説明

経口吸収改善用医薬組成物

【課題】消化酵素による生理活性ペプチドの分解抑制剤の提供。
【解決手段】アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする生理活性ペプチドの分解抑制剤。また、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする、消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層において、消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性低下剤。生理活性ペプチド及びアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有してなる経口吸収改善用医薬組成物。従来から経口吸収が困難であると考えられていた生理活性ペプチドについて、優れた経口吸収性を発揮せしめることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする、消化酵素による生理活性ペプチドの分解抑制剤に関する。また本発明は、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性低下剤に関する。さらに本発明は、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを投与することにより、(1)生理活性ペプチドが消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層において消化酵素により分解されることを抑制する方法、(2)消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる方法、(3)消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させ、粘液層における生理活性ペプチドの透過性を向上させる方法、(4)消化管粘膜における生理活性ペプチドの透過性を向上させる方法に関するものである。さらにまた本発明は、生理活性ペプチド及びアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有してなる経口吸収改善用医薬組成物、詳細には生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質を含有し、該三成分が近接し、かつ少なくとも該ポリマー及び酸性物質が均一に配合されてなる経口吸収改善用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経口投与された薬物は、速やかに食道を通過して胃に到達する。胃壁は粘膜、筋層、漿膜の三層より構成されているが、小腸と異なり吸収の有効面積は小さいので、一部薬物を除いて吸収部位としての役割は小さいとされている。一方、ヒトの小腸は十二指腸、空腸、回腸からなり、消化管中最も長く、吸収に有効な表面積が大きいので、多くの薬物にとって吸収に適した部位となっている。しかし、脂質二重層で構成された形質膜をもつ上皮細胞が消化管粘膜部位の表面を非常に密に覆っているので、水溶性の高い薬物や高分子薬物の場合には吸収が大きく制限される。また、消化管粘膜の他、常時消化管粘膜を覆っている粘液層も、バソプレッシンなどの生理活性ペプチドの消化管吸収を阻害するバリアとなっている。従って、経口投与された薬物は、前記消化管の粘膜表面を覆う粘液層及び粘膜の二つのバリアを通過して初めて生体内吸収されることになる。生理活性ペプチドの場合、吸収部位に到達する前に消化管粘膜及び/又は粘膜上に分布する粘液層及び/又は粘液上に存在する分泌された消化酵素により分解されるため、上記二つのバリアの他さらに消化酵素がバリアとなる。
【0003】
生理活性ペプチドを消化管から分解されずに吸収させる技術は古くからの課題であるが、未だ確立された技術はない。生理活性ペプチドの経口吸収を促進させる技術として、例えば以下の方法が知られている。
【0004】
そのひとつとして、例えば界面活性作用を有する胆汁酸塩類(WO96/06635:特許文献1)、しょ糖脂肪酸エステルや、炭素数8〜18のアシル基を有するO−アシル−L−カルニチン類(US4,537,772:特許文献2)などの非イオン性界面活性剤、あるいはラウリル硫酸ナトリウム(SLS)などの陰イオン性界面活性剤を使用する方法、また胆汁酸塩類とSLSを併用する方法(Pharm. Res., 7, No.9, Suppl., S157, 1990:非特許文献1)が挙げられる。該方法は細胞膜の流動性を高めることから水溶性の高い物質の吸収を促進する方法であるが、細胞障害性の問題等によって実用化には至っていない(Journal of Controlled release, 29, 253, 1994:非特許文献2)。
【0005】
EDTA(J. Pharm. Pharmacol., 51, No.11, 1241-50, 1999:非特許文献3)、EGTAなどのキレート剤、あるいはトリプシン阻害剤(J. Pharm. Pharmacol., 50, No.8, 913-20, 1998:非特許文献4)などの酵素阻害剤を使用する方法も挙げられる。該方法はカルシウムイオンを引き抜くことにより細胞間隙をルーズとし高分子物質の膜透過性を促進する方法であるが、生理的pH(中性付近)においては比較的高濃度でないと吸収効果は発現されず、またカルシウムイオンが引き抜かれることによる粘膜障害も報告されている。
【0006】
インスリンをカプロン酸で修飾する方法も挙げられる(J. Pharm. Sci., 84, No. 6, pp. 682-687, 1995:非特許文献5)。該方法は各々の生理活性ペプチドと高級脂肪酸あるいはそのエステルとを合成により修飾する方法であり、別途合成という煩雑な工程を伴う方法となり、また修飾によりペプチドの活性は低下する。
【0007】
ポリカーボフィル、カーボポール、あるいは(メト)アクリル酸−マレイン酸共重合体(US6,004,575:特許文献3)等のポリアクリル酸ゲル基剤やキトサン等の高分子物質を使用する方法も挙げられる。該方法は細胞間隙をルーズにさせることにより生理活性ペプチドの吸収を促進する方法であるとされている。ポリアクリル酸ゲル基剤は金属イオンとがキレートを形成することによって消化酵素による生理活性ペプチドの分解を抑制することができるとされている(Int. J. Pharm., 141, pp. 39-52, 1996:非特許文献6)。しかし、該基剤はポリマー自体が比較的低濃度であっても高い粘性を示すことから、該基剤を使用しての実用化は難しいとされている。そのため、ポリアクリル酸ゲル基剤の粘性を低下させたものとしてUS6,004,575(特許文献3)に記載された(メト)アクリル酸−マレイン酸共重合体が挙げられるが、該ポリマーは構造上カルボキシル基を多数有しているため、該ポリマーの使用は消化管粘膜に分布する粘液層の粘性を増大させると考えられる。
【0008】
キトサンについては、細胞間隙をルーズにすることにより吸収を促進することが報告されている(Int. J. Pharm., 185, 1, pp. 73-82, 1999:非特許文献7)。しかし、キトサンは生理活性ペプチドの分解酵素の阻害作用を有しておらず(Int. J. Pharm., 159, pp. 243-253, 1997:非特許文献8)、また消化管粘膜上に分布する粘液層と相互作用して、粘液層における物質の透過性を低下させる(Eur. J. Pharm. Sci., 8, No. 4, 335-43, 1999:非特許文献9)ことから、キトサンを使用したとしても経口吸収が十分得られるとは考えられない。
【0009】
薬物の経口吸収を改善するためアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを使用する技術として、さらに以下の方法が知られている。
国際公開パンフレットWO00/43041A1号(特許文献4)には、胆汁酸と難吸収性複合体を形成し吸収されにくい薬物とアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとを含有してなる経口吸収改善医薬組成物に関する発明が具体的に記載されている。また、同パンフレットには、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び界面活性剤を溶媒に溶解又は懸濁させ、該溶液を噴霧乾燥してなる医薬組成物に関する発明も開示されている。しかしながら、本願発明の有効成分であるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが、(1)消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層において、生理活性ペプチドの消化酵素による分解を阻害(抑制)する作用、(2)消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる作用(粘液層において、生理活性ペプチドの透過性を向上させる作用)、(3)消化管粘膜において、生理活性ペプチドの透過性を向上させる作用等、三つの作用を併せ持つことについては、開示もなければ示唆もない。
【0010】
国際公開パンフレットWO00/02574A1号(特許文献5)には、高分子医薬品、およびカチオン性ポリマーとしてアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE等を含有してなる粉末状経粘膜投与製剤に関する発明が開示されている。しかしながら、実施例では経鼻投与製剤のみが製造され、かつ経鼻粘膜吸収に関する効果のみが確認されているに過ぎず、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが、他の経粘膜からの生理活性ペプチドの吸収、特に経口投与製剤としたときの生理活性ペプチドの吸収について、効果を奏することは一切開示されていない。
【0011】
