説明

組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤

本発明は、顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤、および顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte Colony−Stimulating Factor、以下G−CSFと記述)活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤、およびG−CSF活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤に関する。
【背景技術】
G−CSFは好中性顆粒球前駆細胞を増殖または分化させ、また成熟好中球を活性化するポリペプチドである。G−CSFは主として、骨髄移植、癌の化学療法による好中球減少症、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、先天性・特発性好中球減少症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症等における好中球増加促進に使われている[池田康夫編、「症例に学ぶG−CSFの臨床」、医薬ジャーナル社、大阪、1999年2月、p.64−92]。近年、G−CSFが末梢血中の幹細胞を増加させることが報告されている[池田康夫編、「症例に学ぶG−CSFの臨床」、医薬ジャーナル社、大阪、1999年2月、p.139−168]。幹細胞としては、造血幹細胞、体性幹細胞(組織性幹細胞)等が知られている。
G−CSFにより末梢血に移入される造血系の幹細胞には各種のサブタイプが含まれることが示されている[Blood,84,2795−2801(1994)]。幹細胞の骨髄から末梢血への移入には、G−CSFを含む造血因子、細胞接着分子、ケモカイン、メタロプロテアーゼ等が相互に関与している[Experimental Hematology,30,973−981(2002)]。G−CSFによる幹細胞の骨髄から末梢血への移入には、ケモカイン受容体CXCR4とそのリガンドであるCXCL12(別名stromal cell−derived factor 1、SDF−1)が関与していると考えられており、G−CSF以外にもシクロフォスファミドも同等の生理活性を有している[The Journal of Clinical Investigation,111,187−196(2003)]。
またケモカインCXCR4阻害剤のAMD−3100(米国特許第5612478号)も、骨髄から末梢血へ造血幹細胞を移入させる作用を有することが知られている[アメリカン・ソサエティー・オブ・ヘマトロジー(American Society of Hematology)、フィラデルフィア、米国、2002年6月6日−10日]。
造血幹細胞を末梢血中に動員する方法の一つとして顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を投与する方法が知られている[Blood,90,903−908(1997)]。
また、G−CSFによりヒト末梢血中に動員される細胞から分離されたCD34陽性細胞を心筋梗塞モデルに移植すると血管新生が起こり、心機能が改善することが報告されている[Nature Medicine,,430−436(2001)、WO2001/94420]。
また、心筋梗塞を起す前にマウスにG−CSFとstem cell factor(SCF)を投与すると、梗塞部位で心筋と血管の再生が起こることから、G−CSFにより造血幹細胞が末梢血中に流れ出て梗塞心筋を再生すると考えられている[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98,10344−10349(2001)]。
CortiらはマウスにG−CSFとSCFを投与することで骨髄由来のニューロンが脳内で増加することを報告している[Experimental Neurology,177(2),443−452(2002)]。
さらにヒトでもG−CSF投与により末梢血中に動員させた細胞を移植することでレシピエントの肝臓、消化管上皮、皮膚[New England Journal of Medicine,346,738−746(2002)]ならびに口腔上皮[Lancet,361,1084−1088(2003)]にドナー由来の細胞が検出されている。
しかし、造血系以外の組織に関しては、G−CSF投与により動員されるどのような幹細胞により組織の分化が起こるかは明らかにされていない。また血球系や循環器系以外ではG−CSF投与やG−CSFで動員された幹細胞の移植により疾患が治療できるのかどうかについても明らかにされていない。
肺気腫、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease、以下COPDと記載)、嚢胞性線維症、特発性間質性肺炎(肺線維症)、びまん性肺線維症、結核、喘息等はいずれも肺の組織破壊を伴う重篤な疾患である。特に肺気腫及びCOPDでは肺胞の破壊が顕著である(工藤翔二、呼吸器疾患の治療と看護、南江堂、2002年3月出版、及び池田康夫編、症例に学ぶG−CSFの臨床、医薬ジャーナル社、大阪、1999年2月、p.64−92)。肺気腫、慢性気管支炎及びCOPDは気管支、細気管支または肺胞に炎症性の病変が生じる病気であり、肺胞の破壊が進行すると呼吸困難を生じる。現在のところ肺の組織破壊に対する十分な治療方法は無く、有効性の高い予防薬、治療薬及び治療方法の開発が望まれている。
レチノイン酸は、胎児期の肺の成熟に関与していることが知られている。エラスターゼで肺胞を破壊したラットにレチノイン酸を投与したところ、肺胞が修復されることが報告されている[Nature Medicine,,675−677(1997)]。レチノイン酸誘導体のRO444753[Journal of Medicinal Chemistry,31,2182−2192(1988)]についても、同様に肺気腫の治療効果が報告されている[American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine,165(8),A825(2002)]。しかしながら、肺胞の破壊を伴う疾患の治療にレチノイン酸を使用した例は、種々報告されているが、いずれも高い効果は得られていない。
近年、幹細胞の移植実験の結果、肺胞は頻繁に幹細胞から新たに作られていることが明らかとなってきた[Cell,105,369−377(2001)]。
肝硬変を中心とする慢性肝疾患は30歳から64歳までの年令層の死因順位の4位を占めている。また、死因順位の第1位である悪性新生物(癌)の中に肝硬変などの肝疾患を原因とする肝癌による死亡者が男性で2万2千9百人(肺癌、胃癌に次いで3位)、女性で9千4百人(胃癌、肺癌、結腸癌に次いで4位)も含まれている。肝炎の主要な原因である肝炎ウイルスの感染者はB型肝炎の場合150万人、C型肝炎の場合は250万人存在する。これらウイルス性肝炎に対しては抗ウイルス薬としてインターフェロンが投与されているが、肝硬変への移行を完全に止めることはできない。また、厚生省の調査では、現在約220万人もの人々が毎日清酒にして5合以上も飲みつづけているといわれている。これら問題飲酒者の中から脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝臓病患者が多数発症している。ウイルス性アルコール性を合わせると年間約30万人の人が新たに肝硬変を発症している。しかし現在、肝硬変を治療する方法は全く存在しない。最近、アルコール性肝炎のモデルとなりうる四塩化炭素肝障害モデルに対して骨髄細胞を移植することで、肝の線維の消失と肝実質細胞の再生により肝機能が改善することが報告された(第2回再生医療学会、神戸、2003年3月11日〜12日)。
透析患者数は現在17万人近くとなり、腎不全を根治するための腎臓再生薬は極めて大きな医療ニーズとなっているが現在、腎臓移植以外に有効な治療法は全く存在しない。最近、骨髄細胞から腎糸球体や腎尿細管上皮が新生することが報告され、骨髄の幹細胞から腎臓の組織が新たに新生されることが明らかになってきた[Kidney International,62,1285−1290(2002)]。
【発明の開示】
本発明の目的は、G−CSF活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織破壊を伴う疾患の予防及び/もしくは治療剤、またはG−CSF活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織中から多分化能幹細胞を末梢血に動員する薬剤を提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(35)に関する。
(1) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤。
(2) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドである上記(1)記載の予防及び/または治療剤。
(3) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである上記(1)記載の予防及び/または治療剤。
(4) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである上記(1)記載の予防及び/または治療剤。
(5) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、化学修飾された顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の予防及び/または治療剤。
(6) 化学修飾がポリアルキレングリコール修飾である、上記(5)項に記載の予防及び/または治療剤。
(7) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とからなり、同時に、時間をおいて別々に、または(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤。
(8) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とからなり、同時に、時間をおいて別々に、または(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤。
(9) CXCR4阻害剤がAMD−3100またはその誘導体である上記(8)記載の予防及び/または治療剤。
(10) 組織破壊を伴う疾患が神経疾患、循環器系疾患、肝臓疾患、膵臓疾患、消化管系疾患、腎臓疾患、皮膚疾患および肺疾患からなる群から選ばれる疾患である、上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の予防及び/または治療剤。
