説明

組織標本のパラフィン浸透処理方法及びその処理装置

【課題】従来のパラフィン浸透処理方法では、組織標本内にパラフィンを充分に浸透し難い組織標本でも、充分にパラフィンを浸透し得る組織標本のパラフィン浸透処理方法を提供する。
【解決手段】脱水及び脱脂処理が施された組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透処理する際に、該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透した後、前記組織標本を冷却して浸透した溶融パラフィンを固化し、次いで、前記組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する固化・再溶融処理を、同一組織標本に対して少なくとも一回施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織標本のパラフィン浸透処理方法及びその処理装置に関し、更に詳細には脱水及び脱脂処理が施された組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透する組織標本のパラフィン浸透処理方法及びその処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病理検査等において顕微鏡観察に供する組織標本を作製する際には、例えば下記特許文献1にも記載されている様に、人体等から採取した組織標本をホルマリンに浸漬して固定した後、脱水、脱脂、パラフィン浸透の各処理を施し、次いで、パラフィンが浸透された組織標本をパラフィン内に包埋するパラフィン包埋処理(ブロック化)を施す。その後、パラフィン内に包埋されている組織標本を薄切して得た薄片に、所望の染色等を施して顕微鏡観察に供す。
この一連の組織標本の作製工程において、パラフィン浸透処理を施した組織標本は、その組織内に浸透した溶融パラフィンが溶融状態でパラフィン包埋処理に付せられる。
【特許文献1】特開2001−133371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる一連の処理において、組織標本の組織内に充分にパラフィンが浸透している場合、パラフィンに包埋されている組織標本を薄切して薄片とする際に、組織標本をスムーズに薄切でき、得られた薄片にも割れ等が存在せず、顕微鏡観察に充分に供することができる。
しかしながら、皮膚や坐骨神経等の組織標本は、従来のパラフィン浸透処理では、組織標本の組織内にパラフィンが充分に浸透し難い場合がある。この様に、パラフィンの浸透が不充分な組織標本では、パラフィンに包埋されている組織標本の薄切は困難であり、且つ得られた薄片にも割れが多く発生している。このため、かかる薄片は顕微鏡観察には供し得ないものである。
そこで、本発明の課題は、従来のパラフィン浸透処理方法では、組織標本の組織内にパラフィンを充分に浸透し難い組織標本でも、充分にパラフィンを浸透し得る組織標本のパラフィン浸透処理方法及びその処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、パラフィン溶融液に浸漬して溶融パラフィンを浸透した組織標本を冷却して、浸透した溶融パラフィンを固化した後、その組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、浸透した固化パラフィンを再溶融する固化・再溶融処理を、溶融パラフィンを浸透した組織標本に少なくとも一回施すことによって、従来のパラフィン浸透処理方法では、組織内にパラフィンを充分に浸透し難い組織標本でも、充分にパラフィンを浸透し得ることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、脱水及び脱脂処理が施された組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透処理する際に、該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透した後、前記組織標本を冷却して浸透した溶融パラフィンを固化し、次いで、前記組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する固化・再溶融処理を、同一組織標本に対して少なくとも一回施すことを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理方法にある。
【0005】
