説明

組織病変部の診断または治療のための溶液

【課題】泌尿器学の分野における、癌性病変部の診断および/または治療のための組成物の提供。
【解決手段】診断時には、プロトポルフィリンIX(PpIX)から放射された蛍光の検知が次いで行われる、光エネルギ源から放射された放射線の局部的照射による、組織病変部および/または細胞病変部の診断および/または治療に使用できる調剤薬を調製するための、5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)溶液に関する。上記溶液中のE−ALAの濃度Cは、1%よりも低く、0.01%〜0.5%の範囲にある。溶液中のE−ALAのこの極めて低い濃度によって、PpIXの合成は促進され、細胞層内のその分布は均一化され、同時に、治療対象細胞に対する溶液の2次毒性は著しく減少される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断時には、5−アミノレブリン酸(ALA)または5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)を前駆体とする物質、特に、プロトポルフィリンIX(PpIX)から放射された蛍光の検知が次いで行われる、光エネルギ源から放射された放射線の局部的照射による、組織病変部および/または細胞病変部の診断および/または治療に使用できる調剤薬を調製するための、E−ALA溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
病変部、特に、癌性病変部の診断および/または治療を行うために、ALAまたはALAエステル(E−ALA)、および特にALAヘキシルエステル(h−ALA)のヒドロクロリドを前駆体とする化合物を使用する原理は、既に知られている。この原理は、国際公開第96/28412号として公開された特許出願に詳述されている。
【0003】
溶液の投与は、経口で、または腸管外で、例えば、皮内注射、皮下注射、腹腔内注射または静脈注射によって行うことができる。上記投与は、更に、E−ALA溶液またはALA溶液に、治療するべき器官の表面を暴露して、局所的に行うことができる。また、局所投与の実施のために、この種の溶液を含浸したタンポンを使用することができる。
上記公報に記載のALAエステル(E−ALA)溶液の濃度は、1〜50%.好ましくは、15〜30%の範囲にある。しかしながら、この濃度の場合、基本的に、この種の治療に関連するある種の器官、特に膀胱に、PpIXは本質的に生成されない。
ジャーナル・オブ・フォトケミストリー・アンド・フォトバイオロジー・ビー・バイオロジー(JOURNAL OF PHOTOCHEMISTRY AND PHOTOBIOLOGY B.BIOLOGY)に発表された論文、即ち、フィンク・パツチエス(Fink−Puches)ら、「局所投与の5−アミノレブリン酸および各種波長帯域光の照射によって治療した日焼け角質化繊維層の初期臨床応答および長期間追跡」、チャン(Chang)ら、「5−アミノレブリン酸の膀胱内投与に起因するプロトポルフィリンIXの細胞内増加に対する鉄キレート(CP94)の効果:イン・ビボ実験」ならびにヌーベル(NOUVELL)30ESダーマトロジクス(DERMATOLOGIQUES)のトーマス(Thomas)の論文「強力な局所光治療」において、治療に使用された生成物は、ALAであり、ALAエステルではなく、従って、濃度レベルが著しく異なる。実際、使用されたALAの濃度は、ALAエステル(E−ALA)溶液の場合に必要な濃度の少なくとも45〜60倍である。
同様に高濃度の上記物質の投与は、ある場合には、ヒトの組織に有毒である。この毒性は、照射光が存在しない場合も存在し、プロトポルフィリンIX(PpIX)の生成を著しく制限することになる。従って、このような濃度は、ある場合には、利用できないか、もしくは病変部の検診および/または治療の実現に最適ではない。
更に、医薬溶液によって誘導された作用成分を賦活するのに必要な時間は、遊離した、即ちエステル化されてない5−アミノレブリン酸を使用した場合、極めて長い。医療媒質中の遊離ALAによっては、診断および治療を行うことはできない。なぜならば、上記診断および治療のためには、患者の長時間(約5時間)の固定が必要であるからである。
医療費の削減、および在宅治療の発展の一般的傾向の枠内において、昼間のいわゆる個人診療所または病院の実際に知られている足取りは、重く、患者にとって拘束的であり、医療保険およびコミュニティに高い経費を負担させる。
ある種の疾病を早期に診断し有効に治療するためにALAまたはE−ALAの投与を確立する技術的進歩にも拘わらず、この方法の普及は、上記の重大な欠点にもとづき遅い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、特に、泌尿器学の分野における、癌性病変部の診断および/または治療のための溶液を調製することによって、上記欠点を排除することであり、該溶液は、作用化合物の生合成を妨害しない濃度で、そして、外来でないにしても、日中の病院、即ち診療所での治療を可能にするために十分ながらも比較的短い時間で投与されるときでも大きい効果を示す濃度で投与される。
