説明

組織処理装置内の組織試料の自動処理方法

【課題】組織処理装置周辺にいる人に健康上の悪影響をできるだけ与えず、及び/又は高品質の試料調製に貢献する、組織処理装置内の組織試料の自動処理方法を提供する。
【解決手段】組織試料装置内の組織試料の自動処理において、組織試料は組織処理装置のレトルトに配置される。組織試料は、レトルト内で固定試薬(FIX)で処理される。その後、組織試料は脱水試薬(ALK)で処理される。その後、レトルトは脱水試薬(ALK)を除去するために媒介剤(INT)で洗浄される。最後に、組織試料は担体材(CAR)で処理される。レトルトを媒介剤(INT)で洗浄する工程と、組織試料を担体材(CAR)で処理する工程との間に、レトルトは、媒介剤(INT)及び担体材(CAR)が混合可能である担体材保護試薬(CARPRO)で洗浄される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織処理装置内の組織試料を自動的に処理する方法に関する。組織試料は、組織処理装置のレトルト内に配置される。レトルト内では、その組織試料が固定試薬で処理される。その後、組織試料は脱水試薬で処理される。組織試料の脱水後、レトルトは脱水試薬を除去するために媒介剤で洗浄される。最後に、組織試料は担体材で処理される。
【背景技術】
【0002】
生物学的組織試料、特に組織学的組織試料は、人に関する医学及び獣医学の分野、特に細胞及びその環境の評価のための顕微鏡標本に関してしばしば要求される。顕微鏡検査のため、専門家によって落射光又は透過光を用いた顕微鏡で評価される組織試料の薄片を調製する必要がある。例えばミクロトームを用いた薄片調製のため、組織試料はナイフによって数ミクロン程度の厚さを持つ透過性の薄片を作成できるように、ある程度の安定性を有する必要がある。そのため、組織試料はまず処理プロセスにかける必要があり、そこでは固定試薬での固定、脱水試薬での脱水、媒介剤での洗浄(試薬除去)を行い、そして担体として好ましくは溶融パラフィンを浸潤させる。これらのプロセスは組織処理装置と呼ばれる1つの装置内で1つずつ順番に(順次)処理される。そのため、組織処理装置はレトルトと呼ばれる閉鎖可能な処理室を有し、その内部には上記のプロセスを適切な温度及び圧力で実行するための異なる試薬を有している。
【0003】
これに関して重要な工程は、試料を安定化し、硬化させるために担体を組織試料に浸潤させる工程である。この浸潤工程に先立ち、先の脱水工程から持ち越された残留アルコールを除去する洗浄工程を行う。この洗浄工程では、キシレン又は同様な試薬が用いられる。続く浸潤工程では、組織試料は担体材−これはほとんど溶融パラフィンであるが−で処理され、残留キシレン成分は洗い流されて液状の担体材に吸収されるため、レトルトの中で担体材は汚染される。
【0004】
DE102005057191A1により、異なる試薬で組織学的試料を処理する処理装置が知られている。この組織処理装置では、異なる試薬容器が組織処理装置のレトルトに導管システムによって接続されている。組織学的試料は、レトルト内に配置されて、異なる試薬で順次処理される。
【0005】
WO2006/089365A1により、組織試料の浸潤のために液状パラフィンを用いる組織処理装置及び方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE102005057191A1
【特許文献2】WO2006/089365A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、組織処理装置周辺にいる人に健康上の悪影響をできるだけ与えず、及び/又は高品質の試料調製に貢献する、組織処理装置内の組織試料の自動処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に記載の特徴により解決される。即ち、本発明の1視点において、組織処理装置のレトルト内に組織試料を配置した組織処理装置内における組織試料の自動処理方法が提供される。該自動処理方法は、組織試料を固定試薬で処理する工程と、次に該組織試料を脱水試薬で処理する工程と、次にレトルトを、該脱水試薬を除去するための媒介剤で洗浄する工程と、次に該組織試料を担体材で処理する工程と、を含み、該媒介剤による洗浄工程と該担体材による組織試料処理工程との間に、該レトルトを、該媒介剤及び該担体材と混合可能な担体材保護試薬で洗浄する工程をさらに含む、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は組織処理装置内での組織試料自動処理方法の一実施例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の上記1視点において、組織処理装置のレトルト内に組織試料を配置した組織処理装置内における組織試料の自動処理方法は、組織試料を固定試薬(FIX)で処理する工程と、次に該組織試料を脱水試薬(ALK)で処理する工程と、次にレトルトを、該脱水試薬(ALK)を除去するための媒介剤(INT)で洗浄する工程と、次に該組織試料を担体材(CAR)で処理する工程と、を含み、該媒介剤(INT)による洗浄工程と該担体材(CAR)による組織試料処理工程との間に、該レトルトを、該媒介剤(INT)及び該担体材(CAR)と混合可能な担体材保護試薬(CARPRO)で洗浄する工程をさらに含む。(基本形態1)
