説明

組電池の充電制御システムおよび充電制御方法

【課題】 複数の二次電池を組電池として使用する場合に、より適正に充電する。
【解決手段】 各リチウムイオンセル2の充電電圧を監視する電圧計4と、各セル2に設けられ、セル2を個別に放電させるバイパス回路3と、一部のセル2の充電電圧が所定電圧よりも低い状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均充電電圧以上の全セル2に対してバイパス回路3を動作させるコントローラ6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二次電池を複数直列に接続した組電池の充電を制御する、組電池の充電制御システムおよび充電制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高い、自己放電量が少ない、などという利点を有し、自動車用蓄電池や電気・電子機器用蓄電池などとして広く使用されている。また、使用目的に応じた電圧や容量を得るために、単電池であるリチウムイオンセルを複数直列接続して組電池を構成し、使用する場合がある。このようにして組電池として使用する場合、充電時において各リチウムイオンセルの充電状態にバラツキが生じる場合がある。すなわち、一部のリチウムイオンセルの充電電圧が高く過充電状態となり、他の一部のリチウムイオンセルの充電電圧が低く亜充電状態(満充電に至らない状態)となる場合がある。
【0003】
このため、リチウムイオン二次電池を組電池として使用する場合に、バラツキをなくして各リチウムイオンセルを適正に充電するために、バイパス回路(抵抗)を設けた技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術は、複数のリチウムイオンセルが直列に接続され、各リチウムイオンセルにバイパス回路が設けられている。そして、充電時に、あるリチウムイオンセルの電圧が適正な充電電圧範囲(許容充電電圧範囲)の上限を超えた場合に、このセルに対応するバイパス回路によってこのリチウムイオンセルを放電(バイパス放電)させ、充電電圧を下げることで、電圧が低いリチウムイオンセルの充電を促進する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−064947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者は、上記のようなバイパス回路を備えていても、電圧が低いリチウムイオンセルの充電が促進されない場合があることを確認した。例えば、組電池内に不良なリチウムイオンセルが存在する場合、これを新たなリチウムイオンセルと交換する必要がある。この場合、新たなリチウムイオンセルは、通常安全性を考慮して、放電状態あるいは部分充電状態(満充電でない状態)で工場から出荷され、そのまま組電池に組み込まれ、同一直列内の満充電状態にあるリチウムイオンセルと混在することになる。
【0006】
しかしながら、その後バイパス放電が動作するが、交換した新たなリチウムイオンセルが適正な充電電圧範囲に達せず、その他のリチウムイオンセルの充電電圧は、適正な充電電圧範囲内で安定している、ということが確認された。すなわち、充電電圧が低いセルが存在していても、許容充電電圧範囲の上限を超えたセルが存在しない場合、つまり充電電圧が低いリチウムイオンセル以外のセルが適正な充電電圧範囲内で安定している場合には、バイパス放電が行われない。あるいは、バイパス放電が行われたとしても、充電電圧が低いセルが適正な充電電圧範囲に達しない場合がある。
【0007】
この結果、充電電圧が低いセルが適正な充電電圧範囲に達しないものである。そして、このような充電電圧が低いセルが存在すると、直列接続であるため組電池全体としての放電容量が、充電状態が低いセルの放電容量によって制限されるから(当該セルが所定の電圧に達すると組電池全体の放電を終了させるため)、設計通りの所定の放電時間を確保できないおそれが生じる。
【0008】
そこでこの発明は、複数の二次電池を組電池として使用する場合に、より適正に充電することを可能にする組電池の充電制御システムおよび充電制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、二次電池が複数直列に接続された組電池の充電を制御する、組電池の充電制御システムであって、前記各二次電池の充電電圧を監視する監視手段と、前記各二次電池に設けられ、前記二次電池を個別に放電させる個別放電手段と、一部の二次電池の充電電圧が第1の所定電圧よりも低い状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均充電電圧以上の全二次電池に対して前記個別放電手段を動作させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、監視手段によって、各二次電池の充電電圧が監視され、一部の二次電池の充電電圧が第1の所定電圧よりも低い状態が所定時間継続すると、制御手段によって、平均充電電圧以上のすべての二次電池に対して個別放電手段が動作される。