説明

組織片処理装置

【課題】薬液タンクが空になる直前に、薬液と気体との混合流体が供給配管の供給口から処理槽内に噴出し、処理槽に既に貯留された薬液面を波立てると共に、薬液の飛沫が処理槽の蓋に付着する従来の組織片処理装置の課題を解消する。
【解決手段】顕微鏡標本用の組織片が挿入された処理槽12内に、複数の薬液タンクの各々に貯留された各種の薬液が順次給排される組織片処理装置であって、処理槽12に貯留される薬液の液面よりも高い位置に、前記液面方向に傾斜した薬液供給口38が設けられ、前記薬液タンクの各々から薬液と気体との混合流体が薬液供給口38に供給されたとき、前記混合流体の薬液供給口38から液面方向への噴出力を弱め、前記混合流体中の薬液が処理槽12の内壁面を流下するように、薬液供給口38内に薬液噴出防止部材40が挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織片処理装置に関し、更に詳細には顕微鏡標本用の組織片が挿入された処理槽内に、複数の薬液タンクの各々に貯留された各種の薬液が順次給排される組織片処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体や動物から採取した組織片から顕微鏡用標本を作製する際には、下記特許文献1に掲載されている様に、図6に示す組織片処理装置100が用いられる。かかる組織片処理装置100では、上面開口部が蓋122によって密閉されている処理槽102内に、組織片(図示せず)が収容されたバスケット104が挿入されている。
このバスケット104内に収容された組織片(図示せず)に対して、固定、脱水、脱脂・置換、パラフィン包埋と言った種々の処理を施す。この処理では、組織片が収容された処理槽102内にホルマリン、アルコール、キシレン及びパラフィン等の各種薬液が順次給排される。
【0003】
かかる各種薬液は、複数の薬液タンク106,106・・内に収納されている。薬液タンク106,106・・の各々からは、薬液を搬送するための薬液管路108が選択バルブ110に向けて配設されている。選択バルブ110は、ロータリーバルブによって構成されており、薬液管路108,108・・のうち1つを選択して、切換バルブ114を介して処理槽102に接続されている薬液管路112と接続する。
この切換バルブ114は、処理槽102の外壁面に設けられている三方弁であって、薬液管路112と処理槽102への供給配管116、或いは薬液管路112と排液口118に接続される排液管路120とのいずれかに接続されるようになっている。
処理槽102への薬液の給排は、ポンプ126によって処理槽102内を減圧又は加圧することによって行われる。
処理槽102内への薬液の供給は、処理槽102内への所定量の薬液が供給されたとき停止される。かかる薬液の供給が、所定量の薬液量が処理槽102内に供給されても続行されているときは、処理槽102に設けられた液面検出センサ124,124によって薬液の液面が検出されたとき、ポンプ126を停止して処理槽102から薬液がオーバーフローしないようにしている。
かかる図6に示す組織片処理装置100では、その供給配管116の処理槽102の供給口は、図7に示す様に、処理槽102に既に貯留された薬液面に斜め方向から噴出するように形成されている。
【特許文献1】特開2001−122388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6及び図7に示す組織片処理装置100では、処理槽102に既に貯留された薬液面の波立ちを抑制でき且つ処理槽102の蓋122への薬液の飛散を防止できる。
ところで、通常、薬液タンク106,106・・の各々には、処理槽102への供給量と等しくなる液量が計量されて貯留されている。このため、処理槽102への薬液の供給は、薬液タンク106が空になるまで継続することが普通である。
従って、薬液タンク106が空になる直前には、薬液と空気との混合流体が供給配管116の供給口から処理槽102内に噴出し、処理槽102に既に貯留された薬液面を波立てると共に、薬液の飛沫が処理槽102の蓋122に付着する。
また、薬液のみが処理槽102内に供給される場合でも、処理槽102に既に貯留された薬液面の波立ちを更に一層抑制することが要望されている。
