説明

経口徐放性錠剤

(課題) 服用初期における4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミド(KRP−197)の血中濃度の急激な血中濃度上昇がなく、かつ適度な血中濃度を長時間持続させることが可能な経口徐放性錠剤を提供する。 (解決手段) KRP−197を有効成分として含有する医薬組成物中にゲル形成物質を配合することを特徴とする経口徐放性錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頻尿・尿失禁の治療薬としての有用性が期待される4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミド(以下KRP−197と略す)の血中濃度を長時間持続できる経口投与用の徐放性錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者の尿失禁が社会的問題となる中で、頻尿・尿失禁治療薬の開発が盛んである。KRP−197は杏林製薬株式会社において創製された新規化合物であり(特許文献1)、選択的ムスカリン拮抗作用を有し、頻尿・尿失禁治療薬として有望視されている(非特許文献1)。KRP−197に関する製剤剤型としては経口固形製剤が既に開示されている(特許文献2)。
【0003】
しかし、KRP−197は服用後速やかに吸収されるが、消失半減期が短く、従来の経口固形製剤では、1日に複数回の投与を行う必要がある。
【特許文献1】特開平7−15943号公報
【特許文献2】WO01/34147 A1パンフレット
【非特許文献1】Bioorg.Med.Chem.,1999,7,1151−1161.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
頻尿・尿失禁の患者はその症状から、長時間の外出が困難であることが多く、このため、服用回数を減らすことは、患者の生活の質的向上につながるだけでなく、薬の飲み忘れも減少する等、薬剤の適正使用率の改善も期待できる。また、ムスカリン拮抗作用を有する化合物は、副作用として口渇を引き起こすことが知られており、急激な血中濃度の上昇を回避することは、副作用を回避する手段としても期待し得る。本発明は、服用初期におけるKRP−197の急激な血中濃度上昇がなく、かつ適度な血中濃度を長時間持続させることが可能な経口徐放性錠剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは医薬組成物中にKRP−197とゲル形成物質を配合し、圧縮成形した錠剤とすることにより、KRP−197の錠剤からの放出速度を制御し経口徐放性錠剤を完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
1)KRP−197を有効成分として含有する医薬組成物中にゲル形成物質を配合することを特徴とする経口徐放性錠剤;
2)前記ゲル形成物質がヒドロキシプロピルメチルセルロースであることを特徴とする1)に記載の経口徐放性錠剤;
3)医薬組成物中にヒドロキシプロピルメチルセルロースを18〜73質量%含有することを特徴とする1)記載の経口徐放性錠剤;
4)KRP−197を含有する顆粒状組成物と、ゲル形成物質を含有する組成物とを混合して打錠用顆粒組成物を製造することを特徴とする1)の経口徐放性錠剤;
5)顆粒状組成物を、4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドの溶解液を用いて製造することを特徴とする請求項4の経口徐放性錠剤;
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにして製した経口徐放性錠剤は、ゲル形成物質が、水を吸収することによって膨潤し、形成されたゲル層が錠剤からの薬物の拡散を制御するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1〜6及び比較例1の溶出曲線を示すグラフ
【図2】実施例3及び比較例1のイヌ血中濃度推移を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の経口徐放性錠剤の有効成分であるKRP−197とは、膀胱に選択的な抗コリン作用を有する頻尿・尿失禁治療薬である、4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドである。
【0010】
本発明の経口徐放性錠剤におけるゲル形成物質とは、溶媒を含んで膨潤し、そのコロイド粒子が互いにつながり、三次元の網目構造をとり、流動性を失ったゼリー様の物体を形成可能な物質である。製剤上は、主に結合剤、増粘剤及び徐放性基剤として使用される。例えば、アラビアゴム、カンテン、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グアガム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが使用できる。中でもヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下HPMCと略す)が好適に用いられ、本発明の特徴である。
【0011】
HPMCは信越化学工業(株)より「メトローズ」の商品名で市販されており、ヒドロキシプロポキシル基やメトキシル基の置換度や粘度の異なる種々のタイプのものがあるが、本発明ではメトローズ60SH(HPMC2910)もしくは90SH(HPMC2208)タイプで、平均粘度が4000cpsのものが特に適している。
【0012】
