説明

組織及び器官のインビトロでの発生

本発明は、分化組織の生成をもたらす微環境パラメータを発見する方法を提供し、その方法は、同種の多分化能細胞の少なくとも1つの集団を単離し、少なくとも1つの分化因子の存在下又は非存在下、固相スカフォールド上でその細胞を培養することを含む。本発明は、a)多分化能細胞の少なくとも1つの集団から誘導された複数のサンプルを得、b)三次元スカフォールド上で該細胞を培養し、少なくとも1つの実験パラメータが各サンプルに対して変更されており、及びc)制御された発生、自己アセンブリ又は分化に対して各サンプルを観察又は測定することを含む分化組織のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分化組織の製造方法、それによって得られた分化組織及びそのための固相スカフォールドに指向する。
【0002】
関連出願
本出願は、2003年10月10日出願の米国特許仮出願第60/510808号の優先権を請求し、いずれもの図面、表または図を含む全内容を参照としてここに組み込む。
【背景技術】
【0003】
白血病抑制因子または適切な支持細胞層の存在下で培養される場合、哺乳類の胚性幹細胞は、いかなる発生経路又は分化に入ることなく、無限に分裂することができる。培養メディウムから白血球阻害因子及び/又は支持細胞層を除去すると、胚性幹細胞の分化を招く。胚性幹細胞は、全ての細胞タイプに分化することができ、それは、多分化能として説明される。
胚性幹細胞はインビトロで成熟細胞タイプに分化することができるという観察は、接木術(grafting)及び移植(transplantation)の目的のためにインビトロでの複合組織に発達する可能性があるかもしれないという多くを示唆している。しかし、今日まで、一貫してインビトロで複雑に構成されたヒト組織及び器官を生成する方法は利用可能ではない。この失敗は、一部には、インビトロ、つまり複雑な3次元の組織および器官をインビボで正常に生じさせる複雑な誘発微環境において有効に発生反復をすることができないことであると仮説がたてられている。従って、方法は、1)必須の個々の微環境特性を特定し、及び2)これらの本質的な特性の要求を、インビトロでの複合組織の発生を支持/促進するための空間的及び時間的の双方をどのように組み合わせるかを特定することが必要とされる。
【0004】
哺乳類発生の正常な経路では、胚性細胞は、体の中のその位置に依存する方法で、特定の組織を形成する能力を徐々に失う。これは、細胞のそばで発生する間、ある位置で受信した信号の特定の組み合わせ及びこれらの信号の強度に起因すると思われる。空間的に規定された解剖学的領域で応答細胞によって受信された信号の組み合わせ及び強度は、細胞の微環境を構築する。誘発微環境は、少なくともいくつかの参加細胞タイプの発生、分化、増殖状態における変化を許容又は促進する環境である。さらに、微環境のある特性は、時系列で変化することが予測され、微環境特性の変化の正確な時間の系列が複合組織及び器官ならびに細胞分化の発生に重要であることが認識される。これらの時間的に関連した微環境は、互いに共通する1以上の特性を共有する。ここで、分化は、初期の前駆体段階から後のより成熟した段階への発達と一貫性がある細胞状態の変化として規定される。脱分化は、より成熟した段階の細胞がより成熟していない段階へ転換するという逆のプロセスである。
【0005】
ここで、発達/発生(development)は、多細胞器官の体又は多細胞器官(組織、器官、腺を含む)の体の構成部位が、発達/発生過程において、より成熟していない状態からより成熟した状態に発展する生物学的プロセスを指す。器官及び複雑に構築された組織の発達/発生は、器官形成と呼ぶことができる。
【0006】
インビボにおける発生は、初期胚発生、形態発生、パターン形成、器官形成を含む明確な段階に詳細に表すことができる。
【0007】
組織及び器官の発達は、発達過程において、特定の時間に細胞に与えられる特定の信号を必要とする、非常に複雑で、秩序化されたプロセスである。また、細胞が受信する信号のレベルは、重要であるかもしれない。インビトロで器官及び組織を発生させるための近年の試みは、全てのこれら因子を考慮しないために、失敗している。従って、発生の間、参加細胞を取り囲む自然の微環境を擬態する、インビトロにおいて組織及び器官を発達させる方法が要求されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
このように、第1の観点では、本発明は、分化組織の生成をもたらす微環境パラメータを発見する方法を提供し、その方法は、同種の多分化能細胞の少なくとも1つの集団を単離し、少なくとも1つの分化因子の存在下又は非存在下、固相スカフォールド上でその細胞を培養することを含む。
【0009】
本明細書では、「分化組織」は、例えば、動物又はヒトのような、発達過程の又は成熟多細胞器官において見出されるのと同様に空間的に組織化された細胞集団である。一実施形態において、分化組織は、少なくとも1、2、3、4又はそれ以上の異なる細胞タイプを含む。微環境パラメータは、構造上の支持体又はスカフォールド、細胞集団、細胞応答を引き起こすことができる溶解性剤を含む液体媒体の組成物、スカフォールド上に存在するマトリクス材料、電気刺激、機械的刺激、温度又は圧力における変化、経時的なこれらのパラメータのいくつかの変化を含む。本発明に照らして、多分化能細胞は、その運命は決定されていない(つまり、1以上の細胞タイプに分化し得る)が、それが形成する細胞タイプに規定されていないことはない細胞(つまり、多分化能(pluripotent)細胞とは違う。多分化能(multipotent)細胞はすべての可能な細胞タイプのサブセットのみを形成することができる)として定義される。多分化能細胞の同種の集団は、共通の特性(例えば、検出で有用なマーカーの発現)を示す細胞の集団として定義される。多分化能細胞の同種の集団は、共通の特徴(例えば、検出において有用なマーカーの発現)を示す細胞のコレクションとして定義される。多分化能細胞の同種の集団は、同一、類似又は異なる発生を有する細胞を含むかもしれない。固体又はゲル相スカフォールドは、3次元構造において細胞を物理的に支持することができるいずれの基体であってもよい。スカフォールド構造には3つの一般的なタイプがある。これらは、押し付け孔質構造を有する形態上のスカフォールド、細胞又は組織の存在においてその場で形成されたゲルタイプスカフォールド、ゲルから誘導された天然組織を含む。核となる必須要件は、定住細胞よりも直径が大きい相互に連絡した多孔性である。織又は非織繊維に基づいた織物が開発されている。形状は、凍結乾燥、粒状のリーチング、発泡及び固体フリー形式の組み立てならびに3D印刷を用いることによって形成することができる。
【0010】