そこで、本発明は、薬液タンクが空になる直前に、薬液と空気等の気体との混合流体が供給配管の供給口から処理槽内に噴出し、処理槽に既に貯留された薬液面を波立てると共に、薬液の飛沫が処理槽の蓋に付着する従来の組織片処理装置の課題を解消し、薬液と空気等の気体との混合流体が供給配管の供給口から処理槽内に噴出しても、処理槽に既に貯留された薬液面の波立ちを抑制でき且つ処理槽の蓋への薬液の飛散を防止できる組織片処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するには、薬液と空気との混合流体を分散して供給配管の供給口から処理槽内に噴出する混合流体の噴出力を弱めることが有効であると考え検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、顕微鏡標本用の組織片が挿入された処理槽内に、複数の薬液タンクの各々に貯留された各種の薬液が順次給排される組織片処理装置であって、前記処理槽に貯留される薬液の液面よりも高い位置に、前記液面方向に傾斜した薬液供給口が設けられ、前記薬液タンクの各々から薬液と気体との混合流体が前記薬液供給口に供給されたとき、前記混合流体の薬液供給口から液面方向への噴出力を弱め、前記混合流体中の薬液が処理槽の内壁面を流下するように、前記薬液供給口内に薬液噴出防止部材が挿入されていることを特徴とする組織片処理装置にある。
かかる本発明において、薬液噴出防止部材として、混合流体の流れを分散してジグザグ状とする流路を形成した薬液噴出防止部材を好適に用いることができる。特に、複数枚のフランジ状部材が所定の間隔を介して積層され、且つ前記フランジ状部材の各々に、混合流体の流路となる複数の貫通孔が形成されている薬液噴出防止部材を好適に用いることができる。
この薬液噴出防止部材を、処理槽の薬液供給口に着脱可能に螺着することによって、容易に薬液噴出防止部材を取り外して処理槽の薬液供給口の掃除等を行うことができる。
また、薬液噴出防止部材が装着された処理槽の薬液供給口の外周面に、ヒータを装着することによって、室温下で凝固する薬液を使用しても、薬液供給口で薬液が凝固することを防止できる。
更に、処理槽内を加圧又は減圧して薬液の給排が行われるように、前記処理槽内を加圧又は減圧するポンプを設けることによって、処理装置内への薬液の給排を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る組織片処理装置では、処理槽に貯留される薬液の液面よりも高い位置に、液面方向に傾斜した薬液供給口には、薬液噴出防止部材が挿入されている。
かかる薬液噴出防止部材は、薬液供給口からの薬液と空気等の気体との混合流体の噴出力を弱めるため、混合流体中の薬液は処理槽の内壁面を伝わって流下する。
このため、処理槽内に既に溜まった薬液の液面の波立ちを更に一層抑制でき、且つ処理槽の蓋に付着する薬液の飛沫も防止できる。
その結果、処理槽内に設けた液面検出センサの誤操作を防止し、異なる薬液タンク内に貯留されている薬液とのコンタミネーションを防止でき、薬液寿命の延長を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る組織片処理装置の一例を図1に示す。図1に示す組織片処理装置10は、上面開口部が蓋32によって密閉されている処理槽12内に、組織片が収容されたバスケット14が挿入されている。
かかる処理槽12内には、ホルマリン、アルコール、キシレン及びパラフィン等の各種薬液が順次給排される。
これらの各種薬液は、複数の薬液タンク16,16・・に貯留されている。薬液タンク16,16・・の各々からは、薬液を搬送する薬液管路18が選択バルブ20に向けて配設されている。選択バルブ20は、ロータリーバルブによって構成されており、薬液管路18,18・・のうち1つを選択して、処理槽12に切換バルブ24を介して接続されている薬液管路22と接続する。
この切換バルブ24は、処理槽12と選択バルブ20との間に設けられている三方弁であって、薬液管路22と処理槽12への供給配管26、或いは薬液管路22と排液口28に接続される排液管路30とのいずれかに接続されるようになっている。
【0008】
処理槽12への薬液の給排は、ポンプ36によって処理槽12内を減圧又は加圧することによって行われる。つまり、処理槽12内に薬液を供給する際には、ポンプ36を駆動して処理槽12内を減圧状態とし、所定の薬液タンク16から薬液を供給する。他方、処理槽12内の薬液を排出する際には、ポンプ36を駆動して処理槽12内を加圧状態とし、処理槽12内の薬液を所定の薬液タンク16に排出する。
