説明

経口投与用のボツリヌス毒素製剤

【課題】生体適合性のボツリヌス毒素経口製剤が必要とされている。
【解決手段】ボツリヌス毒素および担体を含有する、患者に経口投与する医薬組成物であって、粘膜付着、浮遊、沈降、拡張、または薬剤による胃内容物排出遅延によって、胃内滞留を示す組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬組成物に関する。本発明は特に、経口投与用のボツリヌス毒素医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬組成物は、経口、静脈内、筋肉内、皮下または吸入投与用に、また他の経路(すなわち浣腸、鼻内、くも膜下など)での投与用に調製し得る。経口投与医薬(溶液、懸濁液、錠剤、カプセル剤など)の利点には、処置効果が速やかに得られること、および患者にとって簡便であること、がある。
【0003】
医薬組成物の活性成分が患者の循環系に吸収されることにより処置効果を得るという一方で、胃腸管内の標的部位に直接作用させる医薬を経口投与することが知られている(例えば制酸薬、緩下剤)。固形投与形態の医薬の胃内滞留調節は、粘膜付着、浮遊、沈降、拡張のメカニズムによって、または胃内容物排出を遅延させる薬剤の同時投与によって行うことができる。
【0004】
粘膜付着は、合成および天然の巨大分子が身体の粘膜表面に付着することである。そのような物質を医薬製剤中に組み合わせると、粘膜細胞による薬物吸収を向上し得るか、またはその部位で長時間にわたって薬物を放出させることができる。合成ポリマー、例えばキトサン、カーボポールおよびカルボマーの場合、生体/粘膜付着メカニズムは、多くの異なる物理化学的相互作用の結果としてのものである。生物学的な生体/粘膜付着物質、例えば植物性レクチンは、細胞表面およびムチンと特殊な相互作用を起こし、「第二世代」生体付着物質と目されている。Woodley,J.,Bioadhesion: new possibilities for drug adminstration?,Clin Pharmacokinet 2001;40(2):77−84。すなわち、粘膜付着は、経口投与薬物形態に、胃壁の強力な推進力に対する抵抗能力を付与するように作用する。蠕動収縮および胃内容物希釈によって失われる粘液は、胃粘膜による連続的な粘液産生によって補充されるが、粘膜付着を胃内滞留力として利用することによってそれに対抗することができる。
【0005】
リポソームおよびポリマーナノ粒子を包含する粘膜付着ナノ粒子系が評価されている。粒子系の表面を粘膜付着ポリマー(例えばキトサンおよびCarbopol)で覆うことによって粒子系に粘膜付着性を付与することができる。そのような表面改質の有効性は、ゼータ電位の測定によって確認されている。評価方法は、ポリマーコーティングしたリポソームについて、コールターカウンターを用いた粒子計数法を包含する。粘膜付着ナノ粒子はペプチド薬物の経口投与のために用いられており、未コーティング系と比較してより有効であり、より長期間作用することがわかっている。Takeuchi H.ら、Mucoadhesive nanoparticulate systems for peptide drug delivery,Adv Drug Deliv Rev 2001 Mar 23;47(1):39−54。
【0006】
粘膜付着薬物送達デバイスは、体内への薬物放出の制御により薬物の処置効果を最適化することができる、などといった、従来の投薬形態に優るいくつかの利点をもたらす。様々な種類のポリ(アクリル酸)(PAA)ヒドロゲルが、胃腸酵素(例えばトリプシン)の加水分解活性を抑制し、その結果、薬物のバイオアベイラビリティーを高めることがわかっている。生体付着送達システムの粘膜への付着のために、アクリル酸系ポリマーを使用することができる。粘膜親和性コポリマー(例えばポリ(エチレングリコール)(PEG))をポリマー主鎖にグラフトして改質したポリマーヒドロゲルは、付着プロセスを促進し得る。これは、グラフトされた鎖がネットワークから粘膜層に拡散する能力を持つことによる。UV開始ラジカル溶液重合によって、P(AA−g−EG)のフィルムを合成することができる。AAとPEGとのモル供給比を変化することによって、異なるタイプのヒドロゲルを合成することができる。PEGグラフト鎖の粘膜付着に対する効果を定量するために、ポリマーヒドロゲルを粘膜付着によって特性付ける。生体付着結合強度を引張装置を用いて測定でき、それにより付着効果を算出することができる。40%のAAと60%のPEGを含有するヒドロゲル(40:60 AA/EG)が最も高い粘膜付着を示し得る。このような結果は、両モノマーの相乗効果によるものであり得る。AA官能基は、ポリマーが複数の水素結合を形成し、また大きく膨潤することを可能にする。PEG鎖は粘膜付着プロモーターとして作用した。これらは粘膜に入り込み、ベースヒドロゲルと粘液とを架橋した。このような結果は、粘膜付着における表面被覆および鎖長効果の最近のHuang−Peppasモデル(2002)に関しても説明されうる。
【0007】
滞留メカニズムとしての浮遊は、投薬形態を浮遊させることのできる液体の存在を必要とし、また、患者はGRIの間は起きた姿勢でいることが想定される。なぜなら、仰臥
姿勢では幽門が胃体よりも上になって浮遊物質の排出が促進されてしまうからである。すなわち、浮遊は、経口製剤の胃内滞留のための一つの基本原理であり得る。
【0008】
沈降は、充分小さいペレットを、起きた姿勢で胃の最下位部となる幽門部に近い胃体の褶または襞に保持させるための滞留メカニズムとして有効に用いられている。褶に入り込んだ高密度ペレット(約3g/cm)も、胃壁の蠕動運動に対し持ちこたえる傾向がある。拡張が、信頼性のある滞留メカニズムとなり得ることがわかっている。投与後に拡大するか、展開するか、またはデバイス内で発生する二酸化炭素によって膨らむデバイスがいくつか文献に記載されている。そのような投薬形態は、拡張状態において直径が約12〜18mmを越える場合、幽門括約筋の通過が阻止される。様々なメカニズムによる拡張は、充分元に戻ることが保証されている。
【0009】
経口投与医薬組成物によって処置可能な胃腸疾患は、次のものを包含し得る:腸機能異常、腹部膨満、便秘、クローン病、下痢、脂肪吸収不良、食物アレルギー、胃腸瘻、グルコース不耐性、グルテン不耐性、消化不良、吸収不良、ラクトース不耐性、腸機能不全、吸収不良症候群、膵臓疾患、短腸症候群、体積不耐性、嘔吐、悪心、胸焼け、虫垂炎、憩室疾患、胆石、胃腸逆流、炎症性疾患、消化性潰瘍、痔、ヘルニアおよび肥満。
【0010】
胃腸運動性は、消化器系の運動、およびその内容物の移動によって定義され得る。消化管のいずれかの部分において神経または筋肉が高度に調和した状態で機能しないとき、運動性の問題に関連する症状が現れる。そのような症状は、胸焼けないし便秘であり得る。他の症状は、腹部膨満、悪心、嘔吐および下痢をも包含し得る。
【0011】
医薬を特定の期間にわたって予め決定した速度で胃腸管に送達するように経口製剤を製造することができる。通例、経口製剤からの薬物放出速度は、経口製剤材料および配合薬物の生理化学的性質に相関する。経口製剤は通例、宿主応答を殆どまたは全く起こさない不活性材料から成る担体を含有する。
【0012】
経口製剤は、生物学的活性を有する薬物を担体材料中に組み合わせて含有し得る。担体はポリマーまたはバイオセラミック材料であり得る。経口製剤は嚥下されて、所望の処置効果を発揮し得る様式と量で薬物を放出することができる。
【0013】
ポリマー担体材料は、拡散、化学反応または溶媒活性化によって、また、磁気、超音波または温度変化因子の影響を受けて、薬物を放出し得る。拡散は、貯留部またはマトリックスから起こり得る。化学的制御は、ポリマー分解、またはポリマーからの薬物解離によって可能となる。溶媒活性化は、ポリマーの膨潤または浸透圧作用を伴い得る。例えばScience 249;1527−1533:1990参照。
【0014】
膜または貯留経口製剤は、ポリマー膜からの生物活性剤の拡散に依存する。マトリックス経口製剤は、生物活性剤が均一に分布したポリマーマトリックスから成る。膨潤制御放出系は通例、ガラス様親水性ポリマーをベースとし、これが生物学的液体の存在下、またはある種の環境的刺激の存在下に膨潤する。
【0015】
経口製剤は、実質的に非毒性、非発癌性および非免疫原性の担体を含有し得る。適当な経口製剤材料は、ポリマー、例えばポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(p−HEMA)、ポリ(N−ビニルピロリドン)(p−NVP)+、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エチレン−ビニルアセテートコポリマー(EVAc)、ポリビニルピロリドン/メチルアクリレートコポリマー、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、コラーゲンおよびセルロース誘導体、並びにバイオセラミック、例えばヒドロキシアパタイト(HPA)、リン酸三カルシウム(TCP)、およびリン酸アルミノカルシウム(ALCAP)を包含し得る。乳酸、グリコール酸、コラーゲンおよびそれらのコポリマーを、生分解性経口製剤の製造に使用し得る。
【0016】
非生分解性経口製剤の明らかな欠点を克服するために、生分解性経口製剤を使用し得る。例えば米国特許第3773919号および第4767628号参照。生分解性ポリマーは、バルク分解または均一分解するポリマーとは異なって、表面侵食性のポリマーであり得る。表面侵食性ポリマーは外表面からのみ分解し、従ってポリマー侵食速度に比例的に薬物が放出される。適当なそのようなポリマーはポリ無水物であり得る。経口製剤は、固形の円柱形経口製剤、ペレットマイクロカプセル、またはミクロスフェアの形態であり得る。Drug Development and Industrial Pharmacy 24(12);1129−1138:1998。生分解性経口製剤は、生物活性物質の膜放出またはマトリックス放出に依存し得る。経口投与用の生分解性ミクロスフェアを、圧縮によってディスクまたはペレットとすることができる。
【0017】
経口製剤は、生分解性材料、例えばポリマーであるポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−グリコール酸コポリマー、ポリカプロラクトンおよびコレステロールから製造し得る。
【0018】
生分解性ポリマーから成るミクロスフェアを包含するポリマーミクロスフェアを製造するために少なくとも三つの方法が知られている。例えばJournal of Controlled Release 52(3);227−237:1998参照。すなわち、固体薬物製剤を、有機溶媒中の生分解性ポリマーから成る連続相に分散させるか、または薬物水溶液をポリマー−有機相中に乳化することができる。その後、噴霧乾燥、相分離またはダブルエマルジョン法によってミクロスフェアを形成し得る。
【0019】
ボツリヌス毒素
クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0020】
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体;100単位バイアルとして、BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50(すなわち1単位)である。1単位のBOTOX(登録商標)は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含む。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1996)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。
【0021】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、"Therapy With Botulinum Toxin"(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。
【0022】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
【0023】
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。
【0024】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1型ボツリヌス毒素ははじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25を開裂することがわかった。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は同じ結合を開裂する。
