説明

組織処理装置

【課題】所定回数使用した、組織標本に浸漬処理に使用できなくなった薬液と洗浄能が低下した洗浄液との各々について、個別に廃棄・交換作業を行うことを要する従来の組織処理装置の課題を解決する。
【解決手段】組織標本が収容された処理槽12に、所定の薬液を給排して、前記組織標本に浸漬処理を施す組織処理装置10であって、前記浸漬処理に使用される薬液を貯留する薬液タンク14,16と、処理槽12内に残留する残留薬液を洗浄する洗浄液として用いることのできる、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液を洗浄液として貯留する洗浄液タンク19,21とが設けられ、洗浄液タンク19,21内の薬液を処理槽12内に給排して、処理槽12内を洗浄する洗浄手段を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織処理装置に関し、更に詳細には組織標本が収容された処理槽に、異なる種類及び濃度の薬液を所定の順序で給排して、前記組織標本に浸漬処理を施す組織処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や研究所では、生物から採取した組織標本から顕微鏡標本等を作製するために、組織標本の固定、脱水、脱脂、置換の各処理を自動的に行う組織処理装置が用いられている。
かかる組織処理装置としては、図9に示す組織処理装置が用いられている。図9に示す組織処理装置の本体内には、組織標本が挿入されたバスケット100が収納される処理槽102と、棚104に載置され、バスケット100内の組織標本の処理に使用されて薬液濃度が順次異なる薬液の各々が貯留された複数の薬液タンク104a〜104eと、保温庫106内に収納されたパラフィンタンク106a,106aとが設けられている。薬液タンク104a〜104eでは、貯留している薬液の薬液濃度は104a<104b<104c<104d<104eである(使用回数は104a>104b>104c>104d>104eである)。
かかる薬液タンク104a〜104eとパラフィンタンク106a,106aとの各々は、本体内に設けられた選択バルブとしてのロータリーバルブ108に接続され、ロータリーバルブ108は、開閉弁110を介して処理槽102に接続されている。
このため、薬液タンク104a〜104eとパラフィンタンク106a,106aとの各々は、ロータリーバルブ108によって選択されて処理槽102と接続できる。
更に、処理槽102は、ポンプ112によって加圧又は減圧状態とすることができ、処理槽102が減圧状態となったとき、ロータリーバルブ108によって選択された薬液タンク104a〜104e又はパラフィンタンク106a,106aのいずれかのタンクから薬液又はパラフィンを処理槽102内に供給できる。
【0003】
また、処理槽102に供給され、バスケット100内に挿入されていた組織標本と接触された薬液又はパラフィンは、処理槽102内をポンプ112によって加圧状態として、元のタンクに戻す。
かかるロータリーバルブ108、開閉弁110及びポンプ112は制御部114によって制御されているため、制御部114に予め設定された組織標本の処理順序に従って、組織標本を所定の薬液に順次浸漬処理した後、パラフィンに浸漬処理できる。
この様な、図9に示す組織処理装置では、下記特許文献1でも提案されている様に、組織標本のパラフィンによる浸漬処理が終了した処理槽102内に残留しているパラフィンを、洗浄液タンク107に貯留されている洗浄液で洗浄することが行われている。この洗浄液としては、組織標本の浸漬処理に用いる薬液と同一種類の薬液を用いることができる。
【特許文献1】特開平5−149846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9に示す組織処理装置では、組織標本のパラフィンによる浸漬処理が終了した処理槽102内に残留しているパラフィンを洗浄除去でき、パラフィンが残留していない処理槽102で組織標本の浸漬処理を開始できる。
しかし、図9に示す組織処理装置では、通常、組織標本の浸漬処理用の薬液から独立して、洗浄液として専用の薬液を洗浄液タンク107に貯留している。
