説明

経口アミノ酸組成物

【課題】透析患者用の経口アミノ酸組成物を提供すること。
【解決手段】発明は、透析患者用経口アミノ酸組成物を提供し、この経口アミノ酸組成物は、分岐鎖アミノ酸および分岐鎖アミノ酸を含むペプチドを含有し、フィッシャー比が6〜95であり、単体としてフェニルアラニンおよびチロシンを含有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口アミノ酸組成物に関する。特に、透析患者用の経口アミノ酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透析患者における栄養障害の原因として、食事摂取量の不足(食欲不振、加齢、食事指導の誤った解釈、食事制限、精神的要素、便秘など)、異化亢進状態(糖尿病、透析に関連した蛋白質およびエネルギーの不足)、合併症(二次性副甲状腺機能亢進症、代謝性アシドーシス)、慢性炎症などに加え、透析による栄養素の漏出が挙げられる。
【0003】
例えば、透析患者の栄養状態を改善するために、アミノ酸注射液ネオアミュー(登録商標)輸液が知られている(非特許文献1)。
【0004】
また、透析患者において、血清アルブミン濃度は、生命予後と強く関係する因子である。アルブミンもまた、1回の透析につき、透析器の中空糸膜から数百mg〜数百gが漏出することが分かっている。日本透析医学会の調査により、透析前血清アルブミン濃度が3.5g/dL以下になると死亡のリスクが高まり、血清アルブミン濃度が低いほど死亡のリスクが高いとの報告がある。また、透析患者の血清アルブミン濃度は、62%の患者が3.5g/dL以下であることが報告されている。透析患者の死亡のリスクを減らすために、血清(血中)アルブミン濃度を上げることが課題となっている。
【0005】
アルブミンは肝臓で生合成される。肝硬変患者では、肝機能の低下により、アルブミンの合成が低下し、分岐鎖アミノ酸(BCAA;ロイシン、イソロイシン、およびバリンが含まれる)が減少することが知られている。肝硬変患者では、血清アルブミン濃度を上昇させるために、特にBCAAの補給がなされてきた。
【0006】
肝機能の状態は、BTRおよびフィッシャー比を指標として知ることができる。BTRとは、チロシンに対する総BCAAのモル比をいい、フィッシャー比とは、芳香族アミノ酸のチロシンおよびフェニルアラニンの合計に対する総BCAAのモル比をいう。血液中のBCAAおよびチロシンは酵素法にて簡便に測定可能であるため、臨床上はBTRがよく用いられる。例えば、BTR値が小さいと、BCAAが少なく、肝機能が低下していることが分かり、そのような患者の治療にはBCAAが補給される。
【0007】
しかしながら、透析患者においては、BCAA濃度およびチロシン濃度が共に低く、BTRは、健常者と同様の値となってしまう。これは、フェニルアラニンは腎臓でチロシンに変換されるが、透析患者は、腎機能が低下しているためフェニルアラニンからチロシンへの変換がうまくできず、健常者と比較して、血液中のフェニルアラニン濃度が大きく、チロシン濃度は小さくなる傾向にあるからである。このため、透析患者では、BCAAの減少を適切に判定できないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ネオアミュー(登録商標)輸液のカタログ、味の素製薬株式会社、2010年4月改訂(第5版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、透析患者用の経口アミノ酸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、透析患者用の経口アミノ酸組成物を提供し、この経口アミノ酸組成物は、分岐鎖アミノ酸および分岐鎖アミノ酸を含むペプチドを含有し、フィッシャー比が6〜95であり、単体としてフェニルアラニンおよびチロシンを含有しない。
【0011】
1つの実施態様では、上記経口アミノ酸組成物は、脂溶性ビタミン(ビタミンEを除く)を含有しない。
【0012】
別の実施態様では、上記経口アミノ酸組成物は、コエンザイムQ10をさらに含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透析患者用の経口アミノ酸組成物、特に、血清アルブミン濃度の低下した透析患者用の経口アミノ酸組成物が提供される。本発明の経口アミノ酸組成物は、透析患者に対してBCAAを適切に投与することができ、血清アルブミン濃度を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】患者1における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前および開始後の血清アルブミン濃度の推移を示すグラフである。
