説明

組織液抽出用デバイス、その製造方法、及び該デバイスを用いた組織液の分析方法

【課題】皮膚面への適用が容易で、皮膚に対する刺激が抑制されており、しかも採集した組織液中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度を正確に分析することが可能な親水性ポリマーのヒドロゲル層を備えた組織液抽出用デバイスと、それを用いた組織液の分析方法を提供する。
【解決手段】合成樹脂フィルムから形成された支持体、粘着剤層、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層、並びに剥離層を有し、該ヒドロゲル層が、その周囲に該粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものであり、実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、離水の発生がないものである組織液抽出用デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織液抽出用デバイスとその製造方法に関し、さらに詳しくは、支持体の片面に、粘着剤層を介して、ポリビニルアルコール(PVA)及び/またはポリビニルピロリドン(PVP)のヒドロゲル層を有し、組織液中に含有されるグルコースの定量分析などに使用することができる組織液抽出用デバイスに関する。
【0002】
また、本発明は、透過性向上処理が行われた脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて、該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法に用いられる組織液抽出用デバイス、並びに該組織液抽出用デバイスを用いた組織液の分析方法に関する。
【背景技術】
【0003】
哺乳類では、血中グルコースは、血糖と同義である。重篤な糖尿病患者は、通常、1日当たり4〜6回にわたって血中グルコース濃度を測定しなければならない。血中グルコース濃度を測定する一般的な方法は、患者の血液の一部を採取し、分析する方法である。しかし、頻繁に血液を採取する分析方法は、患者の負担が大きい上、採血箇所を通して感染症に感染するおそれがある。このため、患者の皮膚を介して、その下部に存在する組織液を抽出し採集した組織液中のグルコース濃度を測定する方法が提案されている。
【0004】
本発明において、「組織」とは、生体内において特定の役割を果たすために集まった細胞と、その間を満たす細胞間質を合わせたものを意味する。ヒトなどの脊椎動物の組織は、一般に、上皮組織、支持組織(例えば、繊維性結合組織、軟骨組織、骨組織、血液、リンパ)、筋組織、及び神経組織の4つに大別される。「組織液」とは、一般に、ヒトなどの脊椎動物の組織において、細胞間に存在し細胞の環境となっている液体成分(「細胞間液」ともいう)を意味する。
【0005】
例えば、特許第3328290号公報(特許文献1)には、イオン導電性ヒドロゲルを有する収集リザーバー、第1及び第2のイオン導入電極を有するイオン導入装置、並びに該収集リザーバーに接触しているセンサを有し、電気エネルギーを与えることによりグルコースまたはグルコース代謝産物を収集リザーバーに移動させ、目標物質を経皮モニターするためのイオン導入装置が提案されている。特許文献1のイオン導電性ヒドロゲルは、具体的には、高イオン導電率を付与するためにNaCl及びNaHCOを含有する架橋アクリル酸ポリマーである。
【0006】
該イオン導電性ヒドロゲルからなるパッドを被験者の皮膚に貼付し電気エネルギーを付与すると、グルコースを含有する組織液が皮膚を介して該パッドまで移動し、次いで、該パッド中イオン導電性ヒドロゲルに含まれるグルコースオキシダーゼと反応して、過酸化水素を発生する。該パッド内の過酸化水素の濃度に比例する電流がセンサ動作電極で生成し、この電流がシステムコントローラによって解釈される信号を与え、グルコース濃度をディスプレイ上に表示する。また、特許文献1には、被験者の実際の血液グルコース濃度を測定すれば、上記のグルコース濃度と相関させることが可能であることが記載されている。
【0007】
特許第3201482号公報(特許文献2)には、水の存在下でヒドロゲルを形成する親水性化合物、ヒドロゲルの重量に対して95重量%以下の水、グルコースと反応する酵素、及び電解質を含有するヒドロゲル・パッチが提案されている。このヒドロゲル・パッチも特許文献1記載のイオン導電性ヒドロゲルと同様に、酵素とグルコースとが反応することにより生じた電流を測定することによりグルコース濃度を測定するものであり、被験者からヒドロゲル・パッチへのグルコースの移動も電気浸透法を用いて行うものである。
【0008】
特許文献2には、ヒドロゲルを形成する親水性化合物として、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホネート、ポリビニルピロリドンなどが例示されている。特許文献2のヒドロゲルは、該電解質としてNaClに代表される塩化物イオン含有塩と、該酵素としてグルコース酸化酵素とを含有するものである。
【0009】
特許文献1及び2に開示されているイオン導入装置またはヒドロゲル・パッチを用いると、血液を採取することなく、皮膚面に貼付したヒドロゲルによって経皮的に組織液を抽出し、所定時間の経過後、該ヒドロゲル中に採集した組織液を分析することにより、該組織液中に含まれるグルコース濃度を得ることができ、血液を採取して測定した血中グルコース濃度と相関させれば血中のグルコース濃度に相当する値を得ることができる。
【0010】
しかし、特許文献1及び2に開示されているイオン導入装置またはヒドロゲル・パッチは、いずれもヒドロゲルに導電性を付与するため、ヒドロゲル内に比較的多量のナトリウムイオンを含有すると共に、グルコース酸化酵素などグルコースを代謝する酵素を含有するものである。
【0011】
ヒドロゲルを用いて組織液を抽出するために、特許文献1および2記載の技術のように電気エネルギーを付与することにより、皮膚の表面から角質層にかけて微細孔を形成すると、ヒドロゲル中に採集される組織液中のグルコース量は、微細孔の孔径と深さ、皮膚の測定箇所などによって変動する。このため、組織液中のグルコース濃度を測定するだけでは、血液中の血糖グルコース濃度に相当する値を正確に得ることができないため、特許文献1では、測定グルコース濃度を、実際に血液を採取して測定した血中グルコース濃度と相関させる処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3328290号公報
【特許文献2】特許第3201482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、実際に血液を採取して測定した血中グルコース濃度と相関させることなく、採集した組織液中に含まれるグルコース濃度から血中グルコース濃度と相関する値を求めることが可能なヒドロゲル層を備えた組織液抽出用デバイスを提供することにある。
【0014】
より具体的に、本発明の主要な課題は、透過性向上処理の行われた脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法において使用することができる組織液抽出用デバイスを提供することにある。
【0015】
本発明の他の課題は、該組織液抽出用デバイスの製造方法を提供することにある。本発明の更なる他の課題は、該組織液抽出用デバイスを用いた組織液の分析方法を提供することにある。
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、合成樹脂フィルムから形成された支持体の片面に粘着剤層が配置され、該粘着剤層の表面には、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層が配置され、かつ、該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する剥離層を有する組織液抽出用デバイスに想到した。
【0017】
該ヒドロゲル層は、その周囲に該粘着剤層の一部が露出している。該ヒドロゲル層は、実質的にナトリウムイオンを含有しないものである。該ヒドロゲル層は、本明細書に記載の測定法(実施例に記載されている測定法)により測定したとき、離水の発生がないものである。また、該ヒドロゲル層は、グルコース酸化酵素などの組織液成分を代謝する酵素を実質的に含有しないものである。
【0018】
本発明の組織液抽出用デバイスにおけるヒドロゲル層は、放射線の照射により架橋したものであることが、化学架橋法の採用に伴う各種化学物質の混入がないため好ましい。該ヒドロゲル層は、含水率が高いものの、離水の発生が認められないものである。このことは、該ヒドロゲル層が、放射線の照射による架橋反応が阻害されずに十分に進行しているものであることを意味している。
【0019】
該ヒドロゲル層は、浸透圧を高めて組織液の抽出効率を上げるために、浸透圧制御剤を含有させることが好ましい。他方、浸透圧制御剤を含有する親水性ポリマー水溶液は、放射線の照射による架橋反応が阻害される傾向にある。本発明者らは、浸透圧制御剤として特定の化合物を使用することに加えて、親水性ポリマー水溶液中における親水性ポリマー濃度と浸透圧制御剤濃度を制御することにより、放射線の照射による架橋反応が十分に進行し、離水の発生がないヒドロゲル層の得られることを見出した。
【0020】
ヒドロゲル層中に採集した組織液中のナトリウムイオン濃度とグルコース濃度は、該組織液抽出用デバイスの適用に適した構造と分析機能とを有する生体成分分析装置を用いて正確に測定することができる。該生体成分分析装置を用いることにより、組織液中のナトリウムイオン濃度とグルコース濃度を正確に測定し、さらに、これらの測定値に基づいて、血液中のグルコース濃度に相当する値を算出し表示することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、
a)合成樹脂フィルムから形成された支持体;
b)該支持体の片面に配置された粘着剤層;
c)該粘着剤層の表面に配置された、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層;並びに
d)該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する剥離層;
を有し、
該ヒドロゲル層が、1)その周囲に該粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものであり、2)実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、3)本件明細書に記載の測定法により測定したとき、離水の発生がないものである
ことを特徴とする組織液抽出用デバイスが提供される。
【0022】
また、本発明によれば、
合成樹脂フィルムから形成された支持体を準備する工程1;
該支持体の片面に粘着剤層を配置する工程2;
ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーの水溶液の塗膜に放射線を照射して架橋することにより形成したヒドロゲル層を、該粘着剤層の表面に配置する工程3;並びに
剥離層により、該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する工程4;
を有し、
該ヒドロゲル層が、1)その周囲に該粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものであり、2)実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、3)本件明細書に記載の測定法により測定したとき、離水の発生がないものである
ことを特徴とする組織液抽出用デバイスの製造方法が提供される。
【0023】
さらに、本発明によれば、透過性向上処理の行われた脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法において、前記の組織液抽出用デバイスを使用する組織液の分析方法が提供される。
【0024】
さらにまた、本発明によれば、透過性向上処理が行われた脊椎動物の皮膚を介して浸透圧の違いに基づいてヒドロゲル層中に組織液を抽出する組織液抽出デバイスであって、
a)合成樹脂フィルムから形成された支持体;
b)該支持体の片面に配置された粘着剤層;
c)該粘着剤層の表面に配置された、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層;並びに
d)該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する剥離層;
を有し、
該ヒドロゲル層が、浸透圧制御剤を含有し、実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、親水性ポリマー濃度をb重量%とし、該浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度をaオスモルとしたとき、下記式(A)
a≦0.1b−0.6 (A)
(但し、0.05≦a≦0.94、及び7≦b≦30)で表わされる関係を満足する
ことを特徴とする組織液抽出用デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、皮膚面への適用が容易で、皮膚に対する刺激が抑制されており、しかも採集した組織液中に含まれるナトリウムイオン量とグルコース量を正確に分析することが可能な親水性ポリマーのヒドロゲル層を備えた組織液抽出用デバイスが提供される。
【0026】
特に、本発明の組織液抽出用デバイスは、脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液成分を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法において、好適に使用することができる。
【0027】
また、本発明によれば、該組織液抽出用デバイスの製造方法と、該組織液抽出用デバイスを用いた組織液の分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の組織液の分析方法に用いることができる生体成分分析装置の一例の外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の生体成分分析装置における送液部14の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、図1の生体成分分析装置における廃液部15の構成を示す模式図である。
【図4】図4は、図1の生体成分分析装置において、組織液抽出用デバイス50が分析用カートリッジ30に貼り付けられた状態を示す斜視図である。
【図5】図5(a)は、組織液抽出用デバイスの構造を示す平面図であり、図5(b)は、その断面図である。
【図6】図6は、分析用カートリッジ本体310の平面図である。
【図7】図7は、分析用カートリッジ本体310の他の平面図である。
【図8】図8は、生体成分分析装置を用いた生体成分分析方法の一例を説明するフローチャートである。
【図9】図9は、図8のステップS7の処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】図10は、図1に示す生体成分分析装置の動作を説明するための模式断面図である。
【図11】図11は、図1に示す生体成分分析装置における特定の動作を説明するための模式断面図である。
【図12】図12は、図1に示す生体成分分析装置における特定の動作を説明するための模式断面図である。
【図13】図13は、図1に示す生体成分分析装置における特定の動作を説明するための模式断面図である。
【図14】図14は、図1に示す生体成分分析装置における特定の動作を説明するための模式断面図である。
【図15】図15は、図1に示す生体成分分析装置における特定の動作を説明するための模式断面図である。
【図16】図16は、図1に示す生体成分分析装置における特定の動作を説明するための模式断面図である。
【図17】図17は、血糖AUC値の測定原理についての説明図のひとつである。
【図18】図18は、血糖AUC値の測定原理についての他の説明図のひとつである。
【図19】図19は、ヒドロゲル層の離水の有無に関連して、浸透圧制御剤としてKClを用いた場合におけるKClの浸透圧モル濃度とポリビニルアルコール濃度との関係を示すグラフである。
【図20】尿素、グリシン及びKClの各種浸透圧制御剤の濃度とグルコース抽出速度の比との関係を示すグラフである。
【図21】アラニン、プロリン及びKClの各種浸透圧制御剤の濃度とグルコース抽出速度の比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の組織液抽出用デバイスは、透過性向上処理が行われた皮膚組織を介して抽出し採集される組織液を対象とする。皮膚組織には、角質層と粘膜組織があるが、一般に、角質層が対象とされることが多い。
【0030】
本発明の組織液抽出用デバイスは、透過性向上処理が行われたヒトなどの脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて、該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法に好適に適用することができる。
【0031】
以下、本発明の組織液抽出用デバイスに関し、上記分析方法に適した生体成分分析装置を含めて、その詳細を説明する。
【0032】
図1は、本発明の組織液の分析方法に用いることができる生体成分分析装置の一例の外観を示す斜視図である。生体成分分析装置1は、図1に示すように、分析装置本体10と、分析キット20とを備えている。分析キット20は、分析用カートリッジ30と、組織液抽出用デバイス50とを備えている。この生体成分分析装置1は、被験者から皮膚を介して組織液を組織液抽出用デバイス50によって抽出し、所定時間の経過後に該組織液抽出用デバイスに採集したナトリウムとグルコースの各濃度を分析することにより、血液中のグルコース濃度に相当する値を得るためのものである。
【0033】
より具体的には、この生体成分分析装置1は、次のようにして使用する。まず、透過性向上処理として被験者の皮膚に微細孔を形成し、次いで、微細孔が形成された皮膚面上に組織液抽出用デバイス50を貼り付ける。したがって、本発明において、透過性向上処理とは、典型的には、ヒトなどの脊椎動物の皮膚に微細孔を形成するための処理を意味する。角質層を持つ皮膚への微細孔は、該角質層を貫通して形成することが、組織液の透過性向上の観点から好ましい。組織液抽出用デバイス50は、皮膚を介して、浸透圧の違いに基づいてヒドロゲル層中に組織液を抽出する。このため、該組織液抽出用デバイス50は、電気エネルギーを付与することなく、ヒドロゲル層中に組織液を抽出することができる。
【0034】
