説明

組織基質の保存法

本発明は、無細胞性組織基質の保存法を提供し、該基質においては、基質中の実質的に全ての水が、グリセロールなどの水置換物質に置換されている。また、本発明は、これらの方法によって調製される組成物、さらに、そのような調製物を用いた治療法も包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、脊椎動物対象に内移植または組織移植できる組織基質、さらに、特に、そのような組織基質が構造的もしくは機能的集積性を実質的に失わないような保存法に関する。
【背景技術】
【0002】
損傷を受けた組織および臓器の修復、または、欠陥のある組織および臓器の改善に対する組織基質の使用が増加している。この分野における重大な問題は、基質の不安定性および長期保存に際しては比較的精巧な装置を要することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明者らは、無細胞性組織基質(acellular tissue matrix)(ATM)について、構造的もしくは機能的集積性を実質的に消失することなく、周囲温度で長期間保存できることを発見した。ここで、無細胞性組織基質とは、水の大部分が1種もしくはそれ以上の水置換物質(water-replacing agents)で置換されているものをさす。さらに、発明者らは、これらの組織基質は、温度上昇およびγ−放射線の有害な影響に対する抵抗性が増強されていることを発見した。従って、本発明は、長期間保存できるATM、ならびに、1種もしくはそれ以上の水置換物質を含む組成物、そのような組成物の調製法および滅菌法、さらに、そのような組成物を用いた治療法を提供する。
【0004】
さらに特定すると、本発明は、単離された無細胞性組織基質(ATM)を含む組成物を特徴とし、ATM内には水置換剤(water-replacing reagent:WRR)を含み、該ATMの含水量は、完全に水和された状態のときに基質が含有している水の量の30%以下である。基質内の水の量は、ATMに実質的に損傷を与えることなく長期間周囲温度で該組成物を保存できるように、極力減らすことができる。WRRは、グリセロールを唯一の水置換物質(WRA)として含有することができるが、その他のWRAと共存させることもできる。WRRは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはポリヒドロキシル化合物などのような、1種もしくはそれ以上の水置換物質を含有することができる。ポリヒドロキシル化合物としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、ポリグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、またはポリビニルアルコール類(PVA)などが挙げられる。WRRは、例えば、グリセロールおよびエチレングリコールを含有し、このとき、グリセロールおよびエチレングリコールの割合は、重量、容量またはモル数によって等濃度などである。ATMは、すべての、または実質的にすべての生細胞が除去された真皮を含む場合がある。あるいは、ATMは、すべての、または実質的にすべての生細胞が除去された組織を含む場合があり、そのような組織とは、筋膜組織、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経接合組織、膀胱組織、尿管組織または腸管組織などである。ATMは、ヒト組織またはヒト以外のほ乳類組織(例えば、ブタ組織またはウシ組織など)から調製できる。ATMは、非粒子状または粒子状である。組成物には、さらに、1種もしくはそれ以上の補助物質を加えることができる。そのような補助物質としては、例えば、ラジカル捕捉剤、タンパク質加水分解物、組織加水分解物、または組織破壊生成物などが挙げられる。さらに、補助物質としては、トコフェロール類、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチン、プロテオグリカン類、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール類およびデンプン誘導体などが挙げられる。デンプン誘導体としては、例えば、モルトデキストリン類、ヒドロキシエチルデンプン(hydroxyethyl starch:HES)、または水素化デンプン加水分解物(HSH)などが挙げられ、また、糖アルコール類としては、例えば、アドニトール、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール(lactitol)、イソマルトース、マルチトール(maltitol)またはシクリトールなどが挙げられる。
【0005】
別の実施態様においては、本発明は、組織基質組成物の調製法を提供する。そのような方法は、完全に水和した、または部分的に水和したATMを調製することを含み、さらに、水置換剤の濃度を上昇させながらATM全体に連続的に接触させる処理を含む。そのような処理は、(i)完全に水和された状態のときのATMの含有水量の30%以下しか水を含まない処理済みATMを含む組成物をもたらし;さらに、(ii)実質的に不可逆的なATMの収縮をもたらさない。WRRおよびWRAは、上掲の任意のものを用いることができる。WRRが唯一のWRAとしてグリセロールを含有する場合には、ATMに接触させるグリセロールの初期濃度は約40%(v/v)であり、最終濃度は約85%(v/v)である。ATMは、上掲の任意のものを用いることができる。
【0006】
さらに、上述の方法は、上記の処理の後、ATM内の実質的にすべてのウイルスを不活化できるような温度および時間をかけて該組成物を加熱することを含む。温度は、例えば、45〜65℃であり、時間は10分以上である。上述の方法はさらに、加熱工程を含む、または含まずに、該組成物にγ、χまたはε−線を照射することを含む。例えば、ATMが6〜30kGyの放射線を吸収するように、該組成物に照射を行う。さらに、上述の方法は、加熱および/もしくは放射線照射の工程を含む、または含まずに、該組成物に紫外線を照射することを含む。
【0007】
そのような方法においては、水置換処理は、少なくとも2つの水溶液中でATMを連続的にインキュベートすることを含み、各溶液は、既にATMをインキュベートし終えた溶液よりも高濃度の水置換物質を含む。水置換物質は、唯一の水置換物質としてグリセロールを含有し、少なくとも2つの溶液とは、例えば、3つの溶液であり、このときのグリセロールの濃度は:(a)第一の溶液では約30%(v/v);(b)第二の溶液では約60%(v/v);さらに、第三の溶液では約85%(v/v)である。さらに、少なくとも2つの溶液とは、4つの溶液であり、このときのグリセロールの濃度は:(a)第一の溶液では約40%(v/v);(b)第二の溶液では約55%(v/v);第三の溶液では約70%(v/v)であり;さらに、(d)第四の溶液では約85%(v/v)である。
【0008】
別の方法としては、水置換処理は、水置換剤の濃度を連続的に上昇させながら基質に接触させることを含む。
【0009】
そのような方法においては、水置換剤は、上掲の補助物質のうちのひとつもしくはそれ以上を含有する場合がある。
【0010】
また、本発明は、治療法を包含する。そのような方法としては、(a)治療もしくは改善を要する臓器または組織を有する脊椎動物対象を確認し;さらに、(b)そのような臓器もしくは組織に組成物を配置することを含む。さらに、そのような方法は、組成物を配置する前に、組成物中の水置換物質の濃度が生理的に許容できるレベルに達するまでの間、生理的溶液中で組成物をすすぐことを含む。脊椎動物対象は、腹壁(abdominal wall)に欠損または損傷を生じていることがある。脊椎動物の臓器または組織としては、皮膚、骨、軟骨、関節半月、真皮、心筋、骨膜、動脈、静脈、胃、小腸、大腸、横隔膜、腱、靱帯、神経組織、横紋筋、平滑筋、膀胱、尿道、尿管、歯肉または筋膜(例えば、腹壁筋膜など)などが挙げられる。歯肉は、縮退している歯肉またはその近傍である。歯肉は、抜歯窩も含む。脊椎動物対象とは、ほ乳類、例えば、ヒトなどである。
【0011】
本明細書において使用している組成物の「配置」とは、組成物の装着、挿入、注入、流し込み、充填、重層、塗布および包み込みなどを意味するが、これらに限定されるわけではない。さらに、レシピエントの組織もしくは臓器の「上に」配置するとは、レシピエント組織もしくは臓器に接するように配置することを意味する。
【0012】
本明細書において使用している「機能発揮できるように連結する」とは、ひとつもしくはそれ以上の発現制御配列(すなわち、転写および翻訳調節エレメント)が目的のコード配列の発現を効率的に制御するように、遺伝子構築体内に組み込むことを意味する。転写および翻訳調節エレメントとしては、誘導性および非誘導性のプロモーター、エンハンサー、オペレーター、ならびに当業者において既知のその他のエレメントであって、遺伝子発現を稼働させる、もしくは調節するもの、などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。そのような調節エレメントとしては、サイトメガロウイルスhCMV前初期遺伝子、SV40アデノウイルスの初期または後期プロモーター、lacシステム、trpシステム、TACシステム、TRCシステム、ファージAの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3−ホスホグリセラートキナーゼのプロモーター、酸ホスファターゼのプロモーター、ならびに酵母α−交配因子のプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0013】
特に言及しない限りは、本明細書において使用しているすべての技術および科学用語は、本発明に関連する分野について通常の知識を有する当業者によって通常理解されている意味と同様の意味で用いている。矛盾が生じた場合には、定義を含む本明細書が優先する。好ましい方法および材料については以下に記載しているが、本明細書と同様もしくは等価の方法および材料も、本発明の試行および試験に使用できる。本明細書に記載しているすべての刊行物、特許出願、特許およびその他の参考文献は、参照としてそれらの全体を取り入れておく。本明細書に開示している材料、方法および実施態様は例示であり、制限するためのものではない。
【0014】
本発明のその他の特徴および利点(例えば、常温で長期保存できるATM組成物など)については、以下の記載、図面および請求項から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の多様な実施態様を記載する。
【0016】
無細胞性組織基質を保存するための方法および組成物
本発明に従う方法は、1種もしくはそれ以上の水置換物質(WRA)を用いて水を置換することにより、ATMから大部分の水を除去することを含む。これらのWRA含有ATMは、周囲温度で長期間保存できる。本明細書においては、水置換処理を経たATMを「水置換ATM」と称する場合がある。
【0017】
本明細書において使用しているように、「大部分の水」を除去したATMは、完全に水和しているATMと比較して、水を30%以下(例えば、28%以下、26%以下、24%以下、22%以下、20%以下、16%以下、12%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下または1%以下など)しか含まない。本明細書において使用している「完全に水和しているATM」とは、大気圧下でATMが含有可能な最大量の結合および非結合水を含有しているATMである。完全に水和している2つ(もしくはそれ以上)のATMにおいて含水量(非結合水および/もしくは結合水)を比較する場合には、任意の特定組織から調製されたATMの最大含水量は、ATMの温度によって異なることから、2つ(もしくはそれ以上)のATMについての測定は、同一温度で行うことが重要である。完全に水和しているATMの例としては、実施例1に記載している脱細胞形成(decellularization)処理の結果得られたもの、および、本明細書に記載しているように、凍結乾燥処理に続き、0.9%の塩化ナトリウム溶液中、室温で4時間かけて再水和させたATMなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ATM内の結合水は、ATM内に存在する水であり、その分子運動性(回転性および並進性)は、真にかさ高い水に比べて低下しているが、これは、水とATMとの間の分子相互作用(例えば、水素結合など)および/または、ATM内の水の運動性を制限するその他の現象(例えば、表面張力および幾何学的拘束(geometric restriction)など)のためである。ATM内の非結合水は、希釈水溶液(例えば、生体液など)中のかさ高い水と同等な分子運動特性を有する。本明細書において使用している「部分水和ATM」とは、大気圧下において、同一のATMが完全に水和されているときに含有している非結合水および/もしくは結合水の量の30%以上(例えば、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上)を含有しているATMであり、部分水和ATMおよび完全に水和されたATM中の含水量の測定は、同一温度で行う。
【0018】
本明細書において使用している「周囲温度」とは、−40〜50℃(例えば、−35〜50℃、−30〜45℃、−20〜40℃、−10〜35℃、0〜30℃、−40〜−30℃、−40〜−20℃、−40〜−10℃、−40〜0℃、−40〜10℃、−30〜−20℃、−30〜−10℃、−30〜0℃、−30〜10℃、−20℃〜−10℃、−20℃〜0℃、−20〜10℃、−10〜0℃、−10〜10℃、4〜10℃、4〜15℃、4〜25℃、4〜30℃、10〜15℃、10〜20℃、10〜25℃、10〜30℃、10〜35℃、15〜20℃、15〜25℃、15〜30℃、15〜23℃、20〜25℃、20〜30℃、20〜35℃、25〜30℃、または25〜35℃など)である。本明細書において使用している「長期間」とは、2日より長い期間(例えば、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、2週間以上、3週間以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、6ヶ月以上、7ヶ月以上、8ヶ月以上、9ヶ月以上、10ヶ月以上、11ヶ月以上、12ヶ月以上、15ヶ月以上、18ヶ月以上、22ヶ月以上、2年以上、2.5年以上、3年以上、3.5年以上、4年以上、5年以上、6年以上、またはそれ以上など)を意味する。
【0019】
