説明

組電池及び蓄電装置

【課題】大電流による充放電中でも複雑な判定回路を必要とせず、精度良く充電深度を評価できるリチウムイオン二次電池の組電池および蓄電装置を提供する。
【解決手段】あらかじめ任意の充電深度に設定された変曲領域を有する二種以上の充電深度検知用のリチウムイオン電池と非充電深度検知用のリチウムイオンを直列に接続してなる組電池を用いることで、大電流を用いて充放電している際でも、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電圧が充電深度検知電圧になった際、精度良く組電池全体の充電深度を検知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池である単位セルを複数個直列してなる組電池と、組電池の充放電状態を判定する機能を有する蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV自動車、自然エネルギー発電によるスマートグリッド、等の技術の中で、二次電池は蓄電装置として大きな役割を持つ。特に、リチウムイオン二次電池は、容量・出力ともにすぐれ、システムの小型化に大きく貢献している。その反面、リチウムイオン二次電池は過充電状態/過放電状態において劣化しやすく、定められた電圧範囲内で使用する必要がある。そのため、リチウムイオン二次電池の充電状態を詳しく把握することが重要である。
【0003】
一般的に単電池・組電池の充電状態評価は、開回路の電圧を測定し、あらかじめ測定された値と比較しておこなわれている。たとえば、特許文献1は、単電池のうち少なくとも1つの単電池の開回路電圧−残留容量特性を二次電池の放電状態に応じてその開回路電圧を比例的に変化させる電圧とすることで、その単電池の開回路電圧を測定し、組電池の充電深度を評価する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−311308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大電流により充放電をおこなう場合には、従来の評価方法では十分な精度が得られない傾向がある。たとえば、特許文献1の評価方法では、大電流を流した際、単電池の内部抵抗に起因する電圧上昇あるいは電圧降下が加味され、充放電電流の大きさによって判定される充電深度が大きく異なってしまう。このため、組電池を安全に運用するために、想定されうる最大電流による電圧変動分だけ充放電範囲を狭める必要があり、結果として組電池の容量低下を招く。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決すべく創出されたものであり、組電池容量に対して大きい電流が入出力された際でも、精度良く組電池の充電深度を検知し得ると共に、蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の組電池は、一以上のリチウムイオン二次電池と、二以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池と、が直列接続されてなり、二以上の前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、それぞれ異なる充電深度領域に、急峻に電圧が変化する変曲領域を有することを特徴とする。ここで、「充電深度検知用リチウムイオン二次電池」とは、所定の充電深度で急峻に電圧が変化する変曲領域を有するリチウムイオン二次電池である。ここで、「充電深度」とは充電された電気量の割合をいい、満充電状態を100%とする。ただし、充電時の値に限定されるものではなく、充電時と放電時とのいずれの電気量も含む。「2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池」とは、異なった充電深度で変曲領域が発現する2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池を意味する。「変曲領域」とは、単電池電圧が充電深度の変化に対して急峻な変化を示す領域をいう。図4に、本発明に用いることができる充電深度検知用リチウムイオン二次電池の、充電深度(X軸)と単電池電圧(Y軸)との関係を表す充放電カーブを示す。図4において、単電池電圧が充電深度の変化に対して急峻に変化する変化領域90が、本発明でいう「変曲領域」の一例である。
【0008】
本発明の充電深度検知用リチウムイオン二次電池によれば、所定の充電深度で電圧の急変が検知される「変曲領域」が発現する。「変曲領域」は、所定の電圧Aにおいて充電が完了する活物質材料と、電圧Aにおいて放電が完了する活物質材料と、を混合して、一の正極又は一の負極の少なくともいずれかを作製し、これを充電深度検知用リチウムイオン二次電池に用いることで発現させることができる。
【0009】
このとき、変曲領域が異なった充電深度で発現する2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池を、組電池内に直列接続することで、組電池全体の充電深度を段階的に精度よく検知することが可能となる。2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池が、電極中の活物質材料の割合について相違していれば、2以上の充電震度検知用リチウムイオン二次電池は、異なった充電深度に変曲領域を発現する。直列接続からなる組電池において、2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電圧を各々モニターし、一の充電深度検知用リチウムイオン二次電池において急激な電圧変動が観測されれば、組電池の充電深度は一の充電深度検出用リチウムイオン二次電池の変曲領域に対応する充電深度である。
【0010】
さらに、本発明において、充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、正極又は負極の活物質材料として、上記の充電深度に対し、
(1)この充電深度を100%とし、前記充電深度において充電状態が95%〜100%となる、一の活物質、
(2)この充電深度で定められる放電深度を100%の放電容量とし、前記放電深度において放電状態が95%〜100%となる、他の活物質と、
の少なくとも二種類の活物質を正極又は負極の少なくともいずれかについて混合した、混合活物質による正極又は負極を有するリチウムイオン二次電池であることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、前記変曲領域での充電深度変化量が、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電池容量の10%以内に発現させることができるため、充電深度の検知誤差が電池容量の10%以下となる。ここで、一般に組電池は、組電池全体の容量の90%程度は実使用に供されるべきものと考えられる。過放電防止のためには充電深度の検知を充電深度検知用リチウムイオン二次電池の容量の10%以下に抑えることが望ましい。上記の構成によれば組電池の充電深度測定精度を向上させられる傾向がある。加えて、組電池の容量をあらかじめ低く設定する必要がなくなるため、実質的に組電池容量の向上に寄与しうる。
【0012】
