説明

組織酸素飽和度測定装置

【課題】生体組織中の血液と血液以外の組織とを分離して生体組織のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度を連続的に測定することができる組織酸素飽和度測定装置を提供すること。
【解決手段】組織酸素飽和度測定装置100は、異なる受光窓3A、3B間の空間的な吸光度差から生体組織200の吸収係数を算出し、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫して生体組織200中の血液を排除した吸収係数と圧迫解除後の血液を含んだ吸収係数との差から単位組織当りの酸素化ヘモグロビン量と脱酸素化ヘモグロビン量を求め、血液を除外した生体組織200と生体組織200中の血液とを分離して血液酸素飽和度を測定するなどする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非侵襲的に生体組織の酸素飽和度を測定する組織酸素飽和度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体組織の酸素状態を非侵襲的に測定する方法として、以下の二つの方法が知られている。
【0003】
1.発光源から複数波長の光を生体組織に入射して、同一(単一)受光部の反射光強度の時間的な差から生体組織中に含まれる血液の酸素化・脱酸素化ヘモグロビン濃度の相対変化量を求める方法
2.発光源から複数波長の光を生体組織に入射して、異なる(複数)受光部間の反射光強度の空間的な差から生体組織のヘモグロビン濃度指標と酸素化指標を求める方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記第1の従来方法では、相対的な変化量は得られても、酸素化・脱酸素化ヘモグロビン濃度の絶対量あるいは相対量を得ることができないため、酸素化・脱酸素化ヘモグロビンの比率が得られず、生体組織中の血液の酸素飽和度を求めることができない。また、上記第1の従来方法では、光散乱のない試料に適用できるビア・ランバート則を用い、同一窓の単純な吸光度の時間差分から酸素化・脱酸素化ヘモグロビン濃度の相対変化量を求めるが、実際の生体組織は光散乱体であり、発光源から受光部までの光路長も波長によって異なるため、正確な測定ができない。
【0005】
一方、上記第2の従来方法では、発光源から各受光部までの距離の差によって生じる空間的な吸光度差には吸光物質の光吸収による減光の他に光拡散による無吸収減光も含まれるが、光拡散方程式の近似解を用いることにより、無吸収減光を差し引き、生体組織中の吸光物質の濃度を導き出すことができる。この第2の従来方法は、光散乱・光拡散による影響が考慮されており、得られる濃度が変化量ではないという点で上記第1の従来方法よりも優れている。しかし、生体組織においては、血液中のヘモグロビンだけでなく筋組織中のミオグロビンによっても光吸収が起き、空間的な吸光度差からこれらを分離することはできない。このため、この第2の従来方法で得られた酸素飽和度と採血で得られた血液の酸素飽和度との間に大きな違いが生じることがある。また、2つの受光部を備えたセンサを用いる場合、上記第1の従来方法では表面から浅部に至る領域と表面から深部に至る領域の2つの領域の測定を同時に行えるが、上記第2の従来方法では、2つの窓間の吸光度差から深部(=(表面から深部に至る領域)−(表面から浅部に至る領域))のみの情報しか得られず、複数領域の測定を行うためには受光部の数を増やす必要があり、測定対象に対しセンサが大きくなってしまうという欠点がある。
【0006】