【0025】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。明らかに、ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞種に見られる。例えばGonelle-Gispert, C.ら、SNAP-25a and -25b isoforms are both expressed in insulin-secreting cells and can function in insulin secretion, Biochem J. 1; 339 (pt 1): 159-65: 1999、並びにBoyd R.S.ら、The effect of botulinum neurotoxin-B on insulin release from a ∋-cell line、およびBoyd R.S.ら、The insulin secreting ∋-cell line, HIT-15, contains SNAP-25 which is a target for botulinum neurotoxin-A、いずれもMov Disord, 10(3):376:1995(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)参照。
【0026】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
【0027】
すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質としてボツリヌス菌によって合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0028】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。
【0029】
ボツリヌス毒素および毒素複合体は例えば、List Biological Laboratories, Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物には、次のものが包含される:BOTOX(登録商標)(A型ボツリヌス毒素神経毒複合体とヒト血清アルブミンおよび塩化ナトリウムを含む。使用前に0.9%塩化ナトリウムで再構成する凍結乾燥粉末として、100単位バイアルで、カリフォルニア、アーヴィンのAllergan, Inc.から入手可能。)、Dysport(登録商標)(A型ボツリヌス毒素ヘマグルチニン複合体とヒト血清アルブミンおよびラクトースを製剤中に含む。使用前に0.9%塩化ナトリウムで再構成する粉末として、イギリス、バークシャーのIpsen Limitedから入手可能。)、およびMyoBloc(登録商標)(B型ボツリヌス毒素、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含むpH約5.6の注射可能な溶液。アイルランド、ダブリンのElan Corporationから入手可能。)。
【0030】
種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。更に、純粋なボツリヌス毒素がヒトの処置に用いられている。例えば、Kohl A. ら、Comparison of the effect of botulinum toxin (Botox(R)) with the highly-purified neurotoxin(NT201) in the extensor digitorum brevis muscle test, Mov Disord 2000;15(補遺3):165参照。すなわち、純粋なボツリヌス毒素を使用して医薬組成物を調製することができる。
【0031】
A型ボツリヌス毒素はpH4〜6.8で希水溶液に可溶であることが知られている。約7を越えるpHでは、安定化非毒性タンパク質が神経毒から解離し、その結果、特にpHおよび温度が上がるほど、毒性が徐々に失われる。Jankovic, J.ら、Therapy with Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc (1994)の第3章のSchantz E.J.ら、Preparation and characterization of botulinum toxin type A for human treatment(特に第44-45頁)。
【0032】
ボツリヌス毒素分子(約150kDa)およびボツリヌス毒素複合体(約300〜900kDa)、例えばA型毒素複合体はまた、表面変性、熱およびアルカリ性条件による変性に対して非常に感受性である。不活性化された毒素は、免疫原性であり得るトキソイドタンパク質を形成する。生じた抗体は、患者を毒素注射に対して非応答性にし得る。
【0033】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされる。
【0034】
例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。
【0035】
A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0036】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0037】
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×10U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0038】
純粋なボツリヌス毒素は(すなわち、150kDのボツリヌス毒素分子)または毒素複合体を医薬組成物の調製に用いることができる。分子および複合体はいずれも、表面変性、熱およびアルカリ性条件による変性に対して感受性である。不活性化毒素はトキソイドタンパク質を形成し、これは免疫原性であり得る。その結果生じる抗体の故に、患者が毒素注射に対して応答しなくなり得る。
【0039】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
【0040】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、−5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
【0041】
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997。
【0042】
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標))は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を12歳を越える患者において処置するために米国食品医薬品局によって1989年に承認された。A型ボツリヌス毒素市販製剤(BOTOX(登録商標))およびB型ボツリヌス毒素市販製剤(MyoBloc(商標))が、頸部ジストニアの処置のためにFDAに2000年に承認された。A型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標))が、ある種の過運動性(眉間)顔面しわの美容的処置のためにFDAに2002年に承認された。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1日またはしばしば数時間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和(すなわち弛緩性筋肉麻痺)の典型的な継続時間は約3ヶ月であり得るが、ボツリヌス毒素が誘導する腺(例えば唾液腺)の神経支配除去効果は、数年間持続することが報告されている場合もある。例えばボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(Naumann M.ら、Botulinum toxin type A in the treatment of focal, axillary and palmar hyperhidrosis and other hyperhidrotic conditions, European J. Neurology 6(Supp 4), S111-S1150; 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(Ragona, R.M.ら、Management of parotid sialocele with botulinum toxin, The Laryngoscope 109; 1344-1346; 1999)。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
【0043】
A型ボツリヌス毒素は、例えば下記のように臨床的に様々に使用されていることが報告されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0044】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
【0045】
さらに、筋肉内ボツリヌス毒素は、パーキンソン病の患者の振せんの治療にも使用されているが、結果は顕著でないことが報告されている。Marjama-Lyons,J.ら、"Tremor-Predominant Parkinson's Disease",Drugs & Aging 16(4), 273-278, 2000。
【0046】
ある種の胃腸疾患および平滑筋疾患をボツリヌス毒素で処置することが知られている。例えば米国特許第5427291号および第5674205号(Pasricha)参照。更に、ボツリヌス毒素を膀胱括約筋に経尿道注射して排尿障害を処置することが知られている(例えば、Dykstra D.D.ら、Treatment of detrusor-sphincter dyssynergia with botulinum A toxin: A double-blind study, Arch Phys Med Rehabil 1990年1月;71:24-6参照)。また、ボツリヌス毒素を前立腺に注射して前立腺肥大を処置することが知られている。例えば米国特許第6365164号(Schmidt)参照。
【0047】
米国特許第5766605号(Sanders)には、種々の自律神経障害、例えば過流涎および鼻炎をボツリヌス毒素で処置することが提案されている。
更に、ボツリヌス毒素で処置し得る種々の疾患、例えば多汗症および頭痛が、WO95/17904(PCT/US94/14717)(Aoki)に論じられている。EP第0605501B1号(Graham)には、ボツリヌス毒素による脳性麻痺の処置が論じられ、米国特許第6063768号(First)にはボツリヌス毒素による神経性炎症の処置が論じられている。
【0048】
末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら[125I-labelled botulinum A neurotoxin: pharmacokinetics in cats after intramuscular injection, Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165]、およびHabermann[125I-labelled Nerotoxin from clostridium botulinum A: preparation, binding to synaptosomes and ascent to the spinal cord, Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56]の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されうる。
【0049】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン、CGRP、およびグルタメートのそれぞれの放出を阻害することが報告されている。
【0050】
米国特許第5989545号は、特定の標的化成分に化学的に結合させるかまたは組換え的に融合させた改質クロストリジウム属神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療できることを開示している。
【0051】
