説明

組織特異的なペプチド模倣リガンドを用いる標的化送達

本明細書では、組織特異的なペプチド模倣体リガンドの使用により、治療剤を組織特異的に標的化送達するための組成物及び方法が開示される。リガンドは、式A−足場−A’の組成物と、足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカーとを含む。足場につながれたA及びA’による化合物は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、疾患の治療及び診断の分野に関し、より具体的には、薬剤を特異的な標的組織へと送達するための新規の組成物及び方法の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定することなく、その背景を、特異的な標的組織への送達との関連で説明する。
【0003】
すべての腫瘍並びにこれらの転移は、血管により維持されるので、癌を治療するために治療剤を静脈内注射することは、究極の治療法であると考えられている。これらの腫瘍血管床は、腫瘍細胞へのリポソームの直接的な接近を可能とするのに十分な程度に漏洩性である。腫瘍血管系へと送達される抗血管新生薬又は遺伝子治療剤は、腫瘍への血液の供給を遮断し、これにより腫瘍を退縮させるために使用されうる。
【0004】
標的化送達は、有効性を最大化し、かつ、毒性を低減するのに不可欠である。大半のリポソーム送達システムの治療的適用に対する主要な制約は、インビボにおいてそれらのトランスフェクション効率が低いこと;静脈内送達後において肺内に蓄積されること;全身送達後において凝集し、クリアランスされること(例えば、クッパー細胞により);注射されたリポソーム複合体のバルクを、標的細胞及び標的器官、並びに他の組織へと送達することが不可能であることである。効果的な標的化に用いられる細胞表面受容体が知られていないことが、癌を治療するための標的化送達を、さらに困難なものとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、治療剤を組織特異的に標的化送達するための標的リガンドを包含する。リガンドは、式A−足場−A’の組成物と、足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカーとを含む。足場につながれたA及びA’による化合物は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む。化合物Aと化合物A’とは、同一でありうる。足場は、反応性のジクロロトリアジン基を含みうる。一実施形態では、疎水性アンカーのうちの1又は2以上が、炭化水素部分を含む。一例では、炭化水素部分が、オクタデシル基を含みうる。標的リガンドは、足場と疎水性アンカーとの間に機能的な形で挿入される、切断可能な場合もあり、切断可能でない場合もある、1又は2以上のリンカーをさらに包含しうる。
【0006】
本発明はまた、治療剤を標的化送達するための低分子複合体を合成する方法も提供する。該方法は、2つ以上の一価のペプチド模倣化合物を、足場へと共有結合するステップであって、各々の一価のペプチド模倣化合物が、断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択されるステップと、1又は2以上の疎水性アンカーを、該足場へと共有結合するステップとを包含する。化合物Aと化合物A’とは、同一でありうる。足場は、反応性のジクロロトリアジン基を含みうる。一実施形態では、疎水性アンカーのうちの1又は2以上が、炭化水素部分を含む。一例では、炭化水素部分が、オクタデシル基を含みうる。標的リガンドは、足場と疎水性アンカーとの間に機能的な形で挿入される、切断可能な場合もあり、切断可能でない場合もある、1又は2以上のリンカーをさらに包含しうる。
【0007】
本発明はまた、治療剤の担体と、治療剤を組織特異的に標的化送達するための標的リガンドとを含む、リガンド官能化送達システムも包含する。一実施形態では、治療剤の担体がリポソームである。一例では、標的リガンドが、1又は2以上の疎水性アンカーを介して、非共有結合により、内部脂質二重層と外部脂質二重層とを有するカチオン性リポソームの外部脂質二重層の外部表面に固定される。
【0008】
本発明の別の実施形態は、ペイロードを標的組織へと送達する方法を包含する。該方法は、治療剤を組織特異的に標的化送達するための標的リガンドを合成するステップと;該標的リガンドを、治療剤を封入する細胞膜若しくはオルガネラ膜、又は多重膜小胞若しくは二重膜小胞、又はより具体的に、二重膜リポソームなどの脂質二重層内へと組み込むステップと;該リポソームを、標的リガンドでコーティングするステップと;該標的化リポソーム複合体を、可逆性マスキング試薬と組み合わせるステップと;治療有効量の、該マスキングされた標的化リポソーム複合体を患者に投与するステップとを包含する。一実施形態では、リポソームが、二重膜陥入小胞(「BIV」、bilamellar invaginated vesicle)でありうる。分子量が約500Da以下である低分子の中性脂質を、可逆性マスキング剤として用いることができる。標的組織には、ヒト膵臓癌、ヒト乳癌、ヒト非小細胞肺癌、ヒト非小細胞肺癌血管内皮、黒色腫、又はヒト膵臓癌血管内皮が含まれうる。標的リガンドの例には、化合物KB995、KB1001、KB1003、KB1005、KB1012、KB1023、KB1029、KB1035、KB1036、KB1039、KB1042、KB1051、KB1061、KB1062、KB1063、KB1064、KB1066、KB1067、KB1096、KB1107、KB1108、又はKB1109のうちの少なくとも1つが含まれる。一態様では、標的組織が、黒色腫であり、標的リガンドが、化合物KB1037、KB1109、及びKB1123のうちの少なくとも1つである。
【0009】
別の実施形態では、本発明が、標的組織に結合させるためのペプチド模倣化合物を単離する方法であって、式:A−足場−A’[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む]の組成物、及び足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカーを調製するステップと;標的組織を、該ペプチド模倣化合物と接触させるステップと;該標的組織に特異的に結合するペプチド模倣化合物を単離するステップと;該標的組織に特異的に結合した組成物の式を特徴づけるステップとを含む方法を包含する。標的組織には、ヒト膵臓癌、ヒト乳癌、ヒト非小細胞肺癌、ヒト非小細胞肺癌血管内皮、ヒト黒色腫、又はヒト膵臓癌血管内皮が含まれうる。一態様では、該方法が、患者の細胞を解離直後にスクリーニングするハイスループットアッセイを包含する。一態様では、ペプチド模倣化合物ライブラリーを、例えば、疎水性テールではなく、ユーロピウムクリプテート又はテルビウムクリプテートで標識する。解離された患者の細胞は、腫瘍細胞と正常細胞とを対比しながら、時間分解蛍光法を用いて直接的にスクリーニングする。
【0010】
一実施形態では、本発明が、標的組織又は標的細胞に結合するペプチド模倣化合物をスクリーニングする方法であって、式:A−足場−A’[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択されるペプチド模倣化合物を含む]の組成物のペプチド模倣体ライブラリーを調製するステップと;1又は2以上の脂質二重層アンカーを、該ペプチド模倣化合物に共有的に付着させるステップと;該ペプチド模倣化合物を脂質と混合して、リポソームを形成させるステップと;標的組織を、該ペプチド模倣化合物と接触させるステップと;該標的組織に特異的に結合するペプチド模倣化合物を単離するステップと;該標的組織に特異的に結合した組成物の式を特徴づけるステップとを含む方法を包含する。
【0011】
さらに別の実施形態は、標的組織又は標的細胞に結合するペプチド模倣化合物をスクリーニングする方法であって、式:A−足場−A’[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択されるペプチド模倣化合物を含む]の組成物のペプチド模倣体ライブラリーを調製するステップと;1又は2以上の脂質二重層アンカーを、該ペプチド模倣化合物に共有的に付着させるステップと;該ペプチド模倣化合物を脂質と混合して、リポソームを形成させるステップであって、該リポソームが、細胞へと送達される核酸をさらに含むステップと;標的組織を、該ペプチド模倣化合物と接触させるステップと;該標的組織に特異的に結合するペプチド模倣化合物を単離するステップと;該標的組織に特異的に結合した組成物の式を特徴づけるステップとを含む方法である。一態様では、標的組織が、組織培養物中の細胞としてさらに定義される。別の態様では、標的組織が、組織培養物中の細胞としてさらに定義され、かつ、該細胞が、これらに対する核酸の作用に基づいて選択される。さらに別の態様では、標的組織が、組織培養物中の細胞としてさらに定義され、核酸が、陰性又は陽性選択(negative or positive selection)のための選択マーカーであるか、陽性又は陰性選択(positive or negative selection)のための選択マーカーを発現させるか、検出可能なマーカーを発現させる。
【0012】
ここで、本発明の特色及び利点をより完全に理解するため、付属の図面と共に、本発明についてのより詳細な説明について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】化合物を同定するための一般的な図式を示すダイアグラムである。
【図2】置換フルオレセインによるピペリジン選択反応を介する、二量体の調製を示す図である。
【図3】静脈内注射されたBIV複合体の90%超を、もっぱら標的細胞内へと送達するための、標的化戦略の最適化を示す図である。
【図4】本発明による各種の化合物の構造を示す図であり、その一般的構造を上部に示し、KB991〜KB1005である特異的構造を、それぞれ、左から右に列挙する。
【図5】本発明による結合部分(A及び/又はA’)の組合せについてまとめる図である。
【図6】本発明による構造の一例を示す図であり、その一般的構造を上部に示し、KB991〜KB1005である特異的構造を、それぞれ、左から右に列挙する。
【図7a−7d】本発明による結合部分(A=断片A及び/又はA’=断片B)の最適化を示す図である。
【図8】MCF7細胞に対する、列挙された化合物のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図9】A549細胞に対する、列挙された化合物のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図10】MCF10A細胞に対する、列挙された化合物のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図11】コーティングされたリポソーム送達システムにおいて列挙された化合物を用いる、PANC1細胞におけるルシフェラーゼの相対発現を示すグラフである。
【図12】コーティングされたリポソーム送達システムにおいて列挙された化合物を用いる、Mia PaCa2細胞におけるルシフェラーゼの相対発現を示すグラフである。
【図13】コーティングされたリポソーム送達システムにおいて列挙された化合物を用いる、HPDE細胞におけるルシフェラーゼの相対発現を示すグラフである。
【図14】HUVEC細胞とH1299細胞との共培養物における、列挙される化合物によるトランスフェクションの増強を示す図である。
【図15】単独のH1299細胞培養物における、列挙される化合物によるトランスフェクションの結果を示す図であるが、増強は見られなかった。
【図16】単独のHUVEC細胞培養物における、列挙される化合物によるトランスフェクションの増強を示す図であるが、増強は見られなかった。
【図17】HUVEC細胞とPANC1細胞との共培養物における、列挙される化合物によるトランスフェクションの増強を示す図である。
【図18】単独のPANC1細胞の培養物における、列挙される化合物によるトランスフェクションの結果を示す図であるが、増強は見られなかった。
【図19】単独のHUVEC細胞の培養物における、列挙される化合物によるトランスフェクションの結果を示す図であるが、増強は見られなかった。
【図20a−20c】共培養後において、内皮CD31+細胞の発現が増大することを示す図である。本発明者らは、細胞をカウントした後において、HUVEC:H1299の播種比30:1の共培養物を確立した。フィコエリトリンをコンジュゲートした抗CD31抗体により内皮細胞を染色し、播種後毎日、フローサイトメトリーを用いて、内皮細胞集団(R3により示される)を測定した。低レベルのCD31を発現させる内皮細胞が、大半であった(R4により示される)。高レベルのCD31を発現させる内皮細胞は、ごく少数であった(R2により示される)。共培養の8日後、共培養物の内皮細胞集団によるCD31発現は、HUVEC対照によるCD31発現と比較して有意に増大した(c)。9日後には、共培養物におけるCD31発現の増強(b、c)が、HUVEC対照(a、c)におけるCD31発現の増強と比較してはるかに増大した。P=0.026。
【図21a−21b】共培養後における内皮VEGF−A発現の増強を示す図である。HUVEC:PANC1の播種比10:1で共培養物を確立し、8日間にわたり、2チャンバー型のトランスウェルディッシュ内で培養した。内皮細胞を採取し、リアルタイムRT−PCR及びウェスタンブロット法を用いて、VEGF−Aの発現を測定した。共培養後、転写レベル(a)及び翻訳レベル(b)において、内皮VEGF−Aの発現が、HUVEC対照による発現と比較して増大した。P<0.01、N=6。
【図22a−22f】共培養後における管存続の延長を示す図である。トランスウェルディッシュにおいて、HUVEC:PANC1の播種比10:1で共培養した8日後、内皮細胞を採取し、Matrigel上に播種した。16時間後、HUVEC対照(a)並びに共培養物による内皮細胞(b)のいずれもが、毛細血管様の環状構造物を形成する。これらの構造は、48時間後において、解体され始めた。72時間後までに、HUVEC対照による管構造は、ほぼ完全に解体された(c)。しかし、共培養物中では、有意量の管構造が存続した(d)。これらの構造は、優れた管状ネットワークを維持し、11日間にわたり存続し続けた(e、f)。
【図23a−23b】二価低分子の構造、並びにライブラリーのスクリーニングを示す図である。二価低分子の一般的構造(23a)は、細胞表面受容体と相互作用させるための2つのβターン模倣体と、BIVリポソーム複合体内に挿入するための炭化水素テールと、リンカーとを包含する。また、本発明者らによる「ヒット」分子であるKB1023の構造も示す。ハイスループットのルシフェラーゼアッセイ(23b)を用いて、腫瘍内皮細胞特異的な標的リガンドについてスクリーニングした。共培養の7日後において、細胞を採取し、細胞2×10個/ウェルで、96ウェルプレートへと播種した。同じ日に、ルシフェラーゼDNA:リポソームBIV複合体を調製し、その後、様々な化合物:DNA比で化合物をコーティングした。コーティングされた複合体を、RTで一晩にわたりインキュベートした。翌日、コーティングされた複合体0.52μLを含有する無血清培地50μLを細胞にトランスフェクトした。血清を含有する細胞培地でトランスフェクション培地を置換することにより、トランスフェクションを終了させた。トランスフェクションの24時間後、細胞を溶解させ、この細胞溶解物を、20uL/ウェルで96ウェルプレートへとロードし、Luminoskanプレートリーダーを用いるルシフェラーゼアッセイを行った。
【図24】本発明の方法についてのフローチャートである。
【図25a−25h】膵臓腫瘍内皮標的リガンド及び肺腫瘍内皮標的リガンドを示す図である。化合物KB1023は、PANC1+HUVEC共培養物(a)のトランスフェクション効率は増大させたが、PANC1細胞(b)又はHUVEC(c)のトランスフェクション効率は増大させなかった。2チャンバー型トランスウェルによる培養系を用いる、共培養物の内皮コンパートメント(d)について、標的化が確認された。KB1023はまた、AsPC1細胞(e)との共培養後においても、内皮細胞のトランスフェクション効率を増大させた。KB1061は、H1299とHUVEC(f)との共培養物によるトランスフェクション効率を増強したが、H1299細胞(g)又はHUVEC(h)によるトランスフェクション効率は増強しなかった。ルシフェラーゼ遺伝子の発現を、コーティングされないリポソーム複合体による発現と比較した。P<0.05。
【図26a−26c】インビボにおける標的化及び最適化を示す図である。IV注射の24時間後、KB1023でコーティングしたリポソーム複合体の大半は、肺及び心臓へと、非特異的にトランスフェクトされた(a)。可逆性マスキング(RM、reversible masking)を用いて、かつ、RM剤の濃度を増大させて注射したところ、IV注射の14時間後において、肺及び心臓による非特異的な取込みが著明に減少した。RMを11mMとしたところ、IV注射の14時間後において肺及び心臓が示す非特異的取込みは、わずかしか見られない〜まったく見られない(b)であり、IV注射の14時間後における腫瘍組織への送達並びにその後の遺伝子発現は、約10倍増大した(c)。肝臓(c)など、他の非特異的組織内でも送達の増大が見出されなかったことから、標的化が、腫瘍内の内皮に特異的であったことが示唆される。CATアッセイ及びタンパク質アッセイを実施するために、腫瘍組織から腫瘍血管内皮を解離させることは極めて困難であった;したがって、腫瘍血管内皮への送達の増大が10倍であったとは、控えめの評価である。腫瘍内皮は、全腫瘍容量の約5%であるため、腫瘍血管系への標的化送達の増大は、コーティングしない単独のBIV複合体を用いる送達の約200倍である可能性が極めて高い。11mMを超えてRMをさらに増大させても、腫瘍組織への送達は増大せず、送達並びにその後の遺伝子発現は減少した。したがって、腫瘍内皮への標的化送達には、11mMのRMを用いるのが最適である。#CATの発現は、IV注射の14時間後において測定し、RMを伴わない標的化送達を用いる対照と比較した。P<0.01。^P<0.05。1群当たりのN=4〜5。
【図27】TSP1遺伝子の標的化送達を用いる腫瘍増殖の阻害を示す図である。共培養物をIP注射した2週間後において、35μgのTSP1 DNAを封入したBIVリポソーム複合体を、リガンドKB1023でコーティングし、11mMの可逆性マスキング(RM)と共に、各マウスへとIV共注射した。隔週1回の合計3回にわたりIV注射を実施した。最終回の注射の2週間後(共培養物をIP注射した8週間後)、マウスを屠殺し、腹部内の腫瘍サイズを比較した。ヒト腫瘍内皮を標的とするTSP1送達により治療されたマウスは、リポソームだけを注射した対照マウスと比較して、有意な癌増殖の遅延を示した。標的化送達を、最適な可逆性マスキング(RM)と組み合わせたところ、腫瘍の増殖は大幅に抑制され、腫瘍はほぼ根絶された。毎週1回の合計5回にわたるIV注射へと治療を増強したところ、腫瘍の増殖はさらに抑制された。N=20。他の群は、1群当たり5〜7匹のマウスを有する。#P<0.05。
【図28】KB1037、KB1109、及びKB1123をSK−MEL−28細胞にトランスフェクトした後における発現の増大を示す図である。
【図29】KB1037、KB1109、及びKB1123を腹壁黒色腫細胞にトランスフェクトした後における発現の増大を示す図である。
【図30】KB1037、KB1109、及びKB1123を左側臀部黒色腫細胞にトランスフェクトした後における発現の増大を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下で、本発明の各種の実施形態の実施及び使用について詳細に論じる中で、本発明が、多種多様な特定の文脈で具体化されうる、多くの適用可能な発明概念を提供することを理解されたい。本明細書で論じられる特定の実施形態は、本発明を実施及び使用するための特定の方式について例示するものであるに過ぎず、本発明の範囲を画定するものではない。
【0015】
以下では、本発明の理解を容易とするため、いくつかの用語について定義する。本明細書で定義される用語は、本発明に関与する分野の当業者が一般的に理解する意味を有する。「ある(a)」、「ある(an)」、「その」などの用語は、単数の実体だけを指すことを意図するものではなく、例示を目的としてその特定の例が用いられうる一般的なクラスを包含する。本明細書における用語法は、本発明の特定の実施形態を説明する目的で用いられるものであり、特許請求の範囲において概観される場合を除き、それらの使用により本発明が画定されるものではない。
【0016】
リポソームの表面上で多量体化した低分子ペプチドは、注射、特に全身注射を繰り返した後で、免疫反応を発生させる可能性があり、かつ、腫瘍間質における圧力勾配を超えた透過及び送達を不可能にする場合がある。抗体、抗体断片、タンパク質、タンパク質部分などを含めた他のより高分子のリガンドは、低分子ペプチドを用いる場合より、リポソーム表面上における標的化送達がはるかに困難である。必要とされるものは、リポソームなどの送達システムの表面上に配置されて、標的組織をそれらの選択的な標的としうる、低分子の非免疫原性分子である。
【0017】
ペプチド模倣体とは、ペプチドの生物学的活性を模倣するが、化学的性質においてはもはやペプチドではない分子である。ペプチド模倣体という用語は、一般に、ペプチド結合(すなわち、アミノ酸間のアミド結合)をもはや含有しない分子について述べるものである。
【0018】
本明細書で用いられる「ペプチド模倣体」という用語は、疑似ペプチド、セミペプチド、及びペプトイドなど、もはや完全にはペプチドの性質を示さない分子を指す。完全に非ペプチド性であれ、部分的に非ペプチド性であれ、本発明によるペプチド模倣体は、タンパク質−リガンド間相互作用のホットスポットで見出される二次構造モチーフの三次元的配置に酷似する、反応性の化学的部分の空間的配置、例えば、細胞表面受容体に対するアフィニティーを示すようにデザインされた、二価のベータターン模倣体を提供する。
【0019】
