説明

組電池およびその製造方法

【課題】拘束荷重が加えられた状態で良好な出力特性を維持し長寿命を実現し得る組電池を提供する。
【解決手段】組電池を構成する単電池12はシート状正極集電体32とシート状負極集電体34とがシート状セパレータとともに捲回されて成る扁平形状の捲回電極体30を備えており、該捲回電極体を構成するシート状正極集電体の捲回終端部32Eおよびシート状負極集電体の捲回終端部34Eが該捲回電極体における拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置30Bに配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の充放電可能な単電池(二次電池)が直列に接続された組電池に関する。詳しくは、車両搭載用として好適な組電池を構成する単電池の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池その他の二次電池あるいはキャパシタ等の蓄電素子を単電池とし、該単電池を複数直列接続して成る組電池は高出力が得られる電源として、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池を単電池として複数直列に接続した組電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待される。
このような組電池を構成する単電池に装備される電極体として、長尺なシート状正極集電体、シート状負極集電体およびシート状セパレータを扁平形状に捲回して成る捲回電極体が用いられている。例えば、特許文献1〜3には、そのような扁平形状捲回電極体を備えた二次電池(単電池)が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−167929号公報
【特許文献2】特開2000−285953号公報
【特許文献3】特開2002−8708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車等の車両に搭載される組電池は、搭載スペースが制限されることに加えて振動が発生する状態での使用が前提となることから、多数の単電池を配列し且つ拘束した状態で組電池が組み立てられる。かかる拘束時には組電池を構成する個々の単電池に相当な荷重が加えられる。従って、組電池を構成する単電池には、かかる荷重が加えられた状態であっても充放電特性、出力特性が良好で長寿命であることが要求される。
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、直列に接続された複数の単電池からなる組電池であって、拘束荷重が加えられた状態で良好な充放電特性、出力特性等を維持し長寿命を実現し得る単電池(電極体)を複数備えた組電池を提供することである。また、他の目的はそのような組電池を備える自動車等の車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、組電池を構成する単電池として捲回電極体を備える単電池を用いる場合において、当該捲回電極体の構造を詳細に検討し、その捲回状態を工夫することによって上記課題を解決して目的とする組電池を構築し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によって提供される組電池は、複数の充放電可能な単電池が直列に接続されて構成された組電池である。上記複数の単電池のそれぞれは、シート状正極集電体とシート状負極集電体とがシート状セパレータとともに捲回されて成る扁平形状の捲回電極体を備えている。
ここで開示される組電池では、隣り合う少なくとも二つの上記単電池は、該単電池それぞれが備える捲回電極体の扁平な面が対向するように配列されるとともに該捲回電極体に対して該配列方向に荷重が加えられた状態で拘束されている。そして、上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体において、シート状正極集電体の捲回体外側に配置される捲回終端部(以下「正極集電体シート終端部」という。)およびシート状負極集電体の捲回体外側に配置される捲回終端部(以下「負極集電体シート終端部」という。)は、いずれも該捲回電極体における拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されていることを特徴とする。
【0006】
本明細書において「単電池」とは、組電池を構成するために相互に直列接続され得る個々の蓄電素子を指す用語であり、特に限定しない限り種々の組成の電池、キャパシタを包含する。また、「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいい、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等のいわゆる蓄電池を包含する。
リチウムイオン電池を構成する蓄電素子は、ここでいう「単電池」に包含される典型例であり、そのような単電池を複数備えて成るリチウムイオン電池モジュールは、ここで開示される「組電池」の典型例である。
【0007】
