説明

組織特異的プロモーターと腫瘍を標的とするトランススプライシングリボザイムとを含む組換えアデノウイルス及びその用途

本発明は、組織特異的プロモーター及び癌特異遺伝子を標的とするトランススプライシングリボザイムを含む組換えアデノウイルス及びその用途に関する。より詳細には、(1)組織特異的プロモーターと、(2)該プロモーターと作動可能に連結された癌特異遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイムと、(3)該リボザイムの3'エクソンに連結された治療遺伝子またはレポーター遺伝子と、を含む組換えアデノウイルス、これを含む抗癌用薬学組成物及び癌診断用組成物に関する。 本発明の組換えアデノウイルスは、遺伝子標的組織に対する高い特異性及び顕著に改善された治療効能を有する。したがって、遺伝子治療効能に優れた本発明の組換えアデノウイルスは、遺伝子伝達ベクターとして抗癌剤または癌診断剤に有用に用いられることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織特異的プロモーターと癌特異遺伝子を標的とするトランススプライシングリボザイムとを含む組換えアデノウイルス及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は、韓国人の死亡原因の1位を占める重大疾患であり、癌を克服するための多くの研究がなされてきたが、未だ征服されていない難病である。癌に対する既存の治療法には、手術、化学療法及び放射線治療などがあるが、それぞれの方法には限界があり、最近ではこのような治療法とは異なる概念の治療法が研究されており、特に、遺伝子治療法が活発に研究されている。
【0003】
遺伝子治療(gene therapy)とは、通常の方法では治療が困難な先天的または後天的な遺伝子異常を遺伝工学的方法で治療する方法のことをいう。具体的に、遺伝子治療は、先天的または後天的な遺伝子欠陥、ウイルス性疾病、癌または心血管系疾患などのような慢性疾患の治療と予防のために、DNA及びRNAなどの遺伝物質を人体内に投与して治療タンパク質を発現させたり、特定タンパク質の発現を抑制させる治療方法であり、疾病の原因を遺伝子レベルで解析することによって根本的な治療ができる点から、難病の克服の他に、既存医療方式の代替手段として期待されている方法である。
【0004】
癌に対する遺伝子治療は、人体内の免疫反応を誘導する免疫学的遺伝子治療法と、使用された遺伝子が癌細胞を直接破壊したり、その死滅を誘導したりする遺伝子治療法とに分類できる。後者の場合では、遺伝子を細胞内に運搬し発現させるベクターの役割が非常に重要であるが、アデノウイルスベクターは、高い遺伝子伝達の効率、未分化細胞に遺伝子を伝達する能力及び高力価ウイルス貯蔵物製造の容易性から、最も有望な遺伝子治療用ベクターの一つとして認められている。
【0005】
一般に使用される遺伝子治療用アデノウイルスベクターでは、複製に必須の一連の遺伝子を欠失させ、高いプロモーター活性を有するサイトメガロウイルス(CMV)またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターを入れ、治療目的タンパク質の生体内における高い発現を誘導する。
【0006】
最近では、遺伝子治療に活用できる標的遺伝子の多数が細胞分裂を多く行う一般細胞にも発現することに起因する副作用を減らすための努力として、癌細胞特異的な治療(cancer tissue targeted therapy)が試みられている(Fukuzawaら., Cancer Res 64: 363-369, 2004)。このために、CMVやRSVの代わりに組織特異的(tissue-specific)プロモーターを使用する方法が考慮されているが、特異性が向上する反面、治療効能が落ちるという短所から実用化には至っていない現状である。既存の癌特異的遺伝子のプロモーターであるAFP-、CEA-、PSA-またはhTERT(human Telomerase Reverse Transcriptase)-プロモーターに対する研究によると、これらの使用時に、CMV-プロモーターを使用した場合に比べて約50〜300倍まで遺伝子発現機能が落ちると報告されている(Kuhnnelら., Cancer Gene Therapy 11: 28-40, 2004)
【0007】
また、組織特異的プロモーターを使用して遺伝子治療の組織特異性を高めようとする試みが既に報告されたことがあるが、その効率は一般のプロモーターを使用する場合に比べて常に落ち、治療効果(efficacy)を減少させると報告されている((Wu, L.,ら., Trends Mol. Med. 9: 421-429, 2003)
【0008】
一方、テトラヒメナサーモフィラ(Tetrahymena thermophila)からのグループIイントロンリボザイムが、実験管内でだけでなく、バクテリア、さらには人体細胞内でトランススプライシング反応を行うことによって、別に存在する2つの転写体を互いに連結させることができるということが報告された(Been, M.およびCech, T. 1986, One binding site determines sequence specificity of Tetrahymena pre-rRNA self-splicing, trans-splicing, and RNA enzyme activity. Cell 47: 207-216; Sullenger, B.A.およびCech, T.R. 1994, Ribozyme-mediated repair of defective mRNA by targeted, trans-splicing. Nature 371: 619-622; Jones, J.T., Lee, S.W.,およびSullenger, B.A. 1996, Tagging ribozyme reaction sites to follow trans-splicing in mammalian cells. Nat Med. 2: 643-648)。したがって、グループIイントロンに基づくトランススプライシングリボザイムにより、疾患と関連した遺伝子転写体または正常細胞では発現されずに、疾病細胞でのみ特異的に発現する特定RNAが標的にされた後、そのRNAが正常のRNAに修復されたりまたは新しい治療用遺伝子転写体に置換されるように再プログラムを誘発することによって、非常に疾患特異的であり且つ安全な遺伝子治療技術とすることができる。すなわち、単に標的遺伝子転写体が存在する時にのみRNA置換が起きるので、結果として、適切な時間と場所でのみ所望の遺伝子産物を生成させることができる。特に、細胞内発現するRNAを標的にした後、所望の遺伝子産物に置き換える方法なので、導入しようとする遺伝子発現量を調節することが可能である。また、トランススプライシングリボザイムは、疾患特異RNAを除去すると同時に所望の治療用遺伝子産物の発現を誘導でき、治療効果を倍加することができる。
【0009】
また、hTERT(human Telomerase reverse transcriptase)は、癌細胞の永続性(immortality)及び増殖(proliferation)能力を調節する最も重要な酵素の一つである。このテロメラーゼ(telomerase)は、無限に複製される生殖細胞、造血細胞及び癌細胞で80〜90%のテロメラーゼ活性を持っているが、癌細胞周辺の正常細胞はその活性を持っていない(Bryan, T.M.およびCech, T.R. 1999, Telomerase and the maintenance of chromosome ends. Curr. Opin. Cell Biol. 11; 318-324)。このようなテロメラーゼの特性に着目し、近年、細胞成長に関与するテロメラーゼの抑制子を開発することによって癌細胞の増殖を抑制しようとする試みが活発に進行されている(Bryan, T.M., Englezou, A., Gupta, J., Bacchetti, S.,およびReddel, R.R. 1995, Telomere elongation in immortal human cells without detectable telomerase activity. Embo J. 14; 4240-4248; Artandi, S.E.およびDePinho, R.A. 2000, Mice without telomerase: what can they teach us about human cancer Nat. Med. 6; 852-855)。
【0010】
本発明者らは組織特異性と治療効能を同時に向上させうる組換えアデノウイルスについて鋭意研究した結果、組織特異的プロモーターと、これと作動可能なように癌特異遺伝子に作用する3'エクソンで治療遺伝子(またはレポーター遺伝子)が連結されるトランススプライシングリボザイムと、を含む組換えアデノウイルスを作製し、該作製された組換えアデノウイルスが、癌の発生した組織以外の他の組織では作用できず、遺伝子治療に伴う副作用を顕著に減らすことができ、かつ、高い抗腫瘍効果を持つということを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、その目的は、組織特異性及び治療効能が同時に改善された組換えアデノウイルス及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、(1)組織特異的プロモーターと、(2)該プロモーターと作動可能に連結された癌特異遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイムと、(3)該リボザイムの3'エクソンに連結された治療遺伝子またはレポーター遺伝子と、を含む組換えアデノウイルスを提供する。
【0013】
また、本発明は、上述した組換えアデノウイルスを有効成分として含む抗癌用薬学的組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、上述した組換えアデノウイルスを有効成分として含む癌診断用組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、S1)上述の組換えアデノウイルスを癌細胞に導入する段階と、S2)癌細胞からレポータータンパク質を検出する段階と、を含む癌の映像化方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組換えアデノウイルスは、組織特異的なプロモーターにより癌特異遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイム発現が調節されるので、特定組織でリボザイム発現によるトランススプライシング反応を通じて癌特異的遺伝子が治療遺伝子(または、レポーター遺伝子)に修飾されることによって、癌細胞のみを選択的に治療することや、診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による組換えアデノウイルスを示す模式図である。
【図2】本発明の実施例で作製された組換えアデノウイルスの遺伝子地図である。