リポソームペイロードの標的化送達は、有効性を最大化し、かつ、毒性を低減するのに不可欠である。本発明は一般に、標的細胞への治療剤の送達を、既存の方法より効果的に媒介するリガンドを提供する。本発明はまた、標的リガンドを合成する方法、並びに該リガンドを用いて治療剤を標的細胞へと効果的に送達する方法も提供する。これらの標的リガンドが低分子であるという事実により、免疫反応を発生させることなく、注射を無制限に繰り返すことが可能となる。創出された技法は、疾患細胞への、治療剤及び造影剤の選択的な標的化送達を改善する。この技法は、異なる種類の癌を含めた、多数の疾患及び障害に適用することができる。膵臓癌、乳癌、非小細胞肺癌(NSCLC、non-small cell lung carcinoma)、膵臓癌血管内皮、黒色腫、又はNSCLC癌血管内皮など、多数のヒト癌組織に対する特異性を目的として低分子ライブラリーを創出し、この特異性について該ライブラリーをスクリーニングした。
【0020】
大半のリポソーム送達システムの幅広い治療的適用に対する主要な制約は、インビボにおいてそれらのトランスフェクション効率が低いこと;静脈内送達後において肺内に蓄積されること;全身送達後において凝集し、クリアランスされること(例えば、クッパー細胞により);注射されたリポソーム複合体のバルクを、標的細胞及び標的器官、並びに他の組織へと送達することが不可能であることである。二重膜陥入小胞(「BIV」)が、これらの制約を克服する(Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression, N. S. Templeton, D. D. Lasic, P. M. Frederik, H. H. Strey, D. D. Roberts, and G. N. Pavlakis, Nature Biotechnology, 1997, 15, 647-652、Liposomal delivery of nucleic acids in vivo, N. S. Templeton, DNA and Cell Biology, 2002, 21, 857-867)。BIV複合体の表面に配置されて、それらを標的細胞へと方向づけうる、非免疫原性のリガンドが存在しないことが、治療ツールとしてのBIVの開発を妨げている。リポソームの表面上で多量体化した低分子ペプチドは、注射、特に全身注射を繰り返した後で、免疫反応を発生させる可能性があり、かつ、腫瘍間質における圧力勾配を超えた透過及び送達を不可能にする場合がある。抗体、抗体断片、タンパク質、タンパク質部分などを含めた他のより高分子のリガンドは、低分子ペプチドを用いる場合より、リポソーム表面上における標的化送達がはるかに困難である。本発明は、BIV並びに他の治療剤担体を癌組織へと選択的に送達する、非免疫原性の標的リガンドを提供する。
【0021】
本発明は、それらが、充実性腫瘍の間質における圧力勾配を含めた強固な障壁(Successful treatment of primary and disseminated human lung cancers by systemic delivery of tumor suppressor genes using an improved liposome vector, R. Ramesh, T. Saeki, N. S. Templeton, L. Ji, L. C. Stephens, I. Ito, D. R. Wilson, Z. Wu, C. D. Branch, J. D. Minna, and J. A. Roth, Molecular Therapy, 2001, 3, 337-350)を透過する限りにおいて独自である標的化複合体を提供するが、これにより、BIV複合体は、腫瘍細胞への直接的な標的化送達を達成する。この治療法は、癌の治療における有効性を達成するための、腫瘍細胞血管系への送達に限定されない。他の研究者らもまた、腫瘍血管床が、腫瘍細胞へのリポソームの直接的な接近を可能とするのに十分な程度に漏洩性であることを示している(Openings between defective endothelial cells explain tumor vessel leakiness, H. Hashizume, P. Baluk, S. Morikawa, J. W. McLean, G. Thurston, S. Roberge, R. K. Jain, and D. M. McDonald, Am J Pathol, 2000, 156, 1363-1380、Effect of transvascular fluid exchange on pressure-flow relationship in tumors: a proposed mechanism for tumor blood flow heterogeneity, P. A. Netti, S. Roberge, Y. Boucher, L. T. Baxter, and R. K. Jain, Microvasc Res, 1996, 52, 27-46、Vascular permeability and microencapsulation of gliomas and mammary carcinomas transplanted in rat and mouse cranial windows, F. Yuan, H. A. Salehi, Y. Boucher, U. S. Vasthare, R. F. Tuma, and R. K. Jain, Cancer Res, 1994, 54, 4564-4568)。さらに、近年の刊行物は、循環に接近可能な腫瘍細胞が、「血管生成性模倣」と呼ばれる分化過程を経ることについて報告しており、この場合、腫瘍細胞は、それらの表面において、腫瘍細胞マーカーではなく、血管マーカーを発現させる(Vasculogenic mimicry, R. Folberg, and A. J. Maniotis, APMIS, 2004, 112, 508-525、Remodeling of the microenvironment by I melanoma tumor cells, M. J. Hendrix, E. A. Seftor, D. A. Kirschmann, V. Quaranta, and R. E. Seftor, Ann N Y Acad Sci, 2003, 995, 151-161)。本発明で提供される低分子の標的リガンドは、抗血管新生薬又は遺伝子治療剤を、腫瘍血管系へと送達して、腫瘍への血液の供給を遮断し、これにより、腫瘍を退縮させることが可能である。
【0022】
効果的な標的化に用いられる細胞表面受容体が知られていないことが、癌を治療するための標的化送達を、さらに困難なものとしている。最適なリガンドは、低分子(約500Da以下の、例えば、薬物及び低分子)であるものとし、標的細胞上だけに見出される固有の受容体に対するアフィニティーが高く、これらに内部化するものとする。本発明者らの発明に先立って、特定の癌細胞及び癌亜型上における細胞表面受容体を選択的に標的とする、最適な低分子リガンドが同定されることはなかった。本発明は、標的化送達に用いるのにより適した細胞表面受容体を探索するための、低分子標的リガンドライブラリーを包含する。この標的化戦略には、最適の固有受容体の機能及び固有性を知る必要がない。
【0023】
図1は、低分子ライブラリーデザインの本質的な部分を示す。タンパク質のホットスポットを模倣する可能性がある「一価」の低分子を用いて、各々が、炭化水素アンカー(例えば、疎水性テール)を備えた、より大規模な「二価リガンド」ライブラリーを形成する。これらの二価リガンドは、細胞表面受容体への結合に特に適切であり、タンパク質−リガンド間相互作用のホットスポットにおいて見出される二次構造モチーフに類似する。炭化水素アンカーは、混合し、一晩にわたりインキュベートするだけで、一価及び二価のリガンドが、リポソーム複合体へと固定されることを可能とする。本発明の一実施形態では、用いられるリポソームが、BIV(Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression, N. S. Templeton, D. D. Lasic, P. M. Frederik, H. H. Strey, D. D. Roberts, and G. N. Pavlakis, Nature Biotechnology, 1997, 15, 647-652)である。別の例では、ペプチド模倣化合物ライブラリーを、例えば、疎水性テールではなく、ユーロピウムクリプテートテール又はテルビウムクリプテートテールで標識する。これにより、時間分解蛍光法を用いて直接的に、該ライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0024】
細胞表面受容体に結合するようにデザインされた低分子:細胞表面におけるタンパク質間相互作用の多くは、二量体又はオリゴマーのリガンドが、二量体又はオリゴマーの受容体とドッキングすることを伴う。これらの相互作用に関与するリガンドを模倣する低分子をデザインすることは困難である。Burgess及び共同研究者により用いられた手法は、タンパク質中に見出されるアミノ酸に正確に対応する側鎖を、タンパク質間相互作用のホットスポットで見出されるタンパク質の二次構造に緊密に合致する有機フレームワーク上において有する低分子を作製することである。次いで、これらを併せて接合して、受容体上の2つの部位に結合しうる可能性があり、結合すれば自由エネルギーの低下を大幅に増大させうる二価分子、例えば、「セミペプチド性」のベータターンアナログを形成する(Discovering High-Affinity Ligands for Proteins: SAR by NMR, S. B. Shuker, P. J. Hajduk, R. P. Meadows, and S. W. Fesik, Science, 1996, 274, 1531-1534、Discovery of Potent Nonpeptide Inhibitors of Stromelysin Using SAR by NMR, P. J. Hajduk, G. Sheppard, D. G. Nettesheim, E. T. Olejniczak, S. B. Shuker, R. P. Meadows, D. H. Steinman, G. M. Carrera, P. A. Marcotte, J. Severin, K. Walter, H. Smith, E. Gubbins, R. Simmer, T. F. Holzman, D. W. Morgan, S. K. Davidsen, J. B. Summers, and S. W. Fesik, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 5818-5827、One-Dimensional Relaxation- and Diffusion-Edited NMR Methods for Screening Compounds That Bind to Macromolecules, P. J. Hajduk, E. T. Olejniczack, and S. W. Fesik, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 12257-12261、NMR-Based Discovery of Lead Inhibitors That Block DNA Binding of the Human Papillomavirus E2 Protein, P. J. Hajduk, J. Dinges, G. F. Miknis, M. Merlock, T. Middleton, D. J. Kempf, D. A. Egan, K. A. Walter, T. S. Robins, S. B. Shuker, T. F. Holzman, and S. W. Fesik, J. Med. Chem, 1997, 40, 3144-3150、Structure-Activity Relationships by NMR: A New Procedure for Drug Discovery by a Combinatorial-Rational Approach, H. Kessler, Angew. Chem. Int. Ed., 1997, 36, 829-831、Stromelysin Inhibitors Designed from Weakly Bound Fragments: Effects of Linking and Cooperativity, E. T. Olejniczak, P. J. Jahduk, P. A. Marcotte, D. G. Nettesheim, R. P. Meadows, R. Edalji, T. F. Holzman, and S. W. Fesik, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 5828-5832、Identification of a Small Molecule Inhibitor of the IL-2/IL-2Ra Receptor Interaction Which Binds to IL-2, J. W. Tilley, L. Chen, D. C. Fry, S. D. Emerson, G. D. Powers, D. Biondi, T. Varnell, R. Trilles, R. Guthrie, F. Mennona, G. Kaplan, R. A. LeMahieu, R. Palermo, and G. Ju, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 7589-7590、The SHAPES strategy: an NMR-based approach for lead generation in drug discovery, J. Fejzo, C. A. Lepre, J. W. Peng, G. W. Bemis, Ajay, M. A. Murcko, and J. M. Moore, Chem. Biol., 1999, 5, 755-769、Privileged Molecules for Protein Binding Identified from NMR-Based Screening, P. J. Hajduk, M. Bures, J. Praestgaard, and S. W. Fesik, J. Med. Chem., 2000, 43, 3443-3447)。意義深いことには、これらの化合物は、任意のアミノ酸側鎖を組み込むことが可能であり、そのため、そのモチーフを伴う任意のホットスポットにおけるターンを模倣するようにデザインすることができる。これらは、ベータターンの立体構造に良好に合致する傾向にあり、ターン型のホットスポットを有する、いくつかのタンパク質間相互作用標的に対して活性である(SNAr Cyclizations to Form Cyclic Peptidomimetics of b-Turns, Y. Feng, Z. Wang, S. Jin, and K. Burgess, J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 10768-10769、Solid Phase SNAr Macrocyclizations to Give Turn-extended-turn Peptidomimetics, Y. Feng, and K. Burgess, Chem. Eur. J., 1999, 5, 3261-3272、Conformations of Peptidomimetics Formed by SNAr Macrocyclizations: 13- to 16-Membered Ring Systems, Y. Feng, Z. Wang, S. Jin, and K. Burgess, Chem. Eur. J., 1999, 5, 3273-3278、Stereochemical Implications of Diversity in b-Turn Peptidomimetic Libraries, Y. Feng, M. Pattarawarapan, Z. Wang, and K. Burgess, J. Org. Chem., 1999, 64, 9175-9177、Facile Macrocyclizations to b-Turn Mimics with Diverse Structural, Physical, and Conformational Properties, C. Park, and K. Burgess, J. Comb. Chem., 2001, 3, 257-266、A New Solid-Phase Linker for Suzuki Coupling with Concomitant Macrocyclization: Synthesis of b-Turn Mimics, W. Li, and K. Burgess, Tetrahedron Lett., 1999, 40, 6527-6530、Preferred Secondary Structures as a Possible Driving Force for Macrocyclization, S. Reyes, M. Pattarawarapan, S. Roy, and K. Burgess, Tetrahedron, 2000, 56, 9809-9818、Solid-Phase Syntheses of b-Turn Analogues To Mimic or Disrupt Protein-Protein Interactions, K. Burgess, Acc. Chem. Res., 2001, 34, 826-835、Long-Lasting Rescue of Age-Associated Deficits in Cognition and the CNS Cholinergic Phenotype by a Partial Agonist Peptidomimetic Ligand of TrkA, M. A. Bruno, P. B. S. Clarke, A. Seltzer, R. Quirion, K. Burgess, A. C. Cuello, and H. U. Saragovi, J. Neuroscience, 2004, 24, 8009-8018)。これらの化合物の二価誘導体は、結合アフィニティーを劇的に増強することが可能であった。2つの非保護一価ペプチド模倣体を、トリアジンリンカーの存在下において混合するだけで、これらを選択的に連結することを可能とする、スキーム1で概括されている化学反応を介して、これらの二価分子を調製する。この経路の重要な特色は、2つの官能化された一価分子を組み合わせて、溶液中において選択的にヘテロ二量体をもたらしうることであり、かつ、この連結への作用に必要とされるのは、炭酸カリウムに過ぎないということである。組合せによる合成の大半とは異なり、この手法の最後のステップでは保護基が関与しておらず、このため、最終生成物を、保護基残留物並びに添加されたスカベンジャー物質から精製する必要がない。
【0025】
探索用ライブラリーの合成:概括される方法を用いる本発明者らの研究のために、15のホモ二量体並びに135のヘテロ二量体による二価低分子である、150の化合物の探索用ライブラリーを調製した。図2は、置換フルオレセインによるピペリジン選択反応を介する、二量体の合成スキームを示す。それらの構造を、図4、5、6、及び7a〜7dに列挙する。列挙された分子量は、炭化水素テールに、2つの低分子を加えた分子量を包含する。これらの化合物は、極性「ウォーヘッド」官能基(模倣体A及びB)及び疎水性テールを有する限りにおいて、かつて調製された他の化合物ライブラリーとは異なる。
【0026】
インビトロにおける送達並びにハイスループットアッセイ:ハイスループットスクリーニングを成功させるには、高感度で正確な検出システムが必要とされる。ハイスループットアッセイを用いて、標的化されないBIV複合体より効果的に癌細胞又はヒト腫瘍内皮へと内部化される、BIV複合体表面上に付着させた一価化合物又は二価化合物を同定した。BIV複合体上にコーティングした二価リガンドを、それらが、封入された試薬に結合し、細胞膜を超えてこれらを内部化させる能力について選択した。ファージディスプレイを特色とする、現在のところ最良の方法は、細胞表面への結合についてのリードアウトをもたらすだけであり、多数の偽陽性を発生させるため、本スクリーニング法は、これらの方法より、はるかに直接的であり、強力である。本発明は、同定されていない癌細胞の表面受容体を介して、リガンド官能化BIVの送達を可能とする。
【0027】
BIVに対する可逆性マスキング:可逆性マスキングは、送達の当初において、標的以外の器官を迂回する目的で、BIV複合体の正電荷を一時的に遮蔽し、次いで、標的細胞表面において、電荷を再露出させて、膜融合による侵入を可能とする。したがって、電荷の遮蔽をもたらすマスクは、BIV複合体から解離し、したがって、可逆性である。BIVによる送達システムが独自に効果的である理由の1つは、該複合体が、細胞膜との融合を介して治療剤を細胞内へと送達し、エンドサイトーシス経路を回避するためである。本発明は、標的化送達に用いられる複合体に、インビボにおける注射又は投与の直前に添加されうる、「遮蔽/遮蔽解除化合物」(関連する部分が、参照により本明細書に組み込まれる、2006年5月2日に交付された、Templeton, N.S.、米国特許第7,037,520B2号明細書)を用いて、肺並びに他の非特異的な標的器官への取込みを回避する。非特異的なトランスフェクションを迂回する戦略では、「可逆性マスキング」と呼ばれ、中性の低分子量脂質(約500MW以下)、例えば、n−ドデシル−ベータ−D−マルトピラノシドを用いる。これらの脂質は低分子であり、かつ、帯電していないため、BIV複合体表面との会合が弱く、標的細胞に到達する時点までに、血流中のせん断力により除去される。
【0028】