このように、従来方法には、生体組織中の酸素化・脱酸素化ヘモグロビン濃度の相対変化量しか得られないこと、血液を他の組織と分離して血液酸素飽和度を求めることができないこと、小さなセンサで同時に複数の領域を測定することができないこと、などの問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、生体組織中の血液と血液以外の組織とを分離して生体組織のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度を連続的にかつ同時に複数の領域にて測定することができる組織酸素飽和度測定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の組織酸素飽和度測定装置は、複数波長の光を生体組織に入射するための発光窓と該発光窓から生体組織に入射された光に対する生体組織の反射光を受光する複数の受光窓とを備えた送受光センサ部と、前記発光窓の発光タイミングを制御し発光に同期して前記受光窓から反射光強度信号を得る送受光信号制御部と、前記反射光強度信号をA/D変換し生体組織の吸収係数を算出する演算処理部と、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫するための加圧手段とを具備し、異なる受光窓間の空間的な吸光度差から生体組織の吸収係数を算出し、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫して生体組織中の血液を排除した吸収係数と圧迫解除後の血液を含んだ吸収係数との差から単位組織当りの酸素化ヘモグロビン量と脱酸素化ヘモグロビン量を求め、血液を除外した生体組織と生体組織中の血液とを分離して血液酸素飽和度を測定するとともに、異なる受光窓間から得られる吸収係数を基にした補正係数を用いて前記圧迫時点と圧迫解除後の同一受光窓における吸光度の変化量から生体組織中の血液酸素飽和度を各受光窓にて求め、生体組織の深さ方向に対し同時に複数の領域の測定を行い、さらに異なる受光窓間から得られる吸収係数と同一受光窓における動脈拍動に伴う吸光度の変化量から動脈血の酸素飽和度も同時に測定することを特徴とする。
【0009】
本発明によると、生体組織中の血液と血液以外の組織とを分離して、生体組織のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度を連続的にかつ同時に複数の領域にて測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る組織酸素飽和度測定装置の構成を表すブロック図、図2は、送受光センサ部の一例の構成図、図3は、複数(3つ)の受光窓を備えた送受光センサ部と各受光窓の測定深度(領域)との関係を示す図、図4は、生体組織のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度の測定手順を示すフローチャート、図5は、生体組織の静脈血ヘモグロビン濃度と静脈血酸素飽和度の測定手順を示すフローチャート、図6は、静脈血酸素飽和度の測定手順を示すフローチャートを示す。
【0012】
図1において、組織酸素飽和度測定装置100は、送受光センサ部1を備える。送受光センサ部1は、複数波長の光を発光するための発光窓2と、複数の受光窓3を備える。図1図示の送受光センサ部1は、同一の発光窓2に2つの異なる波長のLED(発光源)を備え、異なる2つの受光窓3A、3Bにフォトダイオード(受光素子)を1つずつ備えている。なお、LED及びフォトダイオードを送受光センサ部1に設ける代わりに、送受光信号制御部4側にLED及びフォトダイオードを設け、光ファイバを介して送受光センサ部1と接続するよう構成してもよい。また、発光源としてLEDの代わりにレーザー光発生器を用いてもよい。発光窓2から生体組織200に入射された光は、生体組織200内の吸光物質により吸収されながら、その一部が受光窓3A、3Bに反射光として受光され、受光素子により電気信号に変換されて送受光信号制御部4に送られる。
【0013】
送受光信号制御部4は、タイミング制御回路5と発光信号制御回路6と受光信号制御回路7とを備える。発光信号制御回路6は、タイミング制御回路5によって決められたタイミングに従い、複数波長の光を一波長ごとに時分割で発光するようLEDの発光を制御する。受光信号制御回路7は、LEDの発光タイミングに同期して各波長に対応した受光信号を取り込み、アナログ信号処理を行って受光強度信号を得る。
