説明

組織工学、細胞培養、および細胞送達用の多孔質足場の調製方法

本発明は、組織工学用多孔質足場の調製方法に関する。本発明の他の目的は、上記の方法によって得られる多孔質足場、ならびにその多孔質足場の、組織工学、細胞培養および細胞送達への使用を提供することである。本発明の方法は、a)ある量の少なくとも1種の多糖、ある量の架橋剤、およびある量の孔形成剤を含むアルカリ性水溶液を調製するステップと、b)前記溶液を、約4℃〜約80℃で、前記ある量の多糖が架橋結合するのに十分な時間置くことにより、前記溶液をヒドロゲルに変換するステップと、およびc)前記ヒドロゲルを水溶液に浸すステップと、d)ステップc)で得られた多孔質足場を洗浄するステップとからなるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織工学用多孔質足場の調製方法に関する。本発明の他の目的は、前記の方法によって得られる多孔質足場、ならびにその多孔質足場の、組織工学、細胞培養および細胞送達への使用を提供することである。
【背景技術】
【0002】
組織工学は一般的に、移植に適した足場の上またはその内部への細胞の播種によって、組織または器官の相当物を作出することであると定義される。足場上に組織または器官の相当物を形成するためには、足場は生体適合性でなければならず、細胞がその足場上に付着して増殖できなければならない。したがってこれらの足場は、in vitroまたはin vivoでの細胞の増殖のための基材とみなすことができる。
【0003】
理想的な生体適合性足場の特質としては、in vitroまたはin vivoでの細胞増殖を補助する能力、さまざまな細胞型または細胞系列の増殖を補助する能力、必要とされるさまざまな程度の柔軟性または強剛性を有する能力、さまざまな程度の生分解性を有する能力、in vivoの目的部位に、二次傷害を誘導することなく導入される能力、ならびに所望の作用部位に薬物または生理活性物質を送達するためのビヒクルまたはリザーバとなる能力が挙げられるであろう。
【0004】
多くの異なる足場材料が、組織再生誘導法に用いるために、および/または生体適合性表面として利用されてきた。足場が徐々に分解され、最終的には細胞−足場構造は完全に細胞に置き換わるので、生物分解性のポリマー材料が好ましい場合が多い。組織の増殖または再生を補助すると言われている、有用な足場となる可能性がある多くの候補物質としては、ゲル、泡沫、シート、ならびに形態および形状が異なる多数の多孔質粒子状構造物が挙げられる。
【0005】
組織工学または組織培養に有用であることが開示されている多種多様の天然ポリマーとしては、フィブロネクチン、各型コラーゲン、およびラミニン、ならびにケラチン、フィブリンおよびフィブリノーゲン、ヒアルロン酸、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸などの細胞外マトリックスの種々の成分が挙げられる。
【0006】
他の使用されていた一般的なポリマーとしては、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)が挙げられる。PLGは、体内への使用についてFDAから承認された、力学的に強い、加水分解可能なポリマーである(Thomson RC,Yaszemski MJ,Powers JM,Mikos AG.Fabrication of biodegradable polymer scaffolds to engineer trabecular bone.J Biomater Sci Polym Ed.1995;7(1):23−38;Wong WH.Mooney DJ.Synthesis and properties of biodegradable polymers used as synthetic matrices for tissue engineering.In:Atala A,Mooney DJ,editors;Langer R,Vacanti JP,associate editors.Synthetic biodegradable polymer scaffolds.Boston:Birkhauser:1997.p.51−82.)。しかし、PLGは疎水性であり、一般に比較的厳密な条件下で加工され、したがって、因子の組み込みおよび生存細胞の封入が潜在的に難題になる。
【0007】
代替として、水分を多く含むポリマー材料(含水率が30重量%よりも高い)である種々のヒドロゲルが足場材料として使用されている。これらは、合成由来かまたは天然由来の親水性ポリマー鎖で構成されている。ヒドロゲルの構造的な完全性は、種々の化学結合および物理的相互作用を介してポリマー鎖間で形成される架橋結合に左右される。
【0008】
例えば、米国特許第6,586,246B1号の文献は、組織工学または培養基質用の支持体として用いることができる多孔質ヒドロゲル足場の調製方法を開示している。この文献の方法は、a)生分解性合成ポリマーを有機溶媒に溶解させて粘性が高いポリマー溶液を調製するステップと、b)この溶液に孔形成剤を加えるステップと、c)ポリマーを型に流し込むステップと、d)有機溶媒を除去するステップと、e)有機溶媒を除去したポリマー/塩ゲルスラリーを熱い水溶液または酸性溶液に浸して室温で塩の発泡を引き起こし、多孔質足場を形成させるステップとからなるステップを含む。しかし、この多孔質ヒドロゲルの調製方法は、合成ポリマーと共に有機溶媒を使用することを伴い、それにより本発明による方法は、生物学的目的および治療目的に対して適合性が弱くなる。
【0009】
したがって、本技術分野には、生物学的目的および治療目的に使用可能な多孔質足場マトリックスを調製する方法を開発する必要性が今なお存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、
a)ある量の少なくとも1種の多糖、ある量の架橋剤、およびある量の孔形成剤を含むアルカリ性水溶液を調製するステップと、
b)前記溶液を、約4℃〜80℃の温度で、前記ある量の多糖が架橋結合するのに十分な時間置くことにより、前記溶液をヒドロゲルに変換するステップと、
c)前記ヒドロゲルを水溶液に浸すステップと、
d)ステップc)で得られた多孔質足場を洗浄するステップと