例えば、上記の所定の電圧Aにおける充電深度が±5%以内の関係にある二種類以上の活物質材料を混合して、正極又は負極のいずれかを作製する。これにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域における充電深度変化量を、電池容量の10%以内に収束させることができる。例えば、電圧Aにおける充電深度を100%とした場合に95%以上で充電が終了する活物質材料と、電圧Aにおける充電深度を0%とした場合に5%以下で放電が完了する活物質材料と、を正極活物質として又は負極活物質として混合することにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域を電池容量に対して10%以下に収束することができる。
【0013】
このとき、所定の電圧Aにおける充電深度が実使用域にある活物質材料は、電極における全活物質の電気容量割合として10%以下であることが望ましい。例えば、電圧Aにおける充電深度が20%から80%である活物質材料を、10%以下とすれば、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域を電池容量に対して10%以下に収束することができる。
【0014】
また、本発明において、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域での電圧変化量が100mV以上であることが望ましい。
【0015】
正極活物質又は負極活物質として混合する二種類以上の活物質材料の選択を、各固有電位に起因して生ずる電位差が100mV以上となる活物質材料の組み合わせとすることによって、上記の変曲領域における電圧変化量を100mV以上とすることができる。
【0016】
例えば、1C程度の比較的大きな電流(1Cは、満充電状態のリチウムイオン二次電池から一定電流で放電させた場合、1時間で放電終了する電流量)での充放電時の単電池電圧は、微電流時での充電時、放電時の単電池電圧に比べ、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下が、100mV程度大きく加味され観測されてしまう。そこでこの構成のように変曲領域での電圧変化量が100mV以上である充電深度検知用の単電池を用いることで、1C程度の充放電においても、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下は、変曲領域での電圧変化量に比べ小さくなり、変曲領域内での誤差で精度良く組み電池の充電深度を検知することができる。
【0017】
また、本発明において、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域での電圧変化量が300mV以上であることが望ましい。
【0018】
正極活物質又は負極活物質として混合する二種類以上の活物質材料の選択を、各固有電位に起因して生ずる電位差が300mV以上となる活物質材料の組み合わせとすることによって、上記の変曲領域における電圧変化量を300mV以上とすることができる。
【0019】
例えば、5C(5Cは、満充電状態のリチウムイオン二次電池から一定電流で放電させた場合、12分で放電終了する電流量)より大きな大電流での充放電時の単電池電圧は、微電流時での充電時、放電時の単電池電圧に比べ、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下が、300mV程度大きく加味され観測されてしまう。そこでこの構成のように変曲領域での電圧変化量が300mV以上である充電深度検知用の単電池を用いることで、5C程度の大電流での充放電においても、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下は、変曲領域での電圧変化量に比べ小さくなり変曲領域内での誤差で精度良く組電池の充電深度を検知することができる
【0020】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、複数種の正極活物質を混合した正極および/または複数種の負極活物質を混合した負極を有するものであることが望ましい。
【0021】
リチウムイオン二次電池の正極および負極の活物質は、それぞれ固有の電位を持つ。リチウムイオン二次電池の全体の電圧は、正極活物質と負極活物質とが本来有する電位の電位差である。一つの正極または負極において複数種の活物質を混ぜ合わせて電極とることにより、活物質間の電位の切れ目に急峻な電位差を持つ変曲領域をもたせることができる。このとき、複数種の正極活物質、または、複数種の負極活物質を適宜選択して組み合わせ、また活物質の比率を調整することで、任意の充電深度に変曲領域を設計することができる。
【0022】
また、二種以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、全て同じ種類の正極活物質の組み合わせからなることが望ましい。すなわち、二以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、全て同じ複数種の正極活物質を混合した正極および/または同じ複数種の負極活物質を混合した負極を有しており、複数種の正極活物質の混合比および/または複数種の負極活物質の混合比が異なるものである。
【0023】
二種類以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池を、全て同じ正極/負極活物質の組み合わせとすることで、変曲領域が発現する充電深度のみが異なり、各単電池の電池特性をほぼ均等とすることができる。これにより、高精度で充電深度を測定できる組電池が実現できる傾向がある。このとき、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極/負極活物質の種類は四種以下とすることが好ましい。四種類以下に限定した場合、必要以上に変曲領域が発現することはなく電池特性はほぼ均等とすることができ、さらに高性能な組電池が提供できる傾向がある。
【0024】
また、充電深度検知用リチウムイオン二次電池における複数種の正極活物質および/または複数種の負極活物質は、二種類の正極活物質および/または二種類の負極活物質を使用するものであることが望ましい。
【0025】
正極/負極活物質を二種類のみに限定することで、変曲領域の発現が明確な充電深度検知用リチウムイオン二次電池を設計することができ、さらに高性能な組電池が提供できる傾向がある。
【0026】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極活物質は、金属リチウムを基準として実使用域に3.5Vを含む正極活物質の存在量が、正極活物質全体の電気容量の割合として10%以下であることが望ましい。
【0027】
実使用域(例えば充電深度20%−80%)に金属リチウムを基準として3.5Vの電位が含まれる正極活物質を電気容量の割合として10%以下とすることで、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域で電圧の変動に要する充電深度変化量が10%以下となるため、より精度良く充電深度を検知することができる。