透過性向上処理が行われた皮膚面上に組織液抽出用デバイス50を貼り付けてから一定時間経過後、図1に一点鎖線60で示したように、組織液抽出用デバイス50を被験者の皮膚から取り外して、分析用カートリッジ30に貼り付ける。分析用カートリッジ30は、一点鎖線70で示すように装置本体10のカートリッジ配置部12に配置する。装置本体10は、カートリッジ配置部12に配置した分析用カートリッジ30に貼り付けた組織液抽出用デバイス50に対する所定の分析処理を実行して、組織液抽出用デバイス50に採集した組織液中のグルコース濃度とナトリウムイオン濃度を測定し、これらの測定値に基づいて、血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する。ここで、組織液抽出用デバイス50への抽出時間を60分以上に設定した場合には、採集した組織液中のグルコース濃度とナトリウムイオン濃度を測定し、これらの測定値に基づいて、血糖AUC(Area Under the Curve)値に相当する値を算出することができる。
【0035】
以下、分析装置本体10の機構を説明する。図1に示すように、分析装置本体10は、厚みのある長方形の筺体を備えており、筺体上面の天板には、凹部11が形成されている。凹部11には、凹部11よりさらに深く形成された凹部からなるカートリッジ配置部12が設けられている。凹部11には、凹部11の側壁の高さとほぼ同じ厚みを有する可動天板13が連結されている。
【0036】
可動天板13は、その側壁から水平に延びる支軸131が凹部11の側壁に嵌め込まれることにより、凹部11の側壁と連結されている。可動天板13は、支軸131を中心に折り畳むことによって、図1に示す状態から凹部11内に収納し、逆に、凹部11内に収納された状態から、図1に示すように起立させることができる。カートリッジ配置部12は、分析用カートリッジ30を収納することが可能な大きさを有している。
【0037】
可動天板13は、凹部11に収納される方向に付勢されるように、支軸に支持されている。したがって、カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30は、可動天板13によって上方から押さえつけられる。カートリッジ配置部12の底面から突出するように設けられた注入用ニップル141及び排出用ニップル151は、可撓性を有する部材によって作製されているため、可動天板13によって押さえつけられたときに緩衝材としても機能する。可動天板13が上方から分析用カートリッジ30を押さえつけることにより、各ニップルと分析用カートリッジ30に形成された導入孔及び排出孔との密着がより強固となり、液漏れの危険性が低減される。
【0038】
分析装置本体10は、その内部に送液部14及び廃液部15を備えている。送液部14は、カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30に液体を送液するための機構である。廃液部15は、送液部14によって分析用カートリッジ30に送液された液体が廃液として排出される機構である。
【0039】
図2は、送液部14の構成を示す模式図である。図2に示すように、送液部14は、注入用ニップル141、ポンプ142、及び回収液タンク144を備えている。ポンプ142と回収液タンク144とは、上流側流路143によって接続されている。回収液タンク144と注入用ニップル141とは、下流側流路145によって接続されている。ポンプ142と注入用ニップル141とは、回収液タンク144を迂回する迂回流路146によって接続されている。
【0040】
上流側流路143と迂回流路146との接続点には、電磁弁V1が設けられている。下流側流路145と迂回流路146との接続点には、電磁弁V2が設けられている。下流側流路145の、迂回流路146との接続点より下流側には、電磁弁V3が設けられている。電磁弁V2と電磁弁V3との間の流路は、廃液部15の廃液タンク153に通じる廃液流路147に通じている。
【0041】
注入用ニップル141は、カートリッジ配置部12に上方に向かって突出して設けられており、カートリッジ配置部12に分析用カートリッジ30が配置されたとき、排出用ニップル151と共に分析用カートリッジ30を下方から支持する。カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30は、この注入用ニップル141を介して内部に液体が注入される。
【0042】
注入用ニップル141は、ゴムなどの可撓性のある部材によって作製されている。排出用ニップル151も同様に可撓性のある部材によって作製されている。これにより、カートリッジ配置部12に分析用カートリッジ30が配置されたときに、注入用ニップル141と排出用ニップル151が、分析用カートリッジ30に形成された導入孔及び排出孔のそれぞれと隙間なく接触することが可能となり、液漏れが生じ難くなる。ポンプ142は、モータの駆動により、流路内に空気を送り込む。
【0043】
回収液タンク144は、分析用カートリッジ30に注入される回収液(ヒドロゲル層中に採集した組織液から生体成分を回収するための回収液)を貯留している。回収液中に不純物が含まれていると、不純物がグルコース及びナトリウムイオンの検出に影響を及ぼすことから、回収液は、実質的に不純物を含まない液体であることが好ましい。このような観点から、回収液タンク144に回収液として純水を貯留することが望ましい。回収液タンク144は、装置本体10の外部から取り出し可能に構成されている。回収液の補充は、回収液タンク144を交換することにより行われる。
【0044】
電磁弁V1は、弁を開閉することにより、上流側流路143と回収液タンク144との接続、及び上流側流路143と迂回流路146との接続を切り替える。電磁弁V2は、弁を開閉することにより、回収液タンク144と下流側流路145との接続、及び迂回流路146と下流側流路145との接続を切り替える。電磁弁V3は、弁を開閉することにより、下流側流路145の開閉を切り替える。
【0045】
送液部14は、前記構成を備えることにより、ポンプ142から空気を送り込むことによって、回収液タンク144内に貯留された回収液を所定量だけ分析用カートリッジ30に送液することができる。
【0046】
図3は、廃液部15の構成を示す模式図である。廃液部15は、排出用ニップル151、流路152、及び廃液タンク153を備えている。排出用ニップル151は、カートリッジ配置部12に上方に向かって突出して設けられており、カートリッジ配置部12に分析用カートリッジ30を配置したとき、注入用ニップル141と共に分析用カートリッジ30を下方から支持する。送液部14から送られた回収液は、注入用ニップル141を介して分析用カートリッジ30内に取り込まれる。
【0047】
廃液タンク153は、排出用ニップル151と流路152を介して接続されており、排出用ニップル151から取り込まれた回収液の廃液が貯留される。廃液タンク153は、装置本体10の外部と接続可能に構成されており、装置本体10の外部に廃液を排出できるようになっている。
【0048】
図1に示すように、装置本体10は、グルコース検出部21、ナトリウム検出部22、表示部23、操作部24、及び制御部25を備えている。グルコース検出部21は、可動天板13の裏面(すなわち、可動天板13が凹部11に収納されたときにカートリッジ配置部12と対向する側の面)に設けられている。
【0049】
グルコース検出部21は、光を照射するための光源211と、光源211によって照射された光の反射光を受光するための受光部212とを備えている。これにより、グルコース検出部21は、カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30に対して光を照射すると共に、照射した分析用カートリッジ30からの反射光を受光できるように構成されている。分析用カートリッジ30には、グルコース酸化酵素や、該酸化酵素によって生成する過酸化水素の活性酸素と反応して発色する色素などの反応試薬(反応性物質)330が含まれている。グルコース検出部21は、このようなグルコースと試薬との化学反応による吸光度の変化を反射光により検出し、それによって、グルコースを定量分析する。
【0050】
ナトリウム検出部22は、カートリッジ配置部12の底面に設けられている。ナトリウム検出部22は、カートリッジ配置部12の底面に設けられた長方形状を有する板状の部材221を備え、この板状部材221の略中央には一対のナトリウムイオン濃度測定用電極222が設けられている。ナトリウムイオン濃度測定用電極222は、ナトリウムイオン選択膜を備えた銀/塩化銀からなるナトリウムイオン選択性電極と、対電極である銀/塩化銀電極とを含んでいる。
【0051】
板状部材221は、その表面が可撓性のある素材によって被覆されており、カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30が可動天板13によって押さえつけられたときに緩衝材としても機能する。板状部材221は、分析用カートリッジ30の下面に形成された凹部(第1連絡流路、ナトリウム検出用貯留部、及び第2連絡流路;後記の図6及び図7)と閉じられた空間を形成し、この空間は、液体が通過する流路として機能する。このため、液漏れを防止する観点から、分析用カートリッジ30と板状部材221とは、隙間なく接触することが好ましい。好ましい実施態様では、板状部材221の表面を可撓性のある素材によって被覆し、さらに、分析用カートリッジ30を可動天板13によって上方から押さえつけるように構成することにより、板状部材221と分析用カートリッジ30との密着性を向上させることができる。
【0052】
図1に示す表示部23は、装置本体10の筺体の上面に設けられており、液晶パネルを含んで構成されている。この表示部23は、操作時には使用者に対して操作画面を表示するとともに、測定が終了したときには、測定結果を表示するように機能する。
【0053】
図1に示す操作部24は、装置本体10の筺体の上面に設けられており、複数のボタンを含んで構成されている。使用者は、これらを操作することにより、制御部25へ測定開始やシャットダウンなどを指示することができる。
【0054】
図1に示す制御部25は、装置本体10の内部に設けられており、CPU、ROM、RAMなどからなる制御機構を備えている。CPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の動作を制御する。RAMは、ROMに記憶されたプログラムが実行される際のプログラムの展開領域として利用される。
【0055】
図1に示すように、分析キット20は、分析用カートリッジ30と、該分析用カートリッジ30に貼り付けられる組織液抽出用デバイス50とから構成されている。分析キット20は、分析に使用される前は、分析用カートリッジ30と組織液抽出用デバイス50とが別体として設けられており、分析に使用される際に組織液抽出用デバイス50が分析用カートリッジ30に貼り付けられる。
【0056】
図4は、組織液抽出用デバイス50が分析用カートリッジ30に貼り付けられた状態を示す斜視図である。図4に示すように、分析用カートリッジ30は、主にカートリッジ本体310と、グルコースとの反応試薬330とを備える。図4には、カートリッジ本体310の詳細な構造を省略して図示している。
【0057】
図5を参照しながら組織液抽出用デバイス50について説明する。図5(a)は、組織液抽出用デバイス50の構造を示す平面図である。図5(a)においては、組織液抽出用デバイス50の下面(図1において、皮膚に接している面)が露出した状態を示している。以下の説明においては、組織液抽出用デバイス50の皮膚と接する面を下面、その背面(反対面)を上面と称する。
【0058】
組織液抽出用デバイス50は、ヒドロゲル層501と粘着フィルム502とを備えており、ヒドロゲル層501が粘着フィルム502の略中央に保持された構造を有している。該粘着フィルム502は、支持体と粘着剤層とから構成されている。
【0059】
本発明の組織液抽出用デバイスは、
a)合成樹脂フィルムから形成された支持体、
b)粘着剤層、
c)親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層、及び
d)剥離層
が、この順で配置された多層構造を有するものである。
【0060】
該粘着剤層が疎水性ポリマーを基剤とする粘着剤から形成されたものである場合、該粘着剤層と親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層との間の密着性が不足することがある。このような場合には、該粘着剤層と該ヒドロゲル層との間に、両層との密着性が良好な材質の中間層を配置することができる。
【0061】
支持体は、一般に、柔軟性を有し、かつ、耐透湿性が良好な合成樹脂フィルムであることが望ましい。本発明の組織液抽出用デバイスにおいて、ヒドロゲル層は、皮膚を介して組織液を抽出し、所定時間にわたって抽出した組織液を採集する機能を有している。このため、ヒドロゲル層の反対面に存在する支持体には、ヒドロゲル層中の水分と採集した組織液成分とが蒸散しないだけの十分な耐透湿性を有することが求められる。支持体には、組織液抽出用デバイスを貼付する皮膚部位に対するクッション性と保護性とを有することが求められる。
【0062】
これらの観点から、支持体を形成する合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルムなどが好ましく、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリウレタンフィルムがより好ましい。合成樹脂フィルムの厚みは、好ましくは30〜250μm、より好ましくは40〜200μm、特に好ましくは50〜120μmの範囲内である。
【0063】
粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。本発明の組織液抽出用デバイスは、比較的長時間にわたって皮膚の表面に貼付されることが多いため、これらの粘着剤は、皮膚刺激性の少ないものが好ましい。皮膚刺激性が少ない点で、アクリル系粘着剤及びゴム系粘着剤が好ましく、アクリル系粘着剤がより好ましい。
【0064】
本発明で使用するアクリル系粘着剤は、アルキル基の炭素数が通常1〜18、好ましくは4〜12のアクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体である。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、アクリル酸アルキルエステル及び/またはメタクリル酸アルキルエステルを意味する。
【0065】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0066】
これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。(メタ)アクリル酸エステルの中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、及びアクリル酸イソノニルが好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、モノマーとして(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする共重合体であって、それによって、アクリル系粘着剤としての特性を発揮することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合割合は、好ましくは60〜98重量%、より好ましくは65〜97重量%、特に好ましくは70〜96重量%である。
【0068】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合するコモノマーとしては、官能基を有するビニルモノマーが好ましい。その具体例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの水酸基を有するアクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノブチルなどのカルボキシル基を有するビニルモノマー;アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのアミド基を有するビニルモノマー;ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ基を有するビニルモノマー;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基を有するビニルモノマー;N−ビニルピロリドンなどのピロリドン環を有するビニルモノマー;アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステル;が挙げられる。官能基を有するモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体中の官能基を有するモノマーの共重合割合は、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは2〜35重量%、特に好ましくは3〜30重量%である。
【0069】
その他のコモノマーとして、例えば、酢酸ビニルなどのビニルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;スチレンなどのビニル芳香族化合物;などが挙げられる。その他のコモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体中のその他のモノマーの共重合割合は、好ましくは0〜30重量%である。
【0070】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、一般に、モノマーをラジカル重合させることにより合成することができる。重合法としては、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法などが挙げられるが、良好な粘着特性が得られ易い点で、溶液重合法が好ましい。重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤;などが挙げられる。全モノマーに対して、0.1〜3重量%程度の割合でラジカル重合開始剤を加え、窒素気流下、40〜90℃程度の温度で、数時間から数十時間撹拌して共重合させる。溶液重合法では、溶媒として、酢酸エチル、アセトン、トルエン、これらの混合物などが用いられる。
【0071】
アクリル系粘着剤の重量平均分子量は、好ましくは300,000〜1,000,000、より好ましくは450,000〜650,000である。アクリル系粘着剤の重量平均分子量を上記範囲内とすることによって、凝集性、粘着性、他成分との混合作業性、他成分との親和性などをバランスさせることができる。アクリル系粘着剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により、標準ポリスチレン換算値として求めた値である。
【0072】
アクリル系粘着剤の凝集力を増大させるために、各種架橋剤を用いることができる。架橋剤としては、多官能イソシアネート化合物、多官能エポキシ化合物、多価金属塩などが挙げられる。アクリル系粘着剤に架橋剤を添加する場合、その使用割合は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.02〜2重量部、特に好ましくは0.03〜1重量部である。架橋剤の使用割合が過小であると、凝集力の向上効果が小さくなり、過大であると凝集力が増大しすぎる。