(11) 神経疾患が脳梗塞、脳血管障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脊髄損傷、うつ病、躁鬱病のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(12) 循環器系疾患が閉塞性血管病、心筋梗塞、心不全、冠動脈疾患のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(13) 肝臓疾患がB型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変、肝不全のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(14) 膵臓疾患が糖尿病、膵炎のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(15) 消化管系疾患がクローン病、潰瘍性大腸炎のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(16) 腎臓疾患がIgA腎症、腎炎、腎不全のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(17) 皮膚疾患が褥瘡、熱傷、縫合創、裂傷、切開創、咬傷、皮膚炎、肥厚性瘢痕、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈性潰瘍、静脈性潰瘍のいずれかである上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(18) 肺疾患が肺気腫、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、特発性間質性肺炎(肺線維症)、びまん性肺線維症、結核または喘息である上記(10)記載の予防及び/または治療剤。
(19) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤。
(20) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドである上記(19)記載の薬剤。
(21) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである上記(19)記載の薬剤。
(22) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである上記(19)記載の薬剤。
(23) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、化学修飾された顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである、上記(19)〜(22)のいずれか1項に薬剤。
(24) 化学修飾がポリアルキレングリコール修飾である、上記(23)記載の薬剤。
(25) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とからなり、同時に、時間をおいて別々に、または(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤。
(26) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とからなり、同時に、時間をおいて別々に、または(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤。
(27) CXCR4阻害剤がAMD−3100である上記(26)記載の薬剤。
(28) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを投与することを特徴とする組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療方法。
(29) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療方法。
(30) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療方法。
(31) 顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを投与することを特徴とする、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する方法。
(32) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する方法。
(33) (a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する方法。
(34) 組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤の製造のための顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドの使用。
(35) 組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤の製造のための顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドの使用。
1.組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤
本発明において、組織破壊を伴う疾患としては、神経疾患、循環器系疾患、肝臓疾患、膵臓疾患、消化管系疾患、腎臓疾患、皮膚疾患、肺疾患などがあげられる。
神経疾患としては、脳梗塞、脳血管障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脊髄損傷、うつ病、躁鬱病などがあげられる。
循環器系疾患としては、閉塞性血管病、心筋梗塞、心不全、冠動脈疾患などがあげられる。
肝臓疾患としては、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変、肝不全などがあげられる。
膵臓疾患としては、糖尿病、膵炎などがあげられる。
消化管系疾患としては、クローン病、潰瘍性大腸炎などがあげられる。
腎臓疾患としては、IgA腎症、腎炎、腎不全などがあげられる。
皮膚疾患としては、褥瘡、熱傷、縫合創、裂傷、切開創、咬傷、皮膚炎、肥厚性瘢痕、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈性潰瘍、静脈性潰瘍などがあげられる。
肺疾患としては、肺気腫、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、特発性間質性肺炎(肺線維症)、びまん性肺線維症、結核、喘息などがあげられる。
G−CSF活性を有するポリペプチドとしては、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、または配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつG−CSF活性を有するポリペプチド等があげられる。
具体的には、ナルトグラスチム(商品名ノイアップ、協和発酵工業製)、フィルグラスチム(商品名グラン、三共製;商品名Granulokine、ホフマン・ラ・ロシュ製;商品名Neupogen、アムジェン製)、レノグラスチム(商品名ノイトロジン、中外製薬製;商品名Granocyte、アベンティス製)、ペグフィルグラスチム(商品名Neulasta、アムジェン製)、サルグラモスチム(商品名Leukine、シェーリング製)等があげられる。
また、G−CSF活性を有するポリペプチドとしては、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)によって、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するG−CSFとのアミノ酸配列の相同性を検索した際に、好ましくは60%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%、もっとも好ましくは95%以上の相同性を有するポリペプチドがあげられる。配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が置換し、かつG−CSF活性を有するポリペプチドの具体例を表1に示す。


またG−CSF活性を有するポリペプチドは、化学修飾されていてもよい。
化学修飾の方法としては、例えばWO00/51626に記載の方法等があげられ、例えばポリアルキレングリコールで修飾、例えばポリエチレングリコール(PEG)で修飾したG−CSF活性を有するポリペプチドが包含される。
本発明のG−CSF活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する医薬は、治療剤として単独で投与することも可能であるが、通常は薬理学的に許容される一つまたはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、例えば経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、筋肉内、皮下、皮内もしくは静脈内等の非経口投与等があげられ、好ましくは筋肉内、皮下、皮内、静脈内または気道内投与等があげられる。
投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、注射剤、軟膏、テープ剤、ドライパウダー、エアロゾル等の吸入剤等があげられる。
錠剤等の固形製剤の製造には、例えば乳糖等の賦形剤、澱粉等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いることができる。
筋肉内、皮下、皮内、静脈内または気道内投与に適当な製剤としては、注射剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤の製造にあたっては、例えば水、生理食塩水、大豆油等の植物油、溶剤、可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤等を用いることができる。
また、吸入剤はG−CSF活性を有するポリペプチドそのもの、または受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつG−CSF活性を有するポリペプチドを微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。担体として具体的には乳糖、グリセリン等があげられる。G−CSF活性を有するポリペプチド及び用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり0.01μg/kg〜10mg/kgを投与するのが好ましい。
2.顆粒球コロニー刺激因子と別の薬剤との併用
本発明に用いられるG−CSF活性を有するポリペプチドは、レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤と併用することによってその作用を増強させることができる。
レチノイン酸誘導体としては、レチノイン酸受容体に結合する化合物であればいかなるものでもよいが、具体的にはパルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3−デヒドロレチノイン酸、3−デヒドロレチノール、3−デヒドロレチナール等のレチノイン酸誘導体、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、β−クリプトキサンチン、エキネノン等のプロビタミンA等を挙げることができる。また、モトレチナイド(商品名Tasmaderm、ホフマン・ラ・ロシュ製、US4105681参照)、WO02/04439に記載の化合物、タザロテン(商品名Tazorac、Allergan社、EP284288参照)、AGN−194310及びAGN−195183(Allergan製、WO97/09297参照)、retinoic acid TopiCare(商品名Avita、Mylan Laboratories製)、UAB−30(CAS Number 205252−59−1、UAB Research Foundation製)等があげられる。
CXCR4阻害剤としてはAMD−3100等があげられる。