上述した正負極集電体シート終端部は捲回電極体の外表面部において段差を形成する原因となり得る。かかる段差が捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位(典型的には捲回電極体の扁平な外表面に包含されるいずれかの部位)に形成されると、拘束荷重によって捲回電極体が受ける圧力(面圧)が当該段差部分(即ちシート終端部が存在する部分)とその周囲の部分との間で異なり得る。かかる荷重圧(面圧)の不均一さは、即ち捲回体内部での圧力のかかり具合に不均一を生じさせ、延いては捲回体内部において電解質等の電池構成成分の分布を不均一にさせて結果的に当該単電池のサイクル特性(充放電を繰り返すことに伴う容量変化に関する性質)を悪化させる虞があるため好ましくない。
上記構成の本発明の組電池では、上述した正負極集電体シート終端部がいずれも捲回電極体における拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されている。このため、捲回電極体にかかる拘束荷重圧(面圧)を均一化し得る。従って、本構成の組電池では、上記のような不具合が生じず、サイクル特性に優れ、長寿命を実現することができる。
【0008】
上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体において、さらにシート状セパレータの捲回体外側に配置される捲回終端部(以下「セパレータシート終端部」という。)が該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されていることが好ましい。セパレータシート終端部が正負極集電体シート終端部と同様に拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されることによって、捲回電極体にかかる拘束荷重圧(面圧)をより均一化し得、よりサイクル特性に優れた長寿命を実現することができる。
【0009】
ここで開示される組電池の好ましい一態様は、上記配列された少なくとも二つの単電池間に該単電池とともに上記配列方向に荷重が加えられた状態で拘束される間隔保持板が配置されている。ここで正極集電体シート終端部および負極集電体シート終端部は、いずれも上記捲回電極体における上記間隔保持板によって押圧され得る部位から外れた位置に配置されていることを特徴とする。セパレータシート終端部も同様に上記押圧部位から外れた位置に配置されることが特に好ましい。
かかる構成の組電池では、間隔保持板(スペーサー)が単電池間に挿入・配置された状態で上記配列方向に拘束されるため、該配列方向の拘束荷重は間隔保持板を介して各単電池の捲回電極体に加えられる。本構成の組電池では、間隔保持板によって押圧され得る部位に上記シート終端部のいずれも配置されていないため、間隔保持板によって押圧され得る部位に均一な荷重圧(面圧)がかかる。従って、本構成の組電池では、間接保持板の保持に拘わらず、サイクル特性に優れ、長寿命を実現し得る。
【0010】
ここで開示される組電池の好ましい他の一態様は、正極集電体シート終端部および負極集電体シート終端部がいずれも上記対向する扁平面から外れた位置に配置されていることを特徴とする。セパレータシート終端部も同様に上記対向する扁平面から外れた位置に配置されることが特に好ましい。
かかる位置に上記シート終端部を配置することにより、捲回電極体の扁平面に対して全体に亘って均一な拘束荷重圧(面圧)をかけることができる。
【0011】
好ましくは、正極集電体シート終端部および負極集電体シート終端部がいずれも捲回電極体における表裏二つの扁平面間に形成されたコーナー部に配置されていることを特徴とする。セパレータシート終端部も同様に上記コーナー部に配置されることが特に好ましい。
かかるコーナー部に上記シート終端部を配置することにより、当該シート終端部に影響されることなく捲回電極体の扁平面に対して全体に亘って均一な拘束荷重圧(面圧)をかけることが容易に行える。
【0012】
また、ここで開示される組電池の好ましい他の一態様は、上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体において、正極集電体シート終端部、負極集電体シート終端部およびセパレータシート終端部のうちの少なくとも一つの捲回終端部を捲回電極体本体の外表面に固定するためのテープ材が、該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されていることを特徴とする。
上記テープ材はシート終端部と同様、捲回電極体の外表面部において段差を形成する原因となり得るが、ここで開示される組電池では、かかる段差が捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置される。このため、本構成の組電池によると、テープ材の存在に拘わらず、捲回電極体にかかる拘束荷重圧(面圧)を均一化し、サイクル特性に優れた長寿命を実現することができる。
【0013】
また、ここで開示される組電池の好ましい他の一態様は、上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体において、シート状正極集電体の捲回体中心側に配置される捲回始端部(以下「正極集電体シート始端部」という。)および前記シート状負極集電体の捲回体中心側に配置される捲回始端部(以下「負極集電体シート始端部」という。)は、いずれも該捲回電極体における前記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されていることを特徴とする。さらにシート状セパレータの捲回体中心側に配置される捲回始端部(以下「セパレータシート始端部」という。)が該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されていることが好ましい。
