説明

組電池、それを用いた蓄電装置

【課題】大電流による充放電中でも複雑な判定回路を必要とせず、精度良く充電深度を評価できるリチウムイオン二次電池の組電池および蓄電装置を提供する。
【解決手段】あらかじめ任意の充電深度に設定された変曲領域を有する充電深度検知用のリチウムイオン電池と非充電深度検知用のリチウムイオンを直列に接続してなる組電池を用いることで、大電流を用いて充放電している際でも、充電深度検知用の単電池の電圧が充電深度検知電圧になった際精度良く組み電池全体の充電深度を検知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池である単位セルを複数個直列してなる組電池であり、その充放電状態を判定する機能を有する蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、EV自動車や自然エネルギーを活かしたスマートグリッドなどによる省エネルギー社会を目指した発展が望ましい。その中で、二次電池は蓄電装置として大きな役割を持つ。特に、リチウムイオン二次電池は、容量・出力ともにすぐれ、システムの小型化に貢献しうる。リチウムイオン二次電池は、過充電状態・過放電状態にすると劣化が進みやすく、定められた電圧範囲内で使用する必要がある。
【0003】
単電池・組電池の充電状態を評価するのには、一般的に開回路の電圧を測定し、あらかじめ測定された値と比較することで、大まかな状態を把握している。たとえば、特許文献1では、単電池のうち少なくとも1つの単電池の開回路電圧−残留容量特性を二次電池の放電状態に応じてその開回路電圧を比例的に変化させる電圧とすることで、その単電池の開回路電圧を測定し、組電池の充電深度を評価し、電池を安全に使用でき、組電池の長寿命化を図っている。
【0004】
しかしながら、充電、放電時に大きな電流を用いる場合、単電池の端子電圧は、単電池の内部抵抗を要因として、電圧上昇、電圧降下が加味された値が測定される。そのため、特許文献1の手法では、充放電電流の大きさによって充電深度の値が大きく異なる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−311308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、組電池の容量に対して大きい電流が入出力された際でも、精度よく組電池の充電深度を検知できる組電池およびそれを用いた蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の組電池は、複数のリチウムイオン二次電池が直列接続されてなり、リチウムイオン二次電池少なくともその一つが、あらかじめ定められた充電深度で急峻に電圧が変化する変曲領域を持つ充電深度検知用リチウムイオン二次電池であり、充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、正極又は負極の活物質材料として、前記の「あらかじめ定められた充電深度」に対し、
(1)この充電深度を100%とし、前記充電深度において充電状態が95%〜100%となる一の活物質と、
(2)この充電深度で定められる放電深度を100%の放電容量とし、前記放電深度において放電状態が95%〜100%となる他の活物質と、
を、正極又は負極の少なくともいずれかに対して混合して用いることを特徴とする組電池である。
【0008】
ここで、「充電深度」とは、満充電状態の容量を100%とした場合のリチウムイオン二次電池の充電状態を割合で表した数値をいう。また、「放電深度」とは、満充電状態を0%としたリチウムイオン二次電池の放電状態を割合で表した数値をいい、1から充電深度を引いた値を示す。なお、「充電深度」、及び、「放電深度」は充電時と放電時との、いずれかに限定されるものではない。「変曲領域」とは、単電池電圧が充電深度の変化に対して急峻な変化を示す領域をいう。図4に、本発明に用いることができる充電深度検知用リチウムイオン二次電池の、充電深度(X軸)と単電池電圧(Y軸)との関係を表す充放電カーブを示す。図4において、単電池電圧が充電深度の変化に対して急峻に変化する変化領域90が、本発明でいう「変曲領域」の一例である。
【0009】
本発明の「変曲領域」は、所定の電圧Aにおいて充電が完了する活物質材料と、電圧Aにおいて放電が完了する活物質材料と、を混合して、正極又は負極の少なくともいずれか一つを作製し、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電極とすることで、充電深度検知用リチウムイオン二次電池に発現させることができる。
【0010】
ここで、一般に組電池は、組電池全体の容量の90%程度は実使用に供されるべきものと考えられる。過放電防止のためには充電深度の検知を充電深度検知用リチウムイオン二次電池の容量の10%以下に抑える必要がある。上記の所定の電圧Aにおける充電深度が95%以上となる活物質材料と、所定の電圧Aにおける放電深度が95%以上(充電深度が5%以下)となる活物質材料を混合して、正極又は負極のいずれかを作製することにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域における充電深度変化量を、電池容量の10%以内に収束させることができる。例えば、電圧Aにおける充電深度が95%となる活物質材料と、電圧Aにおける放電深度が95%(充電深度が5%)となる活物質材料と、を正極活物質として又は負極活物質として混合することにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域を電池容量に対して10%とすることができ、10%以下に収束することができる。
【0011】
本発明の組電池は、上記の変曲領域における電圧変化量が100mV以上の充電深度検知用リチウムイオン電池を有する組電池であることが望ましい。
【0012】
