説明

組織別に分画した麦芽を用いた麦芽使用飲料の製造法

麦芽使用飲料の原料である乾燥麦芽大麦を組織別に分離することによって、麦芽使用飲料の香味、泡品質、香味安定性、懸濁安定性に影響を与える成分を調整できるようにした麦芽使用飲料の製造方法の提供であり、具体的には、乾燥麦芽大麦を胚乳、内皮層、穀皮、幼芽、麦芽根またはこれらの未分離画分に分画し、分画した組織別の画分を単独または複数種配合し、またさらに分離前の全粒麦芽を配合することによって麦芽使用飲料の原料を調製し、麦芽使用飲料の香味、泡品質、香味安定性、懸濁安定性に影響を与える成分を調整できるようにした麦芽使用飲料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽使用飲料の原料である乾燥発芽大麦を組織別に分画し、分画した組織別画分を単独もしくは複数種組合せて配合、使用する麦芽使用飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦芽使用飲料として、ビール、発泡酒、ウイスキー、低アルコール醗酵飲料、ノンアルコール飲料などが知られている。これらの飲料にあっては、ビール、発泡酒、ウイスキーは、麦芽を原料とした麦汁から製造されており、麦汁は麦芽を粉砕機により粉砕し、麦芽そのまま、または麦芽にコーンなどの麦芽以外の原料を配合し、仕込み釜や仕込み槽内で糖化することによって製造されている。糖化後、濾過された麦汁は、ビールおよび発泡酒製造の場合にはホップが添加され、煮沸釜にて煮沸され、その後清澄槽においてオリが沈澱され、冷却された冷麦汁を醗酵に供されている。ウイスキー製造の場合には濾過された麦汁を酵母によって醗酵させ、蒸留および熟成を経る。
低アルコール醗酵飲料は、ビールおよび発泡酒と同様に麦汁もしくは冷麦汁を製造し、低アルコール(例えばアルコール1%未満)で醗酵を停止させる方法や、アルコールを除去する操作を加える方法などがある。また、ノンアルコール飲料には、醗酵を行わずに必要に応じて麦汁に香料や糖類を添加する麦芽使用飲料がある。
【0003】
例えば、麦芽使用飲料の一種であるビールを製造する場合において、原料となる麦芽ならびに麦芽以外の原料を種々選定すること、また、麦汁を製造する際の仕込み条件、使用する酵母の種類、醗酵条件などを変化させることにより、香味、泡品質、香味安定性、さらには混濁安定性の異なる種々の麦芽使用飲料を製造することが可能であり、これまでに種々の香味を有する麦芽使用飲料が提供されている。
【0004】
この場合、原料である麦芽の品質は、麦の品種および品質、製麦条件により決定されているが、一般的には、原料の麦芽を粉砕機により粉砕し、得られた麦芽をそのまま、あるいは麦芽に麦芽以外の原料となるコーンなどを配合し糖化させているため、麦芽自身に由来する香味を変化させる効果は限定的である。したがって、種々の香味を有する麦芽使用飲料を得る場合には、麦芽以外の原料を種々選定しているのが現状である。しかしながら、麦芽使用飲料の香味をさらに変化させたり、その泡品質、香味安定性、混濁安定性を著しく向上させたりするには、原料である麦芽成分をさらに制御することが必要である。
【0005】
そのような手段として、麦芽を穀粒部と穀皮に分離し、分離した穀皮を洗浄あるいは水または温水に浸漬処理した後、穀粒部と一緒に使用することにより穀皮に含まれる有害成分を除去した麦汁や、ポリフェノールを除去し耐久性をよくしたビールの製造法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
また、ビールの製造において有害とされる物質、あるいはポリフェノールを除去するために、穀皮を除去した麦芽を原料として使用する麦汁を製造する方法、あるいはビールを製造する方法も種々提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0007】
【特許文献1】特公昭62−47514号公報
【特許文献2】特開平2−117377号公報
【特許文献3】特公平4−39313号公報
【特許文献4】特開昭63−32475号公報
【特許文献5】特開昭63−68068号公報
【0008】
しかしながら、これらの方法は、ビールの製造において悪影響を与えるとされている麦芽の穀皮部分が所有する問題点を解消する手段でしかなく、穀皮以外の麦芽の組織を分画し、分画された個々の組織画分が有する特性について検討されたものではない。
また、他の麦芽使用飲料においても、麦芽の組織を分画し、分画された個々の組織画分が有する特性について検討されたものはない。
【0009】
乾燥発芽大麦は組織学的に検討すると、図1に示すように穀皮部分、内皮層部分、胚乳部分、幼芽部分、麦芽根部分で構成されており、これら各組織部分によってデンプン、タンパク質成分、酵素などの成分の含有量が異なっていることが知られている。したがって、これら各組織部分を分画し、分画した各組織部分の特性を検討し、原料として組合せ配合、使用すれば、種々の香味を有する麦芽使用飲料を得ることができるが、これまで各組織部分を精度よく分離し、配合を調整して麦芽使用飲料を調製しようとする試みはなされていない。
【0010】
すなわち、麦芽使用飲料の香味を著しく変化させたり、泡品質、香味安定性、混濁安定性を飛躍的に向上させたりするなど、飲料中の成分を幅広く調整する方法が可能であるが、かかる手段を原料の選定で達成し得る技術は、これまで存在しなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる現状のもとに、麦芽使用飲料の原料である乾燥発芽大麦の各組織部分を分離、分画し、その特性を検討し、それをベースに各分画された組織部分を適宜選択し、組合せ配合して原料として使用することにより、各種の香味を有し、泡品質、香味安定性、混濁安定性に優れた麦芽使用飲料を製造する方法を提供することを課題とする。
【0012】
乾燥発芽大麦は、図1に示すように、幾つかの組織から構成されていることが知られている。本発明者らは、これら乾燥発芽大麦の各組織に着目し、乾燥発芽大麦を組織別に分離することによって、成分的に特徴のある画分に分けることができる点に注目した。そのうえで、これらの画分および分画前の全粒麦芽や麦芽根の配合量を加減することによって、麦芽使用飲料中の乾燥発芽大麦由来の成分をコントロールできるとのではないかと考えた。
【0013】
そこで、本発明者らは、乾燥発芽大麦を工業的に組織毎に厳密に分画し、単にその構成成分を分析するだけでなく、得られた分画物が、麦芽使用飲料を製造する際に、香味、泡品質等にどのような影響を与えるかを詳細に検討した。その結果、乾燥発芽大麦を図1に示すような組織別画分に分離することによって、特徴のある成分の分画物を得られることを明らかにした。また、麦芽使用飲料の原料として実際に分画物の配合を調整することにより、麦芽使用飲料中のアミノ酸、脂質、リポキシゲナーゼ、ポリフェノール、全窒素量またはエグ味成分などの成分を制御した結果、香味、泡品質、香味安定性、混濁安定性を制御した種々の麦芽醗酵飲料を製造できることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の基本的態様は、以下の麦芽使用飲料の製造方法である。
(1)麦芽使用飲料中に含まれる乾燥発芽大麦由来の成分を制御したことを特徴とする麦芽使用飲料の製造方法;