【図3】Ad-PEPCK.Ribo-TK、Ad-PEPCK-TKまたはMockでHep3B、SKOV3とTHLE3細胞株を感染させた後、細胞の生存性をMTSアッセイで評価した結果を示すグラフである。
【図4】Mock、PL、PRT、CRTでHep3B、SKOV3及びIMR90細胞株を感染させた後、リボザイムのトランススプライシング作用を確認するためにRNA分析した結果及びトランススプライシング分子(TSM)の塩基配列分析結果を示す図である。
【図5】Mock、PL、PRT、CRTでHep3B、SKOV3及びIMR90細胞株を感染させた後、PRT組換えアデノウイルスDNAの分布を確認するためにPCR分析した結果を示す図である。
【図6】癌異種移植を通じてPRT、CRTとPL組換えアデノウイルスの抗肝癌効果を評価したグラフである(PL/GCV(1−way ANOVA)と比較して**はP<0.005を意味し、***はP<0.0001を意味する)
【図7】ヒト子宮頸部癌HeLa細胞を用いた癌異種移植実験20日後の、CRT、PRT、PL組換えアデノウイルスの癌腫の重量を示すグラフである(平均癌腫重量と表面偏差はエラーバーで表示する)。
【図8】(a)は、腹膜癌腫症モデルにおいてPLとPRL組換えアデノウイルスによる選択的発現様相を確認するための、肝組織と癌組織のH&E染色後の40倍拡大した顕微鏡観察写真であり、(b)は、β−ガラクトシダーゼ発現後の40倍拡大した顕微鏡観察写真である((a)は、Ad-PEPCK-LacZに感染された組織における導入遺伝子の発現様相、(b)は、Ad-PEPCK.Ribo-LacZに感染された組織における導入遺伝子の発現様相である)。
【図9】PLとPRL組換えアデノウイルスをそれぞれ注入した腹膜癌腫症モデルの肝、胃及び小腸の正常組織と肝癌部位3箇所の組織粉砕物のβ−ガラクトシダーゼ活性を分析した結果を示すグラフである。
【図10】(a)は、PLとPRL組換えアデノウイルスを注入した腹膜癌腫症モデルで癌組織のhTERT mRNA発現量を測定した結果であり、(b)は、抗−hTERTを用いた免疫化学的染色結果を示す写真である。
【図11】(a)は、正常マウスにAd-PEPCK-LacZ(PL)、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)、Ad-PEPCK-TK(PT)を注入した後、ガンシクロビル投与2日、7日、14日目の肝組織をパラフィン包埋およびH&E染色した後の、200倍拡大した顕微鏡写真であり、(b)は、肝酵素であるAST、ALT数値を示すグラフである。
【図12】(a)は、Hep3B細胞株を注入して腹腔内癌が生成されたマウスにPL、PRT、CRTを投与した後、2.5週後に腹腔内の姿を撮影した写真であり、(b)は、肝組織及び癌腫を抽出して撮影した写真である。
【図13】Hep3B細胞株を注入した後、2.5週後の肝癌腫の重さと、PL、PRT、CRTを投与して2.5週後に肝癌腫の重さを測定したグラフである(各群別に10匹のマウスを処置、癌腫の重さの平均を標準偏差と一緒に表示)
【図14】(a)は正常肝(L)、個別の肝癌腫(T)内に注入されたPL、PRTアデノウイルスのRNA発現パターンを示す図であり、(b)は、PRTが注入されたマウスで形成されたトランススプライシング分子(TSM)の塩基配列分析結果を示す図である。
【図15】肝内多発性肝癌腫マウスモデルにMock、PRTアデノウイルスを注射し、10日後に肝蔵を抽出して撮影した写真である。
【図16】肝内多発性肝癌腫マウスモデルにMock、PRTを投与し、肝組織パラフィンブロックのH&E染色後に光学顕微鏡で観察した画像である。
【図17】肝内多発性肝癌腫マウスモデルにMock、PRT投与後に腫瘍の重さを算出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本明細書全体を通じて言及される‘プロモーター’は、特定の宿主細胞で作動可能に連結された他の核酸配列の発現を調節する核酸配列を意味し、‘作動可能に連結される(operably linked)'とは、一つの核酸断片が他の核酸断片と機能的に結合し、その機能または発現が他の核酸断片に影響を受けるという意味である。
【0020】
本明細書で言及されるアデノウイルスは、アデノウイルスベクターと同じ意味を有し、アデノウイルス科(adenoviridae)に属するウイルスを意味する。このアデノウイルス科には、マストアデノウイルス属の動物性アデノウイルスを全て含む。特に、ヒトのアデノウイルスは、A-F亜属(subgenera)及びその個々の血清型を含み、A-F亜属には、ヒトのアデノウイルス1型、2型、3型、4型、4a型、5型、6型、7型、8型、9型、10型、11型(Ad11A及びAd11P)、12型、13型、14型、15型、16型、17型、18型、19型、19a型、20型、21型、22型、23型、24型、25型、26型、27型、28型、29型、30型、31型、32型、33型、34型、34a型、35型、35p型、36型、37型、38型、39型、40型、41型、42型、43型、44型、45型、46型、47型、48型及び91型が含まれるが、これに限定されない。
【0021】
図1は、本発明に係る組換えアデノウイルスを示す模式図である。
【0022】
図1のように、本発明の組換えアデノウイルスは、組織特異的プロモーター;癌特異的遺伝子に対するRNA置換活性を持つトランススプライシングリボザイム配列;及び、このリボザイムの3'エクソンに連結された治療遺伝子(またはレポーター遺伝子)を含む。
【0023】
この組織特異的プロモーターによりリボザイムが特定標的組織でのみ発現し、癌特異的遺伝子に対するRNA置換活性を持つトランススプライシングリボザイムの作用により、正常組織以外の癌組織でのみリボザイムのトランススプライシング活性が機能する。これにより、癌の発生した組織以外の他の組織ではアデノウイルスが作用できず、遺伝子治療に伴う副作用が顕著に減少するだけでなく、治療効果が高いため、今まで遺伝子治療分野で解決することが困難だった高い組織特異性(tissue specificity)及び高い効能性(high efficacy)を同時に得ることができる。
【0024】
このような本発明の組換えアデノウイルスは、癌特異的遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイム及び治療遺伝子(または、レポーター遺伝子)を発現することを特徴とする。このために、組織特異的プロモーターが作動可能に連結される。これにより、組織特異的プロモーターがトランススプライシングリボザイムの発現に影響を及ぼし、その発現を調節する。この時、プロモーターと同じ組織特異的遺伝子のエンハンサーをさらに含むことが好ましい。
【0025】
このプロモーターまたはエンハンサーは、特定の組織で目的遺伝子の発現を誘導する組織特異的(tissue-specific)プロモーターまたはエンハンサーであればいずれも使用可能である。その代表に、肝組織特異的なPEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子、アポリポプロテインE(apolipoprotein E)遺伝子、血清アルブミン遺伝子;肝癌特異的AFP(alphafetoprotein)遺伝子;大腸癌特異的CEA(carcinoembryonic antigen)遺伝子;または、前立腺癌特異的PSA(Prostate-specific antigen)遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーなどがある。最も好ましくは、肝蔵で最も発現が明白に現れる組織特異性を示すPEPCK遺伝子(Roesler, WJ, J. Biol. Chem. 267: 21235-21243, 1992)のプロモーター及びエンハンサーを使用する。
【0026】
このような本発明のプロモーターまたはエンハンサーは、当業者には公知の方法を用いて容易に作製できるが、例えば、ヒトのゲノムを鋳型にし、適切なプライマーを用いてPCRを行ったり、自動DNA合成器を用いて製造できる。
【0027】
上記癌特異遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイムは、組織特異的プロモーターにより特定組織でのみ発現する。特定組織でのみ発現したリボザイムは、細胞内に発現する特定癌特異遺伝子を標的にしてトランススプライシング反応を行い、治療遺伝子またはレポーター遺伝子を接合する。このように癌特異的遺伝子を修飾することによって癌細胞のみを選択的に細胞死を誘発したり診断し、治療または診断することができる。
【0028】
この時、癌特異遺伝子は、癌細胞で特異的に発現する遺伝子を意味し、その代表には、hTERT(human Telomerase reverse transcriptase)のmRNA、AFP(alphafetoprotein)mRNA、CEA(carcinoembryonic antigen)mRNA、PSA(Prostate-specific antigen)mRNA、またはCKAP2(Cytoskeleton-associated protein 2)mRNAなどがある。
【0029】
本発明のリボザイムは、癌特異的遺伝子を標的としてトランススプライシング反応を行うことによって、新しい治療遺伝子(または、レポーター遺伝子)を癌特異的遺伝子に連結するものであればいずれも使用可能である。その代表として、癌に特異的なRNA転写体であるhTERT(human Telomerase reverse transcriptase)のmRNAを認知してトランススプライシングする能力が検証されたhTERT標的トランススプライシンググループIリボザイムなどがある。
【0030】
このようにプロモーターにより発現したリボザイムのトランススプライシング活性により癌特異遺伝子に治療遺伝子が接合し、癌細胞を治療することができる。この時、治療遺伝子(therapeutic gene)は、癌細胞内で発現して治療学的効果を奏するヌクレオチド配列を指す。例えば、薬剤感受性遺伝子、細胞死滅遺伝子、細胞増殖抑制遺伝子、細胞毒性遺伝子、腫瘍抑制因子遺伝子、抗原性遺伝子、抗新生血管生成遺伝子、サイトカイン遺伝子などが含まれるが、これに限定されることはない。
【0031】
上記薬剤感受性遺伝子(drug-sensitizing gene)は、毒性のない前駆体(prodrug)を毒性物質に転換させる酵素に対する遺伝子で、遺伝子の移入された細胞は死滅することから自殺遺伝子(suicide gene)とも呼ばれる。すなわち、正常細胞には毒性を持たない前駆体を全身に投与した時、癌細胞に対してのみ前駆体が毒性代謝体(toxic metabolite)に切り替われ、薬剤に対する感受性を変化させることによって癌細胞を破壊させる方法である。その代表として、HSV-tk(Herpes simplex virus-thymidine kinase)遺伝子とガンシクロビル(ganciclovir)、大腸菌のシトシンアミノ酵素(cytosine deaminase: CD)遺伝子と5−フルオロシトシン(5-fluorocytosine: 5-FC)がある。
【0032】