【図2】患者3における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前および開始後の血清アルブミン濃度の推移を示すグラフである。
【図3】透析患者における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始後の血清アルブミン濃度の推移を示すグラフである。
【図4】透析患者における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始後の%クレアチニン産生速度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、アミノ酸とは、蛋白質の構成ユニットとなるα−アミノ酸をいう。すなわち、20種のL−アミノ酸をいう。アミノ酸の形態としては、遊離アミノ酸に限定されず、医薬品または飲食品で許容される塩または誘導体の形態であってもよく、例えば無機酸塩、有機酸塩、生体内で加水分解可能なエステル体、N−アシル誘導体などの形態であってもよい。アミノ酸の由来としては、特に限定されないが、例えば、食用蛋白質を酸または酵素により加水分解して取得するアミノ酸混合物であってもよいし、アミノ酸発酵法により生産されたものであってもよい。
【0016】
本発明において、ペプチドとは、2つ以上の同種あるいは異種のアミノ酸(「構成アミノ酸」ともいう)がペプチド結合により結合した化合物をいう。構成アミノ酸数は、好ましくは2〜99であり、より好ましくは2〜60である。
【0017】
本発明において、分岐鎖アミノ酸(BCAA)とは、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類のアミノ酸をいう。本発明の経口アミノ酸組成物は、BCAAを、単体のアミノ酸の形態およびペプチドの形態の両方の形態で含有する。
【0018】
本発明において、BCAAを含むペプチドとは、BCAAのロイシン、イソロイシンおよびバリンの少なくとも1種、好ましくは2種、より好ましくは3種を含むペプチドをいう。BCAAを含むペプチドは、構成アミノ酸として、BCAA以外のアミノ酸を含んでいてもよいが、BCAAを、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含む。
【0019】
本発明において、BCAAを含むペプチドとしては、ホエイ蛋白質(乳清蛋白質)を分解して得られるホエイペプチド、大豆ペプチド、グルタミンペプチドなどが挙げられる。本発明におけるペプチドは、通常2〜99個のアミノ酸、好ましくは2〜60個のアミノ酸が結合したペプチドであり、BCAAを主要成分として含む。本発明におけるペプチドは、BCAAを、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上含む。
【0020】
本発明の経口アミノ酸組成物は、単体のBCAAおよびBCAAを含むペプチドを含有するので、BCAAの腸管からの分解・吸収効率が高い。単体のBCAAとBCAAを含むペプチドとの含有比は、BCAAを含むペプチドの構成アミノ酸の種類または数に依存するが、好ましくは、単体のBCAA:BCAAを含むペプチド=1:5〜10である。
【0021】
BCAAのロイシン、イソロイシンおよびバリンの構成比は、バリン:イソロイシン:ロイシンが、好ましくは1:0.5〜2:1〜4、より好ましくは1:1〜1.5:1.2〜2.0である。
【0022】
本発明の経口アミノ酸組成物は、単体のフェニルアラニンおよびチロシン(これらをまとめて、芳香族アミノ酸(AAA)ともいう)を含まない。すなわち、本発明の経口アミノ酸組成物は、BCAAを含むペプチドがAAAを含む場合を除いて、AAA(すなわち、フェニルアラニンおよびチロシン)を含まない。
【0023】
本発明の経口アミノ酸組成物は、フィッシャー比が6〜95、好ましくは30〜95、より好ましくは50〜95である。ここで、「フィッシャー比」とは、BCAAとAAA(フェニルアラニンおよびチロシン)とのモル比をいう(BCAA/AAA)。フィッシャー比は、単体のアミノ酸およびペプチドに含まれるアミノ酸の合計に基づいて算出される。本発明の経口アミノ酸組成物は、フィッシャー比に着目することで、BCAA濃度を増加させることにより、フェニルアラニンおよびチロシンの濃度を相対的に低下させる。
【0024】