1C程度での充放電時の単電池電圧は、微電流時での充放電時の単電池電圧に比べ、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下が、100mV程度大きく加味される場合がある。変曲領域での電圧変化量が100mV以上である充電深度検知用の単電池を用いることで、このような電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下の影響は小さくなり、比較的大きな電流時でも精度良く充電深度を検知することができる傾向がある。
【0013】
正極活物質又は負極活物質として混合する二種類以上の活物質材料の選択を、各固有電位に起因して生ずる電位差が100mV以上となる活物質材料の組み合わせとすることによって、上記の変曲領域における電圧変化量を100mV以上とすることができる。
【0014】
さらに本発明の組電池は、上記の変曲領域における電圧変化量が300mV以上の充電深度検知用リチウムイオン電池を有する組電池であることが望ましい。
【0015】
5C程度のより大電流での充放電時の単電池電圧は、微電流時での充放電時の単電池電圧に比べ、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下が、300mV程度大きく加味される場合がある。変曲領域での電圧変化量が300mV以上である充電深度検知用の単電池を用いることで、このような電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下の影響は小さくなり、大電流時にも精度良く充電深度を検知することができる傾向がある。
【0016】
正極活物質又は負極活物質として混合する二種類以上の活物質材料の選択を、各固有電位に起因して生ずる電位差が300mV以上となる活物質材料の組み合わせとすることによって、上記の変曲領域における電圧変化量を300mV以上とすることができる。
【0017】
充電深度検知用リチウムイオン電池は、低電圧正極活物質と高電圧正極活物質との二種類の正極活物質を有することが望ましい。ここで、正極活物質は、低電圧正極活物質として金属リチウムを基準として上限近傍の電圧が3.5V未満である正極活物質材料の少なくとも1種以上を含み、高電圧正極活物質として金属リチウムを基準として下限近傍の電圧が3.5V以上の正極活物質材料の少なくとも一種以上を含むことが望ましい。
【0018】
金属リチウムを基準として約3.5V未満でほぼ充電が終了する(たとえば充電深度が95%以上)低電圧正極活物質と、約3.5Vでほぼ放電が終了する(たとえば充電深度5%以下)高電圧正極活物質とは、幅広い材料の選択が可能であるため、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の特性を広げることができる。また、充電深度検知用の単電池に充電深度の変化量が10%以下の変曲領域を持たせることができ、精度良く充電深度を検知できる。
【0019】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質を含み、金属リチウムを基準として実使用域に3.5Vが含まれる正極活物質が、正極のすべての正極活物質に対して電気容量割合として10%以下であることが望ましい。
【0020】
この構成によれば、金属リチウムを基準として実使用域(例えば充電深度20%−80%)に3.5Vが含まれる正極活物質が電気容量の割合として10%以下とすることで、充電深度検知用単電池の変曲領域での充電深度変化量が10%以下となり、精度良く充電深度を検知することができる。
【0021】
低電圧正極活物質は、LiTiO、LiFePOのうちの少なくとも一種であり、高電圧正極活物質は、Li(Ni1-x-yCoMn)O(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Lia(Ni1-b-cCoAl)O(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMnO、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも一種であることが望ましい。
【0022】
LiTiO、LiFePOは、充電終了付近の電圧は3.5V以下であり、容量95%以上で充電を終了するため、低電圧正極活物質として選ぶことができる。また、Li(Ni1-x-yCoMn)O、Lia(Ni1-b-cCoAl)O、LiMnO、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOは、放電開始付近の電圧は3.5V以上であり、容量5%以下で放電を終了するため、高電圧正極活物質として選ぶことができる。これらを充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極活物質として混合して使用することで、精度良く充電深度を検知できる。
【0023】
特に、低電圧正極活物質はLiFePOであり、前記高電圧正極活物質はLiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも一種であることが望ましい。
【0024】
オリビン骨格を有するLiFePO正極活物質は比較的平坦な充放電カーブであり、放電末期、充電末期の充放電カーブは急峻に変化する。低電圧正極活物質、高電圧正極活物質共にオリビン骨格を有する正極活物質を用いることで、変曲領域での充電深度変化量が10%以下とすることがさらに容易となり、精度良く充電深度の検知をすることができる。
【0025】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、低電圧負極活物質と高電圧負極活物質との二種類の負極活物質を有することが望ましい。ここで、負極活物質は、低電圧負極活物質として金属リチウムを基準として上限近傍の電圧が0.5V未満である負極活物質材料の少なくとも1種以上を含み、高電圧負極活物質として金属リチウムを基準として下限近傍の電圧が0.5V以上の負極活物質の少なくとも一種以上を含むことが望ましい。
【0026】