ところで、図9に示す組織処理装置で用いる組織標本の浸漬処理に用いる薬液は、所定回数以上使用されると、最終的に得られる処理済の組織標本の品質に悪影響を与えるおそれがある。このため、最終的に得られる処理済の組織標本の品質を一定水準に保持すべく、所定回数使用された薬液は、廃棄されて新しい薬液(新液)と交換される。
また、洗浄液も、所定回数使用すると、その洗浄力が急激に低下するため、廃棄されて新液と交換される。
この様に、組織処理装置の使用者は、組織処理装置に組織標本の浸漬処理用の薬液と、処理槽102を洗浄する洗浄液との各々について、個別に廃棄・交換作業を行うことを要する。
更に、所定回数使用して、組織標本に浸漬処理を施すことができない薬液を、直ちに廃棄することは、省資源の観点から無駄である。
そこで、本発明の課題は、所定回数使用した、組織標本に浸漬処理に使用できなくなった薬液と洗浄能が低下した洗浄液との各々について、個別に廃棄・交換作業を行うことを要する従来の組織処理装置の課題を解決し、所定回数使用して、組織標本に浸漬処理を施すことができない薬液を再利用でき、且つ組織標本に浸漬処理を施すことができない薬液と洗浄能が低下した洗浄液との廃棄・交換作業の労力を可及的に軽減できる組織処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を達成すべく検討した結果、図9に示す組織処理装置の処理槽102に収容された組織標本に、エタノール、キシレン、パラフィンの順序で浸漬処理した後、所定回数使用して組織標本の浸漬処理に使用できず廃棄処分するキシレンによって処理槽102を洗浄したところ、処理槽102を充分に洗浄可能であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、組織標本が収容された処理槽に、異なる種類及び濃度の薬液を所定の順序で給排して、前記組織標本に浸漬処理を施す組織処理装置であって、前記浸漬処理に使用される薬液を貯留する複数の薬液タンクと、前記処理槽内に残留する残留薬液を洗浄する洗浄液として用いることのできる、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液を貯留する洗浄液タンクとが設けられ、前記洗浄液タンク内の薬液を前記処理槽内に給排して、前記処理槽内を洗浄する洗浄手段を具備することを特徴とする組織処理装置にある。
【0006】
かかる本発明において、組織標本の浸漬処理に所定回数使用され、前記浸漬処理に使用できなくなった薬液を、前記薬液が貯留された薬液タンクから洗浄液タンクに移送する薬液の移送手段を設けることによって、浸漬処理に使用できなくなった薬液を洗浄液タンクに容易に移送できる。
また、洗浄液タンクから処理槽に送液された洗浄液量が不足するとき、浸漬処理に使用する薬液が貯留された薬液タンクから不足する薬液量を補充する補充手段を設けることによって、処理槽の洗浄を中断することなく続行できる。
更に、洗浄液タンク内の洗浄液を外部の廃棄タンクに廃棄する廃棄手段を設けることによって、洗浄液タンク内の洗浄液を容易に外部の廃棄タンクに廃棄できる。
かかる本発明に係る組織処理装置において、処理槽を減圧する減圧手段と、前記処理槽を加熱する加熱手段とを設けることによって、処理槽内に残留していた薬液の洗浄効果を更に一層向上でき、且つ洗浄液中の低沸点成分を蒸発除去して洗浄液の洗浄力も向上できる。
また、洗浄液タンクに貯留されている薬液を加温する加温手段を設けることによって、処理槽内に送液された洗浄液の所定温度までの昇温を容易に行うことができ、洗浄時間の短縮を図ることができる。
更に、処理槽に収容された組織標本を浸漬処理する薬液として、エタノール、キシレン及びパラフィンを用い、前記薬液の各々を貯留する複数の薬液タンクと、前記処理槽内を洗浄する洗浄液が貯留された洗浄タンクとして、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなったエタノールから成るエタノール洗浄液を貯留する第1洗浄液タンクと、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなったキシレンから成るキシレン洗浄液を貯留する第2洗浄液タンクとを設け、前記第2洗浄液タンクのキシレン洗浄液で洗浄した処理槽内を、前記第1洗浄液タンクのエタノール洗浄液で洗浄する洗浄手段を設けることによって、パラフィン及びキシレンが充分に洗浄された処理槽を用いて組織標本に対してエタノールによる浸漬処理を施すことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る組織処理装置では、処理槽内に残留する残留薬液を洗浄する洗浄能を有するものの、組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液を洗浄液タンクに貯留している。