本発明で用いられるG−CSF活性を有するポリペプチドと、レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤は、これらそれぞれの有効成分を含有するように製剤化したものであれば、単剤(合剤)としてでも複数の製剤の組み合わせとしてでも使用または投与することができる。複数の製剤の組み合わせとして使用する際には、同時にまたは時間をおいて別々に使用または投与することができる。なお、これら製剤は、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、注射剤、軟膏、テープ剤、またはドライパウダー、エアロゾル等の吸入剤等の形態として用いることができる。
本発明で用いられるG−CSF活性を有するポリペプチドと、レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤との好ましい用量比(重量/重量)は、使用するレチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤との組み合わせ、レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤の効力等に応じて適宜調整すればよいが、具体的には例えば1/50000(顆粒球コロニー刺激因子/レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤)〜100/1、好ましくは1/10000〜20/1、さらに好ましくは1/1000〜10/1の間の比で用いられる。
複数の製剤の組み合わせとして投与する際には、例えば(a)G−CSF活性を有するポリペプチドを含有する第一成分と、(b)レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤を含有する第二成分とを、それぞれ上記のように別途製剤化し、キットとして作製しておき、このキットを用いてそれぞれの成分を同時にまたは時間をおいて、同一対象に対して同一経路または異なった経路で投与することもできる。
該キットとしては、例えば保存する際に外部の温度や光による内容物である成分の変性、容器からの化学成分の溶出等がみられない容器であれば材質、形状等は特に限定されない2つ以上の容器(例えばバイアル、バッグ等)と内容物からなり、内容物である上記第一成分と第二成分が別々の経路(例えばチューブ等)または同一の経路を介して投与可能な形態を有するものが用いられる。具体的には、錠剤、注射剤、吸入剤等のキットがあげられる。
前記の製剤は、それぞれの有効成分の他に製剤学的に許容される希釈剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、水、生理食塩水、植物油可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤等を用いて常法により製造することができる。
錠剤の製造にあたっては、例えば乳糖等の賦形剤、澱粉等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いることができる。
注射剤の製造にあたっては、例えば水、生理食塩水、大豆油等の植物油、溶剤、可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤等を用いることができる。
また、吸入剤はG−CSF活性を有するポリペプチドそのもの、または受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつG−CSF活性を有するポリペプチドを微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。担体としては、例えば乳糖、グリセリン等が挙げられる。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、G−CSF活性を有するポリペプチドでは通常成人1日当たり0.01μg/kg〜10mg/kg、レチノイン酸もしくはレチノイン酸誘導体、またはCXCR4阻害剤では通常成人1日当たり0.1mg/kg〜100mg/kgを投与するのが好ましい。
3.多分化能幹細胞を末梢血に動員する薬剤
上記1または2に記載した組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤は、末梢血中に多分化能幹細胞を動員し、動員された多分化能幹細胞により障害組織を再生することができる。
4.本発明の薬剤を用いて疾患を治療する方法
本発明の組織破壊を伴う疾患の治療剤を用いて疾患を治療する方法としては、上記1にあるように本発明の治療剤を患者に直接投与することにより、障害部位を修復させる方法、上記3の薬剤で末梢血中に動員された多分化能幹細胞を回収したのち、回収した多分化能幹細胞をそのまま、または生体外で目的の細胞もしくは組織に分化させた後、障害部位に移植する方法など、いずれの方法を用いることもできる。
多分化能幹細胞、または分化させた細胞を治療に用いる場合、多分化能幹細胞または分化させた細胞をヘモネティックス社のヘモライト2プラスなどを用いて生理食塩水により洗浄し、用いる機器は完全閉鎖系で培養細胞の濃縮、洗浄、回収処理が可能なものがあげられ、培養、分化に用いたサイトカインなどの物質を限りなく100%除去できるものが好ましい。これにより回収された多分化能幹細胞または分化させた細胞は、通常の点適法で静脈中に注入するか、患部に直接注入することにより、治療に用いることができる。
5.本発明の組織破壊を伴う疾患の予防および/または治療剤の評価方法
(1)脳・神経系組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が、脳・神経系組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、例えば以下の方法により確認することができる。
上記した本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、マウス、ラットまたはサルなどの実験動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減、新生した脳・神経系の細胞を同定することにより脳・神経系組織の破壊を伴う疾患に有効であることを確認する。実験動物は、虚血、6−hydroxydopamine(6−OHDA)投与またはカイニン酸投与等の方法により、脳に傷害を与えた動物が好ましい。本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤の投与経路としては、皮下投与をあげることができる。
例えば、脳内で新生した神経系の細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により脳に傷害を与えた後に、本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新生した神経系の細胞はGFPの蛍光強度を測定することにより同定することができる。
(2)肝臓組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が肝臓組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、例えば以下の方法により確認することができる。
上記した本発明の組織の破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、肝細胞破壊モデル動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減や、肝臓での細胞の新生促進により肝臓組織の破壊を伴う疾患の治療に有効であることを確認する。肝細胞破壊を伴う疾患を示すモデル動物として、主として四塩化炭素エラスターゼを腹腔注射するモデル(American Journal of Pathology、2002年、161巻、p.2003−2010)や、肝部分切除モデル(Arch.Pathol.1931年、12巻、p.186−202)等を用いることができる。また肝臓の破壊病態を有する遺伝子改変動物として、Fumarylacetate hydrolase(FAH)欠損マウス(Nature Medicine、2000年、6巻、p.1229−1234)等を用いることができる。
肝細胞破壊の評価には、血漿・血清中のGPT(glutamic pyruvic transaminase)、GOT(glutamic oxalacetic transaminase)、ビリルビン、γ−GTPの濃度測定等でおこなうことができる。
肝臓で新生した肝細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により肝臓に傷害を与えた後に、本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新生した肝臓の細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
(3)膵臓組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が膵臓組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、以下の方法により確認する。
上記した本発明の組織の破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、膵細胞破壊モデル動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減や、膵臓での細胞の新生促進により膵臓組織の破壊を伴う疾患の治療に有効であることを確認することができる。
膵β細胞破壊を伴う疾患を示すモデル動物として、主としてストレプトゾトシンを腹腔注射するモデル(The Journal of Clinical Investigation、1969年、48巻、p.2129−2139)、部分膵切除モデル(The Journal of Clinical Investigation、1983年、71巻、p.1544−1553)等が知られている。膵β細胞破壊病態を有する自然発症動物として、non−obese diabetic(NOD)マウス(Exp.Animal、1980年、29巻、p.1−13)や、BioBreeding(BB)ラット(Diabetes、1982年、31巻(Suppl.1)、p.7−13)等が知られている。
膵β細胞破壊に対する症状の改善は、血漿・血清中のインシュリンや糖等の濃度測定、糖負荷試験時の耐糖能等でおこなうことができる。また、体重変化、食事量、尿糖濃度測定等により、疾患と関連した変化をとらえることでも、判定が可能である。
膵臓で新生した膵細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により膵臓に傷害を与えた後に、本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新生した膵臓の細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
(4)腎臓組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が腎臓組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、例えば以下の方法により確認することができる。
上記した本発明の組織の破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、腎細胞破壊モデル動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減や、腎臓での細胞の新生促進により腎臓組織の破壊を伴う疾患の治療に有効であることを確認する。腎臓破壊モデルとしては各種腎炎モデルが好ましい。腎炎に類似した病態を示すモデル動物として、抗Thy−1抗体を静脈注射することによって惹起される抗Thy−1腎炎モデル(腎と透析1991年臨時増刊号 腎疾患モデル、東京医学社)や、糸球体基底膜に対する抗体で惹起する馬杉腎炎モデル(腎と透析1991年臨時増刊号腎疾患モデル、東京医学社)等、腎不全に類似した病態を示すモデル動物としてbovine serum albumin(BSA)を腹腔注射するモデル(Kidney International、1999年、55巻、p.890−898)等が知られている。