からなるステップを含む、多孔質足場の調製方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、前記の方法によって得られる多孔質足場を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、本発明の多孔質足場の組織工学、細胞培養、および細胞送達への使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
定義
本明細書で使用する「多糖」という用語は、2つ以上の単糖ユニットを含む分子を指す。
【0014】
本明細書で使用する「アルカリ性溶液」という用語は、pHが7より上である溶液を指す。
【0015】
本明細書で使用する「酸性溶液」という用語は、pHが7より下である溶液を指す。
【0016】
本明細書で使用する「水溶液」という用語は、溶媒が水である溶液を指す。
【0017】
「架橋結合」という用語は、あるポリマー鎖と他のポリマー鎖との間の共有結合による連結を指す。
【0018】
「孔形成剤」という用語は、固体構造内に孔を形成する能力を有する任意の固体作用剤を意味する。
【0019】
本明細書で使用する「足場」は、1種または複数種の多糖鎖の三次元網目構造を含む半固体系であると定義される。そのような構造は、使用する多糖(または複数の多糖)の特性、ならびに網目構造の性質および密度によって、平衡状態において種々の量の水を含むことができる。
【0020】
「架橋剤」という用語は、本発明の多糖の鎖間に架橋結合を導入できるような任意の作用剤を含む。
【0021】
本明細書で使用する「生分解性の」という用語は、排出可能な、またはさらに代謝可能な非毒性の化合物にin vivoで分解される材料を指す。
【0022】
多孔質足場とその調製方法
本発明の第1の目的は、
a)ある量の少なくとも1種の多糖、ある量の共有結合性架橋剤、およびある量の孔形成剤を含むアルカリ性水溶液を調製するステップと、
b)前記溶液を、約4℃〜約80℃で、前記ある量の多糖が架橋結合するのに十分な時間置くことにより、溶液をヒドロゲルに変換するステップと、および
c)前記ヒドロゲルを水溶液に浸すステップと、
d)ステップc)で得られた多孔質足場を洗浄するステップと
からなるステップを含む多孔質足場の調製方法に関する。
【0023】
本発明においては、任意の種類の多糖が使用可能である。合成多糖または天然多糖は、本発明の目的のために二者択一的に使用してよい。例えば、適切な天然多糖としては、デキストラン、寒天、アルギン酸、ヒアルロン酸、イヌリン、プルラン、ヘパリン、フコイダン、キトサン、スクレログルカン、カードラン、デンプン、セルロース、およびそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。所望の多糖を生成させるために用いることができる単糖類としては、リボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ズルシトール、およびそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、酸性基(カルボキシル基、硫酸基、リン酸基)、アミノ基(エチレンアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、プロピルアミン)、疎水基(アルキル基、ベンジル基)を有する化学修飾された多糖も含んでよい。これらの化合物の多くは、Sigma−Aldrich(St.Louis,Michigan,US)などの会社が市販している。
【0024】
多糖の好ましい重量平均分子量は、約10,000ダルトン〜約2,000,000ダルトンであり、より好ましくは約10,000ダルトン〜約500,000ダルトンであり、最も好ましくは約10,000ダルトン〜約200,000ダルトンである。
【0025】
本発明の一実施形態において、本発明の足場を調製するために使用される多糖(複数可)は、デキストラン、寒天、プルラン、イヌリン、スクレログリカン、カードラン、デンプン、セルロース、またはそれらの混合物などの中性多糖である。好ましい実施形態において、本発明の足場を調製するためにプルランとデキストランとの混合物が使用される。例えば、前記混合物は25%のデキストランと、75%のプルランとで構成される。
【0026】
本発明の他の実施形態において、本発明の足場を調製するために使用される多糖(複数可)は、キトサン、DEAE−デキストラン、およびそれらの混合物などの正電荷を持つ多糖である。
【0027】
本発明の他の実施形態において、本発明の足場を調製するために使用される多糖(複数可)は、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、フコイダン、およびそれらの混合物などの負電荷を持つ多糖である。
【0028】
本発明の他の実施形態において、本発明の足場を調製するために使用される多糖(複数可)は、中性多糖と負電荷を持つ多糖との混合物であり、ここで負電荷を持つ多糖はその混合物の1〜20%、好ましくは5〜10%を示す。
【0029】
ある特定の実施形態において、共有結合性架橋剤は、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl)、エピクロロヒドリン、ホルムアルデヒド、水溶性カルボジイミド、グルタルアルデヒド、または多糖を架橋結合させるのに適切なその他の任意の化合物からなる群から選択される。好ましい実施形態において、架橋剤はSTMPである。水溶液中の共有結合性架橋剤の濃度(w/v)は、約1%〜約6%であり、より好ましくは約2%〜約6%であり、最も好ましくは約2%〜約3%である。架橋剤の使用推奨量は、多糖と架橋剤の重量比が20:1〜1:1、好ましくは15:1〜1:1、より好ましくは10:1〜1:1の範囲になる量である。
【0030】
これらの化合物の多くは、Sigma−Aldrich(St.Louis,Michigan,US)などの会社が市販している。
【0031】
多糖を含む水溶液は、企図する用途によって、種々の添加剤をさらに含んでよい。添加剤は多糖と適合性があり、多糖(複数可)の有効な架橋結合を妨害しないことが好ましい。使用する添加剤の量は、個々の用途によって決まり、当業者は実験の常法を用いてそれを容易に決定することができる。
【0032】
