説明

経口投与用カルバペネム

【課題】強い抗菌力と広範囲の抗菌スペクトルを有し、かつ経口吸収性に優れたカルバペネム系抗生物質の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物またはその薬学上許容される塩。


[式中、R1及びR2は同一または異なって、水素原子若しくはC1−C6アルキル基を表し、R3及びR4は同一または異なって、水素原子、C1−C6アルキル基、またはR3とR4が隣接する窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい複素環を形成する。又、Rは水素原子、カリウム、ナトリウムなどの金属イオンを表し、XはCl、Br、I、−OSOCF等の脱離基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌作用を有するカルバペネム化合物のエステル型プロドラッグに関し、詳細には、(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸のエステル型プロドラッグに関する。
【背景技術】
【0002】
カルバペネム系抗生物質は、強い抗菌力と広範囲の抗菌スペクトルを示すことから、多くの研究が行なわれ、既にイミペネム、パニペネム、メロペネム、ビアペネム及びドリペネムが上市されている。
【0003】
上記の上市されたカルバペネム系抗生物質は、すべて注射剤であり、経口投与可能なカルバペネム系抗生物質については上市されたものは無く、開発中の化合物がいくつかあるのみである。臨床現場においては、治療目的や患者の事情等から、薬物投与に際して、いくつかの投与経路を選択し得ることが望ましい。特に、経口剤は注射剤と比較して投与が容易で簡便であり、在宅投与も可能であることから、臨床上極めて有用である。したがって、強い抗菌力と広範囲の抗菌スペクトルを有し、かつ経口吸収性に優れたカルバペネム系抗生物質の開発が強く望まれている。
【0004】
下記式(II)で示される、 (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(以下、式(II)の化合物と称する)は、特開平8−53453号公報(特許文献1)に開示された化合物であり、βラクタマーゼに対する高い安定性と、変異したペニシリン結合蛋白にも強い親和性を有するため、現在、臨床上問題となっているペニシリン耐性肺炎球菌やアンピシリン耐性インフルエンザ菌に対しても大幅に抗菌力が改善され、また、腎デヒドロペプチダーゼにも極めて高い安定性を有するカルバペネム化合物である。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、式(II)の化合物は消化管からの吸収性が低く、臨床上では注射剤としてのみ投与可能と考えられている。
【0007】
式(II)の化合物の経口吸収性の改善を目指し、3位のカルボキシル基をエステル化することによって得られるエステル誘導体について、いくつかの報告がなされている(特許文献2、3)。例えば、特許文献3においては、式(II)の化合物の3位カルボキシル基をシクロヘキシルカルボキシメチル基によってエステル化した化合物が開示されている。しかし、これらの先行技術文献において、式(II)の化合物の3位のカルボキシル基を、カーバメート結合を有する基でエステル化した化合物については何ら開示されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平8−53453号公報
【特許文献2】特表平11−504039号公報
【特許文献3】特開平9−110869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、強い抗菌力と広範囲の抗菌スペクトルを有し、かつ経口吸収性に優れたカルバペネム系抗生物質を創出することを目的とした。式(II)の化合物は、βラクタマーゼに対する高い安定性と、変異したペニシリン結合蛋白にも強い親和性を有するため、現在、臨床上問題となっているペニシリン耐性肺炎球菌やアンピシリン耐性インフルエンザ菌に対しても大幅に抗菌力が改善され、また、腎デヒドロペプチダーゼにも極めて高い安定性を示す。したがって、本発明者らは、式(II)の化合物の経口吸収性を改善することを本発明の課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、式(II)の化合物について、その経口吸収性を改善すべく鋭意研究を行なった。その結果、式(II)の化合物の3位カルボキシル基を特定のエステル形成基で保護すれば、経口吸収性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
1)下記式(I)で表される化合物またはその薬学上許容される塩。
【化2】