本明細書において使用している、ATMに対する「実質的な損傷」とは、コラーゲンの損傷がATM中の25%以上に拡張することを意味する。従って、本明細書において使用しているように、ATMに「実質的な損傷」を起こさせない任意の処理(例えば、水の除去、および/または、水を除去した後の保存など)、物質または組成物とは、ATMに該処理を施した後、またはATMを該物質もしくは組成物に接触させた後のコラーゲンの損傷が、処理実施前または接触前と比較して、25%以上拡張しないような処理、物質または組成物である。「コラーゲン損傷」については、実施例8に記載している。
【0020】
ATM
本明細書において使用している「無細胞性組織基質(ATM)」とは、組織由来の構造物であり、すべての、もしくは実質的にすべての生細胞、および検出可能なすべての細胞構成成分を除去した任意の広汎なコラーゲン含有組織、ならびに/または、細胞を殺すことによって生じた残渣から調製される。本明細書において使用している「実質的にすべての生細胞」を欠くATMとは、ATMを調製した組織または臓器由来の生細胞の濃度が、ATM中の1%以下(例えば、0.1%以下、0.01%以下、0.001%以下、0.0001%以下、0.00001%以下または0.000001%以下など)であるようなATMである。
【0021】
本発明に従うATMは、上皮基底膜を欠いている、または実質的に欠いていることが好ましいが、これに限定されるわけではない。上皮基底膜は、上皮細胞の基底面に接している細胞外材料の薄層である。上皮細胞の薄層が凝集することによって上皮が形成される。従って、例えば、皮膚の上皮は表皮と称され、皮膚の上皮基底膜は、表皮と真皮との間に存在する。上皮基底膜は分化した細胞外基質であり、障壁機能および上皮様細胞への付着表面(attachment surface)を提供するが、下にある組織(例えば、真皮など)に対して、特徴的な何らかの構造的または生化学的役割を有するわけではない。上皮基底膜に特有な構成成分としては、例えば、ラミニン、コラーゲンVII型およびニドゲン(nidogen)などが挙げられる。上皮基底膜の特徴的な時間的および空間的組成により、例えば、真皮細胞外基質などから上皮基底膜が識別される。本発明に従うATM内に上皮基底膜が存在することは不都合であるが、これは、無細胞性基質の異種移植片レシピエントにおいて、抗体産生を誘起する、ならびに/または、形成前の抗体に結合する種特異的な多様な構成成分を上皮基底膜が含有していることが多いからである。さらに、上皮基底膜は、細胞および/もしくは可溶性因子(例えば、化学誘因物質など)の拡散、ならびに細胞浸潤に対する障壁として作用する。従って、ATM移植片内に上皮基底膜が存在することにより、レシピエント動物の体内における、無細胞性組織基質からの新しい組織の形成が著しく遅延する。本明細書において使用している上皮基底膜を「実質的に欠く」ATMとは、該無細胞性組織基質の起源である未処理組織と比較して、上皮基底膜の含有量が5%以下(例えば、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.25%以下、0.1%以下、0.01%以下、あるいは0.001%以下など)であるような無細胞性組織基質である。
【0022】
ATMが保持している生物学的機能としては、細胞認識および細胞結合、ならびに、細胞拡散、細胞増殖および細胞分化を支持する能力が挙げられる。そのような機能は、非変性コラーゲン様タンパク質(例えば、I型コラーゲンなど)および非コラーゲン様の多様な分子(例えば、インテグリン受容体などのような分子、グリコサミノグリカン類もしくはプロテオグリカン類などのような電荷密度の高い分子(例えば、ヒアルロナンなど)、または、その他のアドヘシン類に対するリガンドとして作用するタンパク質など)によってもたらされる。有用な無細胞性基質によって保持されている構造的機能としては、組織学的構造の維持、組織構成成分の三次元配置および物理的特徴(例えば、強度、可塑性および耐久性、規定の多孔性)の維持、ならびに巨大分子の保持が挙げられる。ATMの生物学的機能の影響は、例えば、ATMが細胞増殖を支持する能力などによって測定でき、該ATMを調製した天然の組織または臓器が有する能力の少なくとも50%(例えば、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、100%または100%以上など)である。
【0023】
組織から調製され、移植された基質材料は、周囲の宿主組織と同一である必要はないが、細胞の侵入または浸潤によって再構成される程度に単純でなければならない。侵入または浸潤をする細胞としては、関連宿主組織の分化細胞、間葉性幹細胞などの幹細胞、または前駆細胞などが挙げられる。再構成は、上述のATM構成成分および周囲の宿主組織からの信号(例えば、サイトカイン類、細胞外基質構成成分、生体力学的刺激および生体電気的刺激など)によって指図されている。骨髄および末梢循環中に間葉性幹細胞が存在していることは、既に文献に記載されており、多様な筋骨格組織を再生することが示されている(カプラン(Caplan)、(1991)J.Orthop.Res.,9:641-650;カプラン(Caplan)、(1994)Clin.Plast.Surg.,21:429-435;カプラン(Caplan)ら、Clin.Orthop.,342:254-269)。さらに、移植片は、再生処理中に、ある程度(閾値以上)の張力および生体力学的強度を供しなければならない。
【0024】
ATMは、基質によって上述の特性が保持されている限りは、コラーゲンを含有する任意の組織および筋骨格(例えば、真皮、筋膜、心膜、硬膜、臍帯、胎盤、心臓弁、靱帯、腱、血管組織(動脈および静脈(伏在静脈など))、神経接続組織、膀胱組織、尿管組織または腸管組織など)から調製できる。さらに、上述の同種移植片を配置される組織は、基本的には、侵入もしくは浸潤してきた細胞によって再構成され得る任意の組織を有する。適切な組織としては、骨などの骨格組織、軟骨、靱帯、筋膜および腱などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。上述の任意の同種移植片を配置できるその他の組織としては、皮膚、歯肉、硬膜、心筋、血管組織、神経組織、横紋筋、平滑筋、膀胱壁、尿管組織、腸および尿道組織などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0025】
さらに、一般的に、ATMは、ATM移植片のレシピエントと同種である、ひとつもしくはそれ以上の個体から調製されるが、このことは状況によっては必須ではない。従って、例えば、ATMをブタ組織から調製し、ヒト患者に埋め込むことができる。ATMのレシピエント、ならびに、ATM調製のための組織もしくは臓器のドナーとしては、ヒト、ヒト以外の霊長類(例えば、サル、ヒヒまたはチンパンジーなど)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、マウスなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ドナーとして特に関心が高い動物は、遺伝子操作を行って末端のガラクトース−α−1,3−ガラクトース部位を欠失させた動物である(例えば、ブタなど)。適切な動物に関する記載は、共出願中の米国特許出願番号第10/896,594号および米国特許第6,166,288号を参照。これらすべての開示を参照として本明細書中に取り入れておく。
【0026】
ATMを供する様式は、起源となる組織もしくは臓器、およびレシピエント組織もしくは臓器の性質、ならびにレシピエント組織もしくは臓器中の損傷または欠損の状態によって異なる。従って、例えば、心臓弁由来の基質は、弁全体として、小さな薄片もしくは細片として、任意の多様な形状および/もしくは大きさに裁断した小片として、あるいは、特定の形状として提供することができる。同様の考え方は、上掲の任意の組織および臓器から調製したATMにも適用できる。本発明において有用なATMは、レシピエント自身のコラーゲンに基づく組織から調製できることは自明である。
【0027】
ATMは、任意の多様な方法で調製できる。必要なことは、調製に要する工程を経ることにより、上述の生物学的および構造的特性を有する基質が得られることである。調製に特に有用な方法としては、米国特許第4,865,871号、第5,366,616号、第6,933,326号、および共出願中の米国特許出願第10/165,790号、および10/896,594号に記載されているものなどが挙げられ、これらのすべての開示を参照として本明細書中に取り入れておく。
【0028】
概説すると、一般的に、ATMの調製に必要な工程としては、ドナー(例えば、ヒトの死体または上掲の任意のほ乳類など)からの組織採取;生物学的および構造的機能を同様に保持するような条件下において、細胞除去と共に、または除去に先立って行う、組織の安定化、ならびに生化学的および構造的分解を回避するための化学処理などが挙げられる。死んだ、および/もしくは溶解した細胞の構成成分をすべて除去した後、基質に、本発明に従う水置換法(以下を参照)を施す。死んだ、および/もしくは溶解した細胞の構成成分は、任意の生体不適合性細胞除去剤と同様に炎症を引き起こす可能性がある。別の方法としては、基質の生物学的および構造的特徴を維持するのに必要な条件下において、ATMを低温保存剤で処理して低温保存し、場合によっては、凍結乾燥することができる。凍結乾燥後、機能を保持するような同様の条件下において、組織を細粉化または微粉化して粒子状ATMを調製することもできる。低温保存または凍結乾燥(さらに、随意に、細粉化もしくは微粉化)後、ATMを溶融または再水和させることができ、その後、本発明に従う水置換法(以下を参照)に供する。一般的に、全工程は、無菌、好ましくは滅菌条件下で行う。
【0029】
最初の安定化溶液は、浸透圧性、低酸素性、自己分解性およびタンパク質分解性の分解を抑制および阻止し、細菌の混入を防ぎ、さらに、平滑筋構成成分などを含む組織(例えば、血管など)で起こり得る物理的損傷を軽減する。一般的に、安定化溶液は、適切な緩衝液、1種もしくはそれ以上の抗酸化剤、1種もしくはそれ以上の膨張剤(oncotic agent)、1種もしくはそれ以上の抗生物質、1種もしくはそれ以上のプロテアーゼ阻害剤、ならびに、場合によっては平滑筋弛緩薬を含む。
【0030】
次に、組織を処理溶液に入れ、基底膜コンプレックス、または、コラーゲン基質の生物学的および構造的集積性を破壊することなく、構造基質から生細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞および繊維芽細胞など)を除去する。一般的に、処理溶液は、適切な緩衝液、塩、抗生物質、1種もしくはそれ以上の界面活性剤、1種もしくはそれ以上の架橋形成阻止剤、1種もしくはそれ以上のプロテアーゼ阻害剤、ならびに/または、1種もしくはそれ以上の酵素を含む。組織の処理は、(a)ある濃度の活性化剤を含む処理溶液を用い、(b)基質の構造的集積性が維持されている時間内に行わねばならない。
【0031】
組織から細胞質を除去した後、本発明に従う水置換法に供した(以下を参照)。
【0032】
別の方法においては、細胞質を除去後、組織を低温保存してから水置換を行うことができる。そのような場合には、低温保存溶液中で組織をインキュベートする。一般的に該溶液は、1種もしくはそれ以上の凍結防止剤を含み、凍結中に生じる構造基質に対する結晶化による損傷を最小限に抑える。組織を凍結乾燥する場合には、一般的に溶液は、1種もしくはそれ以上の乾燥保護構成成分を含んでおり、それによって乾燥中の構造的損傷を最小限に抑え、また、有機溶媒と水との組み合わせを含み、それによって凍結中に膨張もしくは収縮を起こさせないようにする。組織を凍結乾燥しない場合には、組織を滅菌容器に入れ、約−80℃の冷凍庫に入れることにより、または、滅菌液体窒素中に沈めることにより凍結させることができ、使用まで−160℃以下で保存する。サンプルは、例えば、滅菌非透過性容器(以下を参照)に入れた状態で約37℃の水槽中に浸す、または、周囲温度で組織を放置して室温に戻すなどして使用前に溶融することができる。
【0033】
組織を凍結し、凍結乾燥した場合には、低温保存液中でインキュベーションした後、組織を滅菌容器に入れるが、該容器は、水蒸気は透過させるが、細菌は透過させない(例えば、水蒸気透過性のパウチまたはガラスバイアルなど)。好ましいパウチの片面は、医療用等級の多孔性のTyvek(登録商標)膜(デュポン(DuPont)社(デラウェア州ウィルミントン))で作られている。この膜は、水蒸気を透過させ、細菌および埃を通さない。Tyvek膜は、不透性のポリエチレン薄板にヒートシールし、一方の側面をあけたままにしておくことにより、筒状のパウチにする。開いたままのパウチは、使用前に放射線照射(例えば、γ−線照射など)によって滅菌する。組織は、開いている側から滅菌袋内に無菌的に入れる。次に、開いている側を無菌的にヒートシールすることによってパウチを閉じる。以後、封入された組織は、続いて行う処理工程中の細菌混入から保護される。
【0034】
組織を入れた容器は、凍結による損傷を最小限に抑えるための特殊な凍結防止溶液に影響を及ぼさないような規定の速度で温度を下げる。適切な冷却プロトコールについては、米国特許第5,336,616号を参照。次に、減圧条件下において低温で組織を乾燥させ、各氷の結晶相から順次水蒸気を除去する。
【0035】
水蒸気透過性容器内でのサンプルの乾燥が完了した時点で、窒素、ヘリウムまたはアルゴンなどの乾燥不活性気体を用いて凍結乾燥装置の減圧状態を解除する。同様の気体環境を維持しながら、半透過性容器を不透性(すなわち、水蒸気および微生物を通さない)容器(例えば、パウチなど)の中に入れ、加熱および/もしくは加圧によってこれをさらに密封する。組織サンプルをガラスバイアル内で凍結乾燥した場合には、該バイアルは、適切な不活性栓を用いて減圧下密封し、乾燥装置の減圧状態は、バイアルを取り出す前に不活性気体を用いて解除する。いずれの場合においても、最終生成物は、不活性気体雰囲気下において密封する。
【0036】
凍結乾燥組織は、水置換処理(以下を参照)に供するまで冷凍条件下で保存する。
【0037】
水置換ATM(以下を参照)を再水和した後、組織適合性の生細胞をATMに戻すことにより、宿主によって再構築され得る、恒久的に受け入れられる移植片を産生することができる。一般的には、この操作は、ATMをほ乳類対象に導入する直前に行う。基質を凍結乾燥した場合には、この操作は、再水和後に行う。好ましい実施態様においては、組織適合性生細胞は、移植前に、標準的なイン・ビトロ(in vitro)細胞共培養技術により、または、移植後のイン・ビボ(in vivo)生着によって基質に加える。イン・ビボ(in vivo)生着は、レシピエント自身の細胞がATM内に移入することにより、または、別のドナー由来のレシピエント細胞もしくは組織適合性細胞から得た細胞をイン・サイチュー(in situ)でATMに混入または注入することによって行える。
【0038】