金属リチウムを基準として、約0.5V以下でほぼ放電が終了する(たとえば充電深度が5%以下)低電圧負極活物質と、約0.5Vでほぼ充電が終了する(たとえば充電深度95%以上)高電圧負極活物質とを組み合わせることで、充電深度検知用の単電池に充電深度の変化量が10%以下の変曲領域を持たせることができ、精度良く充電深度を検知できる。
【0027】
また、負極活物質は、低電圧負極活物質としてグラファイト、高電圧負極活物質としてハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alのうちから選ばれる少なくとも1つを有することが望ましい。
【0028】
この構成によれば、グラファイトは放電終了付近の電圧は0.5V以下であり、容量の5%以下で放電を終了するため、低電圧負極活物質として選ぶことができる。また、ハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alは充電開始付近の電圧は0.5V以上であり、容量の95%以下で充電を終了するため、高電圧負極活物質として選ぶことができる。これらを、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の負極活物質として混合して使用することで、精度良く充電深度を検知できる。
【0029】
本発明の組電池は蓄電装置として用いられることが望ましい。ここで、蓄電装置は充電深度検知用リチウムイオン二次電池に並列に接続された電圧センサーと充電深度検知装置を少なくとも有し、充電深度検知装置には論理回路が含まれる。
【0030】
組電池に論理回路を接続した蓄電装置とすることで、蓄電装置自体が充電深度を検知することができ、電気自動車用蓄電装置や定置型蓄電装置として安全に使用できる。
【0031】
論理回路は、充電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧を検知したときに充電終了と判断し、放電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧よりも小さい電圧を検知したときに放電終了と判断することが望ましい。
【0032】
リチウムイオン二次電池に印加される電圧は、充電時と放電時とで向きが異なる。印加される電圧の方向にしたがって、充電時の充電深度検知電圧を変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧とし、放電時の充電深度検知電圧を変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より小さい電圧とすることにより、変曲領域の電圧変化量を有効に使用し大電流時においても精度よく組み電池の充電深度を検知することができる傾向がある。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、組電池の容量に対して大電流で充放電をおこなった場合も、組電池の充電深度を精度良く検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明を適用可能な実施形態の組電池を模式的に示す図である。
【図2】図2は本発明を適用可能な実施形態の蓄電装置を模式的に示す図である。
【図3】図3は本発明を適用可能な実施形態のリチウムイオン電池の構成例を示す概略断面図である。
【図4】図4は実施形態の充電深度検知用リチウムイオン二次電池の充電深度に対する単電池電圧の変化を示すグラフである。
【図5】図5は実施形態のリチウムイオン二次電池の組電池の充電深度に対する単電池電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(たとえば、組電池の構築手段、単電池を構成する電極体ユニットや電解質の構成、電池構築のためのプロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握されうる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0036】
本明細書において「単電池」とは、組電池を構成するために相互に直列接続され得る個々の電池をいう。本明細書において「電池」とは、リチウムイオン二次電池をいい、特に限定しない限り種々の組成を有するリチウムイオン二次電池を包含する。
【0037】
図4に、本実施形態の充電深度検知用リチウムイオン二次電池における、充電深度と単電池電圧との関係を表す充放電カーブを示す。上述のとおり、「変曲領域」とは、図4において、単電池電圧が充電深度の変化に対して大きく変化している変化領域90をいう。変曲領域90が発現する充電深度は、正極及び負極の少なくともいずれかの電極を、低電圧活物質と高電圧活物質との混合活物質からなる電極とするとともに、低電圧活物質と高電圧活物質との割合を調整することにより、任意に設定することができる。また、変曲領域90において発現する電圧差は、低電圧正極活物質と高電圧正極活物質とを固有の電圧に従って適宜選択することにより任意に設定することができる。
【0038】
図1に、本実施形態の組電池を模式的に示す。組電池10は、二種類の単電池の直列接続されておればよく、少なくとも非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12と、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14とが直列に接続された構成を備えていればよい。
【0039】
非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12と、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14との、各々の配列は特に限定されるものではない。例えば、組電池10が、非充電深度検知用のリチウムイオン二次電池12同士を並列接続する構成を有していてもよい。また、充電深度検知用のリチウムイオン二次電池14同士を並列接続する構成を有していてもよい。また充電深度の検知精度向上のため複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14を直列接続する構成を有していてもよい。さらに、図1の組電池10を直列・並列に接続し、より大きな組電池を構成していてもよい。