多糖を含む水溶液は、場合によって、少なくとも1種の抗菌剤を含んでよい。適切な抗菌性保存剤は当技術分野において周知である。適切な抗菌剤の例としては、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、およびブチルパラベンなどのアルキルパラベン、クレゾール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、トリクロサン、およびクロルヘキシジンが挙げられるが、それらに限定されない。使用することができる抗細菌剤および抗感染剤の他の例としては、リファンピシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、銀イオン剤、および銀ベースの組成物が挙げられるが、それらに限定されない。
【0033】
多糖を含む水溶液は、場合によって、溶液の可視性を増大させるために少なくとも1種の着色剤も含んでよい。適切な着色剤には、染料、顔料、および天然着色料が含まれる。適切な着色剤の例としては、アルシアンブルー、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、およびFITC−デキストランが挙げられるが、それらに限定されない。
【0034】
多糖を含む水溶液は、場合によって、少なくとも1種の界面活性剤も含んでよい。本明細書で使用する界面活性剤とは、水の表面張力を弱める化合物を指す。界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤、またはポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステル、およびポリオキシエチレンソルビタンなどの中性界面活性剤であってよい。
【0035】
ある特定の実施形態において、孔形成剤は、酸性条件で気体に変換されうる作用剤であってよく、ポリマーから浸出される二酸化炭素分子によって孔が形成される。そのような孔形成剤の例としては、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、およびそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。孔形成剤は、多糖と孔形成剤の重量比が、6:1〜1:1、好ましくは4:1〜1:1、より好ましくは2:1〜1:1の範囲になる量を使用することが好ましい。これらの化合物の多くは、Sigma−Aldrich(St.Louis,Michigan,US)などの会社が市販している。ある実施形態において、多糖と孔形成剤の重量比は、6:1〜0.5:1、好ましくは4:1〜0.5:1、より好ましくは2:1〜0.5:1の範囲であってよい。他の実施形態において、多糖が正電荷を持つ多糖である場合、多糖と孔形成剤の重量比は、50:1〜1:1、好ましくは20:1〜1:1、より好ましくは10:1〜1:1の範囲であってよい。
【0036】
この特定の実施形態において、ステップc)の水溶液は酸性溶液である。酸は、クエン酸、塩酸、酢酸、ギ酸、酒石酸、サリチル酸、安息香酸、およびグルタミン酸からなる群から選択してよい。
【0037】
あるいは、孔形成剤は、架橋結合した多糖足場が水に浸漬されると溶解することができる無機塩であってよい。そのような孔形成剤の例としては、次第に溶解するであろう飽和塩溶液が挙げられる。この特定の実施形態において、ステップc)の水溶液は、水溶液、好ましくは水、より好ましくは蒸留水である。
【0038】
孔形成剤の濃度は、足場内に形成される孔のサイズに影響するので、孔のサイズは前記孔形成剤の濃度の調節下におくことができる。
【0039】
足場の孔の平均サイズは、約1μm〜約500μm、好ましくは約150μm〜約350μm、より好ましくは約175μm〜約300μmである。孔の密度または多孔度は約4%〜約75%、好ましくは約4%〜約50%である。
【0040】
他の実施形態において、本発明の方法は、ステップd)で得られた足場の凍結乾燥からなるステップをさらに含むことができる。凍結乾燥は、当技術分野で公知の任意の装置を用いて行うことができる。凍結乾燥機には基本的に、ロータリーエバポレーター、多岐管式凍結乾燥機、および棚式凍結乾燥機の3種類がある。そのような装置は、当技術分野において周知であり、freeze−dryer Lyovac(GT2,STERIS Rotary vane pump,BOC EDWARDS)など市販されている。基本的に、チャンバーの真空は0.1mBar〜約6.5mBarである。凍結乾燥は、少なくとも水分の98.5%、好ましくは、少なくとも水分の99%、より好ましくは、少なくとも水分の99.5%を除去するのに十分な時間行う。
【0041】
他の実施形態において、本発明の方法は、本発明に従って調製した足場に含水させることからなるステップをさらに含んでよい。前記含水は、足場を水溶液(例えば、脱イオン水、逆浸透膜でろ過した水、生理食塩水、または適切な有効成分を含む水溶液)中に、所望の含水率を有する足場が生成するのに十分な時間、浸すことにより行う。例えば、含水率が最大である足場を所望の場合、足場が、そのサイズ、または体積が最大になるまで膨張するのに十分な時間、足場を水溶液に浸す。一般には、少なくとも約1時間、好ましくは少なくとも約2時間、より好ましくは約4時間〜約24時間、足場を水溶液に浸す。当然のことながら、足場を所望のレベルまで含水させるために必要な時間は、使用する多糖の組成、足場のサイズ(例えば、厚さ)、および水溶液の温度、ならびに他の因子などいくつかの因子に左右される。
【0042】
ある特定の実施形態において、含水した足場の含水率は80%、好ましく90%、より好ましくは95%である。
【0043】
他の特定の実施形態において、本発明の方法を用いて得られる多孔質足場を所望の形態にできるように、ステップb)の前に、ステップa)の水溶液を型に注ぎ込むことができる。任意の幾何学的な型を本発明に従って使用してよい。サイズの異なるものも想定してよい。例えば、一般に、中心軸を有する管状の型に水溶液を注ぎ込んで、多孔質足場が所望の外径と内径を有する管状になるようにすることができる。型は、任意の材料から調製してよいが、好ましい材料は、テフロン(登録商標)などの粘着しない表面を有するものである。
【0044】
あるいは、本発明の足場は、所望のサイズおよび形になるよう切断し、造形してよい。