基体の正確な3次元形状は特に限定されない。しかし、好ましい実施形態では、スカフォールドは、スカフォールドの内部に細胞を支持することができるのに十分な直径を有する孔又は隙間と有するメッシュ又は繊維のネットワークの形態である。孔の直径は、一般に20μm以下である。さらに好ましくは、孔の直径は、10μm以下であり、最も好ましくは、孔の直径は1μm以下である。
【0011】
スカフォールドは、一般に、多分化能細胞を支持する。用語「支持する」は、細胞がスカフォールドの内表面及び外表面に付着した状態、また、細胞がスカフォールドの内表面又は外表面上に単にのっている状態を指す。一般に、多分化能細胞の集団の実質的に全ては、スカフォールドの表面に付着するであろう。しかし、分裂した細胞はスカフォールドの表面には付着せず、適所に単にのっているだけかもしれない。種々のスカフォールド材料は、機械的特性、安定性(及び生物分解性であってもよい)、肉眼的な形状を想定する能力(例えば、シート対球形)及び生体適合性において異なっていてもよい。スカフォールドは、合成、天然由来又は半合成でもよい。ポリマーは、分解性合成バルクポリマーを含む。これらは、1)合成ポリエステル(乳酸、グリコリド及びカプロラクトイン(caprolactoine)から誘導されたポリエステルを含む)を含む。他の例は、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシブチラートとヒドロキシ吉草酸エステルとの共重合体、ポリ−4ヒドロキシプチラート(poly-4 hydroxyputyrate)、2)合成ゲル(PEOベース基体を含む)、3)細胞外マトリクスタンパク由来の天然ポリマー及び誘導体(例えば、コラーゲン)及び植物及び海草由来の材料を含む。このグループの材は、タイプIコラーゲン、ラミニン系統群のタンパク及びフィブリンを含む。マトリクスは全組織の抽出物又は部分生成物から誘導されていてもよく、残余の(residual)成長因子を含んでいてもよい。天然多糖類は、ヒアルロン酸、アルギナートを含む他のクラスのものでもよい。4)テーラード生物学的リガンドを有する合成材料(フィブロネクチンRGD接着認識配列及び細胞の付着を促進する他のペプチドの含有物並びに細胞性の成長因子及び栄養素を含む)。
【0012】
スカフォールド材料は、1以上の材料の混合物から由来するものであってもよいし、マトリクスを組み立てる1以上の成分を伴っていてもよい。適当なスカフォールド材料の例は、ポリ(プロピレン フマラートとエチレングリコールの共重合体)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ−4−ヒドロキシブチラート、ポリ乳酸−グリコリド共重合体(PLG)、天然源由来細胞外マトリクス、ゼラチン、コラーゲン、フィブリノーゲン、ヒアルロン酸を含む。
【0013】
分化因子は、多分化能細胞が分化することを促進し得るいずれの因子をも含む。分化因子は、想定因子の存在下で多分化能細胞を培養し、少なくとも細胞のいくつかに分化を引き起こす因子として分化因子を同定することによって確認することができる。好ましい因子は、いずれかのある細胞タイプを形成するために、多分化能細胞の集団の10%に分化を引き起こすであろう。より好ましくは、いずれかのある細胞タイプを形成するために、多分化能細胞の集団の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は少なくとも90%であろう。分化細胞を確認する方法を、以下に詳述する。分化因子を培養物に添加してもよいし、培養物中に含有される細胞によってもたらされてもよい。分化因子の例は、分泌タンパク(成長因子、モルフォゲン、サイトカイン、ケモカイン等)、プロテオグリカン、炭水化物、分子のような小薬物、代謝産物及び栄養素を含む。
【0014】
分化因子は、同じマトリクス内で多数の異なる微環境を創出するために用いることができる。分化因子のスカフォールド上又はマトリクス内での位置決めは、因子が特定の細胞または細胞集団と相互作用することができる濃度又はタイミングに影響を及ぼすかもしれない。一実施形態では、分化因子は、スカフォールド上の種々の位置に配置される。異なる位置に因子を配置することによって、その因子はマトリクスにまつわりさせることができる。よって、いくつかの例において、因子濃度は、因子位置に近づくにつれて最も高くなり、因子位置から離れるにつれて最も低くなるであろう。1以上の因子が用いられ、かつ1以上の位置がとられる場合、因子濃度の勾配を作ることができる。例えば、因子Aがマトリクスの一方に配置され、因子Bがマトリクスの他方に配置される場合、マトリクスは、因子A及び因子Bの異なる濃度で変化する微環境を含むことになるであろう。用いる因子の数は限定されず、2、3、4、5、6又はそれ以上の因子を2、3、4、5、6又はそれ以上の異なる位置で含むことができる。因子は、異なる速度でマトリクスに侵入することができる。ある因子は、迅速にマトリクスに侵入する一方、別の因子は、ゆっくりマトリクスに侵入する。因子の位置からマトリクスに侵入する因子の速度を変化させることは、微環境に影響を与えるかもしれない。一実施形態では、スカフォールドは、ボックス形式で組み立てられ、ボックスの各角は異なる因子を含む。この実施形態では、因子は、各角から動き、まつわりつき又は拡散することができ、因子の異なる組み合わせを有する多数の微環境を創出する。これらの異なる因子の組み合わせは、細胞又は細胞集団に対する変化を誘発又は検出するために用いることができる。
【0015】
また、本発明の方法によって得られた分化組織を提供する。これらの分化細胞は、医薬に用いることができる。一実施形態では、本発明の方法によって生産された分化組織は、必要に応じて患者に移植するために使用することができる。さらに、このアプローチによって見い出された微環境は、また医学的応用に使用することができる。微環境及びこのアプローチによって得られた誘導組織は、試験条件を厳密に調べるために、生理学的応答の予測における有用性を有しているかもしれない。例えば、微環境は、試験化合物又は環境要因の催奇形性の試験に有用性を有しているかもしれない。このアプローチで得られた組織は、治療上の有用性又は非治療上の有用性を有しているかもしれない細胞及び細胞由来分子(例えば、タンパク)の高濃度の生産を基礎とする有用性を有するかもしれない。このアプローチによって得られた組織は、さらに、試験剤の存在を検出するバイオセンサーとして有用性を有しているかもしれない。
【0016】