ボツリヌス毒素は、次のような状態の処置にも提案されている:多汗(米国特許第5766605号)、頭痛(米国特許第6458365号)、片頭痛(米国特許第5714468号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6464986号)、脊髄内投与による痛みの処置(米国特許第6133915号)、頭蓋内投与によるパーキンソン病の処置(米国特許第6306403号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6299893号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5670484号)、筋肉障害(米国特許第6423319号)、種々の癌(米国特許第6139845号)、膵臓疾患(米国特許第6143306号)、平滑筋疾患(米国特許第5437291号、上部および下部食道、幽門および肛門括約筋へのボツリヌス毒素注射を包含する)、前立腺疾患(米国特許第6365164号)、炎症、関節炎および痛風(米国特許第6063768号)、若年性脳性麻痺(米国特許第6395277号)、内耳疾患(米国特許第6265379号)、甲状腺疾患(米国特許第6358513号)、副甲状腺疾患(米国特許第6328977号)。更に、制御放出毒素インプラントが知られている(米国特許第6306423号および第6312708号)。
【0052】
ボツリヌス毒素の静脈内注射により、ラットにおいて、ペンタガストリン刺激による酸およびペプシン分泌が低下することが報告されているKondo T.ら、Modification of the action of pentagastrin on acid secretion by botulinum toxin, Experientia 1977;33:750-1。更に、胃腸分泌、例えば胃分泌を低下するためにボツリヌス毒素を使用しうると考えられている。WO95/17904の第16-17頁参照。更に、腸神経系疾患における胃腸筋肉障害をボツリヌス毒素で処置することが提案されており(米国特許第5437291号)、また、種々の自律神経疾患をボツリヌス毒素で処置することが提案されている(米国特許第5766605号)。ボツリヌス毒素がイヌの胃底に注射されている。Wang Z.ら、Effects of botulinum toxin on gastric myoelectrical and vagal activities in dogs, Gastroenterology 2001 Apr; 120(5 Suppl 1): A-718。更に、肥満の処置として、胃洞にボツリヌス毒素を筋肉内注射することが提案されている。Gui D.ら、Effects of botulinum toxin on gastric emptying and digestive secretions. A possible tool for correction of obesity?, Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002 Jun; 365 (Suppl 2): R22; Albanase A.ら、The use of botulinum toxin on smooth muscles, Eur J Neurol 1995 Nov; 2(Supp 3): 29-33、およびGui D.ら、Botulinum toxin injected in the gastric wall reduces body weight and food intake in rats, Aliment Pharmacol Ther 2000 Jun; 14(6): 829-834参照。更にまた、胃における分泌制御のために、A型ボツリヌス毒素を処置適用することが提案されている。Rossi S.ら、Immunohistochemical localiation of SNAP-25 protein in the stomach of rat, Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002; 365(Suppl 2): R37。
【0053】
重要なことに、食道無弛緩症の処置のために下部食道括約筋にボツリヌス毒素を注射すると、食道に潰瘍が形成されることが報告されている。Eaker, E.Y.ら、Untoward effects of esophageal botulinum toxin injection in the treatment of achalasia, Dig Dis Sci 1997 Apr; 42(4): 724-7。幽門前潰瘍の患者の痙攣幽門括約筋にボツリヌス毒素を注射して、幽門筋を開けることが知られている。Wiesel P.H.ら、Botulinum toxin for refractory postoperative pyloric spasm, Endoscopy 1997; 29(2): 132。
【0054】
破傷風毒素ならびにその誘導体(すなわち非天然ターゲティング部分を持つもの)、断片、ハイブリッドおよびキメラも、治療有効性を持ちうる。破傷風毒素はボツリヌス毒素との類似点を数多く持っている。例えば、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、クロストリジウム属の近縁種(それぞれ破傷風菌(Clostridium tenani)およびボツリヌス菌(Clostridium botulinum))によって産生されるポリペプチドである。また、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、1つのジスルフィド結合によって重鎖(分子量約100kD)に共有結合している軽鎖(分子量約50kD)から構成される二本鎖タンパク質である。したがって、破傷風毒素の分子量と、7つの各ボツリヌス毒素(非複合体型)の分子量は、約150kDである。さらに、破傷風毒素でもボツリヌス毒素でも、軽鎖は細胞内生物活性(プロテアーゼ活性)を示すドメインを持ち、重鎖は受容体結合(免疫原)ドメインと細胞膜移行ドメインとを持っている。
【0055】
さらに、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、シナプス前コリン作動性ニューロンの表面にあるガングリオシド受容体に対して高い特異的親和性を示す。末梢コリン作動性ニューロンによる破傷風毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻害および痙性麻痺をもたらす。これに対して、末梢コリン作動性ニューロンによるボツリヌス毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性輸送、中毒した末梢運動ニューロンからのアセチルコリンエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性麻痺をもたらすことがなく、たとえあったとしても、ごくわずかである。
【0056】
最後に、破傷風毒素とボツリヌス毒素は、その生合成および分子構造が互いに似ている。例えば、破傷風毒素とA型ボツリヌス毒素のタンパク質配列には全体で34%の一致度があり、いくつかの機能ドメインについては62%もの配列一致度がある。Binz T. ら、The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990。
【0057】
アセチルコリン
典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0058】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0059】
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
【0060】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【0061】
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0062】
すなわち、生体適合性のボツリヌス毒素経口製剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0063】
概要
本発明は上記課題を解決し、生体適合性のボツリヌス毒素経口製剤を提供する。
【0064】
本発明では、胃腸疾患を持つ患者の胃または十二指腸内で毒素活性成分を放出させるための経口製剤として、ボツリヌス毒素を調合する。ボツリヌス毒素の経口製剤の製造は、ボツリヌス毒素の凍結乾燥粉末を、穀粉、糖またはゼラチンなどの適当な担体と混合した後、その混合物を圧縮して摂取可能な錠剤にすることによって、容易に達成することができる。担体および圧縮量は、結果として生成する錠剤(または別法として、担体と混合されるかまたはされていない処置量の毒素を含有するカプセル剤を製造することもできる)が嚥下用となるように選択され、担体および担体の特徴は、担体が胃内で迅速に溶解してボツリヌス毒素活性成分を放出させるようなものである。
【0065】
本発明は、胃腸疾患を処置するためのボツリヌス毒素の反復ボーラスまたは皮下注射に伴う既知の問題、難点および欠点を克服するボツリヌス毒素経口製剤を提供する。
【0066】
本発明のボツリヌス毒素経口製剤は、担体材料、および担体と組み合わせたボツリヌス毒素を含有し得る。毒素を、担体と混合することによって、および担体で封入することによって担体と組み合わせ、それによりボツリヌス毒素送達システム、すなわちボツリヌス毒素経口製剤を形成し得る。経口製剤は、経口投与後、患者の胃腸管内で、担体から処置量のボツリヌス毒素を放出し得る。
【0067】
担体は、複数のポリマーミクロスフェア(すなわちポリマーマトリックス)を含有し得、実質的な量のボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素を担体と組み合わせる前に、ボツリヌストキソイドに変換されていない。すなわち、担体と組み合わせられたボツリヌス毒素の実質的な量は、ボツリヌス毒素を担体と組み合わせる前のボツリヌス毒素の毒性と比較して実質的に変化していない毒性を有する。
【0068】
本発明によると、ボツリヌス毒素を胃腸管内で担体から放出させることができ、担体は、実質的に生分解性の物質から成る。ボツリヌス毒素はA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素の1つであり、好ましくはA型ボツリヌス毒素である。ボツリヌス毒素は、約1単位から約10,000単位のボツリヌス毒素量で、担体と組み合わせることができる。担体と組み合わせるボツリヌス毒素の量は、好ましくは、約10単位から約2,000単位のA型ボツリヌス毒素である。ボツリヌス毒素がB型ボツリヌス毒素である場合、担体と組み合わせるボツリヌス毒素の量は、好ましくは、約500単位から約10,000単位のB型ボツリヌス毒素である。
【0069】
本発明の具体的一実施態様は、生分解性ポリマーと、約10単位から約10,000単位のボツリヌス毒素とを含有するボツリヌス毒素経口製剤であって、ボツリヌス毒素がポリマー担体で封入され、それによって制御放出系を形成しており、処置量のボツリヌス毒素を患者の胃腸管内において担体から放出することができる経口製剤を含むことができる。
【0070】
本発明の範囲に包含される経口製剤を製造する方法は、ポリマーを溶媒に溶解させてポリマー溶液を形成するステップと、ボツリヌス毒素をポリマー溶液と混合するか、ポリマー溶液に分散させて、ポリマー−ボツリヌス毒素混合物を形成するステップと、そのポリマー−ボツリヌス毒素混合物を固化または硬化し、それによってボツリヌス毒素放出用の経口製剤を形成するステップを持ちうる。この方法は、混合ステップの後に溶媒を蒸発させるという更なるステップを持ちうる。
【0071】
本発明の範囲内でボツリヌス毒素経口製剤を使用する方法は、ボツリヌス毒素を含有するポリマー経口製剤を嚥下し、それによってコリン作動性神経支配の影響を受ける胃腸疾患を処置することによるものでありうる。
【0072】
本発明のもう一つの実施態様は、ポリラクチドおよびポリグリコリドからなるポリマー群より選択されるポリマーを含む担体と、安定化ボツリヌス毒素とであることができ、安定化ボツリヌス毒素は担体と組み合わされ、それによりボツリヌス毒素経口製剤を形成し、ヒト患者が経口製剤を摂取すると、胃腸管内で処置量のボツリヌス毒素が担体から放出されうる。担体はボツリヌス毒素を組み込んだポリマーミクロスフェアの別個のセットを複数含むことができ、各ポリマーセットは異なるポリマー組成を有する。
【0073】
