる、処理済みの生物学的試料を得るための方法を提供する。しかし一方では、凍結切片は、組織学的な診断を行ううえで、パラフィンブロックから作製した切片と比較して不利な点を有することがある。例えば、凍結試料は脱水をきたしやすい。したがって凍結試料の保管は脱水を防ぐ手段を必要とする。重要な点として、冷凍した組織は、多くの場合、試料中に存在する氷の結晶に起因する多数のアーチファクトを示す。したがって、固定試料または冷凍試料に関連する利点および欠点を互いに適切に比較することは、困難な場合がある。
【0034】
試料を処理するための本発明の方法は、固定試料または冷凍試料を処理することに加えて、固定または冷凍されていない新鮮な試料を超臨界流体との接触前に高速に処理することも可能にし、したがって、これらの問題に対する洗練された解決を提供する。冷凍するかまたは化学的な固定剤を用いる代わりに、試料が超臨界流体との接触中に高い圧力にさらされること、および包埋剤(例えばパラフィンワックス)が高圧下で高速に含浸されることにより、構造および構成が最適な状態で保存される。驚くべき点として、圧力を上昇させ、次に徐々に低下させても、組織試料の損傷は起こらない。組織の加圧は比較的高速に行うことができる。組織中の細胞は液体で満たされており、高速の加圧に耐えることができる。しかし、流体が高速に膨張することおよび細胞が破裂することを防ぐため、試料の減圧は徐々に行う必要がある。このように本発明は、試料の瞬間冷凍に対する魅力的な代替法を提供し、且つ、組織学的分析、生化学的分析、および核酸分析を含む複数の種類の(病理学的)分析に適合する試料を、ホルマリンを使用することなく作製することを可能にする。
【0035】
重要な点として、超臨界流体を用いた高速な組織の標本作製では、組織処理の所要時間が短縮することに加えて、従来の方法では失われてしまう組織の構造および形態を保存することができる。生物学的な構造に強度を与える重要な化合物であるグリコーゲンは、従来の方法を用いた場合、ほぼ常に失われる。リンパ管、特に子宮筋層のリンパ管は、従来の処理では処理中に崩壊してしまうが、本発明の方法を用いた場合は本質的に無傷で保たれる。さらに、本発明に基づいて処理した組織の研究から、従来の処理法と比較してDNAおよびRNAの抽出物が良好に保存されることが示されている。病院およびその他の手術環境で取得された組織は、研究室への到着後ただちに、組織学的検査および遺伝学的検査の両方に使用できるよう処理することができる。さらに、本発明に基づいて処理した試料は、典型的に保存状態が良いため、将来の研究および他の用途に利用できる保存用の試料材料を作製することも可能である。
【0036】
本発明は、処理済みの試料から核酸、DNA、またはRNAを調製することを妨げるものではない。したがって、臨床病理学研究室で日常的に収集された標本に対して、遺伝学的研究を行うことが可能である。これらの技術を組み合わせることによる影響は大きいと考えられる。1つの組織化学切片を染色または免疫組織化学により分析し、隣接する切片の核酸を(例えばPCR法を用いて)遺伝子分析することにより、組織学的な観察結果と遺伝学的な検査結果とを相関させることが可能である。例えば、同じ部分の異常領域と健常領域とを比較して遺伝的差異(例えば、変異、転写のレベル)を検出すること、複数の時点で取得された試料の遺伝的差異を比較することにより疾患の進行の特徴を調べること、および原発癌から転移までの遺伝的差異の蓄積を追跡することにより腫瘍の進化を評価することが可能である。
【0037】
本発明の方法によるさらなる利点は、試料または標本の方向に関する。標本の方向は、最終的な結果、すなわち正しい診断に到達するための鍵となる。既存の手順においては、処理済みの(包埋済みの)標本を標本ホルダーまたは型に置くことによって、ミクロトームによる組織の切り出しが可能になる。小さく且つデリケートであることが多い試料を、正しい方向でホルダーに固定し不動化することは、多くの場合、煩雑である。接着剤の多くは組織処理に使用される有機溶剤と適合性がないため、型またはホルダーの底面に標本を取り付けるため、粗いまたは「粘着性の」表面を有する型が用いられるのが典型的である。しかし、これらのホルダーは、切り出しができるほど十分には標本を固定できないことが多い。他の標本ホルダーとしては、スナップオン式のふたを備えたものがあり、底面とふたとの間で単純に試料を締め付けることにより試料を不動化する。しかし、これらのホルダーも、皮膚組織または上皮組織などのデリケートな標本には適さない。そのような組織の完全性は、標本を締め付けるために必要な圧力によって容易に損なわれるからである。このことは、例えば血管の崩壊などによって示されている。本発明はこれらの問題に対する解決を提供する。これまでは、有機溶剤(キシレン)のために接着剤の使用が不適切となっていたが、本発明は有機溶剤を必要としないため、標本をホルダーの底面に所望の向きで単純に接着することができる。さらに、前述したように、本発明の方法は、今までと比較してかなり大きなサイズの試料の含浸にも好適に用いることができる。したがって、本発明により、無傷の組織または臓器、さらには生体を、処理前にまず配向することも可能である。例えば手術室で腫瘍を切除した場合、本発明では、腫瘍を複数の小さい標本に切り分けてその相対的な方向を注意深く把握し続けるのではなく、無傷の腫瘍全体を配向しそして包埋することが可能である。