これらシート始端部をシート終端部と同様に捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置することにより、捲回電極体が受ける拘束荷重圧を捲回電極体の内部においても均一化し得、より一層サイクル特性に優れた長寿命を実現することができる。
【0014】
また、本発明はここで開示される組電池を製造する方法を提供する。即ち、本発明によって提供される組電池製造方法は、複数の充放電可能な単電池が直列に接続されて構成された組電池の製造方法であって、シート状正極集電体とシート状負極集電体とがシート状セパレータとともに捲回されて成る扁平形状の捲回電極体を備える少なくとも二つの単電池を用意すること、および、上記複数の単電池を、該単電池それぞれが備える上記捲回電極体の扁平な面が対向するように配列するとともに該捲回電極体に対して該配列方向に荷重が加えられた状態で拘束することを包含する方法である。そして、上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体において、正極集電体シート終端部および負極集電体シート終端部をいずれも該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受ける部位から外れた位置に配置することを特徴とする。
さらにセパレータシート終端部を該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受ける部位から外れた位置に配置することが好ましい。
【0015】
好ましくは、正極集電体シート終端部および負極集電体シート終端部(さらに好ましくはそれらと共にセパレータシート終端部)をいずれも上記対向する扁平面から外れた位置に配置する。
特に好ましくは、正極集電体シート終端部および負極集電体シート終端部(さらに好ましくはそれらと共にセパレータシート終端部)をいずれも捲回電極体における表裏二つの扁平面間に形成されたコーナー部(湾曲部)に配置する。
【0016】
また、上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体において、正極集電体シート終端部、負極集電体シート終端部およびセパレータシート終端部のうちの少なくとも一つの捲回終端部を捲回電極体本体の外表面に固定するためにテープ材を使用する場合、当該テープ材を該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置することが好ましい。
また、上記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える捲回電極体の構築にあたっては、正極集電体シート始端部、負極集電体シート始端部(さらに好ましくはそれらと共にセパレータシート始端部)をいずれも該捲回電極体における上記拘束荷重を実質的に受ける部位から外れた位置に配置することが好ましい。
また、間隔保持板を備える上記構成の組電池を製造する場合、正極集電体シート終端部、負極集電体シート終端部(さらに好ましくはそれらと共にセパレータシート終端部)をいずれも捲回電極体における間隔保持板によって押圧され得る部位から外れた位置に配置することが好ましい。
本発明によって提供される組電池製造方法によって、ここで開示されるいずれかの組電池を好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、組電池の構成要素たる単電池の構造、捲回電極体の構造と捲回方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極、負極およびセパレータの構成および製法、単電池の拘束方法、車両への組電池搭載方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本発明に係る組電池は、上記のとおり、サイクル特性に優れ、長寿命を実現することができる。かかる特性により、本発明に係る組電池は、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って、本発明は、図10に模式的に示すように、かかる組電池10を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
【0018】
本発明に係る組電池は、充放電可能な二次電池を単電池とし、そのような単電池を複数個直列に接続して成る組電池であればよく、単電池の構成は特に制限されない。ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタ等が本発明の実施に好適な単電池の構成として挙げられる。特に本発明の実施に好適な単電池の構成はリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池は高エネルギー密度で高出力を実現できる二次電池であるため、高性能な組電池、特に車両搭載用組電池(電池モジュール)を構築することができる。
特に限定することを意図したものではないが、以下、電池構成としてリチウムイオン電池を例にして本発明を詳細に説明する。
【0019】
組電池を構成する単電池は、従来の組電池に装備される単電池と同様、典型的には所定の電池構成材料(正極負極それぞれの活物質、正極負極それぞれの集電体、セパレータ、電解質等)を具備する捲回電極体と、該電極体を収容する容器とを備える。