[式中、R1及びR2は同一または異なって、水素原子若しくはC1−C6アルキル基を表し、
R3及びR4は同一または異なって、水素原子、C1−C6アルキル基、またはR3とR4が隣接する窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい複素環を形成する]、
2)R1及びR2が水素原子を表し、
R3及びR4は同一または異なって、C1−C6アルキル基、またはR3とR4が隣接する窒素原子と一緒になって、1個以上のC1−C6アルキル基で置換されていてもよいピペリジニル基を形成する、1)に記載の化合物またはその薬学上許容される塩、
3)(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(N,N-ジイソプロピルカルバモイルオキシ)メチル、または、(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル、
4)1)乃至3)のいずれか1に記載の化合物またはその薬学上許容される塩を含んでなる、抗菌剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の式(I)の化合物は、生体内で加水分解され、活性本体である式(II)の化合物に変換される為、優れた経口吸収性を有し、経口投与用カルバペネム剤として有用である。さらに、本発明の化合物は、低毒性であり、安全性が高いことからも臨床現場での有用性が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書において、「C1−C6アルキル基」とは、直鎖または分岐鎖の炭素数1−6、好ましくは1−4のアルキル基を意味する。その例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、i―ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、i―ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i―ヘキシル等が挙げられる。
【0014】
本明細書において、「複素環」とは、同一または異なって、窒素、酸素、および硫黄からなる群から選択されるヘテロ原子を一または複数個有する4−7員環(好ましくは5−6員環)の複素環を意味する。したがって、請求項1に記載されている「R3とR4が隣接する窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい複素環」の「複素環」とは、窒素原子を少なくとも一個有する複素環を意味する。好ましくは、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン等が挙げられ、さらに好ましくはピペリジンである。
【0015】
本明細書において、「置換されていてもよい複素環」における複素環の置換基としては、水酸基、C1−C6アルキル基、アミノ基、C1−C6アルコキシ基等が挙げられ、好ましくはC1−C6アルキル基である。
【0016】
本発明による一般式(I)は、好ましくは下記のスキームに従って、一般式(I')より製造することができる。
【0017】
【化3】

【0018】
[上記スキーム中で、R1,R2,R3及びRは一般式(I)で定義したものと同じ意味を表し、Rは水素原子、またはカリウム、ナトリウムなどの金属イオンを表し、一般式(III)中にあるXはCl、Br、I、−OSO2CF3、−OSO2CH3、−OSO2PhCH3等の脱離基を表す。]
【0019】
(I')に対し、必要に応じて1当量または過剰量の塩基(有機塩基としては、ジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]ウンデセン、2,6−ルチジン等、無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等)、および、必要に応じて触媒量から過剰量の四級アンモニウム塩(例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ-n-エチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、等)の存在下、1当量または過剰量の式(III)の化合物(例えば、(N,N-ジイソプロピルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、[(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシ]メチルクロライド、(N,N-ジイソプロピルカルバモイルオキシ)エタン-1-イルクロライド、[(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシ]エタン-1-イルクロライド、(ピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチルヨーダイド、(N,N-ジ-n-プロピルカルバモイルオキシ)メチルヨーダイド、(N,N-ジ-n−ブチルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-n-ヘキシル-N-メチルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N,N-ジイソブチルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-シクロヘキシル-N-メチルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-ペンタン-1-イルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-シクロヘキシル-N-エチルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-イソブチル-N-イソプロピルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-t-ブチル-N-エチルカルバモイルオキシ)メチルクロライド、(N-エチル-N-イソアミルカルバモイルオキシ)メチルクロライド等が好ましい)を、単独または混合の不活性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、アニソール、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、ベンゼン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、メタノール、エタノール等)中、−70℃〜+70℃(好ましくは、−30℃から+50℃)において、10分から48時間反応させることにより(I)を得ることができる。
【0020】
以上のようにして得られたエステル体は、沈殿化、またはセファデックスなどを用いるゲル濾過、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー等を用いることにより、単離、精製することができる。
【0021】
式(I)の塩は、薬学上許容される塩であり、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのような無機塩、またはアンモニウム塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンのような有機塩基との塩、または、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸のような鉱酸との塩、または、酢酸、炭酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、メタンスルホン酸のような有機酸との塩が挙げられる。好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、または、塩酸塩である。
【0022】
式(I)の化合物は、体内で速やかに加水分解されて式(II)の活性化合物に変換されることにより、優れた抗菌活性を示す。したがって、式(I)の化合物は、式(II)の化合物の経口投与を可能にするためのプロドラッグとして、臨床上、極めて有用である。
【0023】
本発明の化合物は、細菌感染症およびそれに関連する症状の予防または治療に用いることができる。このような菌感染症を引き起こす菌としては、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラカタラーリス、およびβ−ラクタマーゼ産生菌からなる群より選択されるものが挙げられる。すなわち、本発明によれば、本発明による化合物またはその薬学上許容される塩を含んでなる、抗菌剤が提供される。
【0024】
本発明の式(I)の化合物を経口投与する場合には、その抗菌的有効量を含有する経口投与用組成物の形態で人間をはじめとする哺乳動物に投与することができる。その投与量は処置すべき患者の年齢、体重、症状、薬剤の投与形態、医師の診断等に応じて広い範囲にわたり変えることができるが、一般に、成人に対しては1日当たり約200−3000mgの範囲内の用量が標準的であり、通常これを1日1回または数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[比較例1] (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(式(II)の化合物)
式(II)の化合物は公知であり、特開平8−53453号公報の実施例2(化合物28)に記載の方法により得ることができる。
【0027】
[実施例1] (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(N,N-ジイソプロピルカルバモイルオキシ)メチル
【0028】
【化4】