一方、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、ローム社によって開発された、メタアクリル酸メチルとメタアクリル酸ブチル及びメタアクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体であり、オイドラギットTME100あるいはオイドラギットTMEPO(いずれもRohmGmbH社)の商品名で市販されている高分子物質であり、平均分子量は150,000である(医薬品添加物規格、P76−77、1998年、薬事日報社:非特許文献10;Handbook of Pharmaceutical Excipients, second edition, p. 362-366, 1994, American Pharmaceutical Association, Washington and The Pharmaceutical Press, London:非特許文献11)。
【0012】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、(1)胃液で速やかに溶解する、(2)pH5.0以下の緩衝液中では溶解し、pH5.0以上の緩衝液中ではフィルムが膨潤する等の性質を有し、錠剤・顆粒の苦味や色に対する隠蔽、防湿等の用途に汎用されている著名なフィルムコーティング基剤の一種である。従来、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、薬物の苦味や色に対する隠蔽、防湿の用途の他、薬物の可溶化等の用途に用いられている。
【0013】
従って、生理活性ペプチドに関し、消化管で分解されずに吸収させる技術の提供は、今なお要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO96/06635号
【特許文献2】US4,537,772
【特許文献3】US6,004,575
【特許文献4】WO00/43041A1号
【特許文献5】WO00/02574A1号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Pharm. Res., 7, No.9, Suppl., S157, 1990
【非特許文献2】Journal of Controlled release, 29, 253, 1994
【非特許文献3】J. Pharm. Pharmacol., 51, No.11, 1241-50, 1999
【非特許文献4】J. Pharm. Pharmacol., 50, No.8, 913-20, 1998
【非特許文献5】J. Pharm. Sci., 84, No. 6, pp. 682-687, 1995
【非特許文献6】Int. J. Pharm., 141, pp. 39-52, 1996
【非特許文献7】Int. J. Pharm., 185, 1, pp. 73-82, 1999
【非特許文献8】Int. J. Pharm., 159, pp. 243-253, 1997
【非特許文献9】Eur. J. Pharm. Sci., 8, No. 4, 335-43, 1999
【非特許文献10】医薬品添加物規格、P76−77、1998年、薬事日報社
【非特許文献11】Handbook of Pharmaceutical Excipients second edition p. 362-366, 1994, American Pharmaceutical Association, Washington and The Pharmaceutical Press, London
【発明の概要】
【0016】
このような技術水準下に、本発明者らは、インスリンやカルシトニンなどの生理活性ペプチドの経口製剤を開発する目的で鋭意検討を行った結果、生理活性ペプチドが消化管内の酵素で分解されることに加え、消化管粘膜上に分布する粘液層において生理活性ペプチドの透過性が低下(拡散が低下)することを知った。そこで、本願発明者らは、従来から消化管粘膜における薬物の透過性を向上させる物質として知られているカーボポールを用いて検討を行ったところ、カーボポールと粘液層における成分とが相互作用し粘液層の粘性を高めることを知った。粘液層の粘性が高まると、それに伴い生理活性ペプチドの拡散速度は低下し、生理活性ペプチドが粘液層を透過して粘膜に到達する迄の時間が延長することを意味する。粘性が高まることは、生理活性ペプチドが消化管内の分解酵素と接触する時間が延長することを意味する。従って、本発明者らは、粘膜層における粘性の増加は、粘液層及び/又は粘膜における生理活性ペプチドの透過性が低下するため、生理活性ペプチドが消化酵素によって分解されやすくなり、その結果生体内吸収性が低下すると考えている。
【0017】
ところで、出願人は、胆汁酸と難吸収性複合体を形成し経口吸収が低下する薬物に関し、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが該複合体の形成を阻害し及び/又は複合体を解離させる作用を有するとの知見を得、特許出願を行った(国際公開パンフレットWO00/43041A1)。出願人は、継続して検討を行い、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層における薬物透過性を向上させる経口吸収改善剤、酸性物質の共存下アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有する医薬組成物が消化管粘膜及び/又は粘膜上に分布する粘液層における薬物透過性を改善させることができるとの知見を得、特許出願を行った(PCT/JP01/06135、U.S.S.N.09/907,557(2001年7月16日出願))。本願発明者らは、さらに継続して検討を行った結果、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、(1)消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層及び/又はその粘液上の管腔内の部位において、生理活性ペプチドの分解酵素による分解を阻害(抑制)する作用、(2)消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる作用(粘液層において、生理活性ペプチドの透過性を向上させる作用)、(3)消化管粘膜において、生理活性ペプチドの透過性を向上させる作用を同時に併せ持つとの新規な知見を得た。
【0018】
該現象の原因については未だ詳かではないが、溶液状態のアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが蛋白分解酵素に結合して活性中心を保護することにより酵素活性を低下させるか、蛋白分解酵索の高次構造を変化させるか、あるいは生理活性ペプチドを蛋白分解から保護するように作用していると考えられる。また、溶液状態のアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが薬物透過に先駆けて粘液層及び/又は粘膜に送達されることによって、これらに含まれる成分の薬物との相互作用を妨げるか、あるいは粘液の成分に作用して粘性を低下せしめた結果、透過性を亢進することにより、上皮細胞及び/又は細胞間隙での薬物透過性を向上させることに起因しているものと考えられる。
【0019】
本発明者らは、上記三つの作用を同時に併せ持つアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEであれば、従来消化管内酵素で活性が失われると考えられていた生理活性ペプチドの経口製剤の提供を初めて可能ならしめるのではないかと考え、さらに継続して鋭意検討を行った結果、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと生理活性ペプチドと酸性物質とを必須の配合成分とし、該配合成分を近接させ、しかも好ましくはこれらの三成分、少なくともアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを均一に配合し、消化管管腔内あるいは消化管の粘液層及び/又は粘膜においてこれらの物質を溶液状態で送達させることが可能であり、かつ生理活性ペプチドの経口吸収性を著しく改善することを知見した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0020】
すなわち、本発明は、
1.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする、消化酵素による生理活性ペプチドの分解抑制剤、
2.酸性物質の共存下に使用する上記1記載の分解抑制剤、
3.消化酵素が、トリプシン、またはエラスターゼである上記1記載の分解抑制剤、
4.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの使用量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である上記1記載の分解抑制剤、
5.酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである上記2記載の分解抑制剤、
6.酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である上記2記載の分解抑制剤、
7.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性低下剤、
8.酸性物質の共存下に使用する上記7記載の粘性低下剤、
9.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの使用量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である上記7記載の粘性低下剤、
10.酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである上記8記載の粘性低下剤、
11.酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である上記8記載の粘性低下剤、
12.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを投与し、消化酵素による生理活性ペプチドの分解を阻害することにより、生理活性ペプチドの分解を抑制させる方法、
13.酸性物質の共存下に使用する上記12記載の方法、
14 消化酵素が、トリプシン、またはエラスターゼである上記12記載の方法、