(2)成分の制御を、乾燥発芽大麦を組織ごとに分画し、分画した画分を任意の割合で使用することを特徴とする(1)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(3)組織ごとの分画が、胚乳画分、内皮層画分、穀皮画分、幼芽画分、麦芽根画分またはこれらの未分離画分の分画であって、分画した組織別の画分を単独または複数種配合し麦芽使用飲料の原料とすることを特徴とする(2)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(4)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に100重量%までの胚乳画分、90重量%までの内皮層画分、50重量%までの穀皮画分、30重量%までの幼芽画分または30重量%までの麦芽根画分を、単独または複数種組合せて配合使用することを特徴とする(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(5)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に20〜100重量%の胚乳画分を使用することを特徴とする(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(6)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に10〜70重量%の内皮層画分を使用することを特徴とする(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(7)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に2〜30重量%の幼芽画分を使用することを特徴とする(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(8)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に0.1〜30重量%の麦芽根画分を使用することを特徴とする(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(9)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に0.01〜50重量%の穀皮画分を使用することを特徴とする(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(10)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に10〜60重量%の内皮層画分を含み、胚乳画分、麦芽以外の原料、および全粒麦芽の合計が40〜90重量%である(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(11)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に50〜100重量%の胚乳画分を含み、麦芽以外の原料と全粒麦芽の合計が0〜50重量%である(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(12)未分離画分を実質的に含まない(3)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(13)麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に100重量%の胚乳画分を含む(12)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(14)アミノ酸、脂質、リポキシゲナーゼ、ポリフェノール、全窒素量またはエグ味成分を調整されたものとする(1)ないし(13)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
(15)香味改善、香味安定性の改善、泡品質の改善または混濁安定性の改善をされたものとする(1)ないし(13)に記載の麦芽使用飲料の製造方法;
である。
【0015】
さらに本発明は、別の基本的態様として、
(16)上記(1)ないし(15)に記載の方法により製造された麦芽使用飲料;
(17)麦芽使用飲料がビール、発泡酒、ウイスキー、低アルコール醗酵飲料またはノンアルコール飲料である(16)に記載の麦芽使用飲料;
である。
【0016】
また、本発明は、さらに別の態様として、
(18)麦芽使用飲料の製造方法において、原料としての乾燥発芽大麦を胚乳画分、内皮層画分、穀皮画分、幼芽画分および麦芽根画分に分画し、麦芽使用飲料の香味を設計するにあたり、分画した組織別の画分を単独または複数種選定して組合せ配合させることを特徴とする麦芽使用飲料の原料の選定方法:
(19)香味改善、香味安定性の改善、泡品質の改善、またはアミノ酸および各種活性成分を強化された麦芽使用飲料とする(18)に記載の選定方法;
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明が提供する上記した原料の選定方法により、種々の香味改善、香味安定性の改善、泡品質の改善、またはアミノ酸および各種活性成分が強化された麦芽使用飲料を製造することが可能となる。すなわち、各種の香味を有し、泡品質に優れると共に、香味安定性、混濁安定性を有する麦芽使用飲料を製造することができる。
特に、分画した乾燥発芽大麦の各組織画分を、種々組合せ麦芽使用飲料の原料として使用できる点は、消費者の好みに応じた各種の味覚を有する麦芽使用飲料を提供することができる。このような香味としては、例えば、すっきりとした香味、ボディー感のある香味、渋みのある香味、焙煎香味などを例示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を、乾燥発芽大麦の各組織部分への分離手段、分離された各組織画分の特性を説明しながら、詳細に説明していく。
【0019】
本発明が提供する麦芽使用飲料とは、麦芽を原料の全部または一部として使用して製造したアルコール含有飲料(蒸留したものも含む)およびアルコール非含有飲料をいう。具体的には、ビール、発泡酒、ウイスキー、低アルコール麦芽使用飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽使用飲料)、ノンアルコール飲料等をあげることができる。
【0020】
本発明により提供される麦芽使用飲料について、原料となる麦芽を得る工程においては、大麦を水に浸して発芽させた後に乾燥させる工程を経る。したがって、本発明でいう乾燥発芽大麦とは、発芽した大麦を乾燥させたものを指す。
【0021】
乾燥発芽大麦は、組織学的には様々な組織から成り立っている。本発明においては、乾燥発芽大麦を組織毎に分画し、得られた組織画分を麦芽使用飲料の原料として使用する。乾燥発芽大麦を組織毎に分画するに際しては、飲料の品質に特徴を与える特性を有する組織単位に画分することが肝要である。また、分画のし易さを考慮して、適宜、分画する組織単位を任意に選定することができる。
【0022】
工業的な規模での分画のし易さや、麦芽使用飲料の香味、品質等に与える特徴を考慮すると、乾燥発芽大麦を組織毎に分画する場合には、例えば、図1に示したような、麦芽根画分、穀皮画分、胚乳画分、内皮層画分、幼芽画分の5種類の分画に分けることが好ましい。
【0023】
それぞれの画分は、具体的には、例えば以下の方法により分画することができる。なお、目的とする組織ごとに分画されたか否かは、得られた分画物を外観観察、顕微鏡観察、あるいは成分の分析をすることで確認することができる。
【0024】
麦芽根分画:
乾燥発芽大麦は、全粒麦芽(以後、単に麦芽ということもある)と麦芽根からなる。乾燥発芽大麦を脱根機に投入し、麦芽と麦芽根を分離し、麦芽根画分を得ることができる。脱根機としては、例えば回転スリットドラム(明治機械社製)を用いることができる。
【0025】
胚乳画分:
一般に、穀物の表層を研磨して、穀皮などを胚乳から分離することを「搗精」という。上記により麦芽根を分離して得た麦芽を搗精機により搗精することで、核部分にあたる胚乳画分と、周囲部分のいわゆる糠(ぬか)とに分離することができる。搗精の歩留まりは、胚乳画分と糠との分離が的確に行われるように、供する麦芽の品質を考慮して、適宜調整することができる。本発明においては、搗精の歩留まりの程度は50〜95%が好ましものであり、特に75〜85%程度が望ましい。