すなわち、充電電圧が平均以上である複数の二次電池が放電し、これにより、充電電圧が低い二次電池の充電が促進される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の充電制御システムにおいて、前記制御手段は、前記個別放電手段の動作中に、前記第1の所定電圧より高い第2の所定電圧よりも低い二次電池が存在しなくなったときに、全二次電池に対する前記個別放電手段の動作を停止させる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の充電制御システムにおいて、前記制御手段は、所定時間前記個別放電手段を動作させても、前記一部の二次電池の充電電圧が前記第1の所定電圧より高い第2の所定電圧以上に達しない場合に、警報を出力する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載の充電制御システムにおいて、前記制御手段は、前記個別放電手段が動作中の二次電池の充電電圧が、第3の所定電圧よりも低くなったときには、当該二次電池に対する前記個別放電手段の動作を停止させる、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、二次電池が複数直列に接続された組電池の充電を制御する、組電池の充電制御方法であって、前記各二次電池の充電電圧を監視し、一部の二次電池の充電電圧が第1の所定電圧よりも低い状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均充電電圧以上の全二次電池を個別に放電させる、ことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、各二次電池の充電電圧が監視され、一部の二次電池の充電電圧が第1の所定電圧よりも低い状態が所定時間継続すると、平均充電電圧以上のすべての二次電池に対して個別に放電が行われる。すなわち、充電電圧が平均以上である複数の二次電池が放電し、これにより、充電電圧が低い二次電池の充電が促進される。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の充電制御方法において、前記個別の放電中に、前記第1の所定電圧より高い第2の所定電圧よりも低い二次電池が存在しなくなったときに、全二次電池に対する前記個別の放電を停止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、5に記載の発明によれば、一部の二次電池の充電電圧が低い状態(非適正充電状態)が所定時間継続すると、充電電圧が平均以上であるすべての二次電池が放電される。すなわち、他の二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲内であっても、充電電圧が平均以上である二次電池が放電されるため、充電電圧が低い二次電池の充電を促進することが可能となる。
【0018】
しかも、平均充電電圧以上のすべての二次電池が放電されるため、より多くの二次電池が放電し、充電電圧が低い二次電池の充電をより促進することが可能となる。この結果、組電池全体をより適正に充電することが可能となり、組電池全体の放電容量が適正となって、設計通りの所定の放電時間を確保することができる。
【0019】
また、非適正充電状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均以上である二次電池に対する放電が行われる。すなわち、非適正充電状態が一時的に生じた場合には、放電が行われないため、不必要な放電が回避され、充電電圧が適正な二次電池の充電状態を適正に維持することが可能となる。また、非適正充電状態が所定時間継続した時点で放電を行うことで、非適正充電状態が長時間継続することによる二次電池の過充電状態や低充電状態などを回避して、組電池全体を適正かつ早期に充電することが可能となる。
【0020】
請求項2、6に記載の発明によれば、全二次電池に対する個別放電を停止する条件が、第1の所定電圧よりも高い第2の所定電圧に設定されているため、個別放電の開始と停止を繰り返す頻度を減らすことができ、電圧が低い二次電池の充電促進を確実、十分に行うことができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、充電電圧が平均以上である二次電池を所定時間放電させても、充電電圧が低い二次電池の充電電圧が所定電圧以上に達しない場合には、警報が出力されるため、迅速かつ適正な対応が可能となる。すなわち、このような場合には、充電電圧が低い二次電池に内部短絡や接続不良などの異常が存在するおそれがあり、警報が出力されることで、迅速かつ適正な充電停止や交換などが可能となるとともに、他の正常な二次電池に対する不必要な放電などを回避することが可能となる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、個別放電中の二次電池の充電電圧が、第3の所定電圧よりも低くなったときには個別放電が停止されるため、二次電池が過放電するのを防止して、組電池全体の充電状態を適正に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態に係るリチウムイオン組電池の充電制御システムを整流装置に適用した状態を示す概略構成図である。