15.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの使用量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である上記12記載の方法、
16.酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである上記13記載の方法、
17.酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である上記13記載の方法、
18.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを投与し、消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる方法、
19.酸性物質の共存下に使用する上記18記載の方法、
20.生理活性ペプチド、及びアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有してなる経口吸収改善用医薬組成物、
21.生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質を含有し、該三成分が近接し、かつ少なくとも前記ポリマー及び前記酸性物質が均一に配合されてなる上記20記載の医薬組成物、
22.生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質が均一に配合されてなる上記21記載の医薬組成物、
23.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの添加量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である上記21または22記載の医薬組成物、
24.酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである上記21または22記載の医薬組成物、
25.酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である上記21または22記載の医薬組成物、
26.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質が、造粒されてなる上記21または22記載の医薬組成物、
27.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質が、製薬学的に許容されうる溶媒に溶解及び/又は溶解された後、該液を噴霧乾燥し得られた噴霧乾燥物であるか、または該液を凍結乾燥して得られた凍結乾燥物である上記21または22記載の医薬組成物、
28.アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質が、製薬学的に許容されうる溶媒に溶解及び/又は懸濁した状態である上記27記載の医薬組成物、
29.製剤としての形態が、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び液剤からなる群より選択される1種または2種以上である上記21または22記載の医薬組成物、
30.生理活性ペプチドが、消化管酵素により分解されるもの及び/又は難吸収性のものである上記21または22記載の医薬組成物、
31.生理活性ペプチドが、カルシトニン、インスリン、またはバソプレッシンである上記30記載の医薬組成物、
を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明医薬組成物の一実施態様を示す模式図である。図(1−1)は、薬物(図中A)を含有する核に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(図中B)及び酸性物質(図中C)が均一に配合された層が被覆された剤形(例えば、顆粒剤、散剤、それらを充填したカプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、並びに液剤、懸濁剤、乳剤等を充填したカプセル剤等を挙げることができる。)を示す模式図である。図(1−2a)及び図(1−2b)は本願発明の一実施態様である同一組成物を示す模式図である。ミクロ的には、図(1−2a)のように、薬物(図中A)、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(図中B)、及び酸性物質(図中C)の各成分が平均的に分散して存在していないようにみえる組成物でも、マクロ的には、図(1−2b)のように各成分が全体として平均的に分散して存在する本願発明の一実施態様の組成物であることを意味する。該状態の剤形として、例えば、散剤、顆粒剤、またそれら、あるいは造粒物や混合物を充填したカプセル剤、並びにそれらを圧縮成形した錠剤や、液剤、懸濁液、乳剤などを充填したカプセル剤等を挙げることができる。
【図2】図2は、オイドラギットE100(商品名、Rohm GmRH社)とTween80を10:1の割合で1650gを1mol/l塩酸水溶液・エタノール混液(5:12)12000gに溶解し、噴霧乾燥した白色粉末(参考例1参照、「E−SD」)をトリプシンに対し混合し、混合前後のトリプシンの構造変化について、円二色性分散計を用いて測定したトリプシンの二次構造スペクトルを示すチャート図である。
【図3】図3は、トリプシンとE−SDとを混合し、混合前後のトリプシンの構造変化について、超遠心法を用いた分子間相互作用解析システムを用いて測定したトリプシンの分子量分布の変化を示すチャート図である。S’は沈降係数であり、ピークの値に基づき分子量が算出される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において『消化管』とは、十二指腸、空腸、及び回腸からなる小腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、及びS字結腸からなる結腸、並びに結腸、及び直腸からなる大腸を意味する。
【0023】
本明細書において『消化管管腔内』とは、『消化管』の粘膜上表面上に分布する粘液層のさらに表面上の、例えば食物等が通過する管腔のなかを意味する。
(1)本発明の新規な用途発明について、以下説明する。
【0024】
本発明は、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とし、(A−1)消化管内のどこか、例えば消化管粘膜上及び/又はその粘膜上に分布する粘液層及び/又はその粘液層上にあたる消化管管腔内に存在する消化酵素による生理活性ペプチドの分解を阻害(阻害)する用途、(A−2)消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層に存在する粘液層の粘性を低下させる作用、(A−3)(A−2)の作用に基づいて生理活性ペプチドの粘液層における透過性(拡散)を向上させる用途、(A−4)消化管粘膜における生理活性ペプチドの透過性を向上させる用途を提供する。
【0025】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、単独で使用されるか、あるいは好ましくは酸性物質の共存下に使用される。該ポリマーの使用量は、生理活性ペプチドの分解を抑制する量、消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる量、あるいは消化管粘膜及び/又は粘膜上に分布する粘液層において生理活性ペプチドの透過性を改善する量であれば特に制限されない。配合量(重量として)は、通常10mg〜3000mg、好ましくは25mg〜2500mg、さらに好ましくは50mg〜2000mgである。
【0026】
なお、該ポリマーの詳細な使用量及び投与態様については、経口吸収改善医薬組成物に関する発明の開示において説明する。
(2)本発明の方法に関する発明について、以下説明する。
【0027】
また、本発明は、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを投与することにより、(B−1)消化管内のどこか、例えば消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層及び/又はその粘液上にあたる消化管の管腔内に存在する消化酵素による生理活性ペプチドの分解を抑制(阻害)する方法、(B−2)消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液の粘性を低下させる方法、(B−3)(B−2)の作用に基づいて、粘液層において生理活性ペプチドの透過性(拡散)を向上させる方法、(B−4)消化管粘膜における生理活性ペプチドの透過性を向上させる方法を提供する。
【0028】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、単独で使用されるか、あるいは好ましくは酸性物質の共存下に使用される。該ポリマーの使用量は、生理活性ペプチドの分解を抑制する量、消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる量、あるいは消化管粘膜及び/又は粘膜上に分布する粘液層において生理活性ペプチドの透過性を改善する量であれば特に制限されない。配合量(重量として)は、通常10mg〜3000mg、好ましくは25mg〜2500mg、さらに好ましくは50mg〜2000mgである。
【0029】
なお、該ポリマーの詳細な使用量及び投与態様については、経口吸収改善医薬組成物に関する発明の開示において説明する。
上記本発明の新規な用途に関する発明、あるいは新規な方法に関する発明に基づいて医薬組成物とした場合、初めて生理活性ペプチドの経口吸収を改善した医薬組成物を提供することができることは、予想外である。
【0030】
本明細書において『近接』とは、本発明の目的の範囲内、すなわち消化管粘液層及び/又は粘膜における生理活性ペプチドの透過性を改善し経口吸収を改善しうる程度に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質(好ましくは、更に生理活性ペプチドを含む)が均一に配合され、固体状態、あるいは液体状態において、各成分が相互に近く存在している状態を意味する。従って、例えば生理活性ペプチドが酸性物質等との接触により安定性が低下する場合、上記状態を採用し得る程度に、例えば生理活性ペプチドが加工された態様(例えば糖類、デンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性物質により被覆された態様等)も本願発明の範囲内に含まれる。