【0026】
内皮層画分:
本発明でいう内皮層画分とは、上記で得られた糠について、篩にかけることによって分離し、その結果、篩を通過した画分をいう。篩サイズは、糠の品質等により、分離が適合に行われるものを適宜選択できるが、例えば、目開き600〜850μm、特に710μm程度のものを用いるのが好ましい。かくして得られた内皮層画分にあっては、組織学的にみれば、果皮、種皮、アロイロン層と称される組織が含まれる。しかしながら、これ以上の分離は工業的に困難を伴うこと、また、分画を行わなくても内皮層画分として独特の特徴を発揮することが判明した。したがって、本発明においては、内皮層画分をこれ以上の組織別に分画する必要はなく、上記で得られた内皮層画分をそのまま使用するのがよい。
【0027】
穀皮画分および幼芽画分:
上記した糠の篩い分けにより、篩上に残留した画分をアスピレーター処理することで、低比重区分と高比重区分に分けることができる。低比重区分として得られた部分が穀皮画分であり、高比重区分として得られた部分が幼芽画分である。このアスピレーターの操作条件は、穀皮画分と幼芽画分とを分離できるように適宜設定することができる。
【0028】
以上のようにして得られたそれぞれの組織別画分には、その特徴を損なわない範囲であれば、他の組織や未分離の画分が多少混入していてもよい。
【0029】
なお、本発明でいう未分離画分とは、上述した5つの組織別画分のうち、2ないし4画分についての未分離の画分をいう。ただし、全粒麦芽は本発明では未分離画分とは言わないものとする。例えば、穀皮画分および幼芽画分の両方を麦芽使用飲料の原料として用いることが好ましい場合には、これらの画分をそれぞれ用いることができ、またこれらの両画分についての未分離画分を適当量用いることでもよい。
【0030】
以上に記載した分画方法により、麦芽使用飲料の主原料となる乾燥発芽大麦を各組織別に分画することができる。分画されたそれぞれの組織別の画分については、本発明者等の検討の結果、以下の特性を有し、麦芽使用飲料の原料とした場合に、それぞれ特有の香味を与えるものであることが判明した。
【0031】
麦芽根画分は、乾燥発芽大麦中に2〜3重量%程度含まれることが多い。タンパク質成分、アミノ酸の含有量が多く、特にエグ味成分の含有量は著しく高いものであった。また、デンプン、ポリフェノールの含有量は比較的低いものであった。したがって、エグ味成分が多いことより、通常は麦芽使用飲料の原料として使用しないほうがすっきりとした香味有する麦芽使用飲料を実現することができる。飲み応えを特徴とする目的で麦芽根画分を使用する場合には、水とホップを除く原料中における割合として0.1〜30重量%の範囲で使用することができる。30重量%を超えて使用するとエグ味が目立ち、飲用に適さなくなる。また、泡品質に悪影響を与えるアミノ酸の含有量が多いことから、原料としての使用を少なくした方が、麦芽使用飲料の泡品質は良いものとなる。しかしながら、麦芽根中には、例えば、消化管運動促進作用が期待されるムスカリンM3受容体結合活性物質などの有用な活性物質が含まれている。したがって、麦芽根の使用量が多い場合は、たとえば、粒度を制御した麦芽根を用いるなど、エグ味等の雑味を抑えて麦芽根を原料として使用する方法を用いることが好ましい。
【0032】
ただし、麦芽使用比率の低い発泡酒のように、醗酵時にアミノ酸などの酵母の栄養源が不足している場合には、栄養源を付与する目的で水とホップを除く原料中における割合として2〜30重量%の範囲で添加すれば、醗酵が促進されることが判明した。
【0033】
胚乳画分は、胚乳を主な組織とする。この画分は麦芽中に約80%程度含まれることが多い。デンプンを多く含み、タンパク質成分、アミノ酸、ポリフェノール、脂肪酸、エグ味成分の含有量が比較的低いことが判明した。したがって、この画分を原料として麦芽使用飲料を製造すると、すっきりとした香味を呈し、泡品質と香味安定性の向上がみられる麦芽使用飲料を製造することができる。このような特徴を考慮して、麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中における割合で100重量%までの範囲で使用することができる。また、この画分には麦汁製造に必要な各種酵素を充分に有している。
【0034】
内皮層画分は組織学的には、果皮、種皮およびアロイロン層を主な組織とする。この画分は麦芽中に約13%程度含まれることが多い。タンパク質成分、アミノ酸、ポリフェノール、脂肪酸、エグ味成分の含有量が高いものであり、デンプンの含有量は比較的低いものであった。したがって、タンパク質成分やポリフェノールなどの呈味成分が多いことより、麦芽使用飲料に香味を付与する目的で、原料として使用することができる。例えば、カロリーが低いライトビールやダイエットビールなどを製造する場合には、香味を付与する目的で水とホップを除く原料中における割合として90重量%までの範囲で使用することができる。また、この画分には麦汁製造に必要な各種酵素を充分に有している。
【0035】
ただし、原料としてこの内皮層画分を高含量させた場合には、エグ味の除去の方策をとることが必要となり、また、低含量させた場合には、内皮層画分の特徴が出ない。したがって、水とホップを除く原料中における割合として10〜70重量%の範囲で使用するのが特に好ましい。なお、一般的にはこの内皮層画分を使用しない、あるいは13%以下にすることにより通常のビールよりもすっきりとした香味が実現できる。
【0036】
また、麦芽使用飲料に香味を付与する目的として、内皮層画分を水とホップを除く原料中における割合として30重量%以下の範囲で使用することができる。これ以上の使用は、麦芽使用飲料にエグ味が目立つこととなる。
【0037】
またさらに、内皮層画分には、酸化すると劣化臭の原因となる脂質の含有量が高く、脂質酸化酵素(リポキシゲナーゼ)の活性も高いことが判明した。また、分解・酸化すると劣化臭の原因となるアミノ酸の含有量が高いことも判明した。したがって、原料として内皮層画分の使用比率は、低いほど麦芽使用飲料の香味安定性は優れたものとなる。また、泡品質に悪影響を及ぼす脂質やアミノ酸の含量が高いことより、原料として内皮層画分の使用比率は、低いほど麦芽使用飲料の泡品質が優れたものとなる。以上からみれば、原料として内皮層画分の使用比率が低いほど、麦芽使用飲料の香味安定性と泡品質にとっては好ましいものとなる。ただし、内皮層画分の比率を上げる場合は原料使用量を少なくすると香味安定性と泡品質への悪影響はある程度低減できる。また、内皮層画分には、メイラード反応物を多く含むことから、麦芽使用飲料の色調を強めるには、原料としてかかる内皮層画分の使用比率を、ある程度高くするのがよい。
【0038】
さらに、麦芽使用比率の低い発泡酒のように、醗酵時にアミノ酸などの酵母の栄養源が不足している場合には、栄養源を付与する目的で、原料として内皮層画分を、水とホップを除く原料中における割合として0〜25重量%の範囲で添加することにより醗酵を促進させることができる。
【0039】
穀皮画分は、穀粒を覆う穀皮を主な組織とし、繊維質を多く含むものである。この画分は麦芽中に約8%程度含まれることが多い。仕込み工程で添加すると、麦汁の濾過速度が向上することより濾渦効率を向上させることができる。かかる目的のためには、水とホップを除く原料中における穀皮画分の割合を50重量%までの範囲で使用することができる。また、穀皮画分を高温高圧水処理したものは、麦芽醗酵飲料に焙煎香の付与することができ、その場合は、かかる穀皮画分を20重量%までの範囲で原料として使用することができる。
【0040】
