説明

組織炎症及び発癌を治療するためのグアニル酸シクラーゼ受容体アゴニスト

【課題】哺乳動物被験者の炎症性、前癌性又は癌性組織又はポリープを治療する方法を開示する。
【解決手段】この治療は、グアニル酸シクラーゼ受容体の少なくとも1つのペプチドアゴニストの組成物、及び/又はcGMPの細胞内生成を増大させる他の小分子を投与することを含む。グアニル酸シクラーゼ受容体のこの少なくとも1つのペプチドアゴニストは、単独で、あるいはcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤と組み合わせて投与することができる。該阻害剤は、cGMPの分解を阻害する小分子、ペプチド、タンパク質、又は他の化合物であってよい。特定の作用機構を必要とせずに、この治療は、上皮細胞の被験個体群における増殖とアポトーシスの間の健全なバランスを回復させ、発癌を抑制することもできる。したがって、この方法を使用して、とりわけ、腸の炎症障害、全身性の器官炎症及び喘息を含めた炎症、及び肺、胃腸管、膀胱、精巣、前立腺及び膵臓の発癌、又はポリープを特に治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2001年3月29日に出願された米国仮出願第60/279,438号、2001年3月29日に出願された第60/279,437号、2001年6月27日に出願された第60/300,850号、2001年7月10日に出願された第60/303,806号、2001年7月25日に出願された第60/307,358号、及び2002年1月17日に出願された第60/348,646号の特典を特許請求するものである。
【0002】
本発明は、細胞内でのcGMPの生成を高めるための手段としての、グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストの治療的使用に関する。このアゴニストは単独で、あるいはcGMP特異的ホスホジエステラーゼの阻害剤と組み合わせて使用して、特に胃腸管及び肺における癌性、前癌性及び転移性増殖を予防又は治療することができる。さらにこのアゴニストは、潰瘍性大腸炎及び喘息などの炎症性疾患の治療において使用することができる。
【背景技術】
【0003】
ウログアニリン、グアニリン及び細菌STペプチドは、構造的に関連があるペプチドであり、これらはグアニル酸シクラーゼ受容体に結合し、環状グアノシン一リン酸(cGMP)の細胞内での生成を刺激する(1〜6)。これによって、腸管の内側の腸細胞から塩化物を流出させるために、嚢胞性線維症膜貫通型調節タンパク質(CFTR)、先端の膜チャンネルの活性化がもたらされる(1〜6)。CFTRの活性化、及びその後の塩化物の経上皮分泌の増大が、腸の管腔へのナトリウム及び水の分泌を刺激することにつながる。したがって、CFTR活性のパラクリン調節物質として働くことによって、cGMP受容体のアゴニストは、GI管中の流体及び電解質の輸送を調節する(1〜6;米国特許第5,489,670号)。
【0004】
上皮再生のプロセスは、管腔中のGI細胞の増殖、移動、分化、老化、及び最終的な損失を含む(7、8)。GI粘膜は、上皮細胞の増殖指標に基づいて、3つの異なるゾーンに分けることができる。これらのゾーンの1つである増殖ゾーンは、新しい細胞の一定の源を提供することを担う未分化幹細胞からなる。幹細胞は、それらが突出する管腔に向かい上方に移動する。細胞は移動するとき、分裂するその能力を失い、GI粘膜の専門的機能を行うための分化した状態になる(9)。GI粘膜の再生は非常に迅速であり、完全な代謝回転が24〜48時間以内に起こる(9)。このプロセス中に、突然変異した望ましくない細胞が、新しい細胞で補充される。したがって、GI粘膜の恒常性は、増殖とアポトーシス率の間のバランスを連続的に維持することによって調節される(8)。
【0005】
腸管上皮の細胞増殖とアポトーシスの比は、広くさまざまな異なる状況において、たとえば加齢、炎症性シグナル、ホルモン、ペプチド、増殖因子、化学物質及び食習慣などの生理学的刺激に応答して、増大又は減少する可能性がある。さらに、増大した増殖率は、代謝回転時間の減少及び増殖ゾーンの拡大と関連していることが多い(10)。増殖指標は、潰瘍性大腸炎及び他のGI障害の病症例において、非常に高いことが観察されてきている(11)。したがって腸管の過形成は、胃腸管の炎症及び発癌の主要な促進要因である。
【0006】
腸の流体及びイオン分泌の調節物質としてのウログアニリン及びグアニリンの役割に加えて、これらのペプチドは、GI粘膜の連続的再生とも関連がある可能性がある。WO01/25266中の以前に公開されたデータによって、ウログアニリンの活性ドメインを有するペプチドは、結腸内のポリープ進行の阻害剤として機能することができ、結腸癌の治療物質を構成することができることが示唆される。しかしながら、起こることが主張されているこの機構は、WO01/25266が、GC−Cと呼ばれるグアニル酸シクラーゼ受容体に特異的に結合し、大腸菌の熱安定性エンテロトキシン(ST)の受容体として最初は記載された、ウログアニリンアゴニストペプチドを教示している点において疑わしい(4)。このグアニル酸シクラーゼ受容体が欠けているノックアウトマウスは、腸内でSTに対する耐性を示すが、ウログアニリン及びSTの影響が、in vivoで腎臓内において害されることはない(3)。これらの結果は、グアニリンによって誘導された膜の脱分極はゲニステイン、チロシンキナーゼ阻害剤によって害されたが、ウログアニリンによって誘導された過分極は影響を受けなかったという事実によってさらに支持された(12、13)。これらのデータを一緒にして考えると、ウログアニリンは、GC−Cとは異なる現在知られていない受容体にも結合することが示唆される。
【0007】
他の論文によって、ウログアニリン及びグアニリンの生成は、前癌性の結腸ポリープ及び腫瘍組織中では劇的に減少することが報告されている(14〜17)。さらに、ウログアニリン及びグアニリンの両方の遺伝子は、ヒト結腸癌腫の異型接合性の損失と関連があることが多い、ゲノムの領域に局在することが示されてきている(18〜20)。これらの発見を一緒にして考えると、ウログアニリン、グアニリン、及び類似の活性を有する他のペプチドは、異常な結腸での増殖の予防又は治療において使用することができることが示される。この提案は、ウログアニリンの経口投与がマウスにおけるポリープ形成を阻害することを実証している、近年の研究によって支持される(15、16)。
【0008】
ウログアニリン及びグアニリンペプチドは、細胞のイオンの流れを調節することによって、アポトーシスも助長しているようである。アポトーシスにおける変化は、転移性表現型への腫瘍の進行と関連してきている。原発性胃腸(GI)癌は小腸、結腸、及び直腸に限られるが、骨、リンパ節、肝臓、肺、腹膜、卵巣、脳などの場所に転移及び分散する可能性がある。K+の流出及びCa++の流入を増大させることによって、ウログアニリン及び関連ペプチドは、形質転換細胞の死を助長し、これによって転移を阻害することができる。
【0009】