上記溶液は、特に、最短時間でPpIXを有効に蓄積でき、治療対象組織全体にわたり上記PpIXを極めて良好に分布できなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、溶液中の5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)の濃度Cが、1%よりも低く、0.01%〜0.5%の範囲(0.01%≦C≦0.5%)にあることを特徴とする、請求項の前段に定義されるE−ALA溶液によって、解決される。
実際、極めて低い濃度のE−ALAを使用することによって、PpIXの合成が促進され、細胞層内の分布が均一化され、同時に、治療対象細胞に対する溶液の2次毒性が著しく減少されるということが判明している。これは、強力な光線治療による腫瘍の治療時、PpIXの濃度を減少する急速なフォトブリーチングにもとづき、上記腫瘍の完全な崩壊が、PpIXの細胞内での多量の初期堆積および腫瘍層内の良好な分布を示唆するだけに、いっそう重要である。
より良い結果を与えるALAエステル(E−ALA)が、ALAヘキシルエステル(h−ALA)のヒドロクロリドであれば、特に有利である。
ヒトまたは動物に適合する溶媒にALAエステル(E−ALA)を溶解することによって、溶液を調製するのが好ましい。
上記溶媒は、殺菌濾過した水、生理的食塩水、リン酸塩緩衝液、アルコールの1つから選択するのが有利である。
好ましい実施例によると、溶液は、pHを4.8〜8.1の範囲の生理学的数値に調整するための成分を含む。
有利な実施例によると、溶液は、生体細胞内の鉄の錯体化によるヘムへのPpIXの変換を阻止するための補完物質を含むことができる。
上記補完物質は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、デフェロックスアミンまたはデスフェラールであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、本発明に係る溶液の好ましい実施例、およびその変更例についての以下の説明、およびヒトまたは動物の腔(例えば、膀胱)内の病変部の診断および/または治療のための、上記溶液の特に有利な適用についての説明から、より良く理解できるであろう。
5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)溶液は、例えば、非晶質粉体の状態または結晶の形の上記物質を、イン・ビボでの使用に適合する適切な溶媒に溶解することによって調製する。例えば、上記溶液は、殺菌した脱塩水、約9%のNaClを含む生理的食塩水、リン酸緩衝液、アルコール、またはアルコールなどを含む溶液であってよい。
上記溶液は、用途および基本的に目的の治療対象器官に依存する、いわゆる、生理学的数値のpHに調整するのが好ましい。このpH値は、通常、4.8〜8.1の範囲にある。膀胱内の治療の場合は、5.3〜7.4の範囲のpHが好ましい。
上記溶液を完成するため、生体細胞内の鉄の錯体化によるヘムへのPpIXの変換を阻止するための補完物質を添加する。この補完物質は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、デフェロックスアミンまたはデスフェラールであってよい。
極めて興味深い用途の1つは、泌尿器科の分野、特に、膀胱内壁の癌性病変部の診断および治療である。
適用の態様にもとづき、溶液の投与は、器官の内壁と接触するよう局所的であってよい。低濃度、即ち、0.01%〜0.5%の範囲の、好ましくは0.2%の濃度C(単位:重量%)の、ALAエステル(E−ALA)溶液またはALAヘキシルエステル(h−ALA)溶液約50mlを膀胱に充填する。
点滴注入の時間は、1/2時間〜7時間の範囲、好ましくは、1/2時間〜4時間の範囲であるとよい。
驚くべきことには、この分野で実際に使用される15〜30%の濃度とは著しく異なる上記の低濃度において、ALAエステル(E−ALA)は、膀胱内壁の病変部に出現する蛍光性プロトポルフィリンIX(PpIX)の増加および細胞層内の上記プロトポルフィリンの分布の向上によって示される如く、より大きい効果を有するということが確認された。
更に、上記の低濃度にもとづき、細胞毒性が減少し、従って、望ましくない副作用の危険性が著しく減少する。とりわけ、上記細胞毒性の減少にもとづき、E−ALAまたは遊離ALAを前駆体とする光感性物質および/または蛍光物質の発生が促進される。更に、PpIXのこの最大の生成にもとづき、作用溶液の投与間隔を短縮できる。
投与の態様のバリエーションは、「分割局所法」なる名称で定義できる。この方法は、例えば、下記工程を含む。
・膀胱の1/2時間〜3時間(好ましくは、おおよそ2時間)の期間の第1点滴注入。
・膀胱の洗浄。
・1/2時間〜3時間(好ましくは、おおよそ2時間)の期間の第2点滴注入。
・膀胱の洗浄。
0〜4時間の範囲(好ましくは、おおよそ2時間)の待機後、膀胱の蛍光による検診および/または治療を行うことができる。