上記細胞死滅遺伝子(proapoptotic gene)は、発現してプログラムされた細胞消滅を誘導するヌクレオチド配列を指す。当業者に公知の細胞死滅遺伝子には、例えば、p53、アデノウイルスE3-11.6K(Ad2及びAd5から由来)またはアデノウイルスE3-10.5K(Adから由来)、アデノウイルスE4遺伝子、p53経路遺伝子及びカスパーゼをコードする遺伝子がある。
【0033】
上記細胞増殖抑制遺伝子(cytostatic gene)は、細胞内で発現して細胞周期途中に細胞周期を停止させるヌクレオチド配列を指す。その代表に、p21、網膜芽細胞腫遺伝子、E2F-Rb融合タンパク質遺伝子、サイクリン依存性キナーゼ抑制因子をコードする遺伝子(例えば、p16、p15、p18及びp19)、成長中止特異性ホメオボックス(growth arrest specific homeobox: GAX)遺伝子(国際特許出願公開WO97/16459号及びWO96/30385号)などがある。
【0034】
上記細胞毒性遺伝子(cytotoxic gene)は、細胞内で発現して毒性効果を示すヌクレオチド配列を指す。例えば、シュードモナス外毒素(exotoxin)、リシン毒素、ジフテリア毒素などをコードするヌクレオチド配列などがある。
【0035】
上記腫瘍抑制因子遺伝子(tumor suppressor gene)は、標的細胞内で発現して腫瘍表現型を抑制することや、細胞死滅を誘導することができるヌクレオチド配列を指す。その代表に、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-a: TNF-a)、p53遺伝子、APC遺伝子、DPC-4/Smad4遺伝子、BRCA-1遺伝子、BRCA-2遺伝子、WT-1遺伝子、網膜芽細胞腫遺伝子(Leeら., Nature, 329, 642, 1987)、MMAC-1遺伝子、腺腫様ポリープ症コイルタンパク質(adenomatous polyposis coil protein)(Albertsenら. 米国特許公報US5,783,666号)、結腸直腸癌における欠失(DCC)遺伝子、MMSC-2遺伝子、NF-1遺伝子、染色体3p21.3に位置した鼻咽喉腫瘍抑制因子遺伝子(Chengら. Proc. Nat. Acad. Sci., 95, 3042-3047, 1998)、MTS1遺伝子、CDK4遺伝子、NF-1遺伝子、NF-2遺伝子及びVHL遺伝子がある。
【0036】
上記抗原性遺伝子(antigenic gene)は、標的細胞内で発現して免疫システムで認識できる細胞表面抗原性タンパク質を生産するヌクレオチド配列を指す。当業者に公知の抗原性遺伝子の例には、癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen: CEA)及びp53(Levine, A., 国際特許出願公開WO94/02167号)が含まれる。
【0037】
上記サイトカイン遺伝子(cytokine gene)は、細胞内で発現してサイトカインを生成するヌクレオチド配列を指す。その代表に、GM-CSF、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-4、IL-12、IL-10、IL-19、IL-20)、インターフェロンa、β、γ(インターフェロンa-2b)及びインターフェロンa-2a-1のような融合体などがある。
【0038】
上記抗新生血管生成遺伝子(anti-angiogenic gene)は、発現して抗新生血管生成因子を細胞外に放出するヌクレオチド配列を指す。その例に、アンギオスタチン、血管内皮成長因子(VEGF)の抑制因子、エンドスタチンなどがある。
【0039】
また、本発明では、上述のリボザイム活性を用いて癌特異遺伝子にレポーター遺伝子を接合することができる。このように特定組織で癌特異遺伝子に接合されたレポーター遺伝子は、プロモーターの転写活性によってレポータータンパク質として発現する。これにより、発現したレポータータンパク質の活性または量を測定することによって癌細胞を診断することができる。
【0040】
この時、レポーター遺伝子は、本発明の属する分野に公知のものを使用することができ、好ましくは、LacZ、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT: chloramphenicol acetyl transferase)、レニラルシフェラーゼ(Renila luciferase)、ホタル(firefly)ルシフェラーゼ、赤色蛍光タンパク質(RFP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、分泌型胎盤アルカリホスファターゼ(secreted placental alkaline phosphatase: SEAP)またはHSV-tk(Herpes simplex virus-thymidine kinase)をコードする遺伝子を使用する。
【0041】
これらのレポータータンパク質の活性は、当業者に公知の下記のような方法を用いて測定できる: ホタルルシフェラーゼ(de Wet J.ら., Mol. Cell Biol., 7, 725-737, 1987参照)、レニラルシフェラーゼ([Lorenz W.W.ら., PNAS 88, 4438-42, 1991]参照)、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(Gorman C.ら., Mol. Cell Biol., 2, 1044-1051, 1982参照)、LacZ(Hall C.V.ら., J. Mol. Appl. Genet .
, 2,101-109, 1983参照)、ヒト成長ホルモン( Selden R.ら., Mol. Cell Biol., 6, 3173-3179, 1986参照)、緑色蛍光タンパク質( Chalfie M.ら., Science, 263, 802-805, 1994参照)、及び分泌型胎盤アルカリホスファターゼ( Berger, J.ら., Gene, 66, 1-10, 1988参照)。なお、チミジンキナーゼ(thymidine kinase)をレポータータンパク質にした場合、PET(positron emission tomography)イメージング法を用いることができる。
【0042】
本発明の組換えアデノウイルスは、当業者に公知の方法によって、組織特異的プロモーター、癌特異的遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイム配列、及び治療遺伝子またはレポーター遺伝子を結合させた後、E1及びE3遺伝子の除去されたアデノウイルスに挿入して得ることができる。
【0043】
本発明の一実施例により、肝組織特異的PEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子のエンハンサーとプロモーターと;及び、hTERT RNA特異的トランススプライシングリボザイムRib21ASとHSV-tk(Herpes simplex virus-thymidine kinase)遺伝子またはLacZ遺伝子を、E1及びE3遺伝子の除去されたアデノウイルスに挿入して、組換えアデノウイルスAd-PEPCK.Ribo-TK(配列番号1)、Ad-PEPCK.Ribo-LacZ(配列番号2)を作製した。この時、アデノウイルスは、ヒトのアデノウイルス第5血清型(serotype)から由来したものを使用した。
【0044】
上記PEPCK遺伝子のプロモーターは、好ましくは、配列番号3で示される塩基配列を有することができ、PEPCK遺伝子のエンハンサーは、配列番号4で示される塩基配列を有することができる。また、Rib21AS配列は、好ましくは、配列番号5で示される塩基配列を有することができ、LacZ遺伝子は、配列番号7で示される塩基配列を有することができる。
【0045】
なお、HSV-tk遺伝子は、好ましくは、配列番号6で示される塩基配列を有することができ、ジェンバンク(genbank)登録番号AAP13943、P03176、AAA45811、P04407、Q9QNF7、KIBET3、P17402、P06478、P06479、AAB30917、P08333、BAB84107、AAP13885、AAL73990、AAG40842、BAB11942、NP_044624、NP_044492、CAB06747等に記載されたものとすることができる。
【0046】
このような本発明の組換えアデノウイルスAd-PEPCK.Ribo-TK(PRT)は、肝癌細胞株のHep3Bに対して高い細胞死滅程度を示したが、肝癌細胞株以外の卵巣癌細胞株SKOV3に対して細胞死滅を示さず、高い組織特異性を有することがわかる。また、腫瘍性ではない正常肝細胞株THLE3に対して細胞死滅を誘導せず、癌特異性を示した(図3参照)。
【0047】
また、組織特異的プロモーターを含有しないCRT(Ad-CMV.Ribo-TK)は、肝癌細胞株Hep3Bと卵巣癌細胞株SKOV3の両方でリボザイムが発現され、トランススプライシング分子(trans-spliced molecule: TSM)が生成された。これに対し、PRTで感染された卵巣癌細胞株SKOV3と正常肺線維芽細胞IMR90でトランススプライシング分子が生成されず、肝癌細胞株Hep3Bでのみトランススプライシング分子が生成された。これにより、PRTから誘導された肝癌細胞の選択的死滅が、肝組織で選択的に発現されたリボザイムのhTERT RNAの特異的で且つ高い正確度のトランススプライシング作用によるものであるということを確認した(図4参照)。
【0048】
異種移植(tumor xenograft)された肝癌に対してPRTを投与し、ガンシクロビルを併用投与した後に腫瘍の体積を測定した結果、Hep3B癌腫が劇的に退化し、本発明の組換えアデノウイルスの抗肝癌効果(anti-HCC)を確認した(図6参照)。一方、異種移植(tumor xenograft)された子宮頸部癌腫に対してPRTを投与し、ガンシクロビルを併用投与した後、HeLa癌腫の重量を測定した結果、組織特異的プロモーターを含有しないCRT投与により癌腫の重量が40%減少したが、癌腫の大きさに有意な変化は観察されなかった(図7参照)。
【0049】
腹膜癌腫症モデルマウスにPRLを投与した結果、hTERTm RNAが有意に減少し、hTERTタンパク質の量も有意に減少した(図10参照)。これは、本発明の組換えアデノウイルスによってリボザイムが癌特異遺伝子であるhTERT RNAを標的としてトランススプライシング反応を効果的に行ったということを意味する。
【0050】
また、正常マウスに組換えアデノウイルスを投与して安全性を確認した結果、PT投与により肝組織で肝細胞死と炎症所見が観察され、肝酵素数値の増加があったのに対し、PRT投与マウスの肝組織と肝酵素数値は正常だった(図11参照)。
【0051】
腹腔内癌腫が形成されたマウスに組換えアデノウイルスを投与した結果、PRTとガンシクロビルを併用投与したマウスの肝蔵では癌腫が全く残っていない、または、ごく小さい腫瘍のみが発見された(図12参照)。また、PRT投与により肝癌腫の重さが有意に減少した(図13参照)。