【0031】
本明細書において『均一に』とは、例えば、図1(1−2a)のように生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質(生理活性ペプチドは好ましい態様として含まれる)が散在したようなものであっても、図1(1−2b)のように全体として各成分が一様な状態を意味する。逆に、生理活性、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質をそれぞれ層積した三層錠などのように、各成分が偏在しているような状態は『均一に』ではない。また『均一に配合』とは、製剤分野において自体公知の方法により配合される状態、例えば、各成分が物理混合、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、造粒法(湿式造粒法、乾式造粒法)により製造された固体組成物、あるいは各成分が例えば水など製薬学的に許容され得る溶媒に懸濁及び/又は溶解した液体組成物が挙げられる。図1は、実施態様の一部を示すが、これら実施態様を限定するものではない。
【0032】
なお、本発明の分解抑制剤や粘性低下剤、または分解抑制剤あるいは粘性低下剤を含有してなる経口吸収改善用医薬組成物は、上記アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEのみからなることもでき、また該ポリマーを製薬学的に許容される担体と共に含む製剤形態とすることもできる。
【0033】
すなわち、本発明の分解抑制剤や粘性低下剤は、上記ポリマーを必須成分として、また分解抑制剤あるいは粘性低下剤を含む経口吸収改善用医薬組成物は、生理活性ペプチドとアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとを必須成分として、それぞれ製薬学的に許容される通常の製剤担体と共に用いて、一般的な医薬組成物の形態として実施することができる。担体としては、製剤の使用形態に応じて、通常使用される増量剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは安定化剤等の賦形剤を例示することができ、これらは医薬製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用される。
【0034】
上記医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等が挙げられる。
【0035】
(3)本発明の経口吸収改善医薬組成物に関する発明について、以下説明する。
本発明は、生理活性ペプチド及びアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有してなる経口吸収改善用医薬組成物、好ましくはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを均一に配合することによって、特に消化管の中性乃至弱アルカリ性の部位において該ポリマーを溶解させるため、該ポリマーに、該ポリマーの塩基性基の10%以上を中和する量の酸性物質を均一に配合してなる経口吸収改善用医薬組成物を提供する。本発明の、生理活性ペプチド及びアミノアクリルメタアクリレートコポリマーEを含有してなる(好ましくは、さらに酸性物質が均一に配合されてなる経口吸収改善用医薬組成物)は、(C−1)消化管の中性乃至弱アルカリ性の部位においても該ポリマーを溶解させることができることから、消化管内で分解される生理活性ペプチド、消化管内で酵素により分解され、また消化管粘膜上に分布する粘液層において透過性が低下する生理活性ペプチドについて、経口吸収を改善することができる、(C−2)一般に生理活性ペプチドの種類により至適吸収部位は異なるため至適吸収部位を考慮した製剤設計が必要となるが、小腸上部の十二指腸、空腸及び回腸等、有効吸収面積の大きな小腸においては勿論のこと、水分の少ない消化管下部の結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、及びS字結腸を含む)、あるいは直腸などの大腸においてもアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは溶解することができるため、消化管全体を生理活性ペプチドの有効吸収部位とすることができる、(C−3)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEには、消化管の粘液層及び/又は粘膜における成分と生理活性ペプチドとの相互作用に基づく、粘液層における生理活性ペプチドの透過性の低下を抑制することができる、(C−4)生理活性ペプチドの分解酵素による分解を抑制する作用及び/又は遅延させる作用により、生理活性ペプチドの経口吸収を改善することができる等の効果を奏するものである。
【0036】
本発明に用いられる生理活性ペプチドとしては、疾病の治療又は予防に提供されるペプチド、タンパク質及びこれらの誘導体であれば特に制限されない。生理活性ペプチドとして、例えば、インスリン、カルシトニン、アンギオテンシン、バソプレシン、デスモプレシン、LH−RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)、ソマトスタチン、グルカゴン、オキシトシン、ガストリン、シクロスポリン、ソマトメジン、セクレチン、h−ANP(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド)、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、MSH(黒色素胞刺激ホルモン)、β−エンドルフィン、ムラミルジペプチド、エンケファリン、ニューロテンシン、ボンベシン、VIP(血管作用性腸ペプチド)、CCK−8(コレシストキニン−8)、PTH(副甲状腺ホルモン)、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)、TRH(チロトロピン放出ホルモン)、エンドセリン、hGH(ヒト成長ホルモン)、またインターロイキン、インターフェロン、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子等のサイトカイン類、及びこれらの誘導体等が挙げられる。該ペプチド、タンパク質とは、天然由来のもののみならず、薬理学的に活性な誘導体及びこれらの類似体も含まれる。例えば、本発明で対象とするカルシトニンには、サケカルシトニン、ヒトカルシトニン、ブタカルシトニン、ウナギカルシトニン、及びニワトリカルシトニンなどの天然に存在する生成物のみならず、それらの遺伝子組み替え体等も含まれる。また、インスリンではヒトインスリン、ブタインスリン、ウシインスリンのみならずそれらの遺伝子組み替え体等も含まれる。
【0037】
生理活性ペプチドの配合量は、疾病の治療または予防上有効な量であれば特に限定されない。
本発明において、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが医薬組成物中に配合されるときの状態は、生理活性ペプチドと近接し、かつ後記酸性物質と均一に配合される状態であれば特に制限されない。該状態としては、例えば、該ポリマー自体の粉末等の固体、あるいは該ポリマーを水に懸濁及び/または溶解した水溶液等の液体などが挙げられる。粉末化する方法としては自体公知の方法、例えば、粉砕法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、湿式造粒法、乾式造粒法などが挙げられる。該ポリマーの溶解補助剤として、後記酸性物質を添加することが好ましい。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは遊離アミノ基を有してもよく、可溶性塩でもよい。可溶性塩の場合、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを酸と共に溶解、または溶解及び懸濁した溶液を、噴霧乾燥または凍結乾燥することにより調製されることが好ましい。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEには、界面活性剤が含有されていてもよい。添加される界面活性剤は、通常製薬的に許容され、該ポリマーの撥水性を軽減させるものであれば特に制限されない。かかる界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン系界面活性剤(例えばポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシル40、ラウロマクロゴール、ポリオキシエチレン水添硬化ヒマシ油(HCO−60)、ショ糖脂肪酸エステル等)、イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、カチオン性界面活性剤(例えば、塩化ベンザルコニウム等)、両性界面活性剤(レシチン等))等が挙げられる。これらは、1種または2種以上適宜混合して用いることもできる。かかる界面活性剤の配合量としては、該ポリマーの撥水性を軽減する量であれば特に制限されないが、通常該ポリマー1重量部に対し約0.01〜10重量部であり、好ましくは約0.01〜5重量部であり、さらに好ましくは約0.05〜1重量部である。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(所望により界面活性剤を含む)を溶解または懸濁させる溶媒としては、通常製薬的に許容され得る溶媒であれば特に制限されないが、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等)、水と有機溶媒との混液等が挙げられる。また、本発明の医薬用組成物には、医薬品添加物として使用される各種賦形剤、その他の添加剤を含むこともできる。賦形剤あるいは添加剤としては、例えば乳糖、デンプン等の増量剤が挙げられる。