リガンドでコーティングし、可逆性マスキングされたBIV複合体が効果的に送達される別の理由は、標的細胞に近づいてから、それらの全正電荷を再露出させることである。標的細胞に達して「マスク」を除去することにより、膜融合経路を介して標的細胞に侵入するのに十分な、複合体表面の全正電荷が保存される。したがって、初回通過において標的細胞へと到達し、かつ、送達される複合体が90%を超え、標的以外の組織への取込みを回避し、並びに細胞表面と効果的に相互作用して、最適のトランスフェクションをもたらす形で、複合体の最適の循環時間が達成される。
【0029】
図26aは、SCIDマウスにおいて、マスキング剤を伴わず、CATをコードするプラスミドを封入するBIVを静脈内(IV)注射した後における、肺及び心臓に対する最適なトランスフェクションを示す図である。図3は、可逆性マスキングによる遮蔽解除、細胞膜との融合、並びに、細胞及び核(所望の場合)への治療剤又は造影剤の侵入を含めた標的化送達を達成するのに用いられる、最適化戦略を示す。
【0030】
探索用ライブラリーのスクリーニング:MCF−7ヒト乳癌細胞、A549ヒト肺癌細胞、PANC1ヒト膵臓癌細胞及びMia PaCa2ヒト膵臓癌細胞、H1299ヒト非小細胞肺癌細胞のヒト腫瘍内皮、PANC1ヒト膵臓癌細胞のヒト腫瘍内皮、並びに対応する正常細胞型における、ハイスループットのインビトロスクリーニングを用いて、150の二量体のこのライブラリーを調べた。本発明者らが独自の手作業により射出成型したDOTAP:合成コレステロール(50:45)を用いて、BIVを調製した(Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression, N. S. Templeton, D. D. Lasic, P. M. Frederik, H. H. Strey, D. D. Roberts, and G. N. Pavlakis, Nature Biotechnology, 1997, 15, 647-652)。本発明者らは、BIV複合体を、炭化水素テールを保有する二価化合物と混合し、一晩にわたりインキュベートすることにより、官能化複合体(リガンドでコーティングしたBIV複合体)を調製した。インキュベートすると、炭化水素テールが、BIV複合体表面の脂質二重層内に自発的に挿入される。治療剤(例えば、化学療法薬、遺伝子治療剤)、又はレポーター(ルシフェラーゼをコードするプラスミド)1ug当たり1×10−1〜10pgの範囲の表面濃度で、これらの二価化合物の各々を添加した。インビボにおける研究の場合は、低分子リガンドを添加する前に、1.0uMのポリスルホンフィルター(Whatman)を介して複合体を濾過し、上記で説明した静脈内注射の前に、リガンドでコーティングしたBIV複合体にマスキング剤を添加した。対照研究を用いて、正常細胞を上回って選択的にBIVを癌性細胞へと方向づけるか、又は正常内皮との対比で腫瘍内皮にBIVを方向づける、一価リガンド又は二価リガンドを同定した。
【0031】
すべての細胞型は、数百さらに又は数千の細胞表面受容体(それらの大半は、現在のところ同定されていない)を有するが、提起される手法は、各ウェルにおいて、それらのすべてに問いかけて、最適なリガンド−受容体間相互作用を同定する。腫瘍並びにそれらの転移又は腫瘍内皮をインビボにおいて造影及び/又は破壊する造影剤又は治療剤を封入する、可逆性マスキングされたBIV複合体へと、このスクリーニングを「パス」した二価化合物を組み込む。したがって、この手法は、治療物質又は造影剤を、インビボにおいて異なる癌細胞へと送達することに関して、極めて直接的である。
【0032】
最も奏効する標的化送達をもたらすリガンドに結合する、細胞表面受容体を同定することができる。これらのリガンドをアフィニティーカラムに固定化し、可溶化させた細胞抽出物にこれらのカラム上を流過させることができる。結合した物質は、質量分析及びデータベース解析により評価し、タンパク質を同定する。また、同定される受容体が既知のシグナル伝達受容体であれば、これらのリガンドが、その受容体を活性化させるか、又はその活性化を阻害するかについても探索することができる。
【0033】
陽性のヒット:MCF−7細胞にトランスフェクトするのに、化合物#1035、1036、1039、1063、1064、1066、及び1067を用いて、BIV複合体の表面にコーティングしたところ、おびただしい陽性ヒット(ヒット)が得られた。一方、A549細胞では、化合物#1001、1003、1042、1051、1062、1096、1107、1108、及び1029を用いたところ、ヒットが見出された。図9は、A549細胞に対する、列挙された化合物のトランスフェクション効率を示すグラフである。BIV化合物を単独で用いる場合を少なくとも100%(Y軸上で少なくとも+2)超えてトランスフェクションを増大させる化合物として、ヒットを定義した。観察された最大のヒットは、トランスフェクション効率をほぼ300%(Y軸上で+4)増大させた。MCF−7細胞に対応する正常又は準正常の細胞株である、MCF−10A細胞をスクリーニングしたところ、これらのヒットは見出されなかった。図8は、MCF7細胞に対する、列挙された化合物のトランスフェクション効率を示すグラフである。MCF−10A細胞は、正常又は準正常の核型を有するヒト乳腺細胞であるため、準正常の対照細胞株として用いられることが多い(参考文献:Soule, HD, et al. (1990). Isolation and characterization of a spontaneously immortalized human breast epithelial cell line, MCF-10. Cancer Res 50: 6075-6086)。図10は、MCF10A細胞に対する、列挙された化合物のトランスフェクション効率を示すグラフである。膵臓細胞のスクリーニングでは、以下の結果により、正常細胞であるHPDE上では見出されなかった、統計学的に有意なヒットが、PANC1細胞及びMia PaCa2細胞について示された。図11、12、及び13は、それぞれ、PANC1細胞、Mia PaCa2細胞、及びHDPE細胞におけるルシフェラーゼの相対発現を示す。いずれの細胞株に対してもヒットを示したのは、1つの化合物であるKB−955だけであった。HUVEC+ヒト腫瘍細胞の共培養物は、H1299肺癌細胞との共培養物並びにPANC1膵臓癌細胞との共培養物のいずれについても、共培養の8日後において、腫瘍内皮への移行を示した。これは、内皮細胞コンパートメントにおいてCD31+細胞が増加すること(フローサイトメトリーによる)、並びに共培養物中ではVEGFAが上方制御され、かつ、HUVEC中ではVEGFAが上制御されないことにより裏付けられた(ここではデータ提示せず)。インビトロにおけるスクリーニングによるデータは、KB1116、KB1063、又はKB1123を用いて、H1299腫瘍内皮にトランスフェクトするとヒットするが、HUVEC又はH1299細胞にトランスフェクトしてもヒットしないことを示した。図14及び16は、HUVEC細胞とH1299細胞との共培養物、並びに単独のHUVEC細胞における、本明細書で提示される化合物によるトランスフェクションの増強を示す。図15は、単独のH1299細胞培養物における、本発明の化合物によるトランスフェクション結果を示すが、増強は見られなかった。一方、異なる化合物であるKB1124又はKB1125を用いたところ、PANC1腫瘍内皮に対してヒットがもたらされた。これらの化合物もまた、HUVEC又はPANC1細胞についてスクリーニングすると、ヒットをもたらさなかった。
【実施例1】
【0034】
腫瘍血管系へと方向づけられれば、抗血管新生剤は、有効な癌治療となりうる。本発明者らは、腫瘍内皮特異的なリガンドを、非特異的な組織及び器官を迂回する可逆性マスキングと共に用いられる、本発明者ら独自の二重膜陥入リポソーム複合体の表面へと付着させることにより、ヒト腫瘍血管系への、非ウイルス性遺伝子治療剤の標的化送達を達成した。腫瘍内皮細胞に対するトランスフェクション効率を増強するが、正常内皮細胞又は癌細胞に対するトランスフェクション効率は増強しない低分子を同定した。本発明者らによる、可逆性マスキングされた標的化複合体を、ヒト腫瘍内皮−膵臓癌保有マウスへと静脈内投与したところ、腫瘍内皮に対するトランスフェクションが特異的に増大した。トロンボスポンジン1をコードするプラスミドに本発明者らにより最適化された標的化送達を用いる有効性研究では、腫瘍増殖が有意に阻害された。したがって、これらの低分子は、膵臓癌内皮又は肺癌内皮を特異的に標的とし、したがって、抗血管新生剤による癌治療において用いて奏効する可能性を有する。
【0035】
新たな血管の形成過程である、血管新生は、持続的な癌の増殖及び転移に必要とされる(Folkman, J, and Kalluri, R (2004). Cancer without disease. Nature 427: 787、Tandle, A, Blazer, DG, 3rd, and Libutti, SK (2004). Antiangiogenic gene therapy of cancer: recent developments. J Transl Med 2: 22)。近年FDAにより抗血管新生薬(例えば、ベバシズマブ、ソラフェニブ、及びスニチニブ)が承認されたことは、癌を治療するための戦略としての抗血管新生剤の使用を支持する(Ferrara, N, Hillan, KJ, Gerber, HP, and Novotny, W (2004). Discovery and development of bevacizumab, an anti-VEGF antibody for treating cancer. Nat Rev Drug Discov 3: 391-400、Faivre, S, Demetri, G, Sargent, W, and Raymond, E (2007). Molecular basis for sunitinib efficacy and future clinical development. Nat Rev Drug Discov 6: 734-745)。遺伝子治療に用いられる送達媒体には、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、及び細菌ベクターが含まれる(Templeton, NS (ed) (2008 ). Gene and Cell Therapy: Therapeutic Mechanisms and Strategies. CRC Press: Boca Raton, FL. 1101 pにおいて総説されている)。インビボにおける電気穿孔、遺伝子銃、並びに他の注射針を含まない送達システムなど、他の送達法もまた用いられている(Templeton, NS (ed) (2008 ). Gene and Cell Therapy: Therapeutic Mechanisms and Strategies. CRC Press: Boca Raton, FL. 1101 pにおいて総説されている)。安全性の懸念が減殺され、操作が容易であるため、多くの研究が、非ウイルスベクターの使用に焦点を当てている。多くの前臨床研究及び臨床研究において、非ウイルスベクターが用いられて奏効している(Templeton, NS (ed) (2008 ). Gene and Cell Therapy: Therapeutic Mechanisms and Strategies. CRC Press: Boca Raton, FL. 1101 pにおいて総説されている);(Ramesh, R, et al. (2001). Successful treatment of primary and disseminated human lung cancers by systemic delivery of tumor suppressor genes using an improved liposome vector. Mol Ther 3: 337-350、Zhang, X, Xu, J, Lawler, J, Terwilliger, E, and Parangi, S (2007). Adeno-associated virus-mediated antiangiogenic gene therapy with thrombospondin-1 type 1 repeats and endostatin. Clin Cancer Res 13: 3968-3976、Xu, M, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). Gene therapy with p53 and a fragment of thrombospondin I inhibits human breast cancer in vivo. Mol Genet Metab 63: 103-109、Liu, S, et al. (2008). PDX-1 acts as a potential molecular target for treatment of human pancreatic cancer. Pancreas 37: 210-220)。
【0036】
本明細書では、低分子を、本発明者らによる可逆性マスキング法と共に用いる標的化送達を用いて、標的以外の器官への取込みを迂回したことが裏付けられている(2006年5月2日に交付された、Templeton,N.S.、米国特許第7,037,520B2号明細書)。Burgessの研究室で開発された組合せライブラリーは、タンパク質に選択的に結合するようにデザインされた低分子の作製を可能とする(Park, C, and Burgess, K (2001). Facile macrocyclizations to beta-turn mimics with diverse structural, physical, and conformational properties. J Comb Chem 3: 257-266、Reyes, S, Pattarawarapan, M, Roy, S, and Burgess, K (2000). Preferred secondary structures as a possible driving force for macrocyclization. Tetrahedron 56: 9809-9818、Burgess, K (2001). Solid-phase syntheses of beta-turn analogues to mimic or disrupt protein-protein interactions. Acc Chem Res 34: 826-835、Bruno, MA, et al. (2004). Long-lasting rescue of age-associated deficits in cognition and the CNS cholinergic phenotype by a partial agonist peptidomimetic ligand of TrkA. J Neurosci 24: 8009-8018)。例えば、細胞表面受容体に対してアフィニティーを示すようにデザインされた二価のベータターン模倣体など、ライブラリーのメンバーは、タンパク質−リガンド間相互作用のホットスポットで見出される二次構造モチーフに類似する。二価の低分子は、細胞表面受容体に結合する選択性を有しうることが重要である。こうして、炭化水素テールを有する二価分子を作製する戦略が採用されたが、本発明者らの実験室において、これらにより官能化BIV複合体を調製することは、迅速かつ日常的である。
【0037】
最後に、有効性研究では、抗血管新生性タンパク質である、ヒトトロンボスポンジン1(TSP1、thrombospondin-1)をコードするプラスミドDNAの標的化送達に焦点を当てた。TSP1は、腫瘍の増殖を維持するのに必要とされる新たな血管の形成である、血管新生を阻止しうる分泌タンパク質である(Isenberg, JS, Martin-Manso, G, Maxhimer, JB, and Roberts, DD (2009). Regulation of nitric oxide signalling by thrombospondin 1: implications for anti-angiogenic therapies. Nat Rev Cancer 9: 182-194)。修飾TSP1模倣体であるABT-510が、進行癌を治療するための第II相臨床試験へと進んでいる(Isenberg, JS, Martin-Manso, G, Maxhimer, JB, and Roberts, DD (2009). Regulation of nitric oxide signalling by thrombospondin 1: implications for anti-angiogenic therapies. Nat Rev Cancer 9: 182-194)。近年の研究はまた、動物モデルにおいて、TSP1の遺伝子送達が、各種の癌の増殖及び腫瘍の微小血管密度を有意に阻害することも示している(Zhang, X, Xu, J, Lawler, J, Terwilliger, E, and Parangi, S (2007). Adeno-associated virus-mediated antiangiogenic gene therapy with thrombospondin-1 type 1 repeats and endostatin. Clin Cancer Res 13: 3968-3976、Xu, M, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). Gene therapy with p53 and a fragment of thrombospondin I inhibits human breast cancer in vivo. Mol Genet Metab 63: 103-109、Lee, CH, Wu, CL, and Shiau, AL (2005). Systemic administration of attenuated Salmonella choleraesuis carrying thrombospondin-1 gene leads to tumor-specific transgene expression, delayed tumor growth and prolonged survival in the murine melanoma model. Cancer Gene Ther 12: 175-184、Xu, M, Chen, QR, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). In vivo gene therapy with a cationic polymer markedly enhances the antitumor activity of antiangiogenic genes. Mol Genet Metab 64: 193-197、Liu, P, et al. (2003). Adenovirus-mediated gene therapy with an antiangiogenic fragment of thrombospondin-1 inhibits human leukemia xenograft growth in nude mice. Leuk Res 27: 701-708)。本明細書では、可逆性マスキングされた、TSP1発現プラスミドの標的化送達が、TSP1による遺伝子治療の有効性を有意に改善することが裏付けられている。
【0038】
DNA:リポソームBIV複合体の調製:プラスミドであるpCMV-THBS-1は、TSP1遺伝子をコードする。アニオン交換クロマトグラフィーにより、プラスミドDNAを精製した。合成コレステロールを、50:45のDOTAP:コレステロール比で用いたことを除き、既に説明されている(Templeton, NS, Lasic, DD, Frederik, PM, Strey, HH, Roberts, DD, and Pavlakis, GN (1997). Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression. Nat Biotechnol 15: 647-652)通りに、DOTAP並びにDOTAP:コレステロールによるBIVリポソームである、DNA:リポソームBIV複合体(BIV複合体)を調製した。
【0039】
二価低分子の作製:略述すると、選択的連結を介して、βターンの一価低分子を溶液中で混合して、ホモ二量体であるKB991〜KP1005、並びにヘテロ二量体であるKB1006〜KB1140による二価低分子を作製した。この過程における連結で必要とされるのは、炭酸カリウムの作用だけであった。CHCl中25℃で4時間にわたり、30%TFAにより、Boc保護された単量体化合物を処理した。溶媒を除去し、残留物をDMSO中で再溶解させ、0.03Mの溶液を作製した。ジクロロトリアジンによるリンカーの足場及びKCOを、逐次的に添加した。結果として得られる懸濁液を15分間にわたり超音波処理し、7日間にわたり振とうした。DMSOを凍結乾燥させ、HCl水溶液(5%、約0.5mL)を上記の固体残留物に添加し、3分間にわたり超音波処理した。化合物の大半は、酸性溶液中で沈殿した。遠心分離の後、ペレットを乾燥させ、保存した。一価低分子又は二価低分子でBIV複合体の表面をコーティングするため、該分子中に炭化水素テールを組み入れて、表面の脂質二重層内へと挿入した。まず、化合物(約10.0mg)を1.0mLのTHF/HO(v:v=1:1)中に溶解させた。CuSO溶液(1.0M、10μL)を添加し、その後、Cuの粉末(1.0mg)を添加した。この手順の後、THF溶液中のアジドオクタデカン(0.1ミリモル、0.2mL)を添加し、結果として得られる懸濁液を、25℃で24時間にわたり撹拌した。この懸濁液を、CHCl中に30%のメタノールを溶離剤として用いる、シリカゲルで満たしたガラス製ピペットを介して濾過した。この溶液を乾燥させ、かつ、最終生成物へと濃縮した。合成の後、この固体化合物を、ガラス製の試験管内の1:1のクロロホルム:メタノール中に溶解させた。組織培養フード内の安定的なアルゴンガス流下、試験管の底部に薄膜が生成された。この膜を滅菌水中に溶解させ、5mg/mLの原液を作製し、50℃で超音波処理(Lab-Line Trans-sonic 820/H)にかけた。復元された化合物のアリコートを、−80℃で保存した。