【0052】
PRTを投与した腹腔内癌腫マウスモデルの肝癌腫及び正常肝組織に対するRNA分析結果、リボザイム(TK RNA)は肝癌腫及び正常肝組織の両方で生成されたが、トランススプライシング分子(TSM)は、肝癌腫でのみ形成された。そして、トランススプライシング分子(TSM)の塩基配列分析から、PRTが、癌特異遺伝子であるhTERT RNAに正確に治療遺伝子のHSV-tv RNAを接合することを確認した(図14参照)。
【0053】
また、肝内多発性肝癌腫マウスモデルにPRTとガンシクロビルを併用投与した後、肝蔵を抽出して観察した結果、腫瘍結節がほとんど観察されなかった(図15参照)。H&E染色を通じて腫瘍が観察されない、または、稀に肝癌腫結節が観察される組織所見を示した(図16参照)。そして、PRT投与により、肝癌腫の重さが対照群(Mock)に対して有意に減少した(図17参照)。このような結果から、本発明の組換えウイルスが生体内肝癌組織の死滅を効果的に誘導し、抗癌用薬学的に有用であるということがわかる。
【0054】
このように本発明の組換えアデノウイルスはヒト癌細胞に効率的に形質導入されて発現することによって、癌特異的遺伝子を治療遺伝子に修飾し、遺伝子発現を誘導する。その結果、癌細胞に対してのみ選択的に細胞死を誘発することができる。
【0055】
したがって、本発明では、上記組換えアデノウイルスを有効成分として含む抗癌用薬学的組成物を提供する。
【0056】
本発明の抗癌用薬学的組成物は、投与のために、上記した有効成分に加えて、薬剤学的に許容可能な担体を1種以上さらに含み、薬学的組成物として好適に製剤化することができる。
【0057】
本発明の組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常使用されるものであればよく、液相として製剤化される組成物において許容可能な薬剤学的担体には、滅菌及び生体に適合するものとして、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの混合物を使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤として製剤化でき、標的器官に特異的に作用できるように標的器官特異的抗体またはその他リガンドを上記担体と結合させて使用することができる。
【0058】
本発明の組成物に含まれる組換えアデノウイルスは、多様な腫瘍細胞に対して抗腫瘍効能を示すので、本発明の薬学的組成物は、腫瘍と関連した様々な疾病または疾患、例えば、脳癌、胃癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、肝癌、気管支癌、鼻咽喉癌、喉頭癌、食道癌、膵臓癌、膀胱癌、前立腺癌、大腸癌、結腸癌、骨癌、皮膚癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、尿管癌及び子宮頸部癌などの治療に用いられることができる。
【0059】
本発明の薬学的組成物は非経口投与が好ましく、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、筋肉内投与、皮下投与、または局部投与を用いて投与できるが、これに限定されることはない。例えば、卵巣癌において腹腔内に投与する場合及び肝癌において門脈に投与する場合には、注入方法で投与すればよく、乳癌及び頭頸部癌の場合には腫瘤に直接注射して投与でき、結腸癌の場合はかん腸に直接注射して投与でき、膀胱癌の場合はカテーテル内に直接注射して投与できる。
【0060】
本発明の抗癌用薬学的組成物の投与量は、疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含まれた有効成分及び他の成分の種類及び含量、剤形の種類及び患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、同時に使用される薬物をはじめとする様々な因子によって調節することができる。しかし、好ましい効果のために、本発明の薬学的組成物は、通常、1×105〜1×1015PFU/mlの組換えアデノウイルスを含み、通常、1×1010PFUを2日に一回ずつ5日間注射する。
【0061】
本発明の薬学的組成物は単独で、または外科的手術療法などの補助治療方法と並行して使用することができる。本発明の組成物と一緒に使用できる化学療法剤(chemotherapeutic agent)は、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、プロカルバジン(procarbazine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ブスルファン(busulfan)、ニトロソウレア(nitrosourea)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン(mitomycin)、エトポシド(etoposide)、タモキシフェン(tamoxifen)、タキソール(taxol)、トランスプラチナ(transplatinum)、5−フルオロウラシル(5-fluorouracil)、ビンクリスチン(vincristin)、ビンブラスチン(vinblastin)及びメトトレキサート(methotrexate)などを含む。
【0062】
本発明の組成物と共に利用できる放射療法は、X線照射及びγ線照射などがある。好ましくは、ガンシクロビル(ganciclovir)と併用して使用する。
【0063】
なお、本発明の組換えアデノウイルスはヒト癌細胞に効率的に形質導入されて発現することによって癌特異的遺伝子にレポーター遺伝子を接合させ、癌細胞のみを選択的に診断することができる。
【0064】
したがって、本発明では、上記組換えアデノウイルスを有効成分として含む癌診断用組成物を提供する。
【0065】
また、本発明は、S1)上記組換えアデノウイルスを癌細胞に導入する段階と、S2)癌細胞からレポータータンパク質を検出する段階と、を含む癌の映像化方法を提供する。
【0066】
本発明の組換えアデノウイルスは、宿主細胞がレポータータンパク質を発現するようにするから、本発明の組換えアデノウイルスの導入された癌細胞は、レポータータンパク質を発現することができ、このようなレポータータンパク質の検出は、上述した当業者に公知の方法を用いることができる。
【0067】
本発明により診断できる癌または腫瘍は、特に制限されないが、好ましくは、胃癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、肝癌、気管支癌、鼻咽喉癌、喉頭癌、膵臓癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、子宮頸部癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、皮膚癌、甲状腺癌、副甲状腺癌または尿管癌があり、肝癌が最も好ましい。
【0068】
本発明の一実施例により、肝組織特異的PEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子のエンハンサー及びプロモーター;hTERT RNA特異的トランススプライシングリボザイムRib21ASとLacZ遺伝子を、E1及びE3遺伝子が除去された5型アデノウイルスに挿入し、Ad-PEPCK.Ribo-LacZ(配列番号2)を作製した。
【0069】
このようなAd-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)が注入された腹膜癌腫症マウスモデルにおいて、lacZが癌腫でのみ選択的に発現され、正常の肝表面では発現されていないのに対し、癌特異的遺伝子に作用するリボザイムを含有しない組換えウイルスAd-PEPCK-LacZ(PL)は、lacZの発現が正常肝だけでなく癌腫表面にも発現された(図8参照)。また、肝組織特異的なPEPCK遺伝子のプロモーターによりPL、PRLとも肝蔵でβ−ガラクトシダーゼ
活性を示したのに対し、PRLは、癌細胞特異的遺伝子に作用するリボザイムにより癌組織でのみβ−ガラクトシダーゼ活性を示した(図9参照)。この結果から、本発明の組換えアデノウイルスを生体内癌細胞診断に活用できるということがわかる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に上げてより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0071】
実施例1:組織特異的プロモーター、癌特異遺伝子に作用するリボザイム及び治療遺伝子またはレポーター遺伝子を含有する組換えアデノウイルスの作製 組織特異的プロモーター及び癌特異遺伝子に作用するリボザイムを含有する組換えアデノウイルス作製のために、リボザイムは公知技術を用いて作製した(Kwonら.,Mol. Ther. 12:824-834, 2005)。
【0072】
PEPCK遺伝子のエンハンサー及びプロモーターは公知文献に記載された方法により製造した(Kwon, B.S.ら, Specific regression of human cancer cells by ribozyme-mediated targeted replacement of tumor-specific transcript. Mol Ther 12, 824-834, 2005; Song, M.S.およびLee, S.W. Cancer-selective induction of cytotoxicity by tissue-specific expression of targeted trans-splicing ribozyme. FEBS Lett 580, 5033-5043, 2006)
【0073】
すなわち、hTERT RNAのU21部位を標的とするRib21ASリボザイムが作製した。このリボザイムは、拡張されたP1へリックスのような拡張された内部ガイド塩基配列(internal guide sequence; IGS)、6個のヌクレオチド長のP10へリックスと325ヌクレオチド長のhTERT RNAの下位部位に相補的な塩基を含んでいる。3'末端エクソン部位をコードするlacZまたはHSV-tk遺伝子のcDNA断片は、変形されたグループIイントロン発現構造物の下方の部位にNruI/XbaI切断酵素部分を通じて接合された。このリボザイム結果物は、pcDNAまたはpPEPCK-LCRにクローニングされ、再びpAdeno Vator-CMV5-IRES-GFPシャトルベクター(Qbiogene, Irvine, CA)にSpeI/BstBI切断酵素部位を通じてクローニングされた。最終組換えアデノウイルスベクターは、バクテリア内で細胞内相同組換え技術(homologous recombination technique)を用いて作製された。詳細には、上記のシャトルベクターは、PmeI切断酵素を用いて線形化され、E1/E3を除去したアデノウイルスタイプ5を鋳型とする誘導体(pAdeno Vator ΔE1/E3、Qbiogene)と一緒にBJ5183バクテリア細胞内にトランスフォームされた。BJ5183細胞内で相同組換えにより組換えされたベクターは再び分離され、PacI切断酵素で線形化された後、293細胞株にトランスフェクションされ、3回のプラーク精製によって分離された。最終産出物である組換えアデノウイルスは、Vivapure AdenoPACKTM100(Sartorius AG, Edgewood, NY)を用いて増幅、分離、濃縮され、TCID50の方法を用いて計数された。
