説明

組電池

【課題】SOCの変化に対して電圧変化が小さい特定のセルを含む組電池において、充放電状態の検出精度を確保すること。
【解決手段】組電池1は、少なくとも2種類からなる複数個のリチウムイオン二次電池である、少なくとも一つの基準セル10と複数個の主要セル11を直列接続して構成されている。複数個の主要セル11は、オリビン構造を有する鉄系化合物を活物質として含む正極、黒鉛を活物質として含む負極、及び電解質を備え、組電池1を構成する主要な電池である。基準セル10は、オリビン構造を有する活物質を含む正極と、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの活物質と黒鉛を混合した材料を含む負極と、電解質と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOC(state of charge、電池の蓄電率)の変化に対して電圧変化が小さい特定の二次電池を含む組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
SOCの変化に対して電圧変化が小さい特定の二次電池を含む組電池について、充電制御の精度を向上させるための従来技術として、特許文献1が知られている。特許文献1によると複数の電池よりなる組電池において、主要セルとしての電池AおよびSOC検出用の電池Bを組み込むことを特徴としており、電圧検出の困難な電池AのSOCを間接的に電池Bの電位より推測することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−220658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の充電制御技術では、上記、電池Bは正極活物質として、CoやNiを含む層状活物質を用いており、これらを用いた電池の劣化後のSOC−OCVの関係は初期の特性を維持しない。一例として、正極側での電解液酸化、正極活物質の膨張収縮による微細孤立化(例えば、活物質が部分的に剥離等すること)、負極での被膜形成によるLiの消費、負極の膨張収縮による微細孤立化等が想定され、劣化のモードによりSOC−OCVの関係が多様に変化してしまう。つまり、使われ方により劣化モードが大きく異なる組電池のSOCを寿命末期まで電池Bの電位より予測するのは困難であった。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、SOC(state of charge、電池の蓄電率)の変化に対して電圧変化が小さい特定のセルを含む組電池において、充放電状態(SOC)の検出精度を寿命末期まで確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1は、少なくとも2種類からなる複数個のリチウムイオン二次電池を電気的に接続して構成される組電池に係る発明であって、
オリビン構造を有する鉄系化合物を活物質として含む正極、黒鉛を主成分とする負極、及び電解質を有し、当該組電池を構成する主要な電池である複数個の主要セルと、
オリビン構造を有する活物質を含む正極と、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの活物質と黒鉛を混合した材料を主成分とする負極と、電解質と、を備えた少なくとも一つの基準セルと、を備え、
基準セルと複数個の主要セルを直列接続して構成されることを特徴とする。
【0007】
この発明の主要セルは、黒鉛を主成分とする負極を有することにより、充電時、放電時のSOC(電池の蓄電率)と端子間電圧の関係を示す固有の充放電特性において、SOCの変化に対する電圧変化が小さい低電圧変化率領域(電圧変化がほぼフラットな領域)を示す。ここで、低電圧変化率領域は、例えば、単位SOC(%)当たりの電圧変化率が0.002(V/SOC%)以内である領域である。一方、この発明の基準セルは、組電池に組み込んだ状態で主要セルの低電圧変化率領域と重複するSOCの範囲において、当該低電圧変化率領域を超える電圧変化率を示す領域を含む特徴的な充放電特性を有する。つまり、本発明に係る基準セル及び主要セルを直列接続して構成される組電池について充電または放電を実施する過程で、主要セルにおけるSOCが低電圧変化率領域に含まれるときに、基準セルにおけるSOCが当該低電圧変化率領域を超える電圧変化率を示すことになる。
【0008】