また、本発明は、脱水及び脱脂処理を施した組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透するパラフィン浸透処理装置であって、該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透する浸透処理を施す浸透処理手段と、前記浸透処理手段によって組織標本に浸透された溶融パラフィンを冷却固化処理する冷却固化処理手段とを具備し、前記パラフィン溶融液に浸漬して溶融パラフィンが浸透されている組織標本を冷却し、組織標本の内部に浸透している溶融パラフィンを固化する冷却固化処理と、浸透された溶融パラフィンが固化された組織標本を、パラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する再溶融処理とを、同一組織標本に対して少なくとも一回施すように、前記浸透処理手段と冷却固化処理手段とを制御する制御部が設けられていることを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理装置でもある。
【0006】
かかる本発明において、組織標本に浸透した溶融パラフィンの冷却固化処理を、前記組織標本をパラフィン溶融液から分離した状態で施すことによって、組織標本の冷却固化速度を向上できる。
また、この冷却固化処理を、室温以下、特に0℃以下の雰囲気温度下で施すことによって、パラフィン浸透処理して得られた組織標本をパラフィン包埋して薄切する際に、組織標本を容易に薄切でき、顕微鏡観察に適した良好な薄片を得ることができる。
尚、本発明でいうパラフィン浸透処理には、パラフィン浸透処理工程を終了した組織標本をパラフィンに包埋してブロックを作成する包埋処理工程の処理は含まない。
【発明の効果】
【0007】
皮膚や坐骨神経等の組織標本の場合、溶融パラフィンの浸透処理のみを組織標本に施した従来の組織標本のパラフィン浸透処理方法で処理した組織標本では、パラフィンに包埋してブロック化した組織標本の薄切が極めて困難であり、薄切して得られた薄片も顕微鏡観察用として使用できなかった。
この点、本発明によれば、皮膚や坐骨神経等の組織標本であっても、パラフィン浸透処理後の組織標本をパラフィン包埋後に薄切でき、得られた薄片を顕微鏡観察用として使用できる。
この様に、従来のパラフィン浸透処理方法では、パラフィン包埋後の薄切が困難な組織標本でも、本発明によって処理した組織標本をパラフィン包埋後に薄切できるようになった詳細な理由は不明であるが、以下のように考えられる。
皮膚や坐骨神経等の組織標本では、脂肪分が多く、通常の組織標本のパラフィン浸透処理方法で採用される脱脂処理では充分に脱脂できなかった。このことは、予め著しく長時間の脱脂処理を皮膚や坐骨神経等の組織標本に施した後、従来のパラフィン浸透処理方法で処理して得られた組織標本は薄切可能となることからも判る。
【0008】
一方、本発明では、パラフィン溶融液に浸漬して組織内に溶融パラフィンが浸透された組織標本を冷却し、浸透した溶融パラフィンを一旦固化させた後、この組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本内に浸透されている固化パラフィンを再溶融する。
この様に、組織標本に浸透されているパラフィンの固化・再溶融を、組織標本に対して少なくとも一回施すことによって、組織標本の細胞内に浸透したパラフィンは固化状態から溶融状態に変化する。その際に、細胞内のパラフィンの体積は収縮状態から膨張状態に変化し、細胞内に残留していた脂肪分を細胞外に排出でき、細胞内を充分にパラフィンに置換できる。
その結果、本発明によって処理して得られた組織標本の細胞内は、パラフィンによって充分に置換されており、脂肪分の多い皮膚や坐骨神経等の組織標本でも、パラフィンによって包埋した組織標本を薄切でき、得られた薄片の状態も良好である。
かかる本発明では、パラフィン浸透処理の前に、予め著しく長時間の脱脂処理を施すことを要しないため、組織標本の処理効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るパラフィン浸透処理装置の一例を図1に示す。図1に示すパラフィン浸透処理装置は、ジャケット26が周面に設けられた密閉式の処理槽10を一個設けた1槽式処理装置である。かかる処理槽10内には、組織標本が収納されたバスケット12が挿入されている。
更に、処理槽10内に挿入されたバスケット12に収容された組織標本を処理するエタノールやキシレンは、収容部14に収容された複数個の薬液タンク16,16・・に貯留されており、凝固点が60℃近傍のパラフィン溶融液は、ヒータ付薬液タンク18、18内に貯留されている。
かかる薬液タンク16,16・・及びヒータ付薬液タンク18、18の各々に一端が接続された配管22,22・・・は選択バルブ20に接続され、選択バルブ20と処理槽10とは配管24によって接続されている。この選択バルブ20には、複数の薬液タンク側ポートが形成された弁座20aと処理槽側ポートが形成された弁板20bとが設けられている。この弁座20aの各薬液タンク側ポートには、配管22,22・・・の対応する他端が接続されている。
【0010】