この洗浄液タンクの洗浄液は、処理槽内の残留薬液の洗浄に用いる。
この様に、本発明では、組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液を、処理槽内の洗浄に用いるため、薬液の有効利用を図ることができる。
また、本発明に係る組織処理装置では、組織標本の浸漬処理に用いることができなくなった薬液を貯留している薬液タンクと、この薬液を洗浄液として貯留する洗浄液タンクとを具備している。このため、洗浄液を廃棄して空にした洗浄液タンクに、薬液タンクに貯留されている組織標本の浸漬処理に用いることができなくなった薬液を移動することによって、洗浄液の廃棄・交換作業を行うことができる。
従って、本発明に係る組織処理装置では、組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液と洗浄能が低下した洗浄液との各々について、個別に廃棄・交換作業を必要とする従来の組織処理装置に比較して、その廃棄・交換作業を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る組織処理装置の一例を図1及び図2に示す。図1(a)は組織処理装置の正面図であり、図1(b)は組織処理装置の上面図である。
図1に示す組織処理装置10では、組織標本が収容されたバスケットを収容する処理槽12が、蓋12aによって開閉可能に設けられている。この処理槽12には、エタノールを供給して組織標本中の水分をエタノールに置換した後、キシレンを供給して組織標本中のエタノールをキシレンに置換し、次いで、溶融パラフィンを供給して組織標本中キシレンをパラフィンに置換する。
このため、処理槽12が設けられた装置本体の最下段には、処理槽12に濃度の異なるエタノールを供給する複数個の薬液タンク14,14・・が配列されている。この薬液タンク14,14・・の各々には、濃度の異なるエタノールが貯留されている。更に、装置本体の中段で且つ薬液タンク14,14・・の上段には、処理槽12に濃度の異なるキシレンを供給する複数個の薬液タンク16,16・・が配列されている。この薬液タンク16,16・・の各々には、濃度の異なるキシレンが貯留されている。
かかる薬液タンク16,16・・の上段には、処理槽12にパラフィンを供給する複数の薬液タンク18,18・・が配列されている。この薬液タンク18,18・・が配列されている段は温蔵庫に形成され、溶融パラフィンの溶融状態を保持する。また、薬液タンク18,18・・のうち、右端の薬液タンク18は、他の薬液タンク18,18よりも大容量に形成されており、溶融パラフィンが貯留されている。
また、処理槽12を洗浄する洗浄液として、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったエタノールから成るエタノール洗浄液が貯留される第1洗浄液タンク19と、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったキシレンから成るキシレン洗浄液が貯留される第2洗浄液タンク21とが設けられている。
【0009】
かかる各種薬品が貯留された複数の薬液タンクや洗浄液タンクが配列された装置本体の両側壁面には、薬液タンク14,14・・よりも大容量(具体的には、薬液タンク14,14・・の各薬液タンクの2〜3倍の容量)で且つ未使用のエタノール(新液)が貯留される新液タンク15と、薬液タンク16,16・・よりも大容量(具体的には、薬液タンク16,16・・の各薬液タンクの2〜3倍の容量)で且つ未使用のキシレン(新液)が貯留される新液タンク17とが一体に装着されている。この様に、新液タンク15,17を装置の両側壁面に一体に装着することによって、装置の構造体としての強度を持たせている。