さらに観点において、本発明は、ある分化組織の製造方法を確認するスクリーニング方法を提供する。スクリーニング方は、多分化能細胞の複数の試験集団を準備し、多分化能細胞の各試験集団は、同種の多分化能細胞の単離された集団又は単離された同種の多分化能細胞の少なくとも2つの集団の混合物のいずれかを含み、少なくとも1つの分化因子の存在下又は非存在下、固相スカフォールド上で多分化能細胞の各試験集団を培養し(必ずしも必要でない、生物学的にいうと、追加の因子が存在しなくてもよい)、分化組織中に存在する分化細胞タイプの存在に対して各培養試験集団を分析し、及び/又は3次元の構造的な組織化を進行させ、及び分化組織中に存在する分化細胞タイプを発生させる方法としてある分化組織を実際に生産するプロセスを同定することを含む。さらに他の観点では、本発明は、制御された発生又は自己アセンブリによってある分化組織を製造する方法を最適化する方法を提供する。ここで、制御された発生は、連続的な発生及び分化のプロセスによって、生物学的組織の質を進行させる多細胞構造を生じさせる微環境における細胞の能力を指す。ここで、自己アセンブリは、組織の生物学的特性を有する多細胞構造に組織化するための適当な条件下で組換えされる場合の細胞能を指す。ある分化細胞を製造する方法を最適化する方法は、分化組織を製造する既知の方法の少なくとも1つのパラメータを改変して改変プロセスに到達し、改変プロセスを行い、分化組織中に存在する、及び/又は組織様パターン(例えば、シート、チューブ及び枝分かれ構造)中で構造的に組織化された分化細胞タイプを形成するために分化した細胞の割合を測定し、及び最適化プロセスを、既知のプロセスよりも分化細胞の高い割合又は高い秩序構造の割合をもたらす改変プロセスとして確認することを含む。任意に、プロセスを改変し、改変プロセスを試験する工程を、最適化プロセスを提供するために多数回繰り返してもよい。
【0017】
これに関連して、用語パラメータは、分化組織を製造する方法おけるいずれかの改変可能な因子を指す。パラメータは、スカフォールド材料、スカフォールドの形状、スカフォールド上に堆積するマトリクスの組成、細胞の組成、溶液中又はマトリクスもしくはスカフォールド上の因子の存在、温度、圧力、物理的刺激(機械的、電気的及び光学的を含む)、ガス(例えば、空気)に晒すこと及びパラメータのいずれかが操作される時間的な順序を含む。
【0018】
さらなる観点では、本発明は、細胞を培養するための固相スカフォールドを提供し、それは、少なくとも1つの分化因子を伴う(必ずしも必要でない)。
【0019】
分化因子は、固相スカフォールドの内部または外部表面に結合させることができる。あるいは、分化因子を、スカフォールドのいずれの表面にも物理的に結合させないで、単に固相スカフォールド内に封入するか、取り込んでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の詳細を、実施例のみによって説明する。
【0021】
多分化能細胞の同種集団の単離
少なくとも1つの特性、例えば、生物学的マーカーに対して同種の多分化能細胞の集団を、培養した胚性幹細胞から誘導することができる。従来の胚性幹細胞系のいずれをも本発明に使用することができる。また、初期の幹細胞集団を、内細胞塊の単離によって哺乳動物の胎児から誘導して用いてもよい。さらに、幹細胞を、核移植(例えば、除核卵母細胞に)から誘導してもよい。好ましくは、胚性幹細胞系(及びその多分化能細胞)を霊長類、齧歯類から誘導する。ヒト又はマウスの胚性幹細胞計が特に好ましい。
【0022】
胚性幹細胞は、当該分野で公知の技術(for reviews see Robertson E. J. Ed. , Oxford IRL Press, Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells; A Practical Approach, 1987, and Hogan et al., Cold Spring Harbour Laboratory Press, Manipulating the Mouse Embryo 2 nid Ed. , 1994)を用いてインビトロで培養することができる。一般に、胚性幹細胞は、ウシ胎児血清に添加されたD−MEM製剤又はKNOCKOUT(商標)SR (Invitrogen Corporation, 1600 Faraday Avenue, PO Box 6482, Carlsbad, California 92008)、L−グルタミン、非必須アミノ酸、β−メルカプトエタノール及び抗生物質において、有糸分裂期に不活性な支持細胞層上で培養される。さらに、白血病阻害因子又は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)は、胚性幹細胞の分化を防止するために必要とされるかもしれない。最適な培地が、従来の胚性幹細胞系で確認されている。
【0023】
H9ヒト胚性幹細胞系が特に好ましい。この細胞系を培養する方法は、Itskovitz-Eldor ら(Mol. Med. 6: 88-95,2000)によって、説明されている。
【0024】
【表1】

胚性幹細胞は、少なくとも1つのレポーター遺伝子を含んでいてもよく、そのそれぞれは、異なる組織の特異的プロモータのコントロール下にある。レポーター遺伝子は、DNA構成物上に存在するかもしれず、ゲノム中に融合されているかもしれない。しかし、レポーター遺伝子は、安定な遺伝性を有していることが好ましく、細胞分裂後に、確実に、娘細胞に伝えるに違いない。
【0025】
組織特異的プロモータの制御下でのレポーター遺伝子の導入は、標準的な分子生物学的方法によって行うことができる。
【0026】
好ましい実施形態では、レポーター遺伝子はeGFP、eCFP、eYFP及びDsRed等の蛍光生成物をコードする。他の実施形態では、レポーター遺伝子は、例えば、細菌性タンパクのような問題の種のいずれかの細胞中に発現しないタンパクをコードするかもしれない。好ましくは、レポーター遺伝子のタンパク生成物は市販の抗体(つまり、タンパク生成物に選択的に結合し得る市販の抗体)によって認識される。
【0027】
組織特異性プロモータは、単一の細胞タイプ又は特定セットの細胞タイプに付随する遺伝子の転写を起こすいずれかのプロモータである。転写は、さらに環境条件(例えば、パラクリン、エンドクリン又はオートクリン刺激)又は発達の段階に基づいて時間的に制限されるかもしれない。適当な組織特異的プロモータは、ミオシン重鎖プロモータ(心筋細胞分化に特異的)、短尾奇形プロモータ(内胚葉系中胚葉細胞中で発現)、界面活性プロテインC(SPC)プロモータ(肺細胞に特異的)及びインスリンプロモータ(ランゲルハンス島に特異的)を含む。これらプロモータの配列は、マウス及びヒトの双方において公知である。
【0028】