【0038】
本発明者らは、ミクロトームによる切り出しに適した含浸済みの組織ブロックを、病理学研究室で組織が受領されてから1.5時間未満で作製できる、簡便、安全、低コスト、迅速で、且つ信頼性の高い処理方法を開発した。本発明は、新鮮標本、固定標本、または凍結標本の連続的な処理およびフローを可能にし、自動化に適しており、有害煙霧を伴うホルマリンおよびキシレンの必要性を解消し、組織処理の標準化を可能にし、且つ、試薬の必要量が従来の方法と比較して大幅に少ない。本発明者らのいう「連続的な」処理とは、処理の完了に必要な時間(すなわち1時間〜数時間)ではなく、処理の個々の段階の完了に必要な時間(すなわち数分間)によって決定されたインターバルで、追加の組織標本を本発明のシステムに供給することを意味する。任意の時点において、異なる処理段階の試料が存在していてもよい。換言すると、組織処理の種々の段階に沿った、標本の連続的なスループットおよびフローが、本発明により可能になる。連続処理は、手動で実現してもよく、または、組織処理装置などの自動機器により実現してもよい。
【0039】
本発明は、1つの局面において、本発明の方法に使用するための処理装置を提供する。以下に、本発明に基づくそのような処理装置の1つの態様を、添付の図面のうち図1を参照しながら、一例として説明する。
【0040】
図1は、本発明に基づく処理装置の例を示した略図である。
【0041】
図1の処理装置1は、貯蔵タンク3およびコンジットシステム4を含む。コンジットシステム4は、物質を処理装置に供給するための入口2を有する。この例の場合、物質は液体二酸化炭素を想定している。二酸化炭素は、コンジットシステム4のコンジット、および冷却器13を介して、貯蔵タンク3へと輸送される。処理装置1は、貯蔵タンク3の下流に、いずれも二酸化炭素を必要な条件にするための加圧手段5および加温手段6を含む。二酸化炭素は処理反応槽9に供給される。この反応槽9は、組織学的分析用の処理装置1により調製される試料10を収容してもよい。反応槽9は、反応槽9内の二酸化炭素を必要な条件に保つための、加温および/または冷却手段14を含む。反応槽9のこれらの調節手段14があることにより、前述した本発明の各方法の各段階を処理反応槽9の中で行うことができる。処理装置1は、処理反応槽9の下流に圧力制御弁16をさらに含み、それに続いて、反応槽9から出る物質の混合物から各物質を分離するための分離手段11が設けられる。アルコール、パラフィン、水など、抽出された物質は、出口12を介して抽出手段から出ることができる。パラフィンなど、これらの物質の一部は、再利用してもよい。混合物に残った二酸化炭素は再循環させてもよい。この場合、二酸化炭素は、分離手段11からコンジット4を介して再循環手段13(例えば、処理装置1のコンジットシステム4に具備された二酸化炭素気体冷却器13)に供給され、その後、液化された二酸化炭素が貯蔵タンク3に再度供給される。反応槽9に二酸化炭素が十分に流入したら、ポンプ5を停止させ、そして、弁17を開くことにより、圧力容器7の中の包埋剤(例えばパラフィン)を、包埋剤が重力によってコンジット8を通って反応槽9に流入するように、反応槽9へと移動させる。圧力容器7は、コンジット4に接続しているため、加圧状態に保たれる。ここで試料10に包埋剤が含浸される。続いて、反応槽9および圧力容器9を、分離容器11に流入するコンジット4Aを介して減圧するとともに、出口15を介して空にしてもよい。
【0042】
以上、本発明に基づく処理装置1の例を説明したが、添付の特許請求の範囲により規定される本発明から逸脱しない多くの改変が可能であることが当業者には明らかであると思われる。例えば、単一の処理装置に、より多数の反応槽、圧力容器、貯蔵タンク、ポンプ、制御手段、弁などを設けることが可能である。例えば、ポンプを使用して、共溶媒または脱水剤(例えばエタノール、アセトン、ホルムアルデヒドなど)を添加してもよい。
【0043】
実施例
エタノールを含浸させたヒトの胆嚢、結腸、および神経の標本を、1リットルの反応槽に入れた。反応槽の温度を40℃に維持した。反応槽を閉じ、40℃の二酸化炭素で150バールまで加圧した。制御弁により圧力を150バールに維持しながら、新鮮な二酸化炭素をポンプにより10 kg/時間の速度で反応槽に流入させた。45分後、ポンプを停止させ、温度を60℃まで上昇させた。圧力を約230バールまで上昇させた。圧力を210バールに維持しながら、60℃の溶融パラフィンを、2リットル/時間の速度でゆっくり反応槽に流入させて、標本に含浸させた。反応槽がパラフィンでほぼ完全に満たされた後、10分間かけて反応槽を減圧した。余剰のパラフィンを反応槽から排出し、反応槽を40℃まで冷却した後、包埋済みの標本を反応槽から回収した。標本を、従来の手順に基づいて組織学的に分析した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る処理装置の例である。
【図2】従来式のハイスループットSakura VIP-300ベンチトップ自動組織処理装置で処理したヒト結腸標本(100x;挿入図400x)である。Keratine 20(Dako社製マウス抗ヒトサイトケラチン20モノクローナル抗体、クローン:Ks 20.8、クローン番号:M7019、ロット:067)を用いてケラチンを染色した。Ventana NexES(商標)自動免疫染色装置を使用した。特異性:大腸粘膜の上皮細胞が染色され、視認できる背景染色は生じなかった。強度:陰窩全体に沿って広範な染色パターンが生じた。