この新液タンク15,17の各々は、薬液タンク14,14・・又は薬液タンク16,16・・よりも大容量で且つ薄型に形成されている。かかる新液タンク15,17は、その各内壁面が、図2に示す様に、補強材20,20・・が井桁状に接合されて補強されている。この様に、内壁面を補強材20,20・・補強することによって、新液タンク15,17へ新液を供給する際に新液タンク内を減圧状態にしても、所定量のエタノール又はキシレンを貯留することによって加圧状態(水頭圧)としても、新液タンク15,17の歪みを可及的に少なくできる。
また、組織処理装置10の装置本体の正面には、新液タンク15,17に新液を供給する供給配管の供給ポート22,24と、処理槽12内への薬液の給排を行う給排ポート26とが設けられている。
尚、組織処理装置10では、その装置本体の上面に、モニター28が設けられており、処理槽12内の組織標本に施されている処理等について表示することができる。
【0010】
図1に示す組織処理装置10の系統図を図3に示す。図3に示す組織処理装置10の装置本体では、エタノールが貯留された複数の薬液タンクとして、薬液タンク14a〜14dが設けられ、キシレンが貯留された複数の薬液タンクとして、薬液タンク16a〜16dが設けられている。更に、溶融パラフィンが貯留された複数の薬液タンクとして、薬液タンク18a〜18dが設けられており、薬液タンク18dが薬液タンク18a〜18cよりも大容量で且つ薬液タンク18a〜18cでの不足分を供給できるように溶融パラフィンが貯留される。また、装置にパラフィンを補給する場合は、パラフィンの新液を薬液タンク18dに供給する。
更に、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったキシレンから成るキシレン洗浄液は第2洗浄液タンク21に貯留され、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったエタノールから成るエタノール洗浄液は第1洗浄液タンク19に貯留される。
図3に示す組織処理装置10の装置本体では、薬液タンク14a〜14d、薬液タンク16a〜16d及び薬液タンク18a〜18dのうちから選択された所定の種類で且つ所定濃度の薬液が貯留された薬液タンクと処理槽12とを接続する選択バルブとしてのロータリーバルブ30が設けられている。
このロータリーバルブ30は、第1洗浄液タンク19又は第2洗浄液タンク21と処理槽12とを接続する。
尚、処理槽12には、薬液タンク18a〜18dに貯留されている溶融パラフィンが送液されるため、処理槽12を加熱して溶融パラフィンの溶融状態を保持できるように、処理槽12の底部外側面に加熱ヒータ11が装着されている。
【0011】
図3に示す組織処理装置では、薬液タンク14a〜14dに貯留されているエタノール濃度は、薬液タンク14a<14b<14c<14dの順序である。かかる薬液タンク14a〜14dに貯留されているエタノールに関し組織標本を浸漬処理した回数及び水分や油脂等の不純物量は、薬液タンク14a>14b>14c>14dの順序である。
また、薬液タンク16a〜16dに貯留されているキシレン濃度は、エタノール液の持込があるため、薬液タンク16a<16b<16c<16dの順序である。
更に、薬液タンク18a〜18dは、温蔵庫内に配列されており、溶融パラフィン濃度は、薬液タンク18a<18b<18c<18dの順序である。かかる薬液タンク18a〜18dに貯留されているパラフィンに関し、組織標本を浸漬処理した回数及びキシレン液の持込量は、薬液タンク18a>18b>18c>18dの順序である。
【0012】
また、処理槽12の底面とロータリーバルブ30とを接続する配管31の途中に開閉バルブ32が設けられており、開閉バルブ32と処理槽12の上部との間に配管33が設けられている。かかる開閉バルブ32は、三方弁であって、配管31とロータリーバルブ30との接続、配管33とロータリーバルブ30との接続を行うことができる。