低下したCFTR活性の臨床的症状の1つは、気道の炎症である(21)。この影響は、NF−kB、ケモカイン及びサイトカインの発現を調節するCTFRによるものである可能性がある(22〜25)。近年の報告によって、CFTRチャンネルは、酸化ストレスによって引き起こされる炎症に対する保護において重要な役割を果たす抗酸化剤である、還元グルタチオンの輸送及び維持と関連があることも示唆されてきている(39)。グアニル酸シクラーゼの活性化による、あるいはcGMP特異的ホスホジエステラーゼの阻害によるcGMPの細胞内レベルの増大によって、これらの炎症性の刺激が下方調節されるであろうと思われる。したがって、ウログアニリン型アゴニストは、肺(たとえば喘息)、腸(たとえば潰瘍性大腸炎及びクローン病)、膵臓及び他の器官の炎症性疾患の予防及び治療において有用であるはずである。
【0010】
概して、ウログアニリンなどのグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストには、広くさまざまな炎症状態、癌(特に結腸癌)の治療において、並びに抗転移剤として、潜在的な治療価値があると結論付けることができる。したがって、新しいアゴニストの開発は臨床上非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、グアニル酸シクラーゼ受容体の新しいアゴニストの開発、及び天然に存在するアゴニストの新たな使用に基づくものである。これらのアゴニストはウログアニリンの類似体であり、これらの多くは低いpHでの受容体の活性化、安定性、活性が向上しており、あるいは悪影響が低下している点で、優れた性質を有している。これらのペプチドを使用して、増大したcGMPの細胞内レベルに応答する任意の状態を治療することができる。cGMPの細胞内レベルは、細胞内でのcGMPの生成を増大させることによって、かつ/あるいはcGMP特異的ホスホジエステラーゼによるその分解を阻害することによって増大させることができる。治療又は予防することができる特異的な状態には、炎症状態、癌、ポリープ、及び転移がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その第1の態様において本発明は、配列番号2〜21の任意の1つのアミノ酸配列から本質的になるペプチド、及びこれらのペプチドを含む治療用組成物を対象とする。「本質的に〜なる」という語は、列挙した配列の同定番号と同一であるペプチド、及び構造又は機能の点で実質的には異なっていない他の配列を含む。本出願の目的のために、配列番号2〜21のペプチドからのアミノ酸4つ以上その構造が変わる場合、あるいは細胞のcGMP生成のその活性化が50%を超えて減少又は増大する場合、ペプチドは実質的に異なっているものとする。好ましくは、実質的に類似であるペプチドはアミノ酸は2つまで異なり、cGMP生成の活性化に関しては約25%を超えては異ならないべきである。最も好ましいペプチドは、配列番号20の配列を有する二環である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ペプチドは、1つ又は複数の薬剤として許容される賦形剤を含む、単位剤形の薬剤組成物であってよい。「単位剤形」という語は、1つの薬剤送達の実体、たとえば錠剤、カプセル、溶液又は吸入製剤を指す。存在するペプチドの量は、患者に投与されたときに好ましい治療効果があるほど充分でなければならない(典型的には100μgと3gの間)。「好ましい治療効果」を構成するものは、治療される個々の状態に依存し、当業者によって容易に理解される状態の任意の著しい改善を含むであろう。たとえば、これが炎症の低下、ポリープ又は腫瘍の縮小、転移性病巣の減少などをもたらす可能性がある。
【0014】
本発明は、単独あるいはcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤、抗炎症剤又は抗癌剤と共に投与される、グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを使用する併用療法も包含する。これらの作用物質は、患者に投与されたときに治療上有効であることが当分野で知られている量で存在しなければならない。抗腫瘍薬はアルキル化剤、エピポドフィロトキシン、ニトロソウレア、代謝拮抗物質、ビンカアルカロイド、アントラサクリン抗生物質、ナイトロジェンマスタード剤などを含んでよい。具体的な抗腫瘍薬は、タモキシフェン、タクソール、エトポシド及び5−フルオロウラシルを含んでよい。抗ウイルス及びモノクローナル抗体療法剤は、患者の特定の必要性に適合させた治療養生法を考案する際に、少なくとも1つのグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを含む化学療法用組成物と組み合わせることができる。
【0015】
他の態様では本発明は、有効な量のグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニスト、好ましくは合成グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを含む組成物を投与することによって、被験者の癌、特に上皮細胞の癌、又はポリープの発症を予防、治療する、あるいは遅延させるための方法を対象とする。「有効な量」という語は、細胞内でのcGMPのレベルを適度に増大させるのに充分なアゴニストを指す。「合成」という語は、グアニル酸シクラーゼ受容体を結合させるために作製されたが、ウログアニリンなどの知られている内因性グアニル酸シクラーゼのアゴニスト中には存在しない、いくつかのアミノ酸配列の置換体を含むペプチドを指す。アゴニストは、配列番号2〜21によって定義されるペプチドから選択され、表2及び3に挙げられているペプチドでなければならない。本発明は、ウログアニリン、及びグアニリン及び大腸菌STペプチドからなる群から選択される有効な用量のペプチドを投与することによって、原発性結腸癌以外の原発性の癌を治療する方法も含む。任意の知られている形のウログアニリン又はグアニリンを、この目的のために使用することができるが、ヒトのペプチドが好ましい。
【0016】
本発明は、原発性の腫瘍塊からの腫瘍転移を予防又は治療する方法も含む。グアニル酸シクラーゼ受容体を有する転移性腫瘍細胞は、本発明に従って生成されるペプチドによって標的化することができる。好ましい実施形態では、標的受容体が胃腸(GI)癌の細胞上、及びこれらの癌に由来する転移した細胞上で発見される。典型的にはこのような受容体は、細胞外リガンド結合ドメインを有する膜タンパク質、膜貫通ドメイン、及びグアニル酸シクラーゼ活性を有する細胞内ドメインである。本発明は任意の特定の作用機構によって縛られるわけではないが、これらの細胞受容体に結合し、アポトーシスを誘導することによって、ペプチドが作用すると考えられる。転移性腫瘍は、任意の知られている形のウログアニリン又はグアニリン(好ましくはヒトのもの)を投与すること、あるいは大腸菌STペプチドを投与することによっても治療することができる。
【0017】
ペプチドは単独、あるいは1つ又は複数のcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤と共に投与することができる。cGMP依存性ホスホジエステラーゼ阻害剤の例には、スルジナックスルホン、ザプリナスト、及びモタピゾンがある。治療可能な形の癌には、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌、及び精巣癌がある。結腸の発癌は、本発明の組成物を投与することにより、前癌性の結腸直腸ポリープの進行を阻害することによって予防することができる。ペプチドは、結腸癌の治療に関して、結腸腫瘍の転移を予防する際に、特に有効であるに違いないと考えられる。
【0018】