また、処理槽102内への薬液の供給は、通常、予め処理槽12への供給量と等しくなる液量が計量されて貯留されている薬液タンク16,16・・の各々から行われる。このため、処理槽12への薬液の供給は、薬液タンク16が空になるまで継続する。
但し、薬液タンク16の液量の計量が間違って所定量よりも多く貯留されていた場合には、処理槽12に設けられた液面検出センサ34,34によって薬液の液面が検出されたとき、ポンプ36を停止して処理槽12からの薬液のオーバーフローを防止している。
かかる図1に示す組織片処理装置10では、薬液タンク16に貯留されている薬液を新薬液と交換する際に、新薬液用タンク17を用いて交換できる。新薬液液タンク17に所定量貯留されている新薬液は、選択バルブ20を介して処理槽12内に供給され、処理槽12を経由して所定の薬液タンク16に貯留できる。
【0009】
ところで、処理槽12に薬液を供給する際に、薬液タンク16が空になる直前には、薬液と空気との混合流体が供給配管26の供給口から処理槽12内に噴出する。
この点、図1に示す組織片処理装置10では、図2に示す様に、処理槽12に貯留される薬液の液面よりも高い位置に、液面方向に傾斜して設けられた薬液供給口38内に、図3に示す薬液噴出防止部材40が挿入されている。
この様に、薬液供給口38を処理槽12に貯留される薬液の液面よりも高い位置に設けることによって、ポンプ36によって処理槽12内を減圧して薬液タック16から処理槽12への薬液の供給を行っている際に、停電等の不測の事態が発生してポンプ36が停止し処理槽12の減圧が破れて薬液の供給ができなくなったときでも、処理槽12中の薬液が薬液タンク16内に逆流することを確実に防止できる。
かかる薬液供給口38に挿入されている薬液噴出防止部材40の一例を図3に示す。図3(a)は薬液噴出防止部材40の正面図、図3(b)は薬液噴出防止部材40の縦断面図、及び図3(c)は薬液噴出防止部材40の背面図を各々示す。
【0010】
図3に示す薬液噴出防止部材40は、アルミニウム製であって、三枚のフランジ状部材40a,40b,40cが所定の間隔を介して積層され、且つフランジ状部材40a,40b,40cの各々には、流体の流路となる複数の貫通孔42a,42b,42cが形成されている。
フランジ状部材40a,40bに形成されている貫通孔42a,42bは、フランジ状部材40a,40bに対して直角に形成されているが、フランジ状部材40cに形成された貫通孔42cは、フランジ状部材40cに対して傾斜して形成されている。
更に、フランジ状部材40cの表面には、複数の環状突起部44,44・・が形成されており、環状突起部44,44との間には、切欠部44aが形成されている。
かかるフランジ状部材40cの外周面には、螺子46が形成されており、薬液噴出防止部材40を薬液供給口38内に螺着して係止できる。この薬液噴出防止部材40の薬液供給口38内への着脱を容易に行うことができるように、フランジ状部材40aの表面に凹溝48が形成されている。
【0011】
図3に示す薬液噴出防止部材40を薬液供給口38内に螺着した状態を図4に示す。図4に示す供給配管26から薬液と空気との混合流体が薬液供給口38に供給されたとき、混合流体は、図4に示す矢印に示す様に、薬液噴出防止部材40の環状突起部44,44・・に形成された切欠部44a.44a・・を通過して、フランジ状部材40cに傾斜して形成される貫通孔42cを通過する。更に、混合流体は、フランジ状部材40b,40aのフランジ状部材に対して直角に形成された貫通孔42b,42aを通過して、処理槽12内に吐出される。
この様に、混合流体は、切欠部44a、貫通孔42c,42b,42aを通過する際に、分散され且つジグザグ状の流路を経由して、その噴出力を弱めて薬液供給口38から処理槽12内に吐出される。このため、薬液供給口38から処理槽12内に吐出された混合流体は、処理槽12に既に貯留された薬液の液面を波立てることがなく、且つ混合流体中の薬液は処理槽12の内壁面を伝わって流下する。
【0012】
また、処理槽12に薬液のみが供給される薬液供給の途中でも、薬液供給口38内に薬液噴出防止部材40を装着しておくことによって、薬液供給口38からの薬液の吐出力を弱めることができる。このため、薬液供給口38から処理槽12内に吐出された薬液は、処理槽12の処理槽12の内壁面を伝わって供給される。
従って、薬液供給口38から処理槽12内に吐出された薬液によって、処理槽12に既に貯留された薬液の液面の波立による液面検出センサ34,34の誤作動を防止できると共に、処理槽12内の貯留された薬液の跳ね返りによる蓋32の汚れも防止できる。