腎細胞破壊に対する症状の改善は、尿蛋白排泄量測定等で評価することができる。
腎臓で新生した腎細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により腎臓に傷害を与えた後に本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新生した腎臓の細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
(5)肺組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が肺組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、例えば以下の方法により確認することができる。
上記した本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、肺細胞破壊モデル動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減や、肺での細胞の新生促進により肺組織の破壊を伴う疾患の治療に有効であることを確認する。肺破壊モデルとしては肺気腫類似モデルが好ましい。肺気腫に類似した病態を示すモデル動物として、主としてエラスターゼを含むタンパク質分解酵素を肺に注入したモデル[エンバイロンメンタル・リサーチ(Environmental Research)、1984年、第33巻、p.454−472]や、タバコの喫煙モデル[チェスト(Chest)、2002年、第121巻、付録、p.188S−191S]等が知られている。肺の組織破壊病態を有する遺伝子改変動物としては、インターロイキン13のトランスジェニックマウス[ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)、2000年、第106巻、p.1081−1093]、腫瘍壊死因子−αのトランスジェニックマウス[アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジオロジー:ラング・セルラー・モレキュラー・フィジオロジー(American Journal of Physiology:Lung Cellular Molecular Physiology)、2001年、第280巻、p.L39−L49)等が知られている。
肺細胞破壊に対する症状の改善は、肺の切片の組織像の解析、肺の湿重量や容積の測定等で評価する。肺の切片の組織像の解析は、例えば平均2点間距離や肺胞面積の測定等を用いて行うことができる。平均2点間距離(mean linear intercept length)は、肺の切片標本の顕微鏡像に一定の長さの格子を引き、直線と交わる肺胞壁とその隣り合って直線と交わる肺胞壁の間の距離を計測し、その平均値から求めることができる。また、非侵襲的な測定法として、肺のレントゲン線写真、X線コンピュータ断層撮影法(X線CT)、磁気共鳴断層診断(MRI)等があげられる。直接的ではないが、体重や呼吸機能の測定、運動量や一定時間内の移動距離の測定、運動負荷試験、血液酸素分圧測定、肺胞のエラスチン分解産物であるデスモシンの尿中及び血中濃度測定等により、疾患と関連した変化をとらえることによっても肺の組織破壊を評価することができる。
肺で新生した細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により肺に傷害を与えた後に、本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新生した肺細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
(6)骨格筋組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が骨格筋組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、以下の方法により確認することができる。
上記した本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、骨格筋破壊モデル動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減や、骨格筋の細胞の新生促進により骨格筋組織の破壊を伴う疾患の治療に有効であることを評価する。骨格筋の組織破壊に類似した病態を示すモデル動物として、主としてカルディオトキシン等の筋毒性のあるヘビ毒や塩酸ブピバカイン等の局所麻酔剤を骨格筋に注入するモデル[医学のあゆみ、1996年、179巻、p.276−280]等が知られている。骨格筋の破壊病態を有する遺伝子改変動物としてジストロフィン欠損mdxマウス[神経 進歩、2001年、45巻、p.54−62]等が知られている。
骨格筋組織の破壊に対する症状の改善は、骨格筋繊維の径および数、筋の繊維化および脂肪化を指標に形態観察を行うことで評価が可能である。また、非浸潤的な測定法として筋肉コンピュータ断層撮影法(筋肉CT)、磁気共鳴断層診断(MRI)等があげられる。直接的ではないが、血清クレアチンキナーゼ(CK)値測定等により、疾患と関連した変化をとらえることでも判定が可能である。
骨格筋で新生した細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により骨格筋に傷害を与えた後に、本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新たに再生・新生した骨格筋の細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
(7)皮膚組織
本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が皮膚組織の破壊を伴う疾患の治療に利用できることは、以下の方法により確認することができる。
上述の本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を、皮膚破壊モデル動物に投与し、破壊に伴う症状の軽減、皮膚の細胞の新生促進により皮膚組織の破壊を伴う疾患の治療に有効であることを評価する。皮膚組織の破壊に類似した病態を示すモデル動物として、主として遺伝的糖尿病マウス(db/db)や遺伝的肥満マウス(ob/ob)、ステロイド処置マウス、肝障害ラット等の難治性モデル動物に対する皮膚全層欠損創や熱傷創、虚血性潰瘍(褥傷)あるいは感染創を人工的に作成する皮膚創傷モデル[蛋白 核酸 酵素、2000年、45巻、p.1145−1151]等が知られている。
皮膚組織の傷害に対する症状の改善は、創傷面積の測定、皮膚開烈張力の測定、滲出液量の測定、浸潤白血球数の測定、血管新生量の測定、肉芽中の細胞数やコラーゲン産生量の測定等で行うことができる。
皮膚で新生した細胞は以下の方法により検出することができる。
あらかじめ致死量の放射線を照射した後にGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウス由来の骨髄を移植した骨髄キメラ・マウスを準備し、該骨髄キメラ・マウスに上述した方法により皮膚に傷害を与えた後に、本発明の組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤を投与する。新生した皮膚の細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
6.多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤の評価方法
本発明の多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤の評価は以下のようにして行うことができる。
薬剤により誘導された細胞をGreen Fluorescent Protein(GFP)を構成的に発現する同系統のトランスジェニック・マウスより採取するか、薬剤により動員された細胞を採取し、該細胞にレトロウイルスベクターを用いてGreen Fluorescent Protein(GFP)等の細胞標識可能な遺伝子を導入した後、静脈内または脳室内に投与する。新生した細胞はGFPの蛍光により同定することができる。
以下、参考例及び試験例により、本発明の予防及び/または治療剤の効果をより具体的に説明する。
参考例1. G−CSF活性を有するポリペプチド投与による末梢血中の単核球の増加
雄性SD(Sprague−Dawley)ラット9週齢(日本チャールス・リバー)3匹に、ナルトグラスチム(協和発酵工業製、製品名;ノイアップ)を100μg/kgで、5日間連続で皮下投与し、投与開始後6日目に腹大動脈より末梢血を取得し、NycoPrep1.077 Animal(AXIS−SHIELD社製)による密度勾配遠心法により単核球画分を濃縮し、細胞数を測定した。その結果、(2.32±0.16)×10細胞/mL(平均値±標準誤差)から(4.29±0.93)×10細胞/mL(平均値±標準誤差)に単核球が増加した。この中には、幹細胞が含有されていた。
参考例2. G−CSF投与により末梢血中に動員された細胞の性質
(1)G−CSF投与により動員された末梢血中に動員される細胞のX線照射マウスへの移植
G−CSFを投与することにより末梢血中に動員される細胞を、マウス個体に移植することにより、その性質を明らかにした。
全身の細胞にGFP遺伝子が組み込まれGFP蛋白質が発現しているマウス(C57BL/6×129系統のF4)の10週齢の個体をF群3匹、G群1匹に分け、それぞれ別々に以下の薬剤を投与した。F群に対しては5日間連続で毎日1匹あたり、ナルトグラスチム(協和発酵工業社製:製品名ノイアップ)を10μg皮下注射した。
G群に対しては、5日間連続で毎日1匹あたり、PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)(LIFE TECHNOLOGIES社製)を200μl皮下注射した。
最後に薬剤を投与した翌日、F群、G群それぞれ別々にマウスをジエチルエーテルを用いて麻酔し、眼静脈より末梢血を採取し、予めヘパリンナトリウム(武田薬品工業社製)を分注したチューブに回収し、100μmセル・ストレイナー(BECTON DICKINSON社製)を通過させておいた。また、G群に関しては大腿骨を摘出し、大腿骨に付着している筋肉をはさみで切除して大腿骨全体を露出させた後、両端をはさみで切断し、テルモ製27Gの針を装着しPBSを含有した注射針の先端を大腿骨の膝関節側に断端に差し込み、試験管の中にPBSを吹き出すことにより骨髄細胞を採取し、その後100μmセル・ストレイナー(BECTON DICKINSON社製)を通過させておいた。
このように採取した末梢血または骨髄細胞を以下のようにして、C57BL/6マウスに尾静脈より注入して移植をおこなった。
まず移植を受けるC57BL/6マウス(日本クレア社)は8週齢のものを用意し、尾静脈注射を受ける前日に、あらかじめX線照射装置(日立メディコ社製)を用いて12Gyの線量のX線を照射しておいた。これらのマウスをH群、I群、J群、K群に分け、H群にはF群由来のマウス末梢血を1匹あたり300μl尾静脈より移植し、I群にはG群由来のマウス末梢血を1匹あたり300μl尾静脈より移植し、J群にはG群由来の骨髄細胞を1匹あたり3.0×10を尾静脈より移植し、K群は移植の処置を施さなかった。