更に、処理槽12内を減圧又は加圧するポンプ34が設けられており、処理槽12内をポンプ34によって減圧状態とし、開閉バルブ32によってロータリーバルブ30で選択された所定の薬液タンク又は洗浄液タンクと配管33とを接続し、所定の薬液タンク又は洗浄液タンクから処理槽12に薬液又は洗浄液を供給できる。
一方、ポンプ34によって処理槽12内を加圧状態とし、開閉バルブ32によってロータリーバルブ30で選択された所定の薬液タンクと配管31とを接続し、所定の薬液タンクに処理槽12内の薬液を払い出すことができる。
このため、処理槽12、ポンプ34、ロータリーバルブ30及び開閉バルブ32は、薬液タンク間又は薬液タンクと洗浄液タンクとの間で薬液を移送する薬液移送手段としても用いることができる。すなわち、ロータリーバルブ30を操作して、一の薬液タンクの全薬液を処理槽12に供給した後、ロータリーバルブ30を操作して処理槽12内の薬液を他の薬液タンク又は洗浄液タンクに払い出すことができる。
尚、ポンプ34は、フィルター37を介して空気の吸引又は処理槽12内の薬液混合ガスの排出を行う。
【0013】
また、処理槽12には、所定量の薬液量が供給されたことを検出する検出センサー36が設けられている。検出センサー36は、液位保証センサー36aと上限センサー36bとから構成されている。液位保証センサー36aは処理槽12に供給された薬液量が組織標本を充分に浸漬することを保証するセンサーであり、上限センサー36bは処理槽12に貯留できる薬液量の上限を検出するセンサーである。
かかる処理槽12、薬液タンク、洗浄液タンク、ロータリーバルブ30及び開閉バルブ32等が設けられた装置本体の両側壁面に一体に新液タンク15,17が装着されている。新液タンク15は、その容量が薬液タンク14a〜14dの2〜3倍であって、未使用のエタノールが貯留されている。新液タンク15には、供給ポート24から未使用のエタノールを供給できる。
更に、新液タンク17は、その容量が薬液タンク16a〜16dの2〜3倍であって、未使用のキシレンが貯留されている。新液タンク17には、供給ポート22から未使用のキシレンを供給できる。
かかる新液タンク15,17には、処理槽12との間に均圧ラインが設けられており、均圧ラインには開閉弁54,56が設けられている。
また、新液タンク15,17内の薬液は外気温度により蒸発し、新液タンク15,17の内圧を高める。このため、蒸発したガスにより容器内の圧力が規定値以上に上昇することを防ぐために安全弁40,42を設け、蒸発したガスの臭気を除去するため、フィルター37を介して排気される。
【0014】
かかる組織処理装置10には、図3に示す様に、ロータリーバルブ30、開閉バルブ32及びポンプ34を制御する制御部38が設けられている。この制御部38によって、処理槽12内に収納された組織標本を、先ずエタノールに浸漬して組織標本中の水分や油脂分をエタノールに置換する。組織標本にエタノールを浸漬する順序は、先ず、薬液タンク14aのエタノールを処理槽12に給排して、組織標本に浸漬処理を施した後、順次、薬液タンク14b,14c,14dの各エタノールを処理槽12に給排して、組織標本に浸漬処理を施す。
次いで、エタノールに浸漬処理された組織標本を、キシレンに浸漬処理して、組織標本内のエタノールをキシレンに置換する。先ず、図4に示す様に、制御部38によって、組織標本が挿入されているバスケット50が収容されている処理槽12内に、薬液タンク16aのキシレンを最初に給排して、組織標本にキシレンの浸漬処理を施す。更に、順次、薬液タンク16b,16c,16dの各キシレンを、処理槽12内に給排して、組織標本に浸漬処理を施す。
かかる一連のキシレンの浸漬処理が施された処理槽12内の組織標本に対しては、薬液タンク18a〜18dに貯留されている溶融パラフィンを処理槽12内に順次給排し、組織標本に溶融パラフィンによる浸漬処理を施す。この一連の溶融パラフィンの浸漬処理によって、組織標本内のキシレンをパラフィンに置換できる。
【0015】
この様にして、組織標本に対して一連の溶融パラフィンの浸漬処理を施した処理槽12内には、溶融パラフィンの残留物が存在するため、第2洗浄液タンク21に貯留されているキシレン洗浄液を用いて、処理槽12内を洗浄する。このキシレン洗浄液は、組織標本の浸漬処理を所定回数実施して、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったキシレンを用いている。かかるキシレン中には、組織標本との接触によってエタノール、水分や組織片等が含有されているが、処理槽12内に残留するパラフィンを洗浄(溶解)する洗浄能(溶解能)は充分に有している。