一例として図1および図2に示すように、ここで開示される組電池10は、複数(本実施形態では4個)の単電池12を備える。単電池12は、後述する扁平形状の捲回電極体を収容し得る形状(本実施形態では箱形)の容器14を備える。
かかる容器14には捲回電極体の正極集電体と電気的に接続する正極外部端子15および負極集電体と電気的に接続する負極外部端子16が設けられている。図示しないが、各単電池12の正極外部端子15および負極外部端子16が相互に直列に接続されることによって所望する電圧の組電池10が構築され得る。なお、これら容器14には、容器内部で発生したガス抜きのための安全弁等が従来の単電池と同様に設けられ得るが、かかる容器14の構成自体は本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0020】
容器14の材質は、従来の単電池で使用されるものと同じであればよく特に制限はないが、本発明の実施に好適なものとしては、上記拘束荷重圧(面圧)を受けて撓む可撓性の材質が挙げられる。例えば、好ましくは表面に絶縁用樹脂コーティングが施されているような金属製容器、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂その他の合成樹脂製容器が好適である。或いは、電池の外装体として従来使用されているラミネートフィルム、例えば高融点樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド系樹脂)から構成された外面(保護)層と、金属箔(例えばアルミニウム、スチール)から構成されたバリア層(即ちガスや水分を遮断し得る層)と、熱融着性樹脂(比較的低融点である樹脂、例えばエチレンビニルアセテート、或いはポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂)から構成された接着層との三層構造から成るラミネートフィルム製の容器であってもよい。
【0021】
図2に示すように、単電池12は、容器14の幅広な面14A(即ち容器14内に収容される後述する捲回電極体30の扁平な面に対応する面)が対向するように配列される。さらに、当該配列する単電池12間ならびに単電池配列方向の両アウトサイドには、所定形状の間隔保持板(スペーサー)18が容器14の幅広面14Aに密接した状態で配置される。
かかる間隔保持板18は、使用時に各単電池内で発生する熱を放散させるための放熱部材として機能し得る材質および/または形状であることが好ましい。例えば、熱伝導性の良い金属製の間隔保持板あるいは単電池間に冷却用流体(典型的には空気)を導入可能な骨格形状(例えば櫛型形状)の間隔保持板が好適である。
【0022】
而して、図1および図2に示すように、上記配列させた単電池12および間隔保持板18(以下、これらを総称して「単電池群」という。)の周囲には、本実施形態に係る拘束部材が配備される。即ち、図示されるように、単電池群の両アウトサイドに配置されている間隔保持板18の更に外側には、一対の拘束板20A,20Bが密着して配置される。また、当該一対の拘束板20A,20Bを架橋するように、単電池群の両側面には締付け用ビーム材21が取り付けられる。而して、図2に示すように、ビーム材21の端部をビス22により拘束板20A,20Bに締め付け且つ固定することによって上記単電池群をその配列方向に拘束することができる。
【0023】
このとき、ビーム材21の締め付け具合に応じたレベルの締め付け方向(即ち配列方向)への拘束荷重(面圧)が各単電池12の容器幅広面14Aに加えられる(後述する図4参照)。なお、本実施形態では、隣接する単電池12の間にそれぞれ間隔保持板18が密接配置されているため、拘束時には単電池容器14の幅広面14Aにおける当該間隔保持板18と接している部位が当該間隔保持板18によって押圧される(即ち面圧がかかる)こととなる。上述したように、本実施形態に係る容器14が可撓性であるため、当該容器幅広面14Aにかかった荷重(面圧)は、そのまま容器14内に収容されている扁平形状捲回電極体30の扁平な平面に加えられることとなる(後述する図4参照)。
【0024】
次に、本発明を特徴付ける単電池12の容器14内の構成について図面を参照しつつ説明する。なお、図3は容器14内に収容される捲回電極体30を扁平な幅広面側から見た正面図であり、図4は図2に示す拘束状態の各単電池12の容器14内に収容された捲回電極体30の状態を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る捲回電極体30は、通常のリチウムイオン電池の捲回電極体と同様、シート状正極集電体(以下「正極集電体シート」という。)32とシート状負極集電体(以下「負極集電体シート」という。)34を計2枚のシート状セパレータ(以下「セパレータシート」という。)36と共に積層し、さらに当該正極集電体シート32と負極集電体シート34とをややずらしつつ捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体30である。
【0025】
図3に示すように、かかる捲回電極体30の捲回方向に対する横方向において、上記のとおりにややずらしつつ捲回された結果として、正極集電体シート32および負極集電体シート8の端の一部がそれぞれ捲回コア部分30A(即ち正極集電体シート32の正極活物質層形成部分と負極集電体シート34の負極活物質層形成部分とセパレータシート36とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(即ち正極活物質層の非形成部分)32Aおよび負極側はみ出し部分(即ち負極活物質層の非形成部分)34Aには、正極リード端子32Bおよび負極リード端子34Bがそれぞれ付設されており、それぞれ、上述の正極外部端子15および負極外部端子16と電気的に接続される。