他の態様では本発明は、細胞内でのcGMPの生成を増大させるグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを含む組成物を投与することによって、被験者の器官の炎症(たとえばGI管、喘息、腎炎、肝炎、膵炎、気管支炎、又は嚢胞性線維症と関連がある炎症)の発症を予防、治療する、あるいは遅延させるための方法を対象とする。好ましいペプチドのアゴニストは、表2及び3中に示す配列番号2〜21によって定義される群、又はウログアニリン、又はグアニリン、又は大腸菌STペプチドから選択される。これらのペプチドは、1つ又は複数のcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤、たとえばスルジナックスルホン、ザプリナスト、モタピゾンと共に、場合によっては投与することができる。好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物の胃腸管の炎症障害を治療する方法を対象とする。この炎症障害は炎症性腸疾患として分類することができ、より詳細にはクローン病又は潰瘍性大腸炎であってよい。投与は腸溶性のものであってよく、標的腸細胞に適合させた製剤を使用することができる。
【0019】
広い意味で本発明は、配列番号2〜配列番号21の任意の1つのアミノ酸配列を有するペプチド、又はウログアニリン、又はグアニリン、又は大腸菌STペプチドを有効な量投与することによって、患者のアポトーシスを誘導する方法を含む。この意味において、ペプチドの「有効な量」とは、標的組織のアポトーシスを増大させるのに充分な量を指す。たとえば、充分なペプチドを与えて、腫瘍増殖において高い比率の細胞死を誘導することができる。
【0020】
前に記載した方法において使用するために、最も好ましいペプチドは配列番号20によって定義されるペプチドである。この配列は以下の配列であって、(表3も参照のこと)。


上の配列において、位置4のシステインと位置12のシステインの間に1つのジスルフィド結合、位置7のシステインと位置15のシステインの間に第2のジスルフィド結合が存在する配列(配列番号20)である。このペプチドは、グアニル酸シクラーゼ受容体に関するその高い結合定数のためにcGMP生成のアゴニストとして高い生物活性を有しており、温度及びプロテアーゼ安定性に関して、大腸内の生理学的に好ましいpH範囲(pH6〜7)でのその生物活性に関して、ウログアニリンより優れていることが見出されている。
【0021】
前に記載した方法において使用するグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストは、経口的、全身的あるいは局所的に投与することができる。剤形には吸入又は注射用の調製物、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、カプセル、局所用軟膏剤及びローション、経皮組成物、他の知られているペプチド製剤、及びPEG化(pegylated)ペプチド類似体がある。組成物の有効な用量は、典型的には身体重量1kg当たり約1μgと約10mgの間であり、好ましくは身体重量1kg当たり約10μg〜5mgの化合物であろう。用量の調整は、当分野では日常的である方法を使用して行われ、使用される個々の組成物及び臨床上の考慮事項に基づくであろう。アゴニストは単独の活性剤として、あるいは他の薬剤、たとえばcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤と組み合わせて投与することができる。すべての場合において、既存の技術を指針として使用し、治療上有効である用量で追加的な薬剤を投与しなければならない。薬剤は単独の組成物の形で、あるいは逐次的に投与することができる。
【0022】
本発明は、いくつかの概念に基づく。第1の概念は、細胞増殖とアポトーシスの間のバランスを調節するcGMP依存性の機構が存在すること、ウログアニリン/グアニリンの欠乏による、及び/又はcGMP特異的ホスホジエステラーゼの活性化による、cGMPレベルの低下は、悪性形質転換の初期の重要なステップであることである。第2の概念は、炎症のプロセス中にcPLA2、COX−2及びおそらく5−リポキシゲナーゼの活性化をもたらす、膜リン脂質からのアラキドン酸の放出は、cGMP依存性の機構によって下方調節され、プロスタグランジン及びロイコトリエンの低下したレベルがもたらされること、したがってcGMPの細胞内レベルが増大することによって、抗炎症性の応答が生み出される可能性があることである。さらに、cGMP依存性の機構は、前炎症性プロセスの制御と関連があると考えられている。したがって、cGMPの細胞内レベルを評価することは、潰瘍性大腸炎及びクローン病などの炎症性腸疾患、及び他の器官の炎症(たとえば喘息、腎炎、肝炎、膵炎、気管支炎、嚢胞性線維症と関連があるもの)を治療及び制御する手段として使用することができる。
【0023】
任意の理論によって縛られることは考えずに、原形質膜を越えたイオン輸送は、cGMP濃度を変える組成物によって影響を受けるであろう、細胞増殖とアポトーシスの間のバランスの重要な調節要因であることを判明させることができることが想定される。ウログアニリンは、胃腸管内でのK+の流出、Ca++の流入、及び水の輸送を刺激することが示されてきている(3)。さらに、特定のグアニル酸シクラーゼ受容体にも結合するペプチドである、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)も、cGMPの機構によって、ラットのメサンギウム細胞のアポトーシスを誘導し、心臓の筋細胞のアポトーシスを誘導することが示されてきている(26〜29)。本発明のアゴニストがグアニル酸シクラーゼ受容体に結合することによって、cGMPの生成が刺激されると考えられる。したがって、一連のcGMP依存性タンパク質キナーゼ及びCFTRの活性化による、このリガンド−受容体の相互作用は、標的細胞においてアポトーシスを誘導すると予想される。したがって、表2及び3に示すような配列番号2〜21によって定義される新規なペプチド、又はウログアニリン、又はグアニリン、又は大腸菌STペプチドを投与することによって、GI管の炎症性疾患及び全身の器官の炎症(たとえば喘息、腎炎、肝炎、膵炎、気管支炎、嚢胞性線維症)の発症を排除する、あるいは少なくとも遅らせると予想される。
【0024】
他の態様では本発明は、有効な量のグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニスト、好ましくは合成グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを含む組成物を投与することによって、被験者の癌、特に上皮細胞の癌の発症を予防、治療する、あるいは遅延させるための方法を対象とする。「有効な量」という語は、細胞内でのcGMPのレベルを適度に増大させるのに充分なアゴニストを指す。「合成」という語は、グアニル酸シクラーゼ受容体を結合させるために作製されたが、ウログアニリンなどの知られている内因性グアニル酸シクラーゼのアゴニスト中には存在しない、いくつかのアミノ酸配列の置換体を含むペプチドを指す。アゴニストは、配列番号2〜21によって定義されるペプチドから選択され、表2及び3に挙げられているペプチドでなければならない。本発明は、ウログアニリン、グアニリン及び大腸菌STペプチドからなる群から選択される有効な用量のペプチドを投与することによって、原発性結腸癌以外の原発性又は転移性の癌を治療する方法も含む。任意の知られている形のウログアニリン又はグアニリンを、この目的のために使用することができるが、ヒトのペプチドが好ましい。
