説明

組織因子経路阻害因子2(TFPI2)測定による卵巣明細胞腺癌の検査方法および検査薬

【課題】CA125など従来知られている卵巣癌の腫瘍マーカーにおいて陽性率の低かった卵巣明細胞腺癌に対し、より陽性率の高い方法および前記方法に利用できる試薬を提供すること。
【解決手段】組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を特異的に検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを特異的に検出する方法とを組み合わせた卵巣明細胞腺癌の検出方法、およびTFPI2を特異的に認識する抗体を含むTFPI2検出試薬と卵巣癌の腫瘍マーカーを特異的に認識する抗体を含む前記マーカー検出試薬とを含む卵巣明細胞腺癌の検出試薬により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の組織因子経路阻害因子2(Tissue Factor Pathway Inhibitor 2、TFPI2)測定方法を利用した卵巣明細胞腺癌の検査方法および検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の中で最も死亡率の高い腫瘍であり、日本における罹患率は1988年では女性10万人に7.4人の罹患率に対し、2015年には10.2人に達すると予測されている。卵巣癌は卵巣表層上皮性の悪性腫瘍が約85%を占め、さらに組織型により漿液性、類内膜型、粘液性、明細胞、未分化型に分類されている。その中で、明細胞腺癌は欧米人の罹患率が5%程度に対し、日本人の罹患率は20から30%と日本人で罹患率が高い傾向が報告されている。卵巣明細胞腺癌は、Stage I期症例が約半数を占め、またシスプラチンやパクリタキセルなどを用いた化学療法に対する抵抗性を有しており、悪性度が極めて高いのが特徴である。
【0003】
従来、卵巣癌を検出する方法として、経膣超音波法、CT、MRIなどが用いられている。また、全血、血球、血清、血漿などの血液成分から卵巣癌を検出する方法としては、癌抗原125(Cancer Antigen 125、CA125)を用いた方法が一般に知られている。CA125は、1981年にBastらがヒト卵巣癌細胞株(OVCA433)を免疫原として樹立したモノクローナル抗体(OC125)によって認識される抗原であり、血液成分中にCA125を検出すると高い陽性率で卵巣表層上皮性卵巣癌を示す。そのため、卵巣癌のスクリーニング、卵巣癌の治療効果の評価、治療後の経過観察などに有効な検査として広く利用されている(非特許文献1および2)。
【0004】
しかしながら、卵巣癌全般におけるCA125の陽性率は約80%程度であり、約20%程度の卵巣癌はCA125では判別不可能となっている。また、卵巣癌の各組織型間で比較すると、漿液性癌におけるCA125陽性率は90%以上を示すのに対し、明細胞腺癌におけるCA125陽性率は約65%と極めて低い結果となっている(非特許文献3)。
【0005】
組織因子経路阻害因子2(Tissue Factor Pathway Inhibitor 2、TFPI2)は、胎盤タンパク質5(Placental Protein 5、PP5)と同一のタンパク質であり、ジスルフィド結合を9箇所有した、3つのタンデムKunitz型プロテアーゼインヒビタードメインを含むセリンプロテアーゼインヒビターである(非特許文献4)。
【0006】
TFPI2は、プロモーター部CpGアイランドの過剰メチル化と癌との関連(特許文献1、非特許文献5および6)、卵巣癌と子宮体部明細胞腺癌組織における遺伝子発現の向上(非特許文献7)、卵巣癌のうち明細胞腺癌における遺伝子発現の向上(漿液性癌、粘液性癌、類内膜性癌との比較)(非特許文献8)、胃癌における遺伝子の高発現(特許文献2)等、卵巣癌を含めた癌との関連性が報告されている。またTFPI2は、子宮内膜症患者で血中TFPI2量が向上する(特許文献3)、子癇前症および子宮内胎児発育遅延(IUGR)患者では正常妊婦と比較して血中TFPI2量が減少傾向を示す(非特許文献9)等の知見が得られており、婦人科疾患における研究も盛んに進められている。
【0007】
しかし今日まで、卵巣明細胞腺癌におけるTFPI2の血中動態に関する報告はなく、
全血、血球、血清、血漿などの血液成分からTFPI2を容易に検出でき、かつ検出結果から卵巣明細胞腺癌の検出に適用できるか不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2008/084219号
【特許文献2】特開2008−118915号公報
【特許文献3】特表2007−506965号公報
【特許文献4】特開2009−240300号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Clin.Invest.,68,1331(1981)
【非特許文献2】Human Reproduction,4,1(1989)
【非特許文献3】日本分子腫瘍マーカー研究会誌,20,98(2005)
【非特許文献4】J.Biochem,116,939(1994)
【非特許文献5】Cancer Genet.Cytogenet.,197,16(2010)
【非特許文献6】Anticancer Res.,30,1205(2010)
【非特許文献7】Clin.Cancer Res.,11,6422(2005)
【非特許文献8】Cancer Res.,62,4722(2002)
【非特許文献9】Placenta,28,224(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、CA125など従来知られている卵巣癌の腫瘍マーカーにおいて陽性率の低かった卵巣明細胞腺癌に対し、より陽性率の高い方法および前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らが、TFPI2を検出する方法を構築し、当該方法を用いて卵巣明細胞腺癌の検出を試みた結果、検出性能は卵巣癌の腫瘍マーカーとして従来知られているCA125を用いた検出とほぼ同等であったものの、CA125を用いた検出で陰性と判定された卵巣明細胞腺癌検体に対しては高い陽性率を示した。このことから、本発明者らは、TFPI2を検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを組み合わせることで、卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法単独では陽性率の低かった卵巣明細胞腺癌に対し、その陽性率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の態様を包含する:
(1)検体より組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を検出する方法と、検体より卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを組み合わせて卵巣明細胞腺癌を検出することを含む、卵巣明細胞腺癌を検出する方法。
(2)卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法を用いて、検体より前記マーカーの検出を行ない、前記検出の結果、陰性と判定された検体に対し、組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を検出する方法を用いて、検体よりTFPI2の検出を行なうことを含む、(1)に記載の方法。
(3)TFPI2を検出する方法がTFPI2を認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した方法であり、卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法が前記マーカーを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した方法である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)TFPI2を認識する抗体が、TFPI2の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドを動物に免疫して得られる抗体である、(3)に記載の方法。
(5)卵巣癌の腫瘍マーカーが、癌抗原125(CA125)である、(1)から(4)のいずれかに記載の方法。
