説明

経口吸収改善剤およびこれを利用する医薬組成物

【課題】 消化管に存在する薬物代謝酵素や、薬物トランスポーターによる医薬の吸収性低下を回避し、医薬の生体内利用性を高める技術を提供すること。
【解決手段】 メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物を有効成分として含有する医薬の経口吸収改善剤並びに上記リグナン系化合物と、薬物代謝酵素CYP3Aの基質となる医薬、薬物代謝酵素CYP2Cの基質となる医薬または薬物トランスポーターP糖蛋白の基質となる医薬とを含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の経口吸収改善剤およびこれを利用する医薬組成物に関し、更に詳細には、小腸等の消化管に存在する薬物代謝酵素や、薬物トランスポーターの作用を阻害し、医薬の吸収を向上させる経口吸収改善剤およびこれを利用する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬の持つ薬理作用を十分に発揮させるため、医薬の生体内利用性(バイオアベイラビリティ)を向上させる技術の開発が行われている。例えば、塩や複合体を形成させたり、包接化合物やミセルを利用して医薬を可溶化させる技術や、種々の高分子化合物を利用する医薬の徐放化や腸溶化の技術、あるいは、医薬のプロドラッグ化が研究されている。
【0003】
しかしながら、これらの技術は、医薬側の物理化学的性質を変更し、医薬の溶解性あるいは消化管膜透過性を改善するものであるため、医薬によっては十分に生体内利用性の向上につながらない場合もあった。
【0004】
すなわち、小腸等の消化管には薬物代謝酵素や、薬物トランスポーターが存在するが、これらにより吸収性を低下させられる医薬の場合は、上記の技術によっても十分な吸収の向上は得られないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明は、消化管に存在する薬物代謝酵素や、薬物トランスポーターによる医薬の吸収性低下を回避する技術の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、医薬を経口投与する際に特定のリグナンも投与すれば、消化管中の薬物代謝酵素や、薬物トランスポーターの作用を阻害することができ、医薬の高い生体内利用性が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物を有効成分として含有する医薬の経口吸収改善剤を提供するものである。
【0008】
また本発明は、上記リグナン系化合物と、薬物代謝酵素CYP3Aの基質となる医薬とを含有することを特徴とする医薬組成物を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、上記リグナン系化合物と、薬物代謝酵素CYP2Cの基質となる医薬とを含有することを特徴とする医薬組成物を提供するものである。
【0010】
更にまた本発明は、上記リグナン系化合物と、薬物トランスポーターP糖蛋白の基質となる医薬とを含有することを特徴とする医薬組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明リグナン系化合物は、例えば、ゴマ等の天然物中に含まれる安全性の高いリグナンであり、小腸や肝臓に存在する薬物代謝酵素と薬物トランスポーターを同時に阻害するものである。従って、これを有効成分とする経口吸収改善剤は、これを医薬と共に経口投与することにより、高い生体内利用性を得ることができると共に安全性の問題が生じないものである。
【0012】
また、本発明リグナン系化合物と医薬を組み合わせた医薬組成物は、1度の投与で医薬の高い生体内利用性を得ることができるので、より便利である。
【0013】
特に本発明は、従来、小腸で代謝されるため経口投与が困難であった医薬に利用すれば、経口投与が可能となるという点で利用性が高く、また、薬効を奏させる量を投与すると副作用が発現するような医薬では、その使用量を減らすことが可能であるので安全性を高めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アサリニンについて、その濃度と種々の薬物代謝酵素の阻害作用の関係を示す図面である。
【図2】セサミンについて、その濃度と種々の薬物代謝酵素の阻害作用の関係を示す図面である。
【図3】ヒノキニンについて、その濃度と種々の薬物代謝酵素の阻害作用の関係を示す図面である。