【0040】
図24:インビトロにおける送達並びにハイスループットのルシフェラーゼアッセイ:ハイスループットアッセイを用いて、標的化されていないBIV複合体より効果的に腫瘍血管内皮細胞へと内部化される、BIV複合体の表面に付着した一価化合物又は二価化合物を同定した。
【0041】
インビボにおける標的化送達及びCATアッセイ:上記で詳述した共培養物をIP注射した8週間後において、BIV−CAT DNA複合体を調製し、上記で論じた通り、DNA 1μg当たりの化合物500pgの低分子KB1023でコーティングした。これらの複合体を、マウスへの静脈内(IV)注射の直前に、様々な濃度の可逆性マスキング試薬であるn−ドデシル−ベータ−D−マルトピラノシド(Anatrace、Maumee、OH)と混合した。各マウスに、50μgのp4119 CAT DNAを含有する、総容量110μLの複合体を注射した。既に説明されている(Templeton, NS, Lasic, DD, Frederik, PM, Strey, HH, Roberts, DD, and Pavlakis, GN (1997). Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression. Nat Biotechnol 15: 647-652)通り、IV注射の14時間後、マウスを屠殺し、組織を採取し、全タンパク質を抽出した。製造元の指示書に従い、CAT ELISAキット(Roche、Indianapolis、IN)を用いて、CATタンパク質の生成量を測定した。製造元の指示書に従い、Micro BCAキット(Pierce)を用いて、タンパク質の濃度を決定した。
【0042】
抗血管新生剤による癌治療:上記で詳述した共培養物をIP注射した2週間後において、35μgのTSP1プラスミドDNAを、KB1023でコーティングしたBIV複合体内に封入し、11mMの可逆性マスキング試薬をIV注射の直前に使用したことを除き、上記で説明したプロトコールを用いて、インビボにおける送達を実施した。隔週1回の合計3回にわたり、注射を実施した。異なる群では、毎週1回の合計5回にわたり注射を実施した。最終回の注射の2週間後(腫瘍モデルを確立するために、共培養物をIP注射した8週間後)において、マウスを屠殺し、腫瘍サイズを測定した。腹部内の腫瘍、並びに他の器官(肝臓、肺、脾臓、膵臓、及び結腸)を切除した後、中性緩衝液で10%としたホルマリン中で固定した。
【0043】
インビトロにおけるヒト腫瘍内皮モデル:腫瘍細胞は、それらが増殖するための血管新生を誘発及び刺激する、増殖因子及びサイトカインを分泌する(Kerbel, RS (2008). Tumor angiogenesis. N Engl J Med 358: 2039-2049において総説されている)。したがって、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、ヒトH1299非小細胞肺癌細胞と共培養する(H1299共培養物)か、又はヒトPANC1膵管腺癌細胞と共培養する(PANC1共培養物)ことにより、インビトロにおけるヒト腫瘍内皮モデルを確立した。
【0044】
標的化送達のための低分子ライブラリー:「セミペプチド」によるβターンアナログである、15のホモ二量体並びに135のヘテロ二量体二価化合物の調製ライブラリーを用いた。意義深いことには、これらの化合物は、任意のアミノ酸側鎖を組み込むことが可能であるので、該モチーフを伴う任意のホットスポットにおいてターンを模倣するようにデザインすることができる。これらの化合物は、極性「ウォーヘッド」官能基(模倣体1及び2)(Angell, Y, Chen, D, Brahimi, F, Saragovi, HU, and Burgess, K (2008). A combinatorial method for solution-phase synthesis of labeled bivalent beta-turn mimics. J Am Chem Soc 130: 556-565)及び疎水性テールを有する限りにおいて、以前に調製された他の化合物ライブラリーとは異なる。先行研究において用いられた低分子ペプチド模倣体は、βターンのホットスポットを有するいくつかのタンパク質間相互作用標的に対して活性である(Reyes, S, Pattarawarapan, M, Roy, S, and Burgess, K (2000). Preferred secondary structures as a possible driving force for macrocyclization. Tetrahedron 56: 9809-9818、Burgess, K (2001). Solid-phase syntheses of beta-turn analogues to mimic or disrupt protein-protein interactions. Acc Chem Res 34: 826-835)。これらの化合物の1つは、ニューロン上のTrkA受容体に結合し、脳卒中からの回復、並びに認知症を含めた神経変性障害に適用されている(Bruno, MA, et al. (2004). Long-lasting rescue of age-associated deficits in cognition and the CNS cholinergic phenotype by a partial agonist peptidomimetic ligand of TrkA. J Neurosci 24: 8009-8018、Maliartchouk, S, et al. (2000). A designed peptidomimetic agonistic ligand of TrkA nerve growth factor receptors. Mol Pharmacol 57: 385-391)。本発明者らの作業で用いられる特製ライブラリーの場合、連結に必要とされるのが炭酸カリウムだけである化学反応ステップを介して、2つの一価模倣体を組み合わせて、二価のホモ二量体及びヘテロ二量体を形成した。この修飾は、細胞表面受容体に対する化合物のアフィニティーを大幅に改善した。組合せによる合成の大半と異なり、この手法の最終ステップには保護基が関与しないので、最終生成物を、保護基残留物並びに添加されたスカベンジャー物質から精製する必要がない。炭化水素テールを構造的に組み込み、この化合物で、リポソーム複合体の表面をコーティングした。
【0045】
インビトロにおけるハイスループットのスクリーニング:新規のハイスループットルシフェラーゼアッセイを開発して、腫瘍内皮を標的とするリガンドについて、低分子ライブラリーをスクリーニングした。ハイスループットスクリーニングを成功させるには、高感度で正確な検出システムが必要とされる。さらに、細胞膜を超えてリガンドが結合及び内部化する可能性を検出するには、細胞核内への送達が、最も直接的であり、かつ、最終的に信頼できる。核へと送達されるプラスミドDNAによりもたらされるルシフェラーゼの発現が、この基準を満たす。
【0046】
本発明者らのハイスループットスクリーニングを用い、二価低分子及び一価低分子によるライブラリーに対して、インビトロにおいて、共培養物、癌細胞、並びにHUVECを対比してスクリーニングした。BIV化合物を単独で用いる場合を少なくとも100%(Y軸上で少なくとも+2)超えてルシフェラーゼプラスミドのトランスフェクションを増大させる化合物として、ヒットを定義した。ライブラリーをスクリーニングする中で、PAMC1との共培養物中ではトランスフェクション効率を100%特異的に増強する(図17)が、単独のPANC1細胞中(図18)又は単独のHUVEC中(図19)ではトランスフェクション効率を特異的に増強することがない化合物KB1023を、本発明者らは同定した。KB1023の構造を、図23bに示す。
【0047】
共培養物の血管内皮細胞だけについてトランスフェクションの増大が観察されたことをさらに検証するため、HUVECを下層ウェルで増殖させたトランスウェルプレート内で、8日間にわたり、PANC−1細胞及びHUVECを増殖させた。図17に示すデータにより、KB1023でコーティングしたBIV−ルシフェラーゼDNA複合体が実際にトランスフェクションの増大をもたらすのは、共培養物の血管内皮細胞についてだけであることが検証された。他のヒト膵臓癌細胞株についても、送達を増大させるために、HUVECと共に共培養し、KB1023を用いてこれらにトランスフェクトした。有意なトランスフェクションの増大を示したのがAsPC1細胞だけである一方、miaPaCa2細胞及びBxPC3細胞はトランスフェクションの増大を示さなかった(データ提示せず)。これらのデータは、腫瘍内皮上における標的化分子の発現が、膵臓癌によって異なりうることを示唆する。
【実施例2】
【0048】
抗血管新生剤による癌治療のためのリポソーム複合体の標的化送達:腫瘍血管系へと方向づけられれば、抗血管新生剤は、有効な癌治療となりうる。本発明者らは、腫瘍内皮特異的なリガンドを、非特異的な組織及び器官を迂回する可逆性マスキングと共に用いられる、本発明者ら独自の二重膜陥入リポソーム複合体の表面へと付着させることにより、ヒト腫瘍血管系への、非ウイルス性遺伝子治療剤の標的化送達を達成した。初代ヒト内皮細胞を、ヒト肺癌細胞又はヒト膵臓癌細胞と共に共培養することにより、インビトロにおけるヒト腫瘍血管系モデルを創出した。CD31及びVEGF−Aを含めた腫瘍内皮の表現型の発現が増大し、かつ、内皮毛細血管様構造の存続が遷延したことにより、モデルが確認された。共培養物を用いて、腫瘍内皮特異的なリガンドを同定するのに特化した低分子ライブラリーのハイスループットスクリーニングを行った。本発明者らは、腫瘍内皮細胞に対するトランスフェクション効率を増強するが、正常内皮細胞又は癌細胞に対するトランスフェクション効率は増強しない低分子を同定した。本発明による、可逆性マスキングされた標的化複合体を、ヒト腫瘍内皮−膵臓癌保有マウスへと静脈内投与したところ、腫瘍内皮に対するトランスフェクションが特異的に増大した。トロンボスポンジン1をコードするプラスミドに本発明者らにより最適化された標的化送達を用いる有効性研究では、腫瘍増殖が有意に阻害された。これらの低分子は、膵臓癌内皮又は肺癌内皮を特異的に標的とし、したがって、抗血管新生剤による癌治療において有用であることが判明した。
【0049】
インビトロにおけるヒト腫瘍内皮モデル、並びにインビボにおけるヒト腫瘍内皮マウスモデル:腫瘍細胞は、それらが増殖するための血管新生を誘発及び刺激する、増殖因子及びサイトカインを分泌する。したがって、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、ヒトH1299非小細胞肺癌細胞と共培養する(H1299共培養物)か、又はヒトPANC1膵管腺癌細胞と共培養する(PANC1共培養物)ことにより、インビトロにおけるヒト腫瘍内皮モデルを確立した。本発明者らは、まず、正常内皮の腫瘍血管系内皮への移行を示唆する、内皮マーカーの経時的な変化を探索した。フローサイトメトリーにより検出される通り、この移行においては、内皮細胞上でCD31が増殖することを、公表された文献は示唆している(Templeton, NS (ed) (2008 ). Gene and Cell Therapy: Therapeutic Mechanisms and Strategies. CRC Press: Boca Raton, FL. 1101 p)。フローサイトメトリーによるデータ(図20b、c)は、この移行が、H1299細胞との共培養の8日目と9日目との間で生じることを示す。低レベルのCD31を発現させるHUVECが、大半であった(図20a、R4により示される)。高レベルのCD31を発現させるHUVECは、ごく少数であった(R2により示される)。H1299との共培養の8日後、高レベルのCD31を発現させる内皮細胞の比率は、高レベルのCD31を発現させるHUVEC対照の比率と比較して113%増大した(図20b;16.86%対7.9%)。CD31発現の増大は、共培養の9日後におけるHUVEC対照との比較で264%であり、有意に高値であった(図20c;29.96%対8.23%)。
【0050】
腫瘍血管系では、VEGF−A自己分泌ループが活性化され、VEGF受容体及びVEGF−Aの発現が、mRNAレベル及びタンパク質レベルの両方で増大する(Ramesh, R, et al. (2001). Successful treatment of primary and disseminated human lung cancers by systemic delivery of tumor suppressor genes using an improved liposome vector. Mol Ther 3: 337-350)。VEGF−Aはまた、重要な血管新生促進性因子であり、内皮細胞の増殖及び遊走を刺激し、内皮細胞の存続を延長させ、内皮細胞により形成される毛細血管様の管構造を維持する(Zhang, X, Xu, J, Lawler, J, Terwilliger, E, and Parangi, S (2007). Adeno-associated virus-mediated antiangiogenic gene therapy with thrombospondin-1 type 1 repeats and endostatin. Clin Cancer Res 13: 3968-3976、Xu, M, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). Gene therapy with p53 and a fragment of thrombospondin I inhibits human breast cancer in vivo. Mol Genet Metab 63: 103-109)。図21は、0.4μmのサイズの微細孔膜を伴う、2チャンバー型トランスウェルプレート内における共培養の8日目に、PANC−1との共培養物中で、定量的RT−PCRにより検出されるVEGF−A発現の増大(図21a;225%)、並びにウェスタンブロット法により検出されるVEGF−A発現の増大(図21b;160%)を示す。
【0051】
インビトロにおいてMatrigel上に播種されると、内皮細胞は、一過性で毛細血管様の管状ネットワークを形成する。Matrigel上に播種した16時間後において、本発明者らのアッセイは、HUVEC(図22a)と、PANC−1との共培養物による内皮細胞(図22b;トランスウェルプレート内における8日間にわたり共培養された)とで、管形成の有意な差違を示さなかった。HUVEC対照の管構造は、48時間後には解体され始め、72時間後までには、ほぼ完全に解体された(図22c)。これに対し、PANC−1との共培養物に由来する内皮細胞では、72時間後においても有意量の管構造が存続し(図22d)、さらに11日間にわたり存続し続けた(図22e〜f)。トランスウェルプレートから、PANC1細胞の挿入物を除去したところ、PANC1との共培養物から分離された内皮細胞と、HUVECとの間で、管存続の差違は検出されなかった。これらのデータは、おそらく、VEGF−Aの発現が増大するために、癌細胞との共培養により生成される因子が、共培養物の内皮管構造の存続を延長させることを裏付ける。
【0052】
インビトロにおける標的化送達のための低分子ライブラリーのハイスループットスクリーニング:「セミペプチド」によるβターンアナログである、15のホモ二量体並びに135のヘテロ二量体による二価化合物のライブラリーをスクリーニングした。それらの一般的な構造を、図4に示す。図4では、一般式を上部に示し、KB991〜KB1005と称する特異的構造を、それぞれ、左から右に示す。意義深いことには、これらの化合物は、任意のアミノ酸側鎖を組み込むことが可能であるので、該モチーフを伴う任意のホットスポットにおいてターンを模倣するようにデザインすることができる。これらの化合物は、極性「ウォーヘッド」官能基(模倣体1及び2)及び疎水性テールを有する限りにおいて、以前に調製された他の化合物ライブラリーとは異なる。先行研究において用いられた低分子ペプチド模倣体は、βターンのホットスポットを有するいくつかのタンパク質間相互作用標的に対して活性である。これらの化合物の1つは、ニューロン上のTrkA受容体に結合し、脳卒中からの回復、並びに認知症を含めた神経変性障害に適用されている。本発明者らの作業で用いられる特製ライブラリーの場合、連結に必要とされるのが炭酸カリウムだけである化学反応ステップを介して、2つの一価模倣体を組み合わせて、二価のホモ二量体及びヘテロ二量体を形成した。この修飾は、細胞表面受容体に対する化合物のアフィニティーを大幅に改善することが判明した。組合せによる合成の大半と異なり、この手法の最終ステップには保護基が関与しないので、最終生成物を、保護基残留物並びに添加されたスカベンジャー物質から精製する必要がない。炭化水素テールを構造的に組み込み、この化合物で、リポソーム複合体の表面をコーティングした。
【0053】
新規のハイスループットアッセイを開発して、腫瘍内皮を標的とするリガンドについて、低分子ライブラリーをスクリーニングした(図24)。ハイスループットスクリーニングを成功させるには、高感度で正確な検出システムが必要とされる。さらに、細胞膜を超えてリガンドが結合及び内部化する可能性を検出するには、細胞核内への送達が、最も直接的であり、かつ、最終的に信頼できる。核へと送達されるプラスミドDNAによりもたらされるルシフェラーゼの発現が、この基準を満たす;それは、直接的で、十分に確立された技法である。Luminoskan Ascentプレートリーダー用ルミノメーター(Thermo Labsystems)を用いて、トランスフェクション効率について、高感度でハイスループットの定量化を達成した。
【0054】
本発明者らのハイスループットスクリーニングを用い、二価低分子及び一価低分子によるライブラリーに対して、インビトロにおいて、共培養物、癌細胞、並びにHUVECを対比してスクリーニングした。BIV化合物を単独で用いる場合を少なくとも100%(Y軸上で少なくとも+2)超えてルシフェラーゼプラスミドのトランスフェクションを増大させる化合物として、ヒットを定義した。ライブラリーをスクリーニングする中で、PANC1との共培養物中ではトランスフェクション効率を100%特異的に増強する(図25a)が、単独のPANC1細胞中(図25b)又は単独のHUVEC中(図25c)ではトランスフェクション効率を特異的に増強することがない化合物KB1023を、本発明者らは同定した。細胞表面受容体と相互作用させるための2つのβターン模倣体と、BIVリポソーム複合体内に挿入するための炭化水素テールと、リンカーとを包含する、二価低分子の一般的構造を図23aに示す。KB1023の構造を、図23bに示す。
【0055】
共培養物の血管内皮細胞だけについてトランスフェクションの増大が観察されたことをさらに検証するため、HUVECを下層ウェルで増殖させたトランスウェルプレート内で、8日間にわたり、PANC−1細胞及びHUVECを増殖させた。図25dに示すデータにより、KB1023でコーティングしたBIV−ルシフェラーゼDNA複合体が実際にトランスフェクションの増大をもたらすのは、共培養物の血管内皮細胞についてだけであることが検証された。他のヒト膵臓癌細胞株についても、送達を増大させるために、HUVECと共に共培養し、KB1023を用いてこれらにトランスフェクトした。有意なトランスフェクションの増大を示したのがAsPC1細胞だけである一方、miaPaCa2細胞及びBxPC3細胞はトランスフェクションの増大を示さなかった(図25e)。これらのデータは、腫瘍内皮上における標的化分子の発現が、膵臓癌によって異なりうることを示唆する。
【0056】