再構築に使用する細胞型は、ATMによって再構成される組織もしくは臓器の性質によって異なる。例えば、ATMを用いた全層皮膚の再構築に対して最初に要求されることは、皮膚細胞または角化細胞の再生である。例えば、予定しているレシピエント由来の細胞を用いてATMを再構築し、得られた組成物は、網目状の分層皮膚移植片の形でレシピエントに移植できる。別の方法としては、培養した自己細胞もしくは同種細胞をATMに加えることができる。そのような細胞は、例えば、標準的な組織培養条件下において増殖させた後にATMに加える。別の実施態様においては、組織培養内において、ATM中および/またはATM上で細胞を増殖させることができる。組織培養内のATM中および/またはATM上で増殖させる細胞は、適切なドナー(例えば、予定しているレシピエントまたは同種のドナーなど)から直接入手することができ、あるいは、最初に、ATM無しで組織培養によって増殖させることができる。
【0039】
心臓弁および血管の再構築に最も重要な細胞は内皮細胞であり、組織の内表面を覆っている。内皮細胞は培養でも拡張することができ、予定しているレシピエント、または臍帯動脈もしくは静脈由来である。
【0040】
基質を用いて生着させることができるその他の細胞としては、次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:繊維芽細胞、胚性幹細胞(ESC)、成熟もしくは胚性間葉性幹細胞(MSC)、前軟骨芽細胞(prochondroblasts)、軟骨芽細胞、軟骨細胞、前骨芽細胞(proosteoblasts)、骨芽細胞、破骨細胞、単球、前心筋芽細胞(pro-cardiomyoblasts)、血管周囲細胞、心筋芽細胞、心筋細胞、歯肉上皮細胞、または歯根膜幹細胞など。一般的には、ATMは、これらの細胞型の2つもしくはそれ以上の組み合わせ(例えば、 2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つまたは10など)を用いて生着させることができる。
【0041】
上記のすべての工程の実施に必要な反応試薬および方法は、当該分野において既知である。適切な反応試薬および方法については、例えば、米国特許第5,336,616号などに記載されている。
【0042】
粒子状ATMは、上述の任意の非粒子状ATMから調製することができ、このとき、上述の生物学的および構造的機能を保持する、特に、コラーゲン繊維に対する損傷(繊維末端の剪断など)を最小限に抑制した任意の方法を用いることができる。粒子状ATMを調製するための既知の多くの湿潤および乾燥処理では、コラーゲン繊維の構造的集積性はあまり保存されない。
【0043】
粒子状ATMを調製するための適切な方法のひとつは、米国特許第6,933,326号に記載されているものである。該処理については、凍結乾燥皮膚ATMに関して以下に概説しているが、当業者であれば、本明細書に挙げているその他任意の組織由来の凍結乾燥ATMに容易に適用できるはずである。
【0044】
無細胞性皮膚基質は、例えば、非断続性「連続」回転刃(cutting wheel)を取り付けたZimmer mesherなどを用いて細片にすることができる。得られた長い細片を約1〜2cmの長さに切る。ホモジナイザーおよび滅菌したホモジナイザープローブ(例えば、OMNIインターナショナル(OMNI international)社(バージニア州ワレントン)から市販されているLabTeck Macroホモジナイザーなど)を組み立て、ホモジナイザー装置に滅菌液体窒素を入れることにより、極低温(すなわち、約−196〜約160℃)に冷却した。ホモジナイザーが低温に達したら、液体窒素が入ったホモジナイザー装置にATMの細片を加える。次に、ホモジナイザーを稼働させ、ATMの細片を極低温断裂させる。極低温断裂工程に要する時間は、使用するホモジナイザー、ホモジナイズ槽の大きさ、ならびにホモジナイザーを稼働させる速度および時間によって異なり、当業者であれば容易に判断できる。別の方法としては、極低温断裂処理は、極低温に冷却した低温ミル(cryomill)内で実施できる。
極低温断裂した粒子状無細胞性組織基質は、さらに、粒子径によって選別するが、そのような操作は、ホモジナイズ後の生成物を滅菌液体窒素で洗浄し、極低温に冷却した一連の金属ふるいに通すことによって行う。一般的に、比較的目が大きいふるいを用いて所望しない大きな粒子を除去した後に、より目が小さいひとつもしくはそれ以上のふるいにかけることが効率的である。単離後、粒子を凍結乾燥することにより、操作中に吸着された水分を完全に除去できる。一般的に、最終生成物は、白色または淡白色の粉末であり、粒子径は、約1〜約900ミクロン、約30〜約750ミクロン、または約150〜300ミクロンである。得られた物質は、通常の生理食塩水または当該分野において既知のその他任意の適切な再水和剤中に懸濁させることによって容易に再水和される。当該分野において既知の任意の適切なキャリヤーに懸濁させることもできる(例えば、米国特許第5,284,655号などを参照。該特許を参照として本明細書中に取り入れておく)。高濃度(例えば、約600mg/mlなど)で懸濁した場合には、粒子状ATMは「パテ」を形成し、また、ある程度低濃度(例えば、約330mg/ml など)で懸濁した場合には、「ペースト」を形成する。そのようなパテまたはペーストは、例えば、穴、隙間、もしくは組織および臓器の任意の形状の空隙に、そのような穴、隙間、空隙を実質的に埋めるように容易に充填できる。
【0045】
ひとつの非常に適切な凍結乾燥ATMは、ライフセル・コーポレーション(LifeCell Corporation)(ニュージャージー州ブランチバーグ)によってヒトの真皮から調製されたものであり、小さな薄片としてAlloDerm(登録商標)という名称で市販されている。そのような薄片は、例えば、1cm×2cm、3cm×7cm、4cm×8cm、5cm×10cm、4cm×12cm、および6cm×12cmなどの大きさの長方形の薄片として市販されている。AlloDermの凍結および乾燥に使用されている凍結防止剤は、35%のモルトデキストリンおよび10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の溶液である。従って、最終乾燥生成物は、約60重量%のATMおよび約40重量%のモルトデキストリンを含む。ライフセル・コーポレーション(LifeCell Corporation)は、AlloDermと同様の割合でATMおよびモルトデキストリンを含有する、ブタ真皮由来の同様な生成物(XenoDerm(登録商標))も製造している。さらに、ライフセル・コーポレーション(LifeCell Corporation)は、AlloDermを極低温断裂することによって製造した粒子状無細胞性皮膚基質(Cymetra(登録商標))も市販している。Cymetraの粒子径は、質量測定から、約60〜約150ミクロンの範囲である。
【0046】
本発明に従う粒子状もしくは微粉末(粉末)状ATMの粒子は、長径が1.0mm以下である。これより大きいATMは、非粒子状無細胞性基質である。
【0047】
WRA
本明細書において使用している「水置換物質(WRA)」とは、水に代わる化合物であり、(a)ATMの構造的および機能の保持に対して同様の水素結合を提供し;(b)ATMに実質的な損傷を与える水の特性(例えば、反応性または触媒性の特性)を欠く、もしくは実質的に欠くものである。水のこのような特性を「実質的に欠く」物質または組成物とは、同一条件(温度および時間)下においた場合に、水によって引き起こされる損傷の30%以下しか損傷を起こさない物質または化合物である。本明細書において使用している「水置換剤(WRR)」とは、単一のWRAまたは2種もしくはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20またはそれ以上など)のWRAの混合物をさす。
【0048】
本発明に有用なWRAとしては、上述の特性を有する任意の多様な化合物が挙げられ、それらは当該分野において既知である。そのような化合物としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロリン酸ナトリウム、および任意の広汎なポリヒドロキシル化合物(ポリヒドロキシまたはポリオール化合物とも称される)などが挙げられ、ポリヒドロキシル化合物としては、多数の炭化水素類(例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類など)、糖アルコール類(以下の実施例を参照)、グリセロール、ポリグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール類などが挙げられる。これらのポリヒドロキシル化合物のエステル類もWRAとして有用である。本発明におけるWRAとして有用なその他のポリヒドロキシル化合物(およびそれらのエステル誘導体)は、米国特許第5,284,655号に列記されているものが挙げられ、該特許の開示を参照として本明細書中に取り入れておく。
【0049】
WRAは室温で液体または固体であり、通常は、水性溶媒(例えば、水、通常の生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、乳酸加リンゲル液、または標準的な組織培養培地など)で希釈して使用する。WRAは、単独または2種以上を組み合わせて(上記のWRRの定義を参照)使用できる。
【0050】
WRRを含有する溶液には、任意の添加剤を加え、任意の多様な機構による保存、および/または滅菌処理などの間にATMに起こりうる損傷を阻止する、または最小限にとどめることができる(実施例8参照)。添加剤としては、例えば、フリーラジカル捕捉剤、組織加水分解物および組織破壊生成物、ならびに再水和溶液の構成成分として以下に列記している任意の物質などが挙げられる。添加剤として有用な化合物としては、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール類(アドニトール、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルトース、マルチトールおよびシクリトールなど)、デンプン誘導体、ヒアルロン酸、およびコンドロイチン硫酸などが挙げられる。デンプン誘導体としては、例えば、モルトデキストリン類、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、または水素化デンプン加水分解物(HSH)などが挙げられる。
【0051】
ある種の化合物(例えば、糖アルコール類など)がWRAとして、および/または添加剤として機能することは、上の記載から自明である。
【0052】
水置換処理
ATMは、天然の無細胞性組織由来であれば調製の直後に、あるいは、細胞性組織由来であれば脱細胞形成性の直後に、水置換処理に供することができる。別の方法としては、ATMを低温保存(または凍結乾燥)して保存後に水置換処理に供する場合には、凍ったATMは溶融させ、凍結乾燥ATMは、標準的な方法で再水和させる。凍ったATMは、例えば、約37℃の水槽中に、ATMのはいった滅菌非透過性容器を浸すことにより、または、周囲温度で放置して凍ったATMを室温に戻すことによって溶融できる。
【0053】
凍結乾燥ATMについては、再水和中の浸透力および表面張力の影響を最小限に抑えることが重要である。再水和の目的は、細胞外支持基質の選択的保存を増大させるためである。適切な再水和は、例えば、最初に、相対湿度約100%の環境下、乾燥組織をインキュベートし、次に、適切な再水和溶液に浸すことによって行う。別の方法としては、事前のインキュベート無しに、高湿度環境下、乾燥組織を直接再水和溶液に浸す。再水和によってサンプルに浸透圧性損傷を与えてはならない。蒸気再水和では、理想的には、残留湿度レベルが少なくとも15%に達し、液体再水和では、組織の湿度レベルは20〜70%に達する。再水和させる組織に応じて、再水和溶液は、通常の生理食塩水、PBS、乳酸加リンゲル液、または標準的な細胞培養培地などを用いる。ATMに対し、内因性コラゲナーゼ、エラスターゼ、または事前に除去した細胞の残留自己溶解活性を作用させる場合には、再水和溶液に対する添加剤を調製し、プロテアーゼ阻害剤を加える。フリーラジカル活性が残留している場合には、フリーラジカルに対する防御剤を使用するが、そのような物質としては、抗酸化剤およびフリーラジカルによる損傷を防御する酵素剤などが挙げられる。抗生物質を加えて細菌の混入を阻害することもできる。プロテオグリカン類、デキストランおよび/もしくはアミノ酸の様式の膨張剤を加え、再水和中に基質に生じる膨張による損傷を防ぐこともできる。乾燥サンプルの再水和は、本過程に特に適しているが、これは、再水和溶液の構成成分が迅速かつ均一に分布できるからである。さらに、再水和溶液は、特別な構成成分、例えば、アルカリホスファターゼを阻害し、続いて生じる石灰化を阻止するためのジホスホナート類などを含む場合がある。再水和溶液には、再水和細胞外基質を移植した後の血管新生および宿主細胞浸潤を刺激するための物質を加えることもできる。
【0054】
水除去処理には、WRRの溶液濃度を徐々に上げながら、完全に水和された、または部分的に水和されたATMの全体をWRR溶液と接触させることを含む(上記を参照)。そのような処理では、WRRの濃度を上昇させた別異のWRR溶液に連続的にATMを移動させていく。そのような方法では、2つもしくはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれ以上など)のWRR溶液にATMを浸す。別の方法としては、ATMをひとつの容器に入れ、WRRの連続的増加濃度勾配液と接触させる。連続的濃度勾配を調製する方法は当該分野において既知である。任意の連続的濃度勾配法に基づく濃度上昇は、例えば、同調蠕動ポンプおよびミキサーなどを用いて容易に行える。
【0055】
粒子状ATMを水置換処理に供する場合には、別異の溶液に接触させる前後に粒子を沈澱させる必要がある。この操作は、当該分野において既知の任意の適切な方法、例えば、濾過または遠心分離などによって実施できる。別の方法としては、粒子状ATMを低濃度のWRR溶液中でインキュベートし、WRR溶液からATMを分取せずに、適量のWRRを溶液に加えていくことにより、順次WRR溶液の濃度を上昇させることができる。
【0056】