【図4】ジゴキシンの経細胞輸送活性に対するセサミンの影響を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の医薬の経口吸収改善剤(以下、「吸収改善剤」という)において、有効成分として用いられるメチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物(以下、「本発明リグナン系化合物という」という)とは、その構造中に少なくとも一つのメチレンジオキシフェニル基を有するリグナンである。本発明リグナン系化合物の具体的は例としては、セサミン、セサモリン、アサリニン、ヒノキニン等が挙げられる。
【0016】
このうち、セサミン、セサモリンおよびアサリニンは、ゴマ中に含まれるリグナンであり、それぞれ次の構造式を有するものである。この構造式から理解されるように、セサミンとアサリニンは光学異性の関係にある化合物である。
【0017】
【化1】

【0018】
また、ヒノキニンは、ヒノキの心材および樹脂中に含まれるリグナンであり、次の構造式を有するものである。
【0019】
【化2】

【0020】
以上の化合物は、その式から明らかなように、いずれも構造中に2つのメチレンジオキシフェニル基を有するものである。
【0021】
本発明リグナン系化合物としては、上記の化合物を好ましく使用することができるが、これのみに限られないことはいうまでもない。
【0022】
上記本発明リグナン系化合物を用いて本発明の吸収改善剤を製造するには、常法に従って、リグナン系化合物と薬学的に許容される担体と組合せ、経口剤の形態とすればよい。
【0023】
この吸収改善剤における本発明リグナン系化合物の配合量は特に制約されないが、一般的には、大人1人1回の投与あたり10mgから2000mg程度、好ましくは、100mgから500mg程度となるような製剤に調製すれば良い。
【0024】
また、この吸収改善剤の剤型としても、経口投与可能なものであれば特に制約はなく、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固型剤や、種々の液剤とすることができる。
【0025】
本発明の吸収改善剤と組み合わせることにより、生体内利用性を向上させることのできる医薬としては、小腸において吸収される医薬を挙げることができる。特に、本発明リグナン系化合物は、薬物代謝酵素CYP3AやCYP2C、あるいは薬物トランスポーターP糖蛋白を阻害するので、これらの基質となる医薬と組み合わせたときに優れた生体内利用性向上作用を得ることができる。
【0026】
本発明の吸収改善剤と組合せ特に優れた効果が得られる医薬の具体例としては、サイクロスポリン、アミオダロン、エリスロマイシン、エトポシド、リドカイン、ロバスタチン、ミダゾラム、オメプラゾール、タクロリムス、タキソール、ベラパミル等のCYP3Aの基質となる医薬、オメプラゾール、プロプラノロール、イミプラミン等のCYP2Cの基質となる医薬、アミオダロン、セファゾリン、ジルチアゼム、フルフェナジン、モルヒネ、ニカルジピン、プラゾシン、トポテカン、インディナビル、ドンペリドン、デキサメタゾン、ジゴキシン、ロサルタン等のトランスポーターP糖蛋白の基質となる医薬が挙げられる。
【0027】
一方、本発明の医薬組成物は、本発明リグナン系化合物と、CYP3Aの基質となる医薬、CYP2Cの基質となる医薬もしくは薬物トランスポーターP糖蛋白の基質となる医薬とを組み合わせることにより調製される。
【0028】
この医薬組成物において使用される本発明リグナン系化合物や、CYP3Aの基質となる医薬、CYP2Cの基質となる医薬もしくは薬物トランスポーターP糖蛋白の基質となる医薬は前記したとおりである。
【0029】
上記医薬と本発明リグナン系化合物の配合比は、使用する成分によっても相違するが、一般には1:0.5から100程度であり、好ましくは、1:1から20程度である。
【0030】
また、本発明リグナン系化合物と上記医薬の組合せに当たっては、公知の担体や、その他必要な医薬添加物を使用することもできる。更に、本発明の医薬組成物の形態としても、経口投与に適するものであれば、固型剤や液剤等任意の形態とすることができる。
【0031】
かくして得られる医薬組成物は、1度の服用により医薬と吸収組成物を摂取することができるので、治療上便利である。
【0032】
[作用]
生体内に存在する代謝酵素は、外来物質を他の物質に変換・分解する作用を有するものであり、トランスポーターは、外来物質が体内に入ることを制御する機能を有するものである。これらの作用は、外来物質の生体内への侵入が防御される。
【0033】
このように、代謝分解酵素やトランスポーターは生体防御という重要な役目を担っているが、逆に薬物を投与した場合も、これらが機能し、薬物の吸収を阻害することとなる。
【0034】
特に、経口で投与する医薬が多いが、これらは、小腸に存在する薬物代謝酵素や肝臓に存在する薬物代謝酵素により代謝されたり、薬物トランスポーターにより腸管壁からの吸収が阻害されるため、体内での利用率が低いという問題があった。