そして、基準セルの正極活物質の特徴として、リン酸骨格中へのLiの挿入脱離により放電・充電を行うことで膨張収縮が限りなくゼロに近いため、正極活物質の微細孤立化が生じないことが挙げられる。また、正極の電位はその他主要セルと同等以下の電位さらには、正極側に面したセパレータ、電解液含有成分の酸化電位より十分に低い電位となっており、正極活物質近傍でのLi消費は限りなくゼロに近い。すなわち、基準セルの正極側に由来するSOC−OCVの変化は生じない。
【0009】
さらに負極としてソフトカーボンあるいはハードカーボン材、特にハードカーボン材を用いることで、負極側の膨張収縮に基づく微細孤立化はほぼ生じない。つまり、本発明の基準セルで生じる唯一の劣化モードとして、黒鉛を主体とした負極を有する主要セルに比較してはその程度は小さい。そして、電解液成分の還元分解に基づく負極活物質表面でのLi消費のみが想定されるが、この場合、本発明での基準セルはその構成上、電池電圧と残存容量の間に成立する関係を寿命初期から寿命末期まで非常に小さい変化に保つことが可能となる。
【0010】
このため、本発明によれば、充電時や放電時における組電池の充放電制御の際に、主要セルにおけるSOCが低電圧変化率領域に含まれる場合に基準セルの電圧を検出することで、特徴的な充放電特性から基準電池のSOCを算出でき、さらに基準セルの検出電圧や基準電池の算出されたSOCに基づいて、主要セルのSOCを求めることが可能である。このようにして、すべてのセルについてSOCを定量的に検出できるので、組電池のSOCを定量的に検出することができる。したがって、SOCの変化に対して電圧変化が小さい特定のセルを含む組電池に関して充放電状態(SOC)の検出精度を確保することができる。
【0011】
請求項2の発明によると、請求項1の発明において、基準セルの電池容量は、主要セルの電池容量に対して同等以上であることを特徴とする。この発明によれば、組電池の充電の際に、主要セルの電池容量の最大限まで充電することができる。したがって、組電池を構成する多数の主要セルに対する充電容量を最大限確保できるので、組電池の充電容量の向上が図れる。
【0012】
請求項3の発明によると、請求項1または請求項2の発明において、基準セルは、直列接続されてセル群を構成する全セルの中で、中央部に配置されることを特徴とする。複数のセルを直列に接続してなるセル群において、その中央部に位置するセルは、電圧が高くなる傾向にあり、他の部分に比べてセルの劣化が早い傾向がある。本発明の基準セルは、SOCに対する負極の電圧が高く、主要セルよりも劣化しにくい傾向にある。そこで、本発明によれば、主要セルに比べて劣化しにくい性質を有する基準セルをセル群の中央部に配置することにより、組電池全体の劣化のバランスを保つことができ、組電池の寿命を長期化に寄与する。
【0013】
請求項4の発明によると、請求項1または請求項2に記載の発明において、基準セルは、直列接続されてセル群を構成する全セルの中で、端部に配置されることを特徴とする。本発明の主要セルは、黒鉛を主成分とする負極を有するため、低温環境下で負極の電圧が低くなり、負極側において金属リチウムの析出を起こし易い傾向にある。一方で、本発明の基準セルは、負極側の電圧が高いため、主要セルに比べて金属リチウムの析出が起こりにくい。そして、直列接続により構成されるセル群において端部に位置するセルの温度は、他のセルに比べて低温になりやすい。そこで、本発明によれば、その構造から主要セルに比べて金属リチウムの析出を起こしにくい性質を有する基準セルをセル群の端部に配置することにより、組電池全体としての劣化を抑制でき、組電池の寿命を長期化に寄与する。
【0014】
請求項5の発明によると、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、基準セルは、主要セルを複数個直列接続してなるセル群を複数個備え、複数個のセル群のうち、少なくとも一つのセル群には、複数個の主要セルに直列接続される基準セルが含まれることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、基準セルの端子間電圧を検出することで、基準セルを含むそれぞれのセル群のSOCを求めることができる。つまり、組電池全体のSOCが検出可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る第1実施形態の組電池を適用可能な組電池システムの構成を示した概略図である。
【図2】第1実施形態の組電池に含まれる基準セルの充放電特性を示す図である。
【図3】第1実施形態の組電池に含まれる主要セルの充放電特性を示す図である。
【図4】本発明に係る第2実施形態の組電池を適用可能な組電池システムの構成を示した概略図である。
【図5】第1実施形態の組電池に含まれる基準セルについて、耐久劣化前後のSOCとOCVの関係について示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合わせることも可能である。