【0038】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの配合量は、生理活性ペプチドの配合量との関係において適宜調整されれば特に制限されないが、通常生理活性ペプチド1重量部に対し0.01重量部以上であり、好ましくは0.1〜1000000重量部であり、さらに好ましくは0.5〜100000重量部であり、さらにより好ましくは1〜100000重量部である。配合量(重量として)は、通常10mg〜3000mg、好ましくは25mg〜2500mg、さらに好ましくは50mg〜2000mgである。なお、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEには、さらに一層の吸収促進を目的とし界面活性剤を配合させることもできる。かかる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン系界面活性剤(例えばポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシル40、ラウロマクロゴール、ポリオキシエチレン水添硬化ヒマシ油(HCO−60)、ショ糖脂肪酸エステル等)、イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、カチオン性界面活性剤(例えば、塩化ベンザルコニウム等)、両性界面活性剤(レシチン等))等が挙げられる。これらは、1種または2種以上適宜混合して用いることもできる。
【0039】
本発明に用いられる酸性物質としては、製薬的に許容され、かつ水分の存在下、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の一部乃至全部を中和することにより、該ポリマーを溶解し得るものであれば特に制限されない。該酸性物質として、好ましくは該物質1gを50mlの水に溶解または懸濁したときの該溶液のpH値を6以下とする無機酸及び/または有機酸である。本発明に用いられる酸性物質として、例えば、塩酸、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の無機酸;クエン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、フタル酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、フィチン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、アスコルビン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、アラキン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸(好ましくはL体)、システイン(好ましくはL体)、塩酸アルギニン、塩酸リジン、グルタミン酸(好ましくはL体)塩酸塩等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて配合することができる。
【0040】
酸性物質の添加量としては、水分の存在下、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の一部乃至全部を中和することにより、該ポリマーを溶解し得る量であれば特に制限されない。該物質の添加量としては、通常該ポリマーの塩基性基の約10%以上を中和する量であり、好ましくは約15%以上を中和する量であり、さらに好ましくは約30%以上を中和する量であり、さらにより好ましくは約40%以上であり、最適には50%以上である。50%以上酸性物質が共存した場合、噴霧乾燥品は長期間保存したときにも凝集が認められず製造上取扱いやすいので好適である。該酸性物質の量としては、該物質の溶解性及び/又は酸性度を考慮して適宜調整されるが、通常アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE1重量部に対し0.005〜50重量部であり、好ましくは0.01〜30重量部であり、さらに好ましくは0.03〜10重量部である。なお、本発明に用いられる酸性物質として、例えばEudragitE500gに対して1mol/l塩酸312.5gを添加して噴霧乾燥した場合、以下の計算式(I)により算出することができる。
【0041】
【化1】

【0042】
X=17.49g、但し500g中の量であるから、500で除して
X/1g EudragitE=35mgKOH
実際にEudragit E 1g中のアルカリ値は163−198mgKOHであるから、この時に添加した酸の量は全部のアルカリを中和する量の15−20%を使用したことになる。
【0043】
本発明に用いられるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質との均一な配合としては、生理活性ペプチドと近接し、かつ均一に配合されてなる状態であって、水分の存在下酸性物質によりアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが溶解し得る実施態様を採り得る状態であれば特に制限されない。該状態として、好ましくは生理活性ペプチド、該ポリマー、及び該酸性物質とが均一に配合されてなる状態である。かかる状態としては、自体公知の方法により配合された態様が挙げられる。例えば、前記アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの配合で既に説明した方法により調製されるアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを使用するか、あるいはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質、あるいはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質を生理活性ペプチドと共に製薬学的に許容され得る溶媒(例えば、水、アルコール(メチル−、エチル−、プロピル−、ブチル−など)あるいはそれらの混液など)に溶解及び/又は懸濁した液を自体公知の方法、例えば噴霧乾燥等により粉末とする実施態様、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを自体公知の方法により混合、あるいは造粒して混合物とする実施態様、あるいはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを製薬学的に許容され得る溶媒に溶解及び/又は懸濁した液等の実施態様、前述の実施態様に更に生理活性ペプチドを配合した実施態様などが挙げられる。これら実施態様が具体的に採られ得る医薬組成物としては、経口的に投与し得る製剤としての剤形であれば特に制限されない。かかる製剤として、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、または液剤、懸濁剤、乳剤等を充填したカプセル剤等が挙げられる。該製剤の製造法は、自体公知の方法により行うことができる。具体的にかかる製剤としては、好ましくは本発明に用いられるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質を生理活性ペプチドの近傍に存在させるように製剤化したものが挙げられる。カプセル剤としては、例えばアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを製薬学的に許容される溶媒に溶解及び/又は懸濁した溶解液/懸濁液、前記溶解液/懸濁液を充填した例えばゼラチンカプセル等が挙げられる。混合物としては、例えばアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを自体公知の方法により混合し、該混合物を生理活性ペプチドと混合した混合物が挙げられる。造粒物としては、例えばアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEと酸性物質とを混合し、例えば水など製薬学的に許容される溶媒を添加し、あるいは所望により例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース等を結合剤として添加することにより造粒した造粒物が挙げられる。錠剤またはカプセル剤として、例えば前記混合物や前記造粒物に、医薬品賦形剤を配合し打錠して得られた錠剤、前記造粒物を例えばゼラチンカプセルに充填したカプセル剤等が挙げられる。腸溶性製剤としては、例えば前記造粒物を腸溶性物質(例えば、メタアクリル酸メチルとメタアクリル酸の1:1の共重合体(商品名:オイドラギットTML、Rohm GmbH社)、メタアクリル酸メチルとメタアクリル酸の2:1の共重合体(商品名:オイドラギットTMS、Rohm GmbH社)、アクリル酸エチルとメタアクリル酸の1:1の共重合体(商品名:オイドラギットTMLD−55、Rohm GmbH社)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、シェラック、ゼイン等)で被膜してなる腸溶性製剤、あるいは前記造粒物を打錠し得られた錠剤を腸溶性物質(前記同様)で被覆してなる腸溶性製剤が挙げられる。このとき、本発明の医薬組成物には、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、分散剤、懸濁化剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤等の医薬品添加物を適宜加えることができる。
【0044】
医薬組成物中、生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質の配合割合としては、疾病の治療または予防上有効な量の生理活性ペプチド1重量部に対し、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが0.1〜1000000重量部(好ましくは0.5〜100000重量部、さらに好ましくは1〜100000重量部)であり、及び酸性物質が前記ポリマーの塩基性基の10%以上(好ましくは15%以上、さらに好ましくは30%以上、さらにより40%以上、好適には50%以上)を中和する量である。あるいは、前記三成分の配合成分は、医薬組成物中、疾病の治療または予防上有効な量の生理活性ペプチド1重量部に対し、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが0.1〜1000000重量部(好ましくは0.5〜100000重量部、さらに好ましくは1〜100000重量部)であり、及び酸性物質が前記ポリマー1重量部に対し、0.005〜50重量部(好ましくは0.01〜30重量部であり、さらに好ましくは0.03〜10重量部)である。