【0025】
転移性腫瘍細胞の細胞増殖とアポトーシスの間のバランスを調節するcGMP依存性の機構は、転移性腫瘍を標的化及び治療するための機構として働くことができる。肝臓は、原発性の結腸直腸癌からの転移の最も一般的な部位である。疾患の後期段階に向かって、結腸直腸転移性細胞は、身体の他の部分も侵襲する可能性がある。胃腸管中の原発部位に由来する転移性細胞は、典型的にはグアニル酸シクラーゼ受容体を発現し続け、したがってこれらの細胞は、腸のグアニル酸シクラーゼ受容体によって仲介されるアポトーシス療法に対して感受性があるに違いないことを記しておくことは重要である。ウログアニリン活性を有するペプチドも、単独あるいはcGMP−ホスホジエステラーゼの特異的阻害剤と組み合わせて使用すると、cGMP仲介の機構により細胞増殖とアポトーシスの間の健全なバランスを回復させることによって、腸管上皮の発癌の発症を遅らせる。
【0026】
本明細書で使用するように、「グアニル酸シクラーゼ受容体」という語は、本発明のアゴニストペプチド又は本明細書に記載した天然のアゴニストが結合する任意の細胞タイプに対する、グアニル酸シクラーゼ受容体のクラスを指す。
【0027】
本明細書で使用するように、「グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニスト」という語は、グアニル酸シクラーゼ受容体に結合しcGMP生成を刺激する、ペプチド及び/又は他の化合物を指す。この語は、配列番号1のアミノ酸残基3〜15を含む結合ドメインの少なくとも一部分と、実質的に均等であるアミノ酸配列を有するすべてのペプチドも含む。この語は、グアニル酸シクラーゼ受容体に結合しcGMP生成を刺激する、断片及びプロペプチドも含む。「実質的に均等である」という語は、結合ドメインのそれと均等であるアミノ酸配列を有するペプチドを指し、この場合いくつかの残基は、グアニル酸シクラーゼ受容体に結合しcGMP生成を刺激するペプチドの能力を害することなく、欠失しているかあるいは他のアミノ酸に置換されていてよい。
【0028】
新規なグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストの戦略及び設計
ウログアニリンは、胃腸粘膜の内側の杯状細胞及び他の上皮細胞によって、機能的に不活性な形であるプロウログアニリンとして分泌されるペプチドである。ヒトのプロペプチドは、内因性プロテアーゼによって腸の管腔中で、配列番号1(ヒトのウログアニリンの配列、表2参照)に述べた機能的に活性がある16個のアミノ酸ペプチドへと後に転換される。ウログアニリンは熱耐性、酸耐性、及びタンパク質分解耐性ペプチドであるので、このペプチド及び/又は配列番号1の機能的に活性がある16個のアミノ酸ペプチド配列と類似している他のペプチドの、経口性又は全身性投与は、治療法において有効に使用することができる。
【0029】
以前の知られているウログアニリンペプチドと比較して、優れたcGMP向上性及び/又は他の有益な特性(たとえば改善された温度安定性、向上したプロテアーゼ安定性、又は好ましいpHでの優れた活性)を生み出すいくつかのペプチドを含めた、ウログアニリンと類似しているがこれとは異なるペプチドを、以下に記載する。GIの炎症を阻害するため、管の炎症と関連があるポリープ形成の発症を治療又は予防するために、これらのペプチドを使用することができる。癌細胞が形成されやすい上皮組織も、治療することができる。記載したグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストは、表2及び3に示すアミノ酸配列を有している。アゴニスト−受容体相互作用に関する「結合ドメイン」は、配列番号1のアミノ酸残基3〜15を含む。
【0030】
(30)に詳細に述べた方法を使用して、新規なグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストの設計に、分子モデル化を適用した。これは、グアニル酸シクラーゼ受容体と相互作用することが知られている3つの化合物、すなわちヒトのウログアニリン、二環[4,12;7,15]Asn1−Asp2−Asp3−Cys4−Glu5−Leu6−Cys7−Val8−Asn9−Val10−Ala11−Cys12−Thr13−Gly14−Cys15−Leu16(UG、配列番号1);ヒトのグアニリン、二環[4,12;7,15]Pro1−Gly2−Thr3−Cys4−Glu5−Ile6−Cys7−Ala8−Tyr9−Ala10−Ala11−Cys12−Thr13−Gly14−Cys15(GU、配列番号22);及び大腸菌のわずかに熱安定性であるエンテロトキシン、三環[6,10;7,15;11〜18]Asn1−Ser2−Ser3−Asn4−Tyr5−Cys6−Cys7−Glu8−Leu9−Cys10−Cys11−Asn12−Pro13−Ala14−Cys15−Thr16−Gly17−Cys18−Tyr19(ST、配列番号23)のエネルギー計算からなっていた。これら3つの化合物に関する、考えられるすべての低エネルギー状態における立体配座の形状の比較を使用して、生物的活性がある立体配座、すなわちおそらく受容体との相互作用中にGU、UG及びSTによってとられている立体配座の「鋳型」として働く、共通の3D構造を明らかにした。分子モデル化により、さまざまなアミノ酸残基に関する個々の置換基を選択することによって、他の低エネルギー状態における立体配座を犠牲にして、生物的活性がある立体配座である配座の割合が大幅に増大した新規な類似体を設計することができた。
【0031】
段階的手順(30)を使用することによって、エネルギー計算を行った。ECEPP/2電位場(31、32)を使用し、ST中のPro13に関するものを含めて、平面のトランス−ペプチド結合に関する厳密な価電子の形状を推測した。Pro13中の角度ωは変えることができた。脂肪族及び芳香族水素は1つの原子中心のCHnタイプに概して含まれ、Hα−原子及びアミド水素は以下に明確に記載された。
【0032】
主要な計算スキームは、いくつかの連続的なステップを含んでいた。最初に、2つの単環モデル断片(STの3つの断片)、Ac−cyclo(Cysi−...−Cysj)−NMeの配列を考慮し、この場合、Cys、Gly及びPro以外のすべての残基をアラニンに置換し、i及びjの値はGU、UG及びSTの配列に対応するものであった。このステップでは、それぞれのアミノ酸残基のペプチド骨格に関する局所的最小値、すなわち、Ala残基に関するE、F、C、D、A及びA*タイプ((33)中の表記に従う)、Gly残基に関するE*、F*、C*、D*、A、E、F、CD及びA*タイプ、及びProに関するF、C及びAタイプの、ラマチャンドランマップにおける最小値の考えられるすべての組合せを考慮した。それぞれの骨格の立体配座に関しては、ECEPP電位場に固有の放物線ポテンシャル関数を使用して環を閉じるための、1つの最適な可能性を、D−Cys残基に関する二面角χ1の周りの回転のエネルギープロフィールを調べることによって見出した。
【0033】