また、非小細胞肺癌であるH1299についても、ヒト腫瘍内皮に特異的に結合する低分子ライブラリーのヒットをスクリーニングした。H1299との共培養物中ではトランスフェクション効率を増大させる(図25f)が、単独のH1299細胞中(図25g)、又は単独のHUVEC(図25h)中ではトランスフェクション効率を増大させない、異なる化合物であるKB1061を同定した。本発明者らのHUVEC+腫瘍細胞の共培養物中で、すべての腫瘍血管内皮細胞への送達を最良の形で媒介しうる1つのリガンドを同定することが理想的であると、本発明者らは計画した。しかし、本発明者らの共培養物を含めた、異なる腫瘍血管系の微小環境が、既知の通り、複雑であり、かつ、多様であるため、異なる腫瘍血管系表現型への送達を増強するには、複数のリガンドが必要とされることを、本発明者らのデータは示す。血管新生性反応を経つつある内皮細胞の表面上で特異的に発現する複数のマーカーが同定され、ファージ粒子、薬物、治療用抗体、並びに他の試薬の標的化送達に用いられている(A New Solid-Phase Linker for Suzuki Coupling with Concomitant Macrocyclization: Synthesis of b-Turn Mimics, W. Li, and K. Burgess, Tetrahedron Lett., 1999, 40, 6527-6530、Reyes, S, Pattarawarapan, M, Roy, S, and Burgess, K (2000). Preferred secondary structures as a possible driving force for macrocyclization. Tetrahedron 56: 9809-9818、Burgess, K (2001). Solid-phase syntheses of beta-turn analogues to mimic or disrupt protein-protein interactions. Acc Chem Res 34: 826-835、Bruno, MA, et al. (2004). Long-lasting rescue of age-associated deficits in cognition and the CNS cholinergic phenotype by a partial agonist peptidomimetic ligand of TrkA. J Neurosci 24: 8009-8018、Isenberg, JS, Martin-Manso, G, Maxhimer, JB, and Roberts, DD (2009). Regulation of nitric oxide signalling by thrombospondin 1: implications for anti-angiogenic therapies. Nat Rev Cancer 9: 182-194、Lee, CH, Wu, CL, and Shiau, AL (2005). Systemic administration of attenuated Salmonella choleraesuis carrying thrombospondin-1 gene leads to tumor-specific transgene expression, delayed tumor growth and prolonged survival in the murine melanoma model. Cancer Gene Ther 12: 175-184、Xu, M, Chen, QR, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). In vivo gene therapy with a cationic polymer markedly enhances the antitumor activity of antiangiogenic genes. Mol Genet Metab 64: 193-197、Liu, P, et al. (2003). Adenovirus-mediated gene therapy with an antiangiogenic fragment of thrombospondin-1 inhibits human leukemia xenograft growth in nude mice. Leuk Res 27: 701-708、Templeton, NS, Lasic, DD, Frederik, PM, Strey, HH, Roberts, DD, and Pavlakis, GN (1997). Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression. Nat Biotechnol 15: 647-652)。興味深いことには、遺伝子発現パターン解析(A New Solid-Phase Linker for Suzuki Coupling with Concomitant Macrocyclization: Synthesis of b-Turn Mimics, W. Li, and K. Burgess, Tetrahedron Lett., 1999, 40, 6527-6530、Burgess, K (2001). Solid-phase syntheses of beta-turn analogues to mimic or disrupt protein-protein interactions. Acc Chem Res 34: 826-835)、並びにサブトラクティブプロテオミクスによるマッピング(Templeton, NS, Lasic, DD, Frederik, PM, Strey, HH, Roberts, DD, and Pavlakis, GN (1997). Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression. Nat Biotechnol 15: 647-652)は、異なる種類の腫瘍に由来する腫瘍血管系内皮細胞の表面上で見出されるマーカーにおける、多くの差違性並びに一部の類似性を示している。腫瘍内の微小環境では、内皮細胞が、腫瘍細胞、免疫細胞、周皮細胞、線維芽細胞、周皮細胞、及び細胞外マトリックス(ECM、extracellular matrix)と相互作用する。腫瘍細胞は、傍分泌機構により直接的に、又はECMを変化させることなどにより間接的に、遺伝子の発現、並びに内皮細胞の表現型を変化させうる。
【0057】
インビボにおけるヒト腫瘍内皮の標的化:可逆性マスキングを用いて静脈内(IV)注射後における非特異的な取込みを迂回したところ、KB1023による標的化がインビボにおいて確認され、送達が最適化された。共培養の9日目に、PANC1との共培養物を、SCIDマウスに腹腔内(IP)注射して、ヒト膵臓癌内皮+PANC1腫瘍モデルを確立した。IP注射の8週間後、膵臓癌が約400mmとなった時点で、標的化送達を評価した。KB1023でコーティングしたBIV−CAT DNA複合体を、本発明者らによる、SCIDマウスにおけるPANC−1との共培養モデルへとIV注射したところ、その大半は、肺及び心臓へと、非特異的に送達された(図26a)。腫瘍組織へと送達されたのは、わずかな部分に過ぎなかった。この結果は、IV注射後に肺へと送達されたDNA:リポソーム複合体の大半についての他の報告(Identification of a Small Molecule Inhibitor of the IL-2/IL-2Ra Receptor Interaction Which Binds to IL-2, J. W. Tilley, L. Chen, D. C. Fry, S. D. Emerson, G. D. Powers, D. Biondi, T. Varnell, R. Trilles, R. Guthrie, F. Mennona, G. Kaplan, R. A. LeMahieu, R. Palermo, and G. Ju, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 7589-7590、Angell, Y, Chen, D, Brahimi, F, Saragovi, HU, and Burgess, K (2008). A combinatorial method for solution-phase synthesis of labeled bivalent beta-turn mimics. J Am Chem Soc 130: 556-565)と符合する。標的細胞に対するはるかに高レベルのトランスフェクションを維持しながら、非特異的な送達を最小化するのに、PEG化より効果的である、新規の「可逆性マスキング」法を用いた。肺並びに他の非特異的な標的器官への取込みを回避するために、本発明はまた、インビボにおける注射又は投与の直前に、標的化送達に用いられる複合体に添加されうる、「遮蔽/遮蔽解除化合物」(関連する部分が、参照により本明細書に組み込まれる、Templeton,N.S.、米国特許第7,037,520B2号明細書)も用いる。この戦略では、中性の低分子量脂質(約500MW以下)、例えば、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドを用いる。これらの脂質は低分子であり、かつ、帯電していないため、BIV複合体表面との会合が弱く、標的細胞に到達する時点までに、血流中で除去される。複合体の全体的な変化は、ゼータポテンシャル解析器(Delsa 440SX、Beckman-Coulter)により測定した。細胞にトランスフェクトされるBIV複合体の表面電荷は、最高レベルで45.5mVである。一方、電荷が4.8mVである、可逆性マスキング剤でコーティングしたBIV複合体は、細胞、組織、又は器官にトランスフェクトされない(関連する部分が、参照により本明細書に組み込まれる、Templeton,N.S.、米国特許第7,037,520B2号明細書)。したがって、複合体の全体的な電荷は、注射の直後に遮蔽され、次いで、標的細胞にトランスフェクトするときには再露出されなければならない。
【0058】
可逆性マスキング剤であるn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドの量を増大させて添加することにより、BIV複合体の全体的な電荷を低減した(関連する部分が、参照により本明細書に組み込まれる、Templeton,N.S.、米国特許第7,037,520B2号明細書)。標的以外の器官及び組織への送達を迂回しながら、所与の標的器官への送達について可逆性マスクを最適化させることができる。図26bは、IV注射後においてBIV−CAT DNAリポソーム複合体が肺及び心臓へと送達されることを迂回する(97%を超える発現の低減)には、110μLの注射容量中に11mMのn−ドデシル−β−D−マルトピラノシド(可逆性マスク)が必要とされたことを示す。これに対応して、KB1023でコーティングしたBIV−CAT DNA複合体+11mMの可逆性マスクの送達は、コーティングしない単独のBIV複合体の送達(対照)と比較して、SCIDマウスにおけるPANC−1との共培養モデルによるヒト腫瘍血管内皮を包含する腫瘍組織への送達を、約10倍増大させた(図26c)。CATアッセイ及びタンパク質アッセイを実施するために、腫瘍組織から腫瘍血管内皮を解離させることは極めて困難であった;したがって、腫瘍血管内皮への送達の増大が10倍であったとは、控えめの評価である。腫瘍内皮は、全腫瘍容量の約5%であるため、腫瘍血管系への標的化送達の増大は、コーティングしない単独のBIV複合体を用いる送達の約200倍である可能性が極めて高い。本発明者らによるインビボの結果を、本発明者らによるインビトロのデータと組み合わせると、KB1023が、SCIDマウスにおけるPANC−1との共培養物の腫瘍内皮細胞を標的とするものであり、SCIDマウスにおけるPANC−1との共培養物の癌細胞を標的とするものではないことがさらに示唆される。
【0059】
可逆性マスキングによるCAT発現の増大はまた、肝臓と対比した腫瘍に対しても特異的であった。図26cは、KB1023でコーティングしたBIV−CAT DNA複合体+可逆性マスクが、肝臓におけるCATの発現を増大させず、肝臓における11mMの可逆性マスクの発現が、無視しうる程度であったことを示す。したがって、標的化は特異的であり、肝臓内のクッパー細胞による複合体の取込み及びクリアランスを増大させなかった。11mMを超えて可逆性マスクの量をさらに増大させても、腫瘍におけるCATの発現がさらに増大する結果とはならず、発現が減少したことから、11mMの可逆性マスクは、SCIDマウスにおけるPANC1との共培養モデルで用いるのに最適の濃度であることが示される。
【0060】
腫瘍増殖の阻害:CATレポーター遺伝子を用いてインビボにおける標的化を最適化した後に、本発明者らは、抗血管新生剤であるTSP1を治療用遺伝子として用いて、腫瘍増殖の防止における本発明者らによる標的化送達の有効性を調べた。図27は、低分子(リガンド)であるKB1023を伴うか又は伴わず、かつ、可逆性マスキング(RM)を伴うか又は伴わない、BIV−TSP1 DNA複合体を、本発明者らによるヒト腫瘍内皮+PANC−1腫瘍保有マウスへとIV注射した後に作成された、インビボにおける有効性データを示す。図27に示される通り、KB1023でコーティングしたBIV−TSP1 DNA複合体により治療されたマウスは、膵臓癌の増殖に対する有意な抑制を示した。腫瘍の増殖は、BIVリポソームによる注射対照と比較して、87.99%阻害された(平均腫瘍容量は、393.54mmに対して47.27mmであった)。標的化送達を可逆性マスキングと組み合わせたところ、腫瘍の増殖は98.67%阻害され、平均腫瘍容量は、393.54mmのリポソームによる注射対照と比較して、5.25mmであった。これらの結果は、隔週約1回で投与される、合計3回にわたるIV注射の後にもたらされた。さらに、注射の合計回数を、毎週1回投与される、合計5回へと増加させることにより、TSP1による全治療用量を増大させたところ、腫瘍の増殖はさらに抑制され、腫瘍はほぼ消失した(平均腫瘍容量は、0.7mmであった)。TSP1の非標的化送達により治療されたマウスも、146.82mmの平均容量で、62.69%の腫瘍増殖遅延化を示したが、軽減は統計的に有意ではなかった(P>0.05)。本発明者らが、アデノウイルス(Faivre, S, Demetri, G, Sargent, W, and Raymond, E (2007). Molecular basis for sunitinib efficacy and future clinical development. Nat Rev Drug Discov 6: 734-745)又はアデノ随伴ウイルス(NMR-Based Discovery of Lead Inhibitors That Block DNA Binding of the Human Papillomavirus E2 Protein, P. J. Hajduk, J. Dinges, G. F. Miknis, M. Merlock, T. Middleton, D. J. Kempf, D. A. Egan, K. A. Walter, T. S. Robins, S. B. Shuker, T. F. Holzman, and S. W. Fesik, J. Med. Chem, 1997, 40, 3144-3150)などのウイルスベクター、カチオン性ポリマー(Ferrara, N, Hillan, KJ, Gerber, HP, and Novotny, W (2004). Discovery and development of bevacizumab, an anti-VEGF antibody for treating cancer. Nat Rev Drug Discov 3: 391-400)、又はブタコレラ菌(Salmonella choleraesuis)(Tandle, A, Blazer, DG, 3rd, and Libutti, SK (2004). Antiangiogenic gene therapy of cancer: recent developments. J Transl Med 2: 22)などの細菌ベクターを用いる、TSP1による抗血管新生遺伝子治療について報告されている有効性のデータを上回ったことは興味深い。おそらく、本発明者らによる有効性の増大は、もっぱらヒト腫瘍内皮における高レベルの特異的送達及び遺伝子発現に起因する。
【0061】
腫瘍血管系は、形態的に異常であり、その血管内皮細胞は、正常な血管内皮細胞と、分子的レベル及び機能的レベルで異なる。腫瘍血管系の生物学を理解し、かつ、ハイスループットのスクリーニングにより抗血管新生剤を同定するための、頑健かつ適切な動物モデルを確立することは、最も有効な抗血管新生剤による癌治療を開発するのに不可欠である。磁気ビーズを用いて腫瘍組織から腫瘍内皮細胞を単離することは、腫瘍内皮マーカーを発見するのに強力な手法であるが、この手法が高価であり、かつ、低収量であるために、この腫瘍内皮についての日常的な研究からは除外されている。別の懸念は、腫瘍内皮の表現型が、腫瘍の微小環境から単離された後、速やかに失われることである。腫瘍細胞と内皮細胞とのこの重要なクロストークを維持するために、肺癌細胞又は膵臓癌細胞をHUVECと共培養することにより、インビトロにおける腫瘍血管新生モデルを創出した。本モデル系は、VEGF−A遮断剤など、新規の抗血管新生化合物を発見するための頑健なプラットフォームをもたらす。該モデルはまた、癌細胞からの刺激を、系から除去するのが簡便であり得るため、VEGF−Aの消退、並びに血管系の正常化についての研究も可能とする。まとめると、このモデルは、腫瘍細胞と内皮細胞との動的なコミュニケーションを組み込むための簡潔かつ妥当な方法を提供する。このモデルを用いて、複数の腫瘍内皮標的リガンドを同定するのに成功したことから、この概念がさらに裏付けられる。
【0062】
本発明は、腫瘍内皮への送達を標的化する低分子リガンドを導入し、かつ、非特異的な器官及び組織を迂回路する可逆性マスキングを用いることにより、BIVリポソームの特異的送達を大幅に改善することを包含する。標的化送達は、リポソームの表面上で多量体化した低分子ペプチドを用いる可能性がありうるが、これらは、注射、特に全身注射を繰り返した後で、免疫反応を発生させる可能性があり、かつ、腫瘍間質における圧力勾配を超えた透過及び送達を不可能にする場合がある。抗体、抗体断片、タンパク質、タンパク質部分などを含めた他のより高分子のリガンドは、低分子ペプチドを用いる場合より、リポソーム表面上における標的化送達がはるかに困難である。本発明者らにより最適化された標的化送達は、マウス異種移植モデルにおける癌増殖の防止に極めて有効であり、これらの標的リガンドが低分子であるという事実により、免疫反応を発生させることなく、注射を無制限に繰り返すことが可能となるはずである。加えて、リガンド(500Da未満)及び可逆性マスキング試薬を含めた、本発明者らによる送達システムは、非免疫原性及び非毒性であり、臨床での使用に安全である。さらに、本発明者らによる隔週1回又は毎週1回のIV投与は、簡便であり、医療的実践において広く用いられうるであろう。したがって、本発明者らによる、可逆性マスキングされた標的化送達システムは、抗血管新生剤による有効な癌治療に対する大きな可能性を有する。
【0063】
また、ヒト腫瘍異種移植マウスモデルにおける癌治療のために、TSP1遺伝子を送達するリポソームを用いた他の研究グループによるデータ(Xu, M, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). Gene therapy with p53 and a fragment of thrombospondin I inhibits human breast cancer in vivo. Mol Genet Metab 63: 103-109、Xu, M, Chen, QR, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). In vivo gene therapy with a cationic polymer markedly enhances the antitumor activity of antiangiogenic genes. Mol Genet Metab 64: 193-197)とも比較して、本明細書で提示される結果は、本発明者らによる、もっぱらヒト腫瘍内皮における高レベルの特異的送達及び遺伝子発現のために、有意な癌増殖の抑制を示している。他の研究グループはまた、p53及びTSP−1の組合せによる遺伝子治療も、癌の増殖を相乗作用的に抑制することを示した(Xu, M, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). Gene therapy with p53 and a fragment of thrombospondin I inhibits human breast cancer in vivo. Mol Genet Metab 63: 103-109、Xu, M, Chen, QR, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). In vivo gene therapy with a cationic polymer markedly enhances the antitumor activity of antiangiogenic genes. Mol Genet Metab 64: 193-197)。組合せ療法はまた、本発明と共に用いることもできる。また、抗血管新生剤による癌治療には、カチオン性ポリマー(Superfect)並びに複数の生物学的に弱毒化されたウイルスベクターを含めた、非ウイルスベクター、ウイルスベクター、及び細菌ベクターも用いられている(Zhang, X, Xu, J, Lawler, J, Terwilliger, E, and Parangi, S (2007). Adeno-associated virus-mediated antiangiogenic gene therapy with thrombospondin-1 type 1 repeats and endostatin. Clin Cancer Res 13: 3968-3976、Lee, CH, Wu, CL, and Shiau, AL (2005). Systemic administration of attenuated Salmonella choleraesuis carrying thrombospondin-1 gene leads to tumor-specific transgene expression, delayed tumor growth and prolonged survival in the murine melanoma model. Cancer Gene Ther 12: 175-184、Xu, M, Chen, QR, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). In vivo gene therapy with a cationic polymer markedly enhances the antitumor activity of antiangiogenic genes. Mol Genet Metab 64: 193-197、Liu, P, et al. (2003). Adenovirus-mediated gene therapy with an antiangiogenic fragment of thrombospondin-1 inhibits human leukemia xenograft growth in nude mice. Leuk Res 27: 701-708)。それらはすべて、局所注射又は全身注射を介して、有意な癌増殖の遅延化を示したが、それらの有効性データは、本明細書で示されるデータほど頑健ではなかった(図27)。目視可能なある種の原発性癌、例えば、皮膚癌、乳癌では、腫瘍への治療剤の直接的な注射を用いることができる。しかし、この手法には、限界があり、胸部内癌、腹部癌、並びに他の癌のほか、癌の転移には有用でない。これらの癌を治療するには、IV投与が、最も有効な送達経路である。特に、全身投与する場合のウイルスベクターについては、安全性もまた懸念される。弱毒化ウイルスは非病原性ではあるが、やはり免疫原性であり、注射を繰り返すのには適さない。膵臓癌治療における、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV、recombinant adeno-associated virus)を介する、抗血管新生遺伝子治療剤の送達については、Zhangにより報告された。しかし、筋肉内又は腹腔内の静脈送達後において、rAAVを介するトランス遺伝子が循環内のピーク発現レベルに達するには4週間を必要とし、治療の開始が、腫瘍が確立する4週間前となった(Zhang, X, Xu, J, Lawler, J, Terwilliger, E, and Parangi, S (2007). Adeno-associated virus-mediated antiangiogenic gene therapy with thrombospondin-1 type 1 repeats and endostatin. Clin Cancer Res 13: 3968-3976)。治療剤が定常状態に達するまでの遅延が長期化すれば、その医療的適用が制約されるであろう。これに対し、本発明のBIVリポソーム送達システムを用いる遺伝子の発現は、全身投与後24時間以内にピークに達し(Lu, H, Zhang, Y, Roberts, DD, Osborne, CK, and Templeton, NS (2002). Enhanced gene expression in breast cancer cells in vitro and tumors in vivo. Mol Ther 6: 783-792)、癌の増殖に対してより迅速な作用をもたらす。Leeらは、黒色腫について、TSP1遺伝子を発現させるサルモネラ(Salmonella)属を用いて腫瘍の増殖が有意に阻害されることを裏付けた。しかし、正常な組織(例えば、肝臓及び脾臓)に対してかなりの量のベクターが送達されており、より特異的な標的化についてベクターを改善する必要性が強調された(Lee, CH, Wu, CL, and Shiau, AL (2005). Systemic administration of attenuated Salmonella choleraesuis carrying thrombospondin-1 gene leads to tumor-specific transgene expression, delayed tumor growth and prolonged survival in the murine melanoma model. Cancer Gene Ther 12: 175-184)。一方、本発明者らによる、可逆性マスキングされたBIVの標的化送達システムの場合、インビボにおけるCATアッセイのデータは、肝臓を含めた標的以外の組織へのトランスフェクションが無視できる程度であることを示した。