ALAエステル(E−ALA)溶液またはALAヘキシルエステル(h−ALA)溶液の局所適用の代わりに、全身投与を行うこともできる。この場合、組織および/または細胞を介する、作用物質、すなわち本事例ではALAエステル(E−ALA)またはALAヘキシルエステル(h−ALA)の吸収および/または移動を促進するための、キャリヤと呼ばれる成分(例えば、ジメチルスルホキシド、グリセリンなど)と、場合によっては組合せて、溶液を、経口でまたは腸管外で投与する。
更に、ALAエステル(E−ALA)またはALAヘキシルエステル(h−ALA)の組織または細胞への貫入を活性化させる手段は、目的の器官の壁部のイオン導入を行うことからなる。
この段階の後に、光線治療および/または蛍光治療の1つまたは複数の段階が行われる。
光線治療の場合、好ましくは、300〜900nm(好ましくは、350〜650nm)のスペクトル範囲にある連続的または順次的な単色または多色の、励起光と呼ばれる放射光によって、目的の器官(例えば、膀胱)の壁部を照射する。
この光線治療を実施する場合、膀胱壁部に照射される照度E、即ち、単位面積当りの光出力は、0.1mW/cm2〜1W/cm2(好ましくは、5mW/cm2〜500mW/cm2)の範囲にある。この光は、組織における、特にプロトポルフィリンIX(PpIX)および/またはその光反応生成物の存在に起因する、光毒性反応を誘起する。照明線量は、器官のすべての壁部に均一に、または病変部を含むと特定された部位にのみ集中的に照射できる。
蛍光診断の場合、300〜700nm(好ましくは、350〜650nm)のスペクトル幅を有する放射光によって、膀胱壁部を照射する。上記の蛍光検診の場合、膀胱壁部に照射される照度E(単位面積当りの光出力)は、1mW/cm2〜1W/cm2(好ましくは、50mW/cm2〜500mW/cm2)の範囲にある。この励起光は、E−ALA、特にh−ALAを前駆体とする物質、特に、PpIXの蛍光を誘起する。この蛍光は、光学系によって集光され、眼によって、または点状、線状もしくはマトリックス状の検知器(例えば、カメラ)によって検知される。
低濃度ALAエステル溶液を使用すれば、上述の利点以外に、光線治療または光検出に用いる低コストの製品量、低い製造コスト、および簡単な生薬を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第96/28412号パンフレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断時には、5−アミノレブリン酸(ALA)または5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)を前駆体とするプロトポルフィリンIX(PpIX)から放射された蛍光の検知が次いで行われる、光エネルギ源から放射された放射線の局部的照射による、組織病変部および/または細胞病変部の診断および/または治療に使用できる調剤薬を調製するための、E−ALA溶液であって、溶液中のALAエステル(E−ALA)の濃度Cが、1%よりも低く、0.01%〜0.5%の範囲にあり、即ち、0.01%≦C≦0.5%であることを特徴とする溶液。
【請求項2】
ALAエステル(E−ALA)が、ALAヘキシルエステル(h−ALA)であることを特徴とする、請求項1記載の溶液。
【請求項3】
ヒトまたは動物に適合する溶媒に、ALAエステルを溶解することによって調製したことを特徴とする、請求項1記載の溶液。
【請求項4】
殺菌濾過した水、生理的食塩水、リン酸塩緩衝液、アルコールの1つから、上記溶媒を選択したことを特徴とする、請求項3記載の溶液。
【請求項5】
pHを、4.8〜8.1の範囲の生理学的数値、即ち、4.8<pH<8.1に調整するための成分を含むことを特徴とする、請求項3記載の溶液。
【請求項6】
生体細胞内の鉄の錯体化によるヘムへのPpIXの変換を阻止するための補完物質を含むことを特徴とする、請求項1記載の溶液。
【請求項7】
上記補完物質がEDTA(エチレンジアミン四酢酸)であることを特徴とする、請求項6記載の溶液。
【請求項8】
上記補完物質がデフェロックスアミンであることを特徴とする、請求項6記載の溶液。
【請求項9】
上記補完物質がデスフェラールであることを特徴とする、請求項6記載の溶液。

【公開番号】特開2010−163445(P2010−163445A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51284(P2010−51284)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【分割の表示】特願2000−544365(P2000−544365)の分割
【原出願日】平成11年4月22日(1999.4.22)
【出願人】(500481695)
【出願人】(500481710)
【出願人】(500481835)
【出願人】(500481868)
【出願人】(502422856)エコール ポリテクニック フェデラル デゥ ローザンヌ (1)
【Fターム(参考)】