発生学的に調節されている遺伝子の多くは、胚形成又は器官発生の間、発現に関して特徴づけされている。例は、Tboxファミリーメンバー、FGF受容体ファミリーメンバー(例えば、FGFR2、FGFR7、FGFR8、FGFR12、FGFR12)、GATA結合転写因子、アクチビンベータ−A、骨形態形成タンパクファミリーメンバー(例えば、BMP−2、4、5及び7)、Dll1、Dll4、fasリガンド、フォリスタチン(Follistatin)GDNF、HB−GAM、HDGF、HGF、IGFI、IGFII、Jag−1、MidKine、NTN、NT3、PDGF−A、PDGF−B、プレイオトロピン(Pleiotrophin)、TGF−アルファ、TGF−ベータ、VEGF、Wntファミリーメンバー(Wnt1、3、3a、5a、12)、14−3−3エプシロン、SET、CaBP9K、HOXファミリーメンバー、PDXファミリーメンバー、ヘッジホッグ(hedgehog)メンバー(ソニックヘッジホッグ及びインディアンヘッジホッグ)、ミオカルジン(myocardin)、HOP、血管作動性腸管ペプチド、ガラニン、ノジン(Noggin)、クロジン(Chordin)、Sox、DKK−1、DKK−2、HNF−3、SMAD1、2、3、4、5、8、KGF、EGF、インスリン、グルカゴン、膵臓ペプチド、Reg−1、Reg−2、ソマトスタチン、flk−1、flk−2、prox−1、STF−1、tlx−1、eps−8、eps−15、c−Ret、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、ミオシン重鎖、界面活性プロテインC、アルブミンである。これら遺伝子のいずれかのプロモータは、クローン化及び配列決定されている。
【0029】
同種の多分化能細胞の集団は、多分化能細胞の異種集団を形成するための胚性幹細胞系の分化後、この異種固体群から多分化能細胞の同種集団を単離することによって得られる。
【0030】
多分化能細胞の異種集団を形成するための胚性幹細胞系の分化は、胚性幹細胞の培養に用いられる条件の改変によって行われる。培養条件は、胚性幹細胞の連続的な増殖に必要な因子を除去することによって改変することができる。言い換えると、未分化状態の胚性幹細胞を維持するために必要な因子を除去することができる。未分化状態の胚性幹細胞を維持するために必要な因子は、一般に、支持細胞層、白血病阻害因子及び塩基性FGFを含む。
【0031】
あるいは、培養条件は、培養メディウム中の幹細胞分化因子の内容物によって分化を促進するために改変することができる。幹細胞分化因子は、多分化能胚性幹細胞を、いずれかの細胞タイプに分化することを促進することができるいずれかの因子を含む。幹細胞分化因子は、想定される因子の存在下、多分化能胚性幹細胞を培養し、多分化能胚性幹細胞の集団のいくらか、又は少なくとも10%が、いずれかのある細胞タイプを形成するために分化することを引き起こす因子として分化因子を同定することにより、確認することができる。より好ましくは、多分化能胚性幹細胞の集団の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は少なくとも90%が、ある細胞タイプを形成するために分化する。いずれかの幹細胞分化因子は、また、多分化能細胞の分化を誘引するかもしれない。
【0032】
幹細胞分化因子は、ソニックヘッジホッグ、レチノイン酸 、信号伝達タンパクのTGFβスーパーファミリーメンバー及びIGFを含む。また、幹細胞分化因子は、発達の特定の経路を促進するかもしれず、心筋細胞促進因子、肺細胞促進因子を含む。
【0033】
さらなる因子は、骨形態発生タンパクファミリーメンバー(例えば、BMP-2、4、5及び7)、Dlll、D114、fasリガンド、フォリスタチンGDNFファミリーメンバー、ニューロトロピン(neurotrophins)(例えば、BDNFNT3)、HB-GAM、HDGF、HGF、IGF I、IGF II、Jag-1、ミドカイン(MidKin
e)、NTN、PDGF-A、PDGF-B、プレイオトロピン、TGFファミリーメンバー、TGF−アルファ、TGF−ベータ、VEGF、Wntファミリーメンバー(Wnt1、3、3a、5a、12)、14-3-3エプシロン(epsilon)、SET、CaBP9K、ヘッジホッグメンバー(ソニックヘッジホッグ及びインディアンヘッジホッグを含む)、ミオカルジン(myocardin)、HOP、血管作用性小腸ペプチド、ガラニン、ノッギン、コーディン、DKK-1、DKK-2、HNF-3、KGF、EGF、インスリン、グルカゴン、膵臓ペプチド、ソマトスタチン、flk-1、flk2、prox-1、STF-1、tlx-1、eps-8、eps-15、c-Ret、アンドロゲン、エストロゲン、TNF、レチノイン酸、シンデカン(syndecans)を含む。
【0034】
また、培養条件は、分化細胞層の内容物によって分化を促進するために変更することができる。例えば、胚性幹細胞は、分化するために刺激され、S17細胞のような非有糸核分裂骨髄間質細胞の存在下、造血細胞タイプを形成する。
【0035】
従来の細胞系の分化を誘発するために必要な条件は公知である。例えば、H9細胞系は、1mg/mlコラーゲンタイプIVで細胞コロニーを処理し、その後、ペトリ皿中での白血病阻害因子及び塩基性FGF非存在の分化メディア中に細胞を再懸濁して、Itskovitz-Eldorらの方法(Mol. Med. 6: 88-95,2000)に従ってエンビロイド体(embyroid body)の形成を誘発することによって分化を誘発することができる。
【0036】
多分化能細胞の得られた集団は、異種であり、つまり、いくつかの異なる細胞タイプを含み、それぞれは制限された発生能を有している。次いで、細胞を、実質的に全ての細胞がそれぞれ又は培養ビンの壁に付着しないように、メディア中に懸濁する。培養細胞を懸濁する方法は、当該分野で公知であり、トリプシン又はコラゲナーゼで細胞を処理することを含む。次いで、懸濁細胞を、同じ標的タンパク又は同じ標的タンパクのセットを発現するグループに分類又はプロファイルすることができる。
【0037】
これは、プロファイリングタンパクと細胞を接触させることによって達成することができる。プロファイリングタンパクは、少なくとも1つの分化組織で発現されるが、胚性幹細胞では発現されない標的タンパクに、特異的にタンパクを結合する能力を有するいずれかのタンパクである。一般に、プロファイリングタンパクは抗体である。この出願においては、抗体という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一重鎖抗体、キメラ抗体、全抗体のタンパク分解から及び/又はジスルフィド結合の還元によって誘導されるフラグメント、あるいは発現ライブラリーによって産生された抗体を包含する。プロファイリングタンパクは標識されていることが好ましい。また、組織特異的プロモータを、集団の検出において有用なマーカーの発現を誘導するために用いることができる。
【0038】
次いで、プロファイリングタンパクに結合した細胞を、残存細胞から分離することができる。よって、単一のプロファイリングタンパクを用いると、2種のプロファイル又は細胞集団が形成され、最初のプロファイルは実質的に標的タンパクを含む細胞を含み、第2のプラファイルは実質的に標的タンパクを欠いた細胞を含む。
【0039】