本発明の経口製剤に使用されるボツリヌス毒素は、生理的条件下でニューロンの細胞表面受容体に特異的に結合することができる結合要素を含む第1要素と、ニューロンの細胞膜を横切るポリペプチドの輸送を促進することができるトランスロケーション要素を含む第2要素と、ニューロンの細胞質中に存在する時に、そのニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができる処置要素を含む第3要素とを含むことができる。上記処置要素はSNAREタンパク質を切断し、その結果として、ニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができ、前記SNAREタンパク質はシンタキシン、SNAP−25およびVAMPからなる群より選択されうる。一般に、ボツリヌス毒素による影響を受けるニューロンは、例えば胃腸管筋(平滑筋、横紋筋または混合平滑および横紋筋)または胃腸管分泌腺組織などを神経支配するシナプス前コリン作動性ニューロンである。コリン作動性ニューロンはボツリヌス毒素に対して高い親和性を(すなわち毒素に対する受容体によって)示しうるが、筋細胞および腺細胞は低親和性機構(すなわち飲作用)によって毒素を直接取り込むことができる。したがって、ニューロンと非ニューロン細胞はどちらも、ボツリヌス毒素の標的になりうる。
【0074】
本発明の範囲に包含される連続的放出システムによって所定の期間中に投与されるボツリヌス毒素の量は、A型ボツリヌス毒素の場合は約10-3U/kgから約35U/kg、他のボツリヌス毒素、例えばB型ボツリヌス毒素などの場合は約2000U/kgまでであることができる。35U/kgまたは2000U/kgが上限であるのは、それが一定の神経毒、例えばそれぞれA型ボツリヌス毒素またはB型ボツリヌス毒素の致死量に近いからである。例えば、約2000単位/kgの市販B型ボツリヌス毒素調製物は、B型ボツリヌス毒素の霊長類致死量に近いことが報告されている。Meyer K.E. ら「A Comparative Systemic Toxicity Study of Neurobloc in Adult Juvenile Cynomolgus Monkeys(成体幼若カニクイザルにおけるNeuroblocの比較全身毒性試験)」Mov. Disord 15(Suppl 2);54;2000。
【0075】
所定の期間中に経口製剤によって投与されるA型ボツリヌス毒素の量は、好ましくは、約10-2U/kgから約25U/kgである。経口製剤によって投与されるB型ボツリヌス毒素の量は、好ましくは、約10-2U/kgから約1000U/kgである。というのも、約1000U/kg未満のB型ボツリヌス毒素は霊長類に筋肉内投与しても全身作用を生じないと報告されているからである(前掲書)。より好ましくは、A型ボツリヌス毒素を、約10-1U/kgから約15U/kgの量で投与する。最も好ましくは、A型ボツリヌス毒素を約1U/kgから約10U/kgの量で投与する。多くの場合、約1単位から約500単位のA型ボツリヌス毒素の投与により、効果的で長時間持続する処置的軽減が得られる。より好ましくは、約5単位から約300単位のボツリヌス毒素、例えばA型ボツリヌス毒素を使用することができ、最も好ましくは約10単位から約200単位の神経毒、例えばA型ボツリヌス毒素を、胃腸管標的組織に局所投与して、有効な結果を得ることができる。特に好ましい本発明の実施態様では、約1単位から約100単位のボツリヌス毒素、例えばA型ボツリヌス毒素を、本発明の経口製剤の経口投与により胃腸標的組織に局所投与して、有効な処置結果を得ることができる。
【0076】
ボツリヌス毒素はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)によって産生されうる。また、ボツリヌス毒素は修飾ボツリヌス毒素、すなわち、天然ボツリヌス毒素または野生型ボツリヌス毒素と比較して、そのアミノ酸の少なくとも1つが欠失しているか、修飾されているか、または置換されているボツリヌス毒素であることもできる。さらに、ボツリヌス毒素は組換え生産されたボツリヌス毒素またはその誘導体もしくは断片であることもできる。
【0077】
注目すべきことに、ボツリヌス毒素によって処置された腺組織は、毒素の注射後27ヶ月もの間、低下した分泌活動を示すことができると報告されている。Laryngoscope 1999;109:1344-1346、Laryngoscope 1998;108:381-384。
【0078】
本発明は、神経毒の胃腸内放出のための経口製剤に関し、また、該経口製剤の製造方法および使用方法に関する。経口製剤は、ボツリヌス毒素を含有するポリマーマトリックスを含有し得る。経口製剤は、経口投与後に有効レベルの神経毒を投与するよう設計する。
【0079】
本発明は更に、生物学的に活性な安定化された神経毒の制御放出のための組成物、並びに該組成物の製法および使用法にも関する。本発明の制御放出組成物は、生体適合性ポリマーから成るポリマーマトリックス、および該生体適合性ポリマー中に分散された、生物学的に活性な安定化された神経毒を含有し得る。
【0080】
定義
本明細書では以下の定義が適用される。
「約」とは、そのように修飾された値の±10%を意味する。
「生体適合性」とは、経口製剤の摂取による炎症応答がごくわずかであることを意味する。
【0081】
「生物学的に活性な化合物」とは、それを投与された対象に有益な変化をもたらすことができる化合物を意味する。例えば「生物学的に活性な化合物」には神経毒が含まれる。
【0082】
生物学的に活性な化合物に適用される「有効量」という用語は、所望する変化を対象にもたらすのに一般に十分である化合物の量を意味する。例えば、所望する効果が弛緩性筋肉麻痺である場合、化合物の有効量は、所望の筋肉の少なくとも実質的な麻痺を引き起こし、麻痺を所望しない隣接筋肉には実質的な麻痺を引き起こさず、しかも著しい全身的毒性反応をもたらさない量である。
【0083】
経口製剤の非活性成分構成要素(例えばマトリックスまたはコーティング組成物を形成するのに使用するポリマー)に適用される「有効量」という用語は、所望の期間、所望の速度で起こる生物学的に活性な薬剤の放出に対して良い影響を及ぼすのに十分な非活性成分構成要素の量を指す。例えば、所望の効果が単一の経口製剤の使用による筋肉麻痺である場合、この「有効量」は、約60日から6年間の期間にわたる放出の延長を促進しうる量である。この「有効量」は、本明細書で教示する内容と、当技術分野の一般知識とに基づいて、決定することができる。
【0084】
経口製剤の表面積の大きさに適用される「有効量」という用語は、所望の効果(例えば筋肉麻痺または腺分泌活性低下)を達成するように生物学的活性化合物を放出させるのに十分な経口製剤表面積の大きさである。必要な面積は、特定の活性化合物に関して得られる放出を測定することによって直接に決定および調節しうる。経口製剤の表面積、または経口製剤のコーティングの表面積とは、生物学的活性化合物を十分に封入するのに必要な膜の大きさである。表面積は経口製剤の幾何学に依存する。好ましくは、表面積は可能なら最小にして、経口製剤のサイズを小さくする。
【0085】
「経口製剤」とは、ある薬物送達システムを意味する。経口製剤は、生物学的活性を有する分子を含有するか、または生物学的活性分子の担体として機能しうる、生体適合性ポリマーまたは天然材料を含有する。経口製剤はヒト患者に嚥下させることを意図したものである。
【0086】
「神経毒」とは、神経筋接合部または神経腺接合部を渡る神経インパルス伝達を遮るか、ニューロンによる神経伝達物質のエキソサイトーシスを遮断するまたは減少させるか、ニューロンのナトリウムチャネル電圧ゲートにおける活動電位を変化させることができる薬剤を意味する。神経毒の例には、ボツリヌス毒素、破傷風毒素、サキシトキシンおよびテトロドトキシンがある。
【0087】
「処置」は哺乳動物における疾患の任意の処置を意味し、(i)その疾患が発生するのを防止すること、または(ii)その疾患を抑制すること、すなわちその発達を停止させること、(iii)その疾患を軽減すること、すなわちその疾患の症状の発生率を低下させるか、その疾患の退縮を引き起こすこと、を包含する。
【0088】
神経毒の制御放出のための本発明の範囲に包含される経口製剤を製造する方法は、生体適合性ポリマーをポリマー溶媒に溶解させてポリマー溶液を形成するステップと、生物学的に活性な安定化された神経毒の粒子をポリマー溶液に分散させるステップと、その後、ポリマーを凝固させて、神経毒粒子を分散して含有するポリマーマトリックスを形成するステップを含みうる。
【0089】
本発明は、ボツリヌス毒素および担体を含有し、担体がボツリヌス毒素と組み合わされ、それにより固形のボツリヌス毒素経口製剤を形成している、固形ボツリヌス毒素経口製剤を包含する。担体は、患者の胃腸管内で溶解し、それによって患者の胃腸管内で処置量のボツリヌス毒素を放出するように製剤化しうる。更に、固形ボツリヌス毒素製剤は、粘膜付着、浮遊、沈降、拡張、または胃内容物排出を遅延させる薬剤の同時投与から成る群より選択される方法によって、胃内滞留をも示しうる。「胃内滞留」とは、粘膜付着、浮遊、沈降、拡張の性質を示すように処置されていないか、または胃内容物排出を遅延させる薬剤と同時投与されていない通常に摂取された食物または栄養物の胃腸管内滞留時間と比較して、経口製剤の滞留時間が長いことを意味する。
【0090】
経口製剤は好ましくは、ボツリヌス毒素を担体と組み合わせる前に、ボツリヌストキソイドに変換されたボツリヌス毒素を実質的な量で含有しない。すなわち、好ましくは、経口製剤が含有する担体と組み合わせられたボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素を担体と組み合わせる前のボツリヌス毒素の毒性と比較して実質的に変化していない毒性を有する。
【0091】
経口製剤の担体は、穀粉、糖およびゼラチンから成る群より選択される生体適合性で生分解性の物質を含有し得る。経口製剤のボツリヌス毒素はA型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素から成る群より選択しうる。好ましくはボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素である。担体と組み合わせるボツリヌス毒素量は、約1単位から約10,000単位のボツリヌス毒素、または、約10単位から約2,000単位のA型ボツリヌス毒素である。
【0092】
ボツリヌス毒素は、生理的条件下でニューロンの細胞表面受容体に特異的に結合することができる結合要素を含む第1要素と、ニューロンの細胞膜を横切るポリペプチドの輸送を促進することができるトランスロケーション要素を含む第2要素と、ニューロンの細胞質中に存在する時に、そのニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができる処置要素を含む第3要素とを含むことができる。上記処置要素はSNAREタンパク質を切断し、その結果として、ニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができる。前記SNAREタンパク質はシンタキシン、SNAP−25およびVAMPからなる群より選択されうる。
【0093】
本発明の範囲に含まれる別のボツリヌス毒素経口製剤は、A型ボツリヌス毒素および担体を含有し得、担体はA型ボツリヌス毒素と組み合わせられ、それによりボツリヌス毒素経口製剤を形成し、担体は胃潰瘍患者の胃腸管内で、顕著な免疫系応答を引き起こすことなく処置量のA型ボツリヌス毒素を放出するように製剤化されており、担体は、生体適合性で生分解性の物質を含有し、該固形形態の制御胃内滞留は、粘膜付着、浮遊、沈降、拡張から成る群より選択される方法によるか、または胃内容物排出を遅延させる薬剤の同時投与によって達成することができる。
【0094】
本発明の範囲に含まれる他の製剤は、生物学的に活性なボツリヌス毒素、およびボツリヌス毒素と組み合わせた生体適合性で生分解性の非毒性担体を含有する、胃腸管を持つ患者への経口投与用のボツリヌス毒素製剤を含み得、担体は患者の胃腸系内で迅速に分解することによって患者の胃腸系に処置量の生物学的活性ボツリヌス毒素を放出するという特性を有し、摂取されたボツリヌス毒素に対する顕著な免疫系応答は起こらない。
【0095】
経口製剤の担体は、複数のポリマーミクロスフェアを含み得るか、またはポリマーマトリックスを含み得る。本発明の範囲内の一方法は、ボツリヌス毒素経口製剤の使用方法を含み得、該方法は、ボツリヌス毒素の経口製剤の摂取のステップを含む。
【0096】
本発明の範囲内の詳細な一態様は、ボツリヌス毒素経口製剤であって、
(a)ポリラクチド、ポリグリコリドおよびポリ無水物から成るポリマー群より選択されるポリマーを含む担体;