【0018】
(第1実施形態)
本発明に係る組電池を適用する第1実施形態について説明する。組電池1に含まれるリチウムイオン二次電池は、少なくとも2種類からなる。組電池1は、少なくとも二種類のリチウムイオン二次電池を直列接続して構成されている。少なくとも二種類のリチウムイオン二次電池は、少なくとも一つの基準セル10と、基準セル10よりも多数設けられる複数個の主要セル11とから構成されている。組電池1は、例えば、電動機のみによって走行する電気自動車(EV)、電動機と内燃機関とを併用して走行駆動力とするプラグインハイブリッド自動車(PHV)等に搭載される車両用蓄電池、あるいは住宅における蓄電池用の定置用蓄電池として用いることができる。
【0019】
図1は、本発明に係る組電池1を適用可能な組電池システム100の構成を示した概略図である。組電池システム100は、ハイブリッド自動車に搭載され、走行のための電動機と接続されている。この組電池システム100は、図1に示すように、組電池1と、電流検出装置30と、電圧検出装置20と、電池制御装置40とを備えている。
【0020】
組電池1は、ここでは、その一例として1個の基準セル10と、複数個の主要セル11とを含んでいる。組電池1は、例えば、96個の主要セルと1個の基準セル10とを直列接続して構成される。基準セル10は、直列接続されてセル群、すなわち、組電池1を構成する全セルの中で、その中央部に配置されている。基準セル10と主要セル11は、充電時、放電時のSOCと端子間電圧の関係を示した充放電特性が異なる電池である。そして、基準セル10と主要セル11は、異なる充放電特性を有するために、負極に主成分の異なる活物質を備えている。
【0021】
電池制御装置40は、入力部41、演算部42、記憶部43、出力部44等を備えている。電流検出装置30は、組電池1を構成する複数のリチウムイオン二次電池(基準セル10及び主要セル11)を流れる電流値を検出する。電圧検出装置20は、各々の主要セル11と基準セル10の端子間電圧を検出する。電圧検出装置20は、組電池1の充電時や放電時に、所定の条件を満たす場合には、少なくとも基準セル10の端子間電圧を検出して、組電池1のSOCを算出するために使用する。
【0022】
充電時や放電時に、電流検出装置30が検出する電流値や、電圧検出装置20が検出する端子間電圧は、入力部41に入力される。組電池1におけるSOCの状態は、例えば記憶部43に記憶されたマップ等を用いて演算部42によって演算される。当該マップは、例えば、主要セル11固有の充放電特性、基準セル10固有の充放電特性図等である。つまり、演算部42は、主要セル11と基準セル10のそれぞれについて、電圧検出装置20によって検出された端子間電圧と当該マップからの各セルのSOCを算出し、組電池1全体のSOCを算出することができる。
【0023】
出力部44は、演算結果に基づいて組電池1の充放電を制御する。したがって、電池制御装置40は、電流検出装置30が検出する電流値や、電圧検出装置20が検出する端子間電圧を用いて、組電池1の充放電を制御する。電池制御装置40は、電圧検出装置20が検出する端子間電圧と、記憶部43に記憶されている充放電特性を示したマップとを用いて、組電池1の充電容量または放電容量を算出し、組電池1に蓄えられている電気容量を求める。
【0024】
基準セル10は、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極と、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの活物質と黒鉛を混合した材料を主成分とする負極活物質を含む負極と、正極と負極の間に介在する媒体である電解質と、正極と負極の間に介在して、これらが電気的に短絡しないように配されるセパレータと、正極、負極、電解質、及びセパレータを内部に含む外装ケースと、を備えている。
【0025】
図5は、本発明に係る基準セルの初期品と劣化品について、SOC(%)とOCV(V)の関係を示したグラフである。この基準セルは、鉄オリビン系活物質のLiFePOを主成分とする正極とハードカーボンを主成分とする負極を有するセルである。基準セルの正極と負極の容量比は、1:1.5に調整されている。また、図5に示す基準セルは、電池電圧2.0V〜3.4Vの範囲でSOC検出を行うセルである。
【0026】