(6)組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を認識する抗体を含む検体よりTFPI2を検出するための試薬を含む、卵巣明細胞腺癌を検出するための試薬。
(7)さらに、卵巣癌の腫瘍マーカーを認識する抗体を含む検体より前記マーカーを検出するための試薬を含む、(6)に記載の試薬。
【発明の効果】
【0013】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法は、組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を検出する方法と、卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを組み合わせることを特徴としている。本発明の検出方法において用いられるTFPI2を検出する方法は、卵巣明細胞腺癌検体のうちCA125など従来の卵巣癌の腫瘍マーカーでは陰性判定となる検体を、高い確率で検出することができる。そのため本発明の検出方法は、CA125など従来の卵巣癌の腫瘍マーカー単独で卵巣明細胞腺癌検体を検出させた場合と比較し、陽性判定率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】GPIアンカー型TFPI2発現プラスミドを導入した細胞の(a)抗FLAG抗体または(b)陰性対照である抗BNC抗体によるFACS解析結果を示した図。(a)抗FLAG抗体のみ蛍光強度(Count)が右にシフトしていることから、細胞表面上にFLAGタグが付加したGPIアンカー型TFPI2が発現していることを示している。
【図2】分泌型TFPI2のELISA解析結果を示した図。縦軸は吸光度を、横軸はウェルあたりの各溶液の添加量を示す。
【図3】分泌型TFPI2のウエスタンブロット解析結果を示した図(写真)。
【図4】GPIアンカー型TFPI2を用いたCELISA解析による各マウス血清抗体価測定結果を示した図。縦軸は吸光度を示す。
【図5】分泌型TFPI2を用いたELISA解析による各マウス血清抗体価測定結果を示した図。縦軸は吸光度を示す。
【図6】分泌型TFPI2を用いた免疫沈降−ウエスタンブロット解析による各モノクローナル抗体解析結果を示した図(写真)。Aが分泌型TFPI2溶液、Bが分泌型対照タンパク質溶液を示す。
【図7】分泌型TFPI2を用いたサンドイッチELISA解析による各モノクローナル抗体組み合わせ評価結果を示した図。横軸は吸光度を示す。
【図8】各種卵巣癌細胞培養上清の免疫沈降産物をRuby染色した結果を示した図(写真)。AからJに示すバンドについてトリプシン消化および質量分析による同定を行なった。
【図9】TFPI2各標準試料を用いたときの検量線を示した図。回帰式はlog(Rate)=alog(Conc)3+blog(Conc)2+clog(Conc)+dで示され、表示している検量線の各定数は、a=−0.0102000、b=0.1542599、c=−0.0745000、d=0.7146414である。縦軸のRateは単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロンの生成量[nmol/(L・s)]を示す。
【図10】siRNA法によるTFPI2発現抑制癌細胞の培養上清解析結果を示した図。結果は、平均値(棒グラフ)±標準誤差(エラーバー)で示す。縦軸のRateは単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロンの生成量[nmol/(L・s)]を示す。
【図11】血清検体解析結果をBox Plotで示した図。(a)はTFPI2、(b)はCA125であり、縦軸は濃度を示す。Normal;健常人、Endo;子宮内膜症、OVA Clear;卵巣明細胞腺癌。
【図12】健常人および卵巣明細胞腺癌検体のROC曲線を示した図。(a)はTFPI2、(b)はCA125を示す。
【図13】卵巣明細胞腺癌検体のうちCA125陰性(CA125がカットオフ値未満)検体13例におけるTFPI2測定結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法は、検体より組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を検出する方法と、検体より卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを組み合わせて卵巣明細胞腺癌を検出することを含む、卵巣明細胞腺癌を検出する方法である。すなわち、本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法により、検体が採取された被検者における卵巣明細胞腺癌の発症の有無を検査できる。
【0017】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法において、TFPI2を検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法との組み合わせ方は、特に制限されない。
【0018】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法における、TFPI2を検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法との組み合わせ方の一例として、
(A)測定対象検体に対し、TFPI2を検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを、同時にまたは別個に行ない、卵巣明細胞腺癌を検出する方法、
(B)測定対象検体に対し、まずTFPI2を検出する方法を適用し、その結果陰性と判定された検体に対して、卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法で、卵巣明細胞腺癌を検出する方法、
(C)測定対象検体に対し、まず卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法を適用し、その結果陰性と判定された検体に対して、TFPI2を検出する方法で、卵巣明細胞腺癌を検出する方法、
があげられるが、(B)または(C)の方法が、検出の際用いる試薬に無駄が生じなくなる点で好ましい。
【0019】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法で検出する、卵巣癌の腫瘍マーカーは、従来知られているマーカーから適宜選択すればよく、一例として、癌抗原125(Cancer Antigen 125、CA125)、癌抗原546(CA546)、癌抗原72−4(CA72−4)、癌抗原130(CA130)、癌抗原602(CA602)、シアリルTn抗原(Sialyl Tn antigen、SLN)、癌関連ガラクトース転移酵素(Galactosyltransferase Associated with Tumor、GAT)、リゾホスファチジン酸(LysoPhosphatidic Acid、LPA)、ヒト精巣上体タンパク質4(Human Epididymis protein 4、HE4)が挙げられる。このうち、特に卵巣癌の腫瘍マーカーとして最も汎用されているCA125がTFPI2との相互補完ができる点で、本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法で使用する卵巣癌の腫瘍マーカーとして好ましい。また、本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法において検出される腫瘍マーカーは、1種のみであってもよく、2種またはそれ以上であってもよい。
【0020】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法における、TFPI2を検出する方法および卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法は特に制限されない。TFPI2を検出する方法としては、TFPI2を認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した方法が例示できる。卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法としては、例えば、従来用いられている卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する手法が利用でき、卵巣癌の腫瘍マーカーを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した方法が例示できる。以下、TFPI2を認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用してTFPI2を検出する方法およびそれに関連する事項について説明するが、それらの説明は、卵巣癌の腫瘍マーカーを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用して卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法にも準用できる。