(b)ボツリヌス経口製剤を形成するように担体と組み合わせた安定化されたボツリヌス毒素
を含有し、
患者の胃腸管内で担体から処置量のボツリヌス毒素を放出し得るボツリヌス毒素経口製剤であり得る。
【0097】
説明
本発明は、処置に有効なボツリヌス毒素の経口製剤の発見に基づいている。すなわち、胃腸管内で溶解する適切な担体と組み合わされたA型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素の摂取によって、処置量の生物活性ボツリヌス毒素を胃腸疾患およびその近傍に送達できることを、本発明者は発見した。典型的には、その後、数日以内に、胃腸疾患は紛れもない治癒(寛解)の徴候を示し、経口ボツリヌス毒素製剤の投与後、数週間以内に、完治できる。副作用としては、胃腸筋の運動性の低下および体重減少を挙げることができる。
【0098】
経口投与されるボツリヌス毒素の処置量は、腸内壁を通して循環系へ吸収されるボツリヌス毒素による全身的作用が取るに足りないか、ごくわずかであるような量である。例えば200単位のボツリヌス毒素を、糖尿病性胃不全麻痺を持つ患者の幽門(胃下部)括約筋に注射しても、それに続いて全身毒性が生じることはない。Crowell, M. D. ら「Botulinum toxin reduces pyloric dysfunction in patients with diabetic gastroparesis(ボツリヌス毒素は糖尿病性胃不全麻痺を持つ患者における幽門機能不全を軽減する)」Gastroenterology 2002 April;122(4 Supp 1):A451-A452。ボツリヌス毒素による催奇形作用を示す証拠はないが、ここに開示する本発明の範囲に包含される方法は、妊娠中の患者、授乳中の患者、または処置期間中に妊娠する意思のある患者への適用またはそのような患者による適用を意図していない。
【0099】
理論に束縛されることは望まないが、本発明の効力に関して、生理学的機構を提唱することができる。例えば、ボツリヌス毒素がコリン作動性神経(胃腸筋の運動性を担う胃腸管のコリン作動性神経を含む)に作用することは、よく知られている。Pasricha, P.J.「Botulinum toxin for spastic gastrointestinal disorders(痙攣性胃腸障害のためのボツリヌス毒素)」Bailliere's Clin Gastroenterol 1999;13(1):131-143。また、胃壁細胞によるガストリン分泌およびHCL産生は、胃腸管の神経腺接合部に作用する迷走神経線維および腸筋神経線維のコリン作動性活性に強く依存する。Rossi S. ら「Immunohistochemical localization of SNAP-25 protein in the stomach of rat(ラットの胃におけるSNAP−25タンパク質の免疫組織化学的局在)」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002;365(Suppl 2):R37。さらに、胃壁細胞にはA型ボツリヌス毒素BTX−Aの細胞内基質(SNAP−25)が存在する。Gui D. ら「Effects of botulinum toxin on gastric emptying and digestive secretions. A possible tool for correction of obesity?(胃内容排出および消化分泌液に対するボツリヌス毒素の作用。肥満矯正ツール候補?)」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002 Jun;365(Suppl 2):R22。したがって、例えばコリン作動性神経支配された胃腸筋の運動性を低下させることによるか、またはコリン作動性神経支配された胃腸腺からの過剰な分泌を抑制することによって、多くの異なる胃腸疾患を処置するために、ボツリヌス毒素の経口製剤を使用することができる。
【0100】
経口投与されるボツリヌス毒素は胃腸管の厳しい環境でも生物活性を保ちうる。すなわち、ボツリヌス毒素は、いくつかの非毒素タンパク質分子によって囲まれた約150kDaの単鎖タンパク質毒素分子を含む複合体として、クロストリジウム細菌によって分泌される。重要なことに、これらの非毒素タンパク質は、複合体が胃腸管を通過する際に、毒素を酸加水分解および酵素的分解から保護するように作用するため、毒素複合体は極端なpHおよびタンパク質分解酵素という厳しい条件に耐えて、依然として著しく強力な神経毒として機能することができる。ボツリヌス毒素分子と複合体を形成する非毒素タンパク質が、胃腸管内で150kDa毒素分子を消化酸から保護するように作用することは、証明されている。Brin M. F. ら編「Scientific and therapeutic aspects of botulinum Toxin」(Lippincott, Williams & Wilkins(2002))の第2章、11から27頁、Hanson, M.A. ら「Structural view of botulinum neurotoxin in numerous functional states(さまざまな機能的状態にあるボツリヌス神経毒の構造)」。
【0101】
本発明の範囲に包含されるボツリヌス毒素経口製剤は、胃腸疾患を持つ患者の胃腸管に処置量のボツリヌス毒素を放出する能力を持つ。放出されるボツリヌス毒素の量は(A型ボツリヌス毒素の場合で)少なければ約10単位(例えば乳児の胃腸運動障害を処置する場合)、多ければ500単位(例えば大きい成人の複数の過剰分泌胃腸腺を処置する場合)まで含むことができる。処置効力を得るのに必要なボツリヌス毒素の量は、異なるボツリヌス毒素血清型の既知の臨床力価に応じて、さまざまでありうる。例えば、B型ボツリヌス毒素の場合は、A型ボツリヌス毒素を使用することによって達成される生理学的効果に匹敵する生理学的効果を達成するのに、典型的には数桁多い単位数が必要である。
【0102】
本発明の範囲に包含される経口製剤によって処置有効量で放出されるボツリヌス毒素は、好ましくは、実質上生物学的に活性なボツリヌス毒素である。言い換えると、経口製剤から放出されるボツリヌス毒素は、コリン作動性ニューロンに高い親和性で結合する能力、少なくとも一部がそのニューロンの膜を横切って移行される能力、そしてニューロンの細胞質ゾルにおけるその活性により、そのニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害する能力を持つ。ボツリヌストキソイドを、該トキソイドの免疫原性の故に抗体を産生させる(免疫応答)ことによってボツリヌス毒素に対する免疫をもたらすための抗原として意図的に使用することは、本発明の範囲から除外されるものとする。本発明の目的は、患者の消化管内でインビボでエキソサイトーシスを阻害し、その結果として、所望の処置効果を達成する、例えば筋肉痙縮もしくは筋肉緊張を軽減し、筋肉の痙攣を防止し、または胃腸管内でコリン作動性の影響を受ける分泌細胞もしくは腺からの過剰の分泌を軽減するために、胃腸管における経口投与製剤からの少量のボツリヌス毒素の放出を可能にすることである。
【0103】
経口製剤は、ボツリヌス毒素が生分解性担体中に実質上均一に分散するように製造される。本発明の範囲に含まれる別の経口製剤は、生分解性コーティングでコーティングした担体を含んでよく、該コーティングの厚さまたはコーティング材料は変化することができる。
【0104】
経口製剤の厚さを使って、本発明の組成物による水の吸収を、したがって本発明の組成物からの神経毒の放出速度を、制御することができ、厚い経口製剤は薄いものよりもゆっくりとポリペプチドを放出する。
【0105】
神経毒制御放出組成物中の神経毒は、他の賦形剤、例えば増量剤または更なる安定剤、例えば凍結乾燥中の神経毒を安定化する緩衝剤とも混合し得る。
【0106】
担体は好ましくは、非毒性で非免疫学的な生体適合性の材料から成る。適当な経口製剤材料は、ポリマーであるポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(p−HEMA)、ポリ(N−ビニルピロリドン)(p−NVP)+、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エチレン−ビニルアセテートコポリマー(EVAc)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルピロリドン/メチルアクリレートコポリマー、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、コラーゲンおよびセルロース誘導体、並びにバイオセラミック、例えばヒドロキシアパタイト(HPA)、リン酸三カルシウム(TCP)およびリン酸アルミノカルシウム(ALCAP)を包含しうる。
【0107】
生分解性担体は、ポリマーであるポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、コラーゲン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリエステラミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリオルトエステル、ポリシアノアクリレート、ポリ(p−ジオキサノン)、ポリ(アルキレンオキサレート)、生分解性ポリウレタン、それらのブレンドおよびコポリマーから調製しうる。特に好ましい担体は、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(「PLGA」)のポリマーまたはコポリマーとして形成し、ここでラクチド:グリコリド比は所望の担体分解速度に応じて変化しうる。
【0108】
生分解性PLGAポリマーは、吸収性縫合糸および骨プレートの形成のために、またいくつかの市販微粒子状製剤中に使用されている。PLGAはバルク侵食によって分解して乳酸およびグリコール酸を生じるもので、分子量およびポリマー末端基(例えばラウリルアルコールまたは遊離酸)の異なるものが市販されている。
【0109】
人体への使用のために承認され、タンパク質および抗原の送達に用いられている他のポリマー群は、ポリ無水物である。PLGAとは異なり、ポリ無水物は表面侵食によって分解して、担体表面で取り込んでいた神経毒を放出する。
【0110】
適当な経口製剤を製造するために、担体ポリマーを有機溶媒、例えば塩化メチレンまたは酢酸エチルに溶解し、次いでボツリヌス毒素をポリマー溶液中に混ぜ込むことができる。従来のミクロスフェア製剤の製法は、溶媒蒸発法および溶媒(コアセルベーション)法である。PLGAミクロスフェアへのタンパク質抗原封入法として、水中油中水(W/O/W)ダブルエマルジョン法が広く用いられている。
【0111】
ボツリヌス毒素の水溶液も、経口製剤の製造に使用しうる。神経毒の水溶液をポリマー溶液(適当な有機溶媒中にポリマーを予め溶解したもの)に加える。ミクロスフェアの放出性能と、神経毒封入効率(タンパク質担持量の理論値と実測値との比)とのいずれの決定に関しても、(神経毒の)水溶液体積と(ポリマーの)有機溶媒体積との比は重要なパラメータである。
【0112】
封入効率は、ポリマー溶液の動粘度を高めることによっても向上し得る。ポリマー溶液の動粘度は、処理温度を低下することによって、および/または有機溶媒中のポリマー濃度を高めることによって、大きくすることができる。
【0113】
すなわち、有機相(ポリマー)に対して水相(神経毒)の体積が小さい(すなわち、水相体積:有機相体積が≦0.1ml/ml)場合、実質的に100%の神経毒をミクロスフェアに封入することができ、ミクロスフェアは3相放出、すなわち初期バースト(第1パルス)、ラグ相(神経毒放出が殆んどまたは全くない)、および第2放出相(第2パルス)を示しうる。
【0114】
ラグ相の長さは、ポリマー分解速度に依存し、ポリマー分解速度はポリマーの組成および分子量に依存する。すなわち、第1(バースト)パルスと第2パルスとの間のラグ相は、ラクチド含量が高いほど長くなり、またはラクチド:グリコリド比を一定に保ってポリマー分子量を高めるほど長くなる。水相(神経毒)体積を小さくすることに加えて、低温(2〜8℃)で処理することも、前記のように、封入効率を高め、また、初期バーストを抑制し、熱不活性化に対する神経毒安定性向上を促進する。
【0115】
神経毒(例えばボツリヌス毒素)のインビボ制御放出のための本発明の適当な経口製剤は、経口製剤が神経毒を胃腸管内で放出するように製造しうる。
【0116】