【0073】
本発明で使用するゴム系粘着剤としては、合成ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)などのゴム基剤に、粘着付与樹脂、軟化剤などを配合した組成物が挙げられる。これらのゴム基剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのゴム基剤の中でも、皮膚に対する感作性が少なく、かつ分子内に架橋点が存在するSIS、SBS、SEBSなどの熱可塑性エラストマーが好ましく、SISが特に好ましい。
【0074】
ゴム系粘着剤には、一般に、粘着力を高めるために粘着付与剤が配合される。粘着付与剤としては、例えば、C5石油樹脂、C9石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などを挙げることができる。粘着付与剤は、ゴム基剤100重量部に対して、通常50〜350重量部、好ましくは80〜300重量部、より好ましくは100〜250重量部の割合で使用される。ゴム系粘着剤には、必要に応じて、流動パラフィンなどの軟化剤、充填剤、酸化防止剤、架橋剤などを含有させてもよい。
【0075】
粘着剤の塗工は、リバースロールコータ、コンマロールコータ、バーコータなどの塗工装置により、有機溶剤や水を媒体とする粘着剤液を支持体層(合成樹脂フィルム)上に塗工する方法によって行うことができる。該粘着剤液を、シリコーン樹脂など離型剤を処理した上質紙、グラシン紙などの紙基材やポリエステルフィルムなどのシート上に塗工し、乾燥して粘着剤層を形成し、その後、該粘着剤層の上に支持体層(合成樹脂フィルム)を貼り合わせて、該粘着剤層を支持体層の片面上に転写してもよい。
【0076】
ゴム系粘着剤を用いる場合には、ゴム系粘着剤を加熱混練して溶融し、溶融物を支持体層(合成樹脂フィルム)上に塗工する。該溶融物を剥離紙上に塗工し、得られた塗膜上に支持体層(合成樹脂フィルム)を貼り合わせる方法を採用してもよい。塗工に際し、必要に応じて有機溶剤を用いて、ゴム系粘着剤を含有する溶液を塗工してもよい。
【0077】
このようにして、合成樹脂フィルムから形成された支持体の片面に、粘着剤層を配置する。粘着剤層の厚みは、通常10〜250μm、好ましくは15〜200μm、より好ましくは20〜150μmである。
【0078】
本件明細書において、「合成樹脂フィルム/粘着剤層」の層構成を有する多層フィルムを、単に、「粘着フィルム」と呼ぶことがある。該粘着フィルムの片面は、粘着剤層であるため粘着性を有し、その他面は、合成樹脂フィルムであるため粘着性を有しない。図5(b)に示すように、粘着フィルム502は、合成樹脂フィルムからなる支持体層502aと粘着剤層502bの2層構成を有している。
【0079】
本発明の組織液抽出用デバイスは、貯蔵中はもとより、皮膚の表面に貼付中にもヒドロゲル層から水分が蒸散しないものであることが望ましい。このため、粘着フィルム(支持体/粘着剤層)の面積は、ヒドロゲル層の面積(粘着剤層上に貼付する面積)の1.2〜30倍の大きさであることが好ましく、1.2〜20倍の大きさであることがより好ましく、1.5〜15倍の大きさであることが特に好ましい。このように、ヒドロゲル層は、その面積が粘着剤層(従って、支持体/粘着剤層)の面積よりも小さく、その周囲に粘着剤層が露出している。粘着剤層の露出面により、組織液抽出用デバイスを皮膚の表面に強固に密着させて固定することができる。
【0080】
粘着フィルム(支持体/粘着剤層)には、組織液抽出用デバイスを皮膚の表面に密着させる際の目印となるように、ノッチを形成することが望ましい。ノッチは、位置決めがし易いように、三角形や半円型の切り込みや凸部により形成される。図5(a)には、粘着フィルムの両辺に三角形の切り込みからなるノッチを形成した例が示されている。
【0081】
粘着フィルム(支持体/粘着剤層)の端部に、口取り部を形成することができる。本発明の組織液抽出用デバイスは、一般に、比較的小型であるため、使用時に、視認性を高めると共に、剥離層を剥離し易くするため、口取り部を設けることが望ましい。口取り部は、一般に、支持体に突状片として形成したものであるが、支持体の当該部分に粘着剤層を形成しない方法や、当該部分の粘着剤層上に更にフィルムまたは粘着フィルムを配置して非粘着化させる方法で形成してもよい。
【0082】
口取り部は、大きいほど剥離層からの剥離し易さが向上するので好ましいが、あまり大きすぎると、粘着フィルムと剥離層との間の密封性を低下させて、その中間に挟まれたヒドロゲル層中の水分が蒸散する原因となる。このため、口取り部の面積は、粘着フィルムの面積の30%以下とすることが望ましい。例えば、縦30mmで、横30mmの粘着フィルム(支持体/粘着剤層)を用いる場合には、口取り部の幅は、粘着フィルムの端部から2〜5mm、好ましくは3〜4mmの範囲内とすることが好ましい。口取り部は、1片でもよく、2片以上や全周を囲んで設けてもよい。口取り部は、青色などの各種色調に着色することもできる。
【0083】
粘着剤層とヒドロゲル層との間に配置される中間層は、任意の層であり、必要な場合に設けることができる。中間層は、粘着剤層とヒドロゲル層との間の密着性を高めて、一体化するための層である。特に、支持体層の片面に疎水性の粘着剤、例えばアクリル系粘着剤からなる粘着剤層が配置されている場合には、中間層を介在させることにより、疎水性の粘着剤層と親水性のヒドロゲル層とを強固に密着させることができる。中間層に用いる材料としては、各種不織布またはフィルムを挙げることができる。ヒドロゲル層とのなじみの良さや、透明性などの観点から、中間層としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)不織布とPETフィルムとのラミネート品やポリエチレンフィルムが好ましい。ポリエチレンフィルムは、柔軟性の点でも好ましい。中間層の面積(粘着剤層と接触する面積)は、ヒドロゲル層の面積とほぼ等しいことが好ましい。
【0084】
ヒドロゲル層は、粘着剤層の表面に、直接または中間層を介して配置される。該ヒドロゲル層は、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)及びポリビニルピロリドン(以下、「PVP」と略記することがある)からなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層である。ヒドロゲル層を形成する親水性ポリマーは、PVA単独またはPVP単独であってもよく、両者の混合物であってもよい。親水性ポリマーは、PVA単独またはPVAとPVPとの混合物であることが好ましい。
【0085】
ヒドロゲルは、親水性ポリマーを水溶液中で架橋する方法により形成することができる。ヒドロゲル層は、親水性ポリマーの水溶液を基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜中に含まれる親水性ポリマーを架橋する方法により形成することができる。親水性ポリマーの架橋法としては、化学架橋法や放射線架橋法などがあるが、ヒドロゲル層中に各種化学物質が不純物として混入し難い点で、放射線架橋法を採用することが望ましい。
【0086】
本発明の組織液抽出用デバイスに配置されるヒドロゲル層は、実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、離水の発生がないものである。ヒドロゲル層は、皮膚を介して組織液を抽出し採集する機能を有しているが、その浸透圧を高めることにより、該機能を向上させることができる。このため、ヒドロゲル層の作製時に、親水性ポリマー水溶液中に浸透圧制御剤を含有させることが望ましい。塩化ナトリウム(NaCl)などの電解質は、従来、ヒドロゲル層に導電性を付与するために用いられているが、浸透圧制御剤としても作用する。
【0087】
しかし、NaClを含有するヒドロゲル層を使用すると、皮膚を介して抽出し採集した組織液中の微量なナトリウムイオン量を正確に定量することが困難となる。ヒドロゲル層により組織液を抽出するには、一般に、皮膚の表面から角質層にかけて微細孔を形成する必要がある。ヒドロゲル層により抽出され、該ヒドロゲル層中に採集される組織液中のグルコース濃度は、微細孔の孔径と数と深さ、及び皮膚の測定箇所などによって変動する。ナトリウムイオンを実質的に含有しないヒドロゲル層を用いることにより、組織液の抽出のために皮膚に形成した微細孔の状態を正確にモニタリングすることができる上、採集した組織液中の微量なナトリウムイオンを正確に定量することができる。さらに、組織液中のナトリウムイオン濃度とグルコース濃度を測定し、これらの測定値に基づいて、血液中のグルコース濃度や血糖AUC値に相当する値を正確に測定することができる。
【0088】
このため、ヒドロゲル層には、ナトリウムイオンを実質的に存在させないことが好ましい。本発明のヒドロゲル層のナトリウムイオンの許容可能な含有量は、上述したナトリウムイオン濃度の測定値を用いてグルコース濃度の測定値から血中グルコース濃度を求める際の誤差を5%以下に抑える観点から、重量基準で30ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。本発明のヒドロゲル層のナトリウムイオンの含有量の下限値は、ゼロである(測定限界値)。本発明において、実質的にナトリウムイオンを含有しないこととは、典型的には、ヒドロゲル層中のナトリウムイオン濃度が重量基準で30ppm以下であることを意味する。
【0089】
ヒドロゲル層には、浸透圧制御剤として、ナトリウムイオンを実質的に含有せず、且つ、分析対象のグルコースと類似しない化合物(非糖類)を含有させることが組織液の抽出効率を高める観点から好ましい。このような浸透圧制御剤としては、生体に対する安全性の観点から、例えば、アンモニア、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム等の無機系浸透圧制御剤;アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等のアミノ酸(有機系浸透圧制御剤);チアミン、リボフラビン、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸等の水溶性ビタミン(有機系浸透圧制御剤);トリシン、尿素、酢酸等の他の有機系浸透圧制御剤;を使用することができる。これらの浸透圧制御剤の中でも、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、アミノ酸、尿素、酢酸、アンモニア、トリシン、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましく、塩化カリウム、尿素、グリシン、アラニン、及びプロリンが特に好ましい。
【0090】
これらの化合物は、架橋前の親水性ポリマー水溶液中に含有させておく。他方、架橋前の親水性ポリマー水溶液中に、これらの化合物を含有させると、放射線の照射による架橋反応が阻害される傾向にある。このため、該浸透圧制御剤は、浸透圧モル濃度が0.05〜0.94オスモルの範囲内となる割合で親水性ポリマー水溶液中に含有させることが好ましい。
【0091】
浸透圧の大きさは、溶質を構成する物質の大きさや性質によらず、粒子数のみに依存する。このような物理的性質は、束一性と呼ばれている。この束一性に着目して、溶質の濃度を示す指標として浸透圧モル(Osm)が用いられている。浸透圧モルは、浸透圧モル濃度の単位であり、溶質1モル(mole)/溶媒1リットル(L)の濃度をもつ非解離性物質の理想溶液と浸透圧が等しい溶液の浸透圧モル濃度に等しい。
【0092】
実際の浸透圧濃度は、溶液中に含まれる各分子の濃度の和に基づいて求めることができる。このため、塩化カリウム(KCl)などの浸透圧制御剤の濃度(重量%)に基づいて、浸透圧モル濃度〔mole/L=オスモル(Osm)〕を算出することができる。例えば、10mM(ミリモラー)のKClは、水溶液中でKClがカリウムイオンと塩化物イオンとに解離し、粒子数が2倍となるため、その浸透圧モル濃度は、20ミリオスモルとなる。解離性のKClを10mMと非解離性の尿素を5mMとで併用する場合、浸透圧モル濃度は、10×2+5=25ミリオスモルとなる。
【0093】
浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度は、好ましくは0.05〜0.94オスモル、より好ましくは0.10〜0.90オスモル、特に好ましくは0.20〜0.80オスモルの範囲内である。浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度が低すぎると、ヒドロゲル層の組織液の抽出効率が低下し、高すぎると親水性ポリマー水溶液の放射線照射による架橋反応が阻害される傾向にある。ただし、ヒドロゲル層の大きさや皮膚面への貼付時間などを調節することにより、浸透圧制御剤を使用することなく、組織液抽出用デバイスの抽出機能を発揮させることもできる。
【0094】
図5に示すヒドロゲル層501は、透過性向上処理により角質層に形成した微細孔を通じて、組織液を連続的に抽出し、血糖AUC値に相当する値を得ることを主目的としている。グルコース濃度は、血糖値だけでなく、形成された微細孔の大きさや深さなどによっても影響を受ける。前述したとおり、角質層に設けた微細孔の状態により採取される組織液の量が異なるため、単に採取した組織液中のグルコース量を測定しただけでは、血液中グルコース濃度や血糖AUC値を正確に算出することができない。この課題を解決するには、グルコースと同時にナトリウムイオンを採取して、ナトリウムイオン量を測定することにより、組織液の採取量の規格化を行う方法が有効である。このため、ヒドロゲル層501は、実質的にナトリウムイオンを含まないものであることが望ましい。
【0095】
精度の高い測定を行うには、グルコース測定センサーの測定下限値を上回るグルコース量を皮下より採取しなければならない。ヒドロゲル層501中にKClなどの浸透圧制御剤を添加すると、ヒドロゲル層501の浸透圧は、生体の組織液がもつ浸透圧よりも大きくなり、組織液の抽出効率が高くなる。このため、ヒドロゲル層には、KClなどの浸透圧制御剤を含有させることが望ましい。もちろん、浸透圧制御剤を含有させなくても、水分を十分な量で含有し、実質的にナトリウムイオンを含有しないヒドロゲル層であれば、グルコースを含む組織液の抽出を行うことは可能である。
【0096】
グルコース濃度をナトリウムイオン濃度に基づいて補正する意義を説明する。グルコースは、組織液中に含まれた状態でヒドロゲル層中に蓄積される。他方、体外に滲出する組織液の量は、角質層に設けた微細孔の状態に応じて変動するため、微細孔の形成状態を加味してグルコースを定量する必要がある。ナトリウムイオンは、体内において実質的に一定濃度で存在していると推定されるため、所定の抽出時間経過後にヒドロゲル層中に蓄積されたナトリウムイオンの濃度は、例えば、微細孔の孔径が大きければ高くなり、微細孔の孔径が小さければ低くなる。すなわち、抽出される組織液中のナトリウムイオン濃度は、微細孔の形成状態を反映している。
【0097】
本発明のヒドロゲル層は、通常、放射線の照射により架橋して得られたものである。放射線照射架橋法によれば、化学架橋法とは異なり、架橋剤などの化学物質を使用しないため、非常にクリーンなヒドロゲルを得ることができる。放射線の照射による架橋は、親水性ポリマー水溶液を基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜に放射線を照射する方法により実施することができる。複数のロール群を用いて基材を走行させ、その上で親水性ポリマー水溶液の塗工と塗膜の放射線照射架橋を行うと、シート状のヒドロゲル層を連続的に作製することができる。このため、放射線の照射による架橋法を採用すると、ヒドロゲル層の連続的な大量生産が可能である。
【0098】
架橋前のポリビニルアルコール(PVA)は、ケン化度が通常78〜100モル%、好ましくは97〜100モル%の範囲内で、平均重合度が500〜4,000、好ましくは1,000〜3,000、より好ましくは1,200〜2,500の範囲内である。PVAのケン化度が低すぎると、架橋反応が十分に進行しなかったり、得られるヒドロゲル層の組織液抽出性が低下したりする。PVAの平均重合度が低すぎると、PVA水溶液の粘度が低くなりすぎて、該PVA水溶液を基材上に塗工した際に、はじきが生じたり、厚みが均一にならないなどの問題が生じることがある。PVAの平均重合度が高くなりすぎると、水に対する溶解度が低下して、適度の濃度の水溶液を調製することが困難となる。
【0099】
PVA水溶液の調製時に加熱・攪拌すれば、平均重合度が高いPVAを用いた場合でも、適度の濃度を有するPVA水溶液を得ることができるが、熱劣化や黄変が生じ易くなる。PVAのケン化度と平均重合度は、この技術分野における常法に従って、測定することができ、市販品の場合には、カタログ値(表示値)を用いることができる。
【0100】
PVA水溶液中のPVA濃度は、好ましくは7〜30重量%、より好ましくは7〜20重量%、特に好ましくは7.5〜15重量%の範囲内である。多くの場合、PVA濃度を9〜15重量%の範囲内とすることにより、良好な結果を得ることができる。
【0101】
PVA水溶液中のPVA濃度が低すぎると、該PVA水溶液を基材上に塗工した際、はじきを生じたり、厚みの均一な塗膜を形成することが困難となったりする。PVA濃度が低すぎると、前記の如き問題に加えて、ヒドロゲル層とヒトの皮膚の等張化に必要とされる量の浸透圧制御剤(例えば、80mMのKCl)をPVA水溶液中に添加した場合、放射線の照射による架橋が阻害される傾向が強くなる。
【0102】
PVA水溶液中のPVA濃度が高すぎると、該PVA水溶液の粘度が高くなりすぎて、塗工時にPVA水溶液を加熱して低粘度化する必要があり、それによって、熱劣化や黄変が生じ易くなる。PVA濃度が高すぎると、前記の如き問題に加えて、放射線の照射による架橋後に、十分な含水率のヒドロゲルを得ることが困難となる。
【0103】
ポリビニルピロリドン(PVP)は、重量平均分子量が20,000〜150,000、好ましくは25,000〜120,000の範囲内である。PVP水溶液中のPVP濃度は、好ましくは7〜30重量%、より好ましくは7〜20重量%、特に好ましくは7.5〜15重量%の範囲内である。多くの場合、PVP濃度を9〜15重量%の範囲内とすることにより、良好な結果を得ることができる。
【0104】
PVPは、単独で使用することができるが、PVAと混合して用いることが好ましい。PVA:PVPの重量比は、通常9:1〜1:9、好ましくは8:2〜2:8、より好ましくは8:2〜5:5の範囲内である。
【0105】
PVA及び/またはPVPからなる親水性ポリマーを用いてヒドロゲル層を形成するには、親水性ポリマー水溶液を基材上に塗工し、得られた塗膜に放射線を照射して親水性ポリマーの架橋を行う。基材としては、ガラス、合成樹脂フィルムなど、親水性ポリマー水溶液を塗工して塗膜を形成することができるものであればよく、特に限定されない。基材として放射線透過性の合成樹脂フィルムを使用すると、基材の上側からだけではなく、下側からも放射線を照射することができる。
【0106】