HPMC等のゲル形成物質の配合量は、KRP−197を含有する医薬組成物中に、18〜73質量%が好適である。
【0013】
医薬組成物中のゲル形成物質以外の成分としては、医薬品の製造に通常用いられる賦形剤(例えば乳糖、ブドウ糖などの糖類、D−ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、トウモロコシデンプンや部分アルファー化デンプンなどの澱粉類などで、好ましくは部分アルファー化デンプン)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、硬化油などで、好ましくはステアリン酸マグネシウム)及び高級アルコール(例えば、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール等)を使用することができる。またその他必要に応じて結合剤又はpH調整剤(例えば、アジピン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギン酸等の有機酸)等を添加しても良い。
【0014】
本発明の経口徐放性錠剤の製造方法は、KRP−197を含む医薬組成物にHPMC等のゲル形成物質を粉末で添加して、そのまま直接圧縮して錠剤を製するか、あるいは常法により造粒した顆粒を圧縮成形して錠剤を製しても良い。
【0015】
中でも、KRP−197を含有する顆粒状組成物と、ゲル形成物質を含有する組成物とを混合して打錠用顆粒組成物を製造し、該顆粒組成物を圧縮成形して錠剤を製造するのが好ましい。
【0016】
また、KRP−197を含有する顆粒状組成物を製造する際には、KRP−197を溶液状態で添加し造粒すれば、より均質な顆粒が得られ、含量の均一性が確保できる。溶解溶液としては、KRP−197を溶解できる溶液であれば良いが、エタノールと水の混合溶液が好ましく、中でもエタノール100質量部に対して20〜40質量部の水との混液を使用して製造することが好ましい。
【0017】
必要に応じて、圧縮成形した錠剤に、常法に従いフィルムコーティングを施すことができる。コーティング剤は特に限定されず、通常用いられている水溶性ポリマーを使用することができる。
【0018】
本発明によれば、比較的低用量の有効成分を含有した経口徐放性錠剤を製造することができる。すなわち、医薬組成物単位剤形あたり有効成分である4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドを0.025から5mgの範囲で、好ましくは0.1〜1mg、より好ましくは0.2から0.7mgの範囲で含有させることができる。
【0019】
以下、実施例を挙げて、更に本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
部分アルファー化デンプン(商品名「スターチ1500G」、カラコン(株)製)710gをフローコーターFBG−5(フロイント産業(株)製)に入れ、エタノール(95)と水の混液にKRP−197を溶解した液(エタノール(95):水:KRP−197=76.1:22.5:1.4、質量%比)を1250g噴霧し造粒物を得た。この造粒物を850μmの篩で篩過整粒した後、KRP−197顆粒を得た。このKRP−197顆粒14.55gに、部分アルファー化デンプン30g、ヒドロキシプロピルメチルセルロースメトロース2910(商品名「メトローズ60SH−4000」、信越化学工業(株)製)10g及びステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)0.45gを加えて混合したものを打錠用顆粒とし、単発打錠機(岡田精工(株)製)で圧縮成形して、直径6.5mm、質量110mgの錠剤(1錠中のKRP−197含有量:0.7mg)を製した。
【実施例2】
【0021】
部分アルファー化デンプン710gをフローコーターFBG−5に入れ、エタノール(95)と水の混液にKRP−197を溶解した液(エタノール(95):水:KRP−197=76.1:22.5:1.4、質量%比)を1250g噴霧し造粒物を得た。この造粒物を850μmの篩で篩過整粒しKRP−197顆粒を得た。このKRP−197顆粒14.55gに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 40g及びステアリン酸マグネシウム0.45gを加えて混合したものを打錠用顆粒とし、単発打錠機で圧縮成形して直径6.5mm、質量110mgの錠剤(1錠中のKRP−197含有量:0.7mg)を製した。
【実施例3】
【0022】
部分アルファー化デンプン710.0gをフローコーターFBG−5に入れ、エタノール(95)と水の混液にKRP−197を溶解した液(エタノール(95):水:KRP−197=76.1:22.5:1.4、質量%比)を1250g噴霧し造粒物を得た。この造粒物を850μmの篩で篩過整粒した後、KRP−197顆粒を得た。このKRP−197顆粒14.55gに、部分アルファー化デンプン14.55g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 80g及びステアリン酸マグネシウム0.9gを加えて混合したものを打錠用顆粒とし、単発打錠機で圧縮成形して直径8mm、質量220mgの錠剤を製した(1錠中のKRP−197含有量:0.7mg)。
【実施例4】
【0023】