【0028】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極活物質は、低電圧正極活物質がLiTiO、LiFePOのうちの少なくとも一つであり、高電圧正極材料は、Li(Ni1-x-yCoMn)O(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li(Ni1-b-cCoAl)O(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMn、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも一つであることが望ましい。
【0029】
この構成によれば、LiTiO、LiFePOは、充電終了付近の電圧は3.5V以下の近傍であって低電圧正極活物質として選ぶことができ、Li(Ni1-x-yCoMn)O2(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li(Ni1-b-cCoAl)O(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMn、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOは、放電開始付近の電圧は3.5V以上の近傍であり高電圧正極活物質として選ぶことができる。これらの選択により変曲領域における充電震度の変化量を提言することができるため、組電池の充電深度を精度良く検知できる。
【0030】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の低電圧正極活物質はLiFePOであり、高電圧正極活物質はLiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも一つであることが望ましい。
【0031】
この構成によれば、オリビン骨格を有する正極活物質は比較的平坦な充放電カーブであり、放電末期、充電末期の充放電カーブは急峻に変化する。低電圧正極活物質、高電圧正極活物質共にオリビン骨格を有する正極活物質を用いることで、変曲領域での充電深度変化量が10%以下とすることが容易であり、精度良く充電深度の検知をすることができる。
【0032】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、負極活物質を含み、負極活物質は、複数種の負極活物質として、一以上の低電圧負極活物質と一以上の高電圧負極活物質とを混合したものであって、低電圧負極活物質は、金属リチウムを基準として上限近傍の電位が0.5V未満の負極活物質のうちの少なくとも一種以上であり、高電圧負極活物質は、金属リチウムを基準として下限近傍の電位が0.5V以上の負極活物質のうちの少なくとも一種以上であることが望ましい。
【0033】
この構成によれば、金属リチウムを基準として約0.5V未満でほぼ放電が終了する(たとえば充電深度が5%以下)低電圧負極活物質と、約0.5Vでほぼ充電が終了する(たとえば充電深度95%以上)高電圧負極活物質とを、負極において組み合わせられる。これにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域における充電深度の変化量を10%以下とすることができ、さらに精度良く充電深度を検知できる。
【0034】
負極活物質は、低電圧負極活物質としてグラファイト、高電圧負極活物質としてハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alのうちから選ばれる少なくとも1つを有することが望ましい。
【0035】
この構成によれば、グラファイトは放電終了付近の電圧は0.5V以下であって低電圧負極活物質として選ぶことができ、ハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alは充電開始付近の電圧は0.5V以上であり高電圧負極活物質として選ぶことができ、充電深度検知用リチウムイオン二次電池に組み合わせて使用することで、精度良く充電深度を検知できる。
【0036】
本発明の組電池は蓄電装置として用いられることが望ましい。ここで、蓄電装置は上記の組電池と、少なくとも充電深度検知用リチウムイオン二次電池ごとに並列に設けられた電圧検知装置と、論理回路によって構成される充電深度検知装置と、を含み、充電深度検出装置は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池において検知された電圧の値によって、組電池の充電深度を判断するものである。
【0037】
組電池に充電深度検知装置を接続した蓄電装置とすることで、蓄電装置自体が充電深度を検知することができ、電気自動車用蓄電装置や定置型蓄電装置として安全に使用できる。
【0038】
論理回路は、充電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧を検知したときに充電終了と判断し、放電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧よりも小さい電圧を検知したときに放電終了と判断することが望ましい。
【0039】
リチウムイオン二次電池に印加される電圧は、充電時と放電時とで向きが異なる。印加される電圧の方向にしたがって、充電時の充電深度検知電圧を変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧とし、放電時の充電深度検知電圧を変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より小さい電圧とすることにより、変曲領域の電圧変化量を有効に使用し大電流時においても精度よく組み電池の充電深度を検知することができる傾向がある。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、蓄電装置の組電池容量に対して大きい電流が入出力された際でも、精度良く組電池の充電深度を検知することが可能となり、組電池の性能低下を防止しすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は本発明を適用可能な実施形態の組電池を模式的に示す図である。
【図2】図2は本発明を適用可能な実施形態の蓄電装置を模式的に示す図である。
【図3】図3は本発明を適用可能な実施形態のリチウムイオン電池の構成例を示す概略断面図である。
【図4】図4は本発明を適用可能な実施形態の充電深度検知用リチウムイオン二次電池の充電深度に対する電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる組電池および蓄電装置の好適な実施の一例を詳細に説明する。ただし、本発明の組電池および蓄電装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0043】
本発明の組電池を構成するため、相互に直列接続され得る個々の電池は「リチウムイオン二次電池」である。特に限定しない限り、種々の組成の電極材料や電解質を有する電池を包含する。
【0044】
上述のとおり、本実施形態のリチウムイオン二次電池の電圧−充電深度の関係を表す充放電カーブは、図4にその一例が示される。充放電カーブ中の変曲領域は、製造時にあらかじめ定められるものであり、例えば、電極材料の調整により任意の充電深度領域に設定することができる。また、この場合、変曲領域の発現する電圧は電極材料の選択によって決まる。