【0021】
TFPI2を認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した、TFPI2を検出する方法の具体例として、
(a)標識したTFPI2およびTFPI2を認識する抗体を用い、標識したTFPI2および検体に含まれるTFPI2が、TFPI2を認識する抗体に競合的に結合することを利用した競合法、
(b)TFPI2を認識する抗体を固定化したチップに検体を接触させ、当該抗体とTFPI2との結合に依存したシグナルを検出する表面プラズモン共鳴を用いた方法、
(c)蛍光標識したTFPI2を認識する抗体を用い、当該抗体とTFPI2とが結合することで蛍光偏光度が上昇することを利用した蛍光偏光免疫測定法、
(d)エピトープの異なる2つのTFPI2を認識する抗体(うち1つは標識した抗体)を用い、当該2つの抗体とTFPI2との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法、
があげられるが、(d)の方法が簡便かつ汎用性が高く、また(d)の方法を利用した試薬および装置に関しては技術が十分確立されている点で好ましい。
【0022】
TFPI2を認識する抗体は、TFPI2タンパク質そのもの、TFPI2タンパク質の部分領域からなるオリゴペプチド、TFPI2タンパク質の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することで得ることができる。免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いる哺乳動物でもよいし、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。なお、免疫原として、TFPI2タンパク質そのもの、またはTFPI2タンパク質の部分領域からなるオリゴペプチドを用いると、前記タンパク質または前記オリゴペプチドを調製する過程でその構造が変化する可能性がある。そのため、得られたTFPI2を認識する抗体が、天然型のTFPI2に対して高い特異性や結合力を有さない可能性があり、結果として検体中に含まれるTFPI2濃度を正確に定量できなくなる可能性がある。一方、免疫原として、TFPI2タンパク質の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドを用いると、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより、免疫された動物の体内で天然型のTFPI2タンパク質の全長または部分領域が発現されるため、天然型のTFPI2に対し、高い特異性および結合力(すなわち高親和性)を有した抗体が得られる。そのため、本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法において、TFPI2の検出をTFPI2を認識する抗体を用いて行なう場合、前記抗体はTFPI2の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドを動物に免疫して得られた抗体であると好ましい。TFPI2を認識する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であるのが好ましい。
【0023】
TFPI2を認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地によりTFPI2を認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行ない、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりモノクローン化を行なうことで、TFPI2を認識するモノクローナル抗体(抗TFPI2モノクローナル抗体)を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0024】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法で用いる、TFPI2を認識する抗体、例えば、TFPI2を認識するモノクローナル抗体の選定は、宿主発現系に由来する、GPI(glycosylphosphatidylinositol)アンカー型TFPI2または分泌型TFPI2に対する親和性に基づいて行えばよい。なお、前記宿主としては特に限定はなく、当業者がタンパク質の発現に通常用いる、大腸菌や酵母などの微生物細胞、昆虫
細胞、動物細胞の中から適宜選択すればよいが、糖鎖付加といった翻訳後の修飾により、天然型のTFPI2に近い構造を有するタンパク質の発現が可能な、哺乳細胞を宿主として用いると好ましい。哺乳細胞の一例としては、従来用いられている、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK)293T細胞株、サル腎臓細胞COS7株、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などがあげられる。
【0025】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法で用いる、TFPI2を認識する抗体の精製は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で樹立した、TFPI2を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を培養後、その培養上清を回収し、必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿による抗体濃縮後、プロテインA、プロテインG、またはプロテインLなどを固定化した担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーにより、TFPI2を認識するモノクローナル抗体の精製が可能である。なお、TFPI2を認識する抗体を用いた抗原抗体反応をサンドイッチ法(前述した(d)の方法)で行なう際に用いる、標識した抗体は、前述した方法で精製したTFPI2を認識するモノクローナル抗体をペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼなどの酵素で標識すればよく、その標識も技術が十分確立された方法を用いて行なえばよい。
【0026】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出試薬は、TFPI2を認識する抗体を含んだTFPI2の検出試薬を含む、検体より卵巣明細胞腺癌を検出するための試薬である。本発明の卵巣明細胞腺癌検出試薬は、さらに、卵巣癌の腫瘍マーカーを認識する抗体を含んだ卵巣癌の腫瘍マーカーの検出試薬を含んでいてもよい。本発明の卵巣明細胞腺癌検出試薬に含まれる抗体は、抗体そのものであってもよく、標識されていてもよく、固定化されていてもよい。
【0027】
TFPI2の検出試薬のうち、前述した(d)のサンドイッチ法の一態様である2ステップサンドイッチ法に利用される試薬について、その具体例を詳細に説明する。
【0028】
まず、TFPI2の検出試薬は、以下の(I)から(III)に示す方法で作製することができる。
(I)まず、サンドイッチ法で用いる、TFPI2を認識する2つの抗体のうち、一方の抗体をイムノプレート、磁性粒子といったB/F(Bound/Free)分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合であってもよいし、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合であってもよい。
(II)担体に前記抗体を結合させた後、非特異的結合を避けるため、担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルク、市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行ない1次試薬とする。