【0045】
本発明の方法は、任意の適切なプロセスを用いて足場を滅菌するステップをさらに含んでよい。足場は、任意の適切な時点で滅菌することができるが、足場に含水させる前に滅菌するのが好ましい。適切な放射線滅菌の技法としては例えば、セシウム137による、35グレイで10分間の照射がある。適切な非放射線滅菌の技法としては、UV照射、ガスプラズマ、または酸化エチレンなどの当技術分野において公知の方法が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、Abtox,lnc、Mundelein、IIIinoisから入手可能な滅菌システム、商品名PlazLyteを用いて、または米国特許第5413760号および米国特許第5603895号に開示されているガスプラズマ滅菌プロセスに従って、足場を滅菌することができる。
【0046】
本発明の方法によって生成する足場は、任意の適切な包装材で包装することができる。包装材を破るまで足場の無菌性が保たれるような包装材が望ましい。
【0047】
他の実施形態において、多孔質足場に1つまたは複数の生体分子を組み込むことができる。他の実施形態において、生体分子は、薬物、ホルモン、抗生物質、抗菌物質、染料、放射性物質、蛍光物質、抗細菌物質、化学薬品、または作用物質、それらの任意の組合せを含んでよい。この物質は、治療効果の増大、可視性の増大、適正な配向指示、感染への抵抗、治癒の促進、柔軟性の増加、または他の任意の望ましい効果を目的として使用してよい。前記実施形態において、上記に記載の1つまたは複数の生体分子を含む本発明の足場は、活性剤の放出制御系として用いることができる。
【0048】
本発明の方法によって生成した足場は、増殖因子および他の増殖刺激物質を含まない。一実施形態において、生体分子は、走化性物質、抗生物質、ステロイド性もしくは非ステロイド性の鎮痛剤、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、種々のタンパク質(短鎖ペプチド、骨形態形成タンパク質、糖タンパク質、およびリポタンパク質など);細胞付着の介在物質;生理活性リガンド;インテグリン結合配列;リガンド;種々の増殖作用物質および/または分化誘導剤(上皮細胞増殖因子、IGF−I、IGF−II、TGF−β、増殖因子および分化因子、ストロマ細胞由来因子SDF−1;血管内皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、インスリン由来増殖因子、および形質転換増殖因子、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連ペプチド、bFGF;TGFβスーパーファミリー因子;BMP−2;BMP−4;BMP−6;BMP−12;ソニックヘッジホッグ;GDF5;GDF6;GDF8;PDGFなど);特異的な増殖因子の上方制御に影響を及ぼす小分子;テネイシン−C;ヒアルロン酸;コンドロイチン硫酸;フィブロネクチン;デコリン;トロンボエラスチン;トロンビン由来ペプチド;ヘパリン結合ドメイン;ヘパリン;ヘパラン硫酸;DNA断片、DNAプラスミド、Si−RNA、トランスフェクション試薬、またはそれらの任意の組合せを含んでよい。
【0049】
一実施形態において、増殖因子として、ヘパリン結合増殖因子(HBGF)、形質転換増殖因子αまたは形質転換増殖因子β(TGFベータ)、α線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、およびSDF−1、同様の血管形成因子の一部が挙げられる。他の実施形態において、因子として、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲンなどのホルモンが挙げられる。ある実施形態では、神経成長因子(NGF)または筋肉形態形成因子(MMF)などの因子を組み込むことが望ましい場合がある。ある実施形態において、TNFα/β、またはマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を組み込む。
【0050】
さらに、本発明の足場は、場合によって、インドメタシン、アセチルサルチル酸、イブプロフェン、スリンダク、ピロキシカム、およびナプロキセンなどの抗炎症剤;トロンビン、フィブリノーゲン、ホモシステイン、およびエストラムスチンなどの血栓形成剤;ならびに硫酸バリウム、金粒子、および酸化鉄ナノ粒子(USPIO)などの放射線を通さない化合物を含んでよい。
【0051】
さらに、本発明の足場は、場合によって、抗ビタミンKもしくはアスピリンなどの抗血栓剤、アスピリン、チエノピリジン、ジピリダモール、もしくはクロピドグレルなどの抗血小板剤(アデノシン二リン酸(ADP)誘導性の血小板凝集を選択的かつ可逆的に阻害する)、またはヘパリンあるいはフコイダンなどの抗凝固剤を含んでよい。ヘパリン(抗凝固剤)とチロフィバン(抗血小板剤)の組合せが、血栓および血栓塞栓の両方を減少させるのに有効であることが示されており、これを本発明の足場に組み込むことができる。用量依存的な抗血小板特性および抗増殖特性を有する可能なイソフラボンであり、原発性血栓症の原因であるコラーゲン誘導性の血小板凝集を阻害するゲニステインも、本発明の足場に組み込むことができる。
【0052】
本発明の足場の使用方法
本発明の足場は、特に組織工学、組織修復、または組織再生に適している。多孔度の違いにより、足場の適当な領域への異なる細胞型の移入が促進されうる。他の実施形態において、多孔度の違いにより、組織の発生/修復/再生の適当な構造化に必要な、足場を構成する細胞型間における適当な細胞間連結の発生が促進されうる。例えば、細胞突起の伸長は、足場材料の多様な多孔度を介してより適当になるよう適応されうる。したがって、足場は任意の組織の細胞を含んでよい。
【0053】
ある特定の実施形態において、前記足場に細胞を播種する。他の実施形態において、本発明の足場を、所望の細胞を含む培養溶液中に、その細胞が足場全体に浸透できるのに十分な時間浸す。
【0054】
他の実施形態において、本発明の足場は、培養物中の播種細胞の生存率および増殖を、長時間にわたって、分化を誘導せずに補助することが可能である。
【0055】
他の実施形態において、本発明の足場は、非刺激性の細胞増殖環境(増殖促進剤による活性化がない)を提供する。