幼芽画分は、幼芽を主な組織とし、麦芽中に約2%程度含まれることが多い。麦芽根画分と同様にエグ味成分の含有量が著しく高く、タンパク質成分、アミノ酸を多く含むことが判明した。したがって、麦芽使用飲料として飲み応えのある飲料としての特徴をだす目的で、水とホップを除く原料中における割合として幼芽画分を30重量%までの範囲で使用することができる。この画分の特徴を飲料に反映させるためには、全粒麦芽に含まれている割合(約2%)よりも多く添加することが好ましい。30重量%を超えて使用すると、エグ味が目立ち、飲用に適さなくなる。さらに、幼芽画分には分解・酸化すると劣化臭の原因となるアミノ酸の含有量が高いだけでなく、内皮層画分と同様に酸化すると劣化臭の原因となる脂質の含有量が高く、脂質酸化酵素(リポキシゲナーゼ)の活性も高いことが判明した。したがって、原料として幼芽画分の使用比率は、内皮層画分と同様に低いほど麦芽使用飲料の香味安定性は優れたものとなる。麦芽根画分や内皮層画分と同様に、麦芽使用比率の低い発泡酒においては、醗酵時にアミノ酸などの酵母の栄養源を付与する目的で、原料として、水を除く原料中に幼芽画分を25重量%までの範囲で添加することにより、醗酵を促進することができる。
【0041】
上記した各組織画分を適宜選択、配合調整して、麦芽使用飲料の原料として用いることにより、各種の麦芽使用飲料について、その香味、泡品質、香味安定性、混濁安定性を制御することができる。したがって、本発明は、かかる麦芽使用飲料の製造に関し、目的とする麦芽使用飲料の香味、泡品質、香味安定性、混濁安定性を制御するための、原料の選定方法でもある。
【0042】
本発明が提供する麦芽使用飲料においては、麦芽由来の成分の制御は、上述した方法により達成できるが、糖類や大麦などをはじめとする麦芽以外の原料を併用することにより、さらなる成分調整が可能である。また、糖化酵素をはじめとする各種酵素を必要に応じて別途添加しても良い。あるいは、糖化スターチなどのように最初から糖化された原料と組合せることもできる。さらに、このように成分調整をした原料にあわせて、粉砕、糖化、麦汁濾過、煮沸、醗酵の諸条件を設定することにより、更なる微調整を行うことが可能である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない点に注意すべきである。
[試験方法]
本実施例で用いた試験項目および試験方法を以下に示す。特に断りのない限り、本実施例における試験方法はこれに準じた。
【0044】
試験項目:
エキス濃度、原麦汁エキス濃度、全ポリフェノール、アミノ態窒素、全窒素、泡持ち、ラグタイム、官能評価、エグ味成分。
【0045】
試験方法:
(a)エキス濃度については、SCABA法[改訂BCOJビール分析法(1998)8.1.3SCABA法]によって測定した。
(b)醗酵製品で測定される原麦汁エキス濃度とは、醗酵製品中の固形分の割合(真正エキス)とアルコールから、醗酵前の麦汁のエキス濃度を計算したものである。測定方法はSCABA法[改訂BCOJビール分析法(1998)8.1.3SCABA法]を用いた。
(c)全ポリフェノール量は、3価鉄イオンとポリフェノールの反応による比色法[改訂BCOJビール分析法(1998)8.19総ポリフェノール]によって測定した。
(d)アミノ態窒素は、TNBS法[Methods of Analysis of the ASBC(1987),Method Beer−31]によって測定した。
(e)全窒素量は、ケルダール法[改訂BCOJビール分析法(1998)4.3.5可溶性全窒素]によって測定した。
(f)泡品質の評価として、泡持ちを指標として次の方法で測定した。メスシリンダー2Lにビール633mlを30秒かけて注ぎ、30分後にガラスの表面に付着した面積(cm)を計量した。
(g)ラグタイムについては電子スピン共鳴装置(ESRまたはEPR装置と呼ばれる)を用いてフリーラジカル量の変化を測定し、フリーラジカル増加までの時間をラグタイムとして評価した。このラグタイムを麦芽使用飲料の香味安定性の指標とした[J.Am.Soc.Brew.Chem.,1996,54(4),198−204および、同、1996,54(4),205−211]。
【0046】
(h)官能評価:
訓練されたパネラー3名ないし10名が、無臭の官能室で試料を飲み、その結果を評価した。とくに断りのないかぎり、最高点を3、最低点を0として評価した。
【0047】
(i)エグ味成分:
エグ味成分の含量の測定は、以下の方法で行った。
官能評価でエグ味が確かめられている成分を目的成分として、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)で行った。すなわち、1次元目のHPLCにより目的成分をおおよそ分離し、目的成分を含む画分をカラムスイッチングによってハートカットし、2次元目のカラムに移行させ、2次元目のHPLCにおいて再度、目的成分を含む画分を分離した。
【0048】
HPLC条件は以下の通りとした。
1次元目および2次元目とも、前濃縮カラム[PVA(4mm×30mm)、SCR−RP3、#228−33713−91、島津社製]を用いた。カラムは、1次元目分離カラム[Develosil C30−UG−5、野村ケミカル社製]、および2次元目分離カラム[C18ODS(4.6mm×15cm、3.5μm)×3本、symmetry、#200630、ウォーターズ社製]を用いた。カラム温度は25℃に設定した。移動相には、1次元移動相(A液:0.05%TFA水溶液、B液:0.05%TFA/50%MeOH)、2次元目移動相(A液:0.05%TFA水溶液、D液:0.05%TFA/70%MeOH)を用いた。
【0049】
グラジュエントによる変化は、B液:0%(0分)〜20%(25分)〜80%(40分)〜0%(50分);C液:20%(0分)〜20%(37分)〜60%(70分)〜0%(70分)〜0%(50分)の変化として、注入用資料としては、ビールまたは麦汁約5mLを0.45μLシリンジフィルターにて濾過したのち、サンプル注入量を2000μLとした。カラムスイッチングの時間は1.5分とした。処理サンプルを1000μL注入し、一次元目の34分から35分に溶出される画分をハートカットし、2次元目に導入した。検出器には、蛍光検出器を用いた。
なお、上記分析方法で分離された成分を、別途調製したビールへ添加して官能評価を行ったところ、添加用量依存的にエグ味が強くなることが確認された。
【0050】
実施例1乾燥発芽大麦の組織画分の分画方法
大麦を水に浸して発芽させた後に乾燥させて製造した乾燥発芽大麦から、麦芽根を脱根機(明治機械製)によって麦芽根と麦芽とに分離した。麦芽根の重量は乾燥発芽大麦の約2.4%(重量比)であった。
次に、麦芽根が取り除かれた麦芽の分画は次のようにおこなった。
図2に示したフローに従い、麦芽約500kgを搗精機(サタケ製作所製RMDB40A)で歩留まり80%まで搗精して、精白された画分(胚乳画分)と糠に分離した。このときの運転条件は、歩留まり100〜90%においては、回転数340rpm、電流値32A、スクリーン網目10メッシュ、歩留まり90〜80%においては、回転数320rpm、電流値30A、スクリーン網目11メッシュで行った。
【0051】
また、糠を集塵機で集めて、目開き710μmのシフターで篩って710μm以下の糠である内皮層画分と、710μm以上の糠に分離した。さらに710μm以上の糠はマルチアスピレーターで風選して、高比重区分(幼芽画分)と低比重区分(穀皮画分)に分離した。
このときの各分画物の重量比は、胚乳画分:内皮層画分:幼芽画分:穀皮画分=80:13:2:5であった。
【0052】
実施例2組織画分を使用した麦汁の評価
分画物の成分や香味を、単なる抽出物により評価するよりも、製品の品質への効果をより確実に確かめるために、組織画分の分画物から麦汁を試作して、成分と香味を評価した。
全粒麦芽、胚乳画分、内皮層画分について分画物40g、仕込み水240mLにて、常法にしたがって糖化液を製造し、遠心分離によって麦汁を得た。組織自体に吸水性を有し、単独での麦汁製造に不適切である幼芽画分、麦芽根画分、および穀皮画分については、全粒麦芽に各画分を10%となるように添加して同様に麦汁を製造した。分析値を表1に、官能評価を表2に示した。
【0053】

