説明

組織活性測定方法

【課題】患者から生体組織を採取した時点で、採取された生体組織内から分離することができる細胞数を推定する。
【解決手段】生体から採取された生体組織の量を測定する組織量測定ステップS1と、採取された前記生体組織内に含まれる液体を採取する組織内液採取ステップS2と、該組織内液採取ステップS2において採取された液体内のアデノシン三リン酸(ATP)量を検出する検出ステップS3と、該検出ステップS3において検出されたアデノシン三リン酸量と組織量測定ステップS1において測定された生体組織の量とに基づいて該生体組織から採取可能な細胞数を推定する推定ステップS4とを含む組織活性測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織活性測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の脂肪組織を採取して、消化酵素および生理食塩水とともに攪拌することにより脂肪組織内に含まれる脂肪由来細胞群を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術において、生体組織が消化され、細胞群が分離されたか否かを判定するためには、一定時間にわたる攪拌後に細胞懸濁液を採取し、採取された細胞懸濁液内に含まれる細胞数を血球計数盤を使用して測定することが行われている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/053346号パンフレット
【特許文献2】特開2002−181836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、血球計数盤を用いた細胞数の測定は、生体組織の消化処理後に行われるため、患者の治療に必要な細胞数を採取可能な脂肪組織が採取されたのか否かについても、実際の消化処理後にしか判明しないという不都合がある。このため、十分な時間をかけた消化処理後に、必要な脂肪組織が採取されていなかったことが判明した場合には、不足分の脂肪組織を患者から追加採取することが必要となって患者にかかる負担が大きいという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、患者から生体組織を採取した時点で、採取された生体組織内から分離することができる細胞数を推定することができる組織活性測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体から採取された生体組織の量を測定する組織量測定ステップと、採取された前記生体組織内に含まれる液体を採取する組織内液採取ステップと、該組織内液採取ステップにおいて採取された液体内のアデノシン三リン酸(ATP)量を検出する検出ステップと、該検出ステップにおいて検出されたアデノシン三リン酸量と前記組織量測定ステップにおいて測定された前記生体組織の量とに基づいて該生体組織から採取可能な細胞数を推定する推定ステップとを含む組織活性測定方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、まず、組織量測定ステップにおいて生体から採取された生体組織の量、例えば、重量または容積が測定される。生体から採取された生体組織には、血液や浸出液のような体液の他、例えば、脂肪組織を採取する場合には、脂肪組織を吸引する前に患者にチューメッセント液(麻酔液)が注入されて、脂肪組織が軟らかくされるので、採取された生体組織にはこのチューメッセント液も含まれている。そこで、組織内液採取ステップにおいて液体が採取される。
【0008】
次いで、検出ステップにおいて、採取された液体内におけるアデノシン三リン酸量が検出される。アデノシン三リン酸量の検出は、例えば、液体と発光試薬(ルシフェリンおよびルシフェラーゼ)とを攪拌して、アデノシン三リン酸がアデノシン一リン酸(AMP)に変化し、その際に発生する光の光量を検出することにより行われる。
【0009】
そして、推定ステップにおいて、アデノシン三リン酸量と生体組織の量とに基づいて該生体組織から採取可能な細胞数が推定される。生体から生体組織が採取される際に、該生体組織を構成する細胞の一部が損傷を受けて破損すると、該細胞内に含まれていたアデノシン三リン酸が生体組織内の液体に混入し、生体組織とともに採取される。
【0010】