【図2】図1のシステムのコントローラの制御フローを示す図である。
【図3】図2の続きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
図1は、この発明の実施の形態に係るリチウムイオン組電池の充電制御システム(以下、単に「充電制御システム」という)1を直流電源システムに適用した状態を示す概略構成図である。この充電制御システム1は、単電池であるリチウムイオンセル(リチウムイオン二次電池)2が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池20の充電を制御するシステムである。
【0026】
この充電制御システム1は、主として、各リチウムイオンセル2に設けられたバイパス回路(個別放電手段)3および電圧計(監視手段)4と、単一の主スイッチ5、コントローラ(制御手段)6とを備えている。また、各バイパス回路3と各電圧計4は、それぞれコントローラ6と通信(データ伝送)可能に接続されている。
【0027】
バイパス回路3は、対応するリチウムイオンセル2への充電電流をバイパスするとともに、このリチウムイオンセル2を放電させて電圧を下げる回路である。具体的には、放電用抵抗31と放電スイッチ32とが直列に接続された回路であり、リチウムイオンセル2と並列に接続されている。そして、後述するように、通常の充電時においては、放電スイッチ32がオフ(開)状態で、コントローラ6からの閉指令を受けて放電スイッチ32をオンする(閉じる)。これにより、充電電流が放電用抵抗31側にバイパスされるとともに、負荷としての放電用抵抗31によってリチウムイオンセル2が放電し、電圧が下がるものである。従って、バイパス回路3・放電スイッチ32がオンの状態では、放電用抵抗31では、組電池20に入力された充電電流の一部が消費される。
【0028】
電圧計4は、対応するリチウムイオンセル2に並列に接続され、充電中や放電中に限らず常時、リチウムイオンセル2の電圧を計測、監視し、計測結果をリアルタイムにコントローラ6に送信するものである。また、図示していないが、リチウムイオン組電池20の総電圧や充電電流、放電電流、および各リチウムイオンセル2の温度を測定する測定器をそれぞれ備え、これらの測定器からの測定結果が、リアルタイムにコントローラ6に送信されるようになっている。
【0029】
主スイッチ5は、リチウムイオン組電池20への充電電流を制御するスイッチであり、リチウムイオン組電池20に電力を供給する充電回路に設けられている。すなわち、交流直流変換器101とリチウムイオン組電池20との間(充電回路)に接続され、商用電源100からの電力が交流直流変換器101で直流に変換され、主スイッチ5を介してリチウムイオン組電池20に供給されるようになっている。この主スイッチ5は、通常時においてはオン(閉)状態となっている。
【0030】
また、主スイッチ5と並列にバイパスダイオード7が接続されている。このバイパスダイオード7は、リチウムイオン組電池20からの電流の流れのみを許容する機能を有し、リチウムイオン組電池20へは電流が流れないようになっている。これにより、リチウムイオン組電池20からの放電が常時可能で、バイパスダイオード7を介してリチウムイオン組電池20から負荷設備102に電力が供給されるようになっている。ここで、交流直流変換器101と負荷設備102とは接続され、通常時においては、商用電源100からの電力が、交流直流変換器101で直流に変換されて、負荷設備102に供給されるようになっている。
【0031】
コントローラ6は、各電圧計4からの計測結果に基づいて、各バイパス回路3を制御する装置である。その制御として、主としてフロート充電状態において、一部のリチウムイオンセル2の充電電圧が所定電圧よりも低い状態(非適正充電状態)が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均充電電圧以上の全リチウムイオンセル2に対して、バイパス回路3を動作させる制御を含む。ここで、フロート充電状態とは、組電池20の総充電電圧が所定の電圧に達し、定圧充電している状態である。また、この実施の形態では、総充電電圧をセル2の数で除算した平均充電電圧Vの±許容誤差電圧(例えば、±20mV)を、適正な充電電圧範囲とし、この電圧範囲に各セル2の充電電圧を収めるようにする。
【0032】
具体的には、図2、3に示すように、まず、いずれかのリチウムイオンセル2の電圧がバイパス電圧Vよりも高い場合には、そのセル2のバイパス回路3をオンしてバイパス放電させる(ステップS1)。このとき、既にバイパス回路3がオンの場合には、オン状態を維持する。ここで、バイパス電圧Vとは、各セル2間で生じる充電電圧のバラツキを解消するために、バイパス放電を行う基準の電圧であり、例えば、次のように算出される。
=平均充電電圧V+10mV
【0033】
次に、上記のようにしてバイパス放電中であったリチウムイオンセル2の電圧が、平均充電電圧V以下になった場合には、このセル2のバイパス回路3をオフしてバイパス放電を停止させる(ステップS2)。
【0034】