【0045】
本実施形態の組電池の充電深度は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池に並列に接続された電圧センサーによって電圧を測定し、その値から求められる。組電池を充電・放電し充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電圧がある所定の電圧になると、組電池が、あらかじめ定められた充電深度状態にあると判定できる。この際、変曲領域では、電圧は急峻に変化するため、電圧の変化量に対し、充電深度の変化量が少なく、精度欲充電深度を判定することが可能となる。また、電池材料を選択することで、電圧変化の絶対量を大きくすることができ、接触抵抗、電池内部抵抗に起因する充放電中に生じる電圧差による判定誤差を小さくすることができる。すなわち、組電池を充電中、組電池から機器へ放電中であっても高精度に充電深度を知ることができ、過充電・過放電が効果的に防止できる。
【0046】
図1は、本実施形態の組電池の一例を模式的に示す。組電池10は、第一の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と、この充電深度検知用リチウムイオン二次電池とは異なる充電深度に変曲領域を持つ第二の充電深度検知用リチウムイオン二次電池16と、1以上の非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12と、が直列接続された構造を有する。「非充電深度検知用リチウムイオン二次電池」とは、充電深度検知には寄与せず組電池の充放電のみに寄与するリチウムイオン二次電池をいう。「充電深度検知用リチウムイオン二次電池」は「第一の」および「第二の」と表された2個に限定されるものではなく、充電深度を検出したい段階の数に応じて組み込むことができる。本実施形態の第一の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と、第二の充電深度検知用リチウムイオン二次電池16とは、それぞれ異なる領域の充電深度に電圧変動が急峻な変曲領域を示す。充電深度検知用リチウムイオ二次電池は、充電深度を検知したい数より多い種類接続されていることが望ましい。
【0047】
本実施形態の組電池10は、複数の非充電深度検知用リチウムイオン電池12と、充電深度検知用リチウムイオン二次電池とが直列に接続されていれば、各電池単独の配列は特に限定されない。例えば、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12に対してさらに直列・並列に非充電深度検知用リチウムイオン二次電池を接続してもよい。また、第一の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14と、第二の充電深度検知用リチウムイオン二次電池16とに各々と同等の特性を有する充電深度検知用リチウムイオン二次電池を並列接続してもよい。また、充電深度の検知精度向上のため、充電深度検知用のリチウムイオン二次電池と同等の特性を有する他の充電深度検知リチウムイオン二次電池をいくつか直列接続してもよい。さらに、図1の組電池10をさらに直列・並列に接続してもよい。
【0048】
本実施形態の組電池10を大型電源システム用として使用する場合、高出力を得る観点から非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12を多数用いて構成するのが望ましい。この場合、組電池10全体の出力やエネルギー密度は主に非容充電深度検知用リチウムイオン二次電池12の出力とエネルギー密度とによって決定される。本実施形態の組電池10は複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池によって組電池全体の充電深度が検知されるため、使用される充電深度の範囲で非容充電深度検知用リチウムイオン二次電池自体の電圧変化または内部抵抗を大きくする必要がない。したがって組電池を構成する非容充電深度検知用リチウムイオン二次電池12には、電圧変化が少なく内部抵抗の低い電池を使用できる。その結果、本実施形態の組電池は安定した高出力を広い充電深度範囲で機器に提供できる。この効果を高めるため、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池12は、それらの初期電池容量が製造ばらつき程度(5%)の範囲内でそろっていることが望ましい。また、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の初期電池容量は、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池より大きいことが望ましい。
【0049】
図2に、本実施形態の組電池を組み込んだ蓄電装置の好ましい一実施形態を模式的に示す。本実施形態の蓄電装置40は、図1の組電池10と、充電深度検知用リチウムイオン二次電池に並列接続された電圧検知装置および充電深度検知装置30、35からなる。充電深度は、充電深度検知用リチウムイオン電池の電圧を、電池に並列に接続された電圧検知装置によって測定し、その電圧の値を用い充電深度検知装置により算出される。
【0050】
図3に、本実施形態にかかる充電深度検知用リチウムイオン二次電池の一例を示す。リチウムイオン二次電池50は、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料からなる正極60および負極70と、リチウムイオン導電性のある電解質と、正極および負極の間にあるセパレータ80とを含む。
【0051】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、ある充電深度領域で電圧が急峻に変化する変曲領域90が存在するが、変曲領域90の発現は以下の場合に得られる。
(1)正極合剤層61を、正極活物質を複数種混合して形成する場合、
(2)負極合剤層71を、負極活物質を複数種混合して形成する場合、
(3)その両方の場合
正極活物質と負極活物質とは、それぞれが固有の電位を持つ。リチウムイオン二次電池の電圧は、正極活物質と負極活物質の固有の電位に起因する電位差である。一の電極の中で複数種の活物質材料を混合して使用することにより、活物質間の電位の切れ目に急峻な電位差を持つ変曲領域90が生ずる。ただし、LiMnFePOのように、一種類の活物質が変曲領域を発現させる場合もある。
【0052】
上述のとおり、変曲領域は、所定の電圧において充電が完了する活物質材料と、同じ電圧において放電が完了する活物質材料と、を混合して一の電極を作製することで充電深度検知用リチウムイオン二次電池に発現させることができる。また、
(A)その電圧における充電深度を100%とした場合に95%以上で充電が終了する活物質材料(以下、「低電圧活物質」という。必要に応じて「低電圧正極活物質」「低電圧負極活物質」という場合がある。)と、同じ電圧における充電深度を0%とした場合に5%以下で放電が完了する活物質材料(以下、「高電圧活物質」という。必要に応じて「高電圧正極活物質」「高電圧負極活物質」という場合がある。)を混合して電極とすること、
(B)その電圧における充電深度が実使用域にある活物質材料を、電極における全活物質の電気容量割合として10%以下とすること、