【0056】
他の実施形態において、本発明の足場は、組織増殖、骨の再建、創傷治癒、腫瘍形成(移動と浸潤を含む)、分化および血管新生などの生理学的、病理学的なプロセスの研究に用いることができる。足場により、内因性因子を含まない制御された形で、特定のプロセスを調節および研究できるような、規定され、かつ制御された環境の作出が可能になる。
【0057】
具体的には、本発明の足場は、診断用量または毒性用量に関する三次元培養に使用可能である。この実施形態において、本発明の足場は、製品の毒性について、三次元環境に存在する細胞に対して直接評価することを可能にする。前記実施形態において、本発明の足場を、肝細胞、胚性幹細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、または人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの、製品の毒性および/または薬理作用を評価するために有用な細胞の培養に使用する。
【0058】
他の実施形態において、本発明の足場は、in vitroまたはin vivoでの複数の細胞型の増殖および分化を補助することが可能である。
【0059】
他の実施形態において、細胞は幹細胞または前駆細胞である。他の実施形態において、細胞は、軟骨細胞;線維軟骨細胞;骨細胞;骨芽細胞;破骨細胞;滑膜細胞;骨髄細胞;間葉細胞;上皮細胞、肝細胞、筋細胞;間質細胞;幹細胞;胚性幹細胞;脂肪組織由来の前駆体細胞;末梢血前駆細胞;成体組織から単離された幹細胞;人工多能性幹細胞(iPS細胞);遺伝子形質転換細胞;軟骨細胞と他の細胞の組合せ;骨細胞と他の細胞の組合せ;滑膜細胞と他の細胞の組合せ;骨髄細胞と他の細胞の組合せ;間葉細胞と他の細胞の組合せ;間質細胞と他の細胞の組合せ;幹細胞と他の細胞の組合せ;胚性幹細胞と他の細胞の組合せ;成体組織から単離された前駆細胞と他の細胞の組合せ;末梢血前駆細胞と他の細胞の組合せ;成体細胞から単離された幹細胞と他の細胞の組合せ;および遺伝子形質転換細胞と他の細胞の組合せが挙げられるが、それらに限定されない。
【0060】
他の実施形態において、本発明の足場および方法に使用するためのこれらの細胞はどれも、例えば、それらの一部が血管形成因子でもある、緑色蛍光タンパク質(GFP)、レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ)、ヘパリン結合性増殖因子(HBGF)、形質転換増殖因子αまたは形質転換増殖因子β(TGFβ)、α線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、およびSDF−1などの所望の分子を発現するように遺伝子改変してよい。他の実施形態において、発現される因子として、インスリン、グルカゴン、およびエストロゲンなどのホルモンが挙げられる。他の実施形態において、神経成長因子(NGF)もしくは筋肉形態形成因子(MMF)などの因子が発現され、または他の実施形態において、TNFα/βが発現される。
【0061】
ある特定の実施形態において、本発明の足場は、例えばChaouatら(Chaouat M,Le Visage C,Autissier A,Chaubet F,Letourneur D.The evaluation of a small−diameter polysaccharide−based arterial graft in rats.Biomaterials.2006 Nov;27(32):5546−53.Epub 2006 Jul 20.)の記載のような、損傷した動脈を交換するための代用血管を調製するのに適している。そのような代用物は、本発明の方法に従って、上記の型を用いて調製することができる。次いでそのような代用物に細胞集団を含めてin vitroまたはin vivoで血管を再構築することができる。他の実施形態において、細胞として、間葉幹細胞(MSC)、内皮前駆細胞(EPC)、内皮細胞、線維芽細胞、および平滑筋細胞が挙げられるが、それらに限定されない。
【0062】
他の特定の実施形態において、本発明の足場は、軟骨または骨のインプラントを調製するのに適している。そのような場合に、本発明の足場に、軟骨細胞;骨細胞;骨芽細胞;破骨細胞;血管細胞、またはそれらの混合物を担持させることができ、分化誘導剤の存在下で培養することができる。
【0063】
移植部位は、治療が必要な罹患/損傷組織によって決まる。例えば、関節軟骨、関節半月、および骨の構造欠陥を治療するために、細胞を播種した足場複合体を欠陥部位に設置して損傷組織の修復を促進する。
【0064】
中枢神経系(CNS)の損傷の場合、足場複合体には、成体神経幹細胞、胚性幹細胞、グリア細胞、およびセルトリ細胞の組合せを播種してよい。好ましい実施形態において、足場複合体には、異種源または同種源の形質転換細胞系由来のセルトリ細胞を神経幹細胞と組み合わせて播種してよい。セルトリ細胞は、幹細胞を加えてその後損傷部位に移植するまでの間、足場複合体と一緒に培養してよい。この手法により、細胞治療のCNSへの適用の主要な障害の1つ、すなわち、移植術後の幹細胞の生存についての障害を回避できる。多数のセルトリ細胞を封入した足場複合体により、幹細胞の生存により適した環境が提供されうる。
【0065】
したがって、本発明に従って調製される多孔質の多糖足場は、人工血管、人工膀胱、人工食道、人工神経、人工心臓、人工心臓弁、人工皮膚、整形外科用インプラント、人工筋肉、人工靱帯、人工呼吸器などの人工組織または人工器官を製造するための原料として有効に使用できる。さらに、本発明の多孔質の多糖足場は、他種の生体材料上またはその内部に、また組織もしくは器官由来の機能性細胞と一緒に配合することまたは組み込むことによって、ハイブリッド組織の形で調製できる。ハイブリッド組織には、例えば、細胞の機能性、組織の再生などの維持など、種々の生物医学的な用途がありうる。
【0066】
あるいは、本発明の足場は、細胞送達のために使用できる。実際、本発明の足場は、治療目的または診断目的で患者に投与可能な細胞送達系を調製するための原料として用いることができる。ある特定の実施形態において、本発明の足場は、細胞に担持させることが可能なパッチ、生体膜、または包帯材の調製に使用できる。例えば、本発明の足場は、皮膚を再構築または治癒するために皮膚に塗布可能な、包帯材の調製に用いることができる。あるいは、前記包帯材は、虚血(心筋梗塞)を治療するために患者の心臓への投与に用いることができる。したがって、これらの実施形態において、足場中に封入された細胞は、標的とする組織または器官内に移動できる。