(III)(I)の抗体とは異なるエピトープを認識する他方の抗体を標識し、得られた標識抗体を含む溶液を2次試薬として準備する。抗体に標識する物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出装置で検出可能な物質、ビオチンやアビジンなど、特異的に結合する相手が存在する物質が好ましい。また、2次試薬の溶液としては、抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris−HCl緩衝液などが好ましい。
【0029】
次に、前述した方法で得られたTFPI2の検出試薬を用いて、2ステップサンドイッチ法でTFPI2を検出するには、以下の(IV)から(VI)に示す方法で行なえばよい。
(IV)(II)で作製した1次試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(V)未反応物質をB/F分離により除去し、続いて(III)で作製した2次試薬と一
定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
(VI)未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度のTFPI2溶液を標準とし作成した検量線により、検体中のヒトTFPI2濃度を定量する。
【0030】
なお、1ステップサンドイッチ法の場合は、前述した2ステップサンドイッチ法と同様、担体に一方の抗体を結合させブロッキング処理を行なったものを作製し、前記抗体固定化担体に、標識した他方の抗体を含む緩衝液をさらに添加して試薬を作製すればよい。なお、前述した2ステップサンドイッチ用TFPI2検出試薬、および1ステップサンドイッチ法用TFPI2検出試薬は、必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
【0031】
上記のTFPI2の検出試薬に関する説明は、卵巣癌の腫瘍マーカーの検出試薬にも準用できる。卵巣癌の腫瘍マーカーの検出試薬は、上記のTFPI2の検出試薬と同様に作製されたものであってもよく、従来市販されているものであってもよい。
【0032】
検出試薬に含まれる抗体等の試薬成分の量は、検体量、検体の種類、試薬の種類、検出の手法等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、後述するように検体として2倍希釈した血清や血漿を100μL使用して、サンドイッチ法によりTFPI2の測定を行う場合、当該検体100μLを抗体と反応させる反応系当たり、担体へ結合させる抗体量が100ngから1000μgであってよく、標識抗体量が2ngから20μgであってよい。
【0033】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出試薬は、用手法での検出にも利用可能であり、自動免疫診断装置を用いた検出にも利用可能である。特に自動免疫診断装置を用いた検出は、検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく検出が可能で、かつ短時間に検体中のTFPI2および卵巣癌の腫瘍マーカーの濃度が定量可能であるため、好ましい。
【0034】
本発明の卵巣明細胞腺癌検出方法および検出試薬の対象検体は、全血、血球、血清、血漿などの血液成分、細胞または組織の抽出液、尿、精漿、脳脊髄液などがあげられるが、血液成分や尿などの体液を検体として用いると、卵巣明細胞腺癌を簡便かつ非侵襲的に検できるため好ましく、検体採取の容易性、他の検査項目への汎用性を考慮すると、血液成分を検体として用いるのが特に好ましい。検体の希釈倍率は無希釈から100倍希釈の中から使用する検体の種類や状態に応じて適宜選択すればよく、例えば、血清や血漿の場合は、2倍希釈した検体を100μL用いればよい。
【0035】
本発明において、卵巣明細胞腺癌に対するTFPI2の基準値(Cutoff値)は、腫瘍マーカーとの組み合わせの態様や臨床データ等の諸条件に応じて、適宜設定することができる。例えば、具体的には、血清を検体として用いた際のTFPI2の基準値(Cutoff値)を、29.85ng/mLに設定してもよい。なお、後述するように当該TFPI2の基準値の具体例は本願実施例で発現させたTFPI2を標準試料として作成された検量線に基づく値であるため、用いられる標準試料に応じて適宜変更される。TFPI2が基準値以上であれば、卵巣明細胞腺癌陽性と判定できる。
【0036】
本発明において、卵巣明細胞腺癌に対する卵巣癌の腫瘍マーカーの基準値(Cutoff値)としては、例えば、従来用いられている基準値を採用すればよい。また、卵巣癌の腫瘍マーカーの基準値(Cutoff値)は、TFPI2との組み合わせの態様等の諸条件に応じて、適宜変更してもよい。例えば、血清を検体として用いた際のCA125の基準値(Cutoff値)は、一般的に35U/mLに設定されている。例えば、具体的に
は、血清を検体として用いた際のCA125の基準値(Cutoff値)を、35.75U/mLに設定してもよい。CA125が基準値以上であれば、卵巣明細胞腺癌陽性と判定できる。
【0037】
TFPI2を検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを組み合わせて卵巣明細胞腺癌を検出した結果として卵巣明細胞腺癌が陰性または陽性であるかは、両方法の組み合わせの態様に応じて、TFPI2に基づく卵巣明細胞腺癌の判定結果と卵巣癌の腫瘍マーカーに基づく卵巣明細胞腺癌の判定結果に基づいて判定すればよい。
【0038】
上記(A)に記載したように、測定対象検体に対し、TFPI2を検出する方法と卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを、同時にまたは別個に行ない、卵巣明細胞腺癌を検出する場合には、例えば、TFPI2と卵巣癌の腫瘍マーカーの両方で卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合に卵巣明細胞腺癌陽性であると判定してもよく、TFPI2と卵巣癌の腫瘍マーカーの少なくとも片方で卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合に卵巣明細胞腺癌陽性であると判定してもよい。これらの内、TFPI2と卵巣癌の腫瘍マーカーの少なくとも片方で卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合に卵巣明細胞腺癌陽性であると判定するのが好ましい。
【0039】
上記(B)に記載したように、測定対象検体に対し、まずTFPI2を検出する方法を適用し、その結果陰性と判定された検体に対して、卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法で、卵巣明細胞腺癌を検出する場合には、例えば、TFPI2で卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合、およびTFPI2では卵巣明細胞腺癌陰性と判定されたが卵巣癌の腫瘍マーカーでは卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合に、卵巣明細胞腺癌陽性であると判定することができる。
【0040】
上記(C)に記載したように、測定対象検体に対し、まず卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法を適用し、その結果陰性と判定された検体に対して、TFPI2を検出する方法で、卵巣明細胞腺癌を検出する場合には、例えば、卵巣癌の腫瘍マーカーで卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合、および卵巣癌の腫瘍マーカーでは卵巣明細胞腺癌陰性と判定されたがTFPI2では卵巣明細胞腺癌陽性と判定された場合に、卵巣明細胞腺癌陽性であると判定することができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1 DNA免疫用ベクターの構築
DNA免疫にて液性免疫を効果的に誘導するためには、対象抗原タンパク質を膜結合型タンパク質として細胞表面上に局在させるのが好ましい。TFPI2はもともと分泌タンパク質であることから、TFPI2を細胞表面上に局在させるべく、TFPI2のC末端側にGPI(glycosylphosphatidylinositol)アンカーを付加したタンパク質(以下、GPIアンカー型TFPI2)を発現可能なプラスミドベクターを構築した。