全体として、それぞれの環状成分に関して約180,000もの立体配座を考慮した。したがって、E−Emin<ΔE=15kcal/molという規準を満たし、任意の骨格の二面角の少なくとも1つの値が40°を超えて異なる配座異性体を選択した(異なるモデル断片に関して約3,000〜8,000個の立体配座)。次のステップでは、整合性単環断片の選択した立体配座を重複させて、二環モデル断片の考えられる立体配座を作製した(STの場合は三環断片)。典型的には、この手順によって、約20,000〜30,000個の立体配座が生み出された。これらすべての立体配座をエネルギー計算の新しいサイクルに施し、これによってSTモデル断片に関してE−Emin<ΔE=20kcal/molという規準を満たす191個の立体配座、GU/UGモデル断片に関して同じ規準を満たす6,965個の立体配座が生じた。この後に、モデル断片中の失われた側鎖を回復させ、エネルギー計算を再度行い、骨格の側鎖基及び末端基の二面角の値(Cys残基に関するχ1角は除く)を、エネルギー最小化の前に最適にし、以前に記載されたアルゴリズム(34)を使用して、それらの最も好ましい空間的配置を得た。UG4〜15断片に関しては、632個の立体配座がΔE=20kcal/molという規準を満たし、そのうちの164個がΔE=12kcal/molというより厳しい規準を満たし、これは1kcal/mol/残基という認められている規準に対応する(30)。UG4〜15断片の3〜16、次いでUG分子全体への二次的な伸長を、同じ段階的手順によって行った。最後に、UGの31個の骨格の立体配座が、ΔE=16kcal/molという規準を満たすことを見出した。
【0034】
配座異性体の幾何学的比較を、以下の方法で行った。1対の配座異性体の原子中心に関する重ね合わせの最適性を評価して、(35)に従って、2つの配座異性体間の幾何学的類似性のレベルを調べた。幾何学的類似性に関する規準はrms値であり、これは1対の配座異性体AとBに関して、以下のように計算した。
【0035】
【数1】


上式で、Nは重ね合わせのために選択したCα−原子対の数であり、x、y及びzはデカルト座標である。幾何学的類似性がrms<2.0Åであるという規準によって、立体配座が厳密である断片UG4〜15の低エネルギー状態における立体配座は、7つの立体配座のファミリーの範疇のものであった。このうちの1つは、1UYAと1ETNの両方に類似している同じ6つの配座異性体からなり、このファミリーはUGの低エネルギー状態における配座異性体も含む。(1UYA及び1ETNは、それぞれ実験によって定義したUG及びSTの3D構造であり、これらは高い生物活性を有することが知られており(36、37);これらの3D構造体はProtein Data Bankにおいて入手可能であった。)
【0036】
【表1】

【0037】
このUG断片の全体的な3D形状を決定する値である、二面角φ及びψは類似している(表1)。これによって、さまざまなタイプのアミノ酸によって課される知られている局所的な配座の制限を使用して、この個々の立体配座のファミリーを安定化させることを目的とする、新しい類似体の予備設計を行うことができた。
【0038】
たとえばGlyは、任意の他のL型アミノ酸残基と比較して、立体配座的により柔軟であることは知られている。なぜならGlyは、φ及びψに関する記号の任意の4つの組合せ、すなわち−,+;−,−;+,+;及び+,−で、立体配座をとることができるからである。この最後の組合せは、AlaなどのL型アミノ酸に関しては、立体的に許されない。したがって、Gly14のAla14への置換によって、表1に記載した立体配座を保ちながら、位置14の立体配座の柔軟性が制限されるはずである。さらに、Aib(α−Me−Ala、ジ−α−メチル−アラニン)に関する置換によって、ただ2つの領域近くの局所的な立体配座の柔軟性、すなわち−,−及び+,+に関して制限されるはずであり、第1の領域は表1中のAla11の配座異性体と適合性がある。したがって、1つのより望ましい置換基はAib11である。Proでは、φ値は−75°に固定され、この残基はその疎水性によってバリンにも類似している。したがって、Val10をPro10に置換することができ、これによってさらなる局所的な立体配座の制約が表1中のUG配座異性体に加えられる。Proによる置換には、前の残基が正のψ値のみを有することも必要であり、表1中のAsn9がこの要件を満たす。Pro残基は、STの対応する位置に既に存在している。以下に示した配列番号1中に示唆した置換基(たとえばPro10、Aib11又はAla14)はいずれも、非脂肪族アミノ酸(Asn、Asp又はThrなど)の化学的性質を変えることはなく、このことは受容体との実際の相互作用に関して重要である可能性がある。前者の置換は、UGの立体配座の平衡状態を示唆される「鋳型」3D形状に移す、立体配座の制限のみをもたらすはずである。
【0039】
表1に定義した3D構造に基づいて、ウログアニリンの3次元の薬理作用団を定義し、これによって、受容体と直接相互作用すると考えられるウログアニリンの官能基間の距離を決定することができた。受容体と直接相互作用すると考えられる基は、骨格配列の位置3、5、9及び13の残基の側基である。これらの残基は、配列番号2及び配列番号20に示すような、Glu3、Glu5、Asn9、及びThr13であることが好ましい。したがって、これらの側鎖間の距離によって任意選択の生物活性が与えられるように、位置3、5、9及び13における残基の4つの側鎖の空間的配置を生み出すことができる、ウログアニリンの3次元の薬理作用団を記載する。これらの距離(対応する残基のCβ原子間の距離として測定した)は以下の通りである:3と5の距離に関しては5.7〜7.6Å、3と9に関しては4.0〜6.0Å、3と13に関しては7.7〜8.3Å、5と9に関しては9.4〜9.5Å、5と13に関しては9.4〜9.5Å、及び9と13に関しては5.8〜6.3Å。
【0040】
前述の距離は、ペプチド骨格の立体配座のみに依存する。しかしながら、いくつかの場合は、側鎖そのものの立体配座も重要である。たとえば、それらの低エネルギー状態における立体配座を鑑みると、UG(SP301)、[Glu2]−UG(SP303)、[Glu3]−UG(SP304)及び[Glu2、Glu3]−UG(SP302)の骨格間では立体配座の違いがないことが計算によって示された。しかしながら、位置3のAspのβ−カルボキシル及びGluのγ−カルボキシルの空間的位置には顕著な違いがある。すなわち、位置3のGlu残基のγ−カルボキシルは、Asp残基の対応するβ−カルボキシルより遠く、分子の塊の「外側に」明らかに伸びている。前述の観察によって、位置3の側鎖の負に帯電したカルボキシル基は、受容体上の正に帯電した結合部位と特異的に相互作用し、したがってAsp3ではなくGlu3を含む類似体はさらに活性が強いはずであることが強く示唆される。同時に、この特定の相互作用の効率を確実なものにするために、リガンドと受容体の間の広範囲の静電的相互作用の全体系は、バランスが良くなければならない。Glu2側鎖はAsp2側鎖と比較して立体配座の可能性が高いので、このバランスはSP304(Asp3がGlu3に1つ置換されている)と比較して、SP302(AspがGluに二重に置換されている)ではわずかに変わってよい。
【0041】
表1に記載した低エネルギー立体配座をとることができる化合物を、表2に列挙する。化合物はすべて、[4,12;7,15]二環である。
【0042】
【表2−1】


【表2−2】

【0043】