【0026】
なお、かかる捲回電極体30を構成する材料および部材自体は、従来のリチウムイオン電池の電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば、正極集電体シート32は長尺状の正極集電体の上にリチウムイオン電池用正極活物質層が付与されて形成され得る。正極集電体にはアルミニウム箔(本実施形態)その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。正極活物質は従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、LiMn、LiCoO、LiNiO等が挙げられる。一方、負極集電体シート34は長尺状の負極集電体の上にリチウムイオン電池用負極活物質層が付与されて形成され得る。負極集電体には銅箔(本実施形態)その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等が挙げられる。正負極集電体シート32,34間に使用される好適なセパレータシート36としては多孔質オレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。
【0027】
図3に示すように、本実施形態では正極集電体シート32、負極集電体シート34および2枚のセパレータシート36を重ね合わせ、扁平形状(典型的には断面が長円渦巻形状)の捲回電極体30を形成した後、それらシートのうちの最も外周に配置されるシート(ここでは一方のセパレータシート36)の終端部36Eを当該捲回体30の外面に接着用テープ材(樹脂製)40で固定する。これにより、当該捲回電極体30の解れを防止し、良好な捲回状態を維持することができる。
そして、かかる構成の捲回電極体30を容器14に収容するとともに、適当な電解質(例えばLiPF等のリチウム塩を適当量含むジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒のような非水電解液)を注入して封止することによって本実施例に係る単電池12が構築され、当該単電池12を複数用意する(図では4個)ことによって、組電池を構築することができる。
【0028】
本実施形態に係る組電池10では、図示されるように、いずれの単電池12においても、捲回電極体30を構成する上記各シート32,34,36の終端部32E,34E,36Eならびに始端部32D,34Dが、いずれも上記拘束荷重を受ける部位、具体的には間隔保持板18が密接する容器幅広面14Aに対応する捲回電極体30の扁平面から外れた位置に配置されている。さらに上記テープ材40も当該扁平面から外れた位置に配置されている。
【0029】
具体的には、図5〜7(これらの図では説明に不要な部分は省略又はデフォルメされている。)に示すように、本実施形態に係る捲回電極体30において、正極集電体シート32の終端部32Eおよび負極集電体シート34の終端部34Eは、捲回電極体30における表裏二つの扁平面(ここでは捲回コア部分の幅広面に相当する。)間に形成された一方の湾曲コーナー部(R部)30Bに配置されている(図5)。同様に、正極集電体シート32の始端部32Dおよび負極集電体シート34の始端部34Dについても、当該湾曲コーナー部30Bに配置されている(図7)。
また、本実施形態に係る捲回電極体30において、セパレータシート36の終端部36Eおよびテープ材40は、上記正負極集電体のシート終端部が配置されたコーナー部30Bとは反対側のコーナー部(R部)30Cに配置されている(図6)。図中では、もう1枚のセパレータシートは省略してある。また、図示は省略するが、同様に、セパレータシート始端部についても、当該コーナー部30Cに配置される。
【0030】
このように捲回電極体30を構成する正負極集電体シート32,34の終端部32E,34Eおよび始端部32D,34Dが全てコーナー部30Bに配置され、さらにセパレータシート36の終端部36Eおよびテープ材40が全てコーナー部30Cに配置されることにより、拘束荷重(面圧)を受ける扁平面には、各種シートの端部(或いはテープ材)の存在による段差が生じない。
従って、図8および図9に示す従来の電池構造のように、単電池112の容器114内に配置された状態の捲回電極体130において、正極集電体シート132の終端部132E、負極集電体シート134の終端部134E、セパレータシート136の終端部136Eおよびテープ材140が拘束荷重を実質的に受ける部位(ここでは捲回電極体130の扁平面)に配置されたときのような、拘束荷重(面圧)の不均一さを防止することができる。図9に大小の矢印で示すような拘束荷重(面圧)の不均一さがあると、捲回電極体130内部における圧力のかかり具合の不均一に応じて電解質(電解液)分布が不均一となり、充放電時に負荷が高い部分が生じてサイクル特性(寿命)が低下する虞がある。
他方、上記の通り、本実施形態に係る組電池10では、各単電池12における捲回電極体30(扁平面)にかかる拘束荷重圧(面圧)を均一化することができるため、拘束荷重(面圧)の不均一さによる不具合が生じず、サイクル特性、出力特性に優れ、長寿命を実現することができる。