本発明の経口アミノ酸組成物は、透析患者(特に、血清アルブミン濃度の低下した透析患者)に対して、BCAAを適切に投与することができ、血清アルブミン濃度を上昇させることができる。また、経口アミノ酸組成物中のBCAA濃度の増加は、倦怠感の解消に有効である。倦怠感は、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が分泌されるため、生じるものと考えられるが、BCAA濃度が増加することにより、神経伝達物質の生合成前駆体のトリプトファンおよびチロシンの濃度を相対的に低下させるため、倦怠感が解消するものと考えられる。経口アミノ酸組成物中のBCAA濃度の増加はさらに、食欲増進、筋肉細胞におけるグリコーゲン合成酵素の促進による糖代謝の増加などにも有効である。
【0025】
本発明の経口アミノ酸組成物は、単体のBCAAおよびペプチドに含まれるBCAAの合計に基づいて、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは50〜90質量%のBCAAを含有する。
【0026】
本発明の経口アミノ酸組成物は、脂溶性ビタミンを含有しないことが好ましい。脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKが挙げられる。脂溶性ビタミン、特にビタミンAは、組織に蓄積され、特に透析患者には好ましくない。ビタミンDおよびKは、薬として処方されている場合が多いため補充の必要性はない。ビタミンEは、蓄積による害はなく、抗酸化剤として使用してもよく、1回摂取当たり、例えば0.01〜0.1mgの範囲内で含有することができる。
【0027】
本発明の経口アミノ酸組成物は、コエンザイムQ10をさらに含有することが好ましい。コエンザイムQ10は、ユビキノンとも呼ばれ、栄養補助食品として知られている。一般的に、透析患者は基礎代謝が落ちており、コエンザイムQ10は、TCA回路を活性化させることで代謝を上げる働きがあり、好ましい。コエンザイムQ10は、医薬品または飲食品で許容される塩の形態または誘導体の形態であってもよい。高純度のものが好ましい。本発明の経口アミノ酸組成物は、コエンザイムQ10を、1回摂取当たり、好ましくは5〜100mg、より好ましくは10〜30mg含有するが、含有量は、患者の状態、性別、年齢、体重などに応じて適宜選定することができる。
【0028】
本発明の経口アミノ酸組成物はさらに、BCAA以外のアミノ酸(但し、フェニルアラニンおよびチロシンは除く)を含有してもよい。BCAA以外のアミノ酸としては、好ましくは、グルタミン、アルギニン、プロリン、リジン、トレオニン、メチオニン、ヒスチジン、トリプトファンなどが挙げられ、より好ましくはグルタミンおよびアルギニンが挙げられる。一般的に、透析患者は血中アンモニア濃度が高く、グルタミンおよびアルギニンは、アンモニアを分解する働きがあり、好ましい。また、透析患者は皮膚が乾燥していることが多く、アルギニンは、真皮のコラーゲンを増加する働きがあり、特にコラーゲンの成分であるプロリンと共に、肌を保湿する効果があり、好ましい。これらのアミノ酸の種類および含有量は、単体のBCAAの種類および量ならびにBCAAを含むペプチドに含まれるアミノ酸の種類および量を考慮して、適宜決定される。
【0029】
本発明の経口アミノ酸組成物はさらに、水溶性ビタミン類を含有してもよい。水溶性ビタミン類としては、好ましくは、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸、パントテン酸カルシウム(Ca))、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、およびビタミンC(アスコルビン酸)が挙げられる。透析患者は動脈硬化などを合併症として患っていることが多く、これらの水溶性ビタミンは、動脈硬化性疾患や虚血性心疾患の因子であるホモシステインを、必須アミノ酸であるメチオニンに変換する過程で有用であり、好ましい。水溶性ビタミンの種類および含有量は、適宜決定される。水溶性ビタミンの種類および含有量は、好ましくは、1回摂取当たり、ビタミンB1 0.5〜1.0mg;ビタミンB2 0.5〜1.2mg;ビタミンB6 2.0〜6.0mg;ビタミンB12 0.001〜0.10mg;ビタミンB3(ナイアシン) 3〜15mg;ビタミンB5(パントテン酸またはパントテン酸Ca) 1.5〜4mg;ビタミンB9(葉酸) 0.1〜0.5mg;およびビタミンC 10〜50mgであるが、含有量は、患者の状態、性別、年齢、体重などに応じて適宜選定することができる。
【0030】