【0054】


【0055】
表に示した結果から、各分画物の麦汁を全粒麦芽の麦汁と比較すると、胚乳画分はエキス濃度が高く、アミノ酸やタンパク質成分が少ないものであることが判明する。アミノ酸は麦芽使用飲料の泡品質に悪影響を与えることより、この画分を使用することで泡品質の向上が期待できると考えられた。また、ポリフェノールやエグ味成分も少ないものであり、官能評価でもすっきりとした甘味を呈していたことから、この画分を使用することで、渋みやエグ味が少なく、後味のすっきりした麦芽使用飲料が製造できると考えられた。
【0056】
内皮層画分は、胚乳画分とは反対にエキス濃度が低く、アミノ酸、タンパク質成分、ポリフェノールが多いものであることが判明する。したがって、アミノ酸が多いことから、この画分を使用すると麦芽使用飲料の泡品質を低下させる可能性があるが、麦芽比率の低い発泡酒のように副原料と共に用いることで、泡品質の低下を防ぐことができると考えられた。また、アミノ酸は醗酵における酵母の栄養源となることから、麦芽比率の低い発泡酒に使用することで酵母の活性が向上すると考えられた。さらに、呈味成分であるポリフェノールやタンパク質成分が多いことから、この画分を原料として使用することによって、麦芽使用飲料の味わいを付与できると考えられた。
【0057】
「全粒麦芽+幼芽画分」および「全粒麦芽+麦芽根画分」については、ポリフェノールの含有量が少なく、アミノ酸、タンパク質成分、エグ味成分が多くなっていた。したがって、幼芽画分や麦芽根画分は、内皮層画分と同様に、酵母の活性を向上させることが期待できるものであることが判明した。
【0058】
「全粒麦芽+穀皮画分」については、遠心分離後の麦汁残渣に水分を多く含み、強い吸水性を有していることが確認できた。麦汁中の成分は全粒麦芽とほぼ同等であった。官能評価でも全粒麦芽とほぼ同様の香味を呈しており、甘味、エグ味に特に影響はないと考えられた。
【0059】
実施例3ビールの試作1(胚乳画分の利用1)
胚乳画分はエグ味成分が少ないことから、すっきりとした味わいを持つビールの製造を目的として、胚乳画分のみを原料としてビールを製造した。また、胚乳画分には穀皮が存在しないため、穀皮を濾過層として濾過する濾過槽では麦汁の濾過ができないために、マッシュフィルターで濾過が可能かどうかを確認した。
実施例1の方法で分画した胚乳画分を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。胚乳画分をハンマーミルにて微粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、得られた麦汁にホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、醗酵槽に導入し、ビール酵母を接種・醗酵して、ビールを製造した(試作品3)。また、対照として全粒麦芽についても同様の方法でビールを製造した(対照品3)。
【0060】
マッシュフィルターを用いることによって、試作品3は対照品3と同様に問題なく濾過することができ、その結果清澄な麦汁が得られ、良好にビールを製造することができた。
試作品3は、下記表3で示すように、アミノ酸の含有量が低いものであり、泡持ちが著しく向上した。また、ラグタイムが長く、香味安定性も優れていると判断できた。
官能評価では、対照品3と比較して試作品3は穀物臭が弱く、ややライトであり、エグ味も少ないものと評価された。
さらに、37℃/1週間による強制劣化をさせたビールを官能評価したところ、下記表4に示すように、対照品3よりも試作品3のほうが劣化度は低いものであった。このように、リポキシゲナーゼ活性が高く、アミノ酸の多い内皮層画分や幼芽画分を低減することにより、香味安定性を向上させることが確認できた。
【0061】