本発明で使用する放射線とは、α線(α崩壊を行う放射性核種から放出されるヘリウム4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子及び陽電子)、電子線(ほぼ一定の運動エネルギーを持つ電子ビーム;一般に、熱電子を真空中で加速してつくる)などの粒子線;γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移や素粒子の対消滅、対生成などによって放出・吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線;を意味する。本発明において、放射線には、紫外線は含まれないものとする。本発明において、ヒドロゲル層の製造工程での作業性、取扱性などの観点から、放射線の中でも、電子線及びγ線が好ましく、電子線がより好ましい。
【0107】
電子線の照射は、汎用の電子線照射装置を用いて行うことができるが、その反面、ヒドロゲル層の製造には、電子線照射装置の特性による制約を受けることになる。例えば、加速電圧が300kVの電子線照射装置を用いて、PVA水溶液の塗膜に電子線を照射したとき、表面の吸収線量を100%とすると、300μmの深部では、約50%まで相対線量が減衰する。加速電圧が800kVの電子線照射装置では、2,500μmの深部での相対線量は、約30%にまで減衰する。加速電圧と相対線量の減衰との関係は、直線的な比例関係ではない。深部での相対線量が減衰すると、そこでの電子線照射による架橋効果が低下する。均一な架橋を行うには、高い相対線量が得られるような加速電圧で照射するか、塗膜の厚みを調整することが望ましい。
【0108】
電子線の照射線量は、5〜20,000kGyの範囲から選択することが好ましい。電子線の照射線量の最適値は、加速電圧と被照射物の特性などに依存して大きく異なる。例えば、加速電圧200kVの電子線では、照射線量を40kGyとし、その後、γ線を25kGy照射することで、良好なヒドロゲル層を形成することができる。
【0109】
照射線量は、ヒドロゲル層の架橋密度に関係する。照射線量が大きいほど、架橋密度が大きくなる。加速電圧が200kVから10MVの範囲内で、かつ、照射線量が5〜20,000kGyの範囲内の電子線を照射して架橋することが好ましい。照射線量は、加速電圧や塗膜の厚みにもよるが、加速電圧が200〜800kVで、塗膜の厚みが70〜500μm程度である場合には、好ましくは15〜3,000kGy、より好ましくは20〜2,000kGyである。電子線の照射は、オゾンの発生を避けたり、反応効率を上げたりするために、一般に、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0110】
親水性ポリマー水溶液の塗膜の厚みが厚い場合には、加速電圧を上げたり、照射線量を増大させたりすることができる。基材上に親水性ポリマー水溶液を塗工し、形成された塗膜に放射線を照射して架橋させ、次いで、架橋により得られたヒドロゲル層の上に新たな親水性ポリマー水溶液の塗膜を形成し、該塗膜に放射線を照射する方法を必要回数採用すれば、所望の合計厚みのヒドロゲル層を形成することができる。
【0111】
塩化カリウム、尿素、グリシン、アラニン、及びプロリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の浸透圧制御剤を使用する場合、放射線の照射による架橋反応が阻害されることのないように、親水性ポリマー濃度と浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度との関係を制御することが好ましい。親水性ポリマー水溶液の塗膜の架橋反応が阻害されるか否かは、得られるヒドロゲル層に離水現象が観察されるか否かによって判定することができる。ヒドロゲル層に離水がない場合、十分な架橋反応が生じていると判定することができる。
【0112】
ヒドロゲル層の離水現象の有無は、縦7mm×横12mm×厚み700μmの大きさに切り出したヒドロゲル層を、温度23℃、相対湿度55%の恒温高湿槽内で、平坦な状態に保持したポリエステルフィルム上に1分間載置し、該ヒドロゲル層の表面と周辺に離水が観察されるか否かを観察することによって判定することができる。ヒドロゲル層の離水が観察されないことは、放射線の照射による架橋反応が阻害されていないことを意味している。
【0113】
ヒドロゲル層に離水が観察されないことの基準として、親水性ポリマー濃度と浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度との関係を制御することが好ましい。より具体的には、親水性ポリマー濃度を7〜30重量%の範囲内とし、塩化カリウム、尿素、グリシン、アラニン、及びプロリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる浸透圧制御剤を浸透圧モル濃度が0.05〜0.94オスモルの範囲内となる量比で含有し、かつ、実質的にナトリウムイオンを含有しないようにした親水性ポリマー水溶液を使用する。該親水性ポリマー濃度をb重量%とし、該浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度をaオスモルとしたとき、下記関係式(A)
a≦0.1b−0.6 (A)
で表わされる関係を満足する親水性ポリマー水溶液の塗膜に、放射線を照射して架橋することにより、架橋反応の阻害のないヒドロゲル層を形成することができる。放射線としては、α線、β線、及びγ線からなる群より選ばれる一種の放射線を利用することができる。
【0114】
図19は、本件明細書の実施例1〜9と比較例1〜4により得られた実験データに基づいて作成したグラフである。このグラフの横軸は、PVA水溶液中のPVA濃度(b重量%)であり、縦軸は、KClの濃度(重量%)から算出される浸透圧モル濃度(aオスモル)である。電子線の照射により得られたヒドロゲル層に離水が観察されない場合(すなわち、電子線の照射による架橋反応が十分な場合)と離水が観察された場合を斜線によって区分けした。この斜線の下側が、上記関係式(A)を満足する領域を示す。PVA濃度(b)は、7〜30重量%の範囲内であり、KClの浸透圧モル濃度(a)は、0.05〜0.94オスモルの範囲内である。
【0115】
尿素、グリシン、アラニン、及びプロリンは、本発明のヒドロゲル層に対する浸透圧制御剤としての機能の面では、KClと実質的に等価であると評価される。このことは、図20及び図21の実験結果から明らかである。図20は、塩化カリウム(KCl)、尿素(Urea)、及びグリシン(Glycine)について、浸透圧モル濃度(オスモル)と組織液抽出促進効果との関係を示すグラフである。図21は、塩化カリウム(KCl)、アラニン(Alanine)、及びプロリン(Proline)について、浸透圧モル濃度(オスモル)と組織液抽出促進効果との関係を示すグラフである。
【0116】
組織液抽出量は、経皮的にリザーバー内に採集したグルコース量を指標として表すことができる。ヒトの上腕の皮膚に角質層に到達する微細孔を形成し、その上にリザーバー(具体的には、実質的にNaを含まない7mm×12mmのPVAゲル層とPEフィルム支持体層から形成された大きさが28mm×28mmのゲルリザーバーを用いた)を置いた。前記3種類の浸透圧制御剤の組織液抽出促進効果を評価するために、以下の手順で組織液の抽出を行った。
【0117】
手順1:リザーバーの中に、逆浸透法(Reverse Osmosis)により精製した浸透圧モル濃度が実質的にゼロの水(以下、「RO水」ということがある)を入れて、所定時間をかけて組織液の抽出を行う。
【0118】
手順2:リザーバーの中に、各種浸透圧モル濃度(例えば、0.3、0.6、1.2、2.5、及び5.0オスモル)の溶液で順番に満たし所定時間をかけて組織液の抽出を行う。
【0119】
手順3:最後に、リザーバーの中に、RO水を入れて、所定時間をかけて組織液の抽出を行う。
【0120】
リザーバー内に採集した組織液中のグルコース濃度を、周知のグルコース酸化酵素を用いた酵素法により測定する。グルコース濃度の測定値からリザーバー内に含まれるグルコースの総量(単位=ng)を算出する。このグルコース総量を抽出時間(単位=min)で割って、グルコース抽出速度(単位=ng/min)を算出する。浸透圧制御剤の各浸透圧モル濃度でのグルコース抽出速度をxとし、前記の手順1及び3のRO水を用いたときのグルコース抽出速度の平均値をyとすると、下記式(B)
組織液抽出促進効果=x/y (B)
により、各浸透圧制御剤の組織液抽出促進効果を算出することができる。
【0121】
図20に示されている結果から明らかなように、尿素及びグリシンは、KClと実質的に同じ組織液抽出促進効果を示すことが分かる。したがって、KClに代えて、それと同効の尿素及びグリシン等の低分子有機化合物も浸透圧制御剤として使用できることが理解できる。また、図21に示されている結果から明らかなように、アラニン及びプロリンは、KClと実質的に同じ組織液抽出促進効果を示すことが分かる。したがって、KClに代えて、それと同効のアラニン及びプロリン等の低分子有機化合物も浸透圧制御剤として使用できることが理解できる。
【0122】
ヒドロゲル層の含水率は、高いほど良好な組織液抽出効率を示す。他方、本発明の組織液抽出用デバイスの皮膚面への適用性、皮膚表面からの剥離性、測定時の物理的強度などの観点から、ヒドロゲル層の含水率を過度に高くすることは好ましくない。ヒドロゲルの含水率は、好ましくは70〜95重量%、より好ましくは80〜93重量%、特に好ましくは84〜92重量%の範囲内である。
【0123】
組織液中のグルコースとナトリウムイオンを効率良く抽出するために、ヒドロゲル層の膨潤率は、100〜300%の範囲内とすることが好ましい。ヒドロゲル層の膨潤率とは、ヒドロゲル層を生理食塩水中に24時間浸漬した後の重量を生理食塩水に浸漬する前の重量で割った値を100倍した数値である。
【0124】
組織液抽出前のヒドロゲル層には、ナトリウムイオンが実質的に存在しないことが、組織液抽出物の測定を行う上で有効である。このため、ナトリウムイオンを実質的に含有しない材料を用いてヒドロゲル層を形成する。PVAを製造する場合、一般的には酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルを塩化ナトリウム等の塩で鹸化(けんか)して得ることができる。そのため、通常市販により入手可能なPVAを水溶液に溶解後、電子線を照射して架橋したPVAのヒドロゲルは、ナトリウムイオンが含まれることになる。その他、何らかの原因で、ヒドロゲル層に有意量のナトリウムイオンが含有されている場合には、ヒドロゲル層をPVA溶液を作製する際に用いた溶液につけ、攪拌することにより、ヒドロゲル層中のナトリウムイオン含有量を減少させることができる。
【0125】
ヒドロゲル層に柔軟性を付与するため、ヒドロゲル層の製造工程において、親水性ポリマー水溶液に、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)のような可塑剤を含有させることができる。ヒドロゲル層には、放射線の照射による架橋の阻害とならない程度の量比で、抗菌剤のような薬理活性物質を含ませることもできる。ヒドロゲル層にグルコース酸化酵素などの組織液成分を代謝する酵素を含有させると、組織液成分を安定的に採集することが困難となる。このため、本発明で使用するヒドロゲル層は、グルコース酸化酵素などグルコースと反応する酵素を実質的に含有しないことが好ましい。
【0126】
ヒドロゲル層の厚みは、通常、50μmから1.5mm、好ましくは100μmから1mm、より好ましくは300〜900μmの範囲内である。ヒドロゲル層の厚みが厚すぎると、組織液抽出用デバイスの適用時に皮膚へのストレスが大きくなるため、該ヒドロゲル層が皮膚に接触した部分に圧迫痕が残ったり、剥離層と粘着フィルム(支持体/粘着剤層)との間に隙間ができてヒドロゲル層中の水分が蒸散したりするなどの不都合が生じ易くなる。ヒドロゲル層の厚みが薄すぎると、抽出グルコースの逆流が発生してしまい、分析に必要な量のグルコースを含有する組織液を十分に採集することができなくなる。
【0127】
ヒドロゲル層を所望の厚みにするために、ヒドロゲル層を多層化することも可能である。ヒドロゲル層の多層化は、複数個のヒドロゲル層を積層する方法や、放射線照射工程で、親水性ポリマー水溶液の塗膜に放射線を照射してヒドロゲル層を形成し、次いで、該ヒドロゲル層上に親水性ポリマー水溶液を塗工して塗膜を形成し、該塗膜に放射線を照射する方法を採用することができる。後者の方法は、2回以上繰り返すことにより、各ヒドロゲル層が均一に架橋した多層のヒドロゲル層を形成することができる。
【0128】
ヒドロゲル層の皮膚面に接触する部分は、測定機器によって適宜変更が可能であるが、一般に、長辺が5〜15mmで、短辺が3〜10mmであることが好ましい。ヒドロゲル層の皮膚との接触面積は、マイクロニードル穿刺部の面積(微細孔の面積)を100%としたとき、50〜200%、好ましくは100〜200%とし、穿刺部をカバーできるように調整する。
【0129】
ヒドロゲル層は、粘着フィルム(支持体/粘着剤層)の略中心に配置させる。ヒドロゲル層は、組織液の抽出が終了するまでの間、粘着フィルム上に保持されるように、投錨性が良好であることが望まれ、その一方で、抽出終了後には、皮膚面から容易に剥離できることが望ましい。
【0130】
剥離層としては、シリコーン樹脂などの離型剤で処理した上質紙やグラシン紙などの紙基材や、ポリエステルフィルムなどのシートが挙げられる。剥離層としては、一般に、剥離紙や剥離ライナーとして粘着テープの技術分野で用いられているものを使用することができる。剥離層により、粘着剤層(粘着剤層の露出面)とヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する。
【0131】
本発明の組織液抽出用デバイスは、ヒドロゲル層の周囲に粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものである。ヒドロゲル層の面積は、皮膚面へ接触する面積と同じである。このように、本発明の組織液抽出用デバイスは、皮膚に接着可能な接着面をヒドロゲル層の周囲に設けた構成によって、容易に皮膚に接着させることができるので、ベルトなどの装着器具を用いることなく、所望の皮膚面に固定することができる。これにより、本発明の組織液抽出用デバイスは、使用者の負担を軽減することができる。
【0132】
図5(a)に示す粘着フィルム502は、粘着性を有する下面(粘着剤層)と粘着性を有さない上面(合成樹脂フィルムからなる支持体層)とを有し、水分を透過させない性質を有している。粘着フィルム502は、代表的には、28mm×28mmの大きさからなる略正方形の形状を有している。粘着性を有する下面は、被験者の皮膚及びカートリッジ本体310に対して粘着性を有する。ヒドロゲル層501は、粘着フィルム502の略中央に、該粘着フィルム502の下面に粘着することにより保持されている。
【0133】
粘着フィルム502は、粘着性を有する面(粘着剤層)を有することにより、ヒドロゲル層501を保持することができ、かつ、該ヒドロゲル層501を保持した状態で皮膚に接着することができる。粘着フィルム502が水分を透過させない素材からなることにより、ヒドロゲル層501に含まれる水分や採集された組織液中の水分の蒸散を防ぐことができる。このため、ヒドロゲル層501による組織液の採集の間に、該ヒドロゲル層501中の水分が蒸発して皮膚と接触する面積が変化することを防止することができ、組織液の抽出効率のバラツキを防止することができる。
【0134】
粘着フィルム502は、上記大きさの面積を有することにより、組織液抽出用デバイスがカートリッジ本体310のゲル収容部311内に配置されたとき、ゲル収容部311(図6参照)の開口から液が漏れないよう、開口を閉塞することができる。粘着フィルム502には、皮膚面に貼付する際の位置決めのためのノッチ505,505を設けることができる。粘着フィルム502には、口取り部(図示せず)を設けることもできる。
【0135】
図5(b)は、組織液抽出用デバイス50の使用前の状態を示す断面図である。粘着フィルム502は、合成樹脂フィルムから形成された支持体層502aと粘着剤層502bとから構成されている。粘着フィルム502は、使用前の状態においては、粘着層502bの露出面により剥離層503に粘着されている。剥離層503は、使用の際に剥離すると、ヒドロゲル層501とその周囲の粘着剤層502bが露出するように構成されている。剥離層503を取り除いた組織液抽出用デバイスを、そのヒドロゲル層501の表面と粘着剤層502bの露出面とで、皮膚面に密着させる。
【0136】
分析用カートリッジ30の構造と機能について、さらに詳細に説明する。図4に示すように、分析用カートリッジ30は、カートリッジ本体310と、グルコースとの反応試薬330とを備えている。グルコースとの反応試薬330は、グルコースに対する触媒となる酵素〔例えば、グルコースオキシダーゼ(「GOD」と略記)〕、グルコースとGODとの反応により生成する過酸化水素(H)に対する触媒となる酵素〔ペルオキシダーゼ(「POD」と略記)〕、及びPODが存在することによってHから生成する活性酸素(O)と反応する発色色素のテトラメチルベンジジン(3,3′,5,5′−Tetramethylbenzidine)などの反応試薬を含んでいる。グルコースとの反応試薬330は、カートリッジ本体310に設けられた試薬保持部314(図6)に嵌め込み可能な大きさと形状を有している。
【0137】
カートリッジ本体310は、アクリル樹脂などのを顔料により着色した、例えば黒色の合成樹脂から形成された長方形の板である。カートリッジ本体310は、例えば、縦24mm×横56mm×厚み3mmの長方形の板からなり、その表面に形成された凹部(図6の試薬保持部314)内に、グルコースとの反応試薬330が嵌め込まれる。カートリッジ本体310の表面には、組織液抽出用デバイス50のヒドロゲル層501を収容するための凹部(図6のゲル収容部311)が形成されている。組織液抽出用デバイス50は、そのヒドロゲル層501を凹部内に収容すると共に、粘着剤層によってカートリッジ本体310の表面に接着する。組織液抽出用デバイス50を接着するカートリッジ本体310の面(図4において露出している面)を上面、その背面を下面と称する。以下、カートリッジ本体310の構造を、図6及び7を参照しながら、より詳細に説明する。
【0138】
図6及び7は、カートリッジ本体310の平面図である。図6には、カートリッジ本体310の上面の構造を実線で、下面の構造を破線で示している。図7には、カートリッジ本体310の下面の構造を実線で、上面の構造を破線で示している。
【0139】
図6及び7に示すように、カートリッジ本体310には、上面から視認できる構造として、ゲル収容部311、導入孔312、上流側連絡孔313、反応試薬保持部314、排出用流路317、下流側連絡孔315、及び排出孔316が設けられている。カートリッジ本体310には、下面から視認できる構造として、第1連絡流路321、ナトリウム検出用貯留部322、及び第2連絡流路323が設けられている。これら各部は、凹部や貫通孔である。このため、カートリッジ本体310は、射出成型などにより、合成樹脂を一体成型することによって作製することができる。
【0140】