【0043】
(1)下記(a)のプライマーを用いて、TFPI2 cDNAの開始コドンおよび終止コドンを除いた全長(GenBank No.NM_006528の148番目から780番目の領域)からなるポリヌクレオチドを、常法に従いRT−PCR法により増幅した。
(a)GPIアンカー型TFPI2発現プラスミド用プライマー
Forward:
5’−aagacgatgacgacaagcttgctcaggagccaaca−3’(配列番号1、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の148から162番目の配列に相当)
Reverse:
5’−ggcagcatcagtggtgaattcaaattgcttcttccg−3’(配列番号2、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の766から780番目の配列に相当)
【0044】
(2)Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカーのコード領域とFLAGタグのコード領域を含むプラスミドpFLAG1(SIGMA社製)のHindIII−EcoRI部位に、In−fusion(Clontech社製)を用いて、プロトコールに従い、(1)で得られたRT−PCR増幅産物を挿入し、N末端側にFLAGタグペプチドが、C末端側にGPIアンカーがそれぞれ付加されたGPIアンカー型TFPI2の発現プラスミドを構築した。
【0045】
(3)(2)で構築した発現プラスミドに挿入されているポリヌクレオチドにより発現されるTFPI2が、想定通り細胞表面に局在していることを確認するために、一過性発現細胞である293T細胞株を用い、下記の方法で検証した。
(3−1)(2)で構築したGPIアンカー型TFPI2発現プラスミドを常法に従い293T細胞株へ導入した。
(3−2)前記発現プラスミドが導入された293T細胞株を、5%CO2インキュベータにて、10%FBS(Fetal Bovine Serum)添加D−MEM培地(和光純薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養し、TFPI2を一過性発現させた。(3−3)(3−2)で得られた培養細胞に、FLAGタグと特異的に結合するSIGMA社製マウス抗FLAG M2抗体、または、陰性対照としてFLAGタグとは結合しないマウス抗BNC抗体を添加し、30分静置した。なお、BNCとは、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端側7アミノ酸からなるペプチドである(特開2009−240300号、特許文献4)。
(3−4)静置後、蛍光標識した抗マウスIgG抗体(BECKMAN COULTER社製)を添加し、さらに30分間静置後、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析を行なった。
【0046】
FACS解析の結果を図1に示す。解析の結果、陰性対照である抗BNC抗体を添加した場合(図1(b))は蛍光標識された細胞によるシグナルの増加、いわゆるシフトが認められなかった。一方、抗FLAG抗体を添加した場合(図1(a))は蛍光標識された細胞によるシフトが認められた。本結果より、発現したFLAGタグペプチドを付加したGPIアンカー型TFPI2が細胞表面上に局在していることが示された。
【0047】
実施例2 免疫および採血
マウスへの免疫は、実施例1(2)で構築したGPIアンカー型TFPI2発現プラスミドを、DNA量として40μg含むよう調製したPBS溶液100μLを、4匹のC57BL6マウスに免疫することで行なった。初回の免疫から3日後、5日後、7日後、9日後、12日後、14日後、21日後、28日後、35日後に追加免疫し、初回の免疫開始後42日目に採血し抗血清を採取し、それぞれ抗血清A1からA4とした。
【0048】
実施例3 GPIアンカー型TFPI2恒常発現細胞の作製
抗血清評価用として、GPIアンカー型TFPI2を恒常的に発現可能なチャイニーズハムスター卵巣由来CHO−K1細胞株を以下の方法で作製した。
(1)実施例1(2)で構築したTFPI2発現プラスミドを、常法に従いCHO−K1細胞株へ遺伝子導入後、5%CO2インキュベータにて、10%FBS添加Hams F
12培地(和光純薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養した。
(2)培養後、抗生物質Geneticin溶液(Invitrogen社製)を250μg/mLとなるよう添加し、さらに3週間培養した。
(3)抗FLAG抗体を用いてセルソーターによりGPIアンカー型TFPI2を恒常的に発現するCHO−K1細胞を獲得した。
【0049】
実施例4 分泌型TFPI2発現プラスミドの構築
実施例1(2)で構築したTFPI2発現プラスミドにおいて、挿入したTFPI2遺伝子と、その3’末端側に存在するGPIアンカーのコード領域との間に、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端側7アミノ酸からなるBNCペプチド(特許文献4)をコードするオリゴヌクレオチドをさらに挿入することで、N末端側にFLAGペプチド、C末端側にBNCペプチドがそれぞれ付加され、且つGPIアンカーを有さない分泌型TFPI2を発現可能なプラスミドを調製することができる。具体的調製方法を以下に示す。
【0050】
(1)下記(b)のプライマーを用いて、TFPI2 cDNAの開始コドンおよび終止コドンを除いた全長(GenBank No.NM_006528の148番目から780番目の領域)の3’末端側にBNCペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを付加したポリヌクレオチドを、常法に従いRT−PCR法により増幅した。
(b)分泌型TFPI2発現プラスミド用プライマー
Forward:
5’−aagacgatgacgacaagcttgctcaggagccaaca−3’(配列番号3、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の148から162番目の配列に相当)
Reverse:
5’−agcatcagtggtgaattctcattagtggcgacgcagaactttgcaaaattgcttcttccg−3’(配列番号4、3’末端側15塩基はGenBank No.NM_006528の766から780番目の配列に相当)
【0051】
(2)Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカー領域を含むプラスミドpFLAG1(SIGMA社製)のHindIII−EcoRI部位に、In−fusion(Clontech社製)を用いて、プロトコールに従い、(1)のRT−PCR増幅産物を挿入し、分泌型TFPI2発現プラスミドを構築した。
【0052】
(3)プラスミドpFLAG1に挿入したポリヌクレオチドにより発現される分泌型TFPI2において、N末端側にFLAGタグ、C末端側にBNCタグが付加されていることを確認するために、一過性発現細胞である293T細胞株を用い、下記の方法で検証した。
(3−1)実施例1記載と同様に、(2)で構築した分泌型TFPI2発現プラスミドを293T細胞株へ導入して分泌型TFPI2を一過性発現させ、培養72時間後の培養液を遠心分離し、上清を分泌型TFPI2溶液として回収した。
(3−2)分泌型TFPI2溶液を試料として用いて、(A)酵素免疫測定法(ELISA法)、および(B)ウエスタンブロット法を行った。
【0053】
(A)ELISA法
(A−1)ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体(ROCKLAND社製)を100ng/ウェルになるようカーボネート緩衝液(pH9.8)で希釈し、MaxiSorp96穴プレート(NUNC社製)に固相化した。
(A−2)4℃にて一晩反応後、TBS(Tris−Buffered Saline)
により3回洗浄し、3%ウシ血清アルブミン(BSA;Bovine Serum Albumin)を含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置した。