【0062】

【0063】
以上の結果より判断すると、胚乳画分だけを原料とした場合でもマッシュフィルターを用いることによってビールの製造は可能であることが判明した。また、胚乳画分はエグ味が少なく、すっきりとした香味を特徴とするビールの製造に有用であることが確認できた。同時に、泡品質、香味安定性に優れたビールの製造にも有用であることについても確認することができた。
【0064】
実施例4ビールの試作2(胚乳画分の利用2)
胚乳画分のみを原料とする場合は、穀皮が存在しないので濾過槽による麦汁濾過は不可能である。しかしながら、全粒麦芽を配合することによって濾過槽による麦汁の清澄化が可能かどうかを確認するために、胚乳画分と全粒麦芽を1:1で配合したものを原料として、ビールを製造した。また、胚乳画分に全粒麦芽を配合した場合においても、実施例3の胚乳画分の香味、泡品質、香味安定性の特徴が表れるかどうかを検討した。
【0065】
全粒麦芽と、実施例1の方法で分画した胚乳画分および全粒麦芽を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。全粒麦芽17.5kgと胚乳画分17.5kgをロールミルにて粉砕し、仕込み槽に粉砕物合計35kgと、仕込み水140Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。この糖化液を濾過槽にて濾過した。次いで、実施例3と同様に煮沸・醗酵させて、ビールを製造した(試作品4)。また、対照として全粒麦芽についても同様の方法でビールを作成した(対照品4)。
【0066】
その結果、試作品4の麦汁の濾過性は、対照品4とほぼ同等であり、胚乳画分と全粒麦芽を1:1の配合使用して原料とした場合には、濾過槽で問題なく濾過できることが確認できた。また、これとは別に胚乳画分と全粒麦芽を2:1の割合で配合したものについても評価したところ、清澄な麦汁は得られたが、濾過に時間がかかるものであった。以上より、濾過槽にて濾過する場合には、胚乳画分の割合を67%以下にし、全粒麦芽の割合を33%以上にすることが好ましいと考えられた。
【0067】
試作品4は、対照品4と比較して、タンパク質成分、アミノ酸、ポリフェノール、エグ味成分の含有量が低く、泡品質が向上しており、実施例1で確認された胚乳画分の特徴が表れていた。その結果を、下記表5に示した。
また、官能評価でも実施例3における対照品3と試作品3との違いよりは小さいものの、エグ味が少なく、すっきりとした香味特徴が確認できた。
以上より、原料として胚乳画分を部分的に配合しても、配合された胚乳画分の特徴が表れることが明らかになった。
これらの結果を、まとめて下記表中に示した。
【0068】

【0069】
実施例5ビールの試作3(内皮層画分の利用)
実施例2の結果より、内皮層画分は呈味成分であるタンパク質成分やポリフェノールの含有量が多く、原料として使用した場合には、得られた飲料に香味に与えることが判明している。そこで、この影響を確認するために、胚乳画分と内皮層画分の両者を用いてビールを製造し、品質を評価した。
【0070】
実施例1の方法で分画した胚乳画分および内皮層画分を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。胚乳画分をハンマーミルにて微粉砕し、仕込み槽に粉砕物33kgと仕込み水132Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、得られた麦汁にホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約12℃に冷却して冷麦汁を製造した。また、内皮層画分を粉砕せずに仕込み槽に15kgと仕込み水60Lを入れて胚乳画分と同様に冷麦汁を製造した。この2つの冷麦汁を合併し、エキス濃度8.0%に加水によって調整した後、醗酵槽に導入し、ビール酵母を接種・醗酵してビールを製造した(試作品5)。また、対照として胚乳画分のみでビールを製造した(対照品5)。
【0071】
その結果、試作品5は対照品5と比較して、タンパク質成分、アミノ酸、ポリフェノール、エグ味成分の含有量が高いものであり、呈味成分量が多いことが確認できた。また、泡品質が低下したのは、胚乳画分と比較して、内皮層画分にアミノ酸含量が高いことが原因であると考えられた。さらに、ラグタイムも低いものであり、香味安定性が悪化すると考えられた。
また、官能評価では試作品5のほうが、味わいが良いと感じられた。
以上の結果より、内皮層画分の原料としての使用は、泡品質および香味安定性を低下させるものの、味わいの付与には有用であることが確認できた。
これらの結果を、まとめて下記表6に示した。
【0072】

【0073】
実施例6発泡酒の試作1(内皮層画分の利用)
内皮層画分にはアミノ酸などの酵母の栄養源が豊富に含まれていることから、麦芽使用比率の低い麦芽使用飲料において、内皮層画分を原料として使用した場合に、醗酵速度に変化が見られるかどうかを検討した。
【0074】
実施例1の方法で分画した内皮層画分および全粒麦芽と糖化スターチを原料として使用し、100Lスケールにて発泡酒の製造を行った。仕込み槽に内皮層画分8.6kgおよび穀皮画分3.7kgと仕込み水49Lをいれ、常法にしたがって糖化液を製造した。濾過槽にて濾過をした麦汁に糖化スターチを37kg添加し、これにホップを添加して煮沸後、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約12℃に冷却して、冷麦汁を製造した。この冷麦汁を醗酵槽内に導入し、酵母を接種・醗酵して、麦芽使用比率25%未満の発泡酒を製造した(試作品6)。また、対照として、原料を内皮層画分および穀皮画分の代わりに全粒麦芽を用いて、同様に発泡酒を製造した(対照品6)。なお、いずれも加水により原麦汁エキスが12w/w%となるように調整した。
【0075】
その結果、内皮層画分のみを原料としたときは濾過槽にて濾過できないものであったが、穀皮画分を添加することで、濾過槽による濾過が可能となった。したがって、穀皮画分には濾過助剤としての働きが期待できることが確認された。
また、醗酵所要時間は対照品6の約310時間に対し、試作品6で約240時間であり、醗酵時間が約70時間短縮されるという効果が認められた。
麦芽比率の低い発泡酒では、アミノ酸をはじめとする酵母にとっての栄養源が特に不足しているため、内皮層画分を原料として使用することにより、アミノ酸が増加され、それによって醗酵時間が短縮されたものと考えられた。
また、官能評価では試作品6のほうが、対照品6よりも味わいがあると評価された。
それらの結果を、表7に示した。
【0076】