したがって、生体組織内の液体内に含まれるアデノシン三リン酸の量は損傷を受けた細胞数に比例している。一方、採取された生体組織から採取される細胞数は、生体組織の量に比例している。すなわち、生体組織の量とアデノシン三リン酸の量とに基づくことで、生体組織をサンプリングしたり、該生体組織から分離された細胞懸濁液内の細胞数を血球計数盤等によって測定したりしなくても、生体組織内に含まれる細胞数を推定することができる。その結果、生体組織の採取時に採取可能な細胞数を推定することができ、患者にかかる負担を軽減することができる。
【0011】
上記発明においては、前記推定ステップが、予め測定された生体組織の量およびアデノシン三リン酸量と採取可能な細胞数との関係を記憶したマップに基づいて細胞数を推定してもよい。
このようにすることで、生体組織の採取時に、さらに迅速に採取可能な細胞数を推定することができ、追加採取の是非を判定して、患者にかかる負担を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、患者から生体組織を採取した時点で、採取された生体組織内から分離することができる細胞数を推定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る組織活性測定方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る組織活性測定方法は、生体組織の採取時に、該生体組織内に含まれている生細胞の細胞数を推定することにより組織の活性を測定する方法である。
【0014】
本実施形態においては、生体組織として脂肪組織を採取する場合について説明する。
本実施形態に係る組織活性測定方法は、図1に示されるように、生体から採取された脂肪組織の重量を測定する重量測定ステップ(組織量測定ステップ)S1と、脂肪組織内に含まれるチューメッセント液を採取する組織内液採取ステップS2と、採取されたチューメッセント液内のアデノシン三リン酸量を検出する検出ステップS3と、測定された重量およびアデノシン三リン酸量とに基づいて細胞数を推定する推定ステップS4とを含んでいる。
【0015】
脂肪組織の採取は、例えば、脂肪組織の採取に先立って患者にチューメッセント液(麻酔液)を注入して脂肪を柔らかくし、吸引ポンプに接続されたカニューレを用いて脂肪組織をチューメッセント液とともに吸引することにより行われる。脂肪吸引作業に際して、脂肪組織は引きちぎられ、脂肪組織を形成していた細胞の一部が損傷するため、細胞内に含まれているアデノシン三リン酸がチューメッセント液内に漏出している。
【0016】
検出ステップS3は、例えば、チューメッセント液の一部に発光試薬(ルシフェリンおよびルシフェラーゼ)を攪拌することにより行われる。
攪拌することで、チューメッセント液内のアデノシン三リン酸がアデノシン一リン酸(AMP)に変化する。その後、さらに酸素とルシフェラーゼとが反応してペルオキシドアニオンが生成された後、このアデノシン一リン酸を切り離し、ルシフェリンのカルボキシル基がカルボニル基となったジオキセタン誘導体が、二酸化炭素を放出することで、励起状態のオキシルシフェリンになる。そして、このオキシルシフェリンが基底状態のジオキセタン誘導体に戻る際に、光が発生する。検出ステップにおいては、この発生した光の光量をルミノメータによって測定する。
【0017】
推定ステップS4は、損傷した細胞数と発光量との関係を示す検量線を予め求めておき、この検量線と、検出ステップS3において測定された発光量とを用いて、損傷した細胞数を算出する。そして、重量測定ステップにおいて測定された脂肪組織の重量から最大限に最終可能な細胞数を求め、そこから損傷した細胞数を減算して最終的に採取可能な細胞数を推定する。
【0018】
検量線の作成は、以下の手法によって行う。
発光試薬、ATP抽出試薬および濃度の異なる複数のATP標準試薬を調製し、各ATP標準試薬(200μL)と発光試薬(100μL)とを測定チューブに入れて数秒間攪拌する。攪拌後に測定チューブをルミノメータに設置し発光量を測定する。そして、ATP標準試薬の濃度と発光量との関係をプロットすることにより検量線を作成する。
【0019】
また、アデノシン三リン酸の測定例を以下に示す。
アデノシン三リン酸量の測定は、以下の手順で行う。
(1) まず、採取された脂肪組織からチューメッセント液をシリンジによりサンプリングする。
(2) 次に、滅菌フィルタ(孔径0.22μm)をシリンジの先端に取り付けてチューメッセント液を濾過する。