このため、選択バルブ20によって、所望の薬液が貯留されているタンクと処理槽10とを接続し、処理槽10に所望の薬液を供給できる。一方、処理槽10から薬液を排出する際には、処理槽10と薬液を排出すべきタンクとを選択バルブ20によって選択し、処理槽10内の薬液を排出する。
また、処理槽10の側面に設けられたジャケット26には、配管30aの電磁弁32aを経由して冷媒を供給でき、ジャケット26に供給された冷媒を配管30bの電磁弁32bを経由して排出できる。更に、処理槽10のジャケット26には、配管26aの電磁弁28aを経由して熱媒を供給でき、ジャケット26に供給された熱媒を配管26bの電磁弁28bを経由して排出できる。
更に、かかる選択バルブ20、電磁弁28a,28b,32a,32bは、制御部によって制御されているため、ジャケット26への熱媒及び冷媒の給排を制御して処理槽10内を所望温度に制御できる。
【0011】
図1に示すパラフィン浸透処理装置を用いて、人体等から採取した組織標本にパラフィン浸透処理を施す。このパラフィン浸透処理装置に備え付けられた薬液タンク16,16・・の複数槽にはエタノールを貯留する。このエタノールを貯留した複数の薬液タンク16,16・・の一部を、水分量が徐々に少なくなるエタノール系列としてもよい。但し、エタノールを貯留した薬液タンク16,16・・の残りの薬液タンク16,16・・には、水分量が実質的に零のエタノールを貯留する。更に、薬液タンク16,16・・のうち、エタノールを貯留した薬液タンク16,16・・を除いて残った複数槽には、キシレンを貯留する。
また、薬液タンク16,16・・とは別に設けられたヒータ付薬液タンク18、18・・には、パラフィン溶融液を貯留する。
【0012】
採取した組織標本は、予めホルマリンに浸漬して固定した後、バスケット12に収納して処理槽10に挿入し、通常の処理条件で脱水処理及び脱脂処理を施す。この際に、電磁弁28a,28b,32a,32bは閉じており、熱媒も冷媒もジャケットには供給されない。
先ず、制御部からの選択バルブ20への信号によって、エタノールが貯留されている薬液タンク16,16・・のうち、選択した最初の薬液タンク16からエタノールを処理槽10に送液して所定時間保持して排出した後、選択した次の薬液タンク16からエタノールを処理槽10に送液する。この様に、エタノールを貯留した薬液タンク16,16・・から所望の順序でエタノールを処理槽10に送液し、組織標本中の水分をエタノールに置換する。
更に、エタノールの処理が終了した処理槽10内の組織標本には、制御部からの選択バルブ20への信号によって、キシレンが貯留された薬液タンク16,16・・のうち、選択した最初の薬液タンク16からキシレンを処理槽10に送液して所定時間保持して排出した後、選択した次の薬液タンク16からキシレンを処理槽10に送液する。この様に、キシレンを貯留した薬液タンク16,16・・から所望の順序でキシレンを処理槽10に送液し、組織標本中のエタノールをキシレンに置換する。
【0013】
次いで、キシレンによる処理が終了した処理槽10内の組織標本には、制御部からの選択バルブ20への信号によって、パラフィン溶融液が貯留されたヒータ付薬液タンク18、18のうち、選択した最初のヒータ付薬液タンク18からパラフィン溶融液を処理槽10に供給し所定時間保持して排出した後、選択した次のヒータ付薬液タンク18からパラフィン溶融液を処理槽10に送液して、組織標本中のキシレンをパラフィン溶融液に置換する。
かかるパラフィン溶融液による処理の際には、処理槽10内をパラフィンの凝固温度以上の温度に保持する。このため、制御部からの信号によって電磁弁28a,28bを開いて、熱媒をジャケットに供給してもよい。
【0014】
この様にして、処理槽10内の組織標本内が溶融パラフィンに置換され、パラフィン溶融液が排出された処理槽10のジャケット26には、制御部からの信号によって電磁弁28a,28bを閉じると共に、電磁弁32a,32bを開いて冷媒を供給し、処理槽10を冷却する。かかる処理槽10の冷却によって、組織標本内の溶融パラフィンが固化する。
次いで、処理槽10のジャケット26に、制御部からの信号によって電磁弁32a,32bを閉じ且つ電磁弁28a,28bを開いて熱媒を供給して処理槽10を加温すると共に、ヒータ付薬液タンク18、18に貯留したパラフィン溶融液のうち、最後に選択したヒータ付薬液タンク18からパラフィン溶融液を処理槽10に再送液し、組織標本内で固化したパラフィンを再溶融する。
かかる処理槽10の冷却及び溶融パラフィンの供給によって、組織標本に浸透したパラフィンの固化及び再溶融を少なくとも一回施すことによって、パラフィン浸透処理を終了した組織標本は、パラフィンで包埋して容易に薄切でき、得られる薄片も顕微鏡観察に供給できる良好なものである。
【0015】
従来の如く、組織標本に浸透した溶融パラフィンの固化・再溶融を施さなった場合、パラフィン浸透処理前に、前述した様に、著しく長時間の脱脂処理等の特別な処理を施さなかった皮膚や坐骨神経等の組織標本では、パラフィン浸透処理を施して得られる組織標本を薄切しても良好な薄片を得ることが困難である。