【0077】
実施例7ビールの試作4(穀皮画分の利用)
本発明における、麦芽の穀皮画分を高温高圧処理したものを原料の一部として使用したビールを製造した例を示す。
具体的には、麦芽150kgを実施例1の方法にて分画し、麦芽穀皮画分10kgを得た。この穀皮画分2kgを200℃、1.4MPaの条件にて高温高圧の蒸気で1分間処理し、その後真空にて20分間乾燥させた、高温高圧処理穀皮画分を得た。この高温高圧処理穀皮画分を、使用原料の1重量%、残りの99重量%には全粒麦芽を使用して、実施例4に記載のビール醸造方法に従ってビールを得た(試作品7)。
また対照として、全粒麦芽のみを使用原料として用いたビールも全く同様に作成した(対照品7)。
【0078】
得られた両ビールについて、ロースト様(Roasted)、甘味(Sweet)、濃さ(Fullness)を評価した。この官能評価結果を下記表8に示した。
【0079】

【0080】
官能評価結果で示すように、試作品7は対照品7に比べて、香り、味、色合いともに、強く、良好なものであった。
したがって、穀皮画分を高温高圧処理したものを原料の一部として使用することにより、リグニン系フェノール化合物の芳ばしい香り、甘い香りや穀物様の香りを発泡酒やビールに付与することができることが確認できた。また、香り成分の増加によって発泡酒やビールにおいて、香味バランスに変化を加えることができ、それにより発泡酒やビールの香味に厚みを増すことができ、コクや旨味などを増強することができた。また、製品に色をつけることもでき、色調を調整できる効果もあった。
【0081】
これらの製品は、リグニン分解物以外の反応生成物であるメイラード反応物や、増加した有機酸等を含む高温高圧処理麦芽の使用による、発泡酒またはビールの組成変化に大きく寄与しているものと考えられた。
このように、穀皮画分を高温高圧処理することでも、麦芽使用飲料に種々の特徴を付与することができることが確認できた。
【0082】
実施例8ビールの試作5(幼芽画分の利用)
実施例2で幼芽画分を原料に使用するとその麦汁は強いエグ味を有することが確認できたが、これがビール香味にまで影響するかどうかを検討するために、胚乳画分に幼芽画分を、水とホップを除く原料の10w/w%添加したビールを試作した。
実施例1の方法で分画した胚乳画分と幼芽画分を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。胚乳画分をハンマーミルにて微粉砕し、仕込み釜に幼芽画分粉砕物8.1kg、幼芽画分非粉砕物0.9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に胚乳画分粉砕物18.9kg、幼芽画分非粉砕物2.1kgと仕込み水84Lを入れて、実施例3と同様に常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、得られた麦汁にホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.2%に加水によって調整した後、醗酵槽に導入し、ビール酵母を接種・醗酵して、ビールを製造した(試作品8)。また、対照として胚乳画分単独についても同様の方法でビールを製造した(対照品8)。
【0083】

【0084】
実施例2の麦汁分析値と同様に、ビールにおいても幼芽画分を添加した試作品8は対照品8と比較してポリフェノールの含有量が少なく、アミノ酸、タンパク質、エグ味成分が多くなっていた。また、官能評価においても幼芽画分を添加するとエグ味を強く呈することが確認できた。
以上より、ビールのエグ味を低減するには幼芽画分を原料として使用しないことが望ましいと考えられた。また、若干のエグ味を付与するには幼芽を添加することが効果的であると考えられた。
【0085】
実施例9発泡酒の試作2(麦芽根画分の利用)
実施例1で乾燥発芽大麦から取り除いた麦芽根画分を原料として使用した発泡酒を製造した。
すなわち、麦芽、ホップ、麦芽根画分、水を原料として、常法に従い、200Lの仕込み、醗酵、濾過、充填を行って製造した。具体的には、粉砕した麦芽20kgを仕込み槽で糖化した。次に、実施例1の方法で得た麦芽根1kgを、粉砕処理を施さず添加した後、濾過槽で濾過を行った。次いで、糖化スターチを添加し、実施例3と同様に煮沸・醗酵させて、発泡酒を製造した(試作品9:麦芽根を5g/L含む)。また、対照として、麦芽根分画を添加しない発泡酒も同様に製造した(対照品9)。
【0086】
試作品9および対照品9のそれぞれについて、10名の訓練されたパネラーによる3段階の香味評価(おいしい=3点、ややおいしい=2点、おいしくない=1点)を行った。その結果、平均点で、試作品9は2.7点、対照品9は2.5点の評価を得た。具体的には、試作品9は対照品9に比べおいしいという評価が得られた。
【0087】
さらに、試作品9と対照品9について、酵母を添加する前の冷麦汁の、全窒素含量およびアミノ態窒素含量を測定した。その結果、非粉砕の麦芽根を添加した試作品9の場合は、全窒素含量=72.3mg/100mL、アミノ態窒素含量=16.4mg/100mL、また、麦芽根を添加しない対照品9の場合は、全窒素含量=45.7mg/100mL、アミノ態窒素含量=10.2mg/100mLであった(表10)。
すなわち、本発明における麦芽根分画を添加した醗酵麦芽飲料飲料には、酵母の栄養源である全窒素含量およびアミノ態窒素含量を増やせることが判明した。
【0088】