本発明の経口アミノ酸組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、食品、医薬品に通常用いられる素材、添加剤などを含有してもよい。これらの素材、添加剤としては、例えば、糖類および甘味料(例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、蜂蜜、還元麦芽糖、還元乳糖、トレハロース、オリゴ糖類、ステビア、スクラロースなど;低熱量性の糖類(還元麦芽糖、還元乳糖、トレハロース、オリゴ糖類など)および甘味料(ステビア、スクラロースなど)が好ましい)、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸など)、賦形剤(デキストリン、澱粉など)、保存剤(安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸など)、pH調整剤(フィチン酸など)、香料、果汁、着色料、増粘多糖類などが挙げられる。
【0031】
また、本発明の経口アミノ酸組成物は、上記成分の他、卵殻カルシウム、パテント酸カルシウム、その他のミネラル類、アスタキサンチン、L−カルニチン、ローヤルゼリー、プロポリス、食物繊維、アガリクス、キチン、キトサン、漢方生薬、コンドロイチン、カプサイシン、食用色素、長鎖脂肪酸エステルなどの通常健康食品の成分として使用されている成分を含有してもよい。
【0032】
本発明の経口アミノ酸組成物の形態は特に限定されず、経口摂取(摂食)できる形態であればいずれの形態でもよい。このような形態としては、適当な賦形剤を使用した散剤、顆粒剤、錠剤、液剤(飲料、ゼリー飲料など)、あるいは医薬品または飲食品で許容される担体、賦形剤、希釈剤などとともに混合して形成した散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤などが挙げられる。
【0033】
本発明の経口アミノ酸組成物は、上述の構成を有する限り、形態に応じて当業者が通常用いる製造方法に従って製造される。
【0034】
本発明の経口アミノ酸組成物は、固形剤(散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤)の場合そのまま単独または水とともに経口摂取できる。散剤または顆粒剤の場合はオブラートに包んで経口摂取してもよく、あるいは水、牛乳、ジュースなどに溶解または懸濁して経口摂取してもよい。液剤、シロップ剤の場合はそのまま経口摂取してもよく、または水、牛乳、ジュースなどで希釈して経口摂取してもよい。
【0035】
本発明の経口アミノ酸組成物の摂取方法は、特に限定されないが、毎食後が好ましい。本発明の経口アミノ酸組成物の摂取量は、1日1〜4回、BCAA換算で1回摂取当たり好ましくは1000〜2000mg、より好ましくは1200〜2000mgであるが、摂取量は、患者の状態、性別、年齢、体重などに応じて適宜選定することができる。
【0036】
本発明の経口アミノ酸組成物は、主として透析患者用である。特に、透析を受けている慢性の腎炎、腎不全などの患者用である。このような患者としては、例えば、糖尿病性腎症、慢性腎炎(慢性糸球体腎炎)、腎硬化症、ネフローゼ症候群などの罹患患者が挙げられる。合併症(動脈硬化、肝炎など)を併発している透析患者にも用いられる。透析療法には、血液透析および腹膜透析(例えば、持続携帯式腹膜透析(CAPD))の2種があるが、本発明の経口アミノ酸組成物は、血液透析を受けている患者にとって特に好ましいが、腹膜透析を受けている患者にとっても好ましい。週に3回の透析を要するような維持透析患者にとっても好ましい。血清アルブミン濃度が3.5g/dL以下に低下した透析患者に特に好ましい。
【0037】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1:経口アミノ酸組成物)
(1−1:経口アミノ酸組成物の調製)
以下の表1に示す配合で、顆粒剤(全質量3826mg)を常法に従って調製した。
【0039】
【表1】

【0040】
ホエイペプチドは、日本新薬株式会社から入手したものであり、組成としてロイシン、バリン、イソロイシン、グルタミン、アルギニン、プロリン、リジン、トレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、およびトリプトファンを含む。表1中の処方は、以下のアミノ酸質量(mg)に相当する:グルタミン(Gln)500;アルギニン(Arg)430;ロイシン(Leu)820;イソロイシン(Ile)430;バリン(Val)540;プロリン(Pro)32;リジン(Lys)65;トレオニン(Thr)48;メチオニン(Met)15;ヒスチジン(His)13;フェニルアラニン(Phe)20;トリプトファン(Trp)13。フィッシャー比は89.5である。
【0041】
(1−2:透析患者への経口アミノ酸組成物の経口摂取後の血清アルブミン濃度)