好ましくは、経口製剤のボツリヌス毒素放出に際し、毒素の血清レベルは極めて低い。本発明の経口製剤は、摂取用懸濁液として調製してもよい。そのような懸濁液は、製薬分野でよく知られた一般的な方法によって、例えば適当なメッシュ篩(例えば120メッシュ)を備えた超遠心ミル内でポリラクチド/ポリペプチド混合物を粉砕し、その粉砕し篩過した粒子を注射用溶媒(例えばプロピレングリコール、水)に、場合により従来の粘度上昇剤もしくは懸濁化剤、油または他の既知の適当な経口摂取用液体賦形剤と共に懸濁させることによって製造しうる。
【0117】
好ましくは、インビボでの生物学的活性神経毒の放出は、神経毒放出期間の間、顕著な免疫系応答を引き起こさない。
【0118】
ボツリヌス毒素経口製剤は好ましくは、生分解性ポリマーミクロスフェアからボツリヌス毒素が、生物学的に活性な形態で、すなわち実質的に天然の毒素コンフォメーションで放出されることを可能にする。神経毒を経口製剤マトリックスを形成し得る適当なポリマーとの混合のために有用とするフォーマット(例えば凍結乾燥した神経毒粉末)において、また、神経毒が選択されたポリマーのマトリックス中に存在または組み込まれている間に、神経毒を安定化するために、様々な医薬賦形剤を使用しうる。適当な賦形剤は、デンプン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、穀粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、アルブミンおよび乾燥スキムミルクを包含しうる。神経毒経口製剤中の神経毒は、賦形剤、増量剤および安定剤、並びに凍結乾燥時に神経毒を安定化する緩衝剤と混合しうる。
【0119】
安定化された神経毒は、生物学的に活性な非凝集神経毒が、+2またはそれ以上の価数の多価金属カチオン少なくとも1種と複合したものを含み得ることがわかっている。
【0120】
適当な多価金属カチオンは、生体適合性金属カチオン成分に含まれる金属カチオンを包含する。金属カチオン成分は、該カチオン成分が使用量で被投与体に対して毒性でなく、しかも被投与体に顕著な悪影響(例えば製剤の経口投与による免疫学的反応)を及ぼさないならば、生体適合性である。
【0121】
神経毒を金属カチオンで安定化する場合の金属カチオン成分と神経毒とのモル比は、好ましくは約4:1ないし約100:1、より好ましくは約4:1ないし約10:1である。
【0122】
ボツリヌス毒素の安定化に使用する好ましい金属カチオンはZn++である。なぜなら、
ボツリヌス毒素は亜鉛エンドペプチダーゼであることが知られているからである。ボツリヌス毒素は二価亜鉛エンドペプチダーゼであることが知られているので、二価亜鉛カチオンが好ましい。最も好ましい態様においては、Zn++カチオンを含む金属カチオン成分と神経毒とのモル比が約6:1である。
【0123】
神経毒安定化のための金属カチオンの適性は、当業者が様々な安定性評価法、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、逆相クロマトグラフィー、HPLCおよび効力試験を、金属カチオン含有神経毒凍結乾燥粒子に対して、凍結乾燥後および粒子からの放出中に行って神経毒の効力を測定することによって決定しうる。安定化された神経毒において、神経毒がインビボで水和により微粒子内で凝集する傾向、および/または水和または徐放性組成物形成過程または徐放性組成物の化学的性質の故に生物学的活性または効力を失う傾向は、神経毒をポリマー溶液と接触させる前に神経毒を少なくとも1種の金属カチオンと複合体化させることによって減少する。
【0124】
本発明によって、安定化された神経毒は、制御放出期間にわたってインビボで顕著な凝集に対して安定化される。顕著な凝集とは、ポリマーで封入されるかまたはポリマーマトリックスに取り込まれた神経毒の約15%またはそれ以上の凝集をもたらす凝集量として定義される。好ましくは、凝集は神経毒の約5%未満に保たれる。より好ましくは、凝集はポリマー中に存在する神経毒の約2%未満に保たれる。
【0125】
他の一態様においては、神経毒制御放出組成物は第2の金属カチオン成分をも含有する。第2の金属カチオン成分は、安定化された神経毒粒子内に含まれず、担体中に分散している。第2の金属カチオン成分は好ましくは、安定化された神経毒中に含まれるものと同じ種の金属カチオンを含有する。あるいは第2の金属カチオン成分は、1種またはそれ以上の異なる金属カチオン種を含有し得る。
【0126】
第2の金属カチオン成分は、例えば、組成物中の神経毒の安定性を向上するように、金属カチオンによる神経毒安定化期間を更に延長する金属カチオン貯留として機能することによって、経口製剤のポリマーマトリックスからの神経毒放出を調製するよう機能する。
【0127】
調節放出に使用する金属カチオン成分は通例、少なくとも1種の多価金属カチオンを含む。神経毒放出の調節に適当な第2の金属カチオン成分の例は、例えば、Mg(OH)2、MgCO3(例えば4MgCO3Mg(OH)25H2O)、ZnCO3(例えば3Zn(OH)22ZnCO3)、CaCO3、Zn3(C6H5O7)2、Mg(OAc)2、MgSO4、Zn(OAc)2、ZnSO4、ZnCl2、MgCl2およびMg3(C6H5O7)2を包含または含有する。第2の金属カチオン成分とポリマーとの適当な重量比は、約1:99ないし約1:2である。最適な比は、使用するポリマーおよび第2金属カチオン成分によって変化する。
【0128】
本発明の神経毒経口製剤は、多くの剤形、例えばフィルム、ペレット、円柱、円板またはミクロスフェアに製剤化することができる。本書において定義されるミクロスフェアは、安定化された神経毒を中に分散させた、直径約1mm未満の担体成分を含む。ミクロスフェアは、球形、非球形または不規則形であってよい。ミクロスフェアは球形であることが好ましい。通例、ミクロスフェアは、適当な摂取用液体中に分散させるものであり得る。ミクロスフェアの好ましいサイズ範囲は、直径約1μから約180μである。
【0129】
生物学的に活性な非凝集神経毒の胃腸放出用組成物を製造する本発明の方法においては、生物学的に活性な安定化された神経毒粒子を適量で担体に分散させる。
【0130】
本書において定義される適当なポリマー担体溶媒とは、ポリマーは溶解するが、安定化された神経毒は実質的に不溶および非反応性である溶媒である。適当なポリマー溶媒の例は、極性有機液体、例えば塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチルおよびアセトンを包含する。
【0131】
生物学的に活性な安定化された神経毒を調製するために、神経毒を、少なくとも1種の適当な金属カチオン成分と共に、金属カチオンと神経毒の複合体を形成するのに適当なpH条件下に適当な水性溶媒中で混合する。通例、複合体化した神経毒は、溶媒に懸濁した濁った沈殿物の形態でありうる。しかし、複合体化した神経毒は溶解していることもある。より一層好ましい態様においては、神経毒をZn++と複合体化させる。
【0132】
神経毒複合体の形成に適当なpH条件は通例、約5.0から約6.9の間のpH値を包含する。適当なpH条件は通例、水性緩衝剤、例えば炭酸水素ナトリウムを溶媒として使用することによって達成される。
【0133】
適当な溶媒は、例えば水性炭酸水素ナトリウム緩衝液中におけるように、神経毒および金属カチオン成分がそれぞれ少なくとも少しは可溶である溶媒である。水性溶媒用には、使用する水は脱イオン水または注射用水(WFI)であることが好ましい。
【0134】
神経毒は、金属カチオン成分との接触前に固体または溶解状態であり得る。更に、金属カチオン成分も、神経毒との接触前に固体または溶解状態であり得る。好ましい態様においては、神経毒の緩衝水溶液を、金属カチオン成分の水溶液と混合する。
【0135】
通例、複合体化した神経毒は、溶媒に懸濁した濁った沈殿物の形態であり得る。しかし、複合体化した神経毒は溶解していることもある。好ましい態様においては、神経毒をZn++と複合体化させる。
【0136】
Zn++複合体化神経毒を、次いで例えば凍結乾燥によって乾燥させて、安定化した神経毒の粒子を形成することができる。Zn++複合体化神経毒(懸濁または溶解している)は、大量で凍結乾燥し得るか、またはより小さい体積に小分けしてから凍結乾燥し得る。好ましい態様においては、Zn++複合体化神経毒懸濁液を、例えば超音波ノズルを用いて微小化し、次いで凍結乾燥して、安定化された神経毒の粒子を形成する。Zn++複合体化神経毒混合物を凍結乾燥するための許容可能な手段は、当分野で知られているものを包含する。
【0137】
他の一態様においては、安定化された神経毒の粒子中に含まれない第2の金属カチオン成分をも、ポリマー溶液中に分散させる。
【0138】
第2の金属カチオン成分および安定化神経毒は、ポリマー溶液に、順次、逆の順序で、間欠的に、別々に、または同時に加えて分散させ得ると理解される。別法では、ポリマー、第2金属カチオン成分および安定化神経毒を、ポリマー溶媒に、順次、逆の順序で、間欠的に、別々に、または同時に加えて混ぜ込むことができる。この方法において、ポリマー溶媒を次いで凝固させて、安定化神経毒を分散して含有するポリマーマトリックスを形成する。
【0139】
ポリマー溶液からの神経毒経口製剤の適当な製法は、溶媒蒸発法であり、米国特許第3,737,337号; 第3,523,906号; 第3,691,090号; および第4,389,330号に記載されている。溶媒蒸発法は、神経毒経口製剤の製法として使用しうる。
【0140】
溶媒蒸発法においては、安定化神経毒粒子を分散して含有するポリマー溶液を、ポリマー溶媒が部分的に混和しうる連続相中に混合するか、または該連続相と共に撹拌して、エマルジョンを形成する。連続相は通例、水性溶媒である。エマルジョンの安定化のために、しばしば乳化剤を連続相に加える。次いで、ポリマー溶媒を数時間またはそれ以上にわたって蒸発させ、それによってポリマーを凝固させて、安定化神経毒粒子が内部に分散したポリマーマトリックスを形成する。
【0141】
ポリマー溶液から神経毒制御放出ミクロスフェアを形成する好ましい方法が、米国特許第5,019,400号に記載されている。このミクロスフェア形成方法は、相分離のような他の方法と比較して、特定の神経毒含量の経口製剤を製造するのに要する神経毒量を更に低下させる。
【0142】
この方法においては、安定化神経毒を分散して含有するポリマー溶液を処理して液滴を形成する。少なくとも実質的な割合の液滴がポリマー溶液および安定化神経毒を含有する。このような液滴を次いで、ミクロスフェアを形成するのに適当な手段によって凍結させる。ポリマー溶液分散液を加工して液滴を形成する方法の例は、分散液を超音波ノズル、プレッシャーノズル、Rayleighジェットを通す方法、または溶液から液滴を形成する他の既知の方法を包含する。
【0143】
凍結微小液滴中の溶媒を、固体および/または液体として非溶媒で抽出し、安定化神経毒を含有するミクロスフェアを形成する。ある種のポリマー、例えばポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーから溶媒を抽出するのに、エタノールを他の非溶媒(例えばヘキサンまたはペンタン)と混合すると、エタノールを単独で用いるよりも溶媒抽出速度を高めることができる。
【0144】
ポリマー溶液から神経毒経口製剤を形成する更に別の方法には、例えば型を用いてフィルムまたはシェイプを形成するフィルムキャスティングがある。例えば安定化神経毒を分散させて含有するポリマー溶液を型に入れ、次いでポリマー溶媒を当分野で既知の方法で除去するか、またはポリマー溶液の温度を低下して、乾燥恒重量のフィルムまたはシェイプを得る。
【0145】
生分解性ポリマー経口製剤の場合、神経毒の放出はポリマー分解によって起こる。分解速度は、ポリマーの水和速度に影響するポリマーの性質を変えることによって制御し得る。そのような性質は例えば、ポリマーを構成する複数種のモノマー(例えばラクチドおよびグリコリド)の比;ラセミ混合物に代わるモノマーのL−異性体の使用;およびポリマーの分子量を包含する。これらの性質はポリマーの親水性および結晶性に影響し得、それによりポリマーの水和速度が制御される。水和を促進し、ポリマー侵食速度を変化し得るように、親水性賦形剤、例えば塩、炭水化物および界面活性剤を組み合わせることもできる。
【0146】
生分解性ポリマーの性質を変更することによって、神経毒放出に対する、拡散および/またはポリマー分解の寄与を制御し得る。例えば、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーのグリコリド含量を高め、ポリマー分子量を小さくすることによって、ポリマーの加水分解を促進し、それ故ポリマー侵食による神経毒放出を促進することができる。更に、中性でないpHにおいて、ポリマー加水分解速度が高まる。従って、ミクロスフェア形成に使用するポリマー溶液に酸性または塩基性の賦形剤を加えることによって、ポリマー侵食速度を変化させることができる。