WRRの初期濃度、WRRの中間濃度、WRRの中間濃度溶液の数、WRRの最終濃度、各WRR濃度におけるインキュベーション時間、WRR濃度勾配を使用する場合のWRR濃度上昇の速度およびインキュベーションを行う温度などの変数は、例えば、目的のATMの起源組織の性質およびATMの容量などによって大きく異なる。例えば、腱は非常に密な組織であり、そこから調製されたATM内のWRR濃度が平衡に達するまでには長時間インキュベートする必要がある。一方、胎盤および静脈組織(例えば、臍帯静脈組織など)は、乾燥組織量が非常に少なく、WRR溶液中でのインキュベーション時間はかなり短い。一般的に、インキュベーションは、ATM内のWRR濃度が明らかな平衡レベルに達するまで行う必要がある。さらに、密な組織から調製したATMにおいては、ATM内で到達するWRRの最高濃度は、比較的密度が低い組織から調製したATM内のそれよりも低い。任意の特定の組織に対する実行可能なプロトコールを確立するための方法は、当業者であれば、専門知識の範囲内であり常套実験の範囲内である。適用可能な実験は本明細書に記載されているもの、または、それらの明らかな応用である。有用なプロトコールにおいては、(a)ATM中の水の量は、完全に水和したATMのそれの30%以下であり、かつ、周囲温度条件下で長時間ATMを貯蔵できるように十分に減らされており;(b)水置換処理においてATMに生じる収縮は、適切なレシピエント内に移植または埋め込む前に行う再水和のときに実質的に可逆性である。本明細書において使用しているATMの収縮とは、「実質的に可逆性」であり、水置換ATMを再水和した後の容量が、水置換処理の実施前のATMのそれの少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%、または100%など)になるような可逆性の収縮である。本来は、水置換処理において生じる収縮は少ないほうが好ましいが、発生する任意の収縮の可逆性は適切なパラメーターである。
【0057】
適切な水性溶媒(例えば、通常の生理食塩水など)にWRRとしてグリセロールのみを溶解して皮膚由来のATMを処理する場合には、グリセロールの好ましい初期濃度は20〜40%(v/v)(例えば、25%(v/v)、30%(v/v)、35%(v/v)、37%(v/v)または39%(v/v)など)である。そのようなATMに対して適切なグリセロールの最終濃度は、65〜98%(v/v)(例えば、68%(v/v)、70%(v/v)、72%(v/v)、74%(v/v)、76%(v/v)、78%(v/v)、80%(v/v)、82%(v/v)、84%(v/v)、86%(v/v)、88%(v/v)、90%(v/v)、92%(v/v)、94%(v/v)または96%(v/v)など)である。さらに、ひとつもしくはそれ以上の中間濃度のグリセロールにATMを浸すことができる。そのようなグリセロールの中間濃度は、例えば、45%(v/v)、50%(v/v)、55%(v/v)、60%(v/v)、65%(v/v)、70%(v/v)、75%(v/v)または80%(v/v)などである。低濃度のグリセロール(例えば、30%(v/v)など)中でのインキュベーション時間は20分〜2時間であり、高濃度(例えば、60%(v/v)以上など)中でのインキュベーション時間は1〜4時間である。本明細書において使用している「約」とは、WRAとして使用するグリセロールの濃度に関しては、提示しているパーセントとの差が3%以内であることを示している。従って、例えば、溶液中のグリセロール濃度が「約70%(v/v)」である場合には、グリセロールの含有量は、67%(v/v)〜73%(v/v)である。
【0058】
処理の最後には、得られた水置換ATMは、周囲温度で長時間保存できる(上述参照)。別の方法としては、低温、例えば、液体窒素中、または、−80℃、−50℃、−20℃、−10℃、0℃、4℃または10℃などで保存できる。
【0059】
さらに、水置換したATMを処理して総量を減らすことができる。例えば、適切な時間、ATMを高温(例えば、45〜65℃:例えば、48℃、50℃、53℃、55℃、56℃、58℃、60℃、62℃、63℃または64℃など)にさらす。さらす時間は、15分〜数日もしくは数週間であり、例えば、20分、30分、45分、1時間、2時間、5時間、8時間、12時間、18時間、1日、2日、3日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月あるいは、6ヶ月またはそれ以上などである。この処理により、ATM内の感染性ウイルスレベルが低下することが期待される。水置換されたATMは、生細菌および/もしくは菌類および/もしくは感染性ウイルスのレベルを下げる、または排除することを目的として、さらに、または別の手段として、γ−、χ−、e−線、ならびに/または紫外線(波長は10〜320nm、例えば、50〜320nm、100〜320nm、150〜320nm、180〜320nm、または200〜300nmなど)にさらす。ATMに照射した放射線量よりも重要なことは、ATMに吸収された線量である。一般的に、層が厚いATMに対しては、吸収線量と照射線量は近いが、薄いATMに対しては、吸収線量よりも照射線量の方が高い。さらに、特定の放射線量を、低照射量で長時間(例えば、2〜12時間など)照射した場合には、高照射量で短時間(例えば、2秒〜30分など)照射した場合よりも吸収が良い。当業者であれば、特定のATMに対し、吸収線量が照射線量よりも顕著に低いか否かを試験する方法、ならびに、選択した照射線量におけるそのような差異を説明する方法はわかっているはずである。 γ−、χ−、e−線の適切な吸収線量は、6〜40kGy、たとえば、8〜38kGy、10〜36kGy、12〜34kGyである。従って、γ−、χ−、e−線の照射線量は、例えば、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33または34kGyである。さらに、水置換したATMの放射線照射は、2回または3回行うことができる。従って、ATMの起源となる組織に対しては、(a)任意の処理工程の前、または(b)任意の処理工程の進行中に、上記の任意の線量の放射線を照射することができる。
【0060】
水置換したATMに対して高温および放射線照射の両方の処理を行う場合には、2つの処理は、同時にまたは順に(いずれが先でも可)行うことができる。処理を順に行う場合には、2つ目の処理は最初の処理の終了直後に行うこともできるが、処理の間に時間を取ることもできる。この処理間の時間は、短くても(例えば、約1〜約60分、または約1〜約11時間など)、長くても(例えば、約12〜約23時間、約1〜約6日、約1〜約4週間、または約1〜約6ヶ月など)よい。
【0061】
本明細書において使用している、ATM内(特に、水置換したATM内)の「実質的にすべての」微生物(例えば、細菌、酵母を含む菌類、および/またはウイルスなど)を不活化する、または殺すための処理とは、処理実施前のATM中の微生物レベルと比較して、微生物レベルを少なくとも10分の1(例えば、少なくとも10-2倍、10-3倍、10-4倍、10-5倍、10-6倍、10-7倍、10-8倍、10-9倍、または10-10倍など)にする処理である。
一般的には、水置換したATMは再水和してから移植または埋め込む。別の方法としては、再水和することなく、移植または埋め込むことができるが、この場合には、再水和はイン・ビボ(in vivo)で行われる。再水和は、はじめに、過量のWRR溶液を洗い流し、次に、凍結乾燥ATMの再水和に使用する上述の任意の再水和溶液中に、水置換したATMを浸す。水置換ATMは、ATMが完全に水和される、または、該ATMを調製したもとの組織が含有していた水の量と実質的に同等な量の水をATMが取り込むのに十分な時間をかけてインキュベートする。また、水置換処理によってATMが収縮を起こしている場合には、水置換処理実施前と実質的に同容量に戻るように十分な時間をかけて、再水和溶液中でATMをインキュベートする。一般的に、再水和溶液中でのインキュベーション時間は、約2分〜約1時間(例えば、約5分〜約45分、約10分〜約30分など)である。再水和溶液は、所望する回数だけ、新しい溶液と交換することもできる。 このことは、水置換処理において使用している水置換剤のうちのひとつもしくはそれ以上が生体不適応性または毒性である場合に望ましい。一般的に、インキュベーション温度は、周囲温度(例えば、室温など)、または約15〜約40℃(例えば、約20〜約35℃など)であり、ATMおよび再水和溶液が入った容器は、所望する場合には、穏やかに振とうさせる。
【0062】
一般的に、水置換ATMは、適切な病院または治療施設に輸送してから再水和させるが、再水和は、移植または埋め込みの直前に医療従事者が行う。しかしながら、病院または治療施設に輸送する前に再水和させることもでき、この場合には、ATMは冷蔵状態で輸送する。輸送は、標準的なキャリヤーを用い、通常温度および輸送時間に関しては標準的な条件下で行う。
【0063】
治療法
任意の特定例において使用するATMの形状は、適用する組織または臓器によって異なる。
【0064】
ATMの薄片(場合によっては適切な大きさに切断)は、例えば、(a)損傷している、もしくは欠損を含む組織または臓器を包み込む;(b)損傷している、もしくは欠損を有する組織または臓器の表面に置く;(c)組織または臓器の空洞、空隙もしくは空間に、巻いて挿入する。そのような空洞、空隙または空間とは、例えば、(i)外傷によるもの;(ii)病的組織(例えば、梗塞を起こした心筋組織など)の除去によるもの;または(iii)悪性もしくは非悪性腫瘍の除去によるもの、などが挙げられる。ATMは、発達不十分な組織もしくは臓器の発達促進または改善に、あるいは、形状を損ねている組織もしくは臓器の構成促進または変更に使用できる。任意の大きさのひとつもしくはそれ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、16、18、20、25、30、またはそれ以上など)の細片を用いることができる。移植片は、例えば、縫合糸、ステープル、鋲、または当該分野において既知の組織用接着剤もしくはシーラントなどを用いて保持できる。別の方法としては、例えば、欠損部または空洞に隙間なく詰め込んだ場合には、固定用デバイスを必要としない。粒子状ATMは、薬剤学的に許容される滅菌キャリヤー(例えば、通常の生理食塩水など)中に懸濁し、皮下注射用針を用いて目的の部位に注入する。別の方法としては、乾燥粉末状基質または懸濁液を目的の部位上または部位内にスプレーする。腱濁液は、特定の部位上または部位内に流し込むこともできる。さらに、粒子状ATMを比較的少量の液体キャリヤーと混合することにより、「パテ」を調製する。そのようなパテ、または乾燥粒子状ATMは、上述の臓器もしくは組織の任意の空隙、空洞または空間に重層する、充填するまたは詰め込むことができる。さらに、非粒子状ATMは、粒子状ATMと組み合わせて使用できる。例えば、骨の空洞には上述のパテを充填し、その上をATMの薄片で覆う。
【0065】
ある組織もしくは臓器、ならびに/または、隣接する組織もしくは臓器を修復または再生することを目的として、ATMを使用できることは自明である。従って、例えば、ATMの細片で長骨の重要な空隙欠損部位を包み、空隙欠損部位周辺に骨膜等価物を再生させることができ、次に、該骨膜等価物は、骨の空隙内の骨の産生を刺激する。同様に、抜歯窩にATMを埋め込むことにより、損傷を受けた歯肉組織が修復および/もしくは置換され、「新規な」歯肉組織が、抜歯などによって消失した窩の基底部の骨の修復および/もしくは再生を補佐する。歯肉組織(歯肉)に関しては、適切な歯肉組織内に粒子状ATMの懸濁液を注入する、または粒子状ATMのパテを詰めることにより、縮退してきた歯肉を置換させることもできる。また、歯肉組織の修復については、このような処置により、歯周病および/もしくは抜歯によって消失した骨の再生が起こる。上述した歯肉の欠損の治療に使用する組成物は、本明細書に列記している構成成分以外のもの(例えば、脱塩骨粉、増殖因子または幹細胞など)をひとつもしくはそれ以上含む。
【0066】
非粒子状ATMおよび粒子状ATMは、その他の骨格もしくは身体的支持構成成分と組み合わせて使用できる。例えば、1枚もしくはそれ以上のATMの薄片は、ATM以外の生体材料から調製された1枚もしくはそれ以上の薄片と重ね合わせることができる。そのようなATM以外の生体材料としては、ライフネット(LifeNet)(バージニア州バージニアビーチ)などのような組織バンクから供給されている放射線照射された軟骨、または、オステオテック社(Osteotech Corporation)(ニュージャージー州エデンタウン)などから市販されている骨のウェッジ(wedges)およびシェイプ(shapes)などが挙げられる。別の方法としては、そのようなATM以外の薄片は、ポリグリコール酸またはヒドロゲル類などの合成材料から調製でき、そのような材料は、バイオキュア(Biocure)社(ジョージア州アトランタ)などから市販されている。その他の適切な骨格または身体的支持材料については、米国特許第5,885,829号に開示されいてる。そのようなさらなる骨格および身体的支持構成成分は、利用しやすい任意の大きさまたは形状、例えば、薄片、立方体、長方形、円盤、球もしくは粒子(粒子状ATMに関する上述の記載に準ずる)などにできる。
【0067】
粒子状ATMと混合できる、または、非粒子状ATMに注入できる活性物質としては、骨粉、脱塩骨粉および上に記載している任意の物質などが挙げられる。
【0068】
基質に組み込むことができる、ATM移植片の移植部位に投与できる、または全身に投与できる因子としては、任意の広汎な細胞増殖因子、血管形成因子、分化因子、サイトカイン類、ホルモン類、ならびに当該分野において既知のケモカイン類などが挙げられる。2つもしくはそれ以上の因子の任意の組み合わせを以下に記載している任意の方法で対象に投与できる。適切な因子の例としては、繊維芽細胞増殖因子(FGF)(例えば、FGF1-10など)、表皮増殖因子、角化細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)(例えば、VEGF-A、B、C、DおよびEなど)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インターフェロン類(IFN)(例えば、IFN-α、βまたはγなど)、形質転換成長因子(TGF)(例えば、TGF-αまたはβなど)、腫瘍壊死因子−α、インターロイキン(IL)(例えば、IL-1、IL-18など)、Osterix、Hedgehogs(例えば、音性またはデザート性(desert))、SOX9、骨形成性タンパク質、副甲状腺ホルモン、カルシトニンプロスタグランジン類、またはアスコルビン酸などが挙げられる。
【0069】
タンパク質である因子は、次のものを投与することによってレシピエントに送達できる:(a)タンパク質である上記の因子のうちの任意のひとつもしくはそれ以上をコードしている核酸配列を含む発現ベクター(例えば、プラスミドまたはウイルス性ベクターなど);または、(b)そのような発現ベクターを用いて安定的にもしくは一時的にトランスフェクトした、または形質転換した細胞。発現ベクターにおいては、コード配列は、ひとつもしくはそれ以上の転写制御エレメント(TRE)に機能発揮できるように連結されている。好ましくは、トランスフェクションまたは形質導入に使用した細胞は、レシピエント由来であるか、またはレシピエントの組織に適合する。しかしながら、因子に接触させる時間を短くすることも可能であることから、組織非適合生細胞も使用できる。細胞をATM(粒子状または非粒子状)に組み込んだ後に、基質を対象に配置する。別の方法としては、既に対象に配置したATM内に、ATMを配置した近傍に、または全身的に細胞を注射することができる。