【0014】
演算処理部8は、A/D変換器9、CPU10、メモリ11、及び、その他表示・記録・保存等を行うための回路12,13,14等を備える。演算処理部8は、送受光信号制御部4で得た受光強度信号をA/D変換し、同一受光窓3A又は3Bの時間的な吸光度差、異なる受光窓3A、3B間の空間的な吸光度差、さらにその空間的な吸光度差の時間的変化量等を算出し、これらの吸光度差を基に吸収係数を求める。
【0015】
さらに、組織酸素飽和度測定装置100は、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺の生体組織への圧迫を行う加圧手段15を備える。組織酸素飽和度測定装置100は、加圧手段15を用い、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫して生体組織200中の血液を排除した生体組織200の吸収係数と、圧迫を解除した後の血液を含む生体組織200の吸収係数との差から単位組織当りの酸素化ヘモグロビン量と脱酸素化ヘモグロビン量を求め、血液を除外した生体組織200と生体組織200中の血液とを分離して血液酸素飽和度を測定する。
【0016】
次に、生体組織200の各パラメータを算出するための測定手順及び原理について、図2に示す送受光センサ部1を例に説明する。
【0017】
図2に示すように、発光窓2から第1受光窓3Aまでの距離がL1[cm]、発光窓2から第2受光窓3Bまでの距離がL2[cm]、第1受光窓3Aのゲイン(素子と回路を含めた受光信号増幅率)がG1、第2受光窓3BのゲインがG2である場合、受光窓3A、3B間の吸光度差は、光拡散方程式の近似解に受光窓3A、3BのゲインG1、G2を考慮した下記の式(1)で表される。
【0018】
Aw21(t)=Aw2(t)-Aw1(t)
=In{Iin(t)/Iw2(t)]−In[Iin(t)/Iw1(t)]
=In[Iw1(t)/Iw2(t)]
=[[3μa(t)μs´]^[1/2]][L2−L1]+2In(L2/L1)−In(G2/G1) (1)
Aw21(t):時刻tにおける第1受光窓3Aと第2受光窓3Bとの窓間の吸光度差
Aw1(t) :時刻tにおける入射光強度Iin(t)に対する第1受光窓3Aの吸光度(厳密には減光度)
Aw2(t) :時刻tにおける入射光強度Iin(t)に対する第2受光窓3Bの吸光度(厳密には減光度)
Iw1(t) :時刻tにおける第1受光窓3Aの受光強度
Iw2(t) :時刻tにおける第2受光窓3Bの受光強度
μa(t) :時刻tにおける生体組織200の吸収係数、単位は[cm^(−1)]
μs´ :生体組織200の等価散乱係数、単位は[cm^(−1)]
なお、Inはlogeを表し、また、^は、例えばA^2と表した場合、指数A2を意味する記号である。
【0019】
上記式(1)の吸光度差Aw21(t)には、光拡散による無吸収減光度(第2項)と受光窓3A、3B間のゲインG1、G2の違いによる減光度(第3項)が含まれるので、これら吸光物質以外による減光度を差し引き、吸収係数μa(t)を以下の式により求める。
【0020】
μa(t)=[[Aw21(t)−2In(L2/L1)+In(G2/G1)]^2]/[3μs´[L2−L1]^2] (2)
また、上記式(2)の吸収係数μa(t)は、吸光物質の吸光係数ε[l/(cm・mol)]と吸光物質の濃度C[mol/l]とから以下の式で表される。
【0021】
μa(t)=εC (3)
ここで、光吸収が主に生体組織200中の酸素化・脱酸素化ヘモグロビンによって生じているとすると、上記式(3)は、
μa(t)=εoCo+εdCd (4)
εo:酸素化ヘモグロビンの吸光係数、単位は[l/cm・mol]
εd:脱酸素化ヘモグロビンの吸光係数、単位は[l/cm・mol]
Co :単位組織当りの酸素化ヘモグロビン量(酸素化ヘモグロビン濃度)、単位は[mol/l]
Cd :単位組織当りの脱酸素化ヘモグロビン量(脱酸素化ヘモグロビン濃度)、単位は[mol/l]