【0035】
本発明で使用する本発明リグナン系化合物は、小腸に存在する薬物代謝酵素(主にCYP3A)や肝臓に存在する薬物代謝酵素(主にCYP2C)と薬物トランスポーターを同時に阻害するという特徴を有するものであり、医薬と共に経口投与されることにより、医薬の吸収を阻害するこれらの作用を抑制し、結果的に経口投与による高い生体内利用性を得ることができるものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0037】
実 施 例 1
生体内吸収性試験:
医薬としてジゴキシンを用い、セサミン併用による生体内吸収性を調べた。実験動物としては、1群3匹のCrj系雄性ラット(7週齢)を用い、試験組成物は、ジゴキシンおよびセサミンを0.5w/vカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に懸濁させ、それらの投与量がそれぞれ0.2mg/kg、500mg/kgとなるように調製し用いた。
【0038】
ラットは、各試験組成物の投与16時間から絶食させ、各試験組成物を経口ゾンデつきシリンジを用いて胃内に投与した。
【0039】
ラット尾静脈から経時的に採血し、血漿中のジゴキシン濃度を測定した。なお、対照としては、ジゴキシンのみのものを用いた。この結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実 施 例 2
薬物代謝酵素阻害試験:
常法に従い、本発明リグナン系化合物について、種々の薬物代謝酵素の阻害作用を調べた。本発明リグナン系化合物としては、アサリニン、セサミンおよびヒノキニンを用い、それらの濃度は、0.5、1、2、4、8、16、32および64μmol/Lとした。また、薬物代謝酵素としては、CYP1A2、CYP2C9*1、CYP2C19、CYP2D6*1、CYP2E1およびCYP3A4を用い、それぞれの酵素活性測定のための条件は表2の通りとした。この結果を図1から図3に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
この図に示されるように、アサリニン、セサミンおよびヒノキニンは、何れも用量依存的にCYP2C19およびCYP3A4を阻害した。また、アサリニンは、CYP2C9*1をも、セサミンはCYP1A2およびCYP2C9*1をも、ヒノキニンはCYP1A2、CYP2C9*1およびCYP2D6*1をもそれぞれ阻害した。
【0044】
実 施 例 3
薬物透過性試験:
ヒト大腸癌由来のCaco−2細胞を用いて、ジゴキシンの経細胞輸送活性に対するセサミンの影響を調べた。まず、Caco−2細胞を75cm2のフラスコを用いて培養し、4〜5日ごとに継代した。次いで、Falcon製カルチャーインサートを用い、DMEM培地にCaco−2細胞を3×104細胞/インサートの密度で播種した後、CO2インキュベーター(37℃、CO2 0.5%)中で21日間培養し、単層膜を調製した。この培養の間、培地交換を2〜3日おきに行った。
【0045】
単層膜が形成された後、カルチャーインサートおよびプレート中の培地を吸引除去し、各濃度のセサミンを含むHBSSに置換した後、37℃で1時間プレインキュベートした。apical(細胞の頂上側;250μl)またはbasal(細胞の基底側;950μl)の何れか一方を、各濃度のセサミンを含む3H−ジゴキシン(50nmol/L)のHBSS溶液で置換し、37℃でインキュベーションした。
【0046】
1時間経過後、3H−ジゴキシンを作用させていない側からHBSSを50μlを採取し、シンチレーター(HINONIC-FLUOR;パッカード社製)を10ml加えた後、液体シンチレーションカウンターを用いて放射能量を測定し、この放射線量から3H−ジゴキシン量を測定した。
【0047】
このようにして測定した3H−ジゴキシン量から、下式に従い、apicalからbasal方向(A to B)およびbasalからapical方向(B to A)の3H−ジゴキシンの透過係数を求めた。この結果を図4に示す。
【0048】
[式1]

【0049】
この結果から明らかなように、セサミンの濃度依存的にジゴキシンのA to Bの透過係数は、B to Aの透過係数に近づいて行くことが示された。このことから、P糖蛋白はセサミンにより阻害されることが示された。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物を有効成分として含有する医薬の経口吸収改善剤。
【請求項2】
メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物がセサミン、セサモリン、アサリニンまたはヒノキニンである請求項第1項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項3】
経口吸収を改善される医薬が、薬物代謝酵素CYP3Aの基質となるものである請求項第1項または第2項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項4】
経口吸収を改善される医薬が、薬物代謝酵素CYP2Cの基質となるものである請求項第1項または第2項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項5】
経口吸収を改善される医薬が、薬物トランスポーターP糖蛋白の基質となるものである請求項第1項または第2項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項6】
経口吸収を改善される医薬が、小腸において吸収されるものである請求項第1項ないし第5項の何れかの項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項7】
経口吸収を改善される医薬が、サイクロスポリン、アミオダロン、エリスロマイシン、エトポシド、リドカイン、ロバスタチン、ミダゾラム、オメプラゾール、タクロリムス、タキソール、ベラパミル、プロプラノロール、イミプラミン、アミオダロン、セファゾリン、ジルチアゼム、フルフェナジン、モルヒネ、ニカルジピン、プラゾシン、トポテカン、インディナビル、ドンペリドン、デキサメタゾン、ジゴキシンまたはロサルタンから選ばれたものである請求項第1項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項8】
1人1回当たり、メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物として100mgから500mg投与するものである請求項第1項、第3項ないし第7項記載の医薬の経口吸収改善剤。
【請求項9】
メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物と、薬物代謝酵素CYP3Aの基質となる医薬とを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項10】
メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物と、薬物代謝酵素CYP2Cの基質となる医薬とを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項11】
メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物と、薬物トランスポーターP糖蛋白の基質となる医薬とを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項12】
メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物が、セサミン、セサモリン、アサリニンまたはヒノキニンである請求項第9項ないし第11項の何れかの項記載の医薬組成物。
【請求項13】
医薬1重量部に対し、メチレンジオキシフェニル基を有するリグナン系化合物を1から20重量部含有する請求項第9項ないし第11項の何れかの項記載の医薬組成物。
【請求項14】
医薬が、小腸において吸収されるものである請求項第9項ないし第13項の何れかの項記載の医薬組成物。
【請求項15】
医薬が、サイクロスポリン、アミオダロン、エリスロマイシン、エトポシド、リドカイン、ロバスタチン、ミダゾラム、オメプラゾール、タクロリムス、タキソール、ベラパミル、プロプラノロール、イミプラミン、アミオダロン、セファゾリン、ジルチアゼム、フルフェナジン、モルヒネ、ニカルジピン、プラゾシン、トポテカン、インディナビル、ドンペリドン、デキサメタゾン、ジゴキシンまたはロサルタンから選ばれたものである請求項第9項ないし第14項の何れかの項記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231127(P2011−231127A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168325(P2011−168325)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2001−280013(P2001−280013)の分割
【原出願日】平成13年9月14日(2001.9.14)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】