【0013】
図1に示す組織片処理装置10では、室温で凝固するパラフィン等の薬液を使用するため、図2に示す薬液供給口38の外周面にヒータを取り付けて、薬液供給口38の内壁面と薬液噴出防止部材40との間に残留するパラフィン等の薬液の凝固を防止することが好ましい。
更に、薬液供給口38の内壁面と薬液噴出防止部材40との間に薬液の残留を防止すべく、フランジ状部材40cの外周面に形成された螺子46に切欠部を形成してもよい。
また、図3に示す薬液噴出防止部材40は、三枚のフランジ状部材40a,40b,40cが所定の間隔を介して積層されているが、図5に示す様に、二枚のフランジ状部材40a,40cが所定の間隔を介して積層されているものであってもよく、プラスチック製であってもよい。
尚、図1〜図5に示す組織片処理装置10では、単一の処理槽12を具備するものであるが、複数の処理槽12を具備してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る組織片処理装置の一例を説明する概略図である。
【図2】図1に示す処理槽12の薬液供給口近傍を説明する部分断面図である。
【図3】図2に示す薬液供給口38内に挿入された薬液噴出防止部材40の一例を説明する正面図、縦断面図及び背面図である。
【図4】図3に示す薬液噴出防止部材40が挿入された薬液供給口38に供給された薬液の流れを説明する説明図である。
【図5】薬液噴出防止部材40の他の例を説明する縦断面図である。
【図6】従来の組織片処理装置を説明する概略図である。
【図7】図6に示す処理槽102の薬液供給口近傍を説明する部分断面図である。
【符号の説明】
【0015】
10 組織片処理装置
12 処理槽
14 バスケット
16 薬液タンク
18,22 薬液管路
20 選択バルブ
24 切換バルブ
26 供給配管
28 排液口
30 排液管路
32 蓋
34,34 液面検出センサ
36 ポンプ
38 薬液供給口
40 薬液噴出防止部材
40a,40b,40c フランジ状部材
40 薬液噴出防止部材
42a,42b,42c 貫通孔
44 環状突起部
44a 切欠部
46 螺子
48 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡標本用の組織片が挿入された処理槽内に、複数の薬液タンクの各々に貯留された各種の薬液が順次給排される組織片処理装置であって、
前記処理槽に貯留される薬液の液面よりも高い位置に、前記液面方向に傾斜した薬液供給口が設けられ、
前記薬液タンクの各々から薬液と気体との混合流体が前記薬液供給口に供給されたとき、前記混合流体の薬液供給口から液面方向への噴出力を弱め、前記混合流体中の薬液が処理槽の内壁面を流下するように、前記薬液供給口内に薬液噴出防止部材が挿入されていることを特徴とする組織片処理装置。
【請求項2】
薬液噴出防止部材には、混合流体の流れを分散してジグザグ状とする流路が形成されている請求項1記載の組織片処理装置。
【請求項3】
薬液噴出防止部材には、複数枚のフランジ状部材が所定の間隔を介して積層され、且つ前記フランジ状部材の各々には、混合流体の流路となる複数の貫通孔が形成されている請求項1又は請求項2記載の組織片処理装置。
【請求項4】
薬液噴出防止部材が、処理槽の薬液供給口に着脱可能に螺着されている請求項1〜3のいずれか一項記載の組織片処理装置。
【請求項5】
薬液噴出防止部材が装着された処理槽の薬液供給口の外周面に、ヒータが装着されている請求項1〜4のいずれか一項記載の組織片処理装置。
【請求項6】
処理槽内を加圧又は減圧して薬液の給排が行われるように、前記処理槽内を加圧又は減圧するポンプが設けられている請求項1〜5のいずれか一項記載の組織片処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−202922(P2009−202922A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49171(P2008−49171)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000148025)サクラ精機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】