初期品のセルと比較する劣化品のセルは、75%劣化品である。ここで、75%劣化品とは、25℃環境下で、満充電状態から、1/10Cレートで2Vまで放電したとき、放電可能容量が出荷状態の初期品の放電可能容量の75%まで放電容量が低下したセルのことである。図5に示すように、75%劣化品の基準セルの容量は、初期品の容量と比較して減少しているが、初期品と劣化品についての正極電位と負極電位の差は、低容量域で2.0Vでほとんど変化せず、高容量域でも3.4Vでほとんど変化しないことがわかる。
【0027】
このように発明者らの研究によれば、前述したように、本発明における基準セルの劣化は、負極でのLi消費が主要因となるため、耐久前後において基準セル電圧と容量の関係を非常に小さい変化に収めることが可能となる。例えば、正極と負極の容量比1:1.5程度にて作製した基準セルについては、50%程度の劣化が生じた場合においても、SOC検出能へ及ぼす影響は1%程度と小さいものとなる。当該容量比が1:1〜2.5の場合の基準セルについても、50%程度の劣化が生じた場合においても、SOC検出能へ及ぼす影響は数%程度になり、小さいものとなる。
【0028】
(正極)
基準セル10に含まれる正極の活物質としては、オリビン構造を有する活物質を用いる。オリビン構造を有する活物質としては、鉄を含む鉄オリビン、マンガンを含むマンガンオリビンを用いることができる。特に正極の活物質としてFe、Mn、Ni、Coから選択された少なくとも1種の金属元素を含むことが望ましい。
【0029】
また、正極の活物質には、オリビン構造を有するオリビン型リチウム化合物、例えば、リン酸化合物の一つであるリチウム金属リン酸塩を用いてもよい。リチウム金属リン酸塩は、例えば、LiMPOで表される化合物とする。Mには、Mn,Fe,Co,Niから選択された少なくとも2種以上の金属元素を用いることができる。
【0030】
その他に有することができる要素としては導電材、結着材、集電体等が挙げられる。正極活物質は、導電材、結着材等と混合した状態で集電体の表面に層状に形成された活物質層を形成することができる。例えば、正極活物質と結着材と導電材等とを水、Nメチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒中で混合した後、集電体上に塗布して形成することができる。
【0031】
導電材は、活物質から生成される電子の授受を行う材料であり、導電性を有するものであればよい。例えば炭素材料や導電性高分子材料が挙げられる。炭素材料としてはケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等を採用できる。また、導電性高分子材料としてはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンを採用できる。
【0032】
結着材は活物質等の構成要素を結合させて電極を形作る材料である。種々の高分子材料を採用することができ、化学的・物理的安定性が高いものが望ましい。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム等が挙げられる。また、導電材として導電性高分子材料を採用すると、導電材の作用に加え結着材の作用を発現させることができる。集電体としてはアルミニウム等の金属から形成される金属箔等を採用することができる。
【0033】
正極は、正極集電体の両面に活物質を含む正極層が担持された構造を有する。正極は、ラミネートシートで形成される外装ケース内に、例えば1枚設けられている。正極は負極とともに積層されて、電極積層体を構成している。正極集電体は、この集電体と同じ材料からなる端子接続部に接続されている。端子接続部は、同じ材料からなる正極端子部に接続されている。正極端子部は、電極積層体を被覆する外装ケースの外部にその先端が所定長さ寸法突出して配されている。
【0034】
(負極)
基準セル10に含まれる負極の活物質は、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの活物質と黒鉛を混合した材料を主成分とする。負極活物質の種類によっては結着材や集電体等を用いる場合もある。結着材は正極にて説明したものと同様のものが採用できる。集電体としては銅等の金属から形成される金属箔等を採用することができる。
【0035】
負極は、負極集電体の両面に活物質を含む負極層が担持された構造を有する。負極は、ラミネートシートで形成される外装ケース内に、例えば2枚設けられている。各負極は正極とともに積層されて、電極積層体を構成している。したがって、負極集電体は、負極の積層方向に2個積層して配置されている。各負極集電体は、この集電体と同じ材料からなる端子接続部に接続されている。2本の端子接続部は、同じ材料からなる1個の負極端子部に接続されている。負極端子部は、電極積層体を被覆する外装ケースの外部にその先端が所定長さ寸法突出して配されている。