【0074】
図2は、このように作製された組換えアデノウイルスベクターの遺伝子地図を示す。
【0075】
図2のように、外部遺伝子を含有していないアデノウイルスはMOCKと命名し、肝特異的PEPCKプロモーター、Rib21ASリボザイム及びHSV-tk遺伝子を含有する組換えアデノウイルスはAd-PEPCK.Ribo-TKまたはPRTと命名し、肝特異的PEPCKプロモーターの下にHSV-tk遺伝子を発現できる組換えアデノウイルスはAd-PEPCK-TKまたはPTと命名し、肝特異的PEPCKプロモーターとRib21ASリボザイム及びlacZ遺伝子を含む組換えアデノウイルスはAd-PEPCK.Ribo-LacZまたはPRLと命名し、肝特異的PEPCKプロモーターとβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有する組換えアデノウイルスはAd-PEPCK-LacZまたはPLと命名し、PEPCKプロモーターの代わりに、一般的に強力な発現を誘導するプロモーターとして知られるCMV(cytomegalovirus immediate early)プロモーターとRib21ASリボザイム及びHSV-tk遺伝子を含有する組換えアデノウイルスはAd-CMV.Ribo-TKまたはCRTと命名した。
【0076】
実施例2:細胞毒性実験 2-1. 細胞培養
【0077】
使われた細胞株は、ATCC(American Type Culture Collection)から調達されたもので、下記の通りである: SKOV3(ヒト由来卵巣癌細胞株)、HeLa(ヒト由来子宮頸部癌細胞株)、Hep3BとHepG2(ヒト由来肝癌細胞株)、IMR90(テロメラーゼのないヒト由来正常肺線維芽細胞)及びTHLE3(腫瘍性ではない正常肝細胞株)。
【0078】
これらの細胞株のうち、SKOV3とHeLaは、熱処理により非活性化されたウシ胎児血清(FBS; Jeil Biotech Services Inc., Seoul, Korea)10%、50U/mlのペニシリンG、50μg/ml濃度のストレプトマイシン(Sigma, St. Louis, MO)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium、DMEM)で培養した。HepG2、Hep3B、IMR90細胞株は、10%のFBSを含有するEMEM溶液で培養し、THLE3細胞株は、10%のFBS、6.5ng/mlのトリヨードチロミン(triiodothyromine)、50μg/ml濃度のゲンタマイシン及び50ng/ml濃度のアムホテリシンB(amphotericin-B)を含有する気管支/気管上皮細胞成長溶液(bronchial/tracheal epithelial cell growth medium, Cambrex, East Rutherford、NJ)に培養された。これらはいずれも、37℃、5%二酸化炭素の条件の培養器で培養されたのち実験に使用された。
【0079】
2-2. MTSアッセイ(MTS Assay)
【0080】
肝組織特異的PEPCKプロモーターとhTERTを標的とするリボザイムを含有する組換えアデノウイルスによる肝癌特異的抗癌効果の効能性と特異性検証のために、細胞株はAd-PEPCK.Ribo-TK、Ad-PEPCK-TKまたはMockに様々な感染多重度(MOI: multiplicities of infection)で感染させた後、100μMガンシクロビルで処置した。細胞の生存性はMTS方法で決定され、結果は、3回の反復実験の平均値±標準偏差とした。
【0081】
細胞毒性実験は、部分的な調整のみが加えられた、細胞増殖測定のための標準プロトコルを用いて行われた。具体的に、細胞は、5×103細胞数/ウェルとして96ウェル基板上にまき、37℃で一晩培養した。ここに、3ウェルを一つの単位として(同一に3回反復して)様々な感染多重度(MOI: multiplicities of infection)で上記で作製されたアデノウイルスに感染させた。
【0082】
感染1日後に100μMのガンシクロビル(ganciclovir: GCV, Cymevene, Roche, Basel, Switzerland)を添加し、5日間さらに培養した。その後、20μLの細胞計数溶液(CellTiter 96 Aqueous one solution reagent(MTS, Promega, Madison, WI))が含まれた100μLのOpti-MEMをウェルごとに添加した後、色変化比率に基づいて1〜4時間さらに培養した。
【0083】
細胞の生存性は、490nm波長における吸光度測定で推定された。GCV処理後の細胞生存可能性は、GCVを処理しない細胞で測定される吸光度に対する割合で算定し、Mockに感染された(Mock-infected)細胞で測定された割合を100%とし、残りのサンプルにおける生存性を再算定した。
【0084】
様々な濃度の組換えアデノウイルス処理後の細胞毒性を比較するために、hTERT+肝癌細胞株(Hep3B)、hTERT+の肝以外の他の組織の細胞株(SKOV3)、hTERT-非癌細胞株(THLE3)を含む様々な細胞株で実験を行った。その結果を図3に示す。
【0085】
図3を参照すると、(a)肝癌細胞株であるHep3BでMockに比べてAd-PEPCK.Ribo-TK及びAd-PEPCK-TKを感染させた細胞の死滅度合が非常に高く、特に、Ad-PEPCK.Ribo-TKが低いMOIでAd-PEPCK-TKよりも高い死滅程度を示し、一方、(b)Ad-PEPCK.Ribo-TKは、肝細胞株ではなく卵巣癌細胞株SKOV3で全種類の感染に対して細胞死滅を見せず、組織特異的であることを示唆している。また、(c)肝細胞株ではあるが腫瘍性でないTHLE3で、Ad-PEPCK-TKはMockに比べて細胞死滅を誘導するのに対し、Ad-PEPCK.Ribo-TKは細胞死滅を誘導せず、癌特異的効果を明確に示している。
【0086】
この結果から、(1)Ad-PEPCK-TKはhTERT発現によらずに肝細胞で毒性を誘発するが、Ad-PEPCK.Ribo-TKは、hTERT+肝癌細胞特異的に毒性を誘発するという点と、(2)肝癌細胞であるHep3B細胞毒性を測定した結果、Ad-PEPCK.Ribo-TKがAd-PEPCK-TKよりも効果的に肝癌細胞で毒性を誘発するという点がわかる。したがって、Ad-PEPCK.Ribo-TKがhTERTを発現させる肝癌細胞において選択的で且つ極めて効果的に自殺遺伝子の発現を誘導するということがわかる。
【0087】
実施例3:RNA分析 Mock、PL、PRT、CRTをHep3B、SKOV3及びIMR90細胞株に150MOIで感染させた後、リボザイムのトランススプライシング作用を確認するためにRNA分析を行った。
【0088】
具体的に、組換えアデノウイルスが処理された細胞またはマウス組織におけるリボザイムRNAのレベルを分析するために、20 Mm EDTAを含むトリゾール(Trizol(商品名), Invitrogen, Carlsbad, CA)溶液を用いて合計RNA 5μgを抽出し、10mM L−アルギニンアミドとオリゴ(dT)プライマーを用いて逆転写した。相補的DNAは、HSV-tk特異的プライマー(5'-GCGAACATCTACACCACACA-3'[配列番号8]と5'-AGTTAGCCTCCCCCATCTC-3'[配列番号9])またはITR(inverted terminal repeat)特異的プライマー(5'-GGAATTCTGGAGTTTGTGACGTGGCG-3'[配列番号10]と5'-GCTCTAGATGGCCAAATCTTACTCGGTTACGC-3'[配列番号11])を用いて増幅された。検証のために、GAPDH特異的プライマー(5'-TGACATCAAGAAGGTGGTGA-3'[配列番号12]と5'-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3'[配列番号13])を用いて相補的DNAを増幅した。
【0089】
細胞、マウス組織及び癌腫内におけるトランススプライシングRNA産物を確認するために、全体RNAでHSV-tk特異的プライマー(5'-CGGGATCCTCAGTTAGCCTCCCCCAT-3'[配列番号14])を用いて10mM L−アルギニンアミドの存在下で逆転写反応を行い、その結果を鋳型としてhTERT RNAの5'末端特異的な5'プライマー(5'-GGGGAATTCAGCGCTGCGTCCTGCT-3'[配列番号15])とHSV-tkの3'末端の塩基配列に特異的な3'プライマー(5'-GTTATCTGGGCGCTTGTCAA-3'[配列番号16])で相補的DNAを増幅した。この相補的DNAを鋳型として再びトランススプライシング結合部位特異的な5'プライマー(5'-GCTGCGTCCTGCTAAAAC-3'[配列番号17])とHSV-tkの塩基配列特異的なネスティド(nested)3'プライマー(5'-CAGTAGCGTGGGCATTTTCT-3'[配列番号18])を用いて増幅、クローニング及び塩基配列分析を実施した。
【0090】
重合酵素連鎖反応条件は下記の通りである: 95℃で30秒、55℃で40秒、72℃で1分を40回反復。
【0091】
試料混合時に標準曲線に対するコントロールとしてはGAPDHを使用した。cDNAの小さい変動を校正するために、hTERTの閾値レベルは、GAPDHの閾値レベルを通じて調整された。増幅に使われた機器は、実時間重合反応連鎖器のRoter-gene system(Corbett, San Francisco, CA)とした。
【0092】
図4は、Mock、PL、PRT、CRTにHep3B、SKOV3及びIMR90細胞株を感染させた後、リボザイムのトランススプライシング作用を確認するためにRNA分析した結果及びトランススプライシング分子(TSM)の塩基配列分析結果を示す図である。
【0093】
図4を参照すると、CRTに感染されたhTERT+Hep3BとSKOV3細胞ではトランススプライシング分子(TSM、trans-spliced molecules、174bp)が生成されたが、hTERT-IMR90細胞ではリボザイム(TKRNA)は生成されたもののTSMは生成されなかった。これに対し、PRTに感染された肝癌細胞株Hep3Bでリボザイムが選択的に発現され、これにより、ここでのみトランススプライシング分子(TSM)が生成された。また、Mockに感染されたHep3B細胞をCRTに感染されたIMR90細胞と混ぜてRNAを抽出したものからはTSMが検出されなかった。
【0094】
したがって、PRTに感染されたHep3B細胞のトランススプライシング分子(TSM)は、標的hTERT RNAの肝特異的トランススプライシング反応より生成されたという結論が得られた。また、トランススプライシング分子(TSM)の塩基配列分析結果、PRTが正確にhTERT RNAのU21部位を標的とし、その3'エクソンに接合したということが確認された。