【0064】
研究により、特定種類の腫瘍上で独自に発現する腫瘍内皮マーカー(TEM、tumor endothelium marker)、並びに複数の汎TEMが発見されている(A New Solid-Phase Linker for Suzuki Coupling with Concomitant Macrocyclization: Synthesis of b-Turn Mimics, W. Li, and K. Burgess, Tetrahedron Lett., 1999, 40, 6527-6530、Burgess, K (2001). Solid-phase syntheses of beta-turn analogues to mimic or disrupt protein-protein interactions. Acc Chem Res 34: 826-835、非特許文献49)。これに次ぐ潜在的な受容体は、正常内皮細胞上では比較的低レベルで発現し、ある種の膵臓癌内皮細胞上では上方制御される分子であろう。標的化送達に用いられるより適切な細胞表面受容体の探索は極めて重要であり、本明細書で報告される本発明者らによる手法を用いて達成しうる。意義深いことには、この標的化戦略には、最適の受容体の機能及び固有性を知る必要がない。Burgessの研究室で開発された方法は、タンパク質に選択的に結合するようにデザインされた低分子の作製を可能とする。重要なことには、該二価の低分子は、細胞表面受容体に結合する選択性を有し、かつ、タンパク質−リガンド間相互作用のホットスポットで見出される二次構造モチーフにも類似する。細胞表面受容体に対するアフィニティーを有する二価のベータターン模倣体をデザインした。現在のところ、リガンドの受容体は同定されていないが、やはり、抗血管新生剤による癌治療の臨床において、本発明者らによる標的化送達システムを用いることができる。実際、多くの薬物が、それらの機構が完全に理解される前に、FDAにより承認されている。本発明者らは、極めて有効な抗血管新生治療法を報告した。さらに、他の疾患標的細胞への送達を標的とする低分子を用いる、本発明者らによる可逆性マスキングされたBIV標的化送達システムもまた、癌及び転移以外の疾患及び障害の治療に適用されうるであろう。
【0065】
細胞の培養:PANC1細胞株、miaPaCa2細胞株、及びH1299細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC、Berthesda、MD)から購入した。AsPC−1細胞株及びBxPC−3細胞株は、Johnny(Changyi)Chen博士(Baylor College of Medicine、Houston、TX)から恵与された。PANC1細胞株及びmiaPaCa2細胞株を、高グルコース濃度のDMEM中で培養した。AsPC−1細胞株、BxPC−3細胞株、及びH1299細胞株は、RPMI-1640培地中で培養した。上記の培地にはすべて、10%ウシ胎仔血清(FBS、fetal bovine serum)を補充し、miaPaCa2細胞の増殖培地には、2.5%ウマ血清を添加した。HUVECは、Lonza(Clonetics、Walkersville、MD)から購入し、SingleQuots(Clonetics)を補充した内皮細胞用の塩基性培地(Clonetics)中で増殖させた。HUVECは、3〜6代にわたり継代培養した。細胞をカウントした後に、HUVECと癌細胞との共培養物を確立し、HUVECの播種密度を5,000個/cmとし、約10〜30:1のHUVEC:癌細胞比で播種した。一部の実験では、癌細胞をECから物理的に分離する一方で、0.4μmサイズの微細孔膜(Corning)を介して2つの細胞集団間の自由な拡散を可能とする、二重チャンバー型のTranswellシステム内に共培養物を維持した。
【0066】
フローサイトメトリー:細胞を採取し、1倍濃度のPBS中に10×10個/mlで再懸濁させた。製造元の指示書に従い、細胞懸濁液を、抗CD31抗体:RPE(GeneTex、Irvine、CA)と共にインキュベートした。洗浄後、ヨウ化プロピジウムを細胞懸濁液に添加して、解析中に死滅した細胞を除外した。BD LSRII(BD Biosciences、San Jose、CA)上でフローサイトメトリーを実施し、側方散乱光に設定したゲートに前方散乱光に設定したゲートを対比させるCellQuestプログラムにより解析した。
【0067】
リアルタイム定量的RT−PCR:以下の配列:フォワードプライマー:5'-TGGAATTGGATTCGCCATTT-3'(配列番号1)及びリバースプライマー:5'-TGGGTGGGTGTGTCTACAGGA-3'(配列番号2)を含有する、ヒトVEGF−Aプライマーを合成した。β−アクチンのプライマー配列は、フォワードプライマー:5'-CTGGAACGGTGAAGGTGACA-3'(配列番号3)及びリバースプライマー:5'-AAGGGACTTCCTGTAACAATGCA-3'(配列番号4)であった。共培養細胞は、トランスウェルプレートで増殖させた。製造元のプロトコールに従い、Trizol(Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いて、全RNAを細胞から抽出し、DNアーゼI(Invitrogen)で処理した。オリゴ(dT)とランダムプライマーとの混合物を含有するiScript cDNA合成キット(Bio-Rad、Hercules、CA)により、1μgの全RNAをcDNAへと逆転写した。DyNAmo HS SYBR Green qPCRキット(New England BioLabs、Finnzymes、Finland)を用い、ABI PRISM 7900HT Sequence Detetion System(Applied Biosystems、Foster City、CA)上で、リアルタイムPCRを実施した。サイクリング条件は以下の通り:95℃で10分間にわたる初期変性の後、95℃で15秒間並びに60℃で1分間にわたる40サイクルであった。
【0068】
ウェスタンブロット:トランスウェルディッシュにおける共培養の8日後、EC溶解物に由来する50mgのタンパク質を、9%のSDS-PAGEゲル上にロードし、その後、ウェスタンブロット法によりニトロセルロース膜(Hybond ECL;Amersham Pharmacia Biotech)へと転写した。TBS(20mMのトリス−HCl、150mMのNaCl[pH7.4]、及び0.05%のTween 20)中に5%の脱脂粉乳により、膜をブロッキングした。室温(RT、room temperature)で2時間にわたり、1μg/mLのヒト抗VEGF一次抗体(R&D Systems、Mineapolis、MN)と共にインキュベートした後、5分間隔で6回にわたり、TBS/0.05% Tween 20により膜を洗浄し、抗ヤギ西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(Transduction Laboratories、Lexington、KY)と共にインキュベートした(非特許文献50)。
【0069】
管形成アッセイ:トランスウェルプレートにおける共培養の8日後、Matrigel(BD Biosciences、San Jose、CA)を、4℃のブランク6ウェル型トランスウェルの受容チャンバーへと添加し、37℃で2時間にわたりインキュベートした。Matrigelが固化した後、内皮細胞をトリプシン処理し、カウントし、5×10個/ウェルでゲルの上部に播種した。16時間にわたり細胞をインキュベートし、毛細血管様の構造を形成させた。共培養条件を維持するため、トランスウェルプレートの上層チャンバーにおいて、癌細胞を培養した。管構造を毎日観察し、形態、完全性、及び存続についてモニタリングした。
【0070】
DNA:リポソームBIV複合体の調製:プラスミドp4241及びp4119は、Robert Debs氏(California Pacific Medical Center Research Institute、San Francisco、CA)から恵与された。これらは、それぞれ、ルシフェラーゼ遺伝子及びCAT遺伝子をコードする。pCMV-THBS-1は、David Roberts氏(National Institutes of Health、Bethesda、MD)から恵与されたものであり、TSP1遺伝子をコードする。すべてのプラスミドは、アンピシリン選択下の大腸菌(Escherichia coli)のDH5α株内で増殖させた。Qiagen Endo-Free Plasmid Giga Kit(Qiagen、Hilden、Germany)を用いるアニオン交換クロマトグラフィーにより、プラスミドDNAを精製した。合成コレステロール(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を、50:45のDOTAP:コレステロール比で用いたことを除き、既に説明されている(Identification of a Small Molecule Inhibitor of the IL-2/IL-2Ra Receptor Interaction Which Binds to IL-2, J. W. Tilley, L. Chen, D. C. Fry, S. D. Emerson, G. D. Powers, D. Biondi, T. Varnell, R. Trilles, R. Guthrie, F. Mennona, G. Kaplan, R. A. LeMahieu, R. Palermo, and G. Ju, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 7589-7590)通りに、DOTAP並びにDOTAP:コレステロールによるBIVリポソームである、DNA:リポソームBIV複合体(BIV複合体)を調製した。
【0071】
二価低分子の作製:略述すると、選択的連結を介して、βターンの一価低分子を溶液中で混合して、ホモ二量体であるKB991〜KP1005、並びにヘテロ二量体であるKB1006〜KB1140による二価低分子を作製した。この過程における連結で必要とされるのは、炭酸カリウムの作用だけであった。CHCl中25℃で4時間にわたり、30%TFAにより、Boc保護された単量体化合物を処理した。溶媒を除去し、残留物をDMSO中で再溶解させ、0.03Mの溶液を作製した。ジクロロトリアジンによるリンカーの足場及びKCOを、逐次的に添加した。結果として得られる懸濁液を15分間にわたり超音波処理し、7日間にわたり振とうした。DMSOを凍結乾燥させ、HCl水溶液(5%、約0.5mL)を上記の固体残留物に添加し、3分間にわたり超音波処理した。化合物の大半は、酸性溶液中で沈殿した。遠心分離の後、ペレットを乾燥させ、保存した。一価低分子又は二価低分子でBIV複合体の表面をコーティングするため、該分子中に炭化水素テールを組み入れて、表面の脂質二重層内へと挿入した。まず、化合物(約10.0mg)を1.0mLのTHF/HO(v:v=1:1)中に溶解させた。CuSO溶液(1.0M、10μL)を添加し、その後、Cuの粉末(1.0mg)を添加した。この手順の後、THF溶液中のアジドオクタデカン(0.1ミリモル、0.2mL)を添加し、結果として得られる懸濁液を、25℃で24時間にわたり撹拌した。この懸濁液を、CHCl中に30%のメタノールを溶離剤として用いる、シリカゲルで満たしたガラス製ピペットを介して濾過した。この溶液を乾燥させ、かつ、最終生成物へと濃縮した。合成の後、この固体化合物を、ガラス製の試験管内の1:1のクロロホルム:メタノール中に溶解させた。組織培養フード内の安定的なアルゴンガス流下、試験管の底部に薄膜が生成された。この膜を滅菌水中に溶解させ、5mg/mLの原液を作製し、50℃で超音波処理(Lab-Line Trans-sonic 820/H)にかけた。復元された化合物のアリコートを、−80℃で保存した。
【0072】
インビトロにおける送達並びにハイスループットのルシフェラーゼアッセイ:本発明のハイスループットアッセイを用いて、標的化されていないBIV複合体より効果的に腫瘍血管内皮細胞へと内部化される、BIV複合体の表面に付着した一価化合物又は二価化合物を同定した。このアッセイは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子と、3つのインジェクター/ロボット式分注機を有し、ルシフェラーゼ発現に対する超高感度の検出を保証する、専用のプレートリーダー用ルミノメーターである、Luminoskan Ascent(Thermo Electron Corp.、Waltham、MA)とを特色とする。単層の10cm組織培養ディッシュから384ウェルプレートまでの多くの異なる試料フォーマットを可能とし、それらのすべてを試料の上層又は下層のいずれからも解析しうる限りにおいて、Luminoskanは万能である。Luminoskanは、試料に対する広範なダイナミックレンジ(全ゲイン設定領域にわたり、9ディケードを超える)に加えて、微小な差違を観察するための極高感度(1fmol/ウェル未満のATP)をもたらす。Luminoskanは、温度を含めたアッセイ条件の最適な制御(発光量は、微小な変化に対して極めて高感度である)、試薬の十分な混合(オービタルシェーキングを特色とする)、各測定間における一定の遅延、並びに試料1例当たりの多連を可能とする(30連/ウェルであり、培養ディッシュ1枚当たり、最大で3500連)など他の特色を可能とすることにより、正確なデータをもたらす。最後に、Luminoskan Ascentソフトウェアは、データ管理についても十分な設計がなされている。ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAが内部化され、核へと効果的に輸送されると、プレートのウェル内で増殖した細胞において生物発光が検出される。リードアウトは高速であり、ウェル1個当たり1つの二価化合物のフォーマットで、官能化BIV複合体についての迅速な試験を可能とする。正常HUVECを対照に用い、単独の腫瘍細胞又は共培養物への送達と比較した。Luminoskanによるデータを用いて、ヒト腫瘍細胞と共培養されたHUVECでは最大レベルのルシフェラーゼ遺伝子の発現をもたらすが、正常HUVEC細胞又は腫瘍細胞ではルシフェラーゼ遺伝子の発現をもたらさない二価化合物を同定した。BIV−ルシフェラーゼ複合体の表面上において、約150の低分子ライブラリーメンバーを様々な濃度で調べた。最適なトランスフェクション時間、トランスフェクションに用いられる複合体の最適量、最適な組込み、並びに最適なラグタイムもまた決定した。
【0073】
略述すると、共培養の7日後、細胞を採取し、50μLの細胞懸濁液を、細胞2×10個/ウェルディッシュで96ウェルへと播種した。(Identification of a Small Molecule Inhibitor of the IL-2/IL-2Ra Receptor Interaction Which Binds to IL-2, J. W. Tilley, L. Chen, D. C. Fry, S. D. Emerson, G. D. Powers, D. Biondi, T. Varnell, R. Trilles, R. Guthrie, F. Mennona, G. Kaplan, R. A. LeMahieu, R. Palermo, and G. Ju, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 7589-7590)において既に説明される通りに、複合体を調製した。化合物を、複合体内に封入されたDNA 1μg当たりの化合物0.5、10、200、500pgを含めた濃度まで希釈した。1μgの化合物を、96ウェルプレート内にあらかじめロードされた、10μLのBIV−ルシフェラーゼDNA複合体の中心へゆっくりとピペッティングし、その後、RTで一晩にわたりインキュベートし、最適のコーティングを得た。翌日、5μLまで希釈された、化合物でコーティングしたBIV複合体0.52μLを細胞にトランスフェクトし、45μLの無血清培地内に入れた。トランスフェクション後の細胞培地内で、細胞を増殖させた。HUVECをH1299細胞と共培養する場合は、DOTAPによるBIVリポソームを用い、細胞を4時間にわたりトランスフェクトした。HUVECとPANC1細胞とを共培養する場合は、DOTAP:コレステロールによるBIVリポソームを用い、細胞を2時間にわたりトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、1%Triton X-100(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を用いて細胞を溶解させ、その後、Luminoskan Ascentを用いてハイスループットルシフェラーゼアッセイを行い、遺伝子の発現を検出した。アッセイでは、1秒間の組込み時間、並びに14秒間のラグタイムを適用した。化合物でコーティングしたBIVリポソーム複合体のトランスフェクション効率を、コーティングされない複合体のトランスフェクション効率と比較した。各条件について、3連で測定した。すべての希釈液を、水中に5%のデキストロース(D5W)中で作製した。
【0074】
ヒト腫瘍内皮−膵臓癌マウスモデル:共培養の8日後に、HUVEC及びPANC1による共培養細胞を採取し、1倍濃度のPBS中に再懸濁させた。2×10個の共培養細胞(約1×10個のPANC1細胞)を含有する500μLの細胞懸濁液を、8〜10週齢の重症複合型免疫不全(SCID、severe combined immunodeficient)マウスの各々へとIP注射した。すべての動物手順は、承認された動物プロトコールを用いる、Baylor College of Medicine(Houston、TX)の施設内ガイドラインに従い実施した。
【0075】
インビボにおける標的化送達及びCATアッセイ:上記で詳述した共培養物をIP注射した8週間後、BIV−CAT DNA複合体を調製し、上記で論じたDNA 1μg当たりの化合物500pgの低分子KB1023でコーティングした。マウスへの静脈内(IV)注射の直前に、これらの複合体を、可逆性マスキング試薬である様々な濃度のn−ドデシル−ベータ−D−マルトピラノシド(Anatrace、Maumee、OH)と混合した。各マウスに、50μgのp4119 CAT DNAを含有する、総容量110μLの複合体を注射した。(Identification of a Small Molecule Inhibitor of the IL-2/IL-2Ra Receptor Interaction Which Binds to IL-2, J. W. Tilley, L. Chen, D. C. Fry, S. D. Emerson, G. D. Powers, D. Biondi, T. Varnell, R. Trilles, R. Guthrie, F. Mennona, G. Kaplan, R. A. LeMahieu, R. Palermo, and G. Ju, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 7589-7590)において既に説明される通り、IV注射の14時間後にマウスを屠殺し、組織を採取し、全タンパク質を抽出した。製造元の指示書に従い、CAT ELISAキット(Roche、Indianapolis、IN)を用いて、CATタンパク質の生成量を測定した。製造元の指示書に従い、Micro BCAキット(Pierce)を用いて、タンパク質の濃度を決定した。