一般に、プロファイリングタンパクのパネルが用いられる。これは、細胞のいくつかのプロファイルを発生させるために用いることができ、それぞれは、実質的にタンパクの同じセットを含む又は欠いた細胞からなる。プロファイルにおさまる細胞は、同じ標的タンパクを発現するため、同種として説明される。標的タンパクの発現と同じパターンを共有する細胞は、また、他のタンパクの発現の同じパターンを共有するであろうと仮定され、よって、同じ発生能を有する。発生能という用語は、分離して培養された場合、細胞が形成することができる細胞のタイプの程度を指す。
【0040】
細胞を分離する方法は限定されない。好ましい実施形態では、プロファイリングタンパクは蛍光マーカーで標識され、標識細胞を非標識細胞から分離するためにフローサイトメトリーが用いられる。一般に、一列縦隊で移動する懸濁液中の細胞は、単一の細胞を含むか、全く含まない液滴の形成を生じる振動ノズルを通って通過する。液滴は、蛍光マーカーを励起するレーザービームを通過し、蛍光を発する。その液滴中のそれぞれの個々の細胞からの蛍光を検出器で測定する。検出器の後、懸濁液中の細胞流が、液滴に表面電荷を与える静電環を通過する。液滴を伝わる細胞は、正又は負の電荷が与えられる。液滴が特定の閾値を越える強度を有する蛍光を発する細胞を含有している場合、液滴は、一つの極性の電荷が与えられる。非標識細胞を含有する液滴は、反対の極性の電荷を獲得する。次いで、荷電された液滴は、それらの表面電荷に依存して、電場によって偏向し、別々の容器に指向され、計数される。1以上の細胞を含有する液滴は、個々の細胞より多くの光を散乱する。これは、容易に検出され、よって、これらは荷電されないまま、第3の処分容器に入る。
【0041】
多チャネル蛍光検出装置は、多様な異なる蛍光標識物質で行われた標識に基づいて細胞を分離することができるように構成されている。これらは異なる周波数で蛍光を励起することができる多様なレーザを有しており、検出器は、異なる射出周波数を検出するであろう。このような装置は、1以上のプロファイリングタンパクに基づいて、同時に細胞を分類するために用いることができ、特に好ましい。
【0042】
いずれかの蛍光標識物質を、フローサイトメトリーと組み合わせて用いることができる。適当な蛍光標識物質は、緑蛍光タンパク、黄蛍光タンパク、ローダミン及びテキサスレッド、FITC(フルオレセインイソチアネート)、Cy3(インドカルボシアニン)及びCy5(インドジカルボシアニン)を含む。上部で細胞をパニングし(つまり、細菌性のプレートをプロファイリングタンパクで被覆し、incubintする)、磁気ビーズのような物理的除去、補体仲介性除去を可能にする粒子に付着したタンパクをプロファイリングする。
【0043】
さらなる観点では、同種多分化能細胞の集団は、胚性幹細胞由来の分化細胞をプロファイリングすることによって得られない。その代わりに、成熟幹細胞系が胚性幹細胞系の代わりに用いられる。成熟幹細胞は、組織特異性プロモータの制御下に、少なくとも1つのレポーター遺伝子を含んでいてもよい。
【0044】
スカフォールドの製造
固相スカフォールドは、多分化能細胞に対して非毒性のものであればいずれの材料からなっていてもよい。好ましくは、多分化能細胞はスカフォールド材料に接着する能力がある。適当なスカフォールド材料は、コラーゲン及びマトリゲル(BDバイオサイエンシス、ベッドフォード、マサチューセッツ州)のような天然細胞外マトリクス材料ならびに炭素繊維、リン酸カルシウム及びポリメリック材料のような合成材料を含む。生分解性ポリマー材料は、特に好ましい。これらは、ポリ乳酸−グリコリド共重合体(ベーリンガーインゲルハイム、インゲルハイム、ドイツ)及びポリ乳酸(ポリサイエンス、ワーリントン、PA)を含む。スカフォールドの製造方法は当該分野で公知である。
【0045】
好ましい実施形態では、50/50ブレンドのポリ乳酸−グリコール酸共重合体及びポリ(L−乳酸)からなるスカフォールドが用いられる。これは、脱塩法によって製造することができ、この方法は、当業者に公知の方法である。
【0046】
本発明で使用することができるスカフォールドは、市販のものを利用することができる。そのようなスカフォールドは、PuraMatrix(商標)及びPuraMatrixCST(商標)(3DM Inc., Cambridge, Massachusetts, USA)を含む。
【0047】
スカフォールドは、フィブロネクチン及びコラーゲンのような細胞外マトリクス分子で被覆されていてもよい。
スカフォールドは、少なくとも1つの分化因子を伴っていてもよい。上述したように、分化因子は、培養された多分化能細胞中における分化を誘発することができるいずれかの因子である。分化因子は、ソニックヘッジホッグ、レチノイン酸、シグナル伝達タンパクのTGFβスーパーファミリーメンバー及びIGFを含む初期胚発生に含まれることが知られている因子を包含する。また、分化因子は、発生の特定の経路を促進し、心筋促進因子、肺促進因子等を含む。
【0048】
さらなる因子は、骨形態発生タンパクファミリーメンバー(例えば、BMP-2、4、5及び7)、Dlll、D114、fasリガンド、 フォリスタチンGDNF、HB-GAM、HDGF、HGF、IGF I、IGF II、Jag-1、ミドカイン、NT
N、NT3、PDGF-A、PDGF-B、プレイオトロピン、TGFファミリーメンバー、TGF−アルファ、TGF−ベータ、VEGF、Wntファミリーメンバー(Wnt1、3、3a、5a、12)、14-3-3エプシロン、SET、CaBP9K、ヘッジホッグメンバー(ソニックヘッジホッグ及びインディアンヘッジホッグを含む)、ミオカルジン、HOP、血管作用性小腸ペプチド、ガラニン、ノッギン、コーディン、DKK-1、DKK-2、HNF-3、KGF、EGF、インスリン、グルカゴン、膵臓ペプチド、ソマトスタチン、flk-1、flk2、prox-1、STF-1、tlx-1、eps-8、eps-15、c-Ret、アンドロゲン、エストロゲン、TNF、レチノイン酸、シンデカン(syndecans)を含む。
【0049】
スカフォールドへの分化因子の結合は、共有結合、水素結合、疎水性相互作用又はファンデアワールス力によって、あるいは、単にスカフォールドの孔への分化因子の被包によって、スカフォールド材料に結合される分化因子から生じるかもしれない。スカフォールドへの分化因子の結合は、標準的な技術によって達成することができる。
【0050】
好ましい実施形態では、分化因子は、スカフォールドの局所的な部位又は領域へ結合する。因子の濃縮源を含む粒子又はビーズを、スカフォールド上に配置し、因子を浸出させる。
【0051】
スカフォールドは、2、3、4、5又はそれ以上の分化因子を含んでいてもよく、それぞれは、スカフォールドの特定の領域に、独立的に配置されていてもよい。