【0095】
図5は、Mock、PL、PRT、CRTにHep3B、SKOV3及びIMR90細胞株を感染させた後、PRT組換えアデノウイルスDNAの分布を確認するためにPCR分析した結果を示す図である。
【0096】
図5を参
照すると、PRT組換えアデノウイルスのDNAは、SKOV3とIMR90の他に、Hep3Bでも発見された。これは、Hep3B細胞におけるリボザイムの選択的発現はPRTの特定細胞に対する恒常性のためではないということを示す。
【0097】
実施例4:癌異種移植を用いた生体内抗癌効果確認 4-1. 実験動物
【0098】
実験動物として4〜5週齢の雄BALB/cAnNCrIヌードマウス(オリエントバイオ、城南、韓国)を使用した。実験動物は、特定病原菌のない条件で飼育され、使用前に最小1週間実験室環境に馴化し、AAALACの国際動物保護政策に従う韓国食品医薬品安定庁の動物施設条件で飼育された(Accredited Unit-Korea Food and Drug Administration: Unit number-000996)。
【0099】
4-2. Hep3B細胞を用いた癌異種移植
【0100】
生体内でPEPCKプロモーターから生成されたリボザイムの発現効果を検証するために、hTERT+Hep3B細胞を無胸腺マウス(athymic mouse)の皮下組織内に注入して肝癌異種移植を行い、これにより成長する癌腫に直接PL、PRTまたはCRTウイルスを注入し、抗肝癌(anti-HCC; anti-hepatocellular carcinoma)効果を確認した。
【0101】
具体的に、マウスの皮下組織内に癌モデルを作るためにHep3B(2×107 cells)細胞を雄ヌードマウスの横腹に注射した。一般的に、注射して3週後に直径6〜9mm大きさ(140mm3)の癌塊が形成された。これらのマウスを無作為に、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)を用いた治療群(n=8)とAd-CMV.Ribo-TK(CRT)を用いた治療群(n=6)の2治療群に分け、さらにAd-PEPCK-LacZ(PL)を用いた対照群(n=5)を実験した。
【0102】
上記得られた腫瘍に1×109個体(pfu: plague forming unit)のウイルスが注射され、最初に注射して5日後に再度注射された。これらのマウスは、最初に注射して一日後から毎日50mg/kgガンシクロビル(GCV)処置を受け、これは10日間続けられた。腫瘍の成長は、2〜3日ごとに周期的に測径両脚器(caliper)を用いて測計し、腫瘍の体積は、下記の計算式で計算した: 最大長(maximal length)×垂直幅2(perpendicular width)/2
【0103】
図6は、癌異種移植を通じてPRT、CRT及びPL組換えアデノウイルスの抗肝癌効果を評価したグラフである。
【0104】
図6を参照すると、対照群PLが注入され、GCV処置されたHep3B癌腫の場合(PL/GCV)、持続して癌腫が成長し、ウイルス注入して20日後には直径2cmまでになった。これに対し、PRT/GCVまたはCRT/GCVで処理された場合、Hep3B癌腫は劇的に退化し、直径3mm以下まで減った(ANOVA統計分析結果はp<0.0001と極有意な差を示す)。
【0105】
特に、PRTまたはCRTに感染させたマウスのうちの3匹において完全な癌腫の死滅が観察された。上記実施例2の生体外細胞毒成分析結果から確認した通り、PRT/GCV及びCRT/GCVで処理された時は、癌腫の退化に統計的に留意な差がなかった(ANOVA結果、p=0.41)。
【0106】
4-3.HeLa細胞を用いた癌異種移植
【0107】
PRTウイルスの生体内組織特異性を確認するために、肝癌ではなくヒト子宮頸部癌HeLa細胞1×107個を雄ヌードマウスの横腹に注射した後、2週後に直径6〜9mm大きさの癌塊を作ったのちCRT、PRT、PL組換えアデノウイルス(それぞれn=5)を注入した。これらのマウスは、最初注射して一日後から毎日50mg/kgガンシクロビル(GCV)処置され、これは10日間続けられた。
【0108】
図7は、ヒト子宮頸部癌HeLa細胞を用いた癌異種移植実験において、CRT、PRT、PL組換えアデノウイルス注入20日後の癌腫の重量を示すグラフである。
【0109】
図7を参照すると、最初に組換えアデノウイルスを注入して20日後における癌腫の大きさは、CRT/GCV処置の結果によりコントロールに比べて約40%減ったが(ANOVA; p<0.05)、PRT/GCV処置グループでは子宮頸部癌の大きさに有意な変化が観察されなかった(ANOVA; p=0.7857)。
【0110】
このような結果は、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)によるHSV-tkの誘導が肝癌の異種移植でのみ癌成長の阻害を示し、肝癌阻害度の面においてAd-CMV.Ribo-TK(CRT)とほぼ同等の効能を示すということを示唆する。
【0111】
実施例5:腹膜癌腫症モデル(peritoneal carcinomatosis model)を用いた抗癌効果確認 5-1. Hep3B肝癌細胞株の腹膜癌腫症モデル作製
【0112】
Hep3B肝癌細胞株の腹膜癌腫症モデルを作るために2×107個のHep3B細胞を雄ヌードマウスの腹腔内に注射した。パイロット段階では、マウスが21日以内に腹膜癌腫症の徴候を示し、これは双眼立体顕微鏡(binocular stereomicroscope)を用いた代替的な検査で既に探知可能だった。
【0113】
導入遺伝子特異的発現有無を分析するために、100μmPBS中の1×109pfuのAd-PEPCK-LacZ(PL)またはAd-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)を、癌腫症が確立された後2日間隔で3回腹腔内に注射した。2日後にマウスを犠牲死させ、腹部の臓器と癌腫を全て切り離してPBSで洗浄した後に凍結して20μm厚のスライスに冷凍切片化し、免疫組織染色化学分析(immunohistochemical analysis)、H&E染色(Hematoxylin and Eosin staining)に用いたり、β−ガラクトシダーゼ(β‐galactosidase)分析に使用した。
【0114】
5-2. β−ガラクトシダーゼ(β‐galactosidase)アッセイ及び免疫細胞化学法
【0115】
腹腔内癌腫症のできたマウスにAd-PEPCK-LacZ(PL)またはAd-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)を最後に注入し、その2日後に、供給者の説明書にしたがってβ−ガラクトシダーゼ染色キット(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いたβ−ガラクトシダーゼ染色により定性的にhTERT-依存的導入遺伝子の発現を測定した。
【0116】
マウスが死んだ後、組織と癌腫を分離し、これを切片化した後、凍結保護用溶液(Sakura Finetek, Zoeterwoude, The Netherlands)内で凍結した。8μm厚の凍結された切片は、2%のパラホルムアルデヒドを含む100 mmol/lのPBS(pH7.4)で常温で10分間固定された。切片をPBSで2回洗浄した後、37℃で一晩β−ガラクトシダーゼ溶液で染色した。その後、H&Eで対比染色し、顕微鏡で観察した。
【0117】
一方、アデノウイルスの注入されたマウスから分離された組織(約100mgの重さ)を細胞溶解バッファー(lysis buffer, 200μm: 0.1M Tris-HCl, 2mM EDTA and 0.1% Triton X-100, pH7.8)で15分間常温保管し、13,000rpmで10分間4℃で遠心分離した。上澄み液は、1.5mlチューブに移され、400μmのONPG溶液(ο-nitrophenyl-β-D-galactopyranoside, 120mM Na2HPO4、80mM NaH2PO4、2mM Mg2SO4、100mM β‐mercaptoethanol, 4mg/ml ONPG, Sigma, St. Louis, MO)を添加した。これを37℃で30分間反応させた後、500μmの1M Na2CO3を入れて停止させ、紫外線分光器(UV spectrometer, Bio-Rad, Hercules, CA)で反応結果を測定した。
【0118】
上述したアデノウイルス処置されたマウスから得た癌腫内のテロメラーゼ発現を測定するために、ホルマリンで固定されてパラフィンに埋め込まれた癌腫組織に対して、再びアルコールでワックスを除去し水分を再び供給した後、DAKO EnVisionキット(Dako, Carpinteria, CA)を用いて免疫抗体反応を行った。内因性ペルオキシダーゼは、切片を3%水溶性過酸化水素に10分間浸して遮断した。抗原は、pH6.0の10mmol/lクエン酸バッファーに浸し、10分間電子レンジで処理して回収した。1:100に希釈されたhTERT 1次抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)と常温で1時間反応した後に2次抗体を有するペルオキシダーゼ−接合体であるDAKO EnVision試薬(Dako, Carpinteria, CA)を処置した後、スライドをヘマトキシリンで弱く対比染色した。
【0119】
図8の(a)は、腹膜癌腫症モデルでAd-PEPCK-LacZ(PL)とAd-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)組換えアデノウイルスによる選択的発現様相を確認するために、肝組織と癌組織をH&E染色した後の、40倍拡大した顕微鏡観察写真であり、(b)は、β−ガラクトシダーゼ発現後の、40倍拡大した顕微鏡観察写真である。
【0120】
図8を参照すると、PLの注入されたマウスの場合、lacZの発現が正常肝だけでなく癌腫表面にも発現することが観察された反面、PRLの場合は、lacZが癌腫でのみ選択的に発現し、正常肝表面では発現しなかった。この結果は、PRLを用いて生体内肝癌細胞診断に活用できるということを示唆する。
【0121】
図9は、PLとPRL組換えアデノウイルス腹膜癌腫症モデルの肝、胃及び小腸を含む正常組織と肝癌部位3箇所の組織粉砕物中のβ−ガラクトシダーゼ活性を分析した結果を示すグラフである。
【0122】
図9を参照すると、Ad-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)による癌細胞特異的lacZの発現を、β−ガラクトシダーゼ活成分析によっても観察することができた。PEPCKプロモーターによってAd-PEPCK-LacZ(PL)、Ad-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)アデノウイルスがいずれも肝蔵でのみ活性化を示したが、Ad-PEPCK-LacZ(PL)は、癌組織特異的リボザイム活性がないために癌組織の他に正常肝でも活性を示す反面、Ad-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)は、癌組織特異的hTERT RNA特異的リボザイムの特性により癌組織でのみ発現した。この結果は、Ad-PEPCK.Ribo-LacZが生体内で特異的で効果的に導入遺伝子の発現を誘導するということを意味する。