続いて、充電電圧が許容下限電圧Vmin(第1の所定電圧)よりも低いリチウムイオンセル2が存在するか否かを判断する(ステップS3)。ここで、許容下限電圧Vminとは、適正な充電電圧範囲の下限値であり、次のように算出される。
min=平均充電電圧V−20mV
【0035】
そして、許容下限電圧Vminよりも低いリチウムイオンセル2が存在しない場合には、メモリ上のタイマをリセットし(ステップS4)、存在する場合には、タイマをインクリメント・加算する(ステップS5)。ここで、この実施の形態では、許容下限電圧Vminよりも低いセル2ごとにタイマを設け、セル2ごとにタイマをカウントするものとする。つまり、同一のセル2で低電圧状態が継続しているか否かを監視する。そして、タイマが予め設定された第1の所定時間T1未満の場合(ステップS6で「N」の場合)には、ステップS1に戻って同様の処理を繰り返し、タイマが第1の所定時間T1以上の場合(ステップS6で「Y」の場合)には、ステップS7以降の処理に移る。ここで、第1の所定時間T1は、ステップS1およびS2によるバイパス放電をしている現状をこれ以上継続しても、低電圧のセル2の電圧が上昇しないと判断される時間、あるいは後述するステップS7のバイパス放電の効果が十分に得られる時間であり、セル2の特性、容量などによって設定される。例えば、24時間と設定される。
【0036】
ステップS7以降の処理では、まず、平均充電電圧V以上のすべてのリチウムイオンセル2に対して、バイパス回路3をオンしてバイパス放電させる(ステップS7)。このとき、既にバイパス回路3がオンしているセル2に対しては、オン状態を維持する。次に、バイパス放電中のリチウムイオンセル2の電圧が、平均充電電圧V(第3の所定電圧)未満になった場合には、このセル2のバイパス回路3をオフしてバイパス放電を停止させる(ステップS8)。
【0037】
続いて、充電電圧が許容回復電圧V(第2の所定電圧)よりも低いリチウムイオンセル2が存在するか否かを判断する(ステップS9)。ここで、許容回復電圧Vとは、適正な充電促進が行われ、ステップS7のバイパス放電を終了してもよいと判断される基準の電圧であり、例えば、次のように算出される。
=平均充電電圧V−10mV
このように、許容回復電圧Vが許容下限電圧Vminよりも高く設定されているのは、許容回復電圧Vを許容下限電圧Vminと同値に設定すると、早期にバイパス放電が終了し(後述するようにステップS1に戻り)、再びステップS7以降の処理を繰り返す頻度が多くなるためである。つまり、電圧が低いセル2の充電促進を確実、十分に行うためである。
【0038】
そして、充電電圧が許容回復電圧Vよりも低いセル2が存在する場合には、このようなバイパス放電状態が第2の所定時間T2以上継続しているか否かを判断する(ステップS10)。ここで、第2の所定時間T2は、ステップS7のバイパス放電を行っても低電圧のセル2の電圧が上昇しない場合に、セル2の内部異常やセル2間の接続異常などのおそれがあると推定される時間、あるいは過剰なバイパス放電を回避できる時間であり、セル2の特性、容量などによって設定される。例えば、100時間と設定される。
【0039】
そして、第2の所定時間T2を継続していない場合には、ステップS7に戻って同様の処理を繰り返し、継続している場合には、警報を出力するとともに全セル2のバイパス放電を停止させて(ステップS11)、処理を終了する。ここで、警報の出力は、コントローラ6の警報ランプを点灯させたり、管理センタのコンピュータに通報したりすることで行う。
【0040】
一方、充電電圧が許容回復電圧Vよりも低いセル2が存在しない場合(ステップS9で「N」の場合)には、バイパス放電中のすべてのセル2のバイパス回路3をオフしてバイパス放電を停止させる(ステップS12)。そして、タイマをリセットし(ステップS13)、ステップS1に戻って同様の処理を繰り返すものである。以上のような図2、3による制御は、充電中であることが前提であり、交流直流変換器101が停電して組電池20が放電を開始した場合には、すべてのバイパス放電を停止して、制御を終了させる。
【0041】
次に、このような構成の充電制御システム1の作用や、この充電制御システム1による充電制御方法などについて説明する。ここで、組電池20中の1つのセル2を新たなセル(以下、「交換セル」という)2と交換した場合であって、交換セル2の電圧・充電状態(SOC:State Of Charge)が低い場合を例にして説明する。
【0042】
まず、商用電源100からの電力がリチウムイオン組電池20に供給され、電圧計4によって各リチウムイオンセル2の電圧が常時監視され、その計測結果がリアルタイムにコントローラ6に送信される。そして、いずれかのセル2の充電電圧がバイパス電圧Vよりも高い場合には、そのセル2がバイパス放電される(ステップS1)。
【0043】
一方、交換セル2の充電電圧が許容下限電圧Vminよりも低いと(ステップS3で「Y」)、タイマがインクリメントされて(ステップS5)、ステップS1に戻る。そして、所定時間(処理サイクル時間)後に交換セル2の電圧が許容下限電圧Vmin以上になった場合には、タイマがリセットされる(ステップS4)。一方、交換セル2の電圧がまだ許容下限電圧Vmin未満の場合には、タイマがインクリメントされ(ステップS5)、このような状態が第1の所定時間T1以上継続すると(ステップS6で「Y」)、平均充電電圧V以上のすべてのセル2に対してバイパス放電(複数バイパス放電)が行われる(ステップS7)。