(A−3)TBSにより3回洗浄を行ない、分泌型TFPI2溶液、および、陰性対照として発現プラスミドを導入していない293T細胞株の培養上清を、50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
(A−4)0.5%Tween 20を含むTBS(TBS−T)により3回洗浄を行なった後、1%BSAを含むTBS−T(1%BSA/TBS−T)で1μg/mLになるよう希釈したマウス抗BNCモノクローナル抗体溶液を、50μL/ウェルで添加し、室温で1時間放置した。
(A−5)TBS−Tにより3回洗浄を行なった後、1%BSA/TBS−Tで10000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリンG−Fc抗体(SIGMA社製)溶液を50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
(A−6)TBS−Tにより4回洗浄を行ない、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加後、1mol/Lリン酸溶液で反応停止し、吸光測定プレートリーダーにて450nmの吸光値を測定した。
【0054】
(B)ウエスタンブロット法
(B−1)(3−1)で得られた分泌型TFPI2溶液、および、陰性対照として発現プラスミドを導入していない293T細胞株の培養上清を、常法に従いSDS−PAGEで展開し、PVDF膜(GEヘルスケア社製)に転写した。
(B−2)5%スキムミルクを含むTBS−T(ブロッキング溶液)を室温で2時間反応することでブロッキング後、ブロッキング溶液にアルカリフォスファターゼ標識抗BNC抗体を1μg/シートにて添加し、4℃で一晩反応させた。
(B−3)TBS−Tで洗浄後、Western Lightning CDP−Star(パーキンエルマー社製)を用い、得られた化学発光を感光フィルムにより検出した。
【0055】
ELISA法での解析結果を図2に示す。分泌型TFPI2溶液(分泌型TFPI2培養上清)では、陰性対照(293T培養上清)と比較して明瞭な添加量依存的なシグナルが認められ、分泌型TFPI2が培養上清中に産生されていることが示された。
【0056】
ウエスタンブロット法での解析結果を図3に示す。分泌型TFPI2溶液(分泌型TFPI2培養上清)では、分子量約35kDa付近に明瞭なバンドが検出され、本法でも分泌型TFPI2が培養上清中に産生されていることが示された。
【0057】
実施例5 マウス抗血清の評価
実施例2で採取したマウス抗血清を、実施例3で作製したGPIアンカー型TFPI2発現CHO−K1細胞を用いた細胞酵素免疫測定法(CELISA)、および実施例4で得られた分泌型TFPI2溶液を用いたELISAにより解析した。なお、特異性の検討の為、TFPI2とは異なるタンパク質をGPIアンカー型(N末端側にFLAGタグ、C末端側にGPIアンカーを有する)および分泌型(N末端側にFLAGタグ、C末端側にBNCタグを有する)でそれぞれ発現する発現プラスミドを、公知の遺伝子配列に基づいて上述したTFPI2発現プラスミドと同様に構築し、293T細胞株やCHO−K1細胞に導入して利用した。以下、当該TFPI2とは異なるタンパク質を、対照タンパク質ともいう。
【0058】
(1)CELISA解析
(1−1)96ウェルプレートに、実施例3で作製したGPIアンカー型TFPI2発現CHO−K1細胞、および陰性対照細胞として前記対照タンパク質をGPIアンカー型で
発現するCHO−K1細胞を、1ウェルあたり5×104細胞で添加し、10%FBS添加Hams F12培地(和光純薬社製)を用いて、5%CO2インキュベータにて、24時間・37℃で培養した。
(1−2)GPIアンカー型TFPI2発現細胞に対して200から16200倍希釈した抗血清(A1からA4)またはマウス抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を、陰性対照細胞に対して200倍希釈した抗血清(A1からA4)またはマウス抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を、それぞれ1次抗体として添加し、室温にて1時間反応させた。
(1−3)反応後プレートを洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリンG−Fc抗体(SIGMA社製)を2次抗体として添加し、室温にて1時間反応させた。
(1−4)反応後プレートを洗浄し、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加後、1mol/Lリン酸溶液で反応停止し、吸光測定プレートリーダーにて450nmの吸光値を測定した。
【0059】
(2)ELISA解析
陰性対照として前記対照タンパク質を分泌型で発現する293T細胞株の培養上清(以下、分泌型対照タンパク質溶液ともいう)を用いた他は、実施例4(A)と同様な方法で各マウス抗血清を評価した。
【0060】
CELISA解析の結果を図4に示す。陰性対照細胞の場合は、いずれの抗血清を用いてもシグナルがほとんど認められなかった。一方、TFPI2発現細胞の場合は、抗血清の希釈率に応じた明瞭なシグナルが認められた。本結果より実施例2で実施したDNA免疫により特異性の高い抗血清が得られたことが示された。
【0061】
ELISA解析の結果を図5に示す。CELISAの結果同様、抗血清(A1からA4)を用いた場合は、TFPI2に対してのみ明瞭なシグナルが認められ、本法でも実施例2で実施したDNA免疫により特異性の高い抗血清が得られたことが示された。
【0062】
図4および5の結果をまとめると、実施例2で得られたマウス抗血清は、GPIアンカー型TFPI2および分泌型TFPI2のいずれに対しても特異性の高い抗血清であることがわかる。
【0063】
実施例6 ハイブリドーマの樹立
TFPI2に対する抗体を産生可能なハイブリドーマを以下の方法により樹立した。
(1)実施例2でDNA免疫して得られたマウスから、鼠頚ならびに腋下リンパ節を採取し、リンパ細胞を回収した。
(2)回収したリンパ細胞とマウスミエローマ細胞株SP2/0とで、ポリエチレングリコール存在下で常法に従い細胞融合を実施した。
(3)10%FBS添加HAT(Sigma−Aldrich社製)/E−RDF培地(極東製薬社製)で約10日間培養することで抗体産生細胞ハイブリドーマを選択した。
(4)選択した抗体産生細胞ハイブリドーマの培養上清を、実施例5(1)に記載のCELISAおよび実施例4(A)に記載のELISAに供し、TFPI2に対する抗体を産生可能なハイブリドーマのスクリーニングを行った。
(5)スクリーニングにより選択されたウェル中の細胞を限界希釈法によりモノクローナル化を行ない、10%FBS添加HT(Sigma−Aldrich社製)/E−RDF培地から10%FBS添加E−RDF培地に馴化培養し、最終的に3種類のハイブリドーマを樹立した。
【0064】
実施例7 モノクローナル抗体調製と酵素標識
実施例6で樹立した3種類のハイブリドーマから、以下の方法により、TFPI2に対するモノクローナル抗体(抗TFPI2モノクローナル抗体)を調製し、酵素標識を行なった。
(1)実施例6で樹立したハイブリドーマ培養上清500mLを50%硫安で分画し、TBS(Tris−Buffered Saline;10mM Tris−HCl+150mM NaCl(pH7.4))により透析後、HiTrap Protein G HP(GEヘルスケア社製)を用いて、以下の方法によりモノクローナル抗体の精製を行なった。
(1−1)前記カラムをあらかじめPBS(Phosphate Buffer Saline;10mM リン酸+150mM NaCl(pH7.4))にて緩衝液置換した後、ハイブリドーマ培養上清を流速10mL/minで通過させた。
(1−2)カラム容量の5倍以上のPBSにより十分カラムを洗浄することで、未結合タンパク質の除去を行なった。この際、カラムを通過した緩衝液のOD280による吸光度が0.01以下になったことを確認することで、未結合タンパク質が残存していないと判断した。
(1−3)カラム洗浄後、溶出液(100mM グリシン(pH2.5))により結合抗体を溶出させた。なお、溶出抗体は速やかに1/10容量の1M Tris(pH8.0)を添加し、中性にするとともに、TBSによる速やかな透析を行なった。
(2)(1)で得られた精製モノクローナル抗体の一部を、抗体性能評価用にAlkaline Phosphatase Labeling Kit−NH2およびPeroxidase Labeling Kit−NH2(同仁化学社製)により酵素標識を行なった。