【0076】
抗血管新生剤による癌治療:KB1023でコーティングしたBIV複合体中に35μgのTSP1プラスミドDNAを封入し、IV注射前に11mMの可逆性マスキング試薬を用いたことを除き、上記で説明したプロトコールを用いて、上記で詳述した共培養物をIP注射した2週間後に、インビボ送達を実施した。隔週1回の合計3回にわたり注射を実施した。異なる実験群では、毎週1回の合計5回にわたり注射を実施した。最終回の注射の2週間後(腫瘍モデルを確立するために、共培養物をIP注射した8週間後)、マウスを屠殺し、腫瘍サイズを測定した。腹部内の腫瘍並びに他の器官(肝臓、肺、脾臓、膵臓、及び結腸)を切除した後、中性緩衝液で10%としたホルマリン中で固定した。
【0077】
統計学的解析:データは、平均±SEMとして表わした。対応のないスチューデントのt検定を用いて、実験群と対照群とを比較した。P<0.05を有意であると考えた。
【0078】
SK−MEL−28細胞は、ATCC(American Type Culture Collection、Manassas、VA)から得た黒色腫細胞株である。腹壁黒色腫細胞、並びに左側臀部黒色腫細胞は、Medical City、Dallas、TXの外科医により提供されたものであり、その試料は、Gradalis,Inc.、Dallas、Texasに所在する。まず、患者組織をコラゲナーゼ及びプルモザイムにより解離させた後、製造元(Miltenyl Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)の指示書に従う標準的な手順を用いる組織解離デバイスを使用した。SK−MEL−28細胞は、ATCCにより指定された条件に従い増殖させた。患者の細胞を毎週1回継代培養し、9代にわたる継代後にアッセイした。10%のウシ胎仔血清を補充したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco's Modified Eagle's Medium)中で、すべての細胞を増殖させた。他のすべての条件は、本明細書の上記で見出される通りである。
【0079】
図28は、KB1037、KB1109、及びKB1123をSK−MEL−28細胞にトランスフェクトした後における発現の増大を示す。図29は、KB1037、KB1109、及びKB1123を腹壁黒色腫細胞にトランスフェクトした後における発現の増大を示す。図30は、KB1037、KB1109、及びKB1123を左側臀部黒色腫細胞にトランスフェクトした後における発現の増大を示す。KB1109は、すべての供給源に由来する黒色腫細胞上で発現を有意に増大させることが判明した。KB1037及びKB1123は、SK−MEL−28細胞、並びに患者GB0270の腹部内壁に由来する黒色腫細胞上における発現を増大させた。
【0080】
本明細書で論じられる任意の実施形態は、本発明の任意の方法、キット、試薬、又は組成物に関して実装することができ、この逆もまた成り立つと考えられる。さらに、本発明の組成物を用いて、本発明の方法を達成することができる。
【0081】
本明細書で説明される具体的な実施形態は、本発明の例示を目的として示されるものであり、本発明の限定として示されるものではないことが理解されるであろう。本発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、本発明の主要な特色は、各種の実施形態で用いることができる。当業者は、日常的な実験だけを用いて、本明細書で説明した特定の手順に対する多数の同等物を認識するか、又はこれらを確認しうるであろう。このような同等物は、本発明の範囲内にあるものと考えられ、特許請求の範囲により対象とされる。
【0082】
本明細書で言及されるすべての刊行物及び特許出願は、本発明が関連する技術分野の当業者のレベルを示すものである。すべての刊行物及び特許出願は、各個の刊行物又は特許出願を参照により組み込むことが具体的かつ個別に示唆されたと仮定した場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
特許請求の範囲及び/又は明細書において「含む」という用語と共に用いられる場合の「ある(a)」又は「ある(an)」という語は、「1つの」を意味しうるが、また、「1又は2以上の(one or more)」、「少なくとも1つの」、並びに「1又は2以上の(one or more than one)」の意味とも符合する。特許請求の範囲における「又は」という用語は、代替物だけを指すように明示的に示唆されているか、又は該代替物が相互に排他的であるのでない限り、「及び/又は」を意味するように用いられるが、本開示は、代替物だけ、並びに「及び/又は」を指す定義を支持する。本出願の全体において、「約」という用語は、ある値が、デバイス、該値を決定するのに用いられる方法に固有の誤差のばらつき、又は被験者間に存在するばらつきを包含することを示唆するのに用いられる。
【0084】
本明細書並びに特許請求の範囲(複数の請求項)で用いられる「含む(comprising)」(並びに「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」など、「含む(comprising)」の任意の形態)、「有する(having)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」など、「有する(having)」の任意の形態)、「包含する(including)」(並びに「包含する(includes)」及び「包含する(include)」など、「包含する(including)」の任意の形態)、又は「含有する(containing)」(並びに「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」など、「含有する(containing)」の任意の形態)という語は、包含的又はオープンエンドであり、さらなる、列挙されていない要素又は方法ステップを除外しない。
【0085】
本明細書で用いられる「又はこれらの組合せ」という用語は、該用語に先だって列挙された項目についての、すべての順列及び組合せを指す。例えば、「A、B、C、又はこれらの組合せ」とは、A、B、C、AB、AC、BC、又はABCのうちの少なくとも1つを包含することを意図し、具体的な文脈において順序が重要な場合はまた、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、又はCABのうちの少なくとも1つを包含することも意図する。この例を続けると、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなど、1又は2以上の項目の反復を含有する組合せが包含されることは明らかである。文脈から別段に明らかとならない限り、任意の組合せにおける項目又は項の数には制限がないことが典型的であることを、当業者は理解するであろう。
【0086】
本明細書で用いられる、「約」、「実質的な」、又は「実質的に」などのこれらに限定されない近似語は、このように修飾される場合に、必ずしも全体的又は完全であるわけではないが、提示される条件を指示することを当業者に保証するのに十分な程度近似すると理解される条件を指す。説明が変化しうる程度は、どのくらい大きな変化が導入されるかに依存するが、それでもなお、そのように修飾された特色が、そのように修飾されない特色に必要とされる特徴及び能力をやはり有するものと、当業者に認識させる。前出の議論の下でではあるが、一般に、「約」などの近似語により修飾される、本明細書における数値は、言及された値から、少なくとも±1、2、3、4、5、6、7、10、12、又は15%ばらつく可能性がある。
【0087】
本明細書で開示及び主張されるすべての組成物及び/又は方法は、本開示にてらして不要な実験を伴わずに作製及び実施することができる。本発明の組成物及び方法を、好ましい実施形態との関連で説明してきたが、本発明の概念、精神、及び範囲から逸脱しない限りにおいて、本明細書で説明される方法のステップ又は一連のステップにおける組成物及び/方法に変化を適用しうることは、当業者に明らかであろう。当業者に明らかなすべてのこのような類似の置換及び改変は、付属の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲、及び概念の内部にあるとみなされる。
【0088】
(参考文献)
「発明を実施するための形態」全体における太字の参考文献番号は、それぞれ、特許及び論文の元の番号付けに対応する。斜字体の番号付けは、特許出願で用いられた番号付けである。以下の番号付けは、補正済みの番号付けである。
1. Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression, N. S. Templeton, D. D. Lasic, P. M. Frederik, H. H. Strey, D. D. Roberts, and G. N. Pavlakis, Nature Biotechnology, 1997, 15, 647-652
2. Liposomal delivery of nucleic acids in vivo, N. S. Templeton, DNA and Cell Biology, 2002, 21, 857-867
3. Successful treatment of primary and disseminated human lung cancers by systemic delivery of tumor suppressor genes using an improved liposome vector, R. Ramesh, T. Saeki, N. S. Templeton, L. Ji, L. C. Stephens, I. Ito, D. R. Wilson, Z. Wu, C. D. Branch, J. D. Minna, and J. A. Roth, Molecular Therapy, 2001, 3, 337-350
4. Openings between defective endothelial cells explain tumor vessel leakiness, H. Hashizume, P. Baluk, S. Morikawa, J. W. McLean, G. Thurston, S. Roberge, R. K. Jain, and D. M. McDonald, Am J Pathol, 2000, 156, 1363-1380
5. Effect of transvascular fluid exchange on pressure-flow relationship in tumors: a proposed mechanism for tumor blood flow heterogeneity, P. A. Netti, S. Roberge, Y. Boucher, L. T. Baxter, and R. K. Jain, Microvasc Res, 1996, 52, 27-46
6. Vascular permeability and microencapsulation of gliomas and mammary carcinomas transplanted in rat and mouse cranial windows, F. Yuan, H. A. Salehi, Y. Boucher, U. S. Vasthare, R. F. Tuma, and R. K. Jain, Cancer Res, 1994, 54, 4564-4568
7. Vasculogenic mimicry, R. Folberg, and A. J. Maniotis, APMIS, 2004, 112, 508-525
8. Remodeling of the microenvironment by I melanoma tumor cells, M. J. Hendrix, E. A. Seftor, D. A. Kirschmann, V. Quaranta, and R. E. Seftor, Ann N Y Acad Sci, 2003, 995, 151-161
9. Discovering High-Affinity Ligands for Proteins: SAR by NMR, S. B. Shuker, P. J. Hajduk, R. P. Meadows, and S. W. Fesik, Science, 1996, 274, 1531-1534
10. Discovery of Potent Nonpeptide Inhibitors of Stromelysin Using SAR by NMR, P. J. Hajduk, G. Sheppard, D. G. Nettesheim, E. T. Olejniczak, S. B. Shuker, R. P. Meadows, D. H. Steinman, G. M. Carrera, P. A. Marcotte, J. Severin, K. Walter, H. Smith, E. Gubbins, R. Simmer, T. F. Holzman, D. W. Morgan, S. K. Davidsen, J. B. Summers, and S. W. Fesik, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 5818-5827
11. One-Dimensional Relaxation- and Diffusion-Edited NMR Methods for Screening Compounds That Bind to Macromolecules, P. J. Hajduk, E. T. Olejniczack, and S. W. Fesik, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 12257-12261
12. NMR-Based Discovery of Lead Inhibitors That Block DNA Binding of the Human Papillomavirus E2 Protein, P. J. Hajduk, J. Dinges, G. F. Miknis, M. Merlock, T. Middleton, D. J. Kempf, D. A. Egan, K. A. Walter, T. S. Robins, S. B. Shuker, T. F. Holzman, and S. W. Fesik, J. Med. Chem, 1997, 40, 3144-3150
13. Structure-Activity Relationships by NMR: A New Procedure for Drug Discovery by a Combinatorial-Rational Approach, H. Kessler, Angew. Chem. Int. Ed., 1997, 36, 829-831
14. Stromelysin Inhibitors Designed from Weakly Bound Fragments: Effects of Linking and Cooperativity, E. T. Olejniczak, P. J. Jahduk, P. A. Marcotte, D. G. Nettesheim, R. P. Meadows, R. Edalji, T. F. Holzman, and S. W. Fesik, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 5828-5832
15. Identification of a Small Molecule Inhibitor of the IL-2/IL-2Ra Receptor Interaction Which Binds to IL-2, J. W. Tilley, L. Chen, D. C. Fry, S. D. Emerson, G. D. Powers, D. Biondi, T. Varnell, R. Trilles, R. Guthrie, F. Mennona, G. Kaplan, R. A. LeMahieu, R. Palermo, and G. Ju, J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 7589-7590
16. The SHAPES strategy: an NMR-based approach for lead generation in drug discovery, J. Fejzo, C. A. Lepre, J. W. Peng, G. W. Bemis, Ajay, M. A. Murcko, and J. M. Moore, Chem. Biol., 1999, 5, 755-769
17. Privileged Molecules for Protein Binding Identified from NMR-Based Screening, P. J. Hajduk, M. Bures, J. Praestgaard, and S. W. Fesik, J. Med. Chem., 2000, 43, 3443-3447
18. SNAr Cyclizations to Form Cyclic Peptidomimetics of b-Turns, Y. Feng, Z. Wang, S. Jin, and K. Burgess, J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 10768-10769
19. Solid Phase SNAr Macrocyclizations to Give Turn-extended-turn Peptidomimetics, Y. Feng, and K. Burgess, Chem. Eur. J., 1999, 5, 3261-3272
20. Conformations of Peptidomimetics Formed by SNAr Macrocyclizations: 13- to 16-Membered Ring Systems, Y. Feng, Z. Wang, S. Jin, and K. Burgess, Chem. Eur. J., 1999, 5, 3273-3278
21. Stereochemical Implications of Diversity in b-Turn Peptidomimetic Libraries, Y. Feng, M. Pattarawarapan, Z. Wang, and K. Burgess, J. Org. Chem., 1999, 64, 9175-9177
22. Facile Macrocyclizations to b-Turn Mimics with Diverse Structural, Physical, and Conformational Properties, C. Park, and K. Burgess, J. Comb. Chem., 2001, 3, 257-266
23. A New Solid-Phase Linker for Suzuki Coupling with Concomitant Macrocyclization: Synthesis of b-Turn Mimics, W. Li, and K. Burgess, Tetrahedron Lett., 1999, 40, 6527-6530
24. Preferred Secondary Structures as a Possible Driving Force for Macrocyclization, S. Reyes, M. Pattarawarapan, S. Roy, and K. Burgess, Tetrahedron, 2000, 56, 9809-9818
25. Solid-Phase Syntheses of b-Turn Analogues To Mimic or Disrupt Protein-Protein Interactions, K. Burgess, Acc. Chem. Res., 2001, 34, 826-835
25. Long-Lasting Rescue of Age-Associated Deficits in Cognition and the CNS Cholinergic Phenotype by a Partial Agonist Peptidomimetic Ligand of TrkA, M. A. Bruno, P. B. S. Clarke, A. Seltzer, R. Quirion, K. Burgess, A. C. Cuello, and H. U. Saragovi, J. Neuroscience, 2004, 24, 8009-8018
26. Folkman, J, and Kalluri, R (2004). Cancer without disease. Nature 427: 787
27. Tandle, A, Blazer, DG, 3rd, and Libutti, SK(2004). Antiangiogenic gene therapy of cancer: recent developments. J Transl Med 2: 22