表2に示したいくつかのペプチドは16個のアミノ酸残基を含み、その中でシステイン残基は、Cys4とCys12の間、及びCys7とCys15の間でそれぞれジスルフィド架橋を形成する。これらのペプチドは、WO01/25266中に記載されたペプチド配列とは異なり、ペプチドの立体配座及びエネルギー計算に基づいて設計される。
【0044】
さらに、表3に示す長さがアミノ酸13〜16個でさまざまであるペプチドを、エネルギー計算及び3次元構造に基づいて設計して、生物学的に活性がある配座異性体の安定化を促進し、生物学的に不活性である配座異性体への相互転換を最小限にするかあるいは失くす。これらのペプチドは、タンパク質分解及び高温に対する安定性を促進するためにも設計される。これらのペプチドの設計は、グルタミン酸及びアスパラギン酸などの、低いpH値においてイオン電荷を含むアミノ酸残基の修飾を含む。
【0045】
【表3】

【0046】
薬剤組成物及び製剤
本発明のグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニスト(表2、配列番号2〜5、及び表3、配列番号6〜21)、及びウログアニリン、グアニリン及び/又は細菌エンテロトキシンSTは、経口、局所又は全身性投与用に、さまざまな賦形薬、媒体又はアジュバントと組み合わせるかあるいは調合することができる。ペプチド組成物は、溶液、粉末、懸濁液、エマルジョン、錠剤、カプセル、経皮パッチ、軟膏剤、又は他の製剤の形で投与することができる。製剤及び剤形は、当分野でよく知られている方法を使用して作製することができる(たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、16th ed.、A.Oslo ed.、Easton、PA(1980)を参照のこと)。
【0047】
cGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤は、cGMPの分解を特異的に妨げる、小分子、ペプチド、タンパク質又は他の化合物であってよい。阻害化合物には、スルジナックスルホン、ザプリナスト、モタピゾン、及びcGMP特異的ホスホジエステラーゼの酵素活性を害する他の化合物がある。1つ又は複数のこれらの化合物を、配列番号2〜21、ウログアニリン、グアニリン及び大腸菌STペプチドで例示したグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストと併用することができる。
【0048】
担体(たとえばリン酸緩衝生理食塩水すなわちPBS)、及び組成物中に使用するのに適した他の成分の選択は、充分に当分野の技術のレベル内である。1つ又は複数のグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを含むことに加えて、このような組成物は薬剤として許容される担体、及び投与を容易にするかつ/あるいは取り込みを高めることが知られている他の成分を取り込むことができる。ミクロスフェア、ナノ粒子、リポソーム、PEG化タンパク質又はペプチドなどの他の製剤、及び免疫学的に基本となる系も使用することができる。例には、全身の半減期及び安定性を高めるための、ポリマ―(たとえば20%w/vポリエチレングリコール)又はセルロースを使用する製剤、又は腸溶性製剤及びPEG化ペプチド類似体がある。
【0049】
治療法
「治療」という語は、被験者の症状を低下又は軽減させること、症状の悪化又は進行を妨げること、又は疾患の進行を妨げることを指す。所与の被験者に関して、症状の改善、その悪化、退行、又は進行は、典型的には当業者によって使用される任意の客観的又は主観的測定によって決定することができる。癌の場合の治療の有効性は、罹病率又は死亡率(たとえば選択した個体群に関する生存曲線の増大)の改善として測定することができる。したがって有効な治療は、既存の疾患の療法、疾患の進行を遅らせるかあるいは停止させることによる疾患の調節、疾患の発生の予防、症状の数又は重度の低下、又はこれらの組合せを含むと思われる。その効果は、1つ又は複数の統計上有意な規準を使用して、規定の研究において示すことができる。
【0050】
1つ又は複数の内科/外科手順、及び/又は少なくとも1つの他の化学療法剤との併用療法を、本発明に関して実施することができる。併用療法において有用な他の適切な作用物質には、たとえばステロイド又は非ステロイド抗炎症薬(NSAIDS)など、アスピリンなどの抗炎症薬がある。再発の発生を予防するかあるいは低下させるための予防法も、治療とみなす。
【0051】
組成物に対して反応すると予想される癌には、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌、胃癌、膀胱癌、肝臓癌、食道癌及び精巣癌がある。グアニル酸シクラーゼ受容体の少なくとも1つのアゴニストを含む療法剤に対して、反応することが確かと思われる癌性又は前癌性組織がかかわる疾患のさらに他の例には、癌(たとえば基底細胞、基底扁平細胞、ブラウンピアース、腺管、エルリッヒ腫瘍、in situ、クレブス、メルケル細胞、小又は非小細胞肺、燕麦細胞、乳頭、細気管支、扁平上皮細胞、移行細胞、ウォーカー)、白血病(たとえばB−細胞、T−細胞、HTLV、急性又は慢性であるリンパ球性、マスト細胞、骨髄性)、組織球腫、組織球増殖症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腺、プラズマ細胞腫、細胞内皮増殖症、腺腫、腺癌、腺線維腫、腺リンパ腺、腺芽腫、被角血管腫、好酸球増多随伴性血管類リンパ組織増殖症、硬化性血管腫、血管腫症、アプドーマ、鰓腫、悪性カルチノイド症候群、カルチノイド心疾患、癌肉腫、セメント質腫、胆管腫、コレステリン腫、軟骨肉腫、軟骨芽細胞腫、軟骨肉腫、脊索腫、迷芽腫、クラニオファリンジオーム、脊索腫、円柱腫、嚢胞腺癌、嚢胞腺腫、葉状嚢胞性肉腫、未分化胚細胞腫、上衣細胞腫、ユーイング肉腫、線維腫、線維肉腫、巨細胞腫、神経節細胞腫、こう芽細胞腫、グロムス血管腫、顆粒膜細胞腫、男女性胚細胞腫、過誤腫、血管内皮芽細胞腫、血管腫、血管外皮細胞腫、血管肉腫、肝腫、鳥細胞腫、カポジー肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、白血肉腫、ライディッヒ細胞腫、脂肪腫、脂肪肉腫、リンパ管腫、リンパ管筋腫、リンパ管肉腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、間葉腫、中腎腫、中皮腫、筋芽細胞腫、筋腫、筋肉腫、粘液腫、粘液肉腫、神経鞘腫、神経腫、神経芽細胞腫、神経上皮腫、神経線維腫、神経線維症、歯芽腫、骨腫、骨肉腫、乳頭腫、パラガングリオーマ、非クロム親和性パラガングリオーマ、松果体腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、セルトリ細胞腫、奇形腫、莢膜腫、及び細胞が形成異常、不朽状態になっているか、あるいは形質転換されている他の疾患がある。
【0052】
多量の本発明の組成物を、短時間に投与することができる。1日1回が、特に前述の疾患状態の1つを治療するための、好都合な投与スケジュールである。あるいは有効な1日の用量を、投与の目的で多数の用量、たとえば1日当たり2〜12の用量に分けることができる。使用するために選択される用量レベルは、化合物の生物学的利用能、活性、及び安定性、投与の経路、治療される疾患の重度、及び治療を必要とする被験者の状態に依存するであろう。1日の用量は典型的には、身体重量1kg当たり約10μgと約2mgの間(たとえば約100μg〜1mg)の化合物であろうと企図される。投与される化合物の量は、たとえば化合物の化学的性質、投与の経路、癌の位置及びタイプなどの当業者に知られている要因に依存する。被験者の哺乳動物は、任意の動物又はヒト患者であってよい。したがって、本発明に従って、獣医学的及び医学的治療の両方を想定する。