【0123】
5-3. 実時間PCRを用いたhTERT mRNA発現量分析
【0124】
特別なリボザイムをコードする組換えアデノウイルスによりどれくらい細胞内の標的RNA量が減少するかを確認するために、Ad-PEPCK.Ribo-LacZ(PRL)注入マウスの癌腫及びAd-PEPCK-LacZ(PL)注入マウスの癌腫内hTERT mRNAの量を実時間PCR反応を通じて測定した。
【0125】
具体的に、生体内でリボザイムにより阻害されるhTERT RNAの低下度合を調べるために、腹膜癌腫症モデルマウスに最後にPL、PRL組換えアデノウイルスして2日後に摘出した肝癌(hepatocarcinoma)から抽出した合計RNA2μmを鋳型とし、実時間PCRでhTERTの相補的DNAを増幅した。
【0126】
hTERTの増幅に使用されたプライマーは下記の通りである:(1)5'-CGGAAGAGTGTCTGGAGCAA-3'[配列番号19]及び、(2)5'-GGATGAAGCGGAGTCTGGA-3'[配列番号20]
【0127】
Taqポリマラーゼ(Takara, Otsu, Shiga, Japan)以外の全ての試薬は、サイバーグリーン核心試薬キット(SYBR-Green core reagent kit, Molecular Probes, Eugene, OR)から提供するものを使用した。
【0128】
重合酵素連鎖反応条件は下記の通りである: 95℃で30秒、55℃で40秒、72℃で1分を40回反復。
【0129】
試料混合時に標準曲線に対するコントロールとしてはGAPDHを使用した。cDNAの小さい変動を校正するために、hTERTの閾値レベルはGAPDHの閾値レベルを通じて調整した。増幅に使われた機器は、実時間重合反応連鎖器のRoter-gene system(Corbett, San Francisco, CA)とした。
【0130】
図10の(a)は、PLとPRL組換えアデノウイルスを注入した腹膜癌腫症モデルで癌組織のhTERT mRNA発現量を測定した結果であり、(b)は、anti-hTERTを用いた免疫化学的染色結果を示す写真である。
【0131】
図10を参照すると、PRLを注入した腹膜癌腫症モデルマウスでは、hTERT RNAが有意に(75%まで)減少したことが観察でき、同様に、hTERTタンパク質も有意に減少した。これは、トランススプライシングリボザイムにより治療遺伝子発現を誘導すると同時に標的分子の減少も誘発することによって治療効果が倍加されるということを示唆する。
【0132】
また、RACE RT-PCR分析によると、PRL注入マウスの肝癌で生成されたトランススプライシング産物はいずれもhTERT RNAのターゲット反応により作られたものであった。これは、トランススプライシングリボザイムが生体内で非常にターゲット特異的に作動するということを示す。
【0133】
実施例6:正常マウスでAd-PEPCK.Ribo-TKの肝毒性確認 Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)による特異的な抗腫瘍効果を確認する前に正常マウスにAd-PEPCK-LacZ(PL)、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)、Ad-PEPCK-TK(PT)を静脈注射し、肝毒性を調べた。
【0134】
具体的に、雄のBALB/cマウスの尾静脈を通じて2.5×x1010のAd-PEPCK-LacZ(P
L)(n=15)、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)(n=15)、Ad-PEPCK-TK(PT)(n=15)アデノウイルス粒子を100μmのバッファーに入れて注射した後、10日間一日に2回ずつ50mgウイルス粒子/kgのガンシクロビル(GCV)を投与した。GCV投与後に5匹ずつ2日、7日、14日目にマウス心臓から採血して肝酵素(血清AST及びALT)を測定し、犠牲死させた後に肝組織を離して組織検査を行った。
【0135】
図11の(a)は、正常マウスにAd-PEPCK-LacZ(PL)、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)、Ad-PEPCK-TK(PT)を注入した後、ガンシクロビル投与2日、7日、14日目に肝組織をパラフィン包埋及びH&E染色したのち200倍拡大した顕微鏡写真であり、(b)は、肝酵素であるAST、ALT数値を示すグラフである。
【0136】
図11を参照すると、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)を注射した場合、Ad-PEPCK-LacZ(PL)を注射した時と略同様に、14日まで肝組織と肝酵素数値に変化がなかった。これは、正常マウス肝組織には標的hTERT RNAがないから、PRTによるHSV-tk活性化が無いということを示す。反面、Ad-PEPCK-TK(PT)を注射した場合、2日目からの肝細胞変性、そして7日目に増加した肝細胞死及び激しい炎症所見を認め、これは14日目まで続いて観察された(図11の(a))。Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)を注射した時、肝酵素数値はAd-PEPCK-LacZ(PL)注射した時と類似であり、正常数値(AST; 130〜150IU/L, ALT;30〜40IU/L)に近似したが、Ad-PEPCK-TK(PT)を注射した時は、7日目から顕著な肝酵素数値の増加を見せた(図11の(b))。
【0137】
この結果は、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)を2.5×1010ウイルス粒子として全身投与しても標的分子のない正常肝組織にいかなる毒性も誘発しないという点、すなわち安全性を示す。
【0138】
実施例7:Ad-PEPCK.Ribo-TKとGCVの体系的伝達を通じた腹腔内癌腫症の効果的治癒 7-1. 腹腔内癌腫症に対する抗癌効果確認
【0139】
抗癌効果を確認するために、Hep3Bの腹腔内注射により2.5週後に腹腔内癌ができたマウスを無作為に、(1)Ad-PEPCK-LacZ、(2)Ad-PEPCK.Ribo-TK、そして(3)Ad-CMV.Ribo-TKの3つのグループに分けた(それぞれのグループには10匹のマウスが含まれる)。その後、腹腔内注射でそれぞれ2.5×1010v.pのアデノウイルスを2日間隔で3回注入し、最初のウイルス注入から10日間、50mg/kgのガンシクロビル(GCV)を処置した。ウイルス処理して2.5週後(Hep3B注入して5週後)に、腹腔内に形成された癌塊を集めて写真を撮影し、それぞれのマウスの癌塊全体の質量を測定した。
【0140】
アデノウイルスが注入される前に、腹腔内癌腫が形成されたマウスを解剖して腹腔内の癌腫の程度を確認した。Hep3B細胞のマウス内注入は、再現性があり(90%)、散布された形態の小腸間膜、肝門及び横隔膜表面などに腹腔内癌腫発生を誘導した。アデノウイルス及びガンシクロビル(GCV)で処置されたマウス群を、最後にGCV注射して1週後に解剖し、癌腫の成長を調べた。
【0141】
統計分析は、SAS(Statistical Analysis System, SAS Institute, Cary, NC)を用いて行った。グループ間の差はANOVAを通じて検証された。測定値が偏りすぎた分布を示す場合や標本数が小さい場合は、ノンパラメトリック統計検証(全体比較の場合はKruskal-Wallistest、ペアを組んで検証する場合はWilcoxon rank-sum testを使用する)が行われた。全てのデータは、平均±標準偏差で表示し、p値が0.05よりも小さい場合、統計的に有意なものと見なした。
【0142】
図12の(a)は、Hep3B細胞株を注入して腹腔内癌が生成されたマウスにPL、PRT、CRTを投与した後、2.5週後に腹腔内の姿を撮影した写真であり、(b)は、肝組織及び癌腫を抽出して撮影した写真である。
【0143】
図12を参照すると、PL/GCVで処置された対照群のマウス群に比べて、PRT/GCVまたはCRT/GCVで処置されたマウス群では癌腫の数と大きさが大幅に縮小された。PRTまたはCRTで処置されたマウスの肝蔵では癌腫が全く残っていないか、極めて小さい腫瘍しか発見されなかったが、PLでのみ処置された対照群マウスの肝蔵では大きな癌腫が見出された。
【0144】
図13は、Hep3B細胞株を注入して2.5週後に肝癌腫の重さ、PL、PRT、CRTを投与し、その2.5週後における肝癌腫の重さをグラフで示すものである(各群別に10匹のマウスを処置、癌腫重さの平均を標準偏差と一緒に表示)
【0145】
図13を参照すると、平均的な腫瘍の質量は、2.5週の処置前グループで0.53±0.41g、PL/GCV群で8.26±0.97g、PRT/GCV群で3.52±0.99g、CRT/GCV群で2.36±0.39gだった。また、hTERTを標的とするリボザイムを含有するアデノウイルス(Ad-PEPCK.Ribo-TK, PRT)で処置されたマウス群では、対照群アデノウイルス(Ad-PEPCK-LacZ, PL)で処置されたマウス群に比べて有意に癌の発生が抑制された(P<0.001)。PRT(Ad-PEPCK.Ribo-TK)は、CRT(Ad-CMV.Ribo-TK)と類似のレベルにマウスモデルで癌の成長を抑制することが証明された(P=0.1496)。
【0146】
7-2. RNA分析
【0147】
腹腔内癌腫が形成されたPL、PRT投与マウスの肝癌腫及び正常肝組織に対してリボザイムのトランススプライシング作用を確認するために、上記実施例3と同じ方法でRNA分析を行った。
【0148】
図14の(a)は、正常肝(L)、個別肝癌腫(T)内に注入されたPL、PRTアデノウイルスのRNA発現パターンを示す図であり、(b)は、PRTが注入されたマウスで形成されたトランススプライシング分子(TSM)の塩基配列分析結果を示す図である。
【0149】
図14の(a)を参照すると、腹腔内癌腫マウスモデルの肝癌においてアデノウイルスによる自殺遺伝子の発現が、肝癌においてhTERT RNAに対する特異的で非常に正確なトランススプライシング反応によるものかを調べた結果、PRT注入マウスの場合、癌腫と正常肝でTKリボザイムは同一に発現されるのに対し、トランススプライシング分子(TSM)は単に癌腫でのみ生産された。これは、アデノウイルスの全身的な伝達がhTERTに制限されたトランススプライシング反応を通じて生体内で腫瘍を特異的に標的化するということを意味する。また、PRT投与の結果、個別癌腫間においてTSMの量的な差は有意でなかった。図14の(b)を参照すると、PRTを投与したマウスに形成されたトランススプライシング分子(TSM)塩基配列分析の結果、PRTは、標的としたhTERT部位で正確にHSV-tk RNAをターゲットし接合することが確認された。