【0040】
本実施形態の組電池を、大型電源システム用として使用する場合、組電池10における非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12を充電深度検知用のリチウムイオン二次電池14よりも多くなるよう構成すれば、組電池10を高出力することが容易となる。この場合、組電池10全体の出力やエネルギー密度は、主に非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12の出力やエネルギー密度によって決定される。そして、本実施形態では充電深度検知用のリチウムイオン電池14によって組電池全体の充電深度が検知されるため、従来のように使用される充電深度の範囲で非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12の電圧変化または内部抵抗を調整する必要はない。したがって組電池10の大部分を構成する非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12として、電圧変化及び内部抵抗の少ない電池を使用することができる。そのため、本実施形態の組電池は安定な高出力を広い充電深度範囲で機器に供給することができる。また、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12は、初期電池容量が製造ばらつき程度内でそろっていればよい。
【0041】
一方、充電深度検知用の単電池の初期電池容量は非充電深度検知用の単電池の容量より小さいことが望ましい。充電深度検知用の単電池の容量が小さい場合、非充電深度検知用の単電池は過充電状態および過放電状態になりづらくなるため、組電池の充電深度をより安全に検知することができる。
【0042】
組電池10を充放電し充電深度検知用リチウムイオン二次電池14の電圧が所定の電圧になると、組電池10は充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12とが直列に接続されているため、組電池10全体があらかじめ定められた充電深度状態にあると判定できる。本明細書では、このときの電圧を「充電深度検知電圧」という。充電深度検知用リチウムイオン二次電池14の充放電カーブは、変曲領域90(図4参照)において電圧の急峻な変化を示すため、電圧の変化量に比して充電深度の変化量が少ない。このため、本実施形態の構成によれば組電池10の充電深度を精度良く判定することが可能となる。
【0043】
上述のように、変曲領域90が発現する充電深度は、電極の低電圧活物質と高電圧活物質との割合を調整することにより任意に設定することができる。組電池10の中に、複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14を用意し、これらの電極の低電圧活物質と高電圧活物質との割合を相違させることにより、組電池10の充電深度を段階的に検知することが可能となる。
【0044】
また、変曲領域90の発現する電圧差は、電極の低電圧正極活物質と高電圧正極活物質とを適宜選択することにより任意に設定することができる。最適な電池材料の組み合わせを選択することによって電圧変化の絶対量を大きくすることができ、接触抵抗、電池内部抵抗に起因する充放電中に生じる電圧差による判定誤差を小さくすることができる。そのため、組電池を充電中、組電池から機器へ放電中であっても高精度に充電深度を知ることができ、過充電・過放電を効果的に防止できる。
【0045】
図2に、本実施形態の組電池を組み込んだ蓄電装置の好ましい一形態の構成を模式的に示す。図1の組電池10と、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14に並列接続された電圧検知/充電深度検知装置30からなる。電圧検知/充電深度検知装置30の電圧検知装置は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14の電圧を測定し、充電深度検知装置は、その電圧値から充電深度を判定する。
【0046】
図3に、本実施形態の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14を模式的に示す。図3のリチウムイオン二次電池50は、リチウムイオンを吸蔵放出する材料(正極活物質,負極活物質)を含む正極60および負極70と、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、正極と負極との間にあって電解質を保持するセパレータ80と、を含む。
【0047】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池14の充放電カーブは、以下の三つの場合に変曲領域90を発現する。
(1)正極の正極合剤層61において固有電圧が異なる複数種の正極活物質を混合して同時に用いる場合
(2)負極の負極合剤層71において固有電圧が異なる複数種の負極活物質を混合して同時に用いる場合
(3)正極と負極とが共に上記の構成を有している場合
【0048】
正極活物質と負極活物質とはそれぞれ固有の電位を持つ。単電池の電圧は、正極活物質と負極活物質との固有電位に起因する電位差である。各電極に、固有電位の異なる複数の活物質材料を混ぜ合わせることにより、活物質間の電位の切れ目に起因する急峻な電位差を充放電カーブの変曲領域90に発現させることができる。また、LiMnFePOのように一つの活物質で二つの固有電位を有する活物質を選択すれば、一種類の活物質により急峻な電位差を充放電カーブの変曲領域90に発現させることができる。
【0049】
変曲領域が正極を起源とする(1)又は(3)の場合、正極合剤層61中の正極活物質同士のリチウムイオンの放電電位が充分に異なることが望ましい。すなわち、電位が離れている正極活物質同士を併用するのが望ましい。現在広く用いられているリチウムイオン電池用正極活物質の電圧範囲は、金属リチウムに対して約3.0〜約4.0Vである。本実施形態では、その中間電圧を基準として、低電圧正極活物質、高電圧正極活物質と区分けする。