カートリッジ本体310は、分析装置本体10のカートリッジ配置部12に配置したとき、導入孔312から排出孔316に至る一つの流路を形成する。導入孔312は、カートリッジ本体310の上面から下面にかけて貫通する円形の孔であり、その直径を例えば0.7mmとすることができる。導入孔312は、分析装置本体10のカートリッジ配置部12にカートリッジ本体310を配置したときに、カートリッジ配置部12に設けた注入用ニップル141が鉛直方向直下に位置するように設けられている。これにより、カートリッジ本体310をカートリッジ配置部12に配置したときに、注入用ニップル141から導入孔312を介して回収液がゲル収容部311内に注入される。
【0141】
ゲル収容部311は、カートリッジ本体310の上面に形成された長方形の凹部であり、例えば、14mm(長辺)×9mm(短辺)×2mm(深さ)の大きさを有している。導入孔312は、ゲル収容部311の底面に設けられている。ゲル収容部311は、例えば、上記の如き大きさを有することにより、組織液抽出用デバイス50に保持された12mm(長辺)×7mm(短辺)×0.7mm(厚み)の大きさからなるヒドロゲル層501を収容することができる。
【0142】
ゲル収容部311には、組織液抽出用デバイス50に保持されたヒドロゲル層501が収容される。具体的には、組織液抽出用デバイス50をゲル収容部311に配置することにより、組織液抽出用デバイス50の粘着フィルム502がゲル収容部311の周縁に粘着し、保持されたヒドロゲル層501が、ゲル収容部311に宙吊りの状態で収容される。
【0143】
ゲル収容部311の底面であって、導入孔312の対角線上の位置には、ゲル収容部311の底面より深く陥没した段部318と、上流側連絡孔313とが設けられている。上流側連絡孔313は、カートリッジ本体310の上面から下面にかけて貫通する直径が例えば1.5mmの円径の孔からなる。
【0144】
図7に示すように、上流側連絡孔313は、下面に形成された深さが例えば約0.5mmの溝からなる第1連絡流路321の底面に開口している。第1連絡流路321は、カートリッジ本体310の長辺方向に水平に延在しており、カートリッジ本体310の下面の略中央に形成されたナトリウム検出用貯留部322に繋がっている。
【0145】
ナトリウム検出用貯留部322は、深さが例えば約1.5mmの円形の溝からなる。ナトリウム検出用貯留部322は、分析用カートリッジ30を分析装置本体10のカートリッジ配置部12に配置したとき、カートリッジ配置部12の底面に設けられたナトリウム検出部22の鉛直方向直上に位置するように設けられている。より詳しくは、ナトリウム検出用貯留部322は、板状部材221とナトリウム検出用貯留部322とによって囲まれる空間に、ナトリウム検出部22のナトリウムイオン濃度測定用電極222が位置するように設けられている。
【0146】
ナトリウム検出用貯留部322は、深さが例えば約0.5mmの溝からなる第2連絡流路323に繋がっている。第2連絡流路323は、ナトリウム検出用貯留部322を始点として、段部を介してカートリッジ本体310の短辺方向に水平に延びたのち、90度方向を変えて長辺方向に水平に延び、さらに内側に約45度方向を変えて水平に延びている。第2連絡流路323の末端の底部には、下流側連絡孔315が形成されている。下流側連絡孔315は、カートリッジ本体310の上面から下面にかけて貫通する直径が例えば0.7mmの円形の孔からなる。
【0147】
図6に示すように、カートリッジ本体310の上面には、試薬保持部314が設けられている。試薬保持部314は、カートリッジ本体310の上面に形成された深さが例えば約1mmの凹部からなる。試薬保持部314は、カートリッジ本体310の長辺方向に長い略長方形状に形成されている。
【0148】
試薬保持部314には、試薬保持部314より深く形成された溝からなる排出用流路317が設けられている。この排出用流路317の底面に、下流側連絡孔315が開口している。排出用流路317は、試薬保持部314の底面から深さ約1.5mmを有する溝からなる。排出用流路317は、下流側連絡孔315が開口している位置を始点として、カートリッジ本体310の短辺方向に水平に延びたのち90度角度を変えて長辺方向に水平に延び、さらに90度角度を変えて短辺方向に水平に延びたのち90度角度を変えて長辺方向に水平に延びている。排出用流路317の末端には、排出孔316が形成されている。
【0149】
排出孔316は、カートリッジ本体310の上面から下面を貫通する直径0.7mmの円形の孔からなる。排出孔316は、装置本体10のカートリッジ配置部12にカートリッジ本体310が配置されたときに、カートリッジ配置部12に設けられた排出用ニップル151が鉛直方向直下に位置するように設けられている。これにより、カートリッジ本体310がカートリッジ配置部12に配置されたときに、排出孔316を介して排出用ニップル151から回収液が排出される。
【0150】
導入孔312と上流側連絡孔313とは、ゲル収容部311内を通って繋がっている。上流側連絡孔313と下流側連絡孔315とは、第1連絡流路321、ナトリウム検出用貯留部322、及び第2連絡流路323を通じて繋がっている。より詳しくは、上流側連絡孔313と下流側連絡孔315とは、下面において、上流側連絡孔313と下流側連絡孔315とは、カートリッジ本体310が水平面上に置かれたときに、水平面とカートリッジ本体310の下面との間に液体が通過するのを許容する深さと幅からなる一連の溝によって繋がっている。下流側連絡孔315と排出孔316とは、排出用流路317を通じて繋がっている。このため、カートリッジ本体310は、水平面上に置くことにより、導入孔312から排出孔316に至るまでの一本の流路を構成する。
【0151】
以下、分析用カートリッジ30の機能を、分析装置本体10の動作と併せて説明する。図8は、本実施形態にかかる生体成分分析装置を用いた生体成分分析方法を説明するフローチャートである。被験者は、ステップS1において、組織液を採集する部位の前処理、より具体的には、アルコール洗浄を行う。アルコール洗浄により、皮膚に付着している分析の撹乱要因となる物質(汗、塵など)が取り除かれる。
【0152】
ステップS2において、透過性向上処理として、アルコール洗浄された採集部位に微細孔を形成する。微細孔とは、皮膚の角質層を貫通する孔であり、表皮内部と真皮との境界にまで到達してもよいが、真皮の深部にまでは到達しないような深さの孔である。このような微細孔を形成する処理は、例えば特開2007−236844号公報に記載の微細孔形成装置を用いて行うことができる。これにより、出血を伴うことなく、皮下組織からの組織液の抽出と採集を促進することができる。
【0153】
ステップS3において、微細孔が形成された採集部位に組織液抽出用デバイス50を貼付する。より詳しくは、組織液抽出用デバイス50に含まれるヒドロゲル層501が、微細孔が形成された皮膚の部位を覆うように、該ヒドロゲル層501を皮膚に当接させる。そして、該ヒドロゲル層501を保持する粘着フィルム502を、微細孔が形成された皮膚の部位の周辺に粘着させる。このようにして組織液抽出用デバイス50を皮膚に貼り付けた状態で120分間以上の所定時間放置し、微細孔が形成された皮膚から滲み出る組織液を抽出して、ヒドロゲル層501中に採集する。
【0154】
組織液抽出用デバイス50を皮膚に貼り付けた後、所定時間が経過したら、ステップS4に進み、組織液抽出用デバイス50を皮膚から取り外す。
【0155】
ステップS5において、皮膚から取り外した組織液抽出用デバイス50を分析用カートリッジ30に貼り付ける。
【0156】
ステップS6において、組織液抽出用デバイス50を貼り付けた分析用カートリッジ30を、分析装置本体10のカートリッジ配置部12に配置する。分析用カートリッジ30は、ナトリウム検出用貯留部322がカートリッジ配置部12の底面と対向するように配置する。分析用カートリッジ30を分析装置本体10に配置した後、分析装置本体10の可動天板13を閉じる。可動天板13は、閉じる方向に付勢されていることから、カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30は、注入用ニップル141、排出用ニップル151、及びナトリウム検出部22と、可動天板13とによって挟まれた状態で、可動天板13によって上方から押さえつけられる。
【0157】
ステップS7においては、採集した組織液に基づいて生体成分の分析を行う。具体的には、カートリッジ配置部12に分析用カートリッジ30を配置した状態で、使用者が分析装置本体10の操作部24を操作して、生体成分の分析開始を制御部25に指示する。分析開始が指示された制御部25は、所定のプログラムを実行することにより、生体成分の分析を行う。生体成分の分析は、グルコース検出部21と制御部25との協働によるグルコース濃度の分析、及びナトリウム検出部22と制御部25との協働によるナトリウムイオン濃度の分析を含む。
【0158】
分析装置本体10による生体成分の分析が完了すると、分析結果が表示部23に表示される。被験者は、ステップS8において、表示部23に表示された分析結果を確認し、それによって、一連の分析工程が終了する。
【0159】
図9は、図8のステップS7の処理を説明するためのフローチャートである。制御部25に含まれるROMには、ここに示される工程を実現するためのプログラムが記憶されている。制御部25のCPUは、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、このフローチャートに示される工程を実行する。
【0160】
図10から図16までは、本実施形態の生体成分分析装置の動作を説明するための模式断面図であり、これらの図の順に回収液の流れを経時的に示している。これらの図においては、カートリッジ配置部12に分析用カートリッジ30を配置した状態を示し、回収液を斜線で黒く示すとともに、ポンプ142により送られる空気の流れを矢印で示している。図9と図10乃至16とに基づいて、分析装置の作動原理を説明する。
【0161】
図9のステップS71において、制御部25は、使用者による分析開始指示を受け付けたか否かを判断する。制御部25が分析開始指示を受け付けたと判断した場合(ステップS71において「YES」)には、処理をステップS72に進める。制御部25が分析開始指示を受け付けていないと判断した場合(ステップS71において「NO」)には、処理をステップS71に戻す。
【0162】
ステップS72において、制御部25は、ヒドロゲル層501中に採集した組織液中の生体成分を回収するため、回収液を注入する処理を実行する。具体的には、制御部25は、電磁弁V1を制御して上流側流路143とポンプ142とを接続し、電磁弁V2を制御してポンプ142と下流側流路145とを接続し、電磁弁V3を制御して下流側流路145と注入用ニップル141との接続を閉じる処理を実行する。次いで、制御部25は、ポンプ142をモータ(図示せず)によって駆動することにより、流路に空気を送り込む処理を実行する。これにより、回収液タンク144に貯留していた回収液が下流側流路145及び廃液流路147に押し出され、押し出された回収液によって電磁弁V2から電磁弁V3までに至る流路内に回収液が満たされる(図2、図10、及び図11参照)。
【0163】
制御部25は、ポンプ142の駆動を停止した後、電磁弁V1を制御して上流側流路143と迂回流路146とを接続し、電磁弁V2を制御して迂回流路146と下流側流路145とを接続し、そして、電磁弁V3を制御して下流側流路145と注入用ニップル141との接続を開く処理を実行する。これにより、ポンプ142から迂回流路146を介して注入用ニップル141に至る一連の流路が構成される。
【0164】
次いで、制御部25は、ポンプ142を再び駆動し、流路に空気を送り込む処理を実行する。これにより、ポンプ142から送り込まれた空気は、上流側流路143、迂回流路146、及び下流側流路145を通り、注入用ニップル141に向かって送られる。電磁弁V2及び電磁弁V3の開閉が切り替えられる時点では、電磁弁V2から電磁弁V3に至る流路は所定量の回収液によって満たされている。ポンプ142から空気が送り込まれることにより、電磁弁V2と電磁弁V3との間に貯留された所定量の回収液が注入用ニップル141に向けて押し出され、廃液流路147に流入した回収液は、廃液タンク153に向かって押し出される(図12参照)。
【0165】
注入用ニップル141は、カートリッジ配置部12に配置された分析用カートリッジ30の導入孔312と通じるように配置されている。注入用ニップル141に向けて送られた回収液は、注入用ニップル141及び導入孔312を通じてゲル収容部311内に注入される。
【0166】
ゲル収容部311に回収液が注入されると、ゲル収容部311は、注入された回収液によって満たされていく。ゲル収容部311に注入された回収液が、仮に導入孔311から上流側連絡孔313に向かって最短距離で移動したとしても、上流側連絡孔313の周辺は、上流側連絡孔313の開口面より一段高い段部318によって囲まれているため、回収液は、上流側連絡孔313から漏れ出る前に、まず段部318に表面張力によって保持される。このため、段部318に作用している表面張力以上の圧力が加えられない限り、回収液は、上流側連絡孔313から漏れ出る方向よりも、ゲル収容部311に広がる方向に圧力がかかる。したがって、注入された回収液は、上流側連絡孔313から漏れ出ることなくゲル収容部311内の全体に広がる(図12参照)。これにより、ゲル収容部311が回収液によって不均一な状態で満たされることによる分析精度の低下を防止することができる。
【0167】
所定量の回収液のすべてがゲル収容部311内に注入されると、ヒドロゲル層501が回収液中に埋没する(図13参照)。制御部25は、所定量の回収液の注入が終了した時点でポンプ142の駆動を一時的に停止する。ポンプ142の駆動が停止しても、導入孔312に面した液体には、下側から空気圧が働くため、導入孔312から回収液が逆流することはない。ポンプ142の駆動が停止することで流路が一定の空気圧に維持されるため、ゲル収容部311に満たされた回収液は、上流側連絡孔313から漏れ出ることがなく、ゲル収容部311内に貯留された状態に保持される。
【0168】
図9のステップS73において、制御部25は、回収液の注入が終了してから所定時間(例えば、10分間)が経過したか否かを判断する。制御部25は、所定時間が経過したと判断した場合(ステップS73において「YES」)には、ステップS74に処理を進め、所定時間が経過していないと判断した場合(ステップS73において「NO」)には、処理を戻し、所定時間が経過するまでステップS74の処理を繰り返す。
【0169】
このように、ヒドロゲル層501が回収液中に埋没した状態で所定時間放置することにより、該ヒドロゲル層501内に採集された組織液が回収液中に十分に拡散する。
【0170】
図9のステップS74において、制御部25は、ゲル収容部311に貯留されている回収液を、ナトリウム検出用貯留部322及びグルコース検出用貯留部317に移送する処理を実行する。具体的には、制御部25は、ゲル収容部311と同じ体積の空気がゲル収容部311に送り込まれるように、ポンプ142を制御する。ゲル収容部311に空気が送り込まれると、上流側連絡孔313に面した液体に表面張力以上の圧力がかかり、ゲル収容部311内に貯留されていた回収液が上流側連絡孔313を通じて第1連絡流路321に流出する。
【0171】
ゲル収容部311に空気が更に送り込まれると、第1連絡流路321に流出した回収液は、ナトリウム検出用貯留部322に到達し、ナトリウム検出用貯留部322内が回収液で満たされる。ゲル収容部311に空気が更に送り込まれると、回収液が下流側連絡孔315を通じてグルコース検出用貯留部317に到達する。グルコース検出用貯留部317に送り込まれた回収液は、試薬保持部314に保持されたグルコースとの反応試薬330に接触する(図14参照)。
【0172】
ゲル収容部311に貯留されている回収液をゲル収容部311と異なる位置に送り出す構成とすることにより、回収液が撹拌される。このため、ゲル収容部311内に移動した生体成分が不均一に回収液中に拡散したとしても、回収液を撹拌することにより、回収液中の生体成分の濃度分布を均一にすることができる。
【0173】
図9のステップS75において、制御部25は、ポンプ142の駆動を停止するとともに、ナトリウム濃度を測定する処理を実行する。
【0174】
図14に示すように、カートリッジ配置部12の底面に設けられたナトリウム検出部22は、分析用カートリッジ30の下面に設けられたナトリウム検出用貯留部322と閉じられた空間を構成する。ナトリウム検出部22は、表面に露出するように設けられたナトリウムイオン濃度測定用電極222を備えている。ナトリウムイオン濃度測定用電極222は、回収液がナトリウム検出用貯留部322内に貯留されたとき、貯留された回収液中に完全に浸漬された状態となる。この状態で、制御部25は、ナトリウムイオン濃度測定用電極222に一定電流を印加して電圧値を取得し、得られた電圧値と予め制御部25に記憶された検量線とに基づいてナトリウムイオン濃度「CNa」を得る。
【0175】
図9のステップS76において、制御部25は、グルコース濃度を測定する処理を実行する。可動天板13の分析用カートリッジ30と対向する面には、光源211と受光部212とが設けられている。図14に示すように、カートリッジ本体310の試薬保持部314にはグルコースとの反応試薬330が保持されている。反応試薬330は、回収液中に浸漬されている。回収液中に移動したグルコースは、反応試薬330中に含まれるGOD、H、POD、及び発色色素により下記の化学反応を生じ、その結果、反応試薬330が変色する。
【0176】
グルコース+O+HO→(GODによる触媒)→グルコン酸+H
+発色色素→(PODによる触媒)→2HO+発色色素(酸化・発色)
上記反応式から明らかなように、発色色素の発色度合いは、グルコースの量に比例する。そこで、発色色素の変色度合いを光学的に検出することにより、グルコース濃度を得ることができる。
【0177】
本実施形態においては、発色色素の変色後の色による吸収効率の高い波長を光源211から反応試薬330に照射するように構成している。受光部212は、光源211によって照射された光の反射光を受光するように構成している。制御部25は、発色色素の発色前における受光部212の受光量と、該発色色素の発色後における受光部212の受光量との変化量に基づいて、グルコース濃度「CGlc」を取得する。
【0178】
図9のステップS77において、制御部25は、分析用カートリッジ30に貯留されている回収液を廃液部15に送液する処理を実行する。具体的には、制御部25は、再びポンプ142を駆動することにより、ナトリウム検出用貯留部322、及びグルコース検出用貯留部317に空気を送り込む処理を実行する。送り込まれた空気は、回収液を排出用ニップル151を介して流路152に向けて押し出される(図15参照)。押し出された回収液は、流路152を介して廃液タンク153に貯留される(図16参照)。
【0179】
図9のステップS78において、制御部25は、得られたナトリウムイオン濃度「CNa」およびグルコース濃度「CGlc」を下記式(1)に適用し、血糖AUCを取得し、そして、得られた血糖AUCをROMに記憶する。
【0180】
【数1】