その結果、I群およびK群では移植後7日から10日以内にすべてが死亡した。一方、H群およびJ群では移植後8週齢経過しても生存していた。しかしながら、骨髄移植を施したJ群のマウスの中には、毛が抜け皮膚がただれたり、頭を傾けて歩行し歩き方がぎこちないという外見上および行動上の異常が見られた。G−CSFを投与したマウス末梢血を移植したH群では、外見上および行動上の異常はみられなかった。
本結果は、G−CSF投与によりマウス末梢血中には皮膚などの組織に分化する能力を有する幹細胞が動員されることを示している。
(2)細胞移植を受けたマウスの解剖
(1)で得られたH群のマウスを解剖し、灌流固定をおこない各臓器を摘出した。
具体的には、まずネンブタール(大日本製薬社製)の腹腔内注射により麻酔し、70%エタノールで全身をぬらし、太ももの皮膚をつまみあげ膝から大腿部の根元までハサミで切開して大腿動脈および静脈を露出させ、絹製縫合糸(夏目製作所社製)で結紮した後、結紮部位の末端側から太ももを切断した。そこから脛骨を摘出し、脛骨に付着している筋肉をはさみで切除して脛骨全体を露出させた後、両端をはさみで切断し、テルモ製23Gの針を装着しPBSを含有した注射針の先端を脛骨の膝関節側に断端に差し込み、試験管の中にPBSを吹き出すことにより骨髄細胞を採取した。
一方、マウスの方は開腹開胸して心臓を露出させ、25Gのテルモ製翼付静注針を左心室に挿入した後、右心耳を切りPBSを20ml流し、全身を灌流させた。この時、心臓から溢れ出る血液を取得し、あらかじめヘパリンナトリウム(武田薬品工業社製)100unitsを分注したチューブに入れ末梢血として回収した。
PBSを全量流した後、同様の操作により固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]を20ml流し、固定をおこなった。
その後、まず気管をつけたまま肺を摘出し、PBSで2倍希釈したOCT(optimum cutting temperature)compound(MILES社製)を含有したテルモ製サーフロー留置針(20G)付属のカテーテルを装着した20mlシリンジを気管から挿入し、カテーテルの先と気管を絹製縫合糸(夏目製作所社製)で結合し、PBSで2倍希釈したOCT溶液10mlを気管を通し肺に注入した。注入後、数mm角のブロックに切断し、OCT compoundで包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。
また、残りの臓器についても個体から摘出し、4℃で2時間固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]中に浸した後、PBSでリンスし、高ショ糖溶液[20%Sucrose、PBS]中に浸して4℃で一晩置き、翌日、数mm角のブロックに切断し、OCT compoundで包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。
このようにして凍らせた組織を、クライオスタットを用いて薄さ10μmに切り、APSコート付スライドグラス(MATSUNAMI社製)に貼り付け、よく乾かして凍結切片を作成した。
上記操作過程で取得した末梢血細胞は、等量の0.9%NaClを加えて希釈し、NycoPrep1.077Animal(第一化学薬品社製)1.4mlの上に重層し、室温で600×g、30分間遠心分離した。界面の単核球浮遊液の層を回収し、1mlのPBSを加えて混和し、室温で400×g、15分間遠心分離し、上清を除き、沈殿している単核球をPBS0.5mlで懸濁し、FACS Calibur(BECTON DICKINSON社製)を用いてGFP陽性細胞数の割合を測定した。その結果、末梢血単核球中におけるGFP陽性細胞の割合は、90.3%であった。
骨髄細胞についても、同様にFACS Caliburを用いてGFP陽性細胞の割合を測定したところ、87.3%がGFP陽性細胞で占められていた。
また、各臓器から摘出して作成した凍結切片をZeiss社製蛍光顕微鏡Axiophot2で観察した結果、肺、心臓、肝臓、脳、胃、皮膚、小腸、大腸、骨格筋、膵臓、脾臓、腎臓、気管など、ほぼすべての全身の臓器で、GFP陽性細胞が多く存在することを確認した。特に、脳では、嗅球、脈絡叢などの部分でGFP陽性細胞が多く観察された。本結果は、G−CSF投与によるマウス末梢血中に動員された幹細胞が全身の様々な組識の修復に働くことを示している。
(3)免疫染色によるGFP陽性細胞の性質の同定
(2)で作成した凍結切片については、以下のようにして種々の抗体で染色し、GFP陽性細胞の性質を調べた。
まず、種々の臓器の組織片に対して、抗サイトケラチン抗体による免疫染色をおこなった。サイトケラチンは上皮系細胞のマーカーである。
皮膚を摘出して作成した凍結切片の乗せたスライドグラスをPBSで5分間浸すことを3回繰り返し、スライドガラスを洗った。その後、終濃度が10mg/mlとなるようにPBSで希釈したProteinaseK(GibcoBRL社製)に15分間浸した。PBSで1回洗った後、固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]と室温で15分間反応させた。更にPBSで2回洗った後、ブロッキング液[10%ブタ血清(DAKO社製)、PBS]に室温で1時間浸し、次に一次抗体[Monoclonal Mouse Anti−Human Cytokeratin,Clones AE1/AE3](DAKO社製)を、1.5%ブタ血清を含むPBSで50倍希釈した溶液と室温で1時間反応させた。PBSで4回洗った後、二次抗体[Cy3−conjugated AffiniPure Goat Anti−Mouse IgG(H+L)](生化学工業社製)を1.5%ブタ血清を含むPBSで800倍希釈した溶液と、室温で1時間反応させた。更にPBSで4回洗った後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI(VECTOR LABORATORIES社製)を切片に滴下し、カバーガラスをかけて封入し、Zeiss製蛍光顕微鏡Axiophot2で観察した。GFP陽性細胞でかつサイトケラチン陽性細胞が観察されたことから、移植に用いたG−CSFにより動員された末梢血中の細胞には、皮膚に生着し上皮系細胞に分化する能力を持つ幹細胞が含まれることを示している。
抗サイトケラチン抗体を用いて、大腸の凍結切片に対して同様の染色をおこない、蛍光顕微鏡下で観察したところ、GFP陽性細胞でかつサイトケラチン陽性細胞が観察された。このことから、移植に用いたG−CSFにより動員された末梢血中の細胞には、大腸に生着し上皮系細胞に分化する能力を持つ幹細胞が含まれることを示している。
抗サイトケラチン抗体と血球系細胞のマーカーであるCD45に対する抗体とを用いて、小腸の凍結切片に対しても同様の染色をおこなった。蛍光顕微鏡下で観察したところ、GFP陽性細胞でかつCD45陰性細胞が観察された。このことから、移植に用いたG−CSFにより動員された末梢血中の細胞には、小腸にも生着し血球系以外の細胞に分化する能力を持つ幹細胞が含まれることを示している。
次に、種々の臓器に対して、抗CD45抗体による免疫染色をおこなった。
肺を摘出して作成した凍結切片をのせたスライドグラスをPBSで5分間浸すことを3回行うことにより洗った後、DAKO Biotin Blocking System(1)液(DAKO社製)に室温10分間浸し、PBSで2回洗った後、DAKO Biotin Blocking System(2)液(DAKO社製)に室温10分間浸し、再度PBSで2回洗った。
その後、ブロッキング液[10%ブタ血清(DAKO社製)、PBS]に室温で1時間浸し、次に一次抗体[Biotin anti−mouse CD45(LCA、Ly5)](BD Pharmingen社製)を、1.5%ブタ血清を含むPBSで100倍希釈した溶液と室温で1時間反応させた。PBSで4回洗った後、二次抗体(streptavidin,AlexaFluor594 conjugate)(Molecular Probe社製)を1.5%ブタ血清を含むPBSで終濃度5μg/mlとなるように希釈した溶液と、室温で1時間反応させた。更にPBSで4回洗った後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI(VECTOR LABORATORIES社製)を切片に滴下し、カバーガラスをかけて封入し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、GFP陽性細胞でかつCD45陰性細胞が観察された。このことから、移植に用いたG−CSFにより動員された末梢血中の細胞には、肺に生着し血球系以外の細胞に分化する能力を持つ幹細胞が含まれることを示している。
抗CD45抗体を用いて、肝臓の凍結切片に対して同様の染色をおこない、蛍光顕微鏡下で観察したところ、GFP陽性細胞でかつCD45陰性細胞が観察された。このことから、移植に用いたG−CSFにより動員された末梢血中の細胞には、肝臓にも生着し血球系以外の細胞に分化する能力を持つ幹細胞が含まれることを示している。
抗CD45抗体を用いて、心臓、脳、胃、皮膚、小腸、大腸、骨格筋、膵臓の凍結切片に対しても同様の染色をおこなった。蛍光顕微鏡下で観察したところ、それぞれの組織においてGFP陽性細胞でかつCD45陰性細胞が観察された。
このことから、移植に用いたG−CSFにより動員された末梢血中の細胞には、心臓、脳、胃、皮膚、小腸、大腸、骨格筋、膵臓にも生着し血球系以外の細胞に分化する能力を持つ幹細胞が含まれることを示している。
試験例1 X線照射マウスに対するG−CSF活性を有するポリペプチドの腸管上皮に対する治癒効果
X線を照射されたマウスは、腸管上皮や骨髄等での細胞新生が起こらない(nature review cancer、2003年、3巻、p.117−129)。そこで、腸管上皮破壊モデルとしてX線照射マウスを作製し、ナルトグラスチムにより末梢血に動員された細胞が修復に寄与するかどうか確認した。
(1)ナルトグラスチム投与により末梢血中に動員された細胞のX線照射マウスへの移植
全身の細胞にGFP遺伝子が組み込まれた、GFP蛋白質発現マウス(C57BL/6×129系統)の8週齢の個体に対し、5日間連続で毎日1匹あたり、ナルトグラスチム10μg皮下注射した。ナルトグラスチムとしては、ノイアップ100(協和醗酵工業製)を濃度100μg/mLとなるよう、PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)(LIFE TECHNOLOGIES社製)に溶解して使用した。
最後にナルトグラスチムを投与した翌日、ジエチルエーテルを用いてマウスを麻酔し、眼静脈より末梢血を採取し、予めヘパリンナトリウム(武田薬品工業社製)を分注したチューブに回収し、100μmセル・ストレイナー(BECTON DICKINSON社製)を通過させておいた。
こうして採取した末梢血を、以下のようにして尾静脈より注入して移植をおこなった。
まず、移植をうけるC57BL/6マウス(日本クレア社)は8週齢のものを用意し、移植の前日に、X線照射装置(日立メディコ社製)を用いて12Gyの線量のX線を照射した。翌日、このマウスに対し、採取した末梢血を1匹あたり300μl尾静脈より移植した。その後、最低4週間経過して生存しているか確認し、キメラマウス(以下、末梢血キメラマウスと呼ぶ)を作製した。
(2)末梢血キメラマウスにおける腸管上皮細胞でのG−CSF活性を有するポリペプチド動員末梢血由来細胞の新生
(1)で作製した末梢血キメラマウスを解剖し、灌流固定をおこない小腸および大腸を摘出した。具体的には、まず末梢血キメラマウスにネンブタール(大日本製薬社製)を腹腔内注射して麻酔し、開腹開胸して心臓を露出させ、25Gのテルモ製翼付静注針を左心室に挿入した後、右心耳を切りPBSを20mL流し、全身を灌流させた。PBSを全量流した後、同様の操作により固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]を20mL流し、固定をおこなった。