【0053】
本発明を、以下の非制限的な実施例によってさらに記載する。
【実施例】
【0054】
材料及び方法
細胞培養:52継代のヒトT84結腸癌細胞を、American Type Culture Collectionから得た。細胞は、10%ウシ胎児血清、100Uペニシリン/ml、及び100μg/mlストレプトマイシンを補った、ハムのF−12培地とダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)の1:1混合物中で増殖させた。細胞には3日に1度新鮮な培地を与え、約80%の集合状態で分けた。
【0055】
cGMPの細胞内レベルを決定するためのT84細胞系アッセイ:ペプチド類似体を、Multiple Peptide Systems、San Diego、CAによって、及びPrinceton Biomolecules、Langhorne、PAによって注文合成した。合成ペプチドの生物活性を、前に報告したようにアッセイした(15)。簡潔には、24ウエルのプレート中の集合した単層のT84細胞を、50mMのHEPES(pH7.4)を含む250μlのDMEMで2回洗浄し、50mMのHEPES(pH7.4)及び1mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)を含む250μlのDMEMと共に37℃で10分間前培養し、次にペプチド類似体(0.1nM〜10μM)と共に30分間培養した。この培地を吸引し、3%過塩素酸を加えることによって、反応を停止させた。遠心分離、0.1NのNaOHを用いた中和の後に、ELISAキット(Caymen Chemical、Ann Arbor、MI.)を使用するcGMPの測定用に、上澄みを直接使用した。
【0056】
結果
表4に示すペプチドは注文合成し、公開されている手順(38)を使用して精製したものである(>95%純度)。ペプチド類似体をT84細胞系アッセイにおいて、cGMPの細胞内レベルを増大させるそれらの能力に関して評価した。表4に示すように、SP304(配列番号20)は、試験したすべての類似体の中で、細胞内cGMPの最大の増大をもたらした。SP316(配列番号21)は有効性が2番目であり、それに対してSP301、SP302及びSP303の生物活性は、いずれも幾分弱かった。ペプチド類似体SP306及びSP310は、このアッセイでは活性がなかった。これらの結果によってSP304が、cGMPを増大させることに関して最も強力なペプチドであることが示される。これらの結果は、位置7のシステイン残基を、[7,15]ジスルフィド結合の成分としてのペニシラミンで置換することはできず、位置9のAsn残基をGlnに変えることはできないことも示唆する。
【0057】
【表4】

【0058】
熱安定性を調べるために、ペプチド類似体の10マイクロモル溶液を、95℃で90分まで加熱した。処理中の特定の時間に、T84細胞系アッセイにおける生物活性に関してサンプルを試験した。SP301、SP302、SP303及びSP304の生物活性が、加熱の60分後に著しく変わることはなかった。90分後、SP301、SP302及びSP303の活性は、それらの元の値の約80%に低下し、一方SP304の生物活性は変わらなかった。これによってSP304は、試験した他のペプチドと比較して、熱変性に対してより安定性があることが示される。エネルギー計算及び3D構造に基づいて、配列番号1の位置3の側鎖の負に帯電したカルボキシル基は、受容体上の正に帯電した結合部位と特異的に相互作用すると、我々は予想した。この相互作用を増大させることができる場合は、SP304に関して見出されたのと同様に、Asp3ではなくGlu3を含む類似体はさらに活性が強いはずである。同時に、この特定の相互作用の効率を確実なものにするために、リガンドと受容体の間の広範囲の静電的相互作用の全体系は、バランスが良くなければならない。Glu2側鎖はAsp2側鎖と比較して立体配座の可能性が高いので、このバランスはSP304(Asp3がGlu3に1つ置換されている)と比較して、SP302(AspがGluに二重に置換されている)ではわずかに変わってよい。実際、SP304の生物活性は、評価した類似体の中では最高である。
【0059】
合成ペプチドSP301、SP302、SP303及びSP304を、T84細胞系アッセイの異なるpH値での、それらの活性に関しても試験した。これらのペプチドはすべて、5〜7の範囲のpHでcGMPの増大した細胞内生成を示したが、SP304は6.5と7の間の範囲で最大の増大を示した。大腸の生理学的pHは類似の範囲内にあることを記すことは重要であり、したがってSP304は、結腸癌の治療に非常に有効であることが予想されると思われる。
【0060】
我々は、T84細胞系アッセイにおいて単独、あるいはcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤(たとえばザプリナスト又はスルジナックスルホン)と組み合わせて使用したペプチドも、cGMPの細胞内レベルの増大に関して評価した。cGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤とSP304の組合せによって、これらの実験におけるcGMPレベルの増大において劇的な効果が示された。合成ペプチドSP304は、ザプリナスト又はスルジナックスルホンのみの存在下で達したレベルよりも、cGMPレベルを大幅に増大させた。ザプリナスト又はスルジナックスルホンと組み合わせたSP304でウエルを処理することによって、細胞内cGMPレベルの相乗的増大がもたらされた。これらの増大は、p値<0.5で統計上有意であった。これらのデータは、グアニル酸シクラーゼ受容体のペプチドアゴニストと、1つ又は複数のcGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤を組み合わせた処理によって、cGMP濃度の付加的ではなく大きな増大をもたらすことを示す。
【0061】
本発明を詳細に、かつその特定の実施形態を参照しながら記載してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および改変を行うことができることは、当業者には明らかであろう。
【0062】
(参考文献)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2〜配列番号21の任意の1つのアミノ酸配列から本質的になるペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが配列番号20の配列を有する(4,12;7,15)二環である請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが配列番号2〜配列番号21の任意の1つのアミノ酸配列からなる請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
患者の原発性又は転移性の癌又はポリープを予防あるいは治療するための方法であって、配列番号2〜配列番号21の任意の1つの配列を有するグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを有効な用量、前記患者に投与することを含む方法。