【図3】超臨界二酸化炭素を用いて処理した以外は図2と同じ試料の、ヒト結腸標本(100x;挿入図400x)である。染色は図2の説明と同様に行った。特異性:大腸粘膜の上皮細胞が染色され、視認できる背景染色は生じなかった。強度:陰窩全体に沿って広範な染色パターンが生じた。従来の方法(VIP)と比較して強い染色が得られた。
【図4】VIP300による標準的な手順で処理したヒト胆嚢標本(100x;挿入図400x)である。抗ビメンチン抗体(クローン:vim 3B4、カタログ番号:112457、Boehringer Mannheim社製)を用い、プロトコルに基づくベンタナ(Ventana)染色により、ビメンチンを染色した。特異性:胆嚢の粘膜固有層およびそれより深い層の間葉細胞が染色された。上皮細胞は染色されなかった。強度:間葉細胞の細胞質内染色が広範に生じた。
【図5】超臨界二酸化炭素を用いて処理した以外は図4と同じ試料の、ヒト胆嚢標本(100x;挿入図400x)である。染色は図4の説明と同様に行った。特異性:胆嚢の粘膜固有層およびそれより深い層の間葉細胞が染色された。強度:従来の手順(VIP)と比較して強い染色が得られた。
【図6】VIP300による標準的な手順で処理したヒト神経標本(400x)である。抗体(S-100、コード番号:Z 311、ロット番号:026、Dako社製)を用い、プロトコルに基づくベンタナ染色を行った。特異性:神経が染色され、他の構造は染色されなかった。強度:シュワン細胞およびニューロンの細胞質内染色が広範に生じた。視認できる背景染色は生じなかった。
【図7】超臨界二酸化炭素を用いて処理した以外は図6と同じ試料の、ヒト神経標本(400x)である。染色は図6の説明と同様に行った。特異性:神経が染色され、他の構造は染色されなかった。強度:シュワン細胞およびニューロンが強く染色された。視認できる背景染色は生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織学的分析用に生物学的試料を処理する方法であって、超臨界流体または近超臨界流体を含む組成物に該試料を接触させて、1バールを超える圧力下で好ましくはパラフィンである包埋剤を該試料に含浸させる段階を含む方法。
【請求項2】
超臨界流体または近超臨界流体が二酸化炭素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
生物学的試料が、新鮮な組織試料、凍結組織試料、または固定組織試料であり、好ましくは新鮮な未固定の試料である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
生物学的試料が、臓器またはその一部を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
試料が、含浸前に、好ましくは超臨界流体を含む組成物を用いることによって、脱水、脱脂、および/または脱石灰される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
組成物が、好ましくはアルコールである脱水剤をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
組成物が、好ましくは酸である脱石灰剤をさらに含む、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
組織学的分析用に少なくとも1つの試料(10)を調製するための処理装置(1)であって、該少なくとも1つの試料(10)のための少なくとも1つの処理反応槽(9)を含み、少なくとも1つが超臨界相または近超臨界相にある少なくとも1つの物質を該反応槽(9)に供給するための供給手段(4)と、コンジット(8)を介して該反応槽(9)に包埋剤を添加するための少なくとも1つの供給手段(7)とを含むことを特徴とする処理装置(1)。
【請求項9】
物質を必要な圧力および/または温度にするための加圧手段および/または加温手段(5、6)をさらに含む、請求項8記載の処理装置(1)。
【請求項10】
反応槽(9)から出る物質の混合物から物質を分離するための分離手段(11)をさらに含む、請求項8または9記載の処理装置(1)。
【請求項11】
反応槽(9)から排出された物質を再循環させるための再循環手段(13)をさらに含む、請求項8〜10のいずれか一項記載の処理装置(1)。
【請求項12】
組織学的分析用に生物学的試料を処理するための、請求項8〜10のいずれか一項記載の処理装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−521488(P2007−521488A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518560(P2006−518560)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000462
【国際公開番号】WO2005/001437
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(506002498)
【Fターム(参考)】