なお、特許請求の範囲の各請求項に付記した図面参照符号は、専ら理解を助けるためのものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
有利な実施形態は従属請求項の内容に規定されるとおりである。即ち、
前記担体材保護試薬(CARPRO)は、前記媒介剤(INT)及び/又は前記担体材(CAR)と無制限に混合可能であることが好ましい(形態2)。
また、前記担体材保護試薬(CARPRO)として、媒介剤の代替試薬が用いられることが好ましい(形態3)。
媒介剤の代替試薬として、媒介剤と更なる試薬の混合物及び/又は前記担体材と該更なる試薬の混合物を用いることが好ましい(形態4)。
テルペノイド、パラフィン油及び炭化水素からなるグループから選択される物質を、媒介剤代替試薬又は更なる試薬として用いることが好ましい(形態5)。
媒介剤代替試薬としてイソパラフィンを用いることが好ましい(形態6)。
媒介剤代替試薬として長鎖又は短鎖の炭化水素を用いることが好ましい(形態7)。
【0011】
本発明は以下の特徴に基づく。即ち、レトルトを媒介剤で洗浄する工程と、組織試料を担体材で処理する工程との間に、レトルトを担体材保護試薬で洗浄する工程を行うことである。担体材保護試薬は、媒介剤と担体材とが担体材保護試薬で混合可能(できる)という特性を有する。ここで「混合可能(できる)」という意味は、試薬のうち少なくとも2つを混合した場合に、これらは互いに完全に混合して1つの均質な相を形成する(という性質を有する)という意味である。レトルトを担体材保護試薬で洗浄することにより、担体材を満たす前に、媒介剤はほぼ完全にレトルトから除去される。そのため、担体材は残留した媒介剤で汚染されることがない。これは、一方では、調製完了試料が残留媒介剤で汚染されることがなく、調製完了試料の品質を向上させ、顕微鏡観察のための薄片に切断することを容易にする。また一方では、蒸発した媒介剤は通常、人体に有害な成分を含んでいるところ、担体材を加熱しても残留媒介剤が蒸発することがないから、室内の環境を健康的に保つことができる。
【0012】
有利な実施形態として、担体材保護試薬は、媒介剤及び/又は担体材と無制限に(無限に、任意に)混合可能なものが用いられる。これは、これらがどのような濃度でも混合できることを意味する。
【0013】
担体材保護試薬としては、例えば媒介剤の代替試薬が用いられる。さらに媒介剤代替試薬として、媒介剤と更なる試薬の混合物、及び/又は担体材とその更なる試薬の混合物が用いられる。媒介剤としては、キシレンを用いることが好ましい。媒介剤代替試薬又は更なる試薬として、テルペノイド、パラフィン油、又は炭化水素、特に長鎖又は短鎖の炭化水素から成るグループ、から選択される物質が適している。媒介剤代替試薬として、特にイソパラフィンが用いられる。
【実施例】
【0014】
以下に本発明の実施例について、図を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
ステップS1において、例えば組織試料を組織処理装置のレトルトに配置してから本方法はスタートする。
【0016】
ステップS2において、組織試料はレトルト内で固定試薬FIX、典型的にはホルマリンで処理される。
【0017】
ステップS3において、試料は脱水試薬ALK、例えばアルコールで処理される。脱水試薬ALKは組織試料から水分を抽出する。
【0018】
脱水試薬を除去するため、ステップS4において、レトルトを媒介剤INTで洗浄する。媒介剤INTとして、キシレンが用いられる。代替的に、イソプロパノールが媒介剤INTとして用いられる。
【0019】
媒介剤INTの残留物、特にキシレンが担体材CAR及び担体材CARを介して調製完了組織試料に混入することを防ぐため、ステップS5において、レトルトを担体材保護試薬CARPROで洗浄する。担体材保護試薬CARPROは、媒介剤及び担体材CARと無制限に混合可能である。好ましくは、媒介剤代替試薬、特にキシレン代替物、又はキシレン代替物と媒介剤INTとの混合物又はキシレン代替物と担体材CARとの混合物が担体材保護試薬CARPROとして使用される。キシレン代替物として、特に別のテルペノイド、パラフィン油及び炭化水素が適している。これらのうち、特にイソパラフィン及び長鎖のみならず短鎖の炭化水素が適している。
【0020】