【0050】
低電圧正極活物質とは、満充電近傍(充電深度95%)の電圧がリチウム金属に対して3.5V未満の活物質である。具体的には、LiTiO、LiFePOなどが例示される。
【0051】
高電圧正極活物質とは、充電初期(充電深度5%)の電圧が3.5V以上の活物質である。具体的には、Li(Ni1-x-yCoMn)O(以下、「NCM」という。0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li(Ni1-b-cCoAl)O(0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOなどが例示される。
【0052】
低電圧正極活物質が3.5Vに対して95%以上の充電深度で満充電となる活物質材料であり、高電圧正極活物質が3.5Vに対して5%以下の充電深度まで放電できる材料であれば、それらの組み合わせによって変曲領域90の充電深度変化量を電池容量の10%以内に収束することができる。本実施形態で上記列挙した低電圧正極材料と高電圧正極材料とのいずれを選択しても、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14は電池容量の10%以内に収束した変曲領域90を発現する。
【0053】
ここで、LiFePO(以下、「LFP」という)、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO等のオリビン構造を持つ正極活物質群は、通常使用域で電圧変化が少なく、充電初期、充電末期に急峻に電圧が変化する正極活物質である。そのため、オリビン構造を持つ正極活物質同士を併用すれば、変曲領域における電圧変化量に対する充電深度変化量をさらに小さくでき、検出精度を向上させることができる。例えば、LiFePOと、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOから選ばれるオリビン骨格正極活物質と、を組み合わせることが好適である。
【0054】
変曲領域が負極を起源とする(2)の場合、負極合剤層71中の負極活物質を複数種類選択することで、変曲領域を得ることができる。この場合も負極活物質の電位差が大きい組み合わせが望ましい。負極の場合は、0.5V程度を境界として低電圧負極活物質、高電圧負極活物質として区別できる。例えば、低電圧負極活物質としてはグラファイトが例示され、高電圧負極活物質としてハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alなどが例示される。
【0055】
本実施形態の充電深度検出用リチウムイオン二次電池の電極は、上記の活物質材料と、バインダーと、導電助剤とを含む塗料を集電体に塗布することによって形成することができる。バインダーには、ポリフッ化ビリニデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。これらバインダーを溶解させる溶媒には、N−メチルピロリドン(NMP)、純水などを用いることができる。導電助剤には、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などを用いることができる。集電体は、リチウムイオン二次電池に使用されている各種公知の材料を用いることができる。具体的には、負極集電体72としては銅箔が、正極集電体62としてはアルミニウム箔が例示される。
【0056】
正極は、併用する正極活物質と、所定の導電助剤と、所定のバインダーとを混合して作成することができる。例えば、高電圧正極活物質としてNCMを、低電圧正極活物質としてLFPを、それぞれ選択した場合、導電助剤としてカーボンブラックあるいは黒鉛を、バインダーとしてPVDFを、溶媒であるNMPに分散させて混合し、正極塗料を作成する。この塗料を正極集電体62であるアルミ箔上に塗布し、乾燥させて充電深度検知用リチウムイオン二次電池14の正極を形成する。このとき、NCMとLFPとの混合比率が異なる正極を作成し、複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14を得ることができる。これらを組電池10に用いることより、複数の充電深度において変曲領域90を発現することができる。
【0057】
負極は、併用する負極活物質と、所定の導電助剤と、所定のバインダーとを混合して作成することができる。例えば、高電圧負極活物質としてハードカーボンを、低電圧負極活物質としてグラファイトを、それぞれ選択した場合、導電助剤としてカーボンブラックを、バインダーとしてPVDFを、溶媒であるNMPに分散させて混合し、負極塗料を作成する。この塗料を負極集電体72である銅箔上に塗布し、乾燥させて充電深度検知用リチウムイオン二次電池14の負極を形成する。このとき、ハードカーボンとグラファイトとの混合比率が異なる負極を作成し、複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14を得ることができる。これらを組電池10に用いることより、複数の充電深度において変曲領域90を発現することができる。
【0058】
作成した正極と負極とは、セパレータを介して積層又は巻回され、電池要素として外装体の中に挿入される。セパレータには特に制限はなく、広く公知の材料を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂の微多孔膜を用いることができる。
【0059】
正極、負極、セパレータを積層した電池要素を封入する外装体は特に制限はなく、アルミニウムやステンレス製の缶、アルミニウムラミネート製の外装袋を適宜選択することができる。
【0060】
この外装体の中に電池要素を挿入した後、電解質が加えられる。電解質は、非水電解液、ゲル状の電解質、無機物あるいは有機物の固体電解質を広く用いることができる。例えば、非水電解液は溶媒と塩を含む物を用いることができ、これは適宜添加物を含んでいてもよい。