【0147】
本発明の経口製剤をヒトに投与して、前記のように、様々な医学的状態の神経毒処置のために知られたパラメータに基づく所望の用量の神経毒を提供することができる。
【0148】
投与に適した経口製剤による特定の投与量は、上述した因子に応じて、当業者によって容易に決定される。投与量は、処置または除神経の対象である組織塊の大きさならびに毒素の市販調製物にも依存しうる。また、ヒトにおける適切な投与量の概算値は、他の組織の効果的な除神経に必要なボツリヌス毒素の量の測定値から推定することができる。例えば、注射すべきA型ボツリヌス毒素の量は、処置対象組織の大きさおよび活動レベルに比例的である。一般に、所望の筋肉弛緩を効果的に達成するために、単位期間あたり(例えば2〜4ヶ月間にわたって、または2〜4ヶ月に1回)、患者の体重1キログラムあたり約0.01単位から約35単位のボツリヌス毒素、例えばA型ボツリヌス毒素を、本経口製剤によって放出させることができる。約0.01U/kg未満のボツリヌス毒素は筋に対して有意な処置効果を持たず、一方、約35U/kgを超えるボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素などの神経毒の毒性用量に近い。経口製剤を注意深く製造することにより、顕著な量のボツリヌス毒素が全身的に現れるのを防止する。より好ましい用量範囲は、約0.01U/kgから約25U/kgのボツリヌス毒素、例えばBOTOX(登録商標)として製剤化されているものである。投与すべきボツリヌス毒素のU/kgの実際量は、処置対象組織の大きさ(量)および活動レベルならびに選択した投与経路などの因子に依存する。A型ボツリヌス毒素は、本発明の方法での使用に好ましいボツリヌス毒素血清型である。
【0149】
本発明の範囲に包含される方法を実施するために使用される神経毒は、好ましくは、ボツリヌス毒素、例えばA、B、C、D、E、FまたはG血清型ボツリヌス毒素の一つである。使用するボツリヌス毒素は、好ましくは、A型ボツリヌス毒素である。というのも、これは、ヒトにおいて高い力価を持ち、容易に入手することができ、筋肉内注射によって局所投与する場合、骨格筋および平滑筋障害の処置に安全かつ有効に使用されることが知られているからである。
【0150】
本発明は、その範囲に、運動障害またはコリン作動性神経支配の影響を受ける障害の処置に使用した場合に長時間持続する処置効果を持つ任意の神経毒の使用を包含する。例えば、毒素産生クロストリジウム細菌の任意の種によって産生される神経毒、例えばボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)およびクロストリジウム・ベラッチ(Clostridium beratti)などによって産生される神経毒を、本発明の方法で使用するか、本発明の方法での使用に適合させることができる。また、上述のようにA型は最も好ましい血清型であるが、ボツリヌス血清型A、B、C、D、E、FおよびGはいずれも、本発明の実施に有利に使用することができる。本発明を実施することにより、1ヶ月ないし約5または6年間にわたり効果的な緩解を提供することができる。
【0151】
本発明は、その範囲に、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または復元によって取得または加工される神経毒複合体および純粋な神経毒、ならびに(b)修飾神経毒または組換え神経毒、すなわち1つ以上のアミノ酸またはアミノ酸配列が、既知の化学的/生化学的アミノ酸修飾法によって、または既知の宿主細胞/組換えベクター組換え技術によって、故意に削除、修飾または置換されている神経毒、ならびにそのようにして作製された神経毒の誘導体もしくは断片を包含し、細胞上に存在する細胞表面受容体に対するターゲティング部分が1つ以上結合している神経毒を包含する。
【0152】
本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、凍結乾燥体または真空乾燥体として容器中に減圧下で保存することができる。凍結乾燥に先立って、ボツリヌス毒素を医薬的に許容できる賦形剤、安定剤および/または担体、例えばアルブミンと混合することができる。凍結乾燥材料または真空乾燥材料は、塩水または水で復元することができる。
【0153】
本発明は、胃腸疾患の処置軽減を提供するための経口製剤の使用をも本発明の範囲に包含する。すなわち、神経毒を、嚥下可能な適当なポリマーマトリックスに包埋し、吸収させ、または担持させることができる。
【0154】
適切な投与経路および投与量を決定する方法は一般にケースバイケースで担当医によって決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的作業である(例えば Anthony Fauciら編「Harrison's Principles of Internal Medicine」(1998)、第14版、McGraw Hill 発行を参照されたい)。すなわち、本発明の経口製剤は、嚥下によって投与しうる。
【0155】
凍結乾燥破傷風トキソイドの水分含量が多いと、ミクロスフェア封入後のトキソイドの固相凝集および不活性化を引き起こし得ることが知られている。すなわち、破傷風トキソイド水分含量が10%(タンパク質100g当たりの水のグラム数)では、毒素の約25%が凝集し、水分含量5%では、わずか約5%のトキソイドが凝集する。例えばPark K., Controlled Drug Delivery Challenges and Strategies, American Chemical Society (1997)の第12章(第229-267頁)のSchwendeman S.P.ら, Peptide, Protein, and Vaccine Delivery From Oral formulationable Polymeric Systems, 第251頁参照。重要なことに、BOTOX(登録商標)の製法により、水分含量約3%未満の凍結乾燥A型ボツリヌス毒素複合体が得られ、この水分レベルでは固相凝集が非常に少ないと考えられる。
【0156】
生分解性ボツリヌス毒素経口製剤の通常の製法は下記の通りである。経口製剤は、乳酸単独のポリマーであるポリラクチドを約25%から約100%含みうる。経口製剤中のラクチド量を増加すると、経口製剤が生分解を受け始めるまでの時間を延長することができ、すなわち経口製剤からのボツリヌス毒素放出までの時間を延長することができる。経口製剤は、乳酸およびグリコール酸のコポリマーであってもよい。乳酸はラセミ体または光学活性形態であってよく、ベンゼンに可溶でインヘレント粘度が0.093(クロロホルム中、100ml当たり1g)から0.5(ベンゼン中、100ml当たり1g)であるかまたはベンゼンに不溶でインヘレント粘度が0.093(クロロホルム中、100ml当たり1g)から4(クロロホルムまたはジオキサン中、100ml当たり1g)であってよい。経口製剤は、担体ポリマー中に均一に分散したボツリヌス毒素0.001%から50%をも含有し得る。
【0157】
経口製剤が水を吸収し始めると、経口製剤は2つの連続した、通常は区別される神経毒放出相を示し得る。第1相では、経口製剤の外表面に通じる水性神経毒部分からの初期拡散によって神経毒が放出される。第2相は、生分解性担体(例えばポリラクチド)が分解する結果、神経毒が放出されて起こる。この拡散相と分解誘導相とは、時間的に差があり得る。経口製剤を水性生理的環境中に置くと、水がポリマーマトリックス中に拡散し、神経毒とポリラクチドとの間に分配されて、水性神経毒部分を形成する。水性神経毒部分は水の吸収増加につれて増大し、水性神経毒部分の連続性が、経口製剤の外表面に通じるのに充分なレベルに達するようになる。このようにして、水性神経毒部分から形成された水性ポリペプチドチャネルを通っての拡散によって神経毒が経口製剤から放出され始め、第2相は、残りの神経毒が実質的に全部放出されてしまうまで続く。
【0158】
神経毒封入ミクロスフェアを適切な液体、例えば生理食塩水に懸濁することによって製造される懸濁液の形態をとっている経口製剤も、本発明の範囲に包含される。
【0159】
実施例
以下の実施例は本発明に包含される特定の組成物および方法を説明するものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【実施例1】
【0160】
経口摂取用ボツリヌス毒素錠剤を製造する方法
ボツリヌス毒素は、胃または十二指腸内に毒素活性成分を放出させるための経口製剤として調合することができる。これは、乳鉢と乳棒を使って(水または塩水を加えずに室温で)、50単位の市販凍結乾燥ボツリヌス毒素粉末、例えば非復元BOTOX(登録商標)(または200単位のDYSPORT(登録商標)粉末)を、穀粉または糖などの生分解性担体と混合することにより、容易に達成される。もう一つの選択肢として、均質化または超音波処理で担体中に粉末毒素の微細分散系を形成させることによって、ボツリヌス毒素を混合することもできる。次に、錠剤製造機(例えばScheu & Kniss(ケンタッキー州40210ルイスビル、ウエスト・オームズビー・アベニュー1500)から入手できる打錠機)を使って、その混合物を圧縮することにより、摂取可能な錠剤を製造する。もう一つの選択肢として、周知の方法論により、ゼラチンを使って毒素を製剤化することにより、摂取可能なジェルタブを製造することもできる。
【実施例2】
【0161】
肥満を処置する方法
実施例1のボツリヌス毒素経口製剤を投与することにより、42歳の肥満男性を処置する。患者は4日間毎日、A型50単位錠1個を嚥下する。2週間以内に患者の体重は10ポンド減少し、第4週の終りには減少体重は20ポンドにまでなる。これは明らかに、胃腸運動性の低下によるものである。
【実施例3】
【0162】
生分解性ボツリヌス毒素経口製剤の製造する方法
ボツリヌス毒素および適当な担体ポリマーを含有する生分解性経口製剤を製造するために、揮発性有機溶媒(例えばジクロロメタン)中の生分解性ポリマーから成る連続相に、安定化したボツリヌス毒素製剤(例えば非復元BOTOX(登録商標))を適量分散させうる。PLGAおよびポリ無水物はいずれも水に不溶で、ミクロ封入法において有機溶媒を使用する必要がある。
【0163】
ミクロスフェア形成を促進するように、有機溶媒(例えば塩化メチレンまたは酢酸エチル)にポリマーを溶解させる。次いで、ボツリヌス毒素を均質化または超音波処理によって混ぜ込んで、ポリマー/有機溶媒中の毒素の微細な分散を形成する。これは、タンパク質水溶液を用いた場合にはエマルジョンとしてであり、タンパク質の固形製剤をポリマー/有機溶媒溶液と混合した場合には懸濁液としてである。従来のミクロスフェア形成方法は、溶媒蒸発法および溶媒(コアセルベーション)法である。ミクロスフェアを形成するために、タンパク質薬物とポリマー/有機溶媒との予め形成した懸濁液と、乳化剤(例えばポリビニルアルコール)を含有する水とを混合する。次いで、更に水を加えて、ミクロスフェアからの有機溶媒の除去を促進し、ミクロスフェアを硬化させる。最終的に生成したミクロスフェアを乾燥して、流動性粉末とする。
【0164】
使用するポリマーは、PLA、PGAまたはそれらのコポリマーであり得る。別法として、神経毒の水溶液(例えば復元BOTOX(登録商標))をポリマー/有機相中で乳化する(これによりW/Oエマルジョンを得る)ことによって、ボツリヌス毒素を組み込んだポリマーを調製することもできる。いずれの方法においても、毒素とポリマーの均一な混合を確実なものとするために、高速撹拌機または超音波を使用する。エマルジョンを高温空気流中に噴霧し、溶媒の蒸発による粒子形成を誘導することによって、直径1〜50μmの微粒子を形成することができる(噴霧乾燥法)。別法として、非溶媒(例えばシリコーン油)の添加によるポリマーのコアセルベーションによって(相分離法)、またはW/O/Wエマルジョンの形成によって(ダブルエマルジョン法)、粒子形成を達成することもできる。
【0165】
ボツリヌス毒素を混ぜ込むキャスティング溶液または他の溶液のpHは、pH4.2〜6.8に保つ。なぜなら、約7を越えるpHでは安定化非毒素タンパク質がボツリヌス毒素から解離し得、その結果、毒性が徐々に失われ得るからである。好ましくはpHは約5〜6である。更に、混合物/溶液の温度は約35℃を越えないようにすべきである。なぜなら毒素は溶液/混合物中で約40℃を越えるように加熱されると容易に毒性を失いうるからである。
【0166】
液滴を凍結して微粒子を形成する方法には、液滴を液化ガス(例えば液体アルゴンおよび液体窒素)に入れるかまたはその近傍に配置して凍結した微小液滴を形成し、次いでそれを液体ガスから分離する方法がある。次いで凍結微小液滴を液体非溶媒、例えばエタノール、またはヘキサンもしくはペンタンと混合したエタノールに暴露することができる。