と表される。上記式(4)におけるヘモグロビンの吸光係数の各波長における値は、様々な実験によって求められたヘモグロビンの吸収スペクトラムから明らかにされている既知の値であるので、未知数は酸素化ヘモグロビン濃度Coと脱酸素化ヘモグロビン濃度Cdの2つとなる。この未知の2つのパラメータを導くため、異なる2波長に対して上記式(4)を求め、
μa(λ1,t)=εo(λ1)Co+εd(λ1)Cd (5)
μa(λ2,t)=εo(λ2)Co+εd(λ2)Cd (6)
を連立方程式として解くことにより、酸素化・脱酸素化・総ヘモグロビン濃度、組織酸素飽和度が以下のように求められる。
【0022】
Co=[εd(λ2)μa(λ1,t)−εd(λ1)μa(λ2,t)]/Δε (7)
Cd=[−εo(λ2)μa(λ1,t)+εo(λ1)μa(λ2,t)]/Δε (8)
Ct=Co+Cd
=[[εd(λ2)−εo(λ2)]μa(λ1,t)+
[εo(λ1)−εd(λ1)]μa(λ2,t)]/Δε (9)
St02=[Co/Ct]×100
=[εd(λ2)μa(λ1,t)−εd(λ1)μa(λ2,t)]
/[[εd(λ2)−εo(λ2)]μa(λ1,t)+[εo(λ1)−εd(λ1)]μa(λ2,t)]
×100 (10)
Δε=εo(λ1)εd(λ2)−εd(λ1)εo(λ2) (11)
Ct :単位組織当りの総ヘモグロビン量(総ヘモグロビン濃度)、単位は[mol/l]
St02 :生体組織200の酸素飽和度、単位は[%]
しかし、実際の生体組織200内の吸光物質は生体組織200中の血液に含まれるヘモグロビンだけでなく、筋組織中のミオグロビンなども吸光物質であり、上記式(2)に示す吸収係数μa(t)にはこれら全ての吸収が含まれて(混在して)おり、これらを分離できていないため、上記式(4)を基に導かれた上記式(7)、(8)、(9)、(10)から単位組織当りのヘモグロビン量や血液酸素飽和度を正確に測定することはできない。
【0023】
そこで、血液が流動体であることを利用し、加圧手段15を用いて送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を生体の最高血圧以上で圧迫し(図4図示S1)、動脈と静脈をともに押し潰して生体組織200中の血液を排除し、圧迫時点(t=t0)の受光窓3A、3B間の吸光度差Aw21(t0)つまり
Aw21(t0)=In[Iw1(t0)/Iw2(t0)]
=[[3μa(t0)μs´]^[1/2]][L2−L1]+2In(L2/L1)−In(G2/G1) (12)
から血液を除外した生体組織200の吸収係数μa(t0)つまり
μa(t0)=[[Aw21(t0)−2In(L2/L1)+In(G2/G1)]^2]/[3μs´[L2−L1]^2] (13)
を求め(図4図示S2,3)、圧迫解除(図4図示S4)後の受光窓3A、3B間の吸光度差を基に上記式(1)、(2)を用いて得られる血液を含む生体組織200の吸収係数(図4図示S5,6)との差分値から生体組織200中の血液の吸収係数を以下のように求める(図4図示S7)。
【0024】
Δμa(t)=μa(t)−μa(t0) [t>t0] (14)
ここで、血液による光吸収はヘモグロビンによって生じるため、上記式(4)がそのまま適用でき、
Δμa(t)=εoCbo+εdCbd (15)
Cbo :単位組織当りの(血液に含まれる)酸素化ヘモグロビン量、単位は[mol/l]
Cbd :単位組織当りの(血液に含まれる)脱酸素化ヘモグロビン量、単位は[mol/l]
となり、上記式(5)、(6)と同様、異なる2波長に対する以下の式、
Δμa(λ1,t)=εo(λ1)Cbo+εd(λ1)Cbd (16)
Δμa(λ2,t)=εo(λ2)Cbo+εd(λ2)Cbd (17)
を連立方程式として解くことにより、生体組織200中の(血液の)酸素化・脱酸素化・総ヘモグロビン濃度、酸素飽和度が以下のように求められる。
【0025】
Cbo=[εd(λ2)Δμa(λ1,t)−εd(λ1)Δμa(λ2,t)]/Δε (18)
Cbd=[−εo(λ2)Δμa(λ1,t)+εo(λ1)Δμa(λ2,t)]/Δε (19)