【0070】
一般的には、ATMならびに/またはその他の任意の物質もしくは上述の因子の投与は、単回または複数回(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、15回、20回、25回、30回、35回、40回、50回、60回、80回、90回、100回または必要な回数)行う。複数回の場合には、投与は、当業者であれば容易に判断できる間隔をあけて行う。多様な物質および因子の投与量は、対象の種、年齢、体重、体格、性別によって大きく異なり、これらも当業者であれば容易に判断できる。
【0071】
基質を使用できる条件は複数ある。従って、例えば、上述の任意の損傷または欠損を有する骨および/もしくは軟骨の修復に使用できる。粒子状および非粒子状のATMを任意の形状で、また、上掲の任意の方法によって使用できる。そのような治療法を適用できる骨としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:長骨(例えば、脛骨、大腿骨、上腕骨、橈骨、尺骨または腓骨など)、手および足の骨(例えば、踵骨または舟状骨など)、頭および首の骨(例えば、側頭骨、頭頂骨、前頭骨、上顎骨、下顎骨など)、または脊柱など。上述したように、骨の危機的な空隙欠損は、ATMを用いて治療できる。そのような危機的な空隙欠損においては、例えば、粒子状ATMのパテまたは固めたATMの薄片を用いて空隙を充填し、さらに、ATMの薄片で包む。別の方法としては、ATMの薄片で空隙を包み、他の材料(以下を参照)を充填する。これらすべての骨および/または軟骨の治療においては、追加の材料を用いて修復処理をさらに促進できる。例えば、海綿状骨質および/もしくは硫酸カルシウムペレットで空隙を充填し、粒子状ATMは、脱塩骨粉と混合して骨の損傷部位または骨の欠損部位に送達することができる。さらに、ATMは、レシピエント由来の骨髄および/もしくは骨小片と混合することができる。
【0072】
ATMは、腹壁筋膜または骨盤底筋膜などの筋膜の修復に用いられる。そのような方法においては、一般的に、周囲の筋膜もしくは宿主組織、または、安定な靱帯もしくは腱(例えば、クーパーの靱帯など)にATMを縫合することなどにより、ATMの細片を腹部または骨盤底に付着させる。
【0073】
ATMによる再構成修復のもう一つの対象は、梗塞を起こした心筋である。従来の見解とは対照的に、すべての心筋細胞が増殖能および再生能を消失しているわけではないことがわかっている(例えば、ベルトラミ(Beltrami)ら、(2001)New.Engl.J.Med.,344:1750-1757;カスゥラ(Kajstura)ら、(1998)Proc. Natl.Acad.Sci.USA,95:8801-8805などを参照)。さらに、骨髄および血液中などに存在し、また、血管に関連する周皮細胞として存在している幹細胞は、心筋細胞に分化できる。梗塞を起こしている組織を除去し、適切な大きさに切断したATMの薄片に置き換える、または、梗塞を起こしている組織に粒子状ATMの懸濁液を注入する、という処置を行うことができる。先天性の心臓形成不全、またはその他の構造的欠損は、例えば、組織を切開し、切開によってできた空隙を広げ、所望する大きさに切断したATMの薄片を挿入する、または、心外膜および心内膜の表面上にATMの薄片を置き、それらの間に粒子状ATMを入れる、などの処置によって修復できる。ある条件下においは、切開によって空隙を作出するだけでは不十分であり、いくらかの組織を切除する必要があることは自明である。一般的に、当業者であれば、ATMを用い、その他の型の筋肉(例えば、尿管の筋肉もしくは膀胱の筋肉または骨格筋(二頭筋、胸筋または広背筋など)など)の損傷または欠損を同様に修復できることは理解できるはずである。
【0074】
さらに、ATMの薄片を用いることにより、損傷を受けた、もしくは除去された腸管組織(食道、胃、ならびに小腸および大腸を含む)を修復または置換できる。この場合、ATMの薄片を用いて腸管の穿孔または穴を修復できる。別の方法としては、ATMの薄片を巻いて円筒状にし、これを用いて腸管内の空隙(例えば、腸の腫瘍または病変部分を手術によって除去したことによって生じた空隙など)を埋める。そのような方法を用いることにより、横隔膜ヘルニアなどを治療できる。薄片状のATMを用いることにより、このような状態における横隔膜そのもの、ならびに、修復もしくは置換、または組織の付加を必要とするその他の状態の横隔膜も修復できることは明らかである。
【0075】
以下の実施例は例示のためのものであり、本発明を制限するためのものではない。
【実施例】
【0076】
実施例1:無細胞性皮膚基質(ADM)
以下の実施例2〜6に記載している実験において、ADMは、ライフセル(LifeCell)が特許を有する方法に従って調製した。ADMの調製法は本実施例中に概説しており、個々の実験に使用したADMに関する詳細な記載は、対応する実施例中に記している。以下に記載しているのは、ヒトの皮膚からのADM調製に使用した方法である。特に言及していない限りは、ブタの皮膚からのADMの調製に用いた方法と基本的に同じ方法で行った。
【0077】
ヒトドナーの皮膚は、アメリカ合衆国の多様な組織バンクおよび全国の病院から入手したが、それらの皮膚サンプルは、ドナーの家族からの承認を得た後、死亡したドナーから採取した。採取した皮膚は、抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)を添加したRPMI1640組織培養培地に入れ、該培地に入れた状態で湿潤氷に載せ、ライフセル(LifeCell)(ニュージャージー州ブランチバーグ)の施設に輸送した。ライフセル(LifeCell)に到着するとすぐに皮膚組織容器の温度を測定し、温度が10℃以上であった場合には、皮膚組織を廃棄した。無菌条件下でRPMI1640培地を交換し、皮膚サンプルについて、多様な病原体(梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum):RPRおよびVDRL法によって試験した)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)IおよびII、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ならびにHTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)IおよびII)について血清学的試験を実施するまで4℃で保存した。何らかの病原体が検出された場合には、皮膚を廃棄した。そうでない場合は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にモルトデキストリン(M180)を35重量%添加した凍結前用水溶液に移した。室温(20〜25℃)で2〜4時間放置した後、皮膚が入った溶液を−80℃で凍結させ、以下の処理に供するまで、−80℃の冷凍庫内で保存した。
【0078】
凍結前用溶液で凍結させた皮膚は、37℃の水浴中、氷が見えなくなるまで溶融した。凍結前用溶液を捨て、皮膚を次の処理工程に供した:(i)脱表皮(de-epidermization);(ii)脱細胞形成(de-cellularization);(iii)洗浄。
【0079】
(i)脱表皮:皮膚の表皮は、脱表皮溶液(1MのNaCl、0.5%(w/v)のTriton X100、10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA))中、室温で8〜32時間緩やかに振とうしながら組織サンプルをインキュベートすることによって除去した。ブタの皮膚を処理する場合には、このインキュベーションは、室温で30〜60時間行った。表皮層は真皮から物理的に除去した。表皮を廃棄し、真皮をさらなる処理に供した。
【0080】
(ii)脱細胞形成:細胞を殺し、細胞構成成分および残渣を除去することを目的として、脱細胞形成溶液(2%(w/v)のデオキシコール酸ナトリウム、10mMのEDTA、10mMのHEPES緩衝液(pH7.8-8.2))を用いて真皮を5〜60分間すすぎ、次に新しい同一の溶液中、室温で12〜30時間穏やかに振とうしながら真皮をインキュベートした。
【0081】
(iii)洗浄:洗浄は、死んだ細胞、細胞残渣、およびこれまでの処理工程で使用した残留化学物質を洗い流すことを目的とする。脱細胞形成した真皮は、第一の洗浄液(0.5%(W/V)のTriton X100および10mMのEDTAを含むリン酸加生理食塩水(PBS))に移した後、室温で5〜60分間緩やかに振とうしながらインキュベートした。次に、第二の洗浄液(10mMのEDTAを含むPBS)中、室温で穏やかに振とうしながら真皮を3回洗浄した。はじめの2回の洗浄は短時間(それぞれ、15〜60分)、3回目は長時間(6〜30時間)行った。
【0082】
洗浄後、得られたADMを適切な大きさに切断し、実施例2〜6に記載している実験に使用した。
【0083】
実施例2:グリセロールによるADM中の水の置換
本実施例に記載している実験に使用したADMの調製処理で行った3つの処理工程(実施例1を参照)におけるインキュベーション時間は次のとおりであった:(i)19時間;(ii)13時間;および(iii)(a)第一の洗浄液中で15分間、(b)第二の洗浄液中で15分間、(c)第二の洗浄液中で15分間、および(d)第二の洗浄液中で15時間。
【0084】
上記の工程(iii)の処理過程を終えた3つのADMサンプルは、別異に、20%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水(0.9%(w/v)のNaCl水溶液)中、30%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水(0.9%(w/v)のNaCl水溶液)中、または40%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水(0.9%(w/v)のNaCl水溶液)中、室温で80分間別異にインキュベートした。ADMサンプルは、グリセロール溶液中で若干収縮したが、サンプル間の収縮の差は観察されなかった。次に、3つのADMサンプルをそれぞれ別異に、60%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水(0.9%(w/v)のNaCl水溶液)に移した。はじめに20%のグリセロール溶液で処理したADMサンプルが、60%(v/v)グリセロール溶液中で最も収縮した。60%のグリセロール溶液中での処理後、3つのADMサンプルは、それぞれ別異に、85%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で処理した。サンプルの最終的な大きさ(面積)は、最初にADMサンプルを20%、30%および40%のグリセロール溶液で処理する前に測定したそれらと比較すると、それぞれ順に、75%、72%および84%であった。従って、高濃度のグリセロールで順次処理した後に最も収縮が少なかったのは、最初に40%(v/v)のグリセロールで処理したADMサンプルであった。
【0085】
肥厚が異なり、別異のヒトドナーに由来する2つのADMサンプルを用い、水置換の速度を調べた。ADM内のグリセロール含量は、屈折率測定法を用いて測定した。溶液の「屈折率」は、濃度と関係がある。Palette Series PR-201 Digital Refractometer(アタゴUSA(Atago USA)社、ワシントン州カークランド)は。、液体溶液中の溶質または溶媒の濃度を測定する目的で設計された機器である。この機器は、0.0〜60%の濃度のBrixを±0.2%の精度で測定でき、10〜40℃の間で自動温度補正ができる。屈折計は、Brix(%)尺度でグリセロール濃度を表示する。標準曲線は、グリセロール/生理食塩水溶液に対して確立されている。組織基質中のグリセロール含量を測定するためには、既知の容量の通常の生理食塩水中でサンプルをインキュベートする。平衡に達した後、インキュベーション溶液中のグリセロール量を測定する。この値から、サンプル中のグリセロール量を求めることができる。
【0086】
試験に用いた2つのADMサンプルの平均肥厚は、それぞれ約1.6mmおよび3.0mmであった。両ADMサンプルは、40%(v/v)、60%(v/v)および85%(v/v)のグリセロールを含む別異の生理食塩水溶液中、別異の時間をかけて順次インキュベートした。40%(v/v)および60%(v/v)のグリセロール溶液では、1時間で完全に平衡に達した(図1参照)。85%(v/v)のグリセロール溶液では、平衡に達するまで2〜3時間を要した。最終的なADM調製物は、約8%の水、約20〜30%の組織基質、および約60〜70%のグリセロールを含んでいた(いずれもw/w)。組織基質中のグリセロール含量は、ADMの密度および初期水和状態に影響の受けた。本実験においては、厚い(肥厚約3mm)のADMの最終的なグリセロール濃度(約60%w/w)は、薄い(肥厚約1.6mm)ADMのそれ(約70%w/w)よりも低かった。
【0087】
上述のすべての方法を用いて調製したADMサンプル中の水置換は、十分に可逆性であった。最高濃度のグリセロール(85%)中でインキュベーションした後に得られたADM調製物中のグリセロールは、通常の生理食塩水(0.9%(w/v)のNaClを含有)中で再水和させることにより、迅速に水に置換された(図2などを参照)。グリセロール溶液は、皮膚組織に近い屈折率(約1.34〜1.44)を有するが、グリセロール化されたADMは透明である。再水和すると、グリセロール化された透明なADMは、本来の不透明な外観および本来の寸法に戻った(すなわち、上述の任意の方法において観察されたADMの収縮は完全に戻った)。
【0088】
グリセロール化されたADMサンプルは、通常の生理食塩水中で再水和し、次に、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を用いた構造解析を行うために10%のホルマリンで固定した。水置換および再水和処理後において、構造的な変化は観察されなかった(図3)。ADMの組織はよく保存されていた。いくつかのADMサンプルについて、上述のグリセロール化および再水和法を用いてグリセロール化および再水和を2回行い、起こりうる構造的変化を増幅させた。やはり、再水和ADMサンプルは、組織基質の分離または凝縮を伴わない典型的な網目構造を示し、組織基質の構造は、水置換および再水和を行っていないサンプルのそれと同様であった。
【0089】
実施例3:保存していたADMへのγ−線照射