【0067】
他の実施形態において、本発明の足場は、細胞培養に用いることができる。次いで適当な増殖因子を加えることにより細胞を刺激して、分化または他の生理学的プロセスに発展させる。細胞を未分化状態で維持するために、または細胞を特定の経路に分化させるために、1種または複数種のサイトカイン、増殖因子、ホルモン、またはそれらの組合せを含む培養培地を用いてよい。
【0068】
より具体的には、本発明の足場は、対象分子の生成に用いることができる。実際に、本発明の足場は、細胞が所望の分子を生成できるように、細胞をバイオリアクター中に固定するための生物環境を提供するために用いることができる。本発明の足場は、培養細胞を力学的、生化学的に保護する。
【0069】
したがって、足場は、タンパク質、有機分子、およびヌクレオチドなどの所望の分子を生成させるための細胞リザーバとして役立つ。例えば、対象のタンパク質としては、増殖因子、ホルモン、シグナル分子、細胞増殖の阻害剤、および抗体などが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の足場は、モノクローナル抗体の生成に関して特に興味深い。本発明の足場は、香料、治療用分子などの有機分子の生成にも適切でありうる。
【0070】
この目的で、本発明の足場には、原核細胞および真核細胞を含む任意の細胞型を担持させてよい。例えば、本発明の足場は、細菌、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞などを担持させてよい。具体例として、E.coli、クリベロマイセス(Kluyveromyces)酵母もしくはサッカロマイセス(Saccharomyces)酵母、哺乳動物細胞系(例えば、ベロ細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞など)、ならびに初代もしくは樹立された哺乳動物細胞培養物(例えば、リンパ芽球、線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞などから生成)が挙げられる。より具体的には、本発明は、雑種細胞などの樹立細胞系の使用を企図している。あるいは、上記の所望の分子を発現するように細胞を遺伝子改変してよい。
【0071】
本発明の足場に細胞を担持させ、一定時間培養することができ、次いで細胞を足場から回収/抽出/分離して、治療用途もしくは診断用途、または細胞分析などにさらに使用できる。足場からの細胞の分離は、プルラナーゼなどの足場を分解できる酵素の使用、および/またはコラゲナーゼ、エラスターゼもしくはトリプシンなどの細胞を剥離できる酵素、もしくはEDTAなどの細胞剥離溶液の使用を伴ってよい。
【0072】
本発明についてさらに、以下の図および実施例に照らして例示する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1で得られた多孔質足場の写真である(スケール:6mm)。
【図2】実施例1で得られた多孔質足場:足場を走査電子顕微鏡により分析した写真である(画像の右側、スケール:200マイクロ)。
【図3】多孔質足場に播種した最初の細胞数に応じた、1日目におけるホルマザンの吸光度(570nm)を示すグラフである。
【実施例】
【0074】
<実施例1>
多糖ベースの足場の調製
プルラン/デキストラン75:25の混合物(プルラン、MW200,000、Hayashibara Inc.Okayama,Japan;デキストラン、MW500,000、Pharmacia)を用いて多糖ベースの足場を調製した。プルラン9gとデキストラン3gを蒸留水40mL中に溶解させることにより多糖溶液を調製した。次いでその多糖溶液に炭酸ナトリウム(8g)を加え、均質な混合物が得られるまで撹拌を続けた。架橋剤のトリメタリン酸三ナトリウムSTMP(Sigma,St Louis)をアルカリ性条件下で用いて多糖を化学的に架橋結合させた。簡単に言えば、10Mの水酸化ナトリウム1mlを多糖溶液10gに加え、続いてSTMP300mgを含む水1mlを加えた。次いでその混合物をペトリ皿(Nunclon(登録商標)、#150288)に注ぎ込み、50℃で15分間インキュベートした。得られたヒドロゲルをすぐに、20%酢酸溶液を含む大きいビーカーに浸漬し、少なくとも30分置いた。得られた足場をpH7.4のリン酸緩衝食塩水、次いで蒸留水を用いて、少なくとも2日間、広範囲に洗浄した。凍結乾燥ステップの後、多孔質足場を使用するまで室温で保管した。走査電子顕微鏡分析により、足場の多孔質を確認した(図1および2)。
【0075】
<実施例2>
多糖の種類
異なる種類の多糖を異なる比率で用い、多糖の総量は一定の値に保って、実施例1に記載の通りに多孔質足場を調製した。多糖はプルラン、デキストラン500、フコイダンLMW(低分子量)およびフコイダンHMW(高分子量)のいずれかであった。
【0076】
【表1】

【0077】
可溶化(+++は、多糖が完全に可溶化されたことを示す)および得られた多糖溶液の粘性(+++は、溶液の粘性が非常に高いことを示す)を、視覚的に評価した。全ての場合において、プロトコールの最後に多孔質足場が得られた。
【0078】
<実施例3>
孔形成剤の量
孔形成剤の量を変化させて、実施例1に記載の通りに多孔質足場を調製した。簡単に言えば、プルラン/デキストラン溶液に炭酸ナトリウムを2g、4g、または8g加えた。
【0079】
【表2】

【0080】
可溶化(++は、多糖が完全に可溶化されたことを示す)および得られた多糖溶液の粘性(+++は、溶液の粘性が非常に高いことを示す)、および多孔性を視覚的に評価した。最も少量の孔形成剤(2g)を用いて調製した足場に関しては、4gおよび8gの孔形成剤を用いて得られた発泡に比べて、発泡プロセスが穏やかであった。全ての場合において、プロトコールの最後に多孔質足場が得られた。
【0081】
<実施例4>
架橋剤の濃度
架橋剤の量を200mg〜500mgに変化させて、実施例1に記載の通りに多孔質足場を調製した。
【0082】
【表3】

【0083】