その後、固定したマウスから小腸、大腸を摘出し、4℃で2時間固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]中に浸した後、PBSでリンスし、高ショ糖溶液[20%Sucrose、PBS]中に浸して4℃で一晩置き、翌日、数mm角のブロックに切断し、OCT(optimum cutting temperature)compound(MILES社製)で包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。
このようにして凍らせた組織を、クライオスタットを用いて薄さ10μmに切り、APSコート付スライドグラス(MATSUNAMI社製)に貼り付け、よく乾かして凍結切片を作成した。
こうして作成した小腸および大腸の凍結切片に対し、以下のようにして抗サイトケラチン抗体による免疫染色をおこなった。サイトケラチンは上皮系細胞のマーカーである。
凍結切片の乗せたスライドグラスをPBSで5分間浸すことを3回繰り返し、スライドグラスを洗った。その後、終濃度が10mg/mLとなるようにPBSで希釈したProteinaseK(GibcoBRL社製)に15分間浸した。PBSで1回洗った後、固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]と室温で15分間反応させた。更にPBSで2回洗った後、ブロッキング液[10%ブタ血清(DAKO社製)、PBS]に室温で1時間浸し、次に一次抗体[Monoclonal Mouse Anti−Human Cytokeratin,Clones AE1/AE3](DAKO社製)を、1.5%ブタ血清を含むPBSで50倍希釈した溶液と室温で1時間反応させた。PBSで4回洗った後、二次抗体[Cy3−conjugated AffiniPure Goat Anti−Mouse IgG(H+L)](生化学工業社製)を1.5%ブタ血清を含むPBSで800倍希釈した溶液と、室温で1時間反応させた。更にPBSで4回洗った後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI(VECTOR LABORATORIES社製)を切片に滴下し、カバーガラスをかけて封入し、Zeiss製蛍光顕微鏡Axiophot2で観察した。その結果、GFP陽性でかつサイトケラチン陽性である細胞が観察された。したがって、移植に用いたナルトグラスチムにより末梢血中へ動員された細胞から、X線照射によって破壊された小腸および大腸において、それぞれの組織の上皮系細胞に新生したことを確認した。
試験例2 四塩化炭素投与モデルマウスに対するG−CSF活性を有するポリペプチドの肝臓に対する治癒効果
四塩化炭素投与により肝臓を破壊したモデルマウスを用いて、ナルトグラスチムにより末梢血に動員された細胞が肝細胞に新生するかどうかを以下のようにして調べた。
まず試験例1(1)と同様に、ナルトグラスチム動員末梢血をX線照射したマウスに尾静脈注入したマウス(末梢血キメラマウス)を作製した。この末梢血キメラマウスに対し、四塩化炭素(Wako社製)を2mL/kgとなるように腹腔内投与した。なお、四塩化炭素はMineral Oil(Sigma社製)を溶媒として、四塩化炭素とMineral Oilの容量比が2:3となるように調製した。
腹腔内投与して2週間経過した後、このマウスに対し試験例1(2)で示した方法と同様の方法で灌流固定をおこない、肝臓を摘出した。その後、固定したマウスから肝臓を摘出し、4℃で2時間固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]中に浸した後、PBSでリンスし、高ショ糖溶液[20%Sucrose、PBS]中に浸して4℃で一晩置き、翌日、数mm角のブロックに切断し、OCT compoundで包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。
このようにして凍らせた組織を、クライオスタットを用いて薄さ10μmに切り、APSコート付スライドグラス(MATSUNAMI社製)に貼り付け、よく乾かして凍結切片を作製した。
こうして作製した肝臓の凍結切片に対し、以下のようにして抗アルブミン抗体による免疫染色をおこなった。アルブミンは肝実質細胞のマーカーである。
肝臓を摘出して作製した凍結切片の乗ったスライドグラスをPBSで5分間浸すことを3回行って洗浄した後、ブロッキング液[10%ブタ血清(DAKO社製)、PBS]に室温で1時間浸し、次に一次抗体[Anti−mouse albumin rabbit polyclonal](Biogenesis社製)を、1.5%ブタ血清を含むPBSで200倍希釈した溶液と室温で1時間反応させた。PBSで4回洗った後、二次抗体(AlexaFluor594−anti rabbit IgG)(Molecular Probe社製)を1.5%ブタ血清を含むPBSで800倍希釈した溶液と、室温で1時間反応させた。更にPBSで4回洗った後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI(VECTOR LABORATORIES社製)を切片に滴下し、カバーガラスをかけて封入し、蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、GFP陽性でかつアルブミン陽性であり、形態的にも肝実質細胞と同様の細胞が観察された。すなわち、ナルトグラスチムにより末梢血中へ動員された細胞は、四塩化炭素によって破壊された肝臓において、肝実質細胞に新生したことが確認された。
試験例3 カルディオトキシン投与モデルマウスに対するG−CSF活性を有するポリペプチドの骨格筋に対する治療効果
カルディオトキシン投与により骨格筋を破壊したモデルマウスを用いて、ナルトグラスチムにより末梢血に動員された細胞が骨格筋繊維に新生するかどうかを以下のようにして調べた。
まず、試験例1(1)と同様に、ナルトグラスチム動員末梢血をX線照射したマウスに尾静脈注入したマウス(末梢血キメラマウス)を作製した。この末梢血キメラマウスの前脛骨筋にカルディオトキシンを25−50μL筋肉内投与した。なおカルディオトキシン(Latoxan社製)は濃度1μMとなるようにPBSに溶解して使用した。
次に、筋肉内投与して4週間経過した後、マウスから前脛骨筋を摘出し、4℃で2時間固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]中に浸した後、PBSでリンスし、高ショ糖溶液[20%Sucrose、PBS]中に浸して4℃で一晩置き、翌日、数mm角のブロックに切断し、OCT compoundで包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。
このようにして凍らせた組織を、クライオスタットを用いて薄さ10μmに切り、APSコート付スライドグラス(MATSUNAMI社製)に貼り付け、よく乾かして凍結切片を作製した。
こうして作製した前脛骨筋の凍結切片に対し、以下のようにして抗Desmin抗体による免疫染色をおこなった。Desminは骨格筋繊維のマーカーである。
前脛骨筋を摘出して作成した凍結切片の乗せたスライドグラスをPBSで5分間浸すことを3回繰り返し、スライドグラスを洗った。その後、終濃度が10mg/mLとなるようにPBSで希釈したProteinaseK(GibcoBRL社製)に15分間浸した。PBSで1回洗った後、固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]と室温で15分間反応させた。更にPBSで2回洗った後、ブロッキング液[10%ブタ血清(DAKO社製)、PBS]に室温で1時間浸し、次に一次抗体[Anti−Desmin Delipidized,Whole Antiserum D8281](Sigma社製)を、1.95%ブタ血清を含むPBSで40倍希釈した溶液と室温で1時間反応させた。PBSで4回洗った後、二次抗体(AlexaFluor594−anti rabbit IgG)(Molecular Probe社製)を1.5%ブタ血清を含むPBSで800倍希釈した溶液と、室温で1時間反応させた。更にPBSで4回洗った後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI(VECTOR LABORATORIES社製)を切片に滴下し、カバーガラスをかけて封入し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、GFP陽性でかつDesmin陽性であり、形態的にも骨格筋と判定できる骨格筋繊維が観察された。すなわち、ナルトグラスチムにより末梢血中へ動員された細胞は、カルディオトキシンによって破壊された骨格筋組織中において、骨格筋繊維に新生したことが確認された。
試験例4 皮膚創傷モデルマウスに対するG−CSF活性を有するポリペプチドの治療効果
常法[バイオロジカル アンド ファーマシューティカル ブレトンBiological & Pharmaceutical Bulletin(Biol.Pharm.Bull.)1996年、19巻、p.530−535]に従い、雌性C57BL/KsJ−db/db Jcl 6週齢(日本クレア)2匹をネンブタール(大日本製薬製)腹腔内投与により麻酔し、背側体毛を除毛後、直径4mmの生検トレパン(カイ インダストリーズ)を用いて皮膚全層切除創を作製した。
2匹中の1匹は切除創作製日(以下0日と記載する)からナルトグラスチム10μg/bodyを1日1回、5日間皮内に反復投与し、他の1匹にはナルトグラスチムの代わりにPBSを投与した。ナルトグラスチム(協和発酵工業製)は濃度100μg/mLとなるようにPBSに溶解して使用した。切除創作成後、経日的に創傷面積を測定し創傷治癒程度を求めた。創傷面積の測定は、背部中央に作成した2個所の切除創をデジタルカメラ(Nikon COOLPIX990)で撮影後、画像解析ソフト(NIHイメージ)を用いて計測した。表2に創傷面積(mm)と、0日の創傷面積を100%とした場合の創傷面積の割合を創傷面積率(%)として示す。

表2に示すようにナルトグラスチム投与マウスではPBS投与マウスと比較して創傷面積および創傷面積率の低下の促進、すなわち皮膚再生促進効果が認められた。
試験例5 ラット肺胞破壊モデルでの評価(1)
雄性SDラット9週齢(日本チャールス・リバー)に、ブタ膵エラスターゼ(以下エラスターゼと記載する、比活性135units/mg protein、Elastin Products製)を生理食塩水(大塚製薬製)で70units/mLに希釈し、500μLを気管内投与した。エラスターゼの1unitは1mgのエラスチンをpH8.8、37℃の条件下、20分間で分解する活性である。2週間後、各群の平均体重がほぼ等しくなるように、1群10匹で群分けを行った。フィルグラスチムはグラン注射液M300(麒麟麦酒製)を、濃度が20μg/mLとなるよう生理食塩水に溶解して使用した。フィルグラスチム投与群には、エラスターゼ投与後3週間目から、フィルグラスチムを100μg/kgを1日1回、5日間皮内に反復投与した。エラスターゼ投与群には、エラスターゼ投与後は、何も投与しなかった。生理食塩水投与群には、エラスターゼの代わりに生理食塩水を投与し、その後は何も投与しなかった。エラスターゼ投与5週間後に肺を摘出し、気道内に25cmHOに加圧したホルマリンを注入して固定した後に、切片で肺胞の破壊程度を測定した。平均2点間距離(mean linear intercept length)は、肺切片の顕微鏡写真上に、1.325μmの格子線を縦横にそれぞれ5本引き、線上に交差する肺胞壁を測定した後に、格子線の全長を交差した肺胞壁数で除して求めた[エンバイロンメンタル・リサーチ(Environmental Research)、1987年、42巻、p.340−352]。