【0167】
液滴サイズを、例えば超音波ノズル直径の変更によって変えることによって、広範なサイズのボツリヌス毒素経口製剤微粒子を製造することができる。非常に大きい微粒子を所望する場合は、微粒子をシリンジから直接に低温液体中に押出すことができる。ポリマー溶液の粘度を高めることによっても、微粒子サイズを大きくすることができる。この方法によって、微粒子、例えば直径が約1000μmよりも大きい微粒子ないし約1μmの微粒子を製造することができる。次いで、ボツリヌス毒素を組み込んだ微粒子を摂取可能なカプセルに充填し、封止して、ボツリヌス毒素経口製剤とすることができる。
【0168】
別法として、適当な量の非復元BOTOX(更にミクロスフェアに加工していないもの)の粉末を適当な量の不活性担体(例えば穀粉または糖)と混合し、カプセル充填に充分な体積の材料を提供するようにして、単にカプセルに充填することもできる。
【実施例4】
【0169】
ポリ無水物ボツリヌス毒素経口製剤を製造する方法
生分解性ポリ無水物ポリマーを、ポリ−カルボキシフェノキシプロパンおよびセバシン酸の20:80の比のコポリマーとして調製しうる。ポリマーおよびボツリヌス毒素(例えば非復元BOTOX(登録商標))を室温で塩化メチレンに共に溶解し、実施例3に記載の方法を用いて噴霧乾燥によりミクロスフェアとする。塩化メチレンが残留していれば、減圧デシケーター内で蒸発させることができる。
【0170】
所望の経口製剤サイズに応じて、したがってボツリヌス毒素量に応じて、適当な量のミクロスフェアを約8000psiで5秒間、または約3000psiで17秒間、型内で圧縮して、神経毒を組み込んだ円板状経口製剤を形成することができる。すなわち、ミクロスフェアを圧縮成形して直径1.4cm、厚さ1.0mmの円板状とし、窒素雰囲気中でアルミニウムフォイル袋に包装し、2.2×10Gyγ線照射により滅菌することができる。
【実施例5】
【0171】
生分解性ボツリヌス毒素経口製剤を製造するための油中水型法
ボツリヌス毒素経口製剤を製造するために、ポリグリコール酸およびポリ乳酸の80:20コポリマーを室温で10%w/vジクロロメタン中に、穏やかに撹拌しながら溶解させることができる。次いで、Tween 80(ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート、Acros Organics N.V., Fairlawn, NJから入手可能)とSpan 85(ソルビタントリオレエート)との1:5混合物1部、および75単位のBOTOX(登録商標)(A型ボツリヌス毒素複合体)とQuil A(アジュバント)の水性混合物11部に、前記ポリマー溶液88部を加えることによって、油中水型エマルジョンを調製しうる。その混合物を高速ブレンダーで撹拌し、その直後に、60/100/120ノズルを備えたDrytec Compact Laboratory Spray Dryerを用いて、噴霧圧15psiおよび導入温度65℃で噴霧乾燥する。得られるミクロスフェアは直径約20μmで、流動性粉末として得られる。微量の残留有機溶媒は、減圧蒸発によって除去する。
【実施例6】
【0172】
生分解性ボツリヌス毒素経口製剤を製造するための低温法
次のようにして、毒素の変性を抑制するように低温でボツリヌス毒素経口製剤を製造することができる。塩化メチレンまたは酢酸エチル1ml当たり0.3gPLGAと、ポリマー/有機溶液1ml当たり0.1mlの神経毒溶液とを、低温(2〜8℃)で混合する。インヘレント粘度(dL/g)約0.62の75:25ラクチド:グリコリドポリマー(MTIから入手可能)から、実施例1に記載のように(ポリマーを塩化メチレンに溶解することによってポリマー溶液を形成する)、一次のボツリヌス毒素組み込みミクロスフェアを形成する。これは患者の胃腸管内で分解し得る。
【0173】
ここに開示する発明による組成物および方法は、以下に挙げる利点を含む、多くの利点を持っている。
1.1年間またはそれ以上の期間にわたって神経毒を処置に有効に連続投与するために、単一の経口製剤を使用することができる。
2.顕著な量の神経毒が全身的に現れることなく、局在組織部分に神経毒を送達することができる。
3.患者にとって経過観察処置の必要が減る。
4.状態、例えば神経筋疾患の処置のための定期的な神経毒注射の必要が減る。
5.注射の必要が一切無くなるので、患者の快適さが増す。
6.患者の服薬遵守性が向上する。
【0174】
本発明の神経毒経口製剤の利点には、胃腸標的組織に一定処置レベルの神経毒を迅速に送達できることが含まれる。利点にはまた、患者の遵守および受容性の向上も含まれる。
本明細書に挙げた参考文献、論文、刊行物ならびに特許および特許出願は全て、参照により、そのまま本明細書に組み込まれる。
【0175】
一定の好ましい方法に関して本発明を詳細に説明したが、本発明の範囲内で他の態様、変形および変更も可能である。例えば、本発明の方法では、多種多様な神経毒を有効に使用することができる。また、本発明は、2つ以上のボツリヌス毒素が同時にまたは逐次的に投与される経口製剤も包含する。例えば、臨床応答の喪失が起こるか、中和抗体が発生するまでは、A型ボツリヌス毒素を経口製剤によって投与し、その後は、B型またはE型ボツリヌス毒素の適当な経口製剤によって投与を行うことができる。あるいは、所望する処置成果の開始および持続時間を制御するために、ボツリヌス血清型AからGの任意の2つ以上を組み合せて、局所投与することもできる。また、ボツリヌス毒素などの神経毒がその処置効果を発揮しはじめる前に、補助的効果、例えば除神経の強化または除神経のより迅速な開始などを得るために、経口製剤による神経毒の投与に先立って、または投与と同時に、または投与後に、非神経毒化合物を投与することもできる。
【0176】
また本発明は、胃腸疾患を処置するための経口製剤を製造する際の、ボツリヌス毒素などの神経毒の使用も、その範囲に包含する。
したがって、本願請求項の精神と範囲は、上述の好ましい態様の説明に限定されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ボツリヌス毒素、および
(b)担体
を含有する胃腸運動性を低下するための固形ボツリヌス毒素経口製剤であって、
担体がボツリヌス毒素と組み合わされ、それによって固形ボツリヌス毒素経口製剤を形成しており、
(i)担体が、患者の胃腸管内で溶解し、それによって患者の胃腸管内で処置量のボツリヌス毒素を放出するように製剤化されており、
(ii)固形ボツリヌス毒素製剤が、胃内における製剤の粘膜付着、浮遊、沈降および拡張から成る群より選択されるメカニズムによって、または胃内容物排出を遅延させる薬剤の同時投与によって、胃内滞留を示す、
経口製剤。
【請求項2】
実質的な量のボツリヌス毒素が、ボツリヌス毒素が担体と組み合わされる前に、ボツリヌストキソイドに変換されていない請求項1に記載の経口製剤。
【請求項3】
担体と組み合わされたボツリヌス毒素の実質的な量が、ボツリヌス毒素が担体と組み合わされる前のボツリヌス毒素の毒性と比較して実質的に変化していない毒性を有する請求項1に記載の経口製剤。
【請求項4】
担体が、穀粉、糖およびゼラチンから成る群より選択される生体適合性で生分解性の物質を含む請求項1に記載の経口製剤。
【請求項5】
ボツリヌス毒素が、A型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素から成る群より選択される請求項1に記載の経口製剤。
【請求項6】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の経口製剤。
【請求項7】
担体と組み合わされるボツリヌス毒素の量が、約1単位から約10,000単位のボツリヌス毒素である請求項1に記載の経口製剤。
【請求項8】
ボツリヌス毒素の量が、約10単位から約2,000単位のA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の経口製剤。
【請求項9】
ボツリヌス毒素が、
(a)生理的条件下でニューロンの細胞表面受容体に特異的に結合することができる結合要素を含む第1要素、
(b)ニューロンの細胞膜を横切るポリペプチドの輸送を促進することができるトランスロケーション要素を含む第2要素、および
(c)ニューロンの細胞質中に存在する時に、そのニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができる処置要素を含む第3要素
を含む請求項1に記載の経口製剤。
【請求項10】
(a)A型ボツリヌス毒素、および
(b)担体
を含有する胃腸運動性を低下するためのボツリヌス毒素経口製剤であって、
担体がA型ボツリヌス毒素と組み合わされ、それによってボツリヌス毒素経口製剤を形成しており、
担体が、顕著な免疫系応答を伴わずに胃潰瘍患者の胃腸管内で処置量のA型ボツリヌス毒素を放出するように製剤化されており、
担体が、生体適合性で生分解性の物質を含み、
該固形製剤の胃内滞留制御を、胃内における製剤の粘膜付着、浮遊、沈降および拡張から成る群より選択されるメカニズムによって、または胃内容物排出を遅延させる薬剤の同時投与によって達成することができる、
経口製剤。
【請求項11】
(a)生物学的に活性なボツリヌス毒素、および
(b)生体適合性で生分解性の非毒性担体
を含有する、胃腸管を持つ患者への経口投与により胃腸運動性を低下するためのボツリヌス毒素製剤であって、
担体が患者の胃腸系内で迅速に分解し、それによって患者の胃腸系に処置量の生物学的活性ボツリヌス毒素を放出するという特性を有し、
摂取されたボツリヌス毒素に対する顕著な免疫系応答を伴わない、
製剤。
【請求項12】
担体が複数のポリマーミクロスフェアを含む請求項11に記載の経口製剤。
【請求項13】
担体がポリマーマトリックスを含む請求項11に記載の経口製剤。
【請求項14】
ボツリヌス毒素が、A型、B型、C1型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素から成る群より選択される請求項11に記載の経口製剤。
【請求項15】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項11に記載の経口製剤。
【請求項16】
担体と組み合わされるボツリヌス毒素の量が、約1単位から約10,000単位のボツリヌス毒素である請求項11に記載の経口製剤。
【請求項17】
ボツリヌス毒素の量が、約10単位から約2,000単位のA型ボツリヌス毒素である請求項11に記載の経口製剤。
【請求項18】
ボツリヌス毒素の量が、約100単位から約30,000単位のB型ボツリヌス毒素である請求項11に記載の経口製剤。
【請求項19】
(a)ポリラクチド、ポリグリコリドおよびポリ無水物から成るポリマー群より選択されるポリマーを含む担体、
(b)安定化されたボツリヌス毒素
を含有する胃腸運動性を低下するためのボツリヌス毒素経口製剤であって、
安定化されたボツリヌス毒素が担体と組み合わされ、それによってボツリヌス毒素経口製剤を形成しており、
患者の胃腸管内で担体から処置量のボツリヌス毒素を放出することができる、
経口製剤。
【請求項20】
ボツリヌス毒素が、
(a)生理的条件下でニューロンの細胞表面受容体に特異的に結合することができる結合要素を含む第1要素、
(b)ニューロンの細胞膜を横切るポリペプチドの輸送を促進することができるトランスロケーション要素を含む第2要素、および
(c)ニューロンの細胞質中に存在する時に、そのニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができる処置要素を含む第3要素
を含む請求項19に記載の経口製剤。
【請求項21】
処置要素が、SNAREタンパク質を切断し、それによってニューロンからのアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害することができる請求項20に記載の経口製剤。
【請求項22】
SNAREタンパク質が、シンタキシン、SNAP−25およびVAMPからなる群より選択される請求項21に記載の経口製剤。

【公開番号】特開2011−219491(P2011−219491A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150505(P2011−150505)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【分割の表示】特願2004−551665(P2004−551665)の分割
【原出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】