【0036】
(電解質)
電解質は正極及び負極間のイオン等の荷電担体の輸送を行う媒体であり、正極と負極の間に介在して電極積層体及びセパレータを十分に濡らしている。電解質は、特に限定しないが、リチウムイオン二次電池が使用される雰囲気下で物理的、化学的、電気的に安定なものが望ましい。
【0037】
例えば、電解質としては、LiBF,LiPF,LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO)の中から選ばれた1種以上を支持電解質とし、これを有機溶媒に溶解させた電解液が好ましい。有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等及びこれらの混合物を採用できる。中でもカーボネート系溶媒を含む電解液は、高温での安定性が高い点で好ましい。また、電解質に対する添加剤としては、ビニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、またはポリスチレンを含むことが好ましい。
【0038】
(セパレータ)
正極と負極との間には電気的な絶縁作用とイオン伝導作用とを両立する部材であるセパレータが介装されている。電解質が液状である場合にはセパレータは、液状の電解質を保持する役割をも果たす。セパレータとしては、紙、セルロース、多孔質合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)やガラス繊維からなる多孔質膜、不織布を採用できる。さらに、セパレータは、正極及び負極の間の絶縁を担保する目的で、正極及び負極よりもさらに大型の形態となっている。
【0039】
(外装ケース)
外装ケースは、外観が平板状体であり、例えば、二つ折りにされたラミネートシートの端部同士を熱融着することにより当該端部同士を封止して、密閉された内部空間を形成している。このような形態で形成された内部空間には、電極積層体、電解質、端子接続部、正極端子部の一部、及び負極端子部の一部が内蔵されている。熱融着は、熱融着されるラミネートシートの端部同士を合わせて加圧した状態で、繰り返しの充放電によって電池特性が低下しない所望の気密性能が得られるように、適正な所定温度かつ所定時間、加熱することにより実施する。
【0040】
主要セル11は、組電池1の大部分を構成する主要なセルであり、オリビン構造を有する鉄系化合物(以下、「鉄オリビン」ともいう)を活物質として含む正極と、黒鉛を主成分とする負極と、正極と負極の間に介在する媒体である電解質と、正極と負極の間に介在して、これらが電気的に短絡しないように配されるセパレータと、正極、負極、電解質、及びセパレータを内部に含む外装ケースと、を備えている。主要セル11の外装ケース内の構造は、上記した、基準セル10の外装ケース内の構造と同様である。つまり、主要セル11の正極、負極、セパレータ等の構造は、基準セル10の場合と同様である。また、主要セル11に含まれる電解質、セパレータ等は、上記する基準セル10の場合と同様である。
【0041】
基準セル10に含まれる正極の活物質としては、オリビン構造を有する鉄系化合物の活物質を用いる。オリビン構造を有する活物質としては、鉄を含む鉄オリビン、例えば、LiFePOを用いる。また、正極材料には、オリビン構造を有するオリビン型リチウム化合物、例えば、リン酸化合物の一つであるリチウム金属リン酸塩の一例であるLiMPOで表される化合物を用いることができる。Mには、Feの他、Mn,Co,Niから選択された少なくとも1種以上の金属元素を用いることができる。
【0042】
さらに、組電池1を構成する基準セル10と主要セル11は、以下の構成上の特徴を有している。基準セル10の蓄電可能な電池容量は、主要セル11の蓄電可能な電池容量に対して同等またはそれ以上に設定するのが好ましい。例えば、基準セル11の電池容量が20(Ah)、25(Ah)、30(Ah)であれば、主要セル11の電池容量は20(Ah)以下、25(Ah)以下、30(Ah)以下にそれぞれ設定される。
【0043】
図2は組電池1に含まれる基準10の充放電特性を示す図である。なお、図2に示す充放電特性を有する基準セル10は、一例として鉄オリビンの正極活物質とハードカーボンの負極活物質を備えたセルである。図3は、組電池1に含まれる主要11の充放電特性を示す図である。なお、図3に示す充放電特性を有する主要セル11は、一例として鉄オリビン構造の正極活物質と黒鉛の負極活物質を備えたセルである。
【0044】