【0089】
実施例10ウイスキーの試作(胚乳画分および内皮層画分、幼芽画分、穀皮画分の未分離画分の利用)
ウイスキーでの組織画分と香味への影響を確認するために、(1)胚乳画分単独と(2)内皮層画分、幼芽画分、穀皮画分の未分離画分単独を原料としてウイスキーのニューポットをそれぞれ製造して評価した。
実施例1の方法で分画した胚乳画分を用いて、20Lスケールにてウイスキーの製造を行った。胚乳画分をハンマーミルにて粉砕し、粉砕物5kgと仕込み水20Lを入れて、65℃/40分で糖化させてからマッシュフィルターにて濾過を行った。得られた麦汁をエキス濃度13.5%に加水によって調整してから23℃に冷却し、ウイスキー酵母を接種・醗酵してもろみを製造した。醗酵開始67時間後のもろみを初溜開始し、容量で3分の1に蒸溜した。再溜は65%カットで1回につき1.5L張り込み、3回まわししてニューポットを製造した(試作品10−1)。また、内皮層画分、幼芽画分、穀皮画分の未分離画分についても同様にニューポットを製造した(試作品10−2)。このニューポットのアルコール濃度はいずれも約72重量%であった。
ニューポットの官能評価では試作品10−1はおとなしくメタリックであったが、試作品10−2はハスキーで複雑さはあるがアンクリーンであった(表11)。このようにウイスキーにおいても分画した組織別の画分を利用することによって、香味を調整できることが確認できた。
【0090】

【0091】
実施例11ノンアルコール飲料の試作(胚乳画分の利用)
麦芽使用飲料のうち、ノンアルコール飲料および低アルコールで醗酵を停止させる低アルコール醗酵飲料は充分に醗酵が進んでいないために、爽快感を損なう麦汁様の香りが製品に残るという問題がある。分画した組織別の画分を利用することによって、麦汁様の香りが低減できることを検証するために、胚乳画分を用いてノンアルコール飲料を製造し、評価した。
実施例3と同様に胚乳画分を用いて冷麦汁を作成し、エキス濃度2.1%に加水によって調整した。これらの麦汁は表12に示すように、各画分の特徴を有していた。これに糖、酸、カラメル、香料を添加して香味を整えてノンアルコール飲料を作成した(試作品11)。また、対照として全粒麦芽についても同様の方法でノンアルコール飲料を作成した(対照品11)。なお、試作品11と対照品11には糖、酸、カラメル、香料は同じものを同量添加した。
試作品11は対照品11よりも麦汁様の香りが少なく、爽快感も高いと評価された。以上より、本発明はノンアルコール飲料の香味改善にも有用であることが確認できた。
【0092】


【産業上の利用可能性】
【0093】
以上記載のように、本発明により、麦芽使用飲料の主原料である乾燥発芽大麦の各組織部分に分画し、得られた各組織画分の特性をベースにして、分画された組織部分を適宜配合し、各種の香味を有し、泡品質に優れると共に、香味安定性、混濁安定性を有する麦芽使用飲料を製造することができる。
特に、分画した乾燥発芽大麦の各組織画分を、種々組合せ麦芽使用飲料の原料として使用できる点は、消費者の好みに応じた各種の味覚を有する麦芽使用飲料を提供することができることになり、産業上の効果は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
[図1]本発明で使用する乾燥発芽大麦の組織断面を示す図である。
[図2]実施例1における麦芽の組織別分画のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 穀皮
2 内皮層
3 胚乳
4 幼芽
5 麦芽根
11 搗精機
12 集塵機
13 シフター
14 マルチアスピレーター
15 集塵機
21 胚乳画分
22 内皮層画分
23 幼芽画分
24 穀皮画分
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽使用飲料中に含まれる乾燥発芽大麦由来の成分を制御したことを特徴とする麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項2】
成分の制御を、乾燥発芽大麦を組織ごとに分画し、分画した画分を任意の割合で使用することを特徴とする請求項1に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項3】
組織ごとの分画が、胚乳画分、内皮層画分、穀皮画分、幼芽画分、麦芽根画分またはこれらの未分離画分の分画であって、分画した組織別の画分を単独または複数種配合し、麦芽使用飲料の原料とすることを特徴とする請求項2に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項4】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に100重量%までの胚乳画分、90重量%までの内皮層画分、50重量%までの穀皮画分、30重量%までの幼芽画分または30重量%までの麦芽根画分を、単独または複数種組合せて配合使用することを特徴とする請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項5】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に20〜100重量%の胚乳画分を使用することを特徴とする請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項6】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に10〜70重量%の内皮層画分を使用することを特徴とする請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項7】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に2〜30重量%の幼芽画分を使用することを特徴とする請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項8】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に0.1〜30重量%の麦芽根画分を使用することを特徴とする請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項9】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に0.01〜50重量%の穀皮画分を使用することを特徴とする請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項10】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に10〜60重量%の内皮層画分を含み、胚乳画分、麦芽以外の原料、および全粒麦芽の合計が40〜90重量%である請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項11】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に50〜100重量%の胚乳画分を含み、麦芽以外の原料と全粒麦芽の合計が0〜50重量%である請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項12】
未分離画分を実質的に含まない請求項3に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項13】
麦芽使用飲料の原料として、水とホップを除く原料中に100重量%の胚乳画分を含む請求項12に記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項14】
アミノ酸、脂質、リポキシゲナーゼ、ポリフェノール、全窒素量またはエグ味成分を調整されたものとする請求項1ないし13のいずれかに記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項15】
香味改善、香味安定性の改善、泡品質の改善または混濁安定性の改善をされたものとする請求項1ないし13のいずれかに記載の麦芽使用飲料の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし15に記載のいずれかの方法により製造された麦芽使用飲料。
【請求項17】
麦芽使用飲料がビール、発泡酒、ウイスキー、低アルコール醗酵飲料またはノンアルコール飲料である請求項16に記載の麦芽使用飲料。
【請求項18】
麦芽使用飲料の製造方法において、原料としての乾燥発芽大麦を胚乳画分、内皮層画分、穀皮画分、幼芽画分および麦芽根画分に分画し、麦芽使用飲料の香味を設計するにあたり、分画した組織別の画分を単独または複数種選定して組合せ配合させることを特徴とする麦芽使用飲料の原料の選定方法。
【請求項19】
香味改善、香味安定性の改善、泡品質の改善、またはアミノ酸および各種活性成分を強化された麦芽使用飲料とする請求項18に記載の選定方法。

【国際公開番号】WO2004/106483
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506509(P2005−506509)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007381
【国際出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】