【0181】
式中、tは、組織液の採集時間であり、本実施形態においてはt=60分間と仮に設定する。Eは、定数である。
【0182】
図9のステップS79において、制御部25は、ステップS78において得られた血糖AUCを表示部23に表示し、処理をステップS8へリターンする。
【0183】
図17及び18を参照しながら、血糖AUC値の測定方法の測定原理について説明する。一般に、組織液中のグルコース濃度〔IG(t)〕は、血液中のグルコース濃度〔BG(t)〕に対して良好な追従性を示し、組織液中のグルコース濃度〔IG(t)〕と血液中のグルコース濃度〔BG(t)〕とは強い相関関係を有することが知られている。組織液中のグルコース濃度〔IG(t)〕は、定数αを用いて、下記式(2)で表わすことができる。
【0184】
【数2】

【0185】
図17に示すように、ヒドロゲル層501を生体の皮膚面に取り付け、皮膚を介して生体から組織液を採集する場合、単位時間当たりに採集されるグルコース量をグルコース採集速度〔Jglc〕とし、ある時刻tにおけるグルコース採集速度を〔Jglc(t)〕とする。この時、Jglc(t)は、下記式(3)のように、時刻tにおける組織液中のグルコース濃度IG(t)とグルコース透過率〔Pglc〕との積として表される。
【0186】
【数3】