28. Ferrara, N, Hillan, KJ, Gerber, HP, and Novotny, W (2004). Discovery and development of bevacizumab, an anti-VEGF antibody for treating cancer. Nat Rev Drug Discov 3: 391-400
29. Faivre, S, Demetri, G, Sargent, W, and Raymond, E (2007). Molecular basis for sunitinib efficacy and future clinical development. Nat Rev Drug Discov 6: 734-745
30. Templeton, NS (ed) (2008 ). Gene and Cell Therapy: Therapeutic Mechanisms and Strategies. CRC Press: Boca Raton, FL. 1101 p
31. Ramesh, R, et al. (2001). Successful treatment of primary and disseminated human lung cancers by systemic delivery of tumor suppressor genes using an improved liposome vector. Mol Ther 3: 337-350
32. Zhang, X, Xu, J, Lawler, J, Terwilliger, E, and Parangi, S (2007). Adeno-associated virus-mediated antiangiogenic gene therapy with thrombospondin-1 type 1 repeats and endostatin. Clin Cancer Res 13: 3968-3976
33. Xu, M, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). Gene therapy with p53 and a fragment of thrombospondin I inhibits human breast cancer in vivo. Mol Genet Metab 63: 103-109
34. Liu, S, et al. (2008). PDX-1 acts as a potential molecular target for treatment of human pancreatic cancer. Pancreas 37: 210-220
35. Park, C, and Burgess, K (2001). Facile macrocyclizations to beta-turn mimics with diverse structural, physical, and conformational properties. J Comb Chem 3: 257-266
36. Reyes, S, Pattarawarapan, M, Roy, S, and Burgess, K (2000). Preferred secondary structures as a possible driving force for macrocyclization. Tetrahedron 56: 9809-9818
37. Burgess, K (2001). Solid-phase syntheses of beta-turn analogues to mimic or disrupt protein-protein interactions. Acc Chem Res 34: 826-835
38. Bruno, MA, et al. (2004). Long-lasting rescue of age-associated deficits in cognition and the CNS cholinergic phenotype by a partial agonist peptidomimetic ligand of TrkA. J Neurosci 24: 8009-8018
39. Isenberg, JS, Martin-Manso, G, Maxhimer, JB, and Roberts, DD (2009). Regulation of nitric oxide signalling by thrombospondin 1: implications for anti-angiogenic therapies. Nat Rev Cancer 9: 182-194
40. Lee, CH, Wu, CL, and Shiau, AL(2005). Systemic administration of attenuated Salmonella choleraesuis carrying thrombospondin-1 gene leads to tumor-specific transgene expression, delayed tumor growth and prolonged survival in the murine melanoma model. Cancer Gene Ther 12: 175-184
41. Xu, M, Chen, QR, Kumar, D, Stass, SA, and Mixson, AJ (1998). In vivo gene therapy with a cationic polymer markedly enhances the antitumor activity of antiangiogenic genes. Mol Genet Metab 64: 193-197
42. Liu, P, et al. (2003). Adenovirus-mediated gene therapy with an antiangiogenic fragment of thrombospondin-1 inhibits human leukemia xenograft growth in nude mice. Leuk Res 27: 701-708
43. Templeton, NS, Lasic, DD, Frederik, PM, Strey, HH, Roberts, DD, and Pavlakis, GN (1997). Improved DNA: liposome complexes for increased systemic delivery and gene expression. Nat Biotechnol 15: 647-652
44. Kerbel, RS (2008). Tumor angiogenesis. N Engl J Med 358: 2039-2049
45. Angell, Y, Chen, D, Brahimi, F, Saragovi, HU, and Burgess, K (2008). A combinatorial method for solution-phase synthesis of labeled bivalent beta-turn mimics. J Am Chem Soc 130: 556-565
46. Maliartchouk, S, et al. (2000). A designed peptidomimetic agonistic ligand of TrkA nerve growth factor receptors. Mol Pharmacol 57: 385-391
47. Thurston, G, et al. (1998). Cationic liposomes target angiogenic endothelial cells in tumors and chronic inflammation in mice. J Clin Invest 101: 1401-1413
48. Lu, H, Zhang, Y, Roberts, DD, Osborne, CK, and Templeton, NS (2002). Enhanced gene expression in breast cancer cells in vitro and tumors in vivo. Mol Ther 6: 783-792

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤を組織へと標的化送達するための組織特異的標的リガンドであって、
式:
A−足場−A’
[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む]の組成物と、
前記足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカーと
を含む標的リガンド。
【請求項2】
AとA’とが同じである、請求項1に記載の標的リガンド。
【請求項3】
足場が、反応性のジクロロトリアジン基を含む、請求項1に記載の標的リガンド。
【請求項4】
疎水性アンカーのうちの1又は2以上が、炭化水素部分を含む、請求項1に記載の標的リガンド。
【請求項5】
疎水性部分のうちの1又は2以上が、オクタデシル基を含む、請求項4に記載の標的リガンド。
【請求項6】
足場と疎水性アンカーとの間に機能的な形で挿入された1又は2以上のリンカーをさらに含む、請求項1に記載の標的リガンド。
【請求項7】
リンカーのうちの1又は2以上が、特異的に切断可能である、請求項6に記載の標的リガンド。
【請求項8】
組織が、膵臓癌、乳癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵臓癌血管内皮、及びNSCLC癌血管内皮から選択される癌性細胞、癌性組織、又は癌性内皮である、請求項1に記載の標的リガンド。
【請求項9】
治療剤を標的化送達するための低分子複合体を合成する方法であって、
2又は3以上の非保護の一価のペプチド模倣化合物を、足場に共有結合させるステップであって、各々の一価のペプチド模倣化合物が、断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択されるステップと、
1又は2以上の疎水性アンカーを、前記足場に共有結合するステップと
を含む方法。
【請求項10】
選択された一価のペプチド模倣化合物が同一である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
足場が、反応性のジクロロトリアジン基を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
疎水性アンカーのうちの1又は2以上が、炭化水素部分を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
疎水性部分のうちの1又は2以上が、オクタデシル基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
足場と疎水性アンカーとの間に1又は2以上のリンカーを機能的な形で挿入する、さらなるステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
リンカーのうちの1又は2以上が、特異的に切断可能である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組織が、膵臓癌、乳癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵臓癌血管内皮、又はNSCLC癌血管内皮から選択される癌性細胞、癌性組織、又は癌性内皮である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
治療剤の担体と、
治療剤を組織へと標的化送達するための組織特異的標的リガンドであって、
式:
A−足場−A’
[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む]の組成物、及び
前記足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカー
を含む標的リガンドと
を含む、リガンド官能化送達システム。
【請求項18】
治療剤の担体がリポソームである、請求項17に記載のリガンド官能化送達システム。
【請求項19】
治療剤の担体が、内部脂質二重層と外部脂質二重層とを有するカチオン性リポソームである、請求項17に記載のリガンド官能化送達システム。
【請求項20】
標的リガンドが、1又は2以上の疎水性アンカーを介して、非共有結合により、カチオン性リポソームの外部脂質二重層の外部表面に固定される、請求項17に記載のリガンド官能化送達システム。
【請求項21】
組織が、膵臓癌、乳癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵臓癌血管内皮、及びNSCLC癌血管内皮から選択される癌性細胞、癌性組織、又は癌性内皮である、請求項17に記載のリガンド官能化送達システム。
【請求項22】
ペイロードを標的組織へと送達する方法であって、
式:
A−足場−A’
[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む]の組成物、及び
前記足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカー
を調製するステップと、
前記組成物を、治療剤を封入する細胞膜若しくはそのオルガネラ膜、又は多重膜小胞若しくは二重膜小胞、又はより具体的に、二重膜リポソームなどの脂質二重層内へと組み込むステップと、
前記リポソームを、標的リガンドでコーティングするステップと、
標的リポソーム複合体を、可逆性マスキング試薬と組み合わせるステップと、
治療有効量の、前記マスキングされた標的リポソーム複合体を、それを必要とする患者に投与するステップと
を含む方法。
【請求項23】
リポソームが、二重膜陥入小胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
可逆性マスキング剤が、分子量が約500Da以下である低分子の中性脂質である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
低分子の中性脂質が、n−ドデシル−ベータ−D−マルトピラノシドである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
標的組織が、ヒト膵臓癌である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
標的リガンドが、化合物KB995、KB1005、KB1012、及びKB1109のうちの少なくとも1つである、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
標的組織が、ヒト乳癌である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
標的リガンドが、化合物KB1035、KB1036、KB1039、KB1063、KB1064、KB1066、及びKB1067のうちの少なくとも1つである、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
標的組織が、ヒト非小細胞肺癌である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
標的リガンドが、化合物KB1001、KB1003、KB1042、KB1051、KB1062、KB1096、KB1107、KB1108、及びKB1029のうちの少なくとも1つである、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
標的組織が、ヒト非小細胞肺癌血管内皮である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
標的リガンドが、化合物KB1061である、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
標的組織が、ヒト膵臓癌血管内皮である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
標的リガンドが、化合物KB1023である、請求項22に記載の方法。
【請求項36】
抗癌治療剤が、抗血管新生性タンパク質であるヒトトロンボスポンジン1(TSP1)をコードするプラスミドDNAである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
標的組織が、黒色腫である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
標的リガンドが、化合物KB1037、KB1109、及びKB1123のうちの少なくとも1つである、請求項22に記載の方法。
【請求項39】
標的組織に結合させるためのペプチド模倣化合物を単離する方法であって、
式:
A−足場−A’
[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択される一価のペプチド模倣化合物を含む]の組成物のペプチド模倣体ライブラリー、及び
前記足場に共有結合された1又は2以上の疎水性アンカー
を調製するステップと、
標的組織を、前記ペプチド模倣化合物と接触させるステップと、
前記標的組織に特異的に結合するペプチド模倣化合物を単離するステップと、
前記標的組織に特異的に結合した組成物の式を特徴づけるステップと
を含む方法。
【請求項40】
ハイスループットアッセイであり、かつ、標的組織が解離ステップの直後にアッセイされる患者に由来する細胞を包含する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
アンカーが、ユーロピウムクリプテート、テルビウムクリプテート、又は疎水性テールのうちの少なくとも1つから選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
腫瘍細胞と正常細胞とで結合を比較することにより、ペプチド模倣体ライブラリーの結合をスクリーニングする、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
時間分解蛍光法を直接的に用いて、ペプチド模倣体ライブラリーをスクリーニングする、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
トランスフェクションベースの系においてペプチド模倣体ライブラリーをスクリーニングする、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
標的組織又は標的細胞に結合するペプチド模倣化合物をスクリーニングする方法であって、
式:
A−足場−A’
[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択されるペプチド模倣化合物を含む]の組成物のペプチド模倣体ライブラリーを調製するステップと、
1又は2以上の脂質二重層アンカーを、前記ペプチド模倣化合物に共有的に付着させるステップと、
前記ペプチド模倣化合物を脂質と混合して、リポソームを形成させるステップと、
標的組織を、前記ペプチド模倣化合物と接触させるステップと、
前記標的組織に特異的に結合するペプチド模倣化合物を単離するステップと、
前記標的組織に特異的に結合した組成物の式を特徴づけるステップと
を含む方法。
【請求項46】
標的組織又は標的細胞に結合するペプチド模倣化合物をスクリーニングする方法であって、
式:
A−足場−A’
[式中、A及びA’は、各々の一価のペプチド模倣化合物が断片IK、GK、ID、GS、GT、VS、TK、KT、AR、KI、KE、AE、GR、YS、IR、及びモルホリノからなる群から選択されるペプチド模倣化合物を含む]の組成物のペプチド模倣体ライブラリーを調製するステップと、
1又は2以上の脂質二重層を、前記ペプチド模倣化合物に共有的に付着させるステップと、
前記ペプチド模倣化合物を脂質と混合して、リポソームを形成させるステップであって、前記リポソームが、細胞へと送達される核酸をさらに含むステップと、
標的組織を、前記ペプチド模倣化合物と接触させるステップと、
前記標的組織に特異的に結合するペプチド模倣化合物を単離するステップと、
前記標的組織に特異的に結合した組成物の式を特徴づけるステップと
を含む方法。
【請求項47】
標的組織が、組織培養物中の細胞としてさらに定義される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
標的組織が、組織培養物中の細胞としてさらに定義され、かつ、前記細胞が、前記細胞に対する核酸の作用に基づいて選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
標的組織が、組織培養物中の細胞としてさらに定義され、核酸が、陰性又は陽性選択のための選択マーカーであるか、陽性又は陰性選択のための選択マーカーを発現させるか、検出可能なマーカーを発現させる、請求項46に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図7c】
image rotate

【図7d】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25a−b】
image rotate

【図25c−f】
image rotate

【図25g−h】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate


【公表番号】特表2013−503904(P2013−503904A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528096(P2012−528096)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/047858
【国際公開番号】WO2011/029028
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(510285779)グラダリス インク. (4)
【氏名又は名称原語表記】GRADALIS,INC.
【Fターム(参考)】