【0045】
本発明の経口吸収改善用医薬組成物は、自体公知の各種製剤に適用することができる。具体的な製剤として、例えば、通常の製剤(錠剤、カプセル剤、液剤、散剤、顆粒剤等)、徐放性製剤(例えば、国際公開パンフレットWO94/06414号参照)、結腸放出製剤(例えば、国際公開パンフレットWO95/28963号参照)、時限放出型あるいはパルス放出型製剤(例えば、WO01/78686A1号参照:PCT/JP01/03229(2001年4月16日出願)、U.S.S.N.09/834,410(2001年4月12日出願)、国際公開パンフレットWO93/05771号参照)、微粒子製剤(例えば、特表平10−511957号公報参照)、粘膜付着型製剤(例えば、特開平5−132416号公報参照)等が挙げられる。好ましくは、国際公開WO94/06414号に記載されたハイドロゲル形成徐放性製剤、国際公開WO95/28963号公報に記載された結腸放出製剤(例えば、本発明の経口吸収改善医薬用組成物を造粒し得られた造粒物と腸内細菌により分解され有機酸を発生する糖類(例えば、ラクチュロースなど)との混合物を、有機酸により溶解する高分子物質で被覆後、必要に応じヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの非イオン性物質で被覆した後、さらに腸溶性物質で被覆してなる製剤、あるいは前記混合物を打錠し得られた錠剤を、有機酸により溶解する高分子物質で被覆後、必要に応じヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの非イオン性物質で被覆した後、さらに腸溶性物質で被覆してなる製剤)、または前記WO01/78686A1号に記載された時限放出型製剤である。また、徐放性基剤としてポリエチレンオキサイドを用いた場合、安定化剤として黄色三二酸化鉄及び/又は赤色三二酸化鉄を配合してなる安定な経口用医薬組成物に関する発明(国際公開パンフレットWO01/10466A1号、U.S.S.N.09/629,405)を組合せて実施することもできる。なお、各々の発明に関し、成分、及び成分の配合量等については、各公報に記載された発明に基づいて実施することができる。
【0046】
本発明分解抑制剤、粘性低下剤、または経口吸収改善用医薬組成物としての投与量は、併用する生理活性ペプチドの投与量等に応じて適宜選択、決定される。通常、1日成人一人当たり体重1kg当たり、約0.001〜100mg程度とするのがよく、生理活性ペプチドの用途等に合わせて1日に1回または例えば2〜4回等の複数回に分割して投与することができる。
【0047】
また、本発明分解抑制剤、粘性低下剤、または経口吸収改善用医薬組成物の投与量は、その用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常有効成分中の生理活性ペプチドが、その本来の作用を奏し得る有効量となるものとされるのがよい。該量は、用いる生理活性ペプチドの種類に応じて適宜決定され、特に制限されるものではないが、一般には、1日成人一人当たり体重1kg当り、約0.001〜100mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1回または例えば2〜4回の複数回に分割して投与することができる。
【0048】
上記医薬製剤は、例えば生理活性ペプチドを常法に従って製剤化し、これを前記生理活性ペプチドを用いて常法に従い被覆した被覆錠形態としたり、また固体分散体形態とすることもできる。該固体分散体形態への調製は、常法に従って、例えば生理活性ペプチドとアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとを適当な溶媒に溶解あるいは懸濁した後、溶媒を除去することにより実施できる。
【0049】
なお、本発明分解抑制剤、粘性低下剤、または経口吸収改善用医薬組成物は、これを生理活性ペプチドと別個の製剤に調製した場合、生理活性ペプチドと同時投与が好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に試験例、実験例、及び実施例を示して説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、本発明に用いられるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、以下のように調製されたものを使用したが、本発明のアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEはこれらの参考例により限定されるものではない。
【0051】
[参考例1] オイドラギットTME100(RohmGmRH社)とTween80を10:1の割合で1650gを1mol/l塩酸水溶液・エタノール混液(5:12)12000gに溶解し、噴霧液とした。噴霧液をL−8型噴霧乾燥機(大川原製作所製)を用いて噴霧速度30g/min、吸気温度85℃、排気温度62−66℃の条件下、噴霧乾燥し、40℃にて24時間乾燥後、白色粉末を得た(以下E−SD。特に断り書きがなければ以下の実施例、試験例、比較例などで使用)。
【0052】
[参考例2] エタノール9000g及び1mol/l塩酸3000gの混液にオイドラギットTME1001500g、及びTween80 150gを溶解し、噴霧液とした。噴霧液をL−8型噴霧乾燥機(大川原製作所製)を用いて噴霧速度30g/min、吸気温度85℃、排気温度62−66℃の条件下、噴霧乾燥し、40℃にて24時間乾燥後、白色粉末を得た。本品1gを精製水15mlに添加したところ、完全に溶解した。また、本品は、保存時凝集が認められず安定であった。
【0053】
[参考例3] 精製水50gにオイドラギットTMEの微粉末であるオイドラギットTMEPO2.9gを添加し、試験液とした。本試験液にクエン酸650mgを添加したところ、試験液中のオイドラギットTMEは完全に溶解した。本液にTween800.25gを溶解した溶液をFD−81型凍結乾燥機(東京理化機械製)を用いて凍結乾燥することにより、白色の凍結乾燥品を得た。本品1gを精製水15gに添加したところ、完全に溶解した。
【0054】
[参考例4] 精製水50gにオイドラギットTMEPO2.9gを添加し、試験液とした。本試験液に酒石酸650mgを添加したところ、試験液中のオイドラギットTMEは完全に溶解した。本液にTween800.29gを溶解した溶液を参考例3と同様に凍結乾燥することにより、白色の凍結乾燥品を得た。本品1gを精製水15gに添加したところ、完全に溶解した。
【0055】
[参考例5] 精製水50gにオイドラギットTMEPO3.3gを添加し、試験液とした。本試験液にD,L−リンゴ酸650mgを添加したところ、試験液中のオイドラギットTMEは完全に溶解した。本液にTween800.33gを溶解した溶液を参考例3と同様に凍結乾燥することにより、白色の凍結乾燥品を得た。本品1gを精製水15gに添加したところ、完全に溶解した。
【0056】
[試験例1]<消化管粘液層における拡散/透過性改善作用>
リン酸緩衝液5mlにブタ胃由来ムチン粉末500mgを溶解し10%ムチン溶液を作成した(A液)。リン酸緩衝液5mlにE−SD400mgを溶解し、8%E−SD溶液を作成した(B液)。リン酸緩衝液5mlにcarbopol(Acros社製)25mgを溶解し0.5%carbopol溶液を作成した(C液)。A液と、B液あるいはC液とを混合し、速やかに振とうさせた。混合後0時間および3時間の溶液の粘度を粘度測定計によって測定した。
【0057】
(結果及び考察)得られた結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
E−SD溶液とムチン溶液とを混合した場合、ムチン由来の粘度が低下することが明らかとなった。一方、これまでに吸収促進効果が報告されているカーボポールでは、ムチン由来の粘度の低下は観察されず、逆に増加する傾向を示した。従って、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが消化管内のムチン層に作用し、消化管粘液層の粘性を低下させることにより、生理活性ペプチドの粘液層での拡散性を上昇させることが示唆された。
【0060】
<実験例1 Insulinの消化管吸収に関する実験>
ウィスター系雄性ラット(10週齢)をペントバルビタール(商品名ソムノペンチル、シェーリングプラウ社製)麻酔下開腹し、結腸部及び肛門部を糸で縛り大腸ループを作成した。
【0061】
[実施例1] Bovine insulin 6mg、及びE−SD 400mgを生理食塩液16mlに溶解(E−SD 2%溶液)し、本発明の溶液を調製した。本溶液を大腸、小腸ループ内にInsulinとして100μg/kg相当量を投与した。投与後、0、0.5、1、1.5、2及び3時間に頸静脈より血液を0.25ml採取し、血漿中glucose濃度を測定した。投与前の血漿中グルコース濃度を100とし、投与後3時間までの血漿中グルコース低下量(D、%of initial*h)を算出した。Dは投与3時間までの血漿中グルコース濃度−時間曲線下面積AUC(%of initial*h)を生理食塩液のみ投与時のAUCより引くことにより算出した。
【0062】
一方、比較としてbovine insulin 6mgを生理食塩液20mlに溶解した液を、大腸ループ内にInsulinとして600μg/kg相当量を投与し、あるいは対照として生理食塩液2mlを投与して、上記と同様に血漿中glucose濃度を測定した(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業)。
【0063】
(結果及び考察)得られた結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
Insulinのみを投与した場合には血糖値の明らかな低下は認められなかったが、InsulinとE−SDとを共に投与した場合には血糖値の低下が確認された。従って、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEとInsulinとを共に投与することにより、Insulinの経口吸収を改善することが示唆される。