好ましくは、スカフォールドは、使用の前に殺菌する。PuraMatrix(商標)及びPuraMatrixCST(商標)は、γ線照射を用いて滅菌することができる。他のスカフォールドは、70v/v%のエタノール、次いでスカフォールドをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄することによって滅菌することができる。
【0052】
同種多分化能細胞の培養
スカフォールドの滅菌の後、これは、少なくとも1つの多分化能細胞の同種集団で種付けされる。一般に、これは、少量の培養メディウムに懸濁された細胞を単にスカフォールドに付着させ、その後培養メディウムにスカフォールドを含浸させることによって行われる。スカフォールドが、PuraMatrix(商標)及びPuraMatrixCST(商標)であるか、コラーゲンからなる場合、培養メディウム中で懸濁細胞を直接注入することも可能である。
【0053】
スカフォールドがマトリゲルである場合、当該分野で公知の方法に従って、細胞を50v/v%のメディウムとマトリゲルとの混合物中で懸濁し、次いで、37℃で固化する。次いで、スカフォールドを滅菌ブレードで培養ビンから分離する。
【0054】
一実施形態では、同種の多分化能細胞の単一集団をマトリクスに種付けする。本発明は、同種の多分化能細胞(又はプロファイル)の複数集団でスカフォールドに種付けすることを包含する。好ましい実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は10以上の同種の多分化能細胞集団をスカフォールドに種付けする。
【0055】
上述したように、同種の多分化能細胞の各集団の細胞は、同じ発生能を有すると仮定され、それは、他の同種の多分化能細胞の発生能と区別することができる(オーバーラップする可能性はあるが)。同種の多分化能細胞の異なる集団の細胞は、一方又は双方の細胞の集団の分化を生じるような培養プロセスの間、互いに他の一つと相互作用するかもしれない。
【0056】
一般に、スカフォールドに支持された細胞は、それらが由来する胚性幹細胞系/成熟幹細胞を培養するために用いられる培養メディウム中で培養される。しかし、この培養メディウムの組成は、変更することができる。例えば、成長因子又はホルモンを添加又は除去してもよく、メディアのpH又は栄養素組成を変更してもよい。
【0057】
さらに、分化因子は、少なくとも培養プロセスの一部の間、存在する。この分化因子は、上述したように、スカフォールドに結合していてもよい。あるいは、分化因子は、培養メディウム中に存在していてもよい。この場合、分化因子は、1つのバッチのみで存在していてもよいし、構成物の周辺で培養メディウムが変化していてもよい。
【0058】
培養メディウムの各バッチは、2、3、4、5又はそれ以上の種々の分化因子を含んでいてもよい。いずれか特定の分化因子に細胞をさらす長さは、必要な時間曝露した後、培養メディウムを置き換えることにより、容易に制御される。同様に、曝露のタイミングを制御することもできる。
【0059】
分化組織の確認
1以上の分化細胞タイプに活性があるプロモータの制御下にレポーター遺伝子を含む、胚性幹細胞の初期の集団又は成熟幹細胞の初期の集団が問題の分化組織中に存在する場合、分化組織の生成は、レポーター遺伝子発現を分析することによって測定され、レポーター遺伝子発現の存在は、分化組織の存在を表わす。
【0060】
レポーター遺伝子発現のいかなる分析方法も使用することができる。しかし、好ましい実施形態では、レポーター遺伝子は蛍光マーカータンパクをコードし、蛍光共焦点顕微鏡が、レポーター遺伝子発現を分析するために使用される。
【0061】
2以上のレポーター遺伝子が用いられた場合、それぞれは、異なる組織特異性プロモータの制御下に、異なる蛍光マーカータンパクを含み、分化のより複雑なパターンを模索するために蛍光共焦点顕微鏡を用いることが可能である。例えば、緑の心筋細胞(ミオシン重鎖プロモータのような心筋細胞特異的プロモータの制御下にeGFPを発現する細胞)で取り囲まれた黄色の毛細管(毛細管特異的プロモータの制御下にeYFPを発現する細胞)をスクリーンすることができるであろう。好ましい実施形態では、管、シート又はシヌソイドのようなより高次構造の特徴を確認することを可能にするため、2−光子共焦点顕微鏡が用いられる。
【0062】
非蛍光プロテインをコードするレポーター遺伝子を用いることもできる。これらの非蛍光プロテインは、抗体によって認識され、これらレポーター遺伝子の発現パターンは、公知の直接又は間接の免疫蛍光法によって確認することができる。
【0063】
胚性幹細胞又は成熟幹細胞の初期の集団がレポーター遺伝子に含有されていない場合、分化細胞の生成は、分化細胞を伴うマーカーの存在又は分化組織中に存在する分化細胞タイプを伴うマーカーの存在を分析することによって測定することができ、これらマーカーの存在は、分化組織の存在を示す。
【0064】
マーカーは、分化組織を伴うプロテインであってもよい。界面活性プロテインC(SPC)は、肺に限って発現する。マーカープロテインの存在は、免疫組織化学的方法を用いて確認することができる。例えば、サンプルを、10%の中性緩衝ホルマリン中で6時間固定し、パラフィンに加工及び包埋してもよい。次いで、包埋されたサンプルを薄片化してもよい。組織の薄片を、次いで、製造者の指示に従って、Biocare Medical Universal HRP-DAB kit(Biocare Medical, Walnut Creek, CA)を用いて染色してもよい。あるいは、サンプルを、公知の方法に従って、免疫蛍光によって直接又は間接的に分析してもよい。
【0065】
マーカーは、分化細胞を伴うRNA分子であってもよい。RNAマーカーの発現パターンは、標準的な方法に従って、その場でのハイブリダイゼーションによって分析することができる。
【0066】
レポーター遺伝子発現の存在又はタンパクもしくはRNA組織特異的マーカーの存在を分析するために用いられる方法は、分化した多分化能細胞の割合を確認するために用いることができる。得られた分化組織は、少なくとも10%の分化細胞を含んでいることが好ましい。分化組織は、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は少なくとも90%の分化細胞を含んでいることがより好ましい。生成された分化細胞の割合は、分化細胞を生成する方法の成功を評価するために用いることができる。これは、最も有用な方法を確認するために、異なる方法と比較することができる。さらに、その方法は、次いで、分化細胞の最も大きな割合をもたらす改変方法を確認するために、最適化することができる。
【0067】
分化細胞の使用
本発明の方法によって得られた分化組織は、本来の分化組織のマーカー特性を発現するため、それらは、他の方法における本来の分化組織に類似しているであろうことが仮定される。その結果、この方法によって得られた分化組織は、その組織のインビトロ研究に適している。