図2に示すように、基準セル10は、充電時、放電時のSOC(%)と端子間電圧(V)の関係を示す充放電特性において、SOCが0%に近づくと電圧が急激に変化する低SOC領域(SOC0%〜2%の領域)と、SOCが100%に近づくと電圧が急激に変化する高SOC領域(SOC97%〜100%の領域)と、低SOC領域と高SOC領域の間のSOC域において電圧が均一的に増加する中間SOC領域と、を示す。中間SOC領域は、主要セル11の低電圧変化率領域を超える電圧変化率を示す領域である。つまり、基準セル10は、SOC2%から97%の広範囲にわたって端子間電圧(V)が大きな変動がなく滑らかに増加する軌跡を描く充放電特性を示す。
【0045】
一方、主要セル11は、図3に示すように、充放電特性において、SOCが0%に近づくと電圧が急激に変化する低SOC領域(SOC0%〜7%の領域)と、SOCが100%に近づくと電圧が急激に変化する高SOC領域(SOC97%〜100%の領域)と、低SOC領域と高SOC領域の間のSOC域において電圧変化が小さいほぼフラットな低電圧変化率領域(SOC7%〜97%の領域)と、を示す。この低電圧変化率領域は、単位SOC当たりの電圧変化率が、0.002(V/SOC%)以内を満たす領域である。
【0046】
組電池1への充電中に、主要セルのSOCが低電圧変化率領域に含まれるようになると、さらに充電が進行して、満充電に近い状態の候SOC領域に達するまで、電圧変化が微小である。この低電圧変化率領域においては、主要セル11の端子間電圧から主要セル11のSOCを正確に求めることは困難である。非常に高精度の分解能を有する電圧検出装置でなければ、主要セルのSOCを、その端子間電圧から正確に検出することはできない。
【0047】
そこで、電池制御装置40は、組電池1の監視ユニットとして、充電時や放電時に、少なくとも主要セル10のSOCが低電圧変化率領域にある場合には、主要セル11の端子間電圧の代わりに、基準セル10の端子間電圧を電圧検出装置20によって検出する。演算部42は、基準セル10の端子間電圧の検出値と、記憶部43に記憶された基準セル10の充放電特性に係るマップとから、基準セル10のSOCを算出する。さらに、基準セル10の充放電特性と主要セル11の充放電特性の間に満たされる相関関係と、当該算出した基準セル10のSOCとによって、主要セル11のSOCを求める。
【0048】
このようにして、電池制御装置40は、低電圧変化率領域における主要セル11の定量的なSOCを、基準セル10の端子間電圧と両セル間の充放電特性の相関関係とから正確に求めることができる。したがって、本実施形態によれば、SOCの変化に対して電圧変化が小さい特定のセルを含む組電池1について、充放電状態の検出精度を確保することができる。
【0049】
また、主要セル11の低電圧変化率領域以外のSOCについては、主要セル11の端子間電圧の検出値と主要セル11の充放電特性とによって正確に求めることができる。基準セル10のSOCについては、SOC全範囲において基準セル10の端子間電圧の検出値と基準セル11の充放電特性とによって正確に求めることができる。以上のように、すべてのセルについてSOC全範囲で正確なSOCが検出可能であるので、充電制御、放電制御において、組電池1のSOCを定量的に求めることができるのである。
【0050】
なお、主要セル11と基準セル10を組電池にするときは、種々の充電状態での組み付けが想定され、本発明の効果はそれぞれのセルの充電状態により損なわれるものではない。また、作業時の安全性及び基準セル10の電位検出能を考慮した際には、主要セル11及び基準セル10をそれぞれ放電状態、例えば、実使用電圧域の下限電圧、として組電池にすることができる。
【0051】
(試験例の評価)
以下に、本発明を適用する複数の試験例の組電池に関して、SOCの検出能を評価した結果を説明する。
【表1】

【0052】
各試験例について、高温貯蔵後のSOC検出能と低温状態のSOC検出能の評価結果を、表1を参照して以下に説明する。高温貯蔵後のSOC検出は、各試験例に相当する組電池を10ヶ月、60℃環境下に置き、SOCとOCVを測定して行った。この測定結果について、すべてのSOC範囲で基準セルのSOC−OCV間に2(mV/SOC%)以上の変化率(傾き)が確認できた場合、評価結果を「○」と判定した。また、低温状態のSOC検出は、各試験例に相当する組電池−5℃環境下に置き、SOCとOCVを測定して行った。この測定結果について、すべてのSOC範囲で基準セルのSOC−OCV間に2(mV/SOC%)以上の変化率(傾き)が確認できた場合、評価結果を「○」と判定した。表1に示すとおり、高温、低温の両方の評価結果について、本発明に係る組電池は、良好な結果が得られた。
【0053】