(3) 濾過されたチューメッセント液(100μL)と乳酸リンゲル液(900μL)とをセラムチューブに入れて攪拌することでチューメッセント液を10倍に希釈する。
(4) さらに、(3)で希釈したチューメッセント液(100μL)と乳酸リンゲル液(900μL)とをセラムチューブに入れて攪拌することでチューメッセント液を100倍に希釈する。
(5) さらに、(4)で希釈したチューメッセント液(100μL)と乳酸リンゲル液(900μL)とをセラムチューブに入れて攪拌することでチューメッセント液を1000倍に希釈する。
(6) (2)〜(5)で得られた濃度の異なる各チューメッセント液各200μLと発光試薬(100μL)とを測定チューブに入れて数秒間攪拌する。
(7) (6)で攪拌された測定チューブをルミノメータに設置し、発光量を測定する。
【0020】
このように、本実施形態に係る組織活性測定方法によれば、採取した脂肪組織の重量を測定し、脂肪組織に含まれるチューメッセント液を抽出してチューメッセント液内に含まれるアデノシン三リン酸量を測定するだけで、採取された脂肪組織からどの位の量の細胞を最終的に採取することができるのかを推定することができる。したがって、従来、脂肪組織を消化して細胞懸濁液を生成した後に、生成された細胞懸濁液の一部をサンプリングして、細胞数を計数していたのに対し、脂肪組織を消化する時間だけ待たずに済み、また、血球計数盤のような大がかりな装置を使用することなく、簡易かつ迅速に細胞数を推定することができる。
【0021】
その結果、採取された脂肪組織が移植のために十分な量の生きた細胞を採取できるものであるのか否かを迅速に判定して、足りない場合には、その場で追加の採取を行うことができる。したがって、脂肪吸引を複数回に分けて行わずに済み、患者にかかる負担を大幅に軽減することができる。また、採取された脂肪組織が移植のために十分な量の生きた細胞を採取できるものであるとの判断ができ、必要以上の脂肪組織を採取しなくて済むという利点もある。
【0022】
このように測定された発光量を検量線に照らし合わせて死細胞数を求め、採取された脂肪組織の重量から求めた脂肪組織内に存在する総細胞数から、求められた死細胞数を減算することにより、アデノシン三リン酸濃度と生存している細胞数との関係を示すマップを得ることができる。
このマップによれば、アデノシン三リン酸濃度が高くなるほど生存している細胞数が少なくなる。したがって、採取する生体組織毎に、アデノシン三リン酸濃度と細胞数との関係を表すマップを作成して記憶しておくことで、チューメッセント液内のアデノシン三リン酸濃度を測定するだけで、簡易かつ迅速に生存している細胞数、すなわち、生体組織の活性をさらに簡易かつ迅速に測定することができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、生体組織として脂肪組織を採取する場合を例示して説明したが、これに代えて、他の任意の生体組織を採取する場合に適用することにしてもよい。また、本実施形態においては採取された脂肪組織内に含まれるチューメッセント液内のアデノシン三リン酸を測定したが、これに代えて、チューメッセント液以外の液体を含む体液、浸出液等の液体に漏出したアデノシン三リン酸を測定することにしてもよい。
また、生体組織の重量を測定することとしたが、生体組織の容積を測定して総細胞数を推定することにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0025】
S1 重量測定ステップ(組織量測定ステップ)
S2 組織内液採取ステップ
S3 検出ステップ
S4 推定ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取された生体組織の量を測定する組織量測定ステップと、
採取された前記生体組織内に含まれる液体を採取する組織内液採取ステップと、
該組織内液採取ステップにおいて採取された液体内のアデノシン三リン酸量を検出する検出ステップと、
該検出ステップにおいて検出されたアデノシン三リン酸量と前記組織量測定ステップにおいて測定された前記生体組織の量とに基づいて該生体組織から採取可能な細胞数を推定する推定ステップとを含む組織活性測定方法。
【請求項2】
前記推定ステップが、予め測定された生体組織の量およびアデノシン三リン酸量と、採取可能な細胞数との関係を記憶したマップに基づいて細胞数を推定する請求項1に記載の組織活性測定方法。

【図1】
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