Cbt=Cbo+Cbd
=[[εd(λ2)−εo(λ2)]Δμa(λ1,t)
+[εo(λ1)−εd(λ1)]Δμa(λ2,t)]/Δε (20)
Sb02=[Cbo/Cbt]×100
=[εd(λ2)Δμa(λ1,t)−εd(λ1)Δμa(λ2,t)]
/[[εd(λ2)−εo(λ2)]Δμa(λ1,t)+[εo(λ1)−
εd(λ1)]Δμa(λ2,t)]×100 (21)
Cbt :単位組織当りの(血液に含まれる)総ヘモグロビン量、単位は[mol/l]
Sb02 :生体組織200中の血液の酸素飽和度、単位は[%]
このようにして、送受光センサ部1周辺の圧迫解除後(t>t0)の、生体組織200中のヘモグロビン濃度と生体組織200中の血液の酸素飽和度を連続的に測定することができる(図4図示S8))。
【0026】
また、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫する際、圧迫する圧力を生体の最低血圧以下にすることにより、生体組織200中の静脈だけが選択的に押し潰され、生体組織200中の静脈血が排除されるので、圧迫して(図5図示S9)静脈血が排除された時点(t=t0)の吸収係数を求め(図5図示S10,11)、圧迫解除(図5図示S12)後の吸収係数(図5図示S13,14)との差分値(上記式(14))を求めると、生体組織200中の静脈血による吸収係数(図5図示S15)が得られる。以下、最高血圧で圧迫したときと全く同様に、上記式(15)〜(21)が適用でき、
Δμa(t)=εoCvo+εdCvd (22)
Cvo :単位組織当りの静脈血に含まれる酸素化ヘモグロビン量、単位は[mol/l]
Cvd :単位組織当りの静脈血に含まれる脱酸素化ヘモグロビン量、単位は[mol/l]
となり、上記式(5)、(6)と同様、異なる2波長に対する以下の式、
Δμa(λ1,t)=εo(λ1)Cvo+εd(λ1)Cvd (23)
Δμa(λ2,t)=εo(λ2)Cvo+εd(λ2)Cvd (24)
を連立方程式として解くことにより、生体組織200中の静脈血の酸素化・脱酸素化・総ヘモグロビン濃度、酸素飽和度が以下のようにして求まる。
【0027】
Cvo=[εd(λ2)Δμa(λ1,t)−εd(λ1)Δμa(λ2,t)]/Δε (25)
Cvd=[−εo(λ2)Δμa(λ1,t)+εo(λ1)Δμa(λ2,t)]/Δε (26)
Cvt=Cvo+Cvd
=[[εd(λ2)−εo(λ2)]Δμa(λ1,t)
+[εo(λ1)−εd(λ1)]Δμa(λ2,t)]/Δε (27)
Sv02=[Cvo/Cvt]×100
=[εd(λ2)Δμa(λ1,t)−εd(λ1)Δμa(λ2,t)]
/[[εd(λ2)−εo(λ2)]Δμa(λ1,t)+[εo(λ1)−
εd(λ1)]Δμa(λ2,t)]×100 (28)
Cvt :単位組織当りの静脈血に含まれる総ヘモグロビン量、単位は[mol/l]
Sv02 :生体組織200中の静脈血の酸素飽和度、単位は[%]
このようにして、生体組織200中の静脈血のヘモグロビン濃度と酸素飽和度を選択的、かつ連続的に測定することもできる(図5図示S16)。
【0028】
また、生体組織200中の上記式(2)に示す生体組織200の吸収係数(図6図示S17,18)から動脈拍動による変化分を取り出して(図6図示S19)、上記式(14)を求めれば、同じく上記式(15)〜(21)を適用でき、
Δμa(t)=εoΔCao+εdΔCad (29)
ΔCao :脈動に伴う単位組織当りの動脈血の酸素化ヘモグロビン変化量、単位は、[mol/l]
ΔCad :脈動に伴う単位組織当りの動脈血の脱酸素化ヘモグロビン変化量、単位は、[mol/l]
となり、上記式(5)、(6)と同様、異なる2波長に対する式、
Δμa(λ1,t)=εo(λ1)ΔCao+εd(λ1)ΔCad (30)
Δμa(λ2,t)=εo(λ2)ΔCao+εd(λ2)ΔCad (31)
を連立方程式として解くことにより、生体組織200中の拍動に伴う動脈血の酸素化・脱酸素化・総ヘモグロビン変化量や、動脈血酸素飽和度が以下のように求められる。