により、変曲領域での充電深度変化量は10%以下に収束させることができる。
【0053】
上記(1)及び(3)の場合、一般に、リチウムイオン電池用正極活物質の電圧範囲は金属リチウムに対して約3.0〜約4.0Vである電圧範囲を考慮することが望ましい。例えば、この中央値である3.5Vを基準とする場合、3.5Vより小さくかつ3.5V近傍の電圧が満充電である低電圧正極活物質と、3.5Vより大きくかつ3.5V近傍の電圧が放電終了電圧である高電圧正極活物質とを組み合わせることができる。組み合わせにかかる複数種の正極活物質同士の電位は重ならないことが望ましい。変曲領域をなだらかにして測定制度を低下させる場合があるためである。
【0054】
具体的には、低電圧正極活物質としてはLiTiO、LiFePOなどが挙げられる。また、高電圧正極活物質としてはLi(Ni1-x-yCoMn)O(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li(N1-b-cCoAl)O(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMn、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOなどが挙げられる。ここに示す低電圧正極活物質と、高電圧正極活物質とのうちいずれか一種ずつを組み合わせて正極合剤層61とすることにより、正極60を起源として変曲領域を発現させることができる。
【0055】
低電圧正極活物質のうちのLiFePO、高電圧正極活物質のうちの、LiVPO、LiVOPO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO等は、オリビン構造を持ち、通常使用域で電圧変化が少なく、充電初期、充電末期に急峻に電圧が変化することが知られている。このようなオリビン構造を持つ正極活物質を用いることで、変曲領域90における電圧変化量に対する充電深度変化量を小さくでき、検知精度を向上させることができる。
【0056】
変曲領域が負極70を起源とする(2)又は(3)の場合、負極合剤層71中の負極活物質を複数種類選択することで、変曲領域を得ることができる。活物質の選択は、負極活物質の電位差が大きい組み合わせであることが望ましい。負極の場合は、0.5V程度を境界として低電圧活物質、高電圧活物質に区別できる。低電圧負極活物質としてはグラファイトを用いることができる。高電圧負極活物質としてはハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alなどを適宜用いることができる。
【0057】
変曲領域が発現する充電深度は、低電圧活物質と高電圧活物質との混合比率を変化させることにより調整することができる。したがって、2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、低電圧活物質と高電圧活物質との混合比率を相違させることにより相互に異なる充電深度に調整できる。これにより、複数種類の充電深度検知用リチウムイオン二次電池14、16が得られる。
【0058】
他方、2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池の充電深度は、低電圧活物質の種類、あるいは高電圧活物質の種類を変更して調整することも可能である。しかし、同一の低電圧活物質、同一の高電圧活物質について混合比率のみを変化させることにより充電深度を調整することが有効である。活物質の種類を変更した場合、電位差以外の特性も考慮した充電深度の検出が必要となる場合があるからである。例えば、正極の調整により変曲領域の充電深度を相違させる場合であって、低電圧正極活物質としてLiFePOを、高電圧正極活物質としてLiMnPOを選択する場合、2以上の充電深度検出用リチウムイオン二次電池はLiFePOとLiMnPOとの混合比率の相違のみによって調整されるのが望ましい。負極の調整による場合も同様である。
【0059】
また、充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、必ずしも2種類の活物質(一の低電圧活物質と一の高電圧活物質)の混合に制限されるものではない。例えば、正極においてはLiFePOとLiMnO、及びLiNi1/3Mn1/3Co1/3を組み合わせることができる。ただし、多種の活物質を組み合わせた場合、変曲領域が多数発現して相互に影響しあうことにより変曲領域がなだらかになる傾向がある。また、電位差以外の特性の影響が顕著に出現する傾向もある。そのため、正極活物質の種類を四種以下とすることが望ましい。負極についても同様である。
【0060】
正極活物質を起源とする変曲領域と負極活物質を起源とする変曲領域とが略同一の充電深度にそろうように、低電圧正極活物質、高電圧正極活物質、低電圧負極活物質及び高電圧負極活物質を選択すれば、変曲領域に発現する電位差を大きくすることができる。このような組み合わせの一例として、低電圧正極活物質としてLiFePOを、高電圧正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を選択し、低電圧負極活物質としてグラファイトを、高電圧負極活物質としてハードカーボンを選択する構成がある。この場合、活物質の容量を基準として、正極活物質の比率と、負極活物質の比率とをそろえることが望ましい。
【0061】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極は、高電圧正極活物質、低電圧正極活物質、導電助剤及びバインダーを溶媒に混合した正極塗料を用いて作製できる。この塗料を、集電体62上に塗布し乾燥させ正極合剤層61とし、正極60を形成する。負極については、高電圧負極活物質と、低電圧負極活物質とを、導電助剤及びバインダーと共に溶媒に混合して負極塗料を作成する。この塗料を集電体72上に塗布し乾燥させ負極合剤層71とし、負極70を形成する。電極の形成は、このような塗布技術を用いたものに限定されない。例えば、正極塗料や負極塗料をシート状に固化させて集電体上に貼り付けてもよい。また、メッシュ状の集電体を介して貼り合わせてもよい。
【0062】
バインダーとしては、ポリフッ化ビリニデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを適宜選択して用いることができる。溶媒としては、バインダーを溶解させる各種の溶媒が使用できる。具体的には、N−メチルピロリドン(NMP)、純水などを用いることができる。
【0063】
集電体は、リチウムイオン二次電池に使用されている各種公知の材料を用いることができる。具体的には、負極集電体72として銅箔を、正極集電体62としてアルミニウム箔を用いることができる。
【0064】
電解質は、リチウムイオン伝導性を有する無機材料、有機高分子系材料、水系の電解液材料、非水電解液材料等を適宜用いることができる。例えば、非水電解液を用いる場合、リチウムイオン伝導性のある各種溶媒が望ましく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状炭酸エステルを単体または適宜組み合わせて使用することができる。また、電気伝導度を高くし、かつ適切な粘度を有する電解液を得るため、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジフルオロカーボネート(FEC)等を併用してもよい。非水電解液中の電解質としては、LiPF、LiBF、LiClOなどがあげられる。