【0066】
<実験例2 Vasopressinの消化管吸収に関する実験>
ウィスター系雄性ラット(10週齢)をペントバルビタール(商品名ソムノペンチル、シェーリングプラウ社製)麻酔下開腹し、トライツ靱帯部及び回盲接合部を糸で縛り、小腸ループを作成した。また結腸部及び肛門部を糸で縛り大腸ループを作成した。
【0067】
[実施例2] Arg−vasopressin0.2mg、及びE−SD 400mgを生理食塩液20mlに溶解し、本発明の溶液を調製した。本溶液を大腸、小腸ループ内にArg−vasopressinとして100μg/kg相当量を投与した。投与後、0.5、1、1.5及び2時間に頸静脈より血液を0.4ml採取し、血漿中Arg−vasopressin濃度を測定した。
【0068】
一方、比較としてArg−vasopressin0.2mgを生理食塩液20mlに溶解した液を、大腸、小腸ループ内にArg−vasopressinとして100μg/kg相当量を投与して、上記と同様に血漿中Arg−vasopressin濃度を測定した。
【0069】
(結果及び考察)得られた結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
Vasopressinのみを投与した場合と比べ、vasopressinとE−SDとを共に投与した場合にはAUCの上昇が有意に認められ、また大腸投与ではAUCの上昇が顕著であった。従って、E−SDはvasopressinの経口吸収を改善することが示唆される。
【0072】
<実験例3:Calcitoninの消化管吸収改善に関する実験>
SD系雄性ラット(5週齢)にペントバルビタール(商品名ソムノペンチル、シェーリングプラウ社製)麻酔下開腹し、トライツ靱帯部及び回盲接合部を糸で縛り、小腸ループを作成した。また結腸部及び肛門部を糸で縛り大腸ループを作成した。
【0073】
[実施例3] Salmon Calcitonin(sCT)1.5μg、及びE−SD 400mgあるいは200mgを1%ゼラチン水溶液20mlに溶解し、本発明の溶液を調製した。本溶液を大腸、小腸ループ内にsCTとして0.6μg/kg相当量を投与した。投与後、0、1、2、3及び4時間に頸静脈より血液を0.4ml採取し、血漿中カルシウム濃度を測定した。
【0074】
一方、比較としてsCT1.5μgを1%ゼラチン水溶液20mlに溶解した液を、大腸、小腸ループ内にsCTとして0.6μg/kg相当量を投与し、あるいは1%ゼラチン水溶液のみを投与して、上記と同様に血漿中カルシウム濃度を測定した。また、E−SDの代わりに、carbopol−ナトリウム塩100mgを用いて上記と同様の試験を行った。
【0075】
(結果及び考察)得られた結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
sCTのみを投与した場合血漿中カルシウム濃度の明らかな低下は認められなかったが、sCTとE−SDとを共に投与した場合には、大腸では1%以上の濃度で血漿中カルシウム濃度の低下が認められ、また小腸では2%以上の濃度で血漿中カルシウム濃度の低下が認められた。しかしながら、比較として投与したcarbopolでは効果が小さかった。
【0078】
<実験例4 消化酵素分解抑制作用>
[対照例] トリプシンのリン酸緩衝液(PBS)溶液(0.048mg/ml)0.3mlとPBS1.5mlとの混合溶液に、トリプシンの特異的基質であるN−α−benzoylarginineethylesterのPBS溶液(1mg/ml)0.3mlを添加し、添加後20分までの試験液内の基質量をUV測定(256nm)により定量した。酵素分解反応を1次式によるものと仮定して、時間−残存基質量直線の傾きを算出することにより、基質分解速度定数K(%/min)を算出した。
【0079】
[実施例4] トリプシンのPBS溶液(0.048mg/ml)0.3mlとE−SD水溶液1.5mlとの混合溶液に、N−α−benzoylarginineethylesterのPBS溶液(1mg/ml)0.3mlを添加し、添加後の試験液内の基質量を上記と同様に測定し、K値を算出した。なお、試験液内のE−SD濃度はそれぞれ5,10,20mg/mlとなる様に3種類のE−SD水溶液を調製した。
【0080】
<結果及び考察>得られた結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
K値はE−SDの添加量依存的に低下し、E−SD 20mg/ml添加時には無添加時の約半分にまで低下した。この結果から、E−SD添加によりトリプシンの酵素活性が低下することが示された。従って、酸が付加されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEが生理活性ペプチド・蛋白の消化酵素分解抑制剤として有用であることが示された。
【0083】
[試験例2]<消化管酵素の高次構造の変化の確認>
トリプシンのリン酸緩衝液溶液(0.6mg/mL)の二次構造の状態を円二色性分散計(JASCO社製)を用いてCDスペクトルを190−250nmの波長の範囲で測定した。さらにトリプシンのリン酸緩衝液溶液(0.6mg/mL)とE−SDのリン酸緩衝液溶液(10mg/mL)を等量混合し30分間静置した後、円二色性分散計を用いて同様にCDスペクトルを測定することにより、トリプシンの構造変化を試験した。
【0084】
(結果及び考察)得られた結果を図2に示す。
円二色性分散計によるトリプシンの二次構造のスペクトルは、E−SDとの混合前後で明らかな変化は確認できなかった。従って、E−SDのトリプシン酵素活性阻害作用は酵素自体の構造を変化させることによってもたらされるものではない可能性が示唆された。
【0085】
[試験例3]<消化管酵素とE−SDとの相互作用の確認>
超遠心法を用いた分子間相互作用解析システム(XL−A,ベックマン・コールター社製)を用いてトリプシンのリン酸緩衝液溶液(1mg/mL)またはトリプシン溶液(0.095mg/mL)とE−SD溶液(2.5mg/mL)の1:1混合液の280nmにおけるabsorbanceの分布の時間変化を15分ごとに測定した。回転数は45000rpmで行った。結果をTime−derivative法により解析し、見かけの沈降係数sとその分布g(s)を算出した。
【0086】
(結果及び考察)得られた結果を図3に示す。
測定結果からトリプシンの分子量(約23000)だけでなく分子量約590000の複合体が混合溶液中に存在していることが明らかとなった。この分子量の大きさからトリプシンとE−SDは何らかの会合状態で存在していることが明らかとなった。試験例2、3の結果からE−SDとトリプシンはトリプシンの構造変化を伴わない相互作用をしており、本相互作用がトリプシンの蛋白分解作用を阻害している可能性が示された。
【0087】
<実験例5 消化酵素分解抑制作用2>
[対照例] エラスターゼのリン酸緩衝液(PBS)溶液(0.021mg/ml)0.1mlとPBS1.4mlとの混合溶液に、エラスターゼの特異的基質であるsuccinyl−(L−alanyl)−4−nitroanilideのPBS溶液(0.2mg/ml)0.6mlを添加し、添加後20分までの試験液内の基質量をUV測定(405nm)により定量した。酵素分解反応を1次式によるものと仮定して、時間−残存基質量直線の傾きを算出することにより、基質分解速度定数K(%/min)を算出した。
【0088】
[実施例5] エラスターゼのPBS溶液(0.021mg/ml)0.1mlとE−SD水溶液1.4mlとの混合溶液に、succinyl−(L−alanyl)−4−nitroanilideのPBS溶液(0.2mg/ml)0.6mlを添加し、添加後の試験液内の基質量を上記と同様に測定し、K値を算出した。なお、試験液内のE−SD濃度はそれぞれ5,10,20mg/mlとなる様に3種類のE−SD水溶液を調製した。
【0089】
(結果及び考察)得られた結果を表6に示す。
【0090】
【表6】

【0091】
K値はE−SDの添加量依存的に低下し、E−SD20mg/ml添加時には無添加時の約半分にまで低下した。この結果から、E−SD添加によりエラスターゼの酵素活性が低下することが示された。従って、酸が付加されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEが生理活性ペプチド・蛋白の消化酵素分解抑制剤として有用であることが示された。
【0092】
<実験例6 インスリンの経口吸収改善>
[対照例] インスリン500U(17.8mg)をハードゼラチンカプセル(#0、CAPSUGEL製)に封入した。本カプセルを絶食条件下、ビーグル犬(15−24月齢)に水30mlと共に経口投与した。投与直前及び投与後8時間まで経時的に前肢腕静脈より約2mLの血液を採取し、血漿中グルコース濃度(mg/dl)をグルコース測定用キット(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業)により測定した。投与前の血漿中グルコース濃度を100とし、投与8時間までの血漿中グルコース低下量(D、%of initial*h)及び投与後の最小グルコース濃度(Cmin、%of initial)を算出した。Dは投与8時間までの血漿中グルコース濃度−時間曲線下面積AUC(%of initial*h)をInsulin無投与時のAUC=100(%of initial)*8(h)=800(%of initial*h)より引くことにより算出した。
【0093】
[実施例6] インスリン500U(17.8mg)、E−SD125mg、DL−リンゴ酸50mg及びポリエチレングリコール6000(以下PEG6000)207.2mgを混合し、オイルプレスを用いて打錠圧40kg/cm2で成形することにより、本発明の錠剤を調製した。この錠剤を上記と同様の条件でビーグル犬に経口投与し、血液を採取し、血漿中グルコース濃度を測定した。得られた血漿中グルコース濃度推移から対照例と同様の方法でD及びCminを算出した。
【0094】