また、本実施形態のように、一方のコーナー部30Bに上記三種のシート32,34,36のうちのいずれかの終端部(好ましくはさらに始端部)を配置し、他方のコーナー部30Cに上記三種のシート32,34,36のうちの残りの終端部(好ましくはさらに残りの始端部)を配置することにより、片方のコーナー部にシート末端部分が集中することを排し、これによる捲回電極体30の外形の歪さ等の弊害が発生するのを未然に防止することができる。
【0031】
以下の試験例によって本発明の奏する作用効果を説明する。
長さ2.7m、幅10cm、厚さ15μmのアルミニウム箔を使用し、その表面の所定領域に常法によってニッケル酸リチウムを主体とするリチウムイオン電池用正極活物質層(ニッケル酸リチウム88質量%、アセチレンブラック10質量%、ポリテトラフルオロエチレン1質量%、カルボキシメチルセルロース1質量%)を形成し、正極集電体シートを作製した。
また、長さ2.9m、幅10cm、厚さ10μmの銅箔を使用し、その表面の所定領域に常法によって黒鉛を主体とするリチウムイオン電池用負極活物質層(黒鉛98質量%、スチレンブタジエンラバー1質量%、カルボキシメチルセルロース1質量%)を形成し、負極集電体シートを作製した。これら正負極集電体シートを長さ3.1m、幅11cm、厚さ25μmのポリエチレン製セパレータシート(2枚)とともに捲回し(20周巻き)、次いで押しつぶすことによって本試験例に係るリチウムイオン電池用の扁平形状捲回電極体を作製した。なお、図3に示すものと同様、外周側のセパレータシートの終端部はポリプロピレン製接着テープ材によって捲回体本体の外周面にテープ留めした。
ここで、本試験例では、表1に示すように、以下の3つの条件:(1).正負極集電体シート終端部を捲回電極体の中央領域(扁平面)に配置するか或いはコーナー部に配置する、(2).セパレータシート終端部を捲回電極体の扁平面中央領域(扁平面)に配置するか或いはコーナー部に配置する、(3).正負極集電体シート始端部を捲回電極体の中央領域に配置するか或いはコーナー部に配置する、を適宜組み合わせて、計5種類のサンプルを作製した。
【0032】
作製した捲回電極体に正負極それぞれのリード端子を溶接し、捲回電極体に対応する形状のアルミニウム製の箱形容器に収容した。容器には適当量の電解液(質量比1:1:1であるエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジメチルカーボネートの混合溶媒にリチウム塩として濃度1MとなるLiPFを溶解した非水電解液)を注入し、封止した。これにより、上記計5種類のサンプル(表1参照)に対応した計5種類のリチウムイオン電池を作製した。
次いで、得られた各サンプル電池について、容器外側に図1に示すような拘束部材を取り付け、捲回電極体の扁平面において厚み方向に所定の拘束荷重(面圧:約4.0×10Pa)が加わるように拘束した。
【0033】
上記拘束状態での各サンプル電池について、サイクル特性および出力性能を調べ、電池の性能(特に出力特性や寿命)に関連した本発明の効果を評価した。
即ち、適当なコンディショニング処理後、25℃の温度条件下、3.0V迄の定電流放電後、定電流定電圧で充電を行ってSOC50%に調整した。その後、25℃にて10〜100Aのうちから選択した幾つかの電流で放電を行い、サンプル電池のI−V特性グラフを作成した。放電カット電圧は3.0Vに設定した。そして、I−V特性グラフから10秒出力値を求めた。
次いで、60℃の温度条件下、各サンプル電池を3.0Vから4.1Vまで定電流(10A)にて充電を行い、続いて3.0Vまで定電流(10A)にて放電を行う充放電サイクルを10000サイクル繰り返した。その後、定電流定電圧で充電を行ってSOC50%に調整した。そして、上記と同様の処理によってI−V特性グラフを作成し、充放電10000サイクル後における10秒出力値を求めた。そして、上記初期充電後の10秒出力値に対する充放電10000サイクル後の10秒出力値の割合を求め、出力維持率(%)とした。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示す結果から明らかなように、正負極それぞれの集電体シート終端部を捲回電極体の拘束荷重を実質的に受けている部位(扁平面)から外れた位置(ここでは一方のコーナー部)に配置することによって、出力維持率の向上が図られた。また、正負極それぞれの集電体シート始端部および/またはセパレータシート終端部(ならびにテープ材)を捲回電極体の拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置(ここでは他方のコーナー部)に配置することによって、出力維持率の向上がさらに図られた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】一実施形態に係る組電池の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】一実施形態に係る組電池の構成を模式的に示す側面図である。
【図3】捲回電極体の一例を模式的に示す正面図である。
【図4】図2に示す拘束状態の単電池容器内に収容された捲回電極体の状態を模式的に示す断面図である。
【図5】一実施形態に係る組電池に装備される捲回電極体の要部を模式的に示す説明図である。
【図6】一実施形態に係る組電池に装備される捲回電極体の要部を模式的に示す説明図である。
【図7】一実施形態に係る組電池に装備される捲回電極体の要部を模式的に示す説明図である。
【図8】組電池に装備される従来の捲回電極体の状態を模式的に示す説明図である。
【図9】図8に示す従来の捲回電極体の表面段差部分を模式的に示す説明図である。