【0061】
非水電解液の溶媒には、リチウムイオン伝導性のある溶媒が望ましい。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状炭酸エステルを単体または適宜組み合わせて使用することができる。電気伝導度を高くし、かつ適切な粘度を有する電解液を得るため、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジフルオロカーボネート(FEC)等を併用してもよい。非水電解液中の塩には、LiPF、LiBF、LiClOなどを用いることができる。この後、外装体を真空密封し充電深度検知用リチウムイオン二次電池14を得ることができる。
【0062】
非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12の電極は、正極および負極の活物質として、急峻な変曲領域90を示さない活物質を用い、上記充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と同様の手順で作成することができる。さらに、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と同様の手順で、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12を作成できる。
【0063】
上記のように作成した、充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12とを直列接続することによって、本実施形態の組電池を得ることができる。このとき、変曲領域が発現する充電深度が異なる複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12とを直列に接続すれば、段階的に充電深度を検出する機能を有する組電池を得ることができる。
【0064】
本実施形態の組電池は、動力源として各種機器に組み込まれる。組電池は、そのまま各種機器に搭載しても、複数の組電池と制御回路を組み合わせて組電池モジュールを各機器に搭載してよい。組電池モジュールを作成する際には組電池を直列・並列に接続してよく、これにより充電深度を容易に検出できる組電池モジュールを得ることができる。
【0065】
充電深度検知用のリチウムイオン電池を用いた組電池は、電圧センサーを充電深度検知用リチウムイオン電池に対し並列接続した構造を有し、電圧センサーに接続された充電深度検知装置を含む蓄電装置とすることが望ましい。この場合、充電深度検知装置には、組電池全体の充電深度を評価する論理回路を含むことが望ましい。
【実施例1】
【0066】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
実施例1では、充電深度検知用の電池として正極にLFPとNCMの二種類の正極活物質を用いた。LFPは水熱合成法を用いて作成した。
【0068】
1−1 充電深度検知用リチウムイオン二次電池の作成
〔電池電極の作成〕
(正極)
正極活物質として、NCM(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)(戸田工業製)と、LFPとの二種類を、導電助剤としてカーボンブラック(電気化学工業(株)製、DAB50)及び黒鉛(ティムカル(株)製、KS−6)、バインダーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、を用い正極を作成した。これらはNCMを42.5g、LFPを42.5g、カーボンブラックを5g、黒鉛を5gの混合比率とした、これにPVDF(呉羽化学工業(株)製、KF7305)のN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)溶液(50g、10wt%)を加えて混合し、塗料145gを作成した。この塗料を集電体であるアルミニウム箔(厚み20μm)にドクターブレード法で塗布後、90℃で乾燥し、圧延した。
【0069】
(負極)
負極活物質として天然黒鉛を45g、導電助剤としてカーボンブラックを2.5g、をドライミックスした後に、バインダーとしてPVDF溶液22.5gを加え負極用の塗料を作成した。この塗料を集電体である銅箔(厚み16μm)にドクターブレード法で塗布後、乾燥(90℃)、圧延した。
【0070】
〔電池の作成〕
得られた正極、負極を、セパレータ(ポリオレフィン製の微多孔質膜)と共に所定の寸法に切断した。正極、負極には、外部引き出し端子を溶接するために塗料(活物質+導電助剤+バインダー)を塗布しない部分を設けた。正極、セパレータ、負極をこの順序で積層した。このとき、リチウムイオン二次電池の容量が200mAhになるように積層した。正極、負極には、それぞれ、外部引き出し端子としてアルミニウム箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)、ニッケル箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)を超音波溶接した。この外部引き出し端子に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)を巻き付け熱接着させた。
【0071】
正極、負極、セパレータを積層した電池要素を、アルミニウムラミネート材料からなり、その構成は、PET(12μm)/Al(40μm)/PP(50μm)である外装体に収容した。外装体の中に電池要素を入れた後、電解液としてエチレンカーボンネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(EC:DEC=30:70vol%)にLiPFを1Mに溶解させたものを添加し、外装体を真空密封し、リチウムイオン二次電池を作成した。リチウムイオン二次電池は、封止後、10mA(0.05C)にて10時間エージングした。
【0072】