第2洗浄液タンク21の洗浄液で処理槽12内を洗浄する際には、制御部38によってポンプ34を駆動し処理槽12を減圧状態として、第2洗浄液タンク21内のキシレン洗浄液をロータリーバルブ30及び開閉バルブ32を経由して処理槽12に供給する。この際に、底部外側面に装着されている加熱ヒータ11によって処理槽12を加熱することによって、処理槽12内に残留していた薬液の洗浄効果を更に一層向上でき、且つキシレン洗浄液中のエタノール等の低沸点成分を蒸発除去して洗浄液の洗浄力も向上できる。
処理槽12を所定時間洗浄したキシレン洗浄液は、ポンプ34を駆動して処理槽12内を加圧状態とした後、開閉バルブ32及びロータリーバルブ30を経由して第2洗浄液タンク21に戻す。
第2洗浄液タンク21には、処理槽12に残留していたパラフィンを含有するキシレンが貯留しているため、第2洗浄液タンク21内でパラフィンが析出しないように、第2洗浄液タンク21の外周面に加熱ヒータを設けて暖めておくことが好ましい。また、第2洗浄液タンク21に貯留されているキシレン洗浄液が処理温度に維持されていることによって、処理槽12を加熱する加熱ヒータ11による加熱時間を短縮できる。
【0016】
かかる第2洗浄液タンク21に貯留されたキシレン洗浄液での処理槽12の洗浄が終了した後、第1洗浄液タンク19に貯留されているエタノール洗浄液によって処理槽12に残留するキシレンを洗浄する。このエタノール洗浄液は、組織標本の浸漬処理を所定回数実施して、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったエタノールを用いている。かかるエタノール中には、組織標本との接触によって水分や組織片等が含有されているが、処理槽12内に残留するキシレンを洗浄(溶解)する洗浄能(溶解能)は充分に有している。
第1洗浄液タンク19のエタノール洗浄液で処理槽12内を洗浄する際には、制御部38によって、洗浄手段を構成するポンプ34を駆動して処理槽12を減圧状態とした後、第1洗浄液タンク19内のエタノール洗浄液をロータリーバルブ30及び開閉バルブ32を経由して処理槽12に供給する。
処理槽12を所定時間洗浄したエタノール洗浄液は、ポンプ34を駆動して処理槽12内を加圧状態とした後、開閉バルブ32及びロータリーバルブ30を経由して第1洗浄液タンク19に戻す。
この様に、溶融パラフィンによる組織標本の浸漬処理を終了した処理槽12を、第2洗浄液タンク21に貯留されているキシレン洗浄液で洗浄した後、第1洗浄液タンク19に貯留されているエタノール洗浄液で洗浄することによって、その後、処理槽12内に新たに収容された組織標本に対してエタノール、キシレン及び溶融パラフィンの一連の浸漬処理を施すことができる。
【0017】
ここで、第2洗浄液タンク21に貯留されているキシレン洗浄液を処理槽12に送液したとき、図6(a)に示す様に、キシレン洗浄液が液位保証センサー36aに到達しなかった場合、制御部38は、最も濃度が低いキシレンが貯留されている薬液タンク16aから、貯留されているキシレンが処理槽12に補充されるように、補充手段を構成するロータリーバルブ30、ポンプ34を駆動する。このため、処理槽12のキシレンによる洗浄を続行でき、第1洗浄液タンク19に貯留されているエタノール洗浄液による洗浄を施した後、次の組織標本の浸漬処理を行うことができる。
但し、薬液タンク16aに貯留されているキシレンを洗浄用に供給しているため、図6(b)に示す様に、次の組織標本の浸漬処理を施す際に、薬液タンク16aから処理槽12に供給した薬液量が不足する。このときには、図6(b)に示す様に、新液タンク17に貯留されている新液のキシレンを、処理槽12に不足量を供給することによって、組織標本の浸漬処理を続行できる。
図6(a)(b)は、キシレンによる浸漬処理の操作について説明しているが、エタノールによる浸漬処理の場合については、キシレンでの浸漬処理の操作と略同一操作であるため、詳細な説明を省略する。
【0018】