さらに、分化組織は、医薬に用いることができる。例えば、分化組織はそれを必要とする患者への移植(trensplantation)又は接木(grafting)に用いることができる。
【0068】
スクリーニング方法
本発明の一観点は、ある又は特定の分化組織を製造する方法を確認することに指向する。実験的なアプローチは、上述したものに広範囲に類似している。しかし、多分化能細胞の試験集団の複数が進行される。試験集団は、同種多分化能細胞の単離集団または単離細胞の少なくとも2つの集団の混合物のいずれかである。好ましい実施形態では、2、3、4、5又はそれ以上の同種多分化能細胞の集団を、細胞の試験集団を発生させるために混合する。
【0069】
次いで、細胞の各試験集団を、固相スカフォールドに種付けする。一実施形態では、各試験集団を、スカフォールドの別個の領域に種付けする。しかし、一般に、別個のスカフォールドを各試験集団に使用する。試験集団を、次いで、上述した少なくとも1つの分化因子の存在又は非存在下で培養する。
【0070】
一実施形態では、細胞の全ての試験集団を同じ培養条件にさらす。他の実施形態では、異なる試験集団を、異なる培養条件にさらす。さらに他の実施形態では、各試験集団を、使用される各培養条件で培養する。
【0071】
培養条件は、種々の方法で変更することができる。例えば、異なる分化因子又は因子の組み合わせを用いることができる。各分化因子の存在にさらすタイミング及び期間を、試験微環境の他のいずれかの実験的なパラメータもするかもしれないように、異ならせてもよい。さらに、各分化因子は、スカフォールド又は培養メディウム中に組み込んでもよい。分化因子がスカフォールドに組み込まれる場合、これはスカフォールドの全部又は局所的な領域にのみ組み込んでもよい。
【0072】
機械的な刺激を、スカフォールドを圧縮又は伸張させることによって種付けしたスカフォールドに適用してもよい。機械的なストレスは、例えば、骨の形成において重要であることが知られている。培養は、ガス(空気)、電気的刺激、異なる雰囲気圧及び異なる温度にさらしてもよい。スカフォールドは、異なる材料によって形成されていてもよいし、異なる三次元構造を有していてもよい。また、スカフォールドは、異なる材料からなるマトリクスで被覆されていてもよい。これらのマトリクスは、スカフォールドに添加してもよいし、定住細胞(resident cells)から堆積によって形成することもできる。液相メディウムを、微環境における変化に作用するために変更してもよい。これらは、pHの変更、分化、増殖又は発生を誘導することができる溶解性因子、代謝産物、小分子及び溶解ガスの存在又は非存在を含む。
【0073】
各試験集団は、同時に処理されてもよいし、マルチウェルプレートの別個のウェル中で行ってもよい。従って、このスクリーニング法は、高スループットである。
次いで、培養細胞について、上述したように、分化を分析する。これは、分化組織の生産方法を確認することを可能にする。分化組織の生産方法は、分化組織に存在する分化細胞タイプを発生させるプロセス(つまり、試験群、培養条件、スカフォールド及び追加刺激の組み合わせ)である。
【0074】
各プロセスによって発生した分化細胞の割合を測定することができる。一般に、分化細胞の割合が高くなると、より有効に分化組織が製造される。
分化組織の製造方法は、さらに多分化能細胞の分化の割合を増大させるために最適化することができる。これは、分化組織を製造する既知の方法のすくなくとも1つのパラメータを変更して改変方法に達し、その改変方法を実行し、その改変方法によって発生した分化細胞の割合を測定することを含む。その改変方法が既知の方法よりも分化細胞の高い割合をもたらす場合、その改変方法は最適化された方法である。
【0075】
この方法は、反復方法において繰り返すことで、その方法を徐々に最適化してもよい。言い換えると、確認された最適化方法のパラメータを改変してもよいし、さらなる改変した方法を試験してもよい。分化細胞の割合にさらなる改善が観察された場合、このさらなる改変方法が最適化された方法である。
【0076】
実験的なパラメータは、分化組織を製造する方法において、どのように可変してもよく、分化因子の確認、分化因子の濃度、分化因子の局在化、分化因子に多分化能細胞をさらすタイミング及び持続時間、多分化能の試験集団の集団組成、スカフォールド及びスカフォールドを被覆するマトリクスの特性、いずれかの追加の刺激(例えば、機械的、電気的)を含む。マトリクスは、スカフォールド中又は上において、生物学的に活性な材料である。因子は、培養メディウム中の可溶な材料である材料である。
【0077】
方法は、3D微環境及びその個々の成分が相互に関連し、時間とともに発展する方法を理解し、モデル化するために用いられる。このシステムで集められたデータは非常に複雑であると予想され、したがって、方法が、結果を決定する根本的なパラメータ及び原理を理解するために必要であろう。発見される(2つの幹細胞タイプが、ともに1個の新しい細胞をもたらす)規則は、モジュールの知識になるであろうし、これらのデータセットから得られた他のデータセット又は外部的に誘導されたデータセットと関連があるかもしれない。
【0078】
データ収集:データは、3Dの光学のデータ、蛍光データ、構造データ、遺伝子発現(転写又はタンパク表現)、細胞活性などのような実験的な分析から集められる。
データ分析:高度化されたイメージプロセシングの一式が必要であろう。イメージプロセシングの一式は、イメージを分割し(それをいくつかの部分に分け)、イメージの様々のコンポーネント間の興味深い関係を模索するために必要であろう。生理学的に適切な特徴を発見すること。さらに、長期にわたる分割がある。時系列分析。また、パターン認識はデータ分析の別の重要な側面である。
【0079】
モデリング/予測:パラメータは、分化組織のシリコ(silico)モデルに従って、無作為でない方法(nono-random way)で改変してもよい。このモデルは、いくつかの異なる計算技術を利用することができるであろう、例えば、オートクリン及びパラクリン(最も近くに隣接するもの)規則を伴う細胞のオートマタ(cellular automata)を用いることができるであろう。細胞のオートマタは、最も近くに隣接するもの(細胞)の相互作用によって計算を実行する。これは、システムの構成要素がそれらの隣り合うものと相互作用するための単純な計算のたとえである。これは、研究中の生物学的システムの空間的な制約を捕える。
【0080】