【0187】
グルコース透過率〔Pglc〕は、皮膚に対するグルコースの透過性を表わす係数であり、グルコース透過率〔Pglc〕が大きいほど、単位時間当たりに皮膚から採集されるグルコースの量が多くなる。
【0188】
ここで、所定の時間Tだけ収集を行う場合について考える。上記式(3)の左辺について、Jglc(t)を時間Tにわたって積分すると、その積分値は、時間T内に生体からヒドロゲル層501内に採集されたグルコースの総量〔Mglc(t)〕となる。この関係を、以下の式(4)に示す。
【0189】
【数4】

【0190】
例えば、グルコース採集速度〔Jglc(t)〕が10ng/minの場合、時間T=60minにおいて、ヒドロゲル層501内に採集されるグルコースの総量〔Mglc〕は、Mglc=10ng/min×60min=600ngとなる。
【0191】
一方、上記式(3)の右辺について、組織液中のグルコース濃度〔IG(t)〕を時間Tにわたって積分すると、その積分値は、図18に示すように、時間Tの間のグルコース濃度〔IG(t)〕のグラフによって規定される図形(ハッチング部分)の面積{曲線下面積AUC[IG(t)]}になる。この関係を以下の式(5)に示す。
【0192】
【数5】

【0193】
上記式(5)に示したように、IG(t)とBG(t)との間には相関関係があるので、曲線下面積AUC〔IG(t)〕と曲線下面積AUC〔BG(t)〕との間にも相関関係がある。したがって、曲線下面積AUC〔BG(t)〕と曲線下面積AUC〔IG(t)〕との関係は、定数αを用いて以下の式(6)のように表される。
【0194】
【数6】

【0195】
ここで、時間Tにおける積分を考えた場合に、上記式(3)及び(4)から、以下の式(7)が成り立つ。
【0196】
【数7】

【0197】
上記式(5)と式(7)とによって、以下の式(8)が成り立つ。
【0198】
【数8】

【0199】
上記式(6)と式(8)とによって、Mglc(T)は、AUC〔BG(T)〕を用いて、以下の式(9)で表わされる。
【0200】
【数9】

【0201】
上記式(9)により、時間T内にヒドロゲル層501(図17参照)内に蓄積されたグルコースの総量〔Mglc(T)〕と、時間Tにおけるグルコースの皮膚に対する透過性(グルコース透過率〔Pglc〕)と、定数αとから、AUC〔BG(T)〕を取得することができる。血液中のグルコース濃度と組織液中のグルコース濃度とはほぼ同じであるので、α=1としてもよい。
【0202】
以下、式(1)に基づいて血糖AUC値を算出する原理について、説明する。上記式(9)から、組織液中のグルコース濃度から求められる血糖濃度の時間曲線下面積AUC〔IG(T)〕は、下記式(10)により求めることができる。
【0203】
【数10】

【0204】
glc(T)は、時間T内にヒドロゲル層501内に蓄積したグルコース量(蓄積グルコース量)である。蓄積グルコース量は、回収液の体積が一定であれば、ヒドロゲル層501からグルコースを回収液に移動させたときの回収液中のグルコースの濃度〔Cglc〕に比例する。よって、Mglc(T)は、定数EとFとを用いて、下記式(11)で表わすことができる。
【0205】
【数11】

【0206】
glcは、組織液の採集され易さを示す。採集される組織液の量は、皮膚の状態によって変動する。組織液に含まれるグルコース量は、血糖値によって依存して変動する。したがって、組織液がどの程度採集されたかを把握しなければならない。ナトリウムイオンの体内の濃度は、グルコースとは異なり一定であると推定される。採集した組織液中に含まれるナトリウムイオン量が多ければ、皮膚の状態が組織液を収集し易い状態であると考えられる。一方、採集したナトリウムイオン量が少なければ、皮膚の状態が組織液を採集しにくい状態であると考えられる。
【0207】
このことから、組織液の収集され易さ〔Pglc〕は、組織液に含まれるナトリウムイオンの収集速度Jを用いて、下記式(12)で表わすことができる。
【0208】
【数12】

【0209】
採集速度Jは、単位時間当たりに生体から採集されたナトリウムイオン濃度であるから、ヒドロゲル層501から移動したナトリウムイオンの濃度〔CNa〕に対して1/tを乗じた値で表される。したがって、下記式(13)が成立する。
【0210】
【数13】

【0211】
上記式(10)乃至(13)から、下記式(14)が成立する。
【0212】
【数14】

【0213】
この式(14)の右辺を整理すると、
【0214】
【数15】

【0215】
となり、前記式(1)が導かれる。
【0216】
本発明で採用することができる分析方法は、皮膚に微細な組織液抽出用パス(微細孔)を形成するステップ;皮膚にヒドロゲル層を貼り付けて組織液の抽出を行うステップ;皮膚に貼ったヒドロゲル層を剥し、該ヒドロゲル層中に採集した組織液成分(グルコース及びナトリウム)を分析し解析するステップ;の3つの段階からなる。
【0217】
第一のステップである微細孔の形成は、高さが例えば0.3mmの微小な突起が複数成形加工された微細針アレイを、皮膚に専用の装置を用いて、皮膚面に押し当てることにより行う。この際、皮膚のどの位置に微細孔が形成されたかを明確にする必要があるため、微細孔を形成する専用の装置には、位置決めのための機構が備わっている。該装置が皮膚と接する部分には、あらかじめテープを貼っておく。微細孔の形成の後、装置を皮膚から離す際、この位置決め用のテープは装置から離れ、皮膚の上に残る。この皮膚の上に残ったテープにより、形成された微細孔の皮膚上の位置を特定することができる。
【0218】
第二のステップとして、皮膚上に残った位置決め用のテープに合わせて、皮膚面にヒドロゲル層を貼付する。貼付した状態を1〜3時間保持して、組織液を抽出し採集する。
【0219】
所定時間の経過後に、第3のステップである組織液成分の分析を行う。皮膚からヒドロゲル層を取り外し、専用の装置にセットする。この装置は、ナトリウムイオン測定部とグルコース測定部とから構成されており、これらの測定結果より血糖AUC値に相当する値を求めることができる。
【0220】
生体成分分析装置の具体例、その分析方法、及びその分析原理とから明らかなように、本発明の組織液抽出用デバイスは、脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中の血糖AUC値に相当する値を算出する組織液の分析方法において使用することができる。
【0221】
ヒドロゲル層中に採集した組織液は、回収液を用いて生体成分を回収し、それぞれナトリウムイオン濃度とグルコース濃度の分析に供する。各成分の分析は、前述の分析方法により行うことができる。したがって、本発明によれば、上記分析方法において、本発明の組織液抽出用デバイスを使用する組織液の分析方法を提供することができる。
【実施例】
【0222】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種物性及び特性の測定法または評価法は、次の通りである。
【0223】
1.ナトリウムイオンの含有量
ヒドロゲル層の作製のために使用したPVA水溶液中のナトリウムイオンの含有量を、原子吸光法により測定した。架橋後に生成するヒドロゲル層には、PVA水溶液中に含有されるナトリウムイオンがそのまま残留する。
【0224】
2.ヒドロゲル層の評価
実施例及び比較例で作製したPVAヒドロゲル層の機械的強度、硬度、耐離水性、含水率、及び膨潤率について、下記の方法に従って評価した。これらの物性及び特性の評価は、特に断りのない限り、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽内で行った。
【0225】
(1)機械的強度
PVAヒドロゲル層を横7mm×縦12mm×厚み700μmにカットして試料を作製した。試料を平面上に静置する。より具体的には、平坦な状態に静置したポリエステルフィルム上に、PVAヒドロゲル試料を1分間放置した後、重力による形状の変化が起こるかどうか、また、指で試料表面を押さえて、ヒドロゲルが崩壊するか否かを観察し、以下の基準で評価した。3つの試料(n=3)について評価し、それらのうちの多数となった評価結果を示す。
A:重力による形状変化が起こらず、指で押さえてもゲルが崩壊しない。
B:重力による形状変化は起こらないが、指で押さえるとゲルが崩壊した。
C:重力により、ゲルが変形した。
【0226】
(2)硬度
PVAヒドロゲル層を横7mm×縦12mm×厚み700μmにカットして試料を作製した。試料の硬度は、高分子計測器社製マイクロゴム硬度計MD−1でゲル表面3点の針入度を計測することにより求めた。3つの試料(n=3)について評価し、それらの平均値を求めた。
【0227】
(3)耐離水性
PVAヒドロゲル層を横7mm×縦12mm×厚み700μmにカットして試料を作製した。平坦な状態に静置したポリエステルフィルム上に、PVAヒドロゲル試料を1分間放置した後、離水の状態を下記の基準で評価した。3つの試料(n=3)について評価し、それらのうちの多数となった評価結果を示す。
A:離水は認められなかった
B:離水がゲル表面に若干認められた
C:ゲル周辺にはっきりと離水が認められた
【0228】
(4)含水率(重量%)
PVAヒドロゲル層を横3cm×縦3cm×厚み700μmにカットして試料を作製した。予め重量を測定したアルミニウム製カップ上に試料を載せ、重量をカップごと測定した。その後、105℃の恒温槽中で3時間乾燥させ、乾燥後の重量を測定した。含水率(重量%)は、試験前の試料の重量(a)及び乾燥後の試料の重量(b)を求め(いずれもg)、下式にて含水率(重量%)を求めた。3つの試料(n=3)について評価し、それらの平均値を求めた。
含水率(重量%)=〔(a−b)/a〕×100
【0229】
(5)膨潤率(%)
PVAヒドロゲル層を横3cm×縦3cm×厚み700μmにカットして試料を作製した。試料を生理食塩水中に24時間浸漬した後の重量を生理食塩水に浸漬する前の重量で割った値を求め、それを100倍した。3つの試料(n=3)について評価し、それらの平均値を求めた。
【0230】
3.組織液抽出用デバイスの評価
実施例及び比較例で作製した組織液抽出用デバイスについて、皮膚面への接着性、剥離時の痛み、のり残り(粘着剤の残留)、皮膚刺激(刺激指数)の各項目を評価した。
【0231】
(1)皮膚接着性
組織液抽出用デバイスをヒトの前腕の皮膚面に3時間貼付した。その際、組織液抽出用デバイスの皮膚面への貼付状態とヒドロゲル層の支持体層からの脱離の有無を観察し、以下の基準で評価した(n=30)。
A:3時間の貼付後もヒドロゲル層と粘着剤層とが皮膚面に対して全面的に付着しており、ヒドロゲル層からの水分の蒸散がなく、しかもヒドロゲル層の支持体からの脱離もない。
B:30個の試料のうちの2〜5個に、皮膚面からの一部の剥離が認められる。
C:30個の試料のうちの6個以上に、皮膚面からの一部の剥離が認められる。
【0232】
(2)剥離時の痛み
10人の健常な大人の前腕の皮膚面に、組織液抽出用デバイスを3時間貼付した。その後、組織液抽出用デバイスを皮膚面から剥離し、その際の痛みの程度についてヒアリングした。剥離時の痛みを以下の基準で評価した。
A:8人以上が、痛みを感じないか、軽度の痛みしかないと述べた。
B:1〜3人が、痛みがあると述べた。
C:4人以上が、痛みがあると述べた。
【0233】
(3)のり残り
10人の健常な大人の前腕の皮膚面に、各3枚の組織液抽出用デバイスを3時間貼付した。その後、組織液抽出用デバイスを皮膚面から剥離し、その際、皮膚面に粘着剤(のり)が残留したか否かを観察した(n=30)。のり残りを以下の基準で評価した。
A:のり残りが全くないか、殆どない。
B:1〜5枚に、のり残りが観察された。
C:6枚以上に、のり残りが観察された。
【0234】
(4)皮膚刺激指数
10人の健常な大人の前腕の皮膚面に、各3枚の組織液抽出用デバイスを24時間貼付した。その後、組織液抽出用デバイスを皮膚面から剥離した。剥離1時間後と24時間後の試験片の貼付部位の皮膚刺激を、下記の基準に従って評価した(n=30)。
【0235】
下記の−、±、+、++、+++、及び++++を、それぞれ0、0.5、1、2、3、及び4点と重み付けし、下式に従い、各被験者の評価結果の平均値を100倍して、皮膚刺激指数とした。
【0236】
判定基準
− :反応なし、
± :軽い紅斑、
+ :紅斑、
++ :紅斑+浮腫、
+++ :紅斑+浮腫+丘疹、
++++:紅斑+浮腫+丘疹、漿液性丘疹、小水疱。
【0237】
皮膚刺激指数=(評点総和/被験者数)×100
皮膚刺激指数は、10前後が「刺激少」、30前後が「刺激強め」、50以上が「刺激大」である。
【0238】
4.ナトリウムイオン(Na)による測定値への干渉
ヒドロゲル層中に含有されるナトリウムイオンが、血糖AUC値に相当する値の測定に際し、測定値に対する干渉があったか否かを、下記の方法により評価した。
【0239】
ハイドロゲルを横7mm×縦12mm×厚み0.7mmに切断して試料を作製し、該試料を1600μlの精製水に16時間以上浸した。次に、浸した液のナトリウムイオン濃度をイオンクロマトグラフで測定し、ゲル中に含まれるナトリウムイオン濃度に換算した。なお、この換算では、ゲル中のナトリウム濃度と液中のナトリウム濃度は平衡状態に到達しているという仮定を用いた。換算により求めたナトリウムイオン濃度が30ppm以下である場合、ナトリウムの干渉がないとした。
【0240】
[実施例1]
1.PVAヒドロゲル層の調製
完全ケン化PVA(平均重合度2,000)と塩化カリウム(KCl)を25℃前後の蒸留水中に添加してミキサーで攪拌しながら約10℃/分の割合で昇温し、95℃付近で1時間攪拌して、PVA濃度が14.3重量%、KCl濃度が0.5重量%のPVA水溶液を調製した。
【0241】
このPVA溶液をタンク内温度60℃に設定した貯蔵タンク中に送液し、3時間静置して脱泡する。脱泡後、このPVA水溶液を、厚み35μmのマット加工したポリエチレンフィルム上に、ナイフコーターを用いて350μm厚で塗工した。このようにして形成した塗膜上から、加速電圧300kVの電子線を照射線量40kGyで照射して、PVAを架橋することにより、PVAヒドロゲル層を形成した。該ヒドロゲル層上に、工程紙として、シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをラミネートした。
【0242】
その後、工程紙を剥離したヒドロゲル層(1層目のヒドロゲル層)上に、総厚みが700μmとなるように、PVA水溶液を塗工して、塗膜を形成した。この塗膜の上から前記と同条件で電子線を照射して、ヒドロゲル層(2層目のヒドロゲル層)を形成した。このようにして、1層目と2層目のヒドロゲル層が一体化した厚み700μmのPVAヒドロゲル層を作製した。次に、PVAヒドロゲル層を適度な大きさに裁断し、電子線照射前のPVA溶液中におけるKCl濃度の40℃の等張水溶液に30分間浸漬する工程を3回繰り返し、実質的にナトリウムイオンが含まれない本発明のPVAヒドロゲル層を得た。
【0243】
2.組織液抽出用デバイスの作製
厚み80μmのポリエチレン(PE)フィルム支持体の片面に、アクリル系粘着剤を約35g/mの塗布量となるようにコンマロールで塗工し、乾燥して、支持体層/粘着剤層の層構成を有する多層フィルムを作製した。該多層フィルムの粘着剤層面に、剥離処理を施したポリエステルフィルム工程紙をラミネートし、常温で72時間熟成させた。アクリル系粘着剤は、イソノニルアクリレート96重量%とアクリル酸4重量%とのアクリル酸アルキルエステル共重合体を基剤とし、該共重合体100重量部に対して、エポキシ系架橋剤0.03重量部を含有するものである。
【0244】
該多層フィルムを28mm×28mmの略正方形で角を丸くした形状で、向かい合う2辺の両側にV字型のノッチを1箇所ずつ形成するように打ち抜いて、粘着フィルムを調製した。他方、前記で調製したヒドロゲル層を縦7mm×横12mmの長方形に打ち抜き、縦7mm×横12mm×厚み700μmの組織液抽出用ヒドロゲル層を作製した。該粘着フィルムの粘着剤層面側の中央部に、該組織液抽出用ヒドロゲル層を配置し、次いで、粘着剤層の露出面と該ヒドロゲル層の表面を、剥離処理を施したポリエステルフィルムで被覆して離型層を形成した。これにより、図5(a)及び(b)に示したのと同じ層構成を有する組織液抽出用デバイスを得た。表1に、該組織液抽出用デバイスの構成と特性を示す。
【0245】
[実施例2]
PVA水溶液中のKCl濃度を0.5重量%から3.0重量%に変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0246】
[実施例3]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から12.0重量%に、KCl濃度を0.5重量%から2.0重量%にそれぞれ変更し、かつ、照射線量を40kGyから60kGyに変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0247】
[実施例4]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から10.0重量%に変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0248】
[実施例5]
PVAヒドロゲル層の作製時の電子線照射条件に関し、加速電圧を300kVから4.8MVに、照射線量40kGyを20kGyにそれぞれ変更したこと以外は、実施例4と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0249】
[実施例6]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から9.1重量%に変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0250】
[実施例7]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から7.7重量%に変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0251】
[実施例8]
PVAを平均重合度1,700の完全ケン化PVAに変更したこと以外は、実施例4と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0252】
[実施例9]
PVAヒドロゲル層の作製時の電子線照射条件に関し、加速電圧を300kVから4.8MVに、照射線量40kGyを20kGyにそれぞれ変更したこと以外は、実施例8と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0253】
[比較例1]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から9.1重量%に、KCl濃度を0.5重量%から3.0重量%にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表2に示す。
【0254】
[比較例2]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から7.7重量%に、KCl濃度を0.5重量%から0.8重量%にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表2に示す。
【0255】
[比較例3]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から7.7重量%に、KCl濃度を0.5重量%から1.5重量%にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表2に示す。
【0256】
[比較例4]
PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から7.7重量%に、KCl濃度を0.5重量%から3.0重量%にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表2に示す。
【0257】
[比較例5]
PVAを平均重合度1,750の完全ケン化PVAに変更した。また、PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から28.0重量%に、KCl濃度を0.5重量%からゼロ重量%にそれぞれ変更した。さらに、照射線量を40kGyから60kGyに変更した。これらの変更点以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表2に示す。
【0258】
[比較例6]
PVAを平均重合度2,200の完全ケン化PVAに変更した。また、PVA水溶液中のPVA濃度を14.3重量%から16.0重量%に、KCl濃度を0.5重量%からゼロ重量%にそれぞれ変更した。さらに、照射線量を40kGyから60kGyに変更した。これらの変更点以外は、実施例1と同じ操作により、PVAヒドロゲル層及び組織液抽出用デバイスを作製した。結果を表2に示す。
【0259】
【表1】