本実施形態の組電池1がもたらす作用効果について説明する。組電池1は、組電池1を構成する主要な電池である複数個の主要セル11と、少なくとも一つの基準セルと、を直列接続して構成される。主要セル11は、オリビン構造を有する鉄系化合物を活物質として含む正極、黒鉛を主成分とする負極、及び電解質を有する電池である。基準セル10は、オリビン構造を有する活物質を含む正極と、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの活物質と黒鉛を混合した材料を主成分とする負極と、電解質と、を備えた電池である。
【0054】
本実施形態の主要セル11は、黒鉛を主成分とする負極を有することにより、充電時、放電時のSOCと端子間電圧の関係を示す固有の充放電特性において、SOCの変化に対する電圧変化が小さい低電圧変化率領域(電圧変化がほぼフラットな領域)を示す。ここで、低電圧変化率領域は、例えば、単位SOC(%)当たりの電圧変化率が0.002(V/SOC%)以内である領域である。一方、本実施形態の基準セル11は、組電池1に組み込んだ状態で主要セル11の低電圧変化率領域と重複するSOCの範囲において、当該低電圧変化率領域を超える電圧変化率を示す領域を含む特徴的な充放電特性を有する。つまり、基準セル10及び主要セル11を直列接続して構成される組電池1について充電または放電を実施する過程で、主要セル10におけるSOCが低電圧変化率領域に含まれるときに、基準セル10におけるSOCが当該低電圧変化率領域を超える電圧変化率を示すことになる。
【0055】
このため、本実施形態によれば、充電時や放電時における組電池1の充放電制御の際に、主要セル11におけるSOCが低電圧変化率領域に含まれる場合に基準セル10の電圧を検出することで、特徴的な充放電特性から基準電池10のSOCを算出でき、さらに基準セル10の検出電圧や算出された基準電池10のSOCに基づいて、主要セル10のSOCを求めることが可能である。このようにして、すべてのセルについてSOCを定量的に検出できるので、組電池1のSOCを定量的に検出することができる。したがって、SOCの変化に対して電圧変化が小さい特定のセルを含む組電池1に関して充放電状態(SOC)の検出精度を確保できる。
【0056】
また、基準セル10の電池容量は、主要セル11の電池容量に対して同等以上に設定されている。これによれば、組電池1の充電の際に、主要セル10の電池容量の最大限まで充電することができる。したがって、組電池1を構成する多数の主要セル10に対する充電容量を最大限確保できるので、組電池1の充電容量の向上が図れる。
【0057】
また、基準セル10は、直列接続されてセル群を構成する全セルの中で、中央部に配置されている。複数のセルを直列に接続してなるセル群において、その中央部に位置するセルは、電圧が高くなる傾向にあり、他の部分に比べてセルの劣化が早い傾向がある。基準セル10は、SOCに対する負極の電圧が高く、主要セル11よりも劣化しにくい傾向にある。そこで、主要セル10に比べて劣化しにくい性質を有する基準セル11をセル群の中央部に配置することにより、組電池全体の劣化のバランスを保つことができ、組電池1の寿命を長期化に貢献できるのである。
【0058】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る組電池1A及び組電池システム100Aについて、図4にしたがって説明する。図4は第2実施形態の組電池1Aを適用可能な組電池システム100Aの構成を示した概略図である。本実施形態で特に説明しない構成、作用効果等は、第1実施形態と同様である。
【0059】
第2実施形態は、第1実施形態に対して、複数個のセルを直列接続してなるセル群を複数個有し、当該複数個のセル群を並列接続して組電池を構成する点が異なる。図4に示すように、第2実施形態の組電池1Aは、3個のセル群1A1,1A2,1A3を有し、これら3個のセル群を並列接続して構成されている。
【0060】
図4に示すように、セル群1A1は、複数個の主要セル11と1個の基準セル10とを直列接続して構成されている。基準セル10は、直列接続されてセル群1A1を構成する全セルの中で、セル群1A1の端部に配置されている。セル群1A2は、複数個の主要セル11を直列接続して構成されている。セル群1A3は、複数個の主要セル11を直列接続して構成されている。なお、複数個のセル群のうち、少なくとも一つのセル群、例えばセル群1A1に、少なくとも1個の基準セル10が含まれていればよい。
【0061】
組電池システム100Aは、組電池1Aと、電流検出装置30と、電圧検出装置20Aと、電池制御装置40とを備えている。
【0062】