【0029】
(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸四水和物911 mgのN,N-ジメチルアセタミド 3 mL溶液に、30℃にて攪拌下、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド 569 mg、(N,N-ジイソプロピルカルバモイルオキシメチル)クロライド484 mg、及び、N,N-ジイソプロピルエチルアミン 0.435 mLを順次加え、そのまま2.5時間攪拌した。反応液をn-ヘプタン4 mLで洗浄した後、N,N-ジメチルアセタミド層を酢酸エチル 20 mLで希釈し、脱イオン水 20 mLで二回、半飽和食塩水 20 mLで一回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾去後、溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、表題化合物 770 mgを得た。
【0030】
NMR(CDCl3) δ: 1.23-1.26(15H, m), 1.33(3H, d, J = 6.0 Hz), 2.56(1H, br.s), 3.14-3.19(1H, m), 3.21-3.24(1H, m), 3.37(2H, t, J = 7.6 Hz), 3.80(1H, br.s), 3.92-3.98(1H, m), 3.99-4.03(2H, m), 4.10-4.15(1H, m), 4.22-4.25(2H, m), 4.35-4.41(2H, m), 4.47(1H, br.s), 5.88(1H, d, J = 5.6 Hz), 5.99(1H, d, J = 5.6 Hz).
MS(ES+): m/z = 541(M++H).
【0031】
[実施例2] (1R, 5S, 6S)-2-[ 1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル
【0032】
【化5】