【0065】
実施例8 モノクローナル抗体の性能評価
実施例7で得られた3種類のモノクローナル抗体を以下の方法により性能評価した。
【0066】
(1)免疫沈降−ウエスタンブロット法(IP−WB法)
(1−1)抗マウスIgG抗体が固定化された磁性微粒子Dynabeads Sheep Anti−Mouse IgG(Invitrogen社製)に対し、実施例7で得られた精製モノクローナル抗体を添加後、未反応の抗体をTBS−Tにより洗浄することで、抗TFPI2抗体固定化磁性微粒子を調製した。
(1−2)FBS(Fetal Bovine Serum)を実施例4記載の分泌型TFPI2溶液、または実施例5(2)記載の分泌型対照タンパク質溶液に添加して擬似血清サンプルを作製し、上記磁性微粒子と室温にて2時間反応させた。反応後、磁石により磁性微粒子を集積し、TBS−Tにて洗浄後、磁性微粒子に吸着して回収されたタンパク質を実施例4(B)に記載のウェスタンブロット法により解析した。
【0067】
(2)ELISA法
(2−1)96穴イムノプレート(NUNC)に、各精製モノクローナル抗体またはFLAG抗体(陰性対照)をそれぞれ2μg/mLを含むTBS溶液を、50μL/ウェルにて添加し、4℃一晩放置することで抗体をプレートに結合させた。
(2−2)ブロッキング後、FBSを実施例4で得られた分泌型TFPI2溶液に添加して作製した擬似血清試料を添加した。
(2−3)室温で1時間反応後、TBS−Tにより4回洗浄し、3種類のペルオキシダーゼ標識コンジュゲート抗体を含む1%BSA/TBS−T溶液を100ng/ウェルにて添加した。
(2−4)室温で1時間放置後、TBS−Tにより6回洗浄し、TMB基質(KPL社製)を添加後、450nmの吸光値を測定することで、サンドイッチELISAが構築可能なモノクローナル抗体の組み合わせを評価した。
【0068】
IP−WB法の解析結果を図6に示す。Aが分泌型TFPI2溶液、Bが分泌型対照タンパク質溶液を示す。モノクローナル抗体を用いた場合、分泌型TFPI2溶液では分子量約35kDa付近に明瞭なバンドが検出されたのに対し、分泌型対照タンパク質溶液ではバンドが検出されておらず、実施例7で得られた3種類のモノクローナル抗体はいずれも分泌型TFPI2を特異的に認識していることを確認した。また、TF1−4LD1、TF1−6LD2、TF4−8LD3の順で親和性が高いことが示された。
【0069】
ELISA法の解析結果を図7に示す。TF1−4LD1固相抗体とTF1−6LD2検出抗体の組み合わせが特に高感度であり、サンドイッチELISAの構築に好ましく利用できることを見出した。
【0070】
実施例9 質量分析法によるモノクローナル抗体結合タンパク質の同定
実施例7で得られた3種類のモノクローナル抗体のうち、サンドイッチELISA用抗体として好ましいTF1−4LD1およびTF1−6LD2を用いた免疫沈降法により、これらの抗体と特異的に結合する各種卵巣癌細胞培養上清中のタンパク質を以下の方法により選別および同定した。なお、卵巣癌細胞として、漿液性卵巣癌細胞由来のOVSAHO、粘液性卵巣癌細胞由来のMCAS、明細胞性卵巣癌(卵巣明細胞腺癌)細胞由来のOVISEおよびOVMANA、の4種類を用いた。
(1)前記癌細胞を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地(ナカライテスク社製)にて100%コンフルエント状態で3日間培養した。
(2)培養上清を遠心後、得られた上清2mLに対し、実施例8に記載の方法で調製したTF1−4LD1固定化磁性微粒子またはTF1−6LD2固定化磁性微粒子を添加し、室温で1時間撹拌して反応させた。
(3)PBST−NP40(0.1% Tween 20と1% NP40を含むPBS)で2回洗浄後、界面活性剤を含まないPBSで3回洗浄した。
(4)磁性微粒子に吸着して回収されたタンパク質と、陰性対照として抗体固定化磁性微粒子のみを、SDS−PAGEで展開した。なおこれらのサンプルは、電気泳動上でIgG軽鎖とTFPI2を確実に分離させるため、還元処理せずにSDS−PAGEを行ない、分離したタンパク質をRuby染色(インビトロジェン社製)により染色した。
(5)染色された計10種類のバンド(TF1−4LD1:図8のAからGに記載のバンド、TF1−6LD2:図8のHからJに記載のバンド)を切り出し、ジチオスレイトールおよびヨードアセトアミドを用いて還元アルキル化後、トリプシンによるゲル内消化を実施した。
(6)トリプシン消化により生成したペプチド断片を、C18逆相カラムを用いた1DナノLCシステム(Ultimate3000、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により分離し、LTQオービトラップ質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)によりMS/MS測定を行なった。得られたデータはProtein Discoverer 1.3ソフトウェア(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて解析し、Swiss−Protデータベース上のアミノ酸配列に対して検索をかけてタンパク質を同定した。
【0071】
Ruby染色した結果を図8に、同定タンパク質を表1に示す。TF1−4LD1抗体およびTF1−6LD2抗体双方において、粘液性(MCAS)および漿液性(OVSAHO)卵巣癌細胞培養上清では30kDa付近に染色バンドが認められない一方、明細胞性卵巣癌(OVISE、OVMANA)培養上清では30kDa付近に明瞭な染色バンドが認められた(図8)。また、質量分析の結果、ペプチド断片はいずれもTFPI2の一部と同一であり、10種類の染色バンド(図8のAからJに記載のバンド)は全てTFPI2に由来することが示された(表1)。以上の結果から、前記2種類の抗体は明細胞性卵巣癌細胞から産生されたTFPI2タンパクを特異的に認識していること、およびTFPI2が明細胞性卵巣癌細胞で特異的に産生されていることが示された。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例10 TFPI2測定試薬の調製
(1)水不溶性フェライト担体に、抗TFPI2モノクローナル抗体(TF1−4LD1)を、100ng/担体になるように室温にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて40℃・4時間ブロッキングを行なうことで、抗TFPI2抗体固定化担体を調製した。
(2)抗TFPI2モノクローナル抗体(TF1−6LD2)に実施例7記載のアルカリフォスファターゼを標識することで、抗TFPI2標識抗体を調製した。
(3)磁力透過性の容器(容量1.2mL)に(1)で調製した12個の抗体固定化担体を入れた後、(2)で調製した標識抗体を0.5μg/mL含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)50μLを容器に添加し、凍結乾燥を実施することで、TFPI2測定試薬を作製した。なお、作製したTFPI2測定試薬は窒素充填下にて密閉封印シールを施し、測定まで4℃で保管した。
【0074】
実施例11 TFPI2測定試薬の評価
一定濃度のTFPI2を含む標準試料および検体を、実施例10で作製したTFPI2測定試薬を用いて測定することで前記試薬を評価した。
【0075】
評価用装置は全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−1800(東ソー社製:製造販売届出番号13B3X90002000002)を用いた。全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−1800による測定は、
(1)標準試料または検体50μLと界面活性剤を含む希釈液50μLを、実施例10で作製したTFPI2測定試薬を収容した容器に自動で分注し、
(2)37℃恒温下で10分間の抗原抗体反応を行ない、
(3)界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄を行ない、
(4)4−メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加する、
ことで行い、単位時間当たりのアルカリフォスファターゼによる4−メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(nmol/(L・s))とした。
【0076】