可溶化(+++は、多糖が完全に可溶化されたことを示す)および得られた多糖溶液の粘性(+++は、溶液の粘性が非常に高いことを示す)、および多孔性を視覚的に評価した。全ての場合において、プロトコールの最後に多孔質足場が得られた。
【0084】
<実施例5>
多孔質足場の細胞担持
ヒト骨髄間葉幹細胞(hMSC)を、実施例1の通りに調製した足場で培養した。円形の穿孔器を用いて、直径6mm、厚さ1mmの円形の多孔質足場を切り出した。培地は、10%のウシ胎児血清と1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含む低グルコースDMEM(Gibco,Life Technology,New York)からなるものを使用した。細胞をトリプシン処理した後、細胞懸濁液20μLを用いて乾燥足場に再含水させた(足場あたり細胞10個)。次いで試料を培地1ml中で最大1週間維持した。細胞播種していない多孔質足場を培地中でインキュベートし、対照として用いた。
【0085】
代謝アッセイ(MTT、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド、Sigma)を行って、細胞の生存率を評価した。簡単に言えば、MTT(Sigma)の貯蔵液5mg/mLをDMEMと1:10で混合した。足場を、試薬溶液1mLで37℃、3時間インキュベートした。足場をPBSで洗浄した後、ホルマザン結晶をイソプロパノール/0.04MのHCl0.3mLに可溶化した。マイクロプレートリーダー(Multiskan,Thermo Electron Corporation,Waltham,MA)で590nmにおける吸光度を記録した。1日目の吸光度は、足場に播種した最初の細胞数に直接比例した(図3)。
【0086】
動物由来およびヒト由来の一次血管平滑筋細胞および内皮細胞などの他の細胞型を用いて同様の実験を首尾よく行った。
【0087】
<実施例6>
多孔質足場内における細胞の挙動の共焦点分析
多糖溶液に少量の(5mg)FITC−デキストランを加えることにより、実施例1の通りに蛍光足場を調製した。蛍光マーカー(PKH26、SIGMA P9691)を用いて、製造者の取扱説明書に従って標識したhMSCを、実施例5の通りに蛍光足場に播種した。共焦点イメージングにより、足場の多孔質構造を確認した。
【0088】
<実施例7>
生死アッセイによる細胞生存率
共焦点イメージングを使用して、細胞膜の透過性を測定する2つの蛍光プローブ、生細胞を染色する細胞透過性の緑色蛍光染料(カルセインAM)および死細胞を染色する細胞非透過性の赤色蛍光染料(ヨウ化プロピジウム)の使用に基づいて、生/死(live/dead)アッセイ(Calbiochem,San Diego,CA)による細胞生存率の評価を行った。7日目において、足場内にはほんの数個の死細胞が見られ、ほとんどの細胞は生細胞であった。
【0089】
<実施例8>
足場の多孔質に対する孔形成剤の影響
孔形成剤の量と性質を変化させて、実施例1に記載の通りに、多孔質足場を調製した。蛍光多孔質足場の共焦点分析のために、FITC−デキストラン5mgを多糖溶液に加えた。光学切片を、10×Plan−NeoFluar対物レンズ(開口数0.3)(Carl Zeiss)を備えたZeiss LSM 510共焦点顕微鏡(Carl Zeiss,Oberkochen,Germany)を用いて得た。FITC−デキストランを、アルゴンレーザーを用いて488nmで励起させ、その蛍光放射を505〜530nm帯域フィルターによって選択した。孔のサイズをImageJ(登録商標)ソフトウェアで評価した。空隙容量を、Amira(登録商標)ソフトウェアの統計学/容量測定モジュールを用いて計算し、結果を足場の容量%として表した。
【0090】
【表4】

【0091】
<実施例9>
正電荷を持つ多糖
DEAE−デキストランを唯一の多糖として用い、正電荷を持つ多孔質足場を調製した。簡単に言えば、DEAE−デキストラン溶液を、DEAE−デキストラン(Fluka参照#30461)1gを蒸留水1.5mL中に溶解させることにより調製した。次いでその多糖溶液に炭酸ナトリウム(100mg)を加え、均質な混合物が得られるまで撹拌を続けた。架橋剤のトリメタリン酸三ナトリウムSTMP(Sigma,St Louis)をアルカリ性条件下で用いて多糖を化学的に架橋結合させた。簡単に言えば、多糖溶液に10Mの水酸化ナトリウム150μLを加えた後、STMP45mgを含む水150μLを加えた。次いでその混合物をペトリ皿(Nunclon(登録商標),#150288)に注ぎ込み、50℃で15分間インキュベートした。得られたヒドロゲルをすぐに、20%酢酸溶液を含む大きいビーカーに浸漬し、少なくとも30分置いた。得られた足場をpH7.4のリン酸緩衝食塩水、次いで蒸留水を用いて、少なくとも2日間、広範囲に洗浄した。凍結乾燥ステップの後、多孔質足場を得、使用するまで室温で保管した。
【0092】
<実施例10>
負電荷を持つ多糖
フコイダン(Sigma 参照#F5631)をプルラン/デキストラン混合物に加えることにより、負電荷を持つ多孔質足場を調製した。簡単に言えば、プルラン9gおよびデキストラン3gを蒸留水40mLに溶解させることにより多糖溶液を調製し、次いでその多糖溶液にフコイダン1.2gを加えた。次いでその多糖溶液に炭酸ナトリウム(8g)を加え、実施例1の通りに架橋結合プロセスを行って負電荷を持つ多糖を含む三次元足場を得た。
【0093】
<実施例11>
三次元足場内におけるヒト間葉幹細胞の軟骨細胞様細胞への分化
ヒト骨髄間葉幹細胞(hMSC)を、血清を含まない軟骨細胞形成用培地中、実施例1の通りに調製した足場で培養した。軟骨細胞形成用培地は、10ng/mlのTGF−β3(Oncogene,Cambridge,MA)、100nMのデキサメタゾン(Sigma,St Louis,MO)、170μMのアスコルビン酸−2−リン酸(Sigma,St Louis,MO)、および5mLのITS−プラス(Collaborative Biomedical Products,Bedford,MA)を補充したDMEMからなっていた。3週間の培養後、細胞を播種した足場を10%のホルムアルデヒドで固定し、次いで凍結切片化した。凍結切片を、0.05%(w/v)のトルイジンブルーまたは0.1%のサフラニンO溶液のどちらかで染色した。細胞外マトリックス合成に対する強度に陽性の染色が観察され、それはMSCの軟骨細胞への分化を示す。