γ−線照射は、コラーゲンを基盤とする組織基質に損傷を与えることが知られている。損傷を与えるメカニズムのひとつとしては、ヒドロキシルラジカルの生成を伴う水の均一分割(homolytic water splitting)および電子の酸素への不均一遷移(heterolytic trasnfer)が挙げられ、それによって反応性酸素ラジカルが生じる。組織の損傷は、フリーラジカルを介した酸化によっておこったものである。これまでの研究から、凍結乾燥後または凍結乾燥前にADM(実施例1に従って調製)に12kGyのγ−線を照射することにより、該ADMは、全て、ライフセル(LifeCell)社が開発した品質管理(QC)試験に対して不合格になったことが示されている。このQC試験については、以下の実施例8に記載している、さらに、別に行われた研究から、グリセロールが放射線による損傷に対して組織を安定化させることが示唆されている。
【0090】
本実施例に記載している実験において使用したADMに対して行った3つの処理工程(実施例1を参照)におけるインキュベーション時間は次の通りである:(i)12時間;(ii)15時間;(iii)(a)第一の洗浄液中で30分間、(b)第二の洗浄液中で15分間、(c)第二の洗浄液中で15分間、および(d)第二の洗浄液中で23時間。
【0091】
ADMサンプルは、順に、40%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2時間、60%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2時間、さらに、85%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で3時間インキュベートした。ADM中の水含量は、85〜90%(w/w)であったものが、約8%に低下した。グリセロール化したサンプルは、−80℃において、0、12、18または24kGyのγ−線を照射した。照射後、通常の生理食塩水中でサンプルを再水和させ、10%のホルマリンで固定し、H&E染色を用いた構造解析を行った。
【0092】
本実験から、水置換が進むにつれ、ADMのγ−線照射に対する抵抗性が高まることが示された。12kGyにおいては、ADMの真皮乳頭層および真皮網状層に微少な構造変化が観察されたのみであった(例えば、コラーゲン束の分離が若干増加するなど)。18kGy および24kGyのγ−線を照射した後も、水置換し再水和させたそれぞれのADMは、構造を良好に保持していた(図4)。
【0093】
実施例4:保存していたADMのヌードマウスへの移植
本実施例に記載している実験において使用したADMに対して行った3つの処理工程(実施例1を参照)におけるインキュベーション時間は次の通りである:(i)16時間;(ii)12時間;(iii)(a)第一の洗浄液中で18分間、(b)第二の洗浄液中で17分間、(c)第二の洗浄液中で18分間、および(d)第二の洗浄液中で10時間。
【0094】
上記の処理過程の工程(iii)終了後、ADMを約1.0cm2のサンプルに切断した。サンプルは、順に、40%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で3.5時間、70%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2時間、さらに、85%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2.5時間インキュベートした。サンプルは、凍結用の滅菌バイアルに入れて室温で4日間保存した。バイアルはアルミニウムホイルで包み、保存中に光が当たらないようにした。サンプルは、通常の生理食塩水中で30〜40分間再水和させた後、ヌードマウスの皮下に移植した。マウスは21日目に殺して移植片を取り出し、H&E染色を用いた組織学的試験用に10%のホルマリンで固定した。ADM移植片は、宿主細胞に迅速に生着し、血管再形成を行った(図5)。
【0095】
実施例5:保存していたADMの熱処理
本実施例に記載している実験において使用したADMに対して行った3つの処理工程(実施例1を参照)におけるインキュベーション時間は次の通りである:(i)26時間;(ii)20時間;(iii)(a)第一の洗浄液中で60分間、(b)第二の洗浄液中で30分間、(c)第二の洗浄液中で30分間、および(d)第二の洗浄液中で18時間。
【0096】
上記の処理工程(iii)の終了後、ADMを約1.0cm2のサンプルに切断した。ADMサンプルは、順に、40%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2時間、55%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で1.5時間、70%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で1.5時間、さらに、85%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で72時間以上インキュベートした。各グリセロール化工程の終了後、ADMは試験実施まで4℃で保存した。グリセロール処理したADMサンプルの熱安定性は、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定した。ADMサンプル(約20mg)は、DSC用るつぼに入れて密封し、1℃/分の走査速度で加熱した。SDCは、サンプル中の熱の流れを測定する。コラーゲンおよびその他のタンパク質の溶融(変性)は、吸熱の遷移事象であり、故に、溶融遷移中にエネルギーを吸収する。SDCサーモグラムは、温度に対して熱の流れをプロットしたものであり、そこから、遷移温度の始点(onset Tm)および溶融エンタルピーを求めることができる。Tmの始点は、処理されたADM中におけるタンパク質の熱安定性の指標である。
【0097】
一般的に、完全に水和されたADMのTmは、40〜45℃であることがわかっている。図6Aは、サンプル中の水の約92%がグリセロールに置換されたADMサンプルのDSCサーモグラムを示す。水置換処理により、Tmが約4℃上昇した。処理されたADMの熱安定性の上昇は、水置換の割合に比例している。グリセロールによって置換された水の量が増えるにつれ、Tmが上昇した(図6B)。ADMのTmの始点は、90%の水が置換されることにより、60〜65℃に上昇することがわかった。
【0098】
保存し、加熱したADMのイン・ビボ(in vivo)における挙動は、ヌードマウスを用いて評価した。本実施例に記載している実験において使用したADMに対して行った3つの処理工程(実施例1を参照)におけるインキュベーション時間は次の通りである:(i)16時間;(ii)12時間;(iii)(a)第一の洗浄液中で18分間、(b)第二の洗浄液中で17分間、(c)第二の洗浄液中で18分間、および(d)第二の洗浄液中で10時間。処理工程(iii)の終了後、ADMを約1.0cm2のサンプルに切断した。ADMサンプルは、順に、40%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で3.5時間、70%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2時間、さらに、85%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中で2.5時間インキュベートした。処理したサンプルは滅菌バイアル中で保存したが、このとき、アルミニウムホイルで包んで光が当たらないようにし、高温(平均温度55℃、52〜59℃の範囲)で4日間保存した。サンプルを通常の生理食塩水中で30〜40分間再水和させた後、ヌードマウスの皮下に移植した。21日後にマウスを殺して移植片を取り出し、H&E染色を用いた組織学的試験用に10%のホルマリンで固定した。移植したADMの宿主細胞への生着および血管再形成について評価した。グリセロールで水を置換したすることにより、熱損傷に対するADMの抵抗性が高まった。高温(52〜59℃)で4日間保存した後であっても、グリセロール化し、再水和したADMは、宿主細胞への顕著な浸潤および血管再形成を示した(図7)。「対照損傷」ADMを移植した場合には、細胞浸潤、血管再形成または再構成は観察されなかった。「対照損傷」ADMとは、水置換されておらず、さらに、(a)塩酸グアニジンで処理された;または、(b)少なくとも4年間室温で保存され、光が当てられたものなどである。
【0099】
実施例6:その他の親水性化合物を用いたADM中の水の置換
本実施例に記載している実験において使用したADMに対して行ったインキュベーション時間は次の通りである:(i)24時間;(ii)15時間;(iii)第一の洗浄液中で20分間、第二の洗浄液中で最初に15分間、第二の洗浄液中で二回目は15分間、および第二の洗浄液中で三回目は30時間。
【0100】
上記の処理過程の工程(iii)が終了した後、親水性液体化合物の混合物を用いてADM中の水を置換した。混合物は、25%(v/v)のポリエチレングリコール(分子量約400ダルトン)、25%(v/v)のエチレングリコール、および50%(v/v)のグリセロールを含む。ADMサンプルは、順に、40%(v/v)の混合物を含む通常の生理食塩水中で1.5時間、55%(v/v)の混合物を含む通常の生理食塩水中で1.5時間、70%(v/v)の混合物を含む通常の生理食塩水中で1.5時間、さらに、85%(v/v)の混合物を含む通常の生理食塩水中で72時間以上インキュベートした。水の置換に混合物を用いた場合には、ADMサンプルは、約15〜20%収縮した。
【0101】
グリセロール化したADMは、100mlのプラスチック瓶に入れ、室温(約22℃)で20日間保存した。びんをアルミニウムホイルで包み、保存中に光が当たらないようにした。グリセロール化したADMは、通常の生理食塩水中、ひと晩かけて再水和した。再水和中に、ADMは元の容量に戻った。再水和したサンプルは、H&E染色用に10%のホルマリンで固定した。混合溶液で置換、保存し、再水和させたADMにおいて、構造的な変化は観察されなかった。再水和させたADMは、水の置換、保存および再水和を行っていないサンプルと同様の構造集積性および機械的特性を有していた。
【0102】
実施例7:無細胞性静脈基質(AVM)における水の置換
ヒトの臍帯は、国立疾病研究相互交換施設(National Disease Research Interexchange:NDRI)(ペンシルバニア州フィラデルフィア)が収集したものから提供を受けた。組織バンクは調達に関する指針を確立しており、組織バンク全米協会(American Association of Tissue Banks)から刊行されている。これらの指針には、ドナーの選択、承認書類の書き方に関する指示、ならびに、切除中に静脈に対して、物理的膨張またはその他の物理的損傷を避けるための注意事項を含む。臍帯は、採取後、5000ユニットのヘパリンおよび120mgのパパベリン(静脈1Lあたり)を加えた1000mlのPlasmalyte(商標)生理的溶液から調製された溶液を用いて洗浄した。臍帯は、抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)を含む冷RPMI1640組織培養培地(4℃)に入れ、湿氷に載せ、ひと晩でニュージャージー州ブランチバーグにあるライフセル(LifeCell)社の施設に輸送した。輸送してきた材料を受け取る際には、容器温度が10℃未満であることを確認した。組織については、ほころび、破裂、汚れおよびその他の物理的欠損について検分し、皮膚サンプルに対して行ったものと同様な、病原菌に関する血清学的試験を行った(実施例1を参照)。物理的損傷、欠損が無く、病原菌が検出されなかった臍帯をさらなる実験に用いた。受け入れた臍帯は、500mlの低温保存溶液を入れた容器に入れ、4℃で16〜32時間インキュベートした。低温保存溶液は、8mMのEDTAを含む30mMのHEPES緩衝液(pH6.8〜7.2)で調製した50%(w/v)のポリアルジトール(PD30)溶液である。その他の低温保存溶液としては、(1)20mMのPBS(pH6.8〜7.2)で調製した35%のモルトデキストリン(M180)溶液;および(2)20mMのPBS(pH6.8〜7.2)で調製した、0.5Mのジメチルスルホキシド(DMSO)、0.5Mのプロピレングリコール、0.25Mの2-3ブタンジオール、12%(w/v)のショ糖、15%(w/v)のポリビニルピロリドン(PVP)および15%(w/v)のデキストランを含む溶液などが挙げられる。4℃でインキュベーションした後、臍帯/低温保存溶液の混合物を−80℃に冷却し、以下に記載しているさらなる処理を行うまで−80℃の冷凍庫内で保存した。
【0103】
低温保存溶液中で凍結した臍帯は、水槽中、37℃で、氷が見えなくなるまで溶融させた。低温保存溶液を捨て、外科手術用はさみを用い、臍静脈を周囲の帯組織から注意深く剥離した。静脈内の細胞を殺し、全ての細胞性構成成分および細胞残渣を除去することを目的として、切り出した静脈組織を脱細胞形成溶液(滅菌PBSに25mMのEDTA、1MのNaCl、8mMのCHAPSもしくは1.8mMのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(または2%(w/v)のn−オクチルグルコピラノシド)を加えたもの)に入れ、同じ溶液中で穏やかに振とうしながら室温で20時間インキュベートした。脱細胞形成した静脈組織は、10mMのEDTAを含むPBSを用い、室温で穏やかに浸透しながら3回洗浄し(各洗浄は30分)、無細胞性静脈基質(AVM)を得た。
【0104】
水の置換法1:本実験は、次の2つの連続した水置換工程を含む:(1)上記のように調製したAVMは、50%(v/v)のエチレングリコールを含む生理食塩水中、室温で1時間穏やかに振とうしながらインキュベートした;(2)90%(v/v)のエチレングリコールを含む生理食塩水にAVMを移し、室温で2時間インキュベートした。処理の両工程中の多様な時間点において、3つずつのAVMサンプルを採取し、屈折率法(上述)を用いて全てのサンプル中のエチレングリコール(EG)濃度を測定した。図8Aは、AVMへのEGの流入を示す。エチレングリコール(EG)を含む生理食塩水で処理したAVMは、すぐに溶液と平衡に達した。AVMが50%(v/v)EG溶液で平衡に達するには60分で十分であり、50%(v/v)EG溶液で処理したAVMが90%(v/v)のEG溶液中で平衡に達するには、60〜90分で十分であった。水置換処理により、AVMの水の含量は、約97%(w/w)から約7%(w/w)に低下し、その結果、AVM中のエチレングリコール含量は、約80〜約85%(w/w)になった。さらに、AVMの容量が40〜60%減少した。
【0105】