【0029】
ΔCao=[εd(λ2)Δμa(λ1,t)−εd(λ1)Δμa(λ2,t)]/Δε (32)
ΔCad=[−εo(λ2)Δμa(λ1,t)+εo(λ1)Δμa(λ2,t)]/Δε (33)
ΔCat=ΔCao+ΔCad
=[[εd(λ2)−εo(λ2)]Δμa(λ1,t)
+[εo(λ1)−εd(λ1)]Δμa(λ2,t)]/Δε (34)
Sa02=[ΔCao/ΔCat]×100
=[εd(λ2)Δμa(λ1,t)−εd(λ1)Δμa(λ2,t)]
/[[εd(λ2)−εo(λ2)]Δμa(λ1,t)+[εo(λ1)−
εd(λ1)]Δμa(λ2,t)]×100 (35)
ΔCat :脈動に伴う単位組織当りの動脈血の総ヘモグロビン変化量、単位は[mol/l]
Sa02 :生体組織200中の動脈血の酸素飽和度、単位は[%]
このようにして、動脈血酸素飽和度も同時に測定することができる(図6図示S20)。
【0030】
以上、図2の送受光センサ部1を例に、2つの受光窓3A、3B間の吸光度差を基にした測定と各パラメータの算出手順について説明したが、より多くの受光窓3を備えた送受光センサ部1を用いて吸光度差を求めるにあたり、受光窓3の組み合わせを選択することにより、測定深度を選択しながら上記と同じ手順で各パラメータを算出することができる。例として、3つの受光窓3A、3B、3Cを備えた送受光センサ部1と各受光窓3A、3B、3Cが捕える光のイメージを図3に示す。各受光窓3A、3B、3Cで観測される光は、発光窓2から離れるにつれ(比率的に)より広域の(表面〜深部までの)生体組織200からの反射光となる。よって、図3における測定深度は、受光窓3A、3B、3Cの組み合わせにより、以下のように選択することができる。
【0031】
1.受光窓3Aと3B:浅部〜中間領域
2.受光窓3Aと3C:浅部〜深部領域
3.受光窓3Bと3C:中間〜深部領域
このように、受光窓3の数を増やすことにより複数領域での測定が可能となるが、その一方で受光窓3が増えるに従い、送受光センサ部1の大きさは大きくなってしまう。同一受光窓3A又は3B又は3Cにおける吸光度の変化量から生体組織200中のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度を各受光窓3A、3B、3Cにて求めることができれば、小さなセンサでより多くの領域を切り分けて測定できるようになり、例えば、図3においては上記1〜3の領域の他に、以下の4〜6の領域で測定できるようになる。(図2に示す2つの受光窓3A、3Bを備えたセンサでも測定領域は浅部〜深部の領域だけであったのに対し、表面〜浅部、表面〜深部の測定ができるようになる。
【0032】
4.受光窓3A:表面〜浅部領域
5.受光窓3B:表面〜中間領域
6.受光窓3C:表面〜深部領域
そこで、異なる受光窓3間から得られる吸収係数を基にした補正係数を用い、同一受光窓3における吸光度の変化量から生体組織200中のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度を各受光窓3にて求める手順を、従来の各受光窓3にて求める方法(同一受光窓3における吸光度の変化量から変形ビア・ランバート則を用いて求める方法)と対比させて説明する。
【0033】
ビア・ランバート則を反射型センサを用いた組織計測に適用させるために変形させた変形ビア・ランバート則によると、基準時点(t=t0)からの同一受光窓3の時間的な吸光度差は入射光強度が一定に保たれているとして以下の式で表される。
【0034】
ΔAw(t)=Aw(t)−Aw(t0)
=In[Iin(t)/Iw(t)]−In[Iin(t0)/Iw(t0)]
=In[Iw(t0)/Iw(t)]
=Δμa(t)・KL (36)
ΔAw(t) :時刻tにおける基準時点(t=t0)に対する同一受光窓3の時間的な吸光度差
Aw(t0) :基準時点toにおける入射光強度Iin(t0)に対する受光窓3の吸光度
Aw(t) :時刻tにおける入射光強度Iin(t)に対する受光窓3の吸光度