あるいは、細胞関連の関数方程式を、経験的に又は第一原理(微分方程式)から確立することができるかもしれない。しかし、おそらく、最良の結果を生むように見える技術は、オートメーション化(オートクリンとパラクリンの作用のために)及び機能的な(エンドクリン)コンピューティングのハイブリッドであるであろう。これは、自然界におけるエンドクリンであると考えることができる、より長い範囲の相互作用を説明する。これらの計算の中で使用される規則と機能は、実験のデータに向けられた専門知識と機械の学習モデルとの組み合わせに由来することができる。この方法において制御された発生をモデル化することは、計算上、示強的なプロセスであろう。しかし、その問題は効率的に比較させることができ、計算を多スレッド化することができる。これらの分析から得られた知識は、実験的に実現可能なサイズ及び範囲内の所望の結果をもたらす可能性が最も高い実験のデザインを支持するであろう。
【0081】
提案されたスクリーニングの戦略のさらなる詳細は以下のとおりである。
ステップI.別個の部分母集団への初期段階の分化ESCの階層:LIFと支持細胞層は分化を始めるESC培地から回収されるであろう。初期段階の分化ESCが収穫され、分化細胞の表現型サブセットを作り出すために用いることができるそれらの抗体を同定するために大きなパネルの抗体に対してスクリーニングされるであろう。抗体のパネル(プロファイリング抗体)がまず得られる。抗体は、規定された部分母集団への初期段階の分化細胞の異種集団の階層を効果的に可能にすることを確認することが必要かもしれない。よって、部分母集団は、これらのプロファイリング抗体によって認識されるタンパク質の表現パターンによって規定されるであろう。部分母集団へ細胞混合物を階層化するためにプロファイリング抗体を用いることに加え、系列及び段階特異的プロモータ(例えば、短尾奇形(brachyury))の制御下、レポーター遺伝子(eGFPのような)を発現させるために遺伝子工学で作り変えられたES細胞系を用いることができる。フローサイトメトリーを、部分母集団を分離するために用いることができるであろう。部分母集団は、分化の開始に関連する種々の時点で、分化ES細胞培地から得ることができる。
【0082】
ステップII及びIII.部分母集団の再結合(十分な要因配置実験)及びマトリクス(+/−可溶性の因子)への細胞コンビベーションの種付け:個々の部分母集団は、単独で又は互いに、独自の細胞マトリクスの大きなアレイを作る組み合わせで使用することができる。一元、二元及び潜在的により複雑な組み合わせを、滅菌自動化分配方法を用いて分配することができる。細胞集団は、規定された3Dマトリックスを含むマイクロタイターディッシュ又はチップのようなアレイフォーマットの部位に直接導入されるであろう。3Dスカフォールドの種々のパラメータを、スカフォールド材料、マトリクス被覆(例えば、フィブロネクチン)、粘弾性及び3D構造を含むこの方法で試験することができる。種々のマトリクスに加えて、種々のメディアの効果を試験することもできる。メディアは、種々の成長因子又はホルモンに追加することができ、それらは、栄養組成、代謝産物、pH又は他のストレッサを変更してもよい。種付けされたスカフォールドは、電気及び機械的な刺激を含むさらなる刺激に付してもよい。
【0083】
ステップIV.レポーター発現及び高次構造のスクリーン:良好に規定された組織及び段階特異的プロモータの制御下、蛍光マーカータンパクを発現するESC系が用いられるであろう。そのような系は、例えば、相同の組換え(「ノックイン」技術)によって発生させることができる。系統及び段階特異的方法において発現するプロモータが選択されるであろう。例えば、ミオシン重鎖プロモータで制御される蛍光マーカータンパクが、心筋細胞系統に、ES細胞の分化を発現させるであろう。あるいは、界面活性タンパクC(SPC)座の発現は、肺路への分化を示す。いくつかの別個の蛍光マーカータンパク(例えば、eGFP、eCFP、eYFP及びDsRed)があるため、より複雑なパターンをスクリーニングすることが可能である。例えば、「黄色」毛細管によって取り囲まれている「緑」の心筋細胞を確認することが可能かもしれない。分析は、2−光子共焦点顕微鏡を用いて行うことができ、よって、より高次構造特性(例えば、管、シート又はシヌソイド)を解明することを可能にする。
【0084】
発明は、好ましい実施形態の点から記述されているが、当業者は、様々の改変、置換、省略、及び変更を、それらの範囲を逸脱することなく行うことができることを認識するであろう。従って、それらの均等物を含む以下のクレームの範囲によって本発明の範囲が制限されたことが意図される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多分化能細胞の少なくとも1つの集団から誘導された複数のサンプルを得、
b)三次元スカフォールド上で該細胞を培養し、少なくとも1つの実験パラメータが各サンプルに対して変更されており、及び
c)制御された発生、自己アセンブリ又は分化に対して各サンプルを観察又は測定することを含む分化組織のスクリーニング方法。
【請求項2】
a)三次元スカフォールド上で培養された多分化能細胞の集団から誘導された細胞の複数のサンプルを得、該細胞は、三次元スカフォールドにおいて制御された発生、自己アセンブリ又は分化が行われており、
b)各サンプルに対して少なくとも1つの実験パラメータを変更し、及び
c)さらなる制御された発生、自己アセンブリ又は分化に対して各サンプルを観察又は測定することを含む分化組織のスクリーニング方法。
【請求項3】
実験パラメータが、a)追加の細胞集団、b)異なるスカフォールド材料、c)異なるマトリクス材料、d)異なる因子、e)培養時間、f)物理的刺激量、g)温度、h)異なるスカフォールド構造、j)スカフォールドの異なる部位での因子の位置決めである請求項1の方法。
【請求項4】
実験パラメータが、a)追加の細胞集団、b)異なるスカフォールド材料、c)異なるマトリクス材料、d)異なる因子、e)培養時間、f)物理的刺激量、g)温度、h)異なるスカフォールド構造、j)スカフォールドの異なる部位での因子の位置決めである請求項2の方法。
【請求項5】
細胞集団が少なくとも1つのマーカーに対して同種である請求項1の方法。
【請求項6】
細胞集団が少なくとも1つのマーカーに対して同種である請求項2の方法。



【公表番号】特表2007−508815(P2007−508815A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534324(P2006−534324)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/033041
【国際公開番号】WO2005/037996
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(505036065)トランスフォーム・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】TRANSFORM PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】