図1に平均2点間距離を平均値±標準誤差(SE)によって示した。図1が示すようにエラスターゼ投与により、平均2点間距離の延長、すなわち肺胞壁破壊が見られた。フィルグラスチム投与群において、平均2点間距離の短縮、すなわち肺胞壁破壊の16%の回復が観察できた。
試験例6 ラット肺胞破壊モデルでの評価(2)
試験例5と同様にエラスターゼ処置により肺胞破壊したラットに、ナルトグラスチムを投与して、肺胞の破壊変化を測定した。
ナルトグラスチムはノイアップ250(協和醗酵工業製)を、濃度が40μg/mLとなるよう生理食塩水に溶解して使用した。ナルトグラスチム投与群には、エラスターゼ投与後3週間目から、ナルトグラスチム200μg/kgを1日1回、5日間皮下に反復投与し、その後、1週間に3回の投与を5週間行なった。エラスターゼ投与群には、エラスターゼ投与後は何も投与しなかった。生理食塩水投与群には、エラスターゼのかわりに生理食塩水を投与し、その後は何も投与しなかった。エラスターゼ投与8週間後に肺を摘出し、試験例5の方法に従って解析した。
図2は平均2点間距離を平均値+標準誤差(SE)によって示したものである。図2が示すようにエラスターゼ投与により、平均2点間距離の延長、すなわち肺胞壁破壊が見られた。ナルトグラスチム投与群において、平均2点間距離の短縮、すなわち肺胞壁破壊の35%の回復が観察できた。
試験例7 ラット肺胞破壊モデルでの評価(3)
試験例5と同様にエラスターゼ処置により肺胞破壊したラットに、全trans−レチノイン酸(以下、レチノイン酸と記載)、またはナルトグラスチムとレチノイン酸を投与して、肺胞の破壊変化を測定した。レチノイン酸(シグマアルドリッチ製)は、3mg/mLになるようにコーンオイル(和光純薬工業製)に懸濁して使用した。ナルトグラスチムはノイアップ100(協和醗酵工業製)を、濃度が20μg/mLとなるよう、生理食塩水に溶解して使用した。エラスターゼ投与後3週間目からナルトグラスチムを5日間、100μg/kgを1日1回皮内に反復投与した。レチノイン酸は、エラスターゼ投与後3週間目から3週間、1日1回、3mg/kgで反復経口投与した。レチノイン酸のみを投与した群(レチノイン酸投与群)およびレチノイン酸とナルトグラスチムを両方投与した群(レチノイン酸/ナルトグラスチム投与群)を設けた。エラスターゼ投与群には、エラスターゼを投与後は、何も投与しなかった。生理食塩水投与群には、エラスターゼの代わりに生理食塩水を投与し、その後は何も投与しなかった。エラスターゼ投与5週間後に肺を摘出し、試験例5の方法に従って解析した。図3は平均2点間距離を平均値±標準誤差(SE)によって示したものである。
図3が示すようにレチノイン酸群において、14%の平均2点間距離の短縮、すなわち破壊された肺胞壁の回復が見られた。レチノイン酸/ナルトグラスチム群では、破壊された肺胞壁の強い回復が見られた。
試験例8 db/dbマウスに対するナルトグラスチムの治癒効果
db/dbマウスは、db遺伝子の単一劣性変異マウスであり、肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病症状を自然発症する2型糖尿病モデルマウスとして知られている(ジョスリン糖尿病学、1995年、p.317−349)。db/dbマウスは生後4〜5週齢頃より肥満が始まり、体重の増加に伴い血糖値は上昇するので、高血糖状態から全身の臓器に炎症などの組織破壊を引き起こしていると推測される。そこで、db/dbマウスにX線を照射し、ナルトグラスチムにより末梢血に動員された細胞が組織修復に寄与しているかどうか確認した。
(1)X線照射db/dbマウスへの骨髄細胞の移植
まず、ナルトグラスチムにより末梢血に動員された細胞を移植する前に、骨髄細胞の移植をおこなった。
db/dbマウスとしては、C57BL/KsJ−db/db(日本クレア社)の6週齢の雌の個体を用い、移植の前日に、X線照射装置(日立メディコ社製)を用いて12Gyの線量のX線を照射した。翌日、このマウスに対し、全身の細胞にGFP遺伝子が組み込まれGFP蛋白質が発現しているマウス(C57BL/6×129系統)の8週齢の個体の骨髄から単離した細胞3×10個を尾静脈より移植した。
移植して4週間経過後、マウスを解剖して灌流固定をおこない、各臓器を摘出した。
具体的には、まずネンブタール(大日本製薬社製)を腹腔内注射して麻酔し、開腹開胸して心臓を露出させ、25Gのテルモ製翼付静注針を左心室に挿入した後、右心耳を切りPBSを20mL流し、全身を灌流させた。PBSを全量流した後、同様の操作により固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]を20mL流し、固定をおこなった。
その後、固定したマウスから各臓器を摘出し、4℃で2時間固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]中に浸した後、PBSでリンスし、高ショ糖溶液[20%Sucrose、PBS]中に浸して4℃で一晩置き、翌日、数mm角のブロックに切断し、OCT(optimum cutting temperature)compound(MILES社製)で包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。
このようにして凍らせた組織を、クライオスタットを用いて薄さ10μmに切り、APSコート付スライドグラス(MATSUNAMI社製)に貼り付け、よく乾かして凍結切片を作成した。
こうして作成した各臓器の凍結切片に対し、種々の抗体による免疫染色をおこなった。
その結果、肝臓の切片に対しては、GFP陽性でかつアルブミン抗体陽性である細胞が観察された。また、膵臓の切片に対しては、GFP陽性でかつインスリン抗体陽性である細胞が、心筋の切片に対しては、GFP陽性でかつザルコーマα−アクチン抗体陽性細胞がそれぞれ観察された。また、脳の切片に対しては、ニューロン様の形態を有するGFP陽性細胞および、プルキンエ細胞特有の樹状形態を有するGFP陽性細胞が観察された。
すなわち、X線照射されたdb/dbマウスに移植するという実験系において、骨髄細胞が肝実質細胞、膵β細胞、心筋細胞、ニューロン、プルキンエ細胞に新生したことを確認した。
(2)ナルトグラスチム投与により末梢血中に動員された細胞の、X線照射db/dbマウスへの移植
次に、ナルトグラスチム投与により末梢血中に動員された細胞を、(1)と同様の方法によりX線照射したdb/dbマウスに移植した。
まず、全身の細胞にGFP遺伝子が組み込まれGFP蛋白質が発現しているマウス(C57BL/6×129系統)の8週齢の個体に対し、5日間連続で毎日1匹あたり、ナルトグラスチム10μg皮下注射した。ナルトグラスチムとしては、ノイアップ100(協和醗酵工業製)を濃度100μg/mLとなるよう、PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)(LIFE TECHNOLOGIES社製)に溶解して使用した。
最後にナルトグラスチムを投与した翌日、ジエチルエーテルを用いてマウスを麻酔し、眼静脈より末梢血を採取し、予めヘパリンナトリウム(武田薬品工業社製)を分注したチューブに回収し、100μmセル・ストレイナー(BECTON DICKINSON社製)を通過させておいた。
こうして採取した末梢血を、以下のようにしてdb/dbマウスに尾静脈より注入して移植をおこなった。
まず、移植をうけるdb/dbマウスはC57BL/KsJ−db/db(日本クレア社)の6週齢の雌の個体とし、移植の前日に、X線照射装置(日立メディコ社製)を用いて9.5Gyの線量のX線を照射した。翌日、このマウスに対し、採取した末梢血を1匹あたり300μl尾静脈より移植した。
移植して4週間経過後、(1)に示したのと同様の方法でマウスを解剖して灌流固定をおこない、各臓器を摘出し包埋して凍結切片を作製した。
こうして作製した各臓器の凍結切片に対し、種々の抗体による免疫染色をおこなった。
その結果、肝臓の切片に対しては、GFP陽性でかつアルブミン抗体陽性である細胞が観察された。また、膵臓の切片に対しては、GFP陽性でかつインスリン抗体陽性である細胞が、心筋の切片に対しては、GFP陽性でかつザルコーマα−アクチン抗体陽性細胞が、小腸および胃の切片に対しては、GFP陽性でかつサイトケラチン抗体陽性細胞がそれぞれ観察された。また、脳の切片に対しては、ニューロン様の形態を示しNeuN抗体陽性でかつGFP陽性細胞が観察された。更に肺の切片に対しては、肺胞上皮細胞に位置するGFP陽性細胞が観察された。
すなわち、X線照射されたdb/dbマウスに移植するという実験系において、ナルトグラスチムにより末梢血中へ動員された細胞が肝実質細胞、膵β細胞、心筋細胞、小腸上皮細胞、胃上皮細胞、ニューロン、肺胞上皮細胞に新生したことを確認した。
試験例9 骨髄キメラマウスに対するナルトグラスチムの効果
雌性C57BL/6マウス6週齢(日本クレア)および雌性C57BL/KsJ−db/dbマウス6週齢(日本クレア)に、X線照射装置(日立メディコ社製)を用いて9.5Gyの線量のX線を照射した。翌日、このマウスに対し、雄性GFP蛋白質発現トランスジェニックマウス(C57BL/6x129系統)6−8週齢の骨髄から単離した3x10個の細胞を尾静脈より移植した。
これらのマウスをナルトグラスチム投与群とコントロール群に分け、次のような処置を施した。ナルトグラスチム投与群では、移植して7日後より、ナルトグラスチム10μg/bodyを1日1回、14日間連続で皮下に反復投与した。ナルトグラスチムはノイアップ(協和醗酵工業製)を濃度100μg/mLとなるようにPBSに溶解して使用した。一方、コントロール群では、移植して7日後より、ナルトグラスチムの代わりにPBSを14日間連投した。
骨髄移植して1ヶ月後に、各マウスを解剖して灌流固定をおこない、肝臓、肺および腎臓を摘出した。具体的には、まずネンブタール(大日本製薬社製)の腹腔内注射により麻酔し、開腹開胸して心臓を露出させ、25Gのテルモ製翼付静注針を左心室に挿入した後、右心耳を切りPBSを20ml流し、全身を灌流させた。その後、同様の操作により固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]を20ml流し、固定をおこなった。その後、まず気管をつけたまま肺を摘出し、PBSで2倍希釈したOCT(optimum cutting temperature)compound(MILES社製)を含有したテルモ製サーフロー留置針(20G)付属のカテーテルを装着した20mlシリンジを気管から挿入し、カテーテルの先と気管を絹製縫合糸(夏目製作所社製)で結合し、PBSで2倍希釈したOCT溶液10mlを気管を通し肺に注入した。注入後、数mm角くらいのブロックに切断し、OCT compoundで包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。また、肝臓・腎臓についても個体から摘出し、4℃で2時間固定液[4%PFA(パラホルムアルデヒド)、PBS]中に浸した後、PBSでリンスし、高ショ糖溶液[20%Sucrose、PBS]中に浸して4℃で一晩置き、翌日、数mm角くらいのブロックに切断し、OCT compoundで包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタンで凍結した。このようにして凍らせた組織を、クライオスタットを用いて薄さ6μmに切り、APSコート付スライドグラス(MATSUNAMI社製)に貼り付け、よく乾かして凍結切片を作成した。
こうして作成した凍結切片のうち肝臓の切片に対し、以下のようにして抗Albumin抗体による免疫染色をおこなった。Albuminは肝実質細胞のマーカーである。肝臓を摘出して作成した凍結切片の乗ったスライドグラスをPBSで5分間浸すことを3回おこなうことにより洗った後、ブロッキング液[10%ブタ血清(DAKO社製)、PBS]に室温で1時間浸し、次に一次抗体[Anti−mouse albumin rabbit polyclonal](Biogenesis社製)を、1.5%ブタ血清を含むPBSで200倍希釈した溶液と室温で1時間反応させた。PBSで4回洗った後、二次抗体(AlexaFluor594−anti rabbit IgG)(Molecular Probe社製)を1.5%ブタ血清を含むPBSで800倍希釈した溶液と、室温で1時間反応させた。更にPBSで4回洗った後、VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI(VECTOR LABORATORIES社製)を切片に滴下し、カバーガラスをかけて封入し、蛍光顕微鏡で観察した。