担体材保護試薬CARPROによる洗浄時間は、例えば10分である。洗浄操作は、担体材保護試薬CARPROをレトルト内で加熱することにより加速することができる。レトルトから担体材保護試薬CARPROを排出する前に再び冷却することにより、洗浄した媒介剤が蒸発しないようにすることができる。担体材保護試薬CARPROは、担体材保護試薬CARPROに含まれる媒介剤INTの濃度が所定の制限値を越えるまで、貯蔵して再使用することができる。
【0021】
その後、ステップS6において、レトルトに担体材CARを満たし、組織試料を担体材CARで処理する。担体材CARとして、好ましくはパラフィン又はワックスが用いられる。組織試料を担体材CARで処理するため、担体材CARは溶かされ、典型的には65℃で保温される。ステップS5において媒介剤INTは組織試料及びレトルトから除去されているので、残留した媒介剤INTがステップS6で蒸発することはなく、組織処理装置の周囲の空気を汚染したり、不快な臭気を発して健康に影響を与えることもない。
【0022】
ステップS7において、例えば組織試料を組織処理装置のレトルトから取り出すことにより、本方法は終了することができる。ステップS6において残留媒介剤INTが組織試料からほぼ完全に除去されているので、調製完了した組織試料は特に高い純度を有する。このような高純度の組織試料は、例えばミクロトームによって、特に容易かつ精密に薄片化することができる。
【0023】
担体材保護試薬CARPROが媒介剤INT及び担体材CARと混合できるということは、特にこの無限相溶性は組織処理装置の通常の運転条件において得られることを意味する。例えば、レトルト内での温度0℃〜100℃、絶対圧力20kPa〜170kPaの間である。
【0024】
本発明は記載した実施例に限定されるものではない。例えば、ステップS2からS6のそれぞれはさらにサブステップに分けることができる。特に、複数の組織試料は、ステップS2からS6の1つ又はそれ以上において、それぞれ異なる、特に純度が次第に高くなるようにしたそれぞれごとの試薬で処理することができる。
【符号の説明】
【0025】
S1〜S7 ステップ1〜7
START スタート
FIX 固定試薬
ALK 脱水試薬
INT 媒介剤
CARPRO 担体材保護試薬
CAR 担体材
END 終了

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織処理装置のレトルト内に組織試料を配置した組織処理装置内における組織試料の自動処理方法であって、
組織試料を固定試薬(FIX)で処理する工程と、
次に該組織試料を脱水試薬(ALK)で処理する工程と、
次にレトルトを、該脱水試薬(ALK)を除去するための媒介剤(INT)で洗浄する工程と、
次に該組織試料を担体材(CAR)で処理する工程と、を含み、
該媒介剤(INT)による洗浄工程と該担体材(CAR)による組織試料処理工程との間に、該レトルトを、該媒介剤(INT)及び該担体材(CAR)と混合可能な担体材保護試薬(CARPRO)で洗浄する工程をさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記担体材保護試薬(CARPRO)は、前記媒介剤(INT)及び/又は前記担体材(CAR)と無制限に混合可能であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記担体材保護試薬(CARPRO)として、媒介剤の代替試薬が用いられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
媒介剤の代替試薬として、媒介剤と更なる試薬の混合物及び/又は前記担体材と該更なる試薬の混合物を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
テルペノイド、パラフィン油及び炭化水素からなるグループから選択される物質を、媒介剤代替試薬又は更なる試薬として用いることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
媒介剤代替試薬としてイソパラフィンを用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
媒介剤代替試薬として長鎖又は短鎖の炭化水素を用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−2453(P2011−2453A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134824(P2010−134824)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(500113648)ライカ ビオズュステムス ヌスロッホ ゲーエムベーハー (45)
【Fターム(参考)】