本発明の様に、組織標本に浸透したパラフィンを固化・再溶融することによって、パラフィン浸透処理を施した組織標本を容易に薄切できるようになる理由は、パラフィンは、固化すると体積が収縮し、溶融すると体積は膨張する。このため、細胞内に浸透している溶融パラフィンを固化させた後、再溶融することによって、細胞内に残留していた脂肪分等を細胞外に排出でき、細胞内を充分にパラフィンに置換できるからであると考えられる。
【0016】
組織標本に浸透した溶融パラフィンの冷却固化を、パラフィン溶融液に組織標本を浸漬した状態で施してもよいが、組織標本をパラフィン溶融液から分離した状態で施すことによって、組織標本の冷却固化速度を向上できる。
また、この冷却固化を、組織標本の種類等によっては、室温以下、特に0℃以下(特に好ましくは0〜−5℃)の雰囲気温度下で施すことによって、パラフィン浸透が更に促進され、得られた組織標本をパラフィン包埋して薄切する際に、組織標本を容易に薄切でき、顕微鏡観察に適した良好な薄片を得ることができる。
更に、組織標本に浸透したパラフィンの固化・再溶融は一回でもよいが、パラフィンが浸透し難い組織標本では、同一組織標本に対して二回以上繰り返すことが好ましい。
但し、この固化・再溶融の繰り返し回数を無暗に増加させても、パラフィンの浸透処理時間が長くなるものの、奏し得る効果は飽和に達する。このため、顕微鏡観察に供する組織標本に対して施す、組織標本に浸透したパラフィンの固化・再溶融の繰り返し回数は、予め実験的に求めておくことが好ましい。
パラフィンの浸透処理が終了した組織標本は、処理槽10から取り出して、組織標本をパラフィンに包埋した後、ミクロトームによって薄切することによって、顕微鏡観察用の薄片を得ることができる。
尚、処理槽10に収納された組織標本に各種処理を施す際に、処理速度を促進すべく、処理温度や処理圧力を変更したり、液撹拌を施してもよい。
【0017】
以上の説明では、1槽式処理装置を用いたパラフィン浸透処理方法について説明してきたが、複数の薬液タンク及びヒータ付薬液タンクを並べ、組織標本が収納されたバスケットを、薬液タンク及びヒータ付薬液タンクの各々に順次所定時間浸漬して組織標本にパラフィン浸透処理を施してもよい。
【実施例1】
【0018】
採取した人体の皮膚を組織標本とし、ホルマリンに浸漬して固定した。この組織標本を下記表1に示す薬液が貯留されたタンクに、表1に示す条件下で処理を施した。
表1に示すエタノール処理及びパラフィン処理では、組織標本の組織内への浸透を促進すべく、加圧状態と減圧状態とを数回繰り返した。この際の、加圧状態の圧力及び減圧状態の圧力を表1に併記した。
【表1】

【0019】
表1の処理ステップ14を終了して溶融パラフィンが浸透された組織標本を、雰囲気温度が−5℃に保持された雰囲気中に10分間保持し、組織標本に浸透された溶融パラフィンを固化する。
次いで、浸透されたパラフィンが固化された組織標本を、63℃に保持されたパラフィン溶融液中に再度浸漬し、浸透されたパラフィンを再溶融する。更に、再溶融パラフィンが浸透された組織標本を、再度、−5℃の雰囲気中に10分間保持して、再溶融パラフィンを再固化する。
この様に、組織標本内に浸透しているパラフィンの固化・再溶融の処理を、同一組織標本に対して四回繰り返した。
その後、得られた組織標本をパラフィンに包埋して得たブロックを、ミクロトームによって薄切して厚さ3μmの薄片を得た。
得られた薄片を観察すると、組織や組織・パラフィンの境界も裂けることなく切れており、顕微鏡観察に供し得るものであった。
【実施例2】
【0020】
実施例1において、冷却雰囲気の温度を室温(25℃)とした他は、実施例1と同様にしてパラフィン浸透処理を施した後、得られた組織標本をパラフィンに包埋して得たブロックを、ミクロトームによって薄切した。
この薄切では、実施例1に比較して、その切易さは低下したが、厚さ3μmの薄片を得ることができた。
また、得られた薄片を観察すると、組織とパラフィンとの境界に裂け目が存在していたが、顕微鏡観察に供し得るものであった。
【実施例3】
【0021】
実施例1において、組織標本として、人体から採取した坐骨神経を用いた他は、実施例1と同様にしてパラフィン浸透処理を施した後、得られた組織標本をパラフィンに包埋して得たブロックを、ミクロトームによって薄切した。
この薄切では、実施例1に比較して、その切易さは低下したが、厚さ3μmの薄片を得ることができた。
また、得られた薄片を観察すると、組織とパラフィンとの境界に裂け目が存在していたが、顕微鏡観察に供し得るものであった。
【比較例1】
【0022】
実施例1において、組織標本内に浸透しているパラフィンの固化・再溶融の処理を施さなかった(表1の処理ステップ14まで実施したのみ)他は、実施例1と同様にしてパラフィン浸透処理を施した後、得られた組織標本をパラフィンに包埋して得たブロックを、ミクロトームによって薄切することを試みた。