得られたリチウムイオン二次電池の、初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行い、充放電カーブを得た。充放電カーブにおいて、充電状態が40%程度のところに電圧が大きく変化する変曲領域が認められた。
【0073】
1−2 非充電深度検知用リチウムイオン二次電池の作成
〔電池電極の作成〕
(正極)
正極活物質としてLFPを、導電助剤としてカーボンブラック(電気化学工業(株)製、DAB50)及び黒鉛(ティムカル(株)製、KS−6)、バインダーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、を用い正極を作成した。LFPを85g、カーボンブラックを5g、黒鉛を5g、をドライミックスした後、PVDF(呉羽化学工業(株)製、KF7305)のNMP(N−メチル−2−ピロリジノン)溶液(50g,10wt%)を加えて混合し、塗料約145gを作成した。この塗料を集電体であるアルミニウム箔(厚み20μm)にドクターブレード法で塗布後、90℃で乾燥し、圧延した。
【0074】
(負極)
1−1と同様の手順で負極を作成した。
【0075】
〔電池の作成〕
1−1と同様にリチウムイオン二次電池を作成した。初期の平均放電容量は約200mAhであった。
【0076】
1−3 組電池の作成
充電深度検知用リチウムイオン二次電池を一個、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池を三個直列接続し、組電池を作成した。各電池は、180mAh(充電状態90%)となるようにあらかじめ充電を行った。
【0077】
組み上げた組電池電圧に対して、全体が12−16.8Vとなるように充電を行った。充放電カーブを図5に示す。図5に示すように、この組電池では充電深度検知用リチウムイオン二次電池と同様に充電深度40%付近に変曲領域が発現した。
【0078】
次に放電を行ったところ、初期の平均放電容量は約200mAhであった。このとき、200mA(1C), 600mA(3C), 1000mA(5C)の各電流で充放電カーブを測定した。その際に、開回路での変曲点電圧を基準とし、各電流時での変曲点の変異量を評価し、またその変異分(変曲領域の幅)から充電深度の判定誤差(SOC誤差)も評価した。測定結果を表1に示す。本実施例の組電池は、開回路時だけではなく、充放電中でも組み電池の充電状態を評価できた。
【0079】
(実施例2)
実施例2では、2つの変曲点を持つ充電深度検知要の単電池を用い、組電池を作成した。
【0080】
2−1 充電深度検知用リチウムイオン二次電池の作成
〔電極の作成〕
(正極)
正極活物質として、水熱合成法により合成したLFP、LiVOPO(LVP)、LiMnPO(LMnP)の三種類を、LFPを28.3g、LVPを28.3g、LMnPを28.3gにて用いた他は、実施例1,1−1と同様の手順で、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極を作成した。
【0081】
(負極)
実施例1,1−1と同様の手順で充電深度検知用リチウムイオン二次電池の負極を作成した。
【0082】
〔電池の作成〕
実施例1,1−2と同様の手順で充電深度検知用リチウムイオン二次電池を作成した。
得られた電池の初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。充放電カーブには、充電状態が30%程度、65%程度の二箇所に電圧が大きく変化する変曲領域が発現した。
【0083】
2−2 非充電深度検知用リチウムイオン二次電池の作成
実施例1,1−2と同様の手順で非充電深度検知用リチウムイオン二次電池を作成した。
【0084】
2−3 組電池の作成
充電深度検知用リチウムイオン二次電池一個と、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池三個とを直列接続し、組電池を作成した。その際に、各電池が180mAh(充電状態90%)となるようにあらかじめ充電を行った。
【0085】
組電池電圧が12―16.8Vとなるように充電を行った場合、充電深度30%程度、65%程度に変曲点が発現した。
【0086】
初期の平均放電容量は約200mAhであった。200mA(1C)、600mA(3C)、1000mA(5C)の各電流で充放電カーブを測定した。その際に、開回路での変曲点電圧を基準とし、各電流時での変曲点の変異量を評価し、またその変異分から充電深度の判定誤差も評価した。測定結果を表1に示す。
【0087】
(比較例1)
3−1 充電深度検知用リチウムイオン二次電池の作成
〔電極の作成〕
(正極)
正極活物質としてLMn(戸田工業株式会社製)を85g、導電助剤としてカーボンブラック(電気化学工業株式会社株製、DAB50)を5g及び黒鉛(ティムカル株式会社製、KS−6)を5g、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF、株式会社クレハ、KF7305)を用い正極を作成した。PVDFのNMP(N−メチル−2−ピロリジノン)溶液(50g、10wt%)を加えて混合し塗料約145gを作成した。この塗料を集電体であるアルミニウム箔(厚み20μm)にドクターブレード法で塗布後、90℃で乾燥し、圧延して正極を作成した。
【0088】
(負極)
ハードカーボン(株式会社クレハ製カーボトロンP)を85g、CBを5g、Grを5g、PVDFのNMP(N−メチル−2−ピロリジノン)溶液(50g、10wt%)にて塗料作成した。この塗料を集電体である銅箔(厚み16μm)にドクターブレード法で塗布後、乾燥(90℃)、圧延し負極を作成した。
【0089】
〔電池の作成〕
1−2と同等に電池を作成し、約200mAhの充電深度検知用電池を得た。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。特許文献1に示される、全領域に充電深度に対し電位がリニアに変化する充放電カーブをもつ充電深度検知用の電池が得られた。
【0090】
3−2 非充電深度検知用リチウムイオン二次電池の作成
1−2と同様の手順で、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池を使用した。