【0033】
a) [(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシ]メチルクロライド
cis-2,6-ジメチルピペリジン9.11 mLのトルエン溶液46 mLに、氷冷下クロロギ酸クロロメチル2.39 mLのトルエン溶液24 mLを10分かけて滴下し、室温で16時間攪拌した。1 N塩酸60 mLを加え分液した後、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液、20 %食塩水各60 mLで洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧下留去することにより、[(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシ]メチルクロライドを12.7 g得た。
【0034】
NMR(CDCl3) ・1.23(6H, d, J = 7.1 Hz), 1.46-1.81(6H, m), 4.34(2H, m), 5.83(2H, s)
【0035】
b) (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル
(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸四水和物911 mgのN,N-ジメチルアセタミド 3 mL溶液に、30℃にて攪拌下、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド 569 mg、[(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル]クロライド 514 mg、及び、N,N-ジイソプロピルエチルアミン 0.435 mLを順次加え、そのまま15時間攪拌した。反応液をn-ヘプタン8 mLで二回洗浄した後、N,N-ジメチルアセタミド層を酢酸エチル 20 mLで希釈し、脱イオン水 20 mLで三回、半飽和食塩水 20 mLで一回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾去後、溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、表題化合物 774 mgを得た。
【0036】
NMR(CDCl3) δ: 1.20-1.23(9H, m), 1.33-1.35(3H, d, J = 6.4 Hz), 1.44-1.77(7H, m), 3.15(1H, quintet, J = 3.3 Hz), 3.19-3.18(1H, m), 3.37(2H, t, J = 7.6 Hz), 3.93-3.98(2H, m), 4.01(2H, t, J = 7.6 Hz), 4.10-4.16(2H, m), 4.18-4.27(2H, m), 4.32-4.35(3H, m), 5.91(1H, d, J = 5.6 Hz), 5.99(1H, d, J = 5.6 Hz).
MS(ES+): m/z = 553(M++H).
【0037】
[試験例1]ラット経口吸収試験
本発明の実施例1及び実施例2の化合物と、それらの活性体である比較例1の化合物をそれぞれラットに経口投与し、血漿中の比較例1の化合物濃度を高速液体クロマトグラフィーにより測定し、血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を比較した。
【0038】
(1)検体
本発明の実施例1の化合物: (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(N, N-ジイソプロピルカルバモイルオキシ)メチル
本発明の実施例2の化合物: (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル
比較例1の化合物: (1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸
【0039】
(2)検体の投与
検体10 mg力価/kgをそれぞれ5%HCO-60水溶液(実施例1及び実施例2の化合物の場合)または0.5%CMC水溶液(比較例1の化合物の場合)に溶解し、シラスタチンナトリウム30 mg力価/kgを静脈内投与した雄性ラット(n = 3)に経口投与した。
【0040】
(3)採血及び血漿中活性体濃度の測定
検体投与後、5、15、30、60、120、180分毎に採血し、得られた血液を遠心分離することにより血漿を得、血漿中の比較例1の化合物濃度を高速液体クロマトグラフィー法にて測定した。
【0041】
(4)血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)の算出
血漿中濃度測定値を検体投与後時間に対してプロットし、血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を求めた。
【0042】
検体投与後0時間から無限大までの血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC0→∞、μg・min/mL)は、実施例1の化合物が99.0、実施例2の化合物が125.5、比較例1の化合物が0.5であった。
【0043】
本発明の実施例1及び実施例2の化合物は、経口吸収性を有し、その活性体である比較例1の化合物と比較して、大幅な経口吸収性の改善を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物またはその薬学上許容される塩。
【化1】

[式中、R1及びR2は同一または異なって、水素原子若しくはC1−C6アルキル基を表し、
R3及びR4は同一または異なって、水素原子、C1−C6アルキル基、またはR3とR4が隣接する窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい複素環を形成する]
【請求項2】
R1及びR2が水素原子を表し、
R3及びR4は同一または異なって、C1−C6アルキル基、またはR3とR4が隣接する窒素原子と一緒になって、1個以上のC1−C6アルキル基で置換されていてもよいピペリジニル基を形成する、請求項1に記載の化合物またはその薬学上許容される塩。
【請求項3】
(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(N,N-ジイソプロピルカルバモイルオキシ)メチル、または、(1R, 5S, 6S)-2-[1-(1,3-チアゾリン-2-イル)アゼチジン-3-イル]チオ-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-1-メチルカルバペン-2-エム-3-カルボン酸(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学上許容される塩を含んでなる、抗菌剤。

【公開番号】特開2008−74803(P2008−74803A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258291(P2006−258291)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】