【0065】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂の微多孔膜などを用いることができる。電解質が非水電解液である場合、セパレータ80の中に含浸されることが望ましい。
【0066】
得られた正極60と、負極70とは、セパレータ80を介して積層され、電池要素とされる。電池要素は、積層体として形成されていてもよく、巻回体として形成されていてもよい。さらに巻回体は、円筒形状に形成されていてもよく、平型(楕円)形状に形成されていてもよい。
【0067】
電池要素は外装体の中に挿入され、封止される。外装体は、金属製の円筒缶、平型缶、ラミネート外装袋などを適宜選択することができる。
【0068】
なお、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池については、一種類の正極活物質、一種類の負極活物質を用いて正極60、負極70を形成すればよい。この場合の正極活物質と負極活物質とは、その選択について特に制限はない。
【0069】
(組電池の作成)
上記のように作成した、変曲領域が発現する充電深度が異なる複数の充電深度検知用リチウムイオン二次電池と非充電深度検知用リチウムイオン二次電池とを直列に接続し、組電池を得ることができる。組電池は動力源として各種機器に組み込まれる。組電池は、そのまま各種機器に搭載しても、複数の組電池と制御回路を組み合わせて組電池モジュールを各機器に搭載してよい。組電池モジュールを作成する際には組電池を直列及び/又は、並列に接続してよく、これにより大出力かつ、サイクル特性に優れる組電池モジュールを得ることができる。
【0070】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は変曲領域の電圧変化のみが問題となるため、原則として組電池内の位置については測定機能上の問題とならない。一方、外気温が低温になる場合などは、充電深度検知用リチウムイオン二次電池を組電池内の中央部分に配置すれば、自己発熱により中央部分の充電深度検知用リチウムイオン二次電池が温まり、外環境に起因する影響を排除できるため、組電池の充電深度検知をさらに精度良く行うことができる。
【0071】
また、一方で外部環境が制御されていて一定である場合は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池を組電池の外側に配置すれば、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の温度は、外部環境によりほぼ一定となるため、組電池の充電深度検知をさらに精度良く行うことができる。
【0072】
上記充電深度検知用リチウムイオン二次電池を用いた組電池を蓄電装置とする場合、蓄電装置の充電深度を充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電圧から検知するための電圧センサーを、充電深度検知用リチウムイオン電池に対し並列に接続する。電圧センサーは、充電深度検知機能を有する論理回路に接続されるのが好ましい。この論理回路は、蓄電装置において2種以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電圧の値から、組電池全体の充電深度を評価する論理回路であることが望ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
〔充電深度検知用Aのリチウムイオン二次電池の作成〕
正極活物質にLFPとNCMの二種類の正極活物質を用いた。LFPは水熱合成法を用いて作成した。負極活物質に天然黒鉛を用いた。
【0075】
○電池電極作成
・正極の作成
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3(以下、「NCM」という。戸田工業株式会社製)、(LiFePO(以下、「LFP」という。)の二種類を、導電助剤としてカーボンブラック(以下、「CB」という。電気化学工業株式会社製、型番DAB50)及び黒鉛(以下、「Gr」という。ティムカル株式会社製、型番KS−6)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という。(株式会社クレハ製、KF7305))、を用い正極を作成した。NCMを42.5g、LFPを42.5g、CBを5g、黒鉛を5g、PVDFのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液(50g、10wt%)を加えて混合し塗料約145gを作成した。この塗料を集電体であるアルミニウム箔(厚み20μm)にドクターブレード法で塗布後、90℃で乾燥し、圧延した。
【0076】
・負極の作成
負極活物質として天然黒鉛を45g、導電助剤としてCB2.5g、をドライミックスした後に、バインダーとして前記PVDF溶液22.5gを加え負極用の塗料を作成した。この塗料を集電体である銅箔(厚み16μm)にドクターブレード法で塗布後、乾燥(90℃)、圧延した。
【0077】
・電池の作成
作成した正極と負極とを所定の寸法に切断した。また、セパレータ(ポリオレフィン製の微多孔質膜)を所定の寸法に切断した。正極、負極には、外部引き出し端子を溶接するために電極塗料(活物質+導電助剤+バインダー)を塗布しない部分を設けておいた。正極、負極、セパレータをこの順序で積層した。積層数は、リチウムイオン二次電池の容量が200mAhになるように積層した。積層するときには、正極、負極、セパレータがずれないようにホットメルト接着剤(エチレン−メタアクリル酸共重合体、EMAA)を少量塗布し固定した。正極、負極には、それぞれ、外部引き出し端子としてアルミニウム箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)、ニッケル箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)を超音波溶接した。この外部引き出し端子に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)を巻き付け熱接着させた。これは外部端子と外装体とのシール性を向上させるためである。正極、負極、セパレータを積層した電池要素を封入する電池外装体はアルミニウムラミネート材料からなり、その構成は、PET(12)/Al(40)/PP(50)のものを用意した。PETはポリエチレンテレフタレート、PPはポリプロピレンである。かっこ内は各層の厚み(単位はμm)を表す。なおこの時PPが内側となるように製袋した。この外装体の中に電池要素を入れ電解液(エチレンカーボンネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(EC:DEC=30:70vol%)にLiPF6を1Mに溶解させた)を適当量添加し、外装体を真空密封しリチウムイオン二次電池を作成した。10mA(0.05C)にて10時間エージングした。
【0078】
初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。充放電カーブには、充電深度が40%程度の領域に電圧が大きく変化する変曲領域を持っていた。