各個体からそれぞれ30切片を作製して、GFP陽性かつAlbumin陽性細胞数を計測した。図4に単位面積で割ったGFP陽性かつAlbumin陽性細胞数を平均値+標準誤差によって示した。図4が示すように、C57BL/6マウスにおいてはナルトグラスチム投与により約4.5倍の増加が確認でき、C57BL/KsJ−db/dbマウスにおいてはナルトグラスチム投与により約4.8倍の増加が確認できた。つまり、ナルトグラスチム投与により肝細胞に分化した骨髄由来細胞が増加した。
また、肺および腎臓の凍結切片からも、GFP陽性の数を計測した。その結果、ナルトグラスチム投与によりGFP陽性細胞数が増加していたことを見出した。
【図面の簡単な説明】
図1は、エラスターゼ投与による肺胞の平均2点間距離の変化と、フィルグラスチム投与による作用を示す。縦軸は平均2点間距離(μm)を表す。
図2は、エラスターゼ投与による肺胞の平均2点間距離の変化と、ナルトグラスチム投与による作用を示す。縦軸は平均2点間距離(μm)を表す。また、##は、P<0.01(エラスターゼ投与群対比、ウィルコクソン順位和検定)を表す。
図3は、エラスターゼ投与による肺胞の平均2点間距離の変化と、レチノイン酸またはレチノイン酸/ナルトグラスチム投与による作用を示す。縦軸は平均2点間距離(μm)を表す。また、##は、P<0.01(エラスターゼ投与群対比、ウィルコクソン順位和検定)を表す。
図4は、ナルトグラスチム投与有無による単位面積当たりのGFP陽性かつAlbumin陽性の細胞数を示す。縦軸の単位は(cells/cm)である。#は、P<0.05(Student’s t検定)を表す。また、WT、dbは、それぞれC57BL/6マウス群、C57BL/KsJ−db/dbマウス群を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:注射剤(ナルトグラスチム)
常法により、次の組成からなる注射剤を調製した。
ナルトグラスチム 25 μg
日局ポリソルベート80 2.5 g
日局乳糖 5 mg
日局生理食塩液 0.5 mL
実施例2:注射剤(ナルトグラスチムと全trans−レチノイン酸の単剤)
常法により、次の組成からなる注射剤を調整する。
ナルトグラスチム 25 μg
全trans−レチノイン酸 1.0 mg
日局ポリソルベート80 2.5 g
日局乳糖 5 mg
日局生理食塩液 0.5 mL
【産業上の利用可能性】
本発明により、顆粒球コロニー刺激因子を有効成分として含有する組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤が提供される。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤。
【請求項2】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドである請求項1記載の予防及び/または治療剤。
【請求項3】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである請求項1記載の予防及び/または治療剤。
【請求項4】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである請求項1記載の予防及び/または治療剤。
【請求項5】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、化学修飾された顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の予防及び/または治療剤。
【請求項6】
化学修飾がポリアルキレングリコール修飾である、請求項5記載の予防及び/または治療剤。
【請求項7】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とからなり、同時に、時間をおいて別々にまたは(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤。
【請求項8】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とからなり、同時に、時間をおいて別々にまたは(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組識破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤。
【請求項9】
CXCR4阻害剤がAMD−3100またはその誘導体である請求項8記載の予防及び/または治療剤。
【請求項10】
組織破壊を伴う疾患が神経疾患、循環器系疾患、肝臓疾患、膵臓疾患、消化管系疾患、腎臓疾患、皮膚疾患および肺疾患からなる群から選ばれる疾患である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の予防及び/または治療剤。
【請求項11】
神経疾患が脳梗塞、脳血管障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脊髄損傷、うつ病、躁鬱病のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項12】
循環器系疾患が閉塞性血管病、心筋梗塞、心不全、冠動脈疾患のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項13】
肝臓疾患がB型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変、肝不全のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項14】
膵臓疾患が糖尿病、膵炎のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項15】
消化管系疾患がクローン病、潰瘍性大腸炎のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項16】
腎臓疾患がIgA腎症、腎炎、腎不全のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項17】
皮膚疾患が褥瘡、熱傷、縫合創、裂傷、切開創、咬傷、皮膚炎、肥厚性瘢痕、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈性潰瘍、静脈性潰瘍のいずれかである請求項10記載の予防および/または治療剤。
【請求項18】
肺疾患が肺気腫、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、特発性間質性肺炎(肺線維症)、びまん性肺線維症、結核または喘息である請求項10記載の予防及び/または治療剤。
【請求項19】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを有効成分として含有する、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤。
【請求項20】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドである請求項19記載の薬剤。
【請求項21】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである請求項19記載の薬剤。
【請求項22】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、配列番号1記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである請求項19記載の薬剤。
【請求項23】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドが、化学修飾された顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドである、請求項19〜22のいずれか1項に薬剤。
【請求項24】
化学修飾がポリアルキレングリコール修飾である、請求項23記載の薬剤。
【請求項25】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とからなり、同時に、時間をおいて別々にまたは(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤。
【請求項26】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とからなり、同時に、時間をおいて別々にまたは(a)と(b)の両方を含有する一つの薬剤として投与するための、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤。
【請求項27】
CXCR4阻害剤がAMD−3100である請求項26記載の薬剤。
【請求項28】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを投与することを特徴とする組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療方法。
【請求項29】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療方法。
【請求項30】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療方法。
【請求項31】
顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドを投与することを特徴とする、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する方法。
【請求項32】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)レチノイン酸またはレチノイン酸誘導体とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する方法。
【請求項33】
(a)顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドと、(b)CXCR4阻害剤とを、同時に、または時間をおいて別々に投与することを特徴とする、組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する方法。
【請求項34】
組織破壊を伴う疾患の予防及び/または治療剤の製造のための顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドの使用。
【請求項35】
組織中から多能性幹細胞を末梢血に動員する薬剤の製造のための顆粒球コロニー刺激因子活性を有するポリペプチドの使用。

【国際公開番号】WO2004/100972
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506267(P2005−506267)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006895
【国際出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】