電圧検出装置20Aは、各セル群1A1,1A2,1A3について、各々の主要セル11と基準セル10の端子間電圧を検出する。電圧検出装置20Aは、組電池1Aの充電時や放電時に、セル群1A1,1A2,1A3のうち、少なくとも一つのセル群に含まれる基準セル10の端子間電圧を検出する。
【0063】
電流検出装置30が検出する電流値や、電圧検出装置20Aが検出する端子間電圧は、入力部41に入力される。組電池1AにおけるSOCの状態は、例えば記憶部43に記憶されたマップ等を用いて演算部42によって演算される。当該マップは、例えば、主要セル11固有の充放電特性、基準セル10固有の充放電特性図等である。つまり、演算部42は、主要セル11と基準セル10のそれぞれについて、電圧検出装置20Aによって検出された端子間電圧と当該マップから充電時、放電時のSOCを算出し、基準セル10が含まれるセル群1A1のSOCを算出し、これをもとに他のセル群1A2、1A3のSOCも推定算出することで、組電池1A全体のSOCを算出することができる。
【0064】
本実施形態によれば、基準セル10は、直列接続されてセル群を構成する全セルの中で、端部に配置されている。主要セル11は、黒鉛を主成分とする負極を有するため、低温環境下で負極の電圧が低くなり、負極側において金属リチウムの析出を起こし易い傾向にある。一方で、基準セル10は、負極側の電圧が高いため、主要セル11に比べて金属リチウムの析出が起こりにくい。そして、直列接続により構成されるセル群において端部に位置するセルの温度は、他のセルに比べて低温になりやすい。そこで、その構造から主要セル11に比べて金属リチウムの析出を起こしにくい性質を有する基準セル10をセル群の端部に配置することにより、組電池全体としての劣化を抑制でき、組電池1の寿命を長期化に貢献できるのである。
【0065】
また、基準セル10は、主要セル11を複数個直列接続してなるセル群を複数個備える。複数個のセル群のうち、少なくとも一つのセル群には、複数個の主要セル11に直列接続される基準セル10が含まれる。
【0066】
これによれば、基準セル10の端子間電圧を検出することで、基準セル10を含むセル群のSOCを求めることができる。さらに、基準セル10を含むセル群のSOCがわかれば、他のセル群についても同等と仮定することによって、すべてのセル群のSOCが求まり、組電池全体のSOCを検出することができる。
【符号の説明】
【0067】
1,1A…組電池
1A1,1A2,1A3…セル群
10…基準セル
11…主要セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類からなる複数個のリチウムイオン二次電池を電気的に接続して構成される組電池であって、
オリビン構造を有する鉄系化合物を活物質として含む正極、黒鉛を主成分とする負極、及び電解質を有し、当該組電池を構成する主要な電池である複数個の主要セルと、
オリビン構造を有する活物質を含む正極と、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの活物質と黒鉛を混合した材料を主成分とする負極と、電解質と、を備えた少なくとも一つの基準セルと、を備え、
前記基準セルと前記複数個の主要セルを直列接続して構成されることを特徴とする組電池。
【請求項2】
前記基準セルの電池容量は、前記主要セルの電池容量に対して同等以上であることを特徴とする請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記基準セルは、直列接続されてセル群を構成する全セルの中で、中央部に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組電池。
【請求項4】
前記基準セルは、直列接続されてセル群を構成する全セルの中で、端部に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組電池。
【請求項5】
前記主要セルを複数個直列接続してなるセル群を複数個備え、
前記複数個のセル群のうち、少なくとも一つのセル群には、前記複数個の主要セルに直列接続される前記基準セルが含まれることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の組電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−37862(P2013−37862A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172452(P2011−172452)
【出願日】平成23年8月6日(2011.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】