【0079】
〔充電深度検知用Bのリチウムイオン二次電池の作成〕
○電池電極作成
・正極の作成
NCMを63.8g、LFPを21.3g使用した以外は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aの作成と同様に作成した。
【0080】
・負極の作成
充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等の電極を使用した。
【0081】
○電池の作成
・充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等に作成した。
初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。充放電カーブには、充電深度が12%程度の領域に電圧が大きく変化する変曲領域を持っていた。
【0082】
〔充電深度検知用リチウムイオン二次電池Cの作成〕
正極活物質にLFPとNCMの二種類の正極活物質を用いた。LFPは水熱合成法を用いて作成した。負極活物質に天然黒鉛を用いた。
【0083】
○電池電極作成
・正極の作成
NCMを17.0g、LFPを68.0g使用した以外は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aの作成と同様に作成した。
【0084】
・負極の作成
充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等の電極を使用した。
【0085】
○電池の作成
・充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等に作成した。
初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。充放電カーブには、充電深度が70%程度の領域に電圧が大きく変化する変曲領域を持っていた。
【0086】
〔充電深度検知用リチウムイオン二次電池Dの作成〕
正極活物質にLiMn(以下、「LMO」という。戸田工業製)の二種類の正極活物質を用いた。負極活物質に非結晶質炭素としてハードカーボンを用いた。
【0087】
○電池電極作成
・正極の作成
LMOを85g使用した以外は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aの作成と同様に作成した。
【0088】
・負極の作成
天然黒鉛の代わりに、非結晶質炭素としてハードカーボンを用いた以外は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等に電極を作成した。
【0089】
○電池の作成
・充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等に作成した。
初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。充放電カーブは、変曲領域はなく、特許文献1にあるように、全域に傾きをもつ形となった。
【0090】
〔非充電深度検知用のリチウムイオン二次電池の作成〕
正極活物質にLFPを用いた。LFPは水熱合成法を用いて作成した。負極活物質に天然黒鉛を用いた。
【0091】
○電池電極作成
・正極の作成
LFPを85g使用した以外は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等に作成した。
【0092】
・負極の作成
充電深度検知用の電池と同等のものを作成した。
【0093】
○電池の作成
・充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと同等に作成した。
初期の平均放電容量は約200mAhであった。また開回路時の充放電カーブ評価として、接触抵抗などが無視でき十分に電流値の小さい10mA(0.05C)にて測定を行った。充放電カーブには、変曲領域は発現しなかった。作成した電池の変曲領域が発現する充電深度と変曲領域の中間電位を表1に示す。表1に示すとおり、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池とDとは変曲領域が発現しなかったのに対し、電池A〜Cでは任意の充電深度に変曲領域を発現させられることがわかった。
【表1】

【0094】
以下、作成した各電池を直列に接続し組電池を作成し、実際に充放電を行った実施例について述べる。
【0095】
(実施例2)
実施例2では、充電状態をそろえた非充電深度検知用リチウムイオン二次電池4個と充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと充電深度検知用リチウムイオン二次電池Bを1個ずつ直列に接続し20V級のリチウムイオン電池の組電池を作成した。
【0096】
充電状態5%程度から、200mA(1C)で充電し充電深度検知用単リチウムイオン二次電池Aの電池が3.6Vとなったとき充電を終了させ、組電池を再度ひとつずつの電池にし、非充電深度検知用の電池4個を充放電機にて真の充電状態を評価した。充電深度は、38%弱で、充電深度の検知誤差は1%であった。
【0097】
同様にして、上記組電池の充電深度検知用リチウムイオン二次電池Bが3.6Vとなったときの非充電深度検知用電池4個の真の充電状態を評価すると12%弱で、充電深度の検知誤差は1%であった。
【0098】
さらに、600mA(3C)充電、1000mA(5C)充電、200mA(1C)放電、600mA(3C)放電、1000mA(5C)放電と同様のことを行うと、表2のようになった。充電時、放電時の結果は検知誤差の符合が異なるだけで、絶対量はほぼ同等であったのでまとめて示した。
【0099】
(実施例3)
実施例3では、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池を9個と充電深度検知用リチウムイオン二次電池Aと充電深度検知用リチウムイオン二次電池Bと充電深度検知用リチウムイオン二次電池Cを1個ずつ使用し40V級の組電池を作成した。実施例2と同様に、1C充放電、3C充放電、5C充放電をし、各充電深度検知用リチウムイオン二次電池が所定電圧になった際の、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池の真の充放電状態を評価し、検知誤差を算定すると表2のようになった。
【比較例】
【0100】
(比較例1)
比較例1では、非充電深度検知用リチウムイオン二次電池を5つ、充電深度検知用リチウムイオン二次電池Dを1つ使用し20V級のリチウムイオン電池の組電池を作成した。充電深度検知用リチウムイオン二次電池の充放電カーブから求めた充電状態が12%、38%,70%となる開放電圧をあらかじめ求め、所定電圧とした。実施例2と同様にして、1C、3C、5Cの充放電中にそれぞれ所定の電圧になった際の非充電深度検知用の真の充放電状態との検知誤差を算定すると表2のようになった。表2に示すように、実施例2と3との組電池は1C、3C、5Cの全てにおいて検知誤差が10%以内であったのに対し、比較例1の組電池はいずれの条件でも10%を超える検知誤差であった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、大電流による充放電中でも複雑な判定回路を必要とせず、精度良く充電深度を評価できるリチウムイオン二次電池の組電池および蓄電装置を提供するため、リチウムイオン二次電池の組電池および蓄電装置の製造、使用に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0102】