しかしながら、ミクロトームによる薄切は殆どできず、得られた薄片も、組織や組織・パラフィンの境界に裂け目が多く存在しており、顕微鏡観察に到底供し得ないものであった。
【比較例2】
【0023】
比較例1において、組織標本として、人体から採取した坐骨神経を用いた他は、比較例1と同様にしてパラフィン浸透処理を施した後、得られた組織標本をパラフィンに包埋して得たブロックを、ミクロトームによって薄切した。
しかしながら、ミクロトームによる薄切は殆どできず、得られた薄片も、組織や組織・パラフィンの境界に裂け目が多く存在しており、顕微鏡観察に到底供し得ないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る組織標本のパラフィン浸透処理装置の一例を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0025】
10 処理槽
12 バスケット
14 収容部
16 薬液タンク
18 ヒータ付薬液タンク
20 選択バルブ
22,24,26a,26b,30a,30b 配管
26 ジャケット
28a,28b,32a,32b 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水及び脱脂処理が施された組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透処理する際に、
該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透した後、前記組織標本を冷却して浸透した溶融パラフィンを固化し、
次いで、前記組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する固化・再溶融処理を、同一組織標本に対して少なくとも一回施すことを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理方法。
【請求項2】
組織標本に浸透した溶融パラフィンの固化を、前記組織標本をパラフィン溶融液から分離した状態で施す請求項1記載の組織標本のパラフィン浸透処理方法。
【請求項3】
組織標本に浸透した溶融パラフィンの固化を、室温以下の雰囲気温度下で施す請求項1又は請求項2記載の組織標本のパラフィン浸透処理方法。
【請求項4】
雰囲気温度を、0℃以下とする請求項3記載の組織標本のパラフィン浸透処理方法。
【請求項5】
脱水及び脱脂処理を施した組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透するパラフィン浸透処理装置であって、
該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透する浸透処理を施す浸透処理手段と、前記浸透処理手段によって組織標本に浸透された溶融パラフィンを冷却固化処理する冷却固化処理手段とを具備し、
前記パラフィン溶融液に浸漬して溶融パラフィンが浸透されている組織標本を冷却し、組織標本の内部に浸透している溶融パラフィンを固化する冷却固化処理と、浸透された溶融パラフィンが固化された組織標本を、パラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する再溶融処理とを、同一組織標本に対して少なくとも一回施すように、前記浸透処理手段と冷却固化処理手段とを制御する制御部が設けられていることを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理装置。
【請求項6】
組織標本に浸透された溶融パラフィンを冷却固化処理する冷却固化処理手段が、パラフィン溶融液から分離した組織標本内に浸透されている溶融パラフィンを冷却固化する冷却固化処理手段である請求項5記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。
【請求項7】
冷却固化処理手段が、溶融パラフィンの浸透している組織標本を室温以下の雰囲気温度下で冷却する冷却固化処理手段である請求項5又は請求項6記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。
【請求項8】
雰囲気温度が、0℃以下である請求項7記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−183162(P2007−183162A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1407(P2006−1407)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000148025)サクラ精機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】