水の置換法2:本実験は、4つの水置換工程を含む。AVMサンプルは、室温(約22℃)において、順に、40%(v/v)のグリセロール溶液中で1時間、55%(v/v)のグリセロール溶液中で1時間、70%(v/v)のグリセロール溶液中で1時間、さらに、85%(v/v)のグリセロール溶液中で2時間インキュベートした。水置換処理中の多様な時間点において、3つずつのAVMサンプルを採取し、屈折率法(上述)を用いて全てのサンプル中のグリセロール濃度を測定した。図9Aは、4工程の水置換処理におけるAVMへのグリセロールの流入を示す。グリセロールを含む生理食塩水で処理したAVMは、すぐに溶液と平衡に達した。AVMが40%(v/v)および55%(v/v)の溶液で平衡に達するには60分で十分であったが、処理したAVMが、より高濃度(すなわち、70%(v/v)および85%(v/v))溶液中で平衡に達するには、90〜120分を要した。グリセロール処理後、AVMサンプル中の水の含量は、約97%(w/w)から約12%(w/w)に低下し、その結果、AVM中のグリセロール含量は、約75〜約80%(w/w)になった。処理により、AVMの容量が30〜40%減少した。
【0106】
水の置換法3:AVMサンプルは、30%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中、室温(約22℃)で2時間、穏やかに振とうしながらインキュベートした。次に、75%(v/v)のグリセロールを含む通常の生理食塩水中にサンプルを移し、室温(約22℃)で4時間インキュベートした。処理したサンプルは、85%(v/v)のグリセロールを含む生理食塩水を15ml入れた25mlのガラス瓶に入れ、室温で7週間保存した。瓶は、アルミニウムホイルで包み、光が当たらないようにした。AVM内の残留水量、グリセロール濃度、ならびに容量の減少は、基本的に水の置換法2の記載同様であった。
【0107】
PBSまたは通常の生理食塩水(0.9%のNaCl)中での再水和において、AVM中の水置換物質の量は迅速に減少した(図8Bおよび図9B)。水置換処理中に観察されたAVMサンプルの収縮は、再水和によって完全に回復した。再水和を行ってから1時間後、H&Eおよびヴァーヘフ染色による組織学的評価を行うためにAVMサンプルを10%のホルマリンで固定した。再水和したAVMの分析から、3つ全ての水置換法において、静脈細胞外基質の構造的集積性が保持されていたことが示された(図10)。基底膜、管腔およびワルトンの膠様質の集積性は十分に保持されていた。周囲のコンプライアンスおよび破裂試験(compliance and burst tests)においては、被験AVMサンプルは、対照AVM(水の置換、保存および再水和を行っていないAVM)と同等の挙動を示した。
【0108】
実施例8:ADMの品質管理分析
以下は、ライフセル(LifeCell)社(ニュージャージー州ブランチバーグ)において、ADMの品質を評価するために用いられている品質評価法のまとめである。方法または明らかな変形を用いることにより、コラーゲンを含有する多様な組織から調製したATMの品質を評価し、また、そのようなATMに対する、本発明に従う水置換法の影響を評価することができる。
【0109】
ADMの切片を顕微鏡用スライドガラスに載せ、標準的な手法に従ってH&E染色した。これらの切片について、以下のような顕微鏡分析を行った。
【0110】
1.表皮細胞残存物の存在についてスライドガラスを検査した。基底膜上に表皮細胞残存物がわずかでも存在していれば採用を拒否し、関連するロットのADMを排除した。
【0111】
2.真皮細胞(例えば、繊維芽細胞など)残存物の存在についてスライドガラスを検査した。何らかの細胞残存物が認められ、かつ、主要組織適合複合体(MHC)クラスI&クラスII抗原分子の存在を検出するための別異の切片の免疫染色で陰性の結果が得られた場合には、ADMロットからさらに2つのサンプルを採取し、MHCクラスI&クラスII試験およびH&E染色を行わねばならない。計3つのサンプル由来の全てのスライドガラスを再検査しなければならない。3つのサンプル全てから得られた結果が確定しない場合には、サンプルを電子顕微鏡分析に送り、ADMが細胞残存物を含むか否かの最終判断を行った。
【0112】
3.ADMサンプルの組織学的分析は、無傷な基質の存在を調べるために計画した。サンプルは、以下の分類を用いて評価した:
3.1.サンプル中の穴の存在:ADM中に穴があるということは、血管、空の脂肪細胞、空の毛包、および凍結乾燥処理中に生じたサンプル内の気泡の膨張などの多様な構造を表している。組織学的にはこれらを区別することは難しいが、これらの構造がサンプルの面積に占める総%で穴の存在を段階分けした。サンプルの60%以上を穴が占めているロットについては排除した。
【0113】
スコア 評価
1〜2 サンプルの0〜10%が穴である
3〜4 サンプルの11〜25%が穴である
5〜6 サンプルの26〜40%が穴である
7〜9 サンプルの41〜60%が穴である
10 サンプルの60%以上が穴である
3.2.コラーゲン損傷:「コラーゲン損傷」とは、壊れたコラーゲン繊維、凝縮コラーゲン繊維、またはゆがんだ繊維が存在することをさす。コラーゲン損傷は、全てのサンプルの視野内で観察された損傷発生率によって報告した。全視野中の全てのサンプルにおいてコラーゲン損傷が観察された場合には、該当ロットを排除した。
【0114】
スコア 評価
1〜2 損傷は、観察した視野の0〜10%
3〜4 損傷は、観察した視野の11〜25%
5〜6 損傷は、観察した視野の26〜50%
7〜8 損傷は、観察した視野の51〜75%
9〜10 損傷は、観察した視野の76〜100%
3.3.真皮乳頭層および真皮網状層:正常なヒトの真皮は、表面基底膜帯(superficial basement membrane zone)を含む真皮乳頭層、ならびに、血管層および明確に確認できるコラーゲンの厚い束を欠く不定形構造からなる層を含む。真皮乳頭層におけるコラーゲンおよびエラスチンの外観は、細かい網目状である。真皮網状層は、真皮乳頭層にとけ込んでおり、明確に確認できるコラーゲンの束からなっている。組織からADMを調製する間に、崩壊または溶融が生じた場合には、真皮乳頭層の凝縮が起こる。皮膚が広く傷つけられたり、疾病に侵されたりした場合には(例えば、強皮症または表皮剥離など)、真皮乳頭層が消失する。サンプルが表皮乳頭層を欠いている場合には、関連するロットを排除した。
【0115】
スコア 評価
0 正常な二重層、明確に確認できる脈間脈叢、明らかな遷移帯
0〜2 明確に確認しづらい網状隆起および網状突起の波状起伏
0〜2 脈間脈叢を含む表面乳頭層の構造的特徴を消失
0〜2 内部乳頭層の構造的特徴を消失
0〜2 乳頭層と網状層の間の遷移帯の消失
10 乳頭層の不在、または乳頭層が不定形凝縮層に置換
3.4.コラーゲンの方向性:ADM内のコラーゲンの方向性は、網目構造でなければならない。コラーゲンが直線方向に並ぶのは、疾病(例えば、傷など)に侵された場合、または正常な組織学的特徴(深部網目状真皮)である。サンプルは、直線状コラーゲンが構造全体に占める%で評価した。コラーゲンの方向性のみを基準として排除することはない。
【0116】
スコア 評価
1 網目構造
3 網目構造50%/直線状50%
5 直線状100%
3.5.コラーゲンの分離:ADM内の正常なコラーゲンは内部繊維状構造を有しており、コラーゲンの束を分離することは、ひとつの繊維から次の繊維へと漸次遷移することを表す。コラーゲンの分離は、処理中に生じる変化だと認識されている。最終的には、コラーゲン繊維は繊維状の性質を消失し、不定形になり、さらに、繊維を分離することにより、急激な遷移を起こし、角状の外観を呈することが多い。動物および臨床評価に基づき、機能的特徴をこのような外観に関連づけることはできなかった。しかしながら、単独では排除の基準にならないが、基質の集積性の評価の一部に含められる。
【0117】
スコア 評価
1 人工的分離、繊維状構造がない
3 はっきりとした分離、若干の繊維状構造
5 角状の分離、不定形コラーゲン
組織学的分析の各分類に対するスコアを加算した。スコアの総計が22未満の場合には、そのロットは合格である。スコアの総計が22以上の場合には、そのロットは不合格である。穴、コラーゲンの損傷、または乳頭層の網状層に対する比に関するスコアが10であった場合には、そのロットは不合格である。第一検査者は、第二検査者に対し、任意のロットについて、追加のスライドガラスの検査実施を要求することができる。第二検査者は、スライドガラスを独自に検査し、2つのスコアの平均を用いてそのロットの合否を判断する。さらに、両検査者が、廃棄のためにあるロットを受け入れできないと判断した場合には、そのような決定は、スコアの平均とは無関係に下すことができる。このような不合格の場合には、判断を正当化するための文書による説明を作成した。
【0118】
3.6.コラーゲンの束:ADMの切片について、真皮内にコラーゲンの束が存在することを調べた。コラーゲンの束の密度が低い場合には、ヴァーホフ染色を行ってエラスチンの相対レベルを判断した。エラスチン密度が正常または高い場合には、そのロットを受け入れると判断した。
【0119】
3.7.各スライドガラスについて、デジタル顕微鏡写真(倍率100倍)を撮って検査し、品質管理分析に関する文書記録と共に保管した。顕微鏡写真は、サンプルをはっきりと写していなければならない。顕微鏡写真が不鮮明または焦点が合っていない場合には、拒否し、対応するスライドガラスについてさらに顕微鏡写真を撮影しなければならない。
本発明に従う多数の実施態様について記載した。しかしながら、本発明の趣旨および範疇を超えることなく、多様な変形を行うことができることは自明である。従って、その他の実施態様も請求項の範疇に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1Aおよび1Bは、3種類の溶液内で、多様な時間をかけて連続的にインキュベートした後の2種類の無細胞性皮膚基質(ADM)内のグリセロールの相対量を示す線グラフ。図1Aは、肥厚約1.6mm。図1Bは、肥厚約3.0mm。溶液のグリセロール含有量は、それぞれ、40%(v/v)、60%(v/v)および85%(v/v)であった。
【図2】通常の生理食塩水中で多様な時間をかけてインキュベートした後における、グリセロールで水を置換したADM中のグリセロール量の減少および水の量の増加を示す線グラフ。データは、平均±3回の標準偏差である。
【図3】ADMの顕微鏡写真。図3Bは、水を置換した後、再水和させたADM(「保存し、再水和させた組織」)。図3Aは、3Bと同様に調製したが、水の置換および再水和を行っていない対照ADM(「対照組織」)。
【図4】ADMの顕微鏡写真。図4Bは、グリセロールで水を置換し、24kGyのγ−線を照射したADM(「γ−照射(24kGy)」)。図4Aは、4Bと同様に、グリセロールで水を置換したが、放射線照射を行わなかった対照ADM(「対照組織」)。
【図5】ADMの顕微鏡写真。ADMには次のような処理を順に行った:(a)グリセロールで水を置換し;(b)水を置換した状態で、室温、4日間保存し;(c)再水和させ;(d)ヌードマウスに埋め込み;さらに、(e)埋め込みから21日後にヌードマウスから取り出し、組織学的分析を行った。
【図6】図6Aは、グリセロールで水を置換したADMの示差走査熱量測定計(DSC)の熱重量変化記録。図6Bは、ADM中のグリセロール量に比例してタンパク質の溶融温度が上昇することを示す線グラフ。
【図7】ADMの顕微鏡写真。ADMには次のような処理を順に行った:(a)グリセロールで水を置換し;(b)水を置換した状態で、52〜59℃(平均55℃)、4日間保存し;(c)再水和させ;(d)ヌードマウスに埋め込み;さらに、(e)埋め込みから21日後にヌードマウスから取り出し、組織学的分析を行った。
【図8】図8Aは、エチレングリコール(EG)を50%(v/v)、および90%(v/v)含む2種類の溶液中、多様な時間をかけて無細胞性静脈基質(AVM)を順次インキュベートした後の基質内のグリセロールの相対量を示す線グラフ。データは、平均±3回の標準偏差である。図8Bは、通常の生理食塩水中、EGで水を置換したAVMを、多様な時間をかけてインキュベートした後の基質内のEGの減少および水の増加を示す線グラフ。データは図8Aと同様。
【図9】図9Aは、グリセロールを40%(v/v)、55%(v/v)、70%(v/v)、および85%(v/v)含む4種類の溶液中、連続して多様な時間をかけて無細胞性静脈基質(AVM)を順次インキュベートした後の基質内のグリセロールの相対量を示す線グラフ。データは、図8Aと同様。図9Bは、通常の生理食塩水中、グリセロールで水を置換したAVMを、多様な時間をかけてインキュベートした後の基質内のグリセロールの減少および水の増加を示す線グラフ。データは図8Aと同様。
【図10】AVMの顕微鏡写真。AVMに対し、3種類の別異の水置換操作を行い、再水和させた後に組織学的分析を行った。顕微鏡写真のうちの2枚については、ワルトンの膠様質および基底膜の位置を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
単離された無細胞性組織基質;および
前記無細胞性組織基質内の水置換剤を含み、
ここで、前記無細胞性組織基質が含んでいる水の量は、完全に水和された状態のときに基質が含有している水の量の30%以下であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記基質内の水の量は、基質に実質的に損傷を与えることなく、周囲温度で長期間前記組成物を保存できるのに十分少量であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記水置換剤はグリセロールを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記水置換剤はグリセロールからなることを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記水置換剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびポリヒドロキシル化合物より成る群から選択される1種もしくはそれ以上の水置換物質を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリヒドロキシル化合物は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、ポリグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール類(PVA)より成る群から選択されることを特徴とする請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記水置換剤は、グリセロールおよびエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項5記載の組成物。
【請求項8】