Iw(t0) :基準時点t0における受光窓3の受光強度
Iw(t) :時刻tにおける受光窓3の受光強度
Δμa(t):時刻tにおける基準時点t0に対する生体組織200の吸収係数の変化量、単位は[cm^(−1)]
K :実効光路長(平均光路長)と発光窓2、受光窓3間距離との比率(比例定数として用いている)
L :発光窓2から受光窓3までの距離、単位は[cm]
上記式(36)より、吸収係数の変化量は、
Δμa(t)=[1/KL]ΔAw(t) (37)
となり、圧迫時点を基準時点(t=t0)として上記式(15)〜(21)に適用すれば、生体組織200中のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度が得られるわけだが、実際の生体組織200は散乱体であるため、上記式(36)の変形ビア・ランバート則を用いたこの方法は、光路長の波長依存性が少ない組織で、わずかなヘモグロビン濃度の変化を測定する場合にしか用いることはできない(その他の場合には大きな問題が生ずる。詳細は後述する。)。
【0035】
一方、生体における散乱を考慮した上記式(1)を基に同一受光窓3の時間的な吸光度差を考えると、同一受光窓3の時間的な吸光度差には、発光窓2からの距離Lの違いによる無吸収減光度もゲインGの違いによる減光度も含まれない(発光窓2からの距離Lも受光ゲインGも時間によって変わらない)ため、基準時点(t=t0)からの吸光度差は以下の式で表される(図5図示S14、図6図示S18)。
【0036】
ΔAw(t)=Aw(t)−Aw(t0)
=In[Iin(t)/Iw(t)]−In[Iin(t0)/Iw(t0)]
=In[Iw(t0)/Iw(t)]
=[[3μa(t)μs´]^[1/2]]L−[[3μa(t0)μs´]^[1/2]]L
=[[3μa(t0)μs´]^[1/2]]L[[μa(t)/μa(t0)]^[1/2]−1]
=[[3μa(t0)μs´]^[1/2]]L[[1+Δμa(t)/μa(t0)]^[1/2]−1] (38)
μa(t0):基準時点t0における生体組織200の吸収係数、単位は[cm^(−1)]
μa(t) :時刻tにおける生体組織200の吸収係数、単位は[cm^(−1)]
ここで、吸収係数の変化量Δμa(t)は基準時点t0の吸収係数μa(t0)に比べ十分小さく、
Δμa(t)<<μa(t0) (39)
であると仮定すると、上記式(38)は、以下のようになる。
【0037】
ΔAw(t)≒[[3μa(t0)μs´]^[1/2]]L[[1+Δμa(t)/2μa(t0)]−1]
=[[3μa(t0)μs´]^[1/2]]L[Δμa(t)/2μa(t0)]
=[[3μs´/μa(t0)]^[1/2]][L/2]Δμa(t) (40)
これより、吸収係数の変化量Δμa(t)は、以下の式で表される。
【0038】
Δμa(t)=[[μa(t0)/3μs´]^[1/2]][2/L]ΔAw(t) (41)
上記式(41)に基づき、動静脈、あるいは静脈圧迫時点を基準時点t0として上記式(15)〜(21)を適用すれば、同一受光窓3の時間的な吸光度差ΔAw(t)から各パラメータを求めることができることになる。
【0039】
ここで、上記式(37)と式(38)を対比させて考えてみると、左辺の吸光度差ΔAw(t)にかかる乗数をいずれも固定の定数と考えれば、いずれの式を用いても酸素飽和度は同じ値が得られ、ヘモグロビン濃度に関しても相対的には同じ値が得られるが、実際には基準(圧迫)時点の生体組織200の吸収係数μa(t0)は一定ではなく、測定部位によって異なり(組織の違いがあり)、また用いる波長によっても異なる(波長依存性がある)ため、上記式(37)を用いると、ヘモグロビン濃度、酸素飽和度いずれにおいても誤差が生じる。また、式(37)と式(38)のいずれも吸収係数の変化量と吸光度の変化量とは比例の関係にあるが、測定部位を圧迫し、血液を排除する場合には吸収係数の変化量は非常に大きくなり、上記式(39)における仮定が成り立たなくなるため、上記式(41)を用いても実際には正しい値が得られない。そこで、以下に示す補正係数β(図4図示S6、図5図示S14、図6図示S18)、