第2洗浄液タンク21に貯留されたキシレン洗浄液は、処理槽12を所定回数洗浄したとき、或いは薬液タンク16aに貯留されている薬液(キシレン)が、組織標本の浸漬処理に所定回数用いられたとき、廃棄する。
同様に、第1洗浄液タンク19に貯留されたエタノール洗浄液は、処理槽12を所定回数洗浄したとき、或いは薬液タンク14aに貯留されている薬液(エタノール)が、組織標本の浸漬処理に所定回数用いられたとき、廃棄する。
図1〜図3に示す組織処理装置10では、第1洗浄液タンク19に貯留されているエタノール洗浄液又は第2洗浄液タンク21に貯留されているキシレン洗浄液を外部に廃棄した後、組織標本の浸漬処理を所定回数実施して、組織標本の浸漬処理に使用できなくなったキシレンやエタノールを、洗浄液として再利用している。このため、洗浄液と組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液とを共に廃棄処分していた従来の組織処理装置に比較して、図1〜図3に示す組織処理装置10では、廃棄処理する薬液量の低減を図ることができ、且つ廃棄作業を軽減化できる。
かかる洗浄液タンクの洗浄液を廃棄の操作を、図7によって説明する。図7は、第2洗浄液タンク21のキシレン洗浄液を廃棄する廃棄操作を説明する説明図である。
先ず、図1(a)に示す、組織処理装置10の装置本体の正面に設けられた、廃棄手段を構成する給排ポート26に、図7に示す様に、組織処理装置10の外側の廃液タンク60からの配管の端部を接続する。
次いで、図7に示す様に、廃棄手段を構成するポンプ34及びロータリーバルブ30を駆動して第2洗浄液タンク21内の全キシレン洗浄液を処理槽12に供給して、処理槽12を洗浄した後、処理槽12内の全洗浄液はロータリーバルブ30等を経由して廃液タンク60に払い出される。
【0019】
洗浄液タンク21内の全洗浄液を廃液タンク60に払い出すことによって、第2洗浄液タンク21は空となる。空となった第2洗浄液タンク21には、最も浸漬処理回数が多い薬液タンク16aの薬液(キシレン)を移送することによって、キシレン洗浄液とすることができる。かかる移送は、前述した移送手段によって行うことができる。先ず、図8(a)に示す様に、薬液タンク16aの全薬液(キシレン)を処理槽12に供給して組織標本に浸漬処理を施した後、処理槽12内の薬液を第2洗浄液タンク21に払い出すことによって、薬液タンク16aの薬液を第2洗浄液タンク21に移送できる。
この様に、薬液タンク16aの全薬液を第2洗浄液タンク21に移送して、薬液タンク16aが空になったが、薬液タンク16aの薬液による処理槽12内の組織標本の浸漬処理は、薬液タンク16aの薬液に次いで使用回数の多い薬液タンク16bの薬液を処理槽12に供給して行う。この様にして、薬液タンク16bの薬液による浸漬処理には、薬液タンク16cの薬液を用い、薬液タンク16cの薬液による浸漬処理には、薬液タンク16dの薬液を用いる。このため、薬液タンク16dの薬液による浸漬処理の際には、図8(b)に示す様に、新液タンク17の新液(キシレン)を処理槽12に供給して浸漬処理を行う。浸漬処理を施した薬液は、薬液タンク16dに移送される。
尚、第1洗浄液タンク19の廃棄操作及び第1洗浄液タンク19への薬液タンク14aからの薬液の移送は、第2洗浄液タンク21の廃棄操作及び第2洗浄液タンク21への薬液タンク16aからの薬液の移送と同一操作であるため、説明を省略する。
【0020】
以上、説明した組織処理装置では、第1洗浄液タンク19や第2洗浄液タンク21に他の薬液タンクから薬液を移送する際、或いは第1洗浄液タンク19や第2洗浄液タンク21の洗浄液の廃棄の際には、処理槽12を経由して薬液や洗浄液を移送していたが、薬液の移送用配管や洗浄液の廃棄用配管を設けることによって、処理槽12を経由することなく薬液や洗浄液の移送を行うことができる。
また、これまでの説明では、第1洗浄液タンク19や第2洗浄液タンク21に貯留されている洗浄液は、処理槽12内での組織標本に対する一連の処理が終了した後、洗浄槽12を洗浄する洗浄液として使用していたが、休止していた組織処理装置の立上等の際に、処理槽12を洗浄する洗浄液として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る組織処理装置の一例を説明する正面図及び上面図である。