部分アルファー化デンプン3262.5gをフローコーターFBG−5に入れ、エタノール(95)と水の混液にKRP−197を溶解した液(エタノール(95):水:KRP−197=76.1:22.5:1.4、質量%比)を2678.6g噴霧し造粒物を得た。この造粒物を850μmの篩で篩過整粒した後、KRP−197顆粒を得た。KRP−197顆粒396g、部分アルファー化デンプン724.5g及びヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 360gに、ステアリン酸マグネシウム4.5gを加えて混合したものを打錠用顆粒とし、小型全自動打錠機(畑鐵工所(株)製)で圧縮成形して直径7.5mm、質量165mgの錠剤(1錠中のKRP−197含有量:0.5mg)を製した。
【実施例5】
【0024】
部分アルファー化デンプン1087.5gをフローコーターFBG−5に入れ、エタノール(95)と水の混液にKRP−197を溶解した液(エタノール(95):水:KRP−197=76.1:22.5:1.4、質量%比)を894g噴霧し造粒物を得た。この造粒物を850μmの篩で篩過整粒した後、KRP−197顆粒を得た。KRP−197顆粒352g、部分アルファー化デンプン320g及びヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 640gに、ステアリン酸マグネシウム8.0gを加えて混合したものを打錠用顆粒とし、小型全自動打錠機で圧縮成形して直径7.5mm、質量165mgの錠剤(1錠中のKRP−197含有量:0.5mg)を製した。
【実施例6】
【0025】
部分アルファー化デンプン1087.5gをフローコーターFBG−5に入れ、エタノール(95)と水の混液にKRP−197を溶解した液(エタノール(95):水:KRP−197=76.1:22.5:1.4、質量%比)を894g噴霧し造粒物を得た。この造粒物を850μmの篩で篩過整粒した後、KRP−197顆粒を得た。KRP−197顆粒352g及びヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 960gに、ステアリン酸マグネシウム8.0gを加えて混合したものを打錠用顆粒とし、小型全自動打錠機で圧縮成形して直径7.5mm、質量165mgの錠剤(1錠中のKRP−197含有量:0.5mg)を製した。
比較例1
【0026】
部分アルファー化デンプン243.2g及び結晶セルロース(商品名「アビセルPH−301」、旭化成(株)製)970.8gをフローコーターFBG−5に入れ、KRP−197 2gとポリビニルピロリドン(商品名「ポビドン」、BASF社製)12.8gをエタノール(95)/水混液(1:1、質量%比)に溶解した液を噴霧し造粒物を得た。造粒物を850μmの篩で篩過整粒した後、ステアリン酸マグネシウムを3.2g加えて混合したものを打錠用顆粒とし、ロータリー打錠機HT−P18SSII(畑鉄工所(株)製)で圧縮成形し直径7.5mm、質量154mgの素錠を得た。得られた素錠に、常法でOPADRY 03A45009(カラコン(株)製)を1錠あたり6mgコーティングし、微量のカルナウバロウ(商品名「ポリシングワックス−103」、フロイント産業(株)製)を添加し、フィルムコーティング錠(1錠中KRP−197含有量:0.25mg)を製した。
実験例1
【0027】
実施例1〜6及び比較例1の錠剤について、第14改正日本薬局方溶出試験法第2法に準じて、回転数毎分50回転にて、37℃の精製水900mL中で溶出試験を行った。その結果を図1に示す。
【0028】
図1から、実施例1〜6の錠剤は、比較例1の錠剤に比べて、いずれも徐放性を示すことが確認された。
実験例2
【0029】
実施例3及び比較例1の錠剤をそれぞれ1錠、犬に経口投与した時のKRP−197の血中濃度推移を図2に示す。
【0030】
図2から、実施例3の錠剤は比較例1の製剤に比べ、急激な血中濃度の上昇が抑制され、かつ血中濃度が持続される傾向が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、医薬組成物中にKRP−197とゲル形成物質を配合し、錠剤とすることにより、KRP−197の放出速度を制御した経口徐放性錠剤が得られた。本経口徐放性錠剤は、ゲル形成物質の配合量及び錠剤質量を増大することにより、KRP−197の放出を長時間制御可能なことから、1日1回経口投与製剤としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドを有効成分として含有する医薬組成物中にゲル形成物質を配合することを特徴とする経口徐放性錠剤。
【請求項2】
前記ゲル形成物質がヒドロキシプロピルメチルセルロースであることを特徴とする請求項1記載の経口徐放性錠剤。
【請求項3】
医薬組成物中にヒドロキシプロピルメチルセルロースを18〜73質量%含有することを特徴とする請求項1記載の経口徐放性錠剤。
【請求項4】
4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドを含有する顆粒状組成物と、ゲル形成物質を含有する組成物とを混合して打錠用顆粒組成物を製造することを特徴とする請求項1の経口徐放性錠剤。
【請求項5】
顆粒状組成物を、4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドの溶解液を用いて製造することを特徴とする請求項4の経口徐放性錠剤。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/011682
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512546(P2005−512546)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011067
【国際出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】