【0044】
続いて、交換セル2の充電電圧が許容回復電圧Vよりも低く(ステップS9で「Y」)、複数バイパス放電の状態が第2の所定時間T2以上継続していない場合(ステップS10で「N」)には、複数バイパス放電が継続される。一方、交換セル2の充電電圧が許容回復電圧V以上になると(ステップS9で「N」)、すべてのセル2のバイパス放電が停止され(ステップS12)、通常のモード(ステップS1)に戻って、同様の処理が行われる。一方、複数バイパス放電を第2の所定時間T2以上継続しても、交換セル2の充電電圧が許容回復電圧Vよりも低い場合(ステップS10で「Y」の場合)、つまり交換セル2の電圧が上昇しない場合には、上記のような警報が出力されるとともに、全セル2のバイパス放電が停止される(ステップS11)ものである。
【0045】
以上のように、この充電制御システム1および充電制御方法によれば、一部のセル2の充電電圧が許容下限電圧Vminよりも低い状態(非適正充電状態)が第1の所定時間T1以上継続すると、充電電圧が平均以上である複数のセル2がバイパス放電される。すなわち、バイパス電圧Vよりも充電電圧が高いセル2の有無にかかわらず、充電電圧が平均以上であるセル2(必ず存在するセル2)がバイパス放電されるため、充電電圧が低いセル2の充電を促進することが可能となる。
【0046】
しかも、平均充電電圧V以上のすべてのセル2がバイパス放電されるため、より多くのセル2がバイパス放電し、充電電圧が低いセル2の充電をより促進することが可能となる。この結果、リチウムイオン組電池20全体をより適正に充電することが可能となり、組電池20全体の放電容量が適正となって、設計通りの所定の放電時間を確保することができる。
【0047】
このような効果を確認するために、本発明者は、次のような実験を行った。すなわち、12個のセル2を直列接続した組電池20について、充電状態(SOC)が50%のセル2を上記の交換セル2とし、他の11個のセル2の充電状態を100%とし、従来のように充電電圧が所定値よりも高い場合にのみそのセル2をバイパス放電させる方法(従来方法)と、この充電制御システム1による充電制御方法(本方法)とで充電を行った。その結果、従来方法では、長時間充電を継続しても交換セル2の電圧が適正値まで上昇せずに、低い値で飽和・安定してしまうのに対して、本方法によれば、交換セル2の電圧が適正値まで上昇することが確認された。さらに、従来方法による充電後の組電池20全体の容量と、本方法による充電後の組電池20全体の容量とを比べると、本方法の方が、大きな容量が得られることが確認された。
【0048】
また、この充電制御システム1および充電制御方法によれば、非適正充電状態が第1の所定時間T1継続した場合に、平均充電電圧V以上のセル2に対するバイパス放電が行われる。すなわち、非適正充電状態が一時的に生じた場合には、バイパス放電が行われないため、不必要なバイパス放電が回避され、充電電圧が適正なセル2の充電状態を適正に維持することが可能となる。また、非適正充電状態が第1の所定時間T1継続した時点でバイパス放電を行うことで、非適正充電状態が長時間継続することによるセル2の過充電状態や低充電状態などを回避して、組電池20全体を適正かつ早期に充電することが可能となる。
【0049】
一方、平均充電電圧V以上のすべてのセル2を所定時間バイパス放電させても、充電電圧が低いセル2の充電電圧が所定電圧以上に達しない場合には、警報が出力されるため、迅速かつ適正な対応が可能となる。すなわち、このような場合には、充電電圧が低いセル2に内部短絡や接続不良などの異常が存在するおそれがあり、警報が出力されることで、迅速かつ適正な充電停止やセル交換などが可能となるとともに、他の正常なセル2に対する不必要な放電などを回避することが可能となる。さらに、バイパス放電中のセル2の電圧が、平均充電電圧V未満になった場合には、このセル2のバイパス放電が停止されるため、セル2が過放電するのを防止して、組電池20全体の充電状態を適正に維持することが可能となる。
【0050】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、セル2ごとにタイマをカウントしているため、複数のセル2の電圧が低い場合には、それぞれのセル2で第1の所定時間T1が経過した時点で、複数バイパス放電が行われるが、複数バイパス放電を行う時点ですべてのセル2のタイマをクリアにしてもよい。これにより、頻繁に複数バイパス放電が行われるのを防止して、組電池20全体の電圧安定化を図ることが可能となる。
【0051】
また、セル2ごとにタイマを設けずに、1つのタイマでカウントしてもよい。すなわち、許容下限電圧Vminよりも低いセル2が発生した時点でカウントを開始し、このセル2の電圧が許容下限電圧Vmin以上となっても他のセル2の電圧が許容下限電圧Vminよりも低い場合には、カウントを継続する。このように、すべてのセル2が許容下限電圧Vmin以上になるまで同じカウントを継続してもよい。これにより、第1の所定時間T1に達する時間が早くなり、複数のセル2で電圧が低かったり、1つのセル2で電圧が頻繁に低くなる(安定しない)場合などであっても、早期に複数バイパス放電を行って、電圧が低いセル2の充電促進を早期に行うことが可能となる。