【図10】本発明の組電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 車両(自動車)
10 組電池
12,112 単電池
14,114 容器
18 間隔保持板(スペーサー)
20A,20B 拘束板
21 ビーム材
30,130 捲回電極体
30A 捲回コア部分
30B,30C コーナー部
32 正極集電体シート
32D シート始端部
32E シート終端部
34 負極集電体シート
34D シート始端部
34E シート終端部
36 セパレータシート
36E シート終端部
40 テープ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の充放電可能な単電池が直列に接続されて構成された組電池であって、
前記複数の単電池のそれぞれは、シート状正極集電体とシート状負極集電体とがシート状セパレータとともに捲回されて成る扁平形状の捲回電極体を備えており、
隣り合う少なくとも二つの前記単電池は、該単電池それぞれが備える前記捲回電極体の扁平な面が対向するように配列されるとともに該捲回電極体に対して該配列方向に荷重が加えられた状態で拘束されており、
前記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える前記捲回電極体において、前記シート状正極集電体の捲回体外側に配置される捲回終端部および前記シート状負極集電体の捲回体外側に配置される捲回終端部は、いずれも該捲回電極体における前記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されている、組電池。
【請求項2】
前記配列された少なくとも二つの単電池間には、該単電池とともに前記配列方向に荷重が加えられた状態で拘束される間隔保持板が配置されており、
ここで前記シート状正極集電体の捲回終端部および前記シート状負極集電体の捲回終端部は、いずれも前記捲回電極体における前記間隔保持板によって押圧され得る部位から外れた位置に配置されている、請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記シート状正極集電体の捲回終端部および前記シート状負極集電体の捲回終端部は、いずれも前記対向する扁平面から外れた位置に配置されている、請求項1または2に記載の組電池。
【請求項4】
前記シート状正極集電体の捲回終端部および前記シート状負極集電体の捲回終端部は、いずれも前記捲回電極体における表裏二つの扁平面間に形成されたコーナー部に配置されている、請求項3に記載の組電池。
【請求項5】
前記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える前記捲回電極体において、さらに前記シート状セパレータの捲回体外側に配置される捲回終端部が該捲回電極体における前記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載の組電池。
【請求項6】
前記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える前記捲回電極体において、さらに前記シート状正極集電体の捲回終端部、前記シート状負極集電体の捲回終端部および前記シート状セパレータの捲回終端部のうちの少なくとも一つの捲回終端部を捲回電極体本体の外表面に固定するためのテープ材が、該捲回電極体における前記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されている、請求項5に記載の組電池。
【請求項7】
前記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える前記捲回電極体において、前記シート状正極集電体の捲回体中心側に配置される捲回始端部および前記シート状負極集電体の捲回体中心側に配置される捲回始端部は、いずれも該捲回電極体における前記拘束荷重を実質的に受けている部位から外れた位置に配置されている、請求項1〜6のいずれかに記載の組電池。
【請求項8】
複数の充放電可能な単電池が直列に接続されて構成された組電池の製造方法であって、
シート状正極集電体とシート状負極集電体とがシート状セパレータとともに捲回されて成る扁平形状の捲回電極体を備える少なくとも二つの単電池を用意すること、および、
前記複数の単電池を、該単電池それぞれが備える前記捲回電極体の扁平な面が対向するように配列するとともに該捲回電極体に対して該配列方向に荷重が加えられた状態で拘束すること、を包含し、
ここで、前記配列された少なくとも二つの単電池それぞれが備える前記捲回電極体において、前記シート状正極集電体の捲回体外側に配置される捲回終端部および前記シート状負極集電体の捲回体外側に配置される捲回終端部をいずれも該捲回電極体における前記拘束荷重を実質的に受ける部位から外れた位置に配置することを特徴とする、組電池製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の組電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−78008(P2008−78008A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256809(P2006−256809)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】