【0260】
【表2】

【0261】
<考察>
本発明の組織液抽出用デバイスは、親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層として、1)その周囲に該粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものであり、2)ナトリウムイオンの含有量が30ppm以下であり、かつ、3)離水の発生がないものである(実施例1〜9)。このため、本発明の組織液抽出用デバイスは、皮膚面への適用が容易で、皮膚に対する刺激が抑制されており、しかも採集した組織液中に含まれるグルコース濃度とナトリウムイオン濃度を正確に分析することができる。
【0262】
したがって、本発明の組織液抽出用デバイスを使用することにより、脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中の血糖AUC値に相当する値を正確に測定することができる。
【0263】
これに対して、離水が認められるヒドロゲル層を用いた組織液抽出用デバイス(比較例1〜4)は、その離水のために組織液の安定的な抽出と採集が困難となる上、皮膚面への接着性も不十分である。
【0264】
ナトリウムイオンを比較的多量に含むヒドロゲル層を用いた組織液抽出用デバイス(比較例5〜6)は、ナトリウムイオンによる測定値への干渉があり、血糖AUC値に相当する値を正確かつ安定して測定することができない。
【0265】
これらの実施例及び比較例の組織液抽出用デバイスの作製に関し、ヒドロゲル層の調製に使用するPVA水溶液中に含まれるPVAの濃度(重量%)とKClの浸透圧モル濃度(オスモル)とを図19にプロットした。耐離水性(離水の有無)を基準として、離水のないケースと離水が認められるケースを図19の斜線によって区別することができる。ヒドロゲル層に離水がない場合は、該ヒドロゲル層の放射線照射架橋が十分であり、組織液抽出用デバイスのヒドロゲル層として優れた性能を示すことを意味している。
【0266】
図19から、親水性ポリマー濃度をb重量%とし、KClの浸透圧モル濃度をaオスモルとしたとき、下記式(A)
a≦0.1b−0.6 (A)
を満足するPVA水溶液を用いた場合に、離水がなく、放射線照射による架橋が均一かつ十分で、優れた特性を示すヒドロゲル層の得られることが分かる。ただし、a=0.05〜0.94オスモルであり、b=7〜30重量%である。
【0267】
図20は、尿素、グリシン、及びKClをそれぞれ用いた溶媒の各浸透圧モル濃度(オスモル)における、同一の皮膚面での組織液抽出速度促進効果を測定したものである。図20の結果から、尿素及びグリシンは、組織液抽出速度促進効果がKClと同等であることが分かる。この結果から、KClに代えて、尿素及びグリシンを浸透圧制御剤として、浸透圧モル濃度0.05〜0.94オスモルの範囲内で使用できることが明らかである。
【0268】
図21は、アラニン、プロリン、及びKClをそれぞれ用いた溶媒の各浸透圧モル濃度(オスモル)における、同一の皮膚面での組織液抽出速度促進効果を測定したものである。図21の結果から、アラニン及びプロリンは、組織液抽出速度促進効果がKClと同等であることが分かる。この結果から、KClに代えて、アラニン及びプロリンを浸透圧制御剤として、浸透圧モル濃度0.05〜0.94オスモルの範囲内で使用できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0269】
本発明の組織液抽出用デバイスは、脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中の血糖AUC値に相当する値を算出する組織液の分析方法において利用することができる。
【符号の説明】
【0270】
1 生体成分分析装置
10 分析装置本体
20 分析キット
30 分析用カートリッジ
50 組織液抽出用デバイス
11 凹部
12 カートリッジ配置部
13 可動天板
14 送液部
15 廃液部
21 グルコース検出部
22 ナトリウム検出部
23 表示部
24 操作部
25 制御部
310 カートリッジ本体
311 ゲル収容部
317 グルコース検出用貯留部
322 ナトリウム検出用貯留部
330 グルコースとの反応試薬
501 ヒドロゲル層
502 粘着フィルム
502a 支持体
502b 粘着剤層
503 剥離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)合成樹脂フィルムから形成された支持体;
b)該支持体の片面に配置された粘着剤層;
c)該粘着剤層の表面に配置された、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層;並びに
d)該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する剥離層;
を有し、
該ヒドロゲル層が、1)その周囲に該粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものであり、2)実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、3)本件明細書に記載の測定法により測定したとき、離水の発生がないものである
ことを特徴とする組織液抽出用デバイス。
【請求項2】
該ヒドロゲル層が、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、アミノ酸、尿素、酢酸、アンモニア、トリシン、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる浸透圧制御剤を、浸透圧モル濃度が0.05〜0.94オスモルの範囲内となる割合で更に含有するものである請求項1記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項3】
該ヒドロゲル層が、該親水性ポリマーの水溶液の塗膜に放射線を照射して架橋することにより形成されたものである請求項1または2記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項4】
該ヒドロゲル層が、親水性ポリマー濃度を7〜30重量%の範囲内とし、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、アミノ酸、尿素、酢酸、アンモニア、トリシン、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる浸透圧制御剤を浸透圧モル濃度が0.05〜0.94オスモルの範囲内となる量比で含有し、かつ、実質的にナトリウムイオンを含有しない親水性ポリマー水溶液であって、該親水性ポリマー濃度をb重量%とし、該浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度をaオスモルとしたとき、下記式(A)
a≦0.1b−0.6 (A)
で表わされる関係を満足する親水性ポリマー水溶液の塗膜に、α線、電子線、及びγ線からなる群より選ばれる放射線を照射して架橋することにより得られたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項5】
該ヒドロゲル層が、該親水性ポリマー水溶液の塗膜に、加速電圧が200kVから10MVの範囲内で、かつ、照射線量が5〜20,000kGyの範囲内の電子線を照射して架橋することにより得られたものである請求項4記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項6】
該親水性ポリマーが、ケン化度が78〜100モル%の範囲内で、平均重合度が500〜4,000の範囲内のポリビニルアルコールである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項7】
該ヒドロゲル層の含水率が、70〜95重量%の範囲内である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項8】
該ヒドロゲル層を生理食塩水中に24時間浸漬した後の重量を生理食塩水に浸漬する前の重量で割った値を100倍して得られる膨潤率が、100〜300%の範囲内である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項9】
透過性向上処理が行われた脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法において使用される請求項1乃至8のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項10】
該ヒドロゲル層が、該粘着剤層の表面に、直接または不織布若しくは合成樹脂フィルムからなる中間層を介して配置されたものである請求項1乃至9のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項11】
合成樹脂フィルムから形成された支持体を準備する工程1;
該支持体の片面に粘着剤層を配置する工程2;
ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーの水溶液の塗膜に放射線を照射して架橋することにより形成したヒドロゲル層を、該粘着剤層の表面に配置する工程3;並びに
剥離層により、該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する工程4;
を有し、
該ヒドロゲル層が、1)その周囲に該粘着剤層が露出する大きさの面積を有するものであり、2)実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、3)本件明細書に記載の測定法により測定したとき、離水の発生がないものである
ことを特徴とする組織液抽出用デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記工程3において、親水性ポリマー濃度を7〜30重量%の範囲内とし、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、アミノ酸、尿素、酢酸、アンモニア、トリシン、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる浸透圧制御剤を浸透圧モル濃度が0.05〜0.94オスモルの範囲内となる量比で含有し、かつ、実質的にナトリウムイオンを含有しない親水性ポリマー水溶液であって、該親水性ポリマー濃度をb重量%とし、該浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度をaオスモルとしたとき、下記式(A)
a≦0.1b−0.6 (A)
で表わされる関係を満足する親水性ポリマー水溶液の塗膜に、α線、電子線、及びγ線からなる群より選ばれる放射線を照射して架橋することによりヒドロゲル層を形成し、次いで、該ヒドロゲル層を該粘着剤層の表面に配置する請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記工程3において、該親水性ポリマー水溶液の塗膜に、加速電圧が200kVから10MVの範囲内で、かつ、照射線量が5〜20,000kGyの範囲内の電子線を照射して架橋することによりヒドロゲル層を形成し、次いで、該ヒドロゲル層を該粘着剤層の表面に配置する請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
透過性向上処理が行われた脊椎動物の皮膚を介してヒドロゲル層中に組織液を抽出し、所定時間の経過後に該ヒドロゲル層中に採集された組織液を分析して、その中に含まれるナトリウムイオン濃度とグルコース濃度とを測定し、これらの測定値に基づいて該脊椎動物の血液中のグルコース濃度に相当する値を算出する組織液の分析方法において、請求項1記載の組織液抽出用デバイスを使用する組織液の分析方法。
【請求項15】
透過性向上処理が行われた脊椎動物の皮膚を介して浸透圧の違いに基づいてヒドロゲル層中に組織液を抽出する組織液抽出デバイスであって、
a)合成樹脂フィルムから形成された支持体;
b)該支持体の片面に配置された粘着剤層;
c)該粘着剤層の表面に配置された、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたヒドロゲル層;並びに
d)該粘着剤層と該ヒドロゲル層の両方の露出面を被覆する剥離層;
を有し、
該ヒドロゲル層が、浸透圧制御剤を含有し、実質的にナトリウムイオンを含有せず、かつ、親水性ポリマー濃度をb重量%とし、該浸透圧制御剤の浸透圧モル濃度をaオスモルとしたとき、下記式(A)
a≦0.1b−0.6 (A)
(但し、0.05≦a≦0.94、及び7≦b≦30)で表わされる関係を満足する
ことを特徴とする組織液抽出用デバイス。
【請求項16】
該浸透圧制御剤が、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、アミノ酸、尿素、酢酸、アンモニア、トリシン、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、シアノコバラミン、及びアスコルビン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項15記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項17】
前記組織液抽出用デバイスが、電気エネルギーを付与することなくヒドロゲル層中に組織液を抽出することができるものである請求項15または16に記載の組織液抽出用デバイス。
【請求項18】
該ヒドロゲル層が、組織液の成分を代謝する酵素を実質的に含有しないものである請求項15乃至17のいずれか1項に記載の組織液抽出用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−50733(P2011−50733A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143752(P2010−143752)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】