前記グリセロールおよびエチレングリコールは、重量、容量またはモル数において等濃度であることを特徴とする請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記基質は、全ての、または実質的に全ての生細胞を除去した真皮を含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記無細胞性基質は、全ての、または実質的に全ての生細胞を除去した組織を含み、該組織は、筋膜組織、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経接合組織、膀胱組織、尿管組織および腸管組織より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記無細胞性組織基質は、ヒトの組織から調製されることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記無細胞性組織基質は、ヒト以外のほ乳類の組織から調製されることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記ヒト以外のほ乳類の組織は、ブタの組織であることを特徴とする請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記ヒト以外のほ乳類の組織は、ウシの組織であることを特徴とする請求項12記載の組成物。
【請求項15】
1種もしくはそれ以上の補助物質をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項16】
前記1種もしくはそれ以上の補助物質は、フリーラジカル捕捉剤、タンパク質加水分解物、組織加水分解物および組織破壊生成物より成る群から選択されることを特徴とする請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記補助物質は、トコフェロール類、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチンおよびプロテオグリカン類より成る群から選択されることを特徴とする請求項15記載の組成物。
【請求項18】
前記1種もしくはそれ以上の補助物質は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール類およびデンプン誘導体より成る群から選択されることを特徴とする請求項15記載の組成物。
【請求項19】
前記デンプン誘導体は、モルトデキストリン類、ヒドロキシエチルデンプン(HES)および水素化デンプン加水分解物(HSH)より成る群から選択されることを特徴とする請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記糖アルコール類は、アドニトール、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルトース、マルチトールおよびシクリトール類より成る群から選択されることを特徴とする請求項18記載の組成物。
【請求項21】
前記基質は、非粒子状であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項22】
前記基質は、粒子状であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項23】
組織基質組成物の調製法であって、
完全に水和されているかまたは部分的に水和されている無細胞性組織基質を提供する工程;および、
水置換剤の濃度を順次高めた溶液に基質全体を浸すことを含む処理の工程であって、該処理が、(i)完全に水和された状態のときに前記基質が含有している水の量の30%以下の水を含有している処理無細胞性組織基質を含む組成物をもたらし;さらに、(ii)基質の実質的に不可逆的な収縮をもたらさない工程;を含むことを特徴とする方法。
【請求項24】
前記処理の後、基質中の実質的に全てのウイルスを不活化するのに十分な温度および時間をかけて前記組成物を加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記組成物を45〜65℃で10分間以上加熱することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記処理後、前記組成物にγ−、χ−またはε−線を照射する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記基質が6〜30kGyの放射線を吸収するように前記組成物に放射線を照射することを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記処理後、前記組成物に紫外線を照射する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項29】
前記組成物にγ−、χ−またはε−線を照射する工程をさらに含むことを特徴とする請求項24載の方法。
【請求項30】
前記基質が6〜30kGyの放射線を吸収するように前記組成物に放射線を照射することを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記処理後、前記組成物に紫外線を照射する工程をさらに含むことを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項32】
前記処理は、前記無細胞性基質を少なくとも2つの水溶液中で順次インキュベートする工程を含み、各溶液は、その溶液より前に基質をインキュベートした溶液よりも高濃度の水置換剤を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項33】
前記処理は、水置換剤の濃度を連続的に高めた溶液に順次基質を接触させることを含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項34】
前記水置換剤はグリセロールを含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項35】
前記水置換剤がグリセロールからなることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項36】
前記水置換剤は、DMSOおよびポリヒドロキシル化合物より成る群から選択される1種もしくはそれ以上の水置換物質を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項37】
前記ポリヒドロキシル化合物は、ポリグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール類(PVA)より成る群から選択されることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項38】
前記水置換剤は、グリセロールおよびエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記グリセロールおよびエチレングリコールは、重量、容量またはモル数において等濃度であることを特徴とする請求項38記載の組成物。
【請求項40】
前記マトリックスと接触させるグリセロールの初期濃度は約40%(v/v)であることを特徴とする請求項35記載の方法。
【請求項41】
グリセロールの最終濃度は約85%(v/v)であることを特徴とする請求項35記載の方法。
【請求項42】
前記水置換剤がグリセロールを含むことを特徴とする請求項32記載の方法。
【請求項43】
前記水置換剤はグリセロールからなることを特徴とする請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも2つの溶液が、3つの溶液であることを特徴とする請求項43記載の方法。
【請求項45】
グリセロールの濃度は、(a)第一の溶液では約30%(v/v)、(b)第二の溶液では約60%(v/v)、および(c)第三の溶液では約85%(v/v)であることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項46】
グリセロールの濃度は、(a)第一の溶液では約40%(v/v)、(b)第二の溶液では約60%(v/v)、および(c)第三の溶液では約85%(v/v)であることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項47】
前記少なくとも2つの溶液が、4つの溶液であることを特徴とする請求項43記載の方法。
【請求項48】
グリセロールの濃度は、(a)第一の溶液では約40%(v/v)、(b)第二の溶液では約55%(v/v)、(c)第三の溶液では約70%(v/v)、および(d)第四の溶液では約85%(v/v)であることを特徴とする請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記無細胞性基質は、全てのまたは実質的に全ての生細胞を除去した真皮を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項50】
前記無細胞性基質は、全てのまたは実質的に全ての生細胞を除去した組織を含み、該組織は、筋膜組織、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経接合組織、膀胱組織、尿管組織および腸管組織より成る群から選択されることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項51】
前記基質は、ヒトの組織から調製されることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項52】
前記無細胞性組織基質は、ヒト以外のほ乳類の組織から調製されることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項53】
前記ヒト以外のほ乳類の組織は、ブタの組織であることを特徴とする請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記ヒト以外のほ乳類の組織は、ウシの組織であることを特徴とする請求項52記載の方法。
【請求項55】
前記基質は非粒子状であることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項56】
前記基質は粒子状であることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項57】
前記水置換剤は、1種もしくはそれ以上の補助物質を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項58】
1種もしくはそれ以上の前記補助物質は、フリーラジカル捕捉剤、タンパク質加水分解物、組織加水分解物および組織破壊生成物より成る群から選択されることを特徴とする請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記補助物質は、トコフェロール類、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチンおよびプロテオグリカン類より成る群から選択されることを特徴とする請求項57記載の方法。
【請求項60】
1種もしくはそれ以上の前記補助物質は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール類およびデンプン誘導体より成る群から選択されることを特徴とする請求項57記載の方法。
【請求項61】
前記デンプン誘導体は、モルトデキストリン類、ヒドロキシエチルデンプン(HES)および水素化デンプン加水分解物(HSH)より成る群から選択されることを特徴とする請求項60記載の方法。
【請求項62】
前記糖アルコール類は、アドニトール、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルトース、マルチトールおよびシクリトール類より成る群から選択されることを特徴とする請求項59記載の方法。
【請求項63】
治療法であって、
(a)治療もしくは改善を要する臓器または組織を有する脊椎動物対象を特定し;さらに、
(b)請求項1記載の組成物を該臓器または組織内に配置する;工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項64】
前記組成物を臓器または組織に配置する前に、組成物中の水置換物質の濃度が生理的に許容できるレベルになるまで、生理的溶液中で組成物をすすぐ工程をさらに含むことを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項65】
前記脊椎動物対象は、腹壁に欠損または損傷を有していることを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項66】
脊椎動物の臓器または組織は、皮膚、骨、軟骨、関節半月、真皮、心筋、骨膜、動脈、静脈、胃、小腸、大腸、横隔膜、腱、靱帯、神経組織、横紋筋、平滑筋、膀胱、尿道、尿管および歯肉より成る群から選択されることを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項67】
脊椎動物の臓器または組織は、腹壁筋膜であることを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項68】
前記組成物は、脱塩骨粉をさらに含むことを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項69】
前記歯肉は、縮退している歯肉またはその近傍であることを特徴とする請求項66記載の方法。
【請求項70】
前記歯肉は、抜歯窩を含むことを特徴とする請求項66記載の方法。
【請求項71】
前記脊椎動物対象がほ乳類であることを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項72】
前記ほ乳類はヒトであることを特徴とする請求項71記載の方法。
【請求項73】
前記基質は非粒子状であることを特徴とする請求項63記載の方法。
【請求項74】
前記基質は粒子状であることを特徴とする請求項63記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−515565(P2008−515565A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535895(P2007−535895)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/036433
【国際公開番号】WO2006/042238
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(504154148)ライフセル コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
【Fターム(参考)】