【請求項5】
患者の転移性の癌を治療するための方法であって、ウログアニリン、グアニリン、及び大腸菌STペプチドからなる群から選択されるグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを有効な用量、前記患者に投与することを含む方法。
【請求項6】
患者の結腸癌以外の原発性の癌を治療するための方法であって、ウログアニリン、グアニリン、及び大腸菌STペプチドからなる群から選択されるグアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを有効な用量、前記患者に投与することを含む方法。
【請求項7】
前記ペプチドが配列番号20の配列を有する(4,12;7,15)二環性ペプチドである請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記原発性の癌が乳、結腸、直腸、肺、卵巣、膵臓、膀胱、前立腺、腎臓又は精巣からなる群から選択されるメンバーである請求項4記載の方法。
【請求項9】
cGMP依存性ホスホジエステラーゼの有効な用量の阻害剤を、前記グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストと同時に、又は逐次的に前記患者に投与することをさらに含む請求項4〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
患者の結腸癌またはポリープを治療する方法であって、cGMP依存性ホスホジエステラーゼの有効な用量の阻害剤を、ウログアニリン、グアニリン、又は大腸菌STペプチドと同時に、又は逐次的に前記患者に投与することを含む方法。
【請求項11】
cGMP依存性ホスホジエステラーゼの前記阻害剤がスルジナックスルホン、ザプリナスト、及びモタピゾンからなる群から選択される請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
患者の炎症を予防又は治療するための方法であって、配列番号2〜配列番号21、ウログアニリン、グアニリン、又は大腸菌STペプチドの任意の1つの配列を有する、グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストを有効な用量、前記患者に投与することを含む方法。
【請求項13】
前記ペプチドが配列番号20の配列を有する(4,12;7,15)二環性ペプチドである請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記炎症が喘息、腎炎、肝炎、膵炎、気管支炎、及び嚢胞性線維症からなる群から選択される炎症性疾患である請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記患者を胃腸管の炎症性疾患に関して治療する請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記胃腸管の炎症性疾患が潰瘍性大腸炎及びクローン病からなる群から選択される炎症性腸疾患である請求項15記載の方法。
【請求項17】
cGMP依存性ホスホジエステラーゼの有効な用量の阻害剤を、前記グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストと同時に、又は逐次的に前記患者に投与することをさらに含む請求項12記載の方法。
【請求項18】
前記cGMP依存性ホスホジエステラーゼがスルジナックスルホン、ザプリナスト、及びモタピゾンからなる群から選択される請求項17記載の方法。
【請求項19】
原発性又は転移性の癌、ポリープ又は炎症に関して患者を治療する方法であって、
a)配列番号2〜21、ウログアニリン、グアニリン、又は大腸菌STペプチドの任意の1つの配列を有する、グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストペプチド、
及び
b)cGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、及び抗癌剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物
を前記患者に投与することを含み、
前記グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニスト及び前記化合物を、治療上有効な量でそれぞれ投与する、
上記方法。
【請求項20】
治療上有効な量で存在する配列番号2〜21の任意の1つの配列を有する、グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストペプチドを含む、単位剤形の薬剤組成物。
【請求項21】
a)配列番号2〜21、ウログアニリン、グアニリン、又は大腸菌STペプチドの任意の1つの配列を有する、グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニストペプチド、及び
b)cGMP依存性ホスホジエステラーゼの阻害剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、及び抗癌剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、
前記グアニル酸シクラーゼ受容体のアゴニスト及び前記化合物が、それぞれ治療上有効な量で存在する、
単位剤形の薬剤組成物。
【請求項22】
単位剤形が錠剤、カプセル、溶液又は吸入製剤からなる群から選択される請求項20又は21に記載の薬剤組成物。
【請求項23】
1つ又は複数の賦形剤をさらに含む請求項20又は21に記載の薬剤組成物。
【請求項24】
被験者の細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、配列番号2〜配列番号21の任意の1つの配列を有するアゴニストペプチドを有効な量、前記被験者に投与することを含む方法。
【請求項25】
結腸癌以外の癌の被験者の細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、ウログアニリン、グアニリン、又は大腸菌STペプチドを有効な量、前記被験者に投与することを含む方法。
【請求項26】
配列番号2〜配列番号21、ウログアニリン、グアニリン、又は大腸菌STペプチドのいずれかの配列を有するペプチドに結合したポリエチレングリコール(PEG)を含むペプチド複合体。
【請求項27】
患者の癌、炎症又はポリープを治療する方法であって、請求項26記載のペプチド複合体を治療上有効な量、前記患者に投与することを含む方法。

【公開番号】特開2012−149071(P2012−149071A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51581(P2012−51581)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2008−184375(P2008−184375)の分割
【原出願日】平成14年3月28日(2002.3.28)
【出願人】(502051210)サイナージィ ファーマスーティカルズ、インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】