10 リチウムイオン二次電池の組電池
12 非充電深度検知用のリチウムイオン二次電池
14 第一の充電深度検知用のリチウムイオン二次電池
16 第二の充電深度検知用のリチウムイオン二次電池
30 電圧検出装置と充電深度検知装置
35 電圧検出装置と充電深度検知装置
40 リチウムイオン二次電池の蓄電装置
50 リチウムイオン二次電池
60 正極
61 正極合剤層
62 正極集電箔
70 負極
71 負極合剤層
72 負極集電箔
90 変曲領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上のリチウムイオン二次電池と、二以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池と、が直列接続されてなり、
二以上の前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、それぞれ異なる充電深度領域に、急峻に電圧が変化する変曲領域を有する
ことを特徴とする組電池。
【請求項2】
前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、正極又は負極の活物質材料として、前記充電深度に対し、
(1)この充電深度を100%とし、前記充電深度において充電状態が95%〜100%となる、一の活物質、
(2)この充電深度で定められる放電深度を100%の放電容量とし、前記放電深度において放電状態が95%〜100%となる、他の活物質と、
を、正極又は負極の少なくともいずれかにおいて混合して用いることを特徴とする請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記変曲領域の電圧の変化量が100mV以上である請求項1〜2のいずれかに記載の組電池。
【請求項4】
前記変曲領域の電圧の変化量が300mV以上である請求項1〜3のいずれかに記載の組電池。
【請求項5】
前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、複数種の正極活物質を混合した正極および/または複数種の負極活物質を混合した負極を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の組電池。
【請求項6】
二以上の前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、全て同じ複数種の正極活物質を混合した正極および/または同じ複数種の負極活物質を混合した負極を有し、
前記複数種の正極活物質の混合比および/または前記複数種の負極活物質の混合比が異なるものである請求項5のいずれかに記載の組電池。
【請求項7】
前記複数種の正極活物質および/または前記複数種の負極活物質は、二種類の正極活物質および/または二種類の負極活物質を使用するものである請求項5または6のいずれかに記載の組電池。
【請求項8】
前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含み、
前記正極活物質は、前記複数種の正極活物質として、一以上の低電圧正極活物質と一以上の高電圧正極活物質とを混合したものであって、
前記低電圧正極活物質は、金属リチウムを基準として上限近傍の電位が3.5V未満の正極活物質のうちの少なくとも一種以上であり、
前記高電圧正極活物質は、金属リチウムを基準として下限近傍の電位が3.5V以上の正極活物質のうちの少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の組電池。
【請求項9】
前記低電圧正極活物質は、LiTiO、LiFePOのうちの少なくとも一つであり、
前記高電圧正極材料は、Li(Ni1-x-yCoMn)O2(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li(Ni1-b-cCoAl)O(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMn、LiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO4、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも一つである請求項8に記載の組電池。
【請求項10】
前記低電圧正極活物質はLiFePOであり、前記高電圧正極活物質はLiVPO、LiVOPO、LiCoO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPOのうちの少なくとも一つである請求項9に記載の組電池。
【請求項11】
前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、負極活物質を含み、
前記負極活物質は、前記複数種の負極活物質として、一以上の低電圧負極活物質と一以上の高電圧負極活物質とを混合したものであって、
前記低電圧負極活物質は、金属リチウムを基準として上限近傍の電位が0.5V未満の負極活物質のうちの少なくとも一種以上であり、
前記高電圧負極活物質は、金属リチウムを基準として下限近傍の電位が0.5V以上の負極活物質のうちの少なくとも一種以上である請求項5または6のいずれかに記載の組電池。
【請求項12】
前記低電圧負極活物質はグラファイトであり、
前記高電圧負極活物質は、ハードカーボン、LiTiO、SiO(wは1〜4)、Alのうちの少なくとも一種以上である請求項11に記載の組電池。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の組電池と、
少なくとも前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池ごとに並列に設けられた電圧検知装置と、
論理回路によって構成される充電深度検知装置と、を含み、
前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池において検知された電圧の値によって、組電池の充電深度を判断する充電深度検出装置を有する蓄電装置。
【請求項14】
前記充電深度検知装置の充電深度検知電圧は充電時と放電時と異なり、
充電時の充電深度検知電圧は、変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧であり、
放電時の充電深度検知電圧は、変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧よりも小さい電圧である請求項13に記載の蓄電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−89522(P2013−89522A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230377(P2011−230377)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】