評価に用いた標準試料は、実施例4で得られた分泌型TFPI2溶液にFBSを添加することで調製しており、TFPI2を0ng/mL、6.2ng/mL、18.5ng/mL、55.6ng/mL、166.7ng/mL、500.0ng/mL、それぞれ含
んだ試料を調製した。なお、当該TFPI2濃度は暫定であり絶対濃度ではないが、当該標準試料による検量線を基に、全ての検体が濃度換算されることから、検体間の相対的な濃度比較は可能である。
【0077】
標準試料(TFPI2濃度0ng/mLおよび500ng/mL)、ウサギ血清ならびに明細胞性卵巣癌細胞(OVISE)培養上清の測定値を表2に示す。いずれの試料も変動係数が10%以下を示しており、実施例10で作製したTFPI2測定試薬にて得られる結果が信頼し得る結果であることが証明された。また、標準試料から作成した検量線を図9に示す。本検量線およびTFPI2濃度0ng/mLの標準試料の(平均値+2×標準偏差)より算出した最小検出感度は0.3ng/mLであった。
【0078】
【表2】

【0079】
実施例12 siRNA法によるTFPI2発現抑制癌細胞の培養上清解析
実施例10で作製したTFPI2測定試薬を用いて、siRNAによりTFPI2タンパク質発現を抑制した明細胞性卵巣癌細胞(OVMANA、OVSAYO)培養上清を測定した。本実施例では、TFPI2抑制用siRNAとして、siTFPI2−1(配列番号5)およびsiTFPI2−2(配列番号6)を対象にBLOCK−iT RNAi
Designerツールを用いて設計しInvitrogen社に委託して合成した2種類のsiRNAを用いた。また、陰性対照siControlとしてステルスRNAiネガティブコントロールLo(インビトロジェン社製)を用いた。
(1)各明細胞性卵巣癌細胞をsiRNA導入前日に6well plateで培養し、培養上清を調製した。
(2)Lipofectamine RNAi MAX Reagent(Invitrogen社製)により各試験区3連でsiRNAを導入した。
(3)導入24時間後に培地を交換し、交換48時間後の培養上清を回収した。遠心後、各上清を実施例10記載のTFPI2測定試薬で測定した。
【0080】
TFPI2測定結果を図10に示す。OVMANAおよびOVSAYO培養上清の双方において、陰性対照であるsiControl区と比較して、TFPI2抑制用siRNAi区ではいずれも有意にシグナルが低減したことから、実施例10で作製したTFPI2測定試薬は癌細胞から産生されるTFPI2を正確に測定可能なことが示された。
【0081】
実施例13 卵巣明細胞腺癌検体の測定
実施例10で作製したTFPI2測定試薬を用いて卵巣明細胞腺癌検体を測定した。なお、本実施例で使用した検体は、健常人検体(TSH(甲状腺刺激ホルモン、Thyroi Stimulating Hormone)低値検体)79例(内訳:SLR社購入検体30例、Trina社購入検体49例)、卵巣子宮内膜症検体30例(PROMEDDX社購入検体)および卵巣明細胞腺癌検体50例(内訳:SLR社購入検体30例、NOVA社購入検体20例)であり、いずれの検体もインフォームドコンセント承諾済と記載された欧米人血清検体である。
【0082】
全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−1800(東ソー社製)を評価用装置とし、前述した健常人検体79例、卵巣子宮内膜症検体30例、および卵巣明細胞腺癌検体50例を、実施例10で作製したTFPI2測定試薬およびCA125測定試薬(東ソー社製、承認番号20700AMZ00504000)を用いて測定した。
【0083】
TFPI2測定値およびCA125測定値のボックスプロット(Box Plot)を図11に示す。各群のTFPI2測定値およびCA125測定値における最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における濃度範囲を表3および4に示す。TFPI2およびCA125双方とも、卵巣明細胞腺癌検体群にて健常群と比較して有意差<0.0001をもって高値を示した。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
TFPI2およびCA125の健常人群および卵巣明細胞腺癌群間における受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を図12に、AUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)および有意差検定におけるP値を表5に示す。卵巣明細胞腺癌群における測定値と健常人群における測定値との有意差は、いずれもp<0.0001を示し、TFPI2およびCA125が卵巣明細胞腺癌の検出に有用であることが示された。また、AUCはTFPI2とCA125との間でほぼ同等の数値となった。
【0087】
【表5】

【0088】
次に、TFPI2の基準値(Cutoff値)を29.85ng/mL、CA125の基準値(Cutoff値)を35.75U/mLとそれぞれ設定した場合の感度および特異性を表6に示す。TFPI2はCA125と比較し、特異度ではやや劣るものの、感度では若干優れた結果となった。
【0089】
【表6】

【0090】
卵巣明細胞腺癌検体のうち、CA125が基準値(35.75U/mL)以下(陰性判定)の検体13例について、TFPI2を測定した結果を図13に示す。13例中11例(84.6%)でTFPI2の基準値である29.85ng/mLを超えており、陽性と判定することが可能となった。
【0091】
以上をまとめると、TFPI2は、従来から知られている卵巣癌の血清診断マーカーであるCA125とほぼ同等の感度および特異度を有し、かつ、これまでCA125で検出できなかった(陰性判定となった)卵巣明細胞腺癌検体も検出可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体より組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を検出する方法と、検体より卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法とを組み合わせて卵巣明細胞腺癌を検出することを含む、卵巣明細胞腺癌を検出する方法。
【請求項2】
卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法を用いて、検体より前記マーカーの検出を行ない、前記検出の結果、陰性と判定された検体に対し、組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を検出する方法を用いて、検体よりTFPI2の検出を行なうことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TFPI2を検出する方法がTFPI2を認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した方法であり、卵巣癌の腫瘍マーカーを検出する方法が前記マーカーを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用した方法である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
TFPI2を認識する抗体が、TFPI2の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドを動物に免疫して得られる抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
卵巣癌の腫瘍マーカーが、癌抗原125(CA125)である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
組織因子経路阻害因子2(TFPI2)を認識する抗体を含む検体よりTFPI2を検出するための試薬を含む、卵巣明細胞腺癌を検出するための試薬。
【請求項7】
さらに、卵巣癌の腫瘍マーカーを認識する抗体を含む検体より前記マーカーを検出するための試薬を含む、請求項6に記載の試薬。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61321(P2013−61321A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165787(P2012−165787)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)