β=[μa(t)−μa(t0)]/[2μa(t0)[[μa(t)/μa(t0)]^[1/2]−1]] (42)
を用いて近似補正を施した以下の式(43)を用いる(図4図示S7、図5図示S15、図6図示S19)。
【0040】
Δμa(t)=β[[μa(t0)/3μs´]^[1/2]][2/L]ΔAw(t) (43)
なお、上記式(41)〜(43)のμa(t)、μa(t0)については、単一(同一)受光窓3の吸光度差からは直接的に得ることができないため、異なる受光窓3間の空間的な吸光度差から上記式(2)、(13)によって得られる値を用いる。
【0041】
本実施形態によると、生体組織200中の血液と血液以外の組織とを分離して、生体組織200のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度を連続的に測定することができる。
【0042】
また、生体組織200の静脈血ヘモグロビン濃度と静脈血酸素飽和度を選択的かつ連続的に測定することができる。
【0043】
また、複数受光窓3の情報(異なる受光窓3間の吸光度差と同一受光窓3の吸光度変化量)から測定深度(領域)を選択しながら生体組織200のヘモグロビン濃度、血液酸素飽和度、及び静脈血ヘモグロビン濃度、静脈血酸素飽和度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る組織酸素飽和度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】送受光センサ部の一例の構成図である。
【図3】複数(3つ)の受光窓を備えた送受光センサ部と各受光窓の測定深度(領域)との関係を示す図である。
【図4】生体組織のヘモグロビン濃度と血液酸素飽和度の測定手順を示すフローチャートである。
【図5】生体組織の静脈血ヘモグロビン濃度と静脈血酸素飽和度の測定手順を示すフローチャートである。
【図6】静脈血酸素飽和度の測定手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
100 組織酸素飽和度測定装置
1 送受光センサ部
2 発光窓
3、3A、3B、3C 受光窓
4 送受光信号制御部
8 演算処理部
15 加圧手段
200 生体組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数波長の光を生体組織に入射するための発光窓と該発光窓から生体組織に入射された光に対する生体組織の反射光を受光する複数の受光窓とを備えた送受光センサ部と、
前記発光窓の発光タイミングを制御し発光に同期して前記受光窓から反射光強度信号を得る送受光信号制御部と、
前記反射光強度信号をA/D変換し生体組織の吸収係数を算出する演算処理部と、
送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫するための加圧手段と
を具備し、
異なる受光窓間の空間的な吸光度差から生体組織の吸収係数を算出し、送受光センサ装着部位を含む装着部位周辺を圧迫して生体組織中の血液を排除した吸収係数と圧迫解除後の血液を含んだ吸収係数との差から単位組織当りの酸素化ヘモグロビン量と脱酸素化ヘモグロビン量を求め、血液を除外した生体組織と生体組織中の血液とを分離して血液酸素飽和度を測定するとともに、異なる受光窓間から得られる吸収係数を基にした補正係数を用いて前記圧迫時点と圧迫解除後の同一受光窓における吸光度の変化量から生体組織中の血液酸素飽和度を各受光窓にて求め、生体組織の深さ方向に対し同時に複数の領域の測定を行い、さらに異なる受光窓間から得られる吸収係数と同一受光窓における動脈拍動に伴う吸光度の変化量から動脈血の酸素飽和度も同時に測定することを特徴とする組織酸素飽和度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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