透析歴7年5ヶ月の糖尿病性腎症を罹患している93歳の男性患者(以下、「患者1」と称する)に、上記1−1の経口アミノ酸組成物を、1ヶ月間にわたり1日3回毎食後に摂取してもらった(経口摂取)。この患者は、経口摂取前から月に1回の血液透析を行う前およびその終了後に採血を行って血清アルブミン濃度をモニタリングしており、経口摂取開始後も同様にモニタリングを続けた。
【0042】
血清アルブミン濃度は、透析前に採血した血液で測定した。結果を図1に示す。
【0043】
図1は、患者1における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前および開始後の血清アルブミン濃度の推移を示すグラフである。縦軸は血清アルブミン濃度(g/dL)を示し、横軸は測定時期を示す。患者1において、血清アルブミン濃度は、経口アミノ酸組成物の経口摂取前では透析により徐々に低下し、経口摂取開始直前の2010年11月には3.0g/dLを下回るまで低下していた。その後、経口摂取を開始してからは、血清アルブミン濃度の上昇が見られ、3.5g/dL付近まで回復している。
【0044】
このように、透析を受けている慢性腎不全患者が本実施例の経口アミノ酸組成物を摂取することで、低下していた血清アルブミン濃度を上昇することがわかった。また、本実施例の経口アミノ酸組成物を摂取することで、栄養状態の向上も見られた。
【0045】
(比較例1)
週に3回の血液透析を受けている透析歴2年4ヶ月の慢性腎炎(合併症:肺気腫・軽〜中等度の僧帽弁閉鎖不全症)を罹患している87歳の男性患者(以下、「患者2」と称する)に、推奨される指示どおりにネオアミュー(登録商標)輸液(非特許文献1)を点滴投与し、これを1ヶ月実施した。点滴投与を開始する前に採血し、血清アルブミン濃度を測定しておいた。1ヵ月後にまた採血し、血清アルブミン濃度を測定した。
【0046】
その結果、点滴投与開始前の患者2の血清アルブミン濃度は3.2g/dLであるのに対し、点滴投与を1ヵ月行った後の血清アルブミン濃度は2.9g/dLであった。ネオアミュー(登録商標)輸液の点滴投与では、慢性腎不全患者の血清アルブミン濃度を上昇させることはできなかった。
【0047】
ネオアミュー(登録商標)輸液のフィッシャー比を求めたところ、約4.5であった(バリン(Val)1.5g;ロイシン(Leu)2.0g;イソロイシン(Ile)1.5g;フェニルアラニン(Phe)1.0g;チロシン(Tyr)0.1g)。血清アルブミン濃度の上昇には、フィッシャー比により表されるようなBCAAとAAAとのバランスが影響していると思われる。
【0048】
(実施例2:透析患者への経口アミノ酸組成物の経口摂取後の血清アルブミン濃度)
透析歴9年のIgA腎症を罹患している59歳の男性患者(以下、「患者3」と称する)に、上記1−1の経口アミノ酸組成物を、1ヶ月間にわたり1日3回毎食後に摂取してもらった(経口摂取)。この患者は、経口摂取前から月に1回の血液透析を行う前およびその終了後に採血を行って血清アルブミン濃度をモニタリングしており、経口摂取開始後も同様にモニタリングを続けた。
【0049】
血清アルブミン濃度は、透析前に採血した血液で測定した。結果を図2に示す。
【0050】
図2は、患者3における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前および開始後の血清アルブミン濃度の推移を示すグラフである。縦軸は血清アルブミン濃度(g/dL)を示し、横軸は測定時期を示す。患者3においては、血清アルブミン濃度は、経口アミノ酸組成物の経口摂取前では透析により徐々に低下し、経口摂取開始直前の2011年2月には3.0g/dLを大きく下回るまで低下していた。その後、経口摂取を開始してからは、血清アルブミン濃度の上昇が見られ、3.5g/dLを超えるまで回復している。
【0051】
(実施例3:透析患者への経口アミノ酸組成物の経口摂取後の血清アルブミン濃度)
上記実施例1および2と同様に、透析歴1〜22年の10人の腎症患者(男性および女性)に、上記1−1の経口アミノ酸組成物を、1ヶ月間にわたり1日3回毎食後に摂取してもらった(経口摂取)。各患者は、経口摂取前から月に1回の血液透析を行う前およびその終了後に採血を行って血清アルブミン濃度をモニタリングしており、経口摂取開始後も同様にモニタリングを続けた。これらの患者に対する経口アミノ酸組成物の経口摂取およびその採血した血液のモニタリングは、2011年4月から開始し、半年間行った。血清アルブミン濃度は、透析前に採血した血液で測定し、これらの患者における血清アルブミン濃度平均値を算定した。結果を図3に示す。
【0052】