【図2】図1に示す組織処理装置の新液タンクの補強を説明する説明図である。
【図3】図1に示す組織処理装置の系統図である。
【図4】図1に示す組織処理装置の浸漬処理の操作を説明する説明図である。
【図5】図1に示す組織処理装置の処理槽12の洗浄操作を説明する説明図である。
【図6】処理槽12の洗浄操作の際に、洗浄液が不足した場合の補充操作の一例を説明する説明図である。
【図7】第2洗浄液タンク21のキシレン洗浄液の廃棄操作を説明するための説明図である。
【図8】第2洗浄液タンク21に薬液を移送した薬液タンクに、他の薬液タンクから薬液を順次移送する操作を説明する説明図である。
【図9】従来の組織処理装置を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0022】
10 組織処理装置
11 加熱ヒータ
12 処理槽
14,16 薬液タンク
15,17,18 新液タンク
19 第1洗浄液タンク
21 第2洗浄液タンク
26 給排ポート
30 ロータリーバルブ
32 開閉バルブ
34 ポンプ
36 検出センサー
37 フィルター
38 制御部
50 バスケット
60 廃液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織標本が収容された処理槽に、異なる種類及び濃度の薬液を所定の順序で給排して、前記組織標本に浸漬処理を施す組織処理装置であって、
前記浸漬処理に使用される薬液を貯留する複数の薬液タンクと、前記処理槽内に残留する残留薬液を洗浄する洗浄液として用いることのできる、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなった薬液を貯留する洗浄液タンクとが設けられ、
前記洗浄液タンク内の薬液を前記処理槽内に給排して、前記処理槽内を洗浄する洗浄手段を具備することを特徴とする組織処理装置。
【請求項2】
組織標本の浸漬処理に所定回数使用され、前記浸漬処理に使用できなくなった薬液を、前記薬液が貯留された薬液タンクから洗浄液タンクに移送する薬液の移送手段が設けられている請求項1記載の組織処理装置。
【請求項3】
洗浄液タンクから処理槽に送液された洗浄液量が不足するとき、浸漬処理に使用する薬液が貯留された薬液タンクから不足する洗浄液量を補充する補充手段が設けられている請求項1又は請求項2記載の組織処理装置。
【請求項4】
洗浄液タンク内の洗浄液を外部の廃棄タンクに廃棄する廃棄手段が設けられている請求項1〜3のいずれか一項記載の組織処理装置。
【請求項5】
処理槽を減圧する減圧手段と、前記処理槽を加熱する加熱手段とが設けられている請求項1〜4のいずれか一項記載の組織処理装置。
【請求項6】
洗浄液タンクに貯留されている薬液を加温する加温手段が設けられている請求項1〜5のいずれか一項記載の組織処理装置。
【請求項7】
処理槽に収容された組織標本を浸漬処理する薬液として、エタノール、キシレン及びパラフィンが用いられ、前記薬液の各々が貯留される複数の薬液タンクと、
前記処理槽内を洗浄する洗浄液が貯留された洗浄タンクとして、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなったエタノールから成るエタノール洗浄液を貯留する第1洗浄液タンクと、前記組織標本の浸漬処理に使用できなくなったキシレンから成るキシレン洗浄液を貯留する第2洗浄液タンクとが設けられ、
前記第2洗浄液タンクのキシレン洗浄液で洗浄した処理槽内を、前記第1洗浄液タンクのエタノール洗浄液で洗浄する洗浄手段が設けられている請求項1〜6のいずれか一項記載の組織処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−78471(P2010−78471A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247422(P2008−247422)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000148025)サクラ精機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】