【0150】
要約すれば、癌組織特異的プロモーターと標的遺伝子特異的リボザイムを有するアデノウイルス(Ad-PEPCK.Ribo-TK)は、特異的なトランススプライシング反応を通じて標的組織特異的でありながら高い抗癌効果を示し、これは、上記の生体内・外の研究から立証された。
【0151】
実施例8:Ad-PEPCK.Ribo-TKとGCVの体系的伝達を通じた肝内多発性肝癌腫の効果的治癒 さらに、肝内多発性肝癌腫モデルを構築し、より人体肝癌と類似なモデルにおける抗癌効果を確認する目的として下記の実験を行った。
【0152】
4〜5週齢の雄BALB /cAnNCrIヌードマウスをエーテルで麻酔した後、左側皮膚を肋骨の末尾部位で切開して脾臓を露出させた後、2×106個のHep3B細胞を100μmのバッファーに入れて脾臓カプセルの下に注射し、出血が止まるまで押さえたのち皮膚を縫合した。2.5週後に肝内多発的に肝癌腫が生成されたマウスを無作為に、(1)MOCK、(2)Ad-PEPCK.Ribo-TKの2グループに分けた(それぞれのグループには10匹のマウスが含まれる)。それぞれ、2.5×1010v.pのアデノウイルスを尾静脈に注射し、ウイルス注入後10日間、50mg/kgのガンシクロビル(GCV)を1日2回腹腔内に投与した。ウイルス処理して2.5週後(Hep3B注入して総5週後)に腹膜を開けて肝組織を全て切り離し、その重さを測定した。
【0153】
図15は、肝内多発性肝癌腫マウスモデルにMock、PRTアデノウイルス注射して10日後に肝蔵を取り出して撮影した写真である。
【0154】
図15を参照すると、Mockを注射した群では、肝蔵の表面で灰白色の様々な大きさの腫瘍結節が観察されたが、PRT注射群では腫瘍結節がほとんど観察されなかった。
【0155】
肉眼撮影後に肝組織を2〜3mm間隔で全て切って10%中性ホルマリン溶液に固定した後、組織処理を経てパラフィンブロックを作製した。パラフィンブロックを4〜6um厚に薄切した後、ヘマトキシリン−エオシン(hematoxylin-eosin、H&E)染色をした後、光学顕微鏡下で組織写真撮影(1:1)を行った。その後、全体肝組織と腫瘍結節の面積を面積計で測定し、腫瘍のパーセンテージを算出した。腫瘍の重さは、肝蔵重さ×肝蔵における腫瘍の面積パーセンテージにより反定量的に算出した。
【0156】
図16は、肝内多発性肝癌腫マウスモデルにMock、PRT投与後、肝組織パラフィンブロックのH&E染色後に光学顕微鏡で観察した映像である。
【0157】
図16を参照すると、Mock投与群では明確で多い様々な大きさの肝癌腫結節が観察できたが、PRT(Ad-PEPCK.Ribo-TK)投与群では、4匹は腫瘍が観察されず、また残り6匹では稀に肝癌腫結節が観察された。
【0158】
図17は、肝内多発性肝癌腫マウスモデルにMock、PRT投与後に腫瘍の重さを算出して示すグラフである。
【0159】
図17を参照すると、肝内生成された肝癌腫の重さは、Mock注射群は平均387.29mg、PRT注射群は平均28.89mgであって、両群の差は統計的にも有意だった(p=0.0001、Kruskal-Wallis test)。すなわち、Ad-PEPCK.Ribo-TK(PRT)投与により非常に効果的に生体内で肝癌組織の死滅を誘導できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の組換えアデノウイルスは、抗癌剤または癌診断剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)組織特異的プロモーターと、 (2)前記プロモーターと作動可能に連結された癌特異遺伝子に作用するトランススプライシングリボザイムと、 (3)前記リボザイムの3'エクソンに連結された治療遺伝子またはレポーター遺伝子と、を含む組換えアデノウイルス。
【請求項2】
前記組織特異的プロモーターは、PEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子プロモーター、アポリポプロテインE(apolipoprotein E)遺伝子プロモーター、血清アルブミン遺伝子プロモーター、AFP(alphafetoprotein)遺伝子プロモーター、CEA(carcinoembryonic antigen)遺伝子プロモーター、またはPSA(Prostate-specific antigen)遺伝子プロモーターである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項3】
組織特異的遺伝子のエンハンサーをさらに含む、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項4】
前記組織特異的遺伝子のエンハンサーは、PEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子エンハンサー、アポリポプロテインE(apolipoprotein E)遺伝子エンハンサー、血清アルブミン遺伝子エンハンサー、AFP(alphafetoprotein)遺伝子エンハンサー、CEA(carcinoembryonic antigen)遺伝子エンハンサー、またはPSA(Prostate-specific antigen)遺伝子エンハンサーである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項5】
前記癌特異遺伝子は、hTERT(human Telomerase Reverse Transcriptase)mRNA、AFP(alphafetoprotein)mRNA、CEA(carcinoembryonic antigen)mRNA、PSA(Prostate-specific antigen)mRNA、またはCKAP2(Cytoskeleton-associated protein 2)mRNAである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項6】
前記リボザイムは、hTERT(human Telomerase Reverse Transcriptase)mRNAを特異的に標的するトランススプライシンググループIリボザイムである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項7】
前記治療遺伝子は、薬剤感受性遺伝子、細胞死滅遺伝子、細胞増殖抑制遺伝子、細胞毒性遺伝子、腫瘍抑制因子遺伝子、抗原性遺伝子、サイトカイン遺伝子及び抗新生血管生成遺伝子よりなる群から選ばれる1種である、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項8】
前記レポーター遺伝子は、LacZ、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT: chloramphenicol acetyl transferase)、レニラルシフェラー
ゼ(Renila luciferase)、ホタル(firefly)ルシフェラーゼ、赤色蛍光タンパク質(RFP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、分泌型胎盤アルカリホスファターゼ(secreted placental alkaline phosphatase, SEAP)、またはHSV-tk(Herpes simplex virus-thymidine kinase)をコードする遺伝子である、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項9】
前記組換えアデノウイルスは、配列番号1または配列番号2で示される塩基配列を有する、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項10】
前記組織特異的プロモーターは、配列番号3で示される塩基配列を有するPEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子のプロモーターである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項11】
前記組織特異的遺伝子のエンハンサーは、配列番号4で示される塩基配列を有するPEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)遺伝子のエンハンサーである、請求項3に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項12】
前記リボザイムは、配列番号5で示される塩基配列を有するhTERT(human Telomerase Reverse Transcriptase)mRNAを特異的に標的するトランススプライシンググループIリボザイムである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項13】
前記治療遺伝子は、配列番号6で示される塩基配列を有するHSV-tk(Herpessimplexvirus-thymidine kinase)遺伝子である、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項14】
前記レポーター遺伝子は、配列番号7で示される塩基配列を有するLacZである、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項15】
E1及びE3遺伝子の除去されたアデノウイルスに挿入して作製された、請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組換えアデノウイルスを有効成分として含む抗癌用薬学組成物。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組換えアデノウイルスを有効成分として含む癌診断用組成物。
【請求項18】
S1)請求項1〜15のいずれか1項に記載の組換えアデノウイルスを癌細胞に導入する段階と、 S2)癌細胞からレポータータンパク質を検出する段階と、を含む癌の映像化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−539923(P2010−539923A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526826(P2010−526826)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005030
【国際公開番号】WO2010/024483
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(509329741)インダストリ−アカデミック コーポレーション ファンデーション, ダンクック ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】