【0052】
また、上記の実施の形態では、所定時間複数バイパス放電を行っても低電圧のセル2の電圧が上昇しない場合に、警報出力とバイパス放電の停止を行っているが、強制的に組電池20の充電を停止したり、セル2の温度上昇などの異常が検出されない限り、永続的に複数バイパス放電を行うようにしてもよい。
【0053】
上記の実施の形態では、バイパス回路3を、放電用抵抗31と放電スイッチ32により構成したが、これに限らず、コントローラ6からの指令により所定の電流をバイパスできる回路であれば用いることができる。
【0054】
一方、1組のリチウムイオン組電池20を有する場合について説明したが、組電池20を複数接続した場合にも適用することができる。この場合、上記のような充電制御システム1を組電池20ごとに配設する。また、リチウムイオンセル2に限らず、直列セル間の充電状態バラツキを解消するために、広く二次電池一般に適用することができる。さらに、充電制御システム1を直流電源システムに適用した場合について説明したが、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)や自動車用蓄電池などにも適用することができ、かつ、フロート充電以外にも適用することができる。すなわち、一部のセル2の充電電圧が低い状態が所定時間継続するすべてのケースに、適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 リチウムイオン組電池の充電制御システム
2 リチウムイオンセル(リチウムイオン二次電池)
20 リチウムイオン組電池
3 バイパス回路(個別放電手段)
4 電圧計(監視手段)
5 主スイッチ
6 コントローラ(制御手段)
7 バイパスダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池が複数直列に接続された組電池の充電を制御する、組電池の充電制御システムであって、
前記各二次電池の充電電圧を監視する監視手段と、
前記各二次電池に設けられ、前記二次電池を個別に放電させる個別放電手段と、
一部の二次電池の充電電圧が第1の所定電圧よりも低い状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均充電電圧以上の全二次電池に対して前記個別放電手段を動作させる制御手段と、
を備えることを特徴とする組電池の充電制御システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記個別放電手段の動作中に、前記第1の所定電圧より高い第2の所定電圧よりも低い二次電池が存在しなくなったときに、全二次電池に対する前記個別放電手段の動作を停止させる、ことを特徴とする請求項1に記載の組電池の充電制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、所定時間前記個別放電手段を動作させても、前記一部の二次電池の充電電圧が前記第1の所定電圧より高い第2の所定電圧以上に達しない場合に、警報を出力する、ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の組電池の充電制御システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記個別放電手段が動作中の二次電池の充電電圧が、第3の所定電圧よりも低くなったときには、当該二次電池に対する前記個別放電手段の動作を停止させる、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の組電池の充電制御システム。
【請求項5】
二次電池が複数直列に接続された組電池の充電を制御する、組電池の充電制御方法であって、
前記各二次電池の充電電圧を監視し、
一部の二次電池の充電電圧が第1の所定電圧よりも低い状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が平均充電電圧以上の全二次電池を個別に放電させる、
ことを特徴とする組電池の充電制御方法。
【請求項6】
前記個別の放電中に、前記第1の所定電圧より高い第2の所定電圧よりも低い二次電池が存在しなくなったときに、全二次電池に対する前記個別の放電を停止する、ことを特徴とする請求項5に記載の組電池の充電制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−115911(P2013−115911A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259396(P2011−259396)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年8月30日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会 2011年ソサイエティ大会プログラム」に発表
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】