【0094】
<実施例12>
肝細胞の三次元培養
HepG2細胞、ヒト肝細胞癌細胞を、10%のウシ胎児血清と1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含む低グルコースDMEM(Gibco,Life Technology,New York,USA)中、実施例1の通りに調製した足場で培養した。円形の穿孔器を用いて、直径6mm、厚さ1mmの円形の多孔性足場を切り出した。
【0095】
細胞をトリプシン処理した後、細胞懸濁液20μL(足場につき細胞85,000個)を用いて乾燥足場に再含水させた。次いで試料を培地1mL中で最大1週間維持した。細胞播種していない多孔質足場を培地中でインキュベートし、対照として用いた。培養4日後に肝細胞球状体の形成が観察された。生存細胞によって加水分解され、それによって強度な均一の緑色蛍光(波長485〜535nm)を生成するポリアニオン系染料であるカルセインAM(Calbiochem,San Diago CA,USA)を製造者の取扱説明書に従って用いて、球状体内の細胞生存率をアッセイした。細胞播種した足場は、薬毒物学アッセイに適切な生存肝細胞を含んでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ある量の少なくとも1種の多糖、ある量の共有結合性架橋剤、およびある量の孔形成剤を含むアルカリ性水溶液を調製するステップと、
b)前記溶液を、約4℃〜約80℃で、前記ある量の多糖が架橋結合するのに十分な時間置くことにより、溶液をヒドロゲルに変換するステップと、
c)前記ヒドロゲルを水溶液に浸すステップと、
d)ステップc)で得られた多孔質足場を洗浄するステップと
からなるステップを含む、多孔質足場の調製方法。
【請求項2】
前記多糖が、デキストラン、寒天、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルラン、イヌリン、ヘパリン、フコイダン、キトサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記共有結合性架橋剤が、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl)、エピクロロヒドリン、ホルムアルデヒド、水溶性カルボジイミド、およびグルタルアルデヒドからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
孔形成剤が、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、および重炭酸ナトリウムならびにそれらの混合物からなる群から選択され、ステップb)の液体が酸性溶液である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
多糖と孔形成剤の重量比が6:1〜1:1の範囲である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
多糖と架橋剤の重量比が15:1〜1:1の範囲である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の溶液を、ステップb)の前に型に注ぎ込む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記足場を造形する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって得られる多孔質足場。
【請求項10】
孔のサイズが1μm〜500μmで構成されている、請求項9に記載の多孔質足場。
【請求項11】
多孔度が4%〜50%の範囲である、請求項9または10に記載の多孔質足場。
【請求項12】
ある量の細胞を担持している、請求項9から11のいずれか一項に記載の多孔質足場。
【請求項13】
細胞が、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、および植物細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の多孔質足場。
【請求項14】
哺乳動物細胞が、軟骨細胞;線維軟骨細胞;骨細胞;骨芽細胞;破骨細胞;滑膜細胞;骨髄細胞;上皮細胞、肝細胞、間葉細胞;間質細胞;筋細胞、幹細胞;胚性幹細胞;脂肪組織由来の前駆体細胞;末梢血前駆細胞;成体組織から単離された幹細胞;および遺伝子形質転換細胞からなる群から選択される、請求項13に記載の多孔質足場。
【請求項15】
組織工学、細胞培養、および細胞送達用の、請求項9から14のいずれか一項に記載の多孔質足場。
【請求項16】
請求項9から12のいずれか一項に記載の足場を用いて作製された代用血管。
【請求項17】
請求項9から12のいずれか一項に記載の足場を用いて作製された、軟骨または骨のインプラント。
【請求項18】
製品の毒性評価および/または薬理学評価のための、請求項9から12のいずれか一項に記載の足場の使用。
【請求項19】
請求項9から12のいずれか一項に記載の足場を用いて作製された、活性薬剤の放出制御系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−500118(P2011−500118A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528419(P2010−528419)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063671
【国際公開番号】WO2009/047346
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(599176506)アンセルム(アンスチチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (23)
【出願人】(506402300)ユニヴェルシテ パリ セット−デニス ディデロ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS 7−DENIS DIDEROT
【Fターム(参考)】