【0091】
3−3 組電池の作成
充電深度検知用の単電池1つと、非充電深度検知用の単電池を3つ直列つなぎし、組電池を作成した。その際に、各電池が180mAh(充電状態90%)となっているようにあらかじめ一本ずつ充電を行った。
【0092】
組電池電圧が12−16.8Vとなるように充電を行った場合、全領域に変曲点は現れなかった初期の平均放電容量は約200mAhであった。200mA(1C)、600mA(3C)、1000mA(5C)の各電流で充放電カーブを測定した。その際に、開回路での変曲点電圧を基準とし、各電流時での変曲点の変異量を評価し、またその変異分から充電深度の判定誤差も評価した。結果を表1に示す。 表1から明らかなように、実施例1および2の結果は、1Cから5Cの全ての条件において10%以内の制御に好適なSOC測定誤差を示した。それに対して、比較例の結果は全て10%以上のSOC誤差を示した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、大電流による充放電中でも複雑な判定回路を必要とせず、精度良く充電深度を評価できるリチウムイオン二次電池の組電池および蓄電装置を提供するため、リチウムイオン二次電池の組電池および蓄電装置の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0094】
10 リチウムイオン二次電池の組電池
12 非充電深度検知用のリチウムイオン二次電池
14 充電深度検知用のリチウムイオン二次電池
20 リチウムイオン二次電池
30 電圧検出装置と充電深度検知装置
40 リチウムイオン二次電池の蓄電装置
50 リチウムイオン二次電池
60 正極
61 正極合剤層
62 正極集電箔
70 負極
71 負極合剤層
72 負極集電箔
80 セパレータ
90 変曲領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリチウムイオン二次電池が直列接続されてなり、
前記リチウムイオン二次電池のうちの少なくともその一つが、あらかじめ定められた充電深度で急峻に電圧が変化する変曲領域を持つ充電深度検知用リチウムイオン二次電池であり、
前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、正極又は負極の活物質材料として、前記充電深度に対し、
(1)この充電深度を100%とし、前記充電深度において充電状態が95%〜100%となる、一の活物質と、
(2)この充電深度で定められる放電深度を100%の放電容量とし、前記放電深度において放電状態が95%〜100%となる、他の活物質と、
を、正極又は負極の少なくともいずれかにおいて混合して用いることを特徴とする組電池。
【請求項2】
前記変曲領域での電圧変化量が100mV以上の充電深度検知用リチウムイオン電池を有する請求項1記載の組電池。
【請求項3】
前記変曲領域での電圧変化量が300mV以上の充電深度検知用リチウムイオン電池を有する請求項1記載の組電池。
【請求項4】
前記充電深度検知用のリチウムイオン電池の正極活物質のうち、金属リチウムを基準として実使用域に3.5Vが含まれるすべての正極活物質が電気容量の割合として10%以下であることを特徴とする請求項1〜4の組電池。
【請求項5】
前記低電圧正極活物質は、LiTiO、LiFePOの少なくともいずれかであり、
前記高電圧正極材料は、Li(Ni1-x-yCoMn)O(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li(Ni1-b-cCoAl)O(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMnO、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも1つであること特徴とする請求項4または5に記載の組電池。
【請求項6】
前記低電圧正極活物質は、LiFePOであり、
前記高電圧正極材料は、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項4〜6に記載の組電池。
【請求項7】
前記充電深度検知用のリチウムイオン電池の負極活物質は、低電圧負極活物質として金属リチウムを基準として上限近傍の電圧が0.5V未満負極活物質から少なくとも1種以上選ばれ、高電圧負極活物質として金属リチウムを基準として下限近傍の電圧が0.5V以上の負極活物質からすくなくとも1種以上選ばれることを特徴とする請求項1〜7に記載の組電池。
【請求項8】
前記低電圧負極活物質は、グラファイトであり、
前記高電圧負極活物質は、ハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項8に記載の組電池。
【請求項9】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組電池と、少なくとも充電深度検知用リチウムイオン二次電池に並列に接続された電圧センサーと、充電深度検知装置と、を有し、前記充電深度検知装置は論理回路を含むことを特徴とする蓄電装置。
【請求項10】
前記論理回路は、充電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧を検知したときに充電終了と判断し、放電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧よりも小さい電圧を検知したときに放電終了と判断する演算機能を有することを特徴とする、請求項10に記載の蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−89523(P2013−89523A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230378(P2011−230378)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】