図3は、透析患者における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始後の血清アルブミン濃度の推移を示すグラフである。縦軸は血清アルブミン濃度(g/dL)を示し、横軸は測定時期を示す。血清アルブミン濃度のデータは、10人の患者の平均値を示す。血清アルブミン濃度は、経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前には3.47g/dLまで低下しているが、経口摂取6ヶ月後には、3.7g/dLを超えるまで上昇している。この上昇は有意差ありと判定できた。なお、開始3ヵ月後から開始4ヵ月後は7〜8月に該当し、夏場の食欲減退のために血清アルブミン濃度の低下が見られたと考えられた。患者毎に血清アルブミン濃度の値に多少の変動はあるが、どの患者においてもほぼ同様の傾向が見られた。
【0053】
上記実施例1〜3に示されるように、上記1−1の経口アミノ酸組成物の摂取により、透析患者の死亡のリスクを低下させたと判断できる。
【0054】
(実施例4:透析患者への経口アミノ酸組成物の経口摂取後の%クレアチニン産生速度)
上記実施例3と同じ患者について、経口摂取前から月に1回の血液透析を行う前およびその終了後に採血を行って血清クレアチニン濃度をモニタリングしており、経口摂取開始後も同様にモニタリングを続けた。透析前後の血清クレアチニン濃度から患者のクレアチニン産生速度を算定した。算定は、Shinzato Tら, Artif Organs, 21: 864-872, 1997に記載の手順に従って行った。さらに、算定したクレアチニン産生速度を、その評価すべき患者と同性、同年齢の健常人のクレアチニン産生速度の平均値に対する割合(%)として、%クレアチニン産生速度(%Cgr)を求めた。これらの患者における%クレアチニン産生速度平均値を算定した。結果を図4に示す。
【0055】
図4は、透析患者における経口アミノ酸組成物の経口摂取開始後の%クレアチニン産生速度の推移を示すグラフである。縦軸は%クレアチニン産生速度(%Cgr)を示し、横軸は測定時期を示す。%クレアチニン産生速度のデータは、10人の患者の平均値を示す。%クレアチニン産生速度は、経口アミノ酸組成物の経口摂取6ヶ月後には、経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前と比較して上昇が見られ、この上昇は有意差ありと判定できた。患者毎に%クレアチニン産生速度の値に多少の変動はあるが、どの患者においてもほぼ同様の傾向が見られた。
【0056】
%クレアチニン産生速度は、筋肉量を示す指標として用いられ、この値が大きいほど筋肉量が多いことを示す。経口アミノ酸組成物の経口摂取6ヶ月後には、経口アミノ酸組成物の経口摂取開始前と比較して筋肉量が上昇したと判断できる。
【0057】
%クレアチニン産生速度はまた死亡のリスクに関する指標としても用いられ、この値が大きいほど死亡のリスクは低下する。したがって、本実施例4における%クレアチニン産生速度の結果からも、上記1−1の経口アミノ酸組成物の摂取により透析患者の死亡のリスクを低下させたと判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、透析患者において、生命予後と強く関係する因子である血清アルブミン濃度を上昇させることのできる経口アミノ酸組成物が提供される。本発明の経口アミノ酸組成物は、透析を受けている慢性の腎炎、腎不全などの患者の栄養状態を改善し得、死亡のリスクを低下させ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析患者用経口アミノ酸組成物であって、分岐鎖アミノ酸および分岐鎖アミノ酸を含むペプチドを含有し、フィッシャー比が6〜95であり、単体としてフェニルアラニンおよびチロシンを含有しない、経口アミノ酸組成物。
【請求項2】
脂溶性ビタミン(ビタミンEを除く)を含有しない、請求項1に記載の経口アミノ酸組成物。
【請求項3】
コエンザイムQ10をさらに含有する、請求項1または2に記載の経口アミノ酸組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214435(P2012−214435A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−7669(P2012−7669)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(511080317)
【出願人】(507349101)テクノサイエンス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】