[実施例7] インスリン500U(17.8mg)、E−SD125mg、及びDL−リンゴ酸57.2mgを混合し、オイルプレスを用いて打錠圧40kg/cm2で成形することにより核錠を得た。ポリエチレンオキサイド(商品名Polyox−WSR303、ユニオンカーバイド社製:以下PEO)100mg及びPEG6000200mgを混合してPEO/PEG混合粉末を調製し、半量を打錠用臼内に添加し、次に核錠を臼の中心部に配置した。その後PEO/PEG混合粉末の残りの半量を臼内に添加し、オイルプレスを用いて打錠圧40kg/cm2で成形することにより、外層を有する本発明の錠剤を調製した。この有核錠剤を上記と同様の条件でビーグル犬に経口投与し、血液を採取し、血漿中グルコース濃度を測定した。得られた血漿中グルコース濃度推移から対照例5と同様の方法でD及びCminを算出した。
【0095】
(結果及び考察)得られた結果を表7に示す。
【0096】
【表7】

【0097】
インスリンの単独投与においては投与後8時間までの血糖値低下はほとんど認められなかった。一方、実施例6及び実施例7においてはいずれもD値の増大及びCmin値の低下が認められ、E−SDをインスリンと共に経口投与することにより、血糖値の低下傾向が認められた。また、実施例6及び実施例7の結果より、胃内で崩壊する錠剤(実施例6)よりも、小腸ないし大腸で活性成分を溶出する錠剤(実施例7)の方が胃内でのE−SDの溶解・分散を抑制することができることから、血糖値低下は亢進する傾向が認められた。これらの結果から、酸が付加されたアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを用いることにより、経口投与によるインスリンの効果を改善可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明において有効成分として用いられるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、消化酵素による生理活性ペプチドの分解抑制剤として有用である。また、本発明において有効成分として用いられるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層において、消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性低下剤として有用である。さらに、本発明において有効成分として用いられるアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは、消化管粘膜及び/又は粘膜上に分布する粘液層における生理活性ペプチドの透過性を向上させる作用を有するので、生理活性ペプチドの優れた経口吸収改善剤として有用である。本発明の医薬組成物は、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEが生理活性ペプチドの分解を抑制する作用、消化管粘膜及び/又はその粘膜上分布する粘液層において、粘液層の粘性を低下させる作用、粘液層における生理活性ペプチドの透過性を低下させる作用に基づき、従来から経口吸収が困難と考えられていた生理活性ペプチドの優れた経口吸収性を発揮せしめることができる。また、本発明の医薬組成物は、インスリン、カルシトニン、あるいはバソプレッシン等数種の生理活性ペプチドに適用することができるなど、汎用性が高い製剤技術を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする、消化酵素による生理活性ペプチドの分解抑制剤。
【請求項2】
酸性物質の共存下に使用する請求の範囲1記載の分解抑制剤。
【請求項3】
消化酵素が、トリプシン、またはエラスターゼである請求の範囲1記載の分解抑制剤。
【請求項4】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの使用量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である請求の範囲1記載の分解抑制剤。
【請求項5】
酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである請求の範囲2記載の分解抑制剤。
【請求項6】
酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である請求の範囲2記載の分解抑制剤。
【請求項7】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを有効成分とする消化管粘膜上に分布する粘液層の粘性低下剤。
【請求項8】
酸性物質の共存下に使用する請求の範囲7記載の粘性低下剤。
【請求項9】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの使用量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である請求の範囲7記載の粘性低下剤。
【請求項10】
酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである請求の範囲8記載の粘性低下剤。
【請求項11】
酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である請求の範囲8記載の粘性低下剤。
【請求項12】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを投与し、消化酵素による生理活性ペプチドの分解を阻害することにより、生理活性ペプチドの分解を抑制させる方法。
【請求項13】
酸性物質の共存下に使用する請求の範囲12記載の方法。
【請求項14】
消化酵素が、トリプシン、またはエラスターゼである請求の範囲12記載の方法。
【請求項15】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの使用量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である請求の範囲12記載の方法。
【請求項16】
酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである請求の範囲13記載の方法。
【請求項17】
酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である請求の範囲13記載の方法。
【請求項18】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを投与し、消化管粘膜及び/又はその粘膜上に分布する粘液層の粘性を低下させる方法。
【請求項19】
酸性物質の共存下に使用する請求の範囲18記載の方法。
【請求項20】
生理活性ペプチド、及びアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含有してなる経口吸収改善用医薬組成物。
【請求項21】
生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質を含有し、該三成分が近接し、かつ少なくとも前記ポリマー及び前記酸性物質が均一に配合されてなる請求の範囲20記載の医薬組成物。
【請求項22】
生理活性ペプチド、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、及び酸性物質が均一に配合されてなる請求の範囲21記載の医薬組成物。
【請求項23】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの添加量が、生理活性ペプチド1重量部に対し0.1重量部以上である請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項24】
酸性物質が、該物質1gを水50mlに溶解するとき、該溶液のpH値を6以下とするものである請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項25】
酸性物質の添加量が、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEの塩基性基の10%以上を中和する量である請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項26】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質が、造粒されてなる請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項27】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質が、製薬学的に許容されうる溶媒に溶解及び/又は溶解された後、該液を噴霧乾燥し得られた噴霧乾燥物であるか、または該液を凍結乾燥して得られた凍結乾燥物である請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項28】
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE及び酸性物質が、製薬学的に許容されうる溶媒に溶解及び/又は懸濁した状態である請求の範囲27記載の医薬組成物。
【請求項29】
製剤としての形態が、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び液剤からなる群より選択される1種または2種以上である請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項30】
生理活性ペプチドが、消化管酵素により分解されるもの及び/又は難吸収性のものである請求の範囲21または22記載の医薬組成物。
【請求項31】
生理活性ペプチドが、カルシトニン、インスリン、またはバソプレッシンである請求の範囲30記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−111773(P2012−111773A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19638(P2012−19638)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2003−559549(P2003−559549